説明

車両用ブレーキ制御装置

【課題】入出力特性を変更可能としてマスタシリンダおよびブレーキ操作子間に介設される倍力手段と、車輪ブレーキのリザーバおよびマスタシリンダへの連通・遮断を切換え可能なアンチロック制御弁手段と、リザーバからくみ上げたブレーキ液をマスタシリンダ側に戻す還流ポンプと、アンチロック制御弁および還流ポンプを制御するアンチロック制御手段とを備える車両用ブレーキ制御装置において、非アンチロック制御実行中の倍力手段の目標値への追従性を低下させることなく、アンチロック制御実行中の制御のハンチングや発散を防止する。
【解決手段】マスタシリンダの出力目標値が目標値決定手段70で決定され、マスタシリンダの出力が出力目標値に近づくように倍力手段14の出力をフィードバック制御する倍力制御手段72の感度またはゲインが、アンチロック制御手段69によるアンチロック制御実行中には非実行中よりも低くまたは小さく変更される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタシリンダと、入出力特性を電気的に変更可能として前記マスタシリンダおよびブレーキ操作子間に介設される倍力手段と、車輪ブレーキと、リザーバと、前記車輪ブレーキの前記リザーバおよび前記マスタシリンダへの連通・遮断を切換え可能なアンチロック制御弁手段と、前記リザーバに吸入側が接続されるとともに吐出側が前記アンチロック制御弁手段および前記マスタシリンダ間に接続される還流ポンプと、前記アンチロック制御弁および前記還流ポンプの作動を制御するアンチロック制御手段とを備える車両用ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マスタシリンダおよびブレーキ操作子間に、入出力特性を電気的に変更可能な倍力手段が介設され、マスタシリンダの出力が出力目標値に近づくように倍力手段の出力をフィードバック制御するようにした車両用ブレーキ装置が特許文献1および特許文献2等で既に知られている。また制動時に車輪のブレーキ液圧を制御して車輪がロック状態に陥ることを防止するために、車輪ブレーキのリザーバおよびマスタシリンダへの連通・遮断を切換え可能なアンチロック制御弁手段と、リザーバに吸入側が接続されるとともに吐出側がアンチロック制御弁手段およびマスタシリンダ間に接続される還流ポンプとを備える車両用ブレーキ装置も、特許文献3等で良く知られている。
【特許文献1】特公平6−104448号公報
【特許文献2】特開2002−264795号公報
【特許文献3】特開平9−86387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1,2で開示されたような倍力手段がブレーキ操作子との間に介設されるマスタシリンダの出力を、特許文献3で開示されたようなアンチロック制御弁で制御するようにした場合、アンチロック制御中にはリザーバに貯留されたブレーキ液が還流ポンプによってマスタシリンダ側に還流されることになる。このため、マスタシリンダの出力が出力目標値に近づくように倍力手段の出力をフィードバック制御する際の感度またはゲインを高くもしくは大きくしておくと、還流ポンプで戻されるブレーキ液の影響による制御のハンチングや発散が生じる可能性がある。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、非アンチロック制御実行中の倍力手段の目標値への追従性を低下させることなく、アンチロック制御実行中の制御のハンチングや発散を防止し得るようにした車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、マスタシリンダと、入出力特性を電気的に変更可能として前記マスタシリンダおよびブレーキ操作子間に介設される倍力手段と、車輪ブレーキと、リザーバと、前記車輪ブレーキの前記リザーバおよび前記マスタシリンダへの連通・遮断を切換え可能なアンチロック制御弁手段と、前記リザーバに吸入側が接続されるとともに吐出側が前記アンチロック制御弁手段および前記マスタシリンダ間に接続される還流ポンプと、前