説明

車両用バックシートのフレーム構造および該構造を有する車両用シート

【課題】車両の後突あるいは前突の際、軽量化を損ねることなく、リクライナーの構造健全性を保持することが可能なバックシートのフレーム構造および該構造を提供する。
【解決手段】逆U字状に配置されるアッパーフレーム120と、上端が、該アッパーフレーム120の各下端に対して固定され、上下方向に延設する一対のサイドフレーム118とを有し、該一対のサイドフレーム118の各々は、主側面部と、該主側面部の前後縁それぞれより車両幅方向内方に立ち上がる張り出しフランジ部とが断面内向きのコの字形状に形成され、前記アッパーフレーム120に対して車両の前後方向にせん断荷重が作用する際、該せん断荷重が、前記サイドフレーム118のせん断中心を通過するように、前記アッパーフレーム120は、前記各下端が、前記サイドフレーム118の外方から対応する前記主側面部の外表面に固定される、車両用シートバックフレーム構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用バックシートのフレーム構造および該構造を有する車両用シートに関し、より詳細には、車両の後突あるいは前突の際、軽量化を損ねることなく、リクライナーの構造健全性を保持することが可能なバックシートのフレーム構造および該構造を有する車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両用シートには、クッションシートフレーム構造とバックシートフレーム構造との間に車両用リクライナーが設けられ、バックシートがクッションシートに対して傾動可能とされている。
このような車両用シートの車両用バックシートフレーム構造が、たとえば、特許文献1および特許文献2に開示されている。
図5に示すように、これらのタイプの車両用シートの車両用バックシートフレーム構造は、クッションシートフレーム構造に対して傾動可能となるように、クッションシートフレーム構造とバックシートフレーム構造との間に設けられた車両用リクライナーを介して、下端部がクッションシートフレーム構造の後端部に連結され、閉断面を有するパイプ状であって、逆U字状に配置されるアッパーフレームと、それぞれ、上端が、該アッパーフレームの各下端に対して固定され、上下方向に延設する一対のサイドフレームとを有し、一対のサイドフレームの各々は、外郭形状を構成する車両の前後方向に有幅の主側面部と、主側面部の前後縁それぞれより車両幅方向内方に立ち上がる張り出しフランジ部とが断面内向きのコの字形状に形成され、車両用リクライナーは、主側面部に固定される。
【0003】
車両用リクライナーについて、説明すれば、図6および図7に示すように、クッションシートフレーム構造側に固定された固定プレートと、バックシートフレーム構造のサイドフレームに固定された回動プレートとを有し、回動プレートは、固定プレートに対して同心状に回動可能に固定され、回動プレートを固定プレートに対してロックあるいはロック解除するロック機構が設けられ、ロック状態では、回動プレートが固定プレートに対してロックされ、回動プレートが固定されるバックシートフレーム構造は、固定プレートが固定されるクッションシートフレーム構造に対して傾動不能とされ、ロック解除状態では、回動プレートが固定プレートに対してロック解除され、回動プレートが固定されるバックシートフレーム構造は、固定プレートが固定されるクッションシートフレーム構造に対して傾動可能とされるようにしている。
【0004】
しかしながら、このような車両用バックシートフレーム構造には、アッパーフレームとサイドフレームとの連結関係に起因して、以下のような技術的問題が存する。
すなわち、このような車両用バックシートフレーム構造を有する車両が後突される場合、図8に示すように、バックシートフレーム構造のアッパーフレームに対して車両後方に衝撃荷重Fが負荷される。
この場合、図9に示すように、アッパーフレームの各下端は、サイドフレームのコの字断面の内側に嵌め込まれ、溶接等で固定されることから、アッパーフレームに対して車両の前後方向にせん断荷重が作用する際、せん断荷重の作用線とサイドフレームの主側面部の車両幅方向外側に位置するサイドフレームのせん断中心Pとの間に距離Dが生じ、この距離を腕の長さとするねじりモーメントがサイドフレームに負荷され、図10および図11に示すように、サイドフレームの内倒れに伴い、車両用リクライナーの固定プレートと可動プレートとの間の剥離が生じ、場合により、車両用リクライナーの機能が喪失される。
