説明

車車間通信装置及び車車間通信方法

【課題】ビーム幅の制御可能な小型の指向性アンテナを用いて車車間通信を行う。
【解決手段】指向性アンテナ100は、各々外径H、導体の幅Lのループ状のアンテナ素子10−1〜10−Mが配置されたものである。一方の面には奇数番号のアンテナ素子10−1、10−3、…がy軸方向に2Gだけ平行移動させた位置に、他方の面には偶数番号のアンテナ素子10−2、10−4、…がy軸方向に2Gだけ平行移動させた位置に配置される。アンテナ素子10−2はアンテナ素子10−1をy軸方向にG、x軸方向にD平行移動させた位置に配置される。ループ状の各アンテナ素子10−mの中心を通る、xy平面に平行な面と各アンテナ素子10−mの合計2M個の交点をポートとする。ポートの1箇所に通信装置を接続し、他のポートは可変リアクタンス素子を接続する。2M−1個の可変リアクタンス素子の値を所望のビーム幅が得られるように予め決定しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度道路交通システム、いわゆるITSに用いることを想定した、車車間通信装置及び車車間通信方法に関する。本発明は特に、ビーム幅を制御可能とした指向性アンテナを用いた車車間通信装置及び車車間通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ITSとして想定されている技術の一つに、走行中の車両同士の車車間通信がある。通信内容としては、衝突防止に関わる情報交換が特に必要とされている。衝突防止には、自車両の進行方向に存在する、低速走行中、減速中、或いは停止動作中の先行車両、自車両の進行方向に進入する可能性のある見通し外の走行車両との通信が不可欠である。ここで無指向性の送信アンテナを用いて車車間通信を行うと、自車両の進行とは全く関係の無い広範囲に双方向通信を行うこととなり、極めて非効率的な通信方法となる。このため、特に市街地では、自車両の進行に影響の高い範囲に通信領域を絞るため、アンテナの指向性制御が重要となる。
【0003】
以下に示す非特許文献1乃至7は、主として車車間通信における指向性アンテナについての論文である。また、特許文献1は、本願出願人による平面アンテナの先行出願である。
【特許文献1】特開2006−339769号公報
【非特許文献1】R. Ramanathan, J. Redi, C. Santivanez, D. Wiggins, and S. Polit, “Ad hoc networking with directional antennas: a complete system solution,” IEEE J. Select. Areas Commun., vol. 23, no. 3, pp. 496 506, Mar. 2005.
【非特許文献2】G. V. Tsoulos, “Smart antennas for mobile communication systems: Benefits and challenges,” Electron. Commun. Eng. J., vol. 11, no. 2, pp. 84 94, Apr. 1999.
【非特許文献3】R. Choudhury, X. Yang, R. Ramanathan, and N. H. Vaidya, “On Designing MAC Protocols for Wireless Networks Using Directional Antennas,” IEEE Trans. Moblie Computing, vol. 5, no. 5, pp. 477-491, 2006.
【非特許文献4】S. Lim, C. Caloz, and T. Itoh, “Metamaterial-based electronically controlled transmission-line structure as a novel leaky-wave antenna with tunable radiation angle and beamwidth,” IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. 53, no. 1, pp. 161 173, Jan. 2005.
【非特許文献5】K. Bhan, S. Ghosh, and G. Srivastava, “Study of control of beamwidth of radiation pattern of a waveguide using inclined slotted flanges,”IEEE Trans. Antennas Propag., vol. 26, no. 3, pp. 447 450, May 1978.
【非特許文献6】U. Sterr, A. Olver, and P. Clarricoats, “Variable beamwidth corner reflector antenna,” Electronics Letters, vol. 34, no. 11, pp. 1050 1051, May 1998.
