説明

車両用懸架装置

【課題】 スタビライザバーを機能させ得る車両用懸架装置を安価に構成する。
【解決手段】 車両用懸架装置の油圧システムHSは、通路L1,L2で接続された前輪側油圧シリンダ20および後輪側油圧シリンダ40と、アキュムレータAcc、制御バルブ50A,50Bを備える。制御バルブ50A,50Bは、通路L1,L2とアキュムレータAccに接続された通路L3間の連通遮断を制御可能な常開型のメカニカル開閉バルブである。車両の所定速度以上の走行時に、各通路L1,L2内に所定の圧力変動が発生すると、チェックバルブ61,62およびピストン52の隙間52bを通した作動油の流れにより、高圧室R5と低圧室R6間に圧力差が発生する。この圧力差によりピストン52およびバルブロッド53がスプリング54の押し付け力に抗して移動し、弁子53aが弁座51e3に着座して、通路L1,L2およびアキュムレータAcc間の連通が遮断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用懸架装置に係り、特に、前輪側スタビライザバーの剛性および後輪側スタビライザバーの剛性を制御可能な車両用懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用懸架装置の一つは、例えば下記特許文献1に記載されていて、前輪側スタビライザバーの剛性を制御する前輪側流体圧シリンダとしての前輪側油圧シリンダと、後輪側スタビライザバーの剛性を制御する後輪側流体圧シリンダとしての後輪側油圧シリンダと、前記前輪側油圧シリンダと前記後輪側油圧シリンダの各上室同士を接続する第1通路と、前記前輪側油圧シリンダと前記後輪側油圧シリンダの各下室同士を接続する第2通路と、前記第1通路に接続されて同第1通路との間にて作動油を給排可能な第1アキュムレータと、前記第2通路に接続されて同第2通路との間にて作動油を給排可能な第2アキュムレータと、前記第1通路と前記第1アキュムレータ間に介装されて同第1通路と同アキュムレータ間の連通遮断を制御する常開型の第1電磁開閉バルブと、前記第2通路と前記第2アキュムレータ間に介装されて同第2通路と同アキュムレータ間の連通遮断を制御する常開型の第2電磁開閉バルブとを備えている。
【特許文献1】特開2004−268888号公報
【0003】
上記した特許文献1に記載されている車両用懸架装置においては、車両が直進走行しているとき、第1電磁開閉バルブおよび第2電磁開閉バルブが開状態に維持されて第1アキュムレータと第1通路が連通されるとともに、第2アキュムレータと第2通路が連通されるように設定されている。このため、前輪側スタビライザバーおよび後輪側スタビライザバーは、捩られないようになり、本来の機能を発揮しなくなって、両スタビライザバーの剛性が低い値に維持制御される。
【0004】
一方、車両が旋回走行しているときは、第1電磁開閉バルブおよび第2電磁開閉バルブの閉作動により、第1アキュムレータと第1通路の連通が遮断されるとともに、第2アキュムレータと第2通路の連通が遮断されるように設定されている。このため、前輪側スタビライザバーおよび後輪側スタビライザバーは、捩られるようになり、本来の機能を発揮するようになって、両スタビライザバーの剛性が高い値に変更制御される。
【0005】
ところで、上記した特許文献1に記載されている車両用懸架装置では、第1電磁開閉バルブおよび第2電磁開閉バルブが、電気制御装置によって作動を制御されるようになっている。このため、第1電磁開閉バルブおよび第2電磁開閉バルブの作動を制御するために、高価な電気制御装置が必要である。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、上記課題に対処するためになされたものであり、その目的は、従来と同等に前輪側スタビライザバーおよび後輪側スタビライザバーを機能させ得る車両用懸架装置を安価に構成することにある。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明においては、前輪側スタビライザバーの剛性を制御する前輪側流体圧シリンダと後輪側スタビライザバーの剛性を制御する後輪側流体圧シリンダの各上室同士を接続する第1通路と、前記前輪側流体圧シリンダと前記後輪側流体圧シリンダの各下室同士を接続する第2通路と、前記第1通路と前記第2通路に接続されて前記各通路との間にて作動流体を給排可能なアキュムレータと、前記第1通路と前記アキュムレータ間に介装されて同第1通路と同アキュムレータ間の連通遮断を制御する第1制御手段と、前記第2通路と前記アキュムレータ間に介装されて同第2通路と同アキュムレータ間の連通遮断を制御する第2制御手段とを備えた車両用懸架装置であって、前記各制御手段は、前記各通路内にて所定の圧力変動が発生しているとき前記第各通路と前記アキュムレータ間の連通を遮断する常開型のメカニカル開閉バルブを備えていることに特徴がある。