【0005】
ここに、せん断中心とは、断面上のせん断応力の合力(その値と方向は、せん断力と一致する)の作用線が必ず通過する点であり、一般的に、梁が受ける横荷重がせん断中心を通らないと、撓みとともに、ねじれが生じてしまう。特に、C形あるいはコの字断面の場合は、せん断中心が必ず背面側(断面開放側と反対側)に位置し、開断面のねじり抵抗は、閉断面に比べはるかに小さく、ねじりが大きくなる。
このとき、サイドフレームをコの字開断面でなく、閉断面とすれば、サイドフレームのせん断中心を内側に設け、アッパーフレームに作用するせん断荷重との距離を縮め、ねじりモーメントを低減することが可能であるが、開断面に比して、サイドフレームの重量化を引き起こし、昨今の車両の軽量化に逆行する。
【特許文献1】米国特許第6322148号
【特許文献2】米国特許第6241318号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のような技術的問題点に鑑み、本発明の目的は、車両の後突あるいは前突の際、軽量化を損ねることなく、リクライナーの構造健全性を保持することが可能な車両用バックシートのフレーム構造および該構造を有する車両用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために、本発明の車両用シートバックフレーム構造は、
クッションシートフレーム構造に対して傾動可能となるように、前記クッションシートフレーム構造とバックシートフレーム構造との間に設けられた車両用リクライナーを介して、下端部が該クッションシートフレーム構造の後端部に連結された車両用バックシートフレーム構造であって、
閉断面を有するパイプ状であって、逆U字状に配置されるアッパーフレームと、
それぞれ、上端が、該アッパーフレームの各下端に対して固定され、上下方向に延設する一対のサイドフレームとを有し、該一対のサイドフレームの各々は、車両の前後方向に有幅の主側面部と、該主側面部の前後縁それぞれより車両幅方向内方に立ち上がる張り出しフランジ部とが断面内向きのコの字形状に形成され、前記車両用リクライナーは、該主側面部に固定される車両用シートバックフレーム構造において、
前記アッパーフレームに対して車両の前後方向にせん断荷重が作用する際、該せん断荷重が、前記サイドフレームの前記主側面部の車両幅方向外側に位置する前記サイドフレームのせん断中心を通過するように、前記アッパーフレームは、前記各下端が、前記サイドフレームの前記主側面部の外表面に固定される、構成としている。
【0008】
以上の構成を有する車両用シートバックフレーム構造によれば、車両を通常運転する際、車両用リクライナーによりシートバックフレーム構造をクッションシートフレーム構造に対して適宜傾動させることにより、運転しやすい背もたれ状態に調節することが可能である。
一方、車両の後突の際、アッパーフレームに対して車両の前後方向にせん断荷重が作用する際、C形あるいはコの字断面の構造物は、せん断中心が必ず背面側(断面開放側と反対側)に位置するところ、アッパーフレームの各下端をサイドフレームの外方から対応する主側面部の外表面に固定することにより、せん断荷重が、サイドフレームの主側面部の車両幅方向外側に位置するサイドフレームのせん断中心を通過するようにすることが可能であり、それにより、せん断荷重の作用線とせん断中心との距離を腕の長さとするねじりモーメントを低減し、以てサイドフレームの内倒れに起因する車両用リクライナーの剥離を有効に防止することが可能であり、サイドフレームを閉断面としてせん断中心をサイドフレームの内側に設けたうえで、アッパーフレームを閉じ断面に嵌め込むことによる、ねじりモーメントの低減の代償として、サイドフレームの重量化を引き起こすようなことなしに、軽量化を損ねることなく、車両用リクライナーの構造健全性を保持することが可能である。
【0009】
また、前記アッパーフレームは、前記各下端が、前記サイドフレームの外方から対応する前記主側面部の外表面に固定されるのがよい。
さらに、前記アッパーフレームは、扁平閉じ断面を備え、前記下端部に平面部を有し、
