車両用ブレーキ装置
【課題】液圧路系統の脈動を好適に抑制しながらもピストンポンプにおけるピストン強度を高く維持することのできる車両用ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ピストンポンプHP1,HP2を構成するピストン36には、その外周面と段付孔12の内周面との間をシールして吸入室50を区画する摺動リング46が装着されている。これにより吸入室50は、ピストン36の往復動によるポンプ室56の容積減少時に容積が増加しかつポンプ室56の容積増加時に容積が減少するように構成される。吸入室50を構成する段付孔12の内周面の径Dkはシリンダの内径Dcよりも大きく設定される。
【解決手段】ピストンポンプHP1,HP2を構成するピストン36には、その外周面と段付孔12の内周面との間をシールして吸入室50を区画する摺動リング46が装着されている。これにより吸入室50は、ピストン36の往復動によるポンプ室56の容積減少時に容積が増加しかつポンプ室56の容積増加時に容積が減少するように構成される。吸入室50を構成する段付孔12の内周面の径Dkはシリンダの内径Dcよりも大きく設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンポンプを通じて液圧路系統のブレーキ液を還流させる車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
こうした車両用ブレーキ装置に用いられるピストンポンプとして、例えば特許文献1に記載されるものが知られている。該ピストンポンプは、ピストンの往復動に伴うポンプ室の容積減少時に容積が減少しかつ該ポンプ室の容積増加時に容積が増加する吸入室を備えている。そして吸入ポートからこの吸入室を介してポンプ室に導入したブレーキ液を昇圧させて吐出するようにしている。すなわち、該ポンプにあっては、ピストンの往復動に伴い、ポンプ外から吸入室への吸入とポンプ室からポンプ外への吐出とが交互に行われる。
【0003】
ブレーキ液を還流させる液圧路系統(還流型液圧路系統)においてこうしたピストンポンプを設けた場合、該液圧路系統にあっては、上述のような吸入及び吐出による圧力変動が交互に生じることから、脈動が大きくなりがちとなる。還流型液圧路系統においてこのように脈動が大きくなると、これに伴う騒音の発生が懸念されることとなる。
【0004】
これに対して、特許文献2に記載されるピストンポンプには、ピストンの往復動に伴うポンプ室の容積減少時に容積が増加しかつ該ポンプ室の容積増加時に容積が減少する吸入室が設けられている。これにより、ピストンの往復動に伴うポンプ外から吸入室への吸入とポンプ室からポンプ外への吐出とが同時期に行われるようになる。こうしたポンプが採用されることで、還流型液圧路系統にあっては、液圧の変動幅が抑えられ、上述のような脈動が生じ難くなる。
【0005】
【特許文献1】特開平7―35035号公報
【特許文献2】特開平6―323240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような脈動の抑制を図る際には、その効果を好適なものとするうえでポンプの吸入量を吐出量に近づけることが有用である。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2記載の構成では、ハウジングにおいてシリンダ内径と同じ径の内周面及びこれより小さい径の内周面と、これに面するピストンの外周面との間の領域を吸入室として利用している。すなわち上記構成では、ピストンにおいて、シリンダに嵌入される側の端部外径よりも、その反対側の端部外径を小さくすることで、吸入室断面積(シリンダの軸線方向に見たときの断面積)、ひいては吸入量の確保を図るようにしている。
【0008】
こうした構成では、吸入量を吐出量に近づけるべくこれを増加させる際にピストンの一端において顕著な小径化を招くこととなり、このことが該ピストンの機械的強度を確保するうえで不都合なものとなる。
【0009】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、液圧路系統の脈動を好適に抑制しながらもピストンポンプにおけるピストン強度を高く維持することのできる車両用ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
先ず、請求項1記載の発明は、ブレーキ液を吸入するための吸入ポート(14)に接続された吸入室(50)と、該吸入室からのブレーキ液を昇圧するポンプ室(56)を区画すべく、ピストン(36)の一端が嵌入されるシリンダ(26)と、該シリンダと軸線を同一とし、前記ピストンの他端が隙間のシールされた状態で嵌入される支持孔(24)と、が形成されたハウジング(10,18,20)を有してなるピストンポンプ(HP1,HP2)を通じて、液圧路系統(H1,H2)のブレーキ液を還流させる車両用ブレーキ装置において、前記ピストンポンプの吸入室は、前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間において、前記ピストンの外周面とこれに対向する前記ハウジングの内周面との間をシールする摺動リング(46)が前記ピストンに装着されることで、その容積が前記ピストンの往復動に伴う前記ポンプ室の容積減少時に増加しかつ前記ポンプ室の容積増加時に減少するように区画されており、前記吸入室を構成する前記ハウジングの内周面の径(Dk)は、前記シリンダの内径(Dc)よりも大きく設定されることをその要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、吸入室の容積を増減させるべく設けられる摺動リングによって、ピストンの往復動によるポンプ室の容積減少時には吸入室の容積が増加し、逆にポンプ室の容積増加時には吸入室の容積が減少する。したがって、ピストンポンプにおけるブレーキ液の吸入と吐出とが同時期に行われるようになる。その結果、ピストンポンプの設けられる液圧路系統にあっては、ブレーキ液を還流させる際に生じる脈動を抑制することができるようになる。
【0012】
そして上記構成では、ピストン周りにおいて吸入室を構成するハウジングの内周面の径がシリンダの内径よりも大きく設定されることから、例えば、吸入室を構成するハウジングの内周面の径がシリンダ内径と同じあるいはこれよりも小さく設定される態様と比較して、ピストンの外径を大きく保った状態で吸入量を増やすことができるようになる。したがって、吸入量を吐出量に近づけて液圧路系統における脈動を好適に抑制しつつ、ピストンの強度を高維持することができるようになる。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間には、前記摺動リングによって前記吸入室と区画され前記ピストンの往復動による前記ポンプ室の容積減少時に容積が減少しかつ前記ポンプ室の容積増加時に容積が増加する密閉室(52)が形成されており、前記密閉室は、該密閉室側から前記吸入室側へのみ液流を許容するための逆止弁(12,46a)を介して前記吸入室と連通されることをその要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、ピストンの往復動時におけるポンプ室と密閉室との圧力差の増大などによって、仮にポンプ室のブレーキ液がシリンダとピストンとのわずかな隙間を介して密閉室に入り込んだとしても、逆止弁を介して密閉室の容積減少時などにこのブレーキ液が吸入室に戻されるようになる。したがって、密閉室のブレーキ液量が過剰となることで該室の液圧が過大となってピストンの動作に支障が生じるといったことを回避することができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記ハウジングの内周面と摺接する前記摺動リングの摺接端(46a)を基端(46b)よりも前記吸入室側に配置することで前記逆止弁を構成することをその要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、摺動リングに逆止弁としての機能を持たせているため、例えば摺動リングとは別に同様機能の逆止弁を特段に設ける態様と比較して部品点数を削減できるとともにその構成を簡素なものとすることができる。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間には、前記摺動リングによって前記吸入室と区画され前記ピストンの往復動による前記ポンプ室の容積減少時に容積が減少しかつ前記ポンプ室の容積増加時に容積が増加する容積増減室(82)が形成されており、前記容積増減室には、これを前記ピストンポンプ外の大気圧領域に開放する開放孔(84)が接続されていることをその要旨とする。
【0018】
例えば、開放孔が接続されず密閉状態にある容積増減室を備える態様にあっては、該室の流体の圧縮・膨張に係る反力によってピストンの駆動抵抗が大きくなる。その点、本発明では、開放孔を介して容積増減室が大気圧領域へ開放されることから、こうしたピストンの駆動抵抗を低減することができる。
【0019】
なお、上述の大気圧領域としては、例えばハウジング外部の大気空間や大気圧状態でブレーキ液を貯留する大気圧リザーバなどが挙げられる。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、前記支持孔の内径(Ds)は前記シリンダの内径よりも小さく設定されることをその要旨とする。
【0021】
上記構成によれば、例えば、支持孔の内径がシリンダの内径と同じあるいはこれよりも大きい態様と比較して、当該ピストンポンプの小型化が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について図1〜図3を参照しつつ説明する。本実施形態の車両用ブレーキ装置においては、図1に示されるように、ブレーキ操作部材であるブレーキペダルBPが周知のバキュームブースタVBを介して同じく周知のタンデム型マスターシリンダMCと作動連結されている。すなわち、ブレーキペダルBPを操作すると、マスターシリンダMCの内部において図面左右方向に並ぶ二つの圧力発生室がそれぞれ大気圧リザーバRSから遮断されるとともに上記両圧力発生室においてブレーキペダル操作力に応じた液圧が発生するように構成されている。
【0023】
上記両圧力発生室のうち図面右側すなわちバキュームブースタVB側の圧力発生室は前右車輪ブレーキ機構FR及び後左車輪ブレーキ機構RL側の液圧路系統である第1液圧路系統H1に、また、もう一方の圧力発生室は前左車輪ブレーキ機構FL及び後右車輪ブレーキ機構RR側の液圧路系統である第2液圧路系統H2にそれぞれ連通接続されている。なお、本実施形態では、前輪駆動車に用いられるブレーキ装置を例示していることから配管構造として所謂X型配管構造を採用しているが、これに限らず、例えば前後配管構造を採用してもよい。
