説明

車両用前窓

【課題】自動車等の、運転席が車両正面から見て左右どちらかに寄って位置するような車両の前窓に好適に用いられ、車外側表面の反射による筐体等の反射像映り込みを、水平前方視界のみならず前窓のより広い範囲において低減することによって、安全性及び筐体の意匠性を向上させることができる車両用前窓の提供。
【解決手段】少なくとも基材と偏光膜とを有し、水平基準面とのなす角δが20度以上50度以下である車両用前窓において、前記水平基準面と前記基材面とが交わる線と、前記偏光膜の高吸収軸との角度φが、(−0.0130×δ+1.03δ−12.5)度≦φ≦(0.00792×δ+0.0879δ+24.4)度である車両用前窓とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前窓に関し、特に自動車用として好適な車両用前窓に関する。
【背景技術】
【0002】
主に太陽光線が強い日中において、自動車(及び車両一般)の前窓にダッシュボード等の筐体の反射像が映り込み、運転者の視認性を低下させることが安全運転上問題となっている。一方、昨今は消費者ニーズの多様性化に伴い、自動車室内の色使いや模様など、デザイン性の自由度が求められる機会が多くなってきている。しかし、ダッシュボード等の窓に反射像が写りこむエリアだけは、この問題があるため暗色しか使えないという不都合があった。
このため、例えば、特許文献1には、反射防止層を被覆したガラス2枚を反射防止層が外側になるように貼り合せてなる合わせガラスが提案されている。
また、特許文献2には、透明ガラス基板の少なくとも片側表面にガラス面側から第1層目として屈折率n1が1.8〜1.9であり、かつ厚みが700〜900Åである薄膜層を被覆し、該第1層目薄膜上に、第2層として屈折率n2が1.4〜1.5であり、かつ厚みが1,100〜1,300Åである薄膜層を積層してなり、前記表面の垂直線となす入射角が50度〜70度の間で入射する膜面側の可視光に対し、前記薄膜層面における反射を4.5%〜6.5%低減する車両用反射低減ガラスが提案されている。
【0003】
しかし、前記特許文献1及び前記特許文献2のように、車両用前窓の外側に低反射処理を施す場合には、運転時に安全視界を確保するために使用されるワイパー等によって前窓の車外側表面が擦られ、低反射処理膜が摩耗し、光の干渉を利用した光学薄膜の性能を維持できないという問題がある。また、汚れの付着等によって光の干渉条件がずれて反射率が著しく増大し、汚れが目立ち、車両用前窓の外側に低反射処理を行うことは耐久性の面から問題がある。また、片面だけの反射防止処理だけでは、他方の未処理の片面からの裏面反射が残り、結局トータルの反射防止効果は約30%の低減に留まり、十分満足できる性能を備えたものではない。
【0004】
また、特許文献3には、前記特許文献1及び2のように反射防止膜を用いた車両用前窓の裏面反射を低減するために、運転者の水平前方視線に入り込む車両用前窓からの反射光の主偏光成分(S偏光)が水平に電場振動成分を有することに着目して、水平に高吸収軸を有する偏光膜を合わせガラスである前窓のガラス間又は車内側表面に適用することが提案されている。
【0005】
しかし、前記特許文献3は、水平前方視界に対しては有効であるものの、助手席側に視線を移した際には、S偏光の電場振動方向が偏光膜の高吸収軸からずれてしまうために同等の透過率を有する着色ガラスを用いた場合よりも反射像の映り込みがむしろ顕著になってしまうという問題がある。
【0006】
また、特許文献4には、ダッシュボードにS偏光を吸収又は散乱させる層を付与することにより、ダッシュボードが自動車用前窓に映り込むことを防止し、ダッシュボードの意匠性の向上が図れると記載されている。
【0007】
しかし、吸収によってダッシュボードに偏光性を付与すると、必然的に色は暗くなってしまい、意匠性については不十分である。また、通常の自動車の使用において、使用者はダッシュボード上に書類や小物等を置く場合が多くあり、前記特許文献4の手法では、そのような場合に書類や小物等が前窓に映り込むことを防止することは当然不可能であり、更なる改良、開発が望まれているのが現状である。
【0008】
【特許文献1】実開平5−69701号公報
【特許文献2】特開平4−357134号公報
【特許文献3】特開2007−334150号公報
【特許文献4】特開2006−56413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、自動車等の運転席が車両正面から見て左右どちらかに寄って位置するような車両の前窓に好適に用いられ、車外側表面の反射による筐体等の反射像映り込みを、水平前方視界のみならず前窓のより広い範囲において低減することによって、安全性及び筐体の意匠性を向上させることができる車両用前窓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため本発明者が鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、自動車等で問題となっている反射像の映り込みにおいて、前窓表面から反射して運転者の目に入る光は偏光性を有しており、その主偏光成分(S偏光)の電場振動方向は、運転者の水平前方視界のみを考慮した場合には、水平方向のみであるが、前窓面全体を考慮した場合には、運転者の視線が前窓表面を含む面と垂直に交わる点を中心にして描かれる同心円の接線の方向であることを知見した。
また、一般的な自動車に代表される運転席が前窓の中心に対し、左右どちらかにずれた位置にあるような車両においては、水平に高吸収軸を有する偏光膜では、助手席側の視界において映り込み防止効果が十分に得られないことを知見した。
【0011】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。
<1> 少なくとも基材と偏光膜とを有し、水平基準面とのなす角δが20度以上50度以下である車両用前窓において、
前記水平基準面と前記基材面とが交わる線と、前記偏光膜の高吸収軸との角度φが、(−0.0130×δ+1.03δ−12.5)度≦φ≦(0.00792×δ+0.0879δ+24.4)度であることを特徴とする車両用前窓である。
<2> 角度φが、(0.00792×δ+0.0879δ+14.4)度±5度である前記<1>に記載の車両用前窓である。
<3> 角度φが、(−0.0130×δ+1.03δ−2.46)度±5度である前記<1>に記載の車両用前窓である。
<4> 基材の水平基準面と向き合う側の面に、偏光膜を有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の車両用前窓である。
<5> 基材が2枚の板ガラス間に中間層を有する合わせガラスであり、かつ該中間層が偏光膜を含む前記<1>から<3>のいずれかに記載の車両用前窓である。
<6> 基材が高分子化合物であり、かつ該基材の表面及び内部のいずれかに偏光膜を有する前記<1>から<4>のいずれかに記載の車両用前窓である。
<7> 両面及び水平基準面と向き合う側の最表面のいずれかに、反射防止膜を有する前記<1>から<6>のいずれかに記載の車両用前窓である。
<8> 車両が、自動車である前記<1>から<7>のいずれかに記載の車両用前窓である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、自動車等の運転席が車両正面から見て左右どちらかに寄って位置するような車両の前窓に好適に用いられ、車外側表面の反射による筐体等の反射像映り込みを、水平前方視界のみならず前窓のより広い範囲において低減することによって、安全性及び筐体の意匠性を向上させることができる車両用前窓を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の車両用前窓は、少なくとも基材と偏光膜とを有し、反射防止膜、更に必要に応じてその他の層を有してなる。
【0014】
前記車両用前窓は、上記構成とすることにより、特に大きな反射映り込み防止効果が得られる。これは、車内側表面の反射防止膜のみでは車外側表面の反射を防ぐことができず、偏光膜だけでは車内側表面の反射を防ぐことができないためである。
また、反射防止膜を用いた場合には、車内側表面における反射が低減された分だけ、前窓中へ入射してくる光の強度が強くなるため、車外側表面からの反射光強度もそれに従って強くなり、また、反射光の主成分が車外側表面からの反射となるため、偏光膜によって得られる効果が大きくなる。例えば、基材にある角度で光が入射した場合の表面反射率が10%であった場合、入射光強度I0を1とすると、車内側表面からの反射光強度I1と車外側表面からの反射光強度I2、及び全反射光強度(I1+I2)は、下記式で表される。
I1=1×0.1=0.1
I2=1×0.9×0.1×0.9≒0.08
(I1+I2)=0.1+0.08=0.18
これに反射防止膜を適用して、仮に車内側表面の反射率が0となったとすると、反射防止膜を適用した時の車内側表面からの反射光強度I3と車外側表面からの反射光強度I4、及び全反射光強度(I3+I4)は、下記のとおりである。
I3=1×0=0
I4=1×1×0.1×1=0.1
