説明

車両用駆動装置

【課題】第1駆動部および第2駆動部を有する4軸式の車両用駆動装置において、第2駆動部側の減速比を確保しながらコンパクトに構成しつつNV性能を向上させる。
【解決手段】第1駆動部12の第1出力歯車Evがアイドル歯車Giと噛み合わされているため、第1出力歯車Evの径寸法の設定や各軸配置の自由度を確保しつつ、ダンパ装置Tlの径寸法を大きくしてNV性能やトルクリミッタのトルク容量を確保することが容易になる。第2駆動部14側については、一対の第1減速歯車Mn1および第2減速歯車Mn2を有するカウンタ軸18が設けられるため、減速比の設定の自由度が高くて十分な減速比を容易に確保できる。また、エンジンE/G側の第1減速歯車Mn1は車両幅方向においてダンパ装置Tlとラップする位置で第2出力歯車Mvと噛み合わされているため、装置を全体としてコンパクトに構成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用駆動装置に係り、特に、エンジンおよび第1回転機を有する第1駆動部と第2回転機を有する第2駆動部とが異なる軸線上に配置された4軸式の車両用駆動装置(4軸式ハイブリッド用トランスアクスル)の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 遊星歯車装置の3つの回転要素にそれぞれエンジン、第1回転機、および第1出力歯車が連結された第1駆動部と、(b) 第2回転機によって回転駆動される第2出力歯車を有する第2駆動部と、(c) 前記第1出力歯車および前記第2出力歯車から入力歯車を介して駆動力が伝達されるとともに、その駆動力を左右の駆動輪に分配する差動歯車装置と、を有する車両用駆動装置が知られている。特許文献1に記載の装置はその一例で、第1駆動部および第2駆動部が互いに平行な異なる軸線上に配置された4軸式の種々の構成の駆動装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−246953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる特許文献1に記載の装置(例えば図8)においては、第1駆動部と平行に一対の減速歯車を有するカウンタ軸が設けられ、車両幅方向においてエンジン側まで突き出しているため、エンジン振動を抑制するダンパ装置を設ける場合、そのダンパ装置の径寸法が制約されて適切なNV性能(ノイズ・振動を抑制する性能)やトルクリミッタのトルク容量が得られない可能性があった。すなわち、ダンパ装置の径寸法を大きくすると、第1出力歯車の径寸法や軸間距離が大きくなって駆動装置が大型になり、車両への搭載性が悪化する一方、カウンタ軸がダンパ装置に達しないように配置すると、軸方向寸法(車両幅方向の寸法)が長くなり、同じく車両への搭載性が悪化する。
【0005】
特許文献1の図24には、アイドル歯車等を介して第1出力歯車、第2出力歯車、および差動歯車装置の入力歯車を一平面内に配置して直列に噛み合わせるようにした駆動装置が記載されているが、減速比の設定の自由度が少なく、特に比較的大きな減速比(例えば8〜15程度)が望まれる第2駆動部の減速比を十分に確保することが難しい。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、第1駆動部および第2駆動部を有する4軸式の車両用駆動装置において、第2駆動部側の減速比を確保しながらコンパクトに構成しつつNV性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 遊星歯車装置の3つの回転要素にそれぞれエンジン、第1回転機、および第1出力歯車が連結された第1駆動部と、(b) 第2回転機によって回転駆動される第2出力歯車を有する第2駆動部と、(c) 前記第1出力歯車および前記第2出力歯車から入力歯車を介して駆動力が伝達されるとともに、その駆動力を左右の駆動輪に分配する差動歯車装置と、を有する車両用駆動装置において、(d) 前記エンジンはダンパ装置を介して前記遊星歯車装置に連結されており、(e) 