説明

車両用操舵装置

【課題】 操舵反力の変動を抑制して良好な操舵フィーリングを実現することのできる車両用操舵装置を提供すること。
【解決手段】 制御装置は、推定(検出)される路面反力Frの印加方向が転舵角を増加させる方向である場合に、ステアリングに付与する操舵反力Fhをその時点の値で一定に保持すべく反力アクチュエータの作動を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、転舵輪とステアリング(ハンドル)とを機械的に分離し、検出されたステアリングの舵角(操舵角)に基づいて、そのステアリング操作に応じた転舵輪の舵角(転舵角)を発生させるべく転舵アクチュエータの作動を制御する所謂ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置が提案されている。
【0003】
ところで、こうしたステアバイワイヤ式の車両用操舵装置においては、転舵輪とステアリングとが分離されているが故に、転舵輪に作用する路面反力がステアリングまで伝達されない。そのため、運転者がステアリングに作用する操舵反力を介して路面情報(ロードインフォメーション)を感じとることができないという問題がある。そこで、従来、ステアリング操作により同ステアリングに印加される操舵トルク、及び転舵輪に作用する路面反力を検出し、その操舵トルク及び路面反力に応じた操舵反力をステアリングに付与すべく反力アクチュエータの作動を制御するものがある(例えば、特許文献1参照)。そして、このような構成を採用することにより、転舵輪に作用する路面反力を操舵反力としてステアリングに反映させることができ、ステアリング操作を介して路面情報の取得が可能になるとともに、より良好な操舵フィーリングを実現することが可能になる。
【0004】
しかしながら、例えば、悪路通過時等のように、転舵輪に作用する路面反力の全てを操舵反力として反映させることが必ずしも好ましいとは限らない場合もある。即ち、機械的な操舵伝達機構を有する従来の操舵装置の場合、転舵輪が路面上の凹凸を通過する際の大きな路面反力及びその急激な変化がそのまま操舵反力としてステアリングに伝達されるが、このような過大な操舵反力及びその急峻な変動は、ステアリング操作の妨げとなるものであり、必ずしも忠実に再現する必要のないものである。
【0005】
そこで、従来、路面反力を操舵反力として反映させる路面反力反映モードと、路面反力を反映させない解除モードとを備え、その車両状態に応じて、これら2つのモードを切り替え可能としたものがある(例えば、特許文献2参照)。そして、このような構成を採用することにより、凹凸通過時の過大な路面反力が操舵反力に反映されることによるその操舵フィーリングの悪化を防止することができるようになる。
【特許文献1】特開2004−34923号公報
【特許文献2】特開2003−182618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来例のごとく、単にステアリングへの路面反力の反映を解除する構成とした場合、その解除に伴って路面反力に相当する分だけ操舵反力が急激に減少することになる。その結果、例えば、その操舵反力の減少により所謂舵抜け感が発生する等、却って操舵フィーリングの悪化を招くおそれがあり、この点において、なお改善の余地を残すものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、操舵反力の変動を抑制して良好な操舵フィーリングを実現することのできる車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、転舵輪と機械的に分離されたステアリングと、ステアリング操作に応じた前記転舵輪の転舵角を発生させるべく制御される転舵アクチュエータと、前記ステアリングに操舵反力を付与するための反力アクチュエータと、前記転舵輪に作用する路面反力を検出する路面反力検出手段と、前記検出される路面反力に応じた前記操舵反力を前記ステアリングに付与すべく前記反力アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備えた車両用操舵装置であって、前記制御手段は、前記検出された路面反力の印加方向が前記転舵角を増加させる方向である場合に、前記付与する操舵反力を該検出された時点の値で一定とすべく前記反力アクチュエータの作動を制御すること、を要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、「わだち」通過時やパンク発生時においても、ステアリングに付与される操舵反力は、転舵輪がわだちに突入した時点、或いはパンク時点の値に保持される(操舵反力保持制御)。