説明

車両用シート

【課題】リクライニング装置を片側に1つしか設定しない構成であっても、大荷重作用時におけるシートバックの構造強度を担保できる構成とする。
【解決手段】シートバック2がリクライニング装置4を介してその一方側の側部がシートクッション3に前後回転可能に軸連結された車両用シート1である。シートバック2の他方側の側部は、常時はシートバック2の前後回転を許容するように機能し、シートバック2に車両衝突等の発生に伴う前後方向の急激的な大荷重が入力された時には、内部に封入された粘性流体の粘性抵抗によってシートバック2の回転をロックするように機能する粘性ロック機構7を介してシートクッション3に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。詳しくは、シートバックが回転止め可能な回転軸装置として機能するリクライニング装置を介してその一方側の側部がベース体に前後回転可能に軸連結された車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートにおいて、回転止め可能な回転軸装置として機能するリクライニング装置が、シートバックの左右両サイドの下端部とシートクッションの左右両サイドの後端部との間、もしくはその片側に配されたものが知られている(特許文献1)。リクライニング装置が片側にだけ配されるものは、シートバックの背凭れ角度の保持に必要とされる強度が比較的低いタイプのものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−105026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の従来技術では、車両衝突が発生するなどして、シートバックに急激的な大荷重がかけられると、リクライニング装置がない側の部位が、ある側の部位よりも大きく変形して、全体として捩れを伴った変形態様となるため、脆弱である。本発明は、上記問題を解決するものとして創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、リクライニング装置を片側に1つしか設定しない構成であっても、大荷重作用時におけるシートバックの構造強度を担保できる構成とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の車両用シートは次の手段をとる。
第1の発明は、シートバックが回転止め可能な回転軸装置として機能するリクライニング装置を介してその一方側の側部がベース体に前後回転可能に軸連結された車両用シートである。シートバックの他方側の側部は、常時はシートバックの前後回転を許容するように機能し、シートバックに車両衝突等の発生に伴う前後方向の急激的な大荷重が入力された時には、内部に封入された粘性流体の粘性抵抗によってシートバックの回転をロックするように機能する粘性ロック機構を介してベース体に連結されている。粘性ロック機構は、シートバック又はベース体のうちの一方に一体的に結合されたケースと、ケース内に封入された粘性流体と、シートバック又はベース体のうちの他方におけるシートバックの回転中心軸線上の位置に一体的に結合された状態としてケース内に回転可能に軸支された回転フィンと、を有する。シートバックに前後方向の急激的な大荷重が入力された時には、回転フィンのケースに対する回転が粘性流体の粘性抵抗によりロックされてシートバックの他方側の側部の前後回転がロックされる。
【0006】
この第1の発明によれば、シートバックは、その一方側の側部に設けられたリクライニング装置の構成により、常時は、その背凭れ角度が調節可能に固定された状態として保持される。この背凭れ角度の調節移動は、シートバックの他方側の側部に設けられた粘性ロック機構が、常時はシートバックの前後回転を許容する構成となっていることにより可能とされる。上記シートバックに、車両衝突等の発生に伴う前後方向の急激的な大荷重が入力されると、リクライニング装置が設けられた一方側では、リクライニング装置のロック強度によってその荷重が受け止められ、他方側では、粘性ロック機構が粘性流体の粘性抵抗の作用によって、シートバックの前後回転をロックする機能によってその荷重が受け止められる。このように、リクライニング装置を片側に1つしか設定しない構成であっても、大荷重作用時におけるシートバックの回転止めを両側の側部で行って、構造強度を好適に担保できる構成とすることができる。
【0007】
第2の発明は、上述した第1の発明において、粘性流体をダイラタント流体としたものである。
【0008】
