説明

車両外装機構部品製造用樹脂組成物、および車両外装機構部品

【課題】 機械特性、摺動特性、成形品表面外観、耐候性などに優れた車両外装機構部品が得られる樹脂組成物、およびこの樹脂組成物を原料として製造される車両外装機構部品を提供すること。
【解決手段】 第一発明は、(A)成分:熱可塑性ポリエステル樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂100重量部、(B)成分:繊維長さ方向に直角な断面の長径と短径の比が1.5〜10.0の範囲の異形断面形状を有する繊維状強化剤25〜150重量部、および、(C)成分:着色成分1〜15重量部を含む車両外装機構部品製造用樹脂組成物を要旨とし、第二発明は、この樹脂組成物を成形してなる車両外装機構部品を要旨とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両外装機構部品製造用樹脂組成物、および車両外装機構部品に関する。さらに詳しくは、機械特性、摺動特性、成形品表面外観、耐候性などに優れた車両外装機構部品が得られる樹脂組成物、およびこの樹脂組成物を原料として製造される車両外装機構部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(以下、PETと略記することがある。)やポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBTと略記することがある。)などの熱可塑性ポリエステル樹脂は、それ自体で機械的特性、電気特性などが優れているほか、耐薬品性、耐熱性なども優れているので、エンジニアリングプラスチックとして、各種の電気・電子機器部品、自動車、列車、電車などの車両用各種部品、および、その他の一般工業製品製造用材料として、広く使用されている。さらに、これらの熱可塑性ポリエステル樹脂に強化剤、中でも繊維状強化剤を配合した、いわゆる繊維強化ポリエステル樹脂は、機械的特性が大幅に向上するので、その利用範囲が拡大している。
【0003】
従来、軽量、高強度・高剛性、および優れた外観、耐候性、さらに摺動特性が要求される樹脂製部品として、自動車などの車両外装機構部品が挙げられる。具体的には、例えば、ワイパーアームなどのワイパー部品、ドアハンドル部品、ドアミラー部品などが挙げられる。これら部品の製造用材料には、例えば、強化熱可塑性樹脂、中でも繊維強化ポリエステル樹脂が使用されている。
【0004】
繊維強化熱可塑性樹脂から得られる樹脂製部品の強度や剛性を向上させるためには、基体となる熱可塑性樹脂に含有させる(または配合する)繊維状充填剤(強化剤または補強剤)の量を増やす必要がある。しかし強化剤の配合量を増やすと、繊維強化樹脂組成物の成形性(流動性)が低下し、配合された繊維状強化剤が製品(成形品)の表面に浮き出し易くなり、製品の外観が低下するという欠点があった。
【0005】
また、上記した車両用外装機構部品は、コスト削減、省資源化、省エネルギー化、環境保全対策などの目的で、薄肉化や小型化による軽量化が進んでいる。さらに、これらの部品の製造用に使用される原料樹脂に対しては、機械的強度ならびに摺動特性の向上のほか、多くの優れた性能、例えば、耐候(光)性に優れている、部品が退色し難い、製品の光沢が低下し難い、製品表面に繊維強化剤が浮き出さない、製品の外観が変化し難いなどの性能が、長期間持続することの要求が一層厳しくなってきた。特に、繊維強化ポリエステル樹脂(PET、PBTなど)製の部品は、長期間、強い太陽光、激しい温度変化、激しい風雨などに曝される屋外で使用されても、上記の優れた諸性能を長期間に亘って、そのまま維持することが強く要請されている。
【0006】
繊維強化ポリエステル樹脂組成物から製造される車両外装機構部品の中でも、特に機械的特性や耐候性、摺動特性が必要される部品としては、例えば、自動車、列車、電車および航空機などに用いられるワイパー部品や、ドアハンドル部品、ドアミラー部品などがある。ワイパー部品は、主としてワイパーブレードとワイパーアームとを具え、ワイパーブレードはワイパーアームに支持され、さらにこのワイパーアームはワイパーモーターに接続されている。ワイパーモーターの作動によって、ワイパーアームが往復運動し、それに伴って、ブレードの払拭部が、風防ガラス面などの被払拭面を払拭するものである。このような機構から、ワイパー部品、特にワイパーアーム製造用材料に対しては、剛性、機械的強度、耐熱性、耐候性、耐加水分解性、外観特性などの諸特性において、高い性能を発揮することが要求されている。さらには、ワイパーアームとブレードの接続部が摺動により磨耗することから、高い摺動特性も同時に要求される。ドアハンドル部品は取っ手の動作時に摺動動作が、またドアミラー部品は格納部の回転軸等で摺動動作があり、両部品とも良好な摺動性が要求特性の一つとなっている。また上記部品以外にも、車両外装部に設置され、摺動部を有する動作機構を備えた部品の例としては、ドア、トランク、ボンネット、サンルーフ、可動アンテナ、可動コーナーポール、可動モニターカメラ、可動ライトなどがある。
【0007】
繊維強化ポリエステル樹脂の強度を一層向上させることを目的として、基体樹脂のPET、PBTなどに、ガラス繊維に代表される繊維状強化剤を配合するだけでなく、基体樹脂と繊維状強化剤との界面の接着性(親和性)を改良する目的で、繊維状強化剤の表面を多官能化合物(例えば、エポキシシラン、イソシアネート系化合物、ポリカルボン酸無水物など)で処理するか、または、これら多官能化合物を繊維状強化剤と共に基体樹脂に配合した樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
また、PBT組成物などに配合する繊維状補強剤として、特定の化合物、例えば、エポキシ樹脂とアミノシランカップリング剤とによって表面処理した繊維状強化剤を使用することによって、強化樹脂組成物の電気的特性、機械的性質を改善する技術が提案されている(例えば、特許文献2〜特許文献5参照)。
【0009】
さらに、機械的強度改善を目的として、(A)ポリエステル樹脂100重量部に対し、少なくとも、(B)アミノ系シランカップリング剤とノボラック型エポキシ樹脂を含む集束剤が、少なくとも一部に付着しているガラス繊維10〜150重量部と、(C)エポキシ化合物が0.1〜3.0重量部配合されたガラス繊維強化ポリエステル樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献6参照)。このガラス繊維強化ポリエステル樹脂組成物は、機械的強度が改善されると記載されている。
【0010】
さらにまた、優れた耐候(光)性を有し、外観変化の少ない樹脂組成物として、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100〜55重量%、(B)芳香族ポリカーボネート樹脂、またはポリエチレンテレフタレート樹脂0〜45重量%とからなる樹脂成分100重量部に対して、(C)主としてアクリル系化合物で処理を施した無機充填剤3〜200重量部、および、(D)着色成分0.01〜10重量部を配合してなる強化されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0011】
またさらに、ワイパー部品の機械的強度や外観特性を改善する方法として、ポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部に対し、強化剤20〜150質量部とエポキシ基含有物質0.1〜5質量部とを配合した、強化ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物よりなるワイパー部品が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0012】
一方、熱可塑性樹脂製品の摺動特性を改善する方法としては、従来、基体となる樹脂に摺動改良剤、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉末、超高分子量ポリエチレン、黒鉛などを配合する技術が提案されている。これら摺動改良剤を配合した樹脂組成物は、摩擦係数に若干の改善が認められるものの、摩耗特性は改善されず、むしろ悪化する傾向にある。また、摩擦係数を小さくするためには、摺動改良剤を多量の添加する必要があり、多量添加すると、機械的強度、靭性などの機械的性質が低下するという欠点がある。このため、機械的強度が改善され、同時に摺動特性、特に耐摩耗特性の改善される繊維状強化剤が強く求められている。
【0013】
特許文献9には、ポリアミドMXD6を基体樹脂とし、これに変成ポリオレフィン、超高分子量ポリエチレンおよびガラス繊維を配合した樹脂組成物からなる歯車が記載されている。この特許文献9に記載されているガラス繊維は、長さ方向に対して直角に切断した断面における長径と短径との比が、1.5〜6:1の非円形断面のものである。しかしながら、段落「0026」には、「(D)成分のガラス繊維の繊維長さ方向に直角な断面における形状は円形であっても良いが、長径と短径との比が1.5〜6:1程度の非円形、例えば楕円、長円、繭型等の非円形断面形状であることが好ましい。このような非円形断面のガラス繊維であれば、円形断面のガラス繊維よりも比表面積が大きくなり、繊維と樹脂との密着性が向上して補強効果が高められ、得られる歯車の長期強度が改善される。」と記載され、非円形断面ガラス繊維により機械的強度が改善されるとの記述はあるものの、樹脂がポリアミドとポリエステルの違いがあるといえども、摺動特性が改善されるとの直接的な記載はない。
