説明

車両用シート調整装置

【課題】装置の小型化を図ることができる車両用シート調整装置を提供する。
【解決手段】車両用シート調整装置は、操作レバー12が連結され出力軸22に軸支された入力側部材24と、入力側部材24の径方向外側に配置された制御部材32と、操作レバー12の操作時には該操作レバー12の操作力を入力側部材24から制御部材32に伝達可能とし、操作レバー12の復帰時には入力側部材24と制御部材32との力の伝達を解除する第1クラッチ部41と、操作レバー12の駆動操作時には該操作レバー12の操作力を制御部材32から出力軸22に伝達可能とし、操作レバー12の駆動操作以外のときに出力軸22の回動を規制する第2クラッチ部42とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートクッションの高さを調整する車両用シート調整装置に係り、詳しくは車両用シート調整装置のクラッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートには、シートクッションの高さを調整する車両用シート調整装置が設けられたものがある。このような車両用シート調整装置では、乗員がシート上に乗車した状態で、操作レバーの操作によりシートクッションの高さを調整可能となっている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された車両用シート調整装置は、操作レバーによる正方向又は逆方向の入力トルクを入力することによってシートクッションの高さの調整を行うとともに、操作レバーを解放した状態でのシートクッションの位置を保持する第1クラッチ部及び第2クラッチ部を備えている。そして、操作レバーに操作力が入力されると、第1クラッチ部において操作レバーが取り付けられた外輪からローラを介して内輪に操作力が伝達され、第2クラッチ部において内輪から出力軸に操作力が伝達されることで、操作レバーの操作力は出力軸に伝達される。また、操作レバーの駆動操作以外のときは、第2クラッチ部が出力軸の回動を規制する。
【特許文献1】特開2002−54658号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の車両用シート調整装置では、第1クラッチ部と第2クラッチ部ともに力の伝達方向が径方向内向きとなるように構成されているため、外輪を中立位置に戻すための戻しスプリングが軸方向に配置された両クラッチ部間に配置されている。このため、両クラッチ部は軸方向に離間して配置されており、第1クラッチ部から第2クラッチ部へ回転力を伝達する制御部材が軸方向に長くなる。このため、両クラッチ部間の力の伝達の際に制御部材に大きな捻り力が加わる。このため、制御部材は、大きな捻り力に耐えられるような強度が必要となる、例えば制御部材を径方向に厚くする必要があり、装置の大型化を招いていた。
【0005】
また、第1クラッチ部において外輪のカム面(内周面)がローラを介して径方向外側に向けて力を受けるため、その力により変形しないように外輪を肉厚とする必要があり、やはり装置の大型化を招くという問題があった。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、装置の小型化を図ることができる車両用シート調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、操作部材の操作に従って出力軸を回動させ、該出力軸の回動によりシートクッションを上下方向に移動させる車両用シート調整装置であって、前記操作部材が連結され前記出力軸に軸支された入力側部材と、前記入力側部材の径方向外側に配置された制御部材と、前記操作部材の駆動操作時には該操作部材の操作力を前記入力側部材から前記制御部材に伝達可能とし、前記操作部材の復帰時には前記入力側部材と前記制御部材との力の伝達を解除する第1クラッチ部と、前記操作部材の駆動操作時には該操作部材の操作力を前記制御部材から前記出力軸に伝達可能とし、前記操作部材の駆動操作以外のときに前記出力軸の回動を規制する第2クラッチ部と、を備えたことを要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、第1クラッチ部においては径方向内側から径方向外側に向けて力が伝達され、第2クラッチ部においては径方向外側から径方向内側に向けて力が伝達されるため、第1クラッチ部においても径方向外側から径方向内側に向けて力が伝達される場合と比較して、両クラッチ部の半径差が小さくなる。