説明

車体下部構造

【課題】前面衝突時に左右のメインフレームを利用して後輪の後退を抑える。
【解決手段】メインフレーム32の中間拡幅部32cから車幅方向外方に延びるキャビンマウントブラケット90は、前輪ホイールハウス106の後面に向けて延びる前輪受け部104を有する。前輪受け部104の前端面104aは前輪ホイールハウス106の後面、好ましくは車幅方向内側の面に対向して位置している。キャビンマウントブラケット90はメインフレーム32の下面に固設された補強プレート108を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車体下部構造に関し、より詳しくはトラックなどで採用される前端から後端まで車体前後方向に延びる左右のメインフレームを備えた車体下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に見られるように、トラックでは一般的に左右のメインフレームを有し、このメインフレームは車体前端から後端まで延び、そして、左右のメインフレーム間にクロスメンバを車体前後方向に間隔を隔てて複数配置する下部構造つまりフレーム構造が採用されている。
【0003】
【特許文献1】実開昭58−60571号公報
【特許文献2】特開平8−175143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のトラックのフレーム構造では正面衝突に対して左右のメインフレームによって対抗力を有するものの、オフセット衝突によって前輪が後退したときに、この前輪を受け止めてダッシュパネルが後退するのを阻止する特別の対策が施されていないのが実情である。例えば、キャビンフロアの両側に位置するサイドシルによって前輪の後退を受け止めるようにしてもよいが、サイドシルに依存して前輪の後退を阻止するときにはサイドシルの剛性を高める工夫が必要となる。すなわち、トラックのキャビンのサイドシルは、モノコック構造の乗用車におけるサイドシルとは異なり車体の剛性部材ではなく、このことから現状のトラックのサイドシルは前輪の後退を受け止めるだけの強度を備えていない。
【0005】
本発明の目的は、前面衝突時に左右のメインフレームを利用して後輪の後退を抑えることのできる車体下部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の技術的課題を達成するために、車両の前端部から後端部まで車体前後方向に延びる左右のメインフレームであって、前輪ホイールハウスの内側に位置して互いに平行に延びる小幅部と、キャビンの後部から後方に且つ互いに平行に延びる大幅部と、前記小幅部から前記大幅部に向けて車幅方向外方且つ斜めに延びる中間拡幅部とを有するメインフレームと、該メインフレームの前記中間拡幅部から車幅方向外方に突設され、前記キャビンの前部のコーナ部を支持するキャビンマウントブラケットとを有する車体下部構造を前提とし、このキャビンマウントブラケットに着目して、キャビンマウントブラケットに、前記前輪ホイールハウスに向けて延び且つ前面衝突時に後退する後輪を受け止める前輪受け部を形成したことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、前面衝突時に後退する前輪からの荷重をメインフレームに伝達することで、後退する前輪がキャビンの前端コーナ部に衝突してダッシュパネルが変形して後退するのを防止することができる。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態では、前記前輪が、前記メインフレームの前記小幅部に対してサスペンションアームを介して取り付けられており、前記前輪受け部の前面が、前記前輪ホイールハウスの後側の車幅方向内側の面に対向して位置している。これにより、オフセット衝突時に車幅方向内側に入り込むようにして後退する前輪を前輪受け部によって的確に受け止めることができる。
【0009】
また、好ましい実施の形態では、前記キャビンマウントブラケットと前記メインフレームの拡幅部とを、前記キャブマウントブラケットの前後方向に亘って結合する補強プレートを更に有する。これにより、後退する前輪からの荷重をその入力方向において効率的にメインフレームに伝達することができる。
【0010】
また、好ましい実施の形態では、前記左右のメインフレームの前記拡幅部における前記キャビンマウントブラケットが設けられている部位に対応した部位の間に、車幅方向に延びるクロスメンバが設けられている。これによれば、後退する前輪からの荷重をメインフレームとクロスメンバに分散することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、添付の図面に基づいて本発明の好ましい実施例を説明する。
【0012】
図1はトラックの側面図である。トラック10は、前から後に向けて順に、エンジンルーム12、キャビン14、荷箱16を有し、エンジンルーム12とキャビン14とはダッシュパネル18によって区画されている。
【0013】