前記第1駆動部は、車両幅方向の一端側から前記第1回転機、前記遊星歯車装置、前記第1出力歯車、前記ダンパ装置、前記エンジンの順番で第1軸線S1上に配置されているとともに、その第1出力歯車は、その第1軸線S1と平行な第2軸線S2上に配置されたアイドル歯車と噛み合わされており、(f) 前記第2駆動部は、車両幅方向の前記一端側から前記第2回転機、前記第2出力歯車の順番で前記第1軸線S1と平行な第3軸線S3上に配置されているとともに、その第2出力歯車は、その第3軸線S3と平行な第4軸線S4上に配置されたその第2出力歯車よりも歯数が多い第1減速歯車と噛み合わされており、(g) その第1減速歯車は、前記第4軸線S4上に配置されたカウンタ軸に一体的に設けられているとともに、そのカウンタ軸にはその第1減速歯車よりも歯数が少ない第2減速歯車がその第1減速歯車よりも車両幅方向の前記一端側に一体的に設けられており、(h) 前記入力歯車は前記アイドル歯車および前記第2減速歯車の何れか一方または両方と噛み合わされて、前記第1駆動部の駆動力はそのアイドル歯車から直接、またはその第2減速歯車を介してその入力歯車に伝達され、前記第2駆動部の駆動力はその第2減速歯車から直接、またはそのアイドル歯車を介してその入力歯車に伝達されるようになっており、(i) 前記第2出力歯車と前記第1減速歯車との噛合位置は、車両幅方向において前記エンジンよりも前記一端側であって前記ダンパ装置とラップする位置に定められていることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、(a) 遊星歯車装置の3つの回転要素にそれぞれエンジン、第1回転機、および第1出力歯車が連結された第1駆動部と、(b) 第2回転機によって回転駆動される第2出力歯車を有する第2駆動部と、(c) 前記第1出力歯車および前記第2出力歯車から入力歯車を介して駆動力が伝達されるとともに、その駆動力を左右の駆動輪に分配する差動歯車装置と、を有する車両用駆動装置において、(d) 前記エンジンはダンパ装置を介して前記遊星歯車装置に連結されており、(e) 前記第1駆動部は、車両幅方向の一端側から前記第1回転機、前記遊星歯車装置、前記第1出力歯車、前記ダンパ装置、前記エンジンの順番で第1軸線S1上に配置されているとともに、その第1出力歯車は、その第1軸線S1と平行な第2軸線S2上に配置されたアイドル歯車と噛み合わされており、(f) 前記第2駆動部は、車両幅方向の前記一端側から前記第2回転機、前記第2出力歯車の順番で前記第1軸線S1と平行な第3軸線S3上に配置されているとともに、その第2出力歯車は、その第3軸線S3と平行な第4軸線S4上に配置されたその第2出力歯車よりも歯数が多い第1減速歯車と噛み合わされており、(g) その第1減速歯車は、前記第4軸線S4上に配置されたカウンタ軸に一体的に設けられているとともに、そのカウンタ軸にはその第1減速歯車よりも歯数が少ない第2減速歯車がその第1減速歯車よりも車両幅方向の前記一端側と反対側に一体的に設けられて前記入力歯車と噛み合わされており、(h) 前記アイドル歯車は前記第1減速歯車と噛み合わされて、前記第1駆動部の駆動力は前記第1出力歯車からそのアイドル歯車、その第1減速歯車、および前記第2減速歯車を経て前記入力歯車に伝達され、前記第2駆動部の駆動力は前記第2出力歯車からその第1減速歯車およびその第2減速歯車を経てその入力歯車に伝達されるようになっており、(i) 前記第2減速歯車と前記入力歯車との噛合位置は、車両幅方向において前記エンジンよりも前記一端側であって前記ダンパ装置とラップする位置に定められていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このような車両用駆動装置においては、第1駆動部の第1出力歯車がアイドル歯車と噛み合わされているため、第1出力歯車の径寸法の設定や各軸配置の自由度を確保しつつ、ダンパ装置の径寸法を大きくすることが可能で、軸方向すなわち車両幅方向の寸法を拡大することなく、NV性能やトルクリミッタのトルク容量を確保することが容易になる。一対の減速歯車を有するカウンタ軸を用いないため、第1駆動部側の減速比の設定の自由度が制約されるが、エンジン出力の減速比は比較的小さくて良い(例えば2〜5程度)ため、例えば差動歯車装置の入力歯車による減速等で確保することが可能である。
【0010】
