説明

車両用ステアリング装置

【課題】歯先ロックを防止でき、しかもコスト安価な車両用ステアリング装置を提供すること。
【解決手段】チルト調整のときにステアリングホイールとともにチルト方向Y1に変位するチルト時可動片36に、第1のチルトロック歯44が形成されている。また、チルト調整のときにステアリングホイールとの同行変位が規制される固定ブラケット15の左側板15cに、第2のチルトロック歯46が形成されている。特定の第1のチルトロック歯441の頂部441aに設けられた案内突起45が、第2のチルトロック歯46間の歯溝46aに設けられた収容凹部47に収容可能とされている。第1および第2のチルトロック歯44,46を噛み合わせる際、案内突起45が対応する第2のチルトロック歯46の頂部46bと当接することにより、両チルトロック歯44,46が整合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ステアリング装置には、ステアリングホイールの位置を上下に調整可能なチルト調整機構を備えるものがある。チルト調整機構には、チルト調整後のステアリングホイールの位置をロックするためのチルトロック機構が設けられている(例えば、特許文献1,2参照)。
特許文献1のチルトロック機構は、車体に固定されたアッパークランプに形成されたチルトロック歯部と、締付ボルトを挿通する第1可動部材に形成されたロック歯部とを備えており、両歯部が噛み合うことで、チルトロックされるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−99640号公報
【特許文献2】特開2008−81026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チルトロックのとき、チルトロック歯部とロック歯部のうちの歯先同士だけが接触した歯先ロック状態となり、上記両歯部が噛み合わないことがある。特に、チルト機構においては、チルトロック歯部とロック歯部とは、チルト軸回りに相対回動する結果、両歯部の歯筋方向が傾き合うことがあるため、歯先ロック状態となり易い。歯先ロック状態になると、操作レバーを正規のチルトロック位置へ回動することができず、チルトロックが行えない。そのため、ステアリングホイールの位置を上下にずらして再度操作レバーを締め直す必要があり、操作性の低下を招いている。
【0005】
歯先ロックを防止するために、特許文献2では、チルトロック歯部とロック歯部のうちの少なくとも1つの歯部の特定山部が、隣接する他の歯部よりも高く、且つ、隣接する他の山部よりも歯先の圧力角が小さくされている。これにより、チルトロック歯部とロック歯部が噛み合うときに、特定山部が最初に相手側の山部と接触して滑りながら噛み合っていき、その結果、歯先ロックを防止する。
【0006】
しかしながら、特許文献2の構成では、特定山部の全体を他の歯の山部と異なる形状に形成している。したがって、特定山部を有する歯と、隣接する他の歯部の何れもが、相手側の歯と確実に噛み合うようにするためには、特定山部の形状を精度よく形成する必要があり、製造コストが高くつく。
同様の課題は、ステアリングホイールの位置を前後に調整するためのテレスコ調整機構に備えられるテレスコロック機構についても同様に存在する。
【0007】
本発明は、かかる背景のもとでなされたもので、歯先ロックを防止でき、しかもコスト安価な車両用ステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、チルト調整またはテレスコ調整のときに、ステアリングホイール(7)との同行変位が規制される被規制部材(15c,40;15cA,40A)と、上記チルト調整または上記テレスコ調整のときに、上記ステアリングホイールとともに変位する可動部材(36,17c;36A,17cA)と、操作レバー(28)の回動操作に応じて締付方向(X1,X2)に沿って上記可動部材を上記被規制部材に押圧するための締付機構(20)と、上記被規制部材および上記可動部材の一方に設けられ上記締付方向とは直交する歯整列方向(Y1,Z1)に並ぶ第1のロック歯(44,49)と、上記被規制部材および上記可動部材の他方に設けられ上記歯整列方向に並ぶ第2のロック歯(46,51)と、一部の上記第1のロック歯(441,491)の頂部(441a,491a)に設けられ、残りの第1のロック歯の頂部より上記第2のロック歯側へ突出する少なくとも1つの案内突起(45,50;45B,50B)と、上記第2のロック歯間の歯溝(46a,51a)に設けられ、上記案内突起を収容可能な収容凹部(47,52)と、を備え、上記案内突起は、上記締付機構による締付のときに、上記案内突起が対応する上記第2のロック歯の頂部(46b,51b)と当接することにより、上記第1および第2のロック歯を整合させることを特徴とする車両用ステアリング装置(1)である(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、操作レバーの回動操作によって可動部材と被規制部材とを互いに押圧させることで、第1および第2のロック歯を互いに噛み合わせてチルトロックまたはテレスコロックすることができる。