車両用動力伝達装置の制御装置
【課題】車両用動力伝達装置において、複数種類の燃料が供給される場合にまで対応して燃料消費率の低減を図ることができる制御装置を提供する。
【解決手段】基準燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料(例えば、エタノール混合燃料)によってエンジン8が駆動されたことにより、エンジントルクTEが、上記基準燃料により駆動されるときのエンジントルクTEよりも大きくなった場合に、差動状態制御手段88は、図7の非差動領域を上記基準燃料使用時のものに対して拡大する。従って、上記基準燃料を含め複数種類の燃料がエンジン8に供給される場合において、動力分配機構16を差動可能状態又は非差動状態に切り換える利点を、エンジン8の燃料種に応じて異なるエンジントルク特性に対応させて充分に活かすことができる。その結果として、例えば、エンジン8に複数種類の燃料が供給される場合にもそれに対応して燃料消費率の低減を図ることができる。
【解決手段】基準燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料(例えば、エタノール混合燃料)によってエンジン8が駆動されたことにより、エンジントルクTEが、上記基準燃料により駆動されるときのエンジントルクTEよりも大きくなった場合に、差動状態制御手段88は、図7の非差動領域を上記基準燃料使用時のものに対して拡大する。従って、上記基準燃料を含め複数種類の燃料がエンジン8に供給される場合において、動力分配機構16を差動可能状態又は非差動状態に切り換える利点を、エンジン8の燃料種に応じて異なるエンジントルク特性に対応させて充分に活かすことができる。その結果として、例えば、エンジン8に複数種類の燃料が供給される場合にもそれに対応して燃料消費率の低減を図ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置の制御装置に係り、内燃機関の駆動用として複数種類の燃料を用いるための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と駆動輪との間に連結された差動機構とその差動機構に連結された第1電動機とを有しその第1電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される差動部と、その差動部と上記駆動輪との間に連結された有段変速機と、その有段変速機の入力側に連結された第2電動機と、上記差動機構をその差動作用が不能な非差動状態とその差動作用が作動可能な差動可能状態とに選択的に切り換えることができる差動制限装置とを備えた車両用動力伝達装置が、従来から知られている。この車両用動力伝達装置はハイブリッド車両に好適に用いられ、例えば、特許文献1の車両用動力伝達装置がそれである。その特許文献1の車両用動力伝達装置の制御装置は、車速などをパラメータとした所定条件に基づき、上記差動制限装置を用いて上記差動機構を上記非差動状態と差動可能状態との何れかに切り換える。
【特許文献1】特開2005−273900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、一の内燃機関に対してその駆動用として複数の種類の燃料が用いられることがある。そして、上記内燃機関の駆動に用いる燃料が異なればその内燃機関の出力特性は異なる。例えば、ガソリン燃料にエタノールが混合されたエタノール混合燃料により上記内燃機関が駆動された場合には、上記ガソリン燃料によりその内燃機関が駆動された場合と比較して、耐ノッキング性能が向上するため上記内燃機関の点火時期が進角されて、その出力トルクが増大する傾向にある。従って、このように燃料種が変わればそのときの内燃機関の出力特性は変化するので、車両全体として運転効率を高く維持するためには、前記差動機構を前記非差動状態又は差動可能状態に切り換えるための前記所定条件は、上記燃料種が変わることによる上記内燃機関の出力特性の変化に応じて変更される必要がある。しかし、前記特許文献1の制御装置では、特に上記所定条件を変更するものではないので、複数種類の燃料が供給される場合にまで対応して燃料消費率の低減が図られているとは言えなかった。なお、このような課題は未公知である。
【0004】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、車両用動力伝達装置において、複数種類の燃料が供給される場合にまで対応して燃料消費率の低減を図ることができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る発明は、(a)内燃機関と駆動輪との間に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された電動機とを有しその電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記差動機構をその差動作用が不能な非差動状態とその差動作用が作動可能な差動可能状態とに選択的に切り換えることができる差動制限装置とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b)前記内燃機関を駆動するための燃料として予め定められた基準燃料とは異なる種類の燃料によってその内燃機関が駆動されたことにより、その内燃機関の出力トルクが、前記基準燃料により駆動されるときのその内燃機関の出力トルクよりも大きくなった場合には、前記差動制限装置に前記差動機構を前記非差動状態とさせることを決定するための非差動領域を、前記基準燃料によって前記内燃機関が駆動されるときの前記非差動領域に対して拡大する差動状態制御手段を、含むことを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明では、前記内燃機関の出力トルクに対抗する前記電動機の反力トルクに基づきその内燃機関の出力トルクが検出されることを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明では、車両が備える燃料タンク内の燃料が増加した場合に前記内燃機関の出力トルクが検出されることを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る発明では、車両が備える燃料タンクの燃料注入口を閉じるための蓋が開かれた場合に前記内燃機関の出力トルクが検出されることを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る発明では、前記内燃機関から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する自動変速部を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項6に係る発明では、前記自動変速部は、その変速比を段階的に変化させることができる有段変速部であることを特徴とする。
【0011】
請求項7に係る発明では、前記電気式差動部は、前記差動可能状態とされることにより、その変速比を連続的に変化させることができる無段変速機として機能することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、その制御装置に含まれる前記差動状態制御手段は、前記内燃機関を駆動するための燃料として予め定められた基準燃料とは異なる種類の燃料によってその内燃機関が駆動されたことにより、その内燃機関の出力トルクが、上記基準燃料により駆動されるときの上記内燃機関の出力トルクよりも大きくなった場合には、前記差動制限装置に前記差動機構を前記非差動状態とさせることを決定するための非差動領域を、上記基準燃料によって上記内燃機関が駆動されるときの上記非差動領域に対して拡大する。従って、上記内燃機関に上記基準燃料とは異なる種類の燃料が供給される場合すなわち複数種類の燃料が供給される場合において、上記差動機構を前記差動可能状態又は非差動状態に切り換える利点を、燃料種に応じて異なる上記内燃機関の出力特性に対応させて充分に活かすことができる。その結果として、例えば、上記内燃機関に複数種類の燃料が供給される場合にもそれに対応して燃料消費率の低減を図ることができる。
【0013】
ここで、好適には、前記基準燃料とは異なる種類の燃料は、エタノール、または、その基準燃料とエタノールとを混合した燃料である。また、上記基準燃料は、例えばガソリンである。
【0014】
また、好適には、前記差動状態制御手段は、前記燃料の種類が異なることに起因して前記内燃機関の出力トルクが大きくなるほど、前記非差動領域を拡大する。
【0015】
請求項2に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関の出力トルクに対抗する前記電動機の反力トルクに基づきその内燃機関の出力トルクが検出されるので、上記電動機の反力トルクをその電動機の制御電流値などから検出することにより、容易に上記内燃機関の出力トルクを検出できる。
【0016】
請求項3に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、車両が備える燃料タンク内の燃料が増加した場合に上記内燃機関の出力トルクが検出されるので、その出力トルクの検出が常に行われるわけではなく必要に応じて行われ、上記制御装置の負荷を軽減できる。
【0017】
請求項4に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、車両が備える燃料タンクの燃料注入口を閉じるための蓋が開かれた場合に上記内燃機関の出力トルクが検出されるので、その出力トルクの検出が常に行われるわけではなく必要に応じて行われ、上記制御装置の負荷を軽減できる。
【0018】
請求項5に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する自動変速部が設けられているので、その自動変速部がない場合と比較して、上記車両用動力伝達装置が変更できる変速比の変化量を大きくすることができ、良好な燃費性能を得ることができる。
【0019】
請求項6に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、上記自動変速部は、その変速比を段階的に変化させることができる有段変速部であるので、その自動変速部の大きさを余り大きくすること無く、その自動変速部の変速比の変化量を大きくすることができる。
【0020】
請求項7に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記電気式差動部は、前記差動可能状態とされることにより、その変速比を連続的に変化させることができる無段変速機として機能するので、その電気式差動部から出力される駆動トルクを滑らかに変化させることが可能である。尚、上記電気式差動部は、上記無段変速機として作動させる他に敢えて変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
【0021】
ここで、好適には、前記内燃機関と駆動輪との間の動力伝達経路において、内燃機関、前記電気式差動部、前記自動変速部、駆動輪の順に連結されている。
【0022】
また、好適には、前記差動機構は、前記内燃機関に動力伝達可能に連結された第1回転要素と前記電動機に動力伝達可能に連結された第2回転要素と前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第3回転要素とを有する遊星歯車装置であり、上記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、上記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、上記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つの遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0023】
また、好適には、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型の遊星歯車装置である。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0025】
本発明の制御装置は、例えばハイブリッド車両に用いられる。図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」と表す)を説明する骨子図である。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)を介して直接に連結された差動部11と、その差動部11と駆動輪38(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38(図6参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して左右の駆動輪38へ伝達する。
【0026】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
【0027】
本発明の電気式差動部に対応する差動部11は、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、その動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1は、反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備える。そして、駆動輪38に動力伝達可能に連結された第2電動機M2は、走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。第1電動機M1は本発明の電動機に対応する。
【0028】
本発明の差動機構に対応する動力分配機構16は、エンジン8と駆動輪38との間に連結された差動機構であって、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。切換ブレーキB0は本発明の差動制限装置に対応する。
【0029】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は差動部サンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動可能状態とされると差動部11も差動可能状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動可能状態とされると、動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び/又は第2電動機M2の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0030】
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられて差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて差動部サンギヤS0がケース12に連結させられると、動力分配機構16は差動部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、差動部リングギヤR0は差動部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0031】
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)を差動可能状態すなわち非ロック状態と非差動状態すなわちロック状態とに選択的に切り換える差動制限装置であると言える。表現を変えれば、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動可能状態例えば変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない変速状態例えば無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動をしないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能していると言える。
【0032】
自動変速部20は、その変速比(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)を段階的に変化させることができる有段式の自動変速機として機能し、図1に示すように、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成する変速部である。そして、自動変速部20は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備えている。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
【0033】
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0034】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0035】
以上のように構成された動力伝達装置10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、動力伝達装置10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0036】
例えば、動力伝達装置10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
【0037】
しかし、動力伝達装置10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
【0038】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0039】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0040】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(差動部サンギヤS0)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0041】
