説明

車両用駆動力制御装置

【課題】運転者による駆動力(減速度を含む)の要求意思に対して正確かつ迅速に応えることの可能な車両用駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】路面勾配に基づいて走行に適した減速状態となるように減速度を発生させる減速度発生手段と、変速機の変速操作を行うための運転者により操作される操作手段と、前記運転者との位置関係が予め設定された所定の関係であるか否かを検出する位置検出手段(S103)とを備え、前記運転者の操作によりブレーキ接点がオンとされていない状態で前記操作手段と前記運転者との位置関係が前記所定の関係であると検出された場合には、前記減速度発生手段により減速度を発生させる(S106)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動力を制御する車両用駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005−76763号公報(特許文献1)には、以下の[1]〜[4]の技術が開示されている。
[1]車両の走行中に、運転者によるフットブレーキ操作が検知されてから予め定められた時間内に、運転者が変速操作部の方向に手を移動させたという運転状況を検知すると、ダウンシフト実行制御およびダウンシフト準備制御のいずれかを行なうように、自動変速機を制御する技術。
[2]車両の走行場所に関する情報に基づいて車両の現在位置がカーブ手前であると判断された場合であって、運転者が変速操作部の方向に手を移動させたという運転状況を検知すると、ダウンシフト制御の内容を変更して、自動変速機を制御する技術。
[3]車両間隔が予め定められた距離以下であると判断された場合であって、運転者が変速操作部の方向に手を移動させたという運転状況を検知すると、ダウンシフト実行制御およびダウンシフト準備制御のいずれかを行なうように、自動変速機を制御する技術。
[4]自動変速機のアップシフトが禁止されている状態において運転者が変速操作部の方向に手を移動させたという運転状況が検知された場合であって、アップシフト禁止からの復帰条件の満足度合いが高い場合には、アップシフト実行制御およびアップシフト準備制御のいずれかを行なうように、自動変速機を制御する技術。
【0003】
【特許文献1】特開2005−76763号公報
【特許文献2】特開2003−74682号公報
【特許文献3】特開2004−347003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転者による駆動力(減速度を含む)の要求意思に対して正確かつ迅速に応えることが望まれている。例えば、アクセル操作やブレーキ操作に基づいて、運転者によるダウンシフトの要求を検出する場合、運転者によるダウンシフトの要求を検出できなかったり、検出が遅れたりするため、運転者の感覚に合った変速段制御ができない場合があった。その理由を以下に説明する。
【0005】
運転者は、アクセルペダルをOFF側に操作した時点から車両を減速しようとする意思を有している。そのため、通常アクセルOFF操作の後に行われるブレーキ接点ON操作をトリガとしてダウンシフト制御を行う方法では、運転者の減速度の要求に対して迅速に応えているとはいえない。
【0006】
これに対して、アクセルペダルのOFF側への操作をトリガとしてダウンシフト制御を実行すれば、ダウンシフトのタイミングを早くすることはできる。しかしながら、アクセルペダルのOFF側への操作のみでは、現在の変速段による減速度で十分であるのか、それとも、それ以上の減速度が必要であるのか、運転者の減速意思が明確でないため、運転者が意図しないダウンシフトが行われる可能性がある。このことから、検出タイミングに遅れは生じるが、明確な運転者の減速度の要求であるブレーキ接点ON操作をトリガにダウンシフト制御(駆動力制御)を実行する必要があった。
【0007】
また、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量(開度)が予め設定された所定値以上大きいことをトリガとして、ダウンシフトを行うとともにアップシフトを禁止する制御がある。この制御は、特に登坂路において行われることが多い。ここで、運転者は、アクセルペダルの踏み増し操作の開始時には、駆動力を要求する意思を有している。しかし、アクセルペダルの踏み増し操作を検出するのみでは、運転者の駆動力要求量(現在の駆動力では少し不足するのか、大きく不足するのか)が判別できない。そのため、運転者による相対的に大量の駆動力を要求する意思の表れであるアクセルペダルの踏み込み量が所定値以上大きいことをトリガにダウンシフト制御(駆動力制御)を開始する必要があった。
【0008】