このとき、案内突起が対応する第2のロック歯の頂部と当接することにより、第1および第2のロック歯を整合させる。しかも、案内突起が収容凹部に嵌まることにより、第1および第2のロック歯を確実に整合するように位置決めできる。その結果、第1および第2のロック歯のうち両歯の頂部同士のみが噛み合う歯先ロックを確実に防止できる。また、案内突起を収容凹部に嵌め入れる簡易な構成により、案内突起が第2のロック歯に当接する等して第1および第2のロック歯の噛み合いに悪影響を与えることを防止できる。したがって、案内突起の形状の精度を高くすることで案内突起が第1および第2のロック歯の噛み合いに悪影響を与えないようにする必要がなく、製造コストをより安価にできる。
【0010】
また、本発明において、上記被規制部材は、車体側部材(14)に固定される固定ブラケット(15)の側板(15,15cA)を含み、上記可動部材は、上記固定ブラケットの側板に対向するチルト時可動片(36;36A)を含み、上記第1のロック歯は、第1のチルトロック歯(44)を含み、上記第2のロック歯は、第2のチルトロック歯(46)を含み、各上記チルトロック歯の歯整列方向は、上記ステアリングホイールの軸方向(S1)および上記締付方向の双方と直交するチルト方向(Y1)である場合がある(請求項2)。
【0011】
この場合、ステアリングホイールの位置を上下に調整するチルト調整機構を備える車両用ステアリング装置において、チルトロック機構を実現できる。特に、チルト調整機構においては、第1のチルトロック歯と第2のチルトロック歯部とは、チルト軸回りに相対回動する結果、両歯の歯筋方向が傾き合うことがあるため、歯先ロック状態となり易い傾向にある。しかしながら、両歯の歯筋が少々ずれていても、案内突起による第1および第2のロック歯の整合効果により、歯先ロックを確実に防止できる。
【0012】
また、本発明において、上記可動部材は、上記ステアリングホイールとは上記ステアリングホイールの軸方向に同行移動可能な可動ブラケット(17)の側板(17c;17cA)を含み、上記被規制部材は、上記固定ブラケットの挿通孔(21)に挿通されることにより上記軸方向の移動が規制され、上記可動ブラケットの側板に対向するテレスコ時被規制片(40;40A)を含み、上記第1のロック歯は、第1のテレスコロック歯(49)を含み、上記第2のロック歯は、第2のテレスコロック歯(51)を含み、各上記テレスコロック歯の歯整列方向は、上記軸方向とは平行なテレスコ方向(Z1)である場合がある(請求項3)。
【0013】
この場合、ステアリングホイールの位置を前後に調整するテレスコ調整機構を備える車両用ステアリング装置において、テレスコロック機構を実現できる。
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施の形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施の一実施の形態に係る車両用ステアリング装置の側面図である。
【図2】保持機構の周辺の要部の一部断面図である。
【図3】保持機構の要部の分解斜視図である。
【図4】ロック歯形成体の斜視図である。
【図5】第1のチルトロック歯部の一部拡大図である。
【図6】図5の一部断面図である。
【図7】(A)は、図3のVIIA−VIIA線に沿う断面図であり、(B)は、図7(A)のVIIB−VIIB線に沿う断面図である。
【図8】(A)は、図4のVIIIA−VIIIA線に沿う断面図であり、(B)は、図8(A)のVIIIB−VIIIB線に沿う断面図である。
【図9】(A)は、図3のIXA−IXA線に沿う断面図であり、(B)は、図9(A)のIXB−IXB線に沿う断面図である。
【図10】(A)〜(D)は、それぞれ、第1および第2のチルトロック歯同士を噛み合わせるときの動作を説明するための断面図である。
【図11】(A)〜(D)は、それぞれ、第1および第2のテレスコロック歯同士を噛み合わせるときの動作を説明するための断面図である。
【図12】(A)は、本発明の別の実施の形態におけるチルトロック機構の要部の断面図であり、(B)は、テレスコロック機構の要部の断面図である。
【図13】本発明のさらに別の実施の形態における案内突起の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好ましい実施の形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施の一実施の形態に係る車両用ステアリング装置1(以下、単にステアリング装置1ともいう)の側面図である。なお、以下では、車体の前後、左右および上下を、単に前後、左右および上下という。
