説明

車載内燃機関の制御装置

【課題】制動力の低下を抑制しつつ、急停車時のエンジンストールの発生を抑制することのできる車載内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】トルクコンバータ20は、そのポンプインペラ21が内燃機関10のクランクシャフト13に連結されるとともに、タービンライナ22が自動変速機30の入力軸31に連結されている。電子制御装置100は、入力軸回転速度センサ66によって検出されるタービンライナ22の回転速度に基づいてタービンライナ22の逆回転の発生が推定されたときに内燃機関10の機関出力を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関と変速機とをトルクコンバータを介して接続した車両に搭載される車載内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機を備える車両には、変速機の入力軸に連結されたタービンライナに内燃機関の出力軸に連結されたポンプインペラの回転力を流体を介して伝達するトルクコンバータが設けられている。こうしたトルクコンバータを備える車両にあっては、トルクコンバータを介して内燃機関と変速機との間で常にトルクが伝達される。そのため、制動時や停車時のように変速機の下流側に接続された駆動系に制動力が作用し、内燃機関の出力軸の回転速度よりも変速機の入力軸の回転速度が遅くなる場合には、変速機の入力軸側から内燃機関の出力軸側にその回転を減速させる負荷が作用する。そして、急制動や急停車等のように大きな制動力が作用する場合には、変速機の入力軸の回転速度が急激に低下し、内燃機関の出力軸に特に大きな負荷が入力されて機関運転が停止してしまういわゆるエンジンストールが発生することがある。
【0003】
これに対して特許文献1には、急制動時にスロットルバルブの開度を増大させてエンジンストールの発生を回避するものが記載されている。具体的には、図4に実線で示されるようにスロットルバルブが閉弁されており、且つブレーキペダルが所定量以上踏み込まれたときに急制動である旨を判定し、スロットルバルブの開度を強制的に増大させて機関出力を増大させるようにしている(図4における時刻t1)。これにより、トルクコンバータを介して変速機側から内燃機関側に大きな負荷が入力された場合であってもエンジンストールの発生が抑制されるようになる。
【特許文献1】特開平9‐32597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のように減速中にスロットルバルブの開度を増大させると、エンジンブレーキの効果が低下するため、図4に一点鎖線で示されるようにスロットルバルブの開度を増大させなかった場合と比較して車速が低下しにくくなり、制動距離が長くなってしまう。このように上記特許文献1に記載の構成は、急制動時におけるエンジンストールの発生を抑制することができるものの、制動力が低下してしまうという欠点があり、この点において改良の余地を残すものであった。
【0005】
これに対して本願発明者は、急制動時にはドライブシャフト等、トルクコンバータよりも下流側の駆動系にねじれが生じており、車両が停車してこの駆動系の回転が停止したときにこのねじれが解消されることを発見した。そして、このねじれの解消に伴ってトルクコンバータのタービンライナが逆回転し、このタービンライナの逆回転に伴ってトルクコンバータを介して内燃機関に大きな負荷が作用していることに着目し、上記のようなエンジンストールが特に車両が停止する瞬間に発生しやすくなっていることを見出した。
【0006】
この発明はこうした知見に基づくものであり、その目的は制動力の低下を抑制しつつ、急停車時のエンジンストールの発生を抑制することのできる車載内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、内燃機関の出力軸に連結されたポンプインペラと、変速機の入力軸に連結されたタービンライナとを有し、これらポンプインペラとタービンライナとの間で流体を介して回転力を伝達するトルクコンバータを備える車両に搭載される車載内燃機関の制御装置であって、前記タービンライナの回転速度を検出するタービン回転速度検出手段と、検出される前記タービンライナの回転速度に基づいて前記タービンライナの逆回転の発生が推定されたときに機関出力を増大させるエンジンストール抑制手段とを備えることをその要旨とする。
【0008】
