説明

車両用ステレオカメラの取付構造

【課題】 ラジエータの冷却性能の低下や、ラジエータの熱によるカメラへの悪影響を招くことなく、フロントグリル部分にカメラを設定することの可能な車両用ステレオカメラの取付構造を提供する。
【解決手段】 複数のカメラ8を相互に連結するラテラルステー9を設けると共に、このラテラルステー9とカメラ8を、ブラケット10,11を介してロアクロスメンバ6に固定する。各カメラ8を、少なくとも一部がロアクロスメンバ6の側方傾斜部6bとラジエータ5との間の領域A1に位置されるように配置する。また、各カメラ8を、少なくとも一部がロアクロスメンバ6の側方傾斜部6bの外側の、サイドフレーム4の近傍領域A2に位置されるように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車載カメラの取付構造に関し、とりわけ、立体画像を認識するための複数のカメラを車体に取り付けるステレオカメラの取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両周囲の走行環境をカメラで撮影し、この画像情報を走行支援等のために利用する技術が開発されている。その代表的なものとして、立体画像認識用の一対のカメラを車両に搭載し、その二つのカメラで撮影した画像から対象物の前後位置を認識する技術が知られている。
【0003】
このようなステレオカメラの取付構造としては、例えば、特許文献1に記載されるようなものが知られている。
この取付構造は、横長のラテラルステーの両端に一対のカメラを取り付け、ラテラルステーの中央部のみを車室内の固定部材に取り付けることで、振動や車体の歪によって両カメラの光軸がすれるのを防止するようになっている。
【特許文献1】特開2001−88623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、ステレオカメラに、フロントガラスを透過しにくい光を扱う赤外線カメラを用いる場合等において、カメラをエンジンルーム前方のフロントグリル部分に配置することが検討されている。しかし、フロントグリル部分にはラジエータが配置されているため、カメラをフロントグリル部分に配置すると、カメラがラジエータのエアの取り込みを疎外してしまうと共に、ラジエータの熱の影響を受け易くなることが懸念される。
【0005】
そこでこの発明は、ラジエータの冷却性能の低下や、ラジエータの熱によるカメラへの悪影響を招くことなく、フロントグリル部分にカメラを設定することの可能な車両用ステレオカメラの取付構造を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車両周囲の走行環境を立体画像として認識するための複数のカメラ(例えば、後述の実施形態におけるカメラ8)を車体フレームに取り付ける車両用ステレオカメラの取付構造であって、エンジンルーム両側のサイドフレーム(例えば、後述の実施形態におけるサイドフレーム4)の前端部に、両端縁が上方に屈曲したクロスメンバ(例えば、後述の実施形態におけるロアクロスメンバ6)の端末部が結合されると共に、そのクロスメンバ中央部にラジエータ(例えば、後述の実施形態におけるラジエータ5)が支持されているものにおいて、前記複数のカメラを相互に連結するラテラルステー(例えば、後述の実施形態におけるラテラルステー9)を設けると共に、このラテラルステーまたは前記カメラをブラケット(例えば、後述の実施形態におけるアッパブラケット10、ロアブラケット11)を介して前記クロスメンバに固定し、前記各カメラを、それらのカメラの少なくとも一部が前記クロスメンバの屈曲した両端縁(例えば、後述の実施形態における側方傾斜部6b)とラジエータとの間の領域に位置されるように配置した。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、車両周囲の走行環境を立体画像として認識するための複数のカメラを車体フレームに取り付ける車両用ステレオカメラの取付構造であって、エンジンルーム両側のサイドフレームの前端部に、両端縁が上方に屈曲したクロスメンバの端末部が結合されると共に、そのクロスメンバ中央部にラジエータが支持されているものにおいて、前記複数のカメラを相互に連結するラテラルステーを設けると共に、このラテラルステーまたは前記カメラをブラケットを介して前記クロスメンバに固定し、前記各カメラを、それらのカメラの少なくとも一部が前記クロスメンバの屈曲した両端部の外側のサイドフレーム近傍領域に位置されるように配置した。