(I3+I4)=0+0.1=0.1
【0015】
ここで、偏光膜を用いて、車外側表面からの反射光強度I2又はI4を50%低減できたとすると、反射防止膜を用いない場合の全反射光強度(I1+I2)’、反射防止膜を用いる場合の全反射光強度(I3+I4)’は、下記のとおりである。
(I1+I2)’=0.1+0.08×0.5=0.14
(I3+I4)’=0+0.1×0.5=0.05
このため、50%偏光膜による、反射防止膜を用いない場合の全反射光低減率R1と、用いる場合の全反射光低減率R2の全反射光低減率は、下記のとおりである。
R1=(I1+I2)’/(I1+I2)=0.78
R2=(I3+I4)’/(I3+I4)=0.5
このように偏光膜によって得られる反射低減の効果は反射防止膜が車内側表面にあった場合の方が顕著に現れる。このことは逆に、偏光膜による反射抑制の効果が得られない領域では、反射防止膜を用いた場合の方が、反射抑制効果の少なさがより顕著に現れることを示す。
【0016】
前窓におけるS偏光の振動方向は、図1(この場合は運転席が車両進行方向の右側、いわゆる右ハンドルの例である、図2、図3A、図4も同様)に示すように、運転者の視線が前窓表面を含む面と垂直に交わる点を中心にして描かれる同心円の接線方向で表される。なぜなら、前記同心円の接線は、運転者の目に入る光の進行方向が円の中心を通る線に平行なことから、入射光の進行方向と垂直であり、また、S偏光の偏光軸aは、入射光の進行方向に垂直かつ入射界面に平行であるからである。今、水平基準面に対し平行に偏光膜の高吸収軸を設定した場合を考えると、図2に示すように、助手席側の領域において、運転者の目に入る入射光のS偏光の偏光軸aと偏光膜の高吸収軸bのなす角は大きい。したがって、助手席側に視線を移した際には、偏光膜による映り込みの防止効果が期待できないばかりか、近年普及している着色ガラスを用いた場合よりも反射が強くなってしまうという問題が生じる。ここで、水平基準面と基材面が交わる直線に対し偏光膜の高吸収軸が一定の傾きを有するように偏光膜の高吸収軸を設定すると、図3Aに示すように、助手席側の領域における運転者の目に入る入射光のS偏光の偏光軸aと偏光膜の高吸収軸bのなす角が小さくなるだけではなく、S偏光の偏光軸aと偏光膜の高吸収軸bが平行となる点を結んだ線(領域)cが広くなるため、偏光膜の高吸収軸bを一定角度傾けることが、偏光膜による映り込み防止効果をより大きく発現させることにつながる。
【0017】
したがって本発明においては、車両用前窓全体において、偏光膜の映り込み防止効果の少ない領域を減らすため、図3A及び図3Bに示すように、水平基準面と前窓面が交わる直線に対し偏光膜の高吸収軸が一定の傾きを有するように配置し、好ましくは反射防止膜を設けると、偏光膜の反射防止効果がより顕著に現れる領域を、水平基準面に対し平行に偏光膜の高吸収軸を設定した場合よりも広く取ることができるものである。
【0018】
−偏光膜の配置角度−
前記偏光膜の配置角度、即ち、水平基準面と基材面が交わる線と、偏光膜の高吸収軸との角度φ(図3A及び図3B参照)は、(−0.0130×δ+1.03δ−12.5)度≦φ≦(0.00792×δ+0.0879δ+24.4)度であり、(0.00792×δ+0.0879δ+14.4)度±5度であることが好ましく、(−0.0130×δ+1.03δ−2.46)度±5度であることがより好ましい。
ただし、式中δは、車両用前窓と水平基準面とのなす角(前窓の傾斜角)であり、該角度δは空力抵抗を小さくするため20度以上50度以下であり、好ましくは25度〜40度に形成されている。
前記角度φが5度以下であると、水平基準面に対し平行に偏光膜の高吸収軸を設定した場合との差が効果的に現れず、助手席側における反射像の映り込み抑制効果が得られない。一方、前記角度φが45度以上であると、運転者正面において、S偏光の偏光軸と偏光膜の高吸収軸とがなす角が大きくなり、運転者正面の映り込みが着色ガラスよりも顕著となることがある。
ここで、前記水平基準面とは、車両における水平な基準となる面を意味し、例えば自動車ではダッシュボード面が該当する。
前記偏光膜の高吸収軸とは、偏光膜に直線偏光を入射した時に、最も吸収が大きい軸を意味し、偏光膜の偏光吸光度測定によって、最大の吸光度を示す軸を求めることにより求めることができる。
偏光膜を適用した車両において、前記水平基準面と基材面が交わる線(基準線)と、偏光膜の高吸収軸との角度φを求めるには、例えば高吸収軸の明らかな偏光板を通して車両の前窓を観察し、偏光板を回すと、偏光板と前窓偏光膜の高吸収軸がなす角によって明暗が変化することを利用すればよい。偏光板を回して、最も暗く見える時、その偏光板の高吸収軸と直交する方向が前窓偏光膜の高吸収軸であり、求めた高吸収軸と基準線の角度を測定することによって角度φが得られる。
【0019】
−偏光膜の光学特性−
380nm〜780nmの波長範囲における、車両用前窓の平均透過率は、道路運送車両法の保安基準第29条3項により、0.70以上でなくてはならないと定められていることを考慮し、前記偏光膜は、前窓に適用したときに、前窓の常光透過率が0.70以上0.85以下であることが好ましく、前窓の常光透過率が0.70となる透過率を有することが特に好ましい。前記偏光膜の配向度は0.65以上が好ましく、0.8以上がより好ましく、0.9以上が更に好ましい。
【0020】
前記偏光膜の材料としては、上記光学特性を有すれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば異方性金属ナノ粒子、カーボンナノチューブ、金属錯体、二色性色素、ヨウ素/PVA系材料、などが挙げられる。これらの中でも、異方性金属ナノ粒子、カーボンナノチューブが耐久性の面から特に好ましい。
前記偏光層の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記偏光層の材料に応じて適宜選択することができる。
【0021】
前記偏光膜の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、50nm〜300μmが好ましい。
【0022】
<基材>
前記基材としてはガラス(即ち、基材ガラス)が最も適している。これは、ガラスは風雨に晒される環境において乗り物の概略寿命である12年の耐久性を持ち、偏光を乱さない、と言う点において最も実績があるからである。しかし、最近では、ポリマーの板状成形物においてもノルボルネン系高分子等のように高耐久性であって等方性が高く偏光を乱しにくいプラスチックが提供されており、基材としてガラス以外を用いることも可能である。
【0023】
−基材ガラス−
前記基材ガラスとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、単層ガラス、合わせガラス、強化合わせガラス、複層ガラス、強化複層ガラス、合わせ複層ガラスなどが挙げられる。
このような基材ガラスを構成する板ガラスの種類としては、例えば透明板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、強化板ガラス、熱線反射板ガラス、熱線吸収板ガラス、Low−E板ガラス、その他各種板ガラスなどが挙げられる。
なお、前記基材ガラスは、透明ガラスであれば無色透明ガラス及び有色透明ガラスのどちらであってもよい。
前記基材ガラスの厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2mm〜20mmが好ましく、4mm〜10mmがより好ましい。
上記ガラス板は、同じ種類のものが複数枚用いられてもよいし、2種類以上のものが併用されてもよい。
【0024】
−合わせガラス−
前記合わせガラスは、2枚の板ガラスの間に中間層を介在させて一体化したものである。このような合わせガラスは、外部衝撃を受けて破損してもガラスの破片が飛散することがなく安全であるため、自動車等の乗り物のフロントガラス、建築物等の窓ガラスとして広く用いられている。自動車用合わせガラスの場合には、最近では軽量化を図るため相当薄いものが用いられており、1枚のガラスは厚みが1mm〜3mmであり、該ガラス2枚を厚みが0.3mm〜1mmの粘着層で貼り合わせて、合計厚み約3mm〜6mmの合わせガラスとしている。
【0025】
前記2枚の板ガラスとしては、上述した各種板ガラスを目的に応じて適宜使用することができる。
前記中間層に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力等の諸性能のバランスに優れた中間層が得られることから、ポリビニルアセタール系樹脂が特に好ましい。
【0026】
前記ポリビニルアセタール系樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール樹脂、PVAとn−ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂などが挙げられる。
