説明

車両

【課題】シフトチェンジの際のドライバビリティを向上させる車両を提供する。
【解決手段】予め記憶されているマップデータmapAが読み込まれ、マップデータmapAと車速Vとが比較され、クランキングを、行うか否かの判断が行われる。カウンタCの値が、始動を遅延させる時刻t1に到達して超えた場合は、エンジン始動遅延要求をOFF制御として、クランキングを行わなわず、制御処理を終了する。マップデータmapAは、充電電力上限値Winがマイナス側に0から離れて、エンジン10を始動させるタイミングを遅延させる判定車速を高く設定する。充電電力上限値Winが低い場合、エンジン10を始動させるタイミングを遅延させる判定車速の閾値が低く設定される。充電電力上限値Winによって、ECU200内のマップデータmapAから、閾値が引き出されて、クランキングを、行うか否かの判断が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバビリティを向上させた車両、特にハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
モータジェネレータとエンジンとを搭載した車両としてハイブリッド車両が知られている。
【0003】
ハイブリッド車両は、回生制御によるモータジェネレータの減速トルクに加えて、更にエンジンのフリクション(エンジンブレーキ)を利用し、減速時のドライバビリティを向上させる。
【0004】
例えば、特開2009−166657号公報(特許文献1)は、Dレンジ(ドライブレンジ)から、Bレンジ(ブレーキレンジ)にシフトチェンジが行われた際に、エンジンを始動して回転軸に同期させることにより、所望の減速感を達成している。
【0005】
また、特開平9−037407号公報(特許文献2)は、アクセルオフ時のシフトレバーがエンジンブレーキである場合、アクセルオフされる直前の車速とシフト位置とに基づいて目標制動力あるいは目標源速度を定めるものが知られている。そして、この目標値に応じて回生制動力を発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−166657号公報
【特許文献2】特開平9−037407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、Dレンジで減速トルクが与えられる方向と、エンジンを始動するために、スタータモータでクランキングする際に発生する始動トルクの反力の方向とは、反対方向に働いている。
【0008】
このため、DレンジからBレンジにシフトチェンジされた際に同時にエンジンが始動すると、減速感が薄れてしまうといった問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、シフトチェンジの際のドライバビリティを向上させることが出来る車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、要約すると、内燃機関と、内燃機関の出力軸を回転駆動して始動させる回転電機と、内燃機関の出力軸および回転電機が接続される車両の駆動軸と、回生電力を発生させる方向の減速トルクが、必要とされる場合には、回転電機による内燃機関の出力軸の回転駆動を見合わせる始動制御部とを備えた。
【0011】
好ましくは、回転電機は、内燃機関の出力軸を回転駆動して始動させる第1モータジェネレータと、車両の駆動軸に連結される第2モータジェネレータとを含み、内燃機関の出力軸、車両の駆動軸、および第1モータジェネレータの回転軸の三要素の各々を機械的に連結して、三要素のうちの何れか一つを反力要素とすることによって、他の2つの要素間で動力伝達を可能とする動力分割機構と、動力分割機構の要素間の動力伝達をシフトポジション変更操作に応じて制御するシフト制御部とを更に備え、始動制御部はシフトポジション変更操作に応じて、第1モータジェネレータが、内燃機関の出力軸を回転駆動させてクランキングさせるタイミングを遅らせる。
【0012】
更に好ましくは、始動制御部は、シフト操作部のポジション変更操作があった場合に、所定時間内の内燃機関の出力軸の回転駆動による始動を遅延させる遅延条件が記録されたマップデータを含む。
【0013】
更に好ましくは、蓄電装置を更に備え、マップデータは、車速および充電電力上限値に応じて変動する閾値を有する。
【0014】
更に好ましくは、シフト操作部のポジション変更操作は、ドライブポジションから、ブレーキポジションに変更する操作であり、遅延条件は、ポジション変更操作で、ブレーキポジションに変更された時点から所定時間が経過するまで、内燃機関の始動を遅延させることを含む。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、上記構成により、回生電力を発生させる方向の減速トルクが加わっている状態では、始動制御部が、減速トルクの加わる向きとは反対方向に打ち消すように働く出力軸の回転駆動を見合わせることが出来る。
