説明

車両発進制御装置

【課題】発進段選択スイッチを備えた車両において、発進動作中のギヤ切り換えによるトルク抜けを防止し、安定した発進を行うことのできる発進制御装置を提供すること。
【解決手段】発進段選択スイッチの切り換えが行われた場合に(S1)、発進準備が完了し(S2)、且つ発進要求がある場合には(S4)、発進段の切換は行わず、現ギヤ段を維持した発進を行う(S5)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両発進制御装置に係り、詳しくは運転者が発進段を選択可能な発進段選択スイッチを備えた車両発進制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トラック等の大型車両には、運転者の負担軽減等を目的としてクラッチ操作を自動化した、いわゆる機械式自動変速機(AMT:Automated Manual Transmission)が搭載されている。
このようなAMTを搭載した車両では、発進時のみ運転者によるクラッチ操作を必要とするいわゆる3ペダル式AMTと、発進時のクラッチ操作も自動化した2ペダル式AMTとがある。
【0003】
また、当該AMTにおいて、車重や路面勾配等の車両状況に応じて発進時に最適な変速段(ギヤ段)を自動的に選択する機能を備えたものも開発されている(特許文献1参照)。また、発進時のギヤ段を運転者が任意に選択可能な発進段選択スイッチを設けた車両も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−106164号公報
【特許文献2】特開2003−185005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のように、自動的に発進段が選択され、運転者はアクセル操作のみ、またはアクセル操作及びクラッチ操作を行う場合は問題はないが、これに上記特許文献2のように運転者が任意に発進段の切換を行うことができた場合には、発進開始時に発進段選択スイッチが操作されると、ギヤ段を変更すべく発進動作中にクラッチが遮断される。クラッチが遮断されエンジンからの駆動力が遮断されれば、車両のトルクが抜け、発進がもたつくおそれがある。特に登坂路での発進作動中にトルクが抜ければ、車両の後退を招くおそれがある。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、発進段選択スイッチを備えた車両において、発進動作中のギヤ切り換えによるトルク抜けを防止し、安定した発進を行うことのできる発進制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、請求項1の車両発進制御装置では、車両に設けられ、エンジンからの駆動力を段階的に変速可能な複数のギヤ段を有する変速手段と、前記変速機のギヤ段のうち、前記車両の発進時に用いるギヤ段である発進段として任意のギヤ段を選択可能な発進段選択手段と、前記変速手段の発進準備状態を判定する発進準備判定手段と、前記車両への発進要求を判定する発進要求判定手段と、前記発進段選択手段により選択されている発進段により前記車両の発進を行うよう前記変速手段を制御する発進段制御手段とを備え、前記発進段制御手段は、前記発進準備手段により発進準備が完了しており、且つ発進要求判定手段により発進要求があると判定された場合には、前記発進段選択手段における発進段の切り換えを反映せず、当該切り換え前の発進段による発進を行うよう前記変速手段を制御することを特徴としている。
【0008】
請求項2の車両発進制御装置では、請求項1において、前記発進準備判定手段は、前記変速手段におけるギヤ段が発進段に噛合していることを条件に判定することを特徴としている。
請求項3の車両発進制御装置では、請求項1または2において、前記発進要求判定手段は、前記車両のアクセル操作状態、ブレーキ操作状態、及びシフト操作状態を条件に判定することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
上記手段を用いる本発明の請求項1〜3の車両発進制御装置によれば、発進段選択手段を備えた車両において、変速手段の発進準備が完了し、車両への発進要求の条件も満たされているような発進動作中においては、発進段選択手段の切り換え操作を受け付けずに、現ギヤ段での発進を維持する。
