車体構造および車両
【課題】本発明は、本発明は、車両の外部から荷重が入力した際に、局部的な曲げ変形を充分に抑制し、衝突時の車体変形量を抑制することができる車体構造および車両を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、曲げ変形における荷重特性がフラットとなる高エネルギ吸収部材(ピラー部材4)と、高強度部材(ルーフクロスメンバ2、フロアクロスメンバ3)とを備える車体構造1であって、高エネルギ吸収部材と高強度部材とで環状形状を形成したことを特徴とする。車体構造1は、曲げ変形における荷重特性がフラットとなる高エネルギ吸収部材を備えているので、車両Vに対する衝突等によって高エネルギ吸収部材に荷重が入力された際に、高エネルギ吸収部材が衝突時のエネルギを効率よく吸収する。その結果、高エネルギ吸収部材の局部的な曲げ変形が充分に抑制される。
【解決手段】本発明は、曲げ変形における荷重特性がフラットとなる高エネルギ吸収部材(ピラー部材4)と、高強度部材(ルーフクロスメンバ2、フロアクロスメンバ3)とを備える車体構造1であって、高エネルギ吸収部材と高強度部材とで環状形状を形成したことを特徴とする。車体構造1は、曲げ変形における荷重特性がフラットとなる高エネルギ吸収部材を備えているので、車両Vに対する衝突等によって高エネルギ吸収部材に荷重が入力された際に、高エネルギ吸収部材が衝突時のエネルギを効率よく吸収する。その結果、高エネルギ吸収部材の局部的な曲げ変形が充分に抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造および車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体構造として、衝突等によって側方から入力した荷重を分散することでピラー部材の局部的な曲げ変形を抑えるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この車体構造は、例えば、図16に示すように、一対のセンタピラー104を車幅方向外側に向けて湾曲するとともに、センタピラー104のそれぞれと、ルーフクロスメンバ111およびフロアクロスメンバ113とを連続させている。また、この車体構造は、センタピラー104の上部結合部分K1に上部変位拘束手段116を設け、そして下部結合部分K2に下部変位促進手段117を設けている。
このような車体構造では、センタピラー104に、上部変位拘束手段116、および下部変位促進手段117を設けることによって、センタピラー104の上部の剛性が下部よりも大きくなっている。そのため、この車体構造は、自動車の側方から荷重が入力した際に、センタピラー104が、ルーフクロスメンバ111の中央部の回転中心C周りで下方に変位するようになっている。その結果、この車体構造は、センタピラー104が局部的に屈曲(変形)してキャビン部内に進入することを防止している。
【特許文献1】特開2005−88730号公報(段落0010〜段落0029、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この車体構造では、衝突等によってセンタピラー104が回転中心C周りで下方に変位する際に、センタピラー104の下部と、フロアクロスメンバ113とに荷重が集中することとなる。その結果、この車体構造は、センタピラー104の下部の変形量と、フロアクロスメンバ113の変形量とが増加してしまう。つまり、従来の車体構造は、自動車の外部から荷重が入力した際に、局部的な曲げ変形を充分に抑制することができないという問題があった。
【0004】
そこで、本発明は、車両の外部から荷重が入力した際に、局部的な曲げ変形を充分に抑制し、衝突時の車体変形量を抑制することができる車体構造および車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために検討した結果、入力した荷重を特定の箇所に集中させる従来の車体構造とは異なって、車両の外部から入力したエネルギの吸収量自体を増加させることで、結果的に局部的な曲げ変形が充分に抑制されることを見出して本発明に到達した。
【0006】
前記課題を解決するための本発明は、曲げ変形における荷重特性がフラットとなる高エネルギ吸収部材と、高強度部材とを備える車体構造であって、前記高エネルギ吸収部材と前記高強度部材とで環状形状を形成したことを特徴とする。
この車体構造では、曲げ変形における荷重特性がフラットとなる高エネルギ吸収部材を備えているので、車両に対する衝突等によって高エネルギ吸収部材に荷重が入力された際に高エネルギ吸収部材が衝突時のエネルギを効率よく吸収する。その結果、高エネルギ吸収部材の局部的な曲げ変形が充分に抑制される。
【0007】
また、このような車体構造においては、前記高強度部材が、前記高エネルギ吸収部材との締結部を通じて生じるモーメントによって弾性変形する間、前記高エネルギ吸収部材が曲げ変形を生じるように構成されることが望ましい。
この車体構造では、高強度部材が弾性変形して荷重を維持する間に、高エネルギ吸収部材が曲げ変形を起こしてフラットな荷重特性を発揮する。その結果、この車体構造は、衝突時のエネルギを効率よく吸収する。
【0008】
また、このような車体構造においては、前記高エネルギ吸収部材が、長尺であってその長手方向に延びる積層部を有しており、前記積層部は、機械的物性値に等方性または異方性を備える2種以上の材料のそれぞれが、前記積層部の少なくとも1部の層で前記積層部の長手方向に沿って入れ替わりに連続するように配置されて構成されていることが望ましい。
この車体構造では、積層部の長手方向に沿って、機械的物性値に等方性または異方性を備える2種以上の材料が入れ替わるように配置されるので、高エネルギ吸収部材がより確実にフラットな荷重特性を示すこととなる。また、このような高エネルギ吸収部材は、前記積層部をその横断面方向に複数連結して構成されていることが望ましい。
【0009】
そして、前記課題を解決するための本発明の車両は、前記車体構造を備えることを特徴とする。
また、本発明の車両は、前記車体構造を、車体の両側にそれぞれ設けられるセンタピラーの間に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部から荷重が入力した際に、局部的な曲げ変形を充分に抑制し、衝突時の車体変形量を抑制することができる車体構造および車両を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、適宜図面を参照して詳細に説明する。参照する図面において、図1は、実施形態に係る車体構造を備えた車両の斜視図である。図2は、実施形態に係る車体構造を構成するピラー部材の斜視図であり、図1のA部における部分拡大図(一部に破断部を含む)である。図3は、ピラー部材における積層部および連結部の強部の断面を模式的に示す図であり、図2のB−B断面図である。図4(a)および(b)は、積層部および連結部の強部における層構成を模式的に示す図である。図5は、ピラー部材における積層部および連結部の弱部の断面を模式的に示す図であり、図2のC−C断面図である。図6(a)から図6(g)は、積層部および連結部の弱部における層構成を模式的に示す図である。図7は、積層部の長手方向に引張り応力が生じた際の、「繊維の配向方向が0度、および90度の箇所(強部)」と、「繊維の配向方向が45度、および−45度の箇所(弱部)」とにおける、ひずみ率の相違について説明するためのグラフである。図8は、ピラー部材に曲げ変形を加える荷重を入力した際に、荷重の変動がフラットになる状態を示すグラフであり、縦軸が「曲げ変形を加える荷重」であり、横軸が「曲げ変形の変位量」である。
ここでは、本発明の車体構造の説明に先立ってこの車体構造が配置された車両について説明する。
【0012】
図1に示すように、車両Vは、その車体の骨格構造を形成するルーフクロスメンバ2と、フロアクロスメンバ3とを備えている。そして、ルーフクロスメンバ2は、車体の天井部を車幅方向に横切るように配置され、フロアクロスメンバ3は、車体の床部を車幅方向に横切るように配置されている。そして、車体の左右両側のそれぞれには、周知のとおり、センタピラー5,5が設けられている。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る車体構造1は、ルーフクロスメンバ2と、フロアクロスメンバ3と、4本のピラー部材4とを主に備えて構成されている。なお、ルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3は、特許請求の範囲にいう「高強度部材」に相当し、ピラー部材4は、「高エネルギ吸収部材」に相当する。
そして、本実施形態では、ピラー部材4が、車体の左右両側にそれぞれ2本ずつ配置されるとともに、各ピラー部材4の両端部のそれぞれは、ルーフクロスメンバ2の車幅方向の縁部(角部)、およびフロアクロスメンバ3の車幅方向の縁部(角部)に、アルミブラケット6を介して締結されている。なお、このアルミブラケット6は、特許請求の範囲にいう「締結部」に相当する。このようにルーフクロスメンバ2、フロアクロスメンバ3、およびピラー部材4が締結されることで、車体構造1は、外側の輪郭が略矩形または略台形の環状形状を呈している。
【0014】
ルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3は、車幅方向に長い板状部材であって、本実施形態ではCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)積層板で形成されており、HTA(PAN系炭素繊維)と熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)とを含むプリプレグを硬化させて形成したものである。ちなみに、使用したCFRP積層板は、12層を1組層として4組層が重ね合わせられた合計48層からなり、所定の角度で配向する繊維によって各層は特徴付けられている。具体的には、車幅方向と一致する繊維の配向方向を0度とし、車体の前後方向と一致する繊維の配向方向を90度とし、車体の右前方45度方向と一致する繊維の配向方向を45度とし、車体の左前方45度方向と一致する繊維の配向方向を−45度とすると、前記した1組層を構成する各層の繊維の配向方向が、下層側(車体の下側)から上層側(車体の上側)に向かって、0度、0度、45度、0度、0度、90度、90度、0度、0度、−45度、0度、および0度となるように各層は構成されている。ちなみに、このようなCFRP積層板は、上市品のプリプレグを硬化させて得られるものであってもよく、このようなプリプレグとしては、例えば、東邦テナックス(株)製のCF〔Besfight(登録商標)〕プリプレグ(原糸:HTA−12K、エポキシ樹脂37質量%含有)が挙げられる。
本実施形態での高強度部材であるルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3は、以上のような材料で形成されることによって、高強度および高剛性を発揮することとなる。
【0015】
本実施形態での高エネルギ吸収部材であるピラー部材4は、図2に示すように、長尺のE字状部材7と、長尺のE字状部材9とが一体となるように接続されたものである。そして、このピラー部材4は、E字状部材7が車外側を向き、E字状部材9が車内側を向くように配置されている。
【0016】
E字状部材7は、3つの板状の積層部7a,7b,7cと、1つの板状の連結部7dとが組み合わさって断面視がE字状の形状を呈したものである。連結部7dは、その一面側が車外側に向くように配置されている。そして、3つの積層部7a,7b,7cのぞれぞれは、その板面側が車両の前後に向いており、車両の前側から後側に、積層部7a、積層部7b、および積層部7cの順番で配置されている。つまり、3つの積層部7a,7b,7cは、その横断面方向に連結部7dを介して連結されている。