これにより、舵抜け感の発生や過剰な操舵角の発生を防止することができ、その結果、所謂「わだち或いはパンクにより『切り込み方向』にステアリングをとられる」ことによって車両が車線を外れるといった事態を効果的に抑制することができるようになる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記制御手段は、前記検出された路面反力の印加方向が前記転舵角を減少させる方向であり、且つその変化速度が所定値よりも大きい場合に、前記付与する操舵反力を該検出された時点の値で一定とすべく前記反力アクチュエータの作動を制御すること、を要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、ステアリング操作に抗する操舵反力の急減な増加によって、「『切り戻し方向』にステアリングが持っていかれる」といった現象が生ずるような場合であっても、ステアリングの操舵角の急変を防止して、車両が車線を外れるといった事態を効果的に防止することができるようになる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記制御手段は、前記操舵反力を一定とした時点における前記路面反力の値を記憶し、検出される路面反力の現在値が前記記憶された値と等しくなるまで、前記操舵反力を一定とすべく前記反力アクチュエータの作動を制御すること、を要旨とする。
【0013】
上記構成によれば、操舵反力保持制御終了時の操舵反力の値は、現在の路面反力が反映された値と等しいため、その切り替えの際においても操舵反力の変動を抑えて良好な操舵フィーリングを確保することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、操舵反力の変動を抑制して良好な操舵フィーリングを実現することが可能な車両用操舵装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をステアバイワイヤ式の車両用操舵装置(ステアリング装置)に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のステアリング装置1は、ステアリング(ハンドル)2を含む操舵機構3と転舵輪4の舵角を変更するための転舵機構5とが機械的に非連結、即ちステアリング2と転舵輪4とが機械的に分離された所謂ステアバイワイヤ式の車両用操舵装置である。
【0016】
操舵機構3は、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト6と、ステアリング操作に伴うステアリング2の舵角、即ち操舵角θsを検出するための操舵角検出手段としての操舵角センサ7とを備えている。そして、転舵機構5は、操舵角センサ7により検出される操舵角θsに基づいて、そのステアリング操作に応じた転舵輪4の舵角を発生させるための転舵アクチュエータ8を備えている。本実施形態では、転舵機構5は、タイロッド9及びナックルアーム10を介して左右の転舵輪4を連結する転舵軸12を有しており、転舵アクチュエータ8は、駆動源としてのモータ13と該モータ13の回転を転舵軸12の往復動に変換する変換機構14とを備えている。尚、本実施形態の転舵アクチュエータ8は、転舵軸12と同軸配置されたブラシレスモータを有し、変換機構14としてボール螺子機構を備えている。そして、この転舵アクチュエータ8により駆動された転舵軸12の往復動が転舵輪4に伝達されることにより、同転舵輪4の舵角、即ち転舵角θtが変更されるようになっている。
【0017】
また、本実施形態では、操舵機構3は、ステアリング操作によってステアリング2に印加される操舵トルクτを検出するための操舵トルク検出手段としてのトルクセンサ16と、該検出された操舵トルクτ(及び後述する路面反力Fr)に応じた操舵反力をステアリング2に付与するための反力アクチュエータ17とを備えている。反力アクチュエータ17は、駆動源としてのモータ18と、該モータ18の回転を減速してステアリングシャフト6に伝達する減速機構19とを備えている。尚、本実施形態では、反力アクチュエータ17のモータ18には、転舵アクチュエータ8のモータ13と同様にブラシレスモータが採用されている。そして、反力アクチュエータ17は、減速機構19を介してモータ18の発生するモータトルクをステアリングシャフト6に伝達することによりステアリング2に操舵反力を付与するようになっている。
【0018】