上記構成によれば、タービンライナの回転速度に基づいて、ポンプインペラの回転方向、すなわち内燃機関の出力軸の回転方向に対するタービンライナの逆回転の発生が推定されたときに機関出力が増大される。そのため、タービンライナの逆回転に起因してトルクコンバータを介して内燃機関に大きな負荷が作用するときには、機関出力が増大されるようになり、タービンライナの逆回転に起因するエンジンストールの発生が抑制される。また、従来行われていたように急制動時に機関出力を増大させる場合には、急制動であることが判定された時点から機関出力を増大させることとなり、減速中のエンジンブレーキの効果が低下してしまう。これに対して上記請求項1に記載の構成によればこうした従来の構成と比較して減速中の機関出力の増大を極力抑制し、エンジンストールが特に発生しやすいタービンライナの逆回転発生時に機関出力を増大させて好適にエンジンストールの発生を抑制することができる。すなわち、上記請求項1に記載の構成によれば、減速中の制動力の低下を抑制しつつ、急停車時のエンジンストールの発生を抑制することができるようになる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置において、前記エンジンストール抑制手段は、前記内燃機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度を強制的に増大させることにより機関出力を増大させることをその要旨とする。
【0010】
具体的には、上記請求項2に記載の発明のようにタービンライナの逆回転が推定されたときに内燃機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度を強制的に増大させることにより、機関出力を増大させることができる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車載内燃機関の制御装置において、前記エンジンストール抑制手段は、前記タービン回転速度検出手段によって前記タービンライナの回転方向が前記ポンプインペラの回転方向と異なっていることが検出されたときに前記タービンライナの逆回転の発生を推定することをその要旨とする。
【0012】
具体的には、上記請求項3に記載の発明のようにタービン回転速度検出手段によって検出されるタービンライナの回転速度に基づいてタービンライナの回転方向がポンプインペラの回転方向と異なっていることが検出されたときにタービンライナの逆回転が発生していることを推定する構成を採用することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置において、前記エンジンストール抑制手段は、前記タービンライナが逆回転しているときの同タービンライナの回転速度が大きいときほど機関出力が大きくなるように同機関出力を増大させることをその要旨とする。
【0014】
タービンライナが逆回転しているときには、その回転速度が大きいほど、すなわちポンプインペラとタービンライナとの相対的な回転速度差が大きいほどポンプインペラに連結された内燃機関の出力軸には大きな負荷が作用する。そのため、この負荷の影響によるエンジンストールの発生を好適に抑制する上では、上記請求項4に記載の発明によるように逆回転しているタービンライナの回転速度が大きいときほど機関出力を増大させることが望ましい。こうした構成を採用すれば、内燃機関に作用する負荷の大きさに合わせた態様で機関出力を増大させることができ、無駄に機関出力を増大させることを回避しながら好適にエンジンストールの発生を抑制することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置において、前記エンジンストール抑制手段は、前記タービンライナの逆回転が停止したときに前記機関出力の増大を終了することをその要旨とする。
【0016】
タービンライナの逆回転が停止すれば、これに伴って内燃機関に過大な負荷が作用することもなくなるため、エンジンストールの発生する可能性は低くなる。そのため、タービンライナの逆回転が停止した場合には、上記構成のように速やかに機関出力の増大を終了することが望ましい。こうした構成を採用すれば、無駄に機関出力の増大を継続させて燃料消費量が増大することを抑制することができるようになる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、急制動である旨を判定する急制動判定手段を更に備え、前記エンジンストール抑制手段は、前記タービンライナの逆回転の発生が推定され、且つ前記急制動判定手段によって急制動である旨の判定がなされていることを条件に前記機関出力を増大させる請求項1〜5のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置である。
【0018】