一方、第2駆動部側については、一対の第1減速歯車および第2減速歯車を有するカウンタ軸が設けられるため、減速比の設定の自由度が高くて十分な減速比(例えば8〜15程度)を容易に確保できる。また、その一対の第1減速歯車および第2減速歯車のうち車両幅方向において一端側と反対側の減速歯車、具体的には第1発明では第1減速歯車で第2発明では第2減速歯車は、車両幅方向においてエンジンよりも一端側であってダンパ装置とラップする位置に配置されるため、軸方向すなち車両幅方向の寸法をできるだけ短く維持しつつ、エンジン側まで突き出して配置される場合に比較して差動歯車装置と第1駆動部との軸間距離が小さく維持され、装置が全体としてコンパクトに構成される。
【0011】
また、第2発明では、第1出力歯車と第1減速歯車との歯数比、および第2減速歯車と入力歯車との歯数比に応じて第1駆動部を2段階で減速できるため、その第1駆動部側の減速比の設定の自由度が高くなる。加えて、第2減速歯車および入力歯車はそれぞれ単独で噛み合っているため、他の歯車に影響を与えることなくそれ等の歯数比(径寸法の比)を自由に変更することが可能で、減速比の調整が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例である車両用駆動装置を説明する図で、(a) は4軸を展開して示したギヤ構成図、(b) は車両左側から見たギヤ配置図である。
【図2】本発明の他の実施例を説明する図で、(a) は4軸を展開して示したギヤ構成図、(b) は車両左側から見たギヤ配置図である。
【図3】本発明の更に別の実施例を説明する図で、(a) は4軸を展開して示したギヤ構成図、(b) は車両左側から見たギヤ配置図である。
【図4】本発明の更に別の実施例を説明する図で、(a) は4軸を展開して示したギヤ構成図、(b) は車両左側から見たギヤ配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の駆動装置は、所謂4軸式ハイブリッド用トランスアクスルと言われるもので、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の車両に好適に用いられ、車輪の操舵の関係で車両幅方向の寸法が制約されるため、コンパクトに構成することが強く望まれる。但し、RR(リヤエンジン・リヤドライブ)型の車両や4輪駆動車両にも適用され得る。
【0014】
第1駆動部は、燃料の燃焼で動力を発生する内燃機関等のエンジンと第1回転機とを備えており、エンジンおよび第1回転機は遊星歯車装置を介して連結されているが、遊星歯車装置としてはシングルピニオン型でもダブルピニオン型でも良く、必要に応じて2組以上組み合わせて構成することもできる。シングルピニオン型の場合、例えばエンジンがサンギヤに連結され、第1回転機がキャリアに連結され、第1出力歯車がリングギヤに連結されるが、エンジンをキャリアに連結し、第1回転機をサンギヤに連結し、第1出力歯車をリングギヤに連結することもできるなど、種々の態様が可能である。ダブルピニオン型の場合は、例えばエンジンがサンギヤに連結され、第1回転機がリングギヤに連結され、第1出力歯車がキャリアに連結されるが、エンジンをリングギヤに連結し、第1回転機をサンギヤに連結し、第1出力歯車をキャリアに連結することもできるなど、種々の態様が可能である。
【0015】
回転機は回転電気機械のことで、具体的には電動モータ、発電機、或いはそれ等の両方の機能が択一的に得られるモータジェネレータであり、第1駆動部の第1回転機としてはモータジェネレータが好適に用いられるが、電動モータ或いは発電機を採用することもできる。第2駆動部の第2回転機としてはモータジェネレータが好適に用いられるが、電動モータを採用することもできる。
【0016】
差動歯車装置としては、傘歯車式が広く用いられているが遊星歯車式を採用することもできる。ダンパ装置は、エンジンの振動の伝達を抑制するためのもので、所定の相対回転を許容する弾性体(ばね等)を含んで構成されるが、必要に応じてトルクリミッタ(摩擦クラッチ等)やフライホイールが設けられても良い。
【0017】