【0024】
第1液圧路系統H1側の圧力発生室は、主液圧路Mf及び分岐液圧路MfR,MfLを介して前右車輪ブレーキ機構FRのホイールシリンダWFR及び後左車輪ブレーキ機構RLのホイールシリンダWRLに接続されている。主液圧路Mfには常開型(非通電時に開位置となるタイプ)の比例電磁弁SC1が介装されており、さらにこの比例電磁弁SC1に対して並列に逆止弁CV11が介装されている。
【0025】
逆止弁CV11は上記圧力発生室側からホイールシリンダWFR,WRL側へのブレーキ液の液流を許容しこれと逆の方向への液流を阻止するものであり、たとえ比例電磁弁SC1が閉位置にあったとしても、マスターシリンダMCの発生する液圧がホイールシリンダWFR,WRL側の液圧よりも大となった場合に該マスターシリンダMC側からホイールシリンダWFR,WRL側へのブレーキ液の供給を可能とする。なお、比例電磁弁SC1は、これよりマスターシリンダMC側の液圧路とホイールシリンダWFR,WRL側の液圧路との液圧差を、これに供給される電流の値に応じた液圧差に制御するものである。
【0026】
さらに本実施形態では、分岐液圧路MfR,MfLにおいて同順に常開型の電磁弁NOFR,NORLが介装されている。また、分岐液圧路MfR,MfLにはこれらと並列に逆止弁CV1,CV2が介装されている。逆止弁CV1,CV2は、マスターシリンダMC方向へのブレーキ液の液流を許容しホイールシリンダWFR,WRL方向へのブレーキ液の液流を阻止するものである。これら逆止弁CV1,CV2及び開位置にある比例電磁弁SC1を介してホイールシリンダWFR,WRL内のブレーキ液がマスターシリンダMCひいては大気圧リザーバRSに戻されるように構成されている。
【0027】
こうした構成により、ブレーキペダルBPが開放されたときには、ホイールシリンダWFR,WRL内の液圧がマスターシリンダMC側の液圧低下に迅速に追従し得るようになっている。また、ホイールシリンダWFR,WRLに連通接続される排出側の分岐液圧路RfR,RfLには、同順に常閉型(非通電時に閉位置となるタイプ)の電磁弁NCFR,NCRLが介装されており、分岐液圧路RfR,RfLの合流した排出液圧路Rfは補助リザーバRS1に接続されている。この補助リザーバRS1は、マスターシリンダMCの大気圧リザーバRSとは別に設けられるもので、アキュームレータということもでき、ピストンとスプリングとを備え、種々の制御に必要な容量のブレーキ液をリザーバ室に一時的に溜め得るように構成されている。
【0028】
第1液圧路系統H1には液圧ポンプHP1が介装されている。液圧ポンプHP1の吸入ポートは補助リザーバRS1を介して主液圧路Mf及び排出液圧路Rfに接続されており、同ポンプHP1の吐出ポートは比例電磁弁SC1と電磁弁NOFR,NORLとの間の連通路に接続されている。液圧ポンプHP1は、第2液圧路系統H2に設けられる液圧ポンプHP2とともに共通の電動機Mによって駆動され、補助リザーバRS1のリザーバ室のブレーキ液を吸入ポートから吸入し昇圧して吐出ポートから出力するように構成されている。
【0029】
ここで、本実施形態の補助リザーバRS1においては、リザーバ室のブレーキ液貯留量が所定量以上であるとき同室と主液圧路Mfとを遮断し、かつ所定量未満であるとき連通する機械式弁機構が介装されているとともに、液圧ポンプHP1及び排出液圧路Rfがこうした弁機構を介することなくリザーバ室と接続されている。
【0030】
本実施形態では、比例電磁弁SC1、電磁弁NOFR,NORL,NCFR,NCRL、及び電動機Mが電子制御装置ECU1によって駆動制御されることでホイールシリンダWFR,WRL内の液圧が調整されるようになっている。
【0031】
なお、第2液圧路系統H2は上記第1液圧路系統H1と同様の構成を有している。ここでは、第1液圧路系統H1との対比を通じて第2液圧路系統H2の構成を説明する。
【0032】
図中に示される比例電磁弁SC2は上記比例電磁弁SC1と同一の構成を有するものであり、逆止弁CV12は上記逆止弁CV11と同一の構成を有するものである。さらに、補助リザーバRS2は上記補助リザーバRS1と同一の構成を有するものであり、液圧ポンプHP2は上記液圧ポンプHP1と同一の構成を有するものである。
【0033】
また、主液圧路Mfから連続する分岐液圧路MfR、及び排出側の分岐液圧路RfRは後右車輪ブレーキ機構RRのホイールシリンダWRRの液圧給排に係り、分岐液圧路MfL,RfLは前左車輪ブレーキ機構FLのホイールシリンダWFLの液圧給排に係るものである。分岐液圧路MfR,MfLに介装される電磁弁NORR,NOFLは上記電磁弁NOFR,NORLと同一の構成を有する常開型のものであり、これらと並列に配設される逆止弁CV3,CV4は上記逆止弁CV1,CV2と同一の構成を有するものである。また、分岐液圧路RfR,RfLに介装される電磁弁NCRR,NCFLは上記電磁弁NCFR,NCRLと同一の構成を有する常閉型のものである。
【0034】
上記比例電磁弁SC2、及び電磁弁NORR,NOFL,NCRR,NCFLは電子制御装置ECU1によって駆動制御され、ホイールシリンダWRR,WFLの液圧が調整される。
【0035】
電子制御装置ECU1には、図示されていない前右車輪速センサ、前左車輪速センサ、後右車輪速センサ、後左車輪速センサの出力信号や、ブレーキペダルBPが操作されているか否かを検出するブレーキペダルスイッチ(図示されず)の出力信号等が入力される。そして電子制御装置ECU1は、これらの各信号に基づき、車両の制動中に車輪の制動スリップ量が過剰とならないように各ホイールシリンダの液圧を調整するアンチロック制御や、車両の発進時や加速時に駆動車輪の駆動スリップ量が過剰とならないように各ホイールシリンダの液圧を調整するトラクション制御等を行う。
【0036】
このように構成される車両用ブレーキ装置において、通常時の各電磁弁は図1に示す常態位置にあり、電動機Mは停止している。この常態でブレーキペダルBPが操作されると、バキュームブースタVBが作動してマスターシリンダMCの液圧が上昇する。マスターシリンダMCは、その内部の前後二つの液圧発生室においてブレーキペダル操作力に応じた液圧を発生させ、両液圧路系統H1,H2に出力する。マスターシリンダMCから第1液圧路系統H1に出力された液圧は、比例電磁弁SC1及び電磁弁NOFRを介して前右車輪ブレーキ機構FRのホイールシリンダWFRに供給されるとともに、比例電磁弁SC1及び電磁弁NORLを介して後左車輪ブレーキ機構RLのホイールシリンダWRLに供給される。
【0037】
これと同時に、マスターシリンダMCから第2液圧路系統H2に出力された液圧は、比例電磁弁SC2及び電磁弁NOFLを介して前左車輪ブレーキ機構FLのホイールシリンダWFLに供給されるとともに、比例電磁弁SC2及び電磁弁NORRを介して後右車輪ブレーキ機構RRのホイールシリンダWRRに供給される。したがって、車輪ブレーキ機構FR,FL,RR,RLが作動して車両の前右車輪,前左車輪,後右車輪,後左車輪にそれぞれブレーキトルクが加えられることとなり、車両が制動される。
【0038】
操作されていたブレーキペダルBPが解放されると、バキュームブースタVBが常態へと復帰し、これによりマスターシリンダMCが常態へと復帰し、マスターシリンダの各圧力発生室から各液圧路系統H1,H2に出力される液圧が大気圧まで低下する。したがって、ホイールシリンダWFR,WFL,WRR,WRLの液圧も大気圧まで低下し、車輪ブレーキ機構FR,FL,RR,RLが常態へと復帰し、車両の制動が終了する。
【0039】
次にアンチロック制御について説明する。車両の制動時において、電子制御装置ECU1は、各車輪速センサの出力信号に基づいて、各車輪について制動スリップ量が過剰になりそうであるか否かを判別し、例えば前右車輪の制動スリップ量が過剰になりそうになったときには電磁弁NOFRを常態の開位置から閉位置へと切り換えるとともに電磁弁NCFRを常態の閉位置から開位置へと切り換え、同時に電動機Mを始動する。これにより、ホイールシリンダWFRのブレーキ液が電磁弁NCFRを介して補助リザーバRS1へと排出されてホイールシリンダWFRの液圧が減圧され、前右車輪ブレーキ機構FRが前右車輪に加えるブレーキトルクが減少されて、前右車輪の制動スリップ量が減少する。
【0040】
ホイールシリンダWFRから電磁弁NCFRを介して補助リザーバRS1へと排出されされたブレーキ液は、電動機Mにより液圧ポンプHP1が駆動されることで比例電磁弁SC1と電磁弁NOFR,NORLとの間の連通路に戻され、さらに比例電磁弁SC1を介してマスターシリンダMCの後方圧力発生室へ戻される。
【0041】
上述の如くして前右車輪の制動スリップ量が十分に減少すると、電子制御装置ECU1が電磁弁NCFRを開位置から閉位置に切り換えるとともに電磁弁NOFRを閉位置から開位置に切り換える。これにより、マスターシリンダMCからホイールシリンダWFRにブレーキ液が供給されてホイールシリンダWFRの液圧が再増圧され、前右車輪ブレーキ機構FRが前右車輪に加えるブレーキトルクが増加する。
【0042】
このとき、このブレーキトルクの増加に伴って前右車輪の制動スリップ量が増大し、過剰な量に近づくと、電子制御装置ECU1は電磁弁NOFRを開位置から閉位置に切り換えることでホイールシリンダWFRの液圧の上昇を阻止するとともに該液圧を保持する。
【0043】
そして、上述のようにホイールシリンダWFRの液圧が保持されている状態で前右車輪の制動スリップ量が増大し再び過剰なスリップ量になりそうになると、電子制御装置ECU1は電磁弁NCFRを閉位置から開位置に切り換える。これにより、ホイールシリンダWFRのブレーキ液が電磁弁NCFRを介して補助リザーバRS1へと排出されてホイールシリンダWFRの液圧が減圧され、前右車輪ブレーキ機構FRが前右車輪に加えるブレーキトルクが減少されることとなって前右車輪の制動スリップ量が減少する。
【0044】
このように、車両制動中の前右車輪の制動スリップ量に応じて電磁弁NOFR,NCFRが開位置と閉位置との間で切り換えられるとともに液圧ポンプHP1が駆動されることにより、ホイールシリンダWFRの液圧が減圧、再増圧、及び保持の間で切り換えられて調整されることで、車両制動中の前右車輪の制動スリップ量が過剰となることが回避される。
【0045】
