説明

車両用ブレーキシステム

【課題】ブースタ失陥に対して確実に対処可能な車両用ブレーキシステムを提供することを課題とする。
【解決手段】助勢限界に達したことを条件として、マスタシリンダ圧の増大に応じて、ブレーキ圧とマスタシリンダ圧との差圧が漸増するように、ブレーキ圧を制御する差圧漸増制御(効き特性制御)と、助勢限界に拘わらず、差圧が特定の大きさとなるように、ブレーキ圧を制御する差圧一定制御(失陥時制御)とを実行可能なブレーキシステムにおいて、操作力とマスタシリンダ圧とに基づいてブースタ失陥が認定された場合には、負圧室圧が閾値以上である場合に差圧漸増制御を実行し、負圧室圧が閾値未満である場合に差圧一定制御を実行する。このような構成によれば、負圧室圧の低下に依拠したブースタ失陥には差圧漸増制御によって対処し、負圧室圧の低下以外の要因に依拠したブースタ失陥には差圧一定制御によって対処することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バキュームブースタを備え、そのバキュームブースタによる助勢力と運転者による操作力とによって制動力を発生させる車両用ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の多くには、ブレーキ操作部材への操作力を助勢するためにバキュームブースタが搭載されており、そのバキュームブースタによる助勢力とブレーキ操作部材への操作力とによって、制動力が発生させられている。バキュームブースタは、負圧となっている負圧室の空気圧と大気圧との圧力差を利用して、助勢力を発生させる構造とされており、圧力差が大きくなっている間は助勢力も増加していくが、圧力差が大きくならなくなると助勢力は増加しなくなり、バキュームブースタによる助勢が限界に達してしまう。バキュームブースタによる助勢が限界に達すると、運転者はブレーキの効きが悪くなったと感じ、運転者がブレーキ操作に違和感を抱く虞がある。下記特許文献には、助勢限界時に、バキュームブースタとは異なる装置によって運転者による操作力を助勢するブレーキシステムに関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−250564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載のブレーキシステムは、ブレーキ操作部材に加えられる操作力とバキュームブースタによる助勢力とに依拠して作動液を加圧するマスタシリンダと、そのマスタシリンダによって加圧された作動液によって制動力を発生させるブレーキ装置と、ブレーキ装置とマスタシリンダとの間の作動液の流通を許容する状態と禁止する状態とを切換える流通状態切換器と、その流通状態切換器とブレーキ装置との間でブレーキ装置を作動させる作動液を加圧する作動液加圧装置と、ブレーキ装置を作動させる作動液の液圧(以下、「ブレーキ圧」という場合がある)を制御可能に調整するブレーキ圧調整器とを備えている。このブレーキシステムにおいては、助勢限界時に、流通状態切換器によってブレーキ装置とマスタシリンダとの間の作動液の流通を禁止して、作動液加圧装置によってブレーキ装置を作動させる作動液を加圧するとともに、ブレーキ圧調整器によってブレーキ圧を制御することで、マスタシリンダによって加圧される作動液の液圧(以下、「マスタシリンダ圧」という場合がある)より高い液圧の作動液によってブレーキ装置を作動させている。つまり、助勢限界時に、バキュームブースタとは異なる装置によって、運転者による操作力を助勢している。そして、このブレーキシステムにおいては、助勢限界に到達した時点から、マスタシリンダ圧が高くなるにつれて、ブレーキ圧とマスタシリンダ圧との差が漸増するように、ブレーキ圧を制御している。このようにブレーキ圧を制御することで、助勢限界に達した後であっても、運転者は違和感を抱くことなくブレーキ操作を行うことが可能となっている。このような制御は、ブレーキ効き特性制御と呼ばれており、助勢限界の前後であっても、ブレーキの効き具合があまり変化しないようにすることが可能となっている。
【0005】
ブレーキ効き特性制御は、助勢限界に達したことを条件として実行される制御であり、助勢限界を適切に推定する必要がある。助勢限界の推定方法は、バキュームブースタの有する負圧室の空気圧である負圧室圧に基づいて推定する方法がよく知られており、精度よく助勢限界を推定することが可能である。このため、例えば、バキュームブースタに異常が生じ、ブレーキ操作前に負圧室圧が殆ど大気圧となっているような場合であっても、ブレーキ効き特性制御によって対処することが可能である。ブレーキ操作前に負圧室圧が殆ど大気圧となっているような場合には、ブレーキペダルが踏み込まれた時点に助勢限界に達したと認定され、ブレーキ踏込み時点からブレーキ効き特性制御が実行されることになるためである。したがって、ブレーキ効き特性制御は、バキュームブースタに異常が生じているようなとき、つまり、ブースタ失陥時においても有効な制御である。
【0006】
ただし、ブースタ失陥の多くは、負圧室圧の低下に依拠するものであるが、負圧室圧が比較的低い状態、言い換えれば、負圧室の負圧が比較的高い状態であっても、バキュームブースタが失陥する場合がある。つまり、負圧室圧の低下以外の要因に依拠して、バキュームブースタが失陥する場合がある。具体的には、例えば、バキュームブースタによる助勢力が適切にマスタシリンダに伝達されないような異常がバキュームブースタに生じた場合である。このような場合には、助勢限界を適切に推定することができないため、ブレーキ効き特性制御では適切に対処することができない。本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、ブースタ失陥に対して確実に対処可能な車両用ブレーキシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段および効果】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の車両用ブレーキシステムは、操作力とマスタシリンダ圧とに基づいてバキュームブースタが失陥していると判定された場合において、負圧室圧取得器によって取得された負圧室圧が閾値以上である場合に上記ブレーキ効き特性制御を実行し、負圧室圧取得器によって取得された負圧室圧が閾値未満である場合には、助勢限界に拘わらず、ブレーキ圧とマスタシリンダ圧との差が特定の大きさとなるように、ブレーキ圧を制御する差圧一定制御を実行するように構成される。
【0008】