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動可能状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、車速Vに拘束される差動部リングギヤR0の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられる。また、切換クラッチC0の係合により差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって差動部サンギヤS0の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0042】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0043】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
【0044】
図4は、本発明に係る動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0045】
電子制御装置40には、図4に示す各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPWを示す信号、シフトポジションPSHを表す信号、レゾルバなどの回転速度センサにより検出される第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」という)及びその回転方向を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサ44(図1参照)により検出される第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」という)及びその回転方向を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、車速センサ46(図1参照)により検出される出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル41の操作量(アクセル開度)Accを示すアクセル開度信号、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各車輪の車輪速を示す車輪速信号、エンジン8の空燃比A/Fを示す信号などが、それぞれ供給される。なお、上記回転速度センサ44及び車速センサ46は回転速度だけでなく回転方向をも検出できるセンサであり、車両走行中に自動変速部20が中立ポジションである場合には車速センサ46によって車両の進行方向が検出される。
【0046】
また、上記電子制御装置40からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置43(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管95に備えられた電子スロットル弁96の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ97への駆動信号や燃料噴射装置98によるエンジン8の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置99によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42(図6参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0047】
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置48の一例を示す図である。このシフト操作装置48は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー49を備えている。
【0048】
そのシフトレバー49は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0049】
上記シフトレバー49の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路42が電気的に切り換えられる。
【0050】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0051】
具体的には、シフトレバー49が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー49が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー49が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー49が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0052】
図6は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段54は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された図7の実線および一点鎖線に示す関係(変速線図、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の変速を実行する。このとき、有段変速制御手段54は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令)を油圧制御回路42へ出力する。なお、アクセル開度Accと自動変速部20の要求出力トルクTOUT(図7の縦軸)とはアクセル開度Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUTも大きくなる対応関係にあることから、図7の変速線図の縦軸はアクセル開度Accであっても差し支えない。
【0053】
ハイブリッド制御手段52は、動力伝達装置10の前記無段変速状態すなわち差動部11の差動可能状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセルペダル操作量(アクセル開度)Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0054】
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、例えばエンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとをパラメータとする二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に定められたエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
【0055】
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0056】
ハイブリッド制御手段52は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置43に出力して必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、ハイブリッド制御手段52は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度信号Accに基づいてスロットルアクチュエータ97を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0057】
前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段56に予め記憶されている。
【0058】
そして、ハイブリッド制御手段52は、例えば図7の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT時すなわち低エンジントルクTE時、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0059】
ハイブリッド制御手段52は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部11の差動作用によりエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
【0060】
ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン8の作動状態を運転状態と停止状態との間で切り換える、すなわちエンジン8の始動および停止を行うエンジン始動停止制御手段66を備えている。このエンジン始動停止制御手段66は、ハイブリッド制御手段52により例えば図7の駆動力源切換線図から車両状態に基づいてモータ走行とエンジン走行と切換えが判断された場合に、エンジン8の始動または停止を実行する。
【0061】
例えば、エンジン始動停止制御手段66は、図7の実線Bの点a→点bに示すように、アクセルペダル41が踏込操作されて要求出力トルクTOUTが大きくなり車両状態がモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化した場合には、第1電動機M1に通電して第1電動機回転速度NM1を引き上げることで、すなわち第1電動機M1をスタータとして機能させることで、エンジン回転速度NEを引き上げ、所定のエンジン回転速度NE’例えば自律回転可能なエンジン回転速度NEで点火装置99により点火させるようにエンジン8の始動を行って、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行からエンジン走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段66は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き上げることでエンジン回転速度NEを速やかに所定のエンジン回転速度NE’まで引き上げてもよい。これにより、良く知られたアイドル回転速度NEIDL以下のエンジン回転速度領域における共振領域を速やかに回避できて始動時の振動が抑制される。
【0062】
また、エンジン始動停止制御手段66は、図7の実線Bの点b→点aに示すように、アクセルペダル41が戻されて要求出力トルクTOUTが小さくなり車両状態がエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、燃料噴射装置98により燃料供給を停止させるように、すなわちフューエルカットによりエンジン8の停止を行って、ハイブリッド制御手段52によるエンジン走行からモータ走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段66は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き下げることでエンジン回転速度NEを速やかに零乃至略零まで引き下げてもよい。これにより、上記共振領域を速やかに回避できて停止時の振動が抑制される。或いは、エンジン始動停止制御手段66は、フューエルカットより先に、第1電動機回転速度NM1を引き下げてエンジン回転速度NEを引き下げ、所定のエンジン回転速度NE’でフューエルカットするようにエンジン8の停止を行ってもよい。
【0063】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置60からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動してエンジン8の動力を補助するトルクアシストが可能である。よって、本実施例ではエンジン8と第2電動機M2との両方を走行用の駆動力源とする車両の走行はモータ走行ではなくエンジン走行に含まれるものとする。
【0064】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の運転状態を維持させることができる。例えば、車両停止時に蓄電装置60の充電残量SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる第2電動機回転速度NM2が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度NEが自律回転可能な回転速度以上に維持される。
【0065】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを任意の回転速度に維持させられる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52はエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速Vに拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。
【0066】
増速側ギヤ段判定手段62は、切換ブレーキB0を係合させるか否かを判定するために、例えば車両状態に基づいて、記憶手段56に予め記憶された前記図7に示す変速線図に従って動力伝達装置10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0067】
切換制御手段50は、車速Vおよび要求出力トルクTOUTなどで示される車両状態に基づいて前記差動状態切換装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、動力伝達装置10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とに選択的に切り換える、すなわち、動力分配機構16を前記差動可能状態と前記ロック状態とに選択的に切り換える。
【0068】
例えば、前記変速線図(図7参照)から動力伝達装置10の変速されるべき変速段が第5速ギヤ段であると増速側ギヤ段判定手段62により判定される場合、すなわち、図7において車速Vと要求出力トルクTOUTとの関係を示す点が第4速から第5速へのアップシフト線を越えた場合、換言すれば、上記関係を示す点が図7の有段制御領域(非差動領域)内に入った場合には、切換制御手段50は、差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させたまま切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する、すなわち、動力伝達装置10を前記有段変速状態に切り換える。また、図7には図示されていないが、動力伝達装置10が無段変速状態であるときに要求出力トルクTOUTが所定の判定出力トルクT1を超えた場合に、切換制御手段50は、切換クラッチC0を係合させて動力伝達装置10を有段変速状態に切り換えてもよい。このとき、例えば、上記判定出力トルクT1は、差動部11の変速比γ0を1に固定した方が燃料消費率を低減できるか否かを判断するために実験的に設定された判定値である。
【0069】
一方、動力伝達装置10の変速されるべき変速段が第5速ギヤ段ではないと増速側ギヤ段判定手段62により判定される場合、すなわち、図7において車速Vと要求出力トルクTOUTとの関係を示す点が第5速から第4速へのダウンシフト線を超えた越えた場合、換言すれば、上記関係を示す点が図7の無段制御領域(差動領域)内に入った場合には、切換制御手段50は、切換クラッチC0を解放させたまま切換ブレーキB0も解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する、すなわち、動力伝達装置10を前記無段変速状態に切り換える。このとき、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0070】
ここで前記図7について詳述すると、図7は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段56に予め記憶された関係(変速線図、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図7の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。そして、その変速線図では、第1速ギヤ段から第4速ギヤ段までの領域は、動力伝達装置10が前記無段変速状態に切り換えられる無段制御領域(差動領域)であり、第5速ギヤ段を示す領域は、動力伝達装置10が前記有段変速状態に切り換えられる有段制御領域(非差動領域)である。要するに、この図7の変速線図は、動力伝達装置10を無段変速状態もしくは有段変速状態に切り換えるための切換線図でもある。なお、図7の変速線図の上記アップシフト線及びダウンシフト線は、エンジン8を駆動するための燃料として例えばガソリンが用いられた場合にエンジン8及び動力伝達装置10が最適の作動状態となるように実験的に設定されたものである。そして、その設定された変速線図(切換線図)を設定したときの燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料例えばガソリン燃料にある程度の比率でエタノールが混合されたエタノール混合燃料が用いられた場合には、その燃料種に応じて上記アップシフト線及びダウンシフト線が変更されることがある。具体的に、第4速と第5速との間のアップシフト線及びダウンシフト線が変更される場合については後述する。
【0071】
差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段50は動力伝達装置10を優先的に有段変速状態としてもよい。
【0072】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクTE、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0073】
また、例えば図7に示す変速線図の第4速から第5速へのアップシフト線と第5速から第4速へのダウンシフト線とは、高速走行において動力伝達装置10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において動力伝達装置10が有段変速状態とされるように設定されている。
【0074】