他方、車両制動中の前左車輪の制動スリップ量が過剰となることは、上述同様、電子制御装置ECU1により、車両制動中の前左車輪の制動スリップ量に応じて電磁弁NOFL,NCFLが開位置と閉位置との間で切り換えられるとともに液圧ポンプHP2が駆動されることにより、ホイールシリンダWFLの液圧が減圧、再増圧、及び保持の間で切り換えられて調整されることで回避される。
【0046】
また、車両制動中の後右車輪の制動スリップ量が過剰となることは、電子制御装置ECU1により、車両制動中の後右車輪の制動スリップ量に応じて電磁弁NORR,NCRRが開位置と閉位置との間で切り換えられるとともに液圧ポンプHP2が駆動されることにより、ホイールシリンダWRRの液圧が減圧、再増圧、及び保持の間で切り換えられて調整されることで回避される。
【0047】
同様に、車両制動中の後左車輪の制動スリップ量が過剰となることは、電子制御装置ECU1により、車両制動中の後左車輪の制動スリップ量に応じて電磁弁NORL,NCRLが開位置と閉位置との間で切り換えられるとともに液圧ポンプHP1が駆動されることにより、ホイールシリンダWRLの液圧が減圧、再増圧、及び保持の間で切り換えられて調整されることで回避される。
【0048】
次に、車両の発進時や加速時の駆動輪における駆動スリップ量が過剰となることを回避するトラクション制御について説明する。なお上述したように本ブレーキ装置の搭載される車両は前輪を駆動輪としている。
【0049】
車両の発進時や加速時においては、一般的に、ブレーキペダルBPは操作されておらず、各電磁弁は図1に示す常態位置にあり、電動機Mは停止している。例えば、車両の前右車輪の駆動スリップ量が過剰になりそうになると、電子制御装置ECU1は、比例電磁弁SC1及び電磁弁NORLを全開位置から全閉位置に切り換えるとともに電動機Mを始動させて液圧ポンプHP1,HP2を駆動する。これにより、液圧ポンプHP1は、大気圧リザーバRS内のブレーキ液をマスターシリンダMC及び補助リザーバRS1を介して吸入ポートから吸入するとともにこれを昇圧して吐出ポートから吐出する。
【0050】
こうして吐出されるブレーキ液が電磁弁NOFRを介してホイールシリンダWFRに供給されることにより該ホイールシリンダWFRの液圧が上昇して、車輪ブレーキ機構FRが作動し前右車輪にブレーキトルクが加えられることとなる。その結果、前右車輪の車輪速の上昇が抑制されて前右車輪の駆動スリップ量の増加が抑制される。そして、電子制御装置ECU1は、前右車輪の駆動スリップ量を適切な駆動スリップ量とすべく、比例電磁弁SC1の開度調整を通じてホイールシリンダWFRの液圧を調整する。
【0051】
また、車両の前左車輪の駆動スリップ量が過剰になりそうになると、電子制御装置ECU1は、比例電磁弁SC2及び電磁弁NORRを全開位置から全閉位置に切り換えるとともに電動機Mを始動させて液圧ポンプHP1,HP2を駆動する。これにより、液圧ポンプHP2は、大気圧リザーバRS内のブレーキ液をマスターシリンダMC及び補助リザーバRS2を介して吸入ポートから吸入するとともにこれを昇圧して吐出ポートから吐出する。
【0052】
こうして吐出されるブレーキ液が電磁弁NOFLを介してホイールシリンダWFLに供給されることにより該ホイールシリンダWFLの液圧が上昇して、車輪ブレーキ機構FLが作動し前左車輪にブレーキトルクが加えられることとなる。その結果、前左車輪の車輪速の上昇が抑制されて前左車輪の駆動スリップ量の増加が抑制される。そして、電子制御装置ECU1は、前左車輪の駆動スリップ量を適切な駆動スリップ量とすべく、比例電磁弁SC2の開度調整を通じてホイールシリンダWFLの液圧を調整する。
【0053】
なお、上述の「液圧ポンプHP1,HP2の吐出したブレーキ液の還流する液圧路」について具体的には、第1液圧路系統H1では液圧ポンプHP1の吐出ポートから吐出されたブレーキ液が比例電磁弁SC1及び補助リザーバRS1を介して液圧ポンプHP1の吸入ポートに吸入される液圧路がこれに相当し、第2液圧路系統H2では液圧ポンプHP2の吐出ポートから吐出されたブレーキ液が比例電磁弁SC2及び補助リザーバRS2を介して液圧ポンプHP2の吸入ポートに吸入される液圧路がこれに相当する。
【0054】
ところで、こうした制御装置にあっては、液圧制御の実行時における騒音の発生を抑えるべく、液圧ポンプH1,P2の駆動に伴うブレーキ液の脈動を小さくすることが望ましい。そこで本実施形態では、液圧ポンプHP1,HP2にこうした脈動抑制のための構成を設けている。以下では、これら請求項記載のピストンポンプに相当する液圧ポンプHP1,HP2について説明することとする。図2は液圧ポンプHP1に関してピストンが上死点に位置する状態を示し、図3は下死点に位置する状態を示す。なお、本実施形態では両液圧ポンプHP1,HP2が同様の構造を有することから、ここではその一方である液圧ポンプHP1について詳細説明することとし、他方の液圧ポンプHP2についてはその詳細説明を省略する。
【0055】
図2及び図3において、第1ハウジング構成部材10には、段付孔12と、この段付孔12の軸線方向(図面左右方向)に間隔をあけて設けられ該段付孔12に開口する吸入ポート14及び吐出ポート16が設けられている。段付孔12の図面左側(以下これを単に左側と称する)の開口には、これを閉鎖するための第2ハウジング構成部材18が第1ハウジング構成部材10に対し液密にカシメ固定されている。
【0056】
段付孔12内にて第2ハウジング構成部材18の図面右側(以下これを単に右側と称する)に位置する第3ハウジング構成部材20は、段付孔12に対して圧入されることによって第1ハウジング構成部材10に液密に固定されている。これら第1〜第3ハウジング構成部材10,18,20は請求項記載のハウジングを構成するものである。
【0057】
第3ハウジング構成部材20には、右端が開放しかつ左端が閉じたシリンダ26と、このシリンダ26を第2ハウジング構成部材18と第3ハウジング構成部材20との間の吐出室28に連通する弁孔30が形成されている。弁孔30の中間部には弁座30aが形成されており、この弁座30aに圧縮コイルスプリング32の付勢力で着座する球状の弁体34が弁孔30の左方部内に配設されている。これら弁座30a、圧縮コイルスプリング32及び弁体34によって所謂吐出弁が構成されている。吐出室28は吐出ポート16と常時連通する。
【0058】
段付孔12には、一端(左端)がシリンダ26に嵌入され他端(右端)が該段付孔12の小径部分である支持孔24に嵌入されたピストン36が配設されている。なお、本実施形態では、シリンダ26の内径Dcと支持孔24の内径Dsとが等しく設定されている。
【0059】
ピストン36は上記一端側の先端部分を構成するシリンダ側部材40と上記他端側部分を構成する支持孔側部材38とが嵌合固定されてなるものである。支持孔側部材38の右端部は支持孔24に摺動自在に嵌入されている。支持孔側部材38の右端部の外周に形成された環状のシール溝に収容された環状のシール部材42は、支持孔24の内周面とピストン36の外周面との隙間をシールする。
【0060】
支持孔側部材38において上述のシール溝よりも左側に形成された環状の摺動リング溝44には、外周の摺接端46aにて段付孔12に液密にかつ摺動自在に係合される摺動リング46の内周側部分が収容されている。摺動リング46は弾性材からなるものであり、自身の収縮力(径方向内側に縮む力)等によってピストン36に外嵌固定されている。摺動リング46はピストン36の外周面とこれに対向する段付孔12の内周面との間をシールする。摺動リング46は、上述の摺動リング溝44に嵌合される内周側の環状本体部分と、該本体部分と一体形成され径方向外方に突設されるフランジ状部分とを有するとともに、該フランジ状部分については、段付孔12の内周面と摺接する摺接端46aが、これより径方向の内側に位置する基端46bよりも右側(支持孔24側)に配置される。摺動リング溝44における摺動リング46の左側には環状のリテーナ48が嵌合され、これにより摺動リング46の過剰な変形が防止されるようになっている。
【0061】
このように配設された摺動リング46は、段付孔12において軸線方向におけるシリンダ26と支持孔24との間の部分を、該シリンダ26側の部分と支持孔24側の部分とに区画する。これら区画された部分のうち支持孔24側の部分は、上述の吸入ポート14が常時接続された吸入室50をなしている。他方、シリンダ26側の部分は、第3ハウジング構成部材20、ピストン36、及び摺動リング46等に囲まれた密閉室52をなしている。
【0062】
ピストン36の支持孔側部材38の左端部及びシリンダ側部材40はシリンダ26に摺動自在に嵌合されており、これによってシリンダ26内にはポンプ室56が区画形成されている。また、ピストン36には、吸入ポート14を介して吸入室50に導入されたブレーキ液をポンプ室56に導入するための貫通孔54が支持孔側部材38及びシリンダ側部材40にわたって形成されている。
【0063】
ポンプ室56には、ピストン36を右方へ押動するための圧縮コイルスプリング58と、シリンダ側部材40に組み付けられた球状の弁体60及びこの弁体60を貫通孔54の左端部に形成された弁座62に着座させるための圧縮コイルスプリング64が設置されている。弁体60、圧縮コイルスプリング64及び弁座62は、所謂吸入弁を構成する。
【0064】
ピストン36の右端面は電動機Mにより駆動される偏心カム70に当接され、ピストン36はこの偏心カム70により左方へ押動され、圧縮コイルスプリング58により右方へ押動される。ピストン36が上死点に位置する状態を示す図2の状態から、偏心カム70の回転によりピストン36の右方向摺動が許容されることに応じてピストン36が圧縮コイルスプリング58により右方向へ押動される。すなわち、ピストン36が下死点に向かって摺動する。
【0065】
ピストン36が下死点に向かって押動される吸入行程においては、ピストン36の移動によりポンプ室56の容積が増加するとともに、摺動リング46がピストン36とともに右方へ摺動することにより吸入室50の容積が減少するため、吸入室50のブレーキ液が貫通孔54を通りかつ弁体60を弁座62から離間させてポンプ室56へと導入される。
【0066】
図3に示されるようにピストン36が下死点に到達した後、上死点に向かって押動される吐出行程においては、ピストン36の移動に応じてポンプ室56の容積が減少するため、同室56のブレーキ液が昇圧されて弁体34を弁座30aから離間させて吐出室28へと流動される。また、ピストン36が上死点に向かって移動することに応じて摺動リング46がピストン36とともに左方へ摺動して吸入室50の容積が増加するので、該吸入室50には吸入ポート14を介してブレーキ液が吸入されることとなる。
【0067】
こうしてピストン36が上死点から下死点に向かう吸入行程と下死点から上死点に向かう吐出行程とが繰り返されることにより、吸入ポート14に吸入されたブレーキ液が吐出ポート16から吐出される。
