車両用サスペンション装置
【課題】 ループ状のサスペンションスプリングを備えた実用性の高いサスペンション装置を提供する。
【解決手段】 ループ状スプリング10と、そのループ状スプリングに支持されて車輪を車輪軸線回りに回転可能に保持するキャリア12とを備えたサスペンション装置2において、キャリアを、ループ状スプリングに、それの周上において固定的に設けられた複数のキャリア支持部14,16,18によって支持させる。複数のキャリア支持部によってキャリアが支持されることで、車輪の車体に対する上下動に伴う車輪のアライメント変化をより安定的に実現させることが可能となる。
【解決手段】 ループ状スプリング10と、そのループ状スプリングに支持されて車輪を車輪軸線回りに回転可能に保持するキャリア12とを備えたサスペンション装置2において、キャリアを、ループ状スプリングに、それの周上において固定的に設けられた複数のキャリア支持部14,16,18によって支持させる。複数のキャリア支持部によってキャリアが支持されることで、車輪の車体に対する上下動に伴う車輪のアライメント変化をより安定的に実現させることが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体を懸架するための車両用サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願に係る発明者は、先に、新たなる発想の下、斬新な車両用サスペンション装置を発明し、本願出願人は、本願に先行して、その発明についての特許出願をした。その出願は、下記特許文献として、既に公開されている。その出願に係る車両用サスペンション装置は、ループ状のサスペンションスプリングを主たる構成要素とするものであり、そのループ状スプリングは、(A)長手部材を車輪軸線方向に見てループ状に形成してなる本体部と、(B)その本体部の両端の一方に固定的に設けられ、第1回動軸線回りに回動可能に車体に取り付けられる第1被取付部と、(C)本体部の両端の他方に固定的に設けられ、第1回動軸線とは異なる回動軸線である第2回動軸線回りに回動可能に車体に取り付けられる第2被取付部とを有している。
【0003】
上記車両用サスペンション装置が備えるループ状スプリングは、従来のコイルスプリング,リーフスプリング,エアスプリング等とは異なる特徴的な構造をなしており、上記サスペンション装置は、車体に対する車輪の上下動の軌道を規定するためのサスペンションリンクを必要としないという特徴を有している。そのため、上記サスペンション装置は、単純な構成のサスペンション装置となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−195352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記車両用サスペンション装置は、未だ開発途上であり、種々の改良の余地、つまり、実用性を改善する余地を多分に残すものとなっている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、ループ状のサスペンションスプリングを備えた実用性の高いサスペンション装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンション装置は、上記ループ状スプリングと、そのループ状スプリングに支持されて車輪を車輪軸線回りに回転可能に保持するキャリアとを備え、そのキャリアが、ループ状スプリングに、それの周上において固定的に設けられた複数のキャリア支持部によって支持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
複数のキャリア支持部によってキャリアが支持されることで、車輪の車体に対する上下動に伴う車輪のアライメント変化をより安定的に実現させることが可能となる。
【発明の態様】
【0008】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0009】
なお、下記(1)項は、請求可能発明の前提となる態様を示す項であり、(1)項を直接的若しくは間接的に引用する(2)項以下の項が、請求可能発明の態様を示す項となる。ちなみに、以下の各項において、(1)項と(2)項とを合わせたものが請求項1に相当し、請求項1に(5)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項2に、請求項2に(6)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項3に、請求項1〜3のいずれか1つに(7),(8)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項4に、請求項1〜4のいずれか1つに(9),(11)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項5に、請求項1〜5のいずれか1つに(12)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項6に、請求項1〜6のいずれか1つに(14),(16)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項7に、請求項1〜7のいずれか1つに(17),(18)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項8に、請求項1〜8のいずれか1つに(20)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項9に、請求項1〜9のいずれかに(21)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項10に、請求項1〜10のいずれか1つに(22)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項11に、請求項1〜11のいずれか1つに(24)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項12に、請求項1〜12のいずれか1つに(28),(29)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項13に、請求項1〜13のいずれか1つに(31)項に記載の発明特定事項と(34)項に記載の発明特定事項との少なくとも一方による限定を加えたものが請求項14に、請求項1〜14のいずれか1つに(37)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項15に、それぞれ相当する。
【0010】
(1)(A)長手部材を車輪軸線方向に見てループ状に形成してなる本体部と、(B)その本体部の両端の一方に固定的に設けられ、第1回転軸線回りに回転可能に車体に取り付けられる第1被取付部と、(C)前記本体部の両端の他方に固定的に設けられ、前記第1回転軸線とは異なる回転軸線である第2回転軸線回りに回転可能に車体に取り付けられる第2被取付部とを有するループ状スプリングと、
そのループ状スプリングに支持され、車輪を車輪軸線回りに回転可能に保持するキャリアと
を備え、
前記ループ状スプリングの本体部の弾性反力に依拠して車体を懸架する車両用サスペンション装置。
【0011】
先に説明したように、本項は、請求可能発明の前提となる構成に関する項である。本項のループ状スプリングは、本体部の弾性反力に依拠して車体を懸架するサスペンションスプリングとして機能し、キャリアに保持された車輪の上下動に伴って、ループ状スプリングの本体部の弾性変形量が変化し、その弾性変形量の変化に依拠して弾性反力が変化する構造となっている。車輪が車体に対して上下に動くと、ループ状スプリングは、車体に取り付けられている部分を中心として揺動しようとするが、2つの被取付部の回動軸線が異なるものとなっていることから、ループ状スプリングの揺動には、本体部の曲げ変形と捩り変形との少なくとも一方の変化を伴うことになり、その変化によって弾性反力が変化させられることになるのである。さらに、ループ状スプリングは、2つの被取付部において支持されており、本体部が車輪の車体に対する上下動に対してその上下方向の位置に応じて弾性変形するため、ループ状スプリングに支持されたキャリアに保持された車輪は、一定の軌道に沿って揺動することなる。したがって、本項のサスペンション装置において、ループ状スプリングは、サスペンションスプリングとして機能するだけでなく、車輪の揺動軌跡を定める機能、つまり、サスペンションリンクとしての機能をも併せ持つこととなる。
【0012】
なお、本明細書において、「車輪軸線」は、車輪の回転軸線を意味する。この車輪軸線の延びる方向である「車輪軸線方向」は、車輪のアライメント変化を除外すれば、概ね、車幅方向に一致していると考えることができる。つまり、車輪軸線方向は、車輪のアライメント変化をも考慮したある程度幅のある方向と考えることができるのである。したがって、「車輪軸線方向に見て」とは、概して、「車両側面視において」と同義となる。以下の説明は、このことを前提として行うこととする。ただし、車輪のアライメント変化に注目する場合は、車輪軸線方向を、厳密に解釈し、車幅方向とは必ずしも一致しないものとして扱うこととする。
【0013】
ループ状スプリングの本体部は、車輪軸線方向に見た場合、概して環状をなしていればよい。つまり、円環状をなしていても、多角形をなすような環状をなしていてもよく、また、両端部が離間する形状、つまり、概してC型をなすような形状であってもよい。さらに、本体部を形成する長手部材は、断面形状に関しても特に限定されるものではなく、丸棒,角棒のような中実の部材、丸パイプ,角パイプのような中空の部材、チャンネル等の異形部材等、種々の断面形状を有する部材を採用することができる。また、本体部は、長手方向において均一な断面を有する長手部材で構成されてもいてよく、長手方向の部位によって断面形状が異なるような長手部材によって構成されていてもよい。さらに言えば、長手部材は、単一の部材であってもよく、後に説明するように、断面形状の互いに異なる複数の部位ごとに互いに異なる複数の部材で構成され、それら複数の部材が接合,締結等されたものであってもよい。また、長手部材は、それの材質についても特に限定されない。例えば、ばね鋼等の鋼材であってもよく、FRP(繊維強化プラスチック)等の樹脂材料であってもよい。
【0014】
ループ状スプリングの本体部の端部に固定的に設けられた2つの被取付部は、それらの各々の回転軸線が互いに異なるように配置されていればよく、それら2つの被取付部の位置関係(回転軸線の配置関係を含む概念である)が特に限定されるものではない。例えば、2つの被取付部の回転軸線が平行となるように、それら2つの被取付部が配置されてもよく、また、2つの被取付部の回転軸線が交差(立体交差を含む概念である)するように配置されていてもよいのである。具体的に言えば、ループ状スプリングは、車輪軸線方向に見た場合、2つの被取付部が重なりあって配置されるように構成されてもよく、前後,上下あるいは斜めにずれて配置されるように構成されてもよい。また、例えば、ループ状スプリングは、車輪軸線方向において2つの被取付部の位置が殆ど同じ位置となるように、言い換えれば、車輪軸線方向において殆どズレていないように構成されていてもよく、ある程度ズレた位置となるように構成されていてもよい。なお、ループ状スプリングのコンパクトさという観点からすれば、2つの被取付部ができるだけ接近していることが望ましい。また、車輪の車体に対する上下動に伴うループ状スプリングの揺動との関係で言えば、車輪軸線に可及的に平行な揺動軸線回りにループ状スプリングが揺動するように2つの被取付部が配置されることが望ましい。
【0015】
ループ状スプリングの2つの被取付部の車体への取付けに関して言えば、2つの被取付部の各々は、車体に対する変位が禁止された状態で回転可能に取り付けられるものであってもよく、ある程度の変位が許容された状態で回転可能に取り付けられるものであってもよい。言い換えれば、車体に対するコンプライアンスが確保されない状態で取り付けられてもよく、コンプライアンスが確保された状態で取り付けられるものであってもよい。つまり、ボールベアリング,ころ軸受等によって回転可能に車体に支持されてもよく、ゴムブッシュ等を介して車体に支持されてもよいのである。なお、2つの被取付部の少なくとも一方が、自身の回転軸線方向の変位を禁止された状態で車体に取り付けられることが望ましい。
【0016】
ループ状スプリングの2つの被取付部の位置関係は、車輪の車体に対する揺動に伴うループ状スプリングの本体部の弾性変形の態様に影響を与える。例えば、2つの被取付部が、それらの各々の回転軸線が互いに平行でかつ離間した状態で配置されている場合は、ループ状スプリングの本体部の弾性変形は、主に、曲げ変形となる。それに対して、2つの被取付部が、車輪軸線方向に見て互いに重なりかつそれらの回転軸線が互いに交差する状態で配置されている場合には、本体部の弾性変形は、捩り変形が含まれる。したがって、2つの被取付部の位置関係を種々に異ならせることによって、本体部の弾性変形の態様を、曲げ変形,捩り変形それらが種々の割合で複合した変形といった種々の態様とすることができるのである。
【0017】
上記のような車輪の車体に対する揺動に伴うループ状スプリングの本体部の弾性変形は、ループ状スプリングに支持されたキャリアの車幅方向における位置変動、車輪軸線に直角な平面に対する傾斜変動をもたらす。つまり、本項のサスペンション装置は、車輪の車体に対する揺動に伴って、キャリアに保持された車輪のアライメントが変化するように構成することができる。言い換えれば、車輪と車体とのバウンド動作,リバウンド動作に伴って、車輪のトー角,キャンバ角等が変化することになる。そして、このアライメント変化は、本体部の弾性変形の態様を任意に設定することにより、任意の態様で実現させることができるのである。なお、本明細書において「バウンド動作」とは、車輪と車体とが上下方向に接近する動作を意味し、「リバウンド動作」とは、車輪と車体とが上下方向に離間する動作を意味する。詳しく言えば、それらバウンド動作,リバウンド動作は、車輪と車体とが、車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態である中立状態において各々が位置する位置から接近,離間することのみを意味するのではなく、車輪と車体とがどの位置にあるかにかかわらず、それらが互いに接近,離間する場合の動作を広く意味する。
【0018】
キャリアは、ループ状スプリングによって支持されるが、本項の態様においては、ループ状スプリングの1の箇所において支持されてもよく、後に説明するように、複数の箇所において支持されてもよい。複数の箇所においてキャリアが支持される場合には、つまり、複数の支持部においてキャリアが支持される場合は、複数の支持部によってそれぞれ支持されるキャリアの複数の支持点のうちの少なくとも1つがある程度の変位を許容される状態で、キャリアが支持されることが望ましい。つまり、ループ状スプリングの本体部の適切な弾性変形を阻害しない等の観点から、キャリアのループ状スプリングに対するコンプライアンスがある程度確保されることが望ましいのである。
【0019】
(2)当該車両用サスペンション装置が、前記ループ状スプリングに、それの周上において固定的に設けられた複数のキャリア支持部を備え、
前記キャリアが、それら複数のキャリア支持部によって支持された(1)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0020】
先に説明したように、前述の態様のサスペンション装置では、車輪の車体に対する上下動に伴って、車輪のアライメントを変化させることができる。このアライメント変化は、ループ状スプリングの1箇所においてキャリアを支持した場合であっても、実現可能である。しかし、本項の態様のように複数のキャリア支持部を設け、ループ状スプリングの複数の箇所でキャリアを支持すれば、車輪のアライメント変化を安定的に実現させることができる。例えば、車輪に外部から横力が作用した場合を考える。キャリアが1つの支持部によって支持されている場合には、その横力がアライメント変化に比較的大きく影響を与えるが、複数の支持部によって支持されている場合には、その横力がアライメント変化に与える影響は、比較的小さい。つまり、複数の支持部を設けることによって、横力に対する剛性を高くすることができ、そのことによって、安定した車輪のアライメント変化が実現されるのである。なお横力に対する剛性をより高めるという観点からすれば、複数のキャリア支持部のうちの1つを、第1被取付部と第2被取付部との一方に設けることが望ましい。
【0021】
また、ループ状スプリングの本体部の変形に伴って、その本体部は車幅方向において変位する。この変位の量は、ループ状スプリングの各箇所において異なる。本項の態様によれば、互いに異なる複数の箇所にキャリア支持部を設けることで、それら各箇所の変位量差を利用して、キャリアの姿勢を、つまり、キャリアの車幅方向に平行な線とのなす角度を変化させることができ、容易に車輪のアライメントを変化させることができるのである。そして、ループ状スプリングにおいて複数のキャリア支持部の各々が配設される箇所を種々に変更することにより、容易に、車輪のアライメント変化の態様を変更することができるため、所望のアライメント変化を、簡便に、実現させることができることになる。言い換えれば、所望の特性を有するサスペンション装置を設計する際において、その設計の自由度が増すことになるのである。
【0022】
(3)前記複数のキャリア支持部の各々が、
基端部が前記ループ状スプリングに固定されたブラケットを有し、そのブラケットの先端部において前記キャリアを支持するように構成された(2)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0023】
(4)前記複数のキャリア支持部の各々が、
その各々が有する前記ブラケットの先端部が、車輪軸線方向に見て、前記ループ状スプリングのループの内側に位置するように構成された(3)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0024】
上記2つの項に記載の態様は、キャリア支持部の構成に関する具体的限定を加えた態様である。特に後者の態様によれば、車両側面視において、キャリアがループ状スプリングのループ内に収まることになるため、コンパクトなサスペンション装置が実現することになる。後者の態様は、ループ状スプリングを、ホイール本体のリム内に収容する場合に好適である。なお、本明細書において、「ホイール本体」とは、車輪の構成要素であり、リム部とディスク部とを有し、リム部の外周にタイヤが嵌められてそれを保持する概して有底円筒状の部材を意味する。
【0025】
(5)当該車両用サスペンション装置が、前記複数のキャリア支持部として、3つのキャリア支持部を備えた(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0026】
(6)前記3つのキャリア支持部の各々の前記ループ状スプリングのループの中心を基準とした配設角度を、支持部配設角度と定義した場合において、
前記3つのキャリア支持部が、それらのいずれの2つのキャリア支持部の支持部配設角度の差も90°以上となる位置に設けられた(5)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0027】
上記2つの態様のうちの前者によれば、前述したところの安定したアライメント変化を、可及的に少ない数のキャリア支持部によって実現させることができる。また、後者の態様によれば、ループ状スプリングの互いに比較的離間した箇所に3つのキャリア支持部が設けられるため、充分にしっかりとキャリアが支持され、車輪のアライメント変化がより安定化することになる。
【0028】
(7)前記複数のキャリア支持部の各々が、前記キャリアを、自身に対する回動を許容する状態で支持するように構成された(2)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0029】
先に説明したように、ループ状スプリングの複数の箇所においてキャリアが支持されており、かつ、複数の箇所の各々において固定的に支持されている場合には、車輪の上下動に伴うループ状スプリングの本体部の適切な弾性変形を阻害する可能性がある。本項の態様によれば、複数のキャリア支持部の各々において、キャリアの回動が許容されているため、ループ状スプリングの本体部の適切な弾性変形がある程度担保されることになる。なお、複数のキャリア支持部の各々は、一平面に沿ったキャリアの回動が許容されるように構成されてもよいが、ボールジョイント,弾性体を有するブッシュ等を用いて、すべての方向の回動が許容されることが望ましい。
【0030】
(8)前記複数のキャリア支持部の各々によって支持される前記キャリアの部分の中心点を、キャリア支持点と定義した場合において、
前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、その1つに対するキャリア支持点の変位を禁止する状態で前記キャリアを支持し、かつ、前記複数のキャリア支持部のうちの残りのものの各々が、その各々に対するキャリア支持点の変位を許容する状態で前記キャリアを支持するように構成された(2)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0031】
本項の態様も、先の態様、つまり、複数のキャリア支持部の各々がキャリアを回動可能に支持する態様と同様に、車輪の上下動に伴うループ状スプリングの本体部の適切な弾性変形がある程度担保された態様となる。ループ状スプリングの本体部の適切な弾性変形をより阻害しないという観点からすれば、先の態様と組み合わせた態様で実施されることが望ましい。なお、例えば、キャリア支持点の変位を禁止する状態でキャリアを支持するには、ボールジョイント等を採用してキャリア支持部を構成すればよく、また、キャリア支持点の変位を許容する状態でキャリアを支持するには、ゴムブッシュ等の弾性体を有する軸受部品を採用してキャリア支持部を構成すればよい。ちなみに、本項の態様は、複数のキャリア支持部のうちの1つにおいて、キャリア支持点の変位が禁止されているため、その分、車輪の上下動に伴うキャリア自体の変位が抑えられることになり、適切なアライメント変化を実現させるという観点において、有効である。
【0032】
(9)前記ループ状スプリングの本体部を形成する前記長手部材が、周方向において、第1部位と第2部位とに区分けされており、
前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、(a)前記第1部位と(b)前記第1部位と前記第2部位との境界とのいずれかに設けられ、前記複数のキャリア支持部のうちの残りのものの各々が、(a)前記第1部位と(b)前記第1部位と第2部位との境界とを除く前記ループ状スプリングの部分に設けられた(2)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0033】
ループ状スプリングの本体部を構成する長手部材を、ループの周方向において2つの部位、つまり、2つの部分に分け、それら2つの部位の弾性変形に対する特性を相違させることによって、それら2つの部位の車輪の車体に対する上下動に伴う弾性変形の態様を異ならせることが可能である。そして、複数のキャリア支持部のうちの1つを、主に、それら2つの部位の一方の弾性反力に依拠してキャリアを支持するように構成し、複数のキャリア支持部の残りのうちの1以上を、主に、上記2つの部位の他方の弾性反力に依拠してキャリアを支持させるように構成することが可能である。このように複数のキャリア支持部を構成することで、車輪の上下動に対するアライメント変化を特徴的なものとすることができる。
【0034】
(10)前記第1部位と前記第2部位とが、断面形状において、互いに異なる(9)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0035】
本項の態様によれば、ループ状スプリングの本体部を構成する上記2つの部位の弾性変形に対する特性を、簡便な手法にて、異ならせることが可能である。例えば、2つの部位の断面形状を、上下左右のアスペクト比において互いに異なるような形状とすれば、同じ材質で2つの部位の弾性変形の態様を容易に異ならせることができる。簡単に言えば、例えば、上下の寸法を左右の寸法に比較して大きくすることで、上下方向の曲げ剛性を、左右方向の曲げ剛性より高くすることが可能である。
【0036】
(11)前記第1部位の車幅方向における曲げ剛性が、前記第2部位の車幅方向における曲げ剛性と比較して高い(9)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0037】
ループ状スプリングの本体部を構成する上記2つの部位を、車幅方向における曲げ剛性において異ならせれば、本体部の弾性変形に伴う複数のキャリア支持部の各々の車幅方向の変位の程度を、互いに異ならせることが可能である。本項の態様によれば、第1部位若しくは第1部位と第2部位との境界に設けられた特定のキャリア支持部の車幅方向の変位を小さくでき、主に、その特定キャリア支持部以外の1以上のものの車幅方向の変位に依存した車輪のアライメント変化が実現される。つまり、車輪の揺動軌跡を、主に、特定のキャリア支持部の上下動に依存させつつ、特定キャリア支持部以外の1以上のキャリア支持部の変位に依存して車輪のアライメントを変化させることが可能となる。言い換えれば、本体部の第1部位が、あたかもサスペンションリンクの構成要素である主サスペンションアームのように機能するように、本項のサスペンション装置を構成することができるのである。なお、車幅方向の曲げ剛性に加え、車幅方向に直角な面に沿った方向の曲げ構成をも高くすることができる。その場合には、第1部位は、主サスペンションアームとしての機能をより高めることになる。また、その場合においては、サスペンションスプリングの役割を、主として第2部位が担うことになる。
【0038】
(12)前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、前記第1被取付部と前記第2被取付部との一方に設けられた被取付部配設キャリア支持部とされた(2)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0039】
本項の態様によれば、車輪に横力が作用した場合において、その横力の一部を2つの被取付部の一方で受けるため、本項の態様は、サスペンション装置の横力に対する剛性を高めるのに有効である。また、車両の加減速等に起因して車輪に前後方向の外力、つまり、前後力が作用する場合に、その前後力の少なくとも一部を2つの被取付部の一方で受けるため、その前後力に対するサスペンション装置の剛性を高めるためにも有効である。
【0040】