【特許文献1】特公昭51−7702号公報
【特許文献2】特開平9−301746号公報
【特許文献3】特開2001−172055号公報
【特許文献4】特開2001−172056号公報
【特許文献5】特開2001−172057号公報
【特許文献6】特開2006−16557号公報
【特許文献7】特開平9−104812号公報
【特許文献8】特開2003−342454号公報
【特許文献9】特開2003−201398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、かかる状況にあって、要求される高い性能を具備した無機充填剤によって強化されたポリエステル樹脂組成物(以下、単に強化樹脂組成物と記載することがある。)、およびこの強化樹脂組成物より製造された成形品(製品)を提供することを目的とする。すなわち、本発明の目的は次のとおりである。
1.機械特性、摺動特性、成形品外観、および耐候性の優れた車両外装機構部品用繊維強化熱可塑性樹脂組成物を提供すること。なお、本発明おいて摺動特性とは、接触し合い摺動し合う二つの部材の摺動面が摩耗し難いことを言う。2.機械的強度、耐候性、外観などの多くの特性に優れた、繊維強化熱可塑性樹脂組成物製車両外装機構部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、第一発明では、(A)成分:熱可塑性ポリエステル樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂100重量、(B)成分:繊維長さ方向に直角な断面の長径と短径の比が1.5〜10.0の範囲の異形断面形状を有する繊維状強化剤25〜150重量部、および、(C)成分:着色成分1〜15重量部を含むことを特徴とする、車両外装機構部品製造用樹脂組成物を提供する。
【0016】
また、第二発明では、第一発明に係る車両外装機構部品製造用樹脂組成物を成形してなることを特徴とする車両外装機構部品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は以下詳細に説明するとおりであり、次のような特別に有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
1.本発明に係る車両外装機構部品製造用樹脂組成物は、機械特性、摺動特性、成形品外観、耐候性に優れた車両外装機構部品製造用として極めて有用である。2.本発明に係る車両外装機構部品は、磨耗による摺動部のガタの発生が少なく、また部品の外観が良好で且つ太陽光などによる色調、表面性の変化が少ないので、長期間にわたって安定した製品性能を発揮し、この部品を組み込んだ機器の信頼性が高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る車両外装機構部品製造用樹脂組成物(以下、強化樹脂組成物と記載することがある。)における基体樹脂{(A)成分}は、熱可塑性ポリエステル樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂をいう。主成分としての熱可塑性ポリエステル樹脂は、(A)成分中にポリエステル樹脂を50重量%以上含むものを意味する。ポリエステル樹脂は、従来から知られているポリエステル樹脂であって、ジカルボン酸またはその誘導体(a1){以下、単に(a1)成分または(a1)と記載することがある。}と、ジオール成分(a2){以下、単に(a2)成分または(a2)と記載することがある。}とを重縮合させて得られるポリエステル樹脂をいう。
【0019】
ジカルボン酸またはその誘導体(a1)としては、芳香族ジカルボン酸類、脂環式ジカルボン酸類、脂肪族ジカルボン酸類、およびこれらの低級アルキルまたはグリコールのエステル類が挙げられる。中でも、芳香族ジカルボン酸類またはこの低級アルキルまたはグリコールのエステル類が好ましく、特に、テレフタル酸またはこの低級アルキルエステルが好ましい。ジカルボン酸またはその誘導体(a1)は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。
【0020】
芳香族ジカルボン酸類としては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
【0021】
脂環式ジカルボン酸類としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。脂肪族ジカルボン酸類としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、およびセバシン酸などが挙げられる。
【0022】
ジオール成分(a2)としては、脂肪族ジオール類、脂環式ジオール類、および芳香族ジオール類が挙げられる。脂肪族ジオール類としては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールが好ましい。具体的には、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、および1,8−オクタンジオールなどが挙げられる。中でも、炭素数2〜4のジオールが好ましい。ジオール成分(a2)は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。
【0023】
脂環式ジオール類としては、炭素数2〜20のものが好ましい。具体的には、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロールなどが挙げられる。芳香族ジオール類としては、キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、およびビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどが挙げられる。
【0024】
(A)成分のポリエステル樹脂には、上記(a1)または(a2)の一部を置換して、他の共重合成分を含ませることができる。他の共重合成分としては、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、およびp−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸類、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、およびベンゾイル安息香酸などの単官能成分が挙げられる。さらに、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロールおよびペンタエリスリトールなどの三官能以上の多官能成分なども挙げられる。
【0025】
(A)成分として好ましいのはポリアルキレンテレフタレートであり、具体的には、入手の容易さおよび価格などの観点から、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、またはポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂である。PBT樹脂は、(a1)成分としてテレフタル酸単位を主成分とし、(a2)成分として1,4−ブタンジオール単位を主成分として、エステル結合した構造の樹脂である。(a1)成分に占めるテレフタル酸単位の割合、(a2)成分に占める1,4−ブタンジオール単位の割合が低すぎると、得られるPBT樹脂の結晶化速度が低下し、成形性が低下する場合がある。よって(a1)成分に占めるテレフタル酸単位の割合は、通常70モル%以上とするのが好ましい。中でも80モル%以上が好ましく、より好ましいのは95モル%以上であり、とりわけ好ましいのは98モル%以上である。また(a2)成分に占める1,4ブタンジオール単位の割合は、通常70モル%以上とするのが好ましい。中でも80モル%以上が好ましく、より好ましいのは95モル%以上であり、とりわけ好ましいのは98モル%以上である。
【0026】
(A)成分のポリエステル樹脂を製造する際、ジカルボン酸またはその誘導体の(a1)成分とジオール成分(a2)との仕込み割合、すなわち、(a1)成分対(a2)成分比は、好ましくは1.0モル対1.0〜5.0モル、より好ましくは、1.0モル対1.5〜4.5モル、さらに好ましくは1.0モル対2.0〜4.0モルである。
【0027】
(A)成分は次の方法、すなわち、(i)直接重合法、および、(ii)エステル交換法によって製造することができる。(i)直接重合法では、(a1)成分としてジカルボン酸を使用し、(ii)エステル交換法では、(a1)成分としてジカルボン酸のアルキルまたはグリコールのエステルを使用する。また、原料供給または生成ポリマーの抜き出し形態{反応槽などから生成(溶融)ポリマーを抜き出す方法}により、回分法と連続法に大別され、いずれの方法によってもよい。原料原単位、副生成物処理の容易さなどの観点からは、(i)直接重合法によるのが好ましく、PBT樹脂の品質安定性や製造に掛かるエネルギー効率の観点からは、連続法によるのが好ましい。