これによって、例えば、車両の低中速走行では、動力伝達装置10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、高速走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上する。
【0075】
このように、本実施例の差動部11(動力伝達装置10)は無段変速状態と有段変速状態(定変速状態)とに選択的に切換え可能であって、前記切換制御手段50により車両状態に基づいて差動部11の切り換えるべき変速状態が判断され、差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。また、本実施例では、ハイブリッド制御手段52により車両状態に基づいてモータ走行或いはエンジン走行が実行されるが、このエンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン始動停止制御手段66によりエンジン8の始動または停止が行われる。
【0076】
ところで、エンジン8は基本的にはガソリンを燃料としているが、そのガソリン燃料にある程度の比率でエタノールが混合されたエタノール混合燃料がエンジン8を駆動するための燃料として用いられる場合がある。そこで、本実施例では、エンジン8の出力特性が上記燃料の種類(燃料種)に応じて変化するので、燃料消費率の低減等を目的として、動力伝達装置10を前記無段変速状態又は有段変速状態に切り換える切換条件が、燃料種に応じて異なるエンジン8の出力特性に対応して変更される。以下、その切換条件が変更される制御機能の要部について説明する。
【0077】
図6に戻り、燃料供給判断手段80は、車両が備える燃料タンク70内の燃料が増加したか否かを判断する。燃料タンク70内の燃料が増加しなければ、エタノールの混合比率が変更され、燃料種に応じてエンジン8の出力特性が変化することはないからである。ここで具体的に、燃料タンク70内の燃料が増加したか否かは例えば燃料タンク70の油量を検知する燃料計72からの信号により判断される。また、燃料タンク70に燃料が供給されるときは燃料タンク70の燃料注入口を閉じるための燃料注入口用蓋74が開かれるので、燃料供給判断手段80はその燃料注入口用蓋74の開閉を検知し、燃料タンク70の燃料注入口用蓋74が開かれた場合には、燃料タンク70内の燃料が増加したとみなして、その判断を肯定してもよい。
【0078】
伝達部材18と第1電動機M1とエンジン8とは差動部遊星歯車装置24を介して相互に連結されているので、前記エンジン走行中の動力伝達装置10が無段変速状態にある場合には伝達部材18を所定の回転速度で回転させるために、エンジントルクTEに対抗する反力トルクが第1電動機M1から出力されている。従って、この反力トルクが求まればエンジントルクTEを求めることができる。そこで、内燃機関出力トルク検出手段82は、燃料タンク70内の燃料が増加したとの判断を燃料供給判断手段80が肯定した場合に、インバータ58に与えられる制御量から求められる第1電動機M1に供給される電流値に基づいて上記反力トルクである第1電動機M1の出力トルクTM1(以下、「第1電動機トルクTM1」という)を算出し、この第1電動機トルクTM1、ギヤ比ρ0等に基づいて、エンジントルクTEを検出する。具体的には、エンジントルクTEと第1電動機トルクTM1とが0ではなく釣り合っている場合すなわち定常走行状態においては、下記の式(1)によってエンジントルクTEが算出(検出)される。なお、その式(1)の右辺にマイナス符号があるのはエンジントルクTEに対し第1電動機トルクTM1の方向が逆方向だからである。
TE=−TM1×(1+ρ0)/ρ0 ・・・(1)
【0079】
内燃機関出力トルク判断手段84は、エンジン8を駆動するための燃料として予め定められた基準燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料(例えば、エタノール混合燃料)によってエンジン8が駆動されたことにより、エンジントルクTEが、上記基準燃料により駆動されるときのエンジントルクTEよりも大きくなったか否かを判断する。具体的には以下のようにして判断する。
【0080】
上記基準燃料によりエンジン8が駆動されるときのエンジントルクTE(以下、「基準エンジントルクTE_std」と表す)と、エンジン回転速度NEやスロットル弁開度θTHなどのエンジン出力に関わる状態量との関係である基準エンジントルク線図が実験的に求められており、内燃機関出力トルク判断手段84は、その基準エンジントルク線図を予め記憶している。そして、内燃機関出力トルク検出手段82が第1電動機トルクTM1等に基づいてエンジントルクTEを検出した後、内燃機関出力トルク判断手段84は、上記内燃機関出力トルク検出手段82が検出したエンジントルクTE(以下、「実エンジントルクTAE」と表す)と基準エンジントルクTE_stdとを、上記エンジン回転速度NEやスロットル弁開度θTHなどの状態量を等しくした条件のもとで比較し、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きいか否かを判断する。このとき燃料が前記基準燃料のままであったとしても、エンジントルクTEは基準エンジントルクTE_stdに対してある程度ばらつくことを考慮することが望ましい。そこで、内燃機関出力トルク判断手段84は、上記基準エンジントルクTE_stdを基準とした所定のばらつき範囲を外れて、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きいか否かを判断する。このようにして、例えば、内燃機関出力トルク判断手段84により実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きいと判断されたとした場合には、上記実エンジントルクTAEは燃料タンク70内の燃料が増加したとの判断を燃料供給判断手段80が肯定した場合に検出されたものであることから、前記基準燃料とは異なる種類の燃料によってエンジン8が駆動されたことにより、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きくなったものと判断できる。
【0081】
図7の変速線図(切換線図)に示すように、切換ブレーキB0(差動制限装置)を係合させることにより動力分配機構16を非差動状態とさせることを決定するための非差動領域が記憶手段56に予め記憶されている。例えば、エンジン8を駆動するための燃料として前記基準燃料(例えば、ガソリン)が用いられる場合の変速線図(切換線図)が基準として記憶されている。そして、上記基準燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料(例えば、エタノール混合燃料)によってエンジン8が駆動されたことにより、エンジントルクTEが、上記基準燃料により駆動されるときのエンジントルクTEよりも大きくなった場合、すなわち、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きくなったとの判断が内燃機関出力トルク判断手段84によって肯定された場合に、差動状態制御手段88は、記憶手段56に記憶されている前記非差動領域を、前記基準燃料によってエンジン8が駆動されるときの非差動領域に対して拡大する。具体的に、差動状態制御手段88は、図7の第4速から第5速へのアップシフト線及び第5速から第4速へのダウンシフト線の全部または一部をずらすことにより上記非差動領域の拡大を行うが、図7の変速線図の第4速から第5速へのアップシフト線を例として説明すれば、その変速線図の第4速から第5速へのアップシフト線の一部を拡大表示した図8において、差動状態制御手段88は、内燃機関出力トルク判断手段84によってその判断が肯定された場合に、図8の矢印AR1で示すように、非差動領域と差動領域とを分ける境界線である図8のアップシフト線を実線で示すものから破線で示すものへとずらすことにより、上記基準燃料使用時(例えば、ガソリン使用時)の非差動領域に対してその非差動領域を拡大する。なお、差動状態制御手段88が上記非差動領域を拡大した場合には、その拡大後の非差動領域に従って、前記増速側ギヤ段判定手段62はその判定を行い、且つ、前記切換制御手段50は動力分配機構16を前記差動可能状態と非差動状態とに選択的に切り換える。
【0082】
上記差動状態制御手段88は上記非差動領域を拡大するに際し、内燃機関出力トルク判断手段84の判断が否定された場合の非差動領域と、それよりも領域が拡大された上記判断が肯定された場合の非差動領域とを予め定めておき、それらを選択的に切り換えてもよいが、例えば、内燃機関出力トルク判断手段84の判断を経ずに、エンジントルクTEが燃料の種類が異なることに起因して大きくなるほど、具体的には、内燃機関出力トルク検出手段82により検出されるエンジントルクTEが大きくなるほど、前記非差動領域を連続的に又は段階的に拡大してもよい。
【0083】
ここで、燃料消費率低減の観点から、上記有段制御領域(非差動領域)においては例えば第1電動機M1が電力を消費しないという長所がある一方エンジン8を例えば前記最適燃費率曲線に沿って作動させることができないという短所がある。また、上記無段制御領域(差動領域)においては例えばエンジン8を上記最適燃費率曲線に沿って作動させることができるという長所がある一方第1電動機M1が電力を消費するという短所がある。そこで、これらの長所及び短所、すなわち動力伝達装置10の効率が燃費に及ぼす影響及びエンジン8の効率が燃費に及ぼす影響を総合的に考慮して燃費が向上するように前記拡大がされる前後の非差動領域は決定されている。
【0084】
差動状態制御手段88は、内燃機関出力トルク判断手段84がその判断を否定した場合には、記憶手段56に記憶されている前記基準燃料使用時の非差動領域を変更せず、図7の変速線図に示される非差動領域は上記基準燃料使用時のものとされる。
【0085】
図9は、電子制御装置40の制御作動の要部、すなわち、燃料種に応じて非差動領域を変更する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0086】
先ず、燃料供給判断手段80に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、車両が備える燃料タンク70内の燃料が増加したか否かが判断され、その判断が肯定された場合にはSA2に移り、その判断が否定された場合にはこのフローチャートの制御作動は終了する。ここで具体的に、燃料タンク70の燃料が増加したか否かは例えば燃料タンクの油量を検知する燃料計72からの信号により判断される。また、燃料タンク70に燃料が供給されるときは燃料タンク70の燃料注入口用蓋74が開かれるので、この燃料注入口用蓋74が開かれたことが検知された場合には燃料タンク70の燃料が増加したと判断されるようにしてもよい。
【0087】
内燃機関出力トルク検出手段82に対応するSA2においては、インバータ58に与えられる制御量から求められる第1電動機M1に供給される電流値に基づいて前記反力トルクである第1電動機トルクTM1が検出され、この第1電動機トルクTM1、ギヤ比ρ0等に基づいて、エンジントルクTE(実エンジントルクTAE)が算出される。具体的には、エンジントルクTEと第1電動機トルクTM1とが0ではなく釣り合っている場合すなわち定常走行状態においては、前記式(1)によってエンジントルクTEが算出される。
【0088】
内燃機関出力トルク判断手段84に対応するSA3においては、前記基準燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料(例えば、エタノール混合燃料)によってエンジン8が駆動されたことにより、エンジントルクTE(実エンジントルクTAE)が、上記基準燃料により駆動されるときのエンジントルクTE(基準エンジントルクTE_std)よりも大きくなったか否か、具体的には、前記SA2で算出された実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きいか否かが判断される。つまり、エンジントルク特性が上記基準燃料使用時のそれに対してエンジントルクTEの増大方向にずれたか否かが判断される。このとき、エンジン8に使用する燃料が上記基準燃料のままであったとしても、エンジントルクTEは基準エンジントルクTE_stdに対してある程度ばらつくことが考慮されて、SA3の判断がなされる。このSA3の判断が肯定された場合、すなわち、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きい場合には、SA4に移る。一方、このSA3の判断が否定された場合には、SA5に移る。
【0089】
差動状態制御手段88に対応するSA4においては、図7に示される前記非差動領域、すなわち、切換ブレーキB0の係合により動力分配機構16が非差動状態とされるB0ロック領域が、前記基準燃料によってエンジン8が駆動されるときの非差動領域(B0ロック領域)に対して拡大される。
【0090】
差動状態制御手段88に対応するSA5においては、図7に示される前記非差動領域(B0ロック領域)は拡大されず基準燃料使用時のまま、前記基準燃料によってエンジン8が駆動されるときの非差動領域(B0ロック領域)とされる。
【0091】
本実施例には次のような効果(A1)乃至(A7)がある。(A1)図10は、エンジン回転速度NEとエンジントルクTEとの関係であるエンジントルク特性を示す図であり、実線で示す曲線L_stdはエンジン8がガソリンで駆動された場合のエンジントルク特性(スロットル弁開度θTH=100%)であり、二点鎖線で示す曲線L_ethはエンジン8が前記エタノール混合燃料で駆動された場合のエンジントルク特性(スロットル弁開度θTH=100%)である。図10において、動力伝達装置10のギヤ段が第5速ギヤ段である場合を例として説明すると、図10の前記エンジン動作点が第5速動作線に沿うようにエンジン8が作動させられる。このとき、エンジン8の燃料がガソリンである場合には第5速動作線が曲線L_stdと交差する点P_stdが、エンジン動作点を第5速動作線に沿わせつつ、切換ブレーキB0がロックされる非差動状態でエンジン8を作動させる高車速側の限界となる。しかし、エンジン8の燃料が上記エタノール混合燃料である場合にはガソリンである場合との比較で、耐ノッキング性能が向上しエンジン点火時期が進角されるので、全体としてエンジントルクTEが大きくなる傾向にある。そのため、エンジン8用の燃料がガソリンから上記エタノール混合燃料に変更されると、切換ブレーキB0がロックされる非差動状態でエンジン8を第5速動作線に沿って作動させる高車速側の限界を示すエンジン動作点が、点P_stdから、第5速動作線が曲線L_ethと交差する点P_ethにまでずれ、第5速においてその第5速動作線上でより高いエンジントルクTEを出力させることが可能となる。換言すれば、エンジン8用の燃料がガソリンから上記エタノール混合燃料に変更された場合には、第5速ギヤ段で、すなわち、切換ブレーキB0がロックされる非差動状態で、第5速動作線にエンジン動作点が沿うようにしつつ、点P_stdを通る等パワー曲線L_perが示すエンジン出力(単位は、例えば「kW」)よりも高いエンジン出力を発揮させることが可能になる。このことから、エンジン8の燃料種に応じてエンジントルク特性が変わるのであれば、それに応じて切換ブレーキB0をロックする非差動領域も変更した方が、そのエンジントルク特性を充分に活用し燃料消費率の低減等に貢献できるものと考えられる。この点、本実施例によれば、前記基準燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料(例えば、エタノール混合燃料)によってエンジン8が駆動されたことにより、エンジントルクTE(TAE)が、上記基準燃料により駆動されるときのエンジントルクTE(TE_std)よりも大きくなった場合、すなわち、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きくなったとの判断が内燃機関出力トルク判断手段84によって肯定された場合に、差動状態制御手段88は、記憶手段56に記憶されている前記非差動領域を、前記基準燃料によってエンジン8が駆動されるときの非差動領域に対して拡大する。従って、エンジン8に上記基準燃料とは異なる種類の燃料が供給される場合すなわち複数種類の燃料が供給される場合において、動力分配機構16を前記差動可能状態又は非差動状態に切り換える利点を、エンジン8の燃料種に応じて異なるエンジントルク特性すなわちエンジンの出力特性に対応させて、充分に活かすことができる。その結果として、例えば、エンジン8に複数種類の燃料が供給される場合にもそれに対応して燃料消費率の低減を図ることができる。
【0092】
(A2)本実施例によれば、内燃機関出力トルク検出手段82は、インバータ58に与えられる制御量から求められる第1電動機M1に供給される電流値に基づいて上記反力トルクである第1電動機トルクTM1を算出し、この第1電動機トルクTM1、ギヤ比ρ0等に基づいてエンジントルクTEを検出するので、上記第1電動機M1に供給される電流値などから第1電動機トルクTM1を算出することにより、容易にエンジントルクTEを検出できる。
【0093】
(A3)本実施例によれば、内燃機関出力トルク検出手段82は、燃料タンク70内の燃料が増加したとの判断を燃料供給判断手段80が肯定した場合に、第1電動機トルクTM1、ギヤ比ρ0等に基づいてエンジントルクTEを検出するので、そのエンジントルクTEの検出が常に行われるわけではなく必要に応じて行われ、電子制御装置40の負荷を軽減できる。
【0094】
(A4)本実施例によれば、燃料供給判断手段80はその燃料注入口用蓋74の開閉を検知し、燃料タンク70の燃料注入口用蓋74が開かれた場合には、燃料タンク70内の燃料が増加したとみなして、その判断を肯定してもよく、更に、内燃機関出力トルク検出手段82は、燃料供給判断手段80がその判断を肯定した場合に、第1電動機トルクTM1、ギヤ比ρ0等に基づいてエンジントルクTEを検出するので、そのエンジントルクTEの検出が常に行われるわけではなく必要に応じて行われ、電子制御装置40の負荷を軽減できる。また、燃料タンク70内の燃料増加を直接検出するよりも、燃料供給判断手段80はその判断を容易に行うことが可能である。
【0095】
(A5)本実施例によれば、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成する自動変速部20が動力伝達装置10には設けられているので、その自動変速部20がない場合と比較して、動力伝達装置10が変更できるトータル変速比γTの変化量を大きくすることができ、良好な燃費性能を得ることができる。