また、ループ状スプリングの本体部を、車幅方向における曲げ剛性において異なる第1部位,第2部位に区分し、第1部位の車幅方向における曲げ剛性を高くし、かつ、複数のキャリア支持部のうちの特定の1つを、第1部位若しくは第1部位と第2部位との境界に設けた態様において、複数のキャリア支持部のうちの別の1つを、その第1部位が設けられる2つの被取付部の一方に設けるように構成することが可能である。そのような構成とすれば、ループ状スプリングの揺動に伴うそれら2つのキャリア支持部の車幅方向の変位を小さくすることができ、上記特定のキャリア支持部の上下動に依存した車輪の揺動軌跡を実現させることに対して有効である。
【0041】
(13)前記複数のキャリア支持部の各々によって支持される前記キャリアの部分の中心点を、キャリア支持点と定義した場合において、
当該車両用サスペンション装置が配備された車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態において、前記被取付部配設キャリア支持部が設けられた前記第1被取付部と第2被取付部との一方と、前記被取付部配設キャリア支持部についての支持点と、車輪軸線とが、水平面に平行に並ぶ(12)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0042】
本項の態様によれば、例えば、車両が平坦な路面を直進している状態において、上記前後力を、殆ど、一方の被取付部で受けることができ、また、その際に、前後力に起因してその一方の被取付部を回転させる力が、殆ど発生しないことから、車両の加減速時における車輪のアライメント変化を可及的に小さくすることが可能である。つまり、本項の態様によれば、前後力に対する剛性の極めて高いサスペンション装置が実現される。
【0043】
(14)車輪軸線方向に見た場合において、前記キャリアが、前記ループ状スプリングのループの内側に配設されている(1)項ないし(13)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0044】
(15)車輪軸線方向に見た場合において、前記ループ状スプリングのループの中心と車輪軸線とが一致する位置に前記キャリアが配設された(1)項ないし(14)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0045】
上記2つの項に記載の態様は、キャリアとループ状スプリングとの位置関係に関する限定を加えた態様である。それら2つの態様は、ループ状スプリングをホイール本体のリム部内に収容することに対して有効な態様となる。
【0046】
(16)当該車両用サスペンション装置が、
車輪軸線方向に見た場合において、前記ループ状スプリングがホイール本体のリム部内に配置されるように構成された(1)項ないし(15)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0047】
本項の態様によれば、ループ状スプリングの殆どの部分をホイール本体のリム部内に収容させることができ、コンパクトなサスペンション装置を実現させることが可能である。
【0048】
(17)前記第1回転軸線と前記第2回転軸線とが交差している(1)項ないし(16)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0049】
本項の態様によれば、車輪の車体に対する上下動に伴って、ループ状スプリングの本体部を捩り変形させることができ、この捩り変形に依拠する弾性反力によって車体を懸架するサスペンション装置を、実現させることができる。
【0050】
(18)前記第1回転軸線と前記第2回転軸線とが一平面内に位置する(17)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0051】
本項の態様によれば、車輪の車体に対する上下動に伴うループ状スプリングの本体部の弾性変形を、主に、捩り変形に車幅方向の曲げ変形が伴った複合変形とすることが可能である。つまり、極端に言えば、当該サスペンション装置を、本体部の上記複合変形に依拠した弾性反力によって車体を懸架するように構成することができるのである。車輪と車体とのバウンド動作,リバウンド動作に伴って、上記複合変形の変形量が変化するように構成すれば、車輪軸線方向に見て、ループ状スプリングのループの形が殆ど崩れないようにすることができる。このことは、ループの形状を可及的に大きくしつつ、つまり、本体部の長さを可及的に長くしつつ、ループ状スプリングをホイール本体のリム部内に収容するのに有効である。
【0052】
(19)前記第1被取付部と前記第2被取付部とが、車輪軸線方向において互いに接近している(1)項ないし(18)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0053】
本項の態様によれば、ループ状スプリングの車輪軸線方向の寸法を小さくできることになる。したがって、本項の態様は、ループ状スプリングの殆ど全体をホイール本体のリム部内に収容するために有効である。
【0054】
(20)車輪軸線方向に見て、前記第1被取付部と前記第2被取付部とが互いに重なる(1)項ないし(19)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0055】
本項の態様によれば、概ね車体の1箇所において、ループ状スプリングを取り付けることができる。このことは、ループ状スプリングの車体への取り付けのための構造の簡素化に、寄与する。
【0056】
(21)前記第1回転軸線と前記第2回転軸線との一方が車輪軸線と平行である(1)項ないし(20)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0057】
本項の態様によれば、バウンド動作,リバウンド動作において、車輪を、車幅方向に直角な一平面、若しくは、その一平面に対してあまり傾いていない面に沿って揺動させることができる。本項の態様は、第1回転軸線と第2回転軸線との交差角が比較的小さい場合に、特に好適である。なお、ループ状スプリングの本体部を複数の部位に区分けして構成した場合、それら複数の部位のうち、車輪軸線と平行な回転軸線を有する第1被取付部と第2被取付部との一方が設けられる部位の車幅方向の曲げ剛性を高くすれば、第1回転軸線と第2回転軸線とが平行でない場合であっても、車輪を、車輪軸線に略直角な一平面に沿って揺動させることが可能となる。
【0058】
(22)当該車両用サスペンション装置が配備された車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態において、前記第1被取付部と前記第2被取付部との少なくとも一方と、車輪軸線とが、水平面に平行に並ぶ(1)項ないし(21)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0059】
本項の態様は、第1被取付部と第2被取付部とが上下方向において比較的近い位置に位置するように構成されたサスペンション装置において、特に、有効である。そのような構成のサスペンション装置において、その本項の態様を採用すれば、車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態、つまり、いわゆる中立状態において、車輪の揺動中心と車輪軸線とを、概ね水平面に沿って並ばせることが可能である。したがって、本項の態様によれば、中立状態からのバウンド動作における特性とリバウンド動作における特性との差を、比較的小さくすることができる。
【0060】
(23)前記第1被取付部および前記第2被取付部が、車輪軸線よりも車両前方側の位置において車体に取付られる(1)項ないし(22)項のいずれか1つに記載の両用サスペンション装置。
【0061】
本項の態様によれば、車輪の上下動に伴うループ状スプリングの揺動の中心を、車輪軸線より車両前方側に位置させることができるため、トレーリングアーム式のサスペンション装置に近い特性のサスペンション装置を実現することが可能となる。
【0062】
(24)当該車両用サスペンション装置が、
車体に固定され、(i)前記第1回転軸線を規定して前記第1被取付部を回転可能に支持する第1支持軸部と、(ii)前記第2回転軸線を規定して前記第2被取付部を回転可能に支持する第2支持軸部とが一体的に形成されてなるスプリング支持具を備え、
前記第1被取付部および前記第2被取付部がそのスプリング支持具を介して車体に取り付けられる(1)項ないし(23)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0063】
本項の態様によれば、車体の1箇所において、ループ状スプリングを取り付けることが可能となり、ループ状スプリングの車体への取り付けのための構造を簡素化することができ、また、その取付の精度を向上させることができる。本項の態様は、第1被取付部と第2被取付部とが車輪軸線方向に見て重なっている場合に、特に、好適である。詳しく言えば、2つの被取付部の交差角のバラツキは、サスペンション装置の特性に影響を与える。特に、ホイールレート(サスペンションレート)、つまり、車輪の上下方向の変位量(ストローク量)に対するループ状スプリングの弾性反力の変化量に大きな影響を与える。そのことに鑑みれば、2つの支持軸部が一体化されていることは、取付誤差に起因する2つの被取付部の交差角のバラツキを小さくすることができ、サスペンション装置の特性のバラツキを小さくすることに寄与する。
【0064】
(25)前記ループ状スプリングの本体部を形成する前記長手部材が、周方向において、複数の部位に区分けされている(1)項ないし(24)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0065】
先に説明したように、ループ状スプリングの本体部を構成する長手部材を、ループの周方向において複数の部位、つまり、複数の部分に分け、それら複数の部位の弾性変形に対する特性を相違させることによって、それら複数の部位の車輪の車体に対する上下動に伴う弾性変形の態様を異ならせることが可能である。そして、複数のキャリア支持部と複数の部位との位置関係に依存して、車輪の上下動に対するアライメント変化の特性を種々に変更することが可能である。つまり、本項の態様によれば、上記位置関係を任意に選択することで、所望の特性を有する車輪のアライメント変化を、容易に実現させることができるのである。
【0066】
(26)前記複数の部位が、断面形状において、互いに異なる(25)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0067】
本項の態様によれば、ループ状スプリングの本体部を構成する複数の部位の弾性変形に対する特性を、簡便な手法にて、異ならせることが可能である。例えば、複数の部位の断面形状を、上下左右のアスペクト比において互いに異なるような形状とすれば、同じ材質で複数の部位の弾性変形の態様を容易に異ならせることができる。簡単に言えば、例えば、上下の寸法を左右の寸法に比較して大きくすることで、上下方向の曲げ剛性を、左右方向の曲げ剛性より高くすることが可能である。
【0068】
(27)前記複数の部位が、車幅方向における曲げ剛性において、互いに異なる(25)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0069】
ループ状スプリングの本体部を構成する上記複数の部位を、車幅方向における曲げ剛性において異ならせれば、本体部の弾性変形に伴う複数のキャリア支持部の各々の車幅方向の変位の程度を、互いに異ならせることが可能である。本項の態様によれば、簡便な手段にて、所望の特性を有する車輪のアライメント変化を実現させることができる。なお、本項の態様は、複数の部位が、車幅方向の曲げ剛性に加え、車幅方向に直角な平面に沿った方向の曲げ剛性において異なるようにされていてもよい。
【0070】
(28)前記キャリアが、車輪を駆動するモータを支持する構造とされた(1)項ないし(27)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0071】
(29)前記キャリアが、前記モータを、車輪軸線方向に見て前記ループ状スプリングのループの内側に配設されるように支持する(28)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0072】
上記2つの項の態様は、車輪を駆動するモータをも当該サスペンション装置内に配設させた態様である。前者の態様によれば、駆動モータをキャリアに支持させることにより、車輪駆動系統の構造の簡素化が可能となる。また、後者の態様によれば、ループ状スプリングのループの内側、つまり、いわゆるデッドスペースに駆動モータを配設することで、コンパクトな車輪駆動系が実現されることになる。なお、ループ状スプリングの殆どがホイール本体のリム部内に収容される場合には、モータの少なくとも一部をもリム部内に収容することができるため、そのモータは、いわゆるインホイールモータ、あるいは、インホイールモータに近い格好のモータとなる。
【0073】
(30)当該車両用サスペンション装置が、
前記第1被取付部と前記第2被取付部との一方の回転動作に対する抵抗力を発生させるダンパを備えた(1)項ないし(29)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0074】
本項の態様は、サスペンション装置の重要な構成要素であるダンパに対する限定を加えた態様である。このダンパは、ショックアブソーバと呼ばれる場合もある。本項の態様におけるダンパは、2つの被取付部の一方の回転動作に対する抵抗を与えるダンパであり、いわゆるロータリダンパと呼ぶことのできるダンパである。一般の車両において採用されるシリンダロッド型のダンパ、つまり、シリンダロッド型のショックアブソーバを採用する態様と異なり、本項の態様によれば、コンパクトなサスペンション装置が実現されることになる。
【0075】
なお、本項の態様において、ダンパの具体的構造は、特に限定されない。例えば、上記2つの被取付部の一方の回転に応じて相対的に内容積が変化する複数の作動液室有し、それら複数の作動液室間の作動液の流れに対して抵抗を与えるように構成されたダンパ、いわゆる液圧式のベーン型ダンパを採用することができる。また、例えば、上記2つの被取付部の一方の回転に応じて流体中を移動する移動体を設け、その流体の粘性に依拠してその移動体の移動に対する抵抗を付与する構造のダンパ、いわゆる流体式のビスコシティ型のダンパを採用することができる。
【0076】
(31)当該車両用サスペンション装置が、
車体と車輪との上下方向の相対動作に伴う前記キャリアの姿勢変化によって、車輪のトー角が変化するように構成された(1)項ないし(30)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置
【0077】
(32)当該車両用サスペンション装置が、
前輪用のものであり、かつ、
車輪のトー角が、車体と車輪とのバウンド動作に伴ってトーアウト傾向が強まる向きに変化し、車体と車輪とのリバウンド動作に伴ってトーイン傾向が強まる向きに変化するように構成された(31)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0078】
(33)当該車両用サスペンション装置が、
後輪用のものであり、かつ、
車輪のトー角が、車体と車輪とのバウンド動作に伴ってトーイン傾向が強まる向きに変化し、車体と車輪とのリバウンド動作に伴って車輪がトーアウト傾向が強まる向きに変化するように構成された(31)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0079】
上記3つの項は、車輪の車体に対する上下動に伴って、車輪のアライメント変化として、車輪のトー角が変化することを特徴とする態様である。後者の2つの態様は、トー角変化の向きに対する限定を加えた態様である。車両の旋回に伴って車体はロールし、旋回外輪側においては車輪と車体とはバウンド動作し、旋回内輪側においては、車輪と車体とはリバウンド動作する。したがって、それら2つの態様によれば、アンダーステア傾向の車両旋回特性を有する車両が実現することになる。
【0080】
(34)当該車両用サスペンション装置が、
車体と車輪との上下方向の相対動作に伴う前記キャリアの姿勢変化によって、車輪のキャンバ角が変化するように構成された(1)項ないし(33)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0081】
(35)当該車両用サスペンション装置が、
前輪用のものであり、かつ、
車輪のキャンバ角が、車体と車輪とのバウンド動作に伴ってポジティブキャンバ傾向が強まる向きに変化し、車体と車輪とのリバウンド動作に伴ってネガティブキャンバ傾向が強まる向きに変化するように構成された(34)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0082】
(36)当該車両用サスペンション装置が、
後輪用のものであり、かつ、
車輪のキャンバ角が、車体と車輪とのバウンド動作に伴ってネガテイブキャンバ傾向が強まる向きに変化し、車体と車輪とのリバウンド動作に伴ってポジティブキャンバ傾向が強まる向きに変化するように構成された(34)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0083】
上記3つの項は、車輪の車体に対する上下動に伴って、車輪のアライメント変化として、車輪のキャンバ角が変化することを特徴とする態様である。後者の2つの態様は、キャンバ角変化の向きに対する限定を加えた態様である。車両の旋回に伴って車体はロールし、旋回外輪側においては車輪と車体とはバウンド動作し、旋回内輪側においては、車輪と車体とはリバウンド動作する。したがって、それら2つの態様によれば、アンダーステア傾向の車両旋回特性を有する車両が実現することなる。ただし、アンダーステア傾向の車両旋回特性を実現させる場合において、トー角、キャンバ角は、車両に応じて適切に変化することが望まれる。具体的には、それらの変化量の絶対値が大き過ぎないようにすることが望ましく、それらの変化が急激でないことが望ましい。
【0084】
なお、「ポジティブキャンバ」とは、車輪の上部が下部に比較して車両外側に位置する状態を意味し、「ネガティブキャンバ」とは、車輪の上部が下部に比較して車両内側に位置する状態を意味する。また、「キャンバ角が、ポジティブキャンバ傾向が強まる向きに変化する」とは、ポジティブキャンバとなっている場合のキャンバ角がより大きくなることと、ネガティブキャンバとなっている場合のキャンバ角がより小さくなることとの両者を意味する。同様に、「キャンバ角が、ネガティブキャンバ傾向が強まる向きに変化する」とは、ネガティブキャンバとなっている場合のキャンバ角がより大きくなることと、ポジティブキャンバとなっている場合のキャンバ角がより小さくなることとの両者を意味する。さらに、トー角について言えば、キャンバ角の場合と同様、「トー角が、トーイン傾向が強まる向きに変化する」とは、トーインとなっている場合のトー角がより大きくなることと、トーアウトとなっている場合のトー角がより小さくなることとの両者を意味し、「トー角が、トーアウト傾向が強まる向きに変化する」とは、トーアウトとなっている場合のトー角がより大きくなることと、トーインとなっている場合のトー角がより小さくなることとの両者を意味する。
【0085】
なお、上記3つの項の態様は、さらに前の3つの態様と組み合わせることが可能である。すなわち、ループ状スプリングを備えたサスペンション装置を、車輪の車体に対する上下動に伴って、トー角とキャンバ角とが同時に変化するように構成することも可能なのである。
【0086】
(37)当該車両用サスペンション装置が、
横力が車輪に作用した場合に、その横力の大きさに応じて前記ループ状サスペンションスプリングの本体部が弾性変形し、その弾性変形による反力によって、車輪と車体とが上下方向に相対変位するように構成された(1)項ないし(36)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0087】
本項の態様は、車輪に対して外部から車幅方向の力、つまり、横力が働いた場合において、車輪が車体に対して上下動することを特徴とする態様である。先に説明したように、ループ状スプリングを備えたサスペンション装置においては、車輪の上下動に対し、車輪をアライメント変化させることができる。簡単に言えば、本項の態様は、そのアライメント変化現象を逆に利用した態様である。例えば、車両旋回中等において、車輪には横力が作用する。この横力の作用による車輪のアライメント変化によって、ループ状スプリングの本体部は、自身の弾性変形量を変化させる。この弾性変形量の変化によりループ状スプリングの弾性反力は変化し、その変化に起因して、車輪と車体とがバウンド動作若しくはリバウンド動作させられるのである。
【0088】
(38)当該車両用サスペンション装置が、
外向きの横力が車輪に作用した場合に、車輪と車体とがバウンド動作し、内向きの横力が車輪に作用した場合に、車輪と車体とがリバウンド動作するように構成された(37)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0089】
本項の態様は、さらに、横力の向きに対する車輪と車体との相対動作の向きについて限定を加えた態様である。外向きの横力とは、車幅方向において車輪を車体から離そうとする向きの力であり、例えば、車両旋回中において旋回内輪に作用する外力である。逆に、内向きの横力とは、車幅方向において車輪を車体に近づけようとする向きの力であり、例えば、車両旋回中において旋回外輪に作用する外力である。本項の態様によれば、車両旋回中において、旋回内輪側においてはバウンド動作させる向きの力が作用し、旋回外輪側においては、リバウンド動作させる向きの力が作用する。それによって、車両旋回に起因する車体のロールが抑制されることになるのである。すなわち、本項の態様のサスペンション装置を左右の側の各々に装備させれば、左右の車輪の各々に対して配備された1対のループ状スプリングがあたかもスタビライザ(トーションバーとも呼ばれる)と同様の機能を発揮することになるのである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】請求可能発明の実施例であるループ状スプリングを備えたサスペンション装置の斜視図である。
【図2】実施例のサスペンション装置の別の視点からの斜視図である。
【図3】モータおよびブレーキ装置を外した実施例のサスペンション装置の平面図である。
【図4】モータおよびブレーキ装置を外した実施例のサスペンション装置の正面図である。
【図5】モータおよびブレーキ装置を外した実施例のサスペンション装置の背面図である。
【図6】モータおよびブレーキ装置を外した実施例のサスペンション装置の側面図である。
【図7】実施例のサスペンション装置を構成するループ状スプリングの正面図である。
【図8】図4におけるA−A断面を示す図である。
【図9】図3におけるB−B断面を示す図である。
【図10】図3におけるC−C断面を示すである。
【図11】実施例のサスペンション装置に車輪を装着した状態を示す斜視図である。
【図12】実施例のサスペンション装置において、車輪の上下動に伴うループ状スプリングの揺動の様子を示す図である。
【図13】ループ状スプリングを備えた比較例のサスペンション装置を示す斜視図である。
【図14】横力,前後力の影響を説明するための実施例のサスペンション装置の斜視図である。
【図15】ループ状スプリングの揺動に伴う車輪のアライメント変化を説明するためのサスペンション装置のモデルを示す図である。
【図16】サスペンション装置モデルにおいて、ループ状スプリングの各箇所の車幅方向における変位量の変化を示すグラフである。
【図17】サスペンション装置モデルにおいて、車輪のアライメント変化に関する特性の一例を示すグラフである。
【図18】サスペンション装置モデルにおいて、ループ状スプリングの諸元を変更した場合のホイールレートの変化を示すグラフである。
【図19】スタビライザ効果を有するサスペンション装置において、車輪に横力が作用した場合のループ状スプリングの弾性反力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0091】
以下、請求可能発明を実施するための形態として、請求可能発明の実施例であるサスペンション装置およびそれの変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例】
【0092】
≪サスペンション装置の構造≫
図1,図2に、実施例のサスペンション装置であるサスペンション装置2の斜視図を示す。サスペンション装置2は、右後輪に対して設けられており、ループ状スプリング10を主体的な構成要素ととして備えている。本サスペンション装置2は、そのループ状スプリング10の他、車輪を回転可能に保持するためのキャリア12,そのキャリア12をループ状スプリングによって支持させるための3つのキャリア支持部である第1キャリア支持部14,第2キャリア支持部16,第3キャリア支持部18を含んで構成されている。ループ状スプリング10は、スプリング支持具20を介して、車体のサイドメンバー22に取り付けられる。
【0093】
キャリア12には、ホイール本体が取り付けられるアクスルハブ24が回転可能に保持されている。また、キャリア12には、車輪を駆動するためのモータ26,モータ26の回転を減速してアクスルハブ24に伝えるための減速機28,キャリパ30およびブレーキシリンダ32を含んで構成されるブレーキ装置34が、それぞれ、支持されている。それらモータ26,減速機28,ブレーキ装置34を外した状態のサスペンション装置2の平面図,正面図,背面図,側面図を、それぞれ、図3〜図6に示す。それら図1〜図6を参照しつつ、以下に、サスペンション装置2の構造を詳しく説明する。なお、図1〜図6は、車両に配備されかつ車輪が取り付けられたと仮定した状態でのサスペンション装置2を示しており、詳しくは、その車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態、つまり、車輪と車体とがバウンド動作の方向にもリバウンド動作の方向にも相対変位していない状態(以下、「中立状態」という場合がある)でのサスペンション装置2を示している。
【0094】
ループ状スプリング10は、長手部材をループ状に形成してなる本体部40と、本体部40の一端に固定的に設けられて車体に取り付けられる第1被取付部42と、本体部40の他端に固定的に設けられて車体に取り付けられる第2被取付部44とを含んで構成される。図3〜図6に示すように、キャリア12に保持された車輪の回転軸線を、車輪軸線Oと呼べば、ループ状スプリング10の本体部40は、車輪軸線方向に見た場合において、つまり、車両側面視において、略円環状をなしており、ループ状スプリング10のループ形状も、同様に、略円環状となっている。ちなみに、中立状態においては、第1被取付部42,第2被取付部44は、ループ状スプリング10の最も車両前方側の部分に位置している。