【0017】
E字状部材9は、3つの板状の補強部9a,9b,9cと、1つの板状の連結部9dとが組み合わせられて断面視がE字状の形状を呈したものである。連結部9dは、その一面側が車内側に向くとともに、その他面側がE字状部材7の連結部7bに接続されている。そして、3つの補強部9a,9b,9cのぞれぞれは、その板面側が車両の前後に向いており、車両の前側から後側に、補強部9a、補強部9b、および補強部9cの順番で連結部9dの一面側に接続されている。
【0018】
このようなE字状部材7,9のそれぞれは、CFRP積層板で形成されている。ちなみに、このようなCFRP積層板は、上市品のプリプレグを硬化させて得られるものであってもよく、ルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3の形成に使用したプリプレグを使用することもできる。
【0019】
まず、E字状部材7の構造について説明する。E字状部材7の積層部7a,7b,7cは、図2に示すように、強くて脆い機械的物性値を示す部分(以下、「強部11」という)と、弱くて伸びる機械的物性値を示す部分(以下、「弱部12」という)とがその長手方向に入れ替わりで連続するように形成されている。
【0020】
このE字状部材7は、図3に示すように、断面視が略C字状の2つの内側部材13a,13b同士が並んで一体となるように接続されるとともに、これらの内側部材13a,13bの外側に断面視で略C字状の外側部材14が一体となるように接続されて形成されている。ちなみに、図3では、説明の便宜上、内側部材13a,13b同士の間と、内側部材13a,13bと外側部材14との間に隙間が描かれているが、内側部材13a,13b同士、および内側部材13a,13bと外側部材14とは接続されている。
【0021】
次に、E字状部材7の層構成について説明する。図3に示すように、E字状部材7の強部11(図2参照)における積層部7a、積層部7b、積層部7c、および連結部7dのそれぞれは、24層からなっており、所定の角度で配向する繊維によって各層は特徴付けられている。
【0022】
まず、連結部7dにおける繊維の配向方向について説明する。ここでは、連結部7dの各層における繊維の配向方向を特定するために、図2に示すE字状部材7が延びる上方向と一致する配向方向は0度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車体の後側に45度をなす方向と一致する配向方向は45度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車体の後側に90度をなす方向(車体の前後方向)と一致する配向方向は90度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車体の後側に135度をなす方向と一致する配向方向は−45度と規定する。そして、このように繊維の配向方向を規定した場合に、連結部7dは、図3および図4(a)中のX1側からY1側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、90度、0度、45度、90度、0度、−45度、90度、0度、45度、90度、0度、および−45度となるように各層が構成されている。
【0023】
積層部7aおよび積層部7cは、図3に示すように、連結部7dを構成する各層が、車外側に屈曲するように形成されており、積層部7aおよび積層部7cのそれぞれを構成する各層の積層順は、図3および図4(a)中のX1側からY1側に向かって、連結部7dの積層順と同様になっている。また、積層部7bは、連結部7dにおける内側部材13a、および内側部材13bのそれぞれを構成する各層が、車外側に屈曲するとともに互いに合わせられて形成されており、積層部7bにおける内側部材13a、および内側部材13bのそれぞれを構成する各層の積層順は、連結部7dにおける内側部材13a、および内側部材13bの積層順と同様になっている(図3および図4(b)中のX2側からY2側まで参照)。
【0024】
ここでは、積層部7a、積層部7c、および積層部7bの各層における繊維の配向方向を特定するために、図2に示すE字状部材7が延びる上方向と一致する配向方向は0度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に45度をなす方向と一致する配向方向は45度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に90度をなす方向と一致する配向方向は90度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に135度をなす方向と一致する配向方向は−45度と規定する。
【0025】
このように繊維の配向方向を規定した場合に、積層部7aは、図3および図4(a)中のX´1側からY´1側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、90度、0度、45度、90度、0度、−45度、90度、0度、45度、90度、0度、および−45度となるように各層が構成されている。
【0026】
そして、積層部7cは、図3および図4(a)中のX´´1側からY´´1側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、90度、0度、−45度、90度、0度、45度、90度、0度、−45度、90度、0度、および45度となるように各層が構成されている。
【0027】
そして、積層部7bは、図3および図4(b)中のX´2側からY´2側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、90度、0度、−45度、90度、0度、45度、90度、0度、−45度、90度、0度、および45度となるように各層が構成されている。
【0028】
次に、E字状部材7の弱部12(図2参照)における積層部7a、積層部7b、積層部7c、および連結部7dについて説明する。図5に示すように、この弱部12における積層部7a、積層部7b、積層部7c、および連結部7dは、それぞれを構成する層が密である部分と、疎である部分とを有している。このような層の疎密は、後記するように、E字状部材7の作製時におけるプリプレグの積層数によって形成されるものである。
【0029】
まず、連結部7dの層構成について説明する。図5に示すように、連結部7dにおける内側部材13a、および内側部材13bに相当する部分では、それらの車内側であって、積層部7aと積層部7bとの間の中央部近傍、および積層部7bと積層部7cとの間の中央部近傍で層が密になっている。そして、それぞれの端部(車体の前後方向)に向かうにつれて層が疎になっている。また、連結部7dにおける外側部材14に相当する部分では、それらの車内側であって、積層部7aと積層部7cとの間の中央部近傍で層が密になっている。
【0030】
このような連結部7dにおいて、図5中のX1−Y1線部分の層構成は、層が密である内側部材13aおよび内側部材13bと、層が密である外側部材14とが重なり合って、E字状部材7の強部11(図2参照)における連結部7dの層構成(図3中のX1−Y1線部分)と同様になっている。そして、図5中のX3−Y3線部分の層構成は、層が密である内側部材13aおよび内側部材13bと、層が疎である外側部材14とが重なり合って、図6(a)に示すように、X3側からY3側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、0度、90度、−45度、0度、90度、および−45度となっている。
【0031】
そして、図5中のX4−Y4線部分の層構成は、層が疎である内側部材13aおよび内側部材13bと、層が疎である外側部材14とが重なり合って、図6(b)に示すように、X4側からY4側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、90度、0度、45度、90度、0度、0度、90度、−45度、0度、90度、および−45度となっている。
【0032】
そして、図5中のX5−Y5線部分の層構成は、層が疎である内側部材13aおよび内側部材13bと、層が密である外側部材14とが重なり合って、図6(c)に示すように、X5側からY5側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、90度、0度、45度、90度、0度、90度、0度、45度、90度、0度、−45度、90度、0度、45度、90度、0度、および−45度となっている。
【0033】
次に、E字状部材7の弱部12(図2参照)を形成する積層部7a、積層部7c、および積層部7bの層構成について説明する。図5および図6(d)に示すように、X6−Y6線部分で表わされる、連結部7dから延びる積層部7aの基端部、および連結部7dから延びる積層部7cの基端部には、内側部材13aおよび内側部材13bのそれぞれにおける45度、90度、0度、45度、90度、および0度の層、ならびに連結部7d(外側部材14)の最も車内側に位置する−45度の層が延びている。
また、図5および図6(e)に示すように、X7−Y7線部分で表わされる、連結部7dから延びる積層部7bの基端部には、内側部材13aおよび内側部材13bのそれぞれにおける45度、90度、0度、45度、90度、および0度の層が延びている。
【0034】
弱部12(図2参照)における積層部7aおよび積層部7cのそれぞれは、図5に示すように、これらの基端部を除いて、連結部7d(内側部材13aおよび内側部材13b)の最も車外側に位置する45度の層、ならびに連結部7d(内側部材13aおよび内側部材13b)の最も車内側に位置する−45度の層が車外側に屈曲するように形成されている。つまり、図5および図6(f)に示すように、X8−Y8線部分で表わされる積層部7a、および積層部7cには、内側部材13aおよび内側部材13bのそれぞれにおける45度、および−45度の層が延びている。また、図5および図6(g)に示すように、X9−Y9線部分で表わされる積層部7bには、内側部材13aおよび内側部材13bのそれぞれにおける45度、および45度の層が延びている。
【0035】
ここでは、前記した強部11と同様に、弱部12での積層部7a、積層部7c、および積層部7bの各層における繊維の配向方向を特定するために、図2に示すE字状部材7が延びる上方向と一致する配向方向は0度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に45度をなす方向と一致する配向方向は45度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に90度をなす方向と一致する配向方向は90度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に135度をなす方向と一致する配向方向は−45度と規定する。
【0036】
このように繊維の配向方向を規定した場合に、積層部7aの基端部は、図5および図6(d)中のX´6側からY´6側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、90度、0度、45度、90度、0度、および−45度となるように各層が構成されている。
そして、積層部7cの基端部は、図5および図6(d)中のX´´6側からY´´6側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、90度、0度、−45度、90度、0度、および45度となるように各層が構成されている。
