説明

車両振動判別装置及び車両振動判別方法

【課題】ブレーキに起因する振動とタイヤ等に起因する振動とを判別可能な車両振動判別装置等を提供する。
【解決手段】車両振動判別装置を、車両の振動を検出する振動検出手段と、車両の制動状態及び非制動状態を検出する制動検出手段と、制動状態において検出された振動に関するデータと非制動状態において検出された振動に関するデータとをそれぞれ蓄積する振動データ記録手段と、制動状態において検出された振動と非制動状態において検出された振動とを比較することによってブレーキ起因の振動と車輪起因の振動とを判別する振動判別手段とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に発生する振動の種類を判別する車両振動判別装置及び車両振動判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、走行中に発生する振動には、ブレーキに起因するジャダーや、タイヤ及びリムに起因するシミー、シェイク等のフラッターなどがある。
ブレーキ起因のジャダーは、例えば偏摩耗等によってブレーキロータの厚さが周方向にわたって不均一であるために、車輪の回転速度に応じて周期的に制動力が変動することによって、ブレーキを起振源としてサスペンション系やステアリング系が共振して発生する車体振動又はステアリング振動である。このようなジャダーが発生した場合、例えばブレーキロータの研磨や交換が必要となる。
一方、タイヤ及びリム起因のフラッターは、タイヤ及びリムの重量アンバランス、剛性アンバランス、真円度の不足等によって車輪が起振源となり、サスペンション系やステアリング系が共振して発生する車体振動又はステアリング振動である。フラッターにおいて、上下方向の振動をシェイクと称し、タイヤのトーを左右に振る方向の振動をシミーと称する。このような振動が発生した場合、タイヤバランスの再調整や、調整不可能な場合にはタイヤ、リムの交換が必要となる。
【0003】
車両の振動検出に関する従来技術として、例えば特許文献1には、ABS制御用の車輪速センサによって車輪速を検出し、その変動に基づいてブレーキ振動を検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−264612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、車両の振動はその発生原因によって対策が異なるため、原因を正確に特定することが重要である。
しかし、上述した特許文献1に記載の技術は、単にブレーキ振動を検出するものであり、タイヤ等に起因する振動の特定については考慮されていない。
本発明の課題は、ブレーキに起因する振動とタイヤ等に起因する振動とを判別可能な車両振動判別装置及び車両振動判別方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、車両の振動を検出する振動検出手段と、前記車両の制動状態及び非制動状態を検出する制動検出手段と、前記制動状態において検出された振動に関するデータと前記非制動状態において検出された振動に関するデータとをそれぞれ蓄積する振動データ記録手段と、前記制動状態において検出された振動と前記非制動状態において検出された振動とを比較することによってブレーキ起因の振動と車輪起因の振動とを判別する振動判別手段とを備えることを特徴とする車両振動判別装置である。
【0007】
請求項2の発明は、車両の走行速度を検出する車速検出手段を備え、前記振動判別手段は、予め設定された車速範囲において検出された振動に基づいて振動の判別を行うことを特徴とする請求項1に記載の車両振動判別装置である。
請求項3の発明は、前記振動検出手段は、前輪起因の振動に対するゲインと後輪起因の振動に対するゲインとの比が異なる第1の振動センサ及び第2の振動センサを有し、前記振動判別手段は、前記第1の振動センサの出力と前記第2の振動センサの出力を比較することによって前輪側で発生した振動と後輪側で発生した振動とを判別することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両振動判別装置である。
請求項4の発明は、前記第1の振動センサは車両の操舵系に作用するステアリングトルクを検出するトルクセンサであり、前記第2の振動センサは車両の車体に作用する加速度を検出する加速度センサであることを特徴とする請求項3に記載の車両振動判別装置である。
【0008】
請求項5の発明は、制動状態において検出された車両の振動と、非制動状態において検出された車両の振動とを比較することによって、ブレーキ起因の振動と車輪起因の振動とを判別することを特徴とする車両振動判別方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)ブレーキ起因の振動であれば非制動状態においてはほとんど発生せず、制動状態において顕著となる一方、タイヤ、リム等の車輪起因の振動であれば制動状態、非制動状態に関わらず発生することから、制動状態において検出された振動と非制動状態において検出された振動とを比較することによって、これらの振動を精度よく簡便に判別することができる。