【0095】
図7に、ループ状スプリング10の正面図を示す。この図をも参照して説明すれば、本体部40は、2つの部位である第1部位46,第2部位48に区分けされている。第1部位46は、車両前方寄りの下方に位置して、ループ状スプリング10のループの約1/4の長さにわたる領域を占め、第2部位48は、第1部位46の占める領域以外の領域、つまり、ループ状スプリングのループの約3/4の長さにわたる領域を占めている。
【0096】
第1部位46は、円弧状に成形されて上方に開口するチャンネル部材50(図では、形状の詳細を省略している)によって構成され、第2部位48は、円弧状に成形された丸パイプ部材52によって構成されている。つまり、第1部位46と第2部位48とは、断面形状において異なっている。チャンネル部材50,丸パイプ部材52は、それぞれ、一端に、断面が概してL字形をなす連結具54,56が固定的に付設されており、チャンネル部材50,丸パイプ部材52は、それら連結具54,56が4つのボルト・ナット対58によって締結されることで、互いに連結されている。第1被取付部42,第2被取付部44は、それぞれ、チャンネル部材50,丸パイプ部材52の他端部に設けられている。
【0097】
なお、サスペンション装置2において、チャンネル部材50は、板厚約3mm,ウェブ幅約50mm,フランジ幅約25mmの寸法を有する鋼製の部材であり、丸パイプ部材52は、肉厚約2mm,外径40mmφの鋼製の部材である。ループの直径、詳しくは、本体部40の中立軸の直径は、約400mmφである。なお、ここで、中立軸は、長手部材が曲げ変形,捩り変形させられた状態においても応力が発生しない部分を繋いだ線と考えることができる。サスペンション装置2では、本体部40の全体にわたる中立軸も、車輪軸線方向に見て、略円環状をなしている。
【0098】
第1被取付部42,第2被取付部44は、それぞれ、円筒部材60,62を主体として構成されている。それら円筒部材60,62が、それぞれ、本体部40の第1部位46を構成するチャンネル部材50の他端,第2部位48を構成する丸パイプ部材52の他端に、溶接によって接合されている。
【0099】
第1被取付部42,第2被取付部44は、スプリング支持具20によって支持される。詳しくは、スプリング支持具20は、車体に固定されるベースプレート64と、そのベースプレート64に立設された軸体66とを有しており、第1被取付部42,第2被取付部44は、この軸体66に回転可能に支持される。さらに詳しく説明すれば、図8に示すように、軸体66は、ベースプレート64に近い位置に位置する第1支持軸部68と、その第1支持軸部68の先端側において第1支持軸部68と一体的に形成された第2支持軸部70とを有しており、第1被取付部42の円筒部材60は、ころ軸受72,72を介して第1支持軸部68に回転可能に支持され、第2被取付部44の円筒部材62は、ころ軸受74,74を介して第2支持軸部70に回転可能に支持されているのである。
【0100】
第1支持軸部68の軸線、つまり、第1被取付部42の回転軸線である第1回転軸線R1と、第2支持軸部70の軸線、つまり、第2被取付部44の回転軸線である第2回転軸線R2は、水平面に平行な一平面内に位置しており、互いに交差している。ちなみに、それら回転軸線R1,R2の交差角は、約15゜となっており、第1回転軸線R1が、車輪軸線Oと平行となっている。さらに言えば、第1被取付部42,第2被取付部44は、車輪軸線方向において互いに接近して配置され、図3等から解るように、車輪軸線方向に見た場合において、互いに重なりあっている。なお、第1被取付部42,第2被取付部44は、それぞれ、第1回転軸線R1の延びる方向,第2回転軸線R2の延びる方向には、移動不能とされている。
【0101】
先に説明したように、サスペンション装置2では、キャリア12は、第1キャリア支持部14,第2キャリア支持部16,第3キャリア支持部18によって、ループ状スプリングに支持される。それらキャリア支持部14,16,18は、それぞれ、第1ブラケット80,第2ブラケット82,第3ブラケット84を主体として構成されている。それらブラケット80,82,84は、いずれも、基端部において、ループ状スプリング10に固定され、先端部において、キャリア12を支持する。また、それらブラケット80,82,84は、いずれも、車輪軸線方向に見て、先端部がループ状スプリング10のループの内側に位置している。
【0102】
第1キャリア支持部14は、ループ状スプリング10の第1部位46と第2部位48との境界に設けられている。第1キャリア支持部14を構成する第1ブラケット80は、段差形状に形成された単一の部材からなり、それの基端部は、チャンネル部材50,丸パイプ部材52にそれぞれ設けられた連結具54,56とともに4つのボルト・ナット対58によって締結されることで、ループ状スプリング10に固定される。第1ブラケット80の先端部には、ボールスタッド86が設けられている。キャリア12には、それの下部に、ボールスタッド86のボール部を保持するソケット88が設けられている。つまり、第1キャリア支持部14は、ボールジョイントを介して、キャリア12を支持しているのである。したがって、第1キャリア支持部14は、キャリア12を、自身に対する全方向の自由な回動を許容する状態で支持している。また、ここで、第1キャリア支持部14によって支持されるキャリア12の一部分の中心点を第1支持点SP1と定義すれば(図4参照)、第1キャリア支持部14は、キャリア12を、自身に対する第1支持点SP1の変位を禁止する状態で支持している。
【0103】
第2キャリア支持部16は、第1被取付部42に設けられており、被取付部配設キャリア支持部として機能する。第2キャリア支持部16を構成する第2ブラケット82は、2枚の板材から形成されており、それら2つの板材が、第1被取付部42を構成する円筒部材60に溶接にて接合されている。キャリア12にも被支持ブラケット90が形成されており、その被支持ブラケット90が、図9に示すように、ゴムブッシュ92を介して、第2ブラケット82の先端部に設けられた軸94に連結されている。つまり、第2キャリア支持部16は、ゴムブッシュ92を介してキャリア12を支持している。ちなみに、軸94は、概ね、車輪軸線Oと平行とされている。したがって、第2キャリア支持部16は、キャリア12を、車輪軸線Oに直角な平面に沿った自身に対する回動を許容する状態で支持している。また、ここで、第2キャリア支持部16によって支持されるキャリア12の一部分の中心点を第2支持点SP2と定義すれば(図4参照)、第2キャリア支持部16は、キャリア12を、自身に対する第2支持点SP2の変位を弾性的に許容する状態で支持している。
【0104】
第3キャリア支持部18は、ループ状スプリング10の第2部位48の周方向の中間部に設けられている。第3キャリア支持部18を構成する第3ブラケット84は、先端部において互いに結合された2枚の板材から形成されており、それら2つの板材の各々の基端部の間にループ状スプリング10の丸パイプ部材52を挟むようにして、その丸パイプ部材52に、4つのボルト96によって締結されている。キャリア12にも被支持ブラケット98が形成されており、図示を省略するが、第2キャリア支持部16と同様に、ゴムブッシュを介して、第3ブラケット84に連結されている。つまり、第3キャリア支持部18も、ゴムブッシュを介してキャリア12を支持している。ちなみに、第3ブラケット84の先端部に設けられてゴムブッシュに挿入する軸も、概ね、車輪軸線Oと平行とされている。したがって、第3キャリア支持部18は、キャリア12を、車輪軸線Oに直角な平面に沿った自身に対する回動を許容する状態で支持している。また、ここで、第3キャリア支持部18によって支持されるキャリア12の一部分の中心点を第3支持点SP3と定義すれば(図4参照)、第3キャリア支持部18は、キャリア12を、自身に対する第3支持点SP3の変位を弾性的に許容する状態で支持している。
【0105】
ここで、サスペンション装置2を車輪軸線方向に見た場合において、3つのキャリア支持部14,16,18の各々の、ループ状スプリングのループの中心を基準とした配設角度を、支持部配設角度と定義する。この支持部配設角度を用いて3つのキャリア支持部14,16,18の配設位置の関係を示せば、第1キャリア支持部14の支持部配設角度と第2キャリア支持部16の支持部配設角度との差は、約90゜であり、第2キャリア支持部16の支持部配設角度と第3キャリア支持部18の支持部配設角度の差、および、第3キャリア支持部18の支持部配設角度と第1キャリア支持部14の支持部配設角度の差は、ともに、約135゜となっている(図4参照)。つまり、3つのキャリア支持部14,16,18は、それらのうちのいずれの2つの支持部配設角度の差も90°以上となる位置に設けられている。
【0106】
サスペンション装置2では、3つのキャリア支持部14,16,18によって、ループ状スプリング10に支持されたキャリア12は、概ね、ループ状スプリング10のループの内側に配設される。また、キャリア12は、車輪軸線方向に見て、車輪軸線Oがループ状スプリング10のループの中心と一致する位置に配設されている。
【0107】
サスペンション装置2は、第1被取付部42とスプリング支持具20の軸体66の車体側の端部によって構成されるダンパ110をも有している。図10に示すように、第1被取付部42を構成する円筒部材60の車体側の端部内部には、円筒部材60の中心に向って突出する2枚のベーン112,112が形成されている。一方、軸体66の第1支持軸部68の車体側の端部には、径方向に突出する2枚のベーン114,114が形成されている。2枚のベーン112,112の突端は、第1支持軸部68の外周面に、パッキンを介して接しており、また、2枚のベーン114,114の突端は、円筒部材60の内周面に、パッキンを介して接している。つまり、円筒部材60の車体側の端部内部は、それらベーン112,112,114,114によって、4つの部屋に仕切られている。それら4つの部屋には、作動液が充満されており、それら4つの部屋の各々は、作動液室として機能する。また、2枚のベーン112,112の各々には、小孔116が設けられており、小孔116は、4つの作動液室のうちの隣り合う2つを、互いに連通するものとなっている。
【0108】
4つの作動液室の互いに軸体66を挟んで対向する位置にある2つを第1作動液室118,118と、残りの2つを第2作動液室120,120と呼べば、第1被取付部42が第1回転軸線R1まわりに回転すると、第1作動液室118,118と第2作動液室120,120との一方の容積が増大し、他方の容積が減少する。それに伴い、第1作動液室118,118と第2作動液室120,120との他方から、一方に、小孔116を通って、作動液が流入する。小孔116は、自身を通過する作動液の流れに対して抵抗を付与するようにされている。つまり、小孔116は、オリフィスとして機能する。この作動液の通過に対する抵抗により、第1被取付部42の回転動作に抵抗力が、言い換えれば、減衰力が与えられるのである。
【0109】
≪サスペンション装置の主たる機能≫
サスペンション装置2には、図11に示すように、車輪130が取り付けられる。車輪は130は、タイヤ132と、タイヤ132保持する概して有底円筒形状なすホイール本体134とから構成されている。車輪130は、ホイール本体134の底壁をなすディスク部が、アクスハブ24に締結されることで、キャリア12に回転可能に保持される。アクスルハブ24には、車輪130とともに、図示を省略するブレーキディスクが、ブレーキ装置34のキャリパ30によって挟まれる状態で締結される。
【0110】
タイヤ132が装着されるホイール本体134のリム部136の内周径は、約500mmφであり、車輪軸線方向に見て、ループ状スプリング10がホイール本体134のリム部136内に配置される。詳しく言えば、図11から解るように、ループ状スプリング10の殆どの部分が、リム部136内に収容される。ちなみに、図3〜図6における2点鎖線は、ホイール本体134のリム部136の内周面およびディスク部の内面を示している。なお、車輪130が取り付けられた状態では、キャリア12に支持されているモータ26も、リム部136に収容される格好となり、モータ126は、それをインホイールモータと呼ぶことのできるものとなっている。
【0111】
図12に示すように、車輪130が装着された状態で、車輪130が車体に対して上下動すると、つまり、車輪130と車体とがバウンド動作若しくはリバウンド動作すると、ループ状スプリング12は、スプリング支持具20を中心にして揺動しようとする。その際、第1被取付部42の回動軸線R1と第2被取付部44の回動軸線R2とが、異なっているために、ループ状スプリング12の本体部40は、揺動に伴って弾性変形する。この弾性変形に依拠して、本体部40は、弾性反力を発生させる。サスペンション装置2は、実際には、中立状態において、車体の分担荷重と釣り合う弾性反力が発生させられた状態に本体部40が弾性変形するように設計されており、図1〜図7は、本体部40が、既に、弾性変形させられた状態を示している。したがって、詳しく言えば、車輪130と車体とのバウンド動作,リバウンド動作に伴って、本体部40の弾性変形量が変化し、その弾性変形量の変化に依拠して弾性反力が変化することになる。このように、ループ状スプリング10は、サスペンションスプリングとして機能するのである。
【0112】
サスペンション装置2では、第1被取付部42と第2被取付部44とが、車輪軸線方向に見て、重なっており、かつ、車輪軸線方向において接近して配置されている。詳しく言えば、第1被取付部42の回動軸線R1と第2被取付部44の回動軸線R2とが水平面に平行な一平面内に位置し、かつ、それらは互いに交差している。そのため、ループ状スプリング10の揺動に伴う本体部40の弾性変形は、主に、捩り変形に車幅方向の曲げ変形を伴った複合変形となり、ループ状スプリング10は、主に、本体部40の上記複合変形に依拠した弾性反力を発生させることになる。つまり、ループ状スプリング10は、車輪軸線方向に見た場合において、本体部40が殆ど曲げ変形させられず、形状が殆ど崩れないようになっている。このことは、リム部136の内部にループ状スプリング10を配設する際に、そのループ状スプリング10のループ径を可及的に大きくすることに、つまり、本体部12の長さ(周長)を可及的に長くすることに寄与している。
【0113】
なお、バウンド動作,リバウンド動作に伴って、ループ状スプリング10は、略一定の軌跡を描いて揺動することになる。詳しく言えば、第1被取付部42の回動軸線R1が車輪軸線Oに平行であり、第2被取付部44の回動軸線R2は回転軸線R2に対して約15゜しか傾いていないため、ループ状スプリング10は、概ね、車輪軸線Oに直角な平面に対してあまり傾いていない一平面内において揺動し、キャリア12に保持された車輪130は、ループ状スプリング10の揺動軌跡に依存した軌跡を描いて揺動することになる。このように、ループ状スプリング10は、車輪130の揺動軌道を定める機能、つまり、サスペンションリンクとしての機能をも有することになる。ちなみに、スプリング支持具20が、つまり、第1被取付部42,第2被取付部44が、車輪軸線Oより車両前方側に位置していることから、サスペンション装置2は、トレーリングアーム式のサスペンション装置に近い特性を有するものとなっている。
【0114】
≪キャリアの支持に関するコンプライアンス≫
サスペンション装置2は、3つのキャリア支持部14,16,18によって、キャリア12が支持される。通常、特段の配慮をせずに、ループ状スプリングの複数の箇所にキャリア支持部を設けてキャリアを支持させた場合、複数の支持部とキャリアの剛性とによって、車輪の上下動に伴うループ状スプリングの本体部の適切な変形が阻害される結果となる。そのため、ループ状スプリングとキャリアとのコンプライアンスをある程度確保する必要がある。
【0115】
サスペンション装置2では、先に説明したように、ループ状スプリング10の揺動に伴う本体部40の弾性変形は、主に、捩り変形に車幅方向の曲げ変形を伴った複合変形となっている。これは、先に説明したように、第1被取付部42、第2被取付部44の配設位置関係を、上記のような関係としたことによるものである。2つの被取付部42,44の配設位置関係の適切化により、ループ状スプリング10は、車輪軸線方向に見た場合において、本体部40が殆ど曲げ変形させられず、形状が殆ど崩れないようにされているのである。その結果、車輪軸線方向に見て、3つのキャリア支持部14,16,18の相互位置関係は、余り変化しないことなる。これが、サスペンション装置2の1つの特徴である。
【0116】
上記特徴に依拠して、サスペンション装置2は、第1キャリア支持部14においては、ボールジョイントを介して、また、第2キャリア支持部16,第3キャリア支持部18においては、ゴムブッシュを介して、キャリア12を支持するように構成されている。つまり、単に、3つのキャリア支持部14,16,18において、少なくとも車輪軸線Oまわりのキャリア12の回動を許容し、2つのキャリア支持部16,18において、それぞれの支持点の変位を許容することで、キャリア12とループ状スプリング10との間に、充分なコンプライアンスが確保されているのである。
【0117】
なお、サスペンション装置2では、ループ状スプリング10の第1部位46は、第2部位48に比較して、車幅方向における曲げ剛性、および、車幅方向に直角な平面に沿った方向における曲げ剛性が高くされている。したがって、車体の分担荷重,車輪に作用する横力は、主として、第1キャリア支持部14によって受ける。そのことが、第1キャリア支持部14においてボールジョイントが採用されている理由である。一方、後に詳しく説明するが、車輪に作用する前後力は、主として、第2キャリア支持部16によって受ける。このことをも考慮して、キャリア12とループ状スプリング10との間に前後方向の適切なコンプライアンスを確保すべく、第2キャリア支持部16において、ゴムブッシュ92が採用されている。さらに、後に説明するように、スタビライザ効果,車輪のアライメント変化特性等は、主として、第3キャリア支持部18の構成,配設位置等に依存する。そのことをも考慮して、第3キャリア支持部18において、ゴムブッシュが採用されている。
【0118】
≪車輪に作用する横力,前後力による影響≫
車両の走行中、車輪には、車両の旋回等に起因して、車幅方向の力、すなわち、横力が作用する。また、車両の加減速等に起因して、車両前後方向の力、すなわち、前後力が作用する。これら横力,前後力の作用により、ループ状スプリングの本体部が変形して、車輪のアライメントが変化する。
【0119】
ここで、サスペンション装置2と比較するために、サスペンション装置2とは異なる構成を有するサスペンション装置であるサスペンション装置148について考える。図13に、サスペンション装置148を示す。サスペンション装置148は、長手部材をループ状に形成してなる本体部150と、その本体部150の両端に設けられた第1被取付部152,第2被取付部154とから構成されるループ状スプリング156を備えている。サスペンション装置148では、キャリア158が、本体部150の第1被取付部152,第2被取付部154から最も離れた部分に固定的に付設されている。キャリア158のループ状スプリング156のループの略中心に位置する部分において、アクスルハブ160が回転可能に保持されている。このサスペンション装置148では、本体部40の1つの箇所に設けられた単一のキャリア支持部によって、キャリア158が支持されていると考えることができる。
【0120】
上記サスペンション装置148では、図に示すように、車輪に横力FY,前後力FXが作用した場合、本体部150の1の箇所においてでしかキャリア158が支持されていないため、本体部150が容易に変形して、キャリア158が、車両の前後軸線,横軸線回りに容易に回動してしまうことになる。つまり、サスペンション装置148では、車輪のアライメントが、横力FY,前後力FXの作用による影響を受け易いという特性を有しているのである。言い換えれば、横力FY,前後力FXに対する剛性が比較的低くなっている。
【0121】
これに対し、図14に示すように、本実施例のサスペンション装置2では、3つのキャリア支持部14,16,18によってキャリア12が支持され、また、それら3つのキャリア支持部14,16,18が、支持部配設角度差において互いに90゜以上離れた箇所に配設されている。そのことによって、サスペンション装置2は、横力FY,前後力FXによっても、容易には、車両の前後軸線,横軸線回りにキャリア12が回動せず、車輪のアライメントが横力FY,前後力FXの作用による影響を受け難いという特性を有している。つまり、横力FY,前後力FXに対する剛性が比較的高くされているのである。
【0122】
さらに詳しく説明すれば、サスペンション装置2では、第2キャリア支持部16が第1被取付部42に設けられている。したがって、車輪に横力FYが作用した場合に、その横力の一部を、第1被取付部42が受ける格好となる。第1被取付部42は、剛体と考えることができ、第1被取付部42が受ける上記横力FYの一部は、ループ状スプリング10の本体部40の弾性変形をひき起こさないからである。このことは、横力FYに対する剛性を高めることに大きく寄与している。
【0123】
また、第2キャリア支持部16が第1被取付部42に設けられていることは、前後力FXに対する剛性を高めることにも寄与している。横力FYの場合と同様、前後力FXの一部を第1被取付部42が受けるからである。特に、サスペンション装置2では、中立状態において、車輪軸線Oと、第2キャリア支持部16についてのキャリア12の支持点である第2支持点SP2と、第1被取付部42とが水平面に平行に並んでいる(図4参照)。そのため、多くの場合に、前後力FXの殆どを、第1被取付部42が受けると考えることができ、前後力FXに対する剛性は相当に高くされているのである。
【0124】
≪車輪の上下動に伴うアライメント変化≫
車輪の上下動に伴って、ループ状スプリング10の本体部40は、上述のように、捩り変形、および、車幅方向に曲げ変形する。この車幅方向の曲げ変形は、ループ状スプリング10の各所の車幅方向の変位となって現れる。サスペンション装置2では、キャリア12は、3つのキャリア支持部14,16,18によって、ループ状スプリング10の複数の箇所において支持されている。したがって、3つのキャリア支持部14,16,18の各々が配設された箇所の車幅方向の変位どうしの差(相対変位差)に依存して、車幅方向に直角な平面に対して特定の向きおよび特定の角度で傾斜することになる。そして、車輪の上下動に伴って、3つのキャリア支持部14,16,18の各々が配設された箇所の上記相対変位差が変化することで、車幅方向に直角な平面に対しての傾斜方向および傾斜角度が変化することになる。つまり、サスペンション装置2では、車輪の上下動に伴って、車輪のトー角,キャンバ角等の車輪のアライメントが変化することになるのである。
【0125】
車輪のアライメント変化に関し、モデルとなるサスペンション装置(以下、「サスペンション装置モデル」という場合がある)について考察する。このサスペンション装置モデルでは、図15に示すような、単一の丸パイプ部材からなる本体部170を有するループ状スプリング172が採用されている。なお、このループ状スプリング172は、全体的には、上記ループ状スプリング10と同様の諸元(寸法、形状等を意味する概念である)を有している。このサスペンション装置モデルは、サスペンション装置2と同様、右後輪に対するモデルであり、このループ状スプリング172の第1被取付部174,第2被取付部174の位置関係(回転軸線の位置関係をも含む概念である)も、サスペンション装置2と同様である。ループ状スプリング172は、弾性変形させられていない状態で、揺動角θ=0゜の位置に位置し、そこから揺動角θが増大することで本体部170の弾性変形量が増大し、揺動角θ=45゜の位置で、中立状態になるものとする。そして、さらに揺動角が増大し、揺動角θ=90゜の位置まで至るものとする。つまり、揺動角θが0゜に近づく方向がリバウンド動作の方向であり、90゜に近づく方向が、バウンド動作の方向である。ちなみに、図の実線で表される状態である中立状態は、揺動角θが約45゜となる位置である。
【0126】
上述のようにループ状スプリング172の揺動角θが変化する状態において、その揺動角θの変化に対して、ループ状スプリング172の複数の特定箇所P90,P180,P270の各々の車幅方向の変位量は、図16のグラフに示すように変化する。特定箇所P90,P180,P270は、それぞれ、中立状態において車輪軸線方向に見て、車輪軸線Oを中心とした反時計まわりの角度で表される配設角Ψ=90゜,180゜,270゜となる位置である(図15参照)。ちなみに、配設角Ψ=0゜となる位置が、2つの被取付部174,176が存在する位置である。また、特定箇所P90,P180,P270のそれぞれにおける変位量は、揺動角θ=0゜の状態からの変位量であり、正の値は、車両外向きに、つまり、車体から離れる側に変位したことを示し、負の値は、車両内向きに、つまり、車体に近づく側に変位したことを意味する。
【0127】
図16のグラフから解るように、配設角Ψ=90゜となるP90では、揺動角の増加に伴って、徐々に車体に近づく側に変位する。配設角Ψ=180゜となるP180では、揺動角θの増加に伴って、一旦わずかに車体から離れる側に変位するがその後はP90よりも大きな勾配で車体に近づく側に変位する。配設角Ψ=270゜となるP270では、比較的大きな勾配で車体から離れる側に変位するが揺動角θ=50゜のあたりから、逆に、車体から離れる側に変位する。
【0128】
ループ状スプリング172の複数の箇所にキャリア支持部を設ける場合、それら複数の箇所の変位量の差によって、キャリアの車幅方向に直角な平面に対する傾斜方向,傾斜角度が定ることになる。そして、複数のキャリア支持部の各々が設けられる箇所を、ループ状スプリング172のループの周上において、任意に選択することで、ループ状スプリング172の揺動に対する車輪回転軸線Oの傾き方向および傾き量の変化を、つまり、車輪のアライメント変化を任意の態様で実現させることができる。より具体的に言えば、車輪のトー角の変化,車輪のキャンバ角の変化を任意の態様で実現させることができるのである。
【0129】
図17は、3つのキャリア支持部の各々をある特定の位置に配置した場合におけるトー角の変化、キャンバ角の変化を示すグラフである。このグラフの上下は、トー角,キャンバ角の傾向を示しており、変化を示す線が上方に位置する程、トーイン傾向が高く、ポジティブキャンバ傾向が高いすることを示し、逆に、下方に位置する程、トーアウト傾向が高く、ネガティブ傾向が高いことを示している。ちなみに、図17は、バウンド動作により、トー角がトーイン傾向が強まる向きに変化し、キャンバ角がネガティブキャンバ傾向が強まる向きに変化するような特性を示している。言い換えれば、リバウンド動作により、トー角がトーアウト傾向が強まる向きに変化し、キャンバ角がポジティブキャンバ傾向が強まる向きに変化することを示している。このように、3つのキャリア支持部の配設位置の適切な選択により、所望の変化特性となる車輪のアライメント変化を実現させることが可能なのである。