前記ポリビニルアセタール系樹脂の合成に用いられるPVAとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、平均重合度が200〜5,000のものが好ましく、500〜3,000のものがより好ましい。前記平均重合度が200未満であると、得られるポリビニルアセタール系樹脂を用いた中間層の強度が弱くなりすぎることがあり、5,000を超えると、得られるポリビニルアセタール系樹脂を成形する際に不具合が生じることがある。
前記ポリビニルアセタール系樹脂は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アセタール化度が40モル%〜85モル%であるものが好ましく、50モル%〜75モル%のものがより好ましい。前記アセタール化度が40モル%未満又は85モル%を超えるポリビニルアセタール系樹脂は反応機構上、合成が困難となることがある。前記アセタール化度は、JIS K6728に準拠して測定することができる。
【0027】
前記中間層には、前記熱可塑性樹脂以外にも、必要に応じて例えば可塑剤、顔料、無機酸化物、無機窒化物、接着性調整剤、カップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱線遮蔽剤、耐湿性向上剤、導電性材料などを添加することができるし、上述の添加剤を含有する機能層を中間層の一部として積層してもよい。また、中間層の最表面に、例えば、特開2007−22089号公報に記載の方法によってエンボス加工を施しても、偏光層を始めとする機能層の性能には何ら問題はない。また、例えば、特開2008−37018号公報に記載されているような方法で、遮音特性を付与してもよい。
【0028】
本発明の偏光板は、映り込み防止、即ち可視光線反射率の低減に関する。したがって、本発明の効果を最大限に発現するためには、前記添加剤の可視光線重価平均透過率は、100%により近いことが好ましい。実際に合わせガラス用中間膜に用いられる上記添加剤の多くは、元々、各機能を発現しながらも、ガラスの色味に影響しないように、できる限り可視光線の波長域に吸収を持たせない設計となっているので、本発明においても、一般的に用いられている合わせガラス用中間膜添加剤の中から自由に選択して用いることが可能であるし、今後開発される機能性添加剤でも、可視光線の波長域に強い吸収や反射特性を持たない限り、基本的に共に用いることが可能であって、本発明による映り込み防止効果に悪影響は与えない。添加剤としては、例えば、特願2006−514110号明細書の段落番号〔0042〕〜〔0056〕に記載の可塑剤、接着力調整剤、紫外線吸収剤、特開2008−024538号公報(特願2006−197119号明細書)の段落番号〔0020〕〜〔0023〕、特願2006−531979号明細書の段落番号〔0023〕、〔0024〕に記載の赤外線遮蔽剤、特願2006−528948号明細書の段落番号〔0012〕〜〔0018〕に記載の耐湿性向上剤、などが挙げられる。
【0029】
前記中間層の成形方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、熱可塑性樹脂及びその他の成分を含有する組成物を均一に混練りした後、押出し法、カレンダー法、プレス法、キャスティング法、インフレーション法等の従来公知の方法によりシート状に作製する方法などが挙げられる。
前記中間層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.3mm〜1.6mmが好ましい。
本発明においては、前記中間層が、ガラスとの接着性のよい前述の熱可塑性樹脂及び/又は機能性樹脂からなる複数の膜が積層された合わせガラス用中間膜であって、偏光膜をその複数膜の積層体の一部又は全部として含有することが生産性、耐久性などの点から好ましい。なお、前記偏光膜は合わせガラスの片方の表面に設けることもできる。
【0030】
前記合わせガラスの作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、2枚の透明なガラス板の間に本発明の前記車両用前窓に用いられる偏光膜を中間層で挟み込み、この合わせガラス構成体を例えばゴムバッグのような真空バッグの中に入れ、この真空バッグを排気系に接続して、真空バッグ内の圧力が約−65〜−100kPaの減圧度となるように減圧吸引(脱気)しながら温度が約70℃〜110℃の予備接着を行った後、この予備接着された合わせガラス構成体をオートクレーブの中に入れ、温度120℃〜150℃、圧力0.98MPa〜1.47MPaの条件で加熱加圧して本接着を行うことにより、所望の合わせガラスを得ることができる。
【0031】
ここで、前記自動車用前窓に用いられる合わせガラスは、用いる板ガラスの常光の可視光線重価平均透過率(JIS R3106)が、85%以上100%未満であることが好ましく、90%以上100%未満であることがより好ましい。更に、合わせガラスの形態での常光の可視光線重価平均透過率は、70%以上85%以下となるように主として中間層の偏光層によって調整されていることが好ましく、70%により近いことが、映り込み防止の観点から、より好ましい。ここで、偏光層を含む本発明の合わせガラスの、常光の可視光線重価平均透過率は、上記合わせガラスの同一測定点において、入射する直線偏光の高吸収軸の角度を変えながら直線偏光透過率を測定し、直線偏光の重価平均透過率の最大値と最小値の平均を取ることで求められる。常光の可視光線重価平均透過率は、安全上、法規によって70%以上と定められており、85%以上となると、映り込み防止効果が十分に得られないことがある。また、合わせガラスの形態での厚みが3mm〜6mmであって、偏光特性に加えて、少なくとも紫外線吸収特性、熱線遮蔽性を有することが好ましい。紫外線吸収特性、熱線遮蔽性は、中間膜に付与してもよいし、ガラスに付与していてもよい。更には、合わせガラスの少なくとも一方の面に反射防止コーティングが施されていることがより好ましい。
【0032】
<反射防止膜>
前記反射防止膜は、前記基材の両面、又は水平基準面と向き合う側の最表面に有することが好ましい。
【0033】
前記反射防止膜は、実使用上充分な耐久性、耐熱性を有し、例えば60度入射での反射率を5%以下に抑えることができるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、(1)微細な表面凹凸を形成した膜、(2)高屈折率膜と低屈折率膜を組み合わせた2層膜の構成、(3)中屈折率膜、高屈折率膜、及び低屈折率膜を順次積層した3層膜構成などが挙げられる。これらの中でも、(2)及び(3)が特に好ましい。
これら反射防止膜は、基材ガラス表面に直接ゾルゲル法、スパッタリング法、蒸着法、CVD法などで形成してもよい。また、透明支持体上にディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法による塗布により反射防止膜を形成し、基材ガラス表面に反射防止膜を粘着又は接着してもよい。
【0034】
前記反射防止膜は、上述したとおり、透明支持体上に低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(高屈折率層)、及び低屈折率層(最外層)の順序の層構成からなることが好ましい。
低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも1層を2層とする場合には、透明支持体上に中屈折率層、高屈折率層、及び低屈折率層(最外層)の順序の層構成からなることが好ましい。このような構成の反射防止膜は、「高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率」の関係を満足する屈折率を有するように設計される。なお、各屈折率層の屈折率は相対的なものである。
【0035】
−透明支持体−
前記透明支持体としてプラスチックフィルムを用いることが好ましい。このプラスチックフィルムの材料の例としては、セルロースアシレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトンなどが挙げられる。
【0036】
−高屈折率層及び中屈折率層−
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒径100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子及びマトリックスバインダーを含有する硬化性膜からなることが好ましい。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
特に好ましくは、Co、Zr、Alから選ばれる少なくとも1つの元素を含有する二酸化チタンを主成分とする無機微粒子(以下、「特定の酸化物」と称することもある)が挙げられ、特に好ましい元素はCoである。
Tiに対する、Co、Al、Zrの総含有量は、Tiに対して0.05質量%〜30質量%であることが好ましく、0.1質量%〜10質量%がより好ましく、0.2質量%〜7質量%が更に好ましく、0.3質量%〜5質量%が特に好ましく、0.5質量%〜3質量%が最も好ましい。
Co、Al、Zrは、二酸化チタンを主成分とする無機微粒子の内部や表面に存在する。Co、Al、Zrが二酸化チタンを主成分とする無機微粒子の内部に存在することがより好ましく、内部と表面の両方に存在することが最も好ましい。これらの特定の金属元素は、酸化物として存在してもよい。