【0016】
車両に加わる減速方向の減速トルクは、そのまま維持されて、所望の減速感が打ち消されることなく、シフトチェンジが行われる際に節度感を与えることが出来、ドライバビリティを向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係る車両の全体の構成を説明するブロック図である。
【図2】実施の形態の始動制御を説明するフローチャートである。
【図3】減速トルクの増減と、エンジン始動が遅延される場合のクランキングのタイミングとを示すタイムチャートである。
【図4】記憶されたマップデータの一例を示すグラフである。
【図5】通常走行時のエンジンの出力軸、第1モータジェネレータ、第2モータジェネレータの状態変化を共線図上に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態は、説明される。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る車両の全体の構成を説明するブロック図である。車両1は、内燃機関としてのエンジン10と、トランスミッション8と、PCU(Power Control Unit)60と、バッテリ70と、車両1の駆動輪80と、エンジン10のクランク軸である出力軸KJおよびモータジェネレータMGが接続されて、駆動輪80と連結される駆動軸Dと、ECU(Electronic Control Unit)200とを含む。
【0020】
トランスミッション8は、モータジェネレータMGに含まれる第1モータジェネレータ20、第2モータジェネレータ30と、動力分割装置40と、アウトプットホイール90に一体に形成されたカウンタドライブギヤ91と、このカウンタドライブギヤ91に噛合されて、駆動軸Dとの間で回転駆動力を伝達する減速機58とを含む。
【0021】
車両1は、エンジン10および第2モータジェネレータ30の少なくとも一方から出力される駆動力によって走行する。エンジン10が発生する動力は、動力分割装置40によって2経路に分割される。2経路のうちの一方の経路は減速機58を経由して駆動輪80へ伝達される経路であり、他方の経路は第1モータジェネレータ20へ伝達される経路である。
【0022】
第1モータジェネレータ20および第2モータジェネレータ30は、たとえば、三相交流回転電機である。第1モータジェネレータ20および第2モータジェネレータ30は、PCU60によって駆動される。
【0023】
第1モータジェネレータ20は、動力分割装置40によって分割されたエンジン10の動力を用いて発電してPCU60を経由してバッテリ70を充電するジェネレータとしての機能を有する。また、第1モータジェネレータ20は、バッテリ70からの電力を受けてエンジン10の出力軸KJを回転駆動させる。これによって、第1モータジェネレータ20は、エンジン10を始動するスタータとしての機能を有する。
【0024】
第2モータジェネレータ30は、バッテリ70に蓄えられた電力および第1モータジェネレータ20により発電された電力の少なくともいずれか一方を用いて駆動輪80に駆動力を与える駆動用モータとしての機能を有する。また、第2モータジェネレータ30は、回生制動によって発電された電力を用いてPCU60を経由してバッテリ70を充電するためのジェネレータとしての機能を有する。
【0025】
エンジン10は、たとえば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン10は、複数の気筒102を含む。なお、気筒102は、一つ以上あればよい。
【0026】
さらに、エンジン10のクランク軸に対向した位置には、エンジン回転数センサ11が設けられる。エンジン回転数センサ11は、エンジン10の出力軸KJの回転速度(以下、エンジン回転数と記載する)Neを検出する。エンジン回転数センサ11は、検出されたエンジン回転数と比例するエンジン回転速度Neを示す信号をECU200に送信する。
【0027】
動力分割装置40は、エンジン10の出力軸、第1モータジェネレータ20の回転軸および第2モータジェネレータ30の回転軸32の三要素の各々を機械的に連結する動力伝達装置である。動力分割装置40は、上述の三要素のうちのいずれか一つを反力要素とすることによって、他の2つの要素間での動力の伝達を可能とする。動力分割装置40は、第1遊星歯車装置41と、第2遊星歯車装置42とを含む。
【0028】