このため、操作力の伝達時に両クラッチ部間に生じる捻り力が低減されるため、捻り力を考慮した部材の補強は必要なく、装置の小型化を図ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車両用シート調整装置において、前記第1クラッチ部は前記入力側部材のカム面と前記制御部材の内周面との間の力の伝達を可能とする第1回転体を備え、前記第2クラッチ部は前記制御部材の内周面と前記出力軸に連結された回動部材のカム面との間の力の伝達を可能とする第2回転体を備え、前記第1回転体の端部と前記第2回転体の端部とが、軸方向に同一又は重複するように配置されていることを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、第1クラッチ部に設けられた第1回転体の端部と、第2クラッチ部に設けられた第2回転体の端部とが、軸方向に同一又は重複するように配置されることで、第1クラッチ部と第2クラッチ部とが近接配置される。このため、第1クラッチ部と第2クラッチ部との間に他の部材が配置される場合と比較して、操作部材の駆動操作時の第1クラッチ部と第2クラッチ部との間の操作力の伝達経路が短くなり、操作力の伝達効率が向上する。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の車両用シート調整装置において、前記入力側部材が解放されたときに該入力側部材を中立位置に復帰させる復帰手段を備え、前記復帰手段を軸方向に前記操作部材に近接した位置に配置したことを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、入力側部材を中立位置に復帰させる復帰手段が軸方向に操作部材に近接した位置に配置されているため、復帰手段の付勢力が入力側部材に効率よく伝達される。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のうち何れか1項に記載の車両用シート調整装置において、前記制御部材は、前記第1クラッチ部の径方向外側に、径方向に延びた段差部を有することを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、制御部材において第1クラッチ部の径方向外側に向かう力を受ける部位に径方向に延びた段差部が在るため、制御部材はその力を好適に受け止めることができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のうち何れか1項に記載の車両用シート調整装置において、前記第2クラッチ部は前記操作部材の駆動操作以外のときに前記出力軸の回動を規制する静止部材を備え、前記制御部材の前記第1クラッチ部を収容した部分の半径を前記静止部材の内周面と同じとしたことを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、制御部材が第1クラッチ部から受ける圧力を静止部材の内周面で受けることにより、制御部材の径方向の変形を抑制し、制御部材のみで前記圧力を受ける場合と比較して制御部材を薄肉化することが可能となる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の車両用シート調整装置において、前記静止部材は、前記第1クラッチ部の径方向外側に、径方向に延びた段差部を有することを要旨とする。
【0018】
上記構成によれば、静止部材において第1クラッチ部の径方向外側に向かう力を受ける部位に径方向に延びた段差部が在るため、静止部材はその力を好適に受け止めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の車両用シート調整装置によれば、装置の小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明と具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1及び図2に示す車両用シート1は、シートクッション1aとシートクッション1aの後端上面から斜め上側に延びるシートバック1bとを備え、車両のフロアに固定されたロアレール2a,2b上に移動可能に支持される。シートクッション1aの下側には、シートクッション1aの座面の高さを調整する車両用シート調整装置3が設けられている。
