説明

車両用シート

【課題】シート構造物を起こし上げるバネの附勢力を、起こし上げ速度に弾みが付き過ぎないように調節できるようにする。
【解決手段】シートバック2(シート構造物)がシートクッション3に対して起こし上げ回転可能にヒンジ連結された車両用シート1である。シートバック2とシートクッション3との間に連結されたリンク機構6は、シートバック2に一体的に設けられた第1リンク部材6Aと、シートクッション3に回転可能に軸連結された第2リンク部材6Bと、第1リンク部材6Aと第2リンク部材6Bとにそれぞれ軸連結された第3リンク部材6Cと、シートクッション3により構成される第4リンク部材6Dと、から成る4節リンク機構により構成されている。第2リンク部材6Bと第4リンク部材6Dとの連結部(関節部)に、リンク機構6をシートバック2の起こし上げ回転方向にリンク運動させるように附勢する渦巻きバネ7が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。詳しくは、シート構造物がフロア上に設けられたベース部材に対して起こし上げ回転可能にヒンジ連結された車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートにおいて、シートバックがシートクッションにリクライニング可能に連結され、シートバックに常時、前回転方向のバネ附勢力がかけられた構成とされたものが知られている(特許文献1)。上記バネは、シートバックとシートクッションとの連結部に掛着されており、シートバックの起こし上げをバネ附勢力によって行えるようにするものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−305549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の従来技術では、シートバックの起こし上げが起立位置に近づくにつれて、バネによる附勢力が打ち勝ち過ぎてしまい、起こし上げ速度に弾みが付き過ぎてしまうことがある。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、シート構造物を起こし上げるバネの附勢力を、起こし上げ速度に弾みが付き過ぎないように調節できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用シートは次の手段をとる。
第1の発明は、シート構造物がフロア上に設けられたベース部材に対して起こし上げ回転可能にヒンジ連結された車両用シートである。ベース部材には、シート構造物との間に連結されてシート構造物の起こし上げ回転に連動してリンク運動するリンク機構が配設されている。リンク機構は、シート構造物に一体的に設けられた第1リンク部材と、ベース部材に回転可能に軸連結されて設けられた第2リンク部材と、第1リンク部材と第2リンク部材とにそれぞれ軸連結されて設けられた第3リンク部材と、ベース部材により構成される第4リンク部材と、から成る4節リンク機構により構成されている。第2リンク部材又は第3リンク部材のいずれかの関節部に、リンク機構をシート構造物の起こし上げ回転方向にリンク運動させるように附勢するバネが設定されている。
【0006】
この第1の発明によれば、バネを第2リンク部材又は第3リンク部材のいずれかの関節部に設定することで、バネにより発揮される附勢トルクのシート構造物の起こし上げに伴う変移曲線を、設定する関節部の選択やリンク機構のリンク比の変更によって適宜変化させることが可能となる。したがって、シート構造物の起こし上げに伴うバネの附勢トルクの変移曲線を、シート構造物の自重作用の変移曲線に近づけるように調整して、シート構造物の起こし上げ速度に弾みが付き過ぎないように調節することができる。
【0007】
第2の発明は、上述した第1の発明において、バネが、第2リンク部材と第4リンク部材とが軸連結された関節部に設定されているものである。
【0008】
この第2の発明によれば、バネを、固定リンク(第4リンク部材)となるベース部材と第2リンク部材との関節部に設定することで、バネをシート構造物が回転しても位置が変わらない定位置に設定することができる。したがって、リンク機構を作動スペースの小さなコンパクトな構成とすることができる。
【0009】
第3の発明は、上述した第1又は第2の発明において、第2リンク部材と第4リンク部材とが軸連結された関節部に、これらリンク部材間の相対回転を止めてシートバックの背凭れ角度を固定するリクライニング装置が配設されているものである。
【0010】
この第3の発明によれば、リクライニング装置を、上記固定リンク(第4リンク部材)となるベース部材と第2リンク部材との関節部に設定することで、リクライニング装置をシート構造物が回転しても位置が変わらない定位置に設定することができる。したがって、リクライニング装置を作動操作する操作部材等の関係する各種部品も、ベース部材に対して定位置に設定することができ、を作動スペースの小さなコンパクトな構成とし、かつ、安定した操作性を得られる構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の車両用シートの骨格構造を示した分解斜視図である。
【図2】車両用シートの側面図である。
【図3】リクライニング装置の分解斜視図である。
【図4】図2のIV-IV線断面図である。
【図5】シートバックの傾動回転に連動したリンク機構の動きを示した側面図である。
【図6】リンク機構の回転角とシートバックの回転角との関係を示した模式図である。
【図7】リンク機構のリンク比を変えた場合の回転角の関係を示した模式図である。
【図8】リンク機構のリンク比を変えた場合の回転角の関係を示した模式図である。
【図9】シートバックの自重作用とバネ附勢トルクの変移曲線を比較したグラフである。
【図10】他の実施例として示した側方跳ね上げ式の車両用シートの正面図である。
【図11】他の実施例として示した前跳ね上げ式の車両用シートの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
始めに、実施例1の車両用シート1の構成について、図1〜図9を用いて説明する。本実施例の車両用シート1は、図1に示すように、着座乗員の背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、頭部の受け止め部となるヘッドレスト4と、を有して構成されている。ここで、シートバック2が、本発明の「シート構造物」に相当し、シートクッション3が、本発明の「ベース部材」に相当する。上記シートクッション3は、車両のフロア上に、後述する左右一対のスライド装置8を間に介して連結されている。ヘッドレスト4は、シートバック2の上部に取り付けられて設けられている。