【0130】
なお、車両の旋回に伴って車体はロールし、旋回外輪側においては、車輪と車体とが中立状態からバウンド動作し、旋回内輪側においては、車輪と車体とが中立状態からリバウンド動作する。したがって、サスペンション装置が後輪に対して設けられるものである場合に、車輪のトー角とキャンバ角との少なくとも一方が図17に示す変化を呈するようにそのサスペンション装置を構成すれば、アンダーステア傾向の車両旋回特性を有する車両が実現することとなる。逆に、サスペンション装置が前輪に対して設けられるものである場合に、トー角とキャンバ角との少なくとも一方が特定の変化を呈するようにそのサスペンション装置を構成すれば、同様に、アンダーステア傾向の車両旋回特性を有する車両が実現することなる。つまり、前輪の場合、トー角について言えば、バウンド動作により、トーアウト傾向が強まる向きに変化し、リバウンド動作により、トーイン傾向が強まる向きに変化するように構成すればよく、また、キャンバ角について言えば、バウンド動作により、ポジティブキャンバ傾向が強まる向きに変化し、リバウンド動作により、ネガティブキャンバ傾向が強まる向きに変化するように構成すればよい。
【0131】
上記サスペンション装置モデルでは、説明を簡単にするため、専ら、車輪の上下動に伴なうループ状スプリング172の本体部170の車幅方向における曲げ変形に依存して、つまり、ループ状スプリング172の各箇所の車幅方向の変位に依存して、車輪がアライメント変化すると擬制した。しかし、車輪のアライメント変化は、車輪の上下動に伴なう本体部170の捩り変形にも依存する。詳しく言えば、各キャリア支持部の車幅方向に直角な面に対する傾斜角は、そのキャリア支持部が配設される箇所における本体部170の捩り方向,捩り変形量に応じて変化する。キャリア支持部の上記傾斜角の変化により、キャリア支持部によって支持されるキャリアの部分(支持点)は、車幅方向に変位することになる。一方、本体部170の捩り方向,捩り変形量は、ループ状スプリング172の各箇所によって異なる。したがって、複数のキャリア支持部の各々の配設位置の適切な選択により、本体部の捩り変形に依存することによっても、所望の変化特性となる車輪のアライメント変化を実現させることが可能である。なお、ループ状スプリング172の各箇所の車幅方向における変位方向,変位量と、各箇所の捩り方向,捩り変形量との両者を考慮して、複数のキャリア支持部の各々の配設位置を選択することが望ましい。
【0132】
上記実施例のサスペンション装置2において、車輪のアライメント変化が所望の特性となるようにするためには、原則的には、上記サスペンション装置モデルにおけるキャリア支持部の配設位置の選択手法に従って、3つのキャリア支持部14,16,18の配設位置を決定すればよい。ただし、サスペンション装置2では、ループ状スプリング10の本体部40は、2つの部位46,48に区分けされており、第1部位46,第2部位48は、前述のように、断面形状および車幅方向における曲げ剛性が互いに異なるものとなっている。詳しく説明すれば、第1部位46は、チャンネル部材50から、第2部位48は、丸パイプ部材52からなり、第1部位46の車幅方向における曲げ剛性は、第2部位46の車幅方向における曲げ剛性に比較して高くなっている。したがって、そのことにも考慮して、3つのキャリア支持部14,16,18の配設位置を決定することが望ましいのである。なお、3つのキャリア支持部14,16,18の配設位置の選択のみならず、回転軸線R1,R2の交差角p等の第1被取付部42,第2被取付部44の配置位置の関係、ループ状スプリング10の本体部40を構成する長手部材の断面形状、その長手部材の縦弾性係数,横弾性係数の絶対値およびそれらの比率、3つのキャリア支持部14,16,18をそれぞれ構成するブラケット80,82,84の寸法等をも任意に決定することで、車輪のアライメント変化が所望の特性となるようにすることができるのである。
【0133】
サスペンション装置2では、第1キャリア支持部14が、第1部位46と第2部位48との境界に配設されること、および、第2キャリア支持部16が、第1被取付部42に配設されることが前提となっている。第2キャリア支持部16は、ループ状スプリング10の揺動位置に拘わらず、車幅方向に変位しない。そして、第1部位46の車幅方向の曲げ剛性が高いことから、ループ状スプリング10の揺動に伴う第1キャリア支持部14の車幅方向の変位は、比較的小さい。しががって、第1キャリア支持部14は、概ね、車幅方向に直角な一平面内を揺動することなり、キャリア12も、その一平面に対してあまり傾斜しない軌跡を描いて揺動することになる。このことに考えれば、本体部40の第1部位46は、あたかも主たるサスペンションアームとして機能すると考えることができ、第2部位48は、あたかもマルチリンク型サスペンション装置におけるトーコントロールアーム、つまり、車輪のトー角とキャンバ角との少なくとも一方を変化させるためのサスペンションアームとして機能すると考えることができるのである。
【0134】
上記のことに鑑みれば、サスペンション装置2は、主に、本体部40の第2部位48の両端部の間に配設された第3キャリア支持部18の位置の調整によって、中立状態における車輪のトー角,キャンバ角や、車輪のアライメント変化の特性を調整可能となっている。そして、サスペンション装置2では、第3キャリア支持部18の配設位置の調整を可能とすべく、第3キャリア支持部18を構成する第3ブラケット84が、4つのボルト96によって締結されることで、第2部位48に固定されるようになっている。4つのボルト96による締結を緩めることで、第3ブラケット84の配設位置、すなわち、上記支持部配設角度が、容易に調節可能とされている。サスペンション装置2では、3つのキャリア支持部14,16,18のうちの1つだけの調節により、簡便に、中立状態における車輪のトー角,キャンバ角や、車輪のアライメント変化の特性を調整することができるのである。
【0135】
≪ループ状スプリングの諸元の変更による特性差≫
ループ状スプリングの諸元、つまり、寸法,形状,使用部材等を変更するとで、サスペンション装置の特性を変更することができる。サスペンション装置の代表的な特性として、ホイールレート(サスペンションレート)を挙げることができる。このホイールレートは、例えば、ループ状スプリングの揺動角に対する弾性反力の上下方向成分のレート、つまり、ばね定数の一種と考えることができるものである。上記サスペンション装置モデルにおいて、ループ状スプリング172の諸元を変更してホイールレートがどう変化するかについて考察した結果を以下に示す。
【0136】
図15に示すループ状スプリング172を、ノミナル諸元(基準諸元)を有するループ状スプリング172、つまり、基準スプリングとして設定する。まず、この基準スプリングに対して、(A)本体部170の断面形状、すなわち、外径,板厚を変更したケース、(B)第1被取付部174の回転軸線と第2被取付部176の回転軸線との交差角pを変更したケース、(C)ループ状スプリング172の中立軸の半径rを変更したケースを、それぞれ、いくつか想定した。そして、各ケースにおいて、ループ状スプリング172のホイールレートを算出し、それを基準スプリングのホイールレートと比較した。基準スプリングのホイールレートに対する各ケースのループ状スプリング172のホールレートの比率を、図18に示す。ちなみに、図18のグラフにおいて、ケース1〜4は、(A)本体部170の断面形状を変更したケースであり、ケース5〜8は、交差角pを変更したケースであり、ケース9〜12は、(C)中立軸の半径rを変更したケースである。
【0137】
図18から解るように、ループ状スプリング172の本体部170の断面形状における外径を大きくし、板厚を厚くするのに応じてホイールレートが高くなり、その外径を小さくし板厚を薄くするのに応じて、ホイールレートが低くなる。また、2つの被取付部174,176の回転軸線の交差角pを大きくするにつれて、ホイールレートが高くなり、小さくするにつれて、ホイールレートが低くなる。さらに、ループ状スプリング172の中立軸半径rを大きくするにつれてホイールレートが低くなり、小さくするにつれて、ホイールレートが高くなる。また、図18のグラフから、ループ状スプリングの断面形状,中立軸半径rの変更よりも、回転軸線の交差角pの変更の方が、ループ状スプリング172のホイールレートの変更に対して有効であることが解る。言い換えれば、ホイールレートの変化は、2つの被取付部174,176の回転軸線の交差角pに対して感度が高いものとなっている。
【0138】
上記のことに鑑み、実施例のサスペンション装置2は、図8に示すような単一のスプリング支持具20によって、ループ状スプリング10を支持するように構成されている。詳しく言えば、スプリング支持具20が有する軸体66では、第1被取付部42を回転可能に支持する第1支持軸部68と、第2被取付部44を回転可能に支持する第2支持軸部70とが一体的に形成されている。2つの支持軸部68,70を一体的に形成することによって、2つの被取付部174,176の回転軸線の交差角pのバラツキを小さくすることができる。その結果、サスペンション装置の特性が所望の特定から大きく外れることを回避でき、また、車両ごとのサスペンション装置の特性についてのバラツキを小さくすることが可能である。第1支持軸部68と第2支持軸部70とが一体的に形成された軸体66を製作するには、例えば、機械加工等によって、単一の素材から軸体66を成形するようにすればよい。
【0139】
≪スタビライザ効果≫
サスペンション装置モデルに関して先に説明したように、ループ状スプリングの揺動角θの変化に応じて、ループ状スプリングの本体部は弾性変形し、その弾性変形に応じて、ループ状スプリングの弾性反力が変化し、車輪のアライメントは変化する。このことは、逆に言えば、自身のアライメントを変化させるような外力が車輪に作用した場合、その外力に応じて本体部の弾性変形量が変化することを意味する。ループ状スプリングの弾性反力は、車体の荷重を分担する成分、つまり、上下方向の成分と、車輪のアライメント変化に対抗する成分とに分けることができる。後者は、アライメント変化を生じさせる外力に対抗する成分と考えることができる。このように、本体部の弾性反力を2つの成分に分けた場合、変形の主体となる本体部が単一のものであることから、2つの成分の一方が他方に影響を与える。つまり、車輪に横力等が作用して、車輪のアライメント変化に対抗する成分が変化する場合、弾性反力の上下方向成分も変化することになる。この現象を利用することで、車輪に横力が作用した場合に、車体と車輪とがバウンド動作若しくはリバウンド動作するように、ループ状スプリングの弾性反力を変化させることができるのである。
【0140】
より具体的に言えば、車輪に対して、車幅方向において車輪を車体から離そうとする向きの力(外向きの横力)が作用した場合に、ループ状スプリングの弾性反力の上下方向の成分が減少し、逆に、車幅方向において車輪を車体に近づけようとする向きの力(内向きの横力)が作用した場合に、その弾性反力の上下方向の成分が増加するようなサスペンション装置を実現させることができる。つまり、ある特定の構成を有するサスペンション装置によれば、車輪に対する外向きの横力に応じて車体と車輪とをバウンド動作させ、内向きの横力に応じて車体と車輪とをリバウンド動作させることが可能となるのである。このサスペンション装置のループ状スプリングの弾性反力の上下方向成分を、図19のグラフに示す。このグラフでは、ある大きさの横力が作用した場合における弾性反力の上下方向成分のシフトを示しているが、このシフトの量は、作用する横力に基づき、その横力が大きくなる程大きくなる。
【0141】
車両旋回時には、車体に作用する遠心力に起因して、車体がロールする。具体的に言えば、遠心力に起因したロールモーメントが車体に作用し、左右の車輪の車重分担割合が、旋回内輪側の分担荷重が小さく旋回外輪側の分担荷重が大きくなるように変化する。このことによって、旋回内輪側において車輪と車体とが中立状態からリバウンド動作し、旋回外輪側において車輪と車体とが中立状態からバウンド動作し、その結果として、車体がロールするのである。一方、車両の旋回に起因して、車輪には横力が加わる。この横力は、旋回内輪に対しては外向きの力となり、旋回外輪に対しては内向きの力となる。したがって、上記特定の構成を有するサスペンション装置によれば、旋回内輪側のループ状スプリングの弾性反力の上下方向の成分を減少させ、旋回外輪側のループ状スプリングの弾性反力の上下方向の成分を増加させることができるため、上記ロールモーメントに起因する旋回内輪側のリバウンド動作,旋回外輪側のバウンド動作を抑制することが可能となる。つまり、車両にあたかもスタビライザが搭載されたのと同等の効果が得られることになる。この効果をスタビライザ効果と呼べば、スタビライザなしで、スタビライザ効果が得られることになる。
【0142】
ちなみに、スタビライザは、一般的に、トーションバーを主体として構成されている。このトーションバーは、左右の車輪を連結し、左右の車輪の上下動作の差によって捩られ、その捩りに依拠した大きさのロール抑制力を発生させる。このようなスタビライザを車両に搭載する場合、トーションバーを車体に保持させる必要から、サスペンションシステムの車体への組付作業において、車体を比較的高い位置に持ち上げる必要がある。ところが、上記特定の構成を有するサスペンション装置を採用すれば、スタビライザなしで、スタビライザ効果が得られることから、サスペンションシステムの組付作業が簡便に行えることになる。
【0143】
上記実施例のサスペンション装置2も、上記スタビライザ効果が得られるように構成することが可能である。ループ状スプリング10の本体部40の弾性変形は、捩り変形と、曲げ変形とに大別することができ、スタビライザ効果は、その捩り変形への依存度が高い。したがって、横力が作用した場合に、捩り変形が生じるように、サスペンション装置2を構成すればよい。しかし、サスペンション装置2では、先に説明したように、第2キャリア支持部16が、第1被取付部42に付設されており、第1キャリア支持部14が、第1部位46と第2部位48との境界に設けられている。したがって、車輪に横力が作用した場合であっても、第1キャリア支持部14,第2キャリア支持部16の変位に依拠する本体部40の捩り変形は、大きくは期待できない。そこで、サスペンション装置2では、車輪に横力が作用した場合に、主に、第3キャリア支持部18の傾動による本体部40の捩り変形に依存して、スタビライザ効果を発揮させることになる。具体的には、第3キャリア支持部18の配設位置、第3支持点SP3の位置等を調整することによって、所望のスタビライザ効果を得ることが可能である。なお、第3キャリア支持部18を構成する第3ブラケット84の長さは、スタビライザ効果の大きさを左右する要因となる。つまり、第3ブラケット84の長さを長くして、第3支持点SP3と本体部40の中立軸との距離を大きくとれば、車輪に同じ大きさの横力が作用したとしても、本体部40が大きく捩り変形させられることになり、スタビライザ効果が大きくなることになる。
【変形例】
【0144】
上記実施例のサスペンション装置2では、2つの被取付部を、第1被取付部42,第2被取付部44と呼び、それぞれの回転軸線を、第1回転軸線R1,第2回転軸線R2と呼んでいる。それらの「第1」,「第2」という文言は、構成要素の区別のために、便宜的に使用する文言であり、2つの被取付部のいずれを,第1被取付部,第2被取付部と呼んでもよく、2つの回転軸線のいずれを、第1回転軸線,第2回転軸線と呼んでもよい。つまり、第1被取付部42,第2被取付部44および第1回転軸線,第2回転軸線を相互に呼び換えた態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得るのである。第1部位46,第2部位48についても、同様に扱う。さらに、3つのキャリア支持部14,16,18についても、いずれを、第1キャリア支持部,第2キャリア支持部,第3キャリア支持部と呼んでもよく、つまり、第1キャリア支持部,第2キャリア支持部,第3キャリア支持部のうちのいずれかを他のいずれかと相互に呼び換えた態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得るのである。
【0145】
上記サスペンション装置2は、右後輪用のものである。左後輪用のものは、例えば、サスペンション装置2に対して左右対称となるように構成すればよい。また、右前輪用、左前輪用のものは、ループ状スプリングの揺動に伴う車輪のアライメント変化,スタビライザ効果等に配慮し、例えば、上記〔発明の態様〕の記載に従って適切に構成すればよい。
【0146】
上記サスペンション装置2においては、ループ状スプリング10は、車輪軸線方向に見て円環状をなしているが、ループ状スプリングのループの形状を、〔発明の態様〕の(1)項に関する説明において記載した種々の形状のいずれかに変更した態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得る。ループ状スプリングの断面形状,材質についても、ループ形状の場合と同様である。また、サスペンション装置2では、ループ状スプリング10の本体部40は、複数の部位46,48に区分けされていたが、単一の長手部材、つまり、単一の部位によって本体部が構成された態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得る。
【0147】
上記サスペンション装置2では、2つの被取付部42,44が、車輪軸線方向において互いに接近して配置され車輪軸線方向に見た場合において、互いに重なりあっている。また、それぞれの回転軸線R1,R2が、水平面に平行な一平面内に位置しており、互いに所定の角度で交差している。2つの被取付部は、それらの各々の回転軸線が互いに異なるように配置されていればよく、〔発明の態様〕の(1)項に関する説明において記載した種々の配置関係のいずれかに従って配置された態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得る。
【0148】
上記サスペンション装置2では、複数のキャリア支持部14,16,18によってキャリア12が支持されているが、単一のキャリア支持部によってキャリアを支持する態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得る。また、サスペンション装置2では、第1キャリア支持部14が、ボールジョイントを介して、第2キャリア支持部16,第3キャリア支持部18が、ゴムブッシュを介して、それぞれキャリア12を支持しているが、複数のキャリア支持部のすべてがゴムブッシュを介して支持されてもよい。つまり、複数のキャリア支持部のすべてが支持点の変位を許容する状態でキャリアを支持するように構成してもよいのである。さらに、サスペンション装置2では、複数のキャリア支持部14,16,18が、それぞれ、ブラケット80,82,84から構成され、それらブラケット80,82,84の先端部が、ループ状スプリング10のループの内側に位置して、キャリア12を支持するようになっている。そのような構成に代え、複数のキャリア支持部のうちの1以上のものを、ブラケットの先端部がループ状スプリングのループの外側に位置するように構成することも可能である。
【0149】
なお、詳しい説明は省略するが、上記〔発明の態様〕の記載に従って変更したサスペンション装置,当業者の知識に基づて種々に変更したサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得る。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明は、ループ状スプリングを備えた車両用サスペンション装置の改良に利用可能である。
【符号の説明】
【0151】
2:サスペンション装置 10:ループ状スプリング 12:キャリア 14:第1キャリア支持部 16:第2キャリア支持部 18:第3キャリア支持部 20:スプリング支持具 22:サイドメンバー 26:モータ 40:本体部 42:第1被取付部 44:第2被取付部 46:第1部位 48:第2部位 50:チャンネル部材 52:丸パイプ部材 66:軸体 68:第1支持軸部 70:第2支持軸部 80:第1ブラケット 82:第2ブラケット 84:第3ブラケット 92:ゴムブッシュ 110:ダンパ 130:車輪 134:ホイール本体 136:リム部 170:本体部 172:ループ状スプリング 174:第1被取付部 176:第2被取付部 O:車輪軸線 R1:第1回転軸線 R2:第2回転軸線 SP1:第1支持点 SP2:第2支持点 SP3:第3支持点
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体を懸架するための車両用サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願に係る発明者は、先に、新たなる発想の下、斬新な車両用サスペンション装置を発明し、本願出願人は、本願に先行して、その発明についての特許出願をした。その出願は、下記特許文献として、既に公開されている。その出願に係る車両用サスペンション装置は、ループ状のサスペンションスプリングを主たる構成要素とするものであり、そのループ状スプリングは、(A)長手部材を車輪軸線方向に見てループ状に形成してなる本体部と、(B)その本体部の両端の一方に固定的に設けられ、第1回動軸線回りに回動可能に車体に取り付けられる第1被取付部と、(C)本体部の両端の他方に固定的に設けられ、第1回動軸線とは異なる回動軸線である第2回動軸線回りに回動可能に車体に取り付けられる第2被取付部とを有している。
【0003】
上記車両用サスペンション装置が備えるループ状スプリングは、従来のコイルスプリング,リーフスプリング,エアスプリング等とは異なる特徴的な構造をなしており、上記サスペンション装置は、車体に対する車輪の上下動の軌道を規定するためのサスペンションリンクを必要としないという特徴を有している。そのため、上記サスペンション装置は、単純な構成のサスペンション装置となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−195352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記車両用サスペンション装置は、未だ開発途上であり、種々の改良の余地、つまり、実用性を改善する余地を多分に残すものとなっている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、ループ状のサスペンションスプリングを備えた実用性の高いサスペンション装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両用サスペンション装置は、上記ループ状スプリングと、そのループ状スプリングに支持されて車輪を車輪軸線回りに回転可能に保持するキャリアとを備え、そのキャリアが、ループ状スプリングに、それの周上において固定的に設けられた複数のキャリア支持部によって支持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
複数のキャリア支持部によってキャリアが支持されることで、車輪の車体に対する上下動に伴う車輪のアライメント変化をより安定的に実現させることが可能となる。
【発明の態様】
【0008】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0009】
なお、下記(1)項は、請求可能発明の前提となる態様を示す項であり、(1)項を直接的若しくは間接的に引用する(2)項以下の項が、請求可能発明の態様を示す項となる。ちなみに、以下の各項において、(1)項と(2)項とを合わせたものが請求項1に相当し、請求項1に(5)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項2に、請求項2に(6)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項3に、請求項1〜3のいずれか1つに(7),(8)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項4に、請求項1〜4のいずれか1つに(9),(11)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項5に、請求項1〜5のいずれか1つに(12)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項6に、請求項1〜6のいずれか1つに(14),(16)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項7に、請求項1〜7のいずれか1つに(17),(18)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項8に、請求項1〜8のいずれか1つに(20)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項9に、請求項1〜9のいずれかに(21)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項10に、請求項1〜10のいずれか1つに(22)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項11に、請求項1〜11のいずれか1つに(24)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項12に、請求項1〜12のいずれか1つに(28),(29)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項13に、請求項1〜13のいずれか1つに(31)項に記載の発明特定事項と(34)項に記載の発明特定事項との少なくとも一方による限定を加えたものが請求項14に、請求項1〜14のいずれか1つに(37)項に記載の発明特定事項による限定を加えたものが請求項15に、それぞれ相当する。
【0010】
(1)(A)長手部材を車輪軸線方向に見てループ状に形成してなる本体部と、(B)その本体部の両端の一方に固定的に設けられ、第1回転軸線回りに回転可能に車体に取り付けられる第1被取付部と、(C)前記本体部の両端の他方に固定的に設けられ、前記第1回転軸線とは異なる回転軸線である第2回転軸線回りに回転可能に車体に取り付けられる第2被取付部とを有するループ状スプリングと、
そのループ状スプリングに支持され、車輪を車輪軸線回りに回転可能に保持するキャリアと
を備え、