【0028】
(A)成分を(i)直接重合法によって製造する際には、例えば、以下のような方法によることができる。(a1)成分と(a2)成分、必要に応じ、他の共重合成分とを、重縮合触媒、助触媒の存在下、必要に応じてその他の添加剤を加え、連続的または回分式にエステル化反応を行い、オリゴマーを調製する。このエステル化反応は、単独のエステル化反応槽、または複数の槽よりなるエステル化反応槽の最初の槽に、上記原料成分を仕込み、必要に応じて触媒、助触媒、その他の添加物を加え、不活性ガス雰囲気下、攪拌しつつ、反応によって生じる水を留去しつつ反応を行う。エステル化反応終了後は、反応混合物をエステル化反応槽と同一反応槽で、または、反応混合物をエステル化反応槽から単独の重縮合反応槽、または複数の槽よりなる重縮合反応槽の最初の槽に移送し、移送後の反応混合物に、必要に応じて、重縮合触媒、助触媒、その他の添加物を仕込み、不活性ガス雰囲気下、攪拌しつつ、温度、圧力を調節しながら、連続的にまたは回分式に重縮合反応を行う。
【0029】
エステル化反応槽、重縮合反応槽の形態、構造は特に制限はなく、従来から知られている、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽、これらを組み合わせた形態のものをそのまま使用できる。中でも、少なくとも1つの重縮合反応槽においては攪拌装置を装備したものが好ましい。攪拌装置は槽の型式、形状、大きさなどによるが、従来から知られている、動力部、軸受、軸、攪拌翼などによって構成される攪拌翼のほか、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機などの高速回転可能な攪拌機が挙げられる。
【0030】
エステル化反応、重縮合反応を行う際には、触媒を使用するのが好ましい。これら反応を行う際に使用できる触媒としては、従来からポリエステル樹脂を製造する際に使用される触媒が、そのまま使用できる。エステル化反応、重縮合反応を行う際に使用できる触媒としては、(a)チタン化合物、(b)周期表第1族金属化合物および/または周期表第2族金属化合物、スズ化合物などが挙げられ、助触媒を併用することもできる。
【0031】
(a)チタン化合物の具体例としては、酸化チタン、四塩化チタンなどの無機チタン化合物類、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネートなどのチタンアルコラート類、テトラフェニルチタネートなどのチタンフェノラート類などが挙げられる。中でも、チタンアルコラート類が好ましく、さらにはテトラアルキルチタネート類が好ましく、特にテトラブチルチタネートが好ましい。
【0032】
(b)周期表第1族金属化合物の金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。この金属を含む化合物としては、酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩などの各種有機酸塩類、水酸化物類、酸化物類、アルコラート類などが挙げられる。(b)周期表第2族金属化合物の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられる。この金属を含む化合物としては、酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩などの各種有機酸塩類、水酸化物類、酸化物類、アルコラート類などが挙げられる。取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の観点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの化合物が好ましい。得られるポリエステル樹脂の色調を勘案すると、リチウムまたはマグネシウムの化合物が好ましく、特にマグネシウム化合物が好ましい。マグネシウム化合物としては、具体的には、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウムなどが挙げられ、特に酢酸マグネシウムが好適である。これら(a)と(b)は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。
【0033】
(b)周期表第1族金属化合物の金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。この金属を含む化合物としては、酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩などの各種有機酸塩類、水酸化物類、酸化物類、アルコラート類などが挙げられる。(b)周期表第2族金属化合物の金属としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられる。この金属を含む化合物としては、酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩などの各種有機酸塩類、水酸化物類、酸化物類、アルコラート類などが挙げられる。取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の化合物が好ましい。得られるポリエステル樹脂の色調を勘案すると、リチウムまたはマグネシウムの化合物が好ましく、特にマグネシウム化合物が好ましい。マグネシウム化合物としては、具体的には、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウムなどが挙げられる。中でも有機酸塩類が好ましく、特に酢酸マグネシウムが好ましい。これら(a)と(b)は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。
【0034】
(c)スズ化合物としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エ
チルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などが挙げられる。
【0035】
助触媒としては、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、コバルト化合物、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸などのほか、これらのエステルや金属塩などの燐化合物などが挙げられる。
【0036】
(a)チタン化合物や(b)周期表第1族金属触媒および/または周期表第2族金属触媒は、原料の(a1)成分に添加してもよいし、エステル化反応槽、またはエステル交換反応槽に続く重縮合反応槽などの反応液気相部から、反応液上面へ添加してもよいし、反応液の液相部に直接添加してもよく、これら槽に付帯して設けられたオリゴマー配管に添加することもできる。この場合の添加方法は、供給量を安定化させ、熱による変性などの悪影響を軽減するために、触媒を、水や、共重合成分の1,4−ブタンジオール、共重合成分のポリテトラメチレンエーテルグリコールなどの(a2)の液体に溶解し、溶液として添加するのが好ましい。この際の濃度は、通常は、液体成分に対する触媒成分の濃度を、0.01〜20.0重量%の範囲、中でも0.05〜10.0重量%の範囲、特に0.08〜8.0重量%の範囲が好ましい。
【0037】
本発明の(A)成分が、PBT樹脂を含む場合において、PBT樹脂製造用触媒として(a)チタン化合物を使用する場合は、得られるPBT樹脂の理論収量に対して、チタン原子換算で10〜80ppm、好ましくは15〜70ppm、より好ましくは20〜60ppm、とりわけ好ましくは30〜50ppmの範囲で使用することができる。(a)チタン化合物をこのような範囲で使用することにより、得られるPBT樹脂中のチタン化合物の残存量を、チタン原子換算で10〜80ppm、好ましくは15〜70ppm、より好ましくは20〜60ppm、とりわけ好ましくは30〜50ppmとすることができる。この(a)チタン化合物の使用量が多過ぎると、得られるPBT樹脂に残存するチタン化合物が多くなり、PBT樹脂の色調低下、耐加水分解性の低下、チタン触媒の失活による溶液ヘイズ、異物増加などの原因になる場合があり、逆に少な過ぎても原料混合物の重合性が低下し、いずれも好ましくない。
【0038】
チタン化合物の残存量とPBT樹脂の上記した物性の低下との関係は不明であるが、触媒由来のチタン残存量が多いと高温でのPBT樹脂の分解が促進され、上記した物性が低下するものと推定される。PBT樹脂にエポキシ化合物を配合することにより、PBT樹脂の上記した物性は向上するが、チタンがエポキシ化合物との反応性に関与し、チタン残存量が少なすぎるとエポキシの反応性が低下し上記した物性も低下すると推定される。
【0039】