(2)予め設定された車速範囲において検出された振動に基づいて振動の判別を行うことによって、精度よく適切に振動の判別を行うことができる。
(3)前輪起因の振動に対するゲインと後輪起因の振動に対するゲインとの比が異なる第1及び第2の振動センサの出力を比較し、前輪側で発生した振動と後輪側で発生した振動とを判別することによって、振動源の特定がより容易となり、適切な対策をとることができる。
(4)一般的な電動パワーステアリング装置に用いられるトルクセンサ及びアンチロックブレーキ制御等に用いられる加速度センサを用いることによって、既存の車両に新たなセンサを付加することなく振動判別を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用した車両振動判別装置の実施例の構成を示す模式図である。
【図2】ステアリング振動とステアリングトルクとの相関の一例を示すグラフである。
【図3】ホイールの重量アンバランスに起因するフラッターのステアリング振動への影響を示すグラフである。
【図4】フラッターのフロア振動への影響を示すグラフである。
【図5】フラッターの前後起振源の違いによるステアリング振動と車体振動への影響を示すグラフである。
【図6】フラッターの前後起振源の違いによるステアリング振動加速度最大値をフロア振動加速度最大値で除した振動加速度比を示すグラフである。
【図7】ブレーキロータ厚さの周上偏りに起因するジャダーのステアリング振動への影響を示すグラフである。
【図8】ジャダーのフロア振動への影響を示すグラフである。
【図9】実施例の車両振動判別装置における振動判別時の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ブレーキに起因する振動とタイヤ等に起因する振動とを判別可能な車両振動判別装置及び車両振動判別方法を提供する課題を、制動状態において検出された車両の振動と非制動状態において検出された車両の振動との比率を所定の閾値と比較してブレーキ起因の振動と車輪起因の振動とを判別することによって解決した。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を適用した車両振動判別装置及び車両振動判別方法の実施例について説明する。
実施例の車両振動判別装置は、例えば乗用車等の自動車に設けられ、ブレーキ起因の振動であるジャダーと、タイヤ及びリムのアンバランス等に起因する振動であるフラッターとを判別するものである。
【0013】
図1は、実施例の車両振動判別装置の構成を示す模式的ブロック図である。図中において、機械的な接続を実線で示し、電気的な接続を破線で示している。
車両1は、右前輪11、左前輪12、右後輪13、左後輪14を有する例えば乗用車等の4輪の自動車である。
また、車両1は、ブレーキ装置20、挙動制御装置30、ステアリング装置40、振動判別装置50等を備えて構成されている。
【0014】
ブレーキ装置20は、右前輪ブレーキ21、左前輪ブレーキ22、右後輪ブレーキ23、左後輪ブレーキ24、ブレーキペダル25、マスタシリンダ26、ブレーキランプスイッチ(BLS)27等を備えて構成されている。
右前輪ブレーキ21、左前輪ブレーキ22、右後輪ブレーキ23、左後輪ブレーキ24は、右前輪11、左前輪12、右後輪13、左後輪14にそれぞれ設けられ、車輪とともに回転するロータと、このロータをブレーキパッドで挟持するキャリパとを備えている。キャリパは、ブレーキラインから供給されるフルード液圧によって、パッドを押圧するピストンを駆動するホイールシリンダを備えている。
【0015】
ブレーキペダル25は、ドライバが踏み込むことによって制動操作を行うものである。
マスタシリンダ26は、ブレーキペダル25に接続され、ブレーキペダル25の踏込み操作に応じてブレーキフルードを加圧し、各ホイールシリンダへ供給するものである。
BLS27は、ブレーキペダル25に設けられ、ブレーキランプの点灯のため、ブレーキペダル25の踏み込み操作時にオンされるスイッチである。
【0016】
挙動制御装置30は、ハイロドリックコントロールユニット(HCU)31、挙動制御ユニット32等を備え、挙動制御ユニット32には、車速センサ33、Gセンサ34等が接続されている。
HCU31は、マスタシリンダ26と各ブレーキ21〜24との間に設けられ、ブレーキフルードを加圧するプランジャポンプや、各ブレーキ21〜24のホイールシリンダの液圧を個別に制御するソレノイドバルブ等を備えている。