第1発明では、入力歯車がアイドル歯車および第2減速歯車の何れか一方または両方と噛み合わされるようになっており、例えば入力歯車がアイドル歯車および第2減速歯車の両方と噛み合わされ、その場合、第1駆動部の駆動力は第1出力歯車からアイドル歯車を経て入力歯車に伝達される一方、第2駆動部の駆動力は第2出力歯車から第1減速歯車、第2減速歯車を経て入力歯車に伝達される。入力歯車がアイドル歯車のみと噛み合わされる場合、第2減速歯車はそのアイドル歯車と噛み合わされ、第1駆動部の駆動力は第1出力歯車からアイドル歯車を経て入力歯車に伝達される一方、第2駆動部の駆動力は第2出力歯車から第1減速歯車、第2減速歯車、アイドル歯車を経て入力歯車に伝達される。また、入力歯車が第2減速歯車のみと噛み合わされる場合、アイドル歯車はその第2減速歯車と噛み合わされ、第1駆動部の駆動力は第1出力歯車からアイドル歯車、第2減速歯車を経て入力歯車に伝達される一方、第2駆動部の駆動力は第2出力歯車から第1減速歯車、第2減速歯車を経て入力歯車に伝達される。
【0018】
第1発明では、第2出力歯車と第1減速歯車との噛合位置が、車両幅方向においてエンジンよりも一端側であってダンパ装置とラップする位置に定められる。すなわち、一般にダンパ装置はトランスアクスルハウジング内に配置され、エンジンは、トランスアクスルハウジングに設けられたエンジン合せ面に一体的に固設されるが、そのエンジン合せ面までのトランスアクスルハウジング内に第2出力歯車および第1減速歯車が配設される。第2発明の第2減速歯車および入力歯車についても、エンジン合せ面までのトランスアクスルハウジング内に配設される。
【0019】
このような駆動装置において、第1軸線S1〜第4軸線S4、および差動歯車装置の第5軸線S5を含む各軸の位置関係は、車両への搭載条件等を考慮して適宜設定されるが、例えば第1駆動部の第1軸線S1が車両の最も前側に設定され、第2駆動部の第3軸線S3は第1軸線S1の後方斜め上に設定され、差動歯車装置の第5軸線S5は、車両前後方向において第1軸線S1と第3軸線S3との間であって第1軸線S1の後方斜め下に設定される。
【実施例1】
【0020】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、第1発明の一実施例である車両用駆動装置10を説明する図で、(a) は複数の軸を展開して示すギヤ構成図、(b) は各軸の位置関係を示すギヤ配置図で、車両左側から見た状態である。これ等の図は概略図で、各部の径寸法や軸方向寸法を正確な割合で図示したものではない。また、図1(a) では、アイドル歯車Giと噛み合うリングギヤRingを有する差動歯車装置16を、別個に分離して図示しており、リングギヤRingは車両幅方向(図1(a) の左右方向)においてアイドル歯車Diや第1出力歯車Ev、第2減速歯車Mn2と同じ位置に設けられている。他の実施例の図2〜図4についても同様である。
【0021】
車両用駆動装置10は、第1軸線S1上に配置された第1駆動部12と、第3軸線S3上に配置された第2駆動部14とを備えており、第1駆動部12は、遊星歯車装置PGの3つの回転要素にそれぞれエンジンE/G、第1モータジェネレータMG1、および第1出力歯車Evを連結したものである。遊星歯車装置PGは、本実施例ではシングルピニオン型の単一の遊星歯車装置にて構成されており、そのサンギヤにトルクリミッタ付きのダンパ装置Tlを介してエンジンE/Gが連結され、キャリアに第1モータジェネレータMG1が連結され、リングギヤに第1出力歯車Evが連結されている。第1モータジェネレータMG1は第1回転機に相当する。
【0022】
上記第1駆動部12は、車両幅方向の一端側(図1(a) おける左側)から第1モータジェネレータMG1、遊星歯車装置PG、第1出力歯車Ev、ダンパ装置Tl、エンジンE/Gの順番で略水平な第1軸線S1上に配置されている。そして、第1出力歯車Evは、その第1軸線S1と平行な第2軸線S2上に配置されたアイドル歯車Giと噛み合わされているとともに、そのアイドル歯車Giは、同じく第1軸線S1と平行な第5軸線S5上に配設されている差動歯車装置16のリングギヤRingと噛み合わされている。差動歯車装置16は傘歯車式で、デフケースDcの内部に設けられた傘歯車を介して左右の車軸Dshに駆動力を分配し、図示しない左右の前輪が回転駆動される。差動歯車装置16は、傘歯車等を収容する大径部分がリングギヤRingよりも車両幅方向の一端側(図1(a) おける左側)と反対側に位置するように配置されている。第1出力歯車Evの歯数はリングギヤRingよりも少なく、第1駆動部12の第1出力歯車Evから出力された回転は、それ等の第1出力歯車EvとリングギヤRingとの歯数比で定まる所定の減速比で減速される。リングギヤRingは入力歯車に相当する。