該扁平閉じ断面の長手方向を車両の前後方向に向けた状態で、該平面部が前記主側面部の前記外表面に固定されるのがよい。
さらにまた、前記アッパーフレームは、それぞれ前記下端部まで上下方向に延び、互いに対向する平面部を有し、
前記下端部の前記扁平閉じ断面は、前記平面部に対応する、互いに対向する直線部と、該直線部の対応する端同士を結ぶ半円部とを有し、
前記扁平閉じ断面の中心を前記せん断中心に一致させるのがよい。
【0010】
加えて、前記主側面部の前記外表面には、前記アッパーフレームと相補形状の凹部が設けられ、
前記アッパーフレームは、前記半円部近傍が前記凹部に密着固定されるのがよい。
さらに、車両の後突あるいは前突の際、前記アッパーフレームに負荷される車両の前後方向の衝撃荷重に起因して前記サイドフレームに作用する曲げモーメントおよびねじりモーメントに対して、前記張り出しフランジ部の幅に対する前記主側面部の幅の比を増大させ、幅を増大させた前記主側面部に対して、断面のより扁平化した前記アッパーフレームを固定することにより、車両の幅方向の長さを短くしたのがよい。
【0011】
さらにまた、前記クッションシートフレーム構造と前記バックシートフレーム構造との間に、前記車両用リクライナーが設けられ、該車両用リクライナーは、
クッションシートフレーム構造に固定される固定プレートと、
固定プレートに回動可能に支持され、かつバックシートフレーム構造に固定された回動プレートと、
固定プレートおよび回動プレート間に介装され、固定プレートに形成された凹部側壁により進退自在に案内され、かつ先端に外歯を形成した摺動係止部材と、
回動プレートに形成した内歯に噛合する係止位置と、内歯から離間する係止解除位置との間で摺動係止部材を移動させる回動可能なカムと、
回動プレートは、内部に円形開口を有する環状リングからなり、環状リングの内周面に沿って内歯が設けられ、
さらに、固定プレートと反対側から円形開口を塞ぐ蓋板を有し、
さらに、回動プレートおよび固定プレートを保持するホールドリングと、カムを回動させる操作レバーに連結され、蓋板、固定プレート、カム、および回動プレートを貫通して、カムを回動可能なヒンジピンとを有するのがよい。
【0012】
加えて、前記一対のサイドフレームの各々は、前記主側面部の幅が下方に向かって増大することにより、テーパ付けられた外形を有するのがよい。

【0013】
上記課題を達成するために、本発明の車両用シートは、
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の前記車両用シートの前記シートバックトフレーム構造全体を覆うように設けられたパッドと、前記車両用シートの前記シートバックフレーム構造および該パッド全体を覆うように設けられた袋状の表皮とを有する構成としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る車両用バックシートのフレーム構造によれば、車両の幅方向を中心とする曲げモーメントに耐えるのに有利なコの字断面のサイドフレームにするほど、コの字断面の主側面部の車両前後方向の長さが長くなり、アップーパイプを溶接固定しやすくなる点、およびサイドフレームのせん断中心がコの字断面の本体部の外表面に近づく点、以上を利用することにより、曲げモーメントのみならず、ねじりモーメントの低減を達成して、軽量化を損ねることなく、サイドフレームの内倒れを防止することにより、車両用リクライナーの構造健全性を保持することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係る車両用シートの実施形態を自動車に適用する場合を例として、図面を参照しながら、以下に詳細に説明する。
図1に示すように、本発明に係る車両用シートは、車室フロア(図示せず)に固定されるクッションシートフレーム構造部(図示せず)と、下端部がクッションシートフレーム構造部の後端部に対して傾動可能に連結されるバックシートフレーム構造部112と、バックシートフレーム構造部112とクッションシートフレーム構造部との間に介在するリクライナー構造部114とを有する車両用シートフレーム構造と、車両用シートフレーム構造全体を覆うように設けられたパッド(図示せず)と、車両用シートのフレーム構造および該パッド全体を覆うように設けられた袋状の表皮(図示せず)とを有する。