【0068】
ちなみに、上述のピストン36の往復動に伴い、上述の密閉室52の容積は、吸入室50と異なりポンプ室56の容積増加時に増加し該ポンプ室56の容積減少時に減少する。この密閉室52の容積増加に伴って同室52の内圧は低下することとなるが、本実施形態では、この圧力低下に抗してピストン36を右方に押動できるだけの弾性力を有するように圧縮コイルスプリング58を構成しているため、ピストン36と偏心カム70との当接状態は良好に保たれる。
【0069】
以上説明したように、吸入室50の容積を増減させるべく設けられる摺動リング46によって、ピストン36の往復動によるポンプ室56の容積減少時には吸入室50の容積が増加し、逆にポンプ室56の容積増加時には吸入室50の容積が減少する。したがって、ピストンポンプHP1(ピストンポンプHP2)におけるブレーキ液の吸入と吐出とが同時期に行われるようになることから、液圧路系統H1(液圧路系統H2)にあっては、ブレーキ液を還流させる際に生じる脈動を抑制することができるようになる。
【0070】
そしてさらに本実施形態では、段付孔12において第3ハウジング構成部材20の右端が挿入される部分と同じ内径の部分を利用して吸入室50を構成している。これにより、吸入室50の内周面(吸入室50を構成する段付孔12内周面)の径Dkをシリンダ26の内径Dcよりも大きく設定するようにしている。
【0071】
こうした構成により本実施形態では、例えば、吸入室の内周面の径がシリンダ内径と同じあるいはこれよりも小さく設定される態様と比較して、ピストン36の外径を大きく保った状態で吸入量を増やすことができるようになる。したがって、吸入量を吐出量に近づけて液圧路における脈動を好適に抑制しつつ、ピストン36の強度を高維持することができるようになる。ちなみに本実施形態では、ピストン36の移動に伴うポンプ室56の容積減少量が吸入室50の容積増加量とほぼ同量(例えば90%〜110%)となるようにそれぞれの内径Dc,Dkを設定している。
【0072】
ところで、摺動リング46は、段付孔12の内周面に摺接する摺接端46aが吸入室50側に向けられた状態で配置されている。そして本実施形態では、例えばピストン36を上死点に向けて移動させる際など、密閉室52の内圧が吸入室50の内圧よりも或る程度高くなったときに上記摺接端46aと段付孔12の内周面とが離間して、密閉室52のブレーキ液がこの隙間を介して吸入室50に導入されるように摺動リング46の形状を設定している。このように本実施形態では、段付孔12の内周面と摺動リング46とで、請求項記載の逆止弁(密閉室側から吸入室側へのみ液流を許容するための逆止弁)を構成するようにしている。この場合、上記摺接端46aが弁体として機能し、これと摺接する段付孔12の内周面が弁座として機能する。
【0073】
これによれば、ピストン36の往復動時におけるポンプ室56と密閉室52との圧力差の増大などによって、仮にポンプ室56のブレーキ液がシリンダ26とピストン36とのわずかな隙間を介して密閉室52に入り込んだとしても、摺動リング46の摺接端46aと段付孔12の内周面との間に形成される隙間を介して密閉室52の容積減少時などにこのブレーキ液が吸入室50に戻されるようになる。したがって、密閉室52のブレーキ液量の増加に伴う圧縮抵抗の発生あるいはその増大によってピストン36の駆動抵抗が過大となってしまうといったことを回避することができる。
【0074】
また、吸入室50を区画する摺動リング46に上記逆止弁としての機能を持たせているため、例えば摺動リングとは別に同様機能の逆止弁を特段に設ける態様と比較して、部品点数を削減できるとともにその構成を簡素なものとすることができる。
【0075】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した、例えば以下のような形態として実施することもできる。
・上記実施形態では、ピストン36の移動に伴うポンプ室56の容積減少量が吸入室50の容積増加量とほぼ同量(例えば90%〜110%)となるようにそれぞれの内径Dc,Dkを設定したが、吸入室内径Dkがシリンダ内径Dcよりも大きく設定されていれば、これに限るものではない。
【0076】
・また、例えば図4に示されるように、上記実施形態における密閉室52に相当する部分(同図4では容積増減室82としてこれを示す)をハウジング外の大気圧領域に開放する開放孔84を第1ハウジング構成部材10に形成してもよい。例えば、開放孔84が接続されず密閉状態にある容積増減室82(すなわち密閉室52)を備える態様にあっては、該室82の流体の圧縮・膨張に係る反力によってピストン36の駆動抵抗が大きくなる。その点、本構成では、開放孔84を介して容積増減室82が大気圧領域へ開放されることから、こうしたピストン36の駆動抵抗を低減することができる。なお、上述の大気圧領域としては、例えばハウジング外部の大気空間や大気圧状態でブレーキ液を貯留する大気圧リザーバRSなどが挙げられる。ただし容積増減室82に接続される上記大気圧領域として大気空間が採用された場合には特に、ピストン36の往復動時に吸入室50の液圧が大気圧より低下したときであっても容積増減室82から吸入室50に対して空気が流入しないよう摺動リング46を構成する(すなわち摺動リング46に上記逆止弁としての機能を持たせないようにする)ことが必要である。
【0077】
・また、例えば図5及び図6に示されるように、支持孔24の内径Dsをシリンダ26の内径Dcより小さく設定してもよい。同図の態様にあってはこの支持孔24の小径化に伴いピストン36の該支持孔24に対応する部分を強度上問題のない範囲で小径化させている。これにより、吸入量を確保しつつ、段付孔12において吸入室50に対応する部分を小径化することができることから、例えば、支持孔24の内径がシリンダ26の内径と同じあるいはこれよりも大きい態様と比較して、液圧ポンプHP1,HP2の小型化が容易となる。なお、図5はピストン36が上死点に位置する状態を示すものであり、図6は下死点に位置する状態を示すものである。
【0078】
・上記では支持孔24の内径Dsがシリンダ26の内径Dcと同じあるいはこれより小さい態様について説明したが、こうした構成は必須ではなく、例えば支持孔24の内径Dsはシリンダ26の内径Dcよりも大きく設定されてもよい。
【0079】
・密閉室52を備える上述の実施形態において、上記逆止弁を備えることは必須ではなく、例えばこれを省略してもよい。
【0080】
・液圧路系統については上記の態様に限らず、例えばこれに設けられる電磁弁や逆止弁、補助リザーバ等の配置あるいはその構造を上記とは異ならせたものが採用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態の車両用ブレーキ装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態の液圧ポンプを示す断面図であってピストンが上死点に位置する状態を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態の液圧ポンプを示す断面図であってピストンが下死点に位置する状態を示す図である。
【図4】上記とは別の態様の液圧ポンプを示す断面図である。
【図5】上記とは別の態様の液圧ポンプを示す断面図であってピストンが上死点に位置する状態を示す図である。
【図6】上記図5と同じ態様の液圧ポンプを示す断面図であってピストンが下死点に位置する状態を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
10…第1ハウジング構成部材
14…吸入ポート
16…吐出ポート
18…第2ハウジング構成部材
20…第3ハウジング構成部材
24…支持孔
26…シリンダ
36…ピストン
46…摺動リング
46a…フランジ状部分の摺接端
46b…フランジ状部分の基端
50…吸入室
52…密閉室
56…ポンプ室
82…容積増減室
84…開放孔
Dc…シリンダの内径
Dk…吸入室の内周面(吸入室を構成するハウジング内周面)の径
Ds…支持孔の内径
H1…第1液圧路系統
H2…第2液圧路系統
HP1,HP2…液圧ポンプ(ピストンポンプ)
Mf…主液圧路
MfR,MfL…分岐液圧路
Rf…排出液圧路
RfR,RfL…分岐液圧路
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンポンプを通じて液圧路系統のブレーキ液を還流させる車両用ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
こうした車両用ブレーキ装置に用いられるピストンポンプとして、例えば特許文献1に記載されるものが知られている。該ピストンポンプは、ピストンの往復動に伴うポンプ室の容積減少時に容積が減少しかつ該ポンプ室の容積増加時に容積が増加する吸入室を備えている。そして吸入ポートからこの吸入室を介してポンプ室に導入したブレーキ液を昇圧させて吐出するようにしている。すなわち、該ポンプにあっては、ピストンの往復動に伴い、ポンプ外から吸入室への吸入とポンプ室からポンプ外への吐出とが交互に行われる。
【0003】
ブレーキ液を還流させる液圧路系統(還流型液圧路系統)においてこうしたピストンポンプを設けた場合、該液圧路系統にあっては、上述のような吸入及び吐出による圧力変動が交互に生じることから、脈動が大きくなりがちとなる。還流型液圧路系統においてこのように脈動が大きくなると、これに伴う騒音の発生が懸念されることとなる。
【0004】
これに対して、特許文献2に記載されるピストンポンプには、ピストンの往復動に伴うポンプ室の容積減少時に容積が増加しかつ該ポンプ室の容積増加時に容積が減少する吸入室が設けられている。これにより、ピストンの往復動に伴うポンプ外から吸入室への吸入とポンプ室からポンプ外への吐出とが同時期に行われるようになる。こうしたポンプが採用されることで、還流型液圧路系統にあっては、液圧の変動幅が抑えられ、上述のような脈動が生じ難くなる。
【0005】
【特許文献1】特開平7―35035号公報
【特許文献2】特開平6―323240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のような脈動の抑制を図る際には、その効果を好適なものとするうえでポンプの吸入量を吐出量に近づけることが有用である。
【0007】
しかしながら、上記特許文献2記載の構成では、ハウジングにおいてシリンダ内径と同じ径の内周面及びこれより小さい径の内周面と、これに面するピストンの外周面との間の領域を吸入室として利用している。すなわち上記構成では、ピストンにおいて、シリンダに嵌入される側の端部外径よりも、その反対側の端部外径を小さくすることで、吸入室断面積(シリンダの軸線方向に見たときの断面積)、ひいては吸入量の確保を図るようにしている。