【0021】
ロアレール2a,2bにはそれぞれアッパレール4a,4bが摺動可能に装着されている。アッパレール4a,4bには、シートクッション1aのベースフレーム5a,5bが昇降可能に支持されている。
【0022】
即ち、アッパレール4aの前後端部にリフタリンク6a,7aの下端部が回動可能に支持され、そのリフタリンク6a,7aの上端部がベースフレーム5aの前後端部に回動可能に連結されている。同様に、アッパレール4bの前後端部にリフタリンク6b,7bの下端部が回動可能に支持され、そのリフタリンク6b,7bの上端部がベースフレーム5bの前後端部に回動可能に連結されている。また、リフタリンク7a,7bとベースフレーム5a,5bの連結部は筒状のトルクロッド8で連結されている。従って、ベースフレーム5a,5bは連動して昇降可能である。
【0023】
ベースフレーム5bには車両用シート調整装置3を構成するクラッチ装置11が取着され、そのクラッチ装置11に操作部材としての操作レバー12が取着され、クラッチ装置11の出力軸にはピニオンギヤ13が設けられている。そして、操作レバー12の操作によりピニオンギヤ13が回転される。クラッチ装置11の後方において、ベースフレーム5bにはセクタギヤ14の基端側下部が回動可能に支持され、そのセクタギヤ14の先端部にはピニオンギヤ13に噛み合う歯部14aが形成されている。そして、ピニオンギヤ13の回転にともなってセクタギヤ14が回動するようになっている。セクタギヤ14の基端側上部と、リフタリンク7bの上端部は駆動リンク15で連結されている。駆動リンク15は、セクタギヤ14及びリフタリンク7bに対しそれぞれ回動可能に連結されている。従って、セクタギヤ14が回動されると、駆動リンク15を介してリフタリンク7bが回動され、トルクロッド8を介してリフタリンク7aが回動され、ベースフレーム5a,5bが連動して昇降される。
【0024】
次に、上記クラッチ装置11の具体的構成を説明する。
図3及び図4に示すように、クラッチ装置11は、略円筒状に形成された静止部材としてのケース21を備え、該ケース21は、図5に示すように、径方向外側に突出形成された複数の取付部21aにより、ベースフレーム5bに取付固定されている。また、ケース21は、操作レバー12側の小径部21bと、反操作レバー12側の大径部21cとを備え、小径部21bと大径部21cとの間には径方向に延びた段差部21dが形成されている。そして、ケース21の内側には出力軸22が配置され、該出力軸22はベースフレーム5bに回転自在に支持されている。
【0025】
出力軸22には、ベースフレーム5bの操作レバー12側に回動部材としてのロータカム23が一体形成され、ベースフレーム5bの反操作レバー12側にピニオンギヤ13が一体形成されている。ロータカム23は、略6角形状に形成されて外周面がカム面23aとして構成され、各辺の中央位置に嵌着溝23bがそれぞれ形成されている。なお、出力軸22とロータカム23、出力軸22とピニオンギヤ13とをそれぞれ別体にて形成し一体回転するように係合してもよい。
【0026】
出力軸22には、図1及び図2に示す操作レバー12が取着された入力側部材24が回転自在に支持されている。図4に示すように、入力側部材24は、円筒状に形成され出力軸22が挿通される内輪25と、該内輪25から径方向外側に向かって延びた板状のレバー係合部26とを備えている。レバー係合部26には、図6に示すように、操作レバー12が嵌着される複数(図においては3個)の嵌着孔26aが周方向に沿って配列されている。これにより、入力側部材24は、操作レバー12とともに回動する。また、出力軸22の先端部には、波型ばねや皿ばねからなる弾性体27とワッシャ28a,28bとがネジ29により取着され、該弾性体27により入力側部材24が軸方向に付勢されている。図7に示すように、内輪25は、軸(図において表裏方向)が直交する断面において、内周が円状に形成され、外周が略5角形状に形成されており、該内輪25の外周面がカム面25aを構成している。
【0027】