【0016】
バックシートフレーム構造部112について説明すれば、バックシートフレーム構造部112は、全体として逆U字状をなし、それぞれ上下方向に延びる一対のサイドフレーム118A,Bと、一対のサイドフレーム118A,Bの各々の上端同士を掛け渡すアッパーフレーム120とを有する。
【0017】
図2に示すように、一対のサイドフレーム118A,Bの各々は、外郭形状を構成する車両の前後方向に有幅の主側面部122と、主側面部122の前後縁より内方に立ち上がる張り出しフランジ部123A,Bとが断面内向きのコ字形状に形成されている。
一対のサイドフレーム118の各々は、主側面部122の幅が下方に向かって増大することにより、テーパ付けられた外形を有し、これにより、車両の衝突によりアッパーフレーム120の上部に負荷される衝撃荷重により、サイドフレーム118の根元ほど曲げモーメントが大きく作用するところ、このような曲げモーメントに耐えるようにしている。
逆U字状のバックシートフレーム構造部112の内部に形成される開口部には、フラットマット(図示せず)が張設され、一対のサイドフレーム118A,Bの上部同士を連結するアッパーメンバー(図示せず)、一対のサイドフレーム118A,Bの下部同士を連結するロアメンバー127が設けられ、さらに、アッパーフレーム120には、ヘッドレスト取り付け用部材(図示せず)が付設されている。
【0018】
アッパーフレーム120の各下端部は、それぞれ一対のサイドフレーム118A,Bの対応する上部に連結されるようにしてある。
より詳細には、アッパーフレーム120は、閉断面を有するパイプ状であって、逆U字状に配置され、アッパーフレーム120に対して車両の前後方向にせん断荷重が作用する際、せん断荷重が、サイドフレーム118の主側面部122の車両幅方向外側に位置するサイドフレーム118のせん断中心Pを通過するように、アッパーフレーム120は、各下端が、サイドフレーム118の外方から対応する主側面部122の外表面に固定される。
【0019】
図2に示すように、アッパーフレーム120は、扁平閉じ断面を備え、下端部に平面部202を有し、扁平閉じ断面の長手方向を車両の前後方向に向けた状態で、平面部202が主側面部122の外表面に固定される。アッパーフレーム120は、主側面部122の外表面に対してスポット溶接により固定されるのがよい。
アッパーフレーム120は、下端部に互いに対向する平面部202を有し、下端部の扁平閉じ断面は、互いに対向する直線部203と、直線部203の対応する端同士を結ぶ半円部204とを有し、扁平閉じ断面の中心をせん断中心Pに一致させる。平面部202は、下端部まで延びる所定の上下方向長さ(図1のL)を有するが、Lは、想定されるせん断荷重に応じて、アッパーフレーム120をサイドフレーム118に対して固定する観点から定めればよい。
【0020】
ここに、せん断中心とは、断面上のせん断応力の合力(その値と方向は、せん断力と一致する)の作用線が必ず通過する点であり、C形あるいはコの字断面の場合は、せん断中心が必ず背面側(断面開放側と反対側)に位置する。
これにより、車両の後突の際、アッパーフレーム120に対して車両の前後方向にせん断荷重が作用する際、せん断荷重が、サイドフレーム118の主側面部122の車両幅方向外側に位置するサイドフレーム118のせん断中心Pを通過するようにすることにより、せん断荷重の作用線とせん断中心との距離を腕の長さとするねじりモーメントを低減し、以てサイドフレーム118の内倒れに起因する車両用リクライナーの剥離を有効に防止するようにしている。
【0021】
図3に示すように、アッパーフレーム120とサイドフレーム118との連結部の変形例として、主側面部122の外表面には、アッパーフレーム120と相補形状の凹部206を設け、アッパーフレーム120を凹部206に密着固定するのでもよい。より具体的には、凹部206は、車両の前方向と後方向それぞれに円弧部208を設け、ここにアッパーフレーム120の半円部204を密着固定されている。これにより、図2に比べて、せん断中心の位置Pを主側面部122の外表面により近づけることが可能であるとともに、特に車両の前後方向の衝撃荷重がアッパーフレーム120の上部に負荷されたときに、アッパーフレーム120とサイドフレーム118との連結関係をより保持することが可能である。