この第2の発明によれば、粘性流体をダイラタント流体としたことにより、シートバックに急激的な大荷重がかけられた際に、回転ファンからダイラタント流体にかかる力によって、ダイラタント流体が固体のように固まるため、回転ファンの回転をほぼ滑りを伴わせることなくロックすることができるようになる。したがって、大荷重作用時に、粘性ロック機構が設けられた側の側部においてシートバックが捩れるように変形することを早期に食い止めることができ、シートバックの構造強度をより好適に担保することができる構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の車両用シートの概略構成を示した斜視図である。
【図2】リクライニング装置を介したシートバックとシートクッションとの連結部の構成を表した側面図である。
【図3】リクライニング装置の分解斜視図である。
【図4】シートバックフレームとリクライニング装置との連結構造を表した斜視図である。
【図5】シートクッションフレームとリクライニング装置との連結構造を表した斜視図である。
【図6】図2のVI-VI線断面図である。
【図7】リクライニング装置のロック状態を表した図6のVII-VII線断面図である。
【図8】リクライニング装置のアンロック状態を表した断面図である。
【図9】粘性ロック機構の分解斜視図である。
【図10】図1のX-X線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0011】
始めに、実施例1の車両用シート1の構成について、図1〜図10を用いて説明する。本実施例の車両用シート1は、図1に示すように、自動車の助手席シートとして構成されており、背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、を有する。シートバック2は、車両のフロア上に設置されたシートクッション3に対し、その車両外側(着座者にとって向かって左側)の側部が、回転止め可能な回転軸装置として機能するリクライニング装置4を間に介して前後回転可能な状態に軸連結された構成となっている。また、シートバック2の車両内側(着座者にとって向かって右側)の側部は、常時は、同側部をシートクッション3の同側の側部に前後回転可能に軸連結した状態となっており、シートバック2に車両衝突等の発生に伴う前後方向の急激的な大荷重が入力された時には、粘性抵抗によってシートバック2の回転をロックするように機能する粘性ロック機構7を間に介して、シートクッション3の同側の側部に連結された構成となっている。ここで、シートクッション3が本発明の「ベース体」に相当する。
【0012】
詳しくは、上記リクライニング装置4は、シートバック2の骨格を成すシートバックフレーム2fの車両外側の側部の下端部と、シートクッション3の骨格を成すシートクッションフレーム3fの車両外側の側部の後端部と、の間に介設されており、これらを互いに同軸回りに相対回転可能な状態となるように軸連結した状態となっている。また、粘性ロック機構7も同様に、シートバックフレーム2fの車両内側の側部の下端部と、シートクッションフレーム3fの車両内側の側部の後端部と、の間に介設されており、これらを互いに同軸回りに相対回転可能な状態となるように軸連結した状態となっている。これらシートバック2の車両外側と内側とでの各連結による回転中心Rは、互いに同軸線上の位置に設定されている。これにより、シートバック2は、シートクッション3に対して、上記回転中心Rまわりの前後回転により、その背凭れ角度の調節が行える状態とされている。上記リクライニング装置4は、その内部に備えられた後述する回転止め構造(ロック構造)によって、シートバック2の背凭れ角度を変化させられる状態(アンロック状態)とロックした状態とに切り替えられるようになっている。
【0013】
詳しくは、上記リクライニング装置4は、その中心部に挿通された操作軸4cの軸回転操作により、ロック・アンロックの各状態に切り替えられるようになっている。上記リクライニング装置4は、常時は、後述するバネの附勢構造によって、シートバック2の背凭れ角度を固定したロック状態とされて保持されている。このシートバック2の背凭れ角度の固定状態は、シートクッション3の車両外側(図1の紙面右側)の側部に設けられた解除レバー5を引き上げる操作によって、操作軸4cが軸回転操作されて解除されるようになっている。この解除操作により、シートバック2が、その背凭れ角度位置を自由に調節することができる状態となる。また、上記解除操作をやめることにより、リクライニング装置4が再び上述したバネ附勢構造によってロック状態に戻されて、シートバック2がその背凭れ角度を固定された状態に戻されるようになっている。このように、シートバック2は、上記リクライニング装置4が設けられた片側(車両外側)の側部において、その通常時の背凭れ角度の固定が行われる構成となっている。
【0014】