【非特許文献7】P. Lampariello, F. Frezza, H. Shigesawa, M. Tsuji, and A. Oliner, “A versatile leaky-wave antenna based on stub-loaded rectangularwaveguide. I. Theory,” IEEE Trans. Antennas Propag., vol. 46, no. 7, pp. 1032 1041, July 1998.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
まず非特許文献1乃至3について検討する。これらは車車間通信やアドホックネットワークにおいて指向性アンテナを利用する技術についての論文である。アンテナ指向性のビーム方向とヌルの方向に着目して制御している。これらはビーム幅を制御するものではない。不要な方向への電波放射を減らすことでシステム全体としての通信容量を増加させることができるとしている。またゲインの増加によりSNRも向上するとしている。しかし、他の端末との協調により制御するものであり、自端末のみの制御では効果が得られない。このためシステムが複雑となるほか、最適制御に至るまでの時間遅延が大きい。このことから、現実的な移動局用アンテナを構成することが困難である。実際、普通乗用車程度の小さな搭載スペースに通信装置を搭載することも、デザイン的に違和感無く小型のアンテナ、好ましくは平面アンテナを乗用車表面に設置することも考慮されていない。また、指向性アンテナのビーム幅を利用した車車間通信システムの具体的提案も、非特許文献1乃至3にはされていない。
【0005】
また、非特許文献4乃至7には、ビーム幅を可変とした指向性アンテナが記載されている。これらは高周波通信装置の受信側又は送信側の1系統の状態のみでビーム幅を可変とするものである。しかし、非特許文献5乃至7に記載された技術は、指向性アンテナの構成部品を機械的に操作することでビーム幅を可変とするものであり、いずれも小型の平面アンテナではない。このため、例えば普通乗用車程度の小さな搭載スペースにそれらの指向性アンテナを搭載することは極めて困難である。また、指向性アンテナの構成部品を機械的に操作するものは、信頼性や調整等の面で難点であるといえる。非特許文献4に記載された技術は、電気的にビーム幅を可変とする構成であるがアンテナのサイズが10波長程度と大きく、且つ損失も大きいものである。結局、普通乗用車程度の小型車両に搭載することが現実的な、ビーム幅を可変とした小型の指向性アンテナは存在していない。
【0006】
本発明者らは、例えば特許文献1で報告したような指向性を可変とした平面アンテナが、当該指向性制御に用いる際の制御方法で、ビーム幅を可変としうることを見出し、本願発明を完成させた。即ち、本発明の目的は、普通乗用車程度の小型車両にも搭載可能な、ビーム幅を可変とした指向性アンテナを用いた車車間通信装置及び車車間通信方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、ビーム幅が可変である指向性アンテナと、指向性アンテナのビーム幅を制御するビーム幅制御手段とを有することを特徴とする車車間通信装置である。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車車間通信装置において、自車両の速度を検出する速度検出手段を更に有し、ビーム幅制御手段は、速度検出手段により検出された自車両の速度に応じて指向性アンテナのビーム幅を制御することを特徴とする。
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の車車間通信装置において、自車両を基準とした所定範囲内に存在する車両の数を検出する周辺状況取得手段を更に有し、ビーム幅制御手段は、周辺状況取得手段により検出された所定範囲内に存在する車両の数に応じて指向性アンテナのビーム幅を制御することを特徴とする。
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の車車間通信装置において、自車両を基準とした所定範囲内に所定の大きさを越える大きさの車両が存在するか否かを判定する周辺状況取得手段を更に有し、ビーム幅制御手段は、周辺状況取得手段の判定に基づき指向性アンテナのビーム幅を制御することを特徴とする。
【0008】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車車間通信装置において、指向性アンテナは、2点1組の給電点から成る給電部を備えて1つの基準平面上に配置された1つの主のループ配線と、主のループ配線と平行または同一平面上に配置された、給電点を備えない少なくとも1つの従のループ配線とを有するアンテナであって、