また、他の好ましい無機粒子として、チタン元素と酸化物が屈折率1.95以上となる金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素(以下、「Met」とも略称することもある)との複合酸化物の粒子で、かつ該複合酸化物は、Coイオン、Zrイオン、及びAlイオンから選ばれる金属イオンの少なくとも1種がドープされてなる無機微粒子(「特定の複酸化物」と称することもある)が挙げられる。
ここで、該酸化物の屈折率が1.95以上となる金属酸化物の金属元素としては、Ta、Zr、In、Nd、Sb,Sn、Biなど挙げられ、これらの中でも、Ta、Zr、Sn、Biが特に好ましい。
複合酸化物にドープされる金属イオンの含有量は、複合酸化物を構成する全金属[Ti+Met]量に対して、25質量%を超えない範囲で含有することが屈折率維持の観点から好ましく、0.05質量%〜10質量%がより好ましく、0.1質量%〜5質量%が更に好ましく、0.3質量%〜3質量%が最も好ましい。
ドープした金属イオンは、金属イオン、及び金属原子のいずれで存在してもよく、複合酸化物の表面から内部まで適宜に存在することが好ましい。表面と内部との両方に存在することがより好ましい。
【0037】
上記のような超微粒子とするには、粒子表面を表面処理剤で処理する方法、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とする方法、及び、特定の分散剤を併用する方法等が挙げられる。
粒子表面を表面処理剤で処理する方法に挙げられる表面処理剤としては、例えば、特開平11−295503号公報、特開平11−153703号公報、及び特開2000−9908号公報に記載されたシランカップリング剤等、特開2001−310432号公報等に記載されたアニオン性化合物又は有機金属カップリング剤が開示されている。
また、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とする方法としては、特開2001−166104号公報、及び米国特許公開2003/0202137号公報等に記載の技術を用いることができる。
更に、特定の分散剤を併用する方法は、特開平11−153703号公報、米国特許第6210858号明細書、及び特開2002−2776069号公報等に記載の技術が挙げられる。
【0038】
マトリックスを形成する材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば熱可塑性樹脂、硬化性樹脂などが挙げられる。
更に、ラジカル重合性及び/又はカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上含有の多官能性化合物含有組成物、加水分解性基を含有の有機金属化合物及びその部分縮合体組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、特開2001−315242号公報、特開2001−31871号公報、特開2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
また、金属アルコキシドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載されているものが挙げられる。
高屈折率層の屈折率は、1.70〜2.20であることが好ましい。高屈折率層の厚みは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることが更に好ましい。
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。中屈折率層の厚みは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることが更に好ましい。
【0039】
−低屈折率層−
前記低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層してなることが好ましい。前記低屈折率層の屈折率は、1.20〜1.55であることが好ましく、1.30〜1.50がより好ましい。
耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等からなる薄膜層の手段を適用できる。
【0040】
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50が好ましく、1.36〜1.47がより好ましい。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35質量%〜80質量%の範囲で含む架橋性、若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。
例えば、特開平9−222503号公報の段落番号[0018]〜[0026]、特開平11−38202号公報の段落番号[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報の段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報、及び特開2004−45462号公報等に記載の化合物が挙げられる。
シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基又は重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン〔例えばサイラプレーン(チッソ株式会社製)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)〕などが挙げられる。
【0041】
架橋又は重合性基を有する含フッ素及び/又はシロキサンのポリマーの架橋又は重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時又は塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。前記重合開始剤、及び前記増感剤としては、従来公知のものを用いることができる。
【0042】
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物又はその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、特開昭58−147483号公報、特開昭58−147484号公報、特開平9−157582号公報、特開平11−106704号公報等に記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、特開2001−48590号公報、特開2002−53804号公報に記載の化合物等)などが挙げられる。
前記低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム))等の一次粒子平均径が1nm〜150nmの低屈折率無機化合物を含有することが好ましい。
特に、前記低屈折率層はその屈折率上昇をより一層少なくするために、中空の無機微粒子を用いることが好ましい。中空の無機微粒子は屈折率が1.17〜1.40が好ましく、1.17〜1.37がより好ましく、1.17〜1.35が更に好ましい。ここでの屈折率は粒子全体としての屈折率を表し、中空の無機微粒子を形成している外殻のみの屈折率を表すものではない。
前記低屈折率層中の中空の無機微粒子の平均粒径は、該低屈折率層の厚みの30%以上100%以下であることが好ましく、前記低屈折率層の厚みの35%以上80%以下がより好ましく、前記低屈折率層の厚みの40%以上60%以下が更に好ましい。
即ち、前記低屈折率層の厚みが100nmであれば、無機微粒子の粒径は30nm以上100nm以下が好ましく、35nm以上80nm以下がより好ましく、40nm以上60nm以下が更に好ましい。
なお、これら中空の無機微粒子の屈折率はアッベ屈折率計(アタゴ株式会社製)にて測定を行うことができる。
【0043】
他の添加剤としては、特開平11−3820号公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
【0044】
前記低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されてもよいが、安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
前記低屈折率層の厚みは、30nm〜200nmであることが好ましく、50nm〜150nmであることがより好ましく、60nm〜120nmであることが更に好ましい。
【0045】
前記車両用前窓におけるその他の層としては、必要に応じて例えば、ハードコート層、前方散乱層、プライマー層、帯電防止層、下塗り層、保護層等を設けてもよい。
【0046】
<車両用前窓の用途等>
