説明

車両用流体フィルタ装置及びその製造方法

【課題】 レーザー溶着法を用いて2つのケース構成部材を溶着するとともにフィルタエレメントの周縁部をケース構成部材に溶着して保持する場合に、レーザー照射器の出力を高出力にすることなく、各溶着部分の強度を確保できるようにする。
【解決手段】 上側ケース構成部材7をレーザー光透過性樹脂で成形し、下側ケース構成部材9をレーザー光非透過性樹脂で成形する。両ケース構成部材7、9に周壁7a、9aからケース3外側へそれぞれ突出する上側フランジ部17及び下側フランジ部13を設ける。上側フランジ部17の下面に収納凹部19と上側当接面17aとを形成する。下側フランジ部13の上面に下側当接面13aを形成する。上側ケース構成部材7側から上側フランジ部17にレーザー光を照射して両当接面13a、17aを溶着し、下側フランジ部13上面のエレメント溶着面13bにフィルタエレメント5の周縁部5aを溶着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の自動変速機内を循環するオイルを濾過する場合等に使用される車両用流体フィルタ装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用流体フィルタ装置として、例えば特許文献1に開示されているように、樹脂製のケースと、該ケース内に配置されたオイル濾過用のフィルタエレメントとを備えるものが知られている。この流体フィルタ装置のケースは、半割状の第1ケース構成部材と第2ケース構成部材とが組み合わされて構成されている。第1ケース構成部材は、オイルの流入口が形成された端壁とその周縁から第2ケース構成部材側へ突出する周壁とを有し、また、第2ケース構成部材は、オイルの流出口が形成された端壁とその周縁から第1ケース構成部材側へ突出する周壁とを有している。
【0003】
上記第1ケース構成部材の周壁及び第2ケース構成部材の周壁の対向する端部には、相手側に当接する当接面がそれぞれ設けられ、これら当接面が溶着されて両ケース構成部材が一体化されている。上記フィルタエレメントの周縁部は、両ケース構成部材の当接面よりもケース内側で挟持され、上記当接面を溶着する際に溶融した樹脂材によりケース構成部材に溶着されている。これにより、オイルの濾過時にフィルタエレメントがケースから外れるのを抑制することができる。
【0004】
また、この特許文献1には、上記第1ケース構成部材及び第2ケース構成部材の当接面をレーザー溶着法で溶着可能なことが開示されている。このレーザー溶着法を用いる場合には、レーザー照射器によりケース構成部材の外側からレーザー光を当接面に向けて照射し、このレーザー光のエネルギーでケース構成部材の当接面を溶融させることにより両ケース構成部材を一体化する。このとき、一般に、レーザー光を当接面に対して略直交する方向に指向させることにより、当接面を狙い通りに溶融させて溶着強度を得ることが行われている。
【特許文献1】特開2004−148592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のようにケース構成部材の周壁の縁部に当接面を設定した場合、この当接面に対して略直交する方向からレーザー光を照射しようとすると、レーザー光を周壁の端壁側から照射して該周壁をその突出する方向に通過させて当接面に到達させなければならない。このように周壁を通過するようにレーザー光を照射すると、このレーザー光が当接面に届くまでに周壁内で減衰してしまうので、その減衰量を見込んでレーザー照射器の出力を高出力にする必要がある。このため、大型で高価な高出力型のレーザー照射器が必要になって設備費が高騰し、ひいては、流体フィルタ装置のコストが上昇する。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、レーザー溶着法を用いて両ケース構成部材の当接面を溶着し、かつフィルタエレメントの周縁部をケース構成部材に溶着する場合に、レーザー照射器の出力を高出力にすることなく、溶着部分の強度を確保できるようにして、流体フィルタ装置を安価にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明では、車両用流体フィルタ装置の発明として、流入口を有する第1ケース構成部材と流出口を有する第2ケース構成部材とからなるケースと、該ケース内に配置され上記流入口から流入した流体を濾過するフィルタエレメントとを備え、上記両ケース構成部材の周縁にそれぞれケース外側へ突出して形成されたフランジ部を互いに溶着することにより、上記両ケース構成部材を一体化するとともに上記フィルタエレメントを両ケース構成部材で挟持してなる車両用流体フィルタ装置を対象とする。