本発明の車両用ブレーキシステムにおいては、操作力とマスタシリンダ圧とに基づいてブースタ失陥の判定が実行されるため、負圧室圧の低下に依拠したブースタ失陥と、負圧室圧の低下以外の要因に依拠したブースタ失陥との両方のブースタ失陥を検出することが可能である。操作力とマスタシリンダ圧とに基づいてブースタが失陥していると判定された場合に、負圧室圧が高ければ、言い換えれば、負圧室圧が大気圧に近ければ、ブースタ失陥は、負圧室圧の低下に依拠したものであると推定することが可能である。一方、ブースタ失陥時に負圧室圧が低ければ、言い換えれば、負圧室の負圧が高ければ、ブースタ失陥は、負圧室圧の低下以外の要因に依拠したものであると推定することが可能である。本発明のシステムにおいては、ブースタ失陥が負圧室圧の低下以外の要因に依拠したものである場合には、助勢限界を推定する必要のない制御が実行されるのである。したがって、本発明のブレーキシステムによれば、ブースタ失陥に対して確実に対処することが可能となる。
【0009】
本発明の車両用ブレーキシステムにおける「負圧室圧取得器」は、負圧室圧をセンサ等によって検出するものであってもよく、制御装置等によって負圧室圧を推定するものであってもよい。また、本発明のブレーキシステムにおける「流通状態切換器」と「調整器」とは、独立した2つの機器であってもよく、それぞれの機能を備えた1つの機器であってもよい。つまり、本発明の車両用ブレーキシステムが、例えば、「流通状態切換器」として機能する弁と「調整器」として機能する弁との2つの弁を備えていてもよく、「流通状態切換器」の機能と「調整器」の機能とを備えた弁、詳しく言えば、作動液の流通を許容する状態と禁止する状態とを切換えるとともに、禁止する状態においてブレーキ圧を制御可能に調整する弁を1つ備えていてもよい。
【0010】
本発明の車両用ブレーキシステムにおける「ブレーキ圧制御部」は、操作力とマスタシリンダ圧とに基づいてバキュームブースタが異常であると判定された場合において、負圧室圧取得器が正確に負圧室圧を取得できないときには、ブレーキ効き特性制御を実行することなく、差圧一定制御を実行するように構成されてもよい。負圧室圧が正確に取得されない場合には、適切に助勢限界を推定することができない。したがって、本態様によれば、ブースタ失陥に対して確実に対処することが可能となる。なお、「負圧室圧取得器が正確に負圧室圧を取得できないとき」は、負圧室圧取得器によって取得された負圧室圧が実際の負圧室圧とは異なると推定できるときであってもよく、断線等によって負圧室圧取得器が負圧室圧を取得できないときであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例である車両用ブレーキシステムを概略的に示す図である。
【図2】図1の車両用ブレーキシステムの備えるバキュームブースタおよびマスタシリンダを示す概略断面図である。
【図3】図1の車両用ブレーキシステムの備える作動液液圧制御装置を概略的に示す図である。
【図4】図3の作動液液圧制御装置の備える圧力制御弁を示す概略断面図である。
【図5】運転者による操作力とマスタシリンダ圧(ブレーキシリンダ圧)との関係を示すグラフである。
【図6】マスタシリンダ圧と圧力差との関係を示すグラフである。
【図7】ブースタ失陥時の運転者による操作力とマスタシリンダ圧(ブレーキシリンダ圧)との関係を示すグラフである。
【図8】マスタシリンダ圧とそのマスタシリンダ圧の変化速度との関係を示すグラフである。
【図9】ブースタ失陥の有無,圧力センサの異常の有無,負圧室圧の高低とブレーキ効き特性制御とブースタ失陥時制御との関係を示す表である。
【図10】ブースタ失陥判定プログラムを示すフローチャートである。
【図11】圧力センサ異常判定プログラムを示すフローチャートである。
【図12】ブレーキシステム制御プログラムを示すフローチャートである。
【図13】車両用ブレーキシステムの制御を司る制御装置の機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例】
【0013】
<車両用ブレーキシステムの構成>
図1に、本実施例の車両用ブレーキシステム10を概略的に示す。ブレーキシステム10は、各車輪に対応して設けられたブレーキ装置14(図1では、1輪のみを図示している)を備えており、ブレーキ装置14は、ディスクブレーキ装置とされている。ブレーキ装置14は、車輪と共に回転するブレーキディスク16と、車体に取り付けられるブレーキキャリパ17と、ブレーキキャリパ17に保持されるブレーキシリンダ18およびブレーキパッド19とを含んで構成されている。
【0014】
運転者の操作力によって、ブレーキ操作部材であるブレーキペダル20が操作されると、ブレーキペダル20に連結されるバキュームブースタ22によって、操作力が助勢される。さらに、助勢された操作力は、バキュームブースタ22に連結されるマスタシリンダ24に伝えられて、その内部に収容される作動液を加圧する。作動液の液圧の変化は、マスタシリンダ24から主配管26a,26bを通じて、各車輪に設けられたブレーキ装置14のブレーキシリンダ18まで伝達される。ブレーキ装置14の詳しい構造についての説明は省略するが、ブレーキシリンダ18は、加圧された作動液によって作動し、ブレーキパッド19をブレーキディスク16に押し付ける。したがって、ブレーキ装置14は、このブレーキパッド19とブレーキディスク16との間に生じる摩擦によって、車輪の回転を抑制させて車両を減速させるための制動力を発生させることができる。
【0015】
バキュームブースタ22は、負圧状態とされる負圧室28を備えており、その負圧室28には、吸引口30が設けられている。吸引口30には、負圧配管32が接続されており、負圧配管32は、インテークマニホルド34の分岐部36に接続されている。インテークマニホルド34は、その両端に開口を持ち、エンジン38に空気を供給するための給気配管として機能する。詳しく説明すると、インテークマニホルド34の一方の開口は、大気から空気を吸い込むための吸込口40となっており、他方の開口は、エンジン38が空気を吸引するための吸気部42に連結されている。また、インテークマニホルド34の吸込口40と分岐部36との間には、電子制御式のスロットル弁44が設置されている。スロットル弁44は、エンジン38へ吸い込まれる空気の量を調整することが可能とされている。このため、インテークマニホルド34の内部におけるスロットル弁44と吸気部42との間は、スロットル弁44の開度,エンジン38の回転数等に応じた負圧状態とされるのである。したがって、分岐部36に接続された負圧配管32、および、負圧配管32に接続された負圧室28も負圧状態とされるのである。また、負圧配管32には、チェック弁50が設けられており、そのチェック弁50は、インテークマニホルド34から負圧室28への負圧の供給は許容するが、負圧室28からインテークマニホルド34への負圧の供給は禁止する構造とされている。言い換えれば、チェック弁50は、インテークマニホルド34から負圧室28への空気の供給は禁止するが、負圧室28からインテークマニホルド34への空気の供給は許容する構造とされている。