急制動時にあっては、トルクコンバータよりも下流側の駆動系の回転速度が急激に低下し、これら駆動系がより大きくねじれるようになり、それに伴ってねじれとして駆動系に蓄えられるエネルギも大きくなる。その結果、車両停止時にこのねじれが解消する際に発生するタービンライナの逆回転に起因して内燃機関に作用する負荷も大きなものとなり、エンジンストールがより発生しやすくなる。一方で、急制動ではなく駆動系のねじれが小さい場合には、これが解消する際に発生するタービンライナの逆回転に起因して内燃機関に作用する負荷も小さなものとなり、エンジンストールは発生しにくい。そのため、上記請求項6に記載の発明によるようにポンプインペラに対してタービンライナが逆回転することが推定され、且つ急制動である旨の判定がなされていることを条件に機関出力を増大させる構成を採用することもできる。こうした構成を採用すれば、エンジンストールが発生しやすい急制動のときにのみ、機関出力を増大させることができるようになり、無駄な機関出力の増大を回避しつつ、好適にエンジンストールの発生を抑制することができるようになる。
【0019】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の車載内燃機関の制御装置において、前記急制動判定手段は、ブレーキマスタシリンダ内の圧力が所定圧力以上であることに基づいて急制動である旨を判定することをその要旨とする。
【0020】
急制動であるか否かを判定する手段としては、具体的には上記請求項7に記載の発明のようにブレーキマスタシリンダ内の圧力を検出し、これが所定圧力以上であるか否かを監視する構成を採用することができる。こうした構成を採用すれば、ブレーキの作動油圧に対応して変化するブレーキマスタシリンダ内の圧力に基づいてこれが所定圧力以上である場合には急制動である旨を判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明にかかる車載内燃機関の制御装置を自動車に搭載された内燃機関を統括的に制御する電子制御装置に具体化した一実施形態について、図1〜3を参照して説明する。図1は本実施形態にかかる電子制御装置100と、その制御対象である車両の駆動系の概略構成を示す模式図である。
【0022】
図1に示されるように内燃機関10は、トルクコンバータ20を介して自動変速機30と接続されている。トルクコンバータ20の内部はオイルで満たされており、その中に内燃機関10のクランクシャフト13に接続されたポンプインペラ21と、自動変速機30の入力軸31に接続されたタービンライナ22とが互いに対向するように配設されている。また、図1に示されるようにポンプインペラ21とタービンライナ22との間には、これらの間でオイルの流れを整流するステータ23が設けられている。
【0023】
これにより、内燃機関10の運転に伴ってクランクシャフト13とともにポンプインペラ21が回転すると、オイルがこれに伴ってトルクコンバータ20内で流動し、このオイルの流動によってタービンライナ22に回転力が伝達されるようになる。また、このとき、オイルはステータ23の整流作用によってポンプインペラ21からタービンライナ22へ、そしてタービンライナ22からステータ23を通じてポンプインペラ21へと向かって流動するようになり、この整流作用によってトルクコンバータ20に入力された回転力が増大されて自動変速機30側へ出力されることとなる。
【0024】
自動変速機30は、図示しない複数のギアの組み合わせによって駆動力の伝達経路を変更し、変速比を変更する多段式の変速機である。自動変速機30の出力軸32は、プロペラシャフト40及びディファレンシャル41を介して駆動輪43が取り付けられたドライブシャフト42に接続されている。これにより自動変速機30を通じて変速された回転力は、これらプロペラシャフト40、ディファレンシャル41、ドライブシャフト42を順に経て、最終的に駆動輪43に伝達される。
【0025】
また、図1に示されるように内燃機関10には、燃焼室に空気を導入する吸気通路11が接続されている。吸気通路11には、吸入空気量GAを調量するスロットルバルブ12が設けられている。このスロットルバルブ12の開度であるスロットル開度TAは、電子制御装置100の指令に基づいて駆動されるモータ12aによって制御される。
【0026】
本実施形態にかかる内燃機関10にあっては、こうしてスロットル開度TAを変更し、これによって調量される吸入空気に対応する量の燃料が燃料噴射弁から噴射される。そして、空気と燃料の混合気が燃焼室で燃焼されることにより、クランクシャフト13が回転し、トルクコンバータ20、自動変速機30を通じて駆動輪43にその回転力が伝達される。