【0008】
この場合に、前記各メカニカル開閉バルブは、例えば、前記各通路からの作動流体の流れのみを許容する第1のチェックバルブを介して前記各通路に連通する流入ポートと、前記各通路への作動流体の流れのみを許容する第2のチェックバルブを介して前記各通路に連通する流出ポートと、前記各通路に連通する通路側流入出ポートと、前記アキュムレータに連通するアキュムレータ側流入出ポートと、前記流入ポートと前記流出ポート間を連通させる大径内孔と、前記通路側流入出ポートと前記アキュムレータ側流入出ポート間を連通させて前記大径内孔とで段付き内孔を形成する小径内孔とを有してなるバルブボデーを備えるとともに、前記バルブボデーの前記大径内孔に移動可能に組み付けられ同大径内孔内を前記流入ポートに連通させる高圧室と前記流出ポートに連通させる低圧室に区画するピストンと、前記高圧室と前記低圧室間を連通させる絞りと、前記ピストンを前記高圧室側に付勢する付勢手段と、前記ピストンと共に移動可能かつ前記小径内孔に移動可能に設けられて前記ピストンが定位置にあるとき前記通路側流入出ポートと前記アキュムレータ側流入出ポート間を連通させ、前記各通路内での所定の圧力変動に応じて前記ピストンが前記小径内孔側に移動したとき前記通路側流入出ポートと前記アキュムレータ側流入出ポート間の連通を遮断するバルブ部材とを備えているものであるとよい。
【0009】
この車両用懸架装置においては、車両の停止時および車両の所定速度未満の走行時に、すなわち、各通路内に所定の圧力変動が発生していないとき、第1制御手段および第2制御手段により第1通路および第2通路とアキュムレータ間が連通されている。このため、前輪側スタビライザバーおよび後輪側スタビライザバーが捩られないようになり、両スタビライザバーが本来の機能を発揮しなくなる。
【0010】
一方、車両の所定速度以上の走行時に、すなわち、各通路内に所定の圧力変動が発生しているとき、第1制御手段および第2制御手段により第1通路および第2通路とアキュムレータ間の連通が遮断される。このため、前輪側スタビライザバーおよび後輪側スタビライザバーが捩られるようになり、両スタビライザバーが本来の機能を発揮するようになる。
【0011】
ところで、この車両用懸架装置では、第1制御手段および第2制御手段が何れもメカニカル開閉バルブを備えてなるものであって、従来の車両用懸架装置のように電磁開閉バルブやこの電磁開閉バルブの作動を制御するための電気制御装置が不要である。このため、安価な構成で前輪側スタビライザバーおよび後輪側スタビライザバーの機能を制御することが可能である。
【0012】
また、本発明の実施に際して、前記第1通路および前記第2通路の圧力が共に所定値以上になったとき前記両通路のうちの少なくとも一方と前記アキュムレータ間を連通させるメカニカルリリーフバルブを設けることが可能である。
【0013】
この場合に、前記メカニカルリリーフバルブは、例えば、前記第1通路に連通する第1流入ポートおよび第1パイロットポートと、前記第2通路に連通する第2流入ポートおよび第2パイロットポートと、前記アキュムレータに連通するアキュムレータ側流出ポートと、前記第1流入ポート、前記第2流入ポートおよび前記アキュムレータ側流出ポート間を連通させる連通室と、前記第1パイロットポートと前記第2パイロットポート間を連通させる段付き内孔とを有してなるバルブボデーを備えるとともに、前記段付き内孔に移動可能に組み付けられ同段付き内孔の小径内孔内に前記第1パイロットポートに連通する第1パイロット室を形成し、同段付き内孔の大径内孔内に前記第2パイロットポートに連通する第2パイロット室を形成する段付きピストンと、前記段付きピストンを前記小径内孔側に所定荷重で付勢する付勢手段と、前記連通室内に組み付けられ前記段付きピストンに接続されて前記段付きピストンが定位置にあるとき前記両通路と前記アキュムレータ間の連通を遮断し、前記第1パイロット室および前記第2パイロット室の圧力の増加により前記段付きピストンに作用する前記大径内孔の端部側への力が前記付勢手段の所定荷重より大きくなって同段付きピストンが同大径内孔の端部側に移動したとき前記両通路と前記アキュムレータ間を共に連通させるバルブ部材とを備えているものであるとよい。
【0014】
