説明

車体下部構造

【課題】前方衝突時の衝撃を,クロスメンバで効果的に受け止める。
【解決手段】
フロントフロア部2の下面に,前後方向に伸びると共にトンネル部6を挟む左右一対のフロアフレーム10が接合される。フロントフロア部2の上面に,車幅方向に伸びてサイドシル7とトンネル部6とを連結するクロスメンバ15,16が接合される。フロアフレーム10は,後方に向かうにつれて徐々に車幅方向内方側に向かうように傾斜されて,平面視においてクロスメンバ15,16に対して傾斜されている。前方衝突時におけるフロアフレーム10の後方への変位が,クロスメンバ15,16のうち,フロアフレーム10よりも車幅方向外方側部分に対しては圧縮作用を行い,フロアフレームよりも車幅方向内方側部分に対しては引張作用を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車体下部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体にあっては,フロアパネルが,左右一対のサイドシル同士を連結すると共に車幅方向中央において前後方向に伸びるトンネル部を有するフロントフロア部と,該フロントフロア部の後端から上方に伸びるリアキックアップ部と,該リアキックアップ部の上端から後方へ略直線的に伸びるリアフロア部とを有するものがある。上記フロントフロア部の下面には,前後方向に伸びると共に前記トンネル部を挟むように配設された左右一対のフロアフレームを接合し,またフロントフロア部の上面には,サイドシルとトンネル部とを連結する車幅方向に伸びるクロスメンバを接合することも一般に行われている。
【0003】
フロアパネルの前方には左右一対のフロントフレームが配設されるが,平面視において,フロントフレームの後方延長線上にフロアフレームが位置されるように設定しつつ,フロントフレームの後端部に対してフロアフレームの前端部を連結して,前方衝突時の後方への荷重がフロントフレームからフロアフレームへと効果的に伝達されるように設定することも行われている。
【0004】
上記各フロアフレームは,車体前後方向軸線と平行となるようにまっすぐ直線的に伸びるように配設されて,平面視において上記クロスメンバに対して直交するように配設されるのが一般的である。特許文献1には,左右一対のフロアフレームを,後方に向かうにつれて徐々に車幅方向内方側に向かうように傾斜させたものが開示されているが,技術的課題がフロアフレームとは直接関係のないものとなっている関係上,フロアフレームを上述のように傾斜させることの技術的意味合いについてはなんら開示されていない。特許文献1に開示の技術は,左右一対のフロントフレーム間に配設されるサブフレームを,平面視において,前開き式の略三角形状とした独特の構成を採択したことを特徴としており,このサブフレーム形状に対応させて左右一対のフロントフレームも前開き式とした関係上(前方に向かうにつれて徐々に車幅方向外方側に向かうように傾斜設定),前開き式とされたフロントフレームの後方延長線上にフロアフレームが位置するように設定しただけのものと推察される。
【0005】
ところで,前方衝突時においては,左右一対のフロントフレームに入力された後方への衝突荷重がフロアフレームに伝達されるが,フロアフレームに入力された後方への荷重は,クロスメンバに対しては材料力学的に弱い曲げ力やせん断力として作用するので,クロスメンバを有効に利用した衝突対応という点において解決すべき点がある。
【特許文献1】特開平11−78959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので,その目的は,前方衝突時の衝撃をクロスメンバをも有効に利用してより効果的に受け止めることのできるようにした車体下部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
フロアパネルが,左右一対のサイドシル同士を連結すると共に車幅方向中央において前後方向に伸びるトンネル部を有するフロントフロア部と,該フロントフロア部の後端から上方に伸びるリアキックアップ部と,該リアキックアップ部の上端から後方へ略直線的に伸びるリアフロア部とを有し,
前記フロントフロア部の下面に,前後方向に伸びると共に前記トンネル部を挟むように配設された左右一対のフロアフレームが接合された車体下部構造において,
前記フロントフロア部には,車幅方向に伸びて前記サイドシルとトンネル部とを連結するクロスメンバが接合されており
前記各フロアフレームは,その前端が左右一対のフロントフレームの後端に接合されると共に,その後端が前記リアキックアップ部の近傍にまで伸びており,