本実施形態では、転舵アクチュエータ8及び反力アクチュエータ17は、制御装置20によりその作動が制御されている。詳述すると、転舵アクチュエータ8のモータ13及び反力アクチュエータ17のモータ18は、制御装置20と接続されており、各モータ13,18は、制御装置20から供給される三相(U,V,W)の駆動電力に基づいて回転する。そして、制御装置20は、その駆動電力の供給を通じて各モータ13,18の回転を制御することにより、転舵アクチュエータ8及び反力アクチュエータ17の作動を制御する。具体的には、制御装置20は、上記操舵角センサ7及びトルクセンサ16、並びに車速センサ21の出力信号に基づいて操舵角θs、操舵トルクτ及び車速Vを検出する。また、転舵軸12には、変位量センサ22が設けられており、制御装置20は、この変位量センサ22の出力信号に基づいて転舵輪4の転舵角θtを決定する同転舵軸12の軸方向の変位量Xを検出する。そして、制御装置20は、その検出された操舵角θs、車速V及び変位量Xに基づいて、転舵輪4の転舵角θtを変更すべく転舵アクチュエータ8の作動を制御し、操舵トルクτ及び車速V(並びに路面反力Fr)に基づいて、操舵反力を付与すべく反力アクチュエータ17の作動を制御する。
【0019】
次に、制御装置20による転舵アクチュエータ8及び反力アクチュエータ17の制御態様について説明する。図2は、本実施形態のステアリング装置1の制御ブロック図である。同図に示すように、制御装置20は、転舵アクチュエータ8を制御するための第1ECU23と、反力アクチュエータ17を制御するための第2ECU24とを備えている。そして、これら第1ECU23及び第2ECU24は、それぞれ各モータ13,18を制御するためのモータ制御信号を出力するマイコン25,26と、そのモータ制御信号に基づいて各モータ13,18に駆動電力を供給する駆動回路27,28とを備えている。尚、以下に示す、各マイコン25,26内の各制御ブロックは、これらマイコン25,26が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。
【0020】
先ず、転舵アクチュエータ8を制御する第1ECU23側のマイコン25の構成について説明する。マイコン25は、転舵輪4の制御目標角に対応する転舵軸12の変位量指令X*を生成する変位量指令演算部31と、その変位量指令X*及び検出された変位量Xに基づいて位置制御量εを演算する位置制御演算部32と、その位置制御量εに基づいて駆動回路27に出力するモータ制御信号を生成するモータ制御信号生成部33とを備えている。
【0021】
変位量指令演算部31には、操舵角θs及び車速Vが入力され、変位量指令演算部31は、これら操舵角θs及び車速Vに基づいて変位量指令X*を生成し、その変位量指令X*を位置制御演算部32に出力する。位置制御演算部32には、この変位量指令X*とともに、変位量センサ22により検出された変位量Xが入力される。そして、位置制御演算部32は、これら変位量指令X*及び変位量Xに基づくフィードバック制御により位置制御量εを演算し、その位置制御量εをモータ制御信号生成部33に出力する。モータ制御信号生成部33には、位置制御演算部32により算出された位置制御量εとともに、電流センサ34により検出された実電流値及び回転角センサ35により検出されたモータ13の回転角が入力される。そして、モータ制御信号生成部33は、これら位置制御量ε、実電流値及び回転角に基づいてモータ制御信号を生成し、このモータ制御信号を駆動回路27に出力する。そして、そのモータ制御信号に応じた駆動電流がモータ13に供給されることにより、転舵輪4の転舵角θtをその制御目標角に追従させるべくモータ13の回転、即ち転舵アクチュエータ8の作動が制御されるようになっている。
【0022】
一方、反力アクチュエータ17を制御する第2ECU24側のマイコン26は、ステアリング2に付与する操舵反力Fhの制御目標量、即ちモータ18に供給する駆動電流の電流指令値として操舵反力指令Iq*を演算する操舵反力指令演算部41と、この操舵反力指令Iq*に基づいて駆動回路28に出力するモータ制御信号を生成するモータ制御信号生成部42とを備えている。
【0023】
また、本実施形態では、マイコン26は、転舵輪4に作用する路面反力Frを推定する路面反力推定演算部43を備えており、操舵反力指令演算部41は、この路面反力推定演算部43により推定された路面反力Frに基づいて操舵反力指令Iq*を演算する。即ち、本実施形態では、路面反力推定演算部43により路面反力検出手段が構成されている。そして、その操舵反力指令Iq*に基づく駆動電力がモータ18に供給、即ち反力アクチュエータ17の作動が制御されることにより転舵輪4に作用する路面反力Frに応じた(路面反力Frの反映された)操舵反力Fhがステアリング2に付与されるようになっている。
【0024】