【0008】
そして、上記第1ケース構成部材及び第2ケース構成部材の一方のケース構成部材がレーザー光透過性樹脂で成形され、他方のケース構成部材がレーザー光非透過性樹脂で成形され、上記第1ケース構成部材及び第2ケース構成部材の両フランジ部の周縁には互いに当接する当接面がそれぞれ設けられ、これら両フランジ部の少なくとも一方のフランジ部の当接面よりもケース内側には、少なくとも周縁部がレーザー光透過性に構成された上記フィルタエレメントの当接周縁部が収納される収納凹部が設けられ、上記両フランジ部の当接面は、上記一方のケース構成部材側から該ケース構成部材のフランジ部に照射されたレーザー光によって他方のケース構成部材のフランジ部当接面が溶融して該フランジ部当接面に溶着され、上記フィルタエレメントの周縁部は、上記一方のケース構成部材側から該ケース構成部材のフランジ部に照射されたレーザー光によって他方のケース構成部材のフランジ部内面が溶融して該フランジ部内面に溶着されている構成とする。
【0009】
請求項2の発明では、車両用流体フィルタ装置の製造方法の発明として、請求項1に記載の車両用流体フィルタ装置を製造する製造方法を対象とする。
【0010】
そして、第1ケース構成部材及び第2ケース構成部材の両フランジ部の周縁にそれぞれ設けられた当接面を互いに当接させるとともに、これら両フランジ部の少なくとも一方のフランジ部の当接面よりもケース内側に設けられた収納凹部にフィルタエレメントの周縁部を収納し、その後、一方のケース構成部材側から該ケース構成部材のフランジ部にレーザー光を照射して他方のケース構成部材のフランジ部当接面を溶融させて該フランジ部当接面に一方のケース構成部材のフランジ部当接面を溶着するとともに、上記一方のケース構成部材側から該ケース構成部材のフランジ部にレーザー光を照射して他方のケース構成部材のフランジ部内面を溶融させて該フランジ部内面に上記フィルタエレメントの周縁部を溶着する構成とする。
【0011】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、フィルタエレメントの周縁部を他方のケース構成部材のフランジ部内面に溶着する際にフィルタエレメントの周縁に沿って移動させるレーザー光の移動速度を、両フランジ部の当接面を溶着する際に該当接面に沿って移動させるレーザー光の移動速度よりも遅く設定する速度設定と、上記フィルタエレメントの周縁部を他方のケース構成部材のフランジ部内面に溶着する際に照射するレーザー光の出力を、上記両フランジ部の当接面を溶着する際に照射するレーザー光の出力よりも大きく設定する出力設定とのうち、一方の設定を行って上記両フランジ部の当接面を溶着するとともに、上記フィルタエレメントの周縁部を上記他方のケース構成部材のフランジ部内面に溶着する構成とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、フィルタエレメントの周縁部を収納凹部に収納した状態で、一方のケース構成部材側からフランジ部にレーザー光を照射した際、レーザー光は該フランジ部を透過して他方のケース構成部材のフランジ部に到達する。このとき他方のケース構成部材はレーザー光を透過しないので、該他方のケース構成部材のフランジ部当接面が溶融し、両ケース構成部材のフランジ部当接面同士が溶着する。
【0013】
また、フィルタエレメントの周縁部に対応したフランジ部に一方のケース構成部材側からレーザー光を照射した際、レーザー光はレーザー光透過性とされているフィルタエレメントの周縁部を透過して他方のケース構成部材のフランジ部内面が溶融し、フィルタエレメントの周縁部がフランジ部内面に溶着される。
【0014】
この溶着時には、上記一方のケース構成部材がレーザー光透過性樹脂で成形されているので、レーザー光は殆ど減衰することなく一方のケース構成部材のフランジ部を通過する。さらに、両ケース構成部材のフランジ部当接面及びフランジ部内面は、ケース構成部材の周縁からケース外側に突出しているので、レーザー光を、従来のようにケース構成部材の周壁を通過させることなく、フランジ部当接面及びフランジ部内面に略直交する方向から到達させることができる。これにより、大型で高価な高出力のレーザー照射器を用意することなく、当接面の溶着強度を確保できるとともに、フィルタエレメントの周縁部の溶着強度を確保できて、流体フィルタ装置を安価にすることができる。