【0023】
第2駆動部14は、第2モータジェネレータMG2と、その第2モータジェネレータMG2によって回転駆動される第2出力歯車Mvとを備えており、前記第1軸線S1と平行な第3軸線S3上に、車両幅方向の前記一端側(図1(a) おける左側)から第2モータジェネレータMG1、第2出力歯車Mvの順番で配置されている。第2出力歯車Mvは、第3軸線S3と平行な第4軸線S4上に配置されたカウンタ軸18に一体的に取り付けられた第1減速歯車Mn1と噛み合わされている。第2出力歯車Mvの歯数は第1減速歯車Mn1よりも少なく、カウンタ軸18は所定の減速比で減速回転させられる。これ等の第2出力歯車Mvと第1減速歯車Mn1との噛合位置は、車両幅方向において前記エンジンE/Gよりも前記一端側(図1(a) おける左側)であって前記ダンパ装置Tlとラップする位置に定められている。すなわち、ダンパ装置Tlは、図示しないトランスアクスルハウジング内に配置され、エンジンE/Gは、そのトランスアクスルハウジングに設けられたエンジン合せ面(図1(a) におけるエンジンE/Gの左端)に一体的に固設されるが、そのエンジン合せ面までのトランスアクスルハウジング内に第2出力歯車Mvおよび第1減速歯車Mn1が配設される。デフケースDcがリングギヤRingよりもエンジンE/G側へ突き出すように配置される差動歯車装置16も、そのデフケースDcがエンジン合せ面までのトランスアクスルハウジング内に略収容されるように配設されている。上記第2モータジェネレータMG2は第2回転機に相当する。
【0024】
上記カウンタ軸18には、第1減速歯車Mn1よりも車両幅方向の前記一端側(図1(a) おける左側)に、第1減速歯車Mn1よりも歯数が少ない第2減速歯車Mn2が一体的に取り付けられており、前記アイドル歯車Giと噛み合わされている。これにより、第2駆動部14の駆動力は、第2出力歯車Mvから第1減速歯車Mn1、第2減速歯車Mn2、およびアイドル歯車Giを経てリングギヤRingに伝達され、差動歯車装置16によって左右の車軸Dshに分配される。第2出力歯車Mn2の歯数はリングギヤRingよりも少なく、第2駆動部14の第2出力歯車Mvから出力された回転は、第2出力歯車Mvと第1減速歯車Mn1との歯数比で定まる減速、および第2減速歯車Mn2とリングギヤRingとの歯数比で定まる減速の2段階で減速され、第1駆動部12よりも大きな減速比で減速されて差動歯車装置16に伝達される。
【0025】
上記第1軸線S1〜第5軸線S5の位置関係は、図1(b) から明らかなように、第1駆動部12の第1軸線S1が車両の最も前側に設定され、第2駆動部14の第3軸線S3は車両の最も後側で第1軸線S1の後方斜め上に設定され、差動歯車装置16の第5軸線S5は、車両前後方向において第1軸線S1と第3軸線S3との間であって第1軸線S1の後方斜め下に設定されている。また、アイドルギヤGiが配置された第2軸線S2は、車両前後方向において第1軸線S1と第5軸線S5との間であってそれ等を結ぶ線分の上方位置に設定され、カウンタ軸18が配置された第4軸線S4は、車両前後方向において第2軸線S2と第3軸線S3との間であってそれ等を結ぶ線分の上方位置に設定されている。
【0026】
このような車両用駆動装置10においては、第1駆動部12の第1出力歯車Evがアイドル歯車Giと噛み合わされているため、第1出力歯車Evの径寸法の設定や各軸配置の自由度を確保しつつ、ダンパ装置Tlの径寸法を大きくすることが可能で、軸方向すなわち車両幅方向の寸法を拡大することなく、NV性能やトルクリミッタのトルク容量を確保することが容易になる。一対の減速歯車を有するカウンタ軸を用いないため、第1駆動部12側の減速比の設定の自由度が制約されるが、エンジン出力の減速比は比較的小さくて良い(例えば2〜5程度)ため、第1出力歯車EvとリングギヤRingとの歯数比による減速だけで所定の減速比を確保することができる。
