説明

車体後部の下部構造

【課題】車両走行中のスペアタイヤ振動発生の防止とともに、後方からの荷重入力時に、スペアタイヤの前方移動および前側上方移動、並びにスペアタイヤハウスの前方変形および前方移動を防止可能な車体後部の下部構造を提供する。
【解決手段】リヤフロア2に形成されるスペアタイヤハウス3と、一対のサイドフレーム4を連結し、かつスペアタイヤハウス3の前方に配設されるリヤクロスメンバ5と、スペアタイヤハウス3の下面中央に配設される牽引フック10用のフック補強部材6と、車体後端のバンパーメンバ7とを備え、フック補強部材6の前側がリヤクロスメンバ5に取付けられ、フック補強部材6の後方側の閉断面が前方側の閉断面より大きく形成され、フック補強部材6がスペアタイヤSの中心位置で分割されて補強部材前部6bと補強部材後部6cとを備え、補強部材後部6cの後端上側がバンパーメンバ7の下方でバンパーメンバ7と重なって配置される、車体後部1の下部構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体後部のリヤフロアに形成されるスペアタイヤハウス周辺の車体後部の下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両には、車体後部のリヤフロアにスペアタイヤを収納するスペアタイヤハウスが設けられている。このような車両に後方から荷重が加えられる場合、スペアタイヤの前端が前方に移動するとともに、スペアタイヤを収納したスペアタイヤハウスが前方に向かって変形し、かつ前方に移動することがある。特に、スペアタイヤハウスの前方には燃料タンクが配置されることが多いので、変形したスペアタイヤハウスが燃料タンクと接触するおそれがあり、好ましくない。
【0003】
このような場合、スペアタイヤハウスと車体後端のバックパネルとの間に十分なスペースを確保することによって、スペアタイヤハウス周辺で荷重を吸収する対策が考えられる。また、スペアタイヤハウスの前方に燃料タンクが配置される場合、スペアタイヤハウスと燃料タンクとの間のスペースを十分に確保することによって、スペアタイヤハウス周辺で荷重を吸収する対策も考えられる。しかしながら、スペアタイヤハウスおよび燃料タンク以外の部品を配置するスペースも確保する必要があり、かつ車体の部品レイアウトには制限が多いため、スペアタイヤハウスと車体後端のバックパネルとの間のスペース、スペアタイヤハウスと燃料タンクとの間のスペースなどを十分に確保できないことが多い。また、スペアタイヤハウスと車体後端のバックパネルとの間のスペース、スペアタイヤハウスと燃料タンクとの間のスペースなどを確保しようとすると、車体が大型化するという問題があり、このことは、特に小型車の場合に問題となる。
【0004】
さらに、スペアタイヤハウスの前側上方には後部座席が配置されることが多く、車両に後方からの荷重が加えられる場合、スペアタイヤの前端が前側上方に移動することがある。このとき、スペアタイヤの前端が後部座席と接触するおそれがあり、好ましくない。
【0005】
そこで、スペアタイヤの前方への移動と、スペアタイヤハウスの前方への変形および前方への移動とを防止し、さらにスペアタイヤハウスが燃料タンクと接触することを防止するために、特許文献1では、スペアタイヤを、その前側を燃料タンクの位置より上方に持ち上げて傾斜させた状態でスペアタイヤハウスに収納している。
【0006】
さらに、特許文献2では、スペアタイヤの前方への移動と、スペアタイヤハウスの前方への変形および前方への移動とを防止し、さらにスペアタイヤハウスが燃料タンクと接触することを防止し、かつスペアタイヤ前端の前側上方への移動を防止し、さらにスペアタイヤの前端が後部座席と接触することを防止するために、スペアタイヤを、その前側を燃料タンクの位置より上方に持ち上げて傾斜させた状態でスペアタイヤハウスに収納し、さらにスペアタイヤの中心を取付けるためのスペアタイヤブラケットの後方側に脆弱部を設けている。この構造によって、車両に後方からの荷重が加えられた場合、この脆弱部を起点としてスペアタイヤブラケットが変形して、スペアタイヤが、その前側をさらに持ち上げるように回転して、さらに傾斜することとなる。
【0007】
さらに、特許文献3で開示された構造では、スペアタイヤがスペアタイヤハウスに前倒しの状態で傾斜配置され、車両後方からの荷重によってスペアタイヤの後部が、スペアタイヤの前部を中心に跳ね上げられ、かつ車両前方へ向かって縦方向に回動する構成となっており、スペアタイヤの前端による前方の構造物への荷重が低減されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−316050号公報