第1遊星歯車装置41は、第1サンギヤ50と、第1ピニオンギヤ52と、第1キャリア54と、第1リングギヤ56とを含む。第1ピニオンギヤ52は、第1サンギヤ50および第1リングギヤ56の各々と噛み合う。第1キャリア54は、第1ピニオンギヤ52を自転可能に支持するとともに、エンジン10のクランク軸に連結される。第1サンギヤ50は、第1モータジェネレータ20の回転軸に連結される。第1リングギヤ56は、第2遊星歯車装置42の第2リングギヤ57に連結される。第1リングギヤ56は、アウトプットホイール90に一体に形成され、減速機58に連結されている。
【0029】
第2遊星歯車装置42は、第2サンギヤ51と、第2ピニオンギヤ53と、第2キャリア55と、第2リングギヤ57とを含む。第2ピニオンギヤ53は、第2サンギヤ51および第2リングギヤ57の各々と噛み合う。第2キャリア55は、第2ピニオンギヤ53を自転可能に支持するとともに、トランスミッション8の筐体に固定される。第2サンギヤ51は、第2モータジェネレータ30の回転軸32に連結される。
【0030】
また、第2リングギヤ57は、アウトプットホイール90に一体に形成されている。
そして、減速機58によって、動力分割装置40からの動力が、駆動軸Dを介して駆動輪80に伝達される。更に、減速機58は、駆動輪80が受けた路面からの反力が、駆動軸Dから加わる加速トルクあるいは減速トルクとして、動力分割装置40に伝達する。
【0031】
PCU60は、バッテリ70に蓄えられた直流電力を第1モータジェネレータ20および第2モータジェネレータ30を駆動するための交流電力に変換する。PCU60は、ECU200からの制御信号S2に基づいて制御されるコンバータおよびインバータ(いずれも図示せず)を含む。
【0032】
コンバータは、バッテリ70から受けた直流電力の電圧を昇圧してインバータに出力する。インバータは、コンバータが出力した直流電力を交流電力に変換して第1モータジェネレータ20および/または第2モータジェネレータ30に出力する。これにより、バッテリ70に蓄えられた電力を用いて第1モータジェネレータ20および/または第2モータジェネレータ30が駆動される。
【0033】
また、インバータは、第1モータジェネレータ20および/または第2モータジェネレータ30によって発電される交流電力を直流電力に変換してコンバータに出力する。コンバータは、インバータが出力した直流電力の電圧を降圧してバッテリ70へ出力する。これにより、第1モータジェネレータ20および/または第2モータジェネレータ30により発電された電力を用いてバッテリ70が充電される。なお、コンバータは、省略してもよい。
【0034】
バッテリ70は、蓄電装置であり、再充電可能な直流電源である。バッテリ70としては、たとえば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池等の二次電池が用いられる。バッテリ70の電圧は、たとえば200V程度である。バッテリ70は、上述したように第1モータジェネレータ20および/または第2モータジェネレータ30により発電された電力を用いて充電される他、外部電源(図示せず)から供給される電力を用いて充電されてもよい。なお、バッテリ70は、二次電池に限らず、直流電圧を生成できるもの、たとえば、キャパシタ、太陽電池、燃料電池等であってもよい。
【0035】
第1レゾルバ12は、第1モータジェネレータ20に設けられる。第1レゾルバ12は、第1モータジェネレータ20の回転速度Nm1を検出する。第1レゾルバ12によって、検出された第1モータジェネレータの回転速度Nm1を示す信号はECU200に送信される。
【0036】
第2レゾルバ13は、第2モータジェネレータ30に設けられる。第2レゾルバ13は、第2モータジェネレータ30の回転速度Nm2を検出する。第2レゾルバ13によって、検出された回転速度Nm2を示す信号はECU200に送信される。
【0037】
車輪速センサ14は、駆動輪80の回転速度Nwを検出する。車輪速センサ14は、検出された回転速度Nwを示す信号をECU200に送信する。ECU200は、受信した回転速度Nwに基づいて、車両1の速度である車速Vを算出する。なお、ECU200は、回転速度Nwに代えて第2モータジェネレータ30の回転速度Nm2に基づいた車両1の車速Vを算出するようにしてもよい。
【0038】
ECU200は、エンジン始動前(EV走行時)には、エンジン10を停止させて(エンジン回転速度Ne=0として)、ユーザが要求するパワーを第2モータジェネレータ30のパワーによって実現するように、第2モータジェネレータ30の加速トルクおよび減速トルクを制御する。
【0039】