図1を参照して、ステアリング装置1は、チルト調整機構およびテレスコ調整機構を備えており、チルト調整機構とテレスコ調整機構とを、一つの操作レバー28で操作できるようにしたものである。これらチルト調整機構とテレスコ調整機構とは、一つの操作レバー28を共用するが、それぞれ独立に操作することが可能である。
【0016】
ステアリング装置1は、ダッシュパネル3に設けられた挿通孔5に挿入されるとともに、一端に配置されるステアリングホイール7の回転を車輪(図示せず)に伝える伸縮可能なステアリングシャフト9と、このステアリングシャフト9を覆いつつ回転可能に支持する伸縮可能なジャケットチューブ11と、チルト調整機構およびテレスコ調整機構が設けられ、ジャケットチューブ11を車体側へ保持する保持機構13と、を含んでいる。
【0017】
ジャケットチューブ11は、互いに摺動可能に嵌め合わされたロアジャケットチューブ10と、アッパジャケットチューブ12と含んでいる。ステアリングシャフト9の一端とアッパジャケットチューブ12とは、図示しない軸受を介して、相対回転可能且つステアリングシャフト9の軸方向S1に同行移動可能に連結されている。
図2は、保持機構13の周辺の要部の一部断面図である。図3は、保持機構13の要部の分解斜視図である。
【0018】
図2および図3を参照して、保持機構13は、車体側へ図示しないボルト等を介して固定される車体側部材14に連結される固定ブラケット15と、固定ブラケット15に対してチルト方向Y1およびテレスコ方向Z1に相対移動可能な可動ブラケット17と、ロック歯形成体19と、車体の左右方向に延びるロックボルト16を含む締付機構20と、を備えている。
【0019】
固定ブラケット15は、全体としてコ字形形状に形成されており、車体側部材14に固定される天板15aと、天板15aの左右一対の端部からそれぞれ垂下する一対の側板15b,15cとを含んでいる。
固定ブラケット15の各側板15b,cには、ロックボルト16が挿通される縦長孔21がそれぞれ形成されている。各縦長孔21は、ステアリングシャフト9の軸方向S1および後述する第1の締付方向X1の双方に直交するチルト方向Y1に略真っ直ぐに延びている。なお、各縦長孔21は、保持機構13に対してロア側に配置されるチルト軸(図示せず)の中心軸線を中心とする円弧形形状に形成されていてもよい。
【0020】
固定ブラケット15の左側板15cの外側面15dのうち、縦長孔21を前後に挟む一対の縁部には、第2のチルトロック歯部23がそれぞれ形成されている。
可動ブラケット17は、アッパジャケットチューブ12の下部に固定される円弧状の固定板17aと、固定板17aの左右の一対の端部からそれぞれ垂下する一対の側板17b,17cとを含んでいる。可動ブラケット17は、アッパジャケットチューブ12に固定されていることにより、アッパジャケットチューブ12およびステアリングシャフト9等を介してステアリングホイール7とテレスコ方向Z1に同行移動可能とされている。
【0021】
可動ブラケット17の各側板17b,17cには、ロックボルト16が挿通される横長孔24がそれぞれ形成されている。各横長孔24は、後述する第2の締付方向X2とは直交しステアリングシャフト9の軸方向S1と平行なテレスコ方向Z1に略真っ直ぐに延びている。
可動ブラケット17の各側板17b,17cの外側面は、固定ブラケット15の各側板15b,15cの対応する内側面にそれぞれ当接している。可動ブラケット17の左側板17cの外側面17dのうち、横長孔24を上下に挟む一対の縁部には、第2のテレスコロック歯部26がそれぞれ形成されている。
【0022】
締付機構20は、ロックボルト16と、カム部27と、操作レバー28と、ロックナット29と、を含んでいる。
ロックボルト16は、左右方向に延びており、固定ブラケット15の一対の縦長孔21,21、可動ブラケット17の一対の側板17b,17cの一対の横長孔24,24およびロック歯形成体19の後述する挿通孔19aを挿通している。
【0023】
ロックボルト16の右端部には、セレーション30を外周に有する円板部31が突設されている。このセレーション30には、回り止め用のアジャストストッパー32が相対回転を規制されて嵌合している。アジャストストッパー32は、プッシュナット33によってロックボルト16に係止されている。アジャストストッパー32が右側の縦長孔21の内周面に係合することにより、ロックボルト16の回転を規制している。
【0024】
操作レバー28は、ロックナット29とは同行回転可能に連結されている。ロックナット29は、ロックボルト16の左端部に形成された雄ねじ部34に螺合している。