【特許文献2】特開2007−276605号公報
【特許文献3】特開2009−179181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献1では、スペアタイヤを、その前側を燃料タンクの位置より上方に持ち上げて傾斜させた状態でスペアタイヤハウスに収納する構成のみが開示されているにすぎず、車両に後方からの荷重が加えられた場合に、スペアタイヤが前側上方に向かって移動し易くなっている。そのため、依然としてスペアタイヤが後部座席と接触するおそれがある。
【0010】
また、上述した特許文献2では、スペアタイヤを取付けるスペアタイヤブラケットに脆弱部が設けられているので、この脆弱部を起点として、スペアタイヤが車両走行中などに振動し易くなっている。そのため、このスペアタイヤの振動によって騒音が発生し、さらに振動疲労によってスペアタイヤブラケットが損傷し易くなっており、問題である。
【0011】
さらに、上述した特許文献3のように、縦方向の回動を促進するためにはスペアタイヤの傾斜を大きくすることが考えられるが、傾斜を大きくすると上下方向のラゲッジスペースが狭くなるという問題があった。
【0012】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両走行中におけるスペアタイヤの振動発生を防止し、かつ車両に後方からの荷重が加えられる場合には、スペアタイヤの前方への移動および前側上方への移動を防止し、かつスペアタイヤハウスの前方への変形および前方への移動を防止可能な車体後部の下部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
課題を解決するために、本発明の車体後部の下部構造は、車体後部のリヤフロアに形成されるスペアタイヤハウスと、車幅方向左右一対のサイドフレームを連結し、かつ前記スペアタイヤハウスの車両前方に配設されるリヤクロスメンバと、車両前後方向に延び、かつ前記スペアタイヤハウスの下面の車幅方向中央に配設される牽引フック用のフック補強部材と、車体後端に設けられるバンパーメンバとを備えている車体後部の下部構造において、前記フック補強部材の前側が前記リヤクロスメンバに取付けられ、前記フック補強部材が、前記リヤフロアとともに閉断面を形成し、かつ前方側の前記閉断面より後方側の前記閉断面を大きくするように形成されており、さらに前記補強部材は、前記スペアタイヤハウスに収納されるスペアタイヤの中心位置で分割されるように補強部材前部と補強部材後部とを備え、前記補強部材後部の後端上側は、前記バンパーメンバの下方で前記バンパーメンバと重なって配置されている。
【0014】
本発明の車体後部の下部構造では、前記補強部材後部の後端上側が、前記補強部材後部の後端下側よりも車両後方に突出して形成され、前記牽引フックが、前記補強部材後部の後端下側に取付けられ、前記牽引フックの後端が、前後方向で車体後端のバックパネルと同位置か、または前記バックパネルより後方に突出するように配置されている。
【0015】
本発明の車体後部の下部構造では、前記スペアタイヤハウスの上面に前記スペアタイヤを留めるためのスペアタイヤブラケットが設けられ、前後方向に沿った前記スペアタイヤブラケットの縦断面がハット形状に形成され、前記スペアタイヤブラケットの頂部が、前記スペアタイヤの中心を留めることができるように構成され、前記スペアタイヤブラケットの前部が、前記フック補強部材を分割した位置より前方で前記スペアタイヤハウスに取付けられ、前記スペアタイヤブラケットの後部が、前記フック補強部材を分割した位置より後方で前記スペアタイヤハウスに取付けられている。
【0016】
本発明の車体後部の下部構造では、前記サイドフレームが、前後方向で分割されるようにフレーム前部とフレーム後部とを備え、前記リヤフロアに上方に突出するように形成されるビードが、前記フック補強部材を分割した位置と、前記サイドフレームを分割した位置と一致するように車幅方向に延設されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態の車体後部の下部構造は、車体後部のリヤフロアに形成されるスペアタイヤハウスと、車幅方向左右一対のサイドフレームを連結し、かつ前記スペアタイヤハウスの車両前方に配設されるリヤクロスメンバと、車両前後方向に延び、かつ前記スペアタイヤハウスの下面の車幅方向中央に配設される牽引フック用のフック補強部材と、車体後端に設けられるバンパーメンバとを備えている車体後部の下部構造において、前記フック補強部材の前側が前記リヤクロスメンバに取付けられ、前記フック補強部材が、前記リヤフロアとともに閉断面を形成し、かつ前方側の前記閉断面より後方側の前記閉断面を大きくするように形成されており、さらに前記補強部材は、前記スペアタイヤハウスに収納されるスペアタイヤの中心位置で分割されるように補強部材前部と補強部材後部とを備え、前記補強部材後部の後端上側は、前記バンパーメンバの下方で前記バンパーメンバと重なって配置されている。