そして、積層部7bの基端部は、図5および図6(e)中のX´7側からY´7側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、90度、0度、−45度、90度、0度、0度、90度、45度、0度、90度、および45度となるように各層が構成されている。
そして、積層部7aは、図5および図6(f)中のX´8側からY´8側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、および−45度となるように各層が構成されている。
そして、積層部7cは、図5および図6(f)中のX´´8側からY´´8側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、および45度となるように各層が構成されている。
そして、積層部7bは、図5および図6(g)中のX´9側からY´9側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、および45度となるように各層が構成されている。
ちなみに、連結部7dから車外側に向かって屈曲するように延びて、E字状部材7の最も外側を覆う−45度層と、最も内側を覆う45度層との間は、前記した熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)で満たされることとなる。
【0037】
ピラー部材4のE字状部材9(図2参照)は、E字状部材7の強部11(図3参照)と同様の層構成となっている。ただし、後記するように、E字状部材9は、E字状部材7のように各層に継ぎ目15(図13参照)を有していない点でE字状部材7と相違している。つまり、E字状部材9における3つの板状の補強部9a,9b,9c(図2参照)は、E字状部材7の強部11における3つの積層部7a,7b,7c(図3参照)に対応しており、補強部9d(図2参照)は、E字状部材7の強部11における連結部7b(図3参照)に対応している。
【0038】
次に、E字状部材7の積層部7a,7b,7cにおける強部11と、弱部12とにおける双方の機械的物性値の相違について説明する。
E字状部材7の積層部7a,7b,7cにおける強部11は、図3、図4(a)および図4(b)におけるX´1側乃至Y´1側間、X´´1側乃至Y´´1側間、およびX´2側乃至Y´2側間を構成する層に、その繊維の配向方向が、0度、および90度となる層を含んでいる。なお、ここでの配向方向は、積層部7a,7b,7cが延びる上方向と一致する配向方向は0度とし、積層部7a,7b,7cが延びる上方向に対して車外側に90度をなす方向と一致する配向方向は90度と規定してる。
【0039】
そして、積層部7a,7b,7cにおける弱部12は、図5、図6(f)および図6(g)におけるX´8側乃至Y´8側間、X´´8側乃至Y´´8側間、およびX´9側乃至Y´9側間を構成する層が、45度、および−45度層となっている。なお、ここでの配向方向は、積層部7a,7b,7cが延びる上方向に対して車外側に45度をなす方向と一致する配向方向は45度とし、積層部7a,7b,7cが延びる上方向に対して車外側に135度をなす方向と一致する配向方向は−45度と規定している。
【0040】
ここでは、積層部7a,7b,7cの長手方向に引張り応力が生じた際の、「繊維の配向方向が0度、および90度の箇所(強部11に相当する)」と、「繊維の配向方向が45度、および−45度の箇所(弱部12に相当する)」」とにおける、ひずみ率の相違について説明する。
【0041】
図7に示すように、「繊維の配向方向が0度、および90度の箇所」(図7中、「0度/90度方向」で表す)においては、引張り応力に対するひずみ率は小さくなっており、「繊維の配向方向が45度、および−45度の箇所」(図7中、「45度/−45度方向」で表す)においては、引張り応力に対するひずみ率は大きくなっている。言い換えれば、強部11は、強くて脆い特性を有するとともに、弱部12は、弱くて延びる特性を有することとなる。また、圧縮応力に対するひずみ率の関係では、特に図で説明しないが、強部11は、強くて脆い特性を有するとともに、弱部12は、弱くて縮みやすい特性を有することとなる。
【0042】
本実施形態での強部11および弱部12は、前記したように、CFRP積層板で形成されているが、他の繊維強化プラスチックや、繊維強化金属で形成されていてもよい。このような他の繊維強化複合材料で形成された強部11および弱部12であっても、繊維の配向方向を制御することで、積層部7a,7b,7cの長手方向に機械的物性値の異なる部材が入れ替わりに連続するように形成することができる。言い換えれば、部材の機械的物性値に異方性を付与することで機械的物性値の変更が可能となる。また、強部11および弱部12の材料は、等方性を有する、繊維強化プラスチック、繊維強化金属、鉄、アルミニウム、樹脂等の材料から選択した相互に機械的物性値の異なる2種を選択して使用してもよい。また、強部11および弱部12は、等方性を有する、鉄、アルミニウム、樹脂等の単一材料の延伸方向を制御することで、機械的物性値に異方性を付与したもので形成してもよい。なお、前記した機械的物性値としては、公知の物性値でよく、前記したひずみ率のほか、例えば、引張強度、圧縮強度、曲げ弾性等が挙げられる。
【0043】
以上のようなピラー部材4は、曲げ変形における荷重特性がフラットになる部材である。ここで「荷重特性がフラット」とは、図8に示すように、ピラー部材4に曲げ変形を加える荷重を入力した際に、曲げ変形の変位量が次第に増大していくとともに、ピーク荷重Xを示した変位量から更に変位量が増大したとしても入力する荷重の変動がフラットになる状態をいう。なお、図8に、比較例として、部材Qの荷重特性を併せて示す。この部材Qは、ピラー部材4と同形状であって、E字状部材7の層構成をE字状部材9と同様に設定したものである。この部材Qは、ピーク荷重Yを示した後に、曲げ変形の変位量がさらに増大することで、入力する荷重が急激に落ち込むように変動する。この部材Qの荷重特性は、フラットでない場合を典型的に表わしている。したがって、本発明の特徴である強弱構造をとらずに、単にCFRP積層板で構成したもの(例えば、部材Q)が配置された車体構造は、本発明の効果を奏し得ない。
【0044】
次に、本実施形態に係る車体構造1の動作について適宜図面を参照しながら説明しつつ、この車体構造1の作用効果について説明する。参照する図面において、図9は、車体構造に荷重が入力された際に、ルーフクロスメンバ、フロアクロスメンバ、およびピラー部材が曲げ変形する様子を示す模式図である。図10は、車体構造の荷重特性を示すグラフであり、縦軸が車体構造に入力される荷重であり、横軸は、車体構造(ピラー部材)の変位量である。図11は、本実施形態に係る車体構造を備える車両に他の車両(相手車両)が側面衝突した際の車体進入量を示すグラフであり、縦軸が相手車両で測定される反力であり、横軸が車体進入量である。
【0045】
この車体構造1では、例えば、衝突等によって車両V(図1参照)の側方から荷重が入力すると、図9に示すように、ピラー部材4に荷重が入力されるとともに、ルーフクロスメンバ2にはアルミブラケット6周りでモーメントM1が生じ、フロアクロスメンバ3には、アルミブラケット6周りでモーメントM2が生じる。そして、このモーメントM1によって、ルーフクロスメンバ2は、二点鎖線で示す位置から実線で示す位置へと変位する。また、モーメントM2によって、フロアクロスメンバ3は、二点鎖線で示す位置から実線で示す位置へと変位する。このとき、ルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3は、高強度部材で構成されているので、その変位量が僅かであり、ルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3よりも、ピラー部材4は優先的に曲げ変形を生じる。そして、ピラー部材4は、積層部7a,7b,7cを備えており、この積層部7a,7b,7cには、その長手方向に強くて脆い機械的物性値を示す部分(強部11)と、弱くて延びる機械的物性値を示す部分(弱部12)とが入れ替わりで連続するように配置されている。その結果、ピラー部材4は、フラットな荷重特性を示しながら曲げ変形を生じていく。
【0046】
このことは、強くて脆い部分の間に、弱くて延びる部分が挟み込まれることで、曲げ変形の範囲が積層部7a,7b,7cの長手方向の広い範囲で生じるとともに、ピラー部材4に入力された荷重負荷を分散させることによる。つまり、積層部7a,7b,7cの曲げモーメントの分布は、分布荷重時のように、荷重入力部から周辺部に向かって広げられることとなる。また、曲げモーメントの分布が広げられることで、強くて脆い部分にも大きな曲げモーメントがかかることとなって荷重を発生させることができる。つまり、このような積層部7a,7b,7cを備えるピラー部材4は、フラットな荷重特性を示しながら曲げ変形を生じていく。
【0047】
次に、このようなピラー部材4を備えた車体構造1の荷重特性を更に具体的に説明する。ここでは、車体構造1の外側からピラー部材4に重さ30tで充分な剛性を有する重量物を時速55kmで衝突させた。その結果、車体構造1では、図10に示すように、ピラー部材4の曲げ変形の変位量(図10の横軸で示す)が次第に増大していくとともに、ピラー部材4の荷重(図10の縦軸で示す)がピークとなる変位量から更に変位量が増大したとしても、入力する荷重の変動がフラットになっている。そして、比較例として、従来のショットピーニング処理した鋼材(SP材)を使用した以外は車体構造1と同様の環状構造(図10中、「従来の車体構造」と記す)においても、車体構造1に行ったと同じ条件で重量物を衝突させた。その結果、図10に示すように、従来の車体構造では、車体構造の構成部材におけるピーク荷重を示した後に構成部材が降伏するために、ピーク荷重後の荷重が低下しており、従来の車体構造はフラットな荷重特性を示していない。そして、車体構造1では、従来の車体構造と比較して荷重値自体が高くなっている。
【0048】
次に、車体構造1を備えた車両V(図1参照)である自動車(以下、「車体構造1を備えた自動車」という)の側面に、他の自動車(以下、「相手車両」という)を時速55kmで衝突させた際の車体進入量を測定した。具体的には、車体構造1を備えた自動車に相手車両を衝突させた際の、相手車両で測定される反力を測定するとともに、車体構造1を備えた自動車のセンタピラー5(図1参照)の位置における車体進入量を測定した。ちなみに、車体構造1を備えた自動車の重量は1.5tであり、相手車両の重量は30tであった。その結果を図11に示す。なお、図11中、「車体構造1を備えた自動車」を単に「車体構造1」と記す。
【0049】
また、980MPa級のハイテンシルスチール(以下、「ハイテン」という)を使用した以外は車体構造1と同様の環状構造を適用した自動車においても、車体構造1に行ったと同じ条件で相手車両を衝突させて、前記反力と前記車体進入量とを測定した。ちなみに、ハイテン環状構造を使用した自動車の重量は1.6tであった。その結果を図11に示す。なお、図11中、「ハイテン環状構造を使用した自動車」を単に「ハイテン環状構造」と記す。
【0050】
また、車体構造1やハイテン環状構造を有していない自動車(以下、単に「従来の車体構造を使用した自動車」という)においても、車体構造1に行ったと同じ条件で相手車両を衝突させて、前記反力と前記車体進入量とを測定した。その結果を図11に示す。なお、図11中、「従来の車体構造を使用した自動車」を単に「従来の車体構造」と記す。
【0051】
車体構造1を備えた自動車は、図11に示すように、ピラー部材4(図1参照)の曲げ変形による荷重の低下を起こさないので、ピラー部材4の折れ曲がりによる車体進入量を、ハイテン環状構造を使用した自動車や、従来の車体構造を使用した自動車と比較して半減することができた。
