説明

車両構造部品及びその設計方法

【課題】必要とされる剛性を維持しつつ軽量化された車両構造部品を提供する。
【解決手段】車両の構造を維持するための車両構造部品である。所定形状の車両構造部品と同一の形状を有する、所定の金属材料からなる対比用車両構造部品の、金属材料の一部が所定の樹脂材料で置換されてなるとともに、対比用車両構造部品の質量W2に対する、車両構造部品の質量W1の比の値(W1/W2)が、0.7〜0.8であり、かつ、実際に車両構造部品として用いられた場合に負荷されることが予測される応力を負荷した状態で測定される、対比用車両構造部品の剛性率G2に対する、車両構造部品の剛性率G1の比の値(G1/G2)が、0.9〜1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両構造部品、及びその設計方法に関し、更に詳しくは、必要とされる剛性を維持しつつ軽量化された車両構造部品、及びこのような特徴を有する車両構造部品を容易に製造することが可能な設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車をはじめとする車両を構成する種々の部品のうち、自重及び走行時の荷重を受けて車両全体の構造を維持する構造部材を構成するための部品、例えば、図2(a)、図2(b)に示すような構造を有する自動車のダッシュパネル1や、フロントフェンダーエプロン、フロアパン等の車両構造部品は金属材料からなるものが主流である。これらの車両構造部品は、一般的には金属材料からなる原型をプレス加工して得られるものであり、これらの複数をスポット溶接等によって接合して自動車等の車両(モノコックボディー等)が製造される。即ち、車両全体の構造を維持する役割を担う車両構造部品は、図2(a)、図2(b)に示すように、その全ての部分が金属材料からなる金属材料部11により構成されていることが最も一般的である。
【0003】
これに対して、近年のエネルギー事情や環境問題等に鑑みて車両の軽量化を図るべく、自動車用のボディーパネルや装飾部品等をはじめとする金属材料からなる部品の一部又は全部を、より軽量であるとともに取り扱い性に優れ、かつデザイン付与もし易い樹脂材料に変更する試みがなされている。関連する従来技術として、熱可塑性の合成材料により成形された外側部材と内側部材とにより構成され、これらが接着剤等により結合された自動車用のプラスチック製二重壁構造ボディーパネル(例えば、特許文献1参照)、所定組成のポリ炭酸エステル樹脂を所定の条件下で射出させて発泡成形する自動車ボディーパネルの製造方法(例えば、特許文献2参照)、箱型部材の内部空間に、発泡成形した樹脂系発泡体と未発泡の樹脂系発泡材とを配置し、その後に未発泡の樹脂系発泡材を発泡させることにより得られる車体用箱型構造部材及びその製造方法(例えば、特許文献3参照)等が開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1,2において開示されたような、車体の外形となるボディーパネルの一部又は全部を樹脂材料により構成するのと同様の手法により、自重を受けて車両全体の構造を維持する役割を担う車両構造部品のそれぞれを樹脂材料で製造しようとすると、必要とされる剛性を維持するために十分な厚み等を確保する必要があるために、結果的に車両構造部品の重量増加、ひいては車両の重量増加が余儀なくされるという問題があった。
【0005】
また、特許文献3において開示された、箱型部材の内部空間において未発泡の樹脂系発泡材を発泡させて車体用の構造部材を製造する方法は、微細で均一な発泡層の形成を目的としており、その発泡倍率を厳密に制御することが必要である等の困難性を伴う場合がある。更に、得られる構造部材の剛性(強度)についても、車両全体の構造を維持する役割を担う車両構造部品に要求される剛性を必ずしも満足するものではない。従って、必要とされる剛性を維持しつつ軽量化された車両構造部品や、このような特性を備えた車両構造部品の実用性のある容易な設計方法等は見出されていないのが現状である。
【特許文献1】特公昭56−27370号公報
【特許文献2】特開平10−181634号公報