【0015】
請求項2の発明によれば、両ケース構成部材のフランジ部当接面及び他方のケース構成部材のフランジ部内面がケース構成部材の周縁からケース外側に突出しており、しかも、一方のケース構成部材がレーザー光透過性樹脂で成形されているので、大型で高価な高出力のレーザー照射器を用意することなく、当接面の溶着強度を確保できるとともに、フィルタエレメントの周縁部の溶着強度を確保できて、流体フィルタ装置を安価にすることができる。
【0016】
請求項3の発明によれば、レーザー光の移動速度設定を行うことで、フィルタエレメントの周縁部を溶着する際に移動させるレーザー光の移動速度がフランジ部当接面を溶着する場合よりも遅くなるので、レーザー光を、該レーザー光の透過性が比較的低いフィルタエレメントの周縁部を透過させてフランジ部内面を確実に溶融させることができる。また、レーザー光の出力設定を行うことで、フィルタエレメントの周縁部を溶着する際に照射するレーザー光の出力がフランジ部当接面を溶着する場合よりも大きくなるので、同様にフランジ部内面を確実に溶融させることができる。これにより、フィルタエレメントの溶着不良を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用流体フィルタ装置1を示すものである。この流体フィルタ装置1は自動車の自動変速機(図示せず)に設けられていて、該自動変速機内を循環するオイルを濾過するものである。
【0019】
上記流体フィルタ装置1は、略矩形箱状の樹脂製ケース3と、該ケース3の内部空間Rに配置されたオイル濾過用のフィルタエレメント5とを備えている。上記ケース3は、図2にも示すように、上下方向の略中央部で2つに分割されており、半割状の上側ケース構成部材7と下側ケース構成部材9とが組み合わされて構成されている。該下側ケース構成部材9が本発明の第1ケース構成部材であり、上側ケース構成部材7が本発明の第2ケース構成部材である。
【0020】
上記下側ケース構成部材9は、略平坦な下壁9aと、該下壁9aの周縁から上方へ延びる周壁9bとを有しており、これら下壁9a及び周壁9bは、レーザー光を透過させないレーザー光非透過性樹脂を用いて一体成形されている。レーザー光非透過性樹脂としては、レーザー光を透過させずに吸収し得る樹脂であれば特に限定されず、例えばナイロン66、ナイロン6等の樹脂に顔料等で着色したものを用いることができる。また、上記下壁9aの略中央部には、ケース3の内部空間Rに連通する下側管状部11が下方へ突設されている。この下側管状部11の下端開口は、内部空間Rにオイルを流入させる流入口11aとされている。
【0021】
下側ケース構成部材9の周壁9bの上縁には、ケース3外側へ突出する下側フランジ部13が全周に亘って形成されている。この下側フランジ部13の上面は略平坦に形成されている。下側フランジ部13上面の外周側には、後述する上側フランジ部の上側当接面に当接するフランジ部当接面としての下側当接面13aが設けられている。この下側当接面13aは、下側フランジ部13の全周に連続する環状をなしている。下側フランジ部13上面の下側当接面13aよりもケース3内側には、フィルタエレメント5の周縁部が溶着されるフランジ部内面としてのエレメント溶着面13bが設けられている。このエレメント溶着面13bは、下側当接面13aと同様に環状をなすとともに、上記下側当接面13aと面一に形成されている。
【0022】
一方、上側ケース構成部材7は、略平坦な上壁7aと、該上壁7aの周縁から下方へ延びる周壁7bとを有しており、これら上壁7a及び周壁7bは、レーザー光を透過させるレーザー光透過性樹脂を用いて一体成形されている。このレーザー光透過性樹脂としては、レーザー光を透過させうるものであれば特に限定されず、例えば顔料等で着色されていないナイロン66、ナイロン6等の樹脂を用いることができる。また、上記上壁7aには、ケース3の内部空間Rに連通する上側管状部15が上方へ突設されている。この上側管状部15の上端開口は、内部空間Rのオイルを流出させる流出口15aとされている。
【0023】