【0022】
特に、図4に示すように、車両の後突あるいは前突の際、アッパーフレーム120に負荷される車両の前後方向の衝撃荷重に起因してサイドフレーム118に作用する曲げモーメントおよびねじりモーメントそれぞれに対して、張り出しフランジ部123の幅に対する主側面部122の幅の比を増大させ、幅を増大させた主側面部122に対して、断面のより扁平化したアッパーフレーム120を固定することにより、車両の幅方向の長さを短くすることが可能である。
【0023】
より具体的に説明すれば、図4の(A)および(B)において、サイドフレーム118のアッパーフレーム120の下端部との連結部のコの字断面について、コの字断面の全長を共通とした場合、図4の(A)の主側面部122の幅L1が、図4の(B)の幅L2より長ければ、X方向まわりの断面二次モーメントは、図4の(A)の方が大きくなる。一方、せん断中心Pと主側面部122との距離は、図4の(A)のD1が、図4の(B)のD2より小さくなる。
【0024】
以上より、アッパーフレーム120の上部に負荷されるせん断荷重をサイドフレーム118のせん断中心を通過させることにより、サイドフレーム118、かくして後に説明する車両用リクライナーに作用するねじりモーメントを低減するように、閉じ断面を有するアッパーフレーム120をサイドフレーム118の外方から主側面部122に固定する場合、曲げモーメント上有利なサイドフレーム118の断面ほど、バックシートフレーム構造の幅は、小さくなるとともに(W1<W2)、主側面部122の長さが長くなることから、アッパーフレーム120のサイドフレーム118への溶接固定上も技術的に有利となる。
【0025】
次に、リクライナー構造部114について説明すれば、図6に示すように、リクライナー114は、ドライバー或いは乗員が着座するクッションシートのフレーム構造の各側面と、ドライバー或いは乗員が背もたれるバックシートのフレーム構造の対応する側面との連結部に1基ずつ設けられ、バックシートをクッションシートに対して傾動可能とするように、一対のリクライナー114は、シートの幅方向に延びる連結シャフト116により連結されている。一対のリクライナー114は、一方の側にノブが設けられている点を除き、同様な構造を有するので、以下では、その1つについて、説明する。
【0026】
車両用リクライナーは、クッションシートフレーム構造に固定される固定プレート300と、固定プレート300に回動可能に支持され、かつバックシートフレーム構造に固定された回動プレート302と、固定プレート300および回動プレート302間に介装され、固定プレート300に形成された凹部側壁により進退自在に案内され、かつ先端に外歯304を形成した摺動係止部材306と、回動プレート302に形成した内歯308に噛合する係止位置と、内歯308から離間する係止解除位置との間で摺動係止部材306を移動させる回動可能なカム310と、回動プレート302は、内部に円形開口を有する、所定板厚の環状リングからなり、環状リングの内周面に沿って内歯308が設けられ、さらに、固定プレート300と反対側から円形開口を塞ぐ蓋板312を有し、蓋板312の板厚は、環状リングの板厚より薄く、さらに、回動プレート302および固定プレート300を保持するホールドリング314と、カム310を回動させる操作レバー(図示せず)に連結され、蓋板312、固定プレート300、カム310、および回動プレート302を貫通して、カム310を回動可能なヒンジピン316を有する。
【0027】
以上の構成によれば、操作レバーによりヒンジピン316を回転させることにより、カム310が回転し、カム310により摺動係止部材306が固定プレート300の凹部側壁に沿って係止位置に移動することにより、摺動係止部材306の外歯304が回動プレート302の内歯308に噛合して、ロック状態とされ、一方、操作レバーによりヒンジピン316を回転させることにより、カム310が回転し、カム310により摺動係止部材306が固定プレート300の凹部側壁に沿って係止解除位置に移動することにより、摺動係止部材306の外歯304が回動プレート302の内歯308から離間して、ロック解除状態とされ、回動プレート302を固定プレート300に対して相対回転させ、固定プレート300に固定されるクッションシートに対して、回動プレート302に固定されるバックシートを所望に回転させて、所望の傾斜角度にすることが可能とされている。