これにより、発進動作中にクラッチの遮断が行われることはなく、エンジンの駆動力は発進が完了するまで継続的に車輪に伝達される。
【0010】
このことから、発進段選択手段を備えた車両において、発進動作中のギヤ切り換えによるトルク抜けを防止し、安定した発進を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る車両発進制御装置の一実施形態における概略構成図である。
【図2】本発明に係る車両発進制御装置の一実施形態における変速機ECUが実行する発進段切換制御ルーチンを表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1には、本発明の一実施形態おける構成をブロック図が示した概略構成図が示されている。
図1に示す本実施形態における車両1は、貨物を積載可能なトラックである。当該車両1には、走行用の駆動源であるエンジン2が搭載されており、当該エンジン2の回転駆動力はクラッチ4を介して変速機6(変速手段)に入力されるよう構成されている。
【0013】
クラッチ4はエンジン2からの回転駆動力の断接を行うものであり、当該クラッチ接続時にエンジン2から変速機6へと回転駆動力が伝達される。変速機6は複数の歯車の組み合わせから構成され、それぞれ所定のギヤ比をもつ複数のギヤ段を有している。そしてシンクロ機構により複数のギヤ段のうちの1つが噛合することでギヤ段が選択される。なお、本実施形態の車両1の変速機6は、発進時を含め変速段切換時等に電子制御により自動的にクラッチ4の断接を行ういわゆる2ペダル式AMT(オートメーテッドマニュアルトランスミッション)とする。
【0014】
変速機6の出力軸8はデファレンシャル装置10に接続されており、変速機6から出力される回転駆動力はデファレンシャル装置10から車軸12、12を介して左右の駆動輪14、14に割り振られるよう構成されている。
車両1には、図示しないが駆動輪14の他にも車輪が設けられており、これら各車輪には、対応する車輪に対し制動力をかけるブレーキ16、16が設けられている。
【0015】
また、車両1の運転席にはアクセルペダル18、ブレーキペダル20、シフトレバー22、車両1の発進時に使用するギヤ段(以下、発進段という)を選択可能な発進段選択スイッチ24(発進段選択手段)等の各種操作装置が設けられている。
さらに、車両1には、エンジン2の制御を行うエンジンECU26、ブレーキ16の制御を行うブレーキECU28、変速機6の制御を行う変速機ECU30等、各種装置の制御を行う各ECU(電子コントロールユニット)が設けられている。
【0016】
エンジンECU26は、アクセルペダル18の踏込量情報が入力され、当該アクセル踏込量情報に応じてエンジン2の出力を制御するものである。具体的にはエンジン2のスロットル開度、燃焼噴射量、及び燃料噴射時期等を制御する。
ブレーキECU28は、ブレーキペダル20の踏込量情報が入力され、当該ブレーキ踏込量情報に応じてブレーキ16の制動力を制御する。具体的には、図示しないアクチュエータを介してブレーキ16に作用する油圧や空気圧等を制御する。また、当該ブレーキECU28は、車両停車時にブレーキペダル20操作により発生した制動力を、ブレーキペダル20を開放した状態においても保持する坂道発進補助制御等も行う。
【0017】
変速機ECU30には、シフトレバー22により選択されているシフト位置情報、及び発進段選択スイッチ24により選択されている発進段選択情報等が入力され、当該シフト位置情報及び発進段選択情報に基づき、運転状態に応じてクラッチ4の断接を行うとともに変速機6のギヤ段の選択(シフトチェンジ)を行う。
シフト位置としては、例えば自動変速を行うドライブレンジ(Dレンジ)、トランスミッションのギヤをニュートラルにして駆動力を遮断状態とするニュートラルレンジ(Nレンジ)、変速機6のギヤをロックするパーキングレンジ(Pレンジ)、後退を行うリバースレンジ(Rレンジ)、手動でギヤ段を選択するセカンドレンジ(2ndレンジ)、ファーストレンジ(1stレンジ)等がある。
【0018】