上側ケース構成部材7の周壁7bの下縁には、ケース3外側へ突出する上側フランジ部17が全周に亘って形成されている。この上側フランジ部17は、上記上側ケース構成部材7と下側ケース構成部材9とを組み合わせた状態で下側フランジ部13に沿って延びるように形成されている。上側フランジ部17下面の外周側には、上記下側当接面13aに当接するフランジ部当接面としての上側当接面17aが上側フランジ部17の全周に連続して設けられている。また、この上側フランジ部17の下面における上側当接面17aよりもケース3内側には、上記フィルタエレメント5の周縁部が収納される収納凹部19が上側フランジ部17の全周に連続して設けられている。この収納凹部19は、上側フランジ部17下面の上側当接面17a以外の領域を該上側当接面17aよりも上方へ段差状に位置付けることで形成されたものである。収納凹部19の深さは、フィルタエレメント5の周縁部の厚みよりも若干浅く形成されており、上側ケース構成部材7と下側ケース構成部材9とを組み合わせた状態で、フィルタエレメント5の周縁部が、収納凹部19の内面と下側フランジ部13のエレメント溶着面13bとで挟持されるようになっている。
【0024】
上記フィルタエレメント5は、ポリエステル樹脂製の繊維(不織布)を矩形の板状に成形してレーザー光を透過するものであり、周縁部5aは、加熱プレスにより圧縮されて薄く形成されている。このフィルタエレメント5の大きさは、平面視で該フィルタエレメント5の周縁部5aが上側ケース構成部材7の収納凹部19内に位置する大きさとされている。
【0025】
次に、図3に基づいて、上記流体用フィルタ装置1を製造する際に用いる溶着装置50について説明する。この溶着装置50は、レーザー照射器51と、該レーザー照射器51を設定された軌跡上で移動させるロボットアームマニピュレータ53と、該ロボットアームマニピュレータ53を制御するロボットコントローラ55と、上記レーザー照射器51の出力を制御するレーザー出力制御装置57と、上記ロボットコントローラ55及びレーザー出力制御装置57に指令を送るコンピュータコントローラ59とを備えている。図3の符号61は、被溶着物を保持する保持治具である。
【0026】
上記レーザー照射器51は、上記レーザー光非透過性樹脂を溶融することが可能な波長のレーザー光を照射するように構成されている。このレーザー照射器51から照射されるレーザー光の出力はレーザー出力制御装置57により変更されるようになっている。上記レーザー照射器51から照射されるレーザー光の出力を変更する際には、コンピュータコントローラ59にその情報を入力すると、該コンピュータコントローラ59がレーザー出力制御装置57に指令を送り、この指令に基づいてレーザー出力制御装置57がレーザー照射器51を制御して出力変更が実行されるようになっている。
【0027】
また、上記ロボットアームマニピュレータ53は、レーザー照射器51を支持する支持アーム63を有しており、この支持アーム63を駆動機構65により動かすことでレーザー照射器51を移動するように構成されている。この支持アーム63(レーザー照射器51)の移動速度や移動軌跡はロボットコントローラ55で制御されるようになっている。このレーザー照射器51の移動軌跡や移動速度を変更する際には、コンピュータコントローラ59にその情報を入力すると、該コンピュータコントローラ59がロボットコントローラ55に指令を送り、この指令に基づいてロボットコントローラ55がロボットアームマニピュレータ53を操作してレーザー照射器51の移動軌跡や移動速度が変更されるようになっている。
【0028】
次に、上記のように構成された流体用フィルタ装置1の製造方法について説明する。まず、予め成形されたフィルタエレメント5の周縁部5aを収納凹部19に収納するとともに、上側ケース構成部材7の上側フランジ部17と下側ケース構成部材9の下側フランジ部13とを重ね合わせ、溶着装置50の保持治具61に保持させる。この状態で、フィルタエレメント5の周縁部5aが上側フランジ部17と下側フランジ部13とで挟持されるとともに、上側当接面17aと下側当接面13aとが当接する。
【0029】
その後、ロボットアームマニピュレータ53によりレーザー光照射器51の照射口を上側フランジ部17の上側当接面17aの直上方に位置付け、レーザー光照射器51により下側当接面13aの溶着始点を狙ってレーザー光を照射する。このレーザー光を照射しているレーザー光照射器51を、ロボットアームマニピュレータ53により下側当接面13aの平面形状に対応させて上側フランジ部17上を1周移動させ、レーザー光が上記溶着始点に重なったときに該レーザー光の照射を停止する。この工程が当接面溶着工程である。上記レーザー照射器から照射されるレーザー光の照射方向(図1に矢印Xで示す)は、下側当接面13aに対し略直交する方向とされている。