また、ハイテン環状構造は、ピーク荷重が初期に発生するのみで、衝突のエネルギを充分に吸収することができないために、車体進入量を充分に低減することができないと考えられる。これに対して、車体構造1は、この図11からも、フラットな荷重特性を有することが明らかであり、このことから車体構造1は、車体進入量が充分に低減されたものと考えられる。
また、車体構造1は、ハイテン環状構造と比較して、100kg程度の重量を軽減することができた。
【0052】
以上のような車体構造1および車両Vによれば、外部から荷重が入力した際に、局部的な曲げ変形を充分に抑制し、衝突時の車体変形量を抑制することができる。
【0053】
次に、ピラー部材4の製造方法について適宜図面を参照しながら説明する。参照する図面において、図12は、E字状部材7の製造工程を説明するための斜視図であり、(a)および(b)は、E字状部材7の内側部材の製造工程を示す図、(c)および(d)は、E字状部材7の内側部材の製造工程を示す図である。図13は、図3中のD部拡大図である。
【0054】
この製造方法では、図12(a)に示すように、所定の型(図示せず)に内側部材13a,13b(図3参照)の第1層目(図3に示す内側部材13aまたは内側部材13bの最も車外側に位置する層)に相当する長尺のプリプレグ21が断面視で略C字状に配置される。次いで、このプリプレグ21の折り曲げ部を覆うように略C字状のプリプレグ22aがプリプレグ21の上側に配置される。そして、プリプレグ21の両側面には、その長手方向に沿うように、複数の矩形のプリプレグ22bが所定の間隔をあけて配置される。
【0055】
次に、図12(b)に示すように、プリプレグ22aとプリプレグ22bとの継ぎ目15、およびプリプレグ22aの折り曲げ部を覆うとともに、プリプレグ22bと重なるように複数のプリプレグ23bが前記した所定の間隔で配置される。そして、プリプレグ22aの上側には、プリプレグ22aの長手方向に沿うように、プリプレグ23aが配置される。そして、図12(a)および(b)に示す工程を6工程繰り返すことによって、内側部材13aおよび内側部材13b(図3参照)が形成されることとなる。
【0056】
次に、図12(c)に示すように、前記した工程を経て得られた内側部材13aおよび内側部材13bは、横並びに配置される。そして、内側部材13aおよび内側部材13bの長手方向に沿う上側の角部を覆うように、複数のプリプレグ24bが、並べられた内側部材13aおよび内側部材13bの両側面に配置される。このとき、プリプレグ24bは、プリプレグ23aおよびプリプレグ23bとの継ぎ目15aを覆うとともに、プリプレグ23bと重なるように配置される。次に、並べられた内側部材13aおよび内側部材13bの上側には、その長手方向に沿うように、プリプレグ24aが配置される。このとき、プリプレグ24aは、プリプレグ23aとプリプレグ23bとの継ぎ目15bを覆うように配置される。
【0057】
次に、図12(d)に示すように、プリプレグ24bの折り曲げ部を覆うようにプリプレグ24bに重ねて複数のプリプレグ25bが配置される。そして、プリプレグ24aとプリプレグ24bとの継ぎ目15cを覆うようにプリプレグ24aの長手方向に沿ってプリプレグ25aが配置される。そして、図12(c)および(d)に示す工程を5工程繰り返してから、さらに図12(c)に示す工程を行った後に、図3に示す最も車内側に位置する層が積層されることによって、外側部材14(図3参照)が形成される。
ちなみに、プリプレグ22b、プリプレグ23b、プリプレグ24b、およびプリプレグ25bが相互に重なっている部分で強部11(図2参照)が形成され、プリプレグ21の長手方向に沿うようにプリプレグ22b同士の間、プリプレグ23b同士の間、プリプレグ24b同士の間、およびプリプレグ25b同士の間に所定の間隔で設けられた隙間で弱部12(図2参照)が形成される。ちなみに、この弱部12は、前記したように、熱硬化性樹脂で埋められて形成されることとなる。
【0058】
このような工程を経て得られた積層体は、後記するように熱硬化されてE字状部材7となる。ちなみに、E字状部材7では、このような積層工程を経ることによって、図13に示すように、継ぎ目15が、隣接する層20によってオーバーラップされることとなる。その結果、各層20間での所定の強度は維持されることとなる。
【0059】
次に、E字状部材9を得るための積層体が形成される。この積層体は、継ぎ目15を有していない以外は、E字状部材7を得るための積層体の強部11(図2参照)となる部分と同様の層構成となっている。したがって、図3に示す層構成となるように所定のプリプレグが継ぎ目15(図4参照)なしに順次に積層していくことによってこの積層体は得られる。
【0060】
そして、E字状部材7を得るための積層体と、E字状部材9を得るための積層体とが、相互の外側部材14に対応する部分で合わせられるとともに、これを熱硬化させることによってピラー部材4が製造される。
【0061】
以上、本発明の車体構造を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に何ら制限されるものではない。以下、本発明の他の実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。なお、参照する図面において、図14(a)および(b)は、他の実施形態に係る車体構造で使用するピラー部材の部分斜視図である。図15(a)および(b)は、車両における車体構造の配置位置を説明するための斜視図である。
【0062】
前記実施形態では、ピラー部材4のE字状部材7が、板状の部材(積層部7a,7b,7c、連結部7d)から形成されているが、本発明の車体構造では、図14(a)に示すように、ピラー部材4が中実の長尺部材であってもよいし、図14(b)に示すように、ピラー部材4が中空の長尺部材であってもよい。このようなピラー部材4では、このピラー部材4の長手方向に沿って、機械的物性値が相互に異なる部材20および部材21が入れ替わりに連続して配置されている。なお、このピラー部材4の断面の外形は、矩形を呈しているが、この形状に特に制限はなく、矩形以外の多角形、円形、楕円形のいずれであってもよい。
【0063】
また、前記実施形態では、ピラー部材4の長手方向に機械的物性値の異なる2種の部材が入れ替わりに連続して配置されているが、本発明は、機械的物性値の異なる3種以上の部材が入れ替わりに連続して配置されているピラー部材4を備えるものであってもよい。
【0064】
また、前記実施形態では、ピラー部材4の積層部7a,7b,7cを構成する複数層のうち、一部の層で、機械的物性値の異なる2種の部材が入れ替わりに連続して配置されているが、本発明は、積層部7a,7b,7cの全ての層で機械的物性値の異なる2種の材料が入れ替わりに連続して配置されているものであってもよい。
【0065】
また、前記実施形態では、ピラー部材4が、積層部7a,7b,7c、および連結部7dを有するE字状部材7と、補強部9a,9b,9c、および連結部9dを有するE字状部材9とで構成されているが、本発明は、ピラー部材4が積層部7a,7b,7cのみで構成されるものであってもよい。
【0066】
また、前記実施形態では、車体構造1が車体の両側にそれぞれ設けられるセンタピラー5の間に配置されているが、本発明は、図15(a)に示すように、車体の側面に沿うように配置されていてもよい。このとき、上側の高強度部材2aは、例えば、ルーフサイドレール(図示せず)に沿うように配置され、下側の高強度部材2bは、サイドシル(図示せず)に沿うように配置され、前側の高エネルギ吸収部材4aがフロントピラー(図示せず)に沿うように配置され、後側の高エネルギ吸収部材4bがリアピラー(図示せず)に沿うように配置されてもよい。
【0067】
また、本発明は、図15(b)に示すように、車体構造1が車体の床面に沿うように配置されていてもよい。このとき、前側の高強度部材2aは、例えば、フロントフロアクロスメンバ(図示せず)に沿うように配置され、後側の高強度部材2bは、リアフロアクロスメンバ(図示せず)に沿うように配置され、左右両側の高エネルギ吸収部材4a,4bがサイドシル(図示せず)に沿うように配置されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施形態に係る車体構造を備えた車両の斜視図である。
【図2】実施形態に係る車体構造を構成するピラー部材の斜視図であり、図1のA部における部分拡大図(一部に破断部を含む)である。
【図3】ピラー部材における積層部および連結部の強部の断面を模式的に示す図であり、図2のB−B断面図である。
【図4】(a)および(b)は、積層部および連結部の強部における層構成を模式的に示す図である。
【図5】ピラー部材における積層部および連結部の弱部の断面を模式的に示す図であり、図2のC−C断面図である。
【図6】(a)から(g)は、積層部および連結部の弱部における層構成を模式的に示す図である。
【図7】積層部の長手方向に引張り応力が生じた際の、「繊維の配向方向が0度、および90度の箇所」と、「繊維の配向方向が45度、および−45度の箇所」とにおける、ひずみ率の相違について説明するためのグラフである。
【図8】ピラー部材に曲げ変形を加える荷重を入力した際に、荷重の変動がフラットになる状態を示すグラフであり、縦軸が「曲げ変形を加える荷重」であり、横軸が「曲げ変形の変位量」である。
【図9】車体構造に荷重が入力された際に、ルーフクロスメンバ、フロアクロスメンバ、およびピラー部材が曲げ変形する様子を示す模式図である。
【図10】車体構造の荷重特性を示すグラフであり、縦軸が車体構造に入力される荷重であり、横軸は、車体構造(ピラー部材)の変位量である。
【図11】車体構造を備える車両に他の車両(相手車両)が側面衝突した際の車体進入量を示すグラフであり、縦軸が相手車両で測定される反力であり、横軸が車体進入量である。
【図12】(a)および(b)は、E字状部材の内側部材の製造工程を示す図、(c)および(d)は、E字状部材の内側部材の製造工程を示す図である。
【図13】図3中のD部拡大図である。
【図14】(a)および(b)は、他の実施形態に係る車体構造で使用するピラー部材の部分斜視図である。
【図15】(a)および(b)は、車両における車体構造の配置位置を説明するための斜視図である。
【図16】従来の車体構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
1 車体構造
2 ルーフクロスメンバ(高強度部材)
2a 高強度部材
2b 高強度部材
3 フロアクロスメンバ(高強度部材)
4 ピラー部材(高エネルギ吸収部材)
4a 高エネルギ吸収部材
4b 高エネルギ吸収部材
5 センタピラー
6 アルミブラケット(締結部)
7a 積層部
7b 積層部
7c 積層部
M1 モーメント
M2 モーメント
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体構造および車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体構造として、衝突等によって側方から入力した荷重を分散することでピラー部材の局部的な曲げ変形を抑えるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この車体構造は、例えば、図16に示すように、一対のセンタピラー104を車幅方向外側に向けて湾曲するとともに、センタピラー104のそれぞれと、ルーフクロスメンバ111およびフロアクロスメンバ113とを連続させている。また、この車体構造は、センタピラー104の上部結合部分K1に上部変位拘束手段116を設け、そして下部結合部分K2に下部変位促進手段117を設けている。