この車両用懸架装置では、車両の所定速度以上の走行時に、第1通路および第2通路の圧力が共に所定値以上になったとき、メカニカルリリーフバルブにより第1通路および第2通路のうちの少なくとも一方の通路とアキュムレータ間が連通される。このため、前記少なくとも一方の通路内の作動流体がアキュムレータによって吸収されることになって、同一方の通路の圧力が減少し、これに応じて他方の通路の圧力も減少する。これにより、上記した作用および効果が得られることに加えて、前輪側流体圧シリンダ、後輪側流体圧シリンダおよび各通路を含んで構成されるシステムに過度の負荷がかかることが防止されて、このシステムの安全性を安価な構成で向上させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は本発明による車両用懸架装置を概略的に示していて、この車両用懸架装置は、前輪側スタビライザバー10、および前輪側流体圧シリンダとしての前輪側油圧シリンダ20を備えるとともに、後輪側スタビライザバー30、および後輪側流体圧シリンダとしての後輪側油圧シリンダ40を備えている。
【0016】
前輪側スタビライザバー10は、周知のように平面視にて略コ字状に形成されたものであり、車幅方向に延設されるトーションバー部10aの左右各端部にてゴムブッシュを含む連結部材11を介して車体BDの一部であるサイドレールにトーションバー部10aの軸線回りに回転可能に連結されている。また、前輪側スタビライザバー10は、各アーム部10bの延出端部にてロアアームなどの車輪支持部材(図示省略)に連結されており、一方のアーム部10bの中間部にて前輪側油圧シリンダ20を介して車体BDの一部であるサイドレールに連結されている。
【0017】
前輪側油圧シリンダ20は、シリンダ本体21、シリンダ本体21の下壁から液密的に進入および退出可能に挿入されたピストンロッド22およびピストンロッド22の上端に固定されたピストン23を備えている。前輪側油圧シリンダ20は、シリンダ本体21にてゴムブッシュを含む連結部材24を介して車体BDの一部であるサイドレールに連結されるとともに、ピストンロッド22の下端にてゴムブッシュを含む連結部材25を介して前輪側スタビライザバー10のアーム部10bをゴムブッシュの中心軸線回りに回転可能に支持している。ピストン23は、シリンダ本体21内に液密的かつ摺動可能に組み込まれていて、シリンダ本体21内を上室R1と下室R2に区画している。
【0018】
後輪側スタビライザバー30は、前輪側スタビライザバー10と同様、平面視にて略コ字状に形成されたものであり、車幅方向に延設されるトーションバー部30aの左右各端部にてゴムブッシュを含む連結部材31を介して車体BDの一部であるサイドレールにトーションバー部30aの軸線回りに回転可能に連結されている。また、後輪側スタビライザバー30は、各アーム部30bの延出端部にてロアアームなどの車輪支持部材(図示省略)に連結されるとともに、一方のアーム部30bの中間部にて後輪側油圧シリンダ40を介して車体BDの一部であるサイドレールに連結されている。
【0019】
後輪側油圧シリンダ40は、前輪側油圧シリンダ20と同様、シリンダ本体41、シリンダ本体41の下壁から液密的に進入および退出可能に挿入されたピストンロッド42およびピストンロッド42の上端に固定されたピストン43を備えている。後輪側油圧シリンダ40は、シリンダ本体41にてゴムブッシュを含む連結部材44を介して車体BDの一部であるサイドレールに連結されるとともに、ピストンロッド42の下端にてゴムブッシュを含む連結部材45を介して後輪側スタビライザバー30のアーム部30bをゴムブッシュの中心軸線回りに回転可能に支持している。ピストン43は、シリンダ本体41内に液密的かつ摺動可能に組み込まれていて、シリンダ本体41内を上室R3と下室R4に区画している。
【0020】
前輪側油圧シリンダ20および後輪側油圧シリンダ40は、油圧システムHSを構成している。油圧システムHSは、前輪側油圧シリンダ20および後輪側油圧シリンダ40に加えて、通路L1〜L3、アキュムレータAcc、一対の制御バルブ50A,50B、リリーフバルブ70などで構成されている。
【0021】
通路L1は、第1通路としての機能を果たすものであり、前輪側油圧シリンダ20と後輪側油圧シリンダ40の各上室R1,R3同士を接続している。通路L2は、第2通路としての機能を果たすものであり、前輪側油圧シリンダ20と後輪側油圧シリンダ40の各下室R2,R4同士を接続している。通路L3は、アキュムレータAccを、制御バルブ50Aを介して通路L1に接続し、制御バルブ50Bを介して通路L2に接続し、さらにリリーフバルブ70を介して両通路L1,L2に接続していて、通路L1との間、通路L2との間にてそれぞれ作動流体としての作動油を給排する。
【0022】
一対の制御バルブ50A,50Bは、何れも同じ構成とされたメカニカル開閉バルブである。したがって、以後の説明では、制御バルブ50Aを代表して説明することとし、制御バルブ50Aと同一の部材、同一の機能を果たす部分には同一の符号を付して、制御バルブ50Bについての説明を省略する。この制御バルブ50Aは、バルブボデー51、ピストン52、バルブロッド53およびスプリング54,55を備えている。