詳述すると、本実施形態では、路面反力推定演算部43には、上記変位量X及び電流センサ34により検出された実電流値、即ち転舵アクチュエータ8側のモータ13に通電される実電流値が入力される。そして、路面反力推定演算部43は、これら変位量X及び実電流値に基づいて転舵軸12に作用する軸力を演算し、その軸力を転舵輪4に作用する路面反力Frと推定する。操舵反力指令演算部41には、この路面反力推定演算部43により推定された路面反力Frとともに、操舵トルクτ及び車速Vが入力される。そして、操舵反力指令演算部41は、これら操舵トルクτ、路面反力Fr、及び車速Vに基づいて操舵反力指令Iq*を演算し、その操舵反力指令Iq*をモータ制御信号生成部42へと出力する。モータ制御信号生成部42には、操舵反力指令Iq*とともに、電流センサ44により検出された実電流値及び回転角センサ45により検出されたモータ18の回転角が入力される。そして、モータ制御信号生成部42は、これら操舵反力指令Iq*、実電流値及び回転角に基づきモータ制御信号を生成し、そのモータ制御信号を駆動回路28へと出力する。そして、このモータ制御信号に応じた電流値を有する駆動電流がモータ18に供給されることにより、その操舵トルクτ、路面反力Fr、及び車速Vに応じた操舵反力Fhがステアリング2に付与されるようになっている。
【0025】
(操舵反力保持制御)
次に、本実施形態の制御装置による操舵反力保持制御について説明する。
上述のように、転舵輪に作用する路面反力の全てを操舵反力として反映させることが必ずしも好ましいとは限らない。例えば、悪路走行時、転舵輪4が路面上の凹凸を通過する際、或いは車両の何れかの車輪がパンクした際に、その路面反力Frをそのまま操舵反力に反映させるとすれば、過大且つ急峻に変化する操舵反力がステアリング2に付与されることとなり、その変動により操舵フィーリングが大きく損なわれるおそれがある。特に、転舵輪4にその舵角(転舵角θtの絶対値)を増加させる方向の路面反力Frが印加された場合、ステアリング2に対しその操作方向と同じ方向の操舵反力を付与することになるため、所謂舵抜け感の発生や、或いは操舵角θsの増加方向(切り込み方向)への過剰な操舵角θsの発生等といった、運転者に不安を感じさせる現象が誘引されやすくなる。
【0026】
この点を踏まえ、本実施形態のステアリング装置1では、制御装置20は、所定の条件下において、ステアリング2に付与する操舵反力を、その時点の値で一定に保持すべく反力アクチュエータ17の作動を制御する。具体的には、推定(検出)される路面反力Frの印加方向が転舵角θtを増加させる方向である場合、又はその印加方向が転舵角θtを減少させる方向であってもその変更速度が所定値よりも大きい場合に、ステアリング2に付与する操舵反力をその時点の値で一定に保持する(操舵反力保持制御)。そして、これにより、運転者に不安を感じさせる要因となる舵抜け感の発生、或いは過剰な操舵角θsの発生を抑制するようになっている。
【0027】
[操舵反力保持機能]
先ず、本実施形態におけるマイコン26の操舵反力保持機能について説明する。
図2に示すように、本実施形態のマイコン26は、操舵反力保持制御のオン/オフ判定(保持判定)を行う保持判定部46と、操舵反力保持制御時に一定の操舵反力を付与するための制御目標量である保持操舵反力指令Iq_s*を出力する操舵反力指令保持部47とを備えている。そして、保持判定部46において操舵反力保持制御を「オン」と判定した場合には、操舵反力指令演算部41が出力する操舵反力指令Iq*(現在値)に代えて、操舵反力指令保持部47が出力する保持操舵反力指令Iq_s*(保持値)に基づくモータ制御信号を駆動回路28に出力する。
【0028】
詳述すると、本実施形態では、保持判定部46には、路面反力推定演算部43の出力する路面反力Fr、並びに操舵角θs及び車速Vが入力されるようになっており、同保持判定部46は、これら入力された路面反力Fr、操舵角θs(操舵速度ωs)及び車速V(その微分値αV)に基づいて上記保持判定を実行する。そして、その判定結果を保持信号Shとして操舵反力指令保持部47に出力する。尚、本実施形態では、保持判定部46は、操舵反力保持制御を「オン」(保持信号Sh=「ON」)とした場合に保持フラグをセットし、操舵反力保持制御を「オフ」(保持信号Sh=「OFF」)とした場合に同保持フラグをリセットする。
【0029】
操舵反力指令保持部47には、保持信号Shとともに、操舵反力指令演算部41により演算された操舵反力指令Iq*が入力され、操舵反力指令保持部47は、保持信号Shが「オン」となった場合に、その時点の操舵反力指令Iq*を保持操舵反力指令Iq_s*として記憶する。そして、操舵反力指令保持部47は、入力される保持信号Shが「オフ」、即ち保持フラグがリセットされるまで、この保持操舵反力指令Iq_s*を出力する。本実施形態では、操舵反力指令演算部41の出力する操舵反力指令Iq*、及び操舵反力指令保持部47の出力する保持操舵反力指令Iq_s*は、保持信号Shとともに、出力切替部48に入力される。そして、出力切替部48は、保持信号Shが「オフ」の場合には、操舵反力指令演算部41が出力する操舵反力指令Iq*をモータ制御信号生成部42に出力し、保持信号Shが「オン」の場合には、操舵反力指令保持部47の出力する保持操舵反力指令Iq_s*をモータ制御信号生成部42に出力する。