【0030】
上記レーザー光照射器から照射されたレーザー光は、上側ケース構成部材7がレーザー光透過性樹脂で成形されていることと、両当接面17a、13aが周壁7b、9bの外側に突出したフランジ部17、13に設けられていることとにより、殆ど減衰することなく上側フランジ部17のみを透過して下側当接面13aに到達する。この下側当接面13aに到達したレーザー光のエネルギーは、下側ケース構成部材9がレーザー光非透過樹脂で成形されているため、下側当接面13aに吸収される。このレーザー光によって下側当接面13aに与えられたエネルギーで該下側当接面13aが加熱されて溶融する。この下側当接面13aの熱が上側フランジ部7の上側当接面17aに伝達して該上側当接面17aも若干溶融する。そして、これら下側当接面13a及び上側当接面17aの溶融樹脂が固化することで両当接面17a、13aが溶着されて、上側ケース構成部材7と下側ケース構成部材9とが一体化する。
【0031】
上記当接面溶着工程の後、ロボットアームマニピュレータ53によりレーザー照射器51の照射口を上側フランジ部17の収納凹部19の直上方に位置付け、レーザー光照射器51によりエレメント溶着面13bの溶着始点を狙ってレーザー光を照射する。このレーザー光を照射しているレーザー光照射器51を、ロボットアームマニピュレータ53によりエレメント溶着面13bの平面形状に対応させて上側フランジ部17上を1周移動させ、レーザー光が上記溶着始点に重なったときに該レーザー光の照射を停止する。この工程がフィルタエレメント溶着工程である。上記レーザー光の照射方向(図1に矢印Yで示す)は、エレメント溶着面13bに対し略直交する方向とされている。このエレメント溶着工程で移動させるレーザー照射器51の移動速度と、上記当接面溶着工程で移動させるレーザー照射器51の移動速度とは、略同じに設定されている。
【0032】
上記レーザー光照射器51から照射されたレーザー光は、上側フランジ部17及びフィルタエレメント5の周縁部5aを透過し、上記したように殆ど減衰することなくエレメント溶着面13bに到達し、このレーザー光のエネルギーによりエレメント溶着面13bが加熱されて溶融する。このエレメント溶着面13bの溶融樹脂がフィルタエレメント5の周縁部5aにしみ込んで固化することで、フィルタエレメント5の周縁部5aがエレメント溶着面13bに溶着される。
【0033】
また、フィルタエレメント5のレーザー光透過度が上側ケース構成部材7のレーザー光透過性樹脂よりも悪いため、この実施形態では、フィルタエレメント溶着工程で照射するレーザー光の出力を、当接面溶着工程で照射するレーザー光の出力よりも若干大きく設定する出力設定が行われている。このレーザー光の出力設定により、エレメント溶着面13bにフィルタエレメント5の周縁部5aを確実に溶融させることが可能になる。
【0034】
尚、上記のようにエレメント溶着工程で移動させるレーザー照射器51の移動速度と、当接面溶着工程で移動させるレーザー照射器51の移動速度とを同じにする場合には、ロボットコントローラ55には移動速度を制御する機能を省略してもよい。
【0035】
上記ようにして得られた流体フィルタ装置1では、流入口11aからケース3の内部空間Rに流入したオイルは、フィルタエレメント5を通過して濾過された後、流出口15aから外部に流出する。このオイルの濾過時には、フィルタエレメント5の周縁部5aがエレメント溶着面13bに溶着されて保持されているので、フィルタエレメント5がケース3から外れるのを抑制することが可能である。
【0036】
以上説明したように、この実施形態では、上側ケース構成部材7をレーザー光透過性樹脂で成形したので、レーザー照射器から照射されたレーザー光は殆ど減衰することなく上側フランジ部17を通過する。さらに、エレメント溶着面13b及び下側当接面13aは、下側ケース構成部材9の周縁からケース3外側に突出した下側フランジ部13に設けられているので、レーザー光を、従来のようにケース構成部材の周壁を透過させることなく、エレメント溶着面13b及び下側当接面13aに略直交する方向から到達させることができる。これにより、大型で高価な高出力のレーザー照射器を用意することなく、フィルタエレメント5の周縁部5aの溶着強度を確保できるとともに、両当接面17a、13aの溶着強度を確保できて、流体フィルタ装置1を安価にすることができる。