【0023】
バルブボデー51は、流入ポート51a、流出ポート51b、通路側流入出ポート51cおよびアキュムレータ側流入出ポート51dを有している。流入ポート51aは、チェックバルブ61を介して通路L1に連通する。流出ポート51bは、チェックバルブ62を介して通路L1に連通する。通路側流入出ポート51cは、通路L1に連通する。アキュムレータ側流入出ポート51dは、アキュムレータAccに連通する。
【0024】
チェックバルブ61は、第1のチェックバルブとして機能するものであり、通路L1と流入ポート51aを接続する通路に介装されて通路L1からの作動油の流れのみを許容する。チェックバルブ62は、第2のチェックバルブとして機能するものであり、通路L1と流出ポート51bを接続する通路に介装されて通路L1への作動油の流れのみを許容する。制御バルブ50Aおよびチェックバルブ61,62は、第1制御手段としての機能を果たす。同様に、制御バルブ50Bおよびチェックバルブ61,62は、第2制御手段としての機能を果たす。
【0025】
また、バルブボデー51は、大径内孔51e1と小径内孔51e2とで形成される段付き内孔51eを有している。大径内孔51e1は、段付き状に形成されていて、流入ポート51aと流出ポート51b間を連通させる。小径内孔51e2は、通路側流入出ポート51cとアキュムレータ側流入出ポート51d間を連通させる。
【0026】
ピストン52は、非貫通の穴部52aを有する円筒状のものであり、大径内孔51e1の大径部に小径内孔51e2側へ移動可能に組み付けられている。ピストン52は、大径内孔51e1内を、流入ポート51aに連通させる高圧室R5と、流出ポート51bに連通させる低圧室R6とに区画している。このピストン52の外周部には、高圧室R5から低圧室R6への作動油の漏れを許容し得る所定大きさの隙間52bが形成されている。隙間52bは、絞りとしての機能を果たす。
【0027】
バルブロッド53は、段付き状のものであり、その小径部の先端部分にて弁子53aを一体に有し、その大径部にて非貫通の穴部53bを有している。バルブロッド53は、その大径部にてピストン52の穴部52aに軸方向に移動可能に組み付けられ、その小径部にて小径内孔51e2に移動可能に配置されている。弁子53aに対向する段付き内孔51eの部位には、弁子53aの着座を許容する弁座51e3が形成されている。
【0028】
弁子53aは、弁座51e3から離座した状態にあるとき、通路側流入出ポート51cとアキュムレータ側流入出ポート51d間を小径内孔51e2を通して連通させる。また、弁子53aは、弁座51e3に着座した状態にあるとき、通路側流入出ポート51cとアキュムレータ側流入出ポート51d間の連通を遮断する。弁子53aを一体に有するバルブロッド53は、バルブ部材としての機能を果たす。
【0029】
スプリング54は、リテーナ56を介してバルブロッド53およびピストン52を大径内孔51e1の高圧室R5側に押し付けている。スプリング54の押し付けにより、ピストン52が大径内孔51e1の段部に係合している状態(定位置にある状態)では、弁子53aが弁座51e3から離座するように設定されている。そして、車両が所定速度(例えば、時速20km程度)以上で走行していて、前輪側油圧シリンダ20、後輪側油圧シリンダ40にて発生する微小振動に応じて第1通路内に所定の圧力変動(例えば、変動幅が0.05Mpa程度で、かつ変動の周波数が3Hz程度の圧力変動)が発生しているときに、ピストン52が小径内孔51e2側に移動して弁子53aが弁座51e3に着座するように、スプリング54の押し付け力が所定の大きさに設定されている。スプリング54は、付勢手段としての機能を果たす。
【0030】
スプリング55は、ピストン52の穴部52aとバルブロッド53の穴部53a間に介装されていて、ピストン52とバルブロッド53を互いに離間させる方向に押し付けている。このスプリング55は、ピストン52およびバルブロッド53がスプリング54の押し付け力に抗して小径内孔51e2側に移動することにより、弁子53aが弁座51e3に着座した状態にあるとき、ピストン52のバルブロッド53に対する軸方向の移動を許容して、弁子53aが弁座51e3に対して着座、離座を繰り返す動作を防止する役割を果たす。なお、スプリング55の押し付け力は、スプリング54の押し付け力に比して小さく設定されている。
【0031】
リリーフバルブ70は、メカニカルバルブであって、バルブボデー71、段付きピストン72、スプリング73およびバルブ部材Vを備えている。バルブボデー71は、第1流入ポート71a、第2流入ポート71b、アキュムレータ側流出ポート71c、第1パイロットポート71d、第2パイロットポート71eおよび第3パイロットポート71fを有している。