【0008】
こうした構成では、吸入量を吐出量に近づけるべくこれを増加させる際にピストンの一端において顕著な小径化を招くこととなり、このことが該ピストンの機械的強度を確保するうえで不都合なものとなる。
【0009】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、液圧路系統の脈動を好適に抑制しながらもピストンポンプにおけるピストン強度を高く維持することのできる車両用ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
先ず、請求項1記載の発明は、ブレーキ液を吸入するための吸入ポート(14)に接続された吸入室(50)と、該吸入室からのブレーキ液を昇圧するポンプ室(56)を区画すべく、ピストン(36)の一端が嵌入されるシリンダ(26)と、該シリンダと軸線を同一とし、前記ピストンの他端が隙間のシールされた状態で嵌入される支持孔(24)と、が形成されたハウジング(10,18,20)を有してなるピストンポンプ(HP1,HP2)を通じて、液圧路系統(H1,H2)のブレーキ液を還流させる車両用ブレーキ装置において、前記ピストンポンプの吸入室は、前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間において、前記ピストンの外周面とこれに対向する前記ハウジングの内周面との間をシールする摺動リング(46)が前記ピストンに装着されることで、その容積が前記ピストンの往復動に伴う前記ポンプ室の容積減少時に増加しかつ前記ポンプ室の容積増加時に減少するように区画されており、前記吸入室を構成する前記ハウジングの内周面の径(Dk)は、前記シリンダの内径(Dc)よりも大きく設定されることをその要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、吸入室の容積を増減させるべく設けられる摺動リングによって、ピストンの往復動によるポンプ室の容積減少時には吸入室の容積が増加し、逆にポンプ室の容積増加時には吸入室の容積が減少する。したがって、ピストンポンプにおけるブレーキ液の吸入と吐出とが同時期に行われるようになる。その結果、ピストンポンプの設けられる液圧路系統にあっては、ブレーキ液を還流させる際に生じる脈動を抑制することができるようになる。
【0012】
そして上記構成では、ピストン周りにおいて吸入室を構成するハウジングの内周面の径がシリンダの内径よりも大きく設定されることから、例えば、吸入室を構成するハウジングの内周面の径がシリンダ内径と同じあるいはこれよりも小さく設定される態様と比較して、ピストンの外径を大きく保った状態で吸入量を増やすことができるようになる。したがって、吸入量を吐出量に近づけて液圧路系統における脈動を好適に抑制しつつ、ピストンの強度を高維持することができるようになる。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間には、前記摺動リングによって前記吸入室と区画され前記ピストンの往復動による前記ポンプ室の容積減少時に容積が減少しかつ前記ポンプ室の容積増加時に容積が増加する密閉室(52)が形成されており、前記密閉室は、該密閉室側から前記吸入室側へのみ液流を許容するための逆止弁(12,46a)を介して前記吸入室と連通されることをその要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、ピストンの往復動時におけるポンプ室と密閉室との圧力差の増大などによって、仮にポンプ室のブレーキ液がシリンダとピストンとのわずかな隙間を介して密閉室に入り込んだとしても、逆止弁を介して密閉室の容積減少時などにこのブレーキ液が吸入室に戻されるようになる。したがって、密閉室のブレーキ液量が過剰となることで該室の液圧が過大となってピストンの動作に支障が生じるといったことを回避することができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記ハウジングの内周面と摺接する前記摺動リングの摺接端(46a)を基端(46b)よりも前記吸入室側に配置することで前記逆止弁を構成することをその要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、摺動リングに逆止弁としての機能を持たせているため、例えば摺動リングとは別に同様機能の逆止弁を特段に設ける態様と比較して部品点数を削減できるとともにその構成を簡素なものとすることができる。
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間には、前記摺動リングによって前記吸入室と区画され前記ピストンの往復動による前記ポンプ室の容積減少時に容積が減少しかつ前記ポンプ室の容積増加時に容積が増加する容積増減室(82)が形成されており、前記容積増減室には、これを前記ピストンポンプ外の大気圧領域に開放する開放孔(84)が接続されていることをその要旨とする。
【0018】
例えば、開放孔が接続されず密閉状態にある容積増減室を備える態様にあっては、該室の流体の圧縮・膨張に係る反力によってピストンの駆動抵抗が大きくなる。その点、本発明では、開放孔を介して容積増減室が大気圧領域へ開放されることから、こうしたピストンの駆動抵抗を低減することができる。
【0019】
なお、上述の大気圧領域としては、例えばハウジング外部の大気空間や大気圧状態でブレーキ液を貯留する大気圧リザーバなどが挙げられる。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、前記支持孔の内径(Ds)は前記シリンダの内径よりも小さく設定されることをその要旨とする。
【0021】
上記構成によれば、例えば、支持孔の内径がシリンダの内径と同じあるいはこれよりも大きい態様と比較して、当該ピストンポンプの小型化が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について図1〜図3を参照しつつ説明する。本実施形態の車両用ブレーキ装置においては、図1に示されるように、ブレーキ操作部材であるブレーキペダルBPが周知のバキュームブースタVBを介して同じく周知のタンデム型マスターシリンダMCと作動連結されている。すなわち、ブレーキペダルBPを操作すると、マスターシリンダMCの内部において図面左右方向に並ぶ二つの圧力発生室がそれぞれ大気圧リザーバRSから遮断されるとともに上記両圧力発生室においてブレーキペダル操作力に応じた液圧が発生するように構成されている。
【0023】
上記両圧力発生室のうち図面右側すなわちバキュームブースタVB側の圧力発生室は前右車輪ブレーキ機構FR及び後左車輪ブレーキ機構RL側の液圧路系統である第1液圧路系統H1に、また、もう一方の圧力発生室は前左車輪ブレーキ機構FL及び後右車輪ブレーキ機構RR側の液圧路系統である第2液圧路系統H2にそれぞれ連通接続されている。なお、本実施形態では、前輪駆動車に用いられるブレーキ装置を例示していることから配管構造として所謂X型配管構造を採用しているが、これに限らず、例えば前後配管構造を採用してもよい。
【0024】
第1液圧路系統H1側の圧力発生室は、主液圧路Mf及び分岐液圧路MfR,MfLを介して前右車輪ブレーキ機構FRのホイールシリンダWFR及び後左車輪ブレーキ機構RLのホイールシリンダWRLに接続されている。主液圧路Mfには常開型(非通電時に開位置となるタイプ)の比例電磁弁SC1が介装されており、さらにこの比例電磁弁SC1に対して並列に逆止弁CV11が介装されている。
【0025】
逆止弁CV11は上記圧力発生室側からホイールシリンダWFR,WRL側へのブレーキ液の液流を許容しこれと逆の方向への液流を阻止するものであり、たとえ比例電磁弁SC1が閉位置にあったとしても、マスターシリンダMCの発生する液圧がホイールシリンダWFR,WRL側の液圧よりも大となった場合に該マスターシリンダMC側からホイールシリンダWFR,WRL側へのブレーキ液の供給を可能とする。なお、比例電磁弁SC1は、これよりマスターシリンダMC側の液圧路とホイールシリンダWFR,WRL側の液圧路との液圧差を、これに供給される電流の値に応じた液圧差に制御するものである。
【0026】
さらに本実施形態では、分岐液圧路MfR,MfLにおいて同順に常開型の電磁弁NOFR,NORLが介装されている。また、分岐液圧路MfR,MfLにはこれらと並列に逆止弁CV1,CV2が介装されている。逆止弁CV1,CV2は、マスターシリンダMC方向へのブレーキ液の液流を許容しホイールシリンダWFR,WRL方向へのブレーキ液の液流を阻止するものである。これら逆止弁CV1,CV2及び開位置にある比例電磁弁SC1を介してホイールシリンダWFR,WRL内のブレーキ液がマスターシリンダMCひいては大気圧リザーバRSに戻されるように構成されている。
【0027】
こうした構成により、ブレーキペダルBPが開放されたときには、ホイールシリンダWFR,WRL内の液圧がマスターシリンダMC側の液圧低下に迅速に追従し得るようになっている。また、ホイールシリンダWFR,WRLに連通接続される排出側の分岐液圧路RfR,RfLには、同順に常閉型(非通電時に閉位置となるタイプ)の電磁弁NCFR,NCRLが介装されており、分岐液圧路RfR,RfLの合流した排出液圧路Rfは補助リザーバRS1に接続されている。この補助リザーバRS1は、マスターシリンダMCの大気圧リザーバRSとは別に設けられるもので、アキュームレータということもでき、ピストンとスプリングとを備え、種々の制御に必要な容量のブレーキ液をリザーバ室に一時的に溜め得るように構成されている。
【0028】
第1液圧路系統H1には液圧ポンプHP1が介装されている。液圧ポンプHP1の吸入ポートは補助リザーバRS1を介して主液圧路Mf及び排出液圧路Rfに接続されており、同ポンプHP1の吐出ポートは比例電磁弁SC1と電磁弁NOFR,NORLとの間の連通路に接続されている。液圧ポンプHP1は、第2液圧路系統H2に設けられる液圧ポンプHP2とともに共通の電動機Mによって駆動され、補助リザーバRS1のリザーバ室のブレーキ液を吸入ポートから吸入し昇圧して吐出ポートから出力するように構成されている。
【0029】
ここで、本実施形態の補助リザーバRS1においては、リザーバ室のブレーキ液貯留量が所定量以上であるとき同室と主液圧路Mfとを遮断し、かつ所定量未満であるとき連通する機械式弁機構が介装されているとともに、液圧ポンプHP1及び排出液圧路Rfがこうした弁機構を介することなくリザーバ室と接続されている。