また、図3及び図4に示すように、ケース21の内側で入力側部材24の径方向外側には、戻し部材31と制御部材32とが配置されている。戻し部材31は内輪25の径方向外側に遊嵌されている。戻し部材31は、筒状部31aと、該筒状部31aから軸方向に沿って反操作レバー12側に突出形成された複数の係合部31bとを備えている。係合部31bの数は、内輪25の形状に対応し、本実施形態では5個設けられ、周方向に沿って等間隔に配置されている。
【0028】
戻し部材31の径方向外側には、制御部材32が遊嵌されている。制御部材32は、環状の外輪32aと、外輪32aから軸方向に沿って反操作レバー12側に突出形成されるとともに周方向に沿って交互に配置された第1係合部32b及び第2係合部32cとを備えている。外輪32aは、戻し部材31の係合部31bの径方向外側に配置されている。外輪32aの外周面の径は、ケース21の小径部21bの内周面の径と同一とされている。つまり、外輪32aの外周面は、小径部21bの内周面21gに圧接されている。第1係合部32bは、ロータカム23の嵌着溝23bに所定のがたつきを有して嵌入されている。第2係合部32cは、外輪32aから径方向外側に向かって延びた段差部32dを備えたL字状に形成され、軸方向に沿って延びた部分が第1係合部32bよりも径方向外側に配置されている。
【0029】
図4及び図7に示すように、内輪25のカム面25aと制御部材32の外輪32aの内周面と戻し部材31とロータカム23とにより囲まれるとともに、カム面25aに沿って配列され戻し部材31の係合部31bにより複数(5個)の空間が区画形成されている。各空間は、外輪32aの内周面が円筒状に形成され、内輪25のカム面25aが多角形状に形成されているため、周方向両側に外輪32aの内周面とカム面25aとの距離が次第に狭くなる端部が形成されている。図7に示すように、各空間にはそれぞれ2個の第1回転体としての第1ローラ33が収容され、各空間に収容された2個の第1ローラ33間には、第1ガタ止めバネ34が挿入配置されている。図3に示すように、第1ガタ止めバネ34は、各第1ローラ33間に配置されたバネ部34aと、複数のバネ部34aを連結する連結部34bとから構成されている。バネ部34aは、周方向両側にそれぞれ配設された第1ローラ33と、同配設された方向に向かって付勢する。従って、各バネ部34aは、外周面が略多角形状に形成された内輪25の頂点側、即ち内輪25のカム面25aと該カム面25aと径方向に対向する制御部材32の外輪32a内周面とにより形成された略楔状空間の狭い空間となる端部の方向へ第1ローラ33をそれぞれ付勢する。
【0030】
上記のように構成されることで、図3及び図7に示すように、入力側部材24(内輪24)、戻し部材31、第1ローラ33、第1ガタ止めバネ34、制御部材32(外輪32a)により第1クラッチ部41が構成されている。なお、ケース21の前記段差部21d及び制御部材32の前記段差部32dは、第1クラッチ部41の径方向外側に配置されている。
【0031】
図4及び図5に示すように、ロータカム23のカム面23aとケース21の内周面21eとベースフレーム5bとにより囲まれるとともに、カム面23aに沿って配列され制御部材32の第2係合部32cにより複数(6個)の空間が区画形成される。各空間は、ロータカム23のカム面23aが多角形状に形成され、ケース21の内周面21eが円筒状に形成されているため、周方向両側に内周面21eとカム面23aとの距離が次第に狭くなる端部が形成されている。各空間にはそれぞれ2個の第2回転体としての第2ローラ35が収容されている。本実施の形態では、前記第1ローラ33の端部と第2ローラ35の端部とが軸方向に重複するように配置されている。
【0032】
図5に示すように、各空間に収容された2個の第2ローラ35間には、第2ガタ止めバネ36が挿入配置されている。図3に示すように、第2ガタ止めバネ36は、各第2ローラ35間に配置されたバネ部36aと、複数のバネ部36aを連結する連結部36bとから構成されている。各バネ部36aは、外周面が略多角形状に形成されたロータカム23の頂点側、即ちロータカム23のカム面23aと該カム面23aと径方向に対向するケース21の内周面とにより形成された略楔状空間の狭い空間となる端部の方向へ第2ローラ35をそれぞれ付勢する。
【0033】
上記のように構成されることで、図3及び図6に示すように、制御部材32(第1係合部32b及び第2係合部32c)、ロータカム23、第2ローラ35、第2ガタ止めバネ36、ケース21により第2クラッチ部42が構成されている。本実施の形態では、第1クラッチ部41と第2クラッチ部42とが軸方向に近接配置されている。