このような車体構造では、センタピラー104に、上部変位拘束手段116、および下部変位促進手段117を設けることによって、センタピラー104の上部の剛性が下部よりも大きくなっている。そのため、この車体構造は、自動車の側方から荷重が入力した際に、センタピラー104が、ルーフクロスメンバ111の中央部の回転中心C周りで下方に変位するようになっている。その結果、この車体構造は、センタピラー104が局部的に屈曲(変形)してキャビン部内に進入することを防止している。
【特許文献1】特開2005−88730号公報(段落0010〜段落0029、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この車体構造では、衝突等によってセンタピラー104が回転中心C周りで下方に変位する際に、センタピラー104の下部と、フロアクロスメンバ113とに荷重が集中することとなる。その結果、この車体構造は、センタピラー104の下部の変形量と、フロアクロスメンバ113の変形量とが増加してしまう。つまり、従来の車体構造は、自動車の外部から荷重が入力した際に、局部的な曲げ変形を充分に抑制することができないという問題があった。
【0004】
そこで、本発明は、車両の外部から荷重が入力した際に、局部的な曲げ変形を充分に抑制し、衝突時の車体変形量を抑制することができる車体構造および車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために検討した結果、入力した荷重を特定の箇所に集中させる従来の車体構造とは異なって、車両の外部から入力したエネルギの吸収量自体を増加させることで、結果的に局部的な曲げ変形が充分に抑制されることを見出して本発明に到達した。
【0006】
前記課題を解決するための本発明は、曲げ変形における荷重特性がフラットとなる高エネルギ吸収部材と、高強度部材とを備える車体構造であって、前記高エネルギ吸収部材と前記高強度部材とで環状形状を形成したことを特徴とする。
この車体構造では、曲げ変形における荷重特性がフラットとなる高エネルギ吸収部材を備えているので、車両に対する衝突等によって高エネルギ吸収部材に荷重が入力された際に高エネルギ吸収部材が衝突時のエネルギを効率よく吸収する。その結果、高エネルギ吸収部材の局部的な曲げ変形が充分に抑制される。
【0007】
また、このような車体構造においては、前記高強度部材が、前記高エネルギ吸収部材との締結部を通じて生じるモーメントによって弾性変形する間、前記高エネルギ吸収部材が曲げ変形を生じるように構成されることが望ましい。
この車体構造では、高強度部材が弾性変形して荷重を維持する間に、高エネルギ吸収部材が曲げ変形を起こしてフラットな荷重特性を発揮する。その結果、この車体構造は、衝突時のエネルギを効率よく吸収する。
【0008】
また、このような車体構造においては、前記高エネルギ吸収部材が、長尺であってその長手方向に延びる積層部を有しており、前記積層部は、機械的物性値に等方性または異方性を備える2種以上の材料のそれぞれが、前記積層部の少なくとも1部の層で前記積層部の長手方向に沿って入れ替わりに連続するように配置されて構成されていることが望ましい。
この車体構造では、積層部の長手方向に沿って、機械的物性値に等方性または異方性を備える2種以上の材料が入れ替わるように配置されるので、高エネルギ吸収部材がより確実にフラットな荷重特性を示すこととなる。また、このような高エネルギ吸収部材は、前記積層部をその横断面方向に複数連結して構成されていることが望ましい。
【0009】
そして、前記課題を解決するための本発明の車両は、前記車体構造を備えることを特徴とする。
また、本発明の車両は、前記車体構造を、車体の両側にそれぞれ設けられるセンタピラーの間に配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部から荷重が入力した際に、局部的な曲げ変形を充分に抑制し、衝突時の車体変形量を抑制することができる車体構造および車両を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、適宜図面を参照して詳細に説明する。参照する図面において、図1は、実施形態に係る車体構造を備えた車両の斜視図である。図2は、実施形態に係る車体構造を構成するピラー部材の斜視図であり、図1のA部における部分拡大図(一部に破断部を含む)である。図3は、ピラー部材における積層部および連結部の強部の断面を模式的に示す図であり、図2のB−B断面図である。図4(a)および(b)は、積層部および連結部の強部における層構成を模式的に示す図である。図5は、ピラー部材における積層部および連結部の弱部の断面を模式的に示す図であり、図2のC−C断面図である。図6(a)から図6(g)は、積層部および連結部の弱部における層構成を模式的に示す図である。図7は、積層部の長手方向に引張り応力が生じた際の、「繊維の配向方向が0度、および90度の箇所(強部)」と、「繊維の配向方向が45度、および−45度の箇所(弱部)」とにおける、ひずみ率の相違について説明するためのグラフである。図8は、ピラー部材に曲げ変形を加える荷重を入力した際に、荷重の変動がフラットになる状態を示すグラフであり、縦軸が「曲げ変形を加える荷重」であり、横軸が「曲げ変形の変位量」である。
ここでは、本発明の車体構造の説明に先立ってこの車体構造が配置された車両について説明する。
【0012】
図1に示すように、車両Vは、その車体の骨格構造を形成するルーフクロスメンバ2と、フロアクロスメンバ3とを備えている。そして、ルーフクロスメンバ2は、車体の天井部を車幅方向に横切るように配置され、フロアクロスメンバ3は、車体の床部を車幅方向に横切るように配置されている。そして、車体の左右両側のそれぞれには、周知のとおり、センタピラー5,5が設けられている。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る車体構造1は、ルーフクロスメンバ2と、フロアクロスメンバ3と、4本のピラー部材4とを主に備えて構成されている。なお、ルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3は、特許請求の範囲にいう「高強度部材」に相当し、ピラー部材4は、「高エネルギ吸収部材」に相当する。
そして、本実施形態では、ピラー部材4が、車体の左右両側にそれぞれ2本ずつ配置されるとともに、各ピラー部材4の両端部のそれぞれは、ルーフクロスメンバ2の車幅方向の縁部(角部)、およびフロアクロスメンバ3の車幅方向の縁部(角部)に、アルミブラケット6を介して締結されている。なお、このアルミブラケット6は、特許請求の範囲にいう「締結部」に相当する。このようにルーフクロスメンバ2、フロアクロスメンバ3、およびピラー部材4が締結されることで、車体構造1は、外側の輪郭が略矩形または略台形の環状形状を呈している。
【0014】
ルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3は、車幅方向に長い板状部材であって、本実施形態ではCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)積層板で形成されており、HTA(PAN系炭素繊維)と熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)とを含むプリプレグを硬化させて形成したものである。ちなみに、使用したCFRP積層板は、12層を1組層として4組層が重ね合わせられた合計48層からなり、所定の角度で配向する繊維によって各層は特徴付けられている。具体的には、車幅方向と一致する繊維の配向方向を0度とし、車体の前後方向と一致する繊維の配向方向を90度とし、車体の右前方45度方向と一致する繊維の配向方向を45度とし、車体の左前方45度方向と一致する繊維の配向方向を−45度とすると、前記した1組層を構成する各層の繊維の配向方向が、下層側(車体の下側)から上層側(車体の上側)に向かって、0度、0度、45度、0度、0度、90度、90度、0度、0度、−45度、0度、および0度となるように各層は構成されている。ちなみに、このようなCFRP積層板は、上市品のプリプレグを硬化させて得られるものであってもよく、このようなプリプレグとしては、例えば、東邦テナックス(株)製のCF〔Besfight(登録商標)〕プリプレグ(原糸:HTA−12K、エポキシ樹脂37質量%含有)が挙げられる。
本実施形態での高強度部材であるルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3は、以上のような材料で形成されることによって、高強度および高剛性を発揮することとなる。
【0015】
本実施形態での高エネルギ吸収部材であるピラー部材4は、図2に示すように、長尺のE字状部材7と、長尺のE字状部材9とが一体となるように接続されたものである。そして、このピラー部材4は、E字状部材7が車外側を向き、E字状部材9が車内側を向くように配置されている。
【0016】
E字状部材7は、3つの板状の積層部7a,7b,7cと、1つの板状の連結部7dとが組み合わさって断面視がE字状の形状を呈したものである。連結部7dは、その一面側が車外側に向くように配置されている。そして、3つの積層部7a,7b,7cのぞれぞれは、その板面側が車両の前後に向いており、車両の前側から後側に、積層部7a、積層部7b、および積層部7cの順番で配置されている。つまり、3つの積層部7a,7b,7cは、その横断面方向に連結部7dを介して連結されている。
【0017】
E字状部材9は、3つの板状の補強部9a,9b,9cと、1つの板状の連結部9dとが組み合わせられて断面視がE字状の形状を呈したものである。連結部9dは、その一面側が車内側に向くとともに、その他面側がE字状部材7の連結部7bに接続されている。そして、3つの補強部9a,9b,9cのぞれぞれは、その板面側が車両の前後に向いており、車両の前側から後側に、補強部9a、補強部9b、および補強部9cの順番で連結部9dの一面側に接続されている。
【0018】
このようなE字状部材7,9のそれぞれは、CFRP積層板で形成されている。ちなみに、このようなCFRP積層板は、上市品のプリプレグを硬化させて得られるものであってもよく、ルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3の形成に使用したプリプレグを使用することもできる。
【0019】
まず、E字状部材7の構造について説明する。E字状部材7の積層部7a,7b,7cは、図2に示すように、強くて脆い機械的物性値を示す部分(以下、「強部11」という)と、弱くて伸びる機械的物性値を示す部分(以下、「弱部12」という)とがその長手方向に入れ替わりで連続するように形成されている。
【0020】
このE字状部材7は、図3に示すように、断面視が略C字状の2つの内側部材13a,13b同士が並んで一体となるように接続されるとともに、これらの内側部材13a,13bの外側に断面視で略C字状の外側部材14が一体となるように接続されて形成されている。ちなみに、図3では、説明の便宜上、内側部材13a,13b同士の間と、内側部材13a,13bと外側部材14との間に隙間が描かれているが、内側部材13a,13b同士、および内側部材13a,13bと外側部材14とは接続されている。
【0021】
次に、E字状部材7の層構成について説明する。図3に示すように、E字状部材7の強部11(図2参照)における積層部7a、積層部7b、積層部7c、および連結部7dのそれぞれは、24層からなっており、所定の角度で配向する繊維によって各層は特徴付けられている。
【0022】