挙動制御ユニット32は、車両1のオーバーステア状態やアンダーステア状態を検出した際に、HCU31に制御指令を出力し、左右輪の制動力差を発生させてこれらの挙動を打ち消す方向のヨーモーメントを発生させる挙動制御や、車輪のロックを検出した際に当該車輪のホイールシリンダ液圧を間歇的に減圧させて回復させるアンチロックブレーキ制御を行う。
車速センサ33は、各車輪の回転速度に応じた車速パルス信号を発生するものである。車両1の走行速度(車速)は、この車速パルス信号の間隔に基づいて算出することができる。
Gセンサ34は、車両1の図示しないフロア部に設けられ、車体に作用する前後方向の加速度を検出するものである。
また、Gセンサ34は、車両1のフロア部の振動を検出する振動検出手段(第1の振動センサ)として機能する。
【0017】
ステアリング装置40は、右前輪11、左前輪12を操向、転舵するものである。
ステアリング装置40は、ステアリングホイール41、ステアリングシャフト42、ステアリングギヤボックス43、タイロッド44、トルクセンサ45等を備えて構成されている。
ステアリングホイール41は、ドライバからの操舵操作が入力される環状の操作入力部材である。
ステアリングシャフト42は、ステアリングホイール41の回転をステアリングギヤボックス43に伝達する回転軸である。
ステアリングギヤボックス43は、ステアリングシャフト42の回転運動を車幅方向の直進運動に変換するラックアンドピニオン機構、ドライバの操舵力を軽減する電動パワーアシスト機構等を備えている。
タイロッド44は、ステアリングギヤボックス43のラックの動きを、右前輪11、左前輪12が取り付けられるハブベアリングハウジングのナックルアームに伝達し、これを押し引きして左右前輪11,12を操向するものである。
【0018】
トルクセンサ45は、ステアリングシャフト42の中間部に挿入され、電動パワーアシスト機構の制御等のために、ステアリングシャフト42に作用するトルクを検出するものである。
また、トルクセンサ45は、ステアリングホイール41の周方向振動を検出する振動検出手段(第2の振動センサ)として機能する。
図2は、ステアリングホイール41の周方向振動における振動加速度と、トルクセンサ45によって検出されるステアリングトルクとの相関を示すグラフである。
図2に示すように、車種A、B、Cのいずれにおいても、振動加速度とステアリングトルクとはほぼ比例関係となっている。
これは、ニュートンの第2法則の力(トルク)=質量×加速度の関係から、以下の式1が成り立つからである。

ステアリングトルク(Nm)
=ステアリング軸慣性質量×ステアリング振動加速度÷ステアリング径・・式1

したがって、このトルクセンサ45が検出するステアリングトルクは、ステアリングホイール41の周方向振動の程度を示すパラメータとして用いることができる。
すなわち、トルクセンサ45は、ステアリングホイール41の振動を検出する振動検出手段として機能する。
【0019】
振動判別装置50は、振動判別ユニット51等を備え、振動判別ユニット51は振動記録装置52を備えている。
振動判別ユニット51は、CPU等の情報処理手段、RAMやROM等の記憶手段、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を備えている。
振動判別ユニット51は、直接的に、又は、車載LAN回線等を介して間接的に、BLS27、挙動制御ユニット32、及び、トルクセンサ45と通信可能となっている。振動判別ユニット51は、BLS27のオンオフ情報、車速センサ33が検出した車速情報、Gセンサ34が検出した車体前後加速度情報、トルクセンサ45が検出したステアリングトルク情報等を取得可能となっている。
振動記録装置52は、例えばフラッシュメモリ等の記憶手段を備え、Gセンサ34が検出した車体前後加速度及びトルクセンサ45が検出したステアリングトルクの履歴を、振動データとして蓄積する。
【0020】
次に、実施例の車両振動判別装置及び方法における振動判別について、より詳細に説明する。
図3は、ホイール(タイヤ及びリムのアセンブリ)の重量アンバランスに起因するフラッターのステアリング振動への影響を示すグラフである。図中、横軸はホイールのアンバランス量及びアンバランスのあるホイールの位置を示し、縦軸はステアリングホイールの周方向の振動加速度の最大値を示している。
ここで、一定走行時のデータは、車両1の共振が発生する特定の車速(例えば約130km/h)において計測し、制動時のデータは、初速180km/hから0km/hまで減速しながら計測している(以下説明する各図において同じ)。
図3に示すように、ステアリング振動加速度はホイールのアンバランス量の増大とともに増加し、アンバランス量が同等であれば前輪にアンバランスが存在するほうが振動加速度は増大する。このことから、ステアリング装置40のトルクセンサ45によって振動を検出する場合、前輪起因の振動に対してのゲインが後輪起因の振動に対してのゲインよりも相対的に高くなることがわかる。