ここで、上記シートバックフレーム2fの左右両側部とシートクッションフレーム3fの左右両側部との間には、シートバック2を常時、シート前方側に向かって回転附勢する渦巻きバネ6,6が掛着されている。これら渦巻きバネ6,6は、図2に示すように、それらの内側の端部(内端6a,6a)が、シートクッションフレーム3fの左右両外側の側部に切り起こし形成された各切り起こし板3d,3dの上縁部に掛着されて固定されており、外側の端部(外端6b,6b)が、シートバックフレーム2fの左右両外側の側部に結合された各L字板2d,2dの両外側に張り出す板部の後縁部にそれぞれ掛着されて固定されている。これら渦巻きバネ6,6の附勢力により、シートバック2は、その背凭れ角度の固定状態が解かれると、着座乗員の背部に当たる位置まで起こし上げられて、着座乗員の背部が前後に傾動される動きに追従して、その背凭れ角度位置を自由に変動させられるようになっている。ここで、上述したシートバック2は、その背凭れ角度位置が上方側に真っ直ぐに起立した位置からシート後方側に傾倒される角度領域内にあるときには、解除レバー5の操作をやめることでその背凭れ角度が固定された状態(ロック状態)に戻されるが、上記起立位置からシート前方側に傾倒される角度領域内に入った状態のときには、解除レバー5の操作をやめても背凭れ角度が固定された状態(ロック状態)には戻されないようになっている。
【0015】
前者の背凭れ角度が固定状態に戻される角度領域は、後述するリクライニング装置4に設定されたロックゾーンの回転領域により形成されており、後者の背凭れ角度が固定状態に戻されない角度領域は、後述するリクライニング装置4に設定されたフリーゾーンの回転領域により形成されている。上記フリーゾーンの領域設定により、車両用シート1に人が座っていない状態で、解除レバー5を操作して、シートバック2を上記渦巻きバネ6,6の附勢力によってシート前方側へと倒し込んでいく時に、シートバック2が上記起立位置を越える位置まで倒し込まれたら、あとは解除レバー5の操作から手を離しても、シートバック2が前側の最大可動位置まで前に倒し込まれていくようになっている。ここで、上記シートバック2の回転可能領域は、図2に示すように、上述したシートバックフレーム2fの左右両外側の側部に結合されたL字板2d,2dの前縁部又は後縁部が、シートクッションフレーム3fの左右両側部の前部又は後部に突出して形成された前倒れストッパ3e1,3e1又は後倒れストッパ3e2,3e2と当たる位置間の領域として設定されている。
【0016】
次に、上述したリクライニング装置4の具体的な構成について、詳しく説明していく。図3に示すように、リクライニング装置4は、円盤形状のラチェット10及びガイド20と、2個のポール30,30と、スライドカム40と、ヒンジカム50と、渦巻きバネ60と、外周リング70と、を有し、これらが互いに軸方向に1つに組み付けられて構成されている。
【0017】
上記ラチェット10は、その円盤部11の外周部に、ガイド20への組み付け方向となる板厚方向(軸方向)に円筒状に突出する円筒部12が形成されている。この円筒部12は、円盤部11の外周部が板厚方向に半抜き加工されることにより押し出されて形成されている。この円筒部12の内周面には、後述する各ポール30,30の外周歯面30a,30aをそれぞれ噛合させることのできる内歯を有した内周歯面12aと、内歯のない滑らかな円弧面状に突出する乗上げ面12bと、が円周方向に並んで形成されている。上記乗上げ面12bは、円筒部12の内周面上の円周方向の1箇所の位置に形成されており、その内周面が内周歯面12aの歯先よりも半径方向の内側に突出した円弧面とされて形成されている。
【0018】
上記ラチェット10は、図4に示すように、その円盤部11の外側の盤面が、シートバックフレーム2fの外側の側部の板面に接合されて一体的に結合されている。ここで、上記ラチェット10の円盤部11には、その外側の盤面から円筒状に突出する5つのダボ13a・・(・・は複数を表す。)と1つのDダボ13bとが形成されている。これらダボ13a・・やDダボ13bは、円盤部11の比較的外周縁側に近い位置に、互いに円周方向に等間隔に並んで配置形成されている。このうち、Dダボ13bは、その突出した円筒形状の一部が断面D字状に切り欠かれた形に形成されており、円筒形状に突出した各ダボ13a・・とは形状が区別できるようになっている。
【0019】
一方、シートバックフレーム2fには、上述した各ダボ13a・・やDダボ13bをそれぞれ軸方向に嵌合させることのできるダボ孔2a・・とDダボ孔2bとが板厚方向に貫通して形成されている。これにより、上記ラチェット10は、上記ダボ13a・・やDダボ13bを、シートバックフレーム2fに形成された各ダボ孔2a・・やDダボ孔2bにそれぞれ嵌合させて、各嵌合部をそれぞれ溶着して接合することにより、シートバックフレーム2fに対して強固に一体的に結合された状態とされている。ここで、図3に示すように、上述したラチェット10の円盤部11の中心部には、丸孔状の貫通孔14が形成されている。また、図4に示すように、シートバックフレーム2fにも、同様に、丸孔状の貫通孔2cが形成されている。これら貫通孔14,2cには、前述したリクライニング装置4のロック・アンロックの切換え操作を行う操作軸4c(図6参照)が軸方向に挿通されている。