まず、連結部7dにおける繊維の配向方向について説明する。ここでは、連結部7dの各層における繊維の配向方向を特定するために、図2に示すE字状部材7が延びる上方向と一致する配向方向は0度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車体の後側に45度をなす方向と一致する配向方向は45度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車体の後側に90度をなす方向(車体の前後方向)と一致する配向方向は90度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車体の後側に135度をなす方向と一致する配向方向は−45度と規定する。そして、このように繊維の配向方向を規定した場合に、連結部7dは、図3および図4(a)中のX1側からY1側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、90度、0度、45度、90度、0度、−45度、90度、0度、45度、90度、0度、および−45度となるように各層が構成されている。
【0023】
積層部7aおよび積層部7cは、図3に示すように、連結部7dを構成する各層が、車外側に屈曲するように形成されており、積層部7aおよび積層部7cのそれぞれを構成する各層の積層順は、図3および図4(a)中のX1側からY1側に向かって、連結部7dの積層順と同様になっている。また、積層部7bは、連結部7dにおける内側部材13a、および内側部材13bのそれぞれを構成する各層が、車外側に屈曲するとともに互いに合わせられて形成されており、積層部7bにおける内側部材13a、および内側部材13bのそれぞれを構成する各層の積層順は、連結部7dにおける内側部材13a、および内側部材13bの積層順と同様になっている(図3および図4(b)中のX2側からY2側まで参照)。
【0024】
ここでは、積層部7a、積層部7c、および積層部7bの各層における繊維の配向方向を特定するために、図2に示すE字状部材7が延びる上方向と一致する配向方向は0度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に45度をなす方向と一致する配向方向は45度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に90度をなす方向と一致する配向方向は90度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に135度をなす方向と一致する配向方向は−45度と規定する。
【0025】
このように繊維の配向方向を規定した場合に、積層部7aは、図3および図4(a)中のX´1側からY´1側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、90度、0度、45度、90度、0度、−45度、90度、0度、45度、90度、0度、および−45度となるように各層が構成されている。
【0026】
そして、積層部7cは、図3および図4(a)中のX´´1側からY´´1側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、90度、0度、−45度、90度、0度、45度、90度、0度、−45度、90度、0度、および45度となるように各層が構成されている。
【0027】
そして、積層部7bは、図3および図4(b)中のX´2側からY´2側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、90度、0度、−45度、90度、0度、45度、90度、0度、−45度、90度、0度、および45度となるように各層が構成されている。
【0028】
次に、E字状部材7の弱部12(図2参照)における積層部7a、積層部7b、積層部7c、および連結部7dについて説明する。図5に示すように、この弱部12における積層部7a、積層部7b、積層部7c、および連結部7dは、それぞれを構成する層が密である部分と、疎である部分とを有している。このような層の疎密は、後記するように、E字状部材7の作製時におけるプリプレグの積層数によって形成されるものである。
【0029】
まず、連結部7dの層構成について説明する。図5に示すように、連結部7dにおける内側部材13a、および内側部材13bに相当する部分では、それらの車内側であって、積層部7aと積層部7bとの間の中央部近傍、および積層部7bと積層部7cとの間の中央部近傍で層が密になっている。そして、それぞれの端部(車体の前後方向)に向かうにつれて層が疎になっている。また、連結部7dにおける外側部材14に相当する部分では、それらの車内側であって、積層部7aと積層部7cとの間の中央部近傍で層が密になっている。
【0030】
このような連結部7dにおいて、図5中のX1−Y1線部分の層構成は、層が密である内側部材13aおよび内側部材13bと、層が密である外側部材14とが重なり合って、E字状部材7の強部11(図2参照)における連結部7dの層構成(図3中のX1−Y1線部分)と同様になっている。そして、図5中のX3−Y3線部分の層構成は、層が密である内側部材13aおよび内側部材13bと、層が疎である外側部材14とが重なり合って、図6(a)に示すように、X3側からY3側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、45度、0度、90度、−45度、0度、90度、0度、90度、−45度、0度、90度、および−45度となっている。
【0031】
そして、図5中のX4−Y4線部分の層構成は、層が疎である内側部材13aおよび内側部材13bと、層が疎である外側部材14とが重なり合って、図6(b)に示すように、X4側からY4側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、90度、0度、45度、90度、0度、0度、90度、−45度、0度、90度、および−45度となっている。
【0032】
そして、図5中のX5−Y5線部分の層構成は、層が疎である内側部材13aおよび内側部材13bと、層が密である外側部材14とが重なり合って、図6(c)に示すように、X5側からY5側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、90度、0度、45度、90度、0度、90度、0度、45度、90度、0度、−45度、90度、0度、45度、90度、0度、および−45度となっている。
【0033】
次に、E字状部材7の弱部12(図2参照)を形成する積層部7a、積層部7c、および積層部7bの層構成について説明する。図5および図6(d)に示すように、X6−Y6線部分で表わされる、連結部7dから延びる積層部7aの基端部、および連結部7dから延びる積層部7cの基端部には、内側部材13aおよび内側部材13bのそれぞれにおける45度、90度、0度、45度、90度、および0度の層、ならびに連結部7d(外側部材14)の最も車内側に位置する−45度の層が延びている。
また、図5および図6(e)に示すように、X7−Y7線部分で表わされる、連結部7dから延びる積層部7bの基端部には、内側部材13aおよび内側部材13bのそれぞれにおける45度、90度、0度、45度、90度、および0度の層が延びている。
【0034】
弱部12(図2参照)における積層部7aおよび積層部7cのそれぞれは、図5に示すように、これらの基端部を除いて、連結部7d(内側部材13aおよび内側部材13b)の最も車外側に位置する45度の層、ならびに連結部7d(内側部材13aおよび内側部材13b)の最も車内側に位置する−45度の層が車外側に屈曲するように形成されている。つまり、図5および図6(f)に示すように、X8−Y8線部分で表わされる積層部7a、および積層部7cには、内側部材13aおよび内側部材13bのそれぞれにおける45度、および−45度の層が延びている。また、図5および図6(g)に示すように、X9−Y9線部分で表わされる積層部7bには、内側部材13aおよび内側部材13bのそれぞれにおける45度、および45度の層が延びている。
【0035】
ここでは、前記した強部11と同様に、弱部12での積層部7a、積層部7c、および積層部7bの各層における繊維の配向方向を特定するために、図2に示すE字状部材7が延びる上方向と一致する配向方向は0度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に45度をなす方向と一致する配向方向は45度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に90度をなす方向と一致する配向方向は90度とし、E字状部材7が延びる上方向に対して車外側に135度をなす方向と一致する配向方向は−45度と規定する。
【0036】
このように繊維の配向方向を規定した場合に、積層部7aの基端部は、図5および図6(d)中のX´6側からY´6側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、90度、0度、45度、90度、0度、および−45度となるように各層が構成されている。
そして、積層部7cの基端部は、図5および図6(d)中のX´´6側からY´´6側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、90度、0度、−45度、90度、0度、および45度となるように各層が構成されている。
そして、積層部7bの基端部は、図5および図6(e)中のX´7側からY´7側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、90度、0度、−45度、90度、0度、0度、90度、45度、0度、90度、および45度となるように各層が構成されている。
そして、積層部7aは、図5および図6(f)中のX´8側からY´8側に向かって、その繊維の配向方向が、45度、および−45度となるように各層が構成されている。
そして、積層部7cは、図5および図6(f)中のX´´8側からY´´8側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、および45度となるように各層が構成されている。
そして、積層部7bは、図5および図6(g)中のX´9側からY´9側に向かって、その繊維の配向方向が、−45度、および45度となるように各層が構成されている。
ちなみに、連結部7dから車外側に向かって屈曲するように延びて、E字状部材7の最も外側を覆う−45度層と、最も内側を覆う45度層との間は、前記した熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)で満たされることとなる。
【0037】
ピラー部材4のE字状部材9(図2参照)は、E字状部材7の強部11(図3参照)と同様の層構成となっている。ただし、後記するように、E字状部材9は、E字状部材7のように各層に継ぎ目15(図13参照)を有していない点でE字状部材7と相違している。つまり、E字状部材9における3つの板状の補強部9a,9b,9c(図2参照)は、E字状部材7の強部11における3つの積層部7a,7b,7c(図3参照)に対応しており、補強部9d(図2参照)は、E字状部材7の強部11における連結部7b(図3参照)に対応している。
【0038】
次に、E字状部材7の積層部7a,7b,7cにおける強部11と、弱部12とにおける双方の機械的物性値の相違について説明する。
E字状部材7の積層部7a,7b,7cにおける強部11は、図3、図4(a)および図4(b)におけるX´1側乃至Y´1側間、X´´1側乃至Y´´1側間、およびX´2側乃至Y´2側間を構成する層に、その繊維の配向方向が、0度、および90度となる層を含んでいる。なお、ここでの配向方向は、積層部7a,7b,7cが延びる上方向と一致する配向方向は0度とし、積層部7a,7b,7cが延びる上方向に対して車外側に90度をなす方向と一致する配向方向は90度と規定してる。