【特許文献3】特開昭63−151518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、必要とされる剛性を維持しつつ軽量化された車両構造部品、及びこのような特徴を有する車両構造部品を容易に製造することが可能な設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、必要とされる剛性を維持しつつ軽量化された車両構造部品とその設計方法を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、車両構造部品が実際に用いられた場合を想定したときに、これを構成する金属材料のうち、負荷される応力の大きさが比較的小さい領域を構成する金属材料を、順次軽量な樹脂材料によって置換することにより、これらの目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明によれば、以下に示す車両構造部品、及びその設計方法が提供される。
【0008】
[1]車両の構造を維持するための車両構造部品であって、所定形状の前記車両構造部品と同一の形状を有する、所定の金属材料からなる対比用車両構造部品の、前記金属材料の一部が所定の樹脂材料で置換されてなるとともに、前記対比用車両構造部品の質量W2に対する、前記車両構造部品の質量W1の比の値(W1/W2)が、0.7〜0.8であり、かつ、実際に前記車両構造部品として用いられた場合に負荷されることが予測される応力を負荷した状態で測定される、前記対比用車両構造部品の剛性率G2に対する、前記車両構造部品の剛性率G1の比の値(G1/G2)が、0.9〜1である車両構造部品。
【0009】
[2]前記金属材料により構成される部分の厚み(D2)に対する、前記樹脂材料により構成される部分の厚み(D1)の比の値(D1/D2)が、1.2〜2.8である前記[1]に記載の車両構造部品。
【0010】
[3]前記金属材料が、一般冷延鋼、特殊冷延鋼、自動車用高張力鋼、熱延鋼、表面処理鋼、高強度鋼、特殊鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、高力アルミニウム、ジュラルミン、及び超々ジュラルミンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]又は[2]に記載の車両構造部品。
【0011】
[4]前記樹脂材料が、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリオレフィン系軟質樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリマーアロイ、及び射出成形可能な熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の車両構造部品。
【0012】
[5]自動車用の、ダッシュパネル、フロントフェンダーエプロン、又はフロアパンである前記[1]〜[4]のいずれかに記載の車両構造部品。
【0013】
[6]車両構造部品の設計方法であって、所定形状の前記車両構造部品と同一の形状を有する、所定の金属材料からなる解析モデルを想定し、想定した前記解析モデルに対して、前記解析モデルが実際に前記車両構造部品として用いられた場合に負荷されることが予測される応力の大きさの分布を、計算機を用いて所定の解析手法により算出するとともに、算出された前記応力の大きさの分布に応じてその領域が区分された、前記金属材料からなる応力モデルを想定し、想定した前記応力モデルを構成する前記金属材料の一部を、所定の樹脂材料で、前記応力モデルの前記応力の大きさが相対的に小さい領域から大きい領域へと向かって、前記応力モデルの全体に対する構成比率(質量%)を段階的に増加させるように順次置換した複数の材料置換モデルn1、n2…を想定し、想定した複数の前記材料置換モデルn1、n2…の質量、及び前記車両構造部品として用いられた場合の剛性を計算機を用いて解析することを含む、剛性を維持し、かつ、軽量化された前記車両構造部品を設計することが可能な車両構造部品の設計方法。
【0014】
[7]想定した複数の前記材料置換モデルn1、n2…の質量、及び前記車両構造部品として用いられた場合の剛性を計算機を用いて解析することに加えて、更に、熱抵抗を計算機を用いて解析することを含む、剛性を維持し、かつ、軽量化されているとともに断熱性を備えた前記車両構造部品を設計することが可能な前記[6]に記載の車両構造部品の設計方法。
【0015】
[8]前記金属材料が、一般冷延鋼、特殊冷延鋼、自動車用高張力鋼、熱延鋼、表面処理鋼、高強度鋼、特殊鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、高力アルミニウム、ジュラルミン、及び超々ジュラルミンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[6]又は[7]に記載の車両構造部品の設計方法。
