説明

車体の前部構造

【課題】車両の前面衝突時のエンジンの後方への移動量を低減する車体の前部構造を提供すること。
【解決手段】 車両前部のエンジンルームの左右両側のフロントサイドメンバ1,1間にエンジン4が設置され、エンジン4の下部後方位置には両フロントサイドメンバ1,1の下面間を車幅方向に架けわたすサスペンションメンバ3が設置された車体の前部構造において、サスペンションメンバ3にはその前端に縦面31を形成する一方、エンジン4の下部後端には、サスペンションメンバ3の前端縦面31に対向する位置に、これと近接対向して、車両の前面衝突時等にエンジン4が後方へ押し込まれた時にサスペンションメンバ3の前端縦面31と当接してエンジン4の後方への移動を防ぐ縦面状の当接面56を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前面衝突時等にエンジンの後方への移動を抑制する車体の前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図4、図5に示すように、前輪駆動車等の車体前部のエンジンルームには、左右両側にそれぞれ前後のフロントサイドメンバ1,1が設けてられ、両サイドメンバ1,1は車室側の後部に比べてエンジンルーム側の前部が高くなるように中間部がキックアップしている。両サイドメンバ1,1には、前端間および中間部の下面間にフロントクロスメンバ2とフロントサスペンションメンバ3が架設されている。図5の20はロアクロスメンバで、左右のサイドメンバ1,1の前端から下方へ突出する取付プレート11の下端間に架設している。
【0003】
サスペンションメンバ3は、両サイドメンバ1,1のキックアップ部10,10の下方位置に水平姿勢に配設され、左右両端の後部がそれぞれ両サイドメンバ1,1の後部下面に結合され、両端の前部がそれぞれ両サイドメンバ1,1の前部下面から下方へ突出する結合部12の下端に結合している。
【0004】
エンジンルームには、左右のサイドメンバ1,1とフロントクロスメンバ2およびサスペンションメンバ3とで囲まれた位置にエンジン4が設置されている。エンジン4はエンジン本体部40の横にトランスミッション部41を備えた横置きタイプのもので、エンジン4の左右両側がそれぞれエンジンマウント部材42,42を介して左右のサイドメンバ1,1に結合されている。またエンジン4は、ロアクロスメンバ20とサスペンションメンバ3間に前後に架設した補助部材21にエンジン下面の前端がエンジンマウント部材43を介して支持されている。
【0005】
ところで、車両の前面衝突時、特にオフセット衝突時に、衝突荷重(白矢印)Fの作用によりエンジン本体部40側が後方へ押し込まれると、エンジン本体40の下部後端がサスペンションメンバ3の前面に当接する。この場合、エンジン本体部40の下部後端に設けられたオイルフィルタ部5が最初にサスペンションメンバ3に当接するが、オイルフィルタ部5は車幅方向に円柱状をなし外周が丸いうえ、オイルフィルタ部5の中心位置がサスペンションメンバ3の前面よりも高い位置となっているので、オイルフィルタ部5はその外周面の下半部がサスペンションメンバ3の前面に当ってサスペンションメンバ3上に乗り上げやすい(黒矢印F1)。オイルフィルタ部5がサスペンションメンバ3上に乗り上げるとエンジン4の後方への移動量が大きくなって車室を圧迫するおそれがある。
【0006】
そこで、車両の前面衝突時のエンジンの後方への移動量を低減するため、下記特許文献1では、サスペンションメンバの上面に上方へ突出するストッパを設け、該ストッパにエンジンを当接せしめて後方への移動量を低減することが提案されている。しかしながら、サスペンションメンバ上には、前輪を支持するサスペンションの構成部品やドライブシャフト等が配設され、上記ストッパを設けるスペースを確保することが困難で、サスペンションメンバの形状が複雑になるという問題があった。