【0016】
図2は、バキュームブースタ22およびマスタシリンダ24の断面図である。バキュームブースタ22は、中空のハウジング56と、ハウジング56内に設けられたパワーピストン58とを含んで構成されている。パワーピストン58は、ハブ60とダイアフラム62とを含んで構成され、ハウジング56の内部は、ハブ60とダイアフラム62とにより、マスタシリンダ24側の負圧室28と、ブレーキペダル20側の変圧室64とに区画されている。
【0017】
ハブ60のマスタシリンダ24の側には、凹部66が設けられている。その凹部66にはゴム製のリアクションディスク68が嵌入されており、さらに、プッシュロッド70の一端が凹部66に嵌入されている。プッシュロッド70のもう一端は、マスタシリンダ24の加圧ピストン72aと係合している。また、プッシュロッド70と並列に、圧縮コイルばね74が配設されている。
【0018】
マスタシリンダ24は、ハウジング76と、2つの加圧ピストン72a,72bとを含んで構成されている。2つの加圧ピストン72a,72bは、ハウジング76の内部において直列に配設されており、ハウジング76にそれの内部を摺動可能に嵌合されている。さらに、マスタシリンダ24には、2つの加圧ピストン72a,72bの各々に隣接して2つの加圧室78a,78bがそれぞれ設けられており、各加圧室78a,78b内には、それぞれ圧縮コイルばね79a,79bが配設されている。
【0019】
ハブ60のブレーキペダル14の側には、凹部66に連通する段付き穴80が設けられており、その内部にはリアクションロッド82が嵌入されている。リアクションロッド82は、バルブオペレーティングロッド84の一端に係合しており、バルブオペレーティングロッド84のもう一端は、ブレーキペダル20に接続されている。また、ハブ60とリアクションロッド82とは、凹部66において板状のストッパキー86によって結合されている。したがって、ブレーキペダル20が操作されると、バルブオペレーティングロッド84、リアクションロッド82を介してハブ60が移動させられて、さらに、ハブ60の移動によって、リアクションディスク68、プッシュロッド70を介して加圧ピストン72aが移動させられる。つまり、マスタシリンダ24は、ブレーキペダル20の操作によって加圧ピストン72aが移動させられるように構成されているのである。そして、加圧ピストン72aが移動させられると、加圧室78a内の作動液が加圧されて、加圧ピストン72bが、その加圧された作動液によって移動させられる。
【0020】
加圧室78aには、図3に示すように、主配管26aが接続され、加圧室78bには、主配管26bが接続されており、作動液の圧力上昇は、2つの配管系統によって、各車輪のブレーキシリンダ18へと伝達されている。ちなみに、主配管26aは、右前輪側および左後輪側に配置された2つのブレーキシリンダ18に接続され、主配管26bは、左前輪側および右後輪側に配置された2つのブレーキシリンダ18に接続されている。それら2つの配管系統は互いに構成が共通することから、以下、主配管26aを含む配管系統のみを代表的に説明し、主配管26bを含む配管系統については説明を省略する。
【0021】
主配管26aは、加圧室78aから延び出た後に二股状に分岐しており、1本の基幹配管90と2本の分岐配管92とが互いに接続されて構成されている。各分岐配管92の先端にブレーキシリンダ18が接続されている。各分岐配管92の途中には常開の電磁開閉弁である増圧制御弁94が設けられ、開状態でマスタシリンダ24からブレーキシリンダ18へ向かう作動液の流れを許容する。各分岐配管路92には、増圧制御弁94を迂回するバイパス配管96が接続され、各バイパス配管96には作動液戻り用の逆止弁98が設けられている。各分岐配管92のうち増圧制御弁94とブレーキシリンダ18との間の部分からリザーバ配管100が延びてリザーバ102に至っている。各リザーバ配管100の途中には常閉の電磁開閉弁である減圧制御弁104が設けられ、開状態でブレーキシリンダ18からリザーバ102へ向かう作動液の流れを許容する。
【0022】
リザーバ102は、作動液をスプリングによって加圧状態において収容する構造とされており、ポンプ配管106によってポンプ108の吸入側に接続されている。ポンプ108の吸入側には逆止弁である吸入弁110、吐出側には逆止弁である吐出弁112がそれぞれ設けられている。ポンプ108の吐出側と基幹配管90とを接続する補助配管114には、オリフィス116と固定ダンパ118とがそれぞれ設けられており、それらにより、ポンプ108の脈動が軽減される。
【0023】
基幹配管90には、補助配管114との接続点とマスタシリンダ24との間の部分に圧力制御弁120が設けられている。圧力制御弁120は、ポンプ108の非作動時には、マスタシリンダ24とブレーキシリンダ18との間の作動液の双方向の流れを許容し、ポンプ108の作動時には、ポンプ108からの作動液をマスタシリンダ24に逃がすとともに、その逃がすときのポンプ108の吐出圧の高さをマスタシリンダ24の液圧に基づいて変化させる構造とされている。具体的に説明すれば、圧力制御弁120は、図4に示すように、ハウジング(図示省略)と、マスタシリンダ側に設けられた弁子130と、ブレーキシリンダ側に設けられた弁座132と、それら弁子130および弁座132の相対移動を制御するソレノイド134とを有している。ソレノイド134の消磁状態においては、図4(a)に示すように、スプリング136の弾性力によって弁子130は弁座132から離間させられており、圧力制御弁120は、その状態において、マスタシリンダ側とブレーキシリンダ側との間での双方向の作動液の流れを許容する。つまり、消磁状態において、圧力制御弁120は開弁されている。一方、ソレノイド134の励磁状態においては、図4(b)に示すように、ソレノイド134の磁気力によって弁子130が弁座132に向かって付勢され、弁子130が弁座132に着座させられる。この際、弁子130には、ブレーキシリンダ圧とマスタシリンダ圧との差に基づく力F1とスプリング136の弾性力F2との和と、ソレノイド134の磁気力によって弁子130が付勢される力F3とが互いに逆向きに作用する。
【0024】