発進段選択スイッチ24は、例えば本実施形態では3速発進を基準とし、高トルク側の2速発進、低トルク側の4速発進の3種類の発進段を選択可能であるものとする。当該発進段は運転者の判断により選択されるものであり、例えば2速発進は急勾配の坂道発進時や積載荷重が大きい場合等で高トルクでの発進を必要とする場合、3速発進は積載荷重が比較的小さく、平地での発進を行う場合、4速発進は下り坂での発進時等で低トルクでの発進が可能な場合に選択される。
【0019】
変速機ECU30は、走行中の運転状態に応じたシフトチェンジ制御の他、クラッチ4が遮断された停車状態から、クラッチ4が完全に接続されて且つ車両1を発進させるのに十分な所定値以上のエンジン出力を得られるまでの発進動作中における発進段切換制御も行う。
ここで、当該発進段切換制御に係る変速機ECU30の構成について詳しく説明する。
【0020】
図1に示すように、変速機ECU30は発進準備判定部32(発進準備判定手段)を有しており、当該発進準備判定部32は、変速機6において選択されているギヤ段、即ちシンクロ機構を介して噛合しているギヤ段(現ギヤ段)についての情報を変速機6から取得する。また、当該発進準備判定部32は、発進段選択スイッチ24から発進段選択情報も取得する。
【0021】
さらに、変速機ECU30は発進要求判定部34(発進要求判定手段)を有しており、当該発進要求判定部34は、シフトレバー22にて現在選択されているシフト位置情報、エンジンECU26を介してアクセルペダル18の踏込量情報、及びブレーキECU28を介してブレーキペダル20の踏込量情報を取得する。
【0022】
当該発進準備判定部32及び発進要求判定部34の情報は、変速機ECU30の発進段制御部36(発進段制御手段)に出力される。当該発進段制御部36ではこれらの情報に基づき変速機6における発進段の切換制御を行う。
以下、当該変速機ECU30において実行される発進段切換制御について詳しく説明する。
【0023】
図2には、変速機ECUにおいて実行される発進段切換制御ルーチンを示すフローチャートが示されており、以下同図に基づき説明する。
図2のステップS1に示すように、変速機ECU30の発進段制御部36が、発進準備判定部32からの情報に基づき、発進段選択スイッチ24の切り換えが行われたか否かを判別する。発進段選択スイッチ24の切り換えが行われていない場合は、発進段の切換制御を行う必要はなく、当該判別結果は偽(No)となり当該ルーチンをリターンする。
【0024】
一方、例えば運転者が発進段選択スイッチ24において、3速から2速または4速に切り換えた場合、またはその逆の操作を行った場合には、当該判別結果は真(Yes)となり次のステップS2に進む。
ステップS2では、発進段制御部36が発進段準備判定部32からの情報に基づき、発進準備が完了しているか否かを判別する。当該発進準備は、具体的には変速機6において選択されている現ギヤ段が発進段選択スイッチ24の切り換え操作前の発進段で噛合しているか否かにより判別する。例えば、運転者が発進段選択スイッチ24を短時間に連続的に操作する等して、変速機6のギヤ段が選択された発進段に噛合する前に新たな切り換え操作が行われた場合等には、当該判別結果は偽(No)となりステップS3に進む。
【0025】
ステップS3では、発進段の切り換えを反映するよう、発進段制御部36において発進段の更新を行い、当該ルーチンをリターンする。したがって、発進制御部36は、ギヤ段を発進段の切り換え操作後の発進段に変更すべく変速機6を制御する。
一方、上記ステップS2において、現ギヤ段が発進段変速スイッチ24の切り換え操作前の発進段にすでに噛合している場合には、当該判別結果は真(Yes)となり、ステップS4に進む。
【0026】
ステップS4では、発進段制御部36が、発進要求判定部34からの情報に基づき、車両1に対して運転者による発進要求があるか否かを判別する。当該発進要求は、例えば、シフトレバー22がDレンジにあり、ブレーキペダル20の踏込がなく(ブレーキOFF)、アクセルペダル18の踏込がある(アクセルON)等の条件を満たしているか否かにより判別する。当該条件が満たされず、車両1への発進要求がないと判断される場合には、当該判別結果は偽(No)となり、ステップS3に進む。つまり、変速機6における発進準備が完了している場合でも、車両1への発進要求がない場合は発進動作に入る前であることから、ステップS3において上記の通り発進段の更新を行い、当該ルーチンをリターンする。
【0027】