カム部27は、ロックナット29とロック歯形成体19との間に介在しており、ロックナット29の回動に伴い、ロックボルト16の軸方向に変位するようになっている。また、可動ブラケット17とロック歯形成体19との間には、ロック歯形成体19をカム部27側へ付勢するコイルばね等からなる弾性部材35が介在している。
【0025】
ロックボルト16には、弾性部材35と、カラー35aと、ブッシュ35bとが挿通されている。弾性部材35の一端が可動ブラケット17の側板17bの内側面にブッシュ35bを介して当接することで、カラー35aを左方向へ付勢しており、カラー35aは、側板17cの横長孔24を挿通してロック歯形成体19に当接している。
操作レバー28の回動操作によってロックナット29をロックボルト16の周方向の一方に回転させると、カム部27は、ロック歯形成体19側に変位し、ロック歯形成体19を、弾性部材35の付勢力に抗して固定ブラケット15の左側板15cおよび可動ブラケット17の左側板17cに係合するように締付けを行う。
【0026】
より具体的には、第1の締付方向X1(右方向)に沿って、チルト調整のときの可動部材としての後述するチルト時可動片36が、被規制部材としての固定ブラケット15の左側板15cに押圧される。これにより、後述する第1のチルトロック歯部22と第2のチルトロック歯部23とが互いに噛み合う。その結果、可動ブラケット17、アッパジャケットチューブ12およびステアリングシャフト7のチルト方向Y1への移動が規制され、チルトロックが達成される。
【0027】
また、第2の締付方向X2(左方向)に沿って、テレスコ調整時の可動部材としての可動ブラケット17の左側板17cが、後述する被規制部材としてのテレスコ時被規制片40に押圧される。これにより、第2のテレスコロック歯部26と後述する第1のテレスコロック歯部25とが互いに噛み合う。その結果、可動ブラケット17、アッパジャケットチューブ12およびステアリングシャフト7のテレスコ方向Z1への移動が規制され、テレスコロックが達成される。
【0028】
一方、操作レバー28の回動操作によってロックナット29をロックボルト16の周方向の他方に回転させると、カム部27は、ロック歯形成体19から離れる方向(左側)に変位する。これにより、ロック歯形成体19は、弾性部材35の付勢力により、固定ブラケット15の左側板15cおよび可動ブラケット17の左側板17cから離隔する。これにより、第1のチルトロック歯部22と第2のチルトロック歯部23との噛み合いが解除される。すなわち、チルトロックが解除される。
【0029】
チルトロックの解除と同時に、第1のテレスコロック歯部25と第2のテレスコロック歯部26との互いの噛み合いも解除される。すなわち、テレスコロックが解除される。
図4は、ロック歯形成体19の斜視図である。図3および図4を参照して、ロック歯形成体19は、固定ブラケット15の左側板15cに近接するように対向配置されており、チルト時可動片36と、テレスコ時被規制片40とを含んでいる。
【0030】
ロック歯形成体19には、テレスコ時被規制片40およびチルト時可動片36を貫く挿通孔19aが形成されており、この挿通孔19aにロックボルト16が挿通されている。
チルト方向Y1に相対移動可能な固定ブラケット15および可動ブラケット17によって、チルト方向Y1に関するステアリングホイールの位置を調整可能なチルト調整機構38が形成されている。また、チルト時可動片36と固定ブラケット15の左側板15cとによって、チルトロック機構39が形成されている。
【0031】
チルト時可動片36は、チルト調整のときの可動部材であり、ロックボルト16を介して可動ブラケット17と連結されていることにより、ステアリングホイール7とはチルト方向Y1に同行移動可能である。固定ブラケット15の左側板15cは、チルト調整のときの被規制部材であり、ステアリングホイールとはチルト方向Y1への同行移動が規制されている。
【0032】
テレスコ方向Z1に相対移動可能な固定ブラケット15および可動ブラケット17によって、テレスコ方向Z1に関するステアリングホイールの位置を調整可能なテレスコ調整機構41が形成されている。また、テレスコ時被規制片40と可動ブラケット17の左側板17cとによって、テレスコロック機構42が形成されている。
可動ブラケット17の左側板17cは、テレスコ調整のときの可動部材であり、ステアリングホイールとはテレスコ方向Z1に同行移動可能である。
【0033】
テレスコ時被規制片40は、テレスコ調整のときの被規制部材であり、ステアリングホイール7とはテレスコ方向Z1への同行移動が規制されている。
チルト時可動片36は、断面溝形形状に形成されており、固定ブラケット15の左側板15cの外側面15dに対向する内側面36aを有している。この内側面36aには、溝部43と、溝部43を前後に挟んでそれぞれ配置される第1のチルトロック歯部22とが形成されている。
【0034】