【0028】
このように、固定プレート300において、案内側壁と摺動係止部材306との間で荷重伝達経路が構成されるので、摺動係止部材306を係止位置に移動させたときの外歯304と内歯308との噛合により、バックシートBのサイドフレーム118に固定される回動プレート302と、クッションシートCに固定される固定プレート300との間で荷重伝達経路が形成され、特に、アッパーフレーム120の上部に車両の前後方向に衝撃荷重(せん断荷重)が負荷された場合、サイドフレーム118の根元部に曲げモーメントとともに、回動プレート302と固定プレート300との間を剥離する向きにねじりモーメントが作用する。
【0029】
以上の構成を有する車両用シートについて、その作用を以下に説明する。
まず、バックシートBをクッションシートCに対してロック状態とする場合、操作レバーは常時、たとえばばねにより、摺動係止部材306を係合位置に保持するように付勢されており、この状態において、カム310が摺動係止部材306に係合する。これにより、摺動係止部材306は、固定プレート300の案内側壁に沿って案内されながら外方に移動し、外歯304と回動プレート302の内歯308とが噛み合い、回動プレート302の固定プレート300に対する回動が規制されたロック状態が維持される。
【0030】
このようなロック状態において、たとえば衝突事故によりバックシートBに過大な衝撃力が加わった場合、バックシートBから回動プレート302に衝撃力が伝達し、さらに回動プレート302の外歯304と摺動係止部材306の内歯308との噛み合い、摺動係止部材306とカム310との係合、さらにカム310に貫通するヒンジピン31624を通じて、固定プレート300に固定されるクッションシートCに荷重が伝達される。このとき、回動プレート302の環状リングの板厚、すなわち外歯304の板厚および固定プレート300の板厚は、このような荷重に耐え得るような強度を有する値に設定していることから、このような衝撃力に係わらず、リクライニング機能を維持することが可能となる。
【0031】
このとき、アッパーフレーム120の上部に車両の前後方向に衝撃荷重(せん断荷重)が負荷されるところ、この衝撃荷重がアッパーフレーム120の各下端部と対応するサイドフレーム118の上端部との連結部を介してサイドフレーム118に伝達されるが、上述のように、アッパーフレーム120をサイドフレーム118の主側面の外方から固定することにより、衝撃荷重がサイドフレーム118のせん断中心Pを通過するようにすることにより、衝撃荷重によるねじりモーメントが低減され、バックシートのサイドフレーム118に固定される回動プレート302と、クッションシートに固定される固定プレート300との間の剥離を抑制し、以て車両用リクライナーの構造健全性を維持することが可能となる。
【0032】
なお、バックシートBのクッションシートCに対するロック状態を解除して、バックシートBを回動させる場合、操作レバーを付勢力に抗して回動させることにより、カム310も同様に同方向に回動することから、カム310と摺動係止部材306との係合状態が解除される。このような状態で、バックシートBを傾動させると、それにより回動プレート302が回動して、内歯308から摺動係止部材306に加わる力によって、摺動係止部材306は、内方に摺動し、摺動係止部材306とカム310とが係合するに至る。この状態で、内歯308と外歯304との噛合状態が解除される。これにより、ロック状態が解除されて、バックシートBをクッションシートCに対して所望の角度傾動させることが可能となる。バックシートBを所望の角度傾動させたら、操作レバーの回動を解除することにより、カム310が逆方向に回動し、それにより摺動係止部材306が再び半径方向外方に摺動して、内歯308と外歯304との噛合状態が復活して、ロック状態に復帰する。
【0033】
以上の構成を有する車両用シートバックフレーム構造によれば、車両を通常運転する際、車両用リクライナーによりシートバックフレーム構造をクッションシートフレーム構造に対して適宜傾動させることにより、運転しやすい背もたれ状態に調節することが可能である。