【0016】
[9]前記樹脂材料が、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリオレフィン系軟質樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリマーアロイ、及び射出成形可能な熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である前記[6]〜[8]のいずれかに記載の車両構造部品の設計方法。
【0017】
[10]前記応力の大きさの分布を算出する前記解析手法が、有限要素法又は境界要素法である前記[6]〜[9]のいずれかに記載の車両構造部品の設計方法。
【0018】
[11]前記車両構造部品が、自動車用の、ダッシュパネル、フロントフェンダーエプロン、又はフロアパンである前記[6]〜[10]のいずれかに記載の車両構造部品の設計方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両構造部品は、所定形状の車両構造部品と同一の形状を有する、所定の金属材料からなる対比用車両構造部品の、金属材料の一部が所定の樹脂材料で置換されてなるとともに、対比用車両構造部品の質量W2に対する、車両構造部品の質量W1の比の値(W1/W2)が、0.7〜0.8であり、かつ、実際に車両構造部品として用いられた場合に負荷されることが予測される応力を負荷した状態で測定される、対比用車両構造部品の剛性率G2に対する、車両構造部品の剛性率G1の比の値(G1/G2)が、0.9〜1であるため、必要とされる剛性を維持しつつ軽量化されているという効果を奏するものである。
【0020】
また、本発明の車両構造部品の設計方法は、所定の金属材料からなる解析モデルを想定し、この解析モデルに対して負荷されることが予測される応力の大きさの分布を、計算機を用いて所定の解析手法により算出するとともに、この分布に応じてその領域が区分された、金属材料からなる応力モデルを想定し、この応力モデルを構成する金属材料の一部を、所定の樹脂材料で、応力モデルの応力の大きさが相対的に小さい領域から大きい領域へと向かって、応力モデルの全体に対する構成比率(質量%)を段階的に増加させるように順次置換した複数の材料置換モデルn1、n2…を想定し、この複数の材料置換モデルn1、n2…の質量及び剛性を計算機を用いて解析することを含む車両構造部品の設計方法であるため、必要とされる剛性を維持しつつ軽量化された車両構造部品を容易に設計することが可能であるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜、設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0022】
図1(a)〜図1(c)は、本発明の車両構造部品の一実施形態を示す図面であり、図1(a)は正面図、図1(b)は図1(a)のA−A断面図、図1(c)は斜視図である。図1(a)〜図1(c)に示すように、本実施形態の車両構造部品10(ダッシュパネル1)は、これと同一の形状を有する、図2(a)に示すような所定の金属材料からなる対比用車両構造部品20の、金属材料の一部が所定の樹脂材料によって置換されて形成されている。即ち、本実施形態の車両構造部品10は、金属材料部11と樹脂材料部12とからなる材料複合的な構造を有する部品である。ここで、本発明にいう「車両構造部品」とは、自重を受けて車両全体の構造を維持する構造部材を構成するための部品をいい、具体的には、車両が自動車である場合におけるダッシュパネル、フロントフェンダーエプロン、フロアパン等である。なお、フロアパンには、これを構成するフロントフロアパン、センターフロアパン、及びリアフロアパン等の要素が含まれる。
【0023】