【0014】
シートバック2は、その下端部が、連結軸6P1により上述したシートクッション3の後端部に軸連結されており、シート前後方向に傾動回転可能な状態とされて設けられている。また、上記シートバック2とシートクッション3との間には、シートバック2の傾動回転に連動してリンク運動するリンク機構6が連結されて設けられている。このリンク機構6は、自由度が1の4節リンク機構により構成されており、そのうちの1つの関節部に設けられた回転止め構造を備えたリクライニング装置5の構成により、そのリンク運動が止められたり許容されたりするように切り替えられるようになっている。このリンク機構6のリンク運動が止められたり許容されたりする切り替えにより、シートバック2の背凭れ角度が固定されたり調整可能となったりするように切り替えられるようになっている。
【0015】
上述したリクライニング装置5は、常時は、図3で後述する渦巻きバネ60のバネ力作用によって、リンク機構6のリンク運動を止めた状態(ロック状態)となって保持されている。このリクライニング装置5のロック状態は、図1に示すシートクッション3の車両外側(紙面右側)の側部に設けられた解除レバー5Cの引き上げ操作によって解除されるようになっている。ここで、上記解除レバー5Cは、リクライニング装置5の軸心部に挿通された操作軸部材5Aに一体的に結合されており、その引き上げ操作に伴って、操作軸部材5Aを一体的に軸回動させて、リクライニング装置5をロック状態からアンロック状態へと切り替えるようになっている。この切り替え操作により、リンク機構6がリンク運動することのできる状態へと切り替えられて、シートバック2の背凭れ角度を自由に調節することができる状態となる。そして、このリクライニング装置5のアンロック状態は、解除レバー5Cの引き上げ操作をやめることにより、解除レバー5Cが操作軸部材5Aと共に元の位置に戻されて、ロック状態に戻されるようになっている。これにより、シートバック2がその調節された背凭れ角度位置に固定された状態となる。
【0016】
ここで、上記リンク機構6とシートクッション3との連結部には、上述したリンク機構6に対し、シートバック2を常時、シート前方側に回転させる方向に回転附勢力をかける2つの渦巻きバネ7が掛着されている。ここで、渦巻きバネ7が本発明の「バネ」に相当する。これら渦巻きバネ7の掛着構造については後述するが、これら渦巻きバネ7の附勢力により、シートバック2は、その背凭れ角度の固定状態が解かれることで、着座乗員の背部に当たる位置まで前方側へと起こし上げられて、着座乗員の背部が前後に傾動される動きに追従してその背凭れ角度位置の調節が行なわれるようになっている。
【0017】
ここで、上記シートバック2は、その背凭れ角度が上方側に真っ直ぐに起立した位置からシート後方側に傾倒される角度領域内にあるときには、解除レバー5Cの引き上げ操作をやめることにより、上述したように背凭れ角度が固定された状態(ロック状態)に戻されるようになっている。しかし、シートバック2は、その背凭れ角度が上記起立位置からシート前方側に傾倒される角度領域内にあるときには、解除レバー5Cの引き上げ操作をやめても、背凭れ角度が固定されず、傾動可能なままの状態に保たれるようになっている。
【0018】
前者の背凭れ角度が固定状態に戻される角度領域は、後述するリクライニング装置5に設定されたロックゾーンの回転領域により形成されており、後者の背凭れ角度が固定状態に戻されない角度領域は、後述するリクライニング装置5に設定されたフリーゾーンの回転領域により形成されている。上記フリーゾーンの領域設定により、車両用シート1に人が座っていない状態で、解除レバー5Cの引き上げ操作をして、シートバック2が上記渦巻きバネ7の附勢力によって上記起立位置を越えた前方位置まで倒し込まれたら、あとは解除レバー5Cの操作をやめてしまっても、シートバック2が後述するシートクッションフレーム3Fに設けられたストッパ3Fdと係止する前傾姿勢となる位置まで、前に倒し込まれていくようになっている。
【0019】
次に、上述した車両用シート1の各部の構成について詳しく説明する。シートバック2は、その骨格を成すシートバックフレーム2Fと、シートバック2の外形形状を成すクッション部となるパッド材2Pと、外カバーとなる布製の表皮材2Cと、から構成されている。シートバックフレーム2Fは、鋼管材(丸パイプ)を逆U字状に大きく曲げ返して形成することにより、その両サイドのフレーム間の骨格幅が、シートバック2の幅方向の中央箇所に近寄った、幅方向にコンパクトなフレーム形状に形成されている。上記シートバックフレーム2Fの両サイドのフレーム間には、その上下2箇所の前面部位置に、それぞれ横長状の取付板2F1が架け渡されて一体的に結合されている。
【0020】
また、上記シートバックフレーム2Fの両サイドのフレーム間の下部には、シート前方側に張り出す「コ」形状のコ字板2F2が、上記両サイドのフレーム間に跨って一体的に結合された状態となって設けられている。上記コ字板2F2は、後述するシートクッションフレーム3Fの後端部に張り出した状態で設けられたコ字板3F3に対し、その互いに張り出し合う両板部同士が重ねられて連結軸6P1が軸方向に挿通されて回転可能に軸連結された状態とされている。これにより、シートバックフレーム2Fが、シートクッションフレーム3Fに対して、シート前後方向に傾動回転可能に軸連結された状態とされている。
【0021】
また、上記シートバックフレーム2Fの上記コ字板2F2の取付け箇所から更に下方側に張り出す両サイドフレームの下端部間には、これら下端部間に跨って板状の下端側ブラケット2F3が一体的に架け渡されて結合された状態となって設けられている。この下端側ブラケット2F3には、後述するリンク機構6を構成する第3リンク部材6Cの後端部が、連結軸6P4により回転可能に軸連結された状態とされている。
【0022】
上述したパッド材2Pは、発泡ウレタンにより構成されており、その内部には、鋼線製のワイヤー2P1と上下2枚の横長状の取付板2P2とが、それぞれ発泡成形時にインサートされて一体成形されて埋設された状態となっている。上記ワイヤー2P1は、パッド材2Pの外周縁形状に沿って環状に巡らされており、その剛性によりパッド材2Pの基本的形状を維持する機能を果たすものとなっている。取付板2P2は、上記埋設されたワイヤー2P1間に跨る上下2箇所の位置にそれぞれ架け渡されて一体的に結合されている。これら取付板2P2には、予めボルト2Bが2個ずつ一体的に結合された状態となっており、各ボルト2Bがパッド材2Pの形状からシート後方側に張り出して設けられた状態となっている。
【0023】