そのため、前記車体後部に後方から前方に向かって加えられる荷重が小さい場合、この荷重が、バンパーメンバに入力されて、前記フック補強部材に伝わる。このとき、荷重は、前記バンパーメンバと、前記フック補強部材と、前記フック補強部材を取付けた前記リヤクロスメンバとによって受け止められることとなる。
【0018】
一方で、前記車体後部に後方から前方に向かって加えられる荷重が大きく、この荷重を受け止めることができない場合、荷重は、最初に前記バンパーメンバに入力され、前記バンパーメンバが前方に移動する。このとき、前記補強部材後部の後端上側が、前記バンパーメンバの下方で、かつ前記バンパーメンバと重なって配置されていることによって、前記補強部材後部の後端に前側下方に向かう荷重が作用し、前記補強部材後部の後端は前側下方に移動しようとする。これに対して、前記補強部材後部の前端は前記補強部材前部とともに留まろうとするので、前記補強部材後部が、その前端を支点として前側下方に回転する。従って、前記フック補強部材を分割した位置で前記補強部材前部の後端と前記補強部材後部の前端とが持ち上がり、前記フック補強部材は上方に向かって凸形状に折れる変形(以下、「山形折れ」という)を生ずる。また、前記フック補強部材が、前側の前記閉断面より大きく形成されていることによって、前記フック補強部材の後側の剛性が、前記フック補強部材の前側の剛性より高くなっている。そのため、剛性の低い前記補強部材前部が、前記リヤクロスメンバとの取付部を支点に上方に持ち上げられるように変形する一方で、剛性の高い前記補強部材後部は、その前端を支点として前側下方に回転するので、さらに前記フック補強部材の山形折れが促されることとなる。よって、前記スペアタイヤハウスが前方に変形し、かつ前方に移動することを防止できる。このような効果によって、例えば、変形した前記スペアタイヤハウスまたはリヤクロスメンバが、前記スペアタイヤハウスの前方に配置されることの多い燃料タンクと接触することを防止できる。
【0019】
また、前記フック補強部材の山形折れによって、前記スペアタイヤの前側または後側がさらに持ち上げられて、前記スペアタイヤが回転して傾斜することとなる。よって、前記スペアタイヤ前端の車両前方への移動が防止され、前記スペアタイヤハウスの前方への変形および前方への移動がさらに防止される。さらに、荷室にて起き上がった前記スペアタイヤが、後部座席とバックドアなどとの間に入り、車体後部の変形とともに荷重を吸収する部材として機能することとなる。一例として、前記スペアタイヤの後側を持ち上げて前記スペアタイヤを傾斜した状態で配置していれば、車両に後方から前方に向かう荷重が加えられる場合、前記スペアタイヤハウスの山形折れによって、前記スペアタイヤの後側がさらに持ち上げられ、前記スペアタイヤがさらに傾斜して起き上がった状態となる。よって、前記スペアタイヤの前方への移動および前側上方への移動を確実に防止できる。
【0020】
なお、前記フック補強部材は、前記スペアタイヤハウスの山形折れを促すように分割されているが、前記スペアタイヤを支持することと関連性がないので、このような前記フック補強部材の構造は前記スペアタイヤ周辺の振動性能を低下させることがない。
【0021】
本実施形態の車体後部の下部構造では、前記補強部材後部の後端上側が、前記補強部材後部の後端下側よりも車両後方に突出して形成され、前記牽引フックが、前記補強部材後部の後端下側に取付けられ、前記牽引フックの後端が、前後方向で車体後端のバックパネルと同位置か、または前記バックパネルより後方に突出するように配置されているので、前記閉断面が大きいことに伴って剛性が高くなっている前記補強部材後部の後端に、前記牽引フックが取付けられることによって、前記牽引フックの取付剛性を向上させることができる。さらに、このような前記補強部材後部の後端に前記牽引フックを取付けたことによって、前記フック補強部材の後側の剛性が、前記フック補強部材の前側の剛性より高くなる。よって、上述のように、前記フック補強部材の補強部材前部および補強部材後部の接合部分を境にした山形折れがさらに促され、前記スペアタイヤハウスの前方への変形および前方への移動をさらに効率的に防止できる。