本発明の車両用前窓は、以上説明したように、基材面と水平基準面とが交わる線に対して高吸収軸が一定角度φ傾いた偏光膜を有し、優れた光線の反射抑制効果を有するので、各種車両用前窓として広く用いることができるが、特に、運転者の座席位置が前窓の中心から左右どちらかにずれた位置にあり(運転席が車両進行方向の右側、いわゆる右ハンドルの場合(図3A)と左ハンドル(図3B)で設定が逆になる)、前窓の傾斜角が小さい自動車の前窓に用いることが、車外側反射を少なくして、車内の筐体の反射像映り込みを防止できる点から特に好適である。
【0047】
本発明の車両用前窓は、以上説明したように、自動車等の車両の前窓に用いた場合には、車内のダッシュボード等の筐体の反射像や外灯等の映り込みを防止することができ、運転者の安全視界が確保される。また、従来は用いることのできなかった明るい色や絵柄の付いた意匠性の高いダッシュボードを用いることが可能になる。更に、自車の前窓と対向車の前窓とは偏光膜の高透過率方向が平行ではなくなるため、偏光膜を水平に置いた場合よりも、対向車内の様子が見えづらくなり、相互のプライバシーが守られるという利点も生まれる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
なお、以下の実施例及び比較例において、自動車前窓そのものの入射光の反射率を分光的に測定することは、その大きさのために困難であるので、分光器で測定可能な大きさ(縦50mm×横50mm、厚み1mm)のガラスを用いて行った。
【0050】
(実施例1)
−偏光板、φ15度−
ポリビニルアルコールフィルムを、室温の水に60秒間浸した後に、40℃のヨウ素(和光純薬工業株式会社製、0.033質量%)、及びヨウ化カリウム(和光純薬工業株式会社製、0.33質量%)水溶液に10秒間浸した。
次いで、60℃のホウ酸(和光純薬工業株式会社製、4.0質量%)、及びヨウ化カリウム(和光純薬工業株式会社製、4.0質量%)水溶液に60秒間浸し、5倍に延伸して、乾燥させて、偏光膜を作製した。
次に、白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)の片面に、水平基準面と基材面が交わる線と偏光膜の高吸収軸との角度φが15度となるように、偏光膜をパナック株式会社製の粘着剤PD−S1を用い、貼り付けて、偏光膜付きガラスを作製した。
得られた偏光膜付きガラスの反射率を、表1の入射角、及び入射光線のS偏光軸と偏光膜の高吸収軸とがなす角βで、以下のようにして測定した。結果を表1に示す。また、反射防止コーティングなしの各前窓材の比較結果を表2、角度φの違いの比較結果を表4に示す。
【0051】
<ガラスサンプルの反射率の測定>
傾斜角δが35度である自動車前窓より代表点を6点選び(図4参照)、その点で反射して運転者の目に入る光線の入射角と、入射光線のS偏光軸と偏光膜の高吸収軸とがなす角β(0度≦β≦90度)を表1に示すように求め、実施例1の絶対反射率を、紫外・可視分光光度計(日本分光株式会社製、V−560)、及び絶対反射率測定ユニット(日本分光株式会社製、ARV−474S)を用いて測定した。
なお、それぞれの反射率は、反射防止層がある場合には反射防止層側を入射面とし、反射防止層がない場合はガラス側を入射面として測定を行った。また、反射率は、白板ガラス及び反射防止コーティングを施した白板ガラスは650nm、その他は透過率が70%となる波長の光で測定した。
【0052】
(実施例2)
−偏光板、反射防止コーティング、φ15度−
白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)に、蒸着によってMgFの反射防止層を設けて作製した反射防止ガラスの反射防止層を設けていない側の面に、水平基準面と基材面が交わる線と偏光膜の高吸収軸との角度φが15度となるようにして、実施例1と同じ偏光膜を貼り付けて、偏光膜付き反射防止ガラスを作製した。
得られた偏光膜付き反射防止ガラスの反射率を、表1の入射角、及び入射光線のS偏光軸と偏光膜の高吸収軸とがなす角βで、実施例1と同様にして測定した。結果を表1、反射防止コーティングありの各前窓材の比較結果を表3に示す。
【0053】
(実施例3)
−偏光板、φ25度−
白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)に、水平基準面と基材面が交わる線と偏光膜の高吸収軸との角度φが25度となるようにして、実施例1と同じ偏光膜を貼り付けて偏光膜付き反射防止ガラスを作製した。
得られた偏光膜付きガラスの反射率を、表1の入射角、及び入射光線のS偏光軸と偏光膜の高吸収軸とがなす角βで、実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び表4に示す。
【0054】
(実施例4)
−偏光板、φ10度−
白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)に、水平基準面と基材面が交わる線と偏光膜の高吸収軸との角度φが10度となるようにして、実施例1と同じ偏光膜を貼り付けて偏光膜付き反射防止ガラスを作製した。
得られた偏光膜付きガラスの反射率を、表1の入射角、及び入射光線のS偏光軸と偏光膜の高吸収軸とがなす角βで、実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び表4に示す。
【0055】
(実施例5)
−偏光板、φ35度−
白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)に、水平基準面と基材面が交わる線と偏光膜の高吸収軸との角度φが35度となるようにして、実施例1と同じ偏光膜を貼り付けて偏光膜付き反射防止ガラスを作製した。
得られた偏光膜付きガラスの反射率を、表1の入射角、及び入射光線のS偏光軸と偏光膜の高吸収軸とがなす角βで、実施例1と同様にして測定した。結果を表1及び表4に示す。
【0056】
(比較例1)
白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)の反射率を、表1の入射角で測定した。表2に示す。
【0057】
(比較例2)
−白板ガラス、反射防止コーティング−
白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)の片面に、蒸着によってMgFの反射防止層を設けて作製した反射防止ガラスの反射率を、表1の入射角で測定した。結果を表3に示す。
【0058】
(比較例3)
−等方性着色膜−
アクリル系樹脂(東亞合成株式会社、アロンS1006)25質量%、及び有機色素(株式会社林原生物化学研究所製、G205)0.004質量%をトルエンに溶解し、該溶液をトリアセチルセルロースフィルムに塗布し、乾燥させて、等方性着色膜を作製した。
次に、白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)の片面に、等方性着色膜を貼り付け、着色膜付きガラスを作製した。
得られた着色膜付きガラスの反射率を、表1の入射角で測定した。結果を表2に示す。
【0059】
(比較例4)
−等方性着色膜、反射防止コーティング−
白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)の片面に、蒸着によってMgFの反射防止層を設けて作製した反射防止ガラスの、反射防止層を設けていない側の面に前記等方性着色膜を貼り付けることによって作製した、着色膜貼り付け反射防止ガラスの反射率を、表1の入射角で測定した。結果を表3に示す。
【0060】
(比較例5)
−偏光板、φ0度−
白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)に、水平基準面と基材面が交わる線と偏光膜の高吸収軸との角度φが0度となるようにして、実施例1と同じ偏光膜を貼り付けて偏光膜付き反射防止ガラスを作製した。
得られた偏光膜付きガラスの反射率を、表1の入射角、及び入射光線のS偏光軸と偏光膜の高吸収軸とがなす角βで、実施例1と同様にして測定した。結果を表1、表2、及び表4に示す。
【0061】
(比較例6)
−偏光板、反射防止コーティング、φ0度−
白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)に、水平基準面と基材面が交わる線と偏光膜の高吸収軸との角度φが0度となるようにして、実施例2と同じ偏光膜を貼り付けて偏光膜付き反射防止ガラスを作製した。
得られた偏光膜付きガラスの反射率を、表1の入射角、及び入射光線のS偏光軸と偏光膜の高吸収軸とがなす角βで、実施例1と同様にして測定した。結果を表1、及び表3に示す。
【0062】
(比較例7)
−偏光板、φ45度−
白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)に、水平基準面と基材面が交わる線と偏光膜の高吸収軸との角度φが45度となるようにして、実施例1と同じ偏光膜を貼り付けて偏光膜付き反射防止ガラスを作製した。
得られた偏光膜付きガラスの反射率を、表1の入射角、及び入射光線のS偏光軸と偏光膜の高吸収軸とがなす角βで、実施例1と同様にして測定した。結果を表1、及び表4に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