ECU200は、エンジン始動時(EV走行からHV走行への移行時)には、第1モータジェネレータ20から正方向のクランキングトルクを発生させて、エンジン10をクランキングする。
【0040】
そして、ECU200は、クランキングトルクによって、主に、エンジン回転速度Neが所定速度まで上昇した時にエンジン10の点火制御を開始する始動制御部が設けられている。この始動制御部では、シフトポジション変更操作に応じて、第1モータジェネレータが、内燃機関の出力軸を回転駆動させてクランキングさせるタイミングを遅らせる。
【0041】
また、ECU200は、エンジン始動後(HV走行時)には、ユーザが要求するパワーをエンジン10および第2モータジェネレータ30のパワーによって実現するように、エンジントルク、第1モータジェネレータMG1側トルクTg、第2モータジェネレータMG2側トルクTmを制御する。
【0042】
さらに、ECU200は、バッテリ70の残存容量や温度に応じてバッテリ70の充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Wout(単位はいずれもワット)を設定し、実際の充電電力および放電電力がそれぞれ充電電力上限値Winおよび放電電力上限値Woutを超えないようにコンバータおよびインバータを制御する。
【0043】
この充電電力上限値Winは、バッテリの残容量SOC(State of Charge)に最も影響を受ける他、バッテリ温度にも影響を受ける。
【0044】
通常、特にSOCが不足している場合には、エンジン10の出力を増加させて第1モータジェネレータ30による発電量を増加させる。これにより、バッテリ70のSOCが増加すると共に、充電電力上限値Winが減少する。
【0045】
図2は、この発明の実施の形態の始動制御を説明するフローチャートである。
まず、減速トルクのドライバビリティを向上させる始動制御をスタートさせる。
【0046】
具体的には、Step1は、シフト操作部のシフトポジションが、減速トルクを変動させるフィーリングを伴ったポジション変更操作があったか否かを判定する。
【0047】
Step1では、前回、Bレンジ(ブレーキレンジ)以外で、かつ今回、Bレンジが選択されるポジション変更操作があったか否かが判定される。そのようなポジション変更動作があった場合には、次のStep2に処理が進み、ECU200のカウンタCの値を値0とすると共に、ポジション変更操作がない場合には、Step3に処理が進む。
【0048】
Step3では、ECU200のカウンタCの値に値1が加えられた後、Step4に処理が進められる。Step4では、始動を遅延させる時点t1(例えば、約250ms〜300ms)を、カウンタCの値が到達して超えているか否かが判定される。
【0049】
カウンタCの値が始動を遅延させる時点t1に到達していない場合は、Step5に進む。Step5では、予め記憶されているマップデータmapAが読み込まれ、マップデータmapAと車速Vとが比較され、クランキングを行うか否かの判断が行われる。
【0050】
また、Step4においてカウンタCの値が、始動を遅延させる時点t1に到達して超えた場合は、Step7に処理が進み、エンジン始動遅延要求をOFF制御として、クランキングを行わなわず、Step8で、制御処理を終了する。
【0051】
図4は、記憶されたマップデータmapAの一例を示すグラフである。
このマップデータmapAは、充電電力上限値Winがマイナス側に0から離れる場合、図2のStep5で、内燃機関の始動させるタイミングを遅延させる判定車速を高く設定する。
【0052】
充電電力上限値Winが低い、すなわち充電電力上限値Winがマイナス側から、0に近づく場合、エンジン10を始動させるタイミングを遅延させる判定車速の閾値が低く設定される。
【0053】
車速Vと、バッテリの充電状態による充電電力上限値Winは、相関して定められる閾値Aが設定される際に、変数として用いられている。このため、充電電力上限値Winによって、ECU200内のマップデータmapAから、この記憶された閾値が引き出されて、クランキングを、行うか否かの判断が行われる。
【0054】
このマップデータmapAを用いると、車速Vのデータによって、一意にエンジン始動遅延を行うか否かの判断が迅速に行える。
【0055】
例えば、減速トルクが大きく、しかも車速Vが早い場合、第1モータジェネレータ20の回転数も高くなり、低い回転数でも同等の回転エネルギを、容易に回生エネルギとして、充電に用いることなる。このため、充電電力上限値Winが早く満たされてしまう。
【0056】
図3は、減速トルクの増減と、エンジン始動が遅延される場合のクランキングのタイミングとを示すタイムチャートである。
【0057】