【0022】
本実施形態の車体後部の下部構造では、前記スペアタイヤハウスの上面に前記スペアタイヤを留めるためのスペアタイヤブラケットが設けられ、前後方向に沿った前記スペアタイヤブラケットの縦断面がハット形状に形成され、前記スペアタイヤブラケットの頂部が、前記スペアタイヤの中心を留めることができるように構成され、前記スペアタイヤブラケットの前部が、前記フック補強部材を分割した位置より前方で前記スペアタイヤハウスに取付けられ、前記スペアタイヤブラケットの後部が、前記フック補強部材を分割した位置より後方で前記スペアタイヤハウスに取付けられているので、前記フック補強部材の山形折れの頂部に対応した前記フック補強部材の分割位置に、前記スペアタイヤの中心が配置されることとなる。そのため、前記スペアタイヤの前側または後側がさらに持ち上げられ易くなり、さらに前記スペアタイヤが回転して傾斜し易くなっている。よって、前記スペアタイヤ前端の車両前方への移動および前側上方への移動を効率的に防止でき、さらに前記スペアタイヤハウスおよび前記リヤクロスメンバの前方への変形および前方への移動を効率的に防止できる。
【0023】
本実施形態の車体後部の下部構造では、前記サイドフレームが、前後方向で分割されるようにフレーム前部とフレーム後部とを備え、前記リヤフロアに上方に突出するように形成されるビードが、前記フック補強部材を分割した位置と、前記サイドフレームを分割した位置と一致するように車幅方向に延設されているので、さらに前記サイドフレームが、山形折れを生じることとなる。また、前記リヤフロアおよび前記スペアタイヤハウスの剛性を高める前記ビードが、車幅方向に延びており、前記ビードの前後位置が、前記サイドフレームの前後方向の分割位置と、前記フック補強部材の前後方向の分割位置と一致していることによって、前記リヤフロアおよび前記スペアタイヤハウスの山形折れがさらに促される。よって、前記スペアタイヤ前端の車両前方への移動および前側上方への移動を効率的に防止でき、さらに前記スペアタイヤハウスの前方への変形および前方への移動をさらに効率的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る下部構造が適用される車両の車体後部を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における車体後部の下部構造の外観を示す概略斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における車体後部の下部構造の概略下面図である。
【図4】本発明の実施形態における車体後部の下部構造の概略側面図である。
【図5】本発明の実施形態における車体後部の下部構造の概略側面について、一部を図3のA−A断面で示した図である。
【図6】図3のB−B断面図である。
【図7】本発明の実施形態において、車体後部の下部構造を模式的に示した側面図であり、(a)は、車両に後方から前方への荷重が加えられる前の車体後部の状態を示し、(b)は、車両に後方から前方への荷重が加えられた後の車体後部の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態における車体後部の下部構造について以下に説明する。本発明の実施形態では、ハッチバック式の車両を用いて説明するが、本発明と同様の作用および効果が得られる構造であれば、セダン、クーペ、ハードトップ、SUV、ステーションワゴン、ミニバンなどその他の種類の車両であってもよい。
【0026】
図1〜図4に示すように、本実施形態の車体後部1には、水平方向に広がるリヤフロア2が設けられており、リヤフロア2の中央部には、横置きのスペアタイヤS(図7(a)を参照)を収納可能とするように、下方に凹む絞り形状のスペアタイヤハウス3が形成されている。リヤフロア2の車幅方向左右両端には、それぞれ前後方向に延びるサイドフレーム4が配置され、リヤフロア2とサイドフレーム4とが溶接されている。このような一対のサイドフレーム4を連結するリヤクロスメンバ5が、リヤフロア2の下面側で、かつスペアタイヤハウス3の前方に配設されている。また、スペアタイヤハウス3の下面には、車両前後方向に延びるフック補強部材6が、車幅方向中央に配設されている。車体後部1の後端にはバンパーメンバ7が設けられている。従って、本実施形態における車体後部1の下部構造は、リヤフロア2と、スペアタイヤハウス3と、サイドフレーム4と、リヤクロスメンバ5と、フック補強部材6と、バンパーメンバ7とを備えている。