【0039】
そして、積層部7a,7b,7cにおける弱部12は、図5、図6(f)および図6(g)におけるX´8側乃至Y´8側間、X´´8側乃至Y´´8側間、およびX´9側乃至Y´9側間を構成する層が、45度、および−45度層となっている。なお、ここでの配向方向は、積層部7a,7b,7cが延びる上方向に対して車外側に45度をなす方向と一致する配向方向は45度とし、積層部7a,7b,7cが延びる上方向に対して車外側に135度をなす方向と一致する配向方向は−45度と規定している。
【0040】
ここでは、積層部7a,7b,7cの長手方向に引張り応力が生じた際の、「繊維の配向方向が0度、および90度の箇所(強部11に相当する)」と、「繊維の配向方向が45度、および−45度の箇所(弱部12に相当する)」」とにおける、ひずみ率の相違について説明する。
【0041】
図7に示すように、「繊維の配向方向が0度、および90度の箇所」(図7中、「0度/90度方向」で表す)においては、引張り応力に対するひずみ率は小さくなっており、「繊維の配向方向が45度、および−45度の箇所」(図7中、「45度/−45度方向」で表す)においては、引張り応力に対するひずみ率は大きくなっている。言い換えれば、強部11は、強くて脆い特性を有するとともに、弱部12は、弱くて延びる特性を有することとなる。また、圧縮応力に対するひずみ率の関係では、特に図で説明しないが、強部11は、強くて脆い特性を有するとともに、弱部12は、弱くて縮みやすい特性を有することとなる。
【0042】
本実施形態での強部11および弱部12は、前記したように、CFRP積層板で形成されているが、他の繊維強化プラスチックや、繊維強化金属で形成されていてもよい。このような他の繊維強化複合材料で形成された強部11および弱部12であっても、繊維の配向方向を制御することで、積層部7a,7b,7cの長手方向に機械的物性値の異なる部材が入れ替わりに連続するように形成することができる。言い換えれば、部材の機械的物性値に異方性を付与することで機械的物性値の変更が可能となる。また、強部11および弱部12の材料は、等方性を有する、繊維強化プラスチック、繊維強化金属、鉄、アルミニウム、樹脂等の材料から選択した相互に機械的物性値の異なる2種を選択して使用してもよい。また、強部11および弱部12は、等方性を有する、鉄、アルミニウム、樹脂等の単一材料の延伸方向を制御することで、機械的物性値に異方性を付与したもので形成してもよい。なお、前記した機械的物性値としては、公知の物性値でよく、前記したひずみ率のほか、例えば、引張強度、圧縮強度、曲げ弾性等が挙げられる。
【0043】
以上のようなピラー部材4は、曲げ変形における荷重特性がフラットになる部材である。ここで「荷重特性がフラット」とは、図8に示すように、ピラー部材4に曲げ変形を加える荷重を入力した際に、曲げ変形の変位量が次第に増大していくとともに、ピーク荷重Xを示した変位量から更に変位量が増大したとしても入力する荷重の変動がフラットになる状態をいう。なお、図8に、比較例として、部材Qの荷重特性を併せて示す。この部材Qは、ピラー部材4と同形状であって、E字状部材7の層構成をE字状部材9と同様に設定したものである。この部材Qは、ピーク荷重Yを示した後に、曲げ変形の変位量がさらに増大することで、入力する荷重が急激に落ち込むように変動する。この部材Qの荷重特性は、フラットでない場合を典型的に表わしている。したがって、本発明の特徴である強弱構造をとらずに、単にCFRP積層板で構成したもの(例えば、部材Q)が配置された車体構造は、本発明の効果を奏し得ない。
【0044】
次に、本実施形態に係る車体構造1の動作について適宜図面を参照しながら説明しつつ、この車体構造1の作用効果について説明する。参照する図面において、図9は、車体構造に荷重が入力された際に、ルーフクロスメンバ、フロアクロスメンバ、およびピラー部材が曲げ変形する様子を示す模式図である。図10は、車体構造の荷重特性を示すグラフであり、縦軸が車体構造に入力される荷重であり、横軸は、車体構造(ピラー部材)の変位量である。図11は、本実施形態に係る車体構造を備える車両に他の車両(相手車両)が側面衝突した際の車体進入量を示すグラフであり、縦軸が相手車両で測定される反力であり、横軸が車体進入量である。
【0045】
この車体構造1では、例えば、衝突等によって車両V(図1参照)の側方から荷重が入力すると、図9に示すように、ピラー部材4に荷重が入力されるとともに、ルーフクロスメンバ2にはアルミブラケット6周りでモーメントM1が生じ、フロアクロスメンバ3には、アルミブラケット6周りでモーメントM2が生じる。そして、このモーメントM1によって、ルーフクロスメンバ2は、二点鎖線で示す位置から実線で示す位置へと変位する。また、モーメントM2によって、フロアクロスメンバ3は、二点鎖線で示す位置から実線で示す位置へと変位する。このとき、ルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3は、高強度部材で構成されているので、その変位量が僅かであり、ルーフクロスメンバ2およびフロアクロスメンバ3よりも、ピラー部材4は優先的に曲げ変形を生じる。そして、ピラー部材4は、積層部7a,7b,7cを備えており、この積層部7a,7b,7cには、その長手方向に強くて脆い機械的物性値を示す部分(強部11)と、弱くて延びる機械的物性値を示す部分(弱部12)とが入れ替わりで連続するように配置されている。その結果、ピラー部材4は、フラットな荷重特性を示しながら曲げ変形を生じていく。
【0046】
このことは、強くて脆い部分の間に、弱くて延びる部分が挟み込まれることで、曲げ変形の範囲が積層部7a,7b,7cの長手方向の広い範囲で生じるとともに、ピラー部材4に入力された荷重負荷を分散させることによる。つまり、積層部7a,7b,7cの曲げモーメントの分布は、分布荷重時のように、荷重入力部から周辺部に向かって広げられることとなる。また、曲げモーメントの分布が広げられることで、強くて脆い部分にも大きな曲げモーメントがかかることとなって荷重を発生させることができる。つまり、このような積層部7a,7b,7cを備えるピラー部材4は、フラットな荷重特性を示しながら曲げ変形を生じていく。
【0047】
次に、このようなピラー部材4を備えた車体構造1の荷重特性を更に具体的に説明する。ここでは、車体構造1の外側からピラー部材4に重さ30tで充分な剛性を有する重量物を時速55kmで衝突させた。その結果、車体構造1では、図10に示すように、ピラー部材4の曲げ変形の変位量(図10の横軸で示す)が次第に増大していくとともに、ピラー部材4の荷重(図10の縦軸で示す)がピークとなる変位量から更に変位量が増大したとしても、入力する荷重の変動がフラットになっている。そして、比較例として、従来のショットピーニング処理した鋼材(SP材)を使用した以外は車体構造1と同様の環状構造(図10中、「従来の車体構造」と記す)においても、車体構造1に行ったと同じ条件で重量物を衝突させた。その結果、図10に示すように、従来の車体構造では、車体構造の構成部材におけるピーク荷重を示した後に構成部材が降伏するために、ピーク荷重後の荷重が低下しており、従来の車体構造はフラットな荷重特性を示していない。そして、車体構造1では、従来の車体構造と比較して荷重値自体が高くなっている。
【0048】
次に、車体構造1を備えた車両V(図1参照)である自動車(以下、「車体構造1を備えた自動車」という)の側面に、他の自動車(以下、「相手車両」という)を時速55kmで衝突させた際の車体進入量を測定した。具体的には、車体構造1を備えた自動車に相手車両を衝突させた際の、相手車両で測定される反力を測定するとともに、車体構造1を備えた自動車のセンタピラー5(図1参照)の位置における車体進入量を測定した。ちなみに、車体構造1を備えた自動車の重量は1.5tであり、相手車両の重量は30tであった。その結果を図11に示す。なお、図11中、「車体構造1を備えた自動車」を単に「車体構造1」と記す。
【0049】
また、980MPa級のハイテンシルスチール(以下、「ハイテン」という)を使用した以外は車体構造1と同様の環状構造を適用した自動車においても、車体構造1に行ったと同じ条件で相手車両を衝突させて、前記反力と前記車体進入量とを測定した。ちなみに、ハイテン環状構造を使用した自動車の重量は1.6tであった。その結果を図11に示す。なお、図11中、「ハイテン環状構造を使用した自動車」を単に「ハイテン環状構造」と記す。
【0050】
また、車体構造1やハイテン環状構造を有していない自動車(以下、単に「従来の車体構造を使用した自動車」という)においても、車体構造1に行ったと同じ条件で相手車両を衝突させて、前記反力と前記車体進入量とを測定した。その結果を図11に示す。なお、図11中、「従来の車体構造を使用した自動車」を単に「従来の車体構造」と記す。
【0051】
車体構造1を備えた自動車は、図11に示すように、ピラー部材4(図1参照)の曲げ変形による荷重の低下を起こさないので、ピラー部材4の折れ曲がりによる車体進入量を、ハイテン環状構造を使用した自動車や、従来の車体構造を使用した自動車と比較して半減することができた。
また、ハイテン環状構造は、ピーク荷重が初期に発生するのみで、衝突のエネルギを充分に吸収することができないために、車体進入量を充分に低減することができないと考えられる。これに対して、車体構造1は、この図11からも、フラットな荷重特性を有することが明らかであり、このことから車体構造1は、車体進入量が充分に低減されたものと考えられる。
また、車体構造1は、ハイテン環状構造と比較して、100kg程度の重量を軽減することができた。
【0052】
以上のような車体構造1および車両Vによれば、外部から荷重が入力した際に、局部的な曲げ変形を充分に抑制し、衝突時の車体変形量を抑制することができる。
【0053】
次に、ピラー部材4の製造方法について適宜図面を参照しながら説明する。参照する図面において、図12は、E字状部材7の製造工程を説明するための斜視図であり、(a)および(b)は、E字状部材7の内側部材の製造工程を示す図、(c)および(d)は、E字状部材7の内側部材の製造工程を示す図である。図13は、図3中のD部拡大図である。
【0054】
この製造方法では、図12(a)に示すように、所定の型(図示せず)に内側部材13a,13b(図3参照)の第1層目(図3に示す内側部材13aまたは内側部材13bの最も車外側に位置する層)に相当する長尺のプリプレグ21が断面視で略C字状に配置される。次いで、このプリプレグ21の折り曲げ部を覆うように略C字状のプリプレグ22aがプリプレグ21の上側に配置される。そして、プリプレグ21の両側面には、その長手方向に沿うように、複数の矩形のプリプレグ22bが所定の間隔をあけて配置される。
【0055】
次に、図12(b)に示すように、プリプレグ22aとプリプレグ22bとの継ぎ目15、およびプリプレグ22aの折り曲げ部を覆うとともに、プリプレグ22bと重なるように複数のプリプレグ23bが前記した所定の間隔で配置される。そして、プリプレグ22aの上側には、プリプレグ22aの長手方向に沿うように、プリプレグ23aが配置される。そして、図12(a)および(b)に示す工程を6工程繰り返すことによって、内側部材13aおよび内側部材13b(図3参照)が形成されることとなる。
【0056】
次に、図12(c)に示すように、前記した工程を経て得られた内側部材13aおよび内側部材13bは、横並びに配置される。そして、内側部材13aおよび内側部材13bの長手方向に沿う上側の角部を覆うように、複数のプリプレグ24bが、並べられた内側部材13aおよび内側部材13bの両側面に配置される。このとき、プリプレグ24bは、プリプレグ23aおよびプリプレグ23bとの継ぎ目15aを覆うとともに、プリプレグ23bと重なるように配置される。次に、並べられた内側部材13aおよび内側部材13bの上側には、その長手方向に沿うように、プリプレグ24aが配置される。このとき、プリプレグ24aは、プリプレグ23aとプリプレグ23bとの継ぎ目15bを覆うように配置される。