本発明の目的は、運転者による駆動力(減速度を含む)の要求意思に対して正確かつ迅速に応えることの可能な車両用駆動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両用駆動力制御装置は、路面勾配に基づいて走行に適した減速状態となるように減速度を発生させる減速度発生手段と、変速機の変速操作を行うための運転者により操作される操作手段と、前記運転者との位置関係が予め設定された所定の関係であるか否かを検出する位置検出手段とを備え、前記運転者の操作によりブレーキ接点がオンとされていない状態で前記操作手段と前記運転者との位置関係が前記所定の関係であると検出された場合には、前記減速度発生手段により減速度を発生させることを特徴としている。
【0010】
本発明の車両用駆動力制御装置は、駆動力を発生させる駆動力発生手段と、変速機の変速操作を行うための運転者により操作される操作手段と、前記運転者との位置関係が予め設定された所定の関係であるか否かを検出する位置検出手段とを備え、前記運転者の操作によりアクセル開度が予め設定された所定値未満であるときに前記操作手段と前記運転者との位置関係が前記所定の関係であると検出された場合には、前記駆動力発生手段により駆動力を発生させることを特徴としている。
【0011】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記駆動力発生手段は、路面勾配に対応した駆動力を発生させることを特徴としている。
【0012】
本発明の車両用駆動力制御装置は、減速度を発生させる減速度発生手段と、変速機の変速操作を行うための運転者により操作される操作手段と、前記運転者との位置関係が予め設定された所定の関係であるか否かを検出する位置検出手段とを備え、前記減速度発生手段は、運転者による第1操作に基づいて第1レベルの減速度を発生させ、運転者による第2操作に基づいて前記第1レベルよりも小さい第2レベルの減速度を発生させるとともに、前記第1操作が行われていない場合に前記操作手段と前記運転者との位置関係が前記所定の関係であると検出された場合には、前記第1レベルの減速度を発生させることを特徴としている。
【0013】
本発明の車両用駆動力制御装置において、前記位置検出手段は、前記操作手段と前記運転者の手との間の距離が予め設定された所定値以下であるか否かを検出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車両用駆動力制御装置によれば、運転者による駆動力(減速度を含む)の要求意思に対して正確かつ迅速に応えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の車両用駆動力制御装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1から図4を参照して、第1実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態は、運転者の要求駆動力に応じて変速段制御を行うものにおいて、降坂路走行時に通常ブレーキONの検出をトリガにダウンシフト制御するところを、運転者の手が運転者の操作により変速動作を実行するための操作手段(シフトレバーやパドルスイッチなど)の近傍に位置していることをトリガにダウンシフト制御を実行する。これにより、運転者のダウンシフト要求を正確に検出することができ、かつ、ブレーキON操作を検出するタイミングよりも早いタイミングで制御を開始することができるため、運転者の感覚に合った制御とすることができる。
【0018】
本実施形態の構成としては、以下に詳述するように、(1)〜(4)の4つの構成を備えていることが前提となる。
(1)路面勾配に基づいて、車両の走行に必要な減速度を算出する手段
(2)アクセル操作を検出する手段
(3)運転者の手の位置を検出するタッチセンサや室内カメラなどの手段
(4)必要に応じて目標変速段に変速可能なAT、CVT、HV、MMT(自動変速モード付マニュアルトランスミッション)等の自動変速機
【0019】
図2において、符号10は自動変速機、40はエンジン、200はブレーキ装置である。自動変速機10は、電磁弁121a、121b、121cへの通電/非通電により油圧が制御されて5段変速が可能である。図2では、3つの電磁弁121a、121b、121cが図示されるが、電磁弁の数は3に限定されない。電磁弁121a、121b、121cは、制御回路130からの信号によって駆動される。
【0020】
アクセル開度センサ114は、アクセルペダル113の開度、アクセルペダル113の戻し速度などアクセルペダル113に関連する情報を検出する。エンジン回転数センサ116は、エンジン40の回転数を検出する。車速センサ122は、車速に比例する自動変速機10の出力軸120cの回転数を検出する。シフトポジションセンサ123は、シフトポジションを検出する。パターンセレクトスイッチ117は、変速パターンを指示する際に使用される。加速度センサ90は、車両の減速度(減速加速度)を検出する。ブレーキセンサ(図示せず)は、フットブレーキ(図示せず)が操作された時間、ブレーキ踏力、ブレーキによる減速度、ブレーキ油圧の圧力などフットブレーキに関連する情報を検出する。
【0021】