【0030】
即ち、図3のフローチャートに示すように、マイコン26は、先ず、センサ値(車両状態量)として変位量X、実電流値Is、操舵角θs(操舵速度ωs)、及び車速V(その微分値αV)を取得し(ステップ101)、続いて路面反力Frの推定(ステップ102)、及びその路面反力Frに応じた操舵反力をステアリングに付与するための操舵反力指令Iq*の演算を実行する(ステップ103)。そして、マイコン26は、その推定された路面反力Fr、操舵角θs(操舵速度ωs)及び車速V(その微分値αV)に基づいて操舵反力保持制御のオン/オフ判定(保持判定)を実行する(ステップ104)。
【0031】
次に、マイコン26は、上記ステップ104の保持判定において操舵反力保持制御を「オン」とする判定がなされたか否かを判定し(ステップ105)、その判定が「オン」である場合(ステップ105:YES)には、続いて操舵反力保持制御が実行されているか否か、即ち既に保持中であるか否かを判定する(ステップ106)。尚、保持中であるか否かの判定は、保持フラグがセットされているか否かにより行われる。
【0032】
次に、マイコン26は、このステップ106において、保持中ではない、即ち操舵反力保持制御の開始時であると判定した場合(ステップ106:NO)には、保持フラグをセットし(ステップ107)、その時点の操舵反力指令Iq*を保持値、即ち保持操舵反力指令Iq_s*として記憶する(ステップ108)。そして、その保持値(保持操舵反力指令Iq_s*)に基づくモータ制御信号を駆動回路28へと出力する(ステップ109)。また、マイコン26は、上記ステップ106において、既に保持中であると判定した場合(ステップ106:YES)には、上記ステップ107,108の処理を実行することなく、ステップ109において保持値(保持操舵反力指令Iq_s*)に基づくモータ制御信号を出力する。
【0033】
一方、上記ステップ105において、ステップ104における判定が「オフ」であると判定した場合(ステップ105:NO)、マイコン26は、続いて保持中であるか否かを判定する(ステップ110)。そして、このステップ110において、保持中であると判定した場合(ステップ110:YES)には、保持フラグをリセットし(ステップ111)、上記ステップ103において演算された操舵反力指令Iq*、即ち現在の路面反力Frが反映された現在値に基づくモータ制御信号を駆動回路28に出力する(ステップ112)。尚、上記ステップ110において、保持中ではないと判定した場合(ステップ110:NO)には、上記ステップ111を実行することなく、ステップ112において、現在値(操舵反力指令Iq*)に基づくモータ制御信号を駆動回路28に出力する。
【0034】
そして、この一連の処理によって、操舵反力保持制御中は、保持値(保持操舵反力指令Iq_s*)に対応する操舵反力、即ち操舵反力保持制御が開始された時点の路面反力Frに基づく一定の操舵反力がステアリング2に付与され、操舵反力保持制御の終了後は現在値(操舵反力指令Iq*)に対応する操舵反力が付与されるようになっている。
【0035】
[保持判定]
次に、保持判定部46における保持判定の処理手順について説明する。
図4のフローチャートに示すように、保持判定部46は、先ず、後述する継続フラグがセットされているか否かを判定する(ステップ201)。そして、このステップ201において継続フラグがセットされていないと判定した場合(ステップ201:NO)には、以下に示すステップ202〜ステップ208、及びステップ210の開始判定処理を実行する。
【0036】
具体的には、保持判定部46は、先ず、操舵反力保持制御の適用除外判定を実行する(ステップ202〜205)。具体的には、車速Vが所定速度V0(例えば、V0=5km/時)より速いか否か(ステップ202)、車速Vの微分値αVが略ゼロ(例えば、αV≦0.05)であるか否か(ステップ203)、操舵速度ωsが略ゼロ(例えば、ωs≦0.001rad/秒)であるか否か(ステップ204)を判定する。また、路面反力Fr、詳しくはその現在値Fr_cの絶対値が所定の閾値Vtsを超えるか否かを判定する(ステップ205)。尚、本実施形態では、操舵速度ωsは、操舵角θsを微分することにより求められる。
【0037】
そして、保持判定部46は、これらステップ202〜205の各判定条件を全て満たす場合に、続いて路面反力Fr(現在値Fr_c)の印加方向が転舵輪4の舵角(転舵角θtの絶対値)を増加させる方向であるか否かを判定する(ステップ206)。即ち、本実施形態では、保持判定部46は、車両が極低速走行時ではなく(V>V0、ステップ202:YES)、加減速時ではなく(αV≒0、ステップ203:YES)、操舵角変更時ではなく(ωs≒0、ステップ204:YES)、路面反力Frの現在値Fr_c(の絶対値)が所定の閾値Vtsを超える場合(|Fr_c|>Vts、ステップ205:YES)に、開始判定処理の本判定を実行する。