【0057】
次に、図12(d)に示すように、プリプレグ24bの折り曲げ部を覆うようにプリプレグ24bに重ねて複数のプリプレグ25bが配置される。そして、プリプレグ24aとプリプレグ24bとの継ぎ目15cを覆うようにプリプレグ24aの長手方向に沿ってプリプレグ25aが配置される。そして、図12(c)および(d)に示す工程を5工程繰り返してから、さらに図12(c)に示す工程を行った後に、図3に示す最も車内側に位置する層が積層されることによって、外側部材14(図3参照)が形成される。
ちなみに、プリプレグ22b、プリプレグ23b、プリプレグ24b、およびプリプレグ25bが相互に重なっている部分で強部11(図2参照)が形成され、プリプレグ21の長手方向に沿うようにプリプレグ22b同士の間、プリプレグ23b同士の間、プリプレグ24b同士の間、およびプリプレグ25b同士の間に所定の間隔で設けられた隙間で弱部12(図2参照)が形成される。ちなみに、この弱部12は、前記したように、熱硬化性樹脂で埋められて形成されることとなる。
【0058】
このような工程を経て得られた積層体は、後記するように熱硬化されてE字状部材7となる。ちなみに、E字状部材7では、このような積層工程を経ることによって、図13に示すように、継ぎ目15が、隣接する層20によってオーバーラップされることとなる。その結果、各層20間での所定の強度は維持されることとなる。
【0059】
次に、E字状部材9を得るための積層体が形成される。この積層体は、継ぎ目15を有していない以外は、E字状部材7を得るための積層体の強部11(図2参照)となる部分と同様の層構成となっている。したがって、図3に示す層構成となるように所定のプリプレグが継ぎ目15(図4参照)なしに順次に積層していくことによってこの積層体は得られる。
【0060】
そして、E字状部材7を得るための積層体と、E字状部材9を得るための積層体とが、相互の外側部材14に対応する部分で合わせられるとともに、これを熱硬化させることによってピラー部材4が製造される。
【0061】
以上、本発明の車体構造を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は、前記実施形態に何ら制限されるものではない。以下、本発明の他の実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。なお、参照する図面において、図14(a)および(b)は、他の実施形態に係る車体構造で使用するピラー部材の部分斜視図である。図15(a)および(b)は、車両における車体構造の配置位置を説明するための斜視図である。
【0062】
前記実施形態では、ピラー部材4のE字状部材7が、板状の部材(積層部7a,7b,7c、連結部7d)から形成されているが、本発明の車体構造では、図14(a)に示すように、ピラー部材4が中実の長尺部材であってもよいし、図14(b)に示すように、ピラー部材4が中空の長尺部材であってもよい。このようなピラー部材4では、このピラー部材4の長手方向に沿って、機械的物性値が相互に異なる部材20および部材21が入れ替わりに連続して配置されている。なお、このピラー部材4の断面の外形は、矩形を呈しているが、この形状に特に制限はなく、矩形以外の多角形、円形、楕円形のいずれであってもよい。
【0063】
また、前記実施形態では、ピラー部材4の長手方向に機械的物性値の異なる2種の部材が入れ替わりに連続して配置されているが、本発明は、機械的物性値の異なる3種以上の部材が入れ替わりに連続して配置されているピラー部材4を備えるものであってもよい。
【0064】
また、前記実施形態では、ピラー部材4の積層部7a,7b,7cを構成する複数層のうち、一部の層で、機械的物性値の異なる2種の部材が入れ替わりに連続して配置されているが、本発明は、積層部7a,7b,7cの全ての層で機械的物性値の異なる2種の材料が入れ替わりに連続して配置されているものであってもよい。
【0065】
また、前記実施形態では、ピラー部材4が、積層部7a,7b,7c、および連結部7dを有するE字状部材7と、補強部9a,9b,9c、および連結部9dを有するE字状部材9とで構成されているが、本発明は、ピラー部材4が積層部7a,7b,7cのみで構成されるものであってもよい。
【0066】
また、前記実施形態では、車体構造1が車体の両側にそれぞれ設けられるセンタピラー5の間に配置されているが、本発明は、図15(a)に示すように、車体の側面に沿うように配置されていてもよい。このとき、上側の高強度部材2aは、例えば、ルーフサイドレール(図示せず)に沿うように配置され、下側の高強度部材2bは、サイドシル(図示せず)に沿うように配置され、前側の高エネルギ吸収部材4aがフロントピラー(図示せず)に沿うように配置され、後側の高エネルギ吸収部材4bがリアピラー(図示せず)に沿うように配置されてもよい。
【0067】
また、本発明は、図15(b)に示すように、車体構造1が車体の床面に沿うように配置されていてもよい。このとき、前側の高強度部材2aは、例えば、フロントフロアクロスメンバ(図示せず)に沿うように配置され、後側の高強度部材2bは、リアフロアクロスメンバ(図示せず)に沿うように配置され、左右両側の高エネルギ吸収部材4a,4bがサイドシル(図示せず)に沿うように配置されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施形態に係る車体構造を備えた車両の斜視図である。
【図2】実施形態に係る車体構造を構成するピラー部材の斜視図であり、図1のA部における部分拡大図(一部に破断部を含む)である。
【図3】ピラー部材における積層部および連結部の強部の断面を模式的に示す図であり、図2のB−B断面図である。
【図4】(a)および(b)は、積層部および連結部の強部における層構成を模式的に示す図である。
【図5】ピラー部材における積層部および連結部の弱部の断面を模式的に示す図であり、図2のC−C断面図である。
【図6】(a)から(g)は、積層部および連結部の弱部における層構成を模式的に示す図である。
【図7】積層部の長手方向に引張り応力が生じた際の、「繊維の配向方向が0度、および90度の箇所」と、「繊維の配向方向が45度、および−45度の箇所」とにおける、ひずみ率の相違について説明するためのグラフである。
【図8】ピラー部材に曲げ変形を加える荷重を入力した際に、荷重の変動がフラットになる状態を示すグラフであり、縦軸が「曲げ変形を加える荷重」であり、横軸が「曲げ変形の変位量」である。
【図9】車体構造に荷重が入力された際に、ルーフクロスメンバ、フロアクロスメンバ、およびピラー部材が曲げ変形する様子を示す模式図である。
【図10】車体構造の荷重特性を示すグラフであり、縦軸が車体構造に入力される荷重であり、横軸は、車体構造(ピラー部材)の変位量である。
【図11】車体構造を備える車両に他の車両(相手車両)が側面衝突した際の車体進入量を示すグラフであり、縦軸が相手車両で測定される反力であり、横軸が車体進入量である。
【図12】(a)および(b)は、E字状部材の内側部材の製造工程を示す図、(c)および(d)は、E字状部材の内側部材の製造工程を示す図である。
【図13】図3中のD部拡大図である。
【図14】(a)および(b)は、他の実施形態に係る車体構造で使用するピラー部材の部分斜視図である。
【図15】(a)および(b)は、車両における車体構造の配置位置を説明するための斜視図である。
【図16】従来の車体構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0069】
1 車体構造
2 ルーフクロスメンバ(高強度部材)
2a 高強度部材
2b 高強度部材
3 フロアクロスメンバ(高強度部材)
4 ピラー部材(高エネルギ吸収部材)
4a 高エネルギ吸収部材
4b 高エネルギ吸収部材
5 センタピラー
6 アルミブラケット(締結部)
7a 積層部
7b 積層部
7c 積層部
M1 モーメント
M2 モーメント
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ変形における荷重特性がフラットとなる高エネルギ吸収部材と、高強度部材とを備える車体構造であって、
前記高エネルギ吸収部材と前記高強度部材とで環状形状を形成したことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記高強度部材が、前記高エネルギ吸収部材との締結部を通じて生じるモーメントによって弾性変形する間、前記高エネルギ吸収部材が曲げ変形を生じることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記高エネルギ吸収部材が、長尺であってその長手方向に延びる積層部を有しており、前記積層部は、機械的物性値に等方性または異方性を備える2種以上の材料のそれぞれが、前記積層部の少なくとも1部の層で前記積層部の長手方向に沿って入れ替わりに連続するように配置されて構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記高エネルギ吸収部材が、前記積層部をその横断面方向に複数連結して構成されていることを特徴とする請求項3に記載の車体構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車体構造を備えることを特徴とする車両。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車体構造を、車体の両側にそれぞれ設けられるセンタピラーの間に配置したことを特徴とする車両。
【請求項1】
曲げ変形における荷重特性がフラットとなる高エネルギ吸収部材と、高強度部材とを備える車体構造であって、
前記高エネルギ吸収部材と前記高強度部材とで環状形状を形成したことを特徴とする車体構造。
【請求項2】
前記高強度部材が、前記高エネルギ吸収部材との締結部を通じて生じるモーメントによって弾性変形する間、前記高エネルギ吸収部材が曲げ変形を生じることを特徴とする請求項1に記載の車体構造。
【請求項3】
前記高エネルギ吸収部材が、長尺であってその長手方向に延びる積層部を有しており、前記積層部は、機械的物性値に等方性または異方性を備える2種以上の材料のそれぞれが、前記積層部の少なくとも1部の層で前記積層部の長手方向に沿って入れ替わりに連続するように配置されて構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車体構造。
【請求項4】
前記高エネルギ吸収部材が、前記積層部をその横断面方向に複数連結して構成されていることを特徴とする請求項3に記載の車体構造。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車体構造を備えることを特徴とする車両。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車体構造を、車体の両側にそれぞれ設けられるセンタピラーの間に配置したことを特徴とする車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−216754(P2007−216754A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37718(P2006−37718)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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