上記パッド材2Pは、上記シートバックフレーム2Fに対して、次のように組み付けられて固定されている。すなわち、パッド材2Pは、上述した各取付板2P2に取り付けられた各2個ずつのボルト2Bを、それぞれ、シートバックフレーム2Fの各取付板2F1に形成された各2個ずつの孔2Fa内にそれぞれシート前方側から挿通してセットした状態とし、その挿通した各ボルト2Bに対してそれぞれ後方側からナット2Nを螺合させて締結することにより、シートバックフレーム2Fに一体的に固定された状態となって組み付けられている。
【0024】
上述したパッド材2Pは、上部が横幅方向に広く、下部が横幅方向に狭い形に形成された、上広がりの形に形成されている。詳しくは、上記パッド材2Pの上部形状は、着座乗員の背部を、着座乗員の両肩部まで広く支えることができる程度に横幅方向に広く形状を有する形に形成されている。このパッド材2Pの上部の広がり形状は、パッド材2Pの中間部にかけて漸次下方側に狭められていく形に形成されている。そして、このパッド材2Pの中間部から下部にかけての形状は、着座乗員の腰部を支えられる程度の狭い横幅を有した寸胴な形に形成されている。表皮材2Cは、上述したパッド材2Pに前面側から被せ付けられており、その周縁部が、パッド材2Pの上下左右の各周縁部から後方側に回し込まれてパッド材2Pの後面部に掛着されることにより、パッド材2Pの表面全体を覆った状態となって張設されている。
【0025】
上述したシートバック2は、上述したようにパッド材2Pの下部の横幅形状が狭く、上広がりの形状となっていることにより、パッド材2Pの下部の両サイド部に空間2P3が形成される構成となっている。この空間2P3は、図2に示すように、後席シートの乗員が両脚を前に投げ出すことのできる脚出しスペースとして利用することができるようになっている。これにより、前席シートと後席シートとの間隔が狭い車両においても、後席シートに着座する乗員の居住性を十分に確保することができるようになっている。
【0026】
図1に示すように、シートクッション3は、その骨格を成すシートクッションフレーム3Fと、シートクッション3の外形形状を成すクッション部となるパッド材3Pと、外カバーとなる布製の表皮材3Cと、から構成されている。シートクッションフレーム3Fは、鋼管材(丸パイプ)を四角枠状に折り曲げて形成したものとなっている。上記シートクッションフレーム3Fの両サイドのフレーム間には、その前後2箇所の上面部位置に、それぞれ横長状の取付板3F1が架け渡されて一体的に結合されている。また、上記シートクッションフレーム3Fの前後のフレーム間には、前後方向に長尺な断面L字状のベース板3F2が架け渡されて一体的に結合されている。このL字板は、その水平方向に向けられた面部が、上記シートクッションフレーム3Fの前後のフレームの下面部に一体的に溶着されて固定されており、もう一方側の面部が、シートクッションフレーム3Fから下方側に垂下した状態とされて設けられている。
【0027】
また、上記シートクッションフレーム3Fの後側フレームの中央部には、シート後方側に張り出す「コ」形状のコ字板3F3が、一体的に結合された状態となって設けられている。上記コ字板3F3は、前述したシートバックフレーム2Fの下部に結合されたコ字板2F2に対し、その互いに張り出し合う両板部同士が重ねられた状態で、連結軸6P1により回転可能に軸連結された状態とされている。上記シートクッションフレーム3Fは、その四隅に結合された脚フレーム3F4により、その下側のフロア上に設置された左右一対のスライド装置8の各アッパレール8B上に設置されて固定された状態とされている。各スライド装置8の構成については、後に詳述することとする。
【0028】
パッド材3Pは、発泡ウレタンにより構成されており、その内部には、鋼線製のワイヤー3P1と前後2枚の横長状の取付板3P2とが、それぞれ発泡成形時にインサートされて一体的に成形されて埋設された状態となっている。上記ワイヤー3P1は、パッド材3Pの外周縁形状に沿って環状に巡らされており、その剛性によりパッド材3Pの基本的形状を維持する機能を果たすものとなっている。取付板3P2は、上記埋設されたワイヤー3P1間に跨る前後2箇所の位置にそれぞれ架け渡されて一体的に結合された状態となって設けられている。これら取付板3P2には、予めボルト3Bが2個ずつ一体的に結合された状態となっており、各ボルト3Bがパッド材3Pの形状からシート下方側に張り出して設けられた状態となっている。
【0029】
上記パッド材3Pは、上記シートクッションフレーム3Fに対して、次のように組み付けられて固定されている。すなわち、パッド材3Pは、上述した各取付板3P2に取り付けられた各2個ずつのボルト3Bを、それぞれ、シートクッションフレーム3Fの各取付板3F1に形成された各2個ずつの孔3Fa内にそれぞれ上方側から挿通してセットした状態とし、その挿通した各ボルト3Bにそれぞれ下方側からナット3Nを螺合させて締結することにより、シートクッションフレーム3Fに一体的に固定された状態となって組み付けられている。
【0030】
表皮材3Cは、上述したパッド材3Pに上面側から被せ付けられており、その周縁部が、パッド材3Pの前後左右の各周縁部から下方側に回し込まれてパッド材3Pの下面部に掛着されることにより、パッド材3Pの表面全体を覆った状態となって張設されている。また、上記パッド材3Pの下方部にも、同様の構成を備えた表皮材3Cが、シートクッションフレーム3Fの下側の脚フレーム3F4によって底上げされた空間部を外周側から取り囲むように被覆した状態となって設けられている。
【0031】
ヘッドレスト4は、発泡ウレタンから成るパッド材4Pに布製の表皮材4Cが被せ付けられた構成となっており、上述したシートバックフレーム2Fの上部の曲返し部分に上方側から嵌め込まれてセットされた状態となっている。
【0032】
各スライド装置8は、それぞれ、フロア上に固定されたロアレール8Aと、これらロアレール8Aに前後スライド可能に組み付けられたアッパレール8Bと、これらレール間に設けられた図示しないスライドロック機構と、から構成されている。各ロアレール8Aは、それぞれ、前後一対の脚フレーム8A1によって、フロア上から底上げされた位置で固定された状態となって設けられている。アッパレール8Bは、その上面部に、上述したシートクッションフレーム3Fの四隅に結合された脚フレーム3F4の下端部が結合されており、シートクッションフレーム3Fと一体的に結合された構成となっている。上記スライド装置8は、常時は、上述した図示しないスライドロック機構によって各アッパレール8Bのスライドがロックされた状態に保持されており、図示しないレバーの操作によって上記のスライドロック状態を解除することにより、各アッパレール8Bをスライド可能な状態にして、シートクッション3の前後方向の着座位置の調節を行えるようになっている。
【0033】