PBT樹脂製造用触媒として(b)周期表第1族金属化合物および/または周期表第2族金属化合物を使用する場合には、得られるPBT樹脂の理論収量に対して、各々の金属原子換算で1〜50ppmの範囲が好ましい。(b)周期表第1族金属化合物および/または周期表第2族金属化合物が多すぎると、最終的に得られる樹脂組成物の耐加水分解性が低下する場合がある。逆に少なすぎると、樹脂組成物から得られる成形品の表面外観が低下する場合がある。(b)の使用量の範囲で好ましいのは3〜40ppm、より好ましくは5〜30ppm、特に好ましいのは5〜20ppの範囲である。
【0040】
PBT樹脂製造用触媒として(c)スズ化合物を使用する場合は、その使用量は、得られるPBT樹脂の理論収量に対して、スズ原子換算で200ppm以下、好ましくは100ppm以下、特に好ましくは10ppm以下とする。スズ化合物の使用量が多過ぎると、得られるPBT樹脂に残存するスズ化合物が多くなり、得られるPBT樹脂の色調を悪化させるので、可及的少なくするのが好ましい。
【0041】
熱可塑性ポリエステル樹脂に残存する(含有する)チタン原子などの金属残存(含有)量は、湿式灰化などの方法でポリマー中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)などの方法を駆使して、測定することができる。
【0042】
エステル化反応工程での反応条件は、(a1)および(a2)の種類、触媒の有無・種類・量、助触媒の有無・種類・量、その他の化合物の種類、添加(使用)量などにより変わる。温度条件は、通常、180〜260℃の範囲で選ばれる。この反応温度範囲で好ましいのは200〜245℃であり、特に好ましいのは210〜235℃である。圧力条件は、通常は10〜133kPaの範囲で選ばれる。この圧力範囲で好ましいのは13〜101kPa、特に好ましいのは60〜90kPaである。反応時間は、通常、0.5〜10時間の範囲で選ばれ、特に1〜6時間が好適である。エステル化反応生成物(またはエステル交換生成物)としてのオリゴマーは、重縮合工程に移送される。オリゴマーのエステル化率は任意であり、通常90%以上、好ましくは95%以上であり、このオリゴマーの数平均分子量は、通常、300〜3000であり、好ましくは500〜1500である。
【0043】
重縮合反応工程での反応条件は、(a1)および(a2)の種類、触媒の有無・種類・量、助触媒の有無・種類・量、その他の化合物の種類、添加(使用)量などにより変わる。温度条件は、通常、210〜280℃の範囲で選ばれる。この反応温度範囲で好ましいのは220〜250℃であり、特に好ましいのは230〜240℃である。なお、複数の重縮合反応槽を使用する場合には、そのうちの少なくとも一つの反応槽の温度を230〜240℃とするのが好ましい。圧力条件は、通常は27kPa以下、中でも20kPa以下、特に13kPa以下とするのが好ましい。複数の重縮合反応槽を使用する場合には、生成物の着色や劣化を抑制する目的で、そのうちの少なくとも一つの反応槽の圧力を1.3kPa以下とするのが好ましく、中でも0.5kPa以下、特に0.3kPa以下の高真空とするのが好ましい。反応時間は、通常、1〜12時間の範囲で選ばれ、特に3〜10時間が好適である。
【0044】
重縮合反応により得られたポリエステル樹脂は、通常、重縮合反応槽の底部から、流路に異物を除去するフィルターを装備した抜き出しラインを経て、ダイヘッドから溶融したストランド状で抜き出され、水などで冷却し、カッターによって切断し、ペレット状、チップ状などの粒状体とされる。得られた固有粘度0.1〜0.9dL/g程度のポリエステル樹脂は、引き続き、ポリエステル樹脂の融点以下の温度で固相重縮合(固相重合)させて、分子量を高めることもできる。
【0045】
上記反応によって得られたポリエステル樹脂(A)は、その末端カルボキシル基濃度が10〜80eq/トンの範囲が好ましい。末端カルボキシル基濃度が80eq/トンを超えると、強化樹脂組成物の滞留熱安定性や、強化樹脂組成物から得られる成形品の耐加水分解性が低下する場合がある。末端カルボキシル基が低いほど、長期熱老化性、耐加水分解性の観点では好ましいが、樹脂の生産性に影響し、かつ、低すぎても機械的強度の改善効果、および摺動特性や耐摩耗特性が低下する場合がある。実用的には、末端カルボキシル基濃度の下限は10eq/ton程度である。末端カルボキシル基濃度で好ましいのは10〜30eq/トン、とりわけ好ましいのは10〜25eq/tonの範囲である。本発明において、末端カルボキシル基濃度は、ベンジルアルコール25mLにポリエステル樹脂ト0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定法により測定することができる。
【0046】
末端カルボキシル基濃度を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調節する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法などによることができる。末端カルボキシル基濃度が上記範囲のPBT樹脂を得る方法は特に限定されるものではなく、例えば、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを溶融重縮合して比較的分子量の小さい、例えば固有粘度0.1〜0.9のポリブチレンテレフタレートを製造し、次いで、所望の分子量となるまで固相重縮合する方法によることができる。
【0047】
ポリエステル樹脂(A)の固有粘度は、成形材料として使用できる範囲であれば特に制限はなく、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を使用して、温度30℃で測定した値が、PBT樹脂では0.7〜1.5dL/gの範囲、PET樹脂では0.5〜1.5dL/gの範囲のものが好ましい。各ポリエステル樹脂の固有粘度が小さ過ぎると、機械的特性が劣り、逆に大きすぎると成形性が低下し、加工が困難になる。固有粘度が異なる二種類以上のポリエステル樹脂を混合し、固有粘度を調整することができる。その場合は混合物の固有粘度は、0.6〜1.5dL/gの範囲とするのが好ましい。
【0048】
(A)成分としては、熱可塑性ポリエステル樹脂(A1)単独でもよく、芳香族ポリエステル樹脂を主成分(50重量%以上の含有率)とし、他の熱可塑性樹脂(A2)との混合物であってもよい。他の熱可塑性樹脂(A2)としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリアミド類、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)などのスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルファイド、液晶ポリマーなどが挙げられる。中でも、芳香族基含有非晶性樹脂(A3)が好ましい。
【0049】
本発明において芳香族基含有非晶性樹脂(A3)とは、樹脂成分中にベンゼン環または縮合ベンゼン環を有し、分子量比率として30%以上含む非晶性樹脂をいう。具体的には、ポリスチレン樹脂(PS)、ハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリル系ゴム・スチレン共重合体樹脂(AAS樹脂)、アクリロニトリル・EPR・スチレン共重合体樹脂(AES樹脂)、無水マレイン酸・スチレン共重合体樹脂などのスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、およびポリフェニレンエーテル樹脂などを挙げることができるが、上に例示したものに限定されるものではない。芳香族基含有非晶性樹脂(A3)は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。芳香族基含有非晶性樹脂の中で最も好ましいは、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂である。
【0050】
ここで、ベンゼン環または縮合ベンゼン環を有する樹脂成分中に占める分子量比率(%)とは、一分子の分子量の中に含まれる、ベンゼン環および縮合ベンゼン環の総分子量の占める割合をいう。例えば、ポリスチレンの構造式は(CHCHCとして表され、この構造式における水素、炭素、酸素各原子の原子量をそれぞれ、1、12、16とすると、この構造式に占めるベンゼン環の分子量比率は、(12×6+5)/(1×8+12×8)=74%となる。また、ポリカーボネートの場合には、構造式は(COCO)にとして表され、この構造式に占めるベンゼン環の分子量比率は、(12×12+8)/(1×16+12×16+16×2)=63.3%となる。
【0051】
芳香族基含有非晶性樹脂(A3)成分中に占めるベンゼン環または縮合ベンゼン環の分子量比率が、30%未満であると、芳香族ポリエステル樹脂(A1)との相溶性が悪くなり、強化樹脂組成物の機械的強度が著しく低下する。したがって、代表的な非晶性樹脂であるアクリル樹