表2の結果から、実施例1の偏光板を15度傾けたものが比較例1の白板ガラスや比較例3の着色ガラス、比較例5の偏光板を水平に適用したものと比べ、最も反射率の平均値が低いことが分かった。
【0065】
【表3】

表3の結果から、表2の結果と同様に、反射防止コーティングを施しても、実施例2の偏光板を15度傾けたものが最も反射率の平均値が低いことが分かった。
【0066】
【表4】

表4の結果から、傾斜角δが35度の時、偏光板を10度〜35度傾けた実施例1、3、4、5が偏光板を傾けていない比較例5、偏光板を45度傾けた比較例7よりも、反射率の平均値が低いことが分かった。
実施例1、3、4、5を比較すると、最も平均の反射率の低い実施例1、3、5が好ましく、中でも、安全上重要視される運転者正面の領域である点5と点6の反射率が低い実施例1、3がより好ましく、点5と点6の反射率が最も低い実施例1が最も好ましい。
【0067】
(実施例6)
<金ナノロッドを用いた偏光板の作製>
−金ナノロッドの合成−
C.J.MurphyらのSeed−Mediated法〔J.Phys.Chem.B,105,4065(2001)〕を参照して、金ナノロッドの合成を行った。
まず、0.01MのHAuCl水溶液0.25mLを、界面活性剤としての0.1Mのセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)水溶液7.5mLに添加し、5分間攪拌した。氷冷した還元剤としての0.01MのNaBH水溶液0.6mLを一気に添加し、1分間激しく攪拌すると、溶液の色は薄黄色から薄茶色に変化し、金ナノロッドの種となる金ナノ粒子を得た。
次に、0.1MのCTAB水溶液4.75mL、0.01MのHAuCl水溶液0.2mL、及び0.01MのAgNO水溶液0.03mLを混合した溶液中に、0.1Mのアスコルビン酸水溶液0.032mLを添加し、攪拌すると、溶液の色が薄茶色から透明に変化した。この反応溶液に上記で得た種粒子溶液0.01mLを添加し、数回ゆっくり振り混ぜた後、12時間静置すると溶液の色が赤紫色になり、金ナノロッド水溶液が得られた。
得られた金ナノロッド水溶液には界面活性剤であるCTABが含まれているため、超遠心分離機による精製を行った。14,000rpmで12分間遠心分離処理すると金ナノロッドは沈降するため、上澄みを除去した後純水を添加し、更に14,000rpmで12分間遠心分離処理するする操作を3回繰り返した。上澄みを除去し、金ナノロッドの濃厚水溶液を得た。
得られた金ナノロッドの濃厚水溶液について、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、JEM−2010)で観察したところ、短軸長さ12nm、長軸長さ45nm、アスペクト比3.8の形状がほぼ単一な金ナノロッドであることが分かった。
【0068】
−金ナノロッドが分散したポリビニルアルコール水溶液の調製−
ポリビニルアルコール(PVA−224、株式会社クラレ製、鹸化度88%、質量平均重合度2400)を純水に溶解し、7.5質量%水溶液を調製した。そのポリビニルアルコール水溶液5gに、上記合成した金ナノロッド水溶液2gを添加、攪拌することにより、金ナノロッドが安定に分散したポリビニルアルコール水溶液を調製した。
【0069】
−金ナノロッドを含むポリビニルアルコール膜の作製−
次に、その金ナノロッドが分散したポリビニルアルコール水溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)フイルム上にバーコート塗布し、60℃で2時間乾燥させて、偏光層をPETフイルムより剥離することにより、乾燥厚み40μmの金ナノロッドを含むポリビニルアルコール膜を作製した。
【0070】
−延伸処理−
次に、その金ナノロッドを含むポリビニルアルコール膜を90℃で一軸延伸機によって4倍に延伸することによって、金ナノロッドの長軸が延伸方向に揃い、異方吸収を示す偏光膜を作製した。
【0071】
−金ナノロッドの配向性−
得られた偏光板の切片を透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、JEM−2010)で観察したところ、500個の金ナノロッドの80個数%以上が偏光層の水平面に対し±10度以内に配向していた。また、500個の金ナノロッドの80個数%以上が偏光層の延伸方向に対し±10度以内に配列していた。
【0072】
−反射防止効果−
実施例1と同様に、白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)に作製した金ナノロッド偏光膜を貼り付け、表1の実施例1と同じ入射角、角βで反射率を測定したところ、実施例1と全く等しい結果が得られた。
【0073】
(実施例7)
<反射率シミュレーション>
トヨタ自動車株式会社製クラウンセダンの前窓の大きさ、運転者のアイポイントとの距離を参考にして計算に用いた。ガラスの屈折率は1.52とし、以下の方法で、前窓傾斜角δ、偏光膜の高吸収軸の角度φ、偏光膜の配向度S、偏光膜の透過率Tをパラメータとして振り、計1512組の条件を設定して、ある傾斜角に対する、好適な偏光膜の高吸収軸の角度の計算を行ったところ、運転席側の領域の反射が色ガラスよりもよくなる偏光膜の高吸収軸の角度の大きさφの上限は42度であった。
また、ある傾斜角δにおいて前窓の全領域の反射率の合計が最小となる偏光膜の吸収軸の角度φは図5に示すように、例外なく、(0.00792×δ+0.0879δ+14.4)度±5度の範囲に入っていた。また、ある傾斜角δにおいて運転席側の領域の反射率の合計が色ガラスよりも強くならない範囲において、前窓全体での反射を最も低く抑制できる偏光膜の吸収軸の角度φの大きさは、図6に示すように、例外なく、(−0.0130×δ+1.03δ−2.46)度±5度の範囲に入っていた。
【0074】
以下に計算の方法を示す。
今、自動車の前窓が平面と見なせるものとし、運転者の視線と前窓の表面が垂直に交わる点を原点0(0,0)とする。更に運転者から見て右方向をX軸方向、上方向をY軸方向、原点0から運転者の目の位置である点Eへの方向をZ軸方向とし、点Eと原点0の距離を1とする。更に、前窓に角θ1で光が入射した時、屈折角がθ2であるとし、入射光線の前窓面内への写像と偏光膜の高吸収軸とのなす角をαと定義する。また、前窓に適用した偏光膜の厚さdに等しい距離だけ光が偏光膜中を進行した時にX軸、Y軸、Z軸に平行電場成分を有する光の各方向成分の透過率がそれぞれtx、ty、tzであるすると、前窓基材の透過率が1とみなせる時、入射光が前窓表面より進入してから前窓裏面の反射点に達するまでにS波成分の強度は、下記式(1)のように減衰される。
【数1】