【0020】
次に、図3を参照して、ガイド20の構成について説明する。ガイド20は、上述したラチェット10よりもひとまわり大きな外径をもつ円盤形状に形成されており、その円盤部21の外周部には、ラチェット10への組み付け方向となる板厚方向(軸方向)に円筒状に突出する円筒部22が形成されている。この円筒部22は、円盤部21の外周部が板厚方向に半抜き加工されることにより押し出されて形成されている。上記円筒部22は、その内径がラチェット10の円筒部12の外径よりも僅かに大きくなっており、図6に示すように、その円筒内部にラチェット10の円筒部12を軸方向に嵌め込んで組み付けることにより、両円筒部12,22が互いに内外に緩やかに嵌まり込んだ状態となって、ラチェット10とガイド20とが互いに相対回転可能に内外に支え合った状態となって組み付けられるようになっている。
【0021】
上記ガイド20の円盤部21上の円周方向の4箇所の位置には、ラチェット10への組み付け方向となる板厚方向に突出する案内壁21a,21b,21c,21d(以下、案内壁21a〜21dとする。)が形成されている。これら案内壁21a〜21dは、円盤部21の一部が板厚方向に半抜き加工されることにより押し出されて形成されている。これら案内壁21a〜21dは、図7〜図8に示すように、後述する円盤部21上の2箇所の位置にセットされる各ポール30,30を、それぞれ半径方向の内外方にのみ移動可能となるように円周方向に支持すると共に、同じく円盤部21上の中心部にセットされるスライドカム40を、上記各ポール30,30のスライド方向とは垂直な半径方向にのみ移動可能となるように円周方向に支持する構成となっている。
【0022】
上記したガイド20は、図5に示すように、その円盤部21の外側の盤面が、シートクッションフレーム3fの内側の側部の板面に接合されて一体的に結合されている。詳しくは、上記ガイド20の円盤部21には、その外側の盤面上から円筒状に突出する3つのダボ24a・・と、1つのDダボ24bとが形成されている。これらダボ24a・・やDダボ24bは、後述する円盤部21の外側の盤面上に「十」形状に突出するガイド溝23の外側の盤面上に1つずつ形成されて、互いに円周方向に等間隔に並んだ状態となって形成されている。このうち、Dダボ24bは、その突出した円筒形状の一部が断面D字状に切り欠かれた形に形成されており、円筒形状に突出した各ダボ24a・・とは形状が区別できるようになっている。また、ガイド20の外側の盤面上には、後述する渦巻きバネ60の外端62を掛着させるためのピン形状に突出した形の2つのバネ掛部24c,24cが形成されている。バネ掛部24c,24cが2つ形成されているのは、渦巻きバネ60が逆向きに掛けられるもう一方側のリクライニング装置4にも同じ構成で対応できるようにするためである。
【0023】
一方、クッションフレーム3fには、上述した各ダボ24a・・やDダボ24bをそれぞれ軸方向に嵌合させることのできるダボ孔3a・・とDダボ孔3bとが板厚方向に貫通して形成されている。これにより、上記したガイド20は、上記各ダボ24a・・やDダボ24bをクッションフレーム3fに形成された各ダボ孔3a・・やDダボ孔3bにそれぞれ嵌合させて、各嵌合部をそれぞれ溶着して接合することにより、クッションフレーム3fに対して強固に一体的に結合された状態とされている。ここで、図3に示すように、上述したガイド20の円盤部21の中心部には、丸孔状の貫通孔25が形成されている。また、図5に示すように、シートクッションフレーム3fには、上記貫通孔25と同軸線上の位置に、大きく開口した通し孔3cが形成されている。この通し孔3cは、上述した切り起こし板3dの切り起こしに伴って、後述する渦巻きバネ60もその孔内に通せる大きさに開口して形成されている。これら貫通孔25及び通し孔3c内には、前述したリクライニング装置4のロック・アンロックの切換え操作を行う操作軸4c(図6参照)が軸方向に挿通されている。上記通し孔3cの外側の板面上には、通し孔3cの一部を外部から覆った状態とする蓋部材3gが設けられている。
【0024】
図3を参照して、上述したガイド20の円盤部21には、その内側の盤面上に、板厚方向に「十」形状に凹んだガイド溝23が形成されている。このガイド溝23は、円盤部21が板厚方向に「十」形状に半抜き加工されて形成されており、その溝形状がクロスする部位の四隅、すなわち半径方向に張り出す各溝間の円周方向の領域部には、前述した各案内壁21a〜21dが板厚方向に立壁状に突出した状態となって形成されている。上述したガイド溝23は、その「十」形状に凹んだ溝形状のうち、ガイド20の中心部から図示上側と下側とに延び出す2つの溝部が、それぞれ、上述した2つのポール30,30をそれぞれ半径方向の内外方に移動可能に内部に収容することのできるポール溝23a,23aとして形成されている。