前記フロアフレームは,後方に向かうにつれて徐々に車幅方向内方側に向かうように傾斜されて,平面視において前記クロスメンバに対して傾斜されている,
ようにしてある。
【0008】
上記解決手法によれば,前方衝突時において,フロントフレームから後方への荷重を受けるフロアフレームは後方へ変位されようとするが,このフロアフレームの後方への変位が,クロスメンバのうちフロアフレームよりも車幅方向外方側に位置する部分に対しては圧縮作用を行い,フロアフレームよりも車幅方向内方側に位置する部分に対しては引張作用を行うことになる。このように,クロスメンバは,前方衝突時の荷重を材料学的に強い圧縮や引張によっても受け止めることとなり,前方衝突時の荷重がクロスメンバによってより効果的に受け止められることになる。また,フロアフレームを傾斜配置したことにより,車体前後方向軸線に平行にまっすぐ配置した場合に比してその全長を長く確保することが可能となって,フロアフレーム自身による衝撃吸収作用を高める上でも好ましいものとなる。
【0009】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち,
前記フロアフレームは,その前部が高張力鋼で形成されると共に,その後部が通常鋼で形成されており,
前記フロアフレーム前部が,平面視において前記クロスメンバと交差する位置にまで後方に伸びている,
ようにすることができる(請求項2対応)。この場合,前方衝突時における後方への荷重を受けるフロアフレームは,後退しながら荷重を分散していくが,高い塑性変形強度が要求される前部は高張力鋼を用いてあるので,座屈を避けつつその後退によりクロスメンバに荷重を効果的に伝達することができる。また,後退量が小さくなるフロアフレーム後部を安価な通常鋼で形成することにより,低コスト化の上で好ましいものとなる。
【0010】
前記リアキックアップ部の近傍において,車幅方向に伸びて前記左右一対のフロアフレームの後端部同士を連結する連結部材が設けられている,ようにすることができる(請求項3対応)。この場合、連結部材を設けることによってフロアフレームの後端が大きく後方へ変位することが防止あるいは抑制されて,フロアフレームの後方に燃料タンクを配設する場合の燃料タンクの保護の上で好ましいものとなる。また,左右一対のフロアフレームの後端部同士を連結部材で連結することにより,全体的に車体剛性を向上させる上でも好ましいものとなる。なお,左右のフロアフレームの後端部同士の間隔は,前端部同士の間隔に比して小さくされているので,連結部材の車幅方向長さも短いものですむことになる。
【0011】
前記連結部材は,前記フロントフロア部の下面に配設されて,前記トンネル部近傍でかつ該トンネル部を挟む左右の位置においてそれぞれ該フロントフロア部に接合されている,ようにすることができる(請求項4対応)。この場合、連結部材を有効に利用してトンネル部が車幅方向に大きく開いてしまう事態を防止して,車体剛性を十分に確保する上で好ましいものとなる。
【0012】
前記フロアフレームは,左右一対の側壁部と,該左右一対の側壁部の下端同士を連結する底壁部と,該左右一対の側壁部の上端から伸びる左右一対のフランジ部とを有して,全体的に断面略逆ハット状に形成され,
前記フロアフレーム後部の前端部に,下方および側方に向けて拡大された拡大部が形成され,
前記フロアフレーム前部の後端部が,前記フロアフレーム後部における前記拡大部内に嵌合された状態で,該フロアフレーム前部とフロアフレーム後部とが接合されている,
ようにすることができる(請求項5対応)。この場合、フロアフレームを,一般的な断面逆ハット状としつつ,フロアフレーム前部と後部との連結を強固に行うことができる。
【0013】
前記クロスメンバは,前記フロントフロア部の前後方向略中間位置に配設された第1クロスメンバと,該第1クロスメンバと前記リアキックアップ部との間に配設された第2クロスメンバとを有し,
前記フロアフレームが,平面視において前記第1クロスメンバおよび第2クロスメンバに対してそれぞれ傾斜されている,
ようにすることができる(請求項6対応)。この場合、前後方向に間隔をあけて配置した前後2組のクロスメンバによって,それぞれ前方衝突時の荷重を効果的に受け持たせることができる。
【0014】
前記各クロスメンバはそれぞれ,その左右一対のフランジ部においてそれぞれ前記フロントフロア部の上面に接合され,
前記各フロアフレームはそれぞれ,その左右一対のフランジ部において前記フロントフロア部の下面に接合され,