記アンチロック制御弁および前記還流ポンプの作動を制御するアンチロック制御手段とを備える車両用ブレーキ制御装置において、前記マスタシリンダの出力目標値を定める目標値決定手段と、前記マスタシリンダの出力を検出する出力検出手段と、前記マスタシリンダの出力が前記出力目標値に近づくように前記倍力手段の出力をフィードバック制御するとともに前記アンチロック制御手段によるアンチロック制御実行中の感度またはゲインを非実行中よりも低くまたは小さく変更する倍力制御手段とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、非アンチロック制御中には倍力制御手段によるフィードバック制御の感度またはゲインを高くまたは大きくすることにより、非アンチロック制御実行中の倍力手段の目標値への追従性を高めることが可能であり、またアンチロック制御実行中には、倍力制御手段によるフィードバック制御の感度またはゲインを低くまたは小さくするので、還流ポンプでマスタシリンダ側に戻されるブレーキ液の影響による制御のハンチングや発散を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0008】
図1〜図4は本発明の一実施例を示すものであり、図1は車両の駆動系および制動系の全体構成図、図2は制動系の構成を示す図、図3はブレーキ液圧制御系の構成を示すブロック図、図4はゲイン設定手順を示すフローチャートである。
【0009】
先ず図1において、この車両は駆動輪である右前輪WAおよび左前輪WCと、従動輪である右後輪WDおよび左後輪WBとを備える四輪車両であり、右および左前輪WA,WCは、差動装置6および自動変速機5を介して電動モータ7に接続される。電動モータ7およびバッテリ8間にはパワードライブユニット(PDU)9が介装されており、このパワードライブユニット9はバッテリ8による電動モータ7の駆動を制御するとともに、回生制動時には電動モータ7が発電する電力によるバッテリ8の充電を制御する。
【0010】
一方、ブレーキ操作子であるブレーキペダル10の操作に応じて駆動輪だけでなく従動輪をも機械的に制動し得るブレーキ液圧発生装置11が、ブレーキ操作量を検出する踏力センサ20を介してブレーキペダル10に接続されるとともに液圧モジュレータ12に接続され、該液圧モジュレータ12は、右前輪WA、左前輪WC、右後輪WDおよび左後輪Bにそれぞれ装着された右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用車輪ブレーキBA,BC,BD,BBに接続される。
【0011】
図2において、ブレーキ液圧発生装置11は、ブレーキペダル10のブレーキ操作とは無関係に液圧を発生し得る液圧源13と、マスタシリンダMと、ブレーキペダル10による入力ならびに前記マスタシリンダMに付与する出力相互間の特性である入出力特性を電気的に変更可能としてマスタシリンダMおよびブレーキペダル10間に介設される倍力手段14とを備える。
【0012】
液圧源13は、マスタシリンダMに付設されるリザーバ15からブレーキ液をくみ上げるようにして電動モータ16で駆動される液圧ポンプ17と、該液圧ポンプ17の吐出側に接続されるアキュムレータ18と、アキュムレータ18の液圧を所定値に保持すべくアキュムレータ18に接続される圧力センサ19とで構成される。
【0013】
マスタシリンダMは、前端を閉じたシリンダ体22内に摺動可能に嵌合される第1および第2ピストン23,24と、第1および第2ピストン23,24を後方側に復帰する第1および第2戻しばね25,26とを備えてタンデム型に構成されるものであり、シリンダ体22の前端閉塞部および第1ピストン23間に第1液圧室27が形成され、第1および第2ピストン23,24間でシリンダ体22内に第2液圧室28が形成される。またシリンダ体22には、第1および第2液圧室27,28にそれぞれ通じる第1出力ポート29および第2出力ポート30が設けられる。
【0014】