【0027】
内燃機関10及び自動変速機30には、機関運転状態を検出する各種のセンサが設けられている。例えば、水温センサ60は内燃機関10のウォータジャケット内の機関冷却水の温度である機関冷却水温THWを検出する。クランクシャフト13の近傍に設けられたクランク角センサ61は機関回転速度NE及びクランク角CAを検出する。図示しないアクセルペダルに設けられたアクセルポジションセンサ62はアクセル操作量ACCPを検出する。スロットルポジションセンサ63はスロットル開度TAを検出する。エアフロメータ64は吸気通路11を通じて燃焼室に導入される吸入空気量GAを検出する。ブレーキペダルの踏み込み量に対応してブレーキの作動油圧を発生させるブレーキマスタシリンダに設けられたマスタシリンダ圧力センサ65はブレーキマスタシリンダ内の圧力であるブレーキマスタシリンダ圧BMPを検出する。また、図1に示されるように自動変速機30の入力軸31及び出力軸32の近傍には、これら入力軸31及び出力軸32の回転速度を検出する入力軸回転速度センサ66と出力軸回転速度センサ67とがそれぞれ設けられている。
【0028】
電子制御装置100は、これら各種センサ60〜67の検出信号を読み込み、各種演算処理を実行し、その結果に基づいて内燃機関10を統括的に制御する。具体的には、電子制御装置100は入力軸回転速度センサ66の出力値に基づいてタービンライナ22の回転速度であるタービン回転速度NTを検出するとともに、出力軸回転速度センサ67の出力値に基づいて車速SPDを検出する。尚、入力軸回転速度センサ66にあっては、入力軸31の回転方向も検出することができるようになっており、その回転方向がクランクシャフト13の回転方向と同じ場合には正のタービン回転速度NTが、入力軸31の回転方向がクランクシャフト13の回転方向と反対方向の場合には負のタービン回転速度NTが検出されるようになっている。
【0029】
また、クランク角センサ61から入力されるクランク角CAに基づいて、内燃機関10の各気筒に対する燃料噴射及び点火を実行する。更に機関回転速度NE及びアクセル操作量ACCPに基づいて目標スロットル開度TAtrgを設定し、スロットル開度TAがこの目標スロットル開度TAtrgと一致するようにモータ12aを制御することにより、上述したようにスロットルバルブ12を駆動して吸入空気量GAを調量する。そして、これと併せて燃料噴射量を設定し、燃料噴射弁を開弁駆動して燃料噴射量を調量する。
【0030】
ところで、制動時や停車時のようにブレーキがかけられ、プロペラシャフト40やドライブシャフト42の回転速度が低下する場合には、内燃機関10のクランクシャフト13に接続されたポンプインペラ21の回転速度よりも自動変速機30の入力軸31に接続されたタービンライナ22の回転速度が遅くなる。上述したように内燃機関10と自動変速機30はトルクコンバータ20を介して接続されており、これらの間では常に回転力が伝達されるようになっている。そのため、このようにタービン回転速度NTがポンプインペラ21の回転速度よりも遅くなった場合には、内燃機関10にはトルクコンバータ20を介して機関回転速度NEを減速させる負荷が作用することとなる。
【0031】
また、急制動時には内燃機関10側から入力される回転力によって回転している駆動系の回転部材、すなわちプロペラシャフト40やドライブシャフト42等には、その両端部において回転力と制動力とが互いに反対方向に作用することとなる。そのため、急制動時にはこれらの部材にねじれが生じ、車両が停車してこの駆動系の回転が停止したときにこのねじれが解消されるようになる。そして、本願発明者は、このねじれの解消に伴ってトルクコンバータ20のタービンライナ22が逆回転し、このタービンライナ22の逆回転に伴ってトルクコンバータ20を介して内燃機関10に更に大きな負荷が作用することに着目し、車両が停止する瞬間にこの逆回転に起因してエンジンストールが発生しやすくなっていることを見出した。
【0032】
そこで、本実施形態の車両にあっては、急制動時にタービンライナ22の逆回転が推定されるときに機関出力を増大させてエンジンストールの発生を抑制するエンジンストール抑制制御を実行するようにしている。
【0033】
以下、図2を参照してこのエンジンストール抑制制御について説明する。尚、図2はエンジンストール抑制制御の一連の処理の流れを示すフローチャートである。この一連の処理は機関運転中に電子制御装置100によって繰り返し実行される。
【0034】