テレスコ時被規制片40は、チルト時可動片36の溝部43に嵌合しており、この溝部43から可動ブラケット17の左側板17c側に突出している。
テレスコ時被規制片40は、図2に示すように、固定ブラケット15の左側板15cの挿通孔としての縦長孔21を挿通しており、この縦長孔21の内周面と係合することにより、テレスコ方向Z1に関する移動が規制される。テレスコ時被規制片40の内側面40aは、可動ブラケット17の左側板17cに対向している。
【0035】
図3および図4を参照して、このテレスコ時被規制片40は、可動ブラケット17側を向く内側面40aを有している。この内側面40aには、上記挿通孔19aを挟んだ上下に、第1のテレスコロック歯部25がそれぞれ形成されている。
次に、各第1のチルトロック歯部22,22および各第2のチルトロック歯部23,23について説明する。なお、各第1のチルトロック歯部22,22は、互いに同様の構成を有しているので、以下では、一方(図3の右側)の第1のチルトロック歯部22について主に説明する。また、各第2のチルトロック歯部23,23は、互いに同様の構成を有しているので、以下では、一方の第2のチルトロック歯部23について主に説明する。
【0036】
図5は、第1のチルトロック歯部22の一部拡大図である。図4および図5を参照して、第1のチルトロック歯部22は、複数の第1のチルトロック歯44を含んでいる。第1のチルトロック歯44は、歯整列方向としてのチルト方向Y1に沿って整列されている。各第1のチルトロック歯44は、断面山形形状に形成されている。各第1のチルトロック歯44の頂部44aは、チルト方向Y1とは直交する歯筋方向に真っ直ぐに延びている。
【0037】
図3および図4を参照して、一部の第1のチルトロック歯44としての特定の第1のチルトロック歯441が設けられている。本実施の形態において、特定の第1のチルトロック歯441は、1つ設けられているが、2つ以上設けられていてもよい。
特定の第1のチルトロック歯441は、第1のチルトロック歯部22のうち、チルト方向Y1の略中央に配置されている。これにより、特定の第1のチルトロック歯441は、任意のチルト角において、第2のチルトロック歯部23と相対向することが可能となっている。
【0038】
図6は、図5の一部断面図である。図5および図6を参照して、特定の第1のチルトロック歯441の頂部441aには、案内突起45が設けられている。特定の第1のチルトロック歯441は、案内突起45が設けられている以外は、残りの第1のチルトロック歯44と同様の形状を有している。特定の第1のチルトロック歯441の案内突起45は、残りの第1のチルトロック歯44の頂部44aよりも第2のチルトロック歯部23側(第1の締付方向X1側)へ突出している。なお、特定の第1のチルトロック歯441における案内突起45の数は、例えば1つであるが、2つ以上でもよい。
【0039】
案内突起45は、特定の第1のチルトロック歯441の歯筋方向の中央に配置されている。この案内突起45は、特定の第1のチルトロック歯441の頂部441aから突出する円柱状部45aと、円柱状部45aの先端に形成された半球状部45bとを含んでいる。特定の第1のチルトロック歯441の頂部441aからの案内突起45の突出量A1は、当該特定の第1のチルトロック歯441の歯元部441bから頂部441aまでの高さA2の半分以下である。
【0040】
図7(A)は、図3のVIIA−VIIA線に沿う断面図であり、図7(B)は、図7(A)のVIIB−VIIB線に沿う断面図である。図3および図7(A)を参照して、第2のチルトロック歯部23は、複数の第2のチルトロック歯46を含んでいる。各第2のチルトロック歯46は、歯整列方向としてのチルト方向Y1に沿って整列されている。各第2のチルトロック歯46は、断面山形形状に形成されている。
【0041】
図6、図7(A)および図7(B)を参照して、各第2のチルトロック歯46間には、チルトロック歯溝46aが形成されている。各チルトロック歯溝46aには、特定の第1のチルトロック歯441の案内突起45を収容可能な収容凹部47が形成されている。
各収容凹部47は、第2のチルトロック歯46の歯筋方向の略中央に配置されており、略円柱状をなしている。各チルトロック歯溝46aからの収容凹部47の深さA3の値は、案内突起45の突出量A1の値よりも大きい。各収容凹部47の直径は、案内突起45の直径と比べて略同じか、または大きい。
【0042】
図3および図4を参照して、次に、各第1のテレスコロック歯部25,25および各第2のテレスコロック歯部26,26について説明する。なお、各第1のテレスコロック歯部25,25は、互いに同様の構成を有しているので、以下では、一方(図4の上側)の第1のテレスコロック歯部25について主に説明する。また、各第2のテレスコロック歯部26,26は、互いに同様の構成を有しているので、以下では、一方(図3の上側)の第2のテレスコロック歯部26について主に説明する。