脂(ポリメチルメタクリレート樹脂)は、分子鎖中に芳香族基を有していないので、芳香族ポリエステル樹脂との相溶性が悪く不適当である。さらに、ベンゼン環および縮合ベンゼン環に結合している水素原子の一部が、臭素などのハロゲン原子で置換されたものは排除しないが、ハロゲン原子で置換されてないものが好ましい。
【0052】
(A)成分が熱可塑性ポリエステル樹脂(A1)と芳香族基含有非晶性樹脂(A3)との混合物に場合のその配合量は、芳香族ポリエステル樹脂(A2)と芳香族基含有非晶性樹脂(A3)との重量比で、95/5〜50/50の範囲とするのが好ましい。芳香族基含有非晶性樹脂(A3)の配合量が5重量部より少ないと成形品の表面平滑性向上効果が発揮されず、50重量部より多いと機械的性質および耐熱性の低下が発生する。両者のより好ましい配合割合は、重量比で95/5〜30/70である。
【0053】
本発明における(B)成分は、特定形状の繊維状強化剤であって、本発明に係る強化樹脂組成物の機械的特性(引張強度、曲げ強度、耐衝撃強度など)を向上させ、同時に、耐候性(太陽光や雨水による繊維状強化剤の成形品表面への浮きの発生が少ないなど)、並びに摺動特性(成形品の摺動部の磨耗によるガタの発生が少ないなど)を向上させるように機能する。本発明において、(B)成分の繊維状強化剤は、繊維長さ方向に直角な断面の長径と短径の比が1.5〜10の範囲の異形断面形状を有するものをいう。この繊維状強化剤は、一般的な円形断面形状の強化剤に比べ、強化樹脂組成物の機械的特性を向上させる。繊維状強化剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、金属繊維、合成繊維、炭化珪素繊維、チタン酸カリウム繊維などが挙げられる。機械的強度の改善効果が顕著である点で、ガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維が好ましく、さらには入手のしやすさなどから、ガラス繊維が好ましい。
【0054】
(B)成分の異形断面(扁平)形状を有する繊維状強化剤は、繊維の長さ方向に直角に切断した断面(以下、単に断面と略称する)の長径をD2、短径をD1とするとき、D2/D1比(扁平率)が1.5〜10.0の異形断面を有するものであり、繊維状強化剤の平均繊維長Lとするとき、(L×2)/(D2+D1)比(アスペクト比)が10.0以上のものをいう。
【0055】
(B)成分の扁平率(長径と短径との比)は、メーカーによる公称値があればそれをそのまま使用することができるが、公称値がない場合は、繊維状強化剤の断面の顕微鏡により長径と短径の測定値から算出することができる。扁平率の異なる繊維状強化剤が併用されている場合は重量平均にて扁平率を計算することにより算出できる。
【0056】
(B)成分のアスペクト比は、繊維状強化材を含有する強化樹脂組成物のペレット、または、このペレットから得られた成形品の中央部から約5gのサンプルを切り出し、温度600℃の電気炉中で2時間置いて灰化させた後、残った繊維状強化剤について測定する。繊維状強化剤を折損しないように中性表面活性剤水溶液中に分散させ、その分散水溶液をピペットによってスライドグラス上に移し、顕微鏡で写真撮影を行う。この写真画像について、画像解析ソフトによって、1000〜2000本の強化繊維について測定を行い、平均繊維長を算出し、アスペクト比を算出できる。平均繊維長は、厳密にいえばペレットのものと成形品のものとは値が一致せず、前者の値より後者の値が若干小さい。これは、成形品は溶融・混練工程が一工程多くなるからである。
【0057】
(B)成分の断面は、例えば、長方形、長方形に近い長円形、楕円形、長手方向の中央部がくびれた繭型などが挙げられる。これら繊維状強化剤の異形断面の例は、特開昭62−268612号公報に記載されている。断面が繭型の繊維状強化剤は、中央部がくびれていて、その部分の強度が低く中央部で割れることがあり、またこのくびれた部分が基体樹脂との密着性が劣る場合もあるので、機械的特性向上を目的する場合は、断面が長方形、長方形に近い長円形、または楕円形のものを使用するのが好ましい。
【0058】
(B)成分の断面が通常の円形断面のものは、射出成形法によって成形品(部品)を製造する際に、成形品表面で繊維状強化剤の配列が乱れ、成形品表面に繊維状強化剤が浮きでて粗面化した表面になる。一方、断面が扁平断面のものは、射出成形法によって成形品を製造する際に、扁平断面の長径(D2)の方向が、成形品表面に平行に配向する傾向があり、さらには扁平率が高いほど平行に配向する傾向が強く、繊維状強化剤による成形品表面の粗面化は少なくなる。さらに、長径に平行な繊維状強化剤の表面に凹凸がないほど、成形品表面の平滑性が高くなるので、異形断面の形状としては長方形、長方形に近い長円形および楕円形、さらには長方形、長方形に近い長円形が好ましい。このような扁平断面の繊維強化剤の成形品表面に平行に配向する傾向が、摺動特性ならびに耐候性を改善する効果に寄与している。
【0059】
(B)成分は、一般的には取り扱いの容易さなどから、短繊維タイプ(チョップドストランド)のものが好ましいが、最終的に得られる強化樹脂組成物に耐衝撃特性が要求される場合には、成形品中の繊維状強化剤の繊維長をより長く保つ点から、長繊維タイプのものを使用することがより好ましい。強化樹脂組成物に含有される繊維状強化剤の断面の(D2/D1)比(扁平率)は、1.5〜10.0とする。扁平率が1.5未満であると、断面が円形の繊維状強化剤と同様、強化樹脂組成物から得られる成形品は、摺動特性および耐候性の向上効果を発揮できず、扁平率が10.0より大きい場合は、基体樹脂などとの混合・混練工程、成形工程などで繊維状強化剤に加わる荷重で破砕され、成形品中での実際の繊維状強化剤の扁平率が小さくなる場合が多く、繊維強化剤の製造コストも高くなるので、いずれも好ましくない。扁平率のより好ましい範囲は、2.5〜8.0であり、更に好ましくは3.0〜6.0である。
【0060】
(B)成分の径(太さ)は、繊維状強化剤の断面の短径(D1)が0.5〜25.0μm、繊維状強化剤の断面の長径(D2)が1.25〜300μmの範囲が好ましい。細すぎる場合、繊維状強化剤の紡糸が困難な場合があり、大きすぎる場合、基体樹脂との接触面積の減少などにより、最終的に得られる成形品の強度が低下する場合がある。好ましい繊維状強化剤は、短径(D1)が3μm以上で、(D2/D1)比が1.5より大きいものである。
【0061】
強化樹脂組成物に含まれる(B)成分の繊維長は、溶融・混練前の繊維長に比べ、通常、溶融・混練する際に繊維が折れるので、短くなる。溶融・混練前の繊維長は0.5〜20.0mm程度であり、押出機による溶融・混練後の繊維長は0.1〜1.0mm程度であり、好ましくは0.2〜0.8mm程度である。本発明に係る、強化樹脂組成物(ペレット)に含まれる(B)成分のアスペクト比は、繊維状強化剤の平均繊維長をLとしたとき、次式すなわち、(L×2)/(D2+D1)、によって計算した値が10.0以上のものが好ましい。
【0062】
強化樹脂組成物に含有されている(B)成分のアスペクト比が10以上であると、この強化樹脂組成物から得られる成形品の剛性、機械的強度の向上が顕著であり、好ましい。アスペクト比があまり大きすぎると、強化樹脂組成物の流動性が低下し、好適な成形条件幅が狭くなり易い。好ましいアスペクト比は、15〜100である。異形断面の繊維状強化剤は、扁平率の異なる繊維状強化剤を併用してもよい。その際の扁平率やアスペクト比は、重量平均で算出された数値が、前記扁平率やアスペクト比の範囲内に入ればよい。
【0063】
強化樹脂組成物調製用に好適な(B)成分は、例えば、特公平3−59019号公報、特公平4−13300号公報、特公平4−32775号公報などに記載の方法によって製造することができる。特に、扁平なガラス繊維は、底面に多数のオリフィスを有するオリフィスプレートにおいて、複数のオリフィス出口を囲み、このオリフィスプレート底面より下方に延びる凸状縁を設けたオリフィスプレート、または、単数または複数のオリフィス孔を有するノズルチップの外周部先端から、下方に延びる複数の凸状縁を設けた異形断面ガラス繊維紡糸用ノズルチップを用いて製造することができる。
【0064】
(B)成分は、シランカップリング剤、潤滑剤、帯電防止剤、被膜形成能を有する樹脂などで表面処理したものであってもよい。シランカップリング剤としては、例えば、γーメタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γーグリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γーアミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。このシランカップリング剤の付着量は、繊維状強化剤の0.01重量%以上とするのが好ましい。潤滑剤としては、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイルなどが挙げられ、帯電防止剤としては、第4級アンモニウンム塩などが挙げられ、被膜形成能を有する樹脂としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。被膜形成能を有する樹脂には、あらかじめ熱安定剤、難燃剤などを配合しておくこともできる。
【0065】