【0038】
具体的には、本実施形態では、保持判定部46における保持判定処理(及び上記センサ値の取得)は、所定周期(例えば約10μ秒程度)毎に実行されており、保持判定部46は、前回の処理周期において検出された路面反力Frの値を前回値Fr_bとして記憶している。そして、保持判定部46は、このステップ206において、前回値Fr_bと現在値Fr_cとの和の絶対値(|Fr_b+Fr_c|)が前回値Fr_bの絶対値(|Fr_b|)よりも大きいか否かの判定により、路面反力Fr(現在値Fr_c)の印加方向が転舵角θtを増加させる方向であるか否かを判定する。そして、保持判定部46は、路面反力Fr(現在値Fr_c)の印加方向が転舵角θtを増加させる方向である(|Fr_b+Fr_c|>|Fr_b|、ステップ206:YES)と判定した場合には、継続フラグをセットし(ステップ207)、その時点の路面反力Frの値、即ち現在値Fr_cを後述する記憶値Fr_mとして記憶する(ステップ208)。そして、操舵反力保持制御を「オン」とすべく、その出力する保持信号Shを「ON」とする(ステップ209)。
【0039】
また、上記ステップ206において、路面反力Fr(現在値Fr_c)の印加方向が転舵角θtを減少させる方向である(|Fr_b+Fr_c|≦|Fr_b|、ステップ206:NO)と判定した場合、保持判定部46は、続いて前回値Fr_bに対する現在値Fr_cの変化量(|Fr_b−Fr_c|)が所定の閾値δ(例えば20N)よりも大きいか否かを判定する(ステップ210)。そして、前回値Fr_bに対する現在値Fr_cの変化量(絶対値)が所定の閾値δよりも大きい場合(|Fr_b−Fr_c|>δ、ステップ210:YES)には、上記ステップ207〜ステップ209の処理を実行する。即ち、本実施形態では、路面反力Fr(現在値Fr_c)の印加方向が転舵角θtを減少させる方向であっても、その単位時間あたり(一周期あたり)の前回値Fr_bに対する現在値Fr_cの変化量(絶対値)が所定の閾値δよりも大きい場合、言い換えると路面反力Frの変化速度が所定値よりも大きい場合には、操舵反力保持制御を「オン」とすべく、その出力する保持信号Shを「ON」とする。そして、これにより、転舵輪4に印加される路面反力Frが急峻に変化した場合にも操舵反力保持制御を「オン」となり、その時点の路面反力Frに基づく一定の操舵反力がステアリング2に付与されるようになっている。
【0040】
尚、本実施形態では、保持判定部46は、上記ステップ202〜205の各判定条件の何れかを満たさない場合、即ち車両が極低速走行時(V≦V0、ステップ202:NO)、加減速時(ステップ203:NO)又は操舵角変更時(ステップ204:NO)、又は路面反力Frの現在値Fr_c(の絶対値)が所定の閾値Vts以下である場合(|Fr_c|≦Vts、ステップ205:NO)の何れに該当する場合、上記ステップ206〜ステップ210の処理を実行しない。また、上記ステップ210において、前回値Fr_bに対する現在値Fr_cの変化量(絶対値)が所定の閾値δ以下であると判定した場合(|Fr_b−Fr_c|≦δ、ステップ210:NO)にも、ステップ207〜ステップ209の処理を実行しない。そして、これらの場合には、保持判定部46は、操舵反力保持制御を「オフ」とすべく、その出力する保持信号Shを「OFF」とする(ステップ211)。
【0041】
一方、上記ステップ201において、継続フラグがセットされていると判定した場合(ステップ201:YES)、即ち既に操舵反力保持制御が開始されていると判定した場合には、保持判定部46は、検出された路面反力Frの現在値Fr_cがその記憶値Fr_mと等しいか否かを判定し(ステップ212)、現在値Fr_cが記憶値Fr_mと等しくない(ステップ212:NO)と判定した場合には、ステップ209の処理を実行する。そして、現在値Fr_cが記憶値Fr_mと等しい(Fr_c=Fr_m、ステップ212:YES)と判定した場合には、継続フラグをリセットし(ステップ213)、記憶値Fr_mを初期化(ステップ214)した後、操舵反力保持制御を「オフ」とすべく、その出力する保持信号Shを「OFF」とする(ステップ211)。そして、保持判定部46は、上記ステップ209又はステップ211の処理の実行後、現在値Fr_cを次回の保持判定処理に用いる前回値Fr_bとして記憶する(Fr_b=Fr_c、ステップ215)。
【0042】
