説明

車体前部構造

【課題】前面衝突時に、エンジンの後方に設けられる触媒(キャタライザ)が、車室(キャビン)に侵入することの防止を可能にする。
【解決手段】車体前部にエンジンルーム115が設けられ、このエンジンルーム115にエンジン117が配置され、このエンジン117の後方にステイ118を介して排ガスを浄化する触媒119が取付けられ、この触媒119の後方にエンジンルーム115と車室12とを仕切るダッシュボードロアパネル15が設けられた車体前部構造20において、ダッシュボードロアパネル15の前面15aに、且つ触媒119に対峙させて、ステイ118よりも車体前後方向の強度を高めたダッシュボードロアクロスメンバ112を車幅方向に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッシュボードロアの前方にエンジンが配置され、前面衝突時にエンジンが車室内に侵入することを抑制する車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造として、エンジンの後背面にステイを介して触媒を支持した車体前部構造が知られている。
この種の車体前部構造は、エンジンルームの車体剛性を高めたり、エンジンルーム内でクラッシュストロークを確保できるように、適宜設計されるものであった。
このような、車体前部構造として、前面衝突時に、衝突荷重で補機を脱落させ、クラッシュストロークを確保するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1の車体前部構造は、車両前部にエンジンが横置きに配置され、このエンジンの後方に触媒(キャタライザ)が設けられ、エンジンから前方に吸気系部材が突出され、この吸気系部材に補機が取付けられ、吸気系部材に破壊可能な脆弱部が設けられたものである。すなわち、車両の前面衝突時に、衝突荷重で脆弱部を破壊させて補機を脱落させ、エンジンの前方にクラッシュストロークを確保する。
【0004】
しかし、特許文献1の車体前部構造では、前面衝突が進行し、エンジンが後退すると、触媒がダッシュボードロア(ダッシュボードロアパネル)を押し、ダッシュボードロアを変形させ、乗員の車室空間を減少させる。
近年、排ガス対策などで触媒(キャタライザ)が大型化される場合が多い。従って、前面衝突時に触媒が後退し、ダッシュボードロアが押され、触媒が車室(キャビン)に侵入することを防止することが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−192160公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前面衝突時に、エンジンの後方に設けられる触媒(キャタライザ)が、車室(キャビン)に侵入することを防止できる車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、車体前部にエンジンルームが設けられ、このエンジンルームにエンジンが配置され、このエンジンの後方にステイを介して排ガスを浄化する触媒が取付けられ、この触媒の後方にエンジンルームと車室とを仕切るダッシュボードロアパネルが設けられた車体前部構造において、ダッシュボードロアパネルの前面に、且つ触媒に対峙させて、ステイよりも車体前後方向の強度を高めたダッシュボードロアクロスメンバを車幅方向に設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、ダッシュボードロアクロスメンバが、矩形断面のメンバであり、下方の角部を、触媒の下端と上下高さを一致させたことを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、ステイが、上方から見てハの字に触媒を挟むものであることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、ステイに、車体前後方向に指向する長孔が形成され、この長孔に触媒が支持されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は以下の効果を奏する。
請求項1に係る発明では、車体前部構造は、車体前部にエンジンルームが設けられ、このエンジンルームにエンジンが配置され、このエンジンの後方にステイを介して排ガスを浄化する触媒が取付けられ、この触媒の後方にエンジンルームと車室とを仕切るダッシュボードロアパネルが設けられる。
ダッシュボードロアパネルの前面に、且つ触媒に対峙させて、ステイよりも車体前後方向の強度を高めたダッシュボードロアクロスメンバを車幅方向に設けたので、前面衝突時に、ダッシュボードロアクロスメンバより先に、ステイを変形させることができる。これにより、触媒でダッシュボードロアパネルを変形させることを抑制することができる。この結果、車室の変形を最小限に止めることができる。
【0012】