リンク機構6は、図2に示すように、シートバックフレーム2F自体によって構成される第1リンク部材6Aと、シートクッションフレーム3Fのベース板3F2に回転可能に軸連結された第2リンク部材6Bと、上記第1リンク部材6Aの下端部と第2リンク部材6Bの下端部とにそれぞれ各端部が回転可能に軸連結された第3リンク部材6Cと、シートクッションフレーム3F自体によって構成される第4リンク部材6Dと、によって構成される、4節リンク機構として構成されている。詳しくは、上記第1リンク部材6Aは、上述した連結軸6P1により第4リンク部材6D(ベース板3F2)に回転可能に軸連結されている。第2リンク部材6Bは、その上端部が、後述するリクライニング装置5によって構成される連結軸6P2により、第4リンク部材6D(ベース板3F2)に回転可能に軸連結されている。第3リンク部材6Cは、その前端部が、連結軸6P3により、第2リンク部材6Bの下端部に回転可能に軸連結されており、後端部が、連結軸6P4により、第1リンク部材6A(シートバックフレーム2Fに一体的に結合された下端側ブラケット2F3)に回転可能に軸連結されている。
【0034】
これにより、図5に示すように、リンク機構6は、シートバック2が連結軸6P1のまわりに前後方向に傾動回転する動きに連動して、第2リンク部材6Bと第1リンク部材6Aとが、第4リンク部材6D(ベース板3F2)を固定リンクとして、前後方向に揺動回転する態様でリンク運動する構成とされている。上述した第2リンク部材6Bと第4リンク部材6D(ベース板3F2)との連結軸6P2を構成するリクライニング装置5は、詳細は後述するが、第2リンク部材6Bを第4リンク部材6Dに対して回転可能に軸支する回転軸装置としての機能に加え、通常時、第2リンク部材6Bを回転止めした状態として保持することのできる回転ロック装置としての機能も備えた構成となっている。
【0035】
このリクライニング装置5の構成により、シートバック2は、常時は、上述したリンク機構6が回転止めされた状態に保持される構成を介して、その背凭れ角度が固定された状態に保持されるようになっている。そして、シートバック2は、上述したリクライニング装置5の回転止め状態が上述した解除レバー5Cの引き上げ操作によって解除されることにより、リンク機構6のリンク運動を伴いながら、前後方向に傾動回転することができる状態に切り替えられるようになっている。
【0036】
ここで、上述したリクライニング装置5が介在して設けられた第2リンク部材6Bとベース板3F2との間には、第2リンク部材6Bに、常時、図示反時計回り方向の回転附勢力をかけることで、シートバック2に、常時、前回転する方向の回転附勢力をかける渦巻きバネ7が2個掛着されている。これら渦巻きバネ7は、図4に示すように、それらの内側の端部が、ベース板3F2に切り起こされて形成されたバネ掛板3Fbに掛着され、それらの外側の端部が、第2リンク部材6Bに結合された断面L字状のバネ掛板6B2の突出する面部に掛着されて、横並び状に同じ向きで設けられた状態とされている。
【0037】
ところで、図6に示すように、上述したリンク機構6は、第1リンク部材6Aのリンク長L1と第2リンク部材6Bのリンク長M1とが同じとなる、リンク比が1:1の並行リンクの構成となっている。これにより、シートバック2(第1リンク部材6A)の背凭れ角度の変化角θ1と、第2リンク部材6Bの変化角γ1と、が同じ割合で変化する構成となっている。ここで、上述した回転ロック装置として機能するリクライニング装置5は、後述するように歯と歯の噛合により回転をロックする構造となっており、その歯と歯の噛合ピッチが2度間隔に設定されてことにより、2度間隔で回転のロックが行えるようになっている。したがって、シートバック2の背凭れ角度の調整ピッチも、上述したようにリンク機構6のリンク比が1:1の構成となっていることにより、上記リクライニング装置5の噛合ピッチと同じ、2度間隔の調整ピッチで背凭れ角度の調整が行えるようになっている。
【0038】
上記シートバック2の背凭れ角度の調整ピッチは、上述したリンク機構6のリンク比を変更することにより、リクライニング装置5の噛合ピッチ(2度)よりも小さくなるように調整したり、大きくなるように調整したりすることができる。具体的には、図7に示すように、第2リンク部材6Bのリンク長M2に対して第1リンク部材6Aのリンク長L2が長くなるように両者のリンク比を設定することにより、第2リンク部材6Bの変化角γ2に対する第1リンク部材6A(シートバック2)の変化角θ2が小さくなるように調整することができる。これにより、シートバック2の背凭れ角度の調整ピッチが、リクライニング装置5の噛合ピッチである2度よりも小さくなる(細かくなる)ように設定されることとなる。また、図8に示すように、第2リンク部材6Bのリンク長M3に対して第1リンク部材6Aのリンク長L3が短くなるように両者のリンク比を設定することにより、第2リンク部材6Bの変化角γ3に対する第1リンク部材6A(シートバック2)の変化角θ3が大きくなるように調整することができる。これにより、シートバック2の背凭れ角度の調整ピッチが、リクライニング装置5の噛合ピッチである2度よりも大きくなるように設定されることとなる。
【0039】
また、上述したリンク機構6(4節リンク機構)の第2リンク部材6Bと第4リンク部材6Dとの連結部に、上述したシートバック2を前回転方向に附勢するための渦巻きバネ7が2個設定されていることにより、これら渦巻きバネ7により発揮される附勢トルクは、シートバック2の起こし上げ回転に伴って、図9の実線に示される変移曲線P1のように変移するようになる。ここで、図9のグラフは、横軸にシートバック2の回転角度、縦軸に渦巻きバネ7により発揮される附勢トルク、又はシートバック2の自重モーメントの大きさをとったものである。図中、破線で示されているU字状に変移する変移曲線P2は、シートバック2の回転中心(連結軸6P1)まわりに作用するシートバック2の自重モーメントの変移を示した曲線である。この変移曲線P2のほぼ中央に位置する最下点位置が、シートバック2が起立した角度位置を示しており、そこから右側又は左側に向かって自重モーメントが増大していく各変移が、シートバック2が後傾又は前傾していくにしたがって、その自重モーメントが増大していく様子として示されている。
【0040】
また、同図の仮想線で示されている変移曲線P3は、上記渦巻きバネ(7A)を、仮に、シートバック2の回転中心(第1リンク部材6Aと第4リンク部材6Dとの連結部)に設定したとした場合の、渦巻きバネ(7A)により発揮される附勢トルクの変移を示したものである。このように、渦巻きバネ(7A)をシートバック2の回転中心に設定した場合には、その発揮される附勢トルクは、シートバック2の回転角度が後傾方向に進行するにつれて、その捩り角度が増大し、右肩上がりに直線状に増大していくように変移する。したがって、このように右肩上がりに直線状に増大していく渦巻きバネ(7A)の附勢トルクの変移曲線P3を、渦巻きバネ(7A)の設定数を増減させることで、シートバック2の自重モーメントの変移曲線P2に好適に近づけるように調整することは、非常に難しいものとなる。