またシリンダ体22内には、第2ピストン24の背面を臨ませる倍力液圧室31が形成されており、倍力液圧室31の液圧に応じて第1および第2ピストン23,24が軸方向に移動することによって第1および第2液圧室27,28で発生した液圧が第1および第2出力ポート29,30からそれぞれ出力される。さらに第1および第2液圧室27,28は、第1および第2ピストン23,24が後端位置にあるときにはリザーバ15に通じており、第1および第2ピストン23,24の前進作動によってリザーバ15とは遮断される。
【0015】
倍力手段14は、液圧源13の出力液圧を前記ブレーキペダル10の踏力すなわちブレーキ操作力に応じた液圧に調圧する調圧弁32と、常開型の電磁開閉弁33と、調圧弁32側からのブレーキ液の流通を許容するようにして該電磁開閉弁33に並列に接続されるチェック弁34と、常開型のリニアソレノイド弁である増圧制御弁35と、調圧弁32側へのブレーキ液の流通を許容するようにして増圧制御弁35に並列に接続されるチェック弁36と、常閉型のリニアソレノイド弁である減圧制御弁37と、常閉型の電磁開閉弁38とを備える。
【0016】
調圧弁32は、前記マスタシリンダMが備えるシリンダ体22の後部内に配設されるものであり、前記第2ピストン24との間に倍力液圧室31を形成してシリンダ体22に摺動可能に嵌合される弁ボディ41と、弁ボディ41に相対摺動可能に嵌合されるスプール42と、スプール42を後方側に付勢するようにして弁ボディ41およびスプール42間に介設させる戻しばね43とを備えて、スプール弁構造に構成されるものであり、スプール42にブレーキペダル10が接続される。
【0017】
シリンダ体22の後方寄り中間部には、環状突部44が半径方向内方に張り出すようにして一体に設けられており、弁ボディ41の前部および環状突部44間でシリンダ体22および弁ボディ41間には環状の出力室45が形成される。また弁ボディ41の後部および前記環状突部44間でシリンダ体22および弁ボディ41間には環状の入力室46が形成され、この入力室46は前記液圧源13に連通される。さらに弁ボディ41およびスプール42間には前記出力室45に通じる出力液圧室47が形成され、弁ボディ41の後端を臨ませる解放室48がシリンダ体22内の後部に形成され、該解放室48はリザーバ15に連通される。したがって液圧源13が正常に作動して入力室46の液圧が高圧に保持されている通常状態では、弁ボディ41は、入力室46の液圧により後退限位置に保持される。
【0018】
而してスプール42には、ブレーキペダル10の踏力が前進方向に作用し、出力液圧室47の液圧をスプール42の受圧面積に乗じた液圧力および戻しばね43のばね力が後退方向に作用するものであり、出力液圧室47は、スプール42がその後端をシリンダ体22の後端に当接させた図示位置にあるときには入力室46から遮断されるとともに解放室48に連通しており、ブレーキペダル10の踏み込み操作に応じてスプール42が前進すると、前記解放室48から遮断されるとともに入力室46に連通される。すなわち調圧弁32は、液圧源13の出力液圧をブレーキペダル10の踏力すなわちブレーキ操作力に応じた液圧に調圧して出力室45から出力するものである。
【0019】
また液圧源13の異常によって入力室46の液圧が低下したときには、ブレーキペダル10の踏み込みによって、スプール42の後端に設けられる鍔部42aが弁ボディ41に後方から当接し、弁ボディ41が、マスタシリンダMにおける第2ピストン24を直接押圧するように前進作動することになる。
【0020】
前記出力室45と、マスタシリンダMにおける第2ピストン24および弁ボディ41間の倍力液圧室31とは液圧路49を介して接続されており、この液圧路49に、調圧弁32側の前記電磁開閉弁33と、前記増圧制御弁35とが直列に接続されるようにして介設され、増圧制御弁35および倍力液圧室31間で前記液圧路49から分岐するとともに前記解放室48に通じる液圧路50に減圧制御弁37が介設され、増圧制御弁35および倍力液圧室31間で前記液圧路49から分岐するとともに前記入力室46に通じる液圧路51に電磁開閉弁38が介設される。
【0021】