各ループ配線は、それぞれ互いに交点及び接点を持たず、従のループ配線に囲まれた平面領域の中心点は、主のループ配線に囲まれた平面領域の中心点を通る、基準平面に垂直な1つの垂直断面上に位置しており、任意の1つのループ配線によって囲まれる平面領域は、基準平面の法線方向から見たときに、隣り合う他のループ配線によって囲まれる他の平面領域と部分的に重なって見え、
従のループ配線は、垂直断面上の2箇所にそれぞれ可変リアクタンス素子を有し、主のループ配線は、垂直断面上の1箇所に可変リアクタンス素子を有し、垂直断面上の他の1箇所に給電部を有するものであり、
給電点を中心とする主のループ配線の半分を給電素子、可変リアクタンス素子を中心とする主のループ配線及び従のループ配線を複数の無給電素子とみなし、複数の可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることによりビーム幅を変化可能としたことを特徴とする。
請求項6に係る発明は、更に、指向性アンテナのビーム方向を制御するビーム方向制御手段を有することを特徴とする。
【0009】
請求項7に係る発明は、ビーム幅が可変である指向性アンテナを用い、指向性アンテナのビーム幅を、自車両の速度、自車両を基準とした所定範囲内に存在する車両の数、又は自車両を基準とした所定範囲内に所定の大きさを越える大きさの車両が存在するか否かにより、指向性アンテナのビーム幅を制御することを特徴とする車車間通信方法である。
請求項8に係る発明は、更に、前記指向性アンテナのビーム方向を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、車車間通信において、指向性アンテナのビーム幅を可変とすることで、情報のやりとりが必要な車両のみと通信を可能とすることを主たる特徴とするものである。これにより、各車両においての、及び当該車両と通信することが必要な車両との間での、通信容量を増加させることが可能となり、車車間通信の信頼性を向上させることができる。この際、自車両に備えられた装置のみから得られる情報で、指向性アンテナのビーム幅の制御を完結させるので、例えば他車両からのフィードバックが必要な従来技術と比較して、制御全体を簡略化でき、最適制御に至るまでの時間遅延を大幅に削減することが可能となる。
例えば、交差点付近における車両配置と必要な通信距離を考えると、車両の対向接近時や見通し外接近時は長い通信距離が必要になるのに対し、対向通過後や見通し外通過後は通信距離を短くして良い。このことから、車車間通信においては、進行方向である車両前方に指向性を持つアンテナの使用が望ましいと考えられる。これにより、電波の届く範囲内における通信の必要な車両の割合が増加し、通信の効率が改善できる。また、見通し外車両との通信を実現するのに必要な送信電力を抑えることができ、所要帯域幅の削減が期待できる。
【0011】
請求項5に記載のアンテナは、通信波長λに対して各ループの直径をλ/πとすることで、例えば主従合わせてM個のループから成るアンテナが、λ/2のダイポールアンテナの2M個のアレーと等価であるものとして設計が可能である。即ち、λ/2のダイポールアンテナの2M個のアレーとして2M−1個の可変リアクタンス素子のリアクタンス値を、用ちいるべき指向性のビーム毎に予めシミュレーションにより決定しておけば良い。すなわち、当該有限個の指向性のビームを選択するものとして、各指向性のビーム毎に2M−1個の可変リアクタンス素子のリアクタンス値を生成するようにすることで、指向性を容易に制御可能である。請求項5に記載のアンテナがビーム幅を制御できることについては、実施例にて詳しく述べる。
尚、このアンテナは特許文献1に記載の通り、やはり2M−1個の可変リアクタンス素子のリアクタンス値によりビーム方向をも制御できる。即ち、有限個のビーム方向及びビーム幅の組を生成するような2M−1個のリアクタンス値の組を、
当該有限個のビーム方向及びビーム幅の組毎に用意することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に言う車車間通信システムとは、移動局同士である車両間の通信システムを言う。本発明は、GPSと組み合わせて、道路自体の情報と、互いに接近する又は近接して走行している車両との通信により、衝突回避その他の安全走行に特に有用である。
本発明に言うビーム幅を可変とした指向性アンテナには、最もゲインの高い方位角の両側の、例えばそのゲインの1/2となるゲインの方位角までの幅を可変とするものが該当する。基本的にはヌル方位を有するものは好ましくないが、全く使用できないわけではない。以下には、主として特許文献1に記載されたアンテナを基本構造とするビーム幅を可変とした指向性アンテナを用いて説明するが、本発明は当該アンテナを必須の構成要素とするものに限定されない。