金属材料部11を構成する金属材料としては、一般的な車両構造部品を構成する金属材料が用いられる。具体的には、一般冷延鋼、特殊冷延鋼、自動車用高張力鋼、熱延鋼、表面処理鋼、高強度鋼、特殊鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、高力アルミニウム、ジュラルミン、及び超々ジュラルミンからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。なお、高強度鋼には、Duel−Phase鋼、TRIP鋼が含まれる。また、樹脂材料部12を構成する樹脂材料としては、車両構造部品10の剛性維持と軽量化を図ることができ、更には後述するインサート射出成形法や発泡成形法等の成形方法を採用し得る樹脂材料であることが好ましい。具体的には、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリオレフィン系軟質樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリマーアロイ、及び射出成形可能な熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。なお、ポリアミドには、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、共重合ポリアミド、及び強化材充填ポリアミドが含まれる。また、ポリマーアロイの一例としては、ポリカーボネート/ABS樹脂等のポリマーアロイを挙げることができる。
【0024】
樹脂材料によって置換される、対比用車両構造部品を構成する金属材料の一部(図1(a)に示す、樹脂材料部12)は、この対比用車両構造部品を車両構造部品として実際に用いることを想定した場合において、この対比用車両構造部品に負荷される応力(より具体的には、剪断応力)が比較的小さく、部品の剛性を維持するための必要度が比較的低い部分である。図1(a)に示すように置換形成される樹脂材料部12の位置と範囲は、後述する設計方法に従い、かつ、車両構造部品10の質量と剛性率との関係を勘案することにより決定される。
【0025】
また、本実施形態の車両構造部品10は、この車両構造部品10の質量をW1、剛性率をG1、この車両構造部品10と同一の形状を有する、所定の金属材料からなる対比用車両構造部品20(図2(a)参照)の質量をW2、剛性率をG2とした場合に、W1/W2比の値が、0.7〜0.8であるとともに、G1/G2比の値が、0.9〜1である。
【0026】
即ち、本実施形態の車両構造部品10は、その特定の部分を、金属材料に比してより軽量な樹脂材料によって構成しているために、同一の形状を有する従来の車両構造部品(対比用車両構造部品20(図2(a)参照))に比して、20〜30%も軽量化されている。更に、本実施形態の車両構造部品10は、車両構造部品として実際に用いることを想定した場合に、負荷される応力が比較的小さく、部品の剛性を維持するための必要度が比較的低い特定の部分を樹脂材料によって構成しているため、軽量でありながらも、同一の形状を有する従来の車両構造部品(対比用車両構造部品20(図2(a)参照))の90%以上もの剛性が維持されているものである。なお、より軽量、かつ、高剛性な車両構造部品を提供するという観点からは、W1/W2比の値が0.7〜0.77であるとともに、G1/G2比の値が0.92〜1であることが好ましく、W1/W2比の値が0.7〜0.75であるとともに、G1/G2比の値が0.95〜1であることが更に好ましい。
【0027】
なお、金属材料部11と樹脂材料部12とは、図1(b)に示すような嵌合部13を形成することにより接合されていることが、車両構成部材10に要求される剛性を十分に確保することができるために好ましい。このような形状に代表される嵌合部13は、インサート射出成形法や、発泡押出成形法等の成形法によって形成することができる。また、図1(b)に示すように、金属材料により構成される金属材料部11の厚み(金属材料部の厚みD2)に対する、樹脂材料により構成される樹脂材料部12の厚み(樹脂材料部の厚みD1)の比の値(D1/D2)は、1.2〜2.8であることが好ましく、1.5〜2.5であることが更に好ましく、1.7〜2.3であることが特に好ましい。D1/D2比の値が1.2未満であると、満足する剛性が得られ難く、2.8超であると、樹脂材料部12の質量増加によって車両構造部品の軽量化を図り難くなる場合がある。
【0028】
次に、本発明の車両構造部品の設計方法について説明する。図3は、本発明の車両構造部品の設計方法の一実施形態を示すフロー図である。図3に示すように、本実施形態の車両構造部品の設計方法では、まず所定形状の車両構造部品と同一の形状を有する、所定の金属材料からなる解析モデルを想定する(図3における「解析モデル想定」に対応)。本実施形態において、解析モデルを構成する金属材料は車両を構成するための用いられる一般的な金属材料である。具体的には、一般冷延鋼、特殊冷延鋼、自動車用高張力鋼、熱延鋼、表面処理鋼、高強度鋼、特殊鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、高力アルミニウム、ジュラルミン、及び超々ジュラルミンからなる群より選択される少なくとも一種の金属材料を用いて解析モデルを構成すればよい。なお、高強度鋼には、Duel−Phase鋼、TRIP鋼が含まれる。