【0041】
すなわち、上述した渦巻きバネ7Aは、その発揮される附勢トルクの変移曲線P3が、上述したシートバック2を後傾位置から直立位置を越える前側位置まで起こし上げるまでの間において、常に、シートバック2の自重モーメント(変移曲線P2)より高い値を推移するように、そのバネ力が調整されなければならない。その場合において、上記したバネ力の調節を、渦巻きバネ7Aの設定する個数を変えることによって行おうとすると、発揮される附勢トルクが大きくなりすぎてしまったり、小さくなってしまったりして、細かく調整することが難しい。もしも、上述した附勢トルクが大きくなりすぎてしまうと、シートバック2が大きく後傾された位置(最大角度位置)において、渦巻きバネ7Aにより発揮される附勢トルク(変移曲線P3)と、シートバック2の自重モーメント(変移曲線P2)と、の差異が特に顕著となり、シートバック2の起こし上げ速度に弾みが付き過ぎてしまうこととなる。
【0042】
しかしながら、本実施例のように、渦巻きバネ7を、リンク機構6(4節リンク機構)の第2リンク部材6Bと第4リンク部材6Dとの連結部(関節部)に設定したことにより、この渦巻きバネ7により発揮される附勢トルクを、同図の実線で示す変移曲線P1のように、右下がりの曲線となるように推移させることができる。この変移曲線P1の形は、上述した第1リンク部材6Aと第2リンク部材6Bとのリンク比を変えたり、渦巻きバネ7の設定箇所を、第2リンク部材6Bと第3リンク部材6Cとの連結部(関節部)や、第3リンク部材6Cと第1リンク部材6Aとの連結部(関節部)に変えたりすることで、種々に変化させることができる。すなわち、本実施例のように、渦巻きバネ7を、シートバック2の動きに連動するリンク機構6を介してその関節部に設定する構成としたことにより、渦巻きバネ7の設定数を増やすことなく、その設定箇所やリンク機構6のリンク比を変えることで、その発揮される附勢トルクの変移曲線P1の形を、シートバック2の自重モーメントの変移曲線P2の形に対して好適な形をとるように調整することができる。
【0043】
また、本実施例では、渦巻きバネ7を、固定リンクとなる第4リンク部材6D(シートクッションフレーム3F)と第2リンク部材6Bとの関節部に設定したことにより、渦巻きバネ7をシートバック2が回転しても位置が変わらない定位置に設定することができる。また、リクライニング装置5も同様に、固定リンクとなる第4リンク部材6D(シートクッションフレーム3F)と第2リンク部材6Bとの関節部に設定したことにより、リクライニング装置5をシートバック2が回転しても位置が変わらない定位置に設定することができる。したがって、これらリクライニング装置5や渦巻きバネ7の位置設定により、リンク機構6を作動スペースの小さなコンパクトな構成とすることができる。
【0044】
次に、図3〜図4を用いて、上述したリクライニング装置5の具体的な構成について、詳しく説明していく。図3に示すように、リクライニング装置5は、円盤形状のラチェット10及びガイド20と、2個のポール30と、スライドカム40と、ヒンジカム50と、渦巻きバネ60と、外周リング70と、を有し、これらが互いに軸方向に1つに組み付けられて構成されたものとなっている。
【0045】
上述したラチェット10は、その円盤部11の外周部に、ガイド20への組み付け方向となる板厚方向(軸方向)に円筒状に突出する円筒部12が形成されている。この円筒部12は、円盤部11の外周部が板厚方向に半抜き加工されることにより押し出されて形成されている。この円筒部12の内周面には、後述する各ポール30の外周歯面30aをそれぞれ噛合させることのできる内歯を有した内周歯面12aと、内歯のない滑らかな円弧面状に突出する乗上げ面12bと、が円周方向に並んで形成されている。上記内周歯面12aの、歯ピッチは、2度に設定されている。また、上記乗上げ面12bは、円筒部12の内周面上の円周方向の1箇所の位置に形成されており、その内周面が内周歯面12aの歯先よりも半径方向の内側に突出した円弧面とされて形成されている。
【0046】
上記ラチェット10は、図4に示すように、その円盤部11の外側の盤面が、前述したリンク機構6の第2リンク部材6Bの板面に接合されて一体的に結合されている。ここで、ラチェット10の円盤部11の中心部には、軸方向に貫通した丸孔14が形成されている。また、第2リンク部材6Bにも、上記丸孔14と同軸線上の位置に、軸方向に貫通した丸孔6B1が形成されている。これら丸孔14,6B1内には、前述したリクライニング装置5のロック・アンロックの切換え操作を行う操作軸部材5Aが軸方向に貫通して挿通されている。
【0047】
次に、図3を参照して、ガイド20の構成について説明する。ガイド20は、上述したラチェット10よりもひとまわり大きな外径をもつ円盤形状に形成されており、その円盤部21の外周部には、ラチェット10への組み付け方向となる板厚方向(軸方向)に円筒状に突出する円筒部22が形成されている。この円筒部22は、円盤部21の外周部が板厚方向に半抜き加工されることにより押し出されて形成されている。上記円筒部22は、その内径がラチェット10の円筒部12の外径よりも僅かに大きくなっており、図4に示すように、その円筒内部にラチェット10の円筒部12が軸方向に嵌め込まれて組み付けられることにより、両円筒部12,22が互いに内外に緩やかに嵌まり合った状態となって、ラチェット10とガイド20とが互いに相対回転可能に内外に支え合った状態となって組み付けられるようになっている。
【0048】
図3に示すように、上記ガイド20の円盤部21上の円周方向の4箇所の位置には、ラチェット10への組み付け方向となる板厚方向に突出する案内壁21a,21b,21c,21d(以下、案内壁21a〜21dとする。)が形成されている。これら案内壁21a〜21dは、円盤部21の一部が板厚方向に半抜き加工されることにより押し出されて形成されている。これら案内壁21a〜21dは、円盤部21上にセットされる後述する2つの各ポール30を、それぞれ半径方向の内外方にのみ移動可能となるように円周方向に支持すると共に、同じく円盤部21上の中心部にセットされるスライドカム40を、上記各ポール30のスライド方向とは垂直な半径方向にのみ移動可能となるように円周方向に支持する構成となっている。
【0049】