【0034】
また、図3に示すように、ケース21と入力側部材24と戻し部材31には、それぞれフック部21f,24a,31cが径方向に重なるように形成されている。図8に示すように、各フック部21f,24a,31cは、復帰手段としての戻しバネ37,38と係合し該戻しバネ37,38の弾性力により径方向に重なる位置に回動されるように付勢されることで、入力側部材24と戻し部材31とをケース21のフック部21fに応じた中立位置に戻すために設けられている。本実施形態では、戻しバネ37,38は軸方向に操作レバー12に近接して配置されている。
【0035】
また、図4に示すように、ベースフレーム5bはクラッチ装置11を支持する位置に補助フレーム16が取着されている。この補助フレーム16はその基端部がベースフレーム5bに例えばボルト等で固定され、先端部はベースフレーム5bに対し所定間隔を隔てて平行となるよう延設されている。
【0036】
補助フレーム16には貫通孔が形成されて第1の軸受部17が形成され、ベースフレーム5bには第1の軸受部17と中心線が重なるように貫通孔が形成されて第2の軸受部18が形成されている。第2の軸受部18の径は、第1の軸受部17の径より大きい径で形成されている。
【0037】
出力軸22はその中間部が第2の軸受部18に回転可能に支持され、先端部が第1の軸受部17に回転可能に支持されている。また、補助フレーム16とベースフレーム5bとの間で、ピニオンギヤ13にセクタギヤ14の歯部14aが噛み合わされている。
【0038】
図4に示すように、ピニオンギヤ13の側方において、出力軸22の先端部側面には、互いに平行な2つの平面部22aが形成されている。出力軸22の先端部周囲にスパイラルスプリング39が配設され、図9に示すようにそのスパイラルスプリング39の内周側端部39aは略平行に対向するように形成されている。スパイラルスプリング39の内周側端部39a内側に平面部22aが当接するように出力軸22の先端部が嵌入され、スパイラルスプリング39の外周側端部39bが補助フレーム16とベースフレーム5bとの間に支持される掛止軸40に係合されている。従って、スパイラルスプリング39の付勢力はベースフレーム5bを支点として出力軸22に所要の回転トルクを付与し、そのトルクはベースフレーム5a,5bを上昇させる方向に作用する。
【0039】
次に、上記のようなクラッチ装置11を備えた車両用シート調整装置の動作を説明する。
図4に示すように、ユーザが操作レバー12をシート上昇方向に回動させると、操作レバー12が取着された入力側部材24が一体的に回動する。この入力側部材24の回動により、図7に示す内輪25が例えば時計方向に回動し、内輪25のカム面25aと制御部材32の外輪32aとの間に配設された第1ローラ33が楔隙間に係合する(噛み込む)。これにより、内輪25の回動が制御部材に伝達される。このように、第1クラッチ部41においては、操作レバー12の駆動操作時には操作レバー12の操作力を入力側部材24から制御部材32に伝達可能である。
【0040】
制御部材32が回動すると、図5に示す制御部材32の第1係合部32bがロータカム23の嵌着溝23b側面と係合し、ロータカム23が図において時計方向に回動する。この時、ロータカム23のカム面23aとケース21の内周面21eとの間に配設された第2ローラ35は、第2係合部32cによりロータカム23の回動方向に押されて移動するため、楔隙間に係合しない(噛み込まない)。つまり、出力軸22は操作レバー12の操作に従って回動する。このように、第2クラッチ部42においては、操作レバー12の駆動操作時には操作レバー12の操作力を制御部材32から出力軸22に伝達可能である。これにより、出力軸22のピニオンギヤ13と歯合するセクタギヤ14が回転される。セクタギヤ14の回動に基づいて、駆動リンク15を介してリフタリンク7a,7bが回動され、ベースフレーム5a,5bが上昇する。従って、シートクッション1aが上昇する。このとき、スパイラルスプリング39の付勢力が出力軸22の回転を助勢する方向に作用するため、操作レバー12の操作力が軽減される。
【0041】