上述のような構造から、ソレノイド134の励磁状態において、圧力差に基づく力F1と弾性力F2との和が付勢力F3以下である間は、圧力制御弁120は閉じており、ポンプ108からの作動液がマスタシリンダ24に流れることが阻止される。このため、ポンプ108の作動に伴ってポンプ108の吐出圧が増加し、ブレーキシリンダ18にマスタシリンダ圧より高い液圧を作用させることが可能となる。それに対し、ポンプ108の吐出圧、すなわちブレーキシリンダ圧が増加し、圧力差に基づく力F1と弾性力F2との和が付勢力F3より大きくなれば、弁子130が弁座132から離間し、ポンプ108からの作動液がマスタシリンダ14に流れる。このため、ポンプ108の吐出圧、すなわちブレーキシリンダ圧は、圧力差に基づく力F1と弾性力F2との和が付勢力F3より大きくなった時点のブレーキシリンダ圧に維持される。つまり、ソレノイド134の励磁状態において、ポンプ108を作動させることで、付勢力F3から弾性力F2を減じた力に相当する圧力分、マスタシリンダ圧より高い液圧を、ブレーキシリンダ18に作用させることが可能となる。また、弁子130が弁座132に着座させられた状態でのスプリング136の弾性力F2は一定であることから、付勢力F3の大きさ、つまり、ソレノイド134への通電量を制御することで、圧力差に基づく力F1を制御することが可能となる。つまり、ソレノイド134への通電量を制御することで、ブレーキシリンダ圧とマスタシリンダ圧との圧力差、詳しく言えば、ブレーキシリンダ圧からマスタシリンダ圧を減じた圧力差を制御することが可能となる。このように、圧力制御弁120は、作動液の流通を許容する状態と禁止する状態とを切換えるとともに、作動液の流通を禁止した状態においてブレーキシリンダ圧を制御可能に調整することが可能とされているのである。つまり、圧力制御弁120は、流通状態切換器とブレーキ圧調整器としての2つの機能を有しているのである。
【0025】
また、図3に示すように、基幹配管90には、その圧力制御弁120を迂回するようにバイパス配管140が接続されており、そのバイパス配管140には、マスタシリンダ24からブレーキシリンダ18への作動液の流れを許容し、その逆向きの流れを阻止する逆止弁146が設けられている。また、基幹配管90のうちマスタシリンダ24と圧力制御弁120との間の部分から延びてポンプ配管106に至る補給配管148が設けられており、その補給配管148の途中には常閉の電磁開閉弁である流入制御弁150が設けられている。また、ポンプ配管106と補給配管148との接続点とポンプ配管106とリザーバ配管100との接続点との間に、補給配管148からリザーバ102に向かう作動液の流れを阻止し、その逆向きの流れを許容する逆止弁152が設けられている。
【0026】
上述のような構造によって、増圧制御弁94および圧力制御弁120が開弁されるとともに、減圧制御弁140および流入制御弁150が閉弁された状態において、運転者によってブレーキペダル20が踏み込まれた場合には、加圧ピストン72a,72bの移動に伴って、加圧室78a,78b内の作動液が加圧されて、その作動液の圧力上昇が、連通路としての主配管26a,26bを通じて各車輪のブレーキ装置14へと伝達される。そして、ブレーキ装置14が制動力を発生させるのである。
【0027】
また、図2に示すように、バキュームブースタ22のパワーピストン58を構成するハブ60の内部には、弁機構160が設けられている。詳しい説明は省略するが、弁機構160は、負圧室28と変圧室64との連通または遮断、あるいは、変圧室64と大気との連通または遮断を行えるように構成されている。弁機構160は、ブレーキペダル20の操作に依拠して移動させられるバルブオペレーティングロッド84に連動して、これらの連通および遮断を行うことが可能となっている。制動力を増加させるために、ブレーキペダル20に操作力が加えられている場合には、弁機構160は、負圧室28と変圧室64とを遮断し、変圧室64と大気とを連通させる状態となる。したがって、負圧室28は負圧状態となっているが、変圧室64は大気圧となる。つまり、負圧室28と変圧室64との間に圧力差が発生し、その圧力差による差圧力が、操作力によるパワーピストン58の移動方向と同じ方向に作用するため、ブレーキ操作における運転者の操作力を助勢することができるのである。
【0028】
一方、ブレーキペダル20に加えられる操作力が解除された場合には、弁機構160は、負圧室28と変圧室64とを連通し、変圧室64と大気とを遮断させる状態になる。したがって、変圧室64から負圧室28へ空気が流入し、負圧室28と変圧室64とは、負圧状態において同じ空気圧となる。つまり、負圧室28と変圧室64との間の圧力差がなくなり、操作力もなくなるため、加圧ピストン72,パワーピストン58等は、圧縮コイルばね74,79のばね力によって、ブレーキペダル20が操作されていない場合の位置へと戻されるのである。なお、バキュームブースタ22のハウジング56には、負圧室28内の空気圧を検出する圧力センサ162が設けられている。
【0029】
本システム10では、図1に示すように、ブレーキ電子制御ユニット(以下、単に「ブレーキECU」という場合がある)170が設けられている。ブレーキECU170は、各種制御弁94,104,120,150、およびポンプ108の作動を制御する制御装置であり、各ブレーキ装置14のブレーキシリンダ18に作用させる作動液の液圧を制御するものである。ブレーキECU170は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されたコントローラ172と、ポンプ108の有するポンプモータ174に対応する駆動回路176と、各種制御弁94,104,120,150のそれぞれに対応する複数の駆動回路178,180,182,184とを有している(図13参照)。それら複数の駆動回路176,178,180,182,184には、コンバータ186を介してバッテリ188が接続されており、ポンプモータ174、各種制御弁94,104,120,150に、そのバッテリ188から電力が供給される。
【0030】
さらに、複数の駆動回路176,178,180,182,184には、コントローラ172が接続されており、コントローラ172が、それら複数の駆動回路176,178,180,182,184に各制御信号を送信する。詳しくは、コントローラ172は、ポンプモータ174の駆動回路176にモータ駆動信号を送信し、増圧制御弁94,減圧制御弁104,流入制御弁150のそれぞれの駆動回路178,180,184に各制御弁を開閉するための制御信号を送信する。さらに、圧力制御弁120の駆動回路182には、圧力制御弁120の有するソレノイド134の発生させる磁気力を制御するための電流制御信号を送信する。このように、コントローラ172が各駆動回路176,178,180,182,184に各制御信号を送信することで、ポンプモータ174、各種制御弁94,104,120,150の作動を制御する。
【0031】
また、コントローラ172には、上記圧力センサ162[PF]とともに、マスタシリンダ24の液圧であるマスタシリンダ圧を検出する液圧センサ190[PM]と、スロットル弁44の開度を検出するスロットル開度センサ[S]192と、エンジン38の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ[R]194と、ブレーキペダル20が特定の大きさの力で踏み込まれた場合にスイッチがON状態となる踏力スイッチ[SW]196とが接続されており、各センサによる検出値は、後に説明するブレーキシステム10の制御において利用される。なお、[ ]の文字は、上記センサを図面において表す場合に用いる符号である。
