説明

車両用電力変換装置の誘導障害施策

【課題】主電動機内巻き線部分と主電動機ケース間の浮遊コンデンサ成分を介して発生する高周波コモン電流が、車体を流れることを抑制する。
【解決手段】主変換装置15は、架線10から供給される単相交流電力を三相交流電力に変換し、主電動機24を駆動する。アース線31は、接地ブラシ14を介して車輪35に接続されると共に電動機24のケース24bに接続される。接地抵抗器23は、アース線31と車体27との間に接続される。主変換装置15の中性点接地部21と接地抵抗器23は、共通の接続点30で車体27に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架線から供給される単相交流電力を三相交流電力に変換し、電動機を駆動する電気車用電動機駆動回路、特に電力変換装置の誘導障害施策に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来の車体アース方式の鉄道車両主電気回路の概略構成を示す図である。
【0003】
電力は変電所から架線10、パンタグラフ11を介して各車両の主変圧器13に供給される。主変圧器13を流れた電流は、接地ブラシ14、車輪15、レール36を介して変電所に戻る。このようなき電システムに、列車Aと列車Bが存在する場合、列車Bの負荷電流(帰線電流)が列車A内の車体を介して流れることがある。この場合、列車Aの接地ブラシ14には列車Bの負荷電流の一部が流れる。すると、接地ブラシ14と車輪間で放電等が多く発生し、接地ブラシ14の寿命は低下する。
【0004】
図8は上記の問題を解決するために提供される抵抗接続車体アース方式の鉄道車両主電気回路の概略構成を示す。この方式の回路では、車体は接地抵抗器23、接地ブラシ14、車輪35を介してレール36に接続すなわちアースされる。こうすることで、列車Aの接地ブラシに流れる列車Bの負荷電流を大幅に低減でき、接地ブラシ14の寿命を延長できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9は、図8のようなアース方式を採用した車両の電動機駆動回路の概略構成を示し、(a)は回路図ベース、(b)は車体艤装ベースにて示す図である。
【0006】
交流架線10からの単相交流電力を電源とする、電気的中性点接地の主変換装置(以下、主変換装置)15には、負荷側に三相交流により駆動される主電動機(例:誘導電動機、同期電動機)24が接続される。車体27は接地抵抗器23を介して接地(レール側に接続)されている。
【0007】
このような駆動回路システムでは、主変換装置15より発生されるPWM電圧により、主電動機内の巻き線部分24aと主電動機ケース24b間の浮遊コンデンサ成分を介して、高周波コモン電流Icomが発生し、主変換装置15の中性点接地部21を流れる。この高周波コモン電流Icomの経路は、主電動機ケース24b、アース線31、接地抵抗器23、車体27、主変換装置中性点接地部21となる。場合によっては、図9(a)右下に点線で示すように、主電動機ケース24bから、車体へ流入することも考えられる。この時、高周波コモン電流経路と車体は多点で接触しているため、高周波コモン電流は車体27を経由して流れる。その結果、車体での電位変動等が生じることで、車両制御装置ならびに電力変換装置用制御装置等の電子機器へのノイズの影響が生じる。つまり、車体に電流が流れると、各電子機器のGNDレベルに差が生じ、信号のS/N比が悪くなる。また車体に電流が流れると、ノイズとなって信号に混入したり、更には、車体外のATCあるいはATS等の地上子にノイズが放射されることも考えられる。
【0008】
従って本発明は、主変換装置より発生されるPWM電圧により、主電動機内巻き線部分と主電動機ケース間の浮遊コンデンサ成分を介して発生する高周波コモン電流が、車体を流れることを抑制する電気車の回路構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明の一実施例に係る電気車の回路構成は、車輪を回転駆動する電動機と、架線から供給される単相交流電力を三相交流電力に変換し、前記電動機を駆動する主変換装置と、接地ブラシを介して車輪に接続されると共に前記電動機のケースに接続されるアース線と、前記アース線と車体との間に接続された接地抵抗器と、を具備し、前記主変換装置の電気的中性点と前記接地抵抗器は、共通の接続点で前記車体に接続されている。
【発明の効果】
【0010】
主電動機内巻き線部分と主電動機フレーム間の浮遊コンデンサ成分を介して発生する高周波コモン電流の車体へ流入が抑制される。これにより車体電位変動が抑制され、また高周波コモン電流の放射ノイズの抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施例に係る車両用電動機駆動回路の概略構成を示す図。