【0032】
第1流入ポート71aおよび第1パイロットポート71dは、通路L1に連通する。第2流入ポート71bおよび第2パイロットポート71eは、通路L2に連通する。アキュムレータ側流出ポート71cおよび第3パイロットポート71fは、アキュムレータAccに連通する。
【0033】
また、バルブボデー71は、第1流入ポート71a、第2流入ポート71bおよびアキュムレータ側流出ポート71c間を連通させる連通室R7を有するとともに、第1〜第3パイロットポート71d,71e,71f間を連通させる段付き内孔71gを有している。段付き内孔71gは、小径内孔71g1と大径内孔71g2とで形成されている。
【0034】
段付きピストン72は、その小径部72aにて小径内孔71g1にシール材74により液密的かつ摺動可能に組み付けられるとともに、その大径部72bにて大径内孔71g2にシール材75により液密的かつ摺動可能に組み付けられている。
【0035】
段付きピストン72の小径部72aは、小径内孔71g1内を区画して第1パイロットポート71dに連通する第1パイロット室R8を形成している。段付きピストン72の大径部72bは、その小径部72aの端部側にて大径内孔71g2内を区画して第2パイロットポート71eに連通する第2パイロット室R9を形成し、小径部72aとは反対の端部側にて大径内孔71g2内を区画して第3パイロットポート71fに連通する第3パイロット室R10を形成している。ここで、第1パイロット室R8の圧力を受ける段付きピストン72の小径部72aの受圧面積と、第2パイロット室R9の圧力を受ける段付きピストン72の大径部72bの受圧面積とがほぼ同じ大きさとなるように設定されている。
【0036】
スプリング73は、第3パイロット室R10を形成する大径内孔71g2の内壁と段付きピストン72の大径部72b間に介装されていて、段付きピストン72を小径内孔71g1側に付勢している。ここで、第1パイロット室R8の圧力および第2パイロット室R9の圧力が共に極めて大きくなった場合に、段付きピストン72がスプリング73の押し付け力に抗して図示下方向へ移動するようになっている。すなわち、第1パイロット室R8の圧力が所定値以上となり、第2パイロット室R9の圧力も所定値以上となったとき、段付きピストン72に対して図示下方向に作用する力の和が、スプリング73による押し付け力と第3パイロット室R10の圧力(アキュムレータAccの圧力)により段付きピストン72に対して図示上方向に作用する力の和に比して大きくなるように、スプリング73の押し付け力が所定の大きさに設定されている。スプリング73および第3パイロット室R10の圧力は、リリーフバルブ70における付勢手段としての機能を果たす。
【0037】
バルブ部材Vは、ロッド76、ホルダ77および弁子78A,78Bを備えている。ロッド76は、連通室R7と第1パイロット室R8間を連通させる貫通孔71hにシール材79により液密的かつ摺動可能に組み付けられている。また、ロッド76は、貫通孔71hを貫通した状態でその一端にて段付きピストン72の小径部72aと係合し、その他端にてホルダ77と係合している。
【0038】
ホルダ77は、ロッド76の係合部位とは反対側の部位にて弁子78A,78Bを保持している。弁子78A,78Bは、何れも球状のものである。弁子78A,78Bに対向する連通室R7の部位には、弁子78A,78Bの着座を許容する弁座71i,71jがそれぞれ形成されている。
【0039】
弁子78A,78Bは、弁座71i,71jに着座した状態にあるとき、すなわち、第1パイロット室R8の圧力および第2パイロット室R9の圧力が共に所定値未満であって、段付きピストン72に対して図示下方向に作用する力の和が、スプリング73による押し付け力と第3パイロット室R10の圧力により段付きピストン72に対して図示上方向に作用する力の和に比して小さくて段付きピストン72が定位置にある状態では、第1流入ポート71a、第2流入ポート71bおよびアキュムレータ側流出ポート71c間の連通を遮断している。
【0040】
また、弁子78A,78Bは、弁座71i,71jから離座した状態にあるとき、すなわち、第1パイロット室R8の圧力および第2パイロット室R9の圧力が共に所定値以上となって、段付きピストン72に対して図示下方向に作用する力の和が、スプリング73による押し付け力と第3パイロット室R10の圧力により段付きピストン72に対して図示上方向に作用する力の和に比して大きくて段付きピストン72が図示下方に移動したとき、第1流入ポート71a、第2流入ポート71bおよびアキュムレータ側流出ポート71c間を連通室R7を通して連通させる。
【0041】