本発明に係る強化樹脂組成物おいて、(B)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対し、25〜150重量部である。(B)成分の含有量が25重量部未満では、強化樹脂組成物の補強効果や耐候性改良効果が顕著でなく、また円形断面の繊維強化剤を配合した組成物との耐候性の改良に有意差が認められない。(B)成分の含有量が150重量部を超えると、コンパウンド化(粒状化)が困難となるばかりでなく、成形品の耐摩耗性が低下するので好ましくない。(B)成分の好ましい含有量は30〜120重量部である。
【0066】
本発明における(C)成分は、本発明に係る強化樹脂組成物から得られる成形品(部品)の外観を美麗にし、耐候性を向上させるように機能する。(C)成分の着色成分としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。無機顔料の一種以上、および/または、有機染顔料の一種以上からなる。耐候性の観点からは、無機顔料を主体とした着色剤が好ましい。また、これらの着色剤の分散を補助する、分散剤などを含有させることもできる。(C)成分の含有量は、その種類にもよるが、(A)成分100重量部に対して1〜15重量部の範囲で選ぶものとする。(C)成分の配合量が1重量部未満では、耐候性を向上させる効果が十分でなく、また15重量部を越えると、成形品(製品)の機械的強度の低下、成形時に金型を汚染するなどの原因となり、好ましくない。(C)成分の配合量より好ましい範囲は、2〜10重量部である。
【0067】
無機顔料としては、カーボンブラック、金属粉、金属の酸化物または水酸化物、硫化物、ケイ酸塩、炭酸塩、クロム酸塩、金属粉などが挙げられる。金属の酸化物としては、亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、鉄黒、ベンガラ、鉛丹、酸化クロム、ニッケルチタンイエロー、クロムチタンイエロー、スビネルグリーンなどが挙げられる。金属の水酸化物としては、アルミナホワイト、サチン白、黄色酸化鉄などが挙げられる。金属の硫化物としては、硫化亜鉛、リトポン、雄黄、銀朱、カドミウムレッド、カドミウムオレンジ、カドミウムイエロー、アンチモン朱、硫酸バリウム、石膏、硫酸鉛などが挙げられる。金属のケイ酸塩として、群青などが挙げられる。金属の炭酸塩としては、炭酸バリウム、炭酸石灰粉、鉛白、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。金属のクロム酸塩としては、黄鉛、亜鉛黄、クロム酸バリウム等が挙げられる。金属粉としては、アルミニウム粉、ブロンズ粉、銅粉などの金属粉顔料などが挙げられる。
【0068】
有機顔料および有機染料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系染顔料、ニッケルアゾイエローなどのアゾ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げ
られる。
【0069】
上記着色成分の中でも、特にカーボンブラックが耐候性の改良効果が高く好ましい。カーボンブラックは、フアーネス法、チャンネル法、アセチレン法で製造されたいずれのものでもよい。一次粒子径が10〜30nm、更に好ましくは15〜20nmのカーボンブラックが好適である。また、JISK6217で測定した窒素吸着比表面積(ア)が30−300m2/gが好ましく、さらには、JISK6221(イ)で測定したDBP吸収量が30〜200cm/100gが好ましい。特に(ア)と(イ)の積が、15000以上、さらに好ましくは17000以上のカーボンブラックが特に好適である。上記のようなカーボンブラックを配合することにより。成分(A)100重量部に対して1.0〜10重量部の配合量でも効率的に耐候性改良効果を得ることができる。
【0070】
本発明に係る強化樹脂組成物には、必要に応じて、(D)成分としてエポキシ化合物を含有させることができる。(D)成分は、本発明に係る強化樹脂組成物の機械的強度、摺動特性を向上させるように機能する。本発明において(D)成分は、一分子中に一個以上のエポキシ基を有する化合物、アルコール、フェノール系化合物、またはカルボン酸とエピクロロヒドリンとの反応から得られるグリシジル化合物、脂環式エポキシ化合物などを言う。エポキシ化合物は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。
【0071】
(D)成分の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環化合物型ジエポキシ化合物、グリシジルエーテル類、エポキシ化ポリブタジエン、更に具体的には、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、レゾルシン型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのジグリシジルエーテル類、安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステルなどの脂肪酸グリシジルエステル類、アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステルなどのジグリシジルエステル類、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシドなどの脂環化合物型エポキシ化合物類などが挙げられる。
【0072】
(D)成分は、グリシジル基含有共重合体であってもよい。グリシジル基含有共重合体は、α,β−不飽和酸のグリシジルエステルと、α−オレフィン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる一種または二種以上のモノマーから構成される共重合体が好ましい。
【0073】
(D)成分は、好ましくはエポキシ当量が100〜500g/eq、分子量2000以下のエポキシ化合物である。エポキシ当量が100g/eq未満であると、エポキシ基の量が多すぎ強化樹脂組成物の粘度が高くなる原因となり、500g/eqを超えると、エポキシ基の量が少なくなり強化樹脂組成物より得られる摩擦特性、摺動特性向上の効果が得られない。分子量が2000以上では、熱可塑性ポリエステルとの相溶性が低下し、強化樹脂組成物の強度が低下する傾向にある。好ましいエポキシ化合物は、上記要件を満たすビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの反応から得られるグリシジルエーテル化合物、特に、ビスフェノールA型エポキシ化合物やノボラック型エポキシ化合物が好ましい。
【0074】
(D)成分の含有量は、(A)成分100重量部当たり0.1〜3.0重量部であり、さらに好ましくは0.2〜2.0重量部である。3重量部より多いと架橋化が進行し成形時の流動性が悪くなる。(D)成分の含有量は、任意であるが、0.1重量部以上でその効果が発揮される。
【0075】
本発明に係る強化樹脂組成物には、上記(B)成分、(C)成分、(D)成分の他に、必要応じて、強化樹脂組成物の特性を阻害しない種類および範囲で、摩擦特性改良剤{(E)成分}、他の樹脂添加剤、例えば、離型剤{(F)成分}、ヒンダードフェノール系、亜燐酸エステル系、硫黄含有エステル化合物系などの熱安定剤、耐衝撃改良剤、タルクなどの結晶化促進剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、耐候性付与剤、染料・顔料などの着色剤、発泡剤などを含有させることができる。
【0076】
必要に応じて含有させる(E)成分は、本発明に係る強化樹脂組成物から得られる成形品(製品)の摩擦係数を低下させ、摩擦特性を向上させるものを言う。具体的には、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)粉末、超高分子量ポリエチレン粉末、グラファイト粉末、二硫化モリブデン粉末などが挙げられる。これらの(E)成分は、成形品の摩擦係数を低下させ、かつ安定化させることにより、摺動による発熱の発生を抑制することにより、スムーズな摺動操作が期待される。これらは一般的にポリエステル樹脂との相溶性が劣るので、高分子量ポリエチレンの変性物の配合、または高分子量ポリエチレン樹脂と不飽和ジカルボン酸やグリシジル基含有ポリオレフィンなどの変性ポリオレフィンとを併用する、などの配慮が必要である。(E)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対して、0.5〜10.0重量部が好ましい。
【0077】
また、必要に応じて含有させる(F)成分は、炭素数12〜36の脂肪酸残基と炭素数1〜36のアルコール残基から成る脂肪酸エステル類、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ビスアミド化合物、シリコーンオイルなどが挙げられる。ポリオレフィンの分散も兼ねて分子量900〜8000のポリエチレンワックスを含有させるのが好ましい。含有させる量は、本発明の強化樹脂組成物を構成する樹脂成分の合計量100重量部に対して、0.01〜2.0重量部である。