【0096】
(A6)本実施例によれば、自動変速部20は、その変速比を段階的に変化させることができる有段変速部であるので、自動変速部20の大きさを余り大きくすること無く、自動変速部20の変速比の変化量を大きくすることができる。
【0097】
(A7)本実施例によれば、差動部11は、切換クラッチC0と切換ブレーキB0との両方が解放された前記差動可能状態とされることにより、その変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するので、差動部11から出力される駆動トルクを滑らかに変化させることが可能である。
【0098】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0099】
例えば、前述の実施例においては、第5速ギヤ段がそのまま動力分配機構16の前記非差動領域であったが、動力伝達装置10の何れかのギヤ段と上記非差動領域とが一致している必要は無い。
【0100】
また、前述の実施例において、動力分配機構16は、非差動状態とするために切換ブレーキB0と切換クラッチC0とを備えているが、切換クラッチC0は無くてもよい。
【0101】
また、前述の実施例においては、図7において車速Vと要求出力トルクTOUTとの関係を示す点が前記非差動領域(有段制御領域)内にある場合には、切換ブレーキB0が係合されて動力分配機構16はエンジン回転速度NEを増速するが、動力分配機構16の非差動状態がエンジン回転速度NEを増速するものである必要はない。
【0102】
また、前述の実施例では、切換ブレーキB0が本発明の差動制限装置に対応するが、差動制限装置はブレーキやクラッチなどの係合装置に限定されるものではない。例えば、切換ブレーキB0を係合する替わりに第1電動機M1を電気的に回転できなくした場合には、その第1電動機M1が上記差動制限装置に相当することになる。
【0103】
また、前述の実施例においては、図7に示すように、前記非差動領域は、車速Vと自動変速部20の要求出力トルクTOUTとの関係によって定められているが、別の状態量、例えば、エンジン回転速度NE、エンジントルクTE、スロットル弁開度θTHなどの関係によって定められてもよい。
【0104】
また、前述の実施例においては、第1電動機トルクTM1に基づいてエンジントルクTEが検出されるが、これと異なる方法でエンジントルクTEが検出されても差し支えない。
【0105】
また、前述の実施例において、動力伝達装置10はハイブリッド車両の一部であるが、本発明は図1に示すようなギヤトレーンに限って適用されるわけではなく、本発明はハイブリッド車両以外の車両にも適用され得る。
【0106】
また、前述の実施例では、ガソリンと前記エタノール混合燃料とが選択的にエンジン8に供給される場合、すなわち、エンジン8に供給される燃料の主成分はガソリンで同一である場合について説明したが、このように、上記燃料の主成分が常に同一であるという必要はない。
【0107】
また、前述の実施例においては、エンジン8に供給されるガソリン燃料にエタノールが混合された場合を説明しているが、例えば、エンジン8用の燃料としては、軽油や水素やエタノール等そのもの或いはそれらを主成分とする混合燃料であってもよい。また、添加する燃料はエタノールに限定されるものではない。
【0108】
また、前述の実施例においては、動力伝達装置10は第2電動機M2を備えているが、第2電動機M2が無い構成も考え得る。
【0109】
また、前述の実施例においては、差動部11と駆動輪38との間の動力伝達経路に自動変速部20が設けられていたが、自動変速部20を備えていない動力伝達装置10も考え得る。
【0110】
また、前述の実施例の図9に示すフローチャートにおいて、SA1とSA2の順序が逆であっても差し支えない。
【0111】
また、前述の実施例の図9に示すフローチャートにおいて、SA1の判断が肯定された場合にSA2以降のステップが実行されるが、SA1の無いフローチャート、すなわち、SA1の判断に拘わらずSA2以降のステップが実行されるフローチャートも考え得る。
【0112】
また、前述の実施例においては、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0113】
また、前述の実施例の動力伝達装置10においてエンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0114】
また、前述の実施例の動力伝達装置10において第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0115】
また前述の実施例では、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20が連結されているが、自動変速部20の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
【0116】
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20は直列に連結されているが、動力伝達装置10全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0117】
また、前述の実施例において動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0118】
また前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪38への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2つの遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0119】
また前述の実施例においては、自動変速部20は有段の自動変速機として機能する変速部であるが、無段のCVTであってもよいし、手動変速機として機能する変速部であってもよい。
【0120】
また、前述の実施例における切換クラッチC0及び切換ブレーキB0等の油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチ等の磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
【0121】
また前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0122】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0123】
また、前述の実施例においてエンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0124】
また、前述の実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0125】
また、前述の実施例において自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0126】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0127】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪38までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
【0128】
また前述の実施例において、動力分配機構16が切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えているが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は動力分配機構16とは別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。
【0129】
また前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とは別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。
【0130】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用動力伝達装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1の車両用動力伝達装置において、車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、動力伝達装置を無段変速状態もしくは有段変速状態に切り換えるための切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図7の有段制御領域(非差動領域)が図6の差動状態制御手段88によって拡大される点を説明するために、図7の第4速から第5速へのアップシフト線の一部を拡大表示した図である。
【図9】図4の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、燃料種に応じて図7の非差動領域を変更する制御作動を説明するフローチャートである。
【図10】図1のエンジンを駆動するための燃料としてガソリンにエタノールが混合されたエタノール混合燃料が用いられた場合に、エンジン回転速度とエンジントルクとの関係であるエンジントルク特性が、上記燃料としてガソリンが用いられた場合との比較でエンジントルクの増大方向にずれることの影響を説明するためのエンジントルク特性図である。
【符号の説明】
【0132】
8:エンジン(内燃機関)
10:動力伝達装置(車両用動力伝達装置)
11:差動部(電気式差動部)
16:動力分配機構(差動機構)
20:自動変速部
38:駆動輪
40:電子制御装置(制御装置)
70:燃料タンク
74:燃料注入口用蓋(蓋)
88:差動状態制御手段
M1:第1電動機(電動機)
B0:切換ブレーキ(差動制限装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用動力伝達装置の制御装置に係り、内燃機関の駆動用として複数種類の燃料を用いるための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と駆動輪との間に連結された差動機構とその差動機構に連結された第1電動機とを有しその第1電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される差動部と、その差動部と上記駆動輪との間に連結された有段変速機と、その有段変速機の入力側に連結された第2電動機と、上記差動機構をその差動作用が不能な非差動状態とその差動作用が作動可能な差動可能状態とに選択的に切り換えることができる差動制限装置とを備えた車両用動力伝達装置が、従来から知られている。この車両用動力伝達装置はハイブリッド車両に好適に用いられ、例えば、特許文献1の車両用動力伝達装置がそれである。その特許文献1の車両用動力伝達装置の制御装置は、車速などをパラメータとした所定条件に基づき、上記差動制限装置を用いて上記差動機構を上記非差動状態と差動可能状態との何れかに切り換える。
【特許文献1】特開2005−273900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、近年、一の内燃機関に対してその駆動用として複数の種類の燃料が用いられることがある。そして、上記内燃機関の駆動に用いる燃料が異なればその内燃機関の出力特性は異なる。例えば、ガソリン燃料にエタノールが混合されたエタノール混合燃料により上記内燃機関が駆動された場合には、上記ガソリン燃料によりその内燃機関が駆動された場合と比較して、耐ノッキング性能が向上するため上記内燃機関の点火時期が進角されて、その出力トルクが増大する傾向にある。従って、このように燃料種が変わればそのときの内燃機関の出力特性は変化するので、車両全体として運転効率を高く維持するためには、前記差動機構を前記非差動状態又は差動可能状態に切り換えるための前記所定条件は、上記燃料種が変わることによる上記内燃機関の出力特性の変化に応じて変更される必要がある。しかし、前記特許文献1の制御装置では、特に上記所定条件を変更するものではないので、複数種類の燃料が供給される場合にまで対応して燃料消費率の低減が図られているとは言えなかった。なお、このような課題は未公知である。
【0004】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、車両用動力伝達装置において、複数種類の燃料が供給される場合にまで対応して燃料消費率の低減を図ることができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る発明は、(a)内燃機関と駆動輪との間に連結された差動機構とその差動機構に動力伝達可能に連結された電動機とを有しその電動機の運転状態が制御されることによりその差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記差動機構をその差動作用が不能な非差動状態とその差動作用が作動可能な差動可能状態とに選択的に切り換えることができる差動制限装置とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、(b)前記内燃機関を駆動するための燃料として予め定められた基準燃料とは異なる種類の燃料によってその内燃機関が駆動されたことにより、その内燃機関の出力トルクが、前記基準燃料により駆動されるときのその内燃機関の出力トルクよりも大きくなった場合には、前記差動制限装置に前記差動機構を前記非差動状態とさせることを決定するための非差動領域を、前記基準燃料によって前記内燃機関が駆動されるときの前記非差動領域に対して拡大する差動状態制御手段を、含むことを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明では、前記内燃機関の出力トルクに対抗する前記電動機の反力トルクに基づきその内燃機関の出力トルクが検出されることを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明では、車両が備える燃料タンク内の燃料が増加した場合に前記内燃機関の出力トルクが検出されることを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る発明では、車両が備える燃料タンクの燃料注入口を閉じるための蓋が開かれた場合に前記内燃機関の出力トルクが検出されることを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る発明では、前記内燃機関から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する自動変速部を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項6に係る発明では、前記自動変速部は、その変速比を段階的に変化させることができる有段変速部であることを特徴とする。
【0011】
請求項7に係る発明では、前記電気式差動部は、前記差動可能状態とされることにより、その変速比を連続的に変化させることができる無段変速機として機能することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、その制御装置に含まれる前記差動状態制御手段は、前記内燃機関を駆動するための燃料として予め定められた基準燃料とは異なる種類の燃料によってその内燃機関が駆動されたことにより、その内燃機関の出力トルクが、上記基準燃料により駆動されるときの上記内燃機関の出力トルクよりも大きくなった場合には、前記差動制限装置に前記差動機構を前記非差動状態とさせることを決定するための非差動領域を、上記基準燃料によって上記内燃機関が駆動されるときの上記非差動領域に対して拡大する。従って、上記内燃機関に上記基準燃料とは異なる種類の燃料が供給される場合すなわち複数種類の燃料が供給される場合において、上記差動機構を前記差動可能状態又は非差動状態に切り換える利点を、燃料種に応じて異なる上記内燃機関の出力特性に対応させて充分に活かすことができる。その結果として、例えば、上記内燃機関に複数種類の燃料が供給される場合にもそれに対応して燃料消費率の低減を図ることができる。
【0013】
ここで、好適には、前記基準燃料とは異なる種類の燃料は、エタノール、または、その基準燃料とエタノールとを混合した燃料である。また、上記基準燃料は、例えばガソリンである。
【0014】
また、好適には、前記差動状態制御手段は、前記燃料の種類が異なることに起因して前記内燃機関の出力トルクが大きくなるほど、前記非差動領域を拡大する。
【0015】
請求項2に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関の出力トルクに対抗する前記電動機の反力トルクに基づきその内燃機関の出力トルクが検出されるので、上記電動機の反力トルクをその電動機の制御電流値などから検出することにより、容易に上記内燃機関の出力トルクを検出できる。
【0016】
請求項3に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、車両が備える燃料タンク内の燃料が増加した場合に上記内燃機関の出力トルクが検出されるので、その出力トルクの検出が常に行われるわけではなく必要に応じて行われ、上記制御装置の負荷を軽減できる。
【0017】
請求項4に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、車両が備える燃料タンクの燃料注入口を閉じるための蓋が開かれた場合に上記内燃機関の出力トルクが検出されるので、その出力トルクの検出が常に行われるわけではなく必要に応じて行われ、上記制御装置の負荷を軽減できる。
【0018】
請求項5に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記内燃機関から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する自動変速部が設けられているので、その自動変速部がない場合と比較して、上記車両用動力伝達装置が変更できる変速比の変化量を大きくすることができ、良好な燃費性能を得ることができる。