【0032】
<車両用ブレーキシステムの制御>
本システム10において、通常、増圧制御弁94および圧力制御弁120が開弁されるとともに、減圧制御弁140および流入制御弁150が閉弁されており、運転者によってブレーキペダル20が踏み込まれた場合には、マスタシリンダ24内の作動液が加圧されて、その作動液の圧力上昇が、主配管26a,26bを通じて各車輪のブレーキ装置14へと伝達される。そして、加圧された作動液によってブレーキ装置14が制動力を発生させるのである。つまり、通常、運転者による操作力およびバキュームブースタ22による助勢力によって加圧された作動液に依拠して、ブレーキ装置14が制動力を発生させるのである。
【0033】
ただし、バキュームブースタ22は、上述したように、ブレーキ操作に伴って変圧室64に大気が流入し、その変圧室64と負圧室28との間の圧力差を利用して、運転者による操作力を助勢する構造とされている。このため、変圧室64内の空気圧である変圧室圧が大気圧に達するまでは、変圧室64と負圧室28との間の圧力差が増加することで、助勢力は増加するが、変圧室圧が大気圧に達すると、圧力差が一定となり、助勢力は増加しなくなる。このため、運転者による操作力が増加する際に、変圧室64と負圧室28との圧力差が増加している間は、操作力と助勢力との増加によってマスタシリンダ圧は増加するが、圧力差が増加しなくなると、操作力の増加のみによってマスタシリンダ圧は増加する。このため、運転者による操作力(踏力)Fとマスタシリンダ圧PMとの関係は、図5の実線に示すようになる。ちなみに、図中のFTは、変圧室圧が大気圧に達したときの操作力である。
【0034】
図から解るように、操作力FがそのFTを超えると、マスタシリンダ圧PMの増加勾配が急減する。増圧制御弁94および圧力制御弁120が開弁されるとともに、減圧制御弁140および流入制御弁150が閉弁された状態において、マスタシリンダ圧PMとブレーキシリンダ18に作用する作動液の液圧とは同じであるため、図の縦軸は、ブレーキシリンダ18に作用する作動液の液圧であるブレーキシリンダ圧PBと考えることができる。つまり、変圧室圧が大気圧になると、バキュームブースタ22による助勢が限界に達し、制動力の増加勾配が急減するのである。制動力が然程大きくない状態において、制動力の増加勾配、詳しく言えば、単位操作力あたりの制動力の増加量が減ると、運転者はブレーキの効きが悪くなったと感じて、ブレーキ操作に違和感を感じる虞がある。
【0035】
そこで、本システム10では、バキュームブースタ22による助勢が限界に達しても、ブレーキの効きが悪くならないように、ブレーキシリンダ圧PBを増加させる制御、所謂、ブレーキ効き特性制御を実行している。詳しく言えば、バキュームブースタ22による助勢が限界に達しても、図5の一点鎖線に示すように、ブレーキシリンダ圧PBを変化させるべく、バキュームブースタ22による助勢が限界に達した後に、作動液加圧装置としてのポンプ108を作動させて、そのポンプ108によって作動液を加圧する制御を実行している。ちなみに、図5の一点鎖線においても、操作力FがF0を超えると、マスタシリンダ圧PMの増加勾配が減っているが、運転者がF0の大きさの力でブレーキペダル20を踏み込む際には、ブレーキシリンダ圧PBはPB0にまで達している。ブレーキシリンダ圧PBがPB0の高さまで高くなれば、制動力は比較的大きくなっているため、運転者によるブレーキ操作力を助勢する必要性は低い。このため、効き特性制御において、ブレーキシリンダ圧PBがPB0となった後、つまり、ブレーキシリンダ圧PMがPM0となった後には、ポンプ108の作動によって制動力が増加しないようにしている。
【0036】
詳しく言えば、バキュームブースタ22による助勢が限界に達した後に、増圧制御弁94が開弁されるとともに減圧制御弁140が閉弁された状態が維持され、流入制御弁150が開弁されるとともに、ポンプ108が作動させられる。そして、さらに圧力制御弁120のソレノイド134が励磁状態とされる。圧力制御弁120は、上述したように、ソレノイド134への通電量を制御することで、ブレーキシリンダ圧PBとマスタシリンダ圧PMとの圧力差、詳しく言えば、ブレーキシリンダ圧PBからマスタシリンダ圧PMを減じた圧力差ΔPを制御することが可能な構造とされている。したがって、その圧力差ΔPが、図5中での斜線に相当する大きさになるように、ソレノイド134への通電量を制御することで、ブレーキシリンダ圧PBを、図5の一点鎖線に示すように変化させるのである。
【0037】
具体的には、コントローラ182のコンピュータには、図6に示すようなマスタシリンダ圧PMをパラメータとする圧力差ΔPに関するマップデータが格納されており、圧力差ΔPがそのマップデータを参照することによって決定される。ちなみに、図中のPMGは、助勢限界に達したときのマスタシリンダ圧であり、PM0は、操作力FがF0に達したときのマスタシリンダ圧である。そして、その決定された圧力差ΔPに基づく力F1と圧力制御弁120の有するスプリング136の弾性力F2とを加えた力をソレノイド134が発生できるように、ソレノイド134への供給電流iが決定される。このように決定された供給電流iをソレノイド134へ通電するとともに、ポンプ108を作動させることで、ブレーキシリンダ圧PBを図5の一点鎖線に示すように変化させることが可能となる。つまり、マスタシリンダ圧PMの増加に応じて圧力差ΔPを漸増させる制御である差圧漸増制御を実行することで、バキュームブースタによる助勢限界の前後にかかわらず、ブレーキの効き特性を一定にすることが可能となる。
【0038】
なお、本システム10において、バキュームブースタ22の助勢限界は負圧室28内の空気圧である負圧室圧に基づいて推定している。負圧室圧に基づく助勢限界の推定方法は、周知の技術であることから、詳しい説明は省略するが、簡単に説明すれば、ブレーキ操作時に変圧室圧が大気圧に達すると、助勢限界に達することから、ブレーキ操作直前の変圧室圧が低いほど、言い換えれば、変圧室圧が大気圧から離れているほど、助勢限界に達し難くなる。つまり、ブレーキ操作直前の変圧室圧が低いほど、助勢限界に達したときのマスタシリンダ圧である助勢限界到達時マスタシリンダ圧(以下、「限界時マスタシリンダ圧」という場合がある)PMGは高くなる。ブレーキ操作前は、変圧室64と負圧室28とは連通していることから、ブレーキ操作直前の負圧室圧が低いほど、限界時マスタシリンダ圧PMGは高くなる。負圧室圧PFと限界時マスタシリンダ圧PMGとの相関関係についてのマップデータがコントローラ182のコンピュータに格納されており、限界時マスタシリンダ圧PMGが、上記圧力センサ162によって検出される負圧室圧PFに基づいて決定されるのである。