本発明においては、指向性アンテナのビーム幅を車両の周囲環境に応じて制御することで、走行車両である自車両が、衝突回避その他の安全走行に必要な情報を得るために必要な範囲を通信範囲とするものである。当該周囲環境を把握又は判定する手段として、カメラやレーダーなどが想定される。また、自車両の走行速度は重要なパラメータであるので、速度計からの速度情報も有用である。
【0013】
〔実施態様1〕
自車両の走行速度をパラメータとすると、例えば次のような構成が考えられる。即ち、速度が大である場合にビーム幅を小さく、速度が小である場合にビーム幅を大きくすることで、他車両に情報を提供し、或いは他車両から情報を得たいエリアのみに電波を放射するものである。
【0014】
この効果を図1で説明する。尚、以下で「速度」は単にその絶対値である速さを意味するものとする。
図1は、交差点付近を走行中の自車両と他車両の関係を示す5つの模式図である。図1.Aは、2ブロック離れた自車両Sと他車両Oが対向接近する様子を示している。この場合、例えば自車両Sの速度と他車両Oの速度の和である相対接近速度が大きいほど、互いが遠く離れた位置から車車間通信が確立されていることが好ましい。逆に自車両Sの速度と他車両Oの速度の和である相対接近速度が小さければ近い位置まで接近するまで車車間通信が確立されていなくても良い。
図1.Bは自車両Sが接近する交差点に、他車両Oが向って右方向から接近する様子を
示している。この場合、自車両Sと他車両Oが衝突するのは、他車両Oが自車両Sの進行方向に先に進入するか、自車両Sが交差点に達したときに他車両Oも交差点に達する場合である。
図1.Cは、自車両Sに他車両Oが後方から接近する様子を示している。これは、自車両Sの速度が他車両Oの速度より遅い場合である。
図1.Dは、図1.Aの状態の後の状態を示すものであって、自車両Sと他車両Oが対向して接近した後、通過した様子を示している。図1.Dの状態では、自車両Sと他車両Oが衝突する可能性は0と考えて良い。即ち、相互衝突の危険回避の面からは情報交換の必要性はほとんど無い。
図1.Eは、図1.Bとは言わば逆の場合であって、他車両Oが自車両Sの後方、向って右方向から、自車両Sが通過済みの交差点に接近していく様子を示している。この場合も、自車両Sと他車両Oが衝突する可能性は0と考えて良く、相互衝突の危険回避の面からは情報交換の必要性はほとんど無い。
【0015】
このように、衝突又は接触事故を起こしうる他車両Oが存在するエリアは、自車両Sの前方に大きく、左右及び後方には一般的に小さい。このエリアは自車両Sの速度のみを考慮すると、更に図2の2つの模式図ように概念的に把握できる。即ち、図2.Aのように、自車両Sの速度が大きい場合は、前方の距離の大きな所までエリアに入る。しかし、真横や真後は比較的小さくて良い。一方、図2.Bのように、自車両Sの速度が小さい場合は、前方の距離の比較的小さな所までしかエリアに入らない。しかし、真横や真後にも比較的大きくなければならない。
【0016】
次に無指向性アンテナと、指向性アンテナによる通信可能距離(単に到達距離とも記す)の差をシミュレーションしたものを図3及び図4に示す。条件としては、50m間隔の格子点が全て交差点で、それらを結ぶ道路を想定し、道路以外はビル群により遮蔽されているモデルである。送信波は5.8GHzとした。図3.Aにおいては、送信側及び受信側がいずれも無指向性アンテナを用い、交差点で1回だけ送信波が90度回折可能であるとする。図3.Aは、送信側が交差点で停止し、受信側が接近する場合を想定したものである。図3.A中央の自車両に対し、前方、後方、右方向、左方向には、送信波が直接受信側車両まで到達するので、597mの距離まで通信可能であるようにしきい値を決めた。この際、前方(又は後方、又は右方向、又は左方向)に伝搬する送信波が、50mおきにある交差点で1箇所90度回折した場合の到達距離(通信可能距離)は合計225mとなった。図3.Aでは、例えば前方に200m、150m、100m、50m伝搬した後に右方向に回折した場合に、各々更に25m、75m、125m、175m到達しうることを示しているものである。
【0017】