図2は、トラックを下方から見た図である。図1、図2を参照して、エンジンルーム12には、その車幅方向中央部分にエンジン20が縦置きで搭載され、エンジン20の後端にはクラッチユニット22を介してトランスミッションユニット24が連結されている。トランスミッションユニット24から車幅方向中央部分を後方に向けて延びるプロペラシャフト26は、その後端がデファレンシャルギア28に連結され、このデファレンシャルギア28によってエンジン20の駆動力が左右の後輪30に分配される。すなわち、このトラック10には後輪駆動方式が採用されている。
【0014】
図2を参照して、トラック10のフレーム構造は、左右のメインフレーム32、32を有し、メインフレーム32は車体の前端部から後端部まで車体前後方向に延在している。トラック10のフレーム構造は、更に、左右のメインフレーム32、32間に亘って車幅方向に延びる第1〜第5の複数のクロスメンバ34、36、38、40、42を有する。第1クロスメンバ34はメインフレーム32の前端に位置し、第2クロスメンバ36はトランスミッションユニット24の部位に位置し、第3クロスメンバ38はキャビン14の後端に位置し、第4クロスメンバ40はデファレンシャルギア28の部位に位置し、第5クロスメンバ42はメインフレーム32の後端に位置している。図2の参照符号44は燃料タンクを示し、燃料タンク44は第3クロスメンバ38と第4クロスメンバ40とに亘って延びて、これら第3、第4クロスメンバ38、40に支持されている。
【0015】
エンジン20の一側の排気マニホールド46から後方に延びる排気管48には、キャビン14の下方に触媒50が介装され、また、その下流にメインサイレンサ52が介装されている。
【0016】
引き続き図2を参照して、後輪30のサスペンション機構は、リジッドアクスル60、リーフスプリング62(図1)、ショックアブソーバー64で構成されている。前輪70のサスペンション機構は、図3から分かるように、アッパアーム72とロアアーム74とを備え、その外端にナックル76が取り付けられたダブルウイッシュボーン方式である、アッパアーム72及びロアアーム74の内端が取り付けられている左右のサスペンションタワー78、78は車幅方向に延びるブレースメンバ80を介して後に説明するメインフレーム32の前部32aに取り付けられている。
【0017】
なお、図1の参照符号82は前輪用ラテラルロッドであり、前輪用ラテラルロッド82は、第1クロスメンバ34とロアアーム74とに連結されている。また、前輪サスペンション機構から後方に延びるトーションバー84の後端のトーションバーアンカー86は、左右のメインフレーム32、32間に亘って車幅方向に延びるアンカーメンバ88に固定されている。
【0018】
更に図2を参照して、上述した左右のメインフレーム32は、平面視したときに、互いに平行に延びる前部32aと、互いに平行に延びる後部32bとを有し、前部32a間の間隔は後部32bの間隔よりも狭い。換言すると、左右の前部32a、32aは小幅部を構成し、後部32b、32bは大幅部を構成し、この前部32aと後部32bとの間の中間拡幅部32cは、後方に向かって斜め車外方向に延びている。
【0019】
メインフレーム32の前部32aつまり小幅部にエンジン20が搭載され、そして、小幅部32aから斜め外方且つ後方に延びる中間拡幅部32cはエンジンルーム12の後端からキャビン14の前部に位置しており、この中間拡幅部32cには、図4、図5から良く分かるように、車幅方向外方に延びるキャビンマウントブラケット90が固設され、このキャビンマウントブラケット90に対応した中間拡幅部32cの部位に上述した第2クロスメンバ36が配設され、この第2クロスメンバ36は、メインフレーム32の中間拡幅部32cを介してキャビンマウントブラケット90と合流している。後に説明するように、このキャビンマウントブラケット90を使ってキャビン14がメインフレーム32に固定される。
【0020】
このキャビンマウントブラケット90にはキャビンマウント部材92が固設され、このキャビンマウント部材92に対してキャビン14のサイドシル94から車幅方向内方に延びるキャビン側ブラケット96がボルト98によって締結される。キャビン側ブラケット96は、既知のように、キャビン14の前部における左右のコーナ部に設けられている。図5の参照符号100はサイドドアであり、102は車室フロアパネルを示す。
【0021】
メインフレーム32の中間拡幅部32cから車幅方向外方に延びるキャビンマウントブラケット90は、図3、図4から良く分かるように、前輪ホイールハウス106の後面に向けて延びる前輪受け部104を有し、この前輪受け部104の前端面104aは前輪ホイールハウス106の後面、好ましくは、車幅方向内側の面に対向して位置している。また、キャビンマウントブラケット90は、この基端部つまりメインフレーム32に隣接する部分に、メインフレーム32(拡幅部32c)の下面に固設された補強プレート108を有している。すなわち、補強プレート108は、キャビンマウントブラケット90とメインフレーム32の拡幅部32cとを前後方向亘って連結している。これにより、後退する前輪70からの荷重をその入力方向において効率的にメインフレーム32に伝達することができる。