【0029】
次に、想定した解析モデルに対して、この解析モデルが実際に車両構造部品として用いられた場合に負荷されることが予測される応力の大きさの分布を、パーソナルコンピュータ(PC)等の計算機を用いて所定の解析手法により算出する(図3における「応力分布の算出」に対応)。実際に車両構造部品として用いられた場合に、この解析モデルに負荷される応力を予測するには、有限要素法、境界要素法等を応用した汎用ソフトウェア、具体的には、MSC.Marc(商品名:日本エムエスシー株式会社製)、ABAQUS(商品名:ABAQUS,Inc.製)等のソフトウェアを採用することができる。また、応力の大きさの分布を算出するための解析手法は、応力の大きさの分布を数値化することのできる解析手法であり、解析モデルを略均一の形状に細分化し、細分化された各部に対してどのように応力が作用するのかについて解析する手法である。より具体的には有限要素法、境界要素法等の従来公知の応力解析手法を好適に用いることができる。即ち、本実施形態の車両構造部品の設計方法では、実際に車両構造部品を作製することなく、計算機上で車両構造部品に負荷される応力の大きさの分布を予測して算出する。
【0030】
次に、算出された応力の大きさの分布に応じて、その領域が区分された金属材料からなる応力モデルを想定する(図3における「応力モデル想定」に対応)。この応力モデルの想定に際しては、算出された応力の大きさの分布に基づく領域区分を行う(図3における「応力分布に応じた領域に区分」に対応)。
【0031】
応力モデルを想定した後、応力モデルを構成する金属材料の一部を、金属材料に比してより軽い材料である所定の樹脂材料で置換した複数の材料置換モデルn1、n2…を想定する(図3における「樹脂材料に置換」、及び「材料置換モデルn1想定、材料置換モデルn2想定…」にそれぞれ対応)。本実施形態では、応力モデルを構成する金属材料の一部を所定の樹脂材料で置換するに際して、先に算出した応力の大きさが相対的に小さい領域から大きい領域へと向かって、応力モデルの全体に対する構成比率(質量%)を段階的に増加させるようにして順次置換するという手法を採用する。従って、車両構造部品全体のうち、この車両構造部品を実際に用いた場合に比較的応力の負荷が小さく、剛性を維持するための必要度が比較的低い部分を樹脂材料により置換するため、必要とされる剛性を維持しつつ、その一部が樹脂材料で置換されることにより軽量化された材料置換モデルを想定することができるとともに、想定した材料置換モデルの剛性と、樹脂材料の構成比率との相関関係を的確に把握することができる。
【0032】
本実施形態においては、想定する材料置換モデルの数(サンプル数)は多いほど、剛性と樹脂材料の構成比率との相関関係をより的確に把握することが可能となるために好ましい。具体的には、5個以上の材料置換モデルを想定することが好ましい。また、応力モデルの全体に対する樹脂材料の構成比率(質量%)を段階的に増加させる割合を細かく設定するほど、剛性と樹脂材料の構成比率との相関関係をより的確に把握することが可能となるために好ましい。具体的には、応力モデルの全体に対する樹脂材料の構成比率(質量%)を、2質量%以下の割合で増加させて複数の材料置換モデルを想定することが好ましい。
【0033】
本実施形態において、応力モデルを構成する金属材料の一部を置換する樹脂材料は、インサート射出成形法若しくは発泡押出成形法等の成形方法により、又は嵌め合わせ等の手法により、前述した金属材料と組み合わされた複合材料を得ることができる樹脂材料であればよい。具体的には、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリオレフィン系軟質樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリマーアロイ、及び射出成形可能な熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂材料により、応力モデルを構成する金属材料の一部を置換して材料置換モデルを想定すればよい。なお、ポリアミドには、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12、共重合ポリアミド、及び強化材充填ポリアミドが含まれる。また、ポリマーアロイの一例としては、ポリカーボネート/ABS樹脂等のポリマーアロイを挙げることができる。