【0008】
これらの発明は、いずれもカメラの少なくとも一部がラジエータの前方からオフセットした位置に配置され、しかも、車体の主要な骨格部材であるサイドフレームの近傍位置でクロスメンバに固定されることとなる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1,2に記載の発明によると、カメラの少なくとも一部がラジエータの前方からオフセット位置に配置されるようになることから、カメラによるラジエータの冷却性能の低下を防止することが可能になると共に、カメラがラジエータの熱による悪影響を受け難くなり、しかも、剛性の高いサイドフレームに近接した位置においてカメラをクロスメンバに支持させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、図2に示す車両1の車体前部Aのボディパネルやバンパ等を取り外した骨格部の斜視図であり、図3は、同骨格部の概略平面図、図4,図5は、夫々同骨格部の概略正面図と概略側面図である。これらの図において、2は、エンジンであり、4は、エンジンルーム3の両側において車体前後方向に延出する一対のサイドフレーム、5は、エンジン冷却水を冷却するためのラジエータである。
【0011】
両側のサイドフレーム4の前端部は、バルクヘッドロアクロスメンバ6(以下、「ロアクロスメンバ6」と呼ぶ。)とバルクヘッドアッパフレーム7(以下、「アッパフレーム7」と呼ぶ)によって結合されており、これらのロアクロスメンバ6とアッパフレーム7の中央部は前記ラジエータ5の下端と上端を夫々支持している。ロアクロスメンバ6とアッパフレーム7は共に閉断面とされ、これらの長手方向の各中央部は夫々下方と上方に湾曲し、両者の間にラジエータ前方の空気取り入れスペースが確保されている。具体的には、例えばロアクロスメンバ6では、車幅方向に水平に延びるメンバ基部6aに対して、このメンバ基部6aの両縁がサイドフレーム4に向かって斜め上方に屈曲し(以下、この部分を「側方傾斜部6b」と呼ぶ。)、その側方傾斜部6bの各端末部がさらに車幅方向外側に曲げられサイドフレーム4の下面に結合されている。
【0012】
一方、この車両に搭載されるステレオカメラは、カメラ本体として遠赤外線カメラ8(以下、「カメラ8」と呼ぶ。)を採用している。カメラ8は一対設けられ、これらのカメラ8は、車幅方向に延出するラテラルステー9によって相互に連結されると共に、アッパブラケット10とロアブラケット11を介してロアクロスメンバ6に取り付けられるようになっている。
【0013】
ラテラルステー9は、図1,図6に示すようにアルミニウムや鉄等の金属から成る角パイプによって形成され、その両側縁の前部壁と下部壁が切り欠かれ、残った後部壁の前面側に各カメラ8の背部上縁が固定されている。また、ラテラルステー9の長手方向の中間部には、両カメラ8に接続される信号ケーブルの束12がクリップ止めによって取り付けられている。
【0014】
アッパブラケット10とロアブラケット11は、図6,図7に示すようにアルミニウム等の金属板によって形成されており、アッパブラケット10は、各カメラ8の背部上縁をラテラルステー9と共にロアクロスメンバ6の側方傾斜部6b(図4参照。)に固定し、ロアブラケット11は、各カメラ8の背部下縁をロアクロスメンバ6のメンバ基部6aと側方傾斜部6bに固定するようになっている。これらのブラケット10,11は、少なくとも一部がラテラルステー9の曲げ剛性よりも低い剛性になるように設定されている。
【0015】
アッパブラケット10は、図7に示すように帯状の金属板が板厚方向に複数段に曲げられ、一端側の端縁の前面がカメラ取付面10a、他端側の端縁の後面が車体取付面10bとされている。カメラ取付面10aのあるアッパブラケット10の一端側は、図6に示すようにラテラルステー9の端部と共にカメラ8の上縁にボルト13によって共締め固定され、車体取付面10bのある他端側はロアクロスメンバ6の側方傾斜部6b(図4参照。)の上端近傍にボルト14によって固定されている。また、この実施形態の場合、アッパブラケット10の曲げは三段になって設けられ、これらがアッパブラケット10の変形代を大きくする曲げ部10cとなっている。アッパブラケット10の長手方向に沿う一方の側縁には、カメラ取付面10a側の端縁と曲げ部10cの一部に跨るように補強フランジ16が曲げ形成されており、他方の側縁には、車体取付面10bの端縁と曲げ部10cの一部に跨るように補強用ビード17が形成されている。この実施形態の場合、アッパブラケット10全体がプレス成形によって形成されている。