ナビゲーションシステム装置95は、自車両を所定の目的地に誘導することを基本的な機能としており、演算処理装置と、車両の走行に必要な情報(地図、直線路、カーブ、登降坂、高速道路など)が記憶された情報記憶媒体と、自立航法により自車両の現在位置や道路状況を検出し、地磁気センサやジャイロコンパス、ステアリングセンサを含む第1情報検出装置と、電波航法により自車両の現在位置、道路状況などを検出するためのもので、GPSアンテナやGPS受信機などを含む第2情報検出装置等を備えている。
【0022】
道路勾配計測・推定部118は、CPU131の一部として設けられることができる。道路勾配計測・推定部118は、ナビゲーションシステム装置95のGPSによる現在位置情報とナビゲーションシステム装置95に予め記憶してある地図情報より道路勾配(路面勾配)を算出するものであることができる。または、道路勾配計測・推定部118は、車両の現在の駆動力と平坦路のロードロードの差より、平坦路を走行した場合に得られる加速度を算出し、その加速度と、車速センサ122より検出した車速の時間変化率より算出する実際の車両の加速度との差により道路勾配を算出するものであることができる。
【0023】
タッチセンサ100は、運転者の操作により変速操作を行うための操作手段(シフトノブを含む)に設けられ、運転者の手がその操作手段に接触したことを検出する。室内カメラ115は、車両の室内を撮像し、運転者の手が上記操作手段に近づいたことを検出するために用いられる。
【0024】
制御回路130は、アクセル開度センサ114、エンジン回転数センサ116、車速センサ122、シフトポジションセンサ123、加速度センサ90、及びタッチセンサ100の各検出結果を示す信号を入力し、また、パターンセレクトスイッチ117のスイッチング状態を示す信号を入力し、また、ナビゲーションシステム装置95からの信号を入力し、室内カメラ115により撮像された画像を示す信号を入力する。
【0025】
制御回路130は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、CPU131、RAM132、ROM133、入力ポート134、出力ポート135、及びコモンバス136を備えている。入力ポート134には、上述の各センサ114、116、122、123、90からの信号、上述のスイッチ117からの信号、ナビゲーションシステム装置95からの信号が入力される。出力ポート135には、電磁弁駆動部138a、138b、138cが接続されている。
【0026】
ROM133には、予め図1のフローチャートに示す動作(制御ステップ)が記述されたプログラムが格納されているとともに、自動変速機10のギヤ段を変速するための変速マップ及び変速制御の動作(図示せず)が格納されている。制御回路130は、入力した各種制御条件に基づいて、自動変速機10の変速を行う。
【0027】
ブレーキ装置200は、制御回路130からブレーキ制動力信号SG1を入力するブレーキ制御回路230によって制御されて、車両を制動する。ブレーキ装置200は、油圧制御回路220と、車両の車輪204、205、206、207に各々設けられる制動装置208、209、210、211とを備えている。各制動装置208、209、210、211は、油圧制御回路220によって制動油圧が制御されることにより、対応する車輪204、205、206、207の制動力を制御する。油圧制御回路220は、ブレーキ制御回路230により、制御される。
【0028】
油圧制御回路220は、ブレーキ制御信号SG2に基づいて、各制動装置208、209、210、211に供給する制動油圧を制御することで、ブレーキ制御を行う。ブレーキ制御信号SG2は、ブレーキ制動力信号SG1に基づいて、ブレーキ制御回路230により生成される。ブレーキ制動力信号SG1は、自動変速機10の制御回路130から出力され、ブレーキ制御回路230に入力される。ブレーキ制御の際に車両に与えられるブレーキ力は、ブレーキ制動力信号SG1に含まれる各種データに基づいてブレーキ制御回路230により生成される、ブレーキ制御信号SG2によって定められる。
【0029】
ブレーキ制御回路230は、周知のマイクロコンピュータによって構成され、CPU231、RAM232、ROM233、入力ポート234、出力ポート235、及びコモンバス236を備えている。出力ポート235には、油圧制御回路220が接続されている。ROM233には、ブレーキ制動力信号SG1に含まれる各種データに基づいて、ブレーキ制御信号SG2を生成する際の動作が格納されている。ブレーキ制御回路230は、入力した各制御条件に基づいて、ブレーキ装置200の制御(ブレーキ制御)を行う。
【0030】
次に、本実施形態の基本的な考え方について説明する。
【0031】
運転者は、車両の減速度が不足していると感じる場合、ブレーキ操作(ブレーキ接点ON)を行う前にマニュアルシフト操作によりダウンシフトを行う場合がある。この場合、運転者は、運転者の操作に基づいて変速機の変速動作を実行するためにシフトレバーを操作するための操作手段(シフトノブなど)の上(又はその近傍)に手を移動させ、その後、減速度が不足していると確信すると、その操作手段を手で操作(マニュアルシフト操作)することによりダウンシフトを行う。