【0039】
上記ブレーキ効き特性制御においては、図5の一点鎖線から解るように、ブレーキシリンダ圧PBがPB0となった後には、ポンプ108の作動によって制動力が増加しないようになっている。つまり、ブレーキシリンダ圧PBがPB0となった後には、ブレーキ効き特性制御時であっても、運転者の操作力の増加のみに依拠して制動力が増加するようになっている。このため、運転者の操作力とバキュームブースタ22の助勢力とによってマスタシリンダ圧PMがPB0以上となるような場合、つまり、限界時マスタシリンダ圧PMGがPB0以上となるような場合には、ブレーキ効き特性制御を実行する必要はない。そこで、本システム10では、負圧室圧PFと限界時マスタシリンダ圧PMGとの相関関係についてのマップデータに基づいて限界時マスタシリンダ圧PMGがPB0に決定される場合の負圧室圧PF0を閾値として、ブレーキ効き特性制御を実行する場合と実行しない場合とを切り換えている。つまり、ブレーキ操作直前の負圧室圧PFが閾値PF0以上である場合にはブレーキ効き特性制御を実行し、ブレーキ操作直前の負圧室圧PFが閾値PF0未満である場合にはブレーキ効き特性制御の実行を禁止している。
【0040】
また、ブレーキ効き特性制御においては、負圧室圧が大気圧に相当近い場合、つまり、負圧室28の負圧が相当低い場合であっても、助勢限界を適切に推定して、ポンプ108の加圧によって制動力を適切に発生させることが可能となっている。このため、バキュームブースタ22が失陥しているような場合であっても、ブレーキ効き特性制御を実行すれば、充分な制動力を発生させるとともに、運転者は違和感なくブレーキ操作を行うことが可能である。ブースタ失陥の殆どは、負圧室28の負圧低下に依拠するものであり、負圧室28の負圧の低下には、負圧室圧に基づいて助勢限界を推定することでブレーキ効き特性制御によって対処することが可能であるためである。ただし、ブースタ失陥には、負圧室28の負圧低下に依拠するものだけでなく、負圧低下以外の要因、例えば、メカ的な要因に依拠するものがある。負圧低下以外の要因に依拠するブースタ失陥時には、負圧室圧が相当低くても、言い換えれば、負圧室28が充分な負圧状態にあっても、バキュームブースタによる助勢力が十分に発揮されない場合がある。このような場合には、負圧室圧によって推定される助勢限界と実際の助勢限界とが解離してしまうため、ブレーキ効き特性制御では対処できない虞がある。そこで、本システム10では、負圧低下以外の要因に依拠してブースタ失陥が生じていると推定されるような場合には、助勢限界にかかわらず、バキュームブースタによる助勢力を補うべく、ブースタ失陥時制御を実行している。
【0041】
ブースタ失陥時制御では、ブレーキ効き特性制御と同様に、ポンプ108によって作動液を加圧することで制動力を増加させているが、ブレーキ効き特性制御のように、マスタシリンダ圧PMの増加に応じてブレーキ圧PBをスムーズに増加させていない。負圧低下以外の要因に依拠するブースタ失陥時には、助勢限界を推定することができないため、マスタシリンダ圧PMとブレーキ圧PBとの差を漸増させるような制御を実行できないためである。このため、ブースタ失陥時制御では、バキュームブースタ22が負圧低下以外の要因に依拠して失陥していると判定された後に、ブレーキシリンダ圧PBとマスタシリンダ圧PMとの圧力差ΔPが特定の大きさとなるような制御である差圧一定制御を実行している。
【0042】
詳しく言えば、まず、バキュームブースタ22が負圧低下以外の要因に依拠して失陥しているか否かを判定するべく、ブースタ失陥を運転者による操作力Fとマスタシリンダ圧PMとに基づいて判定する。操作力Fとマスタシリンダ圧PMとに基づくブースタ失陥の判定方法は、周知の技術であることから、簡単に説明すれば、図7に示すようなマップデータ、つまり、特定の大きさの力FSWでブレーキペダル20が踏み込まれた際のマスタシリンダ圧PMとブレーキペダル20の踏込み時のマスタシリンダ圧の変化速度Vとの相関関係についてのマップデータがコントローラ182のコンピュータに格納されており、そのマップデータを参照することでブースタ失陥を判定する。例えば、マスタシリンダ圧PMがPM1であり、変化速度VがV1である場合には、ブースタ失陥であると判定され、マスタシリンダ圧PMがPM2であり、変化速度VがV2である場合には、バキュームブースタ22は正常であると判定される。
【0043】
そして、操作力Fとマスタシリンダ圧PMとに基づいてバキュームブースタ22が失陥していると判定された場合には、負圧室圧PFが閾値PF0以上であるか否かが判定される。負圧室圧PFが閾値PF0以上である場合には、負圧室28の負圧は然程高くないため、ブースタ失陥は、負圧室28の負圧の低下に依拠したものと推定される。このため、負圧室圧PFが閾値PF0以上である場合には、ブレーキ効き特性制御が実行される。一方、負圧室圧PFが閾値PF0未満である場合には、負圧室28の負圧はある程度高く、ブースタ失陥は、負圧室28の負圧の低下に依拠したものではないと推定される。つまり、操作力Fとマスタシリンダ圧PMとに基づいてブースタ失陥と判定されるとともに、負圧室圧PFが閾値PF0未満である場合に、ブースタ失陥時制御が実行されるのである。
【0044】
バキュームブースタ22による助勢力がマスタシリンダ24に殆ど伝達されない場合には、マスタシリンダ圧PMは運転者による操作力Fのみに依拠して増加するため、マスタシリンダ圧PMは、図8の実線に示すように、操作力Fの増加に応じて変化する。操作力FがFSWまで増加すると、ブースタ失陥の判定が実行され、ブースタ失陥の要因が負圧低下に依拠するものでないと判定されると、圧力差ΔPが特定の大きさΔP0となるように、ポンプ108,圧力制御弁120のソレノイド134等が制御される。具体的には、圧力差ΔPとソレノイド134への供給電流iとの相関関係に基づいて、ΔP0に応じた供給電流i0が決定され、その供給電流i0がソレノイド134に通電されるとともに、流入制御弁150が開弁され、ポンプ108が作動させられる。このようにブースタ失陥時制御を実行することで、負圧低下以外の要因に依拠するブースタ失陥時においても、制動力を確実に発生させている。
【0045】
操作力Fとマスタシリンダ圧PMとに基づいてバキュームブースタ22が失陥していると判定されるとともに、負圧室圧PFが閾値PF0未満である場合には、上述したように、負圧低下以外の要因に依拠してバキュームブースタ22が失陥していると考えることができる。ただし、負圧室圧取得装置としての圧力センサ162によって検出された負圧室圧PFが、実際の負圧室圧と異なっていると考えることもできる。つまり、圧力センサ162に異常が生じ、圧力センサ162が正確に負圧室圧を検出できないと考えることもできる。圧力センサ162が正確に負圧室圧を検出できないと、バキュームブースタ22の助勢限界を正確に推定することができないため、ブレーキ効き特性制御を適切に実行することができない虞がある。このことからも、操作力Fとマスタシリンダ圧PMとに基づいてバキュームブースタ22が失陥していると判定されるとともに、負圧室圧PFが閾値PF0未満である場合に、ブースタ失陥時制御を実行することが望ましい。