【0037】
また、当接面溶着工程及びフィルタエレメント溶着工程で、レーザー光の出力設定を行うので、下側フランジ部13の当接面13a及びエレメント溶着面13bを確実に溶融することができて、両フランジ部13、17及びフィルタエレメント5の周縁部5aの溶着不良を抑制できる。
【0038】
尚、この実施形態では、上側ケース構成部材7にのみ収納凹部19を形成しているが、図3に示す変形例のように、下側ケース構成部材9にも収納凹部31を形成するようにしてもよい。この変形例では、フィルタエレメント5の全体が同じ厚みとされている。下側ケース構成部材9の収納凹部31は、外径及び深さが上側ケース構成部材7の収納凹部19と同じ大きさとされ、収納凹部31の内面にエレメント溶着面31aが設けられている。上側フランジ部17の上面には、収納凹部19に対応する箇所に段差部33が形成されていて、該上面の外周側が内周側よりも下方に位置している。また、下側フランジ部13の下面には、収納凹部31に対応する箇所び段差部35が形成されていて、該下面の外周側が内周側よりも上方に位置している。上記フィルタエレメント5の周縁部は上記両収納凹部19、31の内面で挟持され、この状態で、フィルタエレメント5の周縁部5aが上記エレメント溶着面31aに溶着される。
【0039】
また、上記変形例において、上側ケース構成部材7の収納凹部19を省略して、上側フランジ部17の下面を平坦にしてもよい。
【0040】
また、この実施形態では、上側ケース構成部材7をレーザー光透過性樹脂で成形し、下側ケース構成部材9をレーザー光非透過性樹脂で成形しているが、これとは反対に、上側ケース構成部材7をレーザー光非透過性樹脂で成形し、下側ケース構成部材9をレーザー光透過性樹脂で成形してもよい。この場合には、レーザー照射器を下側ケース構成部材9の下側フランジ部13側に位置付けて、レーザー光を上側フランジ部17の上側当接面17及び収納凹部19の内面に向けて照射する。これにより、フィルタエレメント5の周縁部は収納凹部19の内面に溶着される。
【0041】
また、この実施形態では、フィルタエレメント5は、エレメント全体をレーザー光透過性エレメントで構成したが、フィルエレメント5の周縁部5aのみをレーザー光透過性エレメントとし、流体を濾過する部分はレーザー光非透過性となるように構成してもよい。
【0042】
また、この実施形態では、当接面溶着工程の後にフィルタエレメント溶着工程に移るようにしているが、フィルタエレメント溶着工程の後に当接面溶着工程に移るようにしてもよいし、レーザー照射器51を2個設けて両工程を同時に行うようにしてもよい。
【0043】
また、フィルタエレメント溶着工程及び当接面溶着工程でのレーザー光の出力を同じにしておいて、レーザー照射器51の移動速度を変える速度設定を行うようにしてもよい。この場合の速度設定は、フィルタエレメント溶着工程でレーザー光照射器51を移動させる移動速度を、当接面溶着工程でレーザー光照射器51を移動させる移動速度よりも遅く設定する。この速度設定を行うことで、上記したレーザー光の出力設定の場合と同様に、レーザー光をフィルタエレメント5の周縁部5aを透過させてエレメント溶着面13bを確実に溶融させることが可能になる。このように両工程でレーザー光の出力を変えない場合には、レーザー光出力制御装置57を省略することもできる。
【0044】
また、本発明は自動車の自動変速機以外にも、例えばエンジンオイルを濾過する場合等に利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明は、例えば自動車の自動変速機内を循環するオイルを濾過する場合に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図2のA−A線における断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る流体フィルタ装置の側面図である。
【図3】溶着装置の概略構造を説明する図である。
【図4】実施形態の変形例に係る図1に相当し、フランジ部近傍の図である。
【符号の説明】
【0047】
1 流体フィルタ装置