増圧制御弁35は、出力室45側の液圧および倍力液圧室31側の液圧間の差圧が通電量の増加に伴って増加するように作動するものであり、また減圧制御弁37は、倍力液圧室31側の液圧および解放室48側の液圧間の差圧が通電量の増加に伴って増加するように作動するものであり、増圧制御弁35および減圧制御弁37の通電量を制御することにより、倍力液圧室31の液圧を出力室45の液圧すなわち調圧弁32の出力液圧以下の任意の液圧に調整することができる。而して増圧制御弁35および倍力液圧室31間で液圧路49には、倍力手段14の出力液圧すなわち倍力液圧室31の液圧を検出する圧力センサ52が接続される。
【0022】
電磁開閉弁33,38は、ブレーキペダル10が踏み込まれていない状態でも、マスタシリンダMを作動せしめて自動制動が可能となるようにするためのものであり、自動制動時には、電磁開閉弁33が閉弁されるとともに電磁開閉弁38が開弁され、減圧制御弁37の通電量制御によって調圧された液圧が倍力液圧室31に作用することになる。
【0023】
マスタシリンダMの第1および第2出力ポート29,30には第1および第2出力液圧路55,56が接続されており、第1および第2出力液圧路55,56と、右前輪用車輪ブレーキBA、左後輪用車輪ブレーキBB、左前輪用車輪ブレーキBCおよび右後輪用車輪ブレーキBD間に液圧モジュレータ12が設けられ、マスタシリンダMの出力液圧を検出する出力検出手段としての圧力センサ57が第1出力液圧路55に接続される。
【0024】
液圧モジュレータ12は、右前輪用車輪ブレーキBA、左後輪用車輪ブレーキBB、左前輪用車輪ブレーキBCおよび右後輪用車輪ブレーキBDに個別に対応したアンチロック制御弁手段58A〜58Dと、右前輪用車輪ブレーキBAおよび左後輪用車輪ブレーキBBに対応した第1リザーバ59Aと、左前輪用車輪ブレーキBCおよび右後輪用車輪ブレーキBDに対応した第2リザーバ59Bと、右前輪用車輪ブレーキBAおよび左後輪用車輪ブレーキBBに対応した第1還流ポンプ60Aと、左前輪用車輪ブレーキBCおよび右後輪用車輪ブレーキBDに対応した第2還流ポンプ60Bとを備える。
【0025】
アンチロック制御弁手段58Aは、第1出力液圧路55および右前輪用車輪ブレーキBA間に介設される常開型電磁弁である入口弁61Aと、右前輪用車輪ブレーキBAおよび第1リザーバ59A間に介設される常閉型電磁弁である出口弁62Aと、右前輪用車輪ブレーキBAから第1出力液圧路55側へのブレーキ液の流通を許容するようにして入口弁61Aに並列に接続されるチェック弁63Aとを備え、アンチロック制御弁手段58Bは、第1出力液圧路55および左後輪用車輪ブレーキBB間に介設される常開型電磁弁である入口弁61Bと、左後輪用車輪ブレーキBBおよび第1リザーバ59A間に介設される常閉型電磁弁である出口弁62Bと、左後輪用車輪ブレーキBBから第1出力液圧路55側へのブレーキ液の流通を許容するようにして入口弁61Bに並列に接続されるチェック弁63Bとを備え、アンチロック制御弁手段58Cは、第2出力液圧路56および左前輪用車輪ブレーキBC間に介設される常開型電磁弁である入口弁61Cと、左前輪用車輪ブレーキBCおよび第2リザーバ59B間に介設される常閉型電磁弁である出口弁62Cと、左前輪用車輪ブレーキBCから第2出力液圧路56側へのブレーキ液の流通を許容するようにして入口弁61Cに並列に接続されるチェック弁63Cとを備え、アンチロック制御弁手段58Dは、第2出力液圧路56および右後輪用車輪ブレーキBD間に介設される常開型電磁弁である入口弁61Dと、右後輪用車輪ブレーキBDおよび第2リザーバ59B間に介設される常閉型電磁弁である出口弁62Dと、右後輪用車輪ブレーキBDから第2出力液圧路56側へのブレーキ液の流通を許容するようにして入口弁61Dに並列に接続されるチェック弁63Dとを備える。
【0026】