【0025】
また、同じくガイド溝23の「十」形状に凹んだ溝形状のうち、ガイド20の中心部と図示左右方向に延び出す2つの溝部とが連通して形成されている横長状の溝部は、後述するスライドカム40を図示左右方向(半径方向)に移動可能に内部に収容することのできるカム溝23bとして形成されている。上述した各案内壁21a〜21dは、上述した各ポール溝23a,23a内に収容された各ポール30,30の側面や、カム溝23b内に収容されたスライドカム40の側面にそれぞれあてがわれて、これらポール30,30やスライドカム40をそれぞれ上述した特定の半径方向にのみ移動可能となるようにガイドする構成となっている。
【0026】
次に、図3を参照して、上述した各ポール30,30の構成について説明する。各ポール30,30は、前述したガイド20に形成された各ポール溝23a,23a内にセットされることにより、各ポール溝23a,23a内の形状に沿って半径方向の内外方にのみ移動可能となるように円周方向に支持された状態として配設されている。これらポール30,30は、それらの外周面が、前述したラチェット10の円筒部12の内周歯面12aと噛合することができるように、それぞれ湾曲して、外歯が形成された外周歯面30a,30aとして形成されている。
【0027】
上記各ポール30,30は、図7に示すように、後述するスライドカム40のスライド動作によって半径方向の外側に押し出されることにより、それらの外周歯面30a,30aがラチェット10の円筒部12の内周歯面12aと噛合した状態となる。これにより、各ポール30,30は、スライドカム40の押圧力によって、ラチェット10の内周歯面12aに噛合した状態に押し付けられた状態として、ラチェット10に対して回転方向(円周方向)に一体的な状態とされて保持される。
【0028】
上記各ポール30,30は、ガイド20との関係においては、上述した各案内壁21a〜21dによる円周方向の支えにより、半径方向の内外方にしかスライドすることができないようになっている。したがって、ラチェット10は、上記各ポール30,30が噛合した状態となることにより、これらポール30,30を介してガイド20に対して回転方向に一体的とされた状態、すなわちガイド20に対する回転がロックされた状態となって保持される。これにより、リクライニング装置4が回転ロックされた状態となる。
【0029】
このリクライニング装置4の回転ロック状態は、図8に示すように、スライドカム40が図示右方向にスライド操作されて、各ポール30,30が半径方向の内側に引き込まれてラチェット10との噛合状態から外されることにより解除されるようになっている。ここで、上述した各ポール30,30をスライドカム40のスライド動作によって半径方向の外側に押し出したり、半径方向の内側に引き込んだりする操作は、図3に示すように、スライドカム40の上下側の各周縁部に形成された各肩部42,42やフック44,44によって行われるようになっている。
【0030】
詳しくは、図7に示すように、上記各肩部42,42は、スライドカム40が図示左方向にスライド移動(図8の状態から図7の状態へのスライド移動)することによって、各ポール30,30の両脚部32,32をそれぞれ乗り上げさせる格好で半径方向の内側から外側へと押し出して、各ポール30,30をラチェット10の内周歯面12aに噛合させるようになっている。また、フック44,44は、スライドカム40の上下側の各外周部上から図示右方向に折れ曲がるようにアーム状に延出する形に形成されており、スライドカム40が図示右方向にスライド移動(図7の状態から図8の状態へのスライド移動)することによって、各ポール30,30の内周部に形成された各引掛部31,31に引掛けられて、各ポール30,30を半径方向の内側へと引き込んで、各ポール30,30をラチェット10の内周歯面12aとの噛合状態から外すようになっている。ここで、上記各ポール30,30の半径方向の内側への移動は、それらの脚部32,32が、スライドカム40の上下側の周縁部に凹み形成された各溝部43,43内に入り込む構造によって許容されるようになっている。
【0031】
上記スライドカム40は、図7に示すように、常時は、その中心部の貫通孔41内に装着されたヒンジカム50を介して、図示左方向に移動附勢された状態として、各ポール30,30を半径方向の内側から押圧してラチェット10の内周歯面12aに押し付けて噛合させた状態となって保持されている。そして、スライドカム40は、図8に示すように、ヒンジカム50が上記附勢力に抗して図示時計回り方向に回転操作されることにより、図示右方側に押し動かされて、各ポール30,30を半径方向の内側に引き込んでラチェット10との噛合状態から外すようになっている。