操作レバー12を解放すると、車両用シート1の重量及び乗員の体重による負荷によって、図5において、出力軸22が反時計方向に回動する。この時、出力軸22とロータカム23とが一体回動し、このロータカム23の回動により、上記と同様に、ロータカム23のカム面23aとケース21の内周面21eとの間に配設された第2ローラ35が楔隙間に係合する(噛み込む)。ケース21はベースフレーム5bに固定されているため、出力軸22の回動が阻止される。つまり、第2クラッチ部42においては、操作レバー12の駆動操作以外のときは出力軸22の回動を規制する。
【0042】
上記操作レバー12の解放により、戻し部材31と入力側部材24とは戻しバネ37,38により中立位置まで回動する。この時、第1ローラ33は、戻し部材31の係合部31bによって戻し部材31及び入力側部材24の回動方向と同方向に移動し、噛み込まないため、中立方向への回動は規制されない。つまり、第1クラッチ部41においては操作レバー12の復帰時には入力側部材24と制御部材32との力の伝達を解除する。
【0043】
クラッチ装置11は、シート上昇方向に回動させた操作レバー12を中立位置へ回動する場合も、上記の操作レバー12を解放したときと同様に動作するため、該操作レバー12の回動が規制されない。なお、操作レバー12をシート下降方向に回動した場合、回動方向は異なるが上記と同様に動作するため、説明を省略する。
【0044】
本実施形態の構成によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
(1)第1クラッチ部41においては径方向内側から径方向外側に向けて力が伝達され、第2クラッチ部42においては径方向外側から径方向内側に向けて力が伝達されるため、第1クラッチ部においても径方向外側から径方向内側に向けて力が伝達される場合と比較して、第1クラッチ部41と第2クラッチ部42との半径差が小さくなる。このため、操作力の伝達時に第1クラッチ部41と第2クラッチ部42と間に生じる捻り力が低減されるため、捻り力を考慮した制御部材32の補強は必要なく、装置の小型化を図ることができる。
【0045】
(2)上記特許文献1記載の如く制御部材を入力側部材の径方向内側に配置すると、制御部材を、第1クラッチ部のローラの内側からそのローラの外側に位置する第2クラッチ部のローラまで延びる形状にせざるを得なくなるため、軸方向において制御部材が両ローラ間に介在することとなり、両ローラを軸方向に近づけて配置することができなくなる。これに対し、本実施形態の構成によれば、制御部材32を入力側部材24の径方向外側に配置しているので、第1クラッチ部41の第1ローラ33と第2クラッチ部42の第2ローラ35との間に制御部材32を介在させない構成とできる。即ち、第1ローラ33の端部と第2ローラ35の端部とが重複するように配置することで、第1ローラ33と第2ローラ35とを軸方向に近接して配置することを容易に実現できる。
【0046】
そして、このように第1クラッチ部41の第1ローラ33と第2クラッチ部の第2ローラ35とを軸方向に近接して配置することで、第1クラッチ部41と第2クラッチ部42との間に他の部材が配置される場合と比較して、操作レバー12の駆動操作時の第1クラッチ部41と第2クラッチ部42と間の操作力の伝達経路が短くなり、操作力の伝達効率が向上する。
【0047】
(3)入力側部材24を中立位置に復帰させる戻しバネ37,38が軸方向に操作レバー12に近接した位置に配置されているため、戻しバネ37,38の付勢力を入力側部材24に伝達する第1クラッチ部41とは軸方向に離間した位置となる。このため、戻しバネ37,38の付勢力が入力側部材24に効率よく伝達される。
【0048】
(4)制御部材32において第1クラッチ部41の径方向外側に向かう力を受ける部位に径方向に延びた段差部32dが在るため、制御部材はその力を好適に受け止めることができる。
【0049】
(5)制御部材32が第1クラッチ部41から受ける圧力をケース21の内周面21gで受けることにより、制御部材32の径方向の変形を抑制し、制御部材32のみで前記圧力を受ける場合と比較して制御部材を薄肉化することが可能となる。
【0050】
(6)ケース21において第1クラッチ部41の径方向外側に向かう力を受ける部位に径方向に延びた段差部21dが在るため、ケース21はその力を好適に受け止めることができる。
【0051】
なお、本実施形態は上記構成に限らず、以下の態様に変更してもよい。