【0019】
請求項6に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、上記自動変速部は、その変速比を段階的に変化させることができる有段変速部であるので、その自動変速部の大きさを余り大きくすること無く、その自動変速部の変速比の変化量を大きくすることができる。
【0020】
請求項7に係る発明の車両用動力伝達装置の制御装置によれば、前記電気式差動部は、前記差動可能状態とされることにより、その変速比を連続的に変化させることができる無段変速機として機能するので、その電気式差動部から出力される駆動トルクを滑らかに変化させることが可能である。尚、上記電気式差動部は、上記無段変速機として作動させる他に敢えて変速比を段階的に変化させて有段変速機として作動させることも可能である。
【0021】
ここで、好適には、前記内燃機関と駆動輪との間の動力伝達経路において、内燃機関、前記電気式差動部、前記自動変速部、駆動輪の順に連結されている。
【0022】
また、好適には、前記差動機構は、前記内燃機関に動力伝達可能に連結された第1回転要素と前記電動機に動力伝達可能に連結された第2回転要素と前記駆動輪に動力伝達可能に連結された第3回転要素とを有する遊星歯車装置であり、上記第1回転要素はその遊星歯車装置のキャリヤであり、上記第2回転要素はその遊星歯車装置のサンギヤであり、上記第3回転要素はその遊星歯車装置のリングギヤである。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つの遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【0023】
また、好適には、前記遊星歯車装置はシングルピニオン型の遊星歯車装置である。このようにすれば、前記差動機構の軸心方向寸法が小さくなる。また、差動機構が1つのシングルピニオン型遊星歯車装置によって簡単に構成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0025】
本発明の制御装置は、例えばハイブリッド車両に用いられる。図1は、本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」と表す)を説明する骨子図である。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)を介して直接に連結された差動部11と、その差動部11と駆動輪38(図6参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪38(図6参照)との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)36および一対の車軸等を順次介して左右の駆動輪38へ伝達する。
【0026】
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。
【0027】
本発明の電気式差動部に対応する差動部11は、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、その動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1と、伝達部材18と一体的に回転するように設けられている第2電動機M2とを備えている。なお、第1電動機M1および第2電動機M2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、動力分配機構16の差動状態を制御するための差動用電動機として機能する第1電動機M1は、反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備える。そして、駆動輪38に動力伝達可能に連結された第2電動機M2は、走行用の駆動力源として駆動力を出力する走行用電動機として機能するためモータ(電動機)機能を少なくとも備える。第1電動機M1は本発明の電動機に対応する。
【0028】
本発明の差動機構に対応する動力分配機構16は、エンジン8と駆動輪38との間に連結された差動機構であって、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24と、切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。切換ブレーキB0は本発明の差動制限装置に対応する。
【0029】
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。また、切換ブレーキB0は差動部サンギヤS0とケース12との間に設けられ、切換クラッチC0は差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動可能状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、動力分配機構16が差動可能状態とされると差動部11も差動可能状態とされ、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度/伝達部材18の回転速度)が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。このように動力分配機構16が差動可能状態とされると、動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1電動機M1及び/又は第2電動機M2の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
【0030】
この状態で、上記切換クラッチC0或いは切換ブレーキB0が係合させられると動力分配機構16は前記差動作用をしないすなわち差動作用が不能な非差動状態とされる。具体的には、上記切換クラッチC0が係合させられて差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが一体的に係合させられると、動力分配機構16は差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0が共に回転すなわち一体回転させられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、エンジン8の回転と伝達部材18の回転速度とが一致する状態となるので、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて差動部サンギヤS0がケース12に連結させられると、動力分配機構16は差動部サンギヤS0が非回転状態とさせられるロック状態とされて前記差動作用が不能な非差動状態とされることから、差動部11も非差動状態とされる。また、差動部リングギヤR0は差動部キャリヤCA0よりも増速回転されるので、動力分配機構16は増速機構として機能するものであり、差動部11(動力分配機構16)は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態すなわち有段変速状態とされる。
【0031】
このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)を差動可能状態すなわち非ロック状態と非差動状態すなわちロック状態とに選択的に切り換える差動制限装置であると言える。表現を変えれば、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、差動部11(動力分配機構16)を電気的な差動装置として作動可能な差動可能状態例えば変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する電気的な無段変速作動可能な無段変速状態と、電気的な無段変速作動しない変速状態例えば無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する電気的な無段変速作動をしないすなわち電気的な無段変速作動不能な定変速状態(非差動状態)、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える差動状態切換装置として機能していると言える。
【0032】
自動変速部20は、その変速比(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)を段階的に変化させることができる有段式の自動変速機として機能し、図1に示すように、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成する変速部である。そして、自動変速部20は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備えている。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
【0033】
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。このように、自動変速部20と伝達部材18とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間すなわち差動部11(伝達部材18)と駆動輪38との間の動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
【0034】
前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用有段式自動変速機においてよく用いられている油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
【0035】
以上のように構成された動力伝達装置10では、例えば、図2の係合作動表に示されるように、前記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)乃至第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構16に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、差動部11は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、動力伝達装置10では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた差動部11と自動変速部20とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置10は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、差動部11も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
【0036】
例えば、動力伝達装置10が有段変速機として機能する場合には、図2に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば全てのクラッチ及びブレーキC0,C1,C2,B0,B1,B2,B3が解放される。
【0037】
しかし、動力伝達装置10が無段変速機として機能する場合には、図2に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
【0038】
図3は、無段変速部或いは第1変速部として機能する差動部11と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、3本の横線のうちの下側の横線X1が回転速度零を示し、上側の横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
【0039】
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
【0040】
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8に連結されるとともに切換クラッチC0を介して第2回転要素(差動部サンギヤS0)RE2と選択的に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してケース12に選択的に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部(有段変速部)20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
【0041】
例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態(差動可能状態)に切換えられたときは、第1電動機M1の回転速度を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転が上昇或いは下降させられると、車速Vに拘束される差動部リングギヤR0の回転速度が略一定である場合には、直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられる。また、切換クラッチC0の係合により差動部サンギヤS0と差動部キャリヤCA0とが連結されると、動力分配機構16は上記3回転要素が一体回転する非差動状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で伝達部材18が回転させられる。或いは、切換ブレーキB0の係合によって差動部サンギヤS0の回転が停止させられると動力分配機構16は増速機構として機能する非差動状態とされるので、直線L0は図3に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0すなわち伝達部材18の回転速度は、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で自動変速部20へ入力される。
【0042】
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
【0043】
自動変速部20では、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸22の回転速度が示される。上記第1速乃至第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転速度NEと同じ回転速度で第8回転要素RE8に差動部11すなわち動力分配機構16からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、差動部11からの動力がエンジン回転速度NEよりも高い回転速度で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸22の回転速度が示される。
【0044】
図4は、本発明に係る動力伝達装置10を制御するための制御装置である電子制御装置40に入力される信号及びその電子制御装置40から出力される信号を例示している。この電子制御装置40は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1電動機M1、第2電動機M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
【0045】
電子制御装置40には、図4に示す各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPWを示す信号、シフトポジションPSHを表す信号、レゾルバなどの回転速度センサにより検出される第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」という)及びその回転方向を表す信号、レゾルバなどの回転速度センサ44(図1参照)により検出される第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」という)及びその回転方向を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、車速センサ46(図1参照)により検出される出力軸22の回転速度NOUTに対応する車速V及び車両の進行方向を表す信号、自動変速部20の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダル41の操作量(アクセル開度)Accを示すアクセル開度信号、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各車輪の車輪速を示す車輪速信号、エンジン8の空燃比A/Fを示す信号などが、それぞれ供給される。なお、上記回転速度センサ44及び車速センサ46は回転速度だけでなく回転方向をも検出できるセンサであり、車両走行中に自動変速部20が中立ポジションである場合には車速センサ46によって車両の進行方向が検出される。
【0046】
また、上記電子制御装置40からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置43(図6参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管95に備えられた電子スロットル弁96の開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ97への駆動信号や燃料噴射装置98によるエンジン8の各気筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置99によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、電動機M1およびM2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路42(図6参照)に含まれる電磁弁を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路42の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0047】
図5は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置48の一例を示す図である。このシフト操作装置48は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー49を備えている。