【0016】
一方、ロアブラケット11は、プレス成形された二枚の金属板が連結されて成り、大型の金属板によって形成されたブラケット本体11Aは正面視が略円弧状を成すように形成されている。ブラケット本体11Aの一端側の後面は第1の車体取付面11aとされ、その第1の車体取付部11aのある一端側が図4に示すようにロアクロスメンバ6のメンバ基部6aにボルト14によって固定されている。また、ブラケット本体11Aの他端は、その前面がカメラ取付面11bとされると共に、末端部が略直角に折り曲げられて、そこにL字断面のサブブラケット11Bが結合されている。カメラ取付面11bにはカメラ8の下縁部がボルト13で固定されており、サブブラケット11Bの底部後面は第2の車体取付面11cとされ、この第2の車体取付面11cのある底部がロアクロスメンバ6の側方傾斜部6bの略中間位置にボルト14で固定されている。なお、ロアブラケット11のブラケット本体11Aには補強フランジ18と補強用ビード19が適宜形成されている。
【0017】
ところで、上記のようにラテラルステー9とブラケット10,11を介してロアクロスメンバ6に固定された一対のカメラ8は、これらのカメラ中心oが、図4に示すようにロアクロスメンバ6の側方傾斜部6bとラジエータ5の間の略V字状の領域A1に位置されるようになっている。この領域A1はラジエータ5の前面から側方にオフセットし、かつ、車両の主要な骨格部材であって充分な強度及び剛性を持つサイドフレーム4に近接した領域である。
【0018】
以上の構成において、例えば、サイドフレーム4がエンジン2の熱を受けて車幅方向外側に開き変形した場合には、ロアクロスメンバ6の両端部がサイドフレーム4によって引っ張られ、両側の側方傾斜部6bがより外側に開くように変形しようとする。このとき、カメラ8とラテラルステー9をロアクロスメンバ6に固定しているアッパブラケット10とロアブラケット11に荷重が入力されるが、その荷重は剛性の低い両ブラケット10,11を変形させることによって吸収され、ラテラルステー9には大きな曲げ荷重として入力されなくなる。特に、ロアクロスメンバ6の側方傾斜部6bの上端近傍に結合されているアッパブラケット10は、複数段の曲げ部10cを中心とする低剛性部が大きな撓み代をもって変形するため、ロアクロスメンバ6からの大きな入力荷重を効果的に吸収することができる。
【0019】
また、このステレオカメラの取付構造の場合、基本的にラテラルステー9の両端部を車体フレームであるロアクロスメンバ6にブラケット10,11によって固定するものであるため、カメラ8のガタ付きや振れを確実に無くすことができる。したがって、この実施形態の取付構造においては、焦点距離の長い遠赤外線カメラを採用する関係でカメラ8の間隔を離し、長いラテラルステー9で両カメラ8を連結しなければならないにも拘らず、カメラ8のガタ付きや振れによる不具合は生じない。また、カメラ8を大きな振動の入力のあるエンジンルーム3の前方に配置しても同様にガタ付きや振れによる不具合は生じない。
【0020】
さらに、このステレオカメラの取付構造においては、各カメラ8が、ロアクロスメンバ6の側方傾斜部6bとラジエータ5の間の略V字状の領域A1にカメラ中心oが来るように配置されているため、カメラ8がラジエータ5へのエアの流入を疎外したり、逆にカメラ8がラジエータ5の熱の影響を受けたりすることがなく、しかも、主要骨格部材であるサイドフレーム4の近傍においてカメラ8を確実に支持固定できるという利点がある。したがって、この実施形態においては、何ら不具合なくカメラ8を車両のフロントグリル部分に設置することができる。
【0021】
なお、以上の実施形態においては、カメラ中心oがロアクロスメンバ6の側方傾斜部6bとラジエータ5の間の略V字状の領域A1に来るようにカメラ8を設置したが、図4中に二点鎖線で示すように、カメラ中心oがロアクロスメンバ6の側方傾斜部6bの外側のサイドフレーム4の直下領域A2に来るように配置しても良い。この場合、カメラ8がラジエータ5のエア流入をより疎外しなくなると共に、カメラ8がラジエータ5の熱の影響をさらに受けなくなり、しかも、上述の実施形態と同様にサイドフレーム4の近傍においてカメラ8を確実に支持固定することが可能になる。
【0022】