【0046】
また、圧力センサ162が異常である場合には、助勢限界到達時を適切に推定できず、ブレーキ効き特性制御を適切に実行することができない虞があるため、ブースタ失陥の有無,負圧室圧の高低に拘わらず、ブレーキ効き特性制御の実行を禁止している。一方、ブースタ失陥時制御を実行する際に助勢限界到達時は関係無いため、圧力センサ162が異常であっても、ブースタ失陥時には、ブースタ失陥時制御を実行している。ちなみに、圧力センサ162の異常は、圧力センサ162によって検出される負圧室圧PFとエンジン28の作動状況に依拠して推定されるインテークマニホルド34内の空気圧であるエンジン圧PEとに基づいて推定される。エンジン圧PEは、エンジン28の回転速度とスロットル弁44の開度とに基づいて、比較的精度よく推定することが可能であり、その推定されたエンジン圧PEと負圧室圧PFとは、圧力センサ162に異常がなければ、概ね一致する。そこで、本システムでは、負圧室圧PFとエンジン圧PEとを比較することで、圧力センサ162の異常を判定している。なお、ブースタ失陥の有無,センサ異常の有無,負圧室圧の高低と各制御との関係を、図9に示しておく。
【0047】
<制御プログラム>
本システム10において、操作力とマスタシリンダ圧とに基づくブースタ失陥の判定は、図10にフローチャートを示すブースタ失陥判定プログラムがコントローラ172によって実行されることで行われる。また、圧力センサ162の異常の判定は、図11にフローチャートを示す圧力センサ異常判定プログラムがコントローラ172によって実行されることで行われる。さらに、上記ブレーキ効き特性制御、およびブースタ失陥時制御は、図12にフローチャートを示すブレーキシステム制御プログラムがコントローラ172によって実行されることで行われる。それら3つのプログラムは、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数msec)をおいて繰り返し実行されており、並行して実行されている。以下に、それぞれの制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
【0048】
i)ブースタ失陥判定プログラム
本プログラムに従う処理では、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、踏力スイッチ196がON状態となっているか否かが判定され、ON状態となっていると判定された場合には、S2において、液圧センサ190によってマスタシリンダ圧PMが検出される。次に、S3において、その検出されたマスタシリンダ圧PMに基づいて、マスタシリンダ圧の変化速度Vが演算される。続いて、S4において、図7に示すようなマップデータを参照することによって、バキュームブースタ22が失陥しているか否かが判定される。バキュームブースタ22が失陥していると判定された場合には、S5において、ブースタ失陥フラグFBのフラグ値が1とされ、バキュームブースタ22が正常であると判定された場合には、S6において、フラグ値が0とされる。以上の一連の処理の後、本プログラムの1回の実行が終了する。
【0049】
ii)圧力センサ異常判定プログラム
本プログラムに従う処理では、まず、S11において、エンジン回転速度センサ194によってエンジン38の回転速度が検出され、S12において、スロットル開度センサ192によってスロットル弁44の開度が検出される。次に、S13において、エンジン38の回転速度とスロットル弁44の開度とに基づいてエンジン圧PEが推定され、S14において、圧力センサ162によって負圧室圧PFが検出される。続いて、S15において、推定されたエンジン圧PEと検出された負圧室圧PFとを比較することで、圧力センサ162が異常であるか否かが判定される。圧力センサ162が異常であると判定された場合には、S16において、圧力センサ異常フラグFSのフラグ値が1とされ、圧力センサ162が正常であると判定された場合には、S17において、フラグ値が0とされる。以上の一連の処理の後、本プログラムの1回の実行が終了する。
【0050】
iii)ブレーキシステム制御プログラム
本プログラムに従う処理では、まず、S21において、液圧センサ190によってマスタシリンダ圧PMが検出され、S22において、その検出されたマスタシリンダ圧PMに基づいて、ブレーキ操作がされているか否かが判定される。ブレーキ操作がされていると判定された場合には、S23において、助勢限界決定フラグFGのフラグ値が1にされているか否かが判定される。そのフラグFGは、バキュームブースタ22の助勢限界が推定されているか否かを示すフラグであり、そのフラグFGのフラグ値が1とされている場合には、助勢限界が推定されていることを示し、0とされている場合には、推定されていないことを示している。
【0051】
助勢限界決定フラグFGのフラグ値が1にされていないと判定された場合には、S24において、上記圧力センサ異常判定プログラムにおいて決定されている圧力センサ異常フラグFSのフラグ値が1とされているか否かが判定される。そのフラグFSのフラグ値が1とされていないと判定された場合には、S25において、圧力センサ162によって負圧室圧PFが検出され、S26において、その検出された負圧室圧PFが閾値PF0以上であるか否かが判定される。負圧室圧PFが閾値PF0以上であると判定された場合には、ブレーキ効き特性制御を実行するべく、S27において、負圧室圧PFに基づいて限界時マスタシリンダ圧PMGが決定され、S28において、助勢限界決定フラグFGのフラグ値が1にされる。
【0052】
次に、S29において、マスタシリンダ圧PMが限界時マスタシリンダ圧PMGを超えているか否かが判定される。超えていると判定された場合には、S30において、図6に示すようなマップデータを参照することによって、圧力差ΔPが演算される。続いて、S31において、その演算された圧力差ΔPに基づいて、ソレノイド134への供給電流iが決定され、その決定された供給電流iに基づく電流制御信号が駆動回路182に送信される。そして、S32において、流入制御弁150を開弁させるための制御信号が駆動回路184に送信され、S33において、ポンプモータ174を駆動させるための制御信号が駆動回路176に送信される。
【0053】