【0027】
一方、第2駆動部14側については、一対の第1減速歯車Mn1および第2減速歯車Mn2を有するカウンタ軸18が設けられるため、減速比の設定の自由度が高くて十分な減速比(例えば8〜15程度)を容易に確保できる。また、その一対の第1減速歯車Mn1および第2減速歯車Mn2のうち車両幅方向において前記一端側(図1(a) における左側)と反対側の減速歯車、すなわち第1減速歯車Mn1は、車両幅方向においてエンジンE/Gよりも一端側(図1(a) における左側)であってダンパ装置Tlとラップする位置で第2出力歯車Mvと噛み合わされているため、軸方向すなち車両幅方向の寸法をできるだけ短く維持しつつ、エンジンE/G側まで突き出して配置される場合に比較して差動歯車装置16とエンジンE/Gとの間の距離(S1とS5との間の軸間距離)が小さく維持され、装置が全体としてコンパクトに構成される。
【0028】
以下、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【実施例2】
【0029】
図2の車両用駆動装置20は、前記実施例1に比較して第2減速歯車Mn2をアイドル歯車Giと噛み合わせることなく、差動歯車装置16のリングギヤRingに直接噛み合わせた場合である。この場合、第1駆動部12の駆動力は、実施例1と同様に第1出力歯車Evからアイドル歯車Giを経てリングギヤRingに伝達されるが、第2駆動部14の駆動力は、第2出力歯車Mvから第1減速歯車Mn1、および第2減速歯車Mn2を経てリングギヤRingに伝達される。本実施例では、第2駆動部14から差動歯車装置16に達するまでの軸数が実施例1に比較して1つ減るため、第2駆動部14の回転方向が逆になる。カウンタ軸18が配置された第4軸線S4は、上下方向において第3軸線S3と第5軸線S5との間であってそれ等を結ぶ線分よりも車両後方側に設定されている。アイドル歯車Giが配置された第2軸線S2は、実施例1と同様に第1軸線S1の後方斜め上に設定されているが、一点鎖線で示すように第1軸線S1と第5軸線S5とを結ぶ線分を挟んで反対側(下方)に配置することもできる。
【0030】
本実施例においても前記実施例1と同様の作用効果が得られる。加えて、アイドル歯車Giと第2減速歯車Mn2とを噛み合わせる必要がないため、第1駆動部12および第2駆動部14の減速比の設定の自由度が高くなるとともに、第1軸線S1〜第5軸線S5の各軸配置の自由度も高くなり、一層コンパクトに構成することが可能となる。
【実施例3】
【0031】
図3の車両用駆動装置30は、前記実施例1に比較してアイドル歯車GiをリングギヤRingと噛み合わせる代わりに第2減速歯車Mn2をリングギヤRingに噛み合わせた場合である。この場合、第1駆動部12の駆動力は、第1出力歯車Evからアイドル歯車Gi、および第2減速歯車Mn2を経てリングギヤRingに伝達され、第2駆動部14の駆動力は、第2出力歯車Mvから第1減速歯車Mn1、および第2減速歯車Mn2を経てリングギヤRingに伝達される。本実施例では、第1駆動部12から差動歯車装置16に達するまでの軸数が実施例1に比較して1つ増える一方、第2駆動部14から差動歯車装置16に達するまでの軸数は実施例1に比較して1つ減るため、第1駆動部12および第2駆動部14の回転方向がそれぞれ実施例1に比較して逆になる。そして、カウンタ軸18が配置された第4軸線S4は第3軸線S3よりも前方斜め下に設定されており、アイドル歯車Giが配置された第2軸線S2は、車両前後方向において第1軸線S1と第4軸線S4との間であってそれ等を結ぶ線分よりも上方に設定されている。本実施例においても前記実施例1と同様の作用効果が得られる。
【実施例4】
【0032】