上記したガイド20は、図4に示すように、その円盤部21の外側の盤面が、前述したシートクッションフレーム3Fに一体的に結合されたベース板3F2の板面に接合されて一体的に結合されている。ここで、上述したガイド20の円盤部21の中心部には、軸方向に貫通した丸孔25が形成されている。また、ベース板3F2には、前述した各渦巻きバネ7の内側の端部を掛着させるためのバネ掛板3Fbが切り起こされて形成されていることにより、その切り起こされた部分に空孔3Fcが形成されている。これら丸孔25や空孔3Fcには、前述したリクライニング装置5のロック・アンロックの切換え操作を行う操作軸部材5Aが軸方向に貫通して挿通されている。また、図3に示すように、上述したガイド20の外側の盤面上には、ピン形状に突出した2つのバネ掛部24cが形成されている。これらバネ掛部24cのうちの1つには、渦巻きバネ60の外端62が掛着されている。
【0050】
図3を参照して、上述したガイド20の円盤部21には、その内側の盤面上に、板厚方向に「十」形状に凹んだガイド溝23が形成されている。このガイド溝23は、円盤部21が板厚方向に「十」形状に半抜き加工されて形成されており、その溝形状がクロスする部位の四隅、すなわち半径方向に張り出す各溝間の領域部には、前述した各案内壁21a〜21dが板厚方向に立壁状に突出した状態となって形成されている。上述したガイド溝23は、その「十」形状に凹んだ溝部のうちの、ガイド20の中心部から図示上側と下側とに延び出す2つの溝部が、それぞれ、上述した2つのポール30をそれぞれ半径方向の内外方に移動可能に内部に収容することのできるポール溝23aとして形成されている。
【0051】
また、同じくガイド溝23の「十」形状に凹んだ溝部のうち、ガイド20の中心部と図示左右方向に延び出す2つの溝部とが連通して形成された溝部は、後述するスライドカム40を図示左右方向(半径方向)に移動可能に内部に収容することのできるカム溝23bとして形成されている。上述した各案内壁21a〜21dは、上述した各ポール溝23a内に収容された各ポール30のサイド面や、カム溝23b内に収容されたスライドカム40のサイド面にそれぞれあてがわれて、これらポール30やスライドカム40をそれぞれ特定の半径方向にのみ移動可能となるようにガイドする構成となっている。
【0052】
上述した各ポール30は、前述したガイド20に形成された各ポール溝23a内にセットされることにより、各ポール溝23a内の形状に沿って半径方向の内外方にのみ移動可能となるように円周方向に支持された状態として配設されている。これらポール30の外周面は、前述したラチェット10の円筒部12の内周歯面12aと噛合可能な、外歯を有した外周歯面30aとして形成されている。
【0053】
上記各ポール30は、後述するスライドカム40のスライド動作によって半径方向の外側に押し出されることにより、それらの外周歯面30aがラチェット10の円筒部12の内周歯面12aに噛合された状態となる。これにより、各ポール30は、スライドカム40の押圧力によって、ラチェット10の内周歯面12aに噛合された状態に押し付けられた状態として、ラチェット10に対して回転方向(円周方向)に一体的な状態とされて保持される。
【0054】
上記各ポール30は、ガイド20との関係においては、上述した各案内壁21a〜21dによる円周方向の支えにより、半径方向の内外方にしかスライドすることができないようになっている。したがって、ラチェット10は、上記各ポール30が噛合した状態となることにより、これらポール30を介してガイド20に対して回転方向に一体的とされた状態、すなわちガイド20に対する回転がロックされた状態となって保持される。これにより、リクライニング装置5が回転ロックされた状態となる。
【0055】
このリクライニング装置5の回転ロック状態は、スライドカム40が逆方向にスライド操作されて、各ポール30が半径方向の内側に引き込まれてラチェット10との噛合状態から外されることにより解除されるようになっている。ここで、上述した各ポール30をスライドカム40のスライド動作によって半径方向の外側に押し出したり、半径方向の内側に引き込んだりする操作は、図3に示す、スライドカム40の上下側の周縁部に形成された各肩部42やフック44によって行われるようになっている。
【0056】
詳しくは、上記各肩部42は、スライドカム40が一方向にスライド移動することによって、各ポール30の両脚部32をそれぞれ乗り上げさせる格好で半径方向の内側から外側へと押し出して、各ポール30をラチェット10の内周歯面12aに噛合させるようになっている。また、フック44は、スライドカム40の上下側の各外周部上から折れ曲がる形で延出した形に形成されており、スライドカム40が他方向にスライド移動することによって、各ポール30の内周部に形成された各引掛部31に引掛けられて、各ポール30を半径方向の内側へと引き込んで、各ポール30をラチェット10の内周歯面12aとの噛合状態から外すようになっている。ここで、上記各ポール30の半径方向の内側への移動は、それらの脚部32が、スライドカム40の上下側の周縁部に凹み形成された各溝部43内に入り込む構造によって許容されるようになっている。
【0057】
上記スライドカム40は、常時は、その中心部の貫通孔41内に装着されたヒンジカム50を介して、一のスライド方向に移動附勢された状態として、各ポール30を半径方向の内側から押圧してラチェット10の内周歯面12aに押し付けて噛合させた状態となって保持されている。そして、スライドカム40は、ヒンジカム50が上記附勢力に抗して回転操作されることにより、他のスライド方向に押し動かされて、各ポール30を半径方向の内側に引き込んでラチェット10との噛合状態から外すようになっている。
【0058】
ところで、上述した各ポール30は、ラチェット10のガイド20に対する回転位置が、いずれかのポール30の移動先の位置に乗上げ面12bが位置する状態となる時には、そのロック移動が乗上げ面12bへの乗り上がりによって阻止されて、ロック作動できないようになっている。具体的には、上記いずれかのポール30が乗上げ面12bに乗り上がることにより、各ポール30に押し出し方向の押圧力をかけているスライドカム40の移動が制止された状態となる。これにより、他のポール30のロック作動も止められて、リクライニング装置5がアンロック状態に留められるようになる。このように、上述した乗上げ面12bがいずれかのポール30と干渉する回転角度領域では、リクライニング装置5のロック作動が阻止されて、リクライニング装置5がアンロック状態のまま保たれるようになっており、この回転角度領域が、前述したフリーゾーンを構成する回転角度領域として設定されている。また、上記乗上げ面12bがいずれのポール30とも干渉せずに、各ポール30がラチェット10の内周歯面12aと噛合することのできる回転角度領域が、リクライニング装置5がロック状態に戻されるロックゾーンとして設定されている。