また、図8は、この発明のさらに別の実施形態を示すものである。この実施形態は基本的な構成は上記の実施形態とほぼ同様であるが、両側のサイドメンバ4を連結するロアクロスメンバ106の形状が若干異なっている。即ち、ロアクロスメンバ106は、中央のメンバ基部106aがサイドフレーム4のほぼ直下位置まで延び、両側の端縁106bがメンバ基部106aからサイドフレーム4に向かって鉛直上方に延出している。したがって、この実施形態では、ロアクロスメンバ106の端縁106bとラジエータ5の間の領域A1の形状は方形状になるが、各カメラ8は上記の実施形態と同様にカメラ中心oが領域A1内に位置されるように配置されている。この実施形態の場合も上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、各カメラ8は、図8中二点鎖線で示すように、ロアクロスメンバ106の端縁106bの外側のうちの、サイドフレーム4の近傍領域A2に配置するようにしても良い。
【0023】
この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、以上の実施形態においては、カメラ中心oがクロスメンバ6の屈曲した両端部(側方傾斜部6b、端縁106b)とラジエータ5の間の領域A1、または、クロスメンバ6の屈曲した両端部の外側のサイドフレーム4近傍領域A2に位置されるようにカメラ8を配置したが、カメラ8は少なくともその一部が前記領域A1やA2に位置されていれば良い。また、以上ではステレオカメラのカメラとして遠赤外線カメラを用いたが、遠赤外線カメラに限らず可視光を扱うカメラを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の一実施形態を示す図2のA部に対応した車両骨格部の斜視図。
【図2】同実施形態を示す車両の概観斜視図。
【図3】同実施形態を示す車両骨格部の概略平面図。
【図4】同実施形態と他の実施形態を併せて示す車両骨格部の概略正面図。
【図5】この発明の一実施形態を示す車両骨格部の概略側面図。
【図6】同実施形態を示す分解斜視図。
【図7】同実施形態を示す図6の一部部品を拡大した斜視図。
【図8】この発明のさらに別の実施形態を示す車両骨格部の概略正面図。
【符号の説明】
【0025】
4 サイドフレーム
5 ラジエータ
6,106 ロアクロスメンバ(車体フレーム)
8 カメラ
9 ラテラルステー
10 アッパブラケット(ブラケット)
11 ロアブラケット(ブラケット)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両周囲の走行環境を立体画像として認識するための複数のカメラを車体フレームに取り付ける車両用ステレオカメラの取付構造であって、
エンジンルーム両側のサイドフレームの前端部に、両端縁が上方に屈曲したクロスメンバの端末部が結合されると共に、そのクロスメンバ中央部にラジエータが支持されているものにおいて、
前記複数のカメラを相互に連結するラテラルステーを設けると共に、このラテラルステーまたは前記カメラをブラケットを介して前記クロスメンバに固定し、
前記各カメラを、それらのカメラの少なくとも一部が前記クロスメンバの屈曲した両端縁とラジエータとの間の領域に位置されるように配置したことを特徴とする車両用ステレオカメラの取付構造。
【請求項2】
車両周囲の走行環境を立体画像として認識するための複数のカメラを車体フレームに取り付ける車両用ステレオカメラの取付構造であって、
エンジンルーム両側のサイドフレームの前端部に、両端縁が上方に屈曲したクロスメンバの端末部が結合されると共に、そのクロスメンバ中央部にラジエータが支持されているものにおいて、
前記複数のカメラを相互に連結するラテラルステーを設けると共に、このラテラルステーまたは前記カメラをブラケットを介して前記クロスメンバに固定し、
前記各カメラを、それらのカメラの少なくとも一部が前記クロスメンバの屈曲した両端部の外側のサイドフレーム近傍領域に位置されるように配置したことを特徴とする車両用ステレオカメラの取付構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−103533(P2006−103533A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293639(P2004−293639)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】