請求項2に係る発明では、ダッシュボードロアクロスメンバが、矩形断面のメンバであり、下方の角部を、触媒の下端と上下高さを一致させた。すなわち、角部は剛性が高いので、触媒の侵入を阻止することができる。
【0013】
請求項3に係る発明では、ステイが、上方から見てハの字に触媒を挟むものであるので、ステイは車体前後方向に変形しやすい。
【0014】
請求項4に係る発明では、ステイに、車体前後方向に指向する長孔が形成され、この長孔に触媒が支持されるので、触媒が長孔に沿って前方へ移動することができる。この結果、触媒が車室内に侵入することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る車体前部構造が採用された車体の下方から見た斜視図である。
【図2】図1に示される車体の車室側から見た斜視図である。
【図3】本発明に係る車体前部構造の平面図である。
【図4】図3に示された車体前部構造の側面図である。
【図5】図3に示された車体前部構造の触媒及びステイの斜視図である。
【図6】図3に示された車体前部構造の違いを示す比較検討図である。
【図7】図3に示された車体前部構造の作用の違いを示す比較検討図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0017】
図1及び図2に示されるように、車体11は、車幅方向に配置されたダッシュボードロア(ダッシュボードロアパネル)15と、このダッシュボードロア15の前方に延ばされた左右のフロントサイドフレーム16,16と、これらのフロントサイドフレーム16,16の前部に設けられたフロントバルクヘッド111と、フロントサイドフレーム16,16の後部に且つダッシュボードロア15の前面15aに沿わせて形成されたダッシュボードロアクロスメンバ112と、ダッシュボードロア15の車室12内側に配置された左右のダッシュボードロアサイドメンバ116,116と、ダッシュボードロア15の後方に且つ車幅外方に配置された左右のサイドシル17,17と、ダッシュボードロア15の後方且つ車体中央から延ばされたトンネル部18と、左右のサイドシル17,17間に配置されたフロアパネル(フロントフロアパネル)19と、これらのフロアパネル19及びトンネル部18の下に配置された燃料タンク(センタタンク)21と、フロントサイドフレーム16,16の後端に接続され、ダッシュボードロア15に沿ってフロアパネル19に亘り配置される左右のサイドフレームエクステンション22,22と、サイドシル17,17とサイドフレームエクステンション22,22との間に設けられるアウトリガー26,26と、左右のサイドシル17,17の中間同士に接続されるフロアクロスメンバ29と、左右のサイドシル17,17の後部から後方に延ばされた左右のリヤサイドフレーム113,113と、これらのリヤサイドフレーム113,113の中間に渡されたリヤ側クロスメンバ114と、を備える。
燃料タンク(センタタンク)21は、バッテリー、燃料電池若しくは水素タンク等のエネルギー容器の一例である。

【0018】
トンネル部18の両側には、車体前後方向に延ばされた左右のトンネルフレーム27,27が配置される。すなわち、トンネル部18は、フロアパネル19の車幅中央部分で隆起させ、車体前後方向に延ばされたセンタトンネル(トンネル本体)24と、このセンタトンネル24の両側に設けられ、車体前後方向に延ばされた左右のトンネルフレーム27,27とを備える。
左右のトンネルフレーム27,27には、トンネルクロスメンバ28が接続される。
【0019】
ダッシュボードロア15は、車体11のエンジンルーム115と車室12とを隔てる部材である。ダッシュボードロア15には、トンネル部18が延ばされる凹状部33が形成される。フロントサイドフレーム16は、車体前方に直線的に延ばされる。
【0020】
サイドフレームエクステンション22は、ダッシュボードロア15(フロアパネル19)の下方且つ燃料タンク21の前方で、サイドシル17側に連結されるサイドシル側エクステンション43と、トンネルフレーム27側に連結されるトンネル側エクステンション44と、に分岐される。
【0021】
図3〜図5に示されるように、車体前部構造20は、車体前部に設けられたエンジンルーム115と、このエンジンルーム115に配置されたエンジン117と、このエンジン117の後方にステイ118を介して取付けられ、排ガスを浄化する触媒(キャタライザ)119と、この触媒119の後方に設けられ、エンジンルーム115と車室12とを仕切るダッシュボードロアパネル(ダッシュボードロア)15と、このダッシュボードロアパネル15の前面15aに沿わせて設けられるとともに、左右のフロントサイドフレーム16,16(図1参照)に車幅方向に渡されたダッシュボードロアクロスメンバ112と、ダッシュボードロア15の車室12内側に配置された左右のダッシュボードロアサイドメンバ116,116と、から構成される。
【0022】