図4の車両用駆動装置40は、前記実施例1に比較してカウンタ軸18に設けられる第1減速歯車Mn1および第2減速歯車Mn2の位置が左右反対で、第2減速歯車Mn2がエンジン10側、すなわち車両幅方向において前記一端側(図4(a) における左側)と反対側に取り付けられている。そして、前記アイドル歯車Giは第1減速歯車Mn1と噛み合わされており、第2減速歯車Mn2は差動歯車装置16のリングギヤRingと噛み合わされている。この場合、第1駆動部12の駆動力は、第1出力歯車Evからアイドル歯車Gi、第1減速歯車Mn1、および第2減速歯車Mn2を経てリングギヤRingに伝達される一方、第2駆動部14の駆動力は、第2出力歯車Mvから第1減速歯車Mn1、および第2減速歯車Mn2を経てリングギヤRingに伝達される。第1出力歯車Evの歯数は第1減速歯車Mn1よりも少なく、第1駆動部12の第1出力歯車Evから出力される回転は、その第1出力歯車Evと第1減速歯車Mn1との歯数比、および第2減速歯車Mn2とリングギヤRingとの歯数比に応じて2段階で減速される。本実施例では、第1駆動部12から差動歯車装置16に達するまでの軸数が実施例1に比較して1つ増える一方、第2駆動部14から差動歯車装置16に達するまでの軸数は実施例1に比較して1つ減るため、第1駆動部12および第2駆動部14の回転方向がそれぞれ実施例1に比較して逆になる。
【0033】
カウンタ軸18が配置された第4軸線S4は第3軸線S3よりも前方斜め下に設定されており、アイドル歯車Giが配置された第2軸線S2は、車両前後方向において第1軸線S1と第4軸線S4との間であってそれ等を結ぶ線分よりも上方に設定されている。アイドル歯車Giを、一点鎖線で示すように第1軸線S1と第4軸線S4とを結ぶ線分を挟んで反対側(下方)に配置することもできる。
【0034】
前記第2減速歯車Mn2とリングギヤRingとの噛合位置は、車両幅方向において前記エンジンE/Gよりも前記一端側(図4(a) おける左側)であって前記ダンパ装置Tlとラップする位置に定められており、エンジン合せ面までのトランスアクスルハウジング内にそれ等の第2減速歯車Mn2およびリングギヤRingが配設されている。また、差動歯車装置16のデフケースDcは、前記実施例1と左右反対向きに設けられ、傘歯車等を収容する大径部分がリングギヤRingよりも車両幅方向の一端側(図4(a) おける左側)に位置するように配置され、エンジンE/Gとの干渉が抑制されている。
【0035】
本実施例においても、一対の第1減速歯車Mn1および第2減速歯車Mn2のうち車両幅方向において前記一端側(図4(a) における左側)と反対側の減速歯車、すなわち第2減速歯車Mn2は、車両幅方向においてエンジンE/Gよりも一端側(図4(a) における左側)であってダンパ装置Tlとラップする位置でリングギヤRingと噛み合わされているため、軸方向すなち車両幅方向の寸法をできるだけ短く維持しつつ、エンジンE/G側まで突き出して配置される場合に比較して差動歯車装置16とエンジンE/Gとの間の距離(S1とS5との間の軸間距離)が小さく維持され、装置を全体としてコンパクトに構成できるなど、前記実施例1と同様の作用効果が得られる。
【0036】
また、第1駆動部12の第1出力歯車Evから出力される回転は、その第1出力歯車Evと第1減速歯車Mn1との歯数比、および第2減速歯車Mn2とリングギヤRingとの歯数比に応じて2段階で減速されるため、その第1駆動部12側の減速比の設定の自由度が高くなる。
【0037】
また、第2減速歯車Mn2およびリングギヤRingはそれぞれ単独で噛み合わされているため、他の歯車に影響を与えることなくそれ等の歯数比(径寸法の比)を自由に変更することが可能で、減速比の調整が容易である。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0039】
10、20、30、40:車両用駆動装置 12:第1駆動部 14:第2駆動部 16:差動歯車装置 18:カウンタ軸 E/G:エンジン MG1:第1モータジェネレータ(第1回転機) MG2:第2モータジェネレータ(第2回転機) Tl:ダンパ装置 Ev:第1出力歯車 PG:遊星歯車装置 Gi:アイドル歯車 Mv:第2出力歯車 Mn1:第1減速歯車 Mn2:第2減速歯車 Ring:リングギヤ(入力歯車)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車装置の3つの回転要素にそれぞれエンジン、第1回転機、および第1出力歯車が連結された第1駆動部と、
第2回転機によって回転駆動される第2出力歯車を有する第2駆動部と、