【図2】本発明の第2実施例に係る車両用電動機駆動回路の概略構成を示す図。
【図3】本発明の第3実施例に係る車両用電動機駆動回路の概略構成を示す図。
【図4】電源アース線及び三相交流出力線が貫通する磁性体コアを示す図。
【図5】本発明の第4実施例に係る車両用電動機駆動回路の概略構成を示す図。
【図6】本発明の第5実施例に係る車両用電動機駆動回路の概略構成を示す図。
【図7】従来の車体アース方式の車両用主電気回路の概略構成を示す図。
【図8】アースと車体間に抵抗を接続したアース方式の車両用主電気回路の概略構成を示す図。
【図9】図8のようなアース方式を採用した車両の主電動機駆動回路の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る車両用電動機駆動回路の誘導障害施策について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の第1実施例に係る車両用電動機駆動回路の概略を示し、(a)は回路図ベース、(b)は車体艤装ベースにて示す図である。
【0014】
電力は変電所から架線10、パンタグラフ11、遮断器VCB12を介して主変圧器13の1次側に供給される。主変圧器13を流れた電流は、接地ブラシ14、車輪35、レール36を介して変電所に戻る。主変圧器13の2次側には、主変換装置15が接続されている。
【0015】
主変換装置15はPWMコンバータ16及びPWMインバータ17を含む。コンバータ16は、主変圧器13の2次側から供される交流電力をPWM方式にて直流電力に変換する。コンバータ16の出力直流電圧は、フィルタコンデンサ41及び42の直列回路に印加されると共にインバータ17に供給される。インバータ17は、入力直流電圧をPWM方式にてVVVF三相交流電圧に変換し、主電動機24を駆動する。
【0016】
主電動機24のケース24bは、アース線31、接地ブラシ14、車輪35を介してレール36に接地される。アース線31と車体27の間には接地抵抗器23が接続されている。
【0017】
コンバータ16から出力される直流電圧の中性点(コンデンサ41、42の接続点)18は、接地回路19を介して接地スイッチ22の一方の端子22aに接続される。接地回路19は、コンデンサ19aとリレー用コイル19bとリレー接点(図示されず)から構成される。接地回路19は地絡検知用リレーで、通常動作時はON状態、地絡が発生するとコイル19bに所定電流値以上の電流が流れOFF状態となる。
【0018】
接地スイッチ22の他方の端子22bは、配線44、車体27の接続点30を介して車体27に接続される。接地スイッチ22は耐圧試験用スイッチであって、主変換装置15と車体間の耐圧試験時はOFF状態、通常動作時はON状態となる。
【0019】
以上のように第1実施例では、主変換装置15の電気的中性点18は通常動作時に、接続点30に接続される。接地抵抗器23も接続点30に接続される。すなわち、電気的中性点18と接地抵抗器23が、共通の接続点30で車体27に接続されている。この結果、主電動機内の巻き線部分24aと主電動機ケース24b間の浮遊コンデンサ成分26を介して発生する高周波コモン電流Icomは、車体27を流れずに主変換装置15と主電動機24を還流する。このように、主変換装置15の電気的中性点と接地抵抗器23を共通の接続点30を介して車体27に接続することで、車体を流れる高周波コモン電流Icomを大幅に抑制できる。この結果、各電子機器に対するノイズ発生を抑制できる。
【実施例2】
【0020】
図2は本発明の第2実施例に係る車両用電動機駆動回路の構成を示す図である。
【0021】
この第2実施例の回路構成は、図9の従来構成と同様であるが、三相交流出力線25と、接地ブラシ14に接続されるアース線31とが密着して配置される。つまり第2実施例では、主電動機24への三相出力線25とアース線31が束ねて配線されている。このように三相交流出力線25とアース線31を密着させることで、外部への放射ノイズが抑制される。
【実施例3】
【0022】
図3は本発明の第3実施例に係る車両用電動機駆動回路の構成を示す図である。
【0023】
この第3実施例の回路構成は、図9の従来構成と同様であるが、接地ブラシ14に接続される電源アース線31及び三相交流出力線25に対して磁性体コア32が設けられる。図4はこの様子を示す図である。図4のように本実施例では、磁性体コア32を、電源アース線31及び三相交流出力線25が貫通するように設ける。磁性体コア32は、高周波電流に対してインダクタンス成分として作用するので、主電動機フレームから流れ出す高周波コモン電流Icomが抑制される。