【0027】
さらに、リヤフロア2の下面側におけるスペアタイヤハウス3の前方には、燃料タンク8が設けられており、リヤフロア2の上面におけるスペアタイヤハウス3の前方には後部座席9が配設されている。フック補強部材6の後端には、後方に向かって突出する牽引フック10が設けられている。リヤフロア2の後端にはバックパネル11が配設され、バンパーメンバ7はバックパネル11の後面に取付けられている。
【0028】
ここで図5を参照すると、スペアタイヤハウス3の上面には、スペアタイヤSを留めるスペアタイヤブラケット12が設けられている。このスペアタイヤブラケット12における前後方向に沿った断面はハット形状に形成されている。ハット形状のスペアタイヤブラケット12の頂部12aは、スペアタイヤSの中心を留めることができる構成となっている。さらに頂部12aは、その前方側を下げて傾斜して形成されており、このような頂部12aに留められたスペアタイヤSは、その後側を上方に持ち上げて傾斜させた状態でスペアタイヤハウス3に収納されることとなる(図7(a)を参照)。ハット形状のスペアタイヤブラケット12の前部12bは、スペアタイヤSの中心位置より前方でスペアタイヤハウス3に取付けられ、さらにスペアタイヤブラケット12の後部12cは、スペアタイヤSの中心位置より後方でスペアタイヤハウス3に取付けられている。
【0029】
再び図1〜図4を参照して、本実施形態の車体後部1のさらなる詳細を説明する。サイドフレーム4は、前後方向の分割位置4aでフレーム前部4bとフレーム後部4cとに分割されている。フック補強部材6は、スペアタイヤハウス3とともに閉断面を形成しており、フック補強部材6の後方側の閉断面は、フック補強部材6の前方側の閉断面より大きく形成されている。詳細には、フック補強部材6の閉断面の高さは、前方側から後方側に向かって次第に大きくなるように形成され、かつフック補強部材6の閉断面の幅は、前方側から後方側に向かって次第に大きくなるように形成されている。このようなフック補強部材6は、スペアタイヤハウス3に収納されるスペアタイヤSの中心位置に対応した前後方向の分割位置6aで補強部材前部6bと補強部材後部6cとに分割されている。リヤフロア2には、上方に向かって突条に形成されたビード13(図6を参照)が、車幅方向に延設されている。このビード13の前後位置と、スペアタイヤSの中心の前後位置と、サイドフレーム4の前後方向の分割位置4aと、フック補強部材6の前後方向の分割位置6aとは一致している。
【0030】
フック補強部材6の補強部材前部6bの前端は、リヤクロスメンバ5に取付けられている。また、補強部材後部6cの後端上側は、補強部材後部6cの後端下側より後方に突出して形成されており、さらに、フック補強部材6の補強部材後部6cは、フック補強部材6より上側に配置されたバンパーメンバ7と上下方向に重なって配置されている。このようなフック補強部材6の補強部材後部6cの後端下側に、後方に突出する牽引フック10の前端が取付けられている。一方で、牽引フック10の後端は、バックパネル11と同位置か、またはバックパネル11より後方に位置している。
【0031】
バンパーメンバ7には、バックパネル11の後面から車両後方に突出する車幅方向左右一対のバンパー取付部7aが、車幅方向に間隔を空けて配置されている。また、バンパー取付部7aは、バンパーメンバ取付部7aより上側に配置されたサイドフレーム4と上下方向に重なって配置されている。すなわち、バンパー取付部7aを含むバンパーメンバ7は、バンパーメンバ7より上側に配置されたサイドフレーム4と、バンパーメンバ7より下側に配置されたフック補強部材6の補強部材後部6cとの間に配置され、バンパーメンバ7は、サイドフレーム4およびフック補強部材6の補強部材後部6cとそれぞれ上下方向で重なって配置されている。さらに一対のバンパー取付部7aの後端で車幅方向に延びるバンパー部7bが設けられている。
【0032】
ここで、図7(a)および図7(b)を参照して、本実施形態において、車両に後方から前方に向かう荷重Fが入力された場合に、車体後部1の下部構造に生じる作用を説明する。
荷重Fが小さい場合、図7(a)に示すように、荷重Fは、バンパーメンバ7のバンパー部7bに入力され、バンパー取付部7aとバックパネル11とを経由して、サイドフレーム4とフック補強部材6とに伝わる。このとき、荷重Fは、バンパーメンバ7と、サイドフレーム4と、フック補強部材6と、フック補強部材6を取付けたリヤクロスメンバ5とによって受け止められることとなる。
【0033】