これらのアンチロック制御弁手段58A〜58Dは、各車輪がロックを生じる可能性のない定常ブレーキ時には、マスタシリンダMを各車輪ブレーキBA〜BDに連通させるとともに車輪ブレーキBA〜BDと第1および第2リザーバ59A,59Bとの間を遮断する。すなわち各入口弁61A〜61Dが消磁、開弁状態とされるとともに各出口弁62A〜62Dが消磁、閉弁状態とされ、マスタシリンダMの第1出力ポート29から出力されるブレーキ液圧は、右前輪用車輪ブレーキBAに作用するとともに左後輪用車輪ブレーキBBに作用する。またマスタシリンダMの第2出力ポート30から出力されるブレーキ液圧は左前輪用車輪ブレーキBCに作用するとともに右後輪用車輪ブレーキBDに作用する。
【0027】
上記ブレーキ中に車輪がロック状態に入りそうになるのに応じたアンチロック制御の開始時に、アンチロック制御弁手段58A〜58Dは、ロック状態に入りそうになった車輪に対応する部分でマスタシリンダMおよび車輪ブレーキ間を遮断するとともに車輪ブレーキをリザーバに連通する。すなわち入口弁61A〜61Dのうちロック状態に入りそうになった車輪に対応する入口弁が励磁、閉弁されるとともに、出口弁62A〜62Dのうち上記車輪に対応する出口弁が励磁、開弁される。これにより、ロック状態に入りそうになった車輪のブレーキ液圧の一部が第1リザーバ59Aまたは第2リザーバ59Bに吸収され、ロック状態に入りそうになった車輪のブレーキ液圧が減圧されることになる。
【0028】
またブレーキ液圧を一定に保持する際にアンチロック制御弁手段58A〜58Dは、車輪ブレーキBA〜BDをマスタシリンダMおよびリザーバ59A,59Bから遮断する状態となる。すなわち入口弁61A〜61Dが励磁、閉弁されるとともに、出口弁62A〜62Dが消磁、閉弁されることになる。さらにブレーキ液圧を増圧する際には、入口弁61A〜61Dが消磁、開弁状態とされるともに出口弁62A〜62Dが消磁、閉弁状態とされればよい。
【0029】
第1および第2還流ポンプ60A,60Bは共通な単一の電動モータ64で駆動されるものであり、第1および第2還流ポンプ60A,60Bの吸入側は第1および第2リザーバ59A,59Bに個別に接続される。また第1および第2還流ポンプ60A,60Bの吐出側は、マスタシリンダMと各アンチロック制御弁手段58A〜58Dとの間,すなわち第1および第2出力液圧路55,56にオリフィス65A,65Bを介して接続される。
【0030】
而して各アンチロック制御弁手段58A〜58Dの作動制御によって第1および第2リザーバ59A,59Bに貯留されたブレーキ液は、電動モータ64によって駆動される第1および第2還流ポンプ60A,60Bにより、マスタシリンダM側に戻されることになる。
【0031】
ところで、ブレーキペダル10の操作に応じた制動トルクは、回生制動および摩擦制動に分配されるものであり、回生制動分の制動トルクはパワードライブユニット9を制御することによって得られ、摩擦制動分はブレーキ液圧発生装置11における倍力手段14の増圧制御弁35および減圧制御弁37を制御することによって得られる。
【0032】
図3において、倍力手段14の増圧制御弁35および減圧制御弁37を制御するコントローラ68は、摩擦制動分に応じたマスタシリンダMの出力目標値を定める目標液圧決定手段70と、該目標液圧決定手段70で定められた目標液圧からマスタシリンダ70の出力を検出する出力検出手段である圧力センサ57の検出値を減算する加え合わせ点71と、マスタシリンダMの出力を出力目標値に近づけるべく加え合わせ点71で得られた偏差を小さくするように倍力手段14の増圧制御弁35および減圧制御弁37を制御する倍力制御手段72とを備え、倍力制御手段72は、前記偏差に応じた液圧フィードバックによる増圧制御弁35および減圧制御弁37のデューティを演算し、そのデューティ値に基づいて増圧制御弁35および減圧制御弁37を制御する。
【0033】
一方、液圧モジュレータ12における各アンチロック制御弁手段58A〜58Dならびに第1および第2還流ポンプ60A,60Bを駆動する電動モータ64は、制動時に車輪がロック状態に陥らないようにアンチロック制御手段69で制御されるものであり、このアンチロック制御手段69から倍力制御手段72には、アンチロック制御を実行しているか否かを示す信号が入力される。
【0034】