【実施例4】
【0024】
図5は本発明の第4実施例に係る車両用電動機駆動回路の構成を示す図である。
【0025】
この第4実施例では、主変換装置15内に配線される中性点接地線21a及び三相交流出力線25に対して磁性体コア32が設けられる。例えば、車体ぎ装の状態で、図3の第3実施例のように、磁性体コア32を設けることができない場合、図5のように、磁性体コアを主変換装置内に配置する。第4実施例の作用及び効果は、図3の第3実施例と同様に、磁性体コア32によって、高周波コモン電流Icomが抑制されることである。また図5のように、磁性体コア32に中性点接地線21a及び三相交流出力線25を貫通させて構成した主変換装置15を製品として提供しても良い。
【実施例5】
【0026】
図6は本発明の第5実施例に係る車両用電動機駆動回路の構成を示す図である。
【0027】
図6(b)のように、第5実施例に係る車両Aは、主変換装置を有さない車両Bに対して、電動機駆動用VVVF三相電力を提供する主変換装置45を有する。すなわち第5実施例は、主変換装置45が搭載される車両Aと、主変換装置45に駆動される電動機24Bを搭載する車両Bが異なる。車両Aでは、駆動される電動機24Bを搭載する車両B用の三相交流線25と電源アース線31が、磁性体コア32を貫通するように構成される。この結果、主変換装置が搭載されていない車両Bから主変換装置が搭載されている車両Aへの高周波コモン電流が抑制される。
【0028】
以上の説明はこの発明の実施の形態であって、この発明の装置及び方法を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができるものである。
【符号の説明】
【0029】
10…架線、11…パンタグラフ、12…遮断器、13…主変圧器、14…接地ブラシ、15…主変換装置、23…接地抵抗器、24…主電動機、27…車体、31…アース線、32…磁性体コア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を回転駆動する電動機と、
架線から供給される単相交流電力を三相交流電力に変換し、前記電動機を駆動する主変換装置と、
接地ブラシを介して車輪に接続されると共に前記電動機のケースに接続されるアース線と、
前記アース線と車体との間に接続された接地抵抗器と、を具備し、
前記主変換装置の電気的中性点と前記接地抵抗器は、共通の接続点で前記車体に接続されていることを特徴とする電気車の回路構成。
【請求項2】
車輪を回転駆動する電動機と、
架線から供給される単相交流電力を三相交流電力に変換し、前記電動機を駆動する主変換装置と、
接地ブラシを介して車輪に接続されると共に前記電動機のケースに接続されるアース線と、
前記アース線と車体との間に接続された接地抵抗器と、を具備し、
前記主変換装置の三相交流出力線と前記アース線とが密着して設けられていることを特徴とする電気車の回路構成。
【請求項3】
車輪を回転駆動する電動機と、
架線から供給される単相交流電力を三相交流電力に変換し、電動機を駆動する主変換装置と、
接地ブラシを介して車輪に接続されると共に前記電動機のケースに接続されるアース線と、
前記アース線と車体との間に接続された接地抵抗器と、
前記主変換装置の三相交流出力線と前記アース線とが共に貫通する磁性体コアと、
を具備することを特徴とする電気車の回路構成。
【請求項4】
車輪を回転駆動する電動機と、
架線から供給される単相交流電力を三相交流電力に変換し、自車両に連結される車両の電動機を駆動する主変換装置と、
接地ブラシを介して車輪に接続されるアース線と、
前記アース線と車体との間に接続された接地抵抗器と、
前記主変換装置の三相交流出力線と前記アース線とが共に貫通する磁性体コアと、
を具備することを特徴とする電気車の回路構成。
【請求項5】
単相交流電力を直流電力に変換するコンバータと、
前記コンバータにて変換された前記直流電力を車両電動機用の三相交流に変換するインバータと、
前記インバータの三相交流出力線と前記直流電力の電気的中性点接地線とが共に貫通する磁性体コアと、
を具備することを特徴とする電気車の回路構成。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−166968(P2011−166968A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28105(P2010−28105)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】