ステイ118は、触媒119を支持する左右の支持ピース121,121と、こられの支持ピース121,121をエンジン117側で連結する連結バー122と、支持ピース121,121のエンジン117側から延出され、エンジン117に取付けられるねじシャフト123,123と、からなる。
【0023】
支持ピース121は、軽量化を図るとともに変形を許容する抜き孔124と、車体前後方向に指向するように形成され、ステイ118に触媒119をボルト126で締結するための長孔125とが形成される。左右の支持ピース121,121は、上面視でエンジン117側に向けてハの字状に開いて連結バー122に取付けられている。
すなわち、ステイ118は、上方から見てハの字に触媒119を挟んで支持するものである。
【0024】
触媒119は、触媒本体(不図示)が収納される本体部127と、この本体部127の上部に形成され、エンジン117の排気ポート128に接続する排気ポート側接続部129と、本体部127の下部に形成され、排気管131が接続される排気管側接続部132と、からなる。
【0025】
ダッシュボードロアクロスメンバ112は、ダッシュボードロアパネル15の前面15aに且つ触媒119に対峙させて設けられる矩形断面のメンバである。ダッシュボードロアクロスメンバ112は、例えば、エンジン117に前突荷重が作用し、触媒119が車体後方に後退し、ダッシュボードロアクロスメンバ112に当接するときに、ダッシュボードロアクロスメンバ112の下方の角部134を、触媒119の本体部127の下端135と高さが略一致するように設けられている。
さらに、ダッシュボードロアクロスメンバ112の車体前後方向の強度は、ステイ118の車体前後方向の強度よりも高く設定される。
【0026】
ダッシュボードロアサイドメンバ116は、高さ方向に関してダッシュボードロアクロスメンバ112位置に配置されている。ダッシュボードロアサイドメンバ116の内端116aは、ダッシュボードロアパネル15を挟んでダッシュボードロアクロスメンバ112に結合され、ダッシュボードロアサイドメンバ116の外端116bは、フロントピラーインナロア136及びフロントサイドフレーム16に結合されている。
【0027】
すなわち、ダッシュボードロアクロスメンバ112と、左右のダッシュボードロアサイドメンバ116,116とで車幅方向に渡された連続的なクロスメンバが構成され、車室12の強度及び剛性が高められている。
【0028】
図6(a),(b)及び図7(a),(b)に比較例の車体前部構造210が示される。
比較例の車体前部構造210は、車体前部にエンジンルーム211が設けられ、このエンジンルーム211にエンジン212が配置され、このエンジン212の後方にステイ213を介して排ガスを浄化する触媒214が取付けられ、この触媒214の後方に、エンジンルーム211と車室215(図7(a)参照)とを仕切るダッシュボードロアパネル(ダッシュボードロア)216が設けられる。
【0029】
ステイ213は、触媒214を支持する左右の支持ピース217,217と、これらの支持ピース217,217をエンジン212側で連結する連結バー218と、から構成される。左右の支持ピース217,217は、車体前後方向に関して平行に設けられる。支持ピース217の触媒214を支持する孔219は丸孔に形成されている。
従って、ステイ213は、剛性が高いとともに、触媒214をストローク(移動)可能に支持することはできない。
【0030】
図7(a)に示されるように、エンジン212に矢印a1の如く前突荷重が作用する場合には、エンジン212は後方へ後退する。図7(b)に示されるように、さらに、エンジン212が矢印a3の如く後方へ後退すると、触媒214はダッシュボードロアパネル(ダッシュボードロア)216に当接し、ダッシュボードロアパネル216が車室215側に変形を受ける。
【0031】
図6(c),(d)及び図7(c),(d)に実施例の車体前部構造20が示される。
車体前部構造20では、ステイ118の左右の支持ピース121,121は、上面視でエンジン117側に向けてハの字状に開いて連結バー122に取付けられている。また、支持ピース121に、車体前後方向に指向する長孔125が形成され、この長孔125に触媒119が支持される。さらに、支持ピース121に、軽量化を図るとともに変形を許容する抜き孔124が設けられている。
従って、ステイ118は、上下方向の荷重に対して変形しにくく、前突荷重に対して変形しやすい構造である。
【0032】
車体前部構造20では、ダッシュボードロアクロスメンバ112が、ダッシュボードロアパネル15の前面15aに沿わせて設けられるとともに、左右のフロントサイドフレーム16,16(図1参照)に車幅方向に渡されている。また、左右のダッシュボードロアサイドメンバ116,116が、ダッシュボードロアクロスメンバ112の車幅方向外方に連続的に設けられている。さらに、ダッシュボードロアクロスメンバ112は、触媒119が当接するときに、ダッシュボードロアクロスメンバ112の下方の角部134が、触媒119の本体部127の下端135と高さが略一致するように設けられる。