図4において、倍力制御手段72は、アンチロック制御を実行中か否かに応じて感度またはゲインを変更するものであり、ステップS1でアンチロック制御の非実行中であることが確認されたときには、ステップS2で感度またはゲインを高くまたは大きく設定し、ステップS1でアンチロック制御の実行中であることが確認されたときには、ステップS3で感度またはゲインを低くまたは小さく設定する。
【0035】
次にこの実施例の作用について説明すると、マスタシリンダMの出力目標値が目標値決定手段70で定められ、マスタシリンダMの出力を検出する圧力センサ57の検出値が目標値決定手段70で定めた出力目標値に近づくように、倍力手段14の出力が倍力制御手段72でフィードバック制御されるのであるが、倍力制御手段72における感度またはゲインが、アンチロック制御手段69によるアンチロック制御実行中には、非実行中よりも低くまたは小さく変更されるので、非アンチロック制御実行中の倍力手段14の目標値への追従性を高めることが可能であり、またアンチロック制御実行中には、倍力制御手段72によるフィードバック制御の感度またはゲインを低くまたは小さくするので、第1および第2還流ポンプ60A,60BでマスタシリンダM側に戻されるブレーキ液の影響による制御のハンチングや発散を防止することができる。
【0036】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】車両の駆動系および制動系の全体構成図である。
【図2】制動系の構成を示す図である。
【図3】ブレーキ液圧制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】ゲイン設定手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0038】
10・・・ブレーキ操作子であるブレーキペダル
14・・・倍力手段
57・・・出力検出手段である圧力センサ
58A,58B,58C,58D・・・アンチロック制御弁手段
59A,59B・・・リザーバ
60A,60B・・・還流ポンプ
69・・・アンチロック制御手段
70・・・目標値決定手段
72・・・倍力制御手段
BA,BB,BC,BD・・・車輪ブレーキ
M・・・マスタシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタシリンダ(M)と、入出力特性を電気的に変更可能として前記マスタシリンダ(M)およびブレーキ操作子(10)間に介設される倍力手段(14)と、車輪ブレーキ(BA,BB,BC,BD)と、リザーバ(59A,59B)と、前記車輪ブレーキ(BA〜BD)の前記リザーバ(59A,59B)および前記マスタシリンダ(M)への連通・遮断を切換え可能なアンチロック制御弁手段(58A,58B,58C,58D)と、前記リザーバ(59A,59B)に吸入側が接続されるとともに吐出側が前記アンチロック制御弁手段(58A〜58D)および前記マスタシリンダ(M)間に接続される還流ポンプ(60A,60B)と、前記アンチロック制御弁(58A〜58D)および前記還流ポンプ(60A,60B)の作動を制御するアンチロック制御手段(69)とを備える車両用ブレーキ制御装置において、前記マスタシリンダ(M)の出力目標値を定める目標値決定手段(70)と、前記マスタシリンダ(M)の出力を検出する出力検出手段(57)と、前記マスタシリンダ(M)の出力が前記出力目標値に近づくように前記倍力手段(14)の出力をフィードバック制御するとともに前記アンチロック制御手段(69)によるアンチロック制御実行中の感度またはゲインを非実行中よりも低くまたは小さく変更する倍力制御手段(72)とを含むことを特徴とする車両用ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−312387(P2006−312387A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135869(P2005−135869)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】