【0048】
そのシフトレバー49は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて上記自動変速制御における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
【0049】
上記シフトレバー49の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路42が電気的に切り換えられる。
【0050】
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
【0051】
具体的には、シフトレバー49が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー49が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー49が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー49が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
【0052】
図6は、電子制御装置40による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、有段変速制御手段54は、自動変速部20の変速を行う変速制御手段として機能するものである。例えば、有段変速制御手段54は、記憶手段56に予め記憶された図7の実線および一点鎖線に示す関係(変速線図、変速マップ)から車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断し、すなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の変速を実行する。このとき、有段変速制御手段54は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を除いた油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令)を油圧制御回路42へ出力する。なお、アクセル開度Accと自動変速部20の要求出力トルクTOUT(図7の縦軸)とはアクセル開度Accが大きくなるほどそれに応じて上記要求出力トルクTOUTも大きくなる対応関係にあることから、図7の変速線図の縦軸はアクセル開度Accであっても差し支えない。
【0053】
ハイブリッド制御手段52は、動力伝達装置10の前記無段変速状態すなわち差動部11の差動可能状態においてエンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速において、運転者の出力要求量としてのアクセルペダル操作量(アクセル開度)Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
【0054】
ハイブリッド制御手段52は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段52は、例えばエンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとをパラメータとする二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に定められたエンジン8の動作曲線の一種である最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)を予め記憶しており、その最適燃費率曲線にエンジン8の動作点(以下、「エンジン動作点」と表す)が沿わされつつエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御する。ここで、上記エンジン動作点とは、エンジン回転速度NE及びエンジントルクTEなどで例示されるエンジン8の動作状態を示す状態量を座標軸とした二次元座標においてエンジン8の動作状態を示す動作点である。
【0055】
このとき、ハイブリッド制御手段52は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ58を通して蓄電装置60や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ58を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。
【0056】
ハイブリッド制御手段52は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ97により電子スロットル弁96を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置98による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置99による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置43に出力して必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、ハイブリッド制御手段52は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度信号Accに基づいてスロットルアクチュエータ97を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0057】
前記図7の実線Aは、車両の発進/走行用(以下、走行用という)の駆動力源をエンジン8と電動機例えば第2電動機M2とで切り換えるための、言い換えればエンジン8を走行用の駆動力源として車両を発進/走行(以下、走行という)させる所謂エンジン走行と第2電動機M2を走行用の駆動力源として車両を走行させる所謂モータ走行とを切り換えるための、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この図7に示すエンジン走行とモータ走行とを切り換えるための境界線(実線A)を有する予め記憶された関係は、車速Vと駆動力関連値である出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された駆動力源切換線図(駆動力源マップ)の一例である。この駆動力源切換線図は、例えば同じ図7中の実線および一点鎖線に示す変速線図(変速マップ)と共に記憶手段56に予め記憶されている。
【0058】
そして、ハイブリッド制御手段52は、例えば図7の駆動力源切換線図から車速Vと要求出力トルクTOUTとで示される車両状態に基づいてモータ走行領域とエンジン走行領域との何れであるかを判断してモータ走行或いはエンジン走行を実行する。このように、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行は、図7から明らかなように一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT時すなわち低エンジントルクTE時、或いは車速Vの比較的低車速時すなわち低負荷域で実行される。
【0059】
ハイブリッド制御手段52は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御例えば空転させて、差動部11の差動作用によりエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
【0060】
ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン8の作動状態を運転状態と停止状態との間で切り換える、すなわちエンジン8の始動および停止を行うエンジン始動停止制御手段66を備えている。このエンジン始動停止制御手段66は、ハイブリッド制御手段52により例えば図7の駆動力源切換線図から車両状態に基づいてモータ走行とエンジン走行と切換えが判断された場合に、エンジン8の始動または停止を実行する。
【0061】
例えば、エンジン始動停止制御手段66は、図7の実線Bの点a→点bに示すように、アクセルペダル41が踏込操作されて要求出力トルクTOUTが大きくなり車両状態がモータ走行領域からエンジン走行領域へ変化した場合には、第1電動機M1に通電して第1電動機回転速度NM1を引き上げることで、すなわち第1電動機M1をスタータとして機能させることで、エンジン回転速度NEを引き上げ、所定のエンジン回転速度NE’例えば自律回転可能なエンジン回転速度NEで点火装置99により点火させるようにエンジン8の始動を行って、ハイブリッド制御手段52によるモータ走行からエンジン走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段66は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き上げることでエンジン回転速度NEを速やかに所定のエンジン回転速度NE’まで引き上げてもよい。これにより、良く知られたアイドル回転速度NEIDL以下のエンジン回転速度領域における共振領域を速やかに回避できて始動時の振動が抑制される。
【0062】
また、エンジン始動停止制御手段66は、図7の実線Bの点b→点aに示すように、アクセルペダル41が戻されて要求出力トルクTOUTが小さくなり車両状態がエンジン走行領域からモータ走行領域へ変化した場合には、燃料噴射装置98により燃料供給を停止させるように、すなわちフューエルカットによりエンジン8の停止を行って、ハイブリッド制御手段52によるエンジン走行からモータ走行へ切り換える。このとき、エンジン始動停止制御手段66は、第1電動機回転速度NM1を速やかに引き下げることでエンジン回転速度NEを速やかに零乃至略零まで引き下げてもよい。これにより、上記共振領域を速やかに回避できて停止時の振動が抑制される。或いは、エンジン始動停止制御手段66は、フューエルカットより先に、第1電動機回転速度NM1を引き下げてエンジン回転速度NEを引き下げ、所定のエンジン回転速度NE’でフューエルカットするようにエンジン8の停止を行ってもよい。
【0063】
また、ハイブリッド制御手段52は、エンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置60からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動してエンジン8の動力を補助するトルクアシストが可能である。よって、本実施例ではエンジン8と第2電動機M2との両方を走行用の駆動力源とする車両の走行はモータ走行ではなくエンジン走行に含まれるものとする。
【0064】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止状態又は低車速状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によってエンジン8の運転状態を維持させることができる。例えば、車両停止時に蓄電装置60の充電残量SOCが低下して第1電動機M1による発電が必要となった場合には、エンジン8の動力により第1電動機M1が発電させられてその第1電動機M1の回転速度が引き上げられ、車速Vで一意的に決められる第2電動機回転速度NM2が車両停止状態により零(略零)となっても動力分配機構16の差動作用によってエンジン回転速度NEが自律回転可能な回転速度以上に維持される。
【0065】
また、ハイブリッド制御手段52は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを任意の回転速度に維持させられる。例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段52はエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速Vに拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。
【0066】
増速側ギヤ段判定手段62は、切換ブレーキB0を係合させるか否かを判定するために、例えば車両状態に基づいて、記憶手段56に予め記憶された前記図7に示す変速線図に従って動力伝達装置10の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。
【0067】
切換制御手段50は、車速Vおよび要求出力トルクTOUTなどで示される車両状態に基づいて前記差動状態切換装置(切換クラッチC0、切換ブレーキB0)の係合/解放を切り換えることにより、動力伝達装置10を前記無段変速状態と前記有段変速状態とに選択的に切り換える、すなわち、動力分配機構16を前記差動可能状態と前記ロック状態とに選択的に切り換える。
【0068】
例えば、前記変速線図(図7参照)から動力伝達装置10の変速されるべき変速段が第5速ギヤ段であると増速側ギヤ段判定手段62により判定される場合、すなわち、図7において車速Vと要求出力トルクTOUTとの関係を示す点が第4速から第5速へのアップシフト線を越えた場合、換言すれば、上記関係を示す点が図7の有段制御領域(非差動領域)内に入った場合には、切換制御手段50は、差動部11が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させたまま切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧制御回路42へ出力する、すなわち、動力伝達装置10を前記有段変速状態に切り換える。また、図7には図示されていないが、動力伝達装置10が無段変速状態であるときに要求出力トルクTOUTが所定の判定出力トルクT1を超えた場合に、切換制御手段50は、切換クラッチC0を係合させて動力伝達装置10を有段変速状態に切り換えてもよい。このとき、例えば、上記判定出力トルクT1は、差動部11の変速比γ0を1に固定した方が燃料消費率を低減できるか否かを判断するために実験的に設定された判定値である。
【0069】
一方、動力伝達装置10の変速されるべき変速段が第5速ギヤ段ではないと増速側ギヤ段判定手段62により判定される場合、すなわち、図7において車速Vと要求出力トルクTOUTとの関係を示す点が第5速から第4速へのダウンシフト線を超えた越えた場合、換言すれば、上記関係を示す点が図7の無段制御領域(差動領域)内に入った場合には、切換制御手段50は、切換クラッチC0を解放させたまま切換ブレーキB0も解放させる指令を油圧制御回路42へ出力する、すなわち、動力伝達装置10を前記無段変速状態に切り換える。このとき、切換制御手段50により無段変速状態に切り換えられた差動部11が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部20の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部20に入力される回転速度すなわち伝達部材18の回転速度が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置10全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
【0070】
ここで前記図7について詳述すると、図7は自動変速部20の変速判断の基となる記憶手段56に予め記憶された関係(変速線図、変速マップ)であり、車速Vと駆動力関連値である要求出力トルクTOUTとをパラメータとする二次元座標で構成された変速線図の一例である。図7の実線はアップシフト線であり一点鎖線はダウンシフト線である。そして、その変速線図では、第1速ギヤ段から第4速ギヤ段までの領域は、動力伝達装置10が前記無段変速状態に切り換えられる無段制御領域(差動領域)であり、第5速ギヤ段を示す領域は、動力伝達装置10が前記有段変速状態に切り換えられる有段制御領域(非差動領域)である。要するに、この図7の変速線図は、動力伝達装置10を無段変速状態もしくは有段変速状態に切り換えるための切換線図でもある。なお、図7の変速線図の上記アップシフト線及びダウンシフト線は、エンジン8を駆動するための燃料として例えばガソリンが用いられた場合にエンジン8及び動力伝達装置10が最適の作動状態となるように実験的に設定されたものである。そして、その設定された変速線図(切換線図)を設定したときの燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料例えばガソリン燃料にある程度の比率でエタノールが混合されたエタノール混合燃料が用いられた場合には、その燃料種に応じて上記アップシフト線及びダウンシフト線が変更されることがある。具体的に、第4速と第5速との間のアップシフト線及びダウンシフト線が変更される場合については後述する。
【0071】
差動部11を電気的な無段変速機として作動させるための電動機等の電気系の制御機器の故障や機能低下時、例えば第1電動機M1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機M1、第2電動機M2、インバータ58、蓄電装置60、それらを接続する伝送路などの故障(フェイル)や、故障とか低温による機能低下が発生したような車両状態となる場合には、無段制御領域であっても車両走行を確保するために切換制御手段50は動力伝達装置10を優先的に有段変速状態としてもよい。
【0072】
前記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪38での駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部20の出力トルクTOUT、エンジントルクTE、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル弁開度θTH(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転速度NEとに基づいて算出されるエンジントルクTEなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度等に基づいて算出される要求(目標)エンジントルクTE、自動変速部20の要求(目標)出力トルクTOUT、要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTOUT等からデフ比、駆動輪38の半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。