図3中、駆動軸DのシャフトトルクTpが、シフトチェンジが行われる時点t0の直後から、大きくマイナス方向へ振れる山型の減速トルクが得られるように、ECU200の制御で動作するPCU60の作用で第2モータジェネレータ30の回生発電量が増大される。
【0058】
車両の乗員は、時点t0においてシフトポジションをドライブポジションから、ブレーキポジションにシフト操作すると、大きな減速方向の加速度を一時的に受けて、節度感のあるドライバビリティを得られる。
【0059】
このような減速トルクが与えられている間に、例えば、SOC要求により、エンジン10のクランキングによる始動が行われる場合がある。
【0060】
図5は、通常走行時のエンジン10の出力軸KJ、第1モータジェネレータ20、第2モータジェネレータ30の状態変化を共線図上に示した図である。なお、上述したように、エンジン回転速度Ne、第1モータジェネレータ20の回転速度Nm1、第2モータジェネレータ30の回転速度Nm2は、共線図において直線で結ばれる関係になる。
【0061】
この場合、始動を行う第1モータジェネレータ20の回転数が増大して、共線図上で正方向に移動する。
【0062】
図5では、共線上での回転数の移動を説明するための図である。
図5中破線および一点鎖線に示すように、出力軸KJの回転数も正方向に増大して移動する。
【0063】
ここで、駆動輪80に連結されたアウトプットホイール90は、図中矢印で示す方向へ向けて移動する速度で示される車両1の減速よりも、早く第1モータジェネレータ20が回転してしまうと、出力軸KJの回転に伴うトルクが正方向に移動してしまう。
【0064】
よって、第2モータジェネレータ30の回生発電量を増大させることにより得られる減速感が、クランキングによるエンジン10の出力軸KJの回転で、反対方向に回転トルクが加わり、相殺されてしまう。
【0065】
車両の乗員は、時点t0においてシフトポジションをドライブポジションから、ブレーキボジションにシフト操作しても、同時にもしくは一部重複して、クランキングされると、節度感が減少して、所望のドライバビリティを得られない。
【0066】
Step6で、このような状態とならないように、所望の減速トルクを得るため、回生電力を発生させる方向の減速トルクが、必要な状態であると判断されると、エンジン始動制御の前段階で行われる出力軸KJの回転駆動が見合わせられる。
【0067】
すなわち、Step6で、ECU200からエンジン始動遅延要求がON制御されると、図3中シフトポジションをドライブポジションから、ブレーキボジションにシフト操作された時点t0から、一定時間t1、図中IDとして示すチャートで、二点鎖線位置から実線位置となるように、クランキング開始が遅延される。
【0068】
回生電力を発生させる方向の減速トルクが加わっている状態では、始動制御部が、減速トルクの加わる向きとは反対方向に打ち消すように働く、エンジン10の出力軸KJの回転駆動を見合わせることが出来る。
【0069】
よって、車両1に加わる減速方向の減速トルクは、そのまま維持されて、所望の減速感が打ち消されることが無い。
【0070】
シフトポジションをドライブポジションから、ブレーキボジションにシフト操作する場合に限らず、他のドライブポジションの変速段から、減速する変速段へ、シフトチェンジする時にも同様に、節度感を与えることが出来、ドライバビリティを向上させることが出来る。
【0071】
好ましくは、ECU200の始動制御部が、図3中第1モータジェネレータMG1側トルクTgのように、正方向にエンジン始動用の回転トルクを与えて回転駆動を開始するタイミングを、シャフトトルクTpの山型トルクと重複しないように、シフトチェンジが行われる時点t0の直後から一定時間t1、クランキングが見合わせられる。
【0072】
そして、シフトチェンジが行われた時点t0の直後から一定時間t1経過して、山型トルクとの打ち消し合いが発生しないタイミングまで遅延されてから、クランキングによりエンジン10の出力軸KJが回転駆動される。
【0073】
また、図3中モータジェネレータMG1側トルクTgのように、正方向にエンジン始動用の回転トルクを与えて回転駆動を開始するタイミングが、シャフトトルクTpの山型トルクと重複しないように、シフトチェンジが行われた時点t0の直後から一定時間t1は、クランキングが見合わせられる。
【0074】
このため、図3中には、モータジェネレータMG2側トルクTmは、クランキングさせるタイミングを遅らせることにより、第1モータジェネレータ20の回転駆動によって、所望の減速感が打ち消されることなく、各々正負方向へ発生している様子が示されている。
【0075】
そして、シフトチェンジが行われた時点t0の直後から一定時間t1経過して、山型トルクとの打ち消し合いが発生しないタイミングまで遅延されて、クランキングによりエンジン10の出力軸KJが回転駆動される。