前記各クロスメンバの各フランジ部と前記左右一対のフロアフレームの各フランジ部とが,平面視において互いに交差する位置において,前記フロントフロア部と共に3枚重ねの状態でもって接合されている,
ようにすることができる(請求項7対応)。この場合、クロスメンバやフロアフレームを,一般的に行われている左右のフランジ部を利用してフロントフロア部に接合しつつ,3枚重ねでの接合部分を介して,フロアフレームからの荷重をクロスメンバに効果的に伝達することができる。
【0015】
前記左右一対のフロントフレームは互いに平行となるように前後方向に伸びており,
前記左右一対のフロアフレームの後端の間隔が,前記左右一対のフロントフレームの前端の間隔と略同じに設定されている,
ようにすることができる(請求項8対応)。この場合、左右一対のフロントフレームそのものは,一般的な互いに平行な配設態様とすることにより,左右一対のフロントフレーム間へのエンジン等の配設を従来と同様に行えるようにしつつ,左右一対のフロントフレームからフロアフレームへの前方衝突時の荷重伝達をも効果的に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,前方衝突時の荷重をクロスメンバによってより効果的に受け止めることができる。また,フロアフレームを極力長くしてその衝撃吸収作用を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1,図2において,1はフロアパネルであり,前後方向に分割形成された複数枚のパネル材を互いに接合することにより形成されている。このフロアパネル1は,大別して,フロントフロア部2と,フロントフロア部2の後端から上方へ短く立ち上げられたリアキックアップ部3と,リアキックアップ部3の上端から後方へ伸びるリアフロア部4とを有する。フロントフロア部2の前端は,上下方向に伸びて車室とエンジンルームとを仕切るダッシュパネル5の下端に連なっている。
【0018】
フロントフロア部2には,その車幅方向中央部において前後方向に伸びるトンネル部6が形成されており,このトンネル部6は,その前端がダッシュパネル5に連なり(前方へ向けて開口),その後端はリアキックアップ部3に連なっている(後方へ向けて開口)。このようなフロントフロア部2は,その左右側端部が前後方向に伸びる強度部材としての左右一対のサイドシル7に接合されている。
【0019】
リアキックアップ部3の直後方で,かつリアフロア部4の直下方には,燃料タンク8が配設されている。この燃料タンク8の後方位置において,リアフロア部4には,下方へ膨出された収納部9が形成されて,この収納部9内に,スペアタイヤ等が収納されるようになっている。
【0020】
図1〜図3において,フロントフロア部2の下面には,左右一対のフロアフレーム10が接合されており,この左右一対のフロアフレーム10の間にトンネル部6が位置されている。つまり,各フロアフレーム10は,車幅方向においてトンネル部6とサイドシル7との間に位置するように配設されている。このようなフロアフレーム10は,全体的に直線状に前後方向に伸びているが,車体前後方向軸線に対しては傾斜されている。すなわち,左右一対のフロアフレーム10は,それぞれ後方に向かうにつれて徐々に車幅方向内方側に向かうように(トンネル部6に近づくように)傾斜されて,その前端の車幅方向間隔が後端の車幅方向間隔よりも大きく設定されている。なお,左右一対のフロアフレーム10の傾斜角度は互いに等しくされている。フロアフレーム10の断面形状は,後述するように上方に向けて開口する逆ハット状とされて,フロントフロア部2に対する接合によって閉断面を構成するようになっている。
【0021】
図4にも示すように,左右一対のフロアフレーム10の前端は,左右一対のフロントフレーム11の後端に直接的に接合,連結されている。すなわち,左右一対のフロントフレーム11同士は,互いに平行にかつ車体前後方向軸線とも平行となるように(平面視において傾斜しないで)配設されており,このような左右一対のフロントフレーム11の後端の間隔が,左右一対のフロアフレーム10の前端の車幅方向間隔と略一致されている。このようなフロントフレーム11自体の配設態様は,従来と同じであり,したがって,フロントフレーム11を利用したエンジン(パワーパワートレイン)の支持は従来と全く同様に行うことが可能となっている。
【0022】
フロントフレーム11の後端位置は,サイドシル7の前端位置よりも後方とされており,このフロントフレーム11の後端部と,サイドシル7の前端部と,フロアフレーム10の前端部とが,強度部材としてのトルクボックス12によって互いに連結されている。
【0023】