【0032】
降坂路において、運転者がアクセルペダルをOFF側にする操作を行っただけでは、運転者は、そのアクセル操作により現在の変速段による減速度が車両に作用することで十分であると感じるのか、それともそれ以上の減速度を必要としているのか、運転者の減速要求を正確に検出することができない。そのため、通常は、運転者のより確実な減速要求の表れであるブレーキ接点をONにする操作が検出されたことをトリガとして、ダウンシフト制御を行っている。
【0033】
しかし、運転者の手が変速動作を実行するための操作手段(シフトノブなど)上(又はその近傍)に位置していることや、運転者がその操作手段の操作を行おうとしていることを検出すれば、ブレーキ接点ON操作が行われるタイミングよりも早く運転者の減速度要求を検出することができる。
【0034】
そこで、本実施形態では、運転者の減速意思(アクセルペダルのOFF側への操作)を検出したときに、目標変速段にダウンシフト制御する技術において、通常、ブレーキON操作をトリガにダウンシフトするところを、(アクセルペダルのOFF側への操作+運転者の手が変速機の変速動作を実行するための操作手段の上ないし近傍に位置していること)をトリガにダウンシフトする。これにより、アクセルペダルのOFF側への操作のみをトリガとするよりも正確に運転者の減速意思を検出することができ、ブレーキ接点ONをトリガとするよりも早いタイミングで制御を開始することができるため、運転者の感覚に合った制御とすることができる。
【0035】
図1及び図2を参照して、本実施形態の動作を説明する。
【0036】
[ステップS101]
まず、図1のステップS101に示すように、制御回路130のアクセル開度センサ114により検出された信号に基づいて、運転者の減速意思を検出する。本実施形態では、アクセルペダル113がOFF(全閉)にされていることにより、運転者の減速意思を検出する。ステップS101の判定の結果、運転者の減速意思が検出された場合には、ステップS102に進み、そうでない場合にはステップS107に進む。
【0037】
なお、ここでは、運転者の減速意思をアクセルペダル113がOFFであることにより検出したが、これに限定されることなく、例えば、アクセルペダル113の開度が予め設定された所定値以下であり、かつアクセルペダル113の戻し速度が予め設定された設定値以上であることを条件に運転者の減速意思を検出することができる。
【0038】
[ステップS102]
ステップS102において、制御回路130は、道路勾配計測・推定部118による計測・推定結果に基づいて、路面勾配が予め設定された所定値未満であるか否かを検出する。ここでは、路面勾配が所定値(例えば−5%)未満であるときに降坂路と判定する。ステップS102の判定の結果、路面勾配が所定値未満であると判定された場合には、ステップS103に進み、そうでない場合にはステップS104に進む。なお、ステップS102の判定条件は、上記に代えて、路面勾配が所定値未満であることが予め設定された所定時間以上継続したこととすることができる。
【0039】
[ステップS103]
ステップS103において、制御回路130は、タッチセンサ100による検出結果を示す信号、又は室内カメラ115による撮像結果を示す信号に基づいて、運転者の手が上記操作手段上にあるか、又はその近傍にあるか否かを検出する。この場合、運転者の手が予め設定された所定時間以上継続して、上記操作手段上又はその近傍にあるときには、運転者は習慣的に手をその位置に置いており、必ずしも運転者の減速要求を表すものではないとして、ステップS103を否定的に判定することができる。
【0040】
運転者の手が上記操作手段の近傍にあるか否かは、例えば以下のように検出することができる。即ち、図3に示すように、室内カメラ115により撮像された前フレームと現在フレームの画像を比較処理することにより、手の移動速度と方向(3次元)を検出する。手の移動先が上記操作手段300の中心から所定値以下の範囲A内にあり、かつ移動方向及び移動速度から判断して予め設定された所定時間以内に上記操作手段300と手が接触すると判定される場合には、運転者の手の位置は上記操作手段の近傍であると判断される。ステップS103の判定の結果、運転者の手が上記操作手段上にあるか、又はその近傍にあると判定される場合には、ステップS105に進み、そうでない場合にはステップS104に進む。
【0041】
[ステップS104]
ステップS104において、制御回路130は、ブレーキ接点がONであるか否かを判定する。即ち、運転者によりフットブレーキが操作されて、ブレーキON状態になっているか否かが判定される。その判定の結果、ブレーキ接点がONであれば、ステップS105に進み、そうでない場合にはステップS101に進む。
【0042】
[ステップS105]
ステップS105において、制御回路130は、目標変速段を算出する。目標変速段は、例えば、各変速段について現在の車速でダウンシフトし、エンジン回転数が上がった後に発生するエンジンブレーキ力をエンジントルクと走行抵抗により算出する。その算出されたエンジンブレーキ力と現在の路面勾配における加速度を比較して、下式が成立する最も大きいn速を目標変速段とすることができる。