【特許文献1】特開2004−249796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は上記事情に鑑み、サスペンションまわりの構成部品の邪魔にならず、エンジンルーム内のスペースを有効に利用でき、車両前面衝突時のエンジンの後方への移動量を低減することができる車体の前部構造を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両前部のエンジンルームの左右両側に設置され前後方向に延びる左右のフロントサイドメンバ間にエンジンが設置され、該エンジンの下部後方位置には上記両フロントサイドメンバの下面間を車幅方向に架けわたすサスペンションメンバが設置された車体の前部構造において、上記サスペンションメンバの前端に縦面を形成し、上記エンジンの下部後端には、上記前端縦面に対向する位置に、上記前端縦面と近接対向して縦面状をなし、車両の前面衝突時等にエンジンが後方へ押し込まれた時に上記前端縦面と当接して、エンジンの後方への移動を防ぐ当接面を設ける(請求項1)。フロントサスペンションメンバの前端に縦面を形成するとともにエンジンの下部後端に当接面を設けたので、エンジンの下部後方のスペースを有効利用してサスペンションまわりの構成部品の邪魔にならならない構成にでき、車両の前面衝突時には、サスペンションメンバの前端縦面にエンジンの当接面が当接してサスペンションメンバがエンジンの後方への移動を受け止めるので、エンジンの後方への移動量を低減できる。
【0009】
上記エンジンの下部後端にはオイルフィルタ部が設けられ、該オイルフィルタ部の外周から突出してオイルフィルタ部の外周形状を拡大するリブを設け、オイルフィルタ部の外周後面および上記リブの後端縁とで上記当接面を構成する(請求項2)。エンジンの下部後端に設けられたオイルフィルタ部の外周にリブを設けることで、好適に当接面を構成できる。
【0010】
上記エンジンはエンジン本体部とトランスミッション部とが車幅方向に連設され、上記サスペンションメンバの前端縦面と上記当接面とを上記エンジン本体部側に設ける(請求項3)。エンジン本体部とトランスミッション部とでは、エンジン本体部の方が前面衝突時に車室を圧迫するので、エンジン本体部に当接面を設けることによりエンジンの全体的な後方への移動量を低減できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車体の前部構造によれば、上記サスペンションメンバの前端に縦面を設け、これと対向するエンジンの下部後端に縦面状をなす当接面を設けたので、エンジンルーム内のスペースを有効に利用してサスペンションまわりの構成部品の邪魔にならない構造にでき、車両前面衝突時にはエンジンの後方への移動量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
前輪駆動車等の車体前部に本発明を適用した実施形態を説明する。図1、図4に示すように、車体前部のエンジンルームに、左右両側にそれぞれ車体前後方向に延びる左右一対のフロントサイドメンバ1,1が設けてある。両サイドメンバ1,1は後部が車室(図は省略)のフロア下面へ延設してあり、エンジンルーム側のメンバ前部と車室側のメンバ後部との中間には、メンバ後部に比べてメンバ前部の高さ位置が高くなるようにメンバ後部からメンバ前部へキックアップしている。
【0013】
左右の両サイドメンバ1,1の前端間には車幅方向に延びるフロントクロスメンバ2が架設してある。フロントクロスメンバ2の下方位置には車幅方向に延びるロアクロスメンバ20が配設してあり、該ロアクロスメンバ20は、両サイドメンバ1,1の前端側面からそれぞれ下方へ突出する左右一対の取付プレート11の下端間に架設してある。
【0014】
左右のサイドメンバ1,1には、両者のキックアップ部10,10の下面間に車幅方向にフロントサスペンションメンバ3が架設してある。サスペンションメンバ3は閉断面構造をなす車体骨格部材で、車幅方向中央部の前後寸法よりも左右両端の前後寸法が大きな左右ほぼ対称な構造をなす。サスペンションメンバ3は左右両端の前後の複数カ所が左右のサイドメンバ1,1に結合してある。サスペンションメンバ3の左右両端の後部はそれぞれ防振性能を有するインシュレータを介して両サイドメンバ1,1のメンバ後部の下面側に結合してあり、左右両端の前部がそれぞれ両サイドメンバ1,1のメンバ前部の下面から下方へ突出する結合部12の下端にインシュレータを介して結合してある。これにより、サスペンションメンバ3は車幅方向および前後方向にほぼ水平姿勢をなす。