【0073】
また、例えば図7に示す変速線図の第4速から第5速へのアップシフト線と第5速から第4速へのダウンシフト線とは、高速走行において動力伝達装置10が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において動力伝達装置10が有段変速状態とされるように設定されている。
【0074】
これによって、例えば、車両の低中速走行では、動力伝達装置10が無段変速状態とされて車両の燃費性能が確保されるが、高速走行では動力伝達装置10が有段の変速機として作動する有段変速状態とされ専ら機械的な動力伝達経路でエンジン8の出力が駆動輪38へ伝達されて電気的な無段変速機として作動させる場合に発生する動力と電気エネルギとの間の変換損失が抑制されて燃費が向上する。
【0075】
このように、本実施例の差動部11(動力伝達装置10)は無段変速状態と有段変速状態(定変速状態)とに選択的に切換え可能であって、前記切換制御手段50により車両状態に基づいて差動部11の切り換えるべき変速状態が判断され、差動部11が無段変速状態と有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換えられる。また、本実施例では、ハイブリッド制御手段52により車両状態に基づいてモータ走行或いはエンジン走行が実行されるが、このエンジン走行とモータ走行とを切り換えるために、エンジン始動停止制御手段66によりエンジン8の始動または停止が行われる。
【0076】
ところで、エンジン8は基本的にはガソリンを燃料としているが、そのガソリン燃料にある程度の比率でエタノールが混合されたエタノール混合燃料がエンジン8を駆動するための燃料として用いられる場合がある。そこで、本実施例では、エンジン8の出力特性が上記燃料の種類(燃料種)に応じて変化するので、燃料消費率の低減等を目的として、動力伝達装置10を前記無段変速状態又は有段変速状態に切り換える切換条件が、燃料種に応じて異なるエンジン8の出力特性に対応して変更される。以下、その切換条件が変更される制御機能の要部について説明する。
【0077】
図6に戻り、燃料供給判断手段80は、車両が備える燃料タンク70内の燃料が増加したか否かを判断する。燃料タンク70内の燃料が増加しなければ、エタノールの混合比率が変更され、燃料種に応じてエンジン8の出力特性が変化することはないからである。ここで具体的に、燃料タンク70内の燃料が増加したか否かは例えば燃料タンク70の油量を検知する燃料計72からの信号により判断される。また、燃料タンク70に燃料が供給されるときは燃料タンク70の燃料注入口を閉じるための燃料注入口用蓋74が開かれるので、燃料供給判断手段80はその燃料注入口用蓋74の開閉を検知し、燃料タンク70の燃料注入口用蓋74が開かれた場合には、燃料タンク70内の燃料が増加したとみなして、その判断を肯定してもよい。
【0078】
伝達部材18と第1電動機M1とエンジン8とは差動部遊星歯車装置24を介して相互に連結されているので、前記エンジン走行中の動力伝達装置10が無段変速状態にある場合には伝達部材18を所定の回転速度で回転させるために、エンジントルクTEに対抗する反力トルクが第1電動機M1から出力されている。従って、この反力トルクが求まればエンジントルクTEを求めることができる。そこで、内燃機関出力トルク検出手段82は、燃料タンク70内の燃料が増加したとの判断を燃料供給判断手段80が肯定した場合に、インバータ58に与えられる制御量から求められる第1電動機M1に供給される電流値に基づいて上記反力トルクである第1電動機M1の出力トルクTM1(以下、「第1電動機トルクTM1」という)を算出し、この第1電動機トルクTM1、ギヤ比ρ0等に基づいて、エンジントルクTEを検出する。具体的には、エンジントルクTEと第1電動機トルクTM1とが0ではなく釣り合っている場合すなわち定常走行状態においては、下記の式(1)によってエンジントルクTEが算出(検出)される。なお、その式(1)の右辺にマイナス符号があるのはエンジントルクTEに対し第1電動機トルクTM1の方向が逆方向だからである。
TE=−TM1×(1+ρ0)/ρ0 ・・・(1)
【0079】
内燃機関出力トルク判断手段84は、エンジン8を駆動するための燃料として予め定められた基準燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料(例えば、エタノール混合燃料)によってエンジン8が駆動されたことにより、エンジントルクTEが、上記基準燃料により駆動されるときのエンジントルクTEよりも大きくなったか否かを判断する。具体的には以下のようにして判断する。
【0080】
上記基準燃料によりエンジン8が駆動されるときのエンジントルクTE(以下、「基準エンジントルクTE_std」と表す)と、エンジン回転速度NEやスロットル弁開度θTHなどのエンジン出力に関わる状態量との関係である基準エンジントルク線図が実験的に求められており、内燃機関出力トルク判断手段84は、その基準エンジントルク線図を予め記憶している。そして、内燃機関出力トルク検出手段82が第1電動機トルクTM1等に基づいてエンジントルクTEを検出した後、内燃機関出力トルク判断手段84は、上記内燃機関出力トルク検出手段82が検出したエンジントルクTE(以下、「実エンジントルクTAE」と表す)と基準エンジントルクTE_stdとを、上記エンジン回転速度NEやスロットル弁開度θTHなどの状態量を等しくした条件のもとで比較し、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きいか否かを判断する。このとき燃料が前記基準燃料のままであったとしても、エンジントルクTEは基準エンジントルクTE_stdに対してある程度ばらつくことを考慮することが望ましい。そこで、内燃機関出力トルク判断手段84は、上記基準エンジントルクTE_stdを基準とした所定のばらつき範囲を外れて、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きいか否かを判断する。このようにして、例えば、内燃機関出力トルク判断手段84により実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きいと判断されたとした場合には、上記実エンジントルクTAEは燃料タンク70内の燃料が増加したとの判断を燃料供給判断手段80が肯定した場合に検出されたものであることから、前記基準燃料とは異なる種類の燃料によってエンジン8が駆動されたことにより、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きくなったものと判断できる。
【0081】
図7の変速線図(切換線図)に示すように、切換ブレーキB0(差動制限装置)を係合させることにより動力分配機構16を非差動状態とさせることを決定するための非差動領域が記憶手段56に予め記憶されている。例えば、エンジン8を駆動するための燃料として前記基準燃料(例えば、ガソリン)が用いられる場合の変速線図(切換線図)が基準として記憶されている。そして、上記基準燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料(例えば、エタノール混合燃料)によってエンジン8が駆動されたことにより、エンジントルクTEが、上記基準燃料により駆動されるときのエンジントルクTEよりも大きくなった場合、すなわち、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きくなったとの判断が内燃機関出力トルク判断手段84によって肯定された場合に、差動状態制御手段88は、記憶手段56に記憶されている前記非差動領域を、前記基準燃料によってエンジン8が駆動されるときの非差動領域に対して拡大する。具体的に、差動状態制御手段88は、図7の第4速から第5速へのアップシフト線及び第5速から第4速へのダウンシフト線の全部または一部をずらすことにより上記非差動領域の拡大を行うが、図7の変速線図の第4速から第5速へのアップシフト線を例として説明すれば、その変速線図の第4速から第5速へのアップシフト線の一部を拡大表示した図8において、差動状態制御手段88は、内燃機関出力トルク判断手段84によってその判断が肯定された場合に、図8の矢印AR1で示すように、非差動領域と差動領域とを分ける境界線である図8のアップシフト線を実線で示すものから破線で示すものへとずらすことにより、上記基準燃料使用時(例えば、ガソリン使用時)の非差動領域に対してその非差動領域を拡大する。なお、差動状態制御手段88が上記非差動領域を拡大した場合には、その拡大後の非差動領域に従って、前記増速側ギヤ段判定手段62はその判定を行い、且つ、前記切換制御手段50は動力分配機構16を前記差動可能状態と非差動状態とに選択的に切り換える。
【0082】
上記差動状態制御手段88は上記非差動領域を拡大するに際し、内燃機関出力トルク判断手段84の判断が否定された場合の非差動領域と、それよりも領域が拡大された上記判断が肯定された場合の非差動領域とを予め定めておき、それらを選択的に切り換えてもよいが、例えば、内燃機関出力トルク判断手段84の判断を経ずに、エンジントルクTEが燃料の種類が異なることに起因して大きくなるほど、具体的には、内燃機関出力トルク検出手段82により検出されるエンジントルクTEが大きくなるほど、前記非差動領域を連続的に又は段階的に拡大してもよい。
【0083】
ここで、燃料消費率低減の観点から、上記有段制御領域(非差動領域)においては例えば第1電動機M1が電力を消費しないという長所がある一方エンジン8を例えば前記最適燃費率曲線に沿って作動させることができないという短所がある。また、上記無段制御領域(差動領域)においては例えばエンジン8を上記最適燃費率曲線に沿って作動させることができるという長所がある一方第1電動機M1が電力を消費するという短所がある。そこで、これらの長所及び短所、すなわち動力伝達装置10の効率が燃費に及ぼす影響及びエンジン8の効率が燃費に及ぼす影響を総合的に考慮して燃費が向上するように前記拡大がされる前後の非差動領域は決定されている。
【0084】
差動状態制御手段88は、内燃機関出力トルク判断手段84がその判断を否定した場合には、記憶手段56に記憶されている前記基準燃料使用時の非差動領域を変更せず、図7の変速線図に示される非差動領域は上記基準燃料使用時のものとされる。
【0085】
図9は、電子制御装置40の制御作動の要部、すなわち、燃料種に応じて非差動領域を変更する制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0086】
先ず、燃料供給判断手段80に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、車両が備える燃料タンク70内の燃料が増加したか否かが判断され、その判断が肯定された場合にはSA2に移り、その判断が否定された場合にはこのフローチャートの制御作動は終了する。ここで具体的に、燃料タンク70の燃料が増加したか否かは例えば燃料タンクの油量を検知する燃料計72からの信号により判断される。また、燃料タンク70に燃料が供給されるときは燃料タンク70の燃料注入口用蓋74が開かれるので、この燃料注入口用蓋74が開かれたことが検知された場合には燃料タンク70の燃料が増加したと判断されるようにしてもよい。
【0087】
内燃機関出力トルク検出手段82に対応するSA2においては、インバータ58に与えられる制御量から求められる第1電動機M1に供給される電流値に基づいて前記反力トルクである第1電動機トルクTM1が検出され、この第1電動機トルクTM1、ギヤ比ρ0等に基づいて、エンジントルクTE(実エンジントルクTAE)が算出される。具体的には、エンジントルクTEと第1電動機トルクTM1とが0ではなく釣り合っている場合すなわち定常走行状態においては、前記式(1)によってエンジントルクTEが算出される。
【0088】
内燃機関出力トルク判断手段84に対応するSA3においては、前記基準燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料(例えば、エタノール混合燃料)によってエンジン8が駆動されたことにより、エンジントルクTE(実エンジントルクTAE)が、上記基準燃料により駆動されるときのエンジントルクTE(基準エンジントルクTE_std)よりも大きくなったか否か、具体的には、前記SA2で算出された実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きいか否かが判断される。つまり、エンジントルク特性が上記基準燃料使用時のそれに対してエンジントルクTEの増大方向にずれたか否かが判断される。このとき、エンジン8に使用する燃料が上記基準燃料のままであったとしても、エンジントルクTEは基準エンジントルクTE_stdに対してある程度ばらつくことが考慮されて、SA3の判断がなされる。このSA3の判断が肯定された場合、すなわち、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きい場合には、SA4に移る。一方、このSA3の判断が否定された場合には、SA5に移る。
【0089】
差動状態制御手段88に対応するSA4においては、図7に示される前記非差動領域、すなわち、切換ブレーキB0の係合により動力分配機構16が非差動状態とされるB0ロック領域が、前記基準燃料によってエンジン8が駆動されるときの非差動領域(B0ロック領域)に対して拡大される。
【0090】
差動状態制御手段88に対応するSA5においては、図7に示される前記非差動領域(B0ロック領域)は拡大されず基準燃料使用時のまま、前記基準燃料によってエンジン8が駆動されるときの非差動領域(B0ロック領域)とされる。
【0091】
本実施例には次のような効果(A1)乃至(A7)がある。(A1)図10は、エンジン回転速度NEとエンジントルクTEとの関係であるエンジントルク特性を示す図であり、実線で示す曲線L_stdはエンジン8がガソリンで駆動された場合のエンジントルク特性(スロットル弁開度θTH=100%)であり、二点鎖線で示す曲線L_ethはエンジン8が前記エタノール混合燃料で駆動された場合のエンジントルク特性(スロットル弁開度θTH=100%)である。図10において、動力伝達装置10のギヤ段が第5速ギヤ段である場合を例として説明すると、図10の前記エンジン動作点が第5速動作線に沿うようにエンジン8が作動させられる。このとき、エンジン8の燃料がガソリンである場合には第5速動作線が曲線L_stdと交差する点P_stdが、エンジン動作点を第5速動作線に沿わせつつ、切換ブレーキB0がロックされる非差動状態でエンジン8を作動させる高車速側の限界となる。しかし、エンジン8の燃料が上記エタノール混合燃料である場合にはガソリンである場合との比較で、耐ノッキング性能が向上しエンジン点火時期が進角されるので、全体としてエンジントルクTEが大きくなる傾向にある。そのため、エンジン8用の燃料がガソリンから上記エタノール混合燃料に変更されると、切換ブレーキB0がロックされる非差動状態でエンジン8を第5速動作線に沿って作動させる高車速側の限界を示すエンジン動作点が、点P_stdから、第5速動作線が曲線L_ethと交差する点P_ethにまでずれ、第5速においてその第5速動作線上でより高いエンジントルクTEを出力させることが可能となる。換言すれば、エンジン8用の燃料がガソリンから上記エタノール混合燃料に変更された場合には、第5速ギヤ段で、すなわち、切換ブレーキB0がロックされる非差動状態で、第5速動作線にエンジン動作点が沿うようにしつつ、点P_stdを通る等パワー曲線L_perが示すエンジン出力(単位は、例えば「kW」)よりも高いエンジン出力を発揮させることが可能になる。このことから、エンジン8の燃料種に応じてエンジントルク特性が変わるのであれば、それに応じて切換ブレーキB0をロックする非差動領域も変更した方が、そのエンジントルク特性を充分に活用し燃料消費率の低減等に貢献できるものと考えられる。この点、本実施例によれば、前記基準燃料(例えば、ガソリン)とは異なる種類の燃料(例えば、エタノール混合燃料)によってエンジン8が駆動されたことにより、エンジントルクTE(TAE)が、上記基準燃料により駆動されるときのエンジントルクTE(TE_std)よりも大きくなった場合、すなわち、実エンジントルクTAEが基準エンジントルクTE_stdよりも大きくなったとの判断が内燃機関出力トルク判断手段84によって肯定された場合に、差動状態制御手段88は、記憶手段56に記憶されている前記非差動領域を、前記基準燃料によってエンジン8が駆動されるときの非差動領域に対して拡大する。従って、エンジン8に上記基準燃料とは異なる種類の燃料が供給される場合すなわち複数種類の燃料が供給される場合において、動力分配機構16を前記差動可能状態又は非差動状態に切り換える利点を、エンジン8の燃料種に応じて異なるエンジントルク特性すなわちエンジンの出力特性に対応させて、充分に活かすことができる。その結果として、例えば、エンジン8に複数種類の燃料が供給される場合にもそれに対応して燃料消費率の低減を図ることができる。
【0092】
(A2)本実施例によれば、内燃機関出力トルク検出手段82は、インバータ58に与えられる制御量から求められる第1電動機M1に供給される電流値に基づいて上記反力トルクである第1電動機トルクTM1を算出し、この第1電動機トルクTM1、ギヤ比ρ0等に基づいてエンジントルクTEを検出するので、上記第1電動機M1に供給される電流値などから第1電動機トルクTM1を算出することにより、容易にエンジントルクTEを検出できる。
【0093】
(A3)本実施例によれば、内燃機関出力トルク検出手段82は、燃料タンク70内の燃料が増加したとの判断を燃料供給判断手段80が肯定した場合に、第1電動機トルクTM1、ギヤ比ρ0等に基づいてエンジントルクTEを検出するので、そのエンジントルクTEの検出が常に行われるわけではなく必要に応じて行われ、電子制御装置40の負荷を軽減できる。
【0094】
(A4)本実施例によれば、燃料供給判断手段80はその燃料注入口用蓋74の開閉を検知し、燃料タンク70の燃料注入口用蓋74が開かれた場合には、燃料タンク70内の燃料が増加したとみなして、その判断を肯定してもよく、更に、内燃機関出力トルク検出手段82は、燃料供給判断手段80がその判断を肯定した場合に、第1電動機トルクTM1、ギヤ比ρ0等に基づいてエンジントルクTEを検出するので、そのエンジントルクTEの検出が常に行われるわけではなく必要に応じて行われ、電子制御装置40の負荷を軽減できる。また、燃料タンク70内の燃料増加を直接検出するよりも、燃料供給判断手段80はその判断を容易に行うことが可能である。