フロントフロア部2の上面には,前後2組のクロスメンバ15,16が接合されている。すなわち,前側に位置する第1クロスメンバ15は,フロントフロア部2の前後方向略中間位置に配設され,後側に位置する第2クロスメンバ16は,第1クロスメンバ15とリアキックアップ部3との略中間に配設されている。各クロスメンバ15,16共に,トンネル部6部分で車幅方向に分断された2部材によって構成されて,各クロスメンバ15,16は,サイドシル7の内側面とトンネル部6の外側面とを連結している。各クロスメンバ15,16の断面は,下方に向けて開口する略ハット状として形成されて,フロントフロア部2に対する接合によって閉断面を構成するようになっている。このような各クロスメンバ15,16は,従来同様に車体前後方向軸線と直交するように伸びていて,平面視においてフロアフレーム10に対してそれぞれ傾斜された配置関係となっている。
【0024】
リアフロア部4の下面には,前後方向に伸びる左右一対のリアフレーム17が接合されている。このリアフレーム16は,その前端部が,サイドシル7の後端部に接合されている。このような左右一対のリアフレーム16同士が,燃料タンク8と収納部9との間において,車幅方向に伸びる第3クロスメンバ18によって連結されている。リアフレーム17の断面形状は,上方に向けて開口する逆ハット状とされて,リアフロア部4に対する接合時に閉断面を構成するようになっている。
【0025】
次に,図5〜図7を参照しつつ,クロスメンバ15,16とフロアフレーム10とのフロントフロア部2に対する接合関係について詳述する。まず,フロアフレーム10は,図5,図7に示すように,左右一対の側壁部10aと,左右一対の側壁部10aの下端同士を連結する底壁部10bと,左右一対の側壁部10aの上端から略水平に伸びる左右一対のフランジ部10cとを有する。フロアフレーム10は,その各フランジ10cをフロントフロア部2の下面に着座させた状態で,当該フロントフロア部2に接合(実施形態では溶接接合)されている(図7ではフロントフロア部2は図示を略す)。
【0026】
各クロスメンバ15,16のフロントフロア部2やフロアフレーム10に対する接合態様は互いに同じなので,第1クロスメンバ15に着目して説明する。まず,第1クロスメンバ15は,左右一対の側壁部15aと,左右一対の側壁部15aの上端同士を連結する上壁部15bと,左右一対の側壁部10aの下端から略水平に伸びる左右一対のフランジ部15cとを有する。第1クロスメンバ15は,その各フランジ15cをフロントフロア部2の上面に着座させた状態で,当該フロントフロア部2に接合(実施形態では溶接接合)されている(図7ではフロントフロア部2は図示を略す)。
【0027】
図1,図6,図7から明らかなように,フロアフレーム10の左右のフランジ部10cと,クロスメンバ15(16についても同じ)の左右のフランジ部15cとは,平面視において合計4箇所で交差することとなるが,この各交差部において互いに接合されており,この接合部分を図5,図6で符号αで示してある。すなわち,特に図5から明らかなように,フロアフレーム10のフランジ部10cとクロスメンバ15(16)のフランジ部15cとの間にフロントフロア部2が挟まれた状態で,この各フランジ部10cと15cとフロントフロア部2との3枚重ねでもって互いに接合(実施形態では溶接接合)されている。
【0028】
以上のような構成において,前方衝突時の衝突荷重は,まずフロントフレーム11に入力されて,フロントフレーム11からフロアフレーム10に伝達されると共に,トルクボックス12を介してサイドシル7にも伝達される。衝突荷重が入力されたフロアフレーム10は,フロアフレーム10自身やこれに接合されたフロントフロア部2によって衝撃吸収を行うことになる。これと同時に,衝突荷重を受けて後方へ変位されるフロアフレーム10からクロスメンバ15,16にも衝突荷重が伝達されて,後述のようにクロスメンバ15,16によっても衝撃吸収が行われることになる。フロアフレーム10が傾斜配置されているので,傾斜配置しない場合(車体前後方向軸線と平行に配設した場合)に比してその全長を長くすることが可能となり,フロアフレーム10自身による衝撃吸収やフロアフレーム10が接合されたフロントフロア部2による衝撃吸収がより効果的に行われることになる。
【0029】