・上記実施形態では、第1クラッチ部41の第1ローラ33の端部と第2クラッチ部42の第2ローラ35の端部とが軸方向に重複するように配置されているが、第1ローラ33の端面と第2ローラ35の端面とが軸方向に同一位置となるように配置してもよい。
【0052】
・上記実施形態では、クラッチ装置11のケース21をベースフレーム5bに直接取り付け固定したが、出力軸22を支持するベースを設け、該ベースにケース21を固定してクラッチ装置11をユニット化してもよい。
【0053】
・上記実施形態では、スパイラルスプリング39によりシートクッション1aを上昇させるように付勢したが、トーションバー等の他の弾性体により付勢するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】車両用シートの斜視図。
【図2】車両用シート調整装置の斜視図。
【図3】クラッチ装置の分解斜視図。
【図4】クラッチ装置の断面図。
【図5】図4のA−A線断面図。
【図6】入力側部材の説明図。
【図7】図4のB−B線断面図。
【図8】戻しバネの説明図。
【図9】スパイラルスプリングの正面図。
【符号の説明】
【0055】
1a…シートクッション、3…車両用シート調整装置、12…操作レバー(操作部材)、21…ケース(静止部材)、21d…段差部、21e…内周面、23…ロータカム(回動部材)、23a…カム面、24…入力側部材、22…出力軸、25a…カム面、32…制御部材、32d…段差部、33…第1ローラ(第1回転体)、35…第2ローラ(第2回転体)、37,38…戻しバネ(復帰手段)、41…第1クラッチ部、42…第2クラッチ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作部材の操作に従って出力軸を回動させ、該出力軸の回動によりシートクッションを上下方向に移動させる車両用シート調整装置であって、
前記操作部材が連結され前記出力軸に軸支された入力側部材と、
前記入力側部材の径方向外側に配置された制御部材と、
前記操作部材の駆動操作時には該操作部材の操作力を前記入力側部材から前記制御部材に伝達可能とし、前記操作部材の復帰時には前記入力側部材と前記制御部材との力の伝達を解除する第1クラッチ部と、
前記操作部材の駆動操作時には該操作部材の操作力を前記制御部材から前記出力軸に伝達可能とし、前記操作部材の駆動操作以外のときに前記出力軸の回動を規制する第2クラッチ部と、
を備えたことを特徴とする車両用シート調整装置。
【請求項2】
前記第1クラッチ部は前記入力側部材のカム面と前記制御部材の内周面との間の力の伝達を可能とする第1回転体を備え、
前記第2クラッチ部は前記制御部材の内周面と前記出力軸に連結された回動部材のカム面との間の力の伝達を可能とする第2回転体を備え、
前記第1回転体の端部と前記第2回転体の端部とが、軸方向に同一又は重複するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用シート調整装置。
【請求項3】
前記入力側部材が解放されたときに該入力側部材を中立位置に復帰させる復帰手段を備え、前記復帰手段を軸方向に前記操作部材に近接した位置に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用シート調整装置。
【請求項4】
前記制御部材は、前記第1クラッチ部の径方向外側に、径方向に延びた段差部を有することを特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項に記載の車両用シート調整装置。
【請求項5】
前記第2クラッチ部は前記操作部材の駆動操作以外のときに前記出力軸の回動を規制する静止部材を備え、前記制御部材の前記第1クラッチ部を収容した部分の半径を前記静止部材の内周面と同じとしたことを特徴とする請求項1〜4のうち何れか1項に記載の車両用シート調整装置。
【請求項6】
前記静止部材は、前記第1クラッチ部の径方向外側に、径方向に延びた段差部を有することを特徴とする請求項5に記載の車両用シート調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−168600(P2007−168600A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368630(P2005−368630)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】