【0034】
次に、想定した複数の材料置換モデルn1、n2…の質量と、これを車両構造部品として用いた場合の剛性とを、計算機を用いて解析する(図3における「質量・剛性解析」に対応)。計算機を用いて材料置換モデルの質量と剛性とを解析するには、有限要素法、境界要素法等を応用した汎用ソフトウェア、具体的には、MSC.Marc(商品名:日本エムエスシー株式会社製)、ABAQUS(商品名:ABAQUS,Inc.製)等のソフトウェアを使用し、想定した材料置換モデルn1、n2…のそれぞれの全体に占める金属材料又は樹脂材料の構成比率(質量%)と、それぞれの剛性との相関関係をグラフ化すること等によって解析すればよい。
【0035】
次いで、複数の材料置換モデルn1、n2…の質量と剛性の解析結果に基づいて、製造しようとする車両構造部品の最終的な設計を行う(図3における「最終設計」)。具体的には、製造しようとする個々の車両構造部品を実際に用いる場合を想定するとともに、個々の車両構造部品に要求される剛性を把握し、把握した剛性を満足するような樹脂材料の構成比率となるように、比較的応力の負荷が小さく剛性を維持するための必要度が比較的低い部分を樹脂材料に置換したものを設計すればよい。これにより、必要とされる剛性を維持しつつ軽量化された車両構造部品を、実製造の前段階で容易に設計することができる。
【0036】
図5は、車両構造部品(ダッシュパネル)を構成する金属材料の一部を樹脂材料によって置換した場合における、W1/W2比に対して、G1/G2比をプロットしたグラフである。一般的には、金属材料の一部を無作為に樹脂材料によって順次置換してW1/W2比の値を小さくすると、W1/W2比の値の減少に比例してG1/G2比の値が順次小さくなることが想定される(図5中の破線)。しかしながら、本実施形態の車両構造部品の設計方法に従って、金属材料の一部を、応力の大きさが相対的に小さい領域から大きい領域へと向かって順次置換してW1/W2比の値を小さくすると、W1/W2比の値の大きい領域ではG1/G2比の値にあまり影響を与えることなく軽量化を図ることができる(図5中の実線)。
【0037】
図4は、本発明の車両構造部品の設計方法の他の実施形態を示すフロー図である。図4に示すように、本実施形態の車両構造部品の設計方法においては、想定した複数の材料置換モデルn1、n2…の質量、及び車両構造部品として用いられた場合の剛性を計算機を用いて解析すること(図3における「質量・剛性解析」参照)に加えて、更に、熱抵抗を計算機を用いて解析すること(図4における「質量・剛性・熱抵抗解析」に対応)を含むことが好ましい。具体的には、想定した材料置換モデルn1、n2…のそれぞれの全体に占める金属材料又は樹脂材料の構成比率(質量%)と、それぞれの剛性との相関関係をグラフ化すること等によって解析することに加えて、更に、想定した材料置換モデルn1、n2…のそれぞれの全体に占める金属材料又は樹脂材料の構成比率(質量%)と、それぞれの熱抵抗との相関関係をグラフ化すること等によって解析する。
【0038】
例えば、図6に示すように、車両構造部品(ダッシュパネル)を構成する金属材料の一部を樹脂材料によって置換した場合における、W1/W2比に対して、対比用車両構造部品の熱抵抗T2に対する、車両構造部品の熱抵抗T1の比(T1/T2)をプロットしたグラフを作製すればよい。これにより、複数の材料置換モデルn1、n2…の質量と剛性の解析結果、及び質量と熱抵抗の解析結果に基づいて、必要とされる剛性を維持し、かつ、軽量化されているとともに断熱性をも備えた車両構造部品を、実製造の前段階で容易に設計することができる。
【0039】
本発明の車両構造部品を製造するにあたっては、まず、上述してきた設計方法に従って、金属材料からなる部分(金属材料部分)と樹脂材料からなる部分(樹脂材料部分)とに領域区分された車両構造部品をデザインする。金属材料部分、及び樹脂材料部分は、それぞれ別個に作製した後、嵌め合わせ等の手法により一体化させてもよいが、まず金属材料部分を作製し、次いでインサート射出成形法、又は発泡押出成形法等の成形方法を採用することにより、両部分が強固に一体化されてなる車両構造部品を簡易に作製することができるために好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