【0032】
ところで、上述した各ポール30,30は、ラチェット10のガイド20に対する回転位置が、いずれかのポール30の移動先の位置に乗上げ面12bが位置する状態となる時には、そのロック移動が乗上げ面12bへの乗り上がりによって阻止されて、ロック作動できないようになっている。具体的には、上記いずれかのポール30が乗上げ面12bに乗り上がることにより、各ポール30,30に押し出し方向の押圧力をかけているスライドカム40の移動が制止された状態となる。これにより、他のポール30のロック作動も止められて、リクライニング装置4がアンロック状態に留められるようになる。このように、上述した乗上げ面12bがいずれかのポール30と干渉する回転角度領域では、リクライニング装置4のロック作動が阻止されて、リクライニング装置4がアンロック状態のまま保たれるようになっており、この回転角度領域が、前述したフリーゾーンを構成する回転角度領域として設定されている。また、上記乗上げ面12bがいずれのポール30,30とも干渉せずに、各ポール30,30がラチェット10の内周歯面12aと噛合することのできる回転角度領域が、リクライニング装置4がロック状態に戻されるロックゾーンとして設定されている。
【0033】
次に、図3を参照して、上述したスライドカム40を回転操作するヒンジカム50の構成について説明する。ヒンジカム50は、上述したガイド20の中心部に形成された貫通孔25内に嵌め込まれて回転可能に軸支された状態として、その軸方向に突出した軸部位及びこの軸部位の外周部に突出形成された操作突起52を、スライドカム40の中心部に貫通形成された貫通孔41内に嵌め込んだ状態としてセットされている。詳しくは、上記ヒンジカム50は、その操作突起52を、スライドカム40の貫通孔41内の周縁部の一部に凹み形成された操作孔部41a内に入り込ませた状態としてセットされている。
【0034】
上記ヒンジカム50は、ガイド20との間に掛着された渦巻きバネ60の附勢力によって、常時は、ガイド20に対して図3の紙面向かって時計回り方向に回転附勢された状態とされている。これにより、ヒンジカム50は、常時は、上記操作突起52を介してスライドカム40に同方向(図3の紙面向かって時計回り方向)に向けての回転附勢力を作用させるようになっている。上記渦巻きバネ60は、図5に示すように、予め捩り込まれた状態として、その内側の端部(内端61)がヒンジカム50の角筒状に形成されたバネ掛部51に掛着されており、外側の端部(外端62)がガイド20のバネ掛部24cに掛着されて設けられている。上記ヒンジカム50には、図3で前述した操作軸4cが軸方向に挿通されて回転方向に一体的な状態に装着されている。これにより、ヒンジカム50は、図1で前述した解除レバー5の引き上げ操作に伴って、図3で示した渦巻きバネ60の附勢力に抗した図示反時計回り方向に回転操作されるようになっている。
【0035】
次に、図3を参照して、外周リング70の構成について説明する。外周リング70は、薄い鋼板がリング状に打ち抜かれると共に、その打ち抜かれた円板部が更に板厚方向(軸線方向)に段差状に半抜き加工されることにより、軸方向に面を向けたリング状の第1座面部71と第2座面部72とが軸方向に段差状に内外に並んで形成された、座付きの円筒型形状に形成されている。上記外周リング70の外周部には、軸方向に円筒状に突出した円筒部73が形成されている。
【0036】
上記外周リング70は、その円筒内部にラチェット10とガイド20とがそれぞれ順に組み付けられることにより、上述した第1座面部71によりラチェット10の円筒部12を軸方向の外側からあてがえると共に、第2座面部72によりガイド20の円筒部22を軸方向の内側からあてがえた状態として、その円筒部73によりガイド20の円筒部22を外周側から覆った状態となる。そして、上記組み付け後に、上記外周リング70のガイド20の円筒部22から軸方向の外側に突出する円筒部73の先(かしめ部73a)を、半径方向の内側に折り曲げて、第2座面部72との間にガイド20の円筒部22を軸方向に挟み込むようにかしめることにより、外周リング70がガイド20の円筒部22に一体的に結合された状態として組み付けられている。この組み付けにより、外周リング70は、その第1座面部71によりラチェット10をガイド20に対して軸方向に外れないように保持した状態として、ラチェット10とガイド20とを軸方向に組み付けた状態に保持するようになっている。
【0037】