【0043】
図8(A)は、図4のVIIIA−VIIIA線に沿う断面図であり、図8(B)は、図8(A)のVIIIB−VIIIB線に沿う断面図である。図4および図8(A)を参照して、第1のテレスコロック歯部25は、複数の第1のテレスコロック歯49を含んでいる。各第1のテレスコロック歯49は、歯整列方向としてのテレスコ方向Z1に沿って整列されている。各第1のテレスコロック歯49は、断面山形形状に形成されている。各第1のテレスコロック歯49の頂部49aは、テレスコ方向Z1とは直交する歯筋方向に真っ直ぐに延びている。
【0044】
一部の第1のテレスコロック歯49としての特定の第1のテレスコロック歯491が設けられている。本実施の形態において、特定の第1のテレスコロック歯491は、1つ設けられているが、2つ以上設けられていてもよい。
図3および図4を参照して、特定の第1のテレスコロック歯491は、第1のテレスコロック歯部25のうち、テレスコ方向Z1の略中央に配置されている。これにより、テレスコ方向Z1に関するテレスコ時被規制片40と可動ブラケット17の左側板17cの任意の相対位置において、特定の第1のテレスコロック歯491は、第2のテレスコロック歯部26と相対向することが可能となっている。
【0045】
図3および図8(A)を参照して、特定の第1のテレスコロック歯491の頂部491aには、案内突起50が設けられている。特定の第1のテレスコロック歯491は、案内突起50が設けられている以外は、残りの第1のテレスコロック歯49と同様の形状を有している。特定の第1のテレスコロック歯491の案内突起50は、残りの第1のテレスコロック歯49の頂部49aよりも第2のテレスコロック歯部26側(第1の締付方向X1側)へ突出している。なお、特定の第1のテレスコロック歯491における案内突起50の数は、例えば1つであるが、2つ以上でもよい。
【0046】
図8(A)および図(B)を参照して、案内突起50は、特定の第1のテレスコロック歯491の歯筋方向の中央に配置されている。この案内突起50は、特定の第1のテレスコロック歯491の頂部491aから突出する円柱状部50aと、円柱状部50aの先端に形成された半球状部50bとを含んでいる。特定の第1のテレスコロック歯491の頂部491aからの案内突起50の突出量B1は、当該特定の第1のテレスコロック歯491の歯元部491bから頂部491aまでの高さB2の半分以下である。
【0047】
図9(A)は、図3のIXA−IXA線に沿う断面図であり、図9(B)は、図9(A)のIXB−IXB線に沿う断面図である。図3および図9(A)を参照して、第2のテレスコロック歯部26は、複数の第2のテレスコロック歯51を含んでいる。各第2のテレスコロック歯51は、歯整列方向としてのテレスコ方向Z1に沿って整列されている。各第2のテレスコロック歯51は、断面山形形状に形成されている。各第2のテレスコロック歯51間には、テレスコロック歯溝51aが形成されている。
【0048】
図8(A)、図9(A)および図9(B)を参照して、各テレスコロック歯溝51aには、収容凹部52が形成されている。収容凹部52は、特定の第1のテレスコロック歯491の案内突起50を収容するためのものであり、第2のテレスコロック歯51の歯筋方向の略中央に配置されている。第2のテレスコロック歯51は、略円柱状をなしている。各テレスコロック歯溝51aからの収容凹部52の深さB3の値は、案内突起50の突出量B1の値よりも大きい。各収容凹部52の直径は、案内突起50の直径と比べて略同じか、または大きい。
【0049】
次に、以上の概略構成を有するステアリング装置1における、チルトロックおよびテレスコロックのときの動作の主だった点を説明する。
図10(A)を参照して、前述したように、操作レバーの回動操作に伴って、第1の締付方向X1に沿ってチルト時可動片36が固定ブラケット15の左側板15c側に変位されると、図10(B)に示すように、第1のチルトロック歯部22のうち、特定の第1のチルトロック歯441の案内突起45が、最初に対応する第2のチルトロック歯46の頂部46bに当接する。これにより、第1のチルトロック歯44と第2のチルトロック歯46とがチルト方向Y1に整列される。
【0050】
その後、図10(C)に示すように、案内突起45が第2のチルトロック歯46を摺動しつつ、第1のチルトロック歯44が第2のチルトロック歯46側に変位する。これにより、図10(D)に示すように、案内突起45が、第2のチルトロック歯部23の収容凹部47に嵌合し、この収容凹部47に収容される。また、第1のチルトロック歯44と第2のチルトロック歯46とが互いに噛み合い、チルトロックが達成される。
【0051】