前記ループ状スプリングの本体部の弾性反力に依拠して車体を懸架する車両用サスペンション装置。
【0011】
先に説明したように、本項は、請求可能発明の前提となる構成に関する項である。本項のループ状スプリングは、本体部の弾性反力に依拠して車体を懸架するサスペンションスプリングとして機能し、キャリアに保持された車輪の上下動に伴って、ループ状スプリングの本体部の弾性変形量が変化し、その弾性変形量の変化に依拠して弾性反力が変化する構造となっている。車輪が車体に対して上下に動くと、ループ状スプリングは、車体に取り付けられている部分を中心として揺動しようとするが、2つの被取付部の回動軸線が異なるものとなっていることから、ループ状スプリングの揺動には、本体部の曲げ変形と捩り変形との少なくとも一方の変化を伴うことになり、その変化によって弾性反力が変化させられることになるのである。さらに、ループ状スプリングは、2つの被取付部において支持されており、本体部が車輪の車体に対する上下動に対してその上下方向の位置に応じて弾性変形するため、ループ状スプリングに支持されたキャリアに保持された車輪は、一定の軌道に沿って揺動することなる。したがって、本項のサスペンション装置において、ループ状スプリングは、サスペンションスプリングとして機能するだけでなく、車輪の揺動軌跡を定める機能、つまり、サスペンションリンクとしての機能をも併せ持つこととなる。
【0012】
なお、本明細書において、「車輪軸線」は、車輪の回転軸線を意味する。この車輪軸線の延びる方向である「車輪軸線方向」は、車輪のアライメント変化を除外すれば、概ね、車幅方向に一致していると考えることができる。つまり、車輪軸線方向は、車輪のアライメント変化をも考慮したある程度幅のある方向と考えることができるのである。したがって、「車輪軸線方向に見て」とは、概して、「車両側面視において」と同義となる。以下の説明は、このことを前提として行うこととする。ただし、車輪のアライメント変化に注目する場合は、車輪軸線方向を、厳密に解釈し、車幅方向とは必ずしも一致しないものとして扱うこととする。
【0013】
ループ状スプリングの本体部は、車輪軸線方向に見た場合、概して環状をなしていればよい。つまり、円環状をなしていても、多角形をなすような環状をなしていてもよく、また、両端部が離間する形状、つまり、概してC型をなすような形状であってもよい。さらに、本体部を形成する長手部材は、断面形状に関しても特に限定されるものではなく、丸棒,角棒のような中実の部材、丸パイプ,角パイプのような中空の部材、チャンネル等の異形部材等、種々の断面形状を有する部材を採用することができる。また、本体部は、長手方向において均一な断面を有する長手部材で構成されてもいてよく、長手方向の部位によって断面形状が異なるような長手部材によって構成されていてもよい。さらに言えば、長手部材は、単一の部材であってもよく、後に説明するように、断面形状の互いに異なる複数の部位ごとに互いに異なる複数の部材で構成され、それら複数の部材が接合,締結等されたものであってもよい。また、長手部材は、それの材質についても特に限定されない。例えば、ばね鋼等の鋼材であってもよく、FRP(繊維強化プラスチック)等の樹脂材料であってもよい。
【0014】
ループ状スプリングの本体部の端部に固定的に設けられた2つの被取付部は、それらの各々の回転軸線が互いに異なるように配置されていればよく、それら2つの被取付部の位置関係(回転軸線の配置関係を含む概念である)が特に限定されるものではない。例えば、2つの被取付部の回転軸線が平行となるように、それら2つの被取付部が配置されてもよく、また、2つの被取付部の回転軸線が交差(立体交差を含む概念である)するように配置されていてもよいのである。具体的に言えば、ループ状スプリングは、車輪軸線方向に見た場合、2つの被取付部が重なりあって配置されるように構成されてもよく、前後,上下あるいは斜めにずれて配置されるように構成されてもよい。また、例えば、ループ状スプリングは、車輪軸線方向において2つの被取付部の位置が殆ど同じ位置となるように、言い換えれば、車輪軸線方向において殆どズレていないように構成されていてもよく、ある程度ズレた位置となるように構成されていてもよい。なお、ループ状スプリングのコンパクトさという観点からすれば、2つの被取付部ができるだけ接近していることが望ましい。また、車輪の車体に対する上下動に伴うループ状スプリングの揺動との関係で言えば、車輪軸線に可及的に平行な揺動軸線回りにループ状スプリングが揺動するように2つの被取付部が配置されることが望ましい。
【0015】
ループ状スプリングの2つの被取付部の車体への取付けに関して言えば、2つの被取付部の各々は、車体に対する変位が禁止された状態で回転可能に取り付けられるものであってもよく、ある程度の変位が許容された状態で回転可能に取り付けられるものであってもよい。言い換えれば、車体に対するコンプライアンスが確保されない状態で取り付けられてもよく、コンプライアンスが確保された状態で取り付けられるものであってもよい。つまり、ボールベアリング,ころ軸受等によって回転可能に車体に支持されてもよく、ゴムブッシュ等を介して車体に支持されてもよいのである。なお、2つの被取付部の少なくとも一方が、自身の回転軸線方向の変位を禁止された状態で車体に取り付けられることが望ましい。
【0016】
ループ状スプリングの2つの被取付部の位置関係は、車輪の車体に対する揺動に伴うループ状スプリングの本体部の弾性変形の態様に影響を与える。例えば、2つの被取付部が、それらの各々の回転軸線が互いに平行でかつ離間した状態で配置されている場合は、ループ状スプリングの本体部の弾性変形は、主に、曲げ変形となる。それに対して、2つの被取付部が、車輪軸線方向に見て互いに重なりかつそれらの回転軸線が互いに交差する状態で配置されている場合には、本体部の弾性変形は、捩り変形が含まれる。したがって、2つの被取付部の位置関係を種々に異ならせることによって、本体部の弾性変形の態様を、曲げ変形,捩り変形それらが種々の割合で複合した変形といった種々の態様とすることができるのである。
【0017】
上記のような車輪の車体に対する揺動に伴うループ状スプリングの本体部の弾性変形は、ループ状スプリングに支持されたキャリアの車幅方向における位置変動、車輪軸線に直角な平面に対する傾斜変動をもたらす。つまり、本項のサスペンション装置は、車輪の車体に対する揺動に伴って、キャリアに保持された車輪のアライメントが変化するように構成することができる。言い換えれば、車輪と車体とのバウンド動作,リバウンド動作に伴って、車輪のトー角,キャンバ角等が変化することになる。そして、このアライメント変化は、本体部の弾性変形の態様を任意に設定することにより、任意の態様で実現させることができるのである。なお、本明細書において「バウンド動作」とは、車輪と車体とが上下方向に接近する動作を意味し、「リバウンド動作」とは、車輪と車体とが上下方向に離間する動作を意味する。詳しく言えば、それらバウンド動作,リバウンド動作は、車輪と車体とが、車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態である中立状態において各々が位置する位置から接近,離間することのみを意味するのではなく、車輪と車体とがどの位置にあるかにかかわらず、それらが互いに接近,離間する場合の動作を広く意味する。
【0018】
キャリアは、ループ状スプリングによって支持されるが、本項の態様においては、ループ状スプリングの1の箇所において支持されてもよく、後に説明するように、複数の箇所において支持されてもよい。複数の箇所においてキャリアが支持される場合には、つまり、複数の支持部においてキャリアが支持される場合は、複数の支持部によってそれぞれ支持されるキャリアの複数の支持点のうちの少なくとも1つがある程度の変位を許容される状態で、キャリアが支持されることが望ましい。つまり、ループ状スプリングの本体部の適切な弾性変形を阻害しない等の観点から、キャリアのループ状スプリングに対するコンプライアンスがある程度確保されることが望ましいのである。
【0019】
(2)当該車両用サスペンション装置が、前記ループ状スプリングに、それの周上において固定的に設けられた複数のキャリア支持部を備え、
前記キャリアが、それら複数のキャリア支持部によって支持された(1)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0020】
先に説明したように、前述の態様のサスペンション装置では、車輪の車体に対する上下動に伴って、車輪のアライメントを変化させることができる。このアライメント変化は、ループ状スプリングの1箇所においてキャリアを支持した場合であっても、実現可能である。しかし、本項の態様のように複数のキャリア支持部を設け、ループ状スプリングの複数の箇所でキャリアを支持すれば、車輪のアライメント変化を安定的に実現させることができる。例えば、車輪に外部から横力が作用した場合を考える。キャリアが1つの支持部によって支持されている場合には、その横力がアライメント変化に比較的大きく影響を与えるが、複数の支持部によって支持されている場合には、その横力がアライメント変化に与える影響は、比較的小さい。つまり、複数の支持部を設けることによって、横力に対する剛性を高くすることができ、そのことによって、安定した車輪のアライメント変化が実現されるのである。なお横力に対する剛性をより高めるという観点からすれば、複数のキャリア支持部のうちの1つを、第1被取付部と第2被取付部との一方に設けることが望ましい。
【0021】
また、ループ状スプリングの本体部の変形に伴って、その本体部は車幅方向において変位する。この変位の量は、ループ状スプリングの各箇所において異なる。本項の態様によれば、互いに異なる複数の箇所にキャリア支持部を設けることで、それら各箇所の変位量差を利用して、キャリアの姿勢を、つまり、キャリアの車幅方向に平行な線とのなす角度を変化させることができ、容易に車輪のアライメントを変化させることができるのである。そして、ループ状スプリングにおいて複数のキャリア支持部の各々が配設される箇所を種々に変更することにより、容易に、車輪のアライメント変化の態様を変更することができるため、所望のアライメント変化を、簡便に、実現させることができることになる。言い換えれば、所望の特性を有するサスペンション装置を設計する際において、その設計の自由度が増すことになるのである。
【0022】
(3)前記複数のキャリア支持部の各々が、
基端部が前記ループ状スプリングに固定されたブラケットを有し、そのブラケットの先端部において前記キャリアを支持するように構成された(2)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0023】
(4)前記複数のキャリア支持部の各々が、
その各々が有する前記ブラケットの先端部が、車輪軸線方向に見て、前記ループ状スプリングのループの内側に位置するように構成された(3)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0024】
上記2つの項に記載の態様は、キャリア支持部の構成に関する具体的限定を加えた態様である。特に後者の態様によれば、車両側面視において、キャリアがループ状スプリングのループ内に収まることになるため、コンパクトなサスペンション装置が実現することになる。後者の態様は、ループ状スプリングを、ホイール本体のリム内に収容する場合に好適である。なお、本明細書において、「ホイール本体」とは、車輪の構成要素であり、リム部とディスク部とを有し、リム部の外周にタイヤが嵌められてそれを保持する概して有底円筒状の部材を意味する。
【0025】
(5)当該車両用サスペンション装置が、前記複数のキャリア支持部として、3つのキャリア支持部を備えた(2)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0026】
(6)前記3つのキャリア支持部の各々の前記ループ状スプリングのループの中心を基準とした配設角度を、支持部配設角度と定義した場合において、
前記3つのキャリア支持部が、それらのいずれの2つのキャリア支持部の支持部配設角度の差も90°以上となる位置に設けられた(5)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0027】
上記2つの態様のうちの前者によれば、前述したところの安定したアライメント変化を、可及的に少ない数のキャリア支持部によって実現させることができる。また、後者の態様によれば、ループ状スプリングの互いに比較的離間した箇所に3つのキャリア支持部が設けられるため、充分にしっかりとキャリアが支持され、車輪のアライメント変化がより安定化することになる。
【0028】
(7)前記複数のキャリア支持部の各々が、前記キャリアを、自身に対する回動を許容する状態で支持するように構成された(2)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0029】
先に説明したように、ループ状スプリングの複数の箇所においてキャリアが支持されており、かつ、複数の箇所の各々において固定的に支持されている場合には、車輪の上下動に伴うループ状スプリングの本体部の適切な弾性変形を阻害する可能性がある。本項の態様によれば、複数のキャリア支持部の各々において、キャリアの回動が許容されているため、ループ状スプリングの本体部の適切な弾性変形がある程度担保されることになる。なお、複数のキャリア支持部の各々は、一平面に沿ったキャリアの回動が許容されるように構成されてもよいが、ボールジョイント,弾性体を有するブッシュ等を用いて、すべての方向の回動が許容されることが望ましい。
【0030】
(8)前記複数のキャリア支持部の各々によって支持される前記キャリアの部分の中心点を、キャリア支持点と定義した場合において、
前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、その1つに対するキャリア支持点の変位を禁止する状態で前記キャリアを支持し、かつ、前記複数のキャリア支持部のうちの残りのものの各々が、その各々に対するキャリア支持点の変位を許容する状態で前記キャリアを支持するように構成された(2)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0031】
本項の態様も、先の態様、つまり、複数のキャリア支持部の各々がキャリアを回動可能に支持する態様と同様に、車輪の上下動に伴うループ状スプリングの本体部の適切な弾性変形がある程度担保された態様となる。ループ状スプリングの本体部の適切な弾性変形をより阻害しないという観点からすれば、先の態様と組み合わせた態様で実施されることが望ましい。なお、例えば、キャリア支持点の変位を禁止する状態でキャリアを支持するには、ボールジョイント等を採用してキャリア支持部を構成すればよく、また、キャリア支持点の変位を許容する状態でキャリアを支持するには、ゴムブッシュ等の弾性体を有する軸受部品を採用してキャリア支持部を構成すればよい。ちなみに、本項の態様は、複数のキャリア支持部のうちの1つにおいて、キャリア支持点の変位が禁止されているため、その分、車輪の上下動に伴うキャリア自体の変位が抑えられることになり、適切なアライメント変化を実現させるという観点において、有効である。
【0032】
(9)前記ループ状スプリングの本体部を形成する前記長手部材が、周方向において、第1部位と第2部位とに区分けされており、
前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、(a)前記第1部位と(b)前記第1部位と前記第2部位との境界とのいずれかに設けられ、前記複数のキャリア支持部のうちの残りのものの各々が、(a)前記第1部位と(b)前記第1部位と第2部位との境界とを除く前記ループ状スプリングの部分に設けられた(2)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0033】
ループ状スプリングの本体部を構成する長手部材を、ループの周方向において2つの部位、つまり、2つの部分に分け、それら2つの部位の弾性変形に対する特性を相違させることによって、それら2つの部位の車輪の車体に対する上下動に伴う弾性変形の態様を異ならせることが可能である。そして、複数のキャリア支持部のうちの1つを、主に、それら2つの部位の一方の弾性反力に依拠してキャリアを支持するように構成し、複数のキャリア支持部の残りのうちの1以上を、主に、上記2つの部位の他方の弾性反力に依拠してキャリアを支持させるように構成することが可能である。このように複数のキャリア支持部を構成することで、車輪の上下動に対するアライメント変化を特徴的なものとすることができる。
【0034】
(10)前記第1部位と前記第2部位とが、断面形状において、互いに異なる(9)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0035】
本項の態様によれば、ループ状スプリングの本体部を構成する上記2つの部位の弾性変形に対する特性を、簡便な手法にて、異ならせることが可能である。例えば、2つの部位の断面形状を、上下左右のアスペクト比において互いに異なるような形状とすれば、同じ材質で2つの部位の弾性変形の態様を容易に異ならせることができる。簡単に言えば、例えば、上下の寸法を左右の寸法に比較して大きくすることで、上下方向の曲げ剛性を、左右方向の曲げ剛性より高くすることが可能である。
【0036】
(11)前記第1部位の車幅方向における曲げ剛性が、前記第2部位の車幅方向における曲げ剛性と比較して高い(9)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0037】
ループ状スプリングの本体部を構成する上記2つの部位を、車幅方向における曲げ剛性において異ならせれば、本体部の弾性変形に伴う複数のキャリア支持部の各々の車幅方向の変位の程度を、互いに異ならせることが可能である。本項の態様によれば、第1部位若しくは第1部位と第2部位との境界に設けられた特定のキャリア支持部の車幅方向の変位を小さくでき、主に、その特定キャリア支持部以外の1以上のものの車幅方向の変位に依存した車輪のアライメント変化が実現される。つまり、車輪の揺動軌跡を、主に、特定のキャリア支持部の上下動に依存させつつ、特定キャリア支持部以外の1以上のキャリア支持部の変位に依存して車輪のアライメントを変化させることが可能となる。言い換えれば、本体部の第1部位が、あたかもサスペンションリンクの構成要素である主サスペンションアームのように機能するように、本項のサスペンション装置を構成することができるのである。なお、車幅方向の曲げ剛性に加え、車幅方向に直角な面に沿った方向の曲げ構成をも高くすることができる。その場合には、第1部位は、主サスペンションアームとしての機能をより高めることになる。また、その場合においては、サスペンションスプリングの役割を、主として第2部位が担うことになる。
【0038】
(12)前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、前記第1被取付部と前記第2被取付部との一方に設けられた被取付部配設キャリア支持部とされた(2)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0039】
本項の態様によれば、車輪に横力が作用した場合において、その横力の一部を2つの被取付部の一方で受けるため、本項の態様は、サスペンション装置の横力に対する剛性を高めるのに有効である。また、車両の加減速等に起因して車輪に前後方向の外力、つまり、前後力が作用する場合に、その前後力の少なくとも一部を2つの被取付部の一方で受けるため、その前後力に対するサスペンション装置の剛性を高めるためにも有効である。
【0040】
また、ループ状スプリングの本体部を、車幅方向における曲げ剛性において異なる第1部位,第2部位に区分し、第1部位の車幅方向における曲げ剛性を高くし、かつ、複数のキャリア支持部のうちの特定の1つを、第1部位若しくは第1部位と第2部位との境界に設けた態様において、複数のキャリア支持部のうちの別の1つを、その第1部位が設けられる2つの被取付部の一方に設けるように構成することが可能である。そのような構成とすれば、ループ状スプリングの揺動に伴うそれら2つのキャリア支持部の車幅方向の変位を小さくすることができ、上記特定のキャリア支持部の上下動に依存した車輪の揺動軌跡を実現させることに対して有効である。
【0041】
(13)前記複数のキャリア支持部の各々によって支持される前記キャリアの部分の中心点を、キャリア支持点と定義した場合において、
当該車両用サスペンション装置が配備された車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態において、前記被取付部配設キャリア支持部が設けられた前記第1被取付部と第2被取付部との一方と、前記被取付部配設キャリア支持部についての支持点と、車輪軸線とが、水平面に平行に並ぶ(12)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0042】
本項の態様によれば、例えば、車両が平坦な路面を直進している状態において、上記前後力を、殆ど、一方の被取付部で受けることができ、また、その際に、前後力に起因してその一方の被取付部を回転させる力が、殆ど発生しないことから、車両の加減速時における車輪のアライメント変化を可及的に小さくすることが可能である。つまり、本項の態様によれば、前後力に対する剛性の極めて高いサスペンション装置が実現される。
【0043】
(14)車輪軸線方向に見た場合において、前記キャリアが、前記ループ状スプリングのループの内側に配設されている(1)項ないし(13)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0044】
(15)車輪軸線方向に見た場合において、前記ループ状スプリングのループの中心と車輪軸線とが一致する位置に前記キャリアが配設された(1)項ないし(14)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0045】
上記2つの項に記載の態様は、キャリアとループ状スプリングとの位置関係に関する限定を加えた態様である。それら2つの態様は、ループ状スプリングをホイール本体のリム部内に収容することに対して有効な態様となる。
【0046】
(16)当該車両用サスペンション装置が、
車輪軸線方向に見た場合において、前記ループ状スプリングがホイール本体のリム部内に配置されるように構成された(1)項ないし(15)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0047】
本項の態様によれば、ループ状スプリングの殆どの部分をホイール本体のリム部内に収容させることができ、コンパクトなサスペンション装置を実現させることが可能である。
【0048】
(17)前記第1回転軸線と前記第2回転軸線とが交差している(1)項ないし(16)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0049】
本項の態様によれば、車輪の車体に対する上下動に伴って、ループ状スプリングの本体部を捩り変形させることができ、この捩り変形に依拠する弾性反力によって車体を懸架するサスペンション装置を、実現させることができる。
【0050】
(18)前記第1回転軸線と前記第2回転軸線とが一平面内に位置する(17)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0051】
本項の態様によれば、車輪の車体に対する上下動に伴うループ状スプリングの本体部の弾性変形を、主に、捩り変形に車幅方向の曲げ変形が伴った複合変形とすることが可能である。つまり、極端に言えば、当該サスペンション装置を、本体部の上記複合変形に依拠した弾性反力によって車体を懸架するように構成することができるのである。車輪と車体とのバウンド動作,リバウンド動作に伴って、上記複合変形の変形量が変化するように構成すれば、車輪軸線方向に見て、ループ状スプリングのループの形が殆ど崩れないようにすることができる。このことは、ループの形状を可及的に大きくしつつ、つまり、本体部の長さを可及的に長くしつつ、ループ状スプリングをホイール本体のリム部内に収容するのに有効である。
【0052】
(19)前記第1被取付部と前記第2被取付部とが、車輪軸線方向において互いに接近している(1)項ないし(18)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0053】
本項の態様によれば、ループ状スプリングの車輪軸線方向の寸法を小さくできることになる。したがって、本項の態様は、ループ状スプリングの殆ど全体をホイール本体のリム部内に収容するために有効である。
【0054】
(20)車輪軸線方向に見て、前記第1被取付部と前記第2被取付部とが互いに重なる(1)項ないし(19)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0055】
本項の態様によれば、概ね車体の1箇所において、ループ状スプリングを取り付けることができる。このことは、ループ状スプリングの車体への取り付けのための構造の簡素化に、寄与する。
【0056】
(21)前記第1回転軸線と前記第2回転軸線との一方が車輪軸線と平行である(1)項ないし(20)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0057】
本項の態様によれば、バウンド動作,リバウンド動作において、車輪を、車幅方向に直角な一平面、若しくは、その一平面に対してあまり傾いていない面に沿って揺動させることができる。本項の態様は、第1回転軸線と第2回転軸線との交差角が比較的小さい場合に、特に好適である。なお、ループ状スプリングの本体部を複数の部位に区分けして構成した場合、それら複数の部位のうち、車輪軸線と平行な回転軸線を有する第1被取付部と第2被取付部との一方が設けられる部位の車幅方向の曲げ剛性を高くすれば、第1回転軸線と第2回転軸線とが平行でない場合であっても、車輪を、車輪軸線に略直角な一平面に沿って揺動させることが可能となる。
【0058】
(22)当該車両用サスペンション装置が配備された車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態において、前記第1被取付部と前記第2被取付部との少なくとも一方と、車輪軸線とが、水平面に平行に並ぶ(1)項ないし(21)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0059】
本項の態様は、第1被取付部と第2被取付部とが上下方向において比較的近い位置に位置するように構成されたサスペンション装置において、特に、有効である。そのような構成のサスペンション装置において、その本項の態様を採用すれば、車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態、つまり、いわゆる中立状態において、車輪の揺動中心と車輪軸線とを、概ね水平面に沿って並ばせることが可能である。したがって、本項の態様によれば、中立状態からのバウンド動作における特性とリバウンド動作における特性との差を、比較的小さくすることができる。