また、P波成分の強度は、下記式(2)に示すように減衰される。
【数2】

【0075】
また、tx、ty、tzは、以下のようにして決定した。
前窓に垂直に光が入射した時の、実測の透過率は、表面反射による損失と、媒質の吸収による損失、反射光が再び界面で反射して出射してくることによる増大分を反映した値である。入射光が入射面から裏面までの間に媒質によって吸収される時、その透過率をtとし、車内側表面での反射率をr’、車外側表面での反射率をrとすると、多重反射を考慮した透過率Tは、下記式(3)となる。
【数3】

ここで、表面反射率r及びr’は基材の屈折率n2又はn3によって下記式(4)及び(5)の通り決まる。
【数4】

【0076】
ここで、r’としたのは、反射防止膜の特性を、屈折角は基材の屈折率に依存したままで、あたかも基材の屈折率が空気の屈折率に近いかのような反射を与える特殊な界面を与えるものとして扱うためである。つまり、反射防止膜を適用した場合、車内側表面での反射率は屈折率n3(n1<n3<n2)の基材と空気の界面に入射角θ1で光が入射したときの反射率に低減されるものとして扱い、屈折角はθ2のままであるとした。そのような扱いが可能なことは、実際に反射防止コーティングを施したガラス基板の表面反射率を測定し、計算値と比較することにより確かめた(図7参照、特性が完全に一致することは無いが、反射率を抑制する効果としては同様のものとして見ることができる)。
反射防止膜を適用しない系に関してはn3=n2とすればよい。したがって、パラメータとして、屈折率n2、n3と分光器による測定で現れるであろう透過率Tを決めると、前記式(3)、(4)、及び(5)よりtが求まる。
【0077】
ここで、tは、下記式(6)である。
【数5】

また、配向度Sは、下記式(7)である。
【数6】

ただし、Ahは高吸収軸の吸光度、Alは低吸収軸の吸光度である。
【0078】
下記式(8)の透過率と吸光度の関係から、tx及びtyの比が決定できる。
【数7】

本計算では、吸収の異方性は一軸異方性であるとし、下記式(9)とした。
【数8】

【0079】
以上のように、偏光膜の透過特性tx、ty、tzは、基材の屈折率、前窓の垂直入射の透過率、及び配向度によって求めることができる。
θ1≠0の時、S波、P波の表面での反射率rS、rPは、その値は共立出版株式会社、國分泰雄、「先端エレクトロニクスシリーズ6 光波工学」より、下記式(10)及び(11)である。
【数9】

【0080】
θ1、θ2は空気の屈折率n1、基材の屈折率をn2とすると、下記式(12)のスネルの法則により関係づけられる。
【数10】

【0081】
車内側表面と車外側表面の両方を考慮した反射率RS,Pは、下記式(13)である。
【数11】

ここで、r’S,Pは入射面での反射率を表し、前記式(12)のn2に見かけ上の屈折率n3を代入して求められるθ3を用いて、前記式(10)又は(11)によって計算できる。
【0082】
以上により、各点における反射率の計算に必要な材料はそろった。まず、前窓の座標は、トヨタ自動車株式会社製クラウンセダンの、前窓の大きさ、運転者のアイポイントとの距離を参考にして、n1=1.00、n2=1.52、lu=110cm、ld=140cm、h=65cm、el=60cm、ev=30cm、eh=25cmとした。
ここで、パラメータ(傾斜角δ、偏光膜の配向度S、前窓の透過率T、入射面の見かけ上の屈折率n3)を、20度≦δ≦50度、0.6≦S≦1.0、0.70≦T≦0.85、1.1≦n3≦1.6の範囲から、δを5度刻み、Sを0.05刻み、Tを0.05刻み、n3を0.1刻みで選び、計1512組について、運転席側の領域の反射率の合計が同じ透過率を有する色ガラスよりも小さくなる偏光膜の吸収軸の角度の大きさφをそれぞれの組で求めたところ、その最大値は41.3度であり、41.3度以下であれば、偏光膜を用いた方が同じ透過率の色ガラスよりも、前窓全体の反射率の合計が小さくなることが分かった。
更に、同条件で、前窓の全領域の反射率の合計が最小となる偏光膜の吸収軸の角度φを求め、横軸δ−縦軸φとしてプロットしたところ、各点は、h(δ)min≦φ≦h(δ)maxで表される範囲内に現れた。
【0083】
ここで、h(δ)min及びh(δ)maxは、下記式(14)及び(15)であり、h(δ)min及びh(δ)maxは共に(0.00792×δ+0.0879δ+14.4)度±5度の範囲内であった。
【数12】

【0084】
また、運転者の主たる視線は、車両の前方にあたる運転者正面であるため、この領域の反射はできる限り抑制しておくことが望ましい。そこで、前窓の運転者側の端(右ハンドルの車両の場合は右端)が、等方性の着色ガラスと同等以下の反射率を示し、かつ、前窓の全領域の反射率の合計が最小となるような偏光膜の吸収軸の角度φを求め、横軸δ―縦軸φとしてプロットしたところ、各点は、i(δ)min≦φ≦i(δ)maxで表される範囲内に現れた。
ここで、i(δ)min及びi(δ)maxは、下記式(16)及び(17)であり、i(δ)min及びi(δ)max共に、(―0.0130×δ+1.03δ―2.46)度±5度の範囲内であった。
【数13】