また、S24において圧力センサ異常フラグFSのフラグ値が1とされていると判定された場合、若しくは、S26において負圧室圧PFが閾値PF0未満と判定された場合には、S34において、上記ブースタ失陥判定プログラムにおいて決定されているブースタ失陥フラグFBのフラグ値が1とされているか否かが判定される。そのフラグFBのフラグ値が1とされていると判定された場合には、ブースタ失陥時制御を実行するべく、S35において、ソレノイド134への供給電流iがi0に決定され、その決定された供給電流i0に基づく電流制御信号が駆動回路182に送信される。そして、S32以降の処理が実行される。
【0054】
また、S22においてブレーキ操作がされていないと判定された場合には、S36において、助勢限界決定フラグFGのフラグ値が0にされる。そして、その後、若しくは、S29においてマスタシリンダ圧PMが限界時マスタシリンダ圧PMGを超えていないと判定された場合、若しくは、S34においてブースタ失陥フラグFBのフラグ値が1とされていないと判定された場合には、S37において、ソレノイド134への供給電流iが0に決定され、その決定された供給電流iに基づく電流制御信号が駆動回路182に送信される。そして、S38において、流入制御弁150を閉弁させるための制御信号が駆動回路184に送信され、S39において、ポンプモータ174を停止させるための制御信号が駆動回路176に送信される。以上の一連の処理の後、本プログラムの1回の実行が終了する。
【0055】
<コントローラの機能構成>
上記3つのプログラムを実行するコントローラ172は、それの実行処理に鑑みれば、図13に示すような機能構成を有するものと考えることができる。図から解るように、コントローラ172は、ブースタ失陥判定プログラムの処理を実行する機能部、つまり、バキュームブースタ22が異常であるか否かを判定する機能部として、バキュームブースタ異常判定部200を、圧力センサ異常判定プログラムの処理を実行する機能部、つまり、圧力センサ162が異常であるか否かを判定する機能部として、圧力センサ異常判定部202を、ブレーキシステム制御プログラムのS25〜S27の処理を実行する機能部、つまり、バキュームブースタ22の助勢限界を推定する機能部として、助勢限界推定部204を、S29〜S35の処理を実行する機能部、つまり、ブレーキ装置14に作用する作動液をポンプ108によって加圧するとともに、その作動液の液圧を制御する機能部として、ブレーキ圧制御部206を、それぞれ備えている。なお、ブレーキ圧制御部206は、S29〜S33の処理を実行する機能部、つまり、ブレーキ効き特性制御を実行する機能部として、ブレーキ効き特性制御実行部208を、S32〜S35の処理を実行する機能部、つまり、ブースタ失陥時制御を実行する機能部として、ブースタ失陥時制御実行部210を、それぞれ有している。
【符号の説明】
【0056】
10:車両用ブレーキシステム 14:ブレーキ装置 20:ブレーキペダル(ブレーキ操作部材) 22:バキュームブースタ 24:マスタシリンダ 26:主配管(連通路) 28:負圧室 108:ポンプ(作動液加圧装置) 120:圧力制御弁(流通状態切換器)(ブレーキ圧調整器) 162:圧力センサ(負圧室圧取得器) 170:ブレーキ電子制御ユニット(制御装置) 200:バキュームブースタ異常判定部 204:助勢限界推定部 206:ブレーキ圧制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって操作力が加えられるブレーキ操作部材と、
負圧室を有して前記操作力を助勢するバキュームブースタと、
前記負圧室内の空気圧である負圧室圧を取得する負圧室圧取得器と、
前記ブレーキ操作部材に加えられる操作力と前記バキュームブースタによる助勢力とに依拠して作動液を加圧するマスタシリンダと、
そのマスタシリンダによって加圧された作動液によって制動力を発生させるブレーキ装置と、
そのブレーキ装置と前記マスタシリンダとの間を作動液が流通可能にそれらを連通させる連通路と、
その連通路に設けられて、前記ブレーキ装置と前記マスタシリンダとの間の作動液の流通を許容する状態と禁止する状態とを切換える流通状態切換器と、
その流通状態切換器と前記ブレーキ装置との間において、そのブレーキ装置を作動させる作動液を加圧する作動液加圧装置と、
前記ブレーキ装置を作動させる作動液の液圧であるブレーキ圧を制御可能に調整するブレーキ圧調整器と、
(A)前記負圧室圧取得器によって取得された前記負圧室圧に基づいて、前記バキュームブースタの助勢限界を推定する助勢限界推定部と、(B)その助勢限界推定部によって推定された前記バキュームブースタの助勢限界に達した場合に、前記流通状態切換器によって前記ブレーキ装置と前記マスタシリンダとの間の作動液の流通を禁止して、前記ブレーキ圧が前記マスタシリンダによって加圧される作動液の液圧であるマスタシリンダ圧より高くなるように前記作動液加圧装置によって前記ブレーキ装置を作動させる作動液を加圧するとともに、前記マスタシリンダ圧が高くなるにつれて、前記ブレーキ圧と前記マスタシリンダ圧との差が漸増するように、前記ブレーキ圧調整器によって前記ブレーキ圧を制御する差圧漸増制御を実行するブレーキ圧制御部とを有する制御装置と
を備えた車両用ブレーキシステムであって、
前記制御装置が、
前記ブレーキ操作部材に加えられる操作力と前記マスタシリンダ圧とに基づいて、前記バキュームブースタの異常を判定するバキュームブースタ異常判定部を有し、
前記ブレーキ圧制御部が、
前記バキュームブースタ異常判定部によって前記バキュームブースタが異常であると判定された場合において、前記負圧室圧取得器によって取得された前記負圧室圧が閾値以上である場合に前記差圧漸増制御を実行し、前記負圧室圧取得器によって取得された前記負圧室圧が閾値未満である場合には、前記差圧漸増制御を実行することなく、前記助勢限界推定部によって推定された前記バキュームブースタの助勢限界に拘わらず、前記ブレーキ圧と前記マスタシリンダ圧との差が特定の大きさとなるように、前記ブレーキ圧を制御する差圧一定制御を実行するように構成された車両用ブレーキシステム。
【請求項2】
前記ブレーキ圧制御部が、
前記バキュームブースタ異常判定部によって前記バキュームブースタが異常であると判定された場合において、前記負圧室圧取得器が正確に前記負圧室圧を取得できないときには、前記差圧漸増制御を実行することなく、前記差圧一定制御を実行するように構成された請求項1に記載の車両用ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−111126(P2011−111126A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272085(P2009−272085)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】