一方で、荷重Fが大きく、荷重Fを受け止めることができない場合、図7(b)に示すように、荷重Fは、最初にバンパーメンバ7のバンパー部7bに入力されることによって、バンパーメンバ7が前方に移動するとともに、バンパー取付部7aを介してバックパネル11に荷重Fが伝えられる。このとき、補強部材後部6cの後端上側が、バンパーメンバ7の下方で、かつバンパーメンバ7と重なって配置されていることによって、バックパネル11に伝えられた荷重Fが、前側下方に向かうように補強部材後部6cの後端に作用し、補強部材後部6cの後端は前側下方に移動しようとする。これに対して、補強部材後部6cの前端は補強部材前部6bとともに留まろうとするので、補強部材後部6cが、その前端を支点として前側下方に回転する。従って、フック補強部材6の分割位置6aで補強部材前6bの後端と補強部材後部6cの前端とが持ち上がり、フック補強部材6は上方に向かって凸形状に折れる変形(以下、「山形折れ」という)を生ずる。また、フック補強部材6の後方側の閉断面が、フック補強部材6の前方側の閉断面より大きく形成されていることによって、フック補強部材6の後側の剛性が、フック補強部材6の前側の剛性より高くなっている。そのため、剛性の低い補強部材前部6bが、リヤクロスメンバ5との取付部を支点に上方に持ち上げられるように変形する一方で、剛性の高い補強部材後部6cは、その前端を支点として前側下方に回転するので、さらにフック補強部材6の山形折れが促されることとなる。
【0034】
また、バンパーメンバ7からバックパネル11に伝えられた荷重Fは、サイドフレーム4のフレーム後部4cに伝わると、サイドフレーム4の分割位置4aで、フレーム前部4bの後端とフレーム後部4cの前端とが持ち上がり、サイドフレーム4は山形折れを生ずる。このようなフック補強部材6の山形折れとサイドフレーム4の山形折れとに伴って、フロアパネル2とスペアタイヤハウス3とがビード13に沿って山形折れを生ずる。スペアタイヤハウス3の山形折れによって、スペアタイヤSの後側はさらに持ち上げられ、スペアタイヤSが前方に回転し、さらに傾斜することとなる。
【0035】
以上のように本実施形態によれば、車体後部1に後方から前方に向かう荷重が加えられる場合、上述のように、補強部材後部6cの後端上側が、バンパーメンバ7の下方で、かつバンパーメンバ7と重なって配置され、かつまた、フック補強部材6の後方側の閉断面が、フック補強部材6の前方側の閉断面より大きく形成されていることによって、スペアタイヤハウス3およびフック補強部材6の山形折れが促される。従って、スペアタイヤハウス3が前方に変形し、かつ前方に移動することを防止でき、変形したスペアタイヤハウス3またはリヤクロスメンバ5が、燃料タンク8と接触することを防止できる。
【0036】
また、スペアタイヤハウス3およびフック補強部材6の山形折れによって、スペアタイヤSの後側はさらに持ち上げられ、スペアタイヤSが前方に回転するので、スペアタイヤSの前方への移動が防止され、スペアタイヤSの前側とスペアタイヤハウス3の前側との接触が回避され、スペアタイヤハウス3の前方への変形および前方への移動がさらに防止される。さらに、スペアタイヤSの前方上側への移動が防止され、スペアタイヤSが、後部座席9と接触することを防止できる。
【0037】
なお、フック補強部材6は、スペアタイヤハウス3の山形折れを促すように分割されているが、スペアタイヤSを支持することと関連性がないので、このようなフック補強部材6の構造はスペアタイヤSの振動性能を低下させることがない。
【0038】
本実施形態によれば、閉断面が大きいことに伴って剛性が高くなっている補強部材後部6cの後端に、牽引フック10が取付けられることによって、牽引フック10の取付剛性を向上させることができる。さらに、補強部材後部6cの後端に牽引フック10を取付けたことによって、フック補強部材6の後側の剛性が、フック補強部材6の前側の剛性よりさらに高くなる。よって、フック補強部材6の補強部材前部6bおよび補強部材後部6cを境とした山形折れがさらに促され、スペアタイヤハウス3の前方への変形、および前方への移動がさらに効率的に防止できる。
【0039】
本実施形態によれば、フック補強部材6の山形折れの頂部に対応したフック補強部材6の分割位置6aに、スペアタイヤSの中心が配置されているので、スペアタイヤSの後側がさらに持ち上がり易くなり、さらにスペアタイヤSが回転して傾斜し易くなっている。よって、スペアタイヤS前端の車両前方への移動および前側上方への移動を効率的に防止でき、さらにスペアタイヤハウス3およびリヤクロスメンバ5の前方への変形および前方への移動を効率的に防止できる。