一方、車両の後突の際、アッパーフレーム120に対して車両の前後方向にせん断荷重が作用する際、C形あるいはコの字断面の構造物は、せん断中心が必ず背面側(断面開放側と反対側)に位置するところ、アッパーフレーム120の各下端をサイドフレーム118の外方から対応する主側面部122の外表面に固定することにより、せん断荷重が、サイドフレーム118の主側面部122の車両幅方向外側に位置するサイドフレーム118のせん断中心を通過するようにすることが可能であり、それにより、せん断荷重の作用線とせん断中心との距離を腕の長さとするねじりモーメントを低減し、以てサイドフレーム118の内倒れに起因する車両用リクライナーの剥離を有効に防止することが可能であり、サイドフレーム118を閉断面としてせん断中心をサイドフレーム118の内側に設けたうえで、アッパーフレーム120を閉じ断面に嵌め込むことによる、ねじりモーメントの低減の代償として、サイドフレーム118の重量化を引き起こすようなことなしに、軽量化を損ねることなく、車両用リクライナーの構造健全性を保持することが可能である。
【0034】
以上、本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の範囲から逸脱しない範囲内において、当業者であれば、種々の変更あるいは修正が可能である。たとえば、本実施形態では、自動車用のバックシートのフレーム構造としてとして説明したが、それに限定されることなく、本実施形態のバックシートのフレーム構造を一般車両、たとえば列車、飛行機、船、あるいは遊園地のジェットコースター等乗り物に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る車両用バックシートのフレーム構造によれば、衝突の際、車両用バックシートに作用する曲げモーメントのみならず、ねじりモーメントの低減を達成して、軽量化を損ねることなく、サイドフレーム118の内倒れを防止することにより、車両用リクライナーの構造健全性を保持することが可能である点において、車両産業上において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用バックシートフレーム構造の概略正面図である。
【図2】図1の線A−Aにおける概略断面図である。
【図3】図2の変形例である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両用バックシートフレーム構造において、アッパーフレーム120とサイドフレーム118との連結関係を示す部分断面図である。
【図5】従来の車両用バックシートフレーム構造の概略正面図である。
【図6】従来の車両用リクライナーの分解斜視図である。
【図7】従来の車両用リクライナーの回動プレート302のギア部を示す図である。
【図8】従来の車両用バックシートフレーム構造に対して、車両後方への衝撃荷重が負荷される状況を示す概略側面図である。
【図9】図5の線B−Bにおける概略断面図である。
【図10】図5において、サイドフレーム118に対してねじりモーメントが負荷される状況を示す部分平面図である。
【図11】図10のC部の部分詳細図である。
【符号の説明】
【0037】
P せん断中心
100 車両用シート
112 バックシートフレーム構造
114 リクライナー構造部
118 サイドフレーム
120 アッパーフレーム
122 主側面部
123 張り出しフランジ部
127 アッパーメンバー
202 平面部
203 直線部
204 半円部
206 凹部
300 固定プレート
302 回動プレート
304 外歯
308 内歯
306 摺動係止部材
310 カム
314 ホールドリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッションシートフレーム構造に対して傾動可能となるように、前記クッションシートフレーム構造とバックシートフレーム構造との間に設けられた車両用リクライナーを介して、下端部が該クッションシートフレーム構造の後端部に連結された車両用バックシートフレーム構造であって、
閉断面を有するパイプ状であって、逆U字状に配置されるアッパーフレームと、
それぞれ、上端が、該アッパーフレームの各下端に対して固定され、上下方向に延設する一対のサイドフレームとを有し、該一対のサイドフレームの各々は、車両の前後方向に有幅の主側面部と、該主側面部の前後縁それぞれより車両幅方向内方に立ち上がる張り出しフランジ部とが断面内向きのコの字形状に形成され、前記車両用リクライナーは、該主側面部に固定される車両用シートバックフレーム構造において、