クロスメンバ15,16に対してフロアフレーム10が傾斜されているので,フロアフレーム10からクロスメンバ15,16への衝突荷重の伝達は,クロスメンバ15,16の車幅方向軸線に対して斜め方向から行われることになる。すなわち,クロスメンバ15,16のうち,フロアフレーム10よりもサイドシル7側の部分においては圧縮力を受け,フロアフレーム10よりもトンネル部6側の部分においては引張力を受けることになる。クロスメンバ15,16は,圧縮力あるいは引張力に対する抗力が大きいので,単に従来のように曲げ力あるいはせん断力を受けるだけの場合に比して,より効果的に後方への衝突荷重を受け止めることになる。
【0030】
前後2組のクロスメンバ15,16のうち,より前方に位置される第1クロスメンバ15に対しては,後方に位置される第2クロスメンバ16に比して,大きな後方への衝突荷重がフロアフレーム10から伝達されることになる。つまり,後方に位置する第2クロスメンバ16に対する後方への衝突荷重伝達は比較的小さいものとなるので,フロアフレーム10の後端が大きく後方へ変位することが防止あるいは抑制されたものとなる。
【0031】
次に,図8以下を参照しつつ,本発明のより好ましい態様について説明する。まず,図8〜図10は,フロアフレーム10をその前部10Aと後部10Bとで材質を変更した例を示す。すなわち,大きな衝突荷重が伝達されるために塑性変形強度が要求されるフロアフレーム10の前部10Aが高張力鋼で形成される一方,前部10Aに比して小さな衝突荷重しか伝達されない後部10Bが安価な通常鋼で形成されている。そして,前部10Aの後端部と後部10Bの前端部とを後述するように連結してある。フロアフレーム前部10Aの後端位置は,第2クロスメンバ16の前後方向略中間位置とされている(図10参照で,前部10Aと後部1Bとの連結位置が第2クロスメンバ16の前後方向略中間位置)。これにより,フロアフレーム10(の前部10A)は,座屈を生じることなく,衝突荷重を後方の第2クロスメンバ16にまで確実に伝達することが可能となる。
【0032】
フロアフレーム前部10Aと後部10Bとの連結は,例えば突き合わせ溶接によって行うことも可能であるが,次のように嵌合を利用して行うのが,連結強度を確保する上で好ましいものとなる。すなわち,フロアフレーム後部10Bの前端部に拡大部25を形成して,この拡大部25内にフロアフレーム前部10A後端部を嵌合させた状態で,互いに溶接接合されている。拡大部25は,フロアフレーム後部10Bのフランジ部10cと低壁部10bとを下方へ若干オフセットさせると共に,左右一対の側壁部10aをそれぞれ外方側に若干オフセットしたものとなっている。これにより,拡大部25内にフロアフレーム前部10Aの後端部を嵌合させたとき,拡大部25以外の部分では,前部10Aと後部10Bとの各部分(左右の側壁部10a,底壁部10b,左右のフランジ部10c)が互いに面一の状態でもって滑らかに連なるものとなる。
【0033】
図10に示すように,第2クロスメンバ16のうち前方側のフランジ部16cがフロアフレーム前部10Aのフランジ部10cに接合され(接合部が符号αで示される),後方側のフランジ部16cがフロアフレーム後部10Bのフランジ部10cに接合されている(接合部が符号αで示される)。このように,第2クロスメンバ16が,フロアフレーム前部10Aと後部10Bとの連結部材をも兼用したものとなっていて,前部10Aと後部10Bとの連結強度がより高いものとされている。
【0034】
図11〜図14は,左右一対のフロアフレーム10の後端部同士を連結する連結部材を設けた例を示すものである。すなわち,図11に示すように,第2クロスメンバ16とリアキックアップ部3との間において,車幅方向に伸びる連結部材30が配設されて,この連結部材30によって,左右一対のフロアフレーム10の後端部同士が連結されている。連結部材30は,図12〜図14に示すように,例えば鉄系金属板を例えばプレス成形することによって車幅方向に伸びるビード部30aを形成して,大きな曲げ剛性を有するものとしてある。連結部材30の車幅方向端部には,左右2箇所において取付孔30b(図13参照)が形成されている。
【0035】
連結部材30は,その車幅方向端部がフロアフレーム10の下面(底壁部)に着座された状態で,フロアフレーム10に固定されている。すなわち,フロアフレーム10にはナット31があらかじめ固定されていて,上記取付孔30aを挿通されるボルト32をナット31に螺合させることによって,連結部材30がフロアフレーム10に固定される。連結部材30のうち上記取付孔30aの周縁部は比較的高い位置となるように設定されて,上記ボルト32の頭部が連結部材30のもっとも低い位置よりも下方に突出しないようにされている(図12,図14参照で,ボルト32の頭部が直接路面の突起部に接触することを防止)。
【0036】