現在の路面勾配における加速度>n速のエンジンブレーキ力
ダウンシフト後の車両の実加速度がゼロ近傍になるものを目標変速段とすることができる。
【0043】
上記に代えて、予め図4のように自車速と路面勾配に応じた加速度を示すマップを用意しておき、その加速度に基づいて、目標変速段を算出してもよい。又は、予め現在の路面勾配に応じた目標変速段(例えば路面勾配が−5%までであれば4速変速段、−5%を超えたら3速変速段など)をテーブル値として持っていてもよい。ステップS5の次に、ステップS6に進む。
【0044】
[ステップS106]
ステップS106では、制御回路130により、上記ステップS105で求められた目標変速段にダウンシフト制御が実行されるとともに、目標変速段よりも上の変速段にアップシフトすることを禁止する処理が行われる。これにより、目標変速段への変速が実行され、目標変速段に対応する減速度が車両に作用する。なお、目標変速段≧現在変速段である場合には、アップシフトの禁止処理のみが実施される。ステップS106の次には、本制御フローはリターンされる。
【0045】
[ステップS107]
ステップS107では、制御回路130により、制御終了条件が成立したか否かが判定される。ここでは、下記の3つの条件が全て成立したときに制御終了条件が成立したと判断する。
・路面勾配≧予め設定された所定値(例えば0%)
・上記ステップS1のアクセルOFFの後に、アクセルONが検出されてから所定時間が経過したこと。
・アクセルペダル113の開度の変化率<予め設定された所定値
【0046】
ステップS107の判定の結果、制御終了条件が成立した場合には、ステップS108に進み、そうでない場合には本制御フローはリターンされる。
【0047】
[ステップS108]
ステップS108では、制御回路130により、上記ステップS106で実施されたアップシフト禁止処理が解除される。これにより、車速とアクセル開度に基づいて変速段が決定される通常の変速制御に復帰する。ステップS108の次に、本制御フローはリターンされる。
【0048】
本実施形態によれば以下の効果を奏することができる。
本実施形態では、運転者の減速意思(アクセルペダル113のOFF側への操作)を検出したときに(ステップS101−Y)、目標変速段にダウンシフト制御(ステップS105)する技術において、通常、ブレーキON操作(ステップS104−Y)をトリガにダウンシフト(ステップS105)するところを、[アクセルペダル113のOFF側への操作(ステップS101)+運転者の手が変速機の変速動作を実行するための操作手段300の上ないし近傍に位置していること(ステップS103)]をトリガにダウンシフト(ステップS105)する。
【0049】
これにより、アクセルペダル113のOFF側への操作(ステップS101)のみをトリガとするよりも正確に運転者の減速意思を検出することができ、ブレーキON(ステップS104)をトリガとするよりも早いタイミングで制御を開始することができるため、運転者の感覚に合った制御とすることができる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、図5及び図6を参照して、第2実施形態について説明する。
なお、第2実施形態において、上記第1実施形態と共通する部分についての説明は省略する。
【0051】
本実施形態は、運転者の要求駆動力に応じて変速段制御を行うものにおいて、登坂路走行時に、通常、アクセル踏み込み量が予め設定された所定値以上であることを検出したことをトリガとしてダウンシフト制御するところを、運転者の手の位置が上記操作手段の上ないしは近傍であることを検出したことをトリガとしてダウンシフト制御を行う。これにより、運転者のダウンシフト要求を正確に検出することができ、かつ、アクセルの踏み増し操作よりも早いタイミングで制御が開始できるため、運転者の感覚に合った制御とすることができる。
【0052】
運転者は、登坂路走行時に駆動力が不足していると感じたとき、アクセルペダル113の踏み込み量を予め設定された所定値よりも大きくすることによるダウンシフト(例えばキックダウンスイッチによるダウンシフト)が起きる前に、マニュアル操作でダウンシフトをする場合がある。この場合、運転者は、上記操作手段300を操作できるように、手を操作手段300に移動させ、その後、駆動力が不足していると確信すると、操作手段300を操作してダウンシフト制御を行う。
【0053】
ここで、運転者は、アクセルペダル113の踏み増し操作の開始時には、駆動力を要求する意思を有している。しかし、アクセルペダル113の踏み増し操作を検出するのみでは、運転者の駆動力要求量(現在の駆動力では少し不足するのか、大きく不足するのか)が判別できない。そのため、運転者による相対的に大量の駆動力を要求する意思の表れであるアクセルペダル113の踏み込み量が所定値以上である状態をトリガにダウンシフト制御を開始する必要がある。
【0054】