前記第1出力歯車および前記第2出力歯車から入力歯車を介して駆動力が伝達されるとともに、該駆動力を左右の駆動輪に分配する差動歯車装置と、
を有する車両用駆動装置において、
前記エンジンはダンパ装置を介して前記遊星歯車装置に連結されており、
前記第1駆動部は、車両幅方向の一端側から前記第1回転機、前記遊星歯車装置、前記第1出力歯車、前記ダンパ装置、前記エンジンの順番で第1軸線S1上に配置されているとともに、該第1出力歯車は、該第1軸線S1と平行な第2軸線S2上に配置されたアイドル歯車と噛み合わされており、
前記第2駆動部は、車両幅方向の前記一端側から前記第2回転機、前記第2出力歯車の順番で前記第1軸線S1と平行な第3軸線S3上に配置されているとともに、該第2出力歯車は、該第3軸線S3と平行な第4軸線S4上に配置された該第2出力歯車よりも歯数が多い第1減速歯車と噛み合わされており、
該第1減速歯車は、前記第4軸線S4上に配置されたカウンタ軸に一体的に設けられているとともに、該カウンタ軸には該第1減速歯車よりも歯数が少ない第2減速歯車が該第1減速歯車よりも車両幅方向の前記一端側に一体的に設けられており、
前記入力歯車は前記アイドル歯車および前記第2減速歯車の何れか一方または両方と噛み合わされて、前記第1駆動部の駆動力は該アイドル歯車から直接、または該第2減速歯車を介して該入力歯車に伝達され、前記第2駆動部の駆動力は該第2減速歯車から直接、または該アイドル歯車を介して該入力歯車に伝達されるようになっており、
前記第2出力歯車と前記第1減速歯車との噛合位置は、車両幅方向において前記エンジンよりも前記一端側であって前記ダンパ装置とラップする位置に定められている
ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
遊星歯車装置の3つの回転要素にそれぞれエンジン、第1回転機、および第1出力歯車が連結された第1駆動部と、
第2回転機によって回転駆動される第2出力歯車を有する第2駆動部と、
前記第1出力歯車および前記第2出力歯車から入力歯車を介して駆動力が伝達されるとともに、該駆動力を左右の駆動輪に分配する差動歯車装置と、
を有する車両用駆動装置において、
前記エンジンはダンパ装置を介して前記遊星歯車装置に連結されており、
前記第1駆動部は、車両幅方向の一端側から前記第1回転機、前記遊星歯車装置、前記第1出力歯車、前記ダンパ装置、前記エンジンの順番で第1軸線S1上に配置されているとともに、該第1出力歯車は、該第1軸線S1と平行な第2軸線S2上に配置されたアイドル歯車と噛み合わされており、
前記第2駆動部は、車両幅方向の前記一端側から前記第2回転機、前記第2出力歯車の順番で前記第1軸線S1と平行な第3軸線S3上に配置されているとともに、該第2出力歯車は、該第3軸線S3と平行な第4軸線S4上に配置された該第2出力歯車よりも歯数が多い第1減速歯車と噛み合わされており、
該第1減速歯車は、前記第4軸線S4上に配置されたカウンタ軸に一体的に設けられているとともに、該カウンタ軸には該第1減速歯車よりも歯数が少ない第2減速歯車が該第1減速歯車よりも車両幅方向の前記一端側と反対側に一体的に設けられて前記入力歯車と噛み合わされており、
前記アイドル歯車は前記第1減速歯車と噛み合わされて、前記第1駆動部の駆動力は前記第1出力歯車から該アイドル歯車、該第1減速歯車、および前記第2減速歯車を経て前記入力歯車に伝達され、前記第2駆動部の駆動力は前記第2出力歯車から該第1減速歯車および該第2減速歯車を経て該入力歯車に伝達されるようになっており、
前記第2減速歯車と前記入力歯車との噛合位置は、車両幅方向において前記エンジンよりも前記一端側であって前記ダンパ装置とラップする位置に定められている
ことを特徴とする車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−101606(P2012−101606A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250082(P2010−250082)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】