この処理が開始されると、電子制御装置100は、まずステップS100において、ブレーキマスタシリンダ圧BMPが所定圧力BMPst以上であるか否かを判定する。尚、所定圧力BMPstの値は、ブレーキマスタシリンダ圧BMPが同所定圧力BMPst以上であることに基づいて急制動が行われていることを推定することのできる閾値として、予め行う実験等の結果に基づいて設定されている。
【0035】
ステップS100において、ブレーキマスタシリンダ圧BMPが所定圧力BMPst以上である旨の判定がなされた場合(ステップS100:YES)、すなわち急制動が行われていることが推定された場合には、ステップS110へと進む。
【0036】
そして、ステップS110において、タービン回転速度NTが「0」未満であるか否かを判定する。ステップS110において、タービン回転速度NTが「0」未満である旨の判定がなされた場合(ステップS110:YES)には、タービンライナ22が逆回転している旨を推定し、ステップS120へと進む。
【0037】
そして、ステップS120において、スロットル開度TAを増大させる。具体的には、目標スロットル開度TAtrgに加算する補正量αとして所定量Aを設定し、この補正量αを目標スロットル開度TAtrgに加算することにより目標スロットル開度TAtrgを増大補正する。これにより、スロットル開度TAが所定量Aだけ増大補正されて吸入空気量GAが増量し、機関出力が増大されるようになる。こうして機関出力を増大させると電子制御装置100は、この処理を一旦終了する。
【0038】
一方、ステップS100においてブレーキマスタシリンダ圧BMPが所定圧力BMPst未満である旨の判定がなされた場合(ステップS100:NO)、またステップS110においてタービン回転速度NTが「0」以上である旨の判定がなされた場合(ステップS110:NO)には、ステップS130へと進む。そして、ステップS130において、補正量αを「0」に設定し、電子制御装置100はスロットル開度TAの増大補正を行わずにこの処理を一端終了する。すなわち、急制動が行われていない場合、またタービン回転速度NTが「0」以上であり、タービンライナ22の逆回転が推定されない場合には機関出力を増大させずにそのままこの処理を一旦終了する。また、前回の制御周期までの間、スロットル開度TAを増大させていた場合であっても、今回の制御周期におけるステップS110においてタービン回転速度NTが「0」以上である旨判定された場合、すなわちタービンライナ22の逆回転の停止が推定される場合にはスロットル開度TAの増大を終了して、この処理を一旦終了する。
【0039】
以下、図3を参照してこうしたエンジンストール抑制制御を実行した場合の作用を説明する。尚、図3は本実施形態にかかるエンジンストール抑制制御における車速SPD、機関回転速度NE及びタービン回転速度NTの変化と、スロットル開度TAの変化との関係を示すタイミングチャートである。尚、図3にあっては本実施形態にかかるエンジンストール抑制制御にかかる各値の変化を実線で示すとともに、エンジンストール抑制制御を実行しなかった場合の各値の変化を一点鎖線で示し、従来行われていたエンジンストール抑制制御を実行した場合の各値の変化を二点鎖線で示している。
【0040】
図3に一点鎖線で示されるようにエンジンストール抑制制御を実行しなかった場合には、時刻t1において急制動が実行されブレーキマスタシリンダ圧が所定圧力BMPst以上になると車速SPD、機関回転速度NE及びタービン回転速度NTが急激に低下する。このとき、プロペラシャフト40やドライブシャフト42等の駆動系にはねじれが生じ、エネルギが蓄えられる。そして、時刻t2において車速SPDが「0」になり車両が停止すると、タービンライナ22が逆回転するとともに、このねじれが解消される(時刻t2〜3)。これによりトルクコンバータ20を介して内燃機関10には大きな負荷が作用し、機関回転速度NEが自立運転を継続し得る回転速度よりも低下してしまい、内燃機関10が停止してしまう。このようにエンジンストール抑制制御を行わない場合には、急制動によって車両が停止するときにエンジンストールが発生し、内燃機関10が停止してしまう。
【0041】
これに対して、図3に二点鎖線で示されるように従来行われていたエンジンストール抑制制御にあっては、時刻t1においてブレーキマスタシリンダ圧BMPが所定圧力BMPst以上となり、急制動であることが判定されるとスロットル開度TAが増大補正される。これにより、吸入空気量GAが増大し、それに伴って機関出力が増大されるため、急制動時であっても機関回転速度NE及びタービン回転速度NTの急激な低下が抑制され、エンジンストールの発生が回避される(時刻t1〜t4)。
【0042】