以上のように構成された実施形態においては、車両の停止時にて、制御バルブ50Aを構成するピストン52およびバルブロッド53がスプリング54に押されて定位置にある。このため、制御バルブ50Aが開状態、すなわち、弁子53aが弁座51e3から離座した状態にあり、通路L1とアキュムレータAcc間が連通している。制御バルブ50Bにおいても、制御バルブ50Aと同様であり、通路L2とアキュムレータAcc間が連通している。このため、前輪側スタビライザバー10および後輪側スタビライザバー30が捩られないようになり、両スタビライザバー10,30が本来の機能を発揮しなくなる。
【0042】
一方、車両の所定速度以上の走行時に、すなわち、通路L1内に所定の圧力変動が発生すると、図示Cで示すように、通路L1からチェックバルブ61、流入ポート51a、高圧室R5、ピストン52の隙間52b、低圧室R6、流出ポート51bおよびチェックバルブ62を経て通路L1に戻されるように作動油が一方向に流れて、高圧室R5と低圧室R6間で圧力差が発生する。このため、制御バルブ50Aが閉じて、すなわち、ピストン52およびバルブロッド53が小径内孔51e2側に移動することにより弁子53aが弁座51e3に着座して、通路L1とアキュムレータAcc間の連通が遮断される。制御バルブ50Bにおいても、制御バルブ50Aと同様であり、通路L2とアキュムレータAcc間の連通が遮断される。このため、前輪側スタビライザバー10および後輪側スタビライザバー30が捩られるようになり、両スタビライザバー10,30が本来の機能を発揮するようになる。
【0043】
なお、車両の所定速度未満の走行時においては、通路L1および通路L2内にて圧力変動が緩やかに発生するため、高圧室R5と低圧室R6間での圧力差は発生しない。このため、制御バルブ50A,50Bの開状態が維持され、通路L1および通路L2とアキュムレータAcc間が連通している。この状態では、作動油の温度上昇等に起因した油圧システムHSの圧力上昇が抑制されるとともに、前輪側油圧シリンダ20の上下室R1,R2間、および後輪側油圧シリンダ40の上下室R3,R4間の圧力アンバランスが解消される。
【0044】
ところで、この実施形態においては、制御バルブ50Aおよび制御バルブ50Bが何れもメカニカル開閉バルブであって、従来の車両用懸架装置のように電磁開閉バルブやこの電磁開閉バルブの作動を制御するための電気制御装置が不要である。このため、安価な構成で前輪側スタビライザバー10および後輪側スタビライザバー30の機能を制御することができる。
【0045】
また、この実施形態においては、例えば、車両の所定速度以上の連続走行時に、作動油の温度上昇による膨張等に起因して、通路L1および通路L2内の圧力が共に所定値以上になると、リリーフバルブ70において、段付きピストン72に作用する大径内孔71g2の端部側への力が小径内孔71g1側への力より大きくなって、段付きピストン72が大径内孔71g2の端部側に移動する。このため、リリーフバルブ70が開いて、すなわち、弁子78A,78Bが弁座71i,71jから離座して、通路L1および通路L2とアキュムレータAcc間が連通される。その結果、通路L1および通路L2内の作動油がアキュムレータAccによって吸収されるようになり、前輪側油圧シリンダ20、後輪側油圧シリンダ40および通路L1,L2を含んで構成される油圧システムHSに過度の負荷がかかることが防止されて、この油圧システムHSの安全性を安価な構成で向上させることができる。
【0046】
また、上記のように通路L1および通路L2内の圧力が共に所定値以上になったときに、リリーフバルブ70の開動作により、作動油の温度上昇等に起因した油圧システムHSの圧力上昇が抑制され、前輪側油圧シリンダ20の上下室R1,R2間、および後輪側油圧シリンダ40の上下室R3,R4間の圧力アンバランスが解消されるので、制御バルブ50A,50Bの感度を上げることができる。すなわち、リリーフバルブ70を用いない場合に比して、制御バルブ50A,50Bが閉動作する車両の所定速度をより低く設定することができる。
【0047】
また、リリーフバルブ70は、第1パイロット室R8の圧力を受ける段付きピストン72の小径部72aの受圧面積と、第2パイロット室R9の圧力を受ける段付きピストン72の大径部72bの受圧面積とがほぼ同じ大きさとなるように設定されている。したがって、車両の旋回走行により車体がロールして、例えば、第1パイロット室R8が高圧となり、第2パイロット室R9が低圧となった場合には、段付きピストン72の小径部72aと大径部72bに対して、大きさがほぼ同じで互いに反対方向の力が作用するようになり、リリーフバルブ70の閉状態が維持される。これにより、通路L1および通路L2とアキュムレータAcc間の連通を遮断した状態が維持され、車体のロール時にて前輪側スタビライザバー10および後輪側スタビライザバー30による機能の発揮が保障される。