【0060】
(23)前記第1被取付部および前記第2被取付部が、車輪軸線よりも車両前方側の位置において車体に取付られる(1)項ないし(22)項のいずれか1つに記載の両用サスペンション装置。
【0061】
本項の態様によれば、車輪の上下動に伴うループ状スプリングの揺動の中心を、車輪軸線より車両前方側に位置させることができるため、トレーリングアーム式のサスペンション装置に近い特性のサスペンション装置を実現することが可能となる。
【0062】
(24)当該車両用サスペンション装置が、
車体に固定され、(i)前記第1回転軸線を規定して前記第1被取付部を回転可能に支持する第1支持軸部と、(ii)前記第2回転軸線を規定して前記第2被取付部を回転可能に支持する第2支持軸部とが一体的に形成されてなるスプリング支持具を備え、
前記第1被取付部および前記第2被取付部がそのスプリング支持具を介して車体に取り付けられる(1)項ないし(23)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0063】
本項の態様によれば、車体の1箇所において、ループ状スプリングを取り付けることが可能となり、ループ状スプリングの車体への取り付けのための構造を簡素化することができ、また、その取付の精度を向上させることができる。本項の態様は、第1被取付部と第2被取付部とが車輪軸線方向に見て重なっている場合に、特に、好適である。詳しく言えば、2つの被取付部の交差角のバラツキは、サスペンション装置の特性に影響を与える。特に、ホイールレート(サスペンションレート)、つまり、車輪の上下方向の変位量(ストローク量)に対するループ状スプリングの弾性反力の変化量に大きな影響を与える。そのことに鑑みれば、2つの支持軸部が一体化されていることは、取付誤差に起因する2つの被取付部の交差角のバラツキを小さくすることができ、サスペンション装置の特性のバラツキを小さくすることに寄与する。
【0064】
(25)前記ループ状スプリングの本体部を形成する前記長手部材が、周方向において、複数の部位に区分けされている(1)項ないし(24)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0065】
先に説明したように、ループ状スプリングの本体部を構成する長手部材を、ループの周方向において複数の部位、つまり、複数の部分に分け、それら複数の部位の弾性変形に対する特性を相違させることによって、それら複数の部位の車輪の車体に対する上下動に伴う弾性変形の態様を異ならせることが可能である。そして、複数のキャリア支持部と複数の部位との位置関係に依存して、車輪の上下動に対するアライメント変化の特性を種々に変更することが可能である。つまり、本項の態様によれば、上記位置関係を任意に選択することで、所望の特性を有する車輪のアライメント変化を、容易に実現させることができるのである。
【0066】
(26)前記複数の部位が、断面形状において、互いに異なる(25)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0067】
本項の態様によれば、ループ状スプリングの本体部を構成する複数の部位の弾性変形に対する特性を、簡便な手法にて、異ならせることが可能である。例えば、複数の部位の断面形状を、上下左右のアスペクト比において互いに異なるような形状とすれば、同じ材質で複数の部位の弾性変形の態様を容易に異ならせることができる。簡単に言えば、例えば、上下の寸法を左右の寸法に比較して大きくすることで、上下方向の曲げ剛性を、左右方向の曲げ剛性より高くすることが可能である。
【0068】
(27)前記複数の部位が、車幅方向における曲げ剛性において、互いに異なる(25)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0069】
ループ状スプリングの本体部を構成する上記複数の部位を、車幅方向における曲げ剛性において異ならせれば、本体部の弾性変形に伴う複数のキャリア支持部の各々の車幅方向の変位の程度を、互いに異ならせることが可能である。本項の態様によれば、簡便な手段にて、所望の特性を有する車輪のアライメント変化を実現させることができる。なお、本項の態様は、複数の部位が、車幅方向の曲げ剛性に加え、車幅方向に直角な平面に沿った方向の曲げ剛性において異なるようにされていてもよい。
【0070】
(28)前記キャリアが、車輪を駆動するモータを支持する構造とされた(1)項ないし(27)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0071】
(29)前記キャリアが、前記モータを、車輪軸線方向に見て前記ループ状スプリングのループの内側に配設されるように支持する(28)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0072】
上記2つの項の態様は、車輪を駆動するモータをも当該サスペンション装置内に配設させた態様である。前者の態様によれば、駆動モータをキャリアに支持させることにより、車輪駆動系統の構造の簡素化が可能となる。また、後者の態様によれば、ループ状スプリングのループの内側、つまり、いわゆるデッドスペースに駆動モータを配設することで、コンパクトな車輪駆動系が実現されることになる。なお、ループ状スプリングの殆どがホイール本体のリム部内に収容される場合には、モータの少なくとも一部をもリム部内に収容することができるため、そのモータは、いわゆるインホイールモータ、あるいは、インホイールモータに近い格好のモータとなる。
【0073】
(30)当該車両用サスペンション装置が、
前記第1被取付部と前記第2被取付部との一方の回転動作に対する抵抗力を発生させるダンパを備えた(1)項ないし(29)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0074】
本項の態様は、サスペンション装置の重要な構成要素であるダンパに対する限定を加えた態様である。このダンパは、ショックアブソーバと呼ばれる場合もある。本項の態様におけるダンパは、2つの被取付部の一方の回転動作に対する抵抗を与えるダンパであり、いわゆるロータリダンパと呼ぶことのできるダンパである。一般の車両において採用されるシリンダロッド型のダンパ、つまり、シリンダロッド型のショックアブソーバを採用する態様と異なり、本項の態様によれば、コンパクトなサスペンション装置が実現されることになる。
【0075】
なお、本項の態様において、ダンパの具体的構造は、特に限定されない。例えば、上記2つの被取付部の一方の回転に応じて相対的に内容積が変化する複数の作動液室有し、それら複数の作動液室間の作動液の流れに対して抵抗を与えるように構成されたダンパ、いわゆる液圧式のベーン型ダンパを採用することができる。また、例えば、上記2つの被取付部の一方の回転に応じて流体中を移動する移動体を設け、その流体の粘性に依拠してその移動体の移動に対する抵抗を付与する構造のダンパ、いわゆる流体式のビスコシティ型のダンパを採用することができる。
【0076】
(31)当該車両用サスペンション装置が、
車体と車輪との上下方向の相対動作に伴う前記キャリアの姿勢変化によって、車輪のトー角が変化するように構成された(1)項ないし(30)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置
【0077】
(32)当該車両用サスペンション装置が、
前輪用のものであり、かつ、
車輪のトー角が、車体と車輪とのバウンド動作に伴ってトーアウト傾向が強まる向きに変化し、車体と車輪とのリバウンド動作に伴ってトーイン傾向が強まる向きに変化するように構成された(31)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0078】
(33)当該車両用サスペンション装置が、
後輪用のものであり、かつ、
車輪のトー角が、車体と車輪とのバウンド動作に伴ってトーイン傾向が強まる向きに変化し、車体と車輪とのリバウンド動作に伴って車輪がトーアウト傾向が強まる向きに変化するように構成された(31)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0079】
上記3つの項は、車輪の車体に対する上下動に伴って、車輪のアライメント変化として、車輪のトー角が変化することを特徴とする態様である。後者の2つの態様は、トー角変化の向きに対する限定を加えた態様である。車両の旋回に伴って車体はロールし、旋回外輪側においては車輪と車体とはバウンド動作し、旋回内輪側においては、車輪と車体とはリバウンド動作する。したがって、それら2つの態様によれば、アンダーステア傾向の車両旋回特性を有する車両が実現することになる。
【0080】
(34)当該車両用サスペンション装置が、
車体と車輪との上下方向の相対動作に伴う前記キャリアの姿勢変化によって、車輪のキャンバ角が変化するように構成された(1)項ないし(33)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0081】
(35)当該車両用サスペンション装置が、
前輪用のものであり、かつ、
車輪のキャンバ角が、車体と車輪とのバウンド動作に伴ってポジティブキャンバ傾向が強まる向きに変化し、車体と車輪とのリバウンド動作に伴ってネガティブキャンバ傾向が強まる向きに変化するように構成された(34)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0082】
(36)当該車両用サスペンション装置が、
後輪用のものであり、かつ、
車輪のキャンバ角が、車体と車輪とのバウンド動作に伴ってネガテイブキャンバ傾向が強まる向きに変化し、車体と車輪とのリバウンド動作に伴ってポジティブキャンバ傾向が強まる向きに変化するように構成された(34)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0083】
上記3つの項は、車輪の車体に対する上下動に伴って、車輪のアライメント変化として、車輪のキャンバ角が変化することを特徴とする態様である。後者の2つの態様は、キャンバ角変化の向きに対する限定を加えた態様である。車両の旋回に伴って車体はロールし、旋回外輪側においては車輪と車体とはバウンド動作し、旋回内輪側においては、車輪と車体とはリバウンド動作する。したがって、それら2つの態様によれば、アンダーステア傾向の車両旋回特性を有する車両が実現することなる。ただし、アンダーステア傾向の車両旋回特性を実現させる場合において、トー角、キャンバ角は、車両に応じて適切に変化することが望まれる。具体的には、それらの変化量の絶対値が大き過ぎないようにすることが望ましく、それらの変化が急激でないことが望ましい。
【0084】
なお、「ポジティブキャンバ」とは、車輪の上部が下部に比較して車両外側に位置する状態を意味し、「ネガティブキャンバ」とは、車輪の上部が下部に比較して車両内側に位置する状態を意味する。また、「キャンバ角が、ポジティブキャンバ傾向が強まる向きに変化する」とは、ポジティブキャンバとなっている場合のキャンバ角がより大きくなることと、ネガティブキャンバとなっている場合のキャンバ角がより小さくなることとの両者を意味する。同様に、「キャンバ角が、ネガティブキャンバ傾向が強まる向きに変化する」とは、ネガティブキャンバとなっている場合のキャンバ角がより大きくなることと、ポジティブキャンバとなっている場合のキャンバ角がより小さくなることとの両者を意味する。さらに、トー角について言えば、キャンバ角の場合と同様、「トー角が、トーイン傾向が強まる向きに変化する」とは、トーインとなっている場合のトー角がより大きくなることと、トーアウトとなっている場合のトー角がより小さくなることとの両者を意味し、「トー角が、トーアウト傾向が強まる向きに変化する」とは、トーアウトとなっている場合のトー角がより大きくなることと、トーインとなっている場合のトー角がより小さくなることとの両者を意味する。
【0085】
なお、上記3つの項の態様は、さらに前の3つの態様と組み合わせることが可能である。すなわち、ループ状スプリングを備えたサスペンション装置を、車輪の車体に対する上下動に伴って、トー角とキャンバ角とが同時に変化するように構成することも可能なのである。
【0086】
(37)当該車両用サスペンション装置が、
横力が車輪に作用した場合に、その横力の大きさに応じて前記ループ状サスペンションスプリングの本体部が弾性変形し、その弾性変形による反力によって、車輪と車体とが上下方向に相対変位するように構成された(1)項ないし(36)項のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【0087】
本項の態様は、車輪に対して外部から車幅方向の力、つまり、横力が働いた場合において、車輪が車体に対して上下動することを特徴とする態様である。先に説明したように、ループ状スプリングを備えたサスペンション装置においては、車輪の上下動に対し、車輪をアライメント変化させることができる。簡単に言えば、本項の態様は、そのアライメント変化現象を逆に利用した態様である。例えば、車両旋回中等において、車輪には横力が作用する。この横力の作用による車輪のアライメント変化によって、ループ状スプリングの本体部は、自身の弾性変形量を変化させる。この弾性変形量の変化によりループ状スプリングの弾性反力は変化し、その変化に起因して、車輪と車体とがバウンド動作若しくはリバウンド動作させられるのである。
【0088】
(38)当該車両用サスペンション装置が、
外向きの横力が車輪に作用した場合に、車輪と車体とがバウンド動作し、内向きの横力が車輪に作用した場合に、車輪と車体とがリバウンド動作するように構成された(37)項に記載の車両用サスペンション装置。
【0089】
本項の態様は、さらに、横力の向きに対する車輪と車体との相対動作の向きについて限定を加えた態様である。外向きの横力とは、車幅方向において車輪を車体から離そうとする向きの力であり、例えば、車両旋回中において旋回内輪に作用する外力である。逆に、内向きの横力とは、車幅方向において車輪を車体に近づけようとする向きの力であり、例えば、車両旋回中において旋回外輪に作用する外力である。本項の態様によれば、車両旋回中において、旋回内輪側においてはバウンド動作させる向きの力が作用し、旋回外輪側においては、リバウンド動作させる向きの力が作用する。それによって、車両旋回に起因する車体のロールが抑制されることになるのである。すなわち、本項の態様のサスペンション装置を左右の側の各々に装備させれば、左右の車輪の各々に対して配備された1対のループ状スプリングがあたかもスタビライザ(トーションバーとも呼ばれる)と同様の機能を発揮することになるのである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】請求可能発明の実施例であるループ状スプリングを備えたサスペンション装置の斜視図である。
【図2】実施例のサスペンション装置の別の視点からの斜視図である。
【図3】モータおよびブレーキ装置を外した実施例のサスペンション装置の平面図である。
【図4】モータおよびブレーキ装置を外した実施例のサスペンション装置の正面図である。
【図5】モータおよびブレーキ装置を外した実施例のサスペンション装置の背面図である。
【図6】モータおよびブレーキ装置を外した実施例のサスペンション装置の側面図である。
【図7】実施例のサスペンション装置を構成するループ状スプリングの正面図である。
【図8】図4におけるA−A断面を示す図である。
【図9】図3におけるB−B断面を示す図である。
【図10】図3におけるC−C断面を示すである。
【図11】実施例のサスペンション装置に車輪を装着した状態を示す斜視図である。
【図12】実施例のサスペンション装置において、車輪の上下動に伴うループ状スプリングの揺動の様子を示す図である。
【図13】ループ状スプリングを備えた比較例のサスペンション装置を示す斜視図である。
【図14】横力,前後力の影響を説明するための実施例のサスペンション装置の斜視図である。
【図15】ループ状スプリングの揺動に伴う車輪のアライメント変化を説明するためのサスペンション装置のモデルを示す図である。
【図16】サスペンション装置モデルにおいて、ループ状スプリングの各箇所の車幅方向における変位量の変化を示すグラフである。
【図17】サスペンション装置モデルにおいて、車輪のアライメント変化に関する特性の一例を示すグラフである。
【図18】サスペンション装置モデルにおいて、ループ状スプリングの諸元を変更した場合のホイールレートの変化を示すグラフである。
【図19】スタビライザ効果を有するサスペンション装置において、車輪に横力が作用した場合のループ状スプリングの弾性反力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0091】
以下、請求可能発明を実施するための形態として、請求可能発明の実施例であるサスペンション装置およびそれの変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【実施例】
【0092】
≪サスペンション装置の構造≫
図1,図2に、実施例のサスペンション装置であるサスペンション装置2の斜視図を示す。サスペンション装置2は、右後輪に対して設けられており、ループ状スプリング10を主体的な構成要素ととして備えている。本サスペンション装置2は、そのループ状スプリング10の他、車輪を回転可能に保持するためのキャリア12,そのキャリア12をループ状スプリングによって支持させるための3つのキャリア支持部である第1キャリア支持部14,第2キャリア支持部16,第3キャリア支持部18を含んで構成されている。ループ状スプリング10は、スプリング支持具20を介して、車体のサイドメンバー22に取り付けられる。
【0093】
キャリア12には、ホイール本体が取り付けられるアクスルハブ24が回転可能に保持されている。また、キャリア12には、車輪を駆動するためのモータ26,モータ26の回転を減速してアクスルハブ24に伝えるための減速機28,キャリパ30およびブレーキシリンダ32を含んで構成されるブレーキ装置34が、それぞれ、支持されている。それらモータ26,減速機28,ブレーキ装置34を外した状態のサスペンション装置2の平面図,正面図,背面図,側面図を、それぞれ、図3〜図6に示す。それら図1〜図6を参照しつつ、以下に、サスペンション装置2の構造を詳しく説明する。なお、図1〜図6は、車両に配備されかつ車輪が取り付けられたと仮定した状態でのサスペンション装置2を示しており、詳しくは、その車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態、つまり、車輪と車体とがバウンド動作の方向にもリバウンド動作の方向にも相対変位していない状態(以下、「中立状態」という場合がある)でのサスペンション装置2を示している。
【0094】
ループ状スプリング10は、長手部材をループ状に形成してなる本体部40と、本体部40の一端に固定的に設けられて車体に取り付けられる第1被取付部42と、本体部40の他端に固定的に設けられて車体に取り付けられる第2被取付部44とを含んで構成される。図3〜図6に示すように、キャリア12に保持された車輪の回転軸線を、車輪軸線Oと呼べば、ループ状スプリング10の本体部40は、車輪軸線方向に見た場合において、つまり、車両側面視において、略円環状をなしており、ループ状スプリング10のループ形状も、同様に、略円環状となっている。ちなみに、中立状態においては、第1被取付部42,第2被取付部44は、ループ状スプリング10の最も車両前方側の部分に位置している。
【0095】
図7に、ループ状スプリング10の正面図を示す。この図をも参照して説明すれば、本体部40は、2つの部位である第1部位46,第2部位48に区分けされている。第1部位46は、車両前方寄りの下方に位置して、ループ状スプリング10のループの約1/4の長さにわたる領域を占め、第2部位48は、第1部位46の占める領域以外の領域、つまり、ループ状スプリングのループの約3/4の長さにわたる領域を占めている。
【0096】
第1部位46は、円弧状に成形されて上方に開口するチャンネル部材50(図では、形状の詳細を省略している)によって構成され、第2部位48は、円弧状に成形された丸パイプ部材52によって構成されている。つまり、第1部位46と第2部位48とは、断面形状において異なっている。チャンネル部材50,丸パイプ部材52は、それぞれ、一端に、断面が概してL字形をなす連結具54,56が固定的に付設されており、チャンネル部材50,丸パイプ部材52は、それら連結具54,56が4つのボルト・ナット対58によって締結されることで、互いに連結されている。第1被取付部42,第2被取付部44は、それぞれ、チャンネル部材50,丸パイプ部材52の他端部に設けられている。
【0097】
なお、サスペンション装置2において、チャンネル部材50は、板厚約3mm,ウェブ幅約50mm,フランジ幅約25mmの寸法を有する鋼製の部材であり、丸パイプ部材52は、肉厚約2mm,外径40mmφの鋼製の部材である。ループの直径、詳しくは、本体部40の中立軸の直径は、約400mmφである。なお、ここで、中立軸は、長手部材が曲げ変形,捩り変形させられた状態においても応力が発生しない部分を繋いだ線と考えることができる。サスペンション装置2では、本体部40の全体にわたる中立軸も、車輪軸線方向に見て、略円環状をなしている。
【0098】
第1被取付部42,第2被取付部44は、それぞれ、円筒部材60,62を主体として構成されている。それら円筒部材60,62が、それぞれ、本体部40の第1部位46を構成するチャンネル部材50の他端,第2部位48を構成する丸パイプ部材52の他端に、溶接によって接合されている。
【0099】
第1被取付部42,第2被取付部44は、スプリング支持具20によって支持される。詳しくは、スプリング支持具20は、車体に固定されるベースプレート64と、そのベースプレート64に立設された軸体66とを有しており、第1被取付部42,第2被取付部44は、この軸体66に回転可能に支持される。さらに詳しく説明すれば、図8に示すように、軸体66は、ベースプレート64に近い位置に位置する第1支持軸部68と、その第1支持軸部68の先端側において第1支持軸部68と一体的に形成された第2支持軸部70とを有しており、第1被取付部42の円筒部材60は、ころ軸受72,72を介して第1支持軸部68に回転可能に支持され、第2被取付部44の円筒部材62は、ころ軸受74,74を介して第2支持軸部70に回転可能に支持されているのである。
【0100】
第1支持軸部68の軸線、つまり、第1被取付部42の回転軸線である第1回転軸線R1と、第2支持軸部70の軸線、つまり、第2被取付部44の回転軸線である第2回転軸線R2は、水平面に平行な一平面内に位置しており、互いに交差している。ちなみに、それら回転軸線R1,R2の交差角は、約15゜となっており、第1回転軸線R1が、車輪軸線Oと平行となっている。さらに言えば、第1被取付部42,第2被取付部44は、車輪軸線方向において互いに接近して配置され、図3等から解るように、車輪軸線方向に見た場合において、互いに重なりあっている。なお、第1被取付部42,第2被取付部44は、それぞれ、第1回転軸線R1の延びる方向,第2回転軸線R2の延びる方向には、移動不能とされている。
【0101】
先に説明したように、サスペンション装置2では、キャリア12は、第1キャリア支持部14,第2キャリア支持部16,第3キャリア支持部18によって、ループ状スプリングに支持される。それらキャリア支持部14,16,18は、それぞれ、第1ブラケット80,第2ブラケット82,第3ブラケット84を主体として構成されている。それらブラケット80,82,84は、いずれも、基端部において、ループ状スプリング10に固定され、先端部において、キャリア12を支持する。また、それらブラケット80,82,84は、いずれも、車輪軸線方向に見て、先端部がループ状スプリング10のループの内側に位置している。
【0102】
第1キャリア支持部14は、ループ状スプリング10の第1部位46と第2部位48との境界に設けられている。第1キャリア支持部14を構成する第1ブラケット80は、段差形状に形成された単一の部材からなり、それの基端部は、チャンネル部材50,丸パイプ部材52にそれぞれ設けられた連結具54,56とともに4つのボルト・ナット対58によって締結されることで、ループ状スプリング10に固定される。第1ブラケット80の先端部には、ボールスタッド86が設けられている。キャリア12には、それの下部に、ボールスタッド86のボール部を保持するソケット88が設けられている。つまり、第1キャリア支持部14は、ボールジョイントを介して、キャリア12を支持しているのである。したがって、第1キャリア支持部14は、キャリア12を、自身に対する全方向の自由な回動を許容する状態で支持している。また、ここで、第1キャリア支持部14によって支持されるキャリア12の一部分の中心点を第1支持点SP1と定義すれば(図4参照)、第1キャリア支持部14は、キャリア12を、自身に対する第1支持点SP1の変位を禁止する状態で支持している。
【0103】
第2キャリア支持部16は、第1被取付部42に設けられており、被取付部配設キャリア支持部として機能する。第2キャリア支持部16を構成する第2ブラケット82は、2枚の板材から形成されており、それら2つの板材が、第1被取付部42を構成する円筒部材60に溶接にて接合されている。キャリア12にも被支持ブラケット90が形成されており、その被支持ブラケット90が、図9に示すように、ゴムブッシュ92を介して、第2ブラケット82の先端部に設けられた軸94に連結されている。つまり、第2キャリア支持部16は、ゴムブッシュ92を介してキャリア12を支持している。ちなみに、軸94は、概ね、車輪軸線Oと平行とされている。したがって、第2キャリア支持部16は、キャリア12を、車輪軸線Oに直角な平面に沿った自身に対する回動を許容する状態で支持している。また、ここで、第2キャリア支持部16によって支持されるキャリア12の一部分の中心点を第2支持点SP2と定義すれば(図4参照)、第2キャリア支持部16は、キャリア12を、自身に対する第2支持点SP2の変位を弾性的に許容する状態で支持している。
【0104】