図1(a)に示す寸法・形状のダッシュパネル1(自動車用高張力鋼製、厚み:1.6mm、質量:10.6kg)を解析モデルとして想定し、下端部5を完全拘束した状態で、上端部6に対し、矢印方向に1mmの変位をさせる荷重を負荷することを想定し、応力分布を予測・算出した。なお、荷重を負荷することの想定、及び応力分布の予測・算出には、日本エムエスシー株式会社製のMSC.Marc(商品名)を使用した。
【0042】
次に、薄板状の自動車用高張力鋼を用意し、これをプレス加工することによって、先に予測・算出した応力分布に基づき、負荷される応力の大きさが相対的に小さい領域(剛性の維持に比較的寄与しない領域)を打ち抜いて、図1(a)に示す形状の金属材料部11(厚み:1.6mm)を作製した。この金属材料部11を射出成形にインサートし、打ち抜かれた部分に樹脂(強化材としてのグラスファイバーを30質量%含有するポリアミド6)を充填することにより、ダッシュパネル1(実施例1)を作製した。なお、作製したダッシュパネル1の金属材料部の厚みD2は1.6mm、樹脂材料部の厚みD1は3.2mm(図1(b)参照)であり、ダッシュパネル1の質量W1は8.1kg、剛性率G1は94570N/mmであった。
【0043】
(比較例1)
薄板状の自動車用高張力鋼を用意し、これをプレス加工することによって、上述した実施例1と同一の寸法・形状を有する、その全体が自動車用高張力鋼で構成されたダッシュパネル(比較例1)を作製した。このダッシュパネルの質量W2は10.6kg、剛性率G2は96912.2N/mmであった。従って、実施例1のダッシュパネルの、W1/W2比は0.76、G1/G2比は0.98であった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の車両構造部品は、特に、剛性維持と軽量化とが要求される自動車用の部品、例えばダッシュパネル、フロントフェンダーエプロン、フロアパン等として好適である。また、本発明の車両構造部品の設計方法によれば、特に、自動車用の部品を実製造の前段階で設計することができ、自動車製造コストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1(a)】本発明の車両構造部品の一実施形態を示す正面図である。
【図1(b)】図1(a)のA−A断面図である。
【図1(c)】本発明の車両構造部品の一実施形態を示す斜視図である。
【図2(a)】従来の車両構造部品の一実施形態を示す正面図である。
【図2(b)】従来の車両構造部品の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明の車両構造部品の設計方法の一実施形態を示すフロー図である。
【図4】本発明の車両構造部品の設計方法の他の実施形態を示すフロー図である。
【図5】車両構造部品(ダッシュパネル)を構成する金属材料の一部を樹脂材料によって置換した場合における、W1/W2比に対してG1/G2比をプロットしたグラフである。
【図6】車両構造部品(ダッシュパネル)を構成する金属材料の一部を樹脂材料によって置換した場合における、W1/W2比に対してT1/T2比をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1…ダッシュパネル、2…フロントフェンダーエプロン、3a…フロントフロアパン、3b…センターフロアパン、3c…リアフロアパン、3…フロアパン、5…下端部、6…上端部、10…車両構造部品、11…金属材料部、12…樹脂材料部、13…嵌合部、20…対比用車両構造部品、D1…樹脂材料部の厚み、D2…金属材料部の厚み。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の構造を維持するための車両構造部品であって、
所定形状の前記車両構造部品と同一の形状を有する、所定の金属材料からなる対比用車両構造部品の、前記金属材料の一部が所定の樹脂材料で置換されてなるとともに、前記対比用車両構造部品の質量W2に対する、前記車両構造部品の質量W1の比の値(W1/W2)が、0.7〜0.8であり、かつ、実際に前記車両構造部品として用いられた場合に負荷されることが予測される応力を負荷した状態で測定される、前記対比用車両構造部品の剛性率G2に対する、前記車両構造部品の剛性率G1の比の値(G1/G2)が、0.9〜1である車両構造部品。
【請求項2】
前記金属材料により構成される部分の厚み(D2)に対する、前記樹脂材料により構成される部分の厚み(D1)の比の値(D1/D2)が、1.2〜2.8である請求項1に記載の車両構造部品。