【0030】
本実施形態では、比例電磁弁SC1、電磁弁NOFR,NORL,NCFR,NCRL、及び電動機Mが電子制御装置ECU1によって駆動制御されることでホイールシリンダWFR,WRL内の液圧が調整されるようになっている。
【0031】
なお、第2液圧路系統H2は上記第1液圧路系統H1と同様の構成を有している。ここでは、第1液圧路系統H1との対比を通じて第2液圧路系統H2の構成を説明する。
【0032】
図中に示される比例電磁弁SC2は上記比例電磁弁SC1と同一の構成を有するものであり、逆止弁CV12は上記逆止弁CV11と同一の構成を有するものである。さらに、補助リザーバRS2は上記補助リザーバRS1と同一の構成を有するものであり、液圧ポンプHP2は上記液圧ポンプHP1と同一の構成を有するものである。
【0033】
また、主液圧路Mfから連続する分岐液圧路MfR、及び排出側の分岐液圧路RfRは後右車輪ブレーキ機構RRのホイールシリンダWRRの液圧給排に係り、分岐液圧路MfL,RfLは前左車輪ブレーキ機構FLのホイールシリンダWFLの液圧給排に係るものである。分岐液圧路MfR,MfLに介装される電磁弁NORR,NOFLは上記電磁弁NOFR,NORLと同一の構成を有する常開型のものであり、これらと並列に配設される逆止弁CV3,CV4は上記逆止弁CV1,CV2と同一の構成を有するものである。また、分岐液圧路RfR,RfLに介装される電磁弁NCRR,NCFLは上記電磁弁NCFR,NCRLと同一の構成を有する常閉型のものである。
【0034】
上記比例電磁弁SC2、及び電磁弁NORR,NOFL,NCRR,NCFLは電子制御装置ECU1によって駆動制御され、ホイールシリンダWRR,WFLの液圧が調整される。
【0035】
電子制御装置ECU1には、図示されていない前右車輪速センサ、前左車輪速センサ、後右車輪速センサ、後左車輪速センサの出力信号や、ブレーキペダルBPが操作されているか否かを検出するブレーキペダルスイッチ(図示されず)の出力信号等が入力される。そして電子制御装置ECU1は、これらの各信号に基づき、車両の制動中に車輪の制動スリップ量が過剰とならないように各ホイールシリンダの液圧を調整するアンチロック制御や、車両の発進時や加速時に駆動車輪の駆動スリップ量が過剰とならないように各ホイールシリンダの液圧を調整するトラクション制御等を行う。
【0036】
このように構成される車両用ブレーキ装置において、通常時の各電磁弁は図1に示す常態位置にあり、電動機Mは停止している。この常態でブレーキペダルBPが操作されると、バキュームブースタVBが作動してマスターシリンダMCの液圧が上昇する。マスターシリンダMCは、その内部の前後二つの液圧発生室においてブレーキペダル操作力に応じた液圧を発生させ、両液圧路系統H1,H2に出力する。マスターシリンダMCから第1液圧路系統H1に出力された液圧は、比例電磁弁SC1及び電磁弁NOFRを介して前右車輪ブレーキ機構FRのホイールシリンダWFRに供給されるとともに、比例電磁弁SC1及び電磁弁NORLを介して後左車輪ブレーキ機構RLのホイールシリンダWRLに供給される。
【0037】
これと同時に、マスターシリンダMCから第2液圧路系統H2に出力された液圧は、比例電磁弁SC2及び電磁弁NOFLを介して前左車輪ブレーキ機構FLのホイールシリンダWFLに供給されるとともに、比例電磁弁SC2及び電磁弁NORRを介して後右車輪ブレーキ機構RRのホイールシリンダWRRに供給される。したがって、車輪ブレーキ機構FR,FL,RR,RLが作動して車両の前右車輪,前左車輪,後右車輪,後左車輪にそれぞれブレーキトルクが加えられることとなり、車両が制動される。
【0038】
操作されていたブレーキペダルBPが解放されると、バキュームブースタVBが常態へと復帰し、これによりマスターシリンダMCが常態へと復帰し、マスターシリンダの各圧力発生室から各液圧路系統H1,H2に出力される液圧が大気圧まで低下する。したがって、ホイールシリンダWFR,WFL,WRR,WRLの液圧も大気圧まで低下し、車輪ブレーキ機構FR,FL,RR,RLが常態へと復帰し、車両の制動が終了する。
【0039】
次にアンチロック制御について説明する。車両の制動時において、電子制御装置ECU1は、各車輪速センサの出力信号に基づいて、各車輪について制動スリップ量が過剰になりそうであるか否かを判別し、例えば前右車輪の制動スリップ量が過剰になりそうになったときには電磁弁NOFRを常態の開位置から閉位置へと切り換えるとともに電磁弁NCFRを常態の閉位置から開位置へと切り換え、同時に電動機Mを始動する。これにより、ホイールシリンダWFRのブレーキ液が電磁弁NCFRを介して補助リザーバRS1へと排出されてホイールシリンダWFRの液圧が減圧され、前右車輪ブレーキ機構FRが前右車輪に加えるブレーキトルクが減少されて、前右車輪の制動スリップ量が減少する。
【0040】
ホイールシリンダWFRから電磁弁NCFRを介して補助リザーバRS1へと排出されされたブレーキ液は、電動機Mにより液圧ポンプHP1が駆動されることで比例電磁弁SC1と電磁弁NOFR,NORLとの間の連通路に戻され、さらに比例電磁弁SC1を介してマスターシリンダMCの後方圧力発生室へ戻される。
【0041】
上述の如くして前右車輪の制動スリップ量が十分に減少すると、電子制御装置ECU1が電磁弁NCFRを開位置から閉位置に切り換えるとともに電磁弁NOFRを閉位置から開位置に切り換える。これにより、マスターシリンダMCからホイールシリンダWFRにブレーキ液が供給されてホイールシリンダWFRの液圧が再増圧され、前右車輪ブレーキ機構FRが前右車輪に加えるブレーキトルクが増加する。
【0042】
このとき、このブレーキトルクの増加に伴って前右車輪の制動スリップ量が増大し、過剰な量に近づくと、電子制御装置ECU1は電磁弁NOFRを開位置から閉位置に切り換えることでホイールシリンダWFRの液圧の上昇を阻止するとともに該液圧を保持する。
【0043】
そして、上述のようにホイールシリンダWFRの液圧が保持されている状態で前右車輪の制動スリップ量が増大し再び過剰なスリップ量になりそうになると、電子制御装置ECU1は電磁弁NCFRを閉位置から開位置に切り換える。これにより、ホイールシリンダWFRのブレーキ液が電磁弁NCFRを介して補助リザーバRS1へと排出されてホイールシリンダWFRの液圧が減圧され、前右車輪ブレーキ機構FRが前右車輪に加えるブレーキトルクが減少されることとなって前右車輪の制動スリップ量が減少する。
【0044】
このように、車両制動中の前右車輪の制動スリップ量に応じて電磁弁NOFR,NCFRが開位置と閉位置との間で切り換えられるとともに液圧ポンプHP1が駆動されることにより、ホイールシリンダWFRの液圧が減圧、再増圧、及び保持の間で切り換えられて調整されることで、車両制動中の前右車輪の制動スリップ量が過剰となることが回避される。
【0045】
他方、車両制動中の前左車輪の制動スリップ量が過剰となることは、上述同様、電子制御装置ECU1により、車両制動中の前左車輪の制動スリップ量に応じて電磁弁NOFL,NCFLが開位置と閉位置との間で切り換えられるとともに液圧ポンプHP2が駆動されることにより、ホイールシリンダWFLの液圧が減圧、再増圧、及び保持の間で切り換えられて調整されることで回避される。
【0046】
また、車両制動中の後右車輪の制動スリップ量が過剰となることは、電子制御装置ECU1により、車両制動中の後右車輪の制動スリップ量に応じて電磁弁NORR,NCRRが開位置と閉位置との間で切り換えられるとともに液圧ポンプHP2が駆動されることにより、ホイールシリンダWRRの液圧が減圧、再増圧、及び保持の間で切り換えられて調整されることで回避される。
【0047】
同様に、車両制動中の後左車輪の制動スリップ量が過剰となることは、電子制御装置ECU1により、車両制動中の後左車輪の制動スリップ量に応じて電磁弁NORL,NCRLが開位置と閉位置との間で切り換えられるとともに液圧ポンプHP1が駆動されることにより、ホイールシリンダWRLの液圧が減圧、再増圧、及び保持の間で切り換えられて調整されることで回避される。
【0048】
次に、車両の発進時や加速時の駆動輪における駆動スリップ量が過剰となることを回避するトラクション制御について説明する。なお上述したように本ブレーキ装置の搭載される車両は前輪を駆動輪としている。
【0049】
車両の発進時や加速時においては、一般的に、ブレーキペダルBPは操作されておらず、各電磁弁は図1に示す常態位置にあり、電動機Mは停止している。例えば、車両の前右車輪の駆動スリップ量が過剰になりそうになると、電子制御装置ECU1は、比例電磁弁SC1及び電磁弁NORLを全開位置から全閉位置に切り換えるとともに電動機Mを始動させて液圧ポンプHP1,HP2を駆動する。これにより、液圧ポンプHP1は、大気圧リザーバRS内のブレーキ液をマスターシリンダMC及び補助リザーバRS1を介して吸入ポートから吸入するとともにこれを昇圧して吐出ポートから吐出する。
【0050】
こうして吐出されるブレーキ液が電磁弁NOFRを介してホイールシリンダWFRに供給されることにより該ホイールシリンダWFRの液圧が上昇して、車輪ブレーキ機構FRが作動し前右車輪にブレーキトルクが加えられることとなる。その結果、前右車輪の車輪速の上昇が抑制されて前右車輪の駆動スリップ量の増加が抑制される。そして、電子制御装置ECU1は、前右車輪の駆動スリップ量を適切な駆動スリップ量とすべく、比例電磁弁SC1の開度調整を通じてホイールシリンダWFRの液圧を調整する。
【0051】
また、車両の前左車輪の駆動スリップ量が過剰になりそうになると、電子制御装置ECU1は、比例電磁弁SC2及び電磁弁NORRを全開位置から全閉位置に切り換えるとともに電動機Mを始動させて液圧ポンプHP1,HP2を駆動する。これにより、液圧ポンプHP2は、大気圧リザーバRS内のブレーキ液をマスターシリンダMC及び補助リザーバRS2を介して吸入ポートから吸入するとともにこれを昇圧して吐出ポートから吐出する。
【0052】
こうして吐出されるブレーキ液が電磁弁NOFLを介してホイールシリンダWFLに供給されることにより該ホイールシリンダWFLの液圧が上昇して、車輪ブレーキ機構FLが作動し前左車輪にブレーキトルクが加えられることとなる。その結果、前左車輪の車輪速の上昇が抑制されて前左車輪の駆動スリップ量の増加が抑制される。そして、電子制御装置ECU1は、前左車輪の駆動スリップ量を適切な駆動スリップ量とすべく、比例電磁弁SC2の開度調整を通じてホイールシリンダWFLの液圧を調整する。
【0053】