また、試験条件との関係で、一定走行時のほうが減速時よりも振動加速度が大きくなる傾向があるが、一定走行時と減速時との振動加速度の比(振動比)は0.3乃至0.5附近に分布している。
【0021】
図4は、フラッターのフロア振動への影響を示すグラフである。図中、横軸はホイールのアンバランス量及びアンバランスのあるホイールの位置を示し、縦軸はフロアの前後方向の振動加速度の最大値を示している。
図4に示すように、振動加速度はホイールのアンバランス量の増大とともに増加し、アンバランス量が同等であれば後輪にアンバランスが存在するほうが振動加速度は増大する。このことから、フロアに設けられたGセンサ34によって振動を検出する場合、後輪起因の振動に対してのゲインが前輪起因の振動に対してのゲインよりも相対的に高くなることがわかる。
また、一定走行時のほうが減速時よりも振動加速度が大きくなる傾向があるが、一定走行時と減速時との振動加速度の比(振動比)は0.6乃至0.8附近に分布している。
【0022】
図5は、フラッターの前後起振源の違いによるステアリング振動と車体振動への影響を示すグラフである。図中、横軸はホイールのアンバランス量及びアンバランスのあるホイールの位置を示し、縦軸はステアリングホイールの周方向の振動加速度及びフロアの前後方向の振動加速度の最大値を示している。
図5に示すように、前輪のアンバランスがある場合にはステアリング振動の増加が顕著であり、後輪のアンバランスがある場合にはフロア振動の増加が顕著であることがわかる。
【0023】
図6は、フラッターの前後起振源の違いによるステアリング振動加速度最大値をフロア振動加速度最大値で除した振動加速度比を示すグラフである。図中、横軸はホイールのアンバランス量及びアンバランスのあるホイールの位置を示し、縦軸は振動加速度比を示している。
図6に示すように、振動加速度比は前輪アンバランスでは10乃至20程度、後輪アンバランスでは5以下となっている。
このことから、このような振動加速度比を予め設定された閾値と比較することによって、振動発生源が前輪であるか後輪であるかを判別することができる。
【0024】
図7は、ブレーキロータ厚さの周上偏りに起因するジャダーのステアリング振動への影響を示すグラフである。図中、横軸はジャダーの官能評点を示し、縦軸はステアリング振動加速度の最大値を示している。
ここで、半数の評価者が振動を感じる評点に相当する振動加速度は1.0m/s程度であり、ホイールアンバランス0gの一定速走行中の振動加速度は0.9m/s程度である。
このとき、振動レベル(加速度)の比(制動時/非制動時)は1.0以上となる。
【0025】
図8は、ジャダーのフロア振動への影響を示すグラフである。図中、横軸はジャダーの官能評点を示し、縦軸はフロア振動加速度の最大値を示している。
ここで、半数の評価者が振動を感じる評点に相当する振動加速度は0.08m/s程度であり、ホイールアンバランス0gの一定速走行中の振動加速度は0.05m/s程度である。
このとき、振動レベル(加速度)の比(制動時/非制動時)は1.5以上となる。
【0026】
本実施例では、以上説明したような検証に基づいて設定された閾値を用いて、制動時及び非制動時におけるステアリングトルク及びフロア前後振動を比較し、振動の原因及び起振源を判別している。この点について、以下詳しく説明する。
図9は、実施例の振動判別装置50における車両1の振動判別時の動作を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0027】
<ステップS01:車速判断>
振動判別ユニット51は、車速センサ33が検出する車速が、車両振動の発生しやすい予め設定された範囲の車速であった場合には、ステップS02に進み、その他の場合にはステップS05に進む。
例えば、固有振動数が約15Hzである車両の場合には、一般的なタイヤのサイズを考慮した場合、時速130km/h前後で振動が発生しやすいことから、このような車速の近傍を設定車速範囲として設定するとよい。
【0028】
<ステップS02:制動状態判断>
振動判別ユニット51は、BLS27がオンである場合は、制動状態であると判断してステップS03に進む。
一方、BLS27がオフである場合は、非制動状態であると判断してステップS04に進む。
【0029】
<ステップS03:制動時振動データ取得>
振動判別ユニット51は、Gセンサ34が検出したフロア振動加速度及びトルクセンサ45が検出したステアリングトルクを、制動時振動データとして振動記録装置52に蓄積する。
その後、ステップS05に進む。
【0030】
<ステップS04:非制動時振動データ取得>
振動判別ユニット51は、Gセンサ34が検出したフロア振動加速度及びトルクセンサ45が検出したステアリングトルクを、非制動時振動データとして振動記録装置52に蓄積する。