このように従来のエンジンストール抑制制御を実行した場合には、確かにエンジンストールの発生を回避することはできるものの、時刻t1において急制動であることが判定された時点でスロットル開度TAが増大補正され、機関出力が増大されるため、図3に示されるように車速SPDが低下しにくくなり、制動距離が長くなってしまう。
【0043】
これに対して本実施形態のエンジンストール抑制制御にあっては、図3に実線で示されるように、時刻t1において急制動が実行された時点ではスロットル開度TAを増大補正せずに、時刻t2においてタービン回転速度NTが「0」未満になったときにスロットル開度TAを増大補正するようにしている。このスロットル開度TAの増大補正により、吸入空気量GAが増大され、機関出力が増大されるため、タービンライナ22が逆回転することにより内燃機関10に大きな負荷が作用しても機関回転速度NEが低下しなくなり、エンジンストールの発生が回避される。
【0044】
そして、時刻t3においてプロペラシャフト40やドライブシャフト42等のねじれが解消されてタービンライナ22の逆回転が停止し、タービン回転速度NTが「0」になったときにスロットル開度TAの増大補正が終了される。
【0045】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)タービン回転速度NTに基づいて、ポンプインペラ21の回転方向、すなわち内燃機関10のクランクシャフト13の回転方向に対するタービンライナ22の逆回転の発生が推定されたときに機関出力が増大される。そのため、タービンライナ22の逆回転に起因してトルクコンバータ20を介して内燃機関10に大きな負荷が作用するときには、機関出力が増大されるようになり、タービンライナ22の逆回転に起因するエンジンストールの発生が抑制される。また、従来行われていたように急制動時に機関出力を増大させる場合には、急制動であることが判定された時点から機関出力を増大させることとなり、減速中のエンジンブレーキの効果が低下してしまう。これに対して本実施形態のエンジンストール抑制制御によればこうした従来の構成と比較して減速中の機関出力の増大を極力抑制し、エンジンストールが特に発生しやすいタービンライナ22の逆回転発生時に機関出力を増大させて好適にエンジンストールの発生を抑制することができる。すなわち、減速中の制動力の低下を抑制しつつ、急停車時のエンジンストールの発生を好適に抑制することができるようになる。
【0046】
(2)タービンライナ22の逆回転が停止すれば、これに伴って内燃機関10に過大な負荷が作用することもなくなるため、エンジンストールの発生する可能性は低くなる。これに対して、本実施形態のエンジンストール抑制制御にあっては、タービン回転速度NTが「0」以上になり、タービンライナ22の逆回転が停止した場合には、スロットル開度TAの増大補正を終了して速やかに機関出力の増大を終了ようにしている(図3における時刻t3)。そのため、こうした構成によれば、無駄に機関出力の増大を継続させて燃料消費量が増大することを抑制することができるようになる。
【0047】
(3)急制動時にあっては、トルクコンバータ20よりも下流側の駆動系の回転速度が急激に低下し、これら駆動系がより大きくねじれるようになり、それに伴ってねじれとして駆動系に蓄えられるエネルギも大きくなる。その結果、車両停止時にこのねじれが解消する際に発生するタービンライナ22の逆回転に起因して内燃機関10に作用する負荷も大きなものとなり、エンジンストールがより発生しやすくなる。一方で、急制動ではなく駆動系のねじれが小さい場合には、これが解消する際に発生するタービンライナの逆回転に起因して内燃機関10に作用する負荷も小さなものとなり、エンジンストールは発生しにくい。これに対して、上記実施形態のエンジンストール抑制制御にあっては、ポンプインペラ21に対してタービンライナ22が逆回転することが推定され、且つ急制動である旨の判定がなされていることを条件に機関出力を増大させるようにしている。そのため、エンジンストールが発生しやすい急制動のときにのみ、機関出力を増大させることができるようになり、無駄な機関出力の増大を回避しつつ、好適にエンジンストールの発生を抑制することができるようになる。
【0048】
尚、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記実施形態では、スロットル開度TAを所定量Aだけ増大補正して機関出力を増大させる構成を例示したが、タービンライナ22が逆回転しているときのタービン回転速度NTに基づいてその速度が速いほど、すなわちタービン回転速度NTの絶対値の値が大きいときほど補正量αを大きな値に設定しスロットル開度TAを増大させることもできる。
【0049】