【請求項3】
前記金属材料が、一般冷延鋼、特殊冷延鋼、自動車用高張力鋼、熱延鋼、表面処理鋼、高強度鋼、特殊鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、高力アルミニウム、ジュラルミン、及び超々ジュラルミンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の車両構造部品。
【請求項4】
前記樹脂材料が、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリオレフィン系軟質樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリマーアロイ、及び射出成形可能な熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両構造部品。
【請求項5】
自動車用の、ダッシュパネル、フロントフェンダーエプロン、又はフロアパンである請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両構造部品。
【請求項6】
車両の構造を維持するための車両構造部品の設計方法であって、
所定形状の前記車両構造部品と同一の形状を有する、所定の金属材料からなる解析モデルを想定し、
想定した前記解析モデルに対して、前記解析モデルが実際に前記車両構造部品として用いられた場合に負荷されることが予測される応力の大きさの分布を、計算機を用いて所定の解析手法により算出するとともに、算出された前記応力の大きさの分布に応じてその領域が区分された、前記金属材料からなる応力モデルを想定し、
想定した前記応力モデルを構成する前記金属材料の一部を、所定の樹脂材料で、前記応力モデルの前記応力の大きさが相対的に小さい領域から大きい領域へと向かって、前記応力モデルの全体に対する構成比率(質量%)を段階的に増加させるように順次置換した複数の材料置換モデルn1、n2…を想定し、
想定した複数の前記材料置換モデルn1、n2…の質量、及び前記車両構造部品として用いられた場合の剛性を計算機を用いて解析することを含む、剛性を維持し、かつ、軽量化された前記車両構造部品を設計することが可能な車両構造部品の設計方法。
【請求項7】
想定した複数の前記材料置換モデルn1、n2…の質量、及び前記車両構造部品として用いられた場合の剛性を計算機を用いて解析することに加えて、更に、熱抵抗を計算機を用いて解析することを含む、剛性を維持し、かつ、軽量化されているとともに断熱性を備えた前記車両構造部品を設計することが可能な請求項6に記載の車両構造部品の設計方法。
【請求項8】
前記金属材料が、一般冷延鋼、特殊冷延鋼、自動車用高張力鋼、熱延鋼、表面処理鋼、高強度鋼、特殊鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、高力アルミニウム、ジュラルミン、及び超々ジュラルミンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項6又は7に記載の車両構造部品の設計方法。
【請求項9】
前記樹脂材料が、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリオレフィン系軟質樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、ポリマーアロイ、及び射出成形可能な熱可塑性樹脂からなる群より選択される少なくとも一種である請求項6〜8のいずれか一項に記載の車両構造部品の設計方法。
【請求項10】
前記応力の大きさの分布を算出する前記解析手法が、有限要素法又は境界要素法である請求項6〜9のいずれか一項に記載の車両構造部品の設計方法。
【請求項11】
前記車両構造部品が、自動車用の、ダッシュパネル、フロントフェンダーエプロン、又はフロアパンである請求項6〜10のいずれか一項に記載の車両構造部品の設計方法。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−88955(P2006−88955A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−278868(P2004−278868)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】