このとき、振動判別ユニット51は、振動データの記録方法として、振動時間軸のP−P最大値では、路面からの衝撃による振動が含まれてしまうため、ばね下の固有振動数(例えば10乃至20Hz)、又は、設定された範囲の車速におけるタイヤ回転一次の振動の最大値を記録すると、振動判別をより正確に行うことができる。
その後、ステップS05に進む。
【0031】
<ステップS05:振動データ蓄積終了判断>
振動判別ユニット51は、制動時振動データ、非制動時振動データのそれぞれについて、振動判別に必要な予め設定されたデータ量以上のデータが蓄積したか否かを判定する。
必要なデータ量が蓄積されている場合は、データ蓄積を終了し、振動判別のためステップS06に進む。一方、必要なデータ量が未だ蓄積されていない場合は、引き続きデータを蓄積するためにステップS01に戻り、以降の処理を繰り返す。
【0032】
<ステップS06:振動有無判断>
振動判別ユニット51は、振動記録装置52に蓄積された制動時振動データ及び非制動時振動データに含まれるステアリングトルク、フロア振動加速度の最大値のいずれかが、予め設定された閾値以上である場合には、車両1に振動が発生しているものとして、振動判別のためステップS07に進む。
一方、その他の場合には、車両1に問題となるような振動は発生していないものと判断し、一連の処理を終了(リターン)する。
【0033】
<ステップS07:振動原因判別>
振動判別ユニット51は、ステアリングトルク及びフロア振動加速度のそれぞれについて、制動時振動データを非制動時振動データで除した値を、予め設定された閾値と比較することによって、振動がブレーキ起因のジャダーであるか、タイヤ及びリム起因のフラッター(シミー、シェイク)であるかを判別する。
具体的には、制動時のステアリングトルクの最大値を非制動時のステアリングトルクの最大値で除した値が閾値A(例えば、0.8)以上であるか、あるいは、制動時のフロア振動加速度の最大値を非制動時のフロア振動加速度の最大値で除した値が閾値B(例えば1.5)以上である場合には、判別対象である振動はブレーキ起因のジャダーであるものと判別し、ステップS08に進む。
一方、いずれの値も閾値A,B未満であった場合には、判別対象である振動はタイヤ、リム起因のフラッター(シミー、シェイク等)であるものと判別し、ステップS11に進む。
【0034】
<ステップS08:ジャダー起振源判別>
振動判別ユニット51は制動時振動データのステアリングトルク最大値を制動時振動データのフロア振動加速度最大値で除した値が、予め設定された閾値C(例えば、180)以上である場合はステップS09に進み、閾値C未満である場合はステップS10に進む。
【0035】
<ステップS09:前輪ブレーキ起因振動判定>
振動判別ユニット51は、判別対象である振動が前輪ブレーキ起因の振動(ジャダー)であると判定し、一連の処理を終了(リターン)する。
【0036】
<ステップS10:後輪ブレーキ起因振動判定>
振動判別ユニット51は、判別対象である振動が後輪ブレーキ起因の振動(ジャダー)であると判定し、一連の処理を終了(リターン)する。
【0037】
<ステップS11:フラッター起振源判別>
振動判別ユニット51は非制動時振動データのステアリングトルク最大値を非制動時振動データのフロア振動加速度最大値で除した値が、予め設定された閾値C(例えば、180)以上である場合はステップS12に進み、閾値C未満である場合はステップS13に進む。
【0038】
<ステップS12:前輪車輪起因振動判定>
振動判別ユニット51は、判別対象である振動が前輪タイヤ、リム起因の振動(フラッター)であると判定し、一連の処理を終了(リターン)する。
【0039】
<ステップS13:後輪車輪起因振動判定>
振動判別ユニット51は、判別対象である振動が後輪タイヤ、リム起因の振動(フラッター)であると判定し、一連の処理を終了(リターン)する。
【0040】
振動判別ユニット51は、車両1の走行中上述した振動原因判別(診断)を繰り返し実行し、ドライバ等のユーザや、サービス拠点の担当者に対して、最も高確率の判別結果を提示する機能を備えている。
例えば、振動判別ユニット51は、インストルメントパネルに設けられた表示装置に判別結果を表示させたり、車両に接続可能な端末装置に、判別結果に応じたメッセージや診断コードを表示させる。
なお、振動判別ユニット51は、蓄積された制動時振動データ、非制動時振動データに基づいて検出されるBLS27のオン頻度が所定値以上であった場合には、例えばサーキット走行などの特殊な使用条件下で車両が走行したものと判断し、この判断結果も提示する。
これによって、サービス担当者は、振動の原因がユーザの使用方法にある場合には、これを検知して適切な使用方法の推奨などをすることができる。
【0041】