次に、図9〜図10を用いて、粘性ロック機構7の構成について説明する。図9に示すように、粘性ロック機構7は、円筒容器形のケース7aと、このケース7a内に封入されるダイラタント流体7bと、ケース7a内の中心部に挿通された回転軸7c1によりケース7a内に回転可能に軸支されて設けられたロックプレート7cと、から構成されている。ここで、ロックプレート7cが、本発明の「回転フィン」に相当する。ケース7aは、有底筒形状のケース本体7a1と、このケース本体7a1の開口に蓋をする円板形状の蓋ケース7a2と、から成り、ケース本体7a1内にダイラタント流体7bとロックプレート7cとがセットされた状態で蓋ケース7a2が閉められていることにより、内部にダイラタント流体7bが封入された状態として構成されている。ロックプレート7cは、中心部から四方にアームを延ばす「十」形状に延び出した形をしており、その中心部に回転軸7c1が軸方向に挿通されて回転方向に一体的な状態に結合された状態とされている。
【0038】
回転軸7c1は、蓋ケース7a2の中心部に挿通されており、そのケース7a内に挿通された先の端部に、上述したロックプレート7cの中心部が一体的に結合された状態となっている。回転軸7c1自体は、蓋ケース7a2の中心部において、蓋ケース7a2により回転可能に軸支された状態となっている。上記回転軸7c1のケース7aの外側に延びる端部は、シートバックフレーム2fの側部に溶着されて一体的に結合されている。詳しくは、上記回転軸7c1の外側の端部は、シートバックフレーム2fにおける、シートバック2の回転中心Rと同軸上の位置に一体的に結合された状態とされている。
【0039】
一方、ケース7aは、その有底筒形状のケース本体7a1が、シートクッションフレーム3fの側部に一体的に結合された状態とされている。これにより、上記シートクッションフレーム3fと一体的とされたケース7aに対して、シートバックフレーム2fに一体的とされた回転軸7c1が回転可能に軸支された状態とされており、この軸支構造を介して、シートバック2の車両内側の側部が、シートクッション3の車両内側の側部に回転可能に軸支連結された状態となっている。
【0040】
上記粘性ロック機構7は、上記ケース7a内にダイラタント流体7bが封入された構成により、常時はシートバック2の前後回転に伴うロックプレート7cのケース7aに対する回転移動を許容するように機能する。しかし、粘性ロック機構7は、上記シートバック2に車両衝突等の発生に伴う前後方向の急激的な大荷重が入力されて、ロックプレート7cが急激的な速度で回転移動しようとする時には、このロックプレート7cからの力を受けてダイラタント流体7bが固体のように固まることで、ロックプレート7cの回転がロックされて、シートバック2の回転をロックするように機能するようになっている。
【0041】
具体的には、上記粘性ロック機構7は、通常時、着座者がシートバック2の背凭れ角度を調節するためにシートバック2を前後回転させるような、通常使用の速度でシートバック2を動かす時には、このシートバック2の動きに連動してロックプレート7cが回動しても、その程度の速度では、ロックプレート7cからダイラタント流体7bに力がかけられても、ダイラタント流体7bは固化せず、ロックプレート7cの回動は許容されるようになっている。しかし、シートバック2に上記のような車両衝突等の発生に伴う前後方向の急激的な大荷重が入力されて、ロックプレート7cが高い速度で回動しようとする時には、このロックプレート7cからダイラタント流体7bにかけられる力によって、ダイラタント流体7bは固化し、ロックプレート7cが回動できないようにロックされた状態となる。これにより、ロックプレート7cと一体となっているシートバック2の回動がロックされた状態となる。
【0042】
すなわち、上記シートバック2に対し、車両衝突等の発生に伴う前後方向の急激的な大荷重が入力されると、リクライニング装置4が設けられた一方側の側部では、リクライニング装置4のロック強度によってその荷重が受け止められると共に、他方側の側部においても、粘性ロック機構7がダイラタント流体7bの固化に伴う抵抗作用によって、同様にシートバック2の前後回転をロックするように機能するため、その荷重が両側部で受け止められるようになる。このように、回転止め装置としてのリクライニング装置4を片側に1つしか設定しない構成であっても、大荷重作用時におけるシートバック2の回転止めを両側の側部で行って、シートバック2の構造強度を好適に担保することのできる構成とすることができる。
【0043】