従って、ダッシュボードロアパネル15は、ダッシュボードロアクロスメンバ112、ダッシュボードサイドメンバ116,116により変形に強い構造となる。
【0033】
図7(c)に示されるように、エンジン117に矢印c1の如く前突荷重が作用する場合には、エンジン117は後方へ後退する。この結果、ダッシュボードロアクロスメンバ112の下方の角部134に、触媒119の本体部127の下端135の高さが略一致する。
【0034】
図7(d)に示されるように、さらに、エンジン117が矢印c3の如く後方へ後退すると、触媒119の下端135はダッシュボードロアクロスメンバ112の角部134に当接し、ダッシュボードロアクロスメンバ112で触媒119を受け止め、ダッシュボードロアパネル15が車室12側に変形することを抑制できる。
【0035】
車体前部構造20では、車体前部にエンジンルーム115が設けられ、このエンジンルーム115にエンジン117が配置され、このエンジン117の後方にステイ118を介して排ガスを浄化する触媒119が取付けられ、この触媒119の後方にエンジンルーム115と車室12とを仕切るダッシュボードロアパネル15が設けられる。
【0036】
ダッシュボードロアパネル15の前面15aに、且つ触媒119に対峙させて、ステイ118よりも車体前後方向の強度を高めたダッシュボードロアクロスメンバ112を車幅方向に設けたので、前面衝突時に、ダッシュボードロアクロスメンバ112より先に、ステイ118を変形させることができる。これにより、触媒119でダッシュボードロアパネル15を変形させることを抑制することができる。この結果、車室12の変形を最小限に止めることができる。
【0037】
ダッシュボードロアクロスメンバ112が、矩形断面のメンバであり、下方の角部134を、触媒119(本体部127)の下端135と上下高さを一致させた。すなわち、角部134は剛性が高いので、触媒119の侵入を阻止することができる。
【0038】
ステイ118が、上方から見てハの字に触媒119を挟むものであるので、ステイ118は車体前後方向に変形しやすい。
【0039】
ステイ118は、車体前後方向に指向する長孔125が形成され、この長孔125に触媒119が支持されるので、触媒119が長孔125に沿って前方へ移動することができる。この結果、触媒119が車室12内に侵入することを抑制することができる。
【0040】
尚、本発明に係る車体前部構造20は、図5に示すように、ステイ118に、車体前後方向に指向するように形成され、ステイ118に触媒119をボルト126で締結するための長孔125とが形成されるが、これに限るものではなく、長孔125は触媒119のストローク方向に沿わせた孔も含む。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る車体前部構造は、セダンやワゴンなどの乗用車に採用するのに好適である。
【符号の説明】
【0042】
11…車体、15…ダッシュボードロアパネル、15a…前面、20…車体前部構造、112…ダッシュボードロアクロスメンバ、115…エンジンルーム、117…エンジン、118…ステイ、119…触媒、125…長孔、134…角部、135…下端。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部にエンジンルームが設けられ、このエンジンルームにエンジンが配置され、このエンジンの後方にステイを介して排ガスを浄化する触媒が取付けられ、この触媒の後方にエンジンルームと車室とを仕切るダッシュボードロアパネルが設けられた車体前部構造において、
前記ダッシュボードロアパネルの前面に、且つ前記触媒に対峙させて、前記ステイよりも車体前後方向の強度を高めたダッシュボードロアクロスメンバを車幅方向に設けたことを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記ダッシュボードロアクロスメンバは、矩形断面のメンバであり、下方の角部を、触媒の下端と上下高さを一致させたことを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記ステイは、上方から見てハの字に前記触媒を挟むものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車体前部構造。
【請求項4】
前記ステイは、車体前後方向に指向する長孔が形成され、この長孔に前記触媒が支持されることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−126422(P2011−126422A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286944(P2009−286944)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】