図3.Bはある指向性を有するアンテナを、送信側である自車両と受信側である他車両の両方にもたせて、送信側が交差点で停止し、受信側が接近する場合を想定したものである。尚ここで接近とは、送信側のアンテナの指向性と受信側のアンテナの指向性の関係を意味するものであり、速度の変化による送信波の到達距離の変化は無視する。この場合、前方から接近する他車両には597mの距離まで通信可能であるようにしきい値を決めた。すると、後方には283m、左右方向には212mまでしか到達しなかった。また、前方(又は後方、又は右方向、又は左方向)に伝搬する送信波が、50mおきにある交差点で1箇所90度回折した場合の到達距離は次の通りであった。前方に200m、150m、100m、50m伝搬した後に左右方向に回折した場合に、更に25m、75m、125m、175m到達しうることを示している。左右方向に50m伝搬した後に90度回折した場合には、更に30mだけ到達しうることを示している。後方に100m、50m伝搬した後に左右方向に回折した場合には、更に6m、56m到達しうることを示している。このように、自車両と他車両のいずれもが指向性アンテナを有している場合、自車両と衝突する危険性の高いエリアである自車両前方を接近走行する他車両に対し、車車間通信を効率的に確立することが可能となる。
【0018】
次に他車両が自車両から離れていく場合を図4に示す。図4.Aにおいては、送信側及び受信側がいずれも無指向性アンテナを用い、交差点で1回だけ送信波が90度回折可能であるとする。図4.Aは、送信側が交差点で停止し、受信側が離れていく場合を想定したものである。図4.A中央の自車両に対し、前方、後方、右方向、左方向には、送信波が直接受信側車両まで到達するので、597mの距離まで通信可能であるようにしきい値を決めた。この際、前方(又は後方、又は右方向、又は左方向)に伝搬する送信波が、50mおきにある交差点で1箇所90度回折した場合の到達距離は合計225mとなった。図4.Aでは、例えば前方に200m、150m、100m、50m伝搬した後に右方向に回折した場合に、更に25m、75m、125m、175m到達しうることを示しているものである。図4.Aの到達エリアは図3.Aの到達エリアと全く同一となった。このように、自車両と他車両のいずれもが無指向性アンテナを用いた場合、互いに離れていくような、接触又は衝突する可能性がほぼ無い場合でも、互いに接近する場合と同じ範囲で車車間通信が確立され、効率が非常に悪いことがわかる。
【0019】
図4.Bは、図3.Bのシミュレーションの際と同様の指向性をもたせて、送信側である自車両が交差点で停止し、受信側である他車両が離れていく場合を想定したものである。尚ここで離れていくとは、送信側のアンテナの指向性と受信側のアンテナの指向性の関係を意味するものであり、速度の変化による送信波の到達距離の変化は無視する。この場合、前方に遠ざかる他車両には283mの距離まで通信可能であるようにしきい値を決めた。これは図3.Bの後方から接近する場合と同一としたためである。すると、後方には134m、左右方向には100mまでしか到達しなかった。また、前方(又は後方、又は右方向、又は左方向)に伝搬する送信波が、50mおきにある交差点で1箇所90度回折した場合の到達距離は次の通りであった。前方に100m、50m伝搬した後に左右方向に回折した場合に、更に6m、56m到達しうることを示している。左右方向には50m伝搬した後に90度回折した場合には、最早到達しうる距離が無いことを示している。後方に50m伝搬した後に90度回折した場合にも、最早到達しうる距離が無いことを示している。このように、自車両と他車両のいずれもが指向性アンテナを有している場合、自車両から離れていく他車両とは、自車両と極めて近い範囲でのみ車車間通信を確立することができ、効率が良いことがわかる。
【0020】
図3.B及び図4.Bに示した通り、自車両と他車両のいずれもが指向性アンテナを有している場合、接触又は衝突する可能性の高い他車両に対して車車間通信が効率的に確立される。更に、自車両の指向性アンテナのビーム幅を、自車両の速度で制御し、また、他車両においても、その指向性アンテナのビーム幅を、当該他車両の速度で制御することで、車車間通信の確立を非常に効率的に実施することが可能となる。
【0021】
〔実施態様2〕
例えば撮像装置及び画像解析装置(周辺状況取得手段)により、自車両から前後左右の見通せる範囲に存在する車両の数が多いと判定される場合に、指向性アンテナのビーム幅を小さく、見通せる範囲に存在する車両の数が少ないと判定される場合に、指向性アンテナのビーム幅を大きくする方法も考えられる。走行中の車道の中に車両が多いときは、側方からの衝突可能性が高まる。そこでビーム幅は広い方が好ましい。この方法は、路車間通信を併用する際に路側機方向へビーム幅を小さくして信頼性を上げる為にも用いることができる。
【0022】
〔実施態様3〕
例えば撮像装置及び画像解析装置(周辺状況取得手段)により、自車両前方に大型車両が存在すると判定される場合に、指向性アンテナのビーム幅を大きく、且つビーム方向を当該大型車両が存在しない例えば側方とし、自車両前方に大型車両が存在しないと判定される場合に、指向性アンテナのビーム幅を小さく、且つビーム方向を正面とする方法も考えられる。金属製の車体の大型車両は電波を遮蔽するので、遮蔽車両の影響を緩和するために建物からの反射波を利用するためである。