第3キャリア支持部18は、ループ状スプリング10の第2部位48の周方向の中間部に設けられている。第3キャリア支持部18を構成する第3ブラケット84は、先端部において互いに結合された2枚の板材から形成されており、それら2つの板材の各々の基端部の間にループ状スプリング10の丸パイプ部材52を挟むようにして、その丸パイプ部材52に、4つのボルト96によって締結されている。キャリア12にも被支持ブラケット98が形成されており、図示を省略するが、第2キャリア支持部16と同様に、ゴムブッシュを介して、第3ブラケット84に連結されている。つまり、第3キャリア支持部18も、ゴムブッシュを介してキャリア12を支持している。ちなみに、第3ブラケット84の先端部に設けられてゴムブッシュに挿入する軸も、概ね、車輪軸線Oと平行とされている。したがって、第3キャリア支持部18は、キャリア12を、車輪軸線Oに直角な平面に沿った自身に対する回動を許容する状態で支持している。また、ここで、第3キャリア支持部18によって支持されるキャリア12の一部分の中心点を第3支持点SP3と定義すれば(図4参照)、第3キャリア支持部18は、キャリア12を、自身に対する第3支持点SP3の変位を弾性的に許容する状態で支持している。
【0105】
ここで、サスペンション装置2を車輪軸線方向に見た場合において、3つのキャリア支持部14,16,18の各々の、ループ状スプリングのループの中心を基準とした配設角度を、支持部配設角度と定義する。この支持部配設角度を用いて3つのキャリア支持部14,16,18の配設位置の関係を示せば、第1キャリア支持部14の支持部配設角度と第2キャリア支持部16の支持部配設角度との差は、約90゜であり、第2キャリア支持部16の支持部配設角度と第3キャリア支持部18の支持部配設角度の差、および、第3キャリア支持部18の支持部配設角度と第1キャリア支持部14の支持部配設角度の差は、ともに、約135゜となっている(図4参照)。つまり、3つのキャリア支持部14,16,18は、それらのうちのいずれの2つの支持部配設角度の差も90°以上となる位置に設けられている。
【0106】
サスペンション装置2では、3つのキャリア支持部14,16,18によって、ループ状スプリング10に支持されたキャリア12は、概ね、ループ状スプリング10のループの内側に配設される。また、キャリア12は、車輪軸線方向に見て、車輪軸線Oがループ状スプリング10のループの中心と一致する位置に配設されている。
【0107】
サスペンション装置2は、第1被取付部42とスプリング支持具20の軸体66の車体側の端部によって構成されるダンパ110をも有している。図10に示すように、第1被取付部42を構成する円筒部材60の車体側の端部内部には、円筒部材60の中心に向って突出する2枚のベーン112,112が形成されている。一方、軸体66の第1支持軸部68の車体側の端部には、径方向に突出する2枚のベーン114,114が形成されている。2枚のベーン112,112の突端は、第1支持軸部68の外周面に、パッキンを介して接しており、また、2枚のベーン114,114の突端は、円筒部材60の内周面に、パッキンを介して接している。つまり、円筒部材60の車体側の端部内部は、それらベーン112,112,114,114によって、4つの部屋に仕切られている。それら4つの部屋には、作動液が充満されており、それら4つの部屋の各々は、作動液室として機能する。また、2枚のベーン112,112の各々には、小孔116が設けられており、小孔116は、4つの作動液室のうちの隣り合う2つを、互いに連通するものとなっている。
【0108】
4つの作動液室の互いに軸体66を挟んで対向する位置にある2つを第1作動液室118,118と、残りの2つを第2作動液室120,120と呼べば、第1被取付部42が第1回転軸線R1まわりに回転すると、第1作動液室118,118と第2作動液室120,120との一方の容積が増大し、他方の容積が減少する。それに伴い、第1作動液室118,118と第2作動液室120,120との他方から、一方に、小孔116を通って、作動液が流入する。小孔116は、自身を通過する作動液の流れに対して抵抗を付与するようにされている。つまり、小孔116は、オリフィスとして機能する。この作動液の通過に対する抵抗により、第1被取付部42の回転動作に抵抗力が、言い換えれば、減衰力が与えられるのである。
【0109】
≪サスペンション装置の主たる機能≫
サスペンション装置2には、図11に示すように、車輪130が取り付けられる。車輪は130は、タイヤ132と、タイヤ132保持する概して有底円筒形状なすホイール本体134とから構成されている。車輪130は、ホイール本体134の底壁をなすディスク部が、アクスハブ24に締結されることで、キャリア12に回転可能に保持される。アクスルハブ24には、車輪130とともに、図示を省略するブレーキディスクが、ブレーキ装置34のキャリパ30によって挟まれる状態で締結される。
【0110】
タイヤ132が装着されるホイール本体134のリム部136の内周径は、約500mmφであり、車輪軸線方向に見て、ループ状スプリング10がホイール本体134のリム部136内に配置される。詳しく言えば、図11から解るように、ループ状スプリング10の殆どの部分が、リム部136内に収容される。ちなみに、図3〜図6における2点鎖線は、ホイール本体134のリム部136の内周面およびディスク部の内面を示している。なお、車輪130が取り付けられた状態では、キャリア12に支持されているモータ26も、リム部136に収容される格好となり、モータ126は、それをインホイールモータと呼ぶことのできるものとなっている。
【0111】
図12に示すように、車輪130が装着された状態で、車輪130が車体に対して上下動すると、つまり、車輪130と車体とがバウンド動作若しくはリバウンド動作すると、ループ状スプリング12は、スプリング支持具20を中心にして揺動しようとする。その際、第1被取付部42の回動軸線R1と第2被取付部44の回動軸線R2とが、異なっているために、ループ状スプリング12の本体部40は、揺動に伴って弾性変形する。この弾性変形に依拠して、本体部40は、弾性反力を発生させる。サスペンション装置2は、実際には、中立状態において、車体の分担荷重と釣り合う弾性反力が発生させられた状態に本体部40が弾性変形するように設計されており、図1〜図7は、本体部40が、既に、弾性変形させられた状態を示している。したがって、詳しく言えば、車輪130と車体とのバウンド動作,リバウンド動作に伴って、本体部40の弾性変形量が変化し、その弾性変形量の変化に依拠して弾性反力が変化することになる。このように、ループ状スプリング10は、サスペンションスプリングとして機能するのである。
【0112】
サスペンション装置2では、第1被取付部42と第2被取付部44とが、車輪軸線方向に見て、重なっており、かつ、車輪軸線方向において接近して配置されている。詳しく言えば、第1被取付部42の回動軸線R1と第2被取付部44の回動軸線R2とが水平面に平行な一平面内に位置し、かつ、それらは互いに交差している。そのため、ループ状スプリング10の揺動に伴う本体部40の弾性変形は、主に、捩り変形に車幅方向の曲げ変形を伴った複合変形となり、ループ状スプリング10は、主に、本体部40の上記複合変形に依拠した弾性反力を発生させることになる。つまり、ループ状スプリング10は、車輪軸線方向に見た場合において、本体部40が殆ど曲げ変形させられず、形状が殆ど崩れないようになっている。このことは、リム部136の内部にループ状スプリング10を配設する際に、そのループ状スプリング10のループ径を可及的に大きくすることに、つまり、本体部12の長さ(周長)を可及的に長くすることに寄与している。
【0113】
なお、バウンド動作,リバウンド動作に伴って、ループ状スプリング10は、略一定の軌跡を描いて揺動することになる。詳しく言えば、第1被取付部42の回動軸線R1が車輪軸線Oに平行であり、第2被取付部44の回動軸線R2は回転軸線R2に対して約15゜しか傾いていないため、ループ状スプリング10は、概ね、車輪軸線Oに直角な平面に対してあまり傾いていない一平面内において揺動し、キャリア12に保持された車輪130は、ループ状スプリング10の揺動軌跡に依存した軌跡を描いて揺動することになる。このように、ループ状スプリング10は、車輪130の揺動軌道を定める機能、つまり、サスペンションリンクとしての機能をも有することになる。ちなみに、スプリング支持具20が、つまり、第1被取付部42,第2被取付部44が、車輪軸線Oより車両前方側に位置していることから、サスペンション装置2は、トレーリングアーム式のサスペンション装置に近い特性を有するものとなっている。
【0114】
≪キャリアの支持に関するコンプライアンス≫
サスペンション装置2は、3つのキャリア支持部14,16,18によって、キャリア12が支持される。通常、特段の配慮をせずに、ループ状スプリングの複数の箇所にキャリア支持部を設けてキャリアを支持させた場合、複数の支持部とキャリアの剛性とによって、車輪の上下動に伴うループ状スプリングの本体部の適切な変形が阻害される結果となる。そのため、ループ状スプリングとキャリアとのコンプライアンスをある程度確保する必要がある。
【0115】
サスペンション装置2では、先に説明したように、ループ状スプリング10の揺動に伴う本体部40の弾性変形は、主に、捩り変形に車幅方向の曲げ変形を伴った複合変形となっている。これは、先に説明したように、第1被取付部42、第2被取付部44の配設位置関係を、上記のような関係としたことによるものである。2つの被取付部42,44の配設位置関係の適切化により、ループ状スプリング10は、車輪軸線方向に見た場合において、本体部40が殆ど曲げ変形させられず、形状が殆ど崩れないようにされているのである。その結果、車輪軸線方向に見て、3つのキャリア支持部14,16,18の相互位置関係は、余り変化しないことなる。これが、サスペンション装置2の1つの特徴である。
【0116】
上記特徴に依拠して、サスペンション装置2は、第1キャリア支持部14においては、ボールジョイントを介して、また、第2キャリア支持部16,第3キャリア支持部18においては、ゴムブッシュを介して、キャリア12を支持するように構成されている。つまり、単に、3つのキャリア支持部14,16,18において、少なくとも車輪軸線Oまわりのキャリア12の回動を許容し、2つのキャリア支持部16,18において、それぞれの支持点の変位を許容することで、キャリア12とループ状スプリング10との間に、充分なコンプライアンスが確保されているのである。
【0117】
なお、サスペンション装置2では、ループ状スプリング10の第1部位46は、第2部位48に比較して、車幅方向における曲げ剛性、および、車幅方向に直角な平面に沿った方向における曲げ剛性が高くされている。したがって、車体の分担荷重,車輪に作用する横力は、主として、第1キャリア支持部14によって受ける。そのことが、第1キャリア支持部14においてボールジョイントが採用されている理由である。一方、後に詳しく説明するが、車輪に作用する前後力は、主として、第2キャリア支持部16によって受ける。このことをも考慮して、キャリア12とループ状スプリング10との間に前後方向の適切なコンプライアンスを確保すべく、第2キャリア支持部16において、ゴムブッシュ92が採用されている。さらに、後に説明するように、スタビライザ効果,車輪のアライメント変化特性等は、主として、第3キャリア支持部18の構成,配設位置等に依存する。そのことをも考慮して、第3キャリア支持部18において、ゴムブッシュが採用されている。
【0118】
≪車輪に作用する横力,前後力による影響≫
車両の走行中、車輪には、車両の旋回等に起因して、車幅方向の力、すなわち、横力が作用する。また、車両の加減速等に起因して、車両前後方向の力、すなわち、前後力が作用する。これら横力,前後力の作用により、ループ状スプリングの本体部が変形して、車輪のアライメントが変化する。
【0119】
ここで、サスペンション装置2と比較するために、サスペンション装置2とは異なる構成を有するサスペンション装置であるサスペンション装置148について考える。図13に、サスペンション装置148を示す。サスペンション装置148は、長手部材をループ状に形成してなる本体部150と、その本体部150の両端に設けられた第1被取付部152,第2被取付部154とから構成されるループ状スプリング156を備えている。サスペンション装置148では、キャリア158が、本体部150の第1被取付部152,第2被取付部154から最も離れた部分に固定的に付設されている。キャリア158のループ状スプリング156のループの略中心に位置する部分において、アクスルハブ160が回転可能に保持されている。このサスペンション装置148では、本体部40の1つの箇所に設けられた単一のキャリア支持部によって、キャリア158が支持されていると考えることができる。
【0120】
上記サスペンション装置148では、図に示すように、車輪に横力FY,前後力FXが作用した場合、本体部150の1の箇所においてでしかキャリア158が支持されていないため、本体部150が容易に変形して、キャリア158が、車両の前後軸線,横軸線回りに容易に回動してしまうことになる。つまり、サスペンション装置148では、車輪のアライメントが、横力FY,前後力FXの作用による影響を受け易いという特性を有しているのである。言い換えれば、横力FY,前後力FXに対する剛性が比較的低くなっている。
【0121】
これに対し、図14に示すように、本実施例のサスペンション装置2では、3つのキャリア支持部14,16,18によってキャリア12が支持され、また、それら3つのキャリア支持部14,16,18が、支持部配設角度差において互いに90゜以上離れた箇所に配設されている。そのことによって、サスペンション装置2は、横力FY,前後力FXによっても、容易には、車両の前後軸線,横軸線回りにキャリア12が回動せず、車輪のアライメントが横力FY,前後力FXの作用による影響を受け難いという特性を有している。つまり、横力FY,前後力FXに対する剛性が比較的高くされているのである。
【0122】
さらに詳しく説明すれば、サスペンション装置2では、第2キャリア支持部16が第1被取付部42に設けられている。したがって、車輪に横力FYが作用した場合に、その横力の一部を、第1被取付部42が受ける格好となる。第1被取付部42は、剛体と考えることができ、第1被取付部42が受ける上記横力FYの一部は、ループ状スプリング10の本体部40の弾性変形をひき起こさないからである。このことは、横力FYに対する剛性を高めることに大きく寄与している。
【0123】
また、第2キャリア支持部16が第1被取付部42に設けられていることは、前後力FXに対する剛性を高めることにも寄与している。横力FYの場合と同様、前後力FXの一部を第1被取付部42が受けるからである。特に、サスペンション装置2では、中立状態において、車輪軸線Oと、第2キャリア支持部16についてのキャリア12の支持点である第2支持点SP2と、第1被取付部42とが水平面に平行に並んでいる(図4参照)。そのため、多くの場合に、前後力FXの殆どを、第1被取付部42が受けると考えることができ、前後力FXに対する剛性は相当に高くされているのである。
【0124】
≪車輪の上下動に伴うアライメント変化≫
車輪の上下動に伴って、ループ状スプリング10の本体部40は、上述のように、捩り変形、および、車幅方向に曲げ変形する。この車幅方向の曲げ変形は、ループ状スプリング10の各所の車幅方向の変位となって現れる。サスペンション装置2では、キャリア12は、3つのキャリア支持部14,16,18によって、ループ状スプリング10の複数の箇所において支持されている。したがって、3つのキャリア支持部14,16,18の各々が配設された箇所の車幅方向の変位どうしの差(相対変位差)に依存して、車幅方向に直角な平面に対して特定の向きおよび特定の角度で傾斜することになる。そして、車輪の上下動に伴って、3つのキャリア支持部14,16,18の各々が配設された箇所の上記相対変位差が変化することで、車幅方向に直角な平面に対しての傾斜方向および傾斜角度が変化することになる。つまり、サスペンション装置2では、車輪の上下動に伴って、車輪のトー角,キャンバ角等の車輪のアライメントが変化することになるのである。
【0125】
車輪のアライメント変化に関し、モデルとなるサスペンション装置(以下、「サスペンション装置モデル」という場合がある)について考察する。このサスペンション装置モデルでは、図15に示すような、単一の丸パイプ部材からなる本体部170を有するループ状スプリング172が採用されている。なお、このループ状スプリング172は、全体的には、上記ループ状スプリング10と同様の諸元(寸法、形状等を意味する概念である)を有している。このサスペンション装置モデルは、サスペンション装置2と同様、右後輪に対するモデルであり、このループ状スプリング172の第1被取付部174,第2被取付部174の位置関係(回転軸線の位置関係をも含む概念である)も、サスペンション装置2と同様である。ループ状スプリング172は、弾性変形させられていない状態で、揺動角θ=0゜の位置に位置し、そこから揺動角θが増大することで本体部170の弾性変形量が増大し、揺動角θ=45゜の位置で、中立状態になるものとする。そして、さらに揺動角が増大し、揺動角θ=90゜の位置まで至るものとする。つまり、揺動角θが0゜に近づく方向がリバウンド動作の方向であり、90゜に近づく方向が、バウンド動作の方向である。ちなみに、図の実線で表される状態である中立状態は、揺動角θが約45゜となる位置である。
【0126】
上述のようにループ状スプリング172の揺動角θが変化する状態において、その揺動角θの変化に対して、ループ状スプリング172の複数の特定箇所P90,P180,P270の各々の車幅方向の変位量は、図16のグラフに示すように変化する。特定箇所P90,P180,P270は、それぞれ、中立状態において車輪軸線方向に見て、車輪軸線Oを中心とした反時計まわりの角度で表される配設角Ψ=90゜,180゜,270゜となる位置である(図15参照)。ちなみに、配設角Ψ=0゜となる位置が、2つの被取付部174,176が存在する位置である。また、特定箇所P90,P180,P270のそれぞれにおける変位量は、揺動角θ=0゜の状態からの変位量であり、正の値は、車両外向きに、つまり、車体から離れる側に変位したことを示し、負の値は、車両内向きに、つまり、車体に近づく側に変位したことを意味する。
【0127】
図16のグラフから解るように、配設角Ψ=90゜となるP90では、揺動角の増加に伴って、徐々に車体に近づく側に変位する。配設角Ψ=180゜となるP180では、揺動角θの増加に伴って、一旦わずかに車体から離れる側に変位するがその後はP90よりも大きな勾配で車体に近づく側に変位する。配設角Ψ=270゜となるP270では、比較的大きな勾配で車体から離れる側に変位するが揺動角θ=50゜のあたりから、逆に、車体から離れる側に変位する。
【0128】
ループ状スプリング172の複数の箇所にキャリア支持部を設ける場合、それら複数の箇所の変位量の差によって、キャリアの車幅方向に直角な平面に対する傾斜方向,傾斜角度が定ることになる。そして、複数のキャリア支持部の各々が設けられる箇所を、ループ状スプリング172のループの周上において、任意に選択することで、ループ状スプリング172の揺動に対する車輪回転軸線Oの傾き方向および傾き量の変化を、つまり、車輪のアライメント変化を任意の態様で実現させることができる。より具体的に言えば、車輪のトー角の変化,車輪のキャンバ角の変化を任意の態様で実現させることができるのである。
【0129】
図17は、3つのキャリア支持部の各々をある特定の位置に配置した場合におけるトー角の変化、キャンバ角の変化を示すグラフである。このグラフの上下は、トー角,キャンバ角の傾向を示しており、変化を示す線が上方に位置する程、トーイン傾向が高く、ポジティブキャンバ傾向が高いすることを示し、逆に、下方に位置する程、トーアウト傾向が高く、ネガティブ傾向が高いことを示している。ちなみに、図17は、バウンド動作により、トー角がトーイン傾向が強まる向きに変化し、キャンバ角がネガティブキャンバ傾向が強まる向きに変化するような特性を示している。言い換えれば、リバウンド動作により、トー角がトーアウト傾向が強まる向きに変化し、キャンバ角がポジティブキャンバ傾向が強まる向きに変化することを示している。このように、3つのキャリア支持部の配設位置の適切な選択により、所望の変化特性となる車輪のアライメント変化を実現させることが可能なのである。
【0130】
なお、車両の旋回に伴って車体はロールし、旋回外輪側においては、車輪と車体とが中立状態からバウンド動作し、旋回内輪側においては、車輪と車体とが中立状態からリバウンド動作する。したがって、サスペンション装置が後輪に対して設けられるものである場合に、車輪のトー角とキャンバ角との少なくとも一方が図17に示す変化を呈するようにそのサスペンション装置を構成すれば、アンダーステア傾向の車両旋回特性を有する車両が実現することとなる。逆に、サスペンション装置が前輪に対して設けられるものである場合に、トー角とキャンバ角との少なくとも一方が特定の変化を呈するようにそのサスペンション装置を構成すれば、同様に、アンダーステア傾向の車両旋回特性を有する車両が実現することなる。つまり、前輪の場合、トー角について言えば、バウンド動作により、トーアウト傾向が強まる向きに変化し、リバウンド動作により、トーイン傾向が強まる向きに変化するように構成すればよく、また、キャンバ角について言えば、バウンド動作により、ポジティブキャンバ傾向が強まる向きに変化し、リバウンド動作により、ネガティブキャンバ傾向が強まる向きに変化するように構成すればよい。
【0131】
上記サスペンション装置モデルでは、説明を簡単にするため、専ら、車輪の上下動に伴なうループ状スプリング172の本体部170の車幅方向における曲げ変形に依存して、つまり、ループ状スプリング172の各箇所の車幅方向の変位に依存して、車輪がアライメント変化すると擬制した。しかし、車輪のアライメント変化は、車輪の上下動に伴なう本体部170の捩り変形にも依存する。詳しく言えば、各キャリア支持部の車幅方向に直角な面に対する傾斜角は、そのキャリア支持部が配設される箇所における本体部170の捩り方向,捩り変形量に応じて変化する。キャリア支持部の上記傾斜角の変化により、キャリア支持部によって支持されるキャリアの部分(支持点)は、車幅方向に変位することになる。一方、本体部170の捩り方向,捩り変形量は、ループ状スプリング172の各箇所によって異なる。したがって、複数のキャリア支持部の各々の配設位置の適切な選択により、本体部の捩り変形に依存することによっても、所望の変化特性となる車輪のアライメント変化を実現させることが可能である。なお、ループ状スプリング172の各箇所の車幅方向における変位方向,変位量と、各箇所の捩り方向,捩り変形量との両者を考慮して、複数のキャリア支持部の各々の配設位置を選択することが望ましい。
【0132】
上記実施例のサスペンション装置2において、車輪のアライメント変化が所望の特性となるようにするためには、原則的には、上記サスペンション装置モデルにおけるキャリア支持部の配設位置の選択手法に従って、3つのキャリア支持部14,16,18の配設位置を決定すればよい。ただし、サスペンション装置2では、ループ状スプリング10の本体部40は、2つの部位46,48に区分けされており、第1部位46,第2部位48は、前述のように、断面形状および車幅方向における曲げ剛性が互いに異なるものとなっている。詳しく説明すれば、第1部位46は、チャンネル部材50から、第2部位48は、丸パイプ部材52からなり、第1部位46の車幅方向における曲げ剛性は、第2部位46の車幅方向における曲げ剛性に比較して高くなっている。したがって、そのことにも考慮して、3つのキャリア支持部14,16,18の配設位置を決定することが望ましいのである。なお、3つのキャリア支持部14,16,18の配設位置の選択のみならず、回転軸線R1,R2の交差角p等の第1被取付部42,第2被取付部44の配置位置の関係、ループ状スプリング10の本体部40を構成する長手部材の断面形状、その長手部材の縦弾性係数,横弾性係数の絶対値およびそれらの比率、3つのキャリア支持部14,16,18をそれぞれ構成するブラケット80,82,84の寸法等をも任意に決定することで、車輪のアライメント変化が所望の特性となるようにすることができるのである。
【0133】
サスペンション装置2では、第1キャリア支持部14が、第1部位46と第2部位48との境界に配設されること、および、第2キャリア支持部16が、第1被取付部42に配設されることが前提となっている。第2キャリア支持部16は、ループ状スプリング10の揺動位置に拘わらず、車幅方向に変位しない。そして、第1部位46の車幅方向の曲げ剛性が高いことから、ループ状スプリング10の揺動に伴う第1キャリア支持部14の車幅方向の変位は、比較的小さい。しががって、第1キャリア支持部14は、概ね、車幅方向に直角な一平面内を揺動することなり、キャリア12も、その一平面に対してあまり傾斜しない軌跡を描いて揺動することになる。このことに考えれば、本体部40の第1部位46は、あたかも主たるサスペンションアームとして機能すると考えることができ、第2部位48は、あたかもマルチリンク型サスペンション装置におけるトーコントロールアーム、つまり、車輪のトー角とキャンバ角との少なくとも一方を変化させるためのサスペンションアームとして機能すると考えることができるのである。
【0134】
上記のことに鑑みれば、サスペンション装置2は、主に、本体部40の第2部位48の両端部の間に配設された第3キャリア支持部18の位置の調整によって、中立状態における車輪のトー角,キャンバ角や、車輪のアライメント変化の特性を調整可能となっている。そして、サスペンション装置2では、第3キャリア支持部18の配設位置の調整を可能とすべく、第3キャリア支持部18を構成する第3ブラケット84が、4つのボルト96によって締結されることで、第2部位48に固定されるようになっている。4つのボルト96による締結を緩めることで、第3ブラケット84の配設位置、すなわち、上記支持部配設角度が、容易に調節可能とされている。サスペンション装置2では、3つのキャリア支持部14,16,18のうちの1つだけの調節により、簡便に、中立状態における車輪のトー角,キャンバ角や、車輪のアライメント変化の特性を調整することができるのである。
【0135】
≪ループ状スプリングの諸元の変更による特性差≫
ループ状スプリングの諸元、つまり、寸法,形状,使用部材等を変更するとで、サスペンション装置の特性を変更することができる。サスペンション装置の代表的な特性として、ホイールレート(サスペンションレート)を挙げることができる。このホイールレートは、例えば、ループ状スプリングの揺動角に対する弾性反力の上下方向成分のレート、つまり、ばね定数の一種と考えることができるものである。上記サスペンション装置モデルにおいて、ループ状スプリング172の諸元を変更してホイールレートがどう変化するかについて考察した結果を以下に示す。
【0136】