【0078】
本発明に係る強化樹脂組成物を調製するには、従来から知られている方法によればよい。中でも、押出混練機などを使用して溶融・混練する方法が好ましい。具体的には、例えば、上記した(A)成分の熱可塑性樹脂、(B)成分の繊維状補強材、(C)成分の着色成分、および、必要に応じて、(D)成分(エポキシ化合物)、(E)成分、(F)成分などの他の添加成分を所定量秤量し、リボンブレンダー、V型ブレンダー、ヘンセルミキサー、ドラムブレンダーなどの混合機によって混合し、溶融・混練機によって溶融・混練する方法が挙げられる。溶融・混練する際には、溶融・混練機に各成分を一括フィードする方法でもよいし、逐次フィードする方法でもよい。溶融・混練機としては、各種押出機、ブラベンダープラストグラフ、ラボプラストミル、ニーダー、バンバリーミキサーなどが挙げられる。溶融・混練する際に、熱分解し易いもの、破損し易いものは途中フィードするのが好ましい。各種添加成分は、基体樹脂や他の添加成分とあらかじめ混合しておくこともできる。(B)成分の繊維状強化剤は、混練時に破損し易いので、途中フィードするのが好ましい。溶融・混練する際の加熱温度は、強化樹脂組成物に含まれる成分の種類、各成分の割合、その他添加剤の種類、配合量などにより変わり、230〜290℃の範囲とするのが好ましい。
【0079】
本発明に係る強化樹脂組成物は、従来から知られている熱可塑性樹脂の成形方法によって、目的の成形品(製品)を成形(製造)することができる。本発明に係る強化樹脂組成物に適用できる成形方法としては、射出成形法、中空成形法、押出成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法、回転成形法などである。中でも成形品の寸法精度、成形品の表面平滑性、生産性などの観点から、射出成形法による成形が好適である。射出成形法によって成形品を成形するに当たっては、(A)成分が芳香族ポリエステル樹脂の場合には、樹脂温度を240〜280℃とし、金型温度を60〜120℃に調節するのが好ましい。金型温度は、成形品表面の平滑性および結晶化度の観点から高い方が好ましく、80〜120℃が望ましい。
【0080】
本発明に係る強化樹脂組成物から製造される成形品(製品)は、高い機械的強度が必要であり、摺動部を有し、外観が重要視される部品である。よりに具体的には、摺動部を有する車両外装機構部品であり、さらに具体的には、車両用ワイパー部品、ドアハンドル部品、ドアミラーステイ部品などである。部品が摺動部を有する車両外装機構部品の場合には、高い機械的強度が要求されるため、繊維状充填材などを配合した強化樹脂組成物が使用される。摺動部を有し、強化樹脂組成物からなる車両外装機構部品では、基体樹脂に含有させる繊維状強化剤の断面の扁平率が1.5〜10の範囲にある、熱可塑性ポリエステル樹脂を主成分とする本発明に係る強化樹脂組成物を使用するのが好ましい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は以下に記載した例に限定されるものではない。なお、以下に記載の例で使用した原料成分、任意成分の諸特性は、以下に記載したとおりである。
【0082】
(A)熱可塑性樹脂:(A−1)PBT樹脂:末端カルボキシル基濃度が12eq/tonのポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:ノバデュラン5008)である。(A−2)PET樹脂:ポリエチレンテレフタレート(三菱化学社製、商品名:ノバペックスGS385)である。(A−3)PC樹脂:ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:7022PJ−4LV)である。
【0083】
(B)繊維状補強材:(B−1)長円形断面GF:扁平率4、{(D1+D2)/2}=17.5μm、繊維長L=3mmの長円形断面のガラス繊維(PBT、AS用)(日東紡社製、銘柄名:CSG3PA830)で、アスペクト比が171のものである。(B−2)繭形断面GF:扁平率2、{(D1+D2)/2}=15μm、繊維長L=3mmの繭形断面のガラス繊維(PBT用)(日東紡社製、銘柄名:CSH3PA860)で、アスペクト比が200のものである。(B−3)円形断面GF:円形断面のガラス繊維(日本電気硝子社製、銘柄名:ECT03T187)である。
【0084】
(C)着色成分:
(C−1)カーボンブラック#1:三菱化学社製、銘柄名:#960(粒子径:16nm、窒素吸着比表面積:260m/g、DBP吸着量:69cm/100g、比表面積と吸着量の積:17940)
(C−2)カーボンブラック#2:三菱化学社製、銘柄名:MA600(粒子径:18nm、窒素吸着比表面積:131m/g、DBP吸着量:140cm/100g、比表面積と吸着量の積:18340)
(C−3)カーボンブラック#3:三菱化学社製、銘柄名:#45L(粒子径:24nm、窒素吸着比表面積:115m/g、DBP吸着量:45cm/100g、比表面積と吸着量の積:5175)
【0085】
(D)エポキシ化合物:(D−1)N型エポキシ:ノボラック型エポキシ化合物(東都化成社製、商品名:エポトートYDCN704)である。(D−2)BA型エポキシ:ビスフェノールA型エポキシ化合物(旭電化社製、商品名:アデカサイザーEP17)である。
【0086】
[実施例1〜実施例10、比較例1〜比較例8] 上記の(A)熱可塑性樹脂、(B)繊維状補強材、(C)着色成分および(D)エポキシ化合物を、表−2〜表−4に記載した割合(重量部)で秤量し、ヘンシェルミキサーで10分間混合した。得られた混合物を、バレル(シリンダー)温度を260℃の温度に設定した二軸押出機(日本製鋼所社製、型式:TEX−30C、バレルは9ブロックで構成されている)によって、溶融・混練してペレット化した。溶融・混練に際して、繊維状強化材は、押出機ホッパー側から5番目のブロックからサイドフィード方式で供給した。得られたペレットを原料として、射出成形機(住友重機械社製、型式:SG−75SYCAP−MIII)を使用し、シリンダー温度と金型温度とを、以下の表−1に記載した温度に設定し、機械的強度測定用のISOに準拠した試験片、成形品の強度測定用の機構部品モデル成形品(後記、図1参照)、成形品表面外観および耐候性測定用の四角形状の試験片、および、内径20mm、外径26mm、長さ15mmの筒状摩擦・摩耗特性試験片(後記、図3参照)を成形した。その成形条件を、表−1に示した。
【0087】
【表1】

【0088】
試験片の評価方法、成形品の強度の評価試験を下記に示す方法に従って行い、評価結果を表−2〜表−4に示した。各評価項目の方法詳細は、次のとおりである。(a)引張強度(MPa)、(b)引張弾性率(MPa):ISO527に準拠して測定した。(c)シャルピー衝撃強度(KJ/m):ISO179−1、179−2に準拠して測定した。(d)比重(g/cm):ISO1183に準拠して測定した。
【0089】
(e)成形品強度(N):射出成形機(住友重機械社製、型式:SG−75SYCAP−MIII)を使用し、上記表−1に示した条件で、図1に斜視図として示した機構モデル成形品1を成形した。機構モデル成形品1は、長さ(L)が100mm、高さ(H)が20mm、幅(W)が25mmであり、長さ方向の一端側に、幅20mm、深さ20mmの凹部2が形成され、凹部2の内部には直径6mmの回転軸3が設けられている(図1参照)。アルミニウム製の部品4は、長さ(L)が200mm、高さ(H)が20mm、幅(W)が25mmであり、長さ方向の一端側に幅20mm、長さ20mmの凸部5が設けられており、この凸部5は成形品の凹部2に嵌合する。凸部5の端部には、機構モデル成形品1の回転軸3を嵌め込む嵌合部6が設けられている(図1参照)。機構モデル成形品1の強度測定は、図2に示したように、機構モデル成形品1とアルミニウム製の部品4とを、機構モデル成形品1の凹部2の回転軸3が、部品4の凸部5に形成された凹部6に嵌合するように組み合わせて、機構モデル成形品1の強度測定を行なった。成形品1の端部を固定部7に固定した後、部品4を嵌合し、部品4の端部を矢印の方向から荷重を加え、機構モデル成形品1の嵌合部の破壊強度を測定した。この値が大きいほど、機構モデル成形品1の強度が優れていることを意味する。
【0090】
(f)成形時の最短冷却時間(sec):上記機構モデル成形品1を成形する際に、冷却時間を変更し、機構モデル成形品1の表面にエジェクタピンの突き出し跡有無を目視観察し、跡が残らなくなる最短冷却時間を測定した。この最短冷却時間が短いほど、機構モデル成形品1は短いサイクルでの成形が可能であり、生産性に優れていることを示す。
【0091】
(g)成形品初期外観:射出成形機(住友重機械社製、型式:SG−75SYCAP−MIII)によって、縦70mm、横40mm、厚さ2mmの四角形の平板状試験片を成形した。得られた平板状試験片の表面について、ガラス繊維の浮きあがり状態を目視観察し、評価判定した。評価の判定基準は、次のとおりとした。成形品の外観が美麗なものを3、ガラス繊維の浮き上がりが一部に認められるが、許容範囲内のものを2、広い範囲にわたってガラス繊維の浮きが認められ、許容範囲外のるものを1として表記した。実用上許容範囲にあるものは、2以上のものである。