【実施例1】
【0023】
次に、上述のような、ビーム幅を制御可能な指向性アンテナの実例と、その制御方法について述べる。
図5.Aは、本発明の車車間通信に用いる指向性アンテナ100の構成を示す平面図、図5.Bはその側面図である。指向性アンテナ100は特許文献1に示した構成を、ループをM個とし、給電点を任意のループに配置するものである。2M−1個の可変リアクタンス素子の位置と給電点を合わせて2M個のポートと呼ぶ。指向性アンテナ100は、yz平面に平行で互いに間隔D離れた2つの平面上に、各々外径H、導体の幅Lのループ状のアンテナ素子10−1〜10−Mを配置するものである。ここでMが奇数の場合はアンテナ素子10−1〜10−Mの配置は次の通りとなる。アンテナ素子10−1を第1の面に配置し、y軸方向に2Gだけ移動した位置にアンテナ素子10−3を配置し、以下y軸方向に2Gだけ移動した位置毎にアンテナ素子10−Mまで順に配置する。アンテナ素子10−2は、アンテナ素子10−1をy軸方向にG、x軸方向にDだけ移動した位置に配置する。アンテナ素子10−2をy軸方向に2Gだけ移動した位置にアンテナ素子10−4を配置し、以下y軸方向に2Gだけ移動した位置毎にアンテナ素子10−(M−1)まで順に配置する。Mが偶数の場合も同様の配置方法である。特に図5.Bにおいては、Mが奇数の場合の配置を示しているが、容易に理解される通り、Mが偶数の場合の右端のアンテナ素子10−Mは、Mが奇数の場合を示す図5.Bの左端のアンテナ素子10−Mとは異なる側の面に位置する。
また、ループ状の各アンテナ素子10−mの中心を通る、xy平面に平行な面と各アンテナ素子10−mの交点をポートとする。2M個のポートには、左側から右側に向って(y軸の正方向に)1から2Mまで番号を振った。このため、アンテナ素子10−1はポート1及び3、アンテナ素子10−m(m≠1,M)は、ポート2m−2及び2m+1、アンテナ素子10−Mはポート2M−2と2Mである。今、例えばMを奇数とし、アンテナ素子10−1のポート1を原点(0,0,0)とすれば、アンテナ素子10−2のポート2は(D,G,0)、アンテナ素子10−1のポート3は(0,H,0)、アンテナ素子10−3のポート4は(0,2G,0)、アンテナ素子10−2のポート5は(D,H+G,0)、…、アンテナ素子10−Mのポート2M−2は(0,(M−1)G,0)、アンテナ素子10−(M−1)のポート2M−1は(D,H+(M−2)G,0)、アンテナ素子10−Mのポート2Mは(0,H+(M−1)G,0)となる。また、指向性アンテナ100の大きさはH×W×D(但しW=H+(M−1)G)である。
【0024】
以下では、λを5.8GHzの波長として、各アンテナ素子10−mの外径Hをλ/π、各アンテナ素子10−mの導体の幅Lをλ/80、隣り合う各アンテナ素子10−mのy軸方向の間隔Gをλ/4、奇数番号のアンテナ素子の配置面と偶数番号のアンテナ素子の配置面の間隔Dをλ/200、アンテナ素子の総数Mを2〜8としてシミュレーションを行った。この際、各々2個のポートを有するM個のループ状のアンテナ素子を、2M個のポートの位置を中心に有するz軸方向に平行な2M個のλ/2の長さのダイポールアンテナのアレーと等価であるものとしてシミュレーションを行う。こうして、指向性アンテナ100のxy平面内での方位角φに対する指向性を検証した。2M個のポートのうち、ポートkを給電点として、インピーダンスzsが200Ωの送受信機を接続するものとし、残りの2M−1個のポート1、…、ポートk−1、ポートk+1、…、ポート2Mに、可変リアクタンス素子を接続するものとし、当該リアクタンス値をx1、…、xk-1、xk+1、…、x2Mとする。
【0025】
まず、方位角φ及び2M−1個のリアクタンス成分から成るベクトルxを変数とするスカラー関数である方角関数Dを次の式(1)ように定義する。尚、肩のTの添え字は、列ベクトルを行ベクトルに変換することを意味する。αは定数である。
【数1】

【0026】
式(1)の方角関数Dを構成する2M次元列ベクトルであるウエイトベクトルw(x)は次の式(2)で与えられる。
【数2】

【0027】
ここで、2M行2M列の行列Yは、各々2個のポートを有するM個のアンテナ素子を、各ポートを有するz軸に平行な2M個の等価ダイポールで置き換えた場合の、当該2M個のダイポールアンテナの相互アドミッタンス行列である。また、2M行2M列の行列Xrは、対角行列であって、その対角成分は、ベクトルxの2M−1個のリアクタンス成分とポートkに接続する通信装置のインピーダンスzsを用いて次の式(3)で与えられる。
【数3】

【0028】