一方、ステップS4において、発進要求の条件が満たされており、判別結果が真(Yes)となる場合は、ステップS5に進む。
ステップS5では、現ギヤ段を維持して、当該ルーチンをリターンする。つまり、発進準備が完了しており、且つ発進要求もある場合には、発進動作中にあるものとして、発進段変速スイッチ24の切り換えを反映せず、切り換え前の発進段である現ギヤ段を維持して発進を行う。
【0028】
変速機ECU30は発進が完了するまでの間、上記ルーチンを繰り返す。
このように、変速機6の発進準備が完了し、車両1への発進要求の条件も満たされているような発進動作中においては、発進段選択スイッチ24の切り換え操作を反映せずに、現ギヤ段での発進を維持する。
これにより、発進動作中にクラッチ4の遮断が行われることはなく、エンジン2の駆動力は継続的に車輪14に伝達される。
【0029】
このことから、発進段選択スイッチ24を備えた車両1において、発進動作中のギヤ切り換えによるトルク抜けを防止し、発進のもたつきや登坂路における車両後退が生じない安定した発進を行うことができる。
以上で本発明に係る車両発進制御装置の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
【0030】
例えば、上記実施形態では、発進段選択スイッチ24は発進段として2〜4速を選択可能な構成であるが、発進段選択スイッチにより選択可能な発進段はこれに限られるものではなく、2段階以上選択できるものであればよい。
また、上記実施形態では発進準備の条件として、現ギヤ段が発進段に噛合していることとしているが、発進準備条件はこれに限られるものではない。
【0031】
また上記実施形態では、発進要求の条件を、シフトレバー22がDレンジであり、ブレーキペダル20の踏込がなく、アクセルペダル18の踏込があることとしているが、車両への発進要求を判定できればよく、発進要求の条件はこれに限られるものではない。
また上記実施形態では、車両1は変速機6として2ペダル式AMTを搭載しているが、発進時のクラッチ操作を運転者が行う3ペダル式AMTにも適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 車両
4 クラッチ
6 変速機(変速手段)
16 ブレーキ
18 アクセルペダル
20 ブレーキペダル
22 シフトレバー
24 発進段選択スイッチ(発進段選択手段)
26 エンジンECU
28 ブレーキECU
30 変速機ECU
32 発進準備判定部(発進準備判定手段)
34 発進要求判定部(発進要求判定手段)
36 発進段制御部(発進段制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ、エンジンからの駆動力を段階的に変速可能な複数のギヤ段を有する変速手段と、
前記変速機のギヤ段のうち、前記車両の発進時に用いるギヤ段である発進段として任意のギヤ段を選択可能な発進段選択手段と、
前記変速手段の発進準備状態を判定する発進準備判定手段と、
前記車両への発進要求を判定する発進要求判定手段と、
前記発進段選択手段により選択されている発進段により前記車両の発進を行うよう前記変速手段を制御する発進段制御手段とを備え、
前記発進段制御手段は、前記発進準備手段により発進準備が完了しており、且つ発進要求判定手段により発進要求があると判定された場合には、前記発進段選択手段における発進段の切り換えを反映せず、当該切り換え前の発進段による発進を行うよう前記変速手段を制御することを特徴とする車両発進制御装置。
【請求項2】
前記発進準備判定手段は、前記変速手段におけるギヤ段が発進段に噛合していることを条件に判定することを特徴する請求項1記載の車両発進制御装置。
【請求項3】
前記発進要求判定手段は、前記車両のアクセル操作状態、ブレーキ操作状態、及びシフト操作状態を条件に判定することを特徴とする請求項1または2記載の車両発進制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−112434(P2012−112434A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261206(P2010−261206)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】