しかし、運転者の手が上記操作手段300上ないしは近傍に位置していることや、運転者がその操作手段300の操作を行おうとしていることを検出すれば、アクセルペダル113の踏み込み量が所定値以上になるタイミングよりも早く運転者の相対的に大量の駆動力の要求を検出することができる。
【0055】
そこで、登坂路走行時に、目標変速段にダウンシフトするとともに目標変速段よりも高速段へのアップシフトを禁止する制御において、通常、アクセルペダル113の踏み込み量が予め設定された所定値以上であることをトリガにダウンシフトするとともにアップシフトを禁止するところを、運転者の手の位置が操作手段300の上ないしは近傍であることをトリガにダウンシフトするとともにアップシフトを禁止する。これにより、アクセルペダル113の踏み込み量が所定値以上になるよりも早いタイミングで低速段が選択され、運転者の要求する駆動力がすぐに得られるため、運転者の感覚に合った制御とすることができる。
【0056】
図5を参照して、第2実施形態の動作について説明する。
【0057】
[ステップS401]
図5のステップS401において、制御回路130は、運転者の加速意思があるか否かを検出する。アクセル開度センサ114により検出されたアクセルペダル113の状態に基づいて、運転者の加速意思を検出することができる。例えば、アクセルペダル113の開度の時間変化率が予め設定された所定値を超えていれば、運転者の加速意思があると判断することができる。または、上記に代えて、アクセルペダル113の開度が予め設定された設定値以上であれば、運転者の加速意思があると判断することができる。ステップS401の判定の結果、運転者の加速意思ありと判定された場合には、ステップS402に進み、そうでない場合にはステップS407に進む。
【0058】
[ステップS402]
ステップS402において、制御回路130は、路面勾配が予め設定された所定値を超えているか否かを判定する。ここで、所定値とは、例えば3%であることができる。路面勾配が所定値を超えている場合には、登坂路と判定する。なお、上記に代えて、ステップS402の判定条件を、路面勾配が所定値を超えた状態が所定時間継続したこととすることができる。ステップS402の判定の結果、肯定的に判定された場合には、ステップS403に進み、そうでない場合にはステップS404に進む。
【0059】
[ステップS403]は、上記図1のステップS103と同様であるため、その説明を省略する。
【0060】
[ステップS404]
ステップS404では、制御回路130により、アクセルペダル113の開度が予め設定された所定値よりも大きいか否か、即ち、通常、登坂路走行時に例えばキックダウンスイッチによるダウンシフトが行われる程度にアクセルペダル113の踏み込み量が大きいか否かが判定される。その判定の結果、肯定的に判定される場合には、ステップS405に進み、そうでない場合にはステップS401に戻る。
【0061】
[ステップS405]
ステップS405では、制御回路130により、目標変速段が算出される。例えば図6に示すように、路面勾配に応じて予め目標変速段がテーブル値として与えられていることができる。ステップS405の次には、ステップS406が行われる。
【0062】
[ステップS406]
ステップS406は、上記図1のステップS106と同様であるため、その説明を省略する。
【0063】
[ステップS407]及び[ステップS408]
ステップS407では、制御回路130により制御終了条件が成立したか否かが判定される。例えば、路面勾配が予め設定された所定値(例えば2%)以下であるときに、制御終了条件が成立したと判定されることができる。ステップS407の次に、ステップS408が行われる。ステップS408は、上記図1のステップS108と同様であるため、その説明を省略する。
【0064】
本実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
登坂路走行時(ステップS402−Y)に、目標変速段にダウンシフトするとともに目標変速段よりも高速段へのアップシフトを禁止する制御(ステップS406)において、通常、アクセルペダル113の踏み込み量が予め設定された所定値以上であること(ステップS404)をトリガにダウンシフトするとともにアップシフトを禁止する(ステップS406)ところを、運転者の手の位置が操作手段300の上ないしは近傍であること(ステップS403)をトリガにダウンシフトするとともにアップシフトを禁止する。これにより、アクセルペダル113の踏み込み量が所定値以上になる(ステップS404−Y)よりも早いタイミングで低速段が選択され、運転者の要求する駆動力がすぐに得られるため(ステップS406)、運転者の感覚に合った制御とすることができる。
【0065】
なお、図5において、上記ステップS402は省略することができる。即ち、登坂路ではなく平坦路であっても、運転者は駆動力が不足していると感じるときにアクセルペダル113の踏み込み量を予め設定された所定値以上にすることによる例えばキックダウンスイッチによるダウンシフトが起きる前に、マニュアルシフト操作によりダウンシフトする場合がある。この場合、運転者は操作手段300を操作できるように手を操作手段300上ないしはその近傍に移動させ、その後、駆動力が不足していることを確信したらマニュアル操作によるダウンシフトを行う。