【0015】
サスペンションメンバ3の前端縁は車幅方向の中央部に対して左右の両端側が前方へ張り出しており、サスペンションメンバ3の前端縁の左右両端側位置に、ほぼ鉛直面をなす前端縦面31が形成してある。
【0016】
エンジンルームには、左右のサイドメンバ1,1間で、フロントクロスメンバ2とサスペンションメンバ3との前後中間位置には横置きタイプのエンジン4が設置されている。エンジン4は車体の右側寄り(図4の下側)にエンジン本体部40が配置してあり、エンジン本体部40の左横にトランスミッション部41が配置してある。エンジン4は左右両端がそれぞれエンジンマウント部材42,42を介して左右のサイドメンバ1,1に結合されている。またエンジン4は、ロアクロスメンバ20とサスペンションメンバ3間に前後に架設した補助部材21にエンジン下部前端がエンジンマウント部材43を介して支持されている。エンジン4はその下部がサスペンションメンバ3とほぼ同じ高さ位置または若干高位に設けてある。
【0017】
エンジン本体部40の下部後端には右側のサイドメンバ1寄りの位置に、下部後端よりも後方へ張り出すオイルフィルタ部5が設けてある。図1ないし図3に示すように、オイルフィルタ部5は、金属鋳造品からなうフィルタ取付部5aと、これに着脱可能に組付けるフィルタカートリッジ5bとで構成している。
【0018】
フィルタ取付部5aは車幅方向中央側へ向けて開口する円形容器体で、その開口部にフィルタカートリッジ5bを組付け、全体に車幅方向に沿って円柱状をなす。フィルタ取付部5aにはエンジン本体部40への固定用に、フィルタ取付部5aの外周上半部から前斜め上方へ向けて起立する厚板状の固定板部51が一体に形成してある。固定板部51の外周には複数のボルト貫通穴511が形成してある。
【0019】
フィルタ取付部5aと固定板部51の外面には、エンジン本体部40との間でエンジンオイルを循環させる通路52a,52bを構成する2条の凸状リブ53,54が形成してある。両凸状リブ53,54は、フィルタ取付部5aと固定板部51との外面にの縦方向ほぼ全長にわたって平行に形成してあり、かつ上記外面から断面ほぼ蒲鉾状に膨出するように形成してある。これらの凸状リブ53,54はフィルタ取付部5aと固定板部51とを補強する補強リブの役目をなす。またフィルタ取付部5aには、その内部を複数の部屋に区画する仕切り壁57,57が形成してあり、各凸状リブ53,54および各仕切り壁57,57を設けることによりフィルタ取付部5aの断面積を大きくして剛性を強化している。
【0020】
オイルフィルタ部5は、固定板部51をエンジン本体部40の下部の右側面の後端に重ね合わせ、ボルト貫通穴511より複数のボルト部材で締結し、フィルタ取付部5aがエンジン本体部40の下部後端の右隅より後方に張り出すように固定してある。尚、フィルタ取付部5aはその中心がサスペンションメンバ3の前端縦面31の上縁とほぼ同じ高さ位置または若干高い位置となる。
【0021】
そして、オイルフィルタ部5にはフィルタ取付部5aの外周下半部から下方へ突出する肉厚の縦リブ55が一体に形成してある。縦リブ55は側面視ほぼ四角形状に形成してあり、フィルタ取付部5aの外周形状を下側へ拡張するように形成してある。縦リブ55の後面はほぼ鉛直な縦面をなし、上記サスペンションメンバ3の前端縦面31と前後方向に所定の間隔をおいて近接対向し、エンジン4が後方へ移動したときに前端縦面31と当接する当接面56をなす。尚、縦リブ55はその当接面56の下縁が、前端縦面31の下縁とほぼ同じ高さ位置または若干低くなるように形成してあり、かつ縦リブ55の下面を若干前上がりの傾斜面とし、当接面56と下面との間の角度を若干鋭角に形成してある。
【0022】
本実施形態によれば、車両の前面衝突時、特にオフセット衝突時に、フロントクロスメンバ2およびロアクロスメンバ20とが変形し、衝突荷重(白矢印)Fの作用によりエンジン本体部40側が後方へ押し込まれると、エンジン本体40の下部後端に固定されたオイルフィルタ部5がサスペンションメンバ3に当接する。この場合、オイルフィルタ部5に設けた縦リブ55の鉛直な当接面56がサスペンションメンバ3の前端縦面31に対面当接するので、従来のようにオイルフィルタ部5がサスペンションメンバ3上に乗り上げることがなく、高剛性のサスペンションメンバ3によりエンジン4の後方移動が受け止められ、エンジン4の後方への移動量を低減することができる。