【0040】
本実施形態によれば、リヤフロア2およびスペアタイヤハウス3の剛性を高めるビード13が、車幅方向に延びており、このビード13の前後位置が、サイドフレーム4の前後方向の分割位置4aと、フック補強部材6の前後方向の分割位置6aと一致しているので、リヤフロア2およびスペアタイヤハウス3の山形折れがさらに促される。よって、スペアタイヤSの前方への移動および前側上方への移動を効率的に防止でき、さらにスペアタイヤハウス3の前方への変形および前方への移動を効率的に防止できる。
【0041】
ここまで本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0042】
例えば、本実施形態の変形例として、ハット形状のスペアタイヤブラケット12の頂部12aが、その前側を持ち上げて傾斜して形成されて、この頂部12aに留められたスペアタイヤSが、その前側を上方に持ち上げて傾斜させた状態でスペアタイヤハウス3に収納されていてもよい。本実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0043】
1 車体後部
2 リヤフロア
3 スペアタイヤハウス
4 サイドフレーム
4a 分割位置
4b フレーム前部
4c フレーム後部
5 リヤクロスメンバ
6 フック補強部材
6a 分割位置
6b 補強部材前部
6c 補強部材後部
7 バンパーメンバ
10 牽引フック
12 スペアタイヤブラケット
12a 頂部
12b 前部
12c 後部
13 ビード
S スペアタイヤ
F 荷重


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体後部のリヤフロアに形成されるスペアタイヤハウスと、
車幅方向左右一対のサイドフレームを連結し、かつ前記スペアタイヤハウスの車両前方に配設されるリヤクロスメンバと、
車両前後方向に延び、かつ前記スペアタイヤハウスの下面の車幅方向中央に配設される牽引フック用のフック補強部材と、
車体後端に設けられるバンパーメンバと
を備えている車体後部の下部構造において、
前記フック補強部材の前側が前記リヤクロスメンバに取付けられ、
前記フック補強部材が、前記リヤフロアとともに閉断面を形成し、かつ前方側の前記閉断面より後方側の前記閉断面を大きくするように形成されており、
さらに前記補強部材は、前記スペアタイヤハウスに収納されるスペアタイヤの中心位置で分割されるように補強部材前部と補強部材後部とを備え、
前記補強部材後部の後端上側は、前記バンパーメンバの下方で前記バンパーメンバと重なって配置されている、車体後部の下部構造。
【請求項2】
前記補強部材後部の後端上側が、前記補強部材後部の後端下側よりも車両後方に突出して形成され、
前記牽引フックが、前記補強部材後部の後端下側に取付けられ、前記牽引フックの後端が、前後方向で車体後端のバックパネルと同位置か、または前記バックパネルより後方に突出するように配置されている、請求項1の車体後部の下部構造。
【請求項3】
前記スペアタイヤハウスの上面に前記スペアタイヤを留めるためのスペアタイヤブラケットが設けられ、
前後方向に沿った前記スペアタイヤブラケットの縦断面がハット形状に形成され、
前記スペアタイヤブラケットの頂部が、前記スペアタイヤの中心を留めることができるように構成され、
前記スペアタイヤブラケットの前部が、前記フック補強部材を分割した位置より前方で前記スペアタイヤハウスに取付けられ、
前記スペアタイヤブラケットの後部が、前記フック補強部材を分割した位置より後方で前記スペアタイヤハウスに取付けられている、請求項1または2に記載の車体後部の下部構造。
【請求項4】
前記サイドフレームが、前後方向で分割されるようにフレーム前部とフレーム後部とを備え、
前記リヤフロアに上方に突出するように形成されるビードが、前記フック補強部材を分割した位置と、前記サイドフレームを分割した位置と一致するように車幅方向に延設されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車体後部の下部構造。


【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−131712(P2011−131712A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292489(P2009−292489)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】