前記アッパーフレームに対して車両の前後方向にせん断荷重が作用する際、該せん断荷重が、前記サイドフレームの前記主側面部の車両幅方向外側に位置する前記サイドフレームのせん断中心を通過するように、前記アッパーフレームは、前記各下端が、前記サイドフレームの前記主側面部の外表面に固定される、
ことを特徴とする車両用シートバックフレーム構造。
【請求項2】
前記アッパーフレームは、前記各下端が、前記サイドフレームの外方から対応する前記主側面部の外表面に固定される、請求項1に記載の車両用シートバックフレーム構造。
【請求項3】
前記アッパーフレームは、扁平閉じ断面を備え、前記下端部に平面部を有し、
該扁平閉じ断面の長手方向を車両の前後方向に向けた状態で、該平面部が前記主側面部の前記外表面に固定される、請求項1に記載の車両用シートバックフレーム構造。
【請求項4】
前記アッパーフレームは、それぞれ前記下端部まで上下方向に延び、互いに対向する平面部を有し、
前記下端部の前記扁平閉じ断面は、前記平面部に対応する、互いに対向する直線部と、該直線部の対応する端同士を結ぶ半円部とを有し、
前記扁平閉じ断面の中心を前記せん断中心に一致させる、請求項3に記載の車両用シートバックフレーム構造。
【請求項5】
前記主側面部の前記外表面には、前記アッパーフレームと相補形状の凹部が設けられ、
前記アッパーフレームは、前記半円部近傍が前記凹部に密着固定される、請求項4に記載の車両用シートバックフレーム構造。
【請求項6】
車両の後突あるいは前突の際、前記アッパーフレームに負荷される車両の前後方向の衝撃荷重に起因して前記サイドフレームに作用する曲げモーメントおよびねじりモーメントに対して、前記張り出しフランジ部の幅に対する前記主側面部の幅の比を増大させ、幅を増大させた前記主側面部に対して、断面のより扁平化した前記アッパーフレームを固定することにより、車両の幅方向の長さを短くした、請求項1に記載の車両用シートバックフレーム構造。
【請求項7】
前記クッションシートフレーム構造と前記バックシートフレーム構造との間に、前記車両用リクライナーが設けられ、該車両用リクライナーは、
クッションシートフレーム構造に固定される固定プレートと、
固定プレートに回動可能に支持され、かつバックシートフレーム構造に固定された回動プレートと、
固定プレートおよび回動プレート間に介装され、固定プレートに形成された凹部側壁により進退自在に案内され、かつ先端に外歯を形成した摺動係止部材と、
回動プレートに形成した内歯に噛合する係止位置と、内歯から離間する係止解除位置との間で摺動係止部材を移動させる回動可能なカムと、
回動プレートは、内部に円形開口を有する環状リングからなり、環状リングの内周面に沿って内歯が設けられ、
さらに、固定プレートと反対側から円形開口を塞ぐ蓋板を有し、
さらに、回動プレートおよび固定プレートを保持するホールドリングと、カムを回動させる操作レバーに連結され、蓋板、固定プレート、カム、および回動プレートを貫通して、カムを回動可能なヒンジピンとを有する、請求項1に記載の車両用シートのバックシートフレーム構造。
【請求項8】
前記一対のサイドフレームの各々は、前記主側面部の幅が下方に向かって増大することにより、テーパ付けられた外形を有する、請求項1に記載の車両用シートのバックシートフレーム構造。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の前記車両用シートの前記シートバックトフレーム構造全体を覆うように設けられたパッドと、前記車両用シートの前記シートバックフレーム構造および該パッド全体を覆うように設けられた袋状の表皮とを有することを特徴とする車両用シート。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−206544(P2012−206544A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71834(P2011−71834)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】