【0059】
ヒンジカム50は、上述したガイド20の中心部に形成された丸孔25内に嵌め込まれて回転可能に軸支された状態として、その軸方向に突出した軸部位及びこの軸部位の外周部に突出形成された操作突起52を、スライドカム40の中心部に貫通形成された貫通孔41内に嵌め込んだ状態としてセットされている。詳しくは、上記ヒンジカム50は、その操作突起52を、スライドカム40の貫通孔41内の周縁部の一部に凹み形成された操作孔部41a内に入り込ませた状態としてセットされている。上記ヒンジカム50の軸方向に突出した角筒状のバネ掛部51には、渦巻きバネ60の内端61が掛着されている。これにより、ヒンジカム50には、ガイド20との間に掛着された渦巻きバネ60による回転附勢力がかけられる構成となっている。
【0060】
上記ヒンジカム50は、上記渦巻きバネ60の附勢力によって、常時は、ガイド20に対して一の回動方向に附勢された状態とされており、上述した操作突起52を介してスライドカム40に同方向への回転附勢力を作用させるようになっている。ここで、上記ヒンジカム50には、その軸心部に、操作軸部材5Aが軸方向に挿通されて回転方向に一体的に結合された状態となって装着されている。これにより、ヒンジカム50は、図4に示すように、解除レバー5Cが引き上げられる操作に伴って、上述した渦巻きバネ60の附勢力に抗した方向に回転操作されて、上述したスライドカム40をリクライニング装置5のロックを解除する方向に作動操作するようになっている。
【0061】
外周リング70は、図3に示すように、薄い鋼板がリング状に打ち抜かれると共に、その打ち抜かれた円板部が更に板厚方向(軸線方向)に段差状に半抜き加工されることにより、軸方向に面を向けたリング状の第1座面部71と第2座面部72とが軸方向に段差状に内外に並んで形成された、座付きの円筒型形状に形成されている。上記外周リング70の外周部には、軸方向に円筒状に突出した円筒部73が形成されている。
【0062】
上記外周リング70は、その円筒内部にラチェット10とガイド20とがそれぞれ順に組み付けられることにより、上述した第1座面部71によりラチェット10の円筒部12を軸方向の外側からあてがえると共に、第2座面部72によりガイド20の円筒部22を軸方向の内側からあてがえた状態として、その円筒部73によりガイド20の円筒部22を外周側から覆った状態となる。そして、この組み付け後に、上記外周リング70の円筒部73の先(かしめ部73a)を、半径方向の内側に折り曲げて、第2座面部72との間にガイド20の円筒部22を軸方向に挟み込むようにかしめることにより、外周リング70がガイド20の円筒部22に一体的に結合された状態として組み付けられている。この組み付けにより、外周リング70は、その第1座面部71によりラチェット10をガイド20に対して軸方向に外れないように保持した状態として、ラチェット10とガイド20とを軸方向に組み付けた状態に保持するようになっている。
【0063】
以上が、リクライニング装置5の基本構造となっている。上述したリクライニング装置5は、そのラチェット10とガイド20とが互いに相対回転可能に軸支し合って組み付けられた構成により、第2リンク部材6Bをシートクッション3(ベース板3F2)に対して回転可能に軸支する回転軸装置として機能する構成となっている。また、リクライニング装置5は、上述したラチェット10の内周歯面12aと各ポール30の外周歯面30aとの間に設定された互いの噛合ピッチにより、その回転止めが行える角度ピッチが2度に設定されている。これにより、第2リンク部材6Bのシートクッションフレーム3Fに対する回転移動を、2度ピッチで回転止めすることができるようになっている。
【0064】
このように、本実施例の車両用シート1の構成によれば、回転止め可能な回転軸装置として機能するリクライニング装置5を、シートバック2の傾動回転に連動して動くシートクッション3の下部に設けられたリンク機構6のいずれかの関節部(連結軸6P2)に設定する構成としたことにより、リクライニング装置5を、シートクッション3の上部に張り出させないように設けることができる。したがって、車両用シート1のシート幅を狭めても、リクライニング装置5が着座乗員と干渉しないようにすることができる。すなわち、シートバック2の下方部にリンク機構6を接続し、このリンク機構6のいずれかの関節部にリクライニング装置5を設定する構成としたことにより、シートバック2の傾動回転の中心軸(連結軸6P1)の設定位置を下げるなどしなくても、リクライニング装置5の設定位置を変えて、シートバック2の横幅を狭めても、リクライニング装置5が着座乗員と干渉することがない構成を得ることができる。
【0065】
また、リンク機構6を、シートクッションフレーム3Fを固定リンク(第4リンク部材6D)とする4節リンク機構により構成し、リクライニング装置5を上記固定リンク(第4リンク部材6D)と第2リンク部材6Bとの関節部に(連結軸6P2として)設定する構成としたことにより、リクライニング装置5をシートバック2が傾動しても位置が変わらない定位置に設定することができる。したがって、リクライニング装置5を作動操作する解除レバー5Cや操作軸部材5A等の関係する各種部品も、シートクッションフレーム3Fに対して定位置に設定することができ、リンク機構6を作動スペースの小さいコンパクトな構成とし、かつ、安定した操作性を得られる構成とすることができる。
【0066】
また、リンク機構6をシート幅方向の中央箇所に配置する構成としたことにより、車両用シート1のシート幅をより狭めやすくすることができる。また、第2リンク部材6Bと第4リンク部材6D(ベース板3F2)との連結位置を、シートクッション3の後部寄りの箇所に設定したことにより、第3リンク部材6Cのリンク長を短く設定することができ、リンク機構6をコンパクトにして構造強度の高い構成とすることができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、本発明の構成は、図10に示すように、シート本体1Aをリンク機構6を介して車両側方へ跳ね上げて格納状態とする構成にも適用することができる。具体的には、リンク機構6は、シート本体1Aに一体に設けられて連結軸6P1によりフロア上に回転可能に軸連結された第1リンク部材6Aと、フロア上に連結軸6P2により回転可能に軸連結された第2リンク部材6Bと、第1リンク部材6Aと第2リンク部材6Bとにそれぞれ連結軸6P3,6P4により回転可能に軸連結された第3リンク部材6Cと、フロア自体によって構成される固定リンクとなる第4リンク部材6Dと、から構成されている。シート本体1Aは、フロアに対して上記連結軸6P1まわりに起倒回転可能にヒンジ連結された状態となっており、常時は、フロア上の使用位置にてロックされた状態となっている。上記第2リンク部材6Bと第4リンク部材6Dとの連結部には、リンク機構6に対して、シート本体1Aを起こし上げる回転方向に附勢力をかける渦巻きバネ7が掛着されている。これにより、上記シート本体1Aのフロアに対するロック状態が解除されることにより、シート本体1Aが上記渦巻きバネ7の附勢力によって、フロア上から起こし上げられて車両側方へ跳ね上げられて格納されるようになっている。