また、ウエイトベクトルw(x)を構成する式(2)のベクトルukは、2M次元列ベクトルであって、第k成分が1、他の成分が0である。クロネッカーデルタを用いれば次の式(4)のように表される。
【数4】

【0029】
式(1)の方角関数Dを構成する2M次元列ベクトルであるベクトルa(φ)は次の式(5)で与えられる。尚、jは虚数単位である。
【数5】

【0030】
式(5)の2M個の3次元列ベクトルr1、…、r2Mは、2M個のポート1、…、ポート2Mの位置ベクトルである。3次元列ベクトルL(φ)は単位ベクトルであって次の式(6)で与えられる。
【数6】

【0031】
即ち、式(5)の2M次元列ベクトルであるベクトルa(φ)は、2M個の等価ダイポールアンテナの方位角φの受信波の位相をθ1、…、θ2Mと置いた場合に、第i成分がcosθi+jsinθiである。
【0032】
こうして、ある評価関数Jを用い、そのJを最大とする2M−1個のリアクタンス成分から成るベクトルxをモンテカルロシミュレーションにより求める。これは例えば式(7)で表される。
【数7】

【0033】
式(1)で示したスカラーである方角関数D(φ,x)は、電波到来方向φと2M−1個の可変リアクタンスと送受信機のインピーダンスzsを決めた場合の受信信号の振幅を示す。そこで、φ0=0、即ちx軸方向を中心としてビームが形成されるものとし、ベクトルxの成分である2M−1個の可変リアクタンスを決めると、D(φh,x)=D(φ0,x)/2となる角度φh(x)を求めることができる。この角度φh(x)は、φ0からφh(x)だけ変位すると振幅が1/2となるわけであるから、一種の半値幅であると言える。そこで、希望する半値幅をφh0とし、φh0及びD(φ0,x)により評価関数Jを次のように設定する。
【数8】

【0034】
ここでρ(x)は反射係数であり、第1項は、可変リアクタンスにより決まるx軸方向のビームのゲインを、第2項は半値幅が希望値φh0からどれだけ近いかを示すものである。即ちJの第2項はφh0とφh(x)の差が小さいほど大きい。こうして、式(7)及び(8)により、希望する半値幅φh0毎に、2M−1個の可変リアクタンスの組から式(7)を最大とする2M−1個の可変リアクタンスの組を求めれば良い。そこで式(8)の第1項と第2項の重み付けのパラメータβを0.5、通信装置を接続する給電点であるポートk=1、通信装置のインピーダンスzsを200Ωとし、半値幅の希望値φh0を5度刻みで30〜150度の間で順に設定して、2M−1個の可変リアクタンスの組を各リアクタンス値を−500Ω〜500Ωの範囲で10万組用意してシミュレーションした。
【0035】
Mを2から8まで変化させて、VSWRを3未満(ρ(x)≦0.5)とする半値幅φh(x)の最大値(ビーム幅の最大値)と最小値(ビーム幅の最大値)を求めたところ図6のようになった。半値幅φh(x)の最大値は、シミュレーションの範囲のφh0の最大値150度付近であった。一方半値幅φh(x)の最小値は、アンテナ素子10−mの個数Mが増加するほど小さくなったが、M=5で40度となった以降は、変化が小さかった。
【0036】
M=5の場合のD(φ,x)を、半値幅の希望値φh0の4通りに対して評価関数Jを最大値とするベクトルxを用いた場合として示す。
いずれも半値幅の希望値φh0にほぼ一致する半値幅を与えた。また、半値幅は40度から145度までの広範囲に渡って制御可能であることが示された。
【0037】
本発明に用いた指向性アンテナ100は、特許文献1に示す通り、指向性のビームの向きを制御可能である。即ち、本発明と特許文献1の技術を組み合わせて、指向性のビームの向きとそのビーム幅を制御可能である。また、その制御方法としては、離散的に設定された所望のビーム方向とビーム幅を与えうる最も好ましいリアクタンス値を予めシミュレーションにより求めておき、制御に用いる車両の速度や他車両の位置その他のパラメータに合わせて、可変リアクタンス素子を制御すれば良い。
【0038】
また、本発明に用いた指向性アンテナ100は、実質的に平面アンテナである。シミュレーションで用いた、5.8GHz用でループ状のアンテナ素子の数M=5の場合、そのx軸方向の厚さD≒0.3mm、y軸方向の幅W=H+4G≒6.8cm、z軸方向の幅H≒1.6cmであり、普通乗用車のような小型車両にも十分に搭載可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】交差点付近を走行中の自車両Sと他車両Oの関係を示す5つの模式図。
【図2】衝突又は接触事故を起こしうる他車両Oが存在するエリアを速度の大小それぞれで示した2つの模式図。
【図3】3.Aは、自車両と他車両が、いずれも無指向性アンテナを用いて、他車両が自車両に接近する場合の市街地での通信可能距離を示す図、3.Bは、自車両と他車両が、いずれも指向性アンテナを用いて、他車両が自車両に接近する場合の市街地での通信可能距離を示す図。