連結部材30を設けることにより,前方衝突時(特にオフセット衝突時)にフロアフレーム10の後端が大きく後方へ変位するのが防止あるいは抑制されることになる。また,連結部材30を設けることにより,トンネル部6の開きが防止あるいは抑制されて,車体剛性特にねじり剛性が向上されることになる。左右一対のフロアフレーム10の後端部同士の間隔は小さくなっているので,連結部材30も短いものですむことになる。
【0037】
図12に示すように,連結部材30は,前後方向視において車幅方向に直線的に伸びて,トンネル部6(の下方開口部)を跨ぐように配設されている(トンネル部6の左右の側壁部や上壁部に対して連結部材30が下方に位置される)。つまり,トンネル部6内の空間に排気管等を配設する場合に,この排気管等を配設した後にも,連結部材30を後付けすることも可能な構成となっている。なお,連結部材30のうち,トンネル部6近傍でかつトンネル部6の左右位置において,それぞれ上方への突出部を設けて,この突出部をフロントフロア部2に接合(例えば溶接接合やボルト等の固定具を利用した接合)するようにしてもよい。この場合は,トンネル部6の開きをより一層防止あるいは抑制して,車体剛性向上の上でより一層好ましいものとなる。
【0038】
図15は,前述した連結部材30の変形例を示すものである。すなわち,図15における連結部材36は,左右一対のフロアフレーム10の後端部同士を連結するという点では図11〜図14に示す連結部材30と同じである。図15の例では,連結部材36は,例えば鉄系金属板によって形成されて,フロントフロア部2の下面およびトンネル部6の内面に沿うように配設されている。すなわち,連結部材36は,左右一対のフロアフレーム10間におけるフロントフロア部2やトンネル部6の肉厚を部分的に厚くしたのと同様な構成とされている。このような連結部材36は,その車幅方向端部がフロントフロア部2とフロアフレーム10(のフランジ部10c)との間に挟まれた状態で,フロントフロア部2とフロアフレーム10との3枚重ねでもって溶接接合されている(接合部が符号αで示される)。また,連結部材36のうち,トンネル部6の近傍でかつトンネル部6の左右位置において,フロントフロア部2に対して溶接接合されている(接合部が符号αで示される)。これにより,トンネル部6の開きが防止あるいは抑制される。
【0039】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。フロアフレーム10は,そ全長に渡って同一の材質で形成するようにしてもよい(例えば全長に渡って高張力鋼とする等)。フロアフレーム10と平面視で交差するクロスメンバとしては,2組に限らず,1組あるいは3組以上であってもよい。クロスメンバ15,16は,フロントフロア部2の下面に配設したものであってもよい。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態を示す平面図。
【図2】図1のX2−X2線相当断面図。
【図3】図1のうちフロアフレーム,クロスメンバ,サイドシル,リアフレーム等の強度部材の配置関係を示す斜視図。
【図4】フロアフレームとフロントフレームとサイドシルとの連結状態を示す斜視図。
【図5】フロアフレームとクロスメンバとフロントフロア部との接合関係を示すもので,図6のX5−X5線相当断面図。
【図6】フロアフレームとクロスメンバとの交差部分を上方から見た図。
【図7】フロアフレームとクロスメンバとの交差部を下方から見た斜視図で,フロントフロア部を省略して示す。
【図8】フロアフレームの前部と後部との連結関係を示す分解斜視図。
【図9】フロアフレーム前部と後部との連結部分を示す側面図。
【図10】フロアフレームの前部と後部とクロスメンバとの位置関係および接合関係を示すもので,図7のX10−X10線相当断面図。
【図11】本発明の別の実施形態を示す要部平面図。
【図12】図11のX12−X12線相当断面図。
【図13】図11に示す連結部材の平面図。
【図14】図13のX14−X14線相当断面図。
【図15】本発明のさらに別の実施形態を示すもので,図12に対応した断面図。
【符号の説明】
【0041】
1:フロアパネル
2:フロントフロア部
3:リアキックアップ部
4:リアフロア部
6:トンネル部
7:サイドシル
8:燃料タンク
10:フロアフレーム
10A:フロアフレーム前部
10B:フロアフレーム後部
11:フロントフレーム
15:第1クロスメンバ
16:第2クロスメンバ
17:リアフレーム
18:第3クロスメンバ
25:拡大部(フロアフレーム後部の前端部構造)
30:連結部材
36:連結部材(図15)