なお、上述の「液圧ポンプHP1,HP2の吐出したブレーキ液の還流する液圧路」について具体的には、第1液圧路系統H1では液圧ポンプHP1の吐出ポートから吐出されたブレーキ液が比例電磁弁SC1及び補助リザーバRS1を介して液圧ポンプHP1の吸入ポートに吸入される液圧路がこれに相当し、第2液圧路系統H2では液圧ポンプHP2の吐出ポートから吐出されたブレーキ液が比例電磁弁SC2及び補助リザーバRS2を介して液圧ポンプHP2の吸入ポートに吸入される液圧路がこれに相当する。
【0054】
ところで、こうした制御装置にあっては、液圧制御の実行時における騒音の発生を抑えるべく、液圧ポンプH1,P2の駆動に伴うブレーキ液の脈動を小さくすることが望ましい。そこで本実施形態では、液圧ポンプHP1,HP2にこうした脈動抑制のための構成を設けている。以下では、これら請求項記載のピストンポンプに相当する液圧ポンプHP1,HP2について説明することとする。図2は液圧ポンプHP1に関してピストンが上死点に位置する状態を示し、図3は下死点に位置する状態を示す。なお、本実施形態では両液圧ポンプHP1,HP2が同様の構造を有することから、ここではその一方である液圧ポンプHP1について詳細説明することとし、他方の液圧ポンプHP2についてはその詳細説明を省略する。
【0055】
図2及び図3において、第1ハウジング構成部材10には、段付孔12と、この段付孔12の軸線方向(図面左右方向)に間隔をあけて設けられ該段付孔12に開口する吸入ポート14及び吐出ポート16が設けられている。段付孔12の図面左側(以下これを単に左側と称する)の開口には、これを閉鎖するための第2ハウジング構成部材18が第1ハウジング構成部材10に対し液密にカシメ固定されている。
【0056】
段付孔12内にて第2ハウジング構成部材18の図面右側(以下これを単に右側と称する)に位置する第3ハウジング構成部材20は、段付孔12に対して圧入されることによって第1ハウジング構成部材10に液密に固定されている。これら第1〜第3ハウジング構成部材10,18,20は請求項記載のハウジングを構成するものである。
【0057】
第3ハウジング構成部材20には、右端が開放しかつ左端が閉じたシリンダ26と、このシリンダ26を第2ハウジング構成部材18と第3ハウジング構成部材20との間の吐出室28に連通する弁孔30が形成されている。弁孔30の中間部には弁座30aが形成されており、この弁座30aに圧縮コイルスプリング32の付勢力で着座する球状の弁体34が弁孔30の左方部内に配設されている。これら弁座30a、圧縮コイルスプリング32及び弁体34によって所謂吐出弁が構成されている。吐出室28は吐出ポート16と常時連通する。
【0058】
段付孔12には、一端(左端)がシリンダ26に嵌入され他端(右端)が該段付孔12の小径部分である支持孔24に嵌入されたピストン36が配設されている。なお、本実施形態では、シリンダ26の内径Dcと支持孔24の内径Dsとが等しく設定されている。
【0059】
ピストン36は上記一端側の先端部分を構成するシリンダ側部材40と上記他端側部分を構成する支持孔側部材38とが嵌合固定されてなるものである。支持孔側部材38の右端部は支持孔24に摺動自在に嵌入されている。支持孔側部材38の右端部の外周に形成された環状のシール溝に収容された環状のシール部材42は、支持孔24の内周面とピストン36の外周面との隙間をシールする。
【0060】
支持孔側部材38において上述のシール溝よりも左側に形成された環状の摺動リング溝44には、外周の摺接端46aにて段付孔12に液密にかつ摺動自在に係合される摺動リング46の内周側部分が収容されている。摺動リング46は弾性材からなるものであり、自身の収縮力(径方向内側に縮む力)等によってピストン36に外嵌固定されている。摺動リング46はピストン36の外周面とこれに対向する段付孔12の内周面との間をシールする。摺動リング46は、上述の摺動リング溝44に嵌合される内周側の環状本体部分と、該本体部分と一体形成され径方向外方に突設されるフランジ状部分とを有するとともに、該フランジ状部分については、段付孔12の内周面と摺接する摺接端46aが、これより径方向の内側に位置する基端46bよりも右側(支持孔24側)に配置される。摺動リング溝44における摺動リング46の左側には環状のリテーナ48が嵌合され、これにより摺動リング46の過剰な変形が防止されるようになっている。
【0061】
このように配設された摺動リング46は、段付孔12において軸線方向におけるシリンダ26と支持孔24との間の部分を、該シリンダ26側の部分と支持孔24側の部分とに区画する。これら区画された部分のうち支持孔24側の部分は、上述の吸入ポート14が常時接続された吸入室50をなしている。他方、シリンダ26側の部分は、第3ハウジング構成部材20、ピストン36、及び摺動リング46等に囲まれた密閉室52をなしている。
【0062】
ピストン36の支持孔側部材38の左端部及びシリンダ側部材40はシリンダ26に摺動自在に嵌合されており、これによってシリンダ26内にはポンプ室56が区画形成されている。また、ピストン36には、吸入ポート14を介して吸入室50に導入されたブレーキ液をポンプ室56に導入するための貫通孔54が支持孔側部材38及びシリンダ側部材40にわたって形成されている。
【0063】
ポンプ室56には、ピストン36を右方へ押動するための圧縮コイルスプリング58と、シリンダ側部材40に組み付けられた球状の弁体60及びこの弁体60を貫通孔54の左端部に形成された弁座62に着座させるための圧縮コイルスプリング64が設置されている。弁体60、圧縮コイルスプリング64及び弁座62は、所謂吸入弁を構成する。
【0064】
ピストン36の右端面は電動機Mにより駆動される偏心カム70に当接され、ピストン36はこの偏心カム70により左方へ押動され、圧縮コイルスプリング58により右方へ押動される。ピストン36が上死点に位置する状態を示す図2の状態から、偏心カム70の回転によりピストン36の右方向摺動が許容されることに応じてピストン36が圧縮コイルスプリング58により右方向へ押動される。すなわち、ピストン36が下死点に向かって摺動する。
【0065】
ピストン36が下死点に向かって押動される吸入行程においては、ピストン36の移動によりポンプ室56の容積が増加するとともに、摺動リング46がピストン36とともに右方へ摺動することにより吸入室50の容積が減少するため、吸入室50のブレーキ液が貫通孔54を通りかつ弁体60を弁座62から離間させてポンプ室56へと導入される。
【0066】
図3に示されるようにピストン36が下死点に到達した後、上死点に向かって押動される吐出行程においては、ピストン36の移動に応じてポンプ室56の容積が減少するため、同室56のブレーキ液が昇圧されて弁体34を弁座30aから離間させて吐出室28へと流動される。また、ピストン36が上死点に向かって移動することに応じて摺動リング46がピストン36とともに左方へ摺動して吸入室50の容積が増加するので、該吸入室50には吸入ポート14を介してブレーキ液が吸入されることとなる。
【0067】
こうしてピストン36が上死点から下死点に向かう吸入行程と下死点から上死点に向かう吐出行程とが繰り返されることにより、吸入ポート14に吸入されたブレーキ液が吐出ポート16から吐出される。
【0068】
ちなみに、上述のピストン36の往復動に伴い、上述の密閉室52の容積は、吸入室50と異なりポンプ室56の容積増加時に増加し該ポンプ室56の容積減少時に減少する。この密閉室52の容積増加に伴って同室52の内圧は低下することとなるが、本実施形態では、この圧力低下に抗してピストン36を右方に押動できるだけの弾性力を有するように圧縮コイルスプリング58を構成しているため、ピストン36と偏心カム70との当接状態は良好に保たれる。
【0069】
以上説明したように、吸入室50の容積を増減させるべく設けられる摺動リング46によって、ピストン36の往復動によるポンプ室56の容積減少時には吸入室50の容積が増加し、逆にポンプ室56の容積増加時には吸入室50の容積が減少する。したがって、ピストンポンプHP1(ピストンポンプHP2)におけるブレーキ液の吸入と吐出とが同時期に行われるようになることから、液圧路系統H1(液圧路系統H2)にあっては、ブレーキ液を還流させる際に生じる脈動を抑制することができるようになる。
【0070】
そしてさらに本実施形態では、段付孔12において第3ハウジング構成部材20の右端が挿入される部分と同じ内径の部分を利用して吸入室50を構成している。これにより、吸入室50の内周面(吸入室50を構成する段付孔12内周面)の径Dkをシリンダ26の内径Dcよりも大きく設定するようにしている。
【0071】
こうした構成により本実施形態では、例えば、吸入室の内周面の径がシリンダ内径と同じあるいはこれよりも小さく設定される態様と比較して、ピストン36の外径を大きく保った状態で吸入量を増やすことができるようになる。したがって、吸入量を吐出量に近づけて液圧路における脈動を好適に抑制しつつ、ピストン36の強度を高維持することができるようになる。ちなみに本実施形態では、ピストン36の移動に伴うポンプ室56の容積減少量が吸入室50の容積増加量とほぼ同量(例えば90%〜110%)となるようにそれぞれの内径Dc,Dkを設定している。
【0072】
ところで、摺動リング46は、段付孔12の内周面に摺接する摺接端46aが吸入室50側に向けられた状態で配置されている。そして本実施形態では、例えばピストン36を上死点に向けて移動させる際など、密閉室52の内圧が吸入室50の内圧よりも或る程度高くなったときに上記摺接端46aと段付孔12の内周面とが離間して、密閉室52のブレーキ液がこの隙間を介して吸入室50に導入されるように摺動リング46の形状を設定している。このように本実施形態では、段付孔12の内周面と摺動リング46とで、請求項記載の逆止弁(密閉室側から吸入室側へのみ液流を許容するための逆止弁)を構成するようにしている。この場合、上記摺接端46aが弁体として機能し、これと摺接する段付孔12の内周面が弁座として機能する。
【0073】
これによれば、ピストン36の往復動時におけるポンプ室56と密閉室52との圧力差の増大などによって、仮にポンプ室56のブレーキ液がシリンダ26とピストン36とのわずかな隙間を介して密閉室52に入り込んだとしても、摺動リング46の摺接端46aと段付孔12の内周面との間に形成される隙間を介して密閉室52の容積減少時などにこのブレーキ液が吸入室50に戻されるようになる。したがって、密閉室52のブレーキ液量の増加に伴う圧縮抵抗の発生あるいはその増大によってピストン36の駆動抵抗が過大となってしまうといったことを回避することができる。
【0074】