即ち、本実施形態では、ステップ207においてセットされた継続フラグは、ステップ212において、現在値Fr_cが記憶値Fr_mと等しいと判定されるまでリセットされず、その間、保持信号Shは「ON」となる。そして、これにより、検出される路面反力Frの現在値が、その操舵反力保持制御が開始された時点の値である記憶値Fr_mと等しくなるまで、同記憶値Fr_mに基づく一定の操舵反力がステアリング2に付与されるようになっている。
【0043】
(作用・効果)
次に、上記のように構成された本実施形態のステアリング装置1の作用・効果について説明する。図5に示すように、例えば、左旋回時、即ち運転者が左方向(同図中マイナス方向)にステアリング操作を行っている場合、転舵輪4には、そのステアリング操作により生じた舵角を中立位置(転舵角θt=0)に戻す方向、即ちステアリング操作方向と逆側である右方向(同図中プラス方向)の路面反力Frが働く。従って、この場合、ステアリング2には、この路面反力Frを反映した右方向の操舵反力Fhが付与されることになる。
【0044】
ここで、車両が走行路面上の「わだち」を通過することにより、転舵輪4にその舵角を増大させるような外乱(わだちの形状に沿って転舵輪4が移動しようとする際に働く応力)が印加された場合、路面反力Frは、ステアリング操作方向と同じ左方向へと変化する。従って、この路面反力Frの変化をそのまま操舵反力Fhとしてステアリング2に付与するとすれば、ステアリング操作に抗する操舵反力Fhの急減な減少によって舵抜け感が発生する。或いは、ステアリング操作方向と同方向に操舵反力Fhが付与されることにより、過剰な操舵角θsが発生する、即ち「『切り込み方向』にステアリングが持っていかれる」といった現象が発生することになる。
【0045】
この点、本実施形態のステアリング装置1は、推定(検出)される路面反力Frの印加方向が転舵角θtを増加させる方向である場合、ステアリング2に付与する操舵反力Fhをその時点の値で一定に保持する。このため、操舵反力Fhは、転舵輪4がわだちに突入した直後の値に保持され、これにより舵抜け感の発生や過剰な操舵角θsの発生を防止することができる。その結果、所謂「わだちにステアリングをとられる」ことによって車両が車線を外れるといった事態を効果的に抑制することができるようになる。また、こうした操舵反力保持制御の開始後は、検出される路面反力Frの現在値が、その操舵反力保持制御が開始された時点の値と等しくなるまで、その開始時点の値に基づく一定の操舵反力Fhがステアリング2に付与される。そのため、操舵反力保持制御から通常制御、即ち現在の路面反力Frが反映された操舵反力Fhを付与する制御に切り替える際にも、その切替の際の変動を抑えて好適な操舵フィーリングを確保することができる。
【0046】
更に、両転舵輪4を含む車両の何れかの車輪がパンクした場合、路面反力Frは一層急減に変化する。この点、本実施形態のステアリング装置1は、路面反力Frの印加方向が転舵角θtを減少させる方向であってもその変更速度が所定値よりも大きい場合に、ステアリング2に付与する操舵反力Fhをその時点の値で一定に保持する。このため、同図中に示すように、ステアリング操作に抗する操舵反力Fhの急減な増加によって、「『切り戻し方向』にステアリングが持っていかれる」といった現象が生ずるような場合であっても、ステアリング2の操舵角θsの急変を防止して、車両が車線を外れるといった事態を効果的に防止することができるようになる。
【0047】
なお、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、制御手段としての制御装置20は、転舵アクチュエータ8を制御するための第1ECU23と、反力アクチュエータ17を制御するための第2ECU24とを備えることとした。しかし、これに限らず、転舵アクチュエータ8及び反力アクチュエータ17を制御する制御手段は、第1ECU23及び第2ECU24に相当するものが各々別体に設けられた構成であってもよい。
【0048】
・本実施形態では、制御装置20は、検出された操舵角θs、車速V及び変位量Xに基づいて、転舵輪4の転舵角θtを変更すべく転舵アクチュエータ8の作動を制御することとした。しかし、これに限らず、転舵アクチュエータ8は、少なくとも操舵角θsに基づいて制御されるものであればよい。また、制御装置20は、操舵トルクτ及び車速V(並びに路面反力Fr)に基づいて、操舵反力を付与すべく反力アクチュエータ17の作動を制御することとしたが、路面反力Frに応じた操舵反力を付与可能なものであれば、路面反力Fr以外のパラメータは、操舵トルクτ及び車速Vに限るものではない。
【0049】
・上記各実施形態では、路面反力推定演算部43は、変位量センサ22により検出された変位量X及び転舵アクチュエータ8の駆動源であるモータ13の実電流値に基づいて転舵軸12に作用する軸力を演算し、その軸力を転舵輪4に作用する路面反力Frと推定することとした。しかし、これに限らず、路面反力Frの推定には、位置制御演算部32により算出された位置制御量εを用いる構成としてもよい。