以上説明した実施例によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)BLS27のオン時及びオフ時にそれぞれ検出され蓄積されたステアリングトルク及びフロア振動加速度の最大値の比を、予め設定された閾値A,Bと比較することによって、ブレーキ起因のジャダー振動とタイヤ、リム起因のフラッター振動(シミー、シェイク等)とを精度よく簡便に判別することができる。
(2)予め設定された車速範囲において検出された振動に基づいて振動の判別を行うことによって、精度よく適切に振動の判別を行うことができる。
(3)ステアリングトルク最大値をフロア振動加速度の最大値で除した値を予め設定された閾値Cと比較し、前輪側で発生した振動と後輪側で発生した振動とを判別することによって、振動源の特定がより容易となり、適切な対策をとることができる。
(4)一般的な電動パワーステアリング装置に用いられるトルクセンサ45及びアンチロックブレーキ制御に用いられるGセンサ34を用いることによって、既存の車両に新たなセンサを付加することなく振動判別を行うことができる。
【0042】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)実施例ではステアリングトルクセンサ及びフロアの前後Gセンサを用いて振動検出を行っていたが、振動検出手段の具体的構成や各種閾値の設定は、適宜変更することができる。例えば、上下方向の加速度を検出する加速度センサを車体の任意の箇所に設けてもよい。
(2)実施例では、ブレーキランプスイッチのオンオフによって制動状態、非制動状態の判別を行っているが、本発明はこれに限らず、他の手法によって制動状態を判別してもよい。例えば、車両の減速加速度、車速信号の変化、ブレーキのフルード液圧、ブレーキペダルのストロークや踏力等に基いて制動状態を判別してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 車両
11 右前輪 12 左前輪
13 右後輪 14 左後輪
20 ブレーキ装置 21 右前輪ブレーキ
22 左前輪ブレーキ 23 右後輪ブレーキ
24 左後輪ブレーキ 25 ブレーキペダル
26 マスタシリンダ 27 ブレーキランプスイッチ
30 挙動制御装置 31 ハイドロリックコントロールユニット
32 挙動制御ユニット 33 車速センサ
34 Gセンサ
40 ステアリング装置 41 ステアリングホイール
42 ステアリングシャフト 43 ステアリングギヤボックス
44 タイロッド 45 トルクセンサ
50 振動判別装置 51 振動判別ユニット
52 振動記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の振動を検出する振動検出手段と、
前記車両の制動状態及び非制動状態を検出する制動検出手段と、
前記制動状態において検出された振動に関するデータと前記非制動状態において検出された振動に関するデータとをそれぞれ蓄積する振動データ記録手段と、
前記制動状態において検出された振動と前記非制動状態において検出された振動とを比較することによってブレーキ起因の振動と車輪起因の振動とを判別する振動判別手段とを備えること
を特徴とする車両振動判別装置。
【請求項2】
車両の走行速度を検出する車速検出手段を備え、
前記振動判別手段は、予め設定された車速範囲において検出された振動に基づいて振動の判別を行うこと
を特徴とする請求項1に記載の車両振動判別装置。
【請求項3】
前記振動検出手段は、前輪起因の振動に対するゲインと後輪起因の振動に対するゲインとの比が異なる第1の振動センサ及び第2の振動センサを有し、
前記振動判別手段は、前記第1の振動センサの出力と前記第2の振動センサの出力を比較することによって前輪側で発生した振動と後輪側で発生した振動とを判別すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両振動判別装置。
【請求項4】
前記第1の振動センサは車両の操舵系に作用するステアリングトルクを検出するトルクセンサであり、
前記第2の振動センサは車両の車体に作用する加速度を検出する加速度センサであること
を特徴とする請求項3に記載の車両振動判別装置。
【請求項5】
制動状態において検出された車両の振動と、非制動状態において検出された車両の振動とを比較することによって、ブレーキ起因の振動と車輪起因の振動とを判別すること
を特徴とする車両振動判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−235724(P2011−235724A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108064(P2010−108064)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】