α:フロアフレームとクロスメンバとの接合部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパネルが,左右一対のサイドシル同士を連結すると共に車幅方向中央において前後方向に伸びるトンネル部を有するフロントフロア部と,該フロントフロア部の後端から上方に伸びるリアキックアップ部と,該リアキックアップ部の上端から後方へ略直線的に伸びるリアフロア部とを有し,
前記フロントフロア部の下面に,前後方向に伸びると共に前記トンネル部を挟むように配設された左右一対のフロアフレームが接合された車体下部構造において,
前記フロントフロア部には,車幅方向に伸びて前記サイドシルとトンネル部とを連結するクロスメンバが接合されており
前記各フロアフレームは,その前端が左右一対のフロントフレームの後端に接合されると共に,その後端が前記リアキックアップ部の近傍にまで伸びており,
前記フロアフレームは,後方に向かうにつれて徐々に車幅方向内方側に向かうように傾斜されて,平面視において前記クロスメンバに対して傾斜されている,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項2】
請求項1において,
前記フロアフレームは,その前部が高張力鋼で形成されると共に,その後部が通常鋼で形成されており,
前記フロアフレーム前部が,平面視において前記クロスメンバと交差する位置にまで後方に伸びている,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項3】
請求項2において,
前記リアキックアップ部の近傍において,車幅方向に伸びて前記左右一対のフロアフレームの後端部同士を連結する連結部材が設けられている,ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項4】
請求項3において,
前記連結部材は,前記フロントフロア部の下面に配設されて,前記トンネル部近傍でかつ該トンネル部を挟む左右の位置においてそれぞれ該フロントフロア部に接合されている,ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項5】
請求項2において,
前記フロアフレームは,左右一対の側壁部と,該左右一対の側壁部の下端同士を連結する底壁部と,該左右一対の側壁部の上端から伸びる左右一対のフランジ部とを有して,全体的に断面略逆ハット状に形成され,
前記フロアフレーム後部の前端部に,下方および側方に向けて拡大された拡大部が形成され,
前記フロアフレーム前部の後端部が,前記フロアフレーム後部における前記拡大部内に嵌合された状態で,該フロアフレーム前部とフロアフレーム後部とが接合されている,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項6】
請求項1において,
前記クロスメンバは,前記フロントフロア部の前後方向略中間位置に配設された第1クロスメンバと,該第1クロスメンバと前記リアキックアップ部との間に配設された第2クロスメンバとを有し,
前記フロアフレームが,平面視において前記第1クロスメンバおよび第2クロスメンバに対してそれぞれ傾斜されている,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項7】
請求項6において,
前記各クロスメンバはそれぞれ,その左右一対のフランジ部においてそれぞれ前記フロントフロア部の上面に接合され,
前記各フロアフレームはそれぞれ,その左右一対のフランジ部において前記フロントフロア部の下面に接合され,
前記各クロスメンバの各フランジ部と前記左右一対のフロアフレームの各フランジ部とが,平面視において互いに交差する位置において,前記フロントフロア部と共に3枚重ねの状態でもって接合されている,
ことを特徴とする車体下部構造。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、
前記左右一対のフロントフレームは互いに平行となるように前後方向に伸びており,
前記左右一対のフロアフレームの後端の間隔が,前記左右一対のフロントフレームの前端の間隔と略同じに設定されている,
ことを特徴とする車体下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−88790(P2006−88790A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274515(P2004−274515)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】