また、粘性ロック機構7に用いる粘性流体としてダイラタント流体7bを用いたことにより、シートバック2に上述したような急激的な大荷重がかけられた際に、ロックプレート7cからダイラタント流体7bにかけられる力によって、ダイラタント流体7bが瞬時に固体のように固まるため、ロックプレート7cの回転をほぼ滑りを伴わせることなくロックすることができる。したがって、大荷重作用時に、同側においてシートバック2が捩れるように変形することを早期に食い止めることができ、シートバック2の構造強度をより好適に担保することができる構成とすることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態を1つの実施例を用いて説明したが、本発明は上記実施例のほか各種の形態で実施することができるものである。例えば、上記実施例では、シートバック2がリクライニング装置4を介して連結される対象(本発明の「ベース体」に相当する)として、シートクッション3(シートクッションフレーム3f)を例示したが、シートバックの連結対象となる「ベース体」は、他のシート構造物のほか、フロアパネル等の車体構造物を採用することもできる。また、弾性部材の材質は、樹脂のほか、ゴム等の他の弾性材を採用することもできる。
【0045】
また、上記実施例では、粘性ロック機構7に用いる粘性流体として、ダイラタント流体7bを例示したが、その他にも、石鹸系グリス等の粘性の高い流体を用いても良い。但し、この粘性ロック機構に用いる粘性流体は、シートバックに車両衝突等の発生に伴う急激的な大荷重が入力されて、回転フィンがケースに対して急激的な速度で回転しようとする動きを、ほとんど回転させることなくロックさせられるような高い粘性を備えたものである必要がある。また、粘性ロック機構は、ケースがシートバック側に一体的に結合され、回転フィンがベース体側(シートクッションなど)に一体的に結合されて設けられるものであってもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 車両用シート
2 シートバック
2f シートバックフレーム
2a ダボ孔
2b Dダボ孔
2c 貫通孔
2d L字板
3 シートクッション(ベース体)
3f シートクッションフレーム
3a ダボ孔
3b Dダボ孔
3c 通し孔
3d 切り起こし板
3e1 前倒れストッパ
3e2 後倒れストッパ
3g 蓋部材
4 リクライニング装置
4c 操作軸
5 解除レバー
6 渦巻きバネ
6a 内端
6b 外端
7 粘性ロック機構
7a ケース
7a1 ケース本体
7a2 蓋ケース
7b ダイラタント流体
7c ロックプレート(回転フィン)
7c1 回転軸
10 ラチェット
11 円盤部
12 円筒部
12a 内周歯面
12b 乗上げ面
13a ダボ
13b Dダボ
14 貫通孔
20 ガイド
21 円盤部
21a〜21d 案内壁
22 円筒部
23 ガイド溝
23a ポール溝
23b カム溝
24a ダボ
24b Dダボ
24c バネ掛部
25 貫通孔
30 ポール
30a 外周歯面
31 引掛部
32 脚部
40 スライドカム
41 貫通孔
41a 操作孔部
42 肩部
43 溝部
44 フック
50 ヒンジカム
51 バネ掛部
52 操作突起
60 渦巻きバネ
61 内端
62 外端
70 外周リング
71 第1座面部
72 第2座面部
73 円筒部
73a かしめ部
R 回転中心


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートバックが回転止め可能な回転軸装置として機能するリクライニング装置を介してその一方側の側部がベース体に前後回転可能に軸連結された車両用シートであって、
前記シートバックの他方側の側部は、常時は前記シートバックの前後回転を許容するように機能し、前記シートバックに車両衝突等の発生に伴う前後方向の急激的な大荷重が入力された時には、内部に封入された粘性流体の粘性抵抗によって前記シートバックの回転をロックするように機能する粘性ロック機構を介して前記ベース体に連結されており、
前記粘性ロック機構は、前記シートバック又は前記ベース体のうちの一方に一体的に結合されたケースと、該ケース内に封入された前記粘性流体と、前記シートバック又は前記ベース体のうちの他方における前記シートバックの回転中心軸線上の位置に一体的に結合された状態として前記ケース内に回転可能に軸支された回転フィンと、を有し、前記シートバックに前記前後方向の急激的な大荷重が入力された時には、前記回転フィンの前記ケースに対する回転が前記粘性流体の粘性抵抗によりロックされて前記シートバックの前記他方側の側部の前後回転がロックされることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用シートであって、
前記粘性流体をダイラタント流体としたことを特徴とする車両用シート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−91465(P2013−91465A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235921(P2011−235921)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】