上記のようにしてチルトロックが達成されるのと同時に、テレスコロックが達成される。具体的には、図11(A)を参照して、操作レバーの回動操作に伴って、第2の締付方向X2に沿って可動ブラケット17の左側板17cがテレスコ時被規制片40に対してテレスコ時被規制片40側に変位されると、図11(B)に示すように、第1のテレスコロック歯部25のうち、特定の第1のテレスコロック歯491の案内突起50が、最初に対応する第2のテレスコロック歯51の頂部51bに当接する。これにより、第1のテレスコロック歯49と第2のテレスコロック歯51とがテレスコ方向Z1に整列される。
【0052】
その後、図11(C)に示すように、対応する第2のテレスコロック歯51が案内突起50を摺動しつつ、第2のテレスコロック歯51が第1のテレスコロック歯49側に変位する。これにより、図11(D)に示すように、第2のテレスコロック歯部26の収容凹部52に案内突起50が嵌合し、この収容凹部52に収容される。また、第1のテレスコロック歯49と第2のテレスコロック歯51とが互いに噛み合い、テレスコロックが達成される。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態によれば、操作レバー28の回動操作によってチルトロック機構39のチルト時可動片36と固定ブラケット15の左側板15cとを互いに押圧させることで、第1および第2のチルトロック歯44,46を互いに噛み合わせてチルトロックを達成することができる。
このとき、特定の第1のチルトロック歯441の案内突起45が対応する第2のチルトロック歯46の頂部46bと当接することにより、第1および第2のチルトロック歯44,46を整合させる。しかも、案内突起45が対応する収容凹部47に嵌まることにより、第1および第2のチルトロック歯44,46を確実に整合するように位置決めできる。その結果、第1および第2のチルトロック歯44,46のうち両歯の頂部44a,46b同士のみが噛み合う歯先ロックを確実に防止できる。
【0054】
また、案内突起45を対応する収容凹部47に嵌め入れる簡易な構成により、案内突起45が第2のチルトロック歯46に当接する等して第1および第2のチルトロック歯44,46の噛み合いに悪影響を与えることを防止できる。したがって、案内突起45の形状の精度を高くすることで案内突起45が第1および第2のチルトロック歯44,46の噛み合いに悪影響を与えないようにする必要がなく、製造コストをより安価にできる。
【0055】
さらに、操作レバー28の回動操作によってテレスコロック機構42の可動ブラケット17の左側板17cとテレスコ時被規制片40とを互いに押圧させることで、第1および第2のテレスコロック歯49,51を互いに噛み合わせてテレスコロックを達成することができる。
このとき、案内突起50が対応する第2のテレスコロック歯51の頂部51bと当接することにより、第1および第2のテレスコロック歯49,51を整合させる。しかも、案内突起50が対応する収容凹部52に嵌まることにより、第1および第2のテレスコロック歯49,51を確実に整合するように位置決めできる。その結果、第1および第2のテレスコロック歯49,51のうち両歯の頂部49a,51b同士のみが噛み合う歯先ロックを確実に防止できる。
【0056】
また、案内突起50を対応する収容凹部52に嵌める入れる簡易な構成により、案内突起50が第2のテレスコロック歯51に当接する等して第1および第2のテレスコロック歯49,51の噛み合いに悪影響を与えることを防止できる。したがって、案内突起50の形状の精度を高くすることで案内突起50が第1および第2のテレスコロック歯49,51の噛み合いに悪影響を与えないようにする必要がなく、製造コストをより安価にできる。
【0057】
以上の次第で、チルト調整機構38のためのチルトロック機構39を実現できる。特に、チルト調整機構38においては、第1のチルトロック歯44と第2のチルトロック歯部46とは、チルト軸回りに相対回動する結果、両歯44,46の歯筋方向が傾き合うことがあるため、歯先ロック状態となり易い傾向にある。しかしながら、両歯44,46の歯筋が少々ずれていても、案内突起45による第1および第2のチルトロック歯44,46の整合効果により、歯先ロックを確実に防止できる。
【0058】
また、テレスコ調整機構41のためのテレスコロック機構42を実現できる。
本発明は、以上の実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。なお、以下では、上記実施の形態と同様の構成には図に同様の符号を付してその説明を省略する。
例えば、図12(A)に示すように、案内突起45を含む第1のチルトロック歯部22を固定ブラケット15Aの左側板15cAに設けるとともに、収容凹部47を含む第2のチルトロック歯部23をチルト時可動片36Aに設けてもよい。また、図12(B)に示すように、案内突起50を含む第1のテレスコロック歯部25を可動ブラケット17Aの左側板17cAに設けるとともに、収容凹部52を含む第2のテレスコロック歯部26をテレスコ時被規制片40Aに設けてもよい。