【0023】
この場合、オイルフィルタ部5は金属の鋳造品で、フィルタ取付部5aから固定板部51かけて設けた複数の凸状リブ53,54と、フィルタ取付部5a内部に設けた仕切り壁52a,52bにより、オイルフィルタ部5の断面積を大きくして剛性を強化したので、サスペンションメンバ3との当接の衝撃に対して充分な耐久性があり、破壊されることなくエンジン4の後方への移動を防ぐ。
【0024】
また、サスペンションメンバ3に鉛直な前端縦面31のみを形成し、これに対向してエンジン4のオイルフィルタ部5に下方へ突出する縦リブ55を設けてこれに鉛直な当接面56を形成したので、従来のようにサスペンションメンバ3上に突出するストッパ等の部材の必要がなく、サスペンションメンバ3上に配置されたサスペンションの構成部品やドライブシャフト等の邪魔にならず、エンジンルーム内のスペースを有効利用できかつ構造簡素にできる。
【0025】
横置きエンジン4はエンジン本体部40の前後長に対してトランスミッション部41の前後長が小さく、車両衝突時にエンジン本体部40側の後方への移動を規制すれば、トランスミッション部41側が車室を圧迫することはないので、トランスミッション部41側に当接面を設ける必要がない。尚、本実施形態ではオイルフィルタ部5に鉛直な当接面56を形成したが、これに限らず、エンジンではオイルフィルタ部がエンジン下部の後端位置に設けられているとは限らないので、この場合、サスペンションメンバの前端と対向するエンジン下部のオイルパン等の後端に当接面を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の前部車体構造を示す要部側面図である。
【図2】本発明の前部車体構造に用いるオイルフィルタ部の斜視図である。
【図3】図2のIII −III 線に沿う断面図である。
【図4】本発明を適用する車両の前部車体構造の要部平面図である。
【図5】図1に対応して、従来の前部車体構造を示す要部側面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 フロントサイドメンバ
3 サスペンションメンバ
31 前端縦面
4 エンジン
40 エンジン本体部
41 トランスミッション部
5 オイルフィルタ部
55 縦リブ(リブ)
56 当接面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部のエンジンルームの左右両側に設置され前後方向に延びる左右のフロントサイドメンバ間にエンジンが設置され、該エンジンの下部後方位置には上記両フロントサイドメンバの下面間を車幅方向に架けわたすサスペンションメンバが設置された車体の前部構造において、
上記サスペンションメンバの前端に縦面を形成し、
上記エンジンの下部後端には、上記前端縦面に対向する位置に、上記前端縦面と近接対向して縦面状をなし、車両の前面衝突時等にエンジンが後方へ押し込まれた時に上記前端縦面と当接して、エンジンの後方への移動を防ぐ当接面を設けたことを特徴とする車体の前部構造。
【請求項2】
上記エンジンの下部後端にはオイルフィルタ部が設けられ、該オイルフィルタ部の外周から突出してオイルフィルタ部の外周形状を拡大するリブを設け、オイルフィルタ部の外周後面および上記リブの後端縁とで上記当接面を構成した請求項1に記載の車体の前部構造。
【請求項3】
上記エンジンはエンジン本体部とトランスミッション部とが車幅方向に連設され、上記サスペンションメンバの前端縦面と上記当接面とを上記エンジン本体部側に設けた請求項1または2に記載の車体の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−99136(P2007−99136A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293156(P2005−293156)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】