【0048】
なお、車両の停止時および所定速度未満の走行時には、制御バルブ50A,50Bが開状態にあり、通路L1および通路L2とアキュムレータAcc間が連通しているので、この場合にリリーフバルブ70が開く必要はない。
【0049】
上記実施形態においては、制御バルブ50A,50Bの各ピストン52に絞りとしての隙間52bを設けるように実施したが、例えば図2に示すように、ピストン52に絞りとしてのオリフィス52cを設けるように実施することも可能である。なお、この変形実施形態の説明では、上記実施形態のピストン52と異なる部分についてのみ説明し、上記実施形態のピストン52と同一の部分または同一の機能を果たす部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
オリフィス52cは、高圧室R5とピストン52の穴部52a間を連通させていて、通路L1(L2)内に所定の圧力変動が発生したとき、高圧室R5と低圧室R6間に圧力差が発生し得る所定の大きさに設定されている。ピストン52は、シール材に57により大径内孔51e1に液密的かつ摺動可能に組み付けられている。
【0051】
この変形実施形態においては、オリフィス52cの面積の精度を高くすることができるので、車両の所定速度に対応して制御バルブ50A,50Bをより正確に閉動作させることが可能である。
【0052】
上記実施形態およびその変形実施形態においては、通路L1および通路L2の圧力が共に所定値以上になったとき、リリーフバルブ70の開動作により通路L1および通路L2とアキュムレータAcc間が連通されるように実施したが、通路L1および通路L2のうちの少なくとも一方の通路とアキュムレータAcc間が連通されるように実施することも可能である。通路L1および通路L2の圧力が共に所定値以上になったとき、一方の通路内の作動油がアキュムレータAccによって吸収されることで、一方の通路の圧力が減少し、これに応じて他方の通路の圧力も減少する。したがって、この場合にも、油圧システムHSに過度の負荷がかかることが防止される。
【0053】
また、上記実施形態等においては、制御バルブ50A,50Bのピストン52とバルブロッド53を別部材で構成したが、ピストンとバルブロッドを一部材で構成することも可能である。
【0054】
また、上記実施形態においては、ピストン52に隙間52bを設け、上記変形実施形態においては、ピストン52にオリフィス52cを設けたが、バルブボデー51に絞りとしての通路を設けるようにしてもよい。
【0055】
また、上記実施形態等においては、リリーフバルブ70において、第3パイロットポート71fおよび第3パイロット室R10を設けて、スプリング73および第3パイロット室R10の圧力が付勢手段として機能するように実施したが、第3パイロットポート71fおよび第3パイロット室R10を省略して、スプリング73のみが付勢手段として機能するように実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明による車両用懸架装置の一実施形態を示す全体概略図である。
【図2】本発明による車両用懸架装置の変形実施形態に係る制御バルブを示す拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0057】
BD…車体、10…前輪側スタビライザバー、20…前輪側油圧シリンダ(前輪側流体圧シリンダ)、30…後輪側スタビライザバー、40…後輪側油圧シリンダ(後輪側流体圧シリンダ)、HS…油圧システム、L1,L2,L3…通路、Acc…アキュムレータ、R1,R3…上室、R2,R4…下室、50A…制御バルブ(第1制御手段)、50B…制御バルブ(第2制御手段)、51…バルブボデー、51a…流入ポート、51b…流出ポート、51c…通路側流入出ポート、51d…アキュムレータ側流入出ポート、51e…段付き内孔、51e1…大径内孔、51e2…小径内孔、51e3…弁座、R5…高圧室、R6…低圧室、52…ピストン、52b…隙間(絞り)、52c…オリフィス(絞り)、53…バルブロッド(バルブ部材)、53a…弁子(バルブ部材)、54…スプリング(付勢手段)、55…スプリング、61,62…チェックバルブ(第1制御手段および第2制御手段)、70…リリーフバルブ、71…バルブボデー、71a…第1流入ポート、71b…第2流入ポート、71c…アキュムレータ側流出ポート、71d…第1パイロットポート、71e…第2パイロットポート、71f…第3パイロットポート、71g…段付き内孔、71g1…小径内孔、71g2…大径内孔、71i,71j…弁座、R7…連通室、R8…第1パイロット室、R9…第2パイロット室、R10…第3パイロット室、72…段付きピストン、72a…