また、吸入室50を区画する摺動リング46に上記逆止弁としての機能を持たせているため、例えば摺動リングとは別に同様機能の逆止弁を特段に設ける態様と比較して、部品点数を削減できるとともにその構成を簡素なものとすることができる。
【0075】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した、例えば以下のような形態として実施することもできる。
・上記実施形態では、ピストン36の移動に伴うポンプ室56の容積減少量が吸入室50の容積増加量とほぼ同量(例えば90%〜110%)となるようにそれぞれの内径Dc,Dkを設定したが、吸入室内径Dkがシリンダ内径Dcよりも大きく設定されていれば、これに限るものではない。
【0076】
・また、例えば図4に示されるように、上記実施形態における密閉室52に相当する部分(同図4では容積増減室82としてこれを示す)をハウジング外の大気圧領域に開放する開放孔84を第1ハウジング構成部材10に形成してもよい。例えば、開放孔84が接続されず密閉状態にある容積増減室82(すなわち密閉室52)を備える態様にあっては、該室82の流体の圧縮・膨張に係る反力によってピストン36の駆動抵抗が大きくなる。その点、本構成では、開放孔84を介して容積増減室82が大気圧領域へ開放されることから、こうしたピストン36の駆動抵抗を低減することができる。なお、上述の大気圧領域としては、例えばハウジング外部の大気空間や大気圧状態でブレーキ液を貯留する大気圧リザーバRSなどが挙げられる。ただし容積増減室82に接続される上記大気圧領域として大気空間が採用された場合には特に、ピストン36の往復動時に吸入室50の液圧が大気圧より低下したときであっても容積増減室82から吸入室50に対して空気が流入しないよう摺動リング46を構成する(すなわち摺動リング46に上記逆止弁としての機能を持たせないようにする)ことが必要である。
【0077】
・また、例えば図5及び図6に示されるように、支持孔24の内径Dsをシリンダ26の内径Dcより小さく設定してもよい。同図の態様にあってはこの支持孔24の小径化に伴いピストン36の該支持孔24に対応する部分を強度上問題のない範囲で小径化させている。これにより、吸入量を確保しつつ、段付孔12において吸入室50に対応する部分を小径化することができることから、例えば、支持孔24の内径がシリンダ26の内径と同じあるいはこれよりも大きい態様と比較して、液圧ポンプHP1,HP2の小型化が容易となる。なお、図5はピストン36が上死点に位置する状態を示すものであり、図6は下死点に位置する状態を示すものである。
【0078】
・上記では支持孔24の内径Dsがシリンダ26の内径Dcと同じあるいはこれより小さい態様について説明したが、こうした構成は必須ではなく、例えば支持孔24の内径Dsはシリンダ26の内径Dcよりも大きく設定されてもよい。
【0079】
・密閉室52を備える上述の実施形態において、上記逆止弁を備えることは必須ではなく、例えばこれを省略してもよい。
【0080】
・液圧路系統については上記の態様に限らず、例えばこれに設けられる電磁弁や逆止弁、補助リザーバ等の配置あるいはその構造を上記とは異ならせたものが採用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施形態の車両用ブレーキ装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態の液圧ポンプを示す断面図であってピストンが上死点に位置する状態を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態の液圧ポンプを示す断面図であってピストンが下死点に位置する状態を示す図である。
【図4】上記とは別の態様の液圧ポンプを示す断面図である。
【図5】上記とは別の態様の液圧ポンプを示す断面図であってピストンが上死点に位置する状態を示す図である。
【図6】上記図5と同じ態様の液圧ポンプを示す断面図であってピストンが下死点に位置する状態を示す図である。
【符号の説明】
【0082】
10…第1ハウジング構成部材
14…吸入ポート
16…吐出ポート
18…第2ハウジング構成部材
20…第3ハウジング構成部材
24…支持孔
26…シリンダ
36…ピストン
46…摺動リング
46a…フランジ状部分の摺接端
46b…フランジ状部分の基端
50…吸入室
52…密閉室
56…ポンプ室
82…容積増減室
84…開放孔
Dc…シリンダの内径
Dk…吸入室の内周面(吸入室を構成するハウジング内周面)の径
Ds…支持孔の内径
H1…第1液圧路系統
H2…第2液圧路系統
HP1,HP2…液圧ポンプ(ピストンポンプ)
Mf…主液圧路
MfR,MfL…分岐液圧路
Rf…排出液圧路
RfR,RfL…分岐液圧路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液を吸入するための吸入ポート(14)に接続された吸入室(50)と、
該吸入室からのブレーキ液を昇圧するポンプ室(56)を区画すべく、ピストン(36)の一端が嵌入されるシリンダ(26)と、
該シリンダと軸線を同一とし、前記ピストンの他端が隙間のシールされた状態で嵌入される支持孔(24)と、
が形成されたハウジング(10,18,20)を有してなるピストンポンプ(HP1,HP2)を通じて、
液圧路系統(H1,H2)のブレーキ液を還流させる車両用ブレーキ装置において、
前記ピストンポンプの吸入室は、
前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間において、
前記ピストンの外周面とこれに対向する前記ハウジングの内周面との間をシールする摺動リング(46)が前記ピストンに装着されることで、
その容積が前記ピストンの往復動に伴う前記ポンプ室の容積減少時に増加しかつ前記ポンプ室の容積増加時に減少するように区画されており、
前記吸入室を構成する前記ハウジングの内周面の径(Dk)は、
前記シリンダの内径(Dc)よりも大きく設定される
ことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間には、前記摺動リングによって前記吸入室と区画され前記ピストンの往復動による前記ポンプ室の容積減少時に容積が減少しかつ前記ポンプ室の容積増加時に容積が増加する密閉室(52)が形成されており、
前記密閉室は、該密閉室側から前記吸入室側へのみ液流を許容するための逆止弁(12,46a)を介して前記吸入室と連通される
ことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記ハウジングの内周面と摺接する前記摺動リングの摺接端(46a)を基端(46b)よりも前記吸入室側に配置することで前記逆止弁を構成する
ことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間には、前記摺動リングによって前記吸入室と区画され前記ピストンの往復動による前記ポンプ室の容積減少時に容積が減少しかつ前記ポンプ室の容積増加時に容積が増加する容積増減室(82)が形成されており、
前記容積増減室には、これを前記ピストンポンプ外の大気圧領域に開放する開放孔(84)が接続されている
ことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記支持孔の内径(Ds)は前記シリンダの内径よりも小さく設定される
ことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項1】
ブレーキ液を吸入するための吸入ポート(14)に接続された吸入室(50)と、
該吸入室からのブレーキ液を昇圧するポンプ室(56)を区画すべく、ピストン(36)の一端が嵌入されるシリンダ(26)と、
該シリンダと軸線を同一とし、前記ピストンの他端が隙間のシールされた状態で嵌入される支持孔(24)と、
が形成されたハウジング(10,18,20)を有してなるピストンポンプ(HP1,HP2)を通じて、
液圧路系統(H1,H2)のブレーキ液を還流させる車両用ブレーキ装置において、
前記ピストンポンプの吸入室は、
前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間において、
前記ピストンの外周面とこれに対向する前記ハウジングの内周面との間をシールする摺動リング(46)が前記ピストンに装着されることで、
その容積が前記ピストンの往復動に伴う前記ポンプ室の容積減少時に増加しかつ前記ポンプ室の容積増加時に減少するように区画されており、
前記吸入室を構成する前記ハウジングの内周面の径(Dk)は、
前記シリンダの内径(Dc)よりも大きく設定される
ことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間には、前記摺動リングによって前記吸入室と区画され前記ピストンの往復動による前記ポンプ室の容積減少時に容積が減少しかつ前記ポンプ室の容積増加時に容積が増加する密閉室(52)が形成されており、
前記密閉室は、該密閉室側から前記吸入室側へのみ液流を許容するための逆止弁(12,46a)を介して前記吸入室と連通される
ことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記ハウジングの内周面と摺接する前記摺動リングの摺接端(46a)を基端(46b)よりも前記吸入室側に配置することで前記逆止弁を構成する
ことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記軸線方向における前記シリンダと前記支持孔との間には、前記摺動リングによって前記吸入室と区画され前記ピストンの往復動による前記ポンプ室の容積減少時に容積が減少しかつ前記ポンプ室の容積増加時に容積が増加する容積増減室(82)が形成されており、
前記容積増減室には、これを前記ピストンポンプ外の大気圧領域に開放する開放孔(84)が接続されている
ことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用ブレーキ装置において、
前記支持孔の内径(Ds)は前記シリンダの内径よりも小さく設定される
ことを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2007−145085(P2007−145085A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338947(P2005−338947)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】
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