【0059】
さらに、各案内突起45,50の形状は、先端が半球状のものに限らず、対応する収容凹部47,52に嵌まることの出来るものであればよい。例えば、図13に示すように、円錐状の突起からなる案内突起45Bまたは50Bを用いてもよい。
また、テレスコ調整機構41およびテレスコロック機構42を廃止してもよい。さらに、チルト調整機構38およびチルトロック機構39を廃止してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…車両用ステアリング装置、7…ステアリングホイール、14…車体側部材、15…固定ブラケット、15c,15cA…(固定ブラケットの)左側板(被規制部材)、17…可動ブラケット、17c,17cA…(可動ブラケットの)左側板(可動部材)、20…締付機構、21…(固定ブラケットの)縦長孔(挿通孔)、28…操作レバー、36,36A…チルト時可動片(可動部材)、40,40A…テレスコ時被規制片(被規制部材)44…第1のチルトロック歯(第1のロック歯)、45,45B…(第1のチルトロック歯の)案内突起、46…第2のチルトロック(第2のロック歯)、46a…歯溝、46b…(第2のチルトロック歯の)頂部、47…収容凹部、49…第1のテレスコロック歯(第1のロック歯)、50,50B…(第1のテレスコロック歯の)案内突起、51…第2のテレスコロック歯(第2のロック歯)、51a…歯溝、51b…(第2のテレスコロック歯の)頂部、52…収容凹部、441…特定の第1のチルトロック歯(一部の上記第1のロック歯)、441a…(特定の第1のチルトロック歯の)頂部、491…特定の第1のテレスコロック歯(一部の上記第1のロック歯)、491a…(特定の第1のテレスコロック歯の)頂部、S1…ステアリングホイールの軸方向、X1,X2…締付方向、Y1…チルト方向(歯整列方向)、Z1…テレスコ方向(歯整列方向)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チルト調整またはテレスコ調整のときに、ステアリングホイールとの同行変位が規制される被規制部材と、
上記チルト調整または上記テレスコ調整のときに、上記ステアリングホイールとともに変位する可動部材と、
操作レバーの回動操作に応じて締付方向に沿って上記可動部材を上記被規制部材に押圧するための締付機構と、
上記被規制部材および上記可動部材の一方に設けられ上記締付方向とは直交する歯整列方向に並ぶ第1のロック歯と、
上記被規制部材および上記可動部材の他方に設けられ上記歯整列方向に並ぶ第2のロック歯と、
一部の上記第1のロック歯の頂部に設けられ、残りの第1のロック歯の頂部より上記第2のロック歯側へ突出する少なくとも1つの案内突起と、
上記第2のロック歯間の歯溝に設けられ、上記案内突起を収容可能な収容凹部と、を備え、
上記案内突起は、上記締付機構による締付のときに、上記案内突起が対応する上記第2のロック歯の頂部と当接することにより、上記第1および第2のロック歯を整合させることを特徴とする車両用ステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、上記被規制部材は、車体側部材に固定される固定ブラケットの側板を含み、
上記可動部材は、上記固定ブラケットの側板に対向するチルト時可動片を含み、
上記第1のロック歯は、第1のチルトロック歯を含み、
上記第2のロック歯は、第2のチルトロック歯を含み、
各上記チルトロック歯の歯整列方向は、上記ステアリングホイールの軸方向および上記締付方向の双方と直交するチルト方向であることを特徴とする車両用ステアリング装置。
【請求項3】
請求項2において、上記可動部材は、上記ステアリングホイールとは上記ステアリングホイールの軸方向に同行移動可能な可動ブラケットの側板を含み、
上記被規制部材は、上記固定ブラケットの挿通孔に挿通されることにより上記軸方向の移動が規制され、上記可動ブラケットの側板に対向するテレスコ時被規制片を含み、
上記第1のロック歯は、第1のテレスコロック歯を含み、
上記第2のロック歯は、第2のテレスコロック歯を含み、
各上記テレスコロック歯の歯整列方向は、上記軸方向とは平行なテレスコ方向であることを特徴とする車両用ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−264870(P2010−264870A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117624(P2009−117624)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【出願人】(000237307)富士機工株式会社 (392)
【Fターム(参考)】