小径部、72b…大径部、73…スプリング(付勢手段)、V…バルブ部材、76…ロッド、77…ホルダ、78A,78B…弁子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪側スタビライザバーの剛性を制御する前輪側流体圧シリンダと後輪側スタビライザバーの剛性を制御する後輪側流体圧シリンダの各上室同士を接続する第1通路と、前記前輪側流体圧シリンダと前記後輪側流体圧シリンダの各下室同士を接続する第2通路と、前記第1通路と前記第2通路に接続されて前記各通路との間にて作動流体を給排可能なアキュムレータと、前記第1通路と前記アキュムレータ間に介装されて同第1通路と同アキュムレータ間の連通遮断を制御する第1制御手段と、前記第2通路と前記アキュムレータ間に介装されて同第2通路と同アキュムレータ間の連通遮断を制御する第2制御手段とを備えた車両用懸架装置であって、
前記各制御手段は、前記各通路内にて所定の圧力変動が発生しているとき前記第各通路と前記アキュムレータ間の連通を遮断する常開型のメカニカル開閉バルブを備えていることを特徴とする車両用懸架装置。
【請求項2】
請求項1に記載した車両用懸架装置において、前記各メカニカル開閉バルブは、前記各通路からの作動流体の流れのみを許容する第1のチェックバルブを介して前記各通路に連通する流入ポートと、前記各通路への作動流体の流れのみを許容する第2のチェックバルブを介して前記各通路に連通する流出ポートと、前記各通路に連通する通路側流入出ポートと、前記アキュムレータに連通するアキュムレータ側流入出ポートと、前記流入ポートと前記流出ポート間を連通させる大径内孔と、前記通路側流入出ポートと前記アキュムレータ側流入出ポート間を連通させて前記大径内孔とで段付き内孔を形成する小径内孔とを有してなるバルブボデーを備えるとともに、前記バルブボデーの前記大径内孔に移動可能に組み付けられ同大径内孔内を前記流入ポートに連通させる高圧室と前記流出ポートに連通させる低圧室に区画するピストンと、前記高圧室と前記低圧室間を連通させる絞りと、前記ピストンを前記高圧室側に付勢する付勢手段と、前記ピストンと共に移動可能かつ前記小径内孔に移動可能に設けられて前記ピストンが定位置にあるとき前記通路側流入出ポートと前記アキュムレータ側流入出ポート間を連通させ、前記各通路内での所定の圧力変動に応じて前記ピストンが前記小径内孔側に移動したとき前記通路側流入出ポートと前記アキュムレータ側流入出ポート間の連通を遮断するバルブ部材とを備えていることを特徴とする車両用懸架装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した車両用懸架装置において、前記第1通路および前記第2通路の圧力が共に所定値以上になったとき前記両通路のうちの少なくとも一方と前記アキュムレータ間を連通させるメカニカルリリーフバルブを設けたことを特徴とする車両用懸架装置。
【請求項4】
請求項3に記載した車両用懸架装置において、前記メカニカルリリーフバルブは、前記第1通路に連通する第1流入ポートおよび第1パイロットポートと、前記第2通路に連通する第2流入ポートおよび第2パイロットポートと、前記アキュムレータに連通するアキュムレータ側流出ポートと、前記第1流入ポート、前記第2流入ポートおよび前記アキュムレータ側流出ポート間を連通させる連通室と、前記第1パイロットポートと前記第2パイロットポート間を連通させる段付き内孔とを有してなるバルブボデーを備えるとともに、前記段付き内孔に移動可能に組み付けられ同段付き内孔の小径内孔内に前記第1パイロットポートに連通する第1パイロット室を形成し、同段付き内孔の大径内孔内に前記第2パイロットポートに連通する第2パイロット室を形成する段付きピストンと、前記段付きピストンを前記小径内孔側に所定荷重で付勢する付勢手段と、前記連通室内に組み付けられ前記段付きピストンに接続されて前記段付きピストンが定位置にあるとき前記両通路と前記アキュムレータ間の連通を遮断し、前記第1パイロット室および前記第2パイロット室の圧力の増加により前記段付きピストンに作用する前記大径内孔の端部側への力が前記付勢手段の所定荷重より大きくなって同段付きピストンが同大径内孔の端部側に移動したとき前記両通路と前記アキュムレータ間を共に連通させるバルブ部材とを備えていることを特徴とする車両用懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−69837(P2007−69837A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261590(P2005−261590)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】