【0066】
そのため、平坦路においても、運転者の加速意思があり(ステップS401−Y)、運転者の手の位置が操作手段300の上ないしは近傍であること(ステップS403)をトリガにダウンシフトするとともにアップシフトを禁止する。これにより、アクセルペダル113の踏み込み量が所定値以上になる(ステップS404−Y)よりも早いタイミングで低速段が選択され、運転者の要求する駆動力がすぐに得られるため(ステップS406)、運転者の感覚に合った制御とすることができる。このように、上記第2実施形態は、登坂路ではなく、平坦路であっても有効であるため、上記ステップS402を省略することができる。
【0067】
(第3実施形態)
次に、図7を参照して、第3実施形態について説明する。
第3実施形態において、上記実施形態と共通する部分についての説明は省略する。
【0068】
第3実施形態では、運転者の手の位置が操作手段300の上か、操作手段300の近傍にある場合、減速度の要求レベルが高いものと判断して、ダウンシフト量を大きくする。例えば、ブレーキONがなされた場合とアクセルOFFがなされた場合の2つの減速度要求レベルに応じてダウンシフト量を決めている場合(ダウンシフト量は、アクセルOFFがなされた場合よりもブレーキONがなされた場合の方が多い場合)、運転者の手の位置が操作手段300上か操作手段300の近傍にある場合には、減速度の要求レベルが高いものと判断して、ブレーキONがなされた場合と同じダウンシフト量とするとともに、運転者の手が操作手段300の上か操作手段300の近傍にない場合にはアクセルOFFがなされた場合と同じダウンシフト量とする。
【0069】
これにより、ブレーキONがなされるよりも早いタイミングで運転者の減速度要求に応じた減速度で制御できるため、運転者の感覚に合った制御とすることができる。
【0070】
図7を参照して、第3実施形態の動作について説明する。
【0071】
ステップS601とステップS602は、それぞれ、上記図1のステップS101とステップS102と同じであるため説明を省略する。ステップS603において、ブレーキ接点がONである場合(ステップS603−Y)には、ステップS605に進み、そうでない場合には、ステップS604に進む。ステップS604は、上記図1のステップS103と同様であるため、その説明を省略する。
【0072】
[ステップS605]
ブレーキ接点がONとされた場合(ステップS603−Y)又は運転者の手が操作手段300上又は近傍にあると判定された場合(ステップS604−Y)には、以下の方法により目標変速段が設定される。
【0073】
例えば各変速段について現在の車速でダウンシフトし、エンジン回転数が上がった後に発生するエンジンブレーキ力をエンジントルクと走行抵抗により算出する。これと必要減速度を比較し、下式が成立する最も大きいn速を目標変速段とする。
現在の路面勾配による加速度+ブレーキがONにされたときのオフセット値(例えば−0.2m/s2)>n速のエンジンブレーキ力
【0074】
[ステップS606]
ブレーキ接点がONとされない場合(ステップS603−N)であって、かつ運転者の手が操作手段300上又は近傍にあると判定されない場合(ステップS604−N)には、以下の方法により目標変速段が設定される。
【0075】
例えば各変速段について現在の車速でダウンシフトし、エンジン回転数が上がった後に発生するエンジンブレーキ力をエンジントルクと走行抵抗により算出する。これと必要減速度を比較し、下式が成立する最も大きいn速を目標変速段とする。
現在の路面勾配による加速度+ブレーキがONにされたときのオフセット値(例えば0m/s2)>n速のエンジンブレーキ力
【0076】
あるいは、ステップS606では、n速=最高速段として、ステップS606が行われた場合(ブレーキ接点がONとされない場合であって、かつ運転者の手が操作手段300上又は近傍にあると判定されない場合)には、ダウンシフトが行われないようにしてもよい。
【0077】
ステップS607、ステップS608及びステップS609は、それぞれ上記図1のステップS106、ステップS107及びステップS108と同じであるため、その説明を省略する。
【0078】
上記のように、ブレーキONがなされた場合(ステップS603−Y)とアクセルOFFがなされた場合(ステップS601−Y、ステップS603−N)の2つの減速度要求レベルに応じてダウンシフト量を決めている場合(ステップS605、ステップS606)、運転者の手の位置が操作手段300上か操作手段300の近傍にある場合(ステップS604−Y)には、減速度の要求レベルが高いものと判断して、ブレーキ接点がOFFの状態であっても(ステップS603−N)、ブレーキONがなされた場合(ステップS603−Y)と同じダウンシフト量(ステップS605)とするとともに、運転者の手が操作手段300の上か操作手段300の近傍にない場合(ステップS604−N)にはアクセルOFFがなされた場合(ステップS601−Y、ステップS603−N)と同じダウンシフト量(ステップS606)とする。