【0095】
(A5)本実施例によれば、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成する自動変速部20が動力伝達装置10には設けられているので、その自動変速部20がない場合と比較して、動力伝達装置10が変更できるトータル変速比γTの変化量を大きくすることができ、良好な燃費性能を得ることができる。
【0096】
(A6)本実施例によれば、自動変速部20は、その変速比を段階的に変化させることができる有段変速部であるので、自動変速部20の大きさを余り大きくすること無く、自動変速部20の変速比の変化量を大きくすることができる。
【0097】
(A7)本実施例によれば、差動部11は、切換クラッチC0と切換ブレーキB0との両方が解放された前記差動可能状態とされることにより、その変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するので、差動部11から出力される駆動トルクを滑らかに変化させることが可能である。
【0098】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0099】
例えば、前述の実施例においては、第5速ギヤ段がそのまま動力分配機構16の前記非差動領域であったが、動力伝達装置10の何れかのギヤ段と上記非差動領域とが一致している必要は無い。
【0100】
また、前述の実施例において、動力分配機構16は、非差動状態とするために切換ブレーキB0と切換クラッチC0とを備えているが、切換クラッチC0は無くてもよい。
【0101】
また、前述の実施例においては、図7において車速Vと要求出力トルクTOUTとの関係を示す点が前記非差動領域(有段制御領域)内にある場合には、切換ブレーキB0が係合されて動力分配機構16はエンジン回転速度NEを増速するが、動力分配機構16の非差動状態がエンジン回転速度NEを増速するものである必要はない。
【0102】
また、前述の実施例では、切換ブレーキB0が本発明の差動制限装置に対応するが、差動制限装置はブレーキやクラッチなどの係合装置に限定されるものではない。例えば、切換ブレーキB0を係合する替わりに第1電動機M1を電気的に回転できなくした場合には、その第1電動機M1が上記差動制限装置に相当することになる。
【0103】
また、前述の実施例においては、図7に示すように、前記非差動領域は、車速Vと自動変速部20の要求出力トルクTOUTとの関係によって定められているが、別の状態量、例えば、エンジン回転速度NE、エンジントルクTE、スロットル弁開度θTHなどの関係によって定められてもよい。
【0104】
また、前述の実施例においては、第1電動機トルクTM1に基づいてエンジントルクTEが検出されるが、これと異なる方法でエンジントルクTEが検出されても差し支えない。
【0105】
また、前述の実施例において、動力伝達装置10はハイブリッド車両の一部であるが、本発明は図1に示すようなギヤトレーンに限って適用されるわけではなく、本発明はハイブリッド車両以外の車両にも適用され得る。
【0106】
また、前述の実施例では、ガソリンと前記エタノール混合燃料とが選択的にエンジン8に供給される場合、すなわち、エンジン8に供給される燃料の主成分はガソリンで同一である場合について説明したが、このように、上記燃料の主成分が常に同一であるという必要はない。
【0107】
また、前述の実施例においては、エンジン8に供給されるガソリン燃料にエタノールが混合された場合を説明しているが、例えば、エンジン8用の燃料としては、軽油や水素やエタノール等そのもの或いはそれらを主成分とする混合燃料であってもよい。また、添加する燃料はエタノールに限定されるものではない。
【0108】
また、前述の実施例においては、動力伝達装置10は第2電動機M2を備えているが、第2電動機M2が無い構成も考え得る。
【0109】
また、前述の実施例においては、差動部11と駆動輪38との間の動力伝達経路に自動変速部20が設けられていたが、自動変速部20を備えていない動力伝達装置10も考え得る。
【0110】
また、前述の実施例の図9に示すフローチャートにおいて、SA1とSA2の順序が逆であっても差し支えない。
【0111】
また、前述の実施例の図9に示すフローチャートにおいて、SA1の判断が肯定された場合にSA2以降のステップが実行されるが、SA1の無いフローチャート、すなわち、SA1の判断に拘わらずSA2以降のステップが実行されるフローチャートも考え得る。
【0112】
また、前述の実施例においては、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11(動力分配機構16)はその変速比γ0が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、例えば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであってもよい。
【0113】
また、前述の実施例の動力伝達装置10においてエンジン8と差動部11とは直結されているが、エンジン8が差動部11にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0114】
また、前述の実施例の動力伝達装置10において第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
【0115】
また前述の実施例では、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路において、差動部11の次に自動変速部20が連結されているが、自動変速部20の次に差動部11が連結されている順番でもよい。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪38への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
【0116】
また、前述の実施例の図1によれば、差動部11と自動変速部20は直列に連結されているが、動力伝達装置10全体として電気的に差動状態を変更し得る電気式差動機能とその電気式差動機能による変速とは異なる原理で変速する機能とが備わっていれば、差動部11と自動変速部20とが機械的に独立していなくても本発明は適用される。
【0117】
また、前述の実施例において動力分配機構16はシングルプラネタリであるが、ダブルプラネタリであってもよい。
【0118】
また前述の実施例においては、差動部遊星歯車装置24を構成する第1回転要素RE1にはエンジン8が動力伝達可能に連結され、第2回転要素RE2には第1電動機M1が動力伝達可能に連結され、第3回転要素RE3には駆動輪38への動力伝達経路が連結されているが、例えば、2つの遊星歯車装置がそれを構成する一部の回転要素で相互に連結された構成において、その遊星歯車装置の回転要素にそれぞれエンジン、電動機、駆動輪が動力伝達可能に連結されており、その遊星歯車装置の回転要素に連結されたクラッチ又はブレーキの制御により有段変速と無段変速とに切換可能な構成にも本発明は適用される。
【0119】
また前述の実施例においては、自動変速部20は有段の自動変速機として機能する変速部であるが、無段のCVTであってもよいし、手動変速機として機能する変速部であってもよい。
【0120】
また、前述の実施例における切換クラッチC0及び切換ブレーキB0等の油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁粉)クラッチ、電磁クラッチ、噛み合い型のドグクラッチ等の磁粉式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。
【0121】
また前述の実施例においては、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪38までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
【0122】
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
【0123】
また、前述の実施例においてエンジン8は入力軸14と直結されていたが、例えばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
【0124】
また、前述の実施例の第1電動機M1および第2電動機M2は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結されていたが、必ずしもそのように配置される必要はなく、例えばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結されていてもよい。
【0125】
また、前述の実施例において自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
【0126】
また、前述の実施例の動力分配機構16は1組の差動部遊星歯車装置24から構成されていたが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。
【0127】
また、前述の実施例の第2電動機M2はエンジン8から駆動輪38までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
【0128】
また前述の実施例において、動力分配機構16が切換クラッチC0および切換ブレーキB0を備えているが、切換クラッチC0および切換ブレーキB0は動力分配機構16とは別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。
【0129】
また前述の実施例において、差動部11が、第1電動機M1及び第2電動機M2を備えているが、第1電動機M1及び第2電動機M2は差動部11とは別個に動力伝達装置10に備えられていてもよい。
【0130】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0131】
【図1】本発明の制御装置が適用される車両用動力伝達装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用動力伝達装置が無段或いは有段変速作動させられる場合における変速作動とそれに用いられる油圧式摩擦係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動図表である。
【図3】図1の車両用動力伝達装置が有段変速作動させられる場合における各ギヤ段の相対回転速度を説明する共線図である。
【図4】図1の車両用動力伝達装置に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図5】シフトレバーを備えた複数種類のシフトポジションを選択するために操作されるシフト操作装置の一例である。
【図6】図4の電子制御装置による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1の車両用動力伝達装置において、車速と出力トルクとをパラメータとする同じ二次元座標に構成された、自動変速部の変速判断の基となる予め記憶された変速線図の一例と、動力伝達装置を無段変速状態もしくは有段変速状態に切り換えるための切換線図の一例と、エンジン走行とモータ走行とを切り換えるためのエンジン走行領域とモータ走行領域との境界線を有する予め記憶された駆動力源切換線図の一例とを示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【図8】図7の有段制御領域(非差動領域)が図6の差動状態制御手段88によって拡大される点を説明するために、図7の第4速から第5速へのアップシフト線の一部を拡大表示した図である。
【図9】図4の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、燃料種に応じて図7の非差動領域を変更する制御作動を説明するフローチャートである。
【図10】図1のエンジンを駆動するための燃料としてガソリンにエタノールが混合されたエタノール混合燃料が用いられた場合に、エンジン回転速度とエンジントルクとの関係であるエンジントルク特性が、上記燃料としてガソリンが用いられた場合との比較でエンジントルクの増大方向にずれることの影響を説明するためのエンジントルク特性図である。
【符号の説明】
【0132】
8:エンジン(内燃機関)
10:動力伝達装置(車両用動力伝達装置)
11:差動部(電気式差動部)
16:動力分配機構(差動機構)
20:自動変速部
38:駆動輪
40:電子制御装置(制御装置)
70:燃料タンク
74:燃料注入口用蓋(蓋)
88:差動状態制御手段
M1:第1電動機(電動機)
B0:切換ブレーキ(差動制限装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と駆動輪との間に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された電動機とを有し該電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記差動機構をその差動作用が不能な非差動状態とその差動作用が作動可能な差動可能状態とに選択的に切り換えることができる差動制限装置とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記内燃機関を駆動するための燃料として予め定められた基準燃料とは異なる種類の燃料によって該内燃機関が駆動されたことにより、該内燃機関の出力トルクが、前記基準燃料により駆動されるときの該内燃機関の出力トルクよりも大きくなった場合には、前記差動制限装置に前記差動機構を前記非差動状態とさせることを決定するための非差動領域を、前記基準燃料によって前記内燃機関が駆動されるときの前記非差動領域に対して拡大する差動状態制御手段
を、含むことを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の出力トルクに対抗する前記電動機の反力トルクに基づき該内燃機関の出力トルクが検出される
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
車両が備える燃料タンク内の燃料が増加した場合に前記内燃機関の出力トルクが検出される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
車両が備える燃料タンクの燃料注入口を閉じるための蓋が開かれた場合に前記内燃機関の出力トルクが検出される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する自動変速部を含む
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記自動変速部は、その変速比を段階的に変化させることができる有段変速部である
ことを特徴とする請求項5に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記電気式差動部は、前記差動可能状態とされることにより、その変速比を連続的に変化させることができる無段変速機として機能する
ことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項1】
内燃機関と駆動輪との間に連結された差動機構と該差動機構に動力伝達可能に連結された電動機とを有し該電動機の運転状態が制御されることにより該差動機構の差動状態が制御される電気式差動部と、前記差動機構をその差動作用が不能な非差動状態とその差動作用が作動可能な差動可能状態とに選択的に切り換えることができる差動制限装置とを、備えた車両用動力伝達装置の制御装置であって、
前記内燃機関を駆動するための燃料として予め定められた基準燃料とは異なる種類の燃料によって該内燃機関が駆動されたことにより、該内燃機関の出力トルクが、前記基準燃料により駆動されるときの該内燃機関の出力トルクよりも大きくなった場合には、前記差動制限装置に前記差動機構を前記非差動状態とさせることを決定するための非差動領域を、前記基準燃料によって前記内燃機関が駆動されるときの前記非差動領域に対して拡大する差動状態制御手段
を、含むことを特徴とする車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の出力トルクに対抗する前記電動機の反力トルクに基づき該内燃機関の出力トルクが検出される
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項3】
車両が備える燃料タンク内の燃料が増加した場合に前記内燃機関の出力トルクが検出される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項4】
車両が備える燃料タンクの燃料注入口を閉じるための蓋が開かれた場合に前記内燃機関の出力トルクが検出される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関から駆動輪への動力伝達経路の一部を構成する自動変速部を含む
ことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項6】
前記自動変速部は、その変速比を段階的に変化させることができる有段変速部である
ことを特徴とする請求項5に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【請求項7】
前記電気式差動部は、前記差動可能状態とされることにより、その変速比を連続的に変化させることができる無段変速機として機能する
ことを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の車両用動力伝達装置の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−52689(P2010−52689A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222741(P2008−222741)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]