図15に示すループ状スプリング172を、ノミナル諸元(基準諸元)を有するループ状スプリング172、つまり、基準スプリングとして設定する。まず、この基準スプリングに対して、(A)本体部170の断面形状、すなわち、外径,板厚を変更したケース、(B)第1被取付部174の回転軸線と第2被取付部176の回転軸線との交差角pを変更したケース、(C)ループ状スプリング172の中立軸の半径rを変更したケースを、それぞれ、いくつか想定した。そして、各ケースにおいて、ループ状スプリング172のホイールレートを算出し、それを基準スプリングのホイールレートと比較した。基準スプリングのホイールレートに対する各ケースのループ状スプリング172のホールレートの比率を、図18に示す。ちなみに、図18のグラフにおいて、ケース1〜4は、(A)本体部170の断面形状を変更したケースであり、ケース5〜8は、交差角pを変更したケースであり、ケース9〜12は、(C)中立軸の半径rを変更したケースである。
【0137】
図18から解るように、ループ状スプリング172の本体部170の断面形状における外径を大きくし、板厚を厚くするのに応じてホイールレートが高くなり、その外径を小さくし板厚を薄くするのに応じて、ホイールレートが低くなる。また、2つの被取付部174,176の回転軸線の交差角pを大きくするにつれて、ホイールレートが高くなり、小さくするにつれて、ホイールレートが低くなる。さらに、ループ状スプリング172の中立軸半径rを大きくするにつれてホイールレートが低くなり、小さくするにつれて、ホイールレートが高くなる。また、図18のグラフから、ループ状スプリングの断面形状,中立軸半径rの変更よりも、回転軸線の交差角pの変更の方が、ループ状スプリング172のホイールレートの変更に対して有効であることが解る。言い換えれば、ホイールレートの変化は、2つの被取付部174,176の回転軸線の交差角pに対して感度が高いものとなっている。
【0138】
上記のことに鑑み、実施例のサスペンション装置2は、図8に示すような単一のスプリング支持具20によって、ループ状スプリング10を支持するように構成されている。詳しく言えば、スプリング支持具20が有する軸体66では、第1被取付部42を回転可能に支持する第1支持軸部68と、第2被取付部44を回転可能に支持する第2支持軸部70とが一体的に形成されている。2つの支持軸部68,70を一体的に形成することによって、2つの被取付部174,176の回転軸線の交差角pのバラツキを小さくすることができる。その結果、サスペンション装置の特性が所望の特定から大きく外れることを回避でき、また、車両ごとのサスペンション装置の特性についてのバラツキを小さくすることが可能である。第1支持軸部68と第2支持軸部70とが一体的に形成された軸体66を製作するには、例えば、機械加工等によって、単一の素材から軸体66を成形するようにすればよい。
【0139】
≪スタビライザ効果≫
サスペンション装置モデルに関して先に説明したように、ループ状スプリングの揺動角θの変化に応じて、ループ状スプリングの本体部は弾性変形し、その弾性変形に応じて、ループ状スプリングの弾性反力が変化し、車輪のアライメントは変化する。このことは、逆に言えば、自身のアライメントを変化させるような外力が車輪に作用した場合、その外力に応じて本体部の弾性変形量が変化することを意味する。ループ状スプリングの弾性反力は、車体の荷重を分担する成分、つまり、上下方向の成分と、車輪のアライメント変化に対抗する成分とに分けることができる。後者は、アライメント変化を生じさせる外力に対抗する成分と考えることができる。このように、本体部の弾性反力を2つの成分に分けた場合、変形の主体となる本体部が単一のものであることから、2つの成分の一方が他方に影響を与える。つまり、車輪に横力等が作用して、車輪のアライメント変化に対抗する成分が変化する場合、弾性反力の上下方向成分も変化することになる。この現象を利用することで、車輪に横力が作用した場合に、車体と車輪とがバウンド動作若しくはリバウンド動作するように、ループ状スプリングの弾性反力を変化させることができるのである。
【0140】
より具体的に言えば、車輪に対して、車幅方向において車輪を車体から離そうとする向きの力(外向きの横力)が作用した場合に、ループ状スプリングの弾性反力の上下方向の成分が減少し、逆に、車幅方向において車輪を車体に近づけようとする向きの力(内向きの横力)が作用した場合に、その弾性反力の上下方向の成分が増加するようなサスペンション装置を実現させることができる。つまり、ある特定の構成を有するサスペンション装置によれば、車輪に対する外向きの横力に応じて車体と車輪とをバウンド動作させ、内向きの横力に応じて車体と車輪とをリバウンド動作させることが可能となるのである。このサスペンション装置のループ状スプリングの弾性反力の上下方向成分を、図19のグラフに示す。このグラフでは、ある大きさの横力が作用した場合における弾性反力の上下方向成分のシフトを示しているが、このシフトの量は、作用する横力に基づき、その横力が大きくなる程大きくなる。
【0141】
車両旋回時には、車体に作用する遠心力に起因して、車体がロールする。具体的に言えば、遠心力に起因したロールモーメントが車体に作用し、左右の車輪の車重分担割合が、旋回内輪側の分担荷重が小さく旋回外輪側の分担荷重が大きくなるように変化する。このことによって、旋回内輪側において車輪と車体とが中立状態からリバウンド動作し、旋回外輪側において車輪と車体とが中立状態からバウンド動作し、その結果として、車体がロールするのである。一方、車両の旋回に起因して、車輪には横力が加わる。この横力は、旋回内輪に対しては外向きの力となり、旋回外輪に対しては内向きの力となる。したがって、上記特定の構成を有するサスペンション装置によれば、旋回内輪側のループ状スプリングの弾性反力の上下方向の成分を減少させ、旋回外輪側のループ状スプリングの弾性反力の上下方向の成分を増加させることができるため、上記ロールモーメントに起因する旋回内輪側のリバウンド動作,旋回外輪側のバウンド動作を抑制することが可能となる。つまり、車両にあたかもスタビライザが搭載されたのと同等の効果が得られることになる。この効果をスタビライザ効果と呼べば、スタビライザなしで、スタビライザ効果が得られることになる。
【0142】
ちなみに、スタビライザは、一般的に、トーションバーを主体として構成されている。このトーションバーは、左右の車輪を連結し、左右の車輪の上下動作の差によって捩られ、その捩りに依拠した大きさのロール抑制力を発生させる。このようなスタビライザを車両に搭載する場合、トーションバーを車体に保持させる必要から、サスペンションシステムの車体への組付作業において、車体を比較的高い位置に持ち上げる必要がある。ところが、上記特定の構成を有するサスペンション装置を採用すれば、スタビライザなしで、スタビライザ効果が得られることから、サスペンションシステムの組付作業が簡便に行えることになる。
【0143】
上記実施例のサスペンション装置2も、上記スタビライザ効果が得られるように構成することが可能である。ループ状スプリング10の本体部40の弾性変形は、捩り変形と、曲げ変形とに大別することができ、スタビライザ効果は、その捩り変形への依存度が高い。したがって、横力が作用した場合に、捩り変形が生じるように、サスペンション装置2を構成すればよい。しかし、サスペンション装置2では、先に説明したように、第2キャリア支持部16が、第1被取付部42に付設されており、第1キャリア支持部14が、第1部位46と第2部位48との境界に設けられている。したがって、車輪に横力が作用した場合であっても、第1キャリア支持部14,第2キャリア支持部16の変位に依拠する本体部40の捩り変形は、大きくは期待できない。そこで、サスペンション装置2では、車輪に横力が作用した場合に、主に、第3キャリア支持部18の傾動による本体部40の捩り変形に依存して、スタビライザ効果を発揮させることになる。具体的には、第3キャリア支持部18の配設位置、第3支持点SP3の位置等を調整することによって、所望のスタビライザ効果を得ることが可能である。なお、第3キャリア支持部18を構成する第3ブラケット84の長さは、スタビライザ効果の大きさを左右する要因となる。つまり、第3ブラケット84の長さを長くして、第3支持点SP3と本体部40の中立軸との距離を大きくとれば、車輪に同じ大きさの横力が作用したとしても、本体部40が大きく捩り変形させられることになり、スタビライザ効果が大きくなることになる。
【変形例】
【0144】
上記実施例のサスペンション装置2では、2つの被取付部を、第1被取付部42,第2被取付部44と呼び、それぞれの回転軸線を、第1回転軸線R1,第2回転軸線R2と呼んでいる。それらの「第1」,「第2」という文言は、構成要素の区別のために、便宜的に使用する文言であり、2つの被取付部のいずれを,第1被取付部,第2被取付部と呼んでもよく、2つの回転軸線のいずれを、第1回転軸線,第2回転軸線と呼んでもよい。つまり、第1被取付部42,第2被取付部44および第1回転軸線,第2回転軸線を相互に呼び換えた態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得るのである。第1部位46,第2部位48についても、同様に扱う。さらに、3つのキャリア支持部14,16,18についても、いずれを、第1キャリア支持部,第2キャリア支持部,第3キャリア支持部と呼んでもよく、つまり、第1キャリア支持部,第2キャリア支持部,第3キャリア支持部のうちのいずれかを他のいずれかと相互に呼び換えた態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得るのである。
【0145】
上記サスペンション装置2は、右後輪用のものである。左後輪用のものは、例えば、サスペンション装置2に対して左右対称となるように構成すればよい。また、右前輪用、左前輪用のものは、ループ状スプリングの揺動に伴う車輪のアライメント変化,スタビライザ効果等に配慮し、例えば、上記〔発明の態様〕の記載に従って適切に構成すればよい。
【0146】
上記サスペンション装置2においては、ループ状スプリング10は、車輪軸線方向に見て円環状をなしているが、ループ状スプリングのループの形状を、〔発明の態様〕の(1)項に関する説明において記載した種々の形状のいずれかに変更した態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得る。ループ状スプリングの断面形状,材質についても、ループ形状の場合と同様である。また、サスペンション装置2では、ループ状スプリング10の本体部40は、複数の部位46,48に区分けされていたが、単一の長手部材、つまり、単一の部位によって本体部が構成された態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得る。
【0147】
上記サスペンション装置2では、2つの被取付部42,44が、車輪軸線方向において互いに接近して配置され車輪軸線方向に見た場合において、互いに重なりあっている。また、それぞれの回転軸線R1,R2が、水平面に平行な一平面内に位置しており、互いに所定の角度で交差している。2つの被取付部は、それらの各々の回転軸線が互いに異なるように配置されていればよく、〔発明の態様〕の(1)項に関する説明において記載した種々の配置関係のいずれかに従って配置された態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得る。
【0148】
上記サスペンション装置2では、複数のキャリア支持部14,16,18によってキャリア12が支持されているが、単一のキャリア支持部によってキャリアを支持する態様のサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得る。また、サスペンション装置2では、第1キャリア支持部14が、ボールジョイントを介して、第2キャリア支持部16,第3キャリア支持部18が、ゴムブッシュを介して、それぞれキャリア12を支持しているが、複数のキャリア支持部のすべてがゴムブッシュを介して支持されてもよい。つまり、複数のキャリア支持部のすべてが支持点の変位を許容する状態でキャリアを支持するように構成してもよいのである。さらに、サスペンション装置2では、複数のキャリア支持部14,16,18が、それぞれ、ブラケット80,82,84から構成され、それらブラケット80,82,84の先端部が、ループ状スプリング10のループの内側に位置して、キャリア12を支持するようになっている。そのような構成に代え、複数のキャリア支持部のうちの1以上のものを、ブラケットの先端部がループ状スプリングのループの外側に位置するように構成することも可能である。
【0149】
なお、詳しい説明は省略するが、上記〔発明の態様〕の記載に従って変更したサスペンション装置,当業者の知識に基づて種々に変更したサスペンション装置も、請求可能発明の実施例となり得る。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明は、ループ状スプリングを備えた車両用サスペンション装置の改良に利用可能である。
【符号の説明】
【0151】
2:サスペンション装置 10:ループ状スプリング 12:キャリア 14:第1キャリア支持部 16:第2キャリア支持部 18:第3キャリア支持部 20:スプリング支持具 22:サイドメンバー 26:モータ 40:本体部 42:第1被取付部 44:第2被取付部 46:第1部位 48:第2部位 50:チャンネル部材 52:丸パイプ部材 66:軸体 68:第1支持軸部 70:第2支持軸部 80:第1ブラケット 82:第2ブラケット 84:第3ブラケット 92:ゴムブッシュ 110:ダンパ 130:車輪 134:ホイール本体 136:リム部 170:本体部 172:ループ状スプリング 174:第1被取付部 176:第2被取付部 O:車輪軸線 R1:第1回転軸線 R2:第2回転軸線 SP1:第1支持点 SP2:第2支持点 SP3:第3支持点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)長手部材を車輪軸線方向に見てループ状に形成してなる本体部と、(B)その本体部の両端の一方に固定的に設けられ、第1回転軸線回りに回転可能に車体に取り付けられる第1被取付部と、(C)前記本体部の両端の他方に固定的に設けられ、前記第1回転軸線とは異なる回転軸線である第2回転軸線回りに回転可能に車体に取り付けられる第2被取付部とを有するループ状スプリングと、
そのループ状スプリングに支持され、車輪を車輪軸線回りに回転可能に保持するキャリアと
を備え、
前記ループ状スプリングの本体部の弾性反力に依拠して車体を懸架する車両用サスペンション装置であって、
当該車両用サスペンション装置が、前記ループ状スプリングに、それの周上において固定的に設けられた複数のキャリア支持部を備え、
前記キャリアが、それら複数のキャリア支持部によって支持されたことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
当該車両用サスペンション装置が、前記複数のキャリア支持部として、3つのキャリア支持部を備えた請求項1に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項3】
前記3つのキャリア支持部の各々の前記ループ状スプリングのループの中心を基準とした配設角度を、支持部配設角度と定義した場合において、
前記3つのキャリア支持部が、それらのいずれの2つのキャリア支持部の支持部配設角度の差も90°以上となる位置に設けられた請求項2に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項4】
前記複数のキャリア支持部の各々が、前記キャリアを、自身に対する回動を許容する状態で支持するように構成され、かつ、
前記複数のキャリア支持部の各々によって支持される前記キャリアの部分の中心点を、キャリア支持点と定義した場合において、
前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、その1つに対するキャリア支持点の変位を禁止する状態で前記キャリアを支持し、かつ、前記複数のキャリア支持部のうちの残りのものの各々が、その各々に対するキャリア支持点の変位を許容する状態で前記キャリアを支持するように構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項5】
前記ループ状スプリングの本体部を形成する前記長手部材が、周方向において、第1部位と、車幅方向における曲げ剛性が前記第1部位より低い前記第2部位とに区分けされており、
前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、(a)前記第1部位と(b)前記第1部位と前記第2部位との境界とのいずれかに設けられ、前記複数のキャリア支持部のうちの残りのものの各々が、(a)前記第1部位と(b)前記第1部位と第2部位との境界とを除く前記ループ状スプリングの部分に設けられた請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項6】
前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、前記第1被取付部と前記第2被取付部との一方に設けられた請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項7】
当該車両用サスペンション装置が、
車輪軸線方向に見た場合において、前記キャリアが前記ループ状スプリングのループの内側に配設され、かつ、前記ループ状スプリングがホイール本体のリム部内に配置されるように構成された請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項8】
前記第1回転軸線と前記第2回転軸線とが、交差し、かつ、一平面内に位置する請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項9】
車輪軸線方向に見て、前記第1被取付部と前記第2被取付部とが互いに重なる請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項10】
前記第1回転軸線と前記第2回転軸線との一方が車幅方向と平行である請求項1ないし請求項9のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項11】
当該車両用サスペンション装置が配備された車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態において、前記第1被取付部と前記第2被取付部との少なくとも一方と、車輪軸線とが、水平面に平行に並ぶ請求項1ないし請求項10のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項12】
当該車両用サスペンション装置が、
車体に固定され、(i)前記第1回転軸線を規定して前記第1被取付部を回転可能に支持する第1支持軸部と、(ii)前記第2回転軸線を規定して前記第2被取付部を回転可能に支持する第2支持軸部とが一体的に形成されてなるスプリング支持具を備え、
前記第1被取付部および前記第2被取付部がそのスプリング支持具を介して車体に取り付けられる請求項1ないし請求項11のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項13】
前記キャリアが、車輪を駆動するモータを、車輪軸線方向に見て前記ループ状スプリングのループの内側に配設されるように支持する構造とされた請求項1ないし請求項13のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項14】
当該車両用サスペンション装置が、
車体と車輪との上下方向の相対動作に伴う前記キャリアの姿勢変化によって、車輪のトー角と車輪のキャンバ角との少なくとも一方が変化するように構成された請求項1ないし請求項13のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項15】
当該車両用サスペンション装置が、
横力が車輪に作用した場合に、その横力の大きさに応じて前記ループ状サスペンションスプリングの本体部が弾性変形し、その弾性変形による反力によって、車輪と車体とが上下方向に相対変位するように構成された請求項1ないし請求項14のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項1】
(A)長手部材を車輪軸線方向に見てループ状に形成してなる本体部と、(B)その本体部の両端の一方に固定的に設けられ、第1回転軸線回りに回転可能に車体に取り付けられる第1被取付部と、(C)前記本体部の両端の他方に固定的に設けられ、前記第1回転軸線とは異なる回転軸線である第2回転軸線回りに回転可能に車体に取り付けられる第2被取付部とを有するループ状スプリングと、
そのループ状スプリングに支持され、車輪を車輪軸線回りに回転可能に保持するキャリアと
を備え、
前記ループ状スプリングの本体部の弾性反力に依拠して車体を懸架する車両用サスペンション装置であって、
当該車両用サスペンション装置が、前記ループ状スプリングに、それの周上において固定的に設けられた複数のキャリア支持部を備え、
前記キャリアが、それら複数のキャリア支持部によって支持されたことを特徴とする車両用サスペンション装置。
【請求項2】
当該車両用サスペンション装置が、前記複数のキャリア支持部として、3つのキャリア支持部を備えた請求項1に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項3】
前記3つのキャリア支持部の各々の前記ループ状スプリングのループの中心を基準とした配設角度を、支持部配設角度と定義した場合において、
前記3つのキャリア支持部が、それらのいずれの2つのキャリア支持部の支持部配設角度の差も90°以上となる位置に設けられた請求項2に記載の車両用サスペンション装置。
【請求項4】
前記複数のキャリア支持部の各々が、前記キャリアを、自身に対する回動を許容する状態で支持するように構成され、かつ、
前記複数のキャリア支持部の各々によって支持される前記キャリアの部分の中心点を、キャリア支持点と定義した場合において、
前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、その1つに対するキャリア支持点の変位を禁止する状態で前記キャリアを支持し、かつ、前記複数のキャリア支持部のうちの残りのものの各々が、その各々に対するキャリア支持点の変位を許容する状態で前記キャリアを支持するように構成された請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項5】
前記ループ状スプリングの本体部を形成する前記長手部材が、周方向において、第1部位と、車幅方向における曲げ剛性が前記第1部位より低い前記第2部位とに区分けされており、
前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、(a)前記第1部位と(b)前記第1部位と前記第2部位との境界とのいずれかに設けられ、前記複数のキャリア支持部のうちの残りのものの各々が、(a)前記第1部位と(b)前記第1部位と第2部位との境界とを除く前記ループ状スプリングの部分に設けられた請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項6】
前記複数のキャリア支持部のうちの1つが、前記第1被取付部と前記第2被取付部との一方に設けられた請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項7】
当該車両用サスペンション装置が、
車輪軸線方向に見た場合において、前記キャリアが前記ループ状スプリングのループの内側に配設され、かつ、前記ループ状スプリングがホイール本体のリム部内に配置されるように構成された請求項1ないし請求項6のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項8】
前記第1回転軸線と前記第2回転軸線とが、交差し、かつ、一平面内に位置する請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項9】
車輪軸線方向に見て、前記第1被取付部と前記第2被取付部とが互いに重なる請求項1ないし請求項8のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項10】
前記第1回転軸線と前記第2回転軸線との一方が車幅方向と平行である請求項1ないし請求項9のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項11】
当該車両用サスペンション装置が配備された車両が平坦かつ水平な路面上に静止している状態において、前記第1被取付部と前記第2被取付部との少なくとも一方と、車輪軸線とが、水平面に平行に並ぶ請求項1ないし請求項10のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項12】
当該車両用サスペンション装置が、
車体に固定され、(i)前記第1回転軸線を規定して前記第1被取付部を回転可能に支持する第1支持軸部と、(ii)前記第2回転軸線を規定して前記第2被取付部を回転可能に支持する第2支持軸部とが一体的に形成されてなるスプリング支持具を備え、
前記第1被取付部および前記第2被取付部がそのスプリング支持具を介して車体に取り付けられる請求項1ないし請求項11のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項13】
前記キャリアが、車輪を駆動するモータを、車輪軸線方向に見て前記ループ状スプリングのループの内側に配設されるように支持する構造とされた請求項1ないし請求項13のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項14】
当該車両用サスペンション装置が、
車体と車輪との上下方向の相対動作に伴う前記キャリアの姿勢変化によって、車輪のトー角と車輪のキャンバ角との少なくとも一方が変化するように構成された請求項1ないし請求項13のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【請求項15】
当該車両用サスペンション装置が、
横力が車輪に作用した場合に、その横力の大きさに応じて前記ループ状サスペンションスプリングの本体部が弾性変形し、その弾性変形による反力によって、車輪と車体とが上下方向に相対変位するように構成された請求項1ないし請求項14のいずれか1つに記載の車両用サスペンション装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−1027(P2011−1027A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147328(P2009−147328)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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