【0076】
この点火制御による燃焼(いわゆる初爆)が行なわれると、エンジン始動(EV走行からHV走行への移行)が進行する。更に、始動制御部が有するマップデータmapAに記録された所定時間内のエンジン10の始動を遅延させる遅延条件に基づいて、シフト操作部のポジション変更操作があった場合に、エンジン10の始動を遅延させて、シフトチェンジの際のドライバビリティを向上させることが出来る。
【0077】
また、マップデータmapAを、エンジン10の始動を遅延させる遅延条件を設定するための車速Vに応じて変動する閾値を含むものとすることが出来る。この場合、バッテリ70の充電電力上限値に近い充電状態までバッテリ70の充電電力上限値Winが減少している場合等、車速Vに依存したエンジン10の始動タイミングの制御を行うことが出来る。
【0078】
よって、充電電力上限値Winが、少ない場合には、車速Vに応じて、所定時間内の内燃機関の始動させるタイミングを遅延させて、ドライバビリティを向上させることが出来る。
【0079】
通常、特にSOCが必要な場合には、エンジンの出力を増加させて第1モータジェネレータ20による発電量を増加させる。これにより、バッテリのSOCが増加すると共に、充電電力上限値Winが減少する。
【0080】
また、マップデータmapAに設定された遅延条件は、車速Vおよび蓄電装置としてのバッテリ70の充電電力上限値Winに応じて変動する閾値を含み、この閾値を予め設定しておくことにより、第1モータジェネレータ20によるエンジン10の出力軸KJの回転駆動を見合わせる判断を、車速Vの検出のみで迅速に行うことが出来る。
【0081】
エンジンの始動を遅延させる遅延条件として、回生電力を発生させる減速トルクが同じで、起電力が車速Vに比例する条件では、車速Vが高い場合比較的多くの回生電力を得られて、充電残り時間は短くなる。しかしながら、充電電力上限値Winが多い場合は、高めの車速Vを、エンジン10の始動を見合わせて遅延させる遅延条件として設定することができる。
【0082】
また、充電電力上限値Winが少ない場合でも、低めの車速Vで、エンジン10の始動を見合わせて遅延させる遅延条件として設定することが出来る。
【0083】
よって、減速トルク感を損なわない範囲内で、エンジン10の始動を見合わせて遅延させる遅延条件を予め設定することが出来る。
【0084】
更に、そもそもエンジン10の始動が要求されている理由が、山型トルクの減少抑制よりも優先される場合には、エンジン10の始動を見合わせて遅延させる遅延要求があっても、エンジン10をクランキングさせて、出力軸を回転させることが出来る。
【0085】
しかも、この遅延条件は、エンジン10の始動によって発生する回生電力と、車両1の駆動軸Dに加わる減速トルクで発生する回生電力と、減速感を得るために与えられるドライバビリティ向上のために与えられた山型トルク等の減速トルクで発生する回生電力との総和が、充電電力上限値Winで充分吸収できる範囲内であるには、エンジン10の始動を見合わせて遅延させる必要がない。
【0086】
しかも、マップデータmapAの閾値は、主に車速Vに依存するように設定されている。
【0087】
よって、総和の回生電力が、充電電力上限値Winによって十分吸収出来て、ドライバビリティ向上のために与えられた減速トルクに影響を与えない場合には、エンジン10の始動を見合わせる必要が無く、直ちにクランキングを行い、出力軸KJを回転駆動させることで始動を行う。
【0088】
このように、マップデータmapAに予め設定された閾値を用いることにより、より正確に必要となる減速トルクと、バッテリ70への回生充電量とのバランスを容易に取ることが可能となる。
【0089】
上述してきたように、この発明の車両1では、シフト操作部のポジション変更操作によって、ドライブポジションから、ブレーキポジションBに変更されると、ポジション変更操作で、ブレーキポジションBに変更された時点t0から一定時間t1が経過するまで、エンジン10の始動が遅延される。
【0090】
このため、ブレーキポジションBに変更された時点t0から所定時間内では、第1モータジェネレータ20によるエンジン10の出力軸KJの回転駆動が見合わせられて、始動を遅延させることが出来、所望の減速感が打ち消されることなく、ドライバビリティを向上させることが出来る。
【0091】
また、この実施の形態では、システム要求でより、ドライバビリティ向上よりも、優先順位の高いものが生じている場合は、始動遅延をさせずにクランキングによるエンジン始動を行う。
【0092】
例えば、部品保護、オーバーラン(意図しない加速)、モータの逆回転等、エンジンを始動させなければならない要求理由が、ドライバビリティの向上理由を上廻る場合には、始動遅延をさせずにクランキングによるエンジン始動を行う。