【0022】
ちなみに、図2の仮想線Fは従来のキャビンマウントブラケットを示すものであり、従来のキャビンマウントブラケットFの配置及び大きさから、従来のキャビンマウントブラケットFが、後退する前輪70を積極的に受け止める構造になっていなかったことが分かるであろう。
【0023】
上述した実施例によれば、図6に示すように、障害物Oに対して前面衝突してメインフレーム32が座屈したときに、左右の前輪70の後退は左右の前輪受け部104によって受止され、前輪70の後退によってダッシュパネル18が車室側に変形するのを阻止することができる。止め、そして後退する前輪70からの荷重をメインフレーム32に伝達することで、後退する前輪32がキャビン14前端コーナ部に衝突してダッシュパネル18が変形して後退するのを防止することができる。
【0024】
同様に、図7に示すように、オフセット衝突に関しても前輪70の後退を、対応する前輪受け部104によって受止することができ、これによりダッシュパネル18が車室側に変形するのを阻止することができる。また、前輪70の後退により前輪受け部104に入力した荷重は、キャビンマウントブラケット90から、図7の矢印で示すようにメインフレーム32の中間拡幅部32cを介して合流している第2クロスメンバ36及びメインフレーム32の後部32bに分散させることができる。したがって、従来のキャビンマウントブラケットF(図2)の場合には、後退する前輪70によってメインフレーム32とキャビンマウントブラケットFとの接合部でキャビンマウントブラケットFが後方に折れ曲がってしまうところ、実施例に含まれるキャビンマウントブラケット90にあっては、後方に折れ曲がることなく、後退する前輪70からの荷重を第2クロスメンバ36及びメインフレーム32の後部32bに分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例のトラックを側方から見た透視図である。
【図2】図1のトラックを下方から見た図である。
【図3】左前輪の部位を斜め前方から見た図である。
【図4】左前輪の後方に位置するフレーム回りの構造を示す図である。
【図5】図4のV―V線に沿った断面図である。
【図6】実施例のトラックの前面衝突時の作用説明図である。
【図7】実施例のトラックのオフセット衝突時の作用説明図である。
【符号の説明】
【0026】
10 トラック
12 エンジンルーム
14 キャビン
18 ダッシュパネル
20 エンジン
32 メインフレーム
32a メインフレームの前部(小幅部)
32b メインフレームの後部(大幅部)
32c メインフレームの中間拡幅部
34 第1クロスメンバ
36 第2クロスメンバ
70 前輪
72 サスペンションのアッパアーム
74 サスペンションのロアアーム
90 キャビンマウントブラケット
92 キャビンマウント部材
94 サイドシル
96 キャビン側ブラケット
102 キャビンフロアパネル
106 前輪ホイールハウス
108 補強プレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前端部から後端部まで車体前後方向に延びる左右のメインフレームであって、前輪ホイールハウスの内側に位置して互いに平行に延びる小幅部と、キャビンの後部から後方に且つ互いに平行に延びる大幅部と、前記小幅部から前記大幅部に向けて車幅方向外方且つ斜めに延びる中間拡幅部とを有するメインフレームと、
該メインフレームの前記中間拡幅部から車幅方向外方に突設され、前記キャビンの前部のコーナ部を支持するキャビンマウントブラケットとを有する車体下部構造であって、
前記キャビンマウントブラケットに、前記前輪ホイールハウスに向けて延び且つ前面衝突時に後退する後輪を受け止める前輪受け部が形成されていることを特徴とする車体下部構造。
【請求項2】
前記前輪が、前記メインフレームの前記小幅部に対してサスペンションアームを介して取り付けられており、
前記前輪受け部の前面が、前記前輪ホイールハウスの後側の車幅方向内側の面に対向して位置している、請求項1に記載の車体下部構造。
【請求項3】
前記キャビンマウントブラケットと前記メインフレームの拡幅部とを、前記キャブマウントブラケットの前後方向に亘って結合する補強プレートを更に有する、請求項1又は2に記載の車体下部構造。
【請求項4】
前記左右のメインフレームの前記拡幅部における前記キャビンマウントブラケットが設けられている部位に対応した部位の間に、車幅方向に延びるクロスメンバが設けられている、請求項3に記載の車体下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−226971(P2009−226971A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71489(P2008−71489)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】