【0079】
なお、上記実施形態では、車両に減速度を与える手段として、目標変速段にダウンシフト制御(ステップS106、ステップS607)することにより減速度を付与する方法を採用しているが、これに限定されることなく、自動ブレーキ又はモータージェネレータの回生ブレーキにより減速度を付与することができる。
【0080】
更に、上記においては、車両が減速すべき量を示す減速度は、減速加速度(G)を用いて説明したが、減速トルクをベースに制御を行うことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の概略構成図である。
【図3】図3は、本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態における操作手段と運転者の手との位置関係を説明するための模式図である。
【図4】図4は、本発明の車両用駆動力制御装置の第1実施形態の路面勾配と車速に応じた減速度のマップを説明するための図である。
【図5】図5は、本発明の車両用駆動力制御装置の第2実施形態の動作を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の車両用駆動力制御装置の第2実施形態の路面勾配に応じた目標変速段のマップを説明するための図である。
【図7】図7は、本発明の車両用駆動力制御装置の第3実施形態の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
10 自動変速機
40 エンジン
90 加速度センサ
95 ナビゲーションシステム装置
100 タッチセンサ
113 アクセルペダル
114 アクセル開度センサ
115 室内カメラ
117 パターンセレクトスイッチ
118 道路勾配計測・推定部
122 車速センサ
123 シフトポジションセンサ
130 制御回路
131 CPU
132 RAM
133 ROM
200 ブレーキ装置
220 油圧制御回路
230 ブレーキ制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面勾配に基づいて走行に適した減速状態となるように減速度を発生させる減速度発生手段と、
変速機の変速操作を行うための運転者により操作される操作手段と、前記運転者との位置関係が予め設定された所定の関係であるか否かを検出する位置検出手段とを備え、
前記運転者の操作によりブレーキ接点がオンとされていない状態で前記操作手段と前記運転者との位置関係が前記所定の関係であると検出された場合には、前記減速度発生手段により減速度を発生させる
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項2】
駆動力を発生させる駆動力発生手段と、
変速機の変速操作を行うための運転者により操作される操作手段と、前記運転者との位置関係が予め設定された所定の関係であるか否かを検出する位置検出手段とを備え、
前記運転者の操作によりアクセル開度が予め設定された所定値未満であるときに前記操作手段と前記運転者との位置関係が前記所定の関係であると検出された場合には、前記駆動力発生手段により駆動力を発生させる
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両用駆動力制御装置において、
前記駆動力発生手段は、路面勾配に対応した駆動力を発生させる
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項4】
減速度を発生させる減速度発生手段と、
変速機の変速操作を行うための運転者により操作される操作手段と、前記運転者との位置関係が予め設定された所定の関係であるか否かを検出する位置検出手段とを備え、
前記減速度発生手段は、運転者による第1操作に基づいて第1レベルの減速度を発生させ、運転者による第2操作に基づいて前記第1レベルよりも小さい第2レベルの減速度を発生させるとともに、前記第1操作が行われていない場合に前記操作手段と前記運転者との位置関係が前記所定の関係であると検出された場合には、前記第1レベルの減速度を発生させる
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用駆動力制御装置において、
前記位置検出手段は、前記操作手段と前記運転者の手との間の距離が予め設定された所定値以下であるか否かを検出する
ことを特徴とする車両用駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−127213(P2007−127213A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321185(P2005−321185)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】