【0093】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0094】
この実施の形態の第2モータジェネレータ30は、バッテリ70に蓄えられた電力および第1モータジェネレータ20により発電された電力の少なくともいずれか一方を用いて駆動輪80に駆動力を与える駆動用モータとしての機能を有するが、特にこれに限らず、エンジン10と、第1モータジェネレータ20のように、バッテリ70からの電力を受けてエンジン10の出力軸KJを回転駆動させてエンジン10を始動するスタータとしての機能を有するものが備えられていれば、第2モータジェネレータ30が省略されている車両であってもよい。
【0095】
また、車両1は、エンジン10および第2モータジェネレータ30の少なくとも一方から出力される駆動力によって走行するものを示して説明してきたが特にこれに限らず、エンジン10で走行に必要とされる駆動力を得て、第2モータジェネレータ30を回生発電に用いるように構成する等、モータジェネレータMG等の回転電機によるエンジン10の出力軸KJの回転駆動が行えるものであればどのような組み合わせであってもよい。
【0096】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した範囲説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0097】
1 車両、8 トランスミッション、10 エンジン、11 エンジン回転数センサ、12 第1レゾルバ、13 第2レゾルバ、14 車輪速センサ、20 第1モータジェネレータ、30 第2モータジェネレータ、32 回転軸、40 動力分割装置、41 第1遊星歯車装置、42 第2遊星歯車装置、50 第1サンギヤ、51 第2サンギヤ、52 第1ピニオンギヤ、53 第2ピニオンギヤ、54 第1キャリア、55 第2キャリア、56 第1リングギヤ、57 第2リングギヤ、58 減速機、70 バッテリ、80 駆動輪、90 アウトプットホイール、91 カウンタドライブギヤ、102 気筒、B ブレーキポジション、C カウンタ、D 駆動軸、KJ 出力軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関の出力軸を回転駆動して始動させる回転電機と、
前記内燃機関の出力軸および前記回転電機が接続される車両の駆動軸と、
回生電力を発生させる方向の減速トルクが必要とされる場合には、前記回転電機による内燃機関の出力軸の回転駆動を見合わせる始動制御部とを備えた、車両。
【請求項2】
前記回転電機は、
前記内燃機関の出力軸を回転駆動して始動させる第1モータジェネレータと、
前記車両の駆動軸に連結される第2モータジェネレータとを含み、
前記内燃機関の出力軸、前記車両の駆動軸、および前記第1モータジェネレータの回転軸の三要素の各々を機械的に連結して、前記三要素のうちの何れか一つを反力要素とすることによって、他の2つの要素間で動力伝達を可能とする動力分割機構と、
前記動力分割機構の要素間の動力伝達をシフトポジション変更操作に応じて制御するシフト制御部とを更に備え、
前記始動制御部は、前記シフトポジション変更操作に応じて、前記第1モータジェネレータが、前記内燃機関の出力軸を回転駆動させてクランキングさせるタイミングを遅らせる請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記始動制御部は、
前記シフト操作部のポジション変更操作があった場合に、所定時間内の前記内燃機関の出力軸の回転駆動による始動を遅延させる遅延条件が記録されたマップデータを含む、請求項2に記載の車両。
【請求項4】
蓄電装置を更に備え、前記マップデータは、車速および前記蓄電装置の充電電力上限値に応じて変動する閾値を有する、請求項3に記載の車両。
【請求項5】
前記シフト操作部のポジション変更操作は、ドライブポジションから、ブレーキポジションに変更する操作であり、
前記遅延条件は、ポジション変更操作で、ブレーキポジションに変更された時点から所定時間が経過するまで、前記内燃機関の始動を遅延させることを含む、請求項2に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−82346(P2013−82346A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224129(P2011−224129)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】