【0092】
(h)耐候性(ΔE):上記(g)成形品初期外観評価用の平板状試験片について、キセノン紫外線照射装置(東洋精機社製、型式:ATLAS Ci4000)の試験片固定面に、試験機のブラックパネル温度を63℃とし、波長340nmの光線を、0.55W/mとし、照射102分後、照射+18分噴水を一サイクルとし、2500時間照射し、照射線量を5000kJ/mとした。試験片の光線を照射した面につき、分光測色計(コニカミノルタセンシング社製、型式:CM−3600d)によって紫外線照射後の色相を測定し、紫外線照射前の試験片の色相と比較した。なお、測定は拡散照明8°、受光SCE方式で行った。紫外線照射後のL値、a値、b値、紫外線照射前のL値、a値、b値の差、ΔL、Δa、Δbから、次式、すなわち、ΔE={(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2、から色差ΔEを算出し色相に指標とした。ΔEが小さいほど、紫外線照射前後の外観の変化が少なく、耐候性に優れていることを意味する。
【0093】
(i)比摩耗量(mm/kgf・km):スラスト摩擦・摩耗試験機(オリエンテック社製)に、図3に示した筒状試験片を一対にして、図3に斜視図として示すように固定した。図3において、31は上側試験片、32は下側試験片、33は摺動面、34は回転軸、35は回転方向である。二個の試験片の接触面圧力(面圧)を5Kgfとし、下方の試験片を10cm/secの速度で回転させた。20時間回転させたあと、二個の筒状試験片の合計摩耗量を測定した。比摩耗量の単位はmm/kgf・kmであり、この数値が大きいほど摩耗が激しく、摺動特性が劣ることを意味する。
【0094】
(j)ペレット中のGF長さ(mm)、および(k)成形品中のGF長さ(mm):ペレットまたはこのペレットから得られた成形品の中央部から、約5gのサンプルを切り出し、温度600℃の電気炉中に2時間置いて灰化させた後、残った繊維状強化材について測定した。繊維状強化材を折損しないように中性表面活性剤水溶液中に分散させ、その分散水溶液をピペットによってスライドグラス上に移し、顕微鏡で写真撮影を行った。この写真画像について、画像解析ソフトによって、1000〜2000本の強化繊維について測定を行い、平均GF長さを算出した。
【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
【表4】

【0098】
表2〜表4より、次のことが明らかとなる。1.異形断面のガラス繊維を含有させた実施例の強化樹脂組成物は、円形断面のガラス繊維を含有した比較例のものに比較して、成形品初期外観、機械的強度、耐候性、摺動特性(比摩耗量)が優れている(実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、実施例3と比較例3、実施例4と比較例4、実施例5と比較例5をそれぞれ対比する)。2.異形断面のガラス繊維を含有させた強化樹脂組成物であっても、含有量が20重量部と少ない比較例7は、配合量が20重量部の実施例5のものに比べて成形品初期外観、機械的強度、耐候性、摺動特性に劣り、異形断面のガラス繊維の含有量は20重量部では不十分であることが分かる。円形断面のガラス繊維の含有量が20重量部の比較例6のものは、比較例7のものよりも劣る。3.異形断面のガラス繊維であっても、長円形断面のものを含有させた実施例1のものが、繭形断面のものを含有させた実施例6のものより、機械的強度、摺動特性、耐候性とも若干優れている。4.(A)成分が、PBT樹脂にPET樹脂(実施例3)またはポリカーボネート樹脂(実施例4)を混合した強化樹脂組成物は、PBT樹脂単独の実施例1の樹脂組成物、PET樹脂単独の実施例2の強化樹脂組成物に較べて、成形品初期外観、耐候性、摺動特性が改善されている。5.(A)成分が、PBT樹脂単独の実施例1の強化樹脂組成物と、PET樹脂単独の実施例2のものを比較すると、PBT樹脂単独のものが成形時の所要冷却時間が短く、比重が小さい。このため、成形品の生産性や軽量化の面で、より適していると言える。6.着色成分が、請求項1に規定する範囲外の比較例8の強化樹脂組成物は、異形断面のガラス繊維が請求項で規定する範囲内であっても、耐候性に劣る(実施例1と比較例8参照)。7.カーボンブラックの種類を変えた実施例1、実施例7および実施例8の強化樹脂組成物を比較すると、実施例1、実施例7の強化樹脂組成物の耐候性が、実施例8のものより良好である。この耐候性は、カーボンブラックの比表面積とDBP吸着量との積の数値の大きさに比例していることがわかり、その数値が15000以上のカーボンブラックの使用が推奨される。8.エポキシ化合物を配合した実施例9と実施例10の強化樹脂組成物は、これを配合しない実施例1の樹脂組成物に較べて、比摩耗量が若干小さく、摺動特性が優れており、機械的強度も改善されている。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る樹脂組成物は、機械特性、摺動特性、成形品外観、耐候性に優れた車両外装機構部品製造用として極めて有用であり、本発明の樹脂組成物を使用して得られる車両外装機構部品は、磨耗による摺動部のガタの発生が少なく、また部品の外観が良好で、かつ、太陽光などによる色調、表面性の変化が少ないので、長期間にわたって安定した製品性能が得られ、この部品を組み込んだ機器の信頼性が高まり、産業上の利用価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】機構部品モデル試験片を成形品の一例の斜視図である。
【図2】機構部品モデル試験片につき、強度測定する目的で部品を組立てて固定した状態の側面図である。
【図3】比摩耗量試験に使用した試験片の斜視図である。
【符号の説明】
【0101】
1:強化樹脂組成物製の成形品。
2:凹部。
3:凹部に設けられた回転軸。
4:アルミニウム製の部品。
5:凸部。
6:凹部。
7:固定部。
31:上側試験片。
32:下側試験片。
33:摺動面。
34:回転軸。
35:回転方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:熱可塑性ポリエステル樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂100重量部、(B)成分:繊維長さ方向に直角な断面の長径と短径の比が1.5〜10の範囲の異形断面形状を有する繊維状強化剤25〜150重量部、および、(C)成分:着色成分1〜15重量部を含むことを特徴とする、車両外装機構部品製造用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分が、ポリブチレンテレフタレート樹脂95〜50重量部と、ポリエチレンテレフタレート樹脂および/またはポリカーボネート樹脂5〜50重量部からなる、請求項1に記載の車両外装機構部品製造用樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分が、扁平率2.5〜10.0の範囲のものである、請求項1または請求項2に記載の車両外装機構部品製造用樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分の断面が、長方形または長方形に近い長円形である、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の車両外装機構部品製造用樹脂組成物。
【請求項5】
(B)成分がガラス繊維である、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の車両外装機構部品製造用樹脂組成物。
【請求項6】
(C)成分が、カーボンブラックであり、(A)成分の熱可塑性樹脂100重量部に対して1.0〜10.0重量部含有してなる、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の車両外装機構部品製造用樹脂組成物。
【請求項7】
さらに(D)成分としてエポキシ化合物0.1〜3.0重量部を含有させた、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の車両外装機構部品製造用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の車両外装機構部品製造用樹脂組成物を成形してなることを特徴とする、車両外装機構部品。
【請求項9】
車両外装機構部品が、ワイパー部品、ドアハンドルレール部品およびドアミラーである、請求項8に記載の車両外装機構部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−280409(P2008−280409A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124604(P2007−124604)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】