【0085】
(実施例8)
<偏光合わせガラスの作製>
−ポリビニルブチラール(PVB)樹脂の調製−
アセタール化度65モル%のポリビニルブチラール(PVB)樹脂60gを、キシレン1768gに、25℃で溶解させた。その後、n−ブチルアルデヒド95gを溶液に一括投入して5分間の攪拌により十分に混合し、次いで、35質量%塩酸溶液115gを15分間かけて滴下し混合した。これらを混合してから、30分間後、全系を0.5〜0.6℃/分の速度で60℃まで60分かけて昇温した。その後、この反応系を60℃で3時間恒温保持し、反応を完了させた。
反応完了後、反応混合物に重曹(樹脂固形分対比で60質量%)を溶解した水/メタノール(混合比1:1)を大過剰で添加した。その後、この樹脂を大過剰のメタノール中に落とし、樹脂を再沈殿させ、沈殿物を水洗し、乾燥を経て、ポリビニルブチラール樹脂の白色粉末を得た。
【0086】
−PVB樹脂膜の作製−
上記ポリビニルブチラール50gに、可塑剤としてトリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート15gを加え、この配合物をミキシングロールで十分に混練した。次いで、この混練物に酸化防止剤としてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.08gを添加した後、混練物の所定量をプレス成形機により150℃で30分間保持した。こうして、厚み0.38mmのPVB樹脂膜を得た。
【0087】
−偏光膜の作製−
偏光膜をガラス板に粘着剤で貼り付けなかった以外、実施例1の各工程と同様の操作を行い、偏光膜を得た。
【0088】
−偏光合わせガラスの作製−
前記得られた2枚のPVB樹脂膜と、偏光膜とを、積層構成がPVB樹脂膜/偏光膜/PVB樹脂膜になるように、重ね合わせて、3層の積層中間膜を得た。この中間膜をそれぞれ1辺10cmの正方形の厚み3mmの2枚のフロートガラスで両側からサンドイッチし、この未圧着サンドイッチ体をゴムバッグへ入れ、20torrの真空度で20分間脱気した後、脱気状態のまま90℃のオーブンに移し、この温度を30分間保持した。こうして真空プレスにより仮接着したサンドイッチ体を、次いでオートクレーブ中で圧力12kg/cm、温度135℃で熱圧着処理し、偏光合わせガラスを作製した。
【0089】
(実施例9)
<紫外線吸収特性を付与した偏光合わせガラスの作製>
PVB樹脂膜の作製工程でBHTの添加と同時に、紫外線吸収剤(チバガイギー社製、チヌビンPwo)0.08gを添加した以外は、実施例8の各工程と同様の操作を行い、紫外線吸収特性を付与した偏光合わせガラスを作製した。
【0090】
(実施例10)
<熱線遮蔽特性を付与した偏光合わせガラスの作製>
−熱線遮蔽微粒子分散可塑剤の調製−
可塑剤としてのトリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート15gと、錫ドープ酸化インジウム(ITO)微粒子6gを仕込み、これに分散剤として長鎖アルキリン酸エステル0.6gを添加して、水平型のマイクロビ−ズミルにて上記可塑剤中にITO微粒子を分散させて、熱線遮蔽微粒子分散可塑剤を調製した。この熱線遮蔽微粒子分散可塑剤中のITO微粒子の平均粒径は35nmであった。
【0091】
−熱線遮蔽特性を付与した合わせガラスの作製−
PVB樹脂膜の作製工程で、可塑剤としてのトリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート15gの代わりに上記で得られた熱線遮蔽微粒子分散可塑剤20gを用いた以外は、実施例8の各工程と同様の操作を行い、熱線遮蔽特性を付与した偏光合わせガラスを作製した。
【0092】
<映り込み防止効果の比較>
前記実施例8〜10で作製した合わせガラスを、白色マーカーで格子状の印をつけた黒い紙の上に、水平面から30度の角度に傾けて並べ、それぞれの合わせガラスに映り込んだ白色格子像の明度を目視によって比較した。その結果、紫外線吸収特性又は熱線遮蔽特性を付与した偏光合わせガラスも、それらを付与していない偏光合わせガラスとまったく同程度の映り込み明度しか示さず、紫外線吸収特性又は熱線遮蔽特性を付与しても、偏光合わせガラスの映り込み防止効果には悪影響を与えていないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の車両用前窓は、自動車等の運転席が車両正面から見て左右どちらかに寄って位置するような車両の前窓に好適に用いられ、車外側表面の反射による筐体等の反射像映り込みを、水平前方視界のみならず前窓のより広い範囲において低減することによって、安全性及び筐体の意匠性を向上させることができるので、特に自動車のフロントガラスに好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、右ハンドル車において前窓から反射して、運転者の目に入射する光のS偏光の偏光軸を車内側から見たときの概略図である。
【図2】図2は、右ハンドル車において水平基準面に対し水平に偏光膜の高吸収軸を設定した場合を示す概略図である。
【図3A】図3Aは、右ハンドル車において水平基準面と基材面が交わる線に対し偏光膜の高吸収軸が一定の傾きを有するように配置した場合を示す概略図である。
【図3B】図3Bは、図3Aにおいて左ハンドル車に適用した場合の、水平基準面と基材面が交わる線に対し偏光膜の高吸収軸が一定の傾きを有するように配置した場合を示す概略図である。
【図4】図4は、右ハンドル車において実施例における自動車前窓の反射率の測定点(6点)を示す図である。
【図5】図5は、実施例における反射率シミュレーションの結果を示すグラフであり、ある傾斜角δにおいて前窓の全領域の反射率の合計が最小となる偏光膜の吸収軸の角度φが、(0.00792×δ+0.0879δ+14.4)度±5度の範囲に入っていることを示す。
【図6】図6は、実施例における反射率シミュレーションの結果を示すグラフであり、ある傾斜角δにおいて運転席側の領域の反射率の合計が色ガラスよりも強くならない範囲において、前窓全体での反射を最も低く抑制できる偏光膜の吸収軸の角度φの大きさが、(−0.0130×δ+1.03δ−2.46)度±5度の範囲に入っていることを示す。
【図7】図7は、実際に反射防止コーティングを施したガラス基板の表面反射率を測定し、計算値と比較した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0095】
a S偏光の偏光軸
b 偏光膜の高吸収軸
c S偏光の偏光軸と偏光膜の高吸収軸が平行となる点を結んだ線(線が長いほど高吸収軸がS偏光軸と平行になる領域大)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材と偏光膜とを有し、水平基準面とのなす角δが20度以上50度以下である車両用前窓において、
前記水平基準面と前記基材面とが交わる線と、前記偏光膜の高吸収軸との角度φが、(−0.0130×δ+1.03δ−12.5)度≦φ≦(0.00792×δ+0.0879δ+24.4)度であることを特徴とする車両用前窓。
【請求項2】
角度φが、(0.00792×δ+0.0879δ+14.4)度±5度である請求項1に記載の車両用前窓。
【請求項3】
角度φが、(−0.0130×δ+1.03δ−2.46)度±5度である請求項1に記載の車両用前窓。
【請求項4】
基材の水平基準面と向き合う側の面に、偏光膜を有する請求項1から3のいずれかに記載の車両用前窓。
【請求項5】
基材が2枚の板ガラス間に中間層を有する合わせガラスであり、かつ該中間層が偏光膜を含む請求項1から3のいずれかに記載の車両用前窓。
【請求項6】
基材が高分子化合物であり、かつ該基材の表面及び内部のいずれかに偏光膜を有する請求項1から4のいずれかに記載の車両用前窓。
【請求項7】
両面及び水平基準面と向き合う側の最表面のいずれかに、反射防止膜を有する請求項1から6のいずれかに記載の車両用前窓。
【請求項8】
車両が、自動車である請求項1から7のいずれかに記載の車両用前窓。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2009−262918(P2009−262918A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308596(P2008−308596)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】