【0050】
・また、制御装置20は、推定された路面反力Frを用いて反力アクチュエータの作動を制御することとしたが、路面反力Frは、歪みゲージ等を用いて転舵軸12に作用する軸力を検出する等、路面反力Frを直接的に検出する構成としてもよい。
【0051】
・また、変位量Xは、必ずしも変位量センサ22により検出することはなく、回転角センサ35により検出されるモータ13の回転角から推定する構成としてもよい。
・保持判定部46における保持判定の態様及び処理手順は、図4のフローチャートに示すものに限るものではない。例えば、同図中の各適用除外判定(ステップ202〜ステップ205)は、必ずしも行う必要はなく、またその判定内容も任意に変更してもよい。また、本実施形態では、ステップ206における路面反力Fr(現在値Fr_c)の印加方向が転舵輪4の舵角(転舵角θtの絶対値)を増加させる方向であるか否かの判定は、前回値Fr_bと現在値Fr_cとの和の絶対値(|Fr_b+Fr_c|)が前回値Fr_bの絶対値(|Fr_b|)よりも大きいか否かの判定により行うこととした。しかし、これに限らず、操舵角θsの符号からステアリング操作方向を判定し(θs>0?)、更に現在値Fr_cの符号(Fr_c>0?)を判定することにより行ってもよい。
【0052】
・本実施形態では、操舵反力保持制御の開始後は、検出される路面反力Frの現在値が、その操舵反力保持制御が開始された時点の値と等しくなるまで、その開始時点の値に基づく一定の操舵反力Fhがステアリング2に付与されることとした(図5参照)。しかし、これに限らず、例えば、操舵反力保持制御の開始から所定時間経過するまで一定に保持する構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ステアリング装置の概略構成図。
【図2】ステアリング装置の制御ブロック図。
【図3】モータ制御信号の出力処理手順を示すフローチャート。
【図4】保持判定の処理手順を示すフローチャート。
【図5】操舵反力保持制御の態様を示す作用説明図。
【符号の説明】
【0054】
1…ステアリング装置、2…ステアリング(ハンドル)、3…操舵機構、4…転舵輪、5…転舵機構、6…ステアリングシャフト、7…操舵角センサ、8…転舵アクチュエータ、12…転舵軸、16…トルクセンサ、17…反力アクチュエータ、20…制御装置、21…車速センサ、22…変位量センサ、24…第2ECU、26…マイコン、θs…操舵角、θt…転舵角、τ…操舵トルク、V…車速、X…変位量、Fr…路面反力、Fr_c…現在値、Fr_b…前回値、Fr_m…記憶値、Fh…操舵反力、Sh…保持信号、Iq*…操舵反力指令、Iq_s*…保持操舵反力指令、Vts,δ…閾値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転舵輪と機械的に分離されたステアリングと、ステアリング操作に応じた前記転舵輪の転舵角を発生させるべく制御される転舵アクチュエータと、前記ステアリングに操舵反力を付与するための反力アクチュエータと、前記転舵輪に作用する路面反力を検出する路面反力検出手段と、前記検出される路面反力に応じた前記操舵反力を前記ステアリングに付与すべく前記反力アクチュエータの作動を制御する制御手段とを備えた車両用操舵装置であって、
前記制御手段は、前記検出された路面反力の印加方向が前記転舵角を増加させる方向である場合に、前記付与する操舵反力を該検出された時点の値で一定とすべく前記反力アクチュエータの作動を制御すること、を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用操舵装置において、
前記制御手段は、前記検出された路面反力の印加方向が前記転舵角を減少させる方向であり、且つその変化速度が所定値よりも大きい場合に、前記付与する操舵反力を該検出された時点の値で一定とすべく前記反力アクチュエータの作動を制御すること、
を特徴とする車両用操舵装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用操舵装置において、
前記制御手段は、前記操舵反力を一定とした時点における前記路面反力の値を記憶し、検出される路面反力の現在値が前記記憶された値と等しくなるまで、前記操舵反力を一定とすべく前記反力アクチュエータの作動を制御すること、を特徴とする車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−224804(P2006−224804A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40691(P2005−40691)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】