【図4】4.Aは、自車両と他車両が、いずれも無指向性アンテナを用いて、他車両が自車両から離れていく場合の市街地での通信可能距離を示す図、4.Bは、自車両と他車両が、いずれも指向性アンテナを用いて、他車両が自車両から離れていく場合の市街地での通信可能距離を示す図。
【図5】5.Aは本発明の具体的な一実施例に係る指向性アンテナ100の構成を示す平面図、5.Bは側面図。
【図6】実施例に係る指向性アンテナ100の、ループ状のアンテナ素子の数Mと、ビーム幅の制御可能範囲(φh(x))のシミュレーション結果を示すグラフ図。
【図7】実施例に係る指向性アンテナ100の、ループ状のアンテナ素子の数Mを5とした場合の、設計ビーム幅φh0毎の方位角φに対するアンテナゲインD(φ,x)のシミュレーション結果を示すグラフ図。
【符号の説明】
【0040】
100:指向性アンテナ
10−m(m=1,…,M):ループ状のアンテナ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム幅が可変である指向性アンテナと、
前記指向性アンテナのビーム幅を制御するビーム幅制御手段とを有することを特徴とする車車間通信装置。
【請求項2】
自車両の速度を検出する速度検出手段を更に有し、
前記ビーム幅制御手段は、前記速度検出手段により検出された自車両の速度に応じて前記指向性アンテナのビーム幅を制御することを特徴とする請求項1に記載の車車間通信装置。
【請求項3】
自車両を基準とした所定範囲内に存在する車両の数を検出する周辺状況取得手段を更に有し、
前記ビーム幅制御手段は、前記周辺状況取得手段により検出された前記所定範囲内に存在する車両の数に応じて前記指向性アンテナのビーム幅を制御することを特徴とする請求項1に記載の車車間通信装置。
【請求項4】
自車両を基準とした所定範囲内に所定の大きさを越える大きさの車両が存在するか否かを判定する周辺状況取得手段を更に有し、
前記ビーム幅制御手段は、前記周辺状況取得手段の判定に基づき前記指向性アンテナのビーム幅を制御することを特徴とする請求項1に記載の車車間通信装置。
【請求項5】
前記指向性アンテナは、
2点1組の給電点から成る給電部を備えて1つの基準平面上に配置された1つの主のループ配線と、前記主のループ配線と平行または同一平面上に配置された、給電点を備えない少なくとも1つの従のループ配線とを有するアンテナであって、
各前記ループ配線は、それぞれ互いに交点及び接点を持たず、
前記従のループ配線に囲まれた平面領域の中心点は、前記主のループ配線に囲まれた平面領域の中心点を通る、前記基準平面に垂直な1つの垂直断面上に位置しており、
任意の1つの前記ループ配線によって囲まれる平面領域は、前記基準平面の法線方向から見たときに、隣り合う他の前記ループ配線によって囲まれる他の平面領域と部分的に重なって見え、
前記従のループ配線は、前記垂直断面上の2箇所にそれぞれ可変リアクタンス素子を有し、
前記主のループ配線は、前記垂直断面上の1箇所に可変リアクタンス素子を有し、前記垂直断面上の他の1箇所に前記給電部を有するものであり、
前記給電点を中心とする主のループ配線の半分を給電素子、前記可変リアクタンス素子を中心とする主のループ配線及び従のループ配線を複数の無給電素子とみなし、
前記複数の可変リアクタンス素子のリアクタンス値を変化させることによりビーム幅を変化可能としたことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車車間通信装置。
【請求項6】
更に、前記指向性アンテナのビーム方向を制御するビーム方向制御手段を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の車車間通信装置。
【請求項7】
ビーム幅が可変である指向性アンテナを用い、
前記指向性アンテナのビーム幅を、自車両の速度、自車両を基準とした所定範囲内に存在する車両の数、又は自車両を基準とした所定範囲内に所定の大きさを越える大きさの車両が存在するか否かにより、前記指向性アンテナのビーム幅を制御することを特徴とする車車間通信方法。
【請求項8】
更に、前記指向性アンテナのビーム方向を制御することを特徴とする請求項7に記載の車車間通信方法。

【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−77015(P2009−77015A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241977(P2007−241977)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】