3 ケース
5 フィルタエレメント
5a 周縁部
7 上側ケース構成部材(第2ケース構成部材)
9 下側ケース構成部材(第1ケース構成部材)
11a 流入口
13 下側フランジ部
13a 下側当接面(フランジ部当接面)
13b エレメント溶着面(フランジ部内面)
15a 流出口
17 上側フランジ部
17a 上側当接面(フランジ部当接面)
19 収納凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入口を有する第1ケース構成部材と流出口を有する第2ケース構成部材とからなるケースと、該ケース内に配置され上記流入口から流入した流体を濾過するフィルタエレメントとを備え、上記両ケース構成部材の周縁にそれぞれケース外側へ突出して形成されたフランジ部を互いに溶着することにより、上記両ケース構成部材を一体化するとともに上記フィルタエレメントを両ケース構成部材で挟持してなる車両用流体フィルタ装置であって、
上記第1ケース構成部材及び第2ケース構成部材の一方のケース構成部材がレーザー光透過性樹脂で成形され、他方のケース構成部材がレーザー光非透過性樹脂で成形され、
上記第1ケース構成部材及び第2ケース構成部材の両フランジ部の周縁には互いに当接する当接面がそれぞれ設けられ、これら両フランジ部の少なくとも一方のフランジ部の当接面よりもケース内側には、少なくとも周縁部がレーザー光透過性に構成された上記フィルタエレメントの当接周縁部が収納される収納凹部が設けられ、
上記一方のケース構成部材側から該ケース構成部材のフランジ部に照射されたレーザー光によって他方のケース構成部材のフランジ部当接面が溶融して該フランジ部当接面に上記一方のケース構成部材のフランジ部当接面が溶着され、上記一方のケース構成部材側から該ケース構成部材のフランジ部に照射されたレーザー光によって他方のケース構成部材のフランジ部内面が溶融して該フランジ部内面に上記フィルタエレメントの周縁部が溶着されていることを特徴とする車両用流体フィルタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用流体フィルタ装置を製造する製造方法であって、
第1ケース構成部材及び第2ケース構成部材の両フランジ部の周縁にそれぞれ設けられた当接面を互いに当接させるとともに、これら両フランジ部の少なくとも一方のフランジ部の当接面よりもケース内側に設けられた収納凹部にフィルタエレメントの周縁部を収納し、
その後、一方のケース構成部材側から該ケース構成部材のフランジ部にレーザー光を照射して他方のケース構成部材のフランジ部当接面を溶融させて該フランジ部当接面に一方のケース構成部材のフランジ部当接面を溶着するとともに、上記一方のケース構成部材側から該ケース構成部材のフランジ部にレーザー光を照射して他方のケース構成部材のフランジ部内面を溶融させて該フランジ部内面に上記フィルタエレメントの周縁部を溶着することを特徴とする車両用流体フィルタ装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用流体フィルタ装置の製造方法において、
フィルタエレメントの周縁部を他方のケース構成部材のフランジ部内面に溶着する際にフィルタエレメントの周縁に沿って移動させるレーザー光の移動速度を、両フランジ部の当接面を溶着する際に該当接面に沿って移動させるレーザー光の移動速度よりも遅く設定する速度設定と、
上記フィルタエレメントの周縁部を他方のケース構成部材のフランジ部内面に溶着する際に照射するレーザー光の出力を、上記両フランジ部の当接面を溶着する際に照射するレーザー光の出力よりも大きく設定する出力設定とのうち、一方の設定を行って上記両フランジ部の当接面を溶着するとともに、上記フィルタエレメントの周縁部を上記他方のケース構成部材のフランジ部内面に溶着することを特徴とする車両用流体フィルタ装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−231875(P2006−231875A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53884(P2005−53884)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(300084421)ジー・ピー・ダイキョー株式会社 (50)
【Fターム(参考)】