【0068】
また、本発明の構成は、図11に示すように、シート本体1Aをリンク機構6を介して車両前方へ跳ね上げて格納状態とする構成にも適用することができる。具体的には、リンク機構6は、シート本体1Aに一体に設けられて連結軸6P1によりフロア上に回転可能に軸連結された第1リンク部材6Aと、フロア上に連結軸6P2により回転可能に軸連結された第2リンク部材6Bと、第1リンク部材6Aと第2リンク部材6Bとにそれぞれ連結軸6P3,6P4により回転可能に軸連結された第3リンク部材6Cと、フロア自体によって構成される固定リンクとなる第4リンク部材6Dと、から構成されている。シート本体1Aは、フロアに対して上記連結軸6P1まわりに起倒回転可能にヒンジ連結された状態となっており、常時は、フロア上の使用位置にてロックされた状態となっている。上記第2リンク部材6Bと第4リンク部材6Dとの連結部には、リンク機構6に対して、シート本体1Aを起こし上げる回転方向に附勢力をかける渦巻きバネ7が掛着されている。これにより、上記シート本体1Aのフロアに対するロック状態が解除されることにより、シート本体1Aが上記渦巻きバネ7の附勢力によって、フロア上から起こし上げられて車両前方へ跳ね上げられて格納されるようになっている。
【0069】
また、上記実施例では、リクライニング装置5が、リンク機構6の第2リンク部材6Bと第4リンク部材6Dとが連結された関節部に(連結軸6P2として)設定された構成を例示したが、第2リンク部材6Bと第3リンク部材6Cとが連結される関節部に(連結軸6P3として)設定したり、第3リンク部材6Cと第1リンク部材6Aとが連結される関節部に(連結軸6P4として)設定したりした構成であってもよい。
【0070】
また、上記実施例では、リンク機構6及びリクライニング装置5が、車両用シート1における幅方向の中央1箇所に設けられた構成を例示したが、これらを中央に左右に2個以上並べて配置した構成としてもよいし、両サイド部にそれぞれ配置した構成としてもよい。渦巻きバネ(バネ)も同様である。また、リンク機構は、4節リンク機構以外の、自由度が1となる他のリンク機構を採用することもできる。また、リンク機構をシート構造物の起こし上げ回転方向にリンク運動させるように附勢するバネは、渦巻きバネ等の捩りを戻す方向(回転方向)にバネ附勢力を及ぼすバネの他、引張バネや圧縮バネ等の直線方向にバネ附勢力を及ぼすバネを用いることもできる。
【符号の説明】
【0071】
1 車両用シート
1A シート本体
2 シートバック(シート構造物)
2F シートバックフレーム
2F1 取付板
2Fa 孔
2F2 コ字板
2F3 下端側ブラケット
2P パッド材
2P1 ワイヤー
2P2 取付板
2P3 空間
2B ボルト
2N ナット
2C 表皮材
3 シートクッション(ベース部材)
3F シートクッションフレーム
3F1 取付板
3Fa 孔
3F2 ベース板
3Fb バネ掛板
3Fc 空孔
3F3 コ字板
3Fd ストッパ
3F4 脚フレーム
3P パッド材
3P1 ワイヤー
3P2 取付板
3B ボルト
3N ナット
3C 表皮材
4 ヘッドレスト
4P パッド材
4C 表皮材
5 リクライニング装置
5A 操作軸部材
5C 解除レバー
6 リンク機構
6A 第1リンク部材
6B 第2リンク部材
6B1 丸孔
6B2 バネ掛板
6C 第3リンク部材
6D 第4リンク部材
6P1〜6P4 連結軸
7 渦巻きバネ(バネ)
7A 渦巻きバネ
8 スライド装置
8A ロアレール
8A1 脚フレーム
8B アッパレール
10 ラチェット
11 円盤部
12 円筒部
12a 内周歯面
12b 乗上げ面
14 丸孔
20 ガイド
21 円盤部
21a〜21d 案内壁
22 円筒部
23 ガイド溝
23a ポール溝
23b カム溝
24c バネ掛部
25 丸孔
30 ポール
30a 外周歯面
31 引掛部
32 脚部
40 スライドカム
41 貫通孔
41a 操作孔部
42 肩部
43 溝部
44 フック
50 ヒンジカム
51 バネ掛部
52 操作突起
60 渦巻きバネ
61 内端
62 外端
70 外周リング
71 第1座面部
72 第2座面部
73 円筒部
73a かしめ部
θ1〜θ3 変化角
γ1〜γ3 変化角
L1〜L3 リンク長
M1〜M3 リンク長
P1〜P3 変移曲線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート構造物がフロア上に設けられたベース部材に対して起こし上げ回転可能にヒンジ連結された車両用シートであって、
前記ベース部材には、前記シート構造物との間に連結されて前記シート構造物の起こし上げ回転に連動してリンク運動するリンク機構が配設され、
前記リンク機構は、前記シート構造物に一体的に設けられた第1リンク部材と、前記ベース部材に回転可能に軸連結されて設けられた第2リンク部材と、前記第1リンク部材と前記第2リンク部材とにそれぞれ軸連結されて設けられた第3リンク部材と、前記ベース部材により構成される第4リンク部材と、から成る4節リンク機構により構成され、
前記第2リンク部材又は前記第3リンク部材のいずれかの関節部に、前記リンク機構を前記シート構造物の起こし上げ回転方向にリンク運動させるように附勢するバネが設定されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートであって、
前記バネが、前記第2リンク部材と前記第4リンク部材とが軸連結された関節部に設定されていることを特徴とする車両用シート。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用シートであって、
前記第2リンク部材と前記第4リンク部材とが軸連結された関節部に、これらリンク部材間の相対回転を止めて前記シートバックの背凭れ角度を固定するリクライニング装置が配設されていることを特徴とする車両用シート。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−82276(P2013−82276A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222584(P2011−222584)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】