タービンライナ22が逆回転しているときには、その回転速度が大きいほど、すなわちポンプインペラ21とタービンライナ22との相対的な回転速度差が大きいほどポンプインペラ21に連結された内燃機関10のクランクシャフト13には大きな負荷が作用する。そのため、この負荷の影響によるエンジンストールの発生を好適に抑制する上では、上記のように逆回転しているタービンライナ22の回転速度が大きいときほど機関出力を増大させることが望ましい。こうした構成を採用すれば、内燃機関10に作用する負荷の大きさに合わせた態様で機関出力を増大させることができ、無駄に機関出力を増大させることを回避しながら好適にエンジンストールの発生を抑制することができるようになる。
【0050】
・上記実施形態では、ブレーキマスタシリンダ内の圧力を検出するマスタシリンダ圧力センサ65を設け、これによって検出されるブレーキマスタシリンダ圧BMPが所定圧力BMPst以上であることに基づいて急制動である旨を推定する構成を示したが、これは急制動である旨を推定する手段の一例であり、適宜変更することができる。例えば、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するセンサを設け、このセンサによって検出されるブレーキペダルの踏み込み量が所定量以上であることに基づいて急制動である旨を推定することもできる。
【0051】
・また、上記実施形態では、タービンライナ22の逆回転の発生が推定され、且つ急制動である旨の判定がなされていることを条件にスロットル開度TAを増大させて機関出力を増大させる構成を示したが、急制動判定手段を省略し、急制動でない場合であってもタービンライナ22の逆回転が発生する度に機関出力を増大させる構成を採用することもできる。こうした構成を採用した場合にも機関出力を増大させてタービンライナ22の逆回転に起因するエンジンストールの発生を抑制することができる。
【0052】
・上記実施形態ではタービン回転速度NTが「0」未満であることに基づいてタービンライナ22の逆回転を推定する構成を示したが、その他の方法によってタービンライナ22の逆回転を推定する構成を採用することもできる。例えば、機関回転速度NEとタービン回転速度NTとの変化履歴を監視して、これらの変化履歴に基づいてプロペラシャフト40やドライブシャフト42のねじれの発生を推定するとともに、このねじれが解消される時期を推定し、それに伴うタービンライナ22の逆回転の発生を推定することもできる。
【0053】
・上記実施形態では、入力軸回転速度センサ66によって検出される自動変速機30の入力軸31の回転速度に基づいてタービンライナ22の回転速度であるタービン回転速度NTを検出する構成を示したが、タービン回転速度検出手段としてタービンライナ22近傍に同タービンライナ22の回転速度を検出するセンサを設ける構成を採用することもできる。
【0054】
・エンジンストール抑制手段として、スロットル開度TAを増大させることにより機関出力を増大させる構成を示したが、この構成は機関出力を増大させる構成の一例であり、その構成は適宜変更することができる。エンジンストール抑制手段として、機関出力を増大させる構成としては、スロットル開度TAを増大させる構成の他、例えば、アイドルスピードコントロールバルブの開度を増大させる、燃料噴射量を増大させる、点火時期を変更する、またこれらを組み合わせて実行する等の構成を採用することができる。
【0055】
・急制動に起因する場合のみならず、タービンライナ22の逆回転が発生した場合にはトルクコンバータ20を介して内燃機関10に大きな負荷が作用するため、エンジンストールが発生しやすくなる。そのため、急制動による場合のみならず、タービンライナ22の逆回転の発生が推定されるときには機関出力を増大させることが望ましい。尚、急制動による停車時の他にタービンライナ22の逆回転が発生する状況としては、上り坂における発進時に車両が後退してしまう場合などが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の一実施形態にかかる車両の駆動系の概略構成を示す模式図。
【図2】同実施形態にかかる車両におけるエンジンストール抑制制御の一連の処理の流れを示すフローチャート。
【図3】同実施形態にかかるエンジンストール抑制制御における車速、機関回転速度及びタービン回転速度の変化と、スロットル開度の変化との関係を示すタイミングチャート。
【図4】従来のエンジンストール抑制制御における車速及び機関回転速度の変化と、スロットル開度の変化との関係を示すタイミングチャート。
【符号の説明】
【0057】
10…内燃機関、11…吸気通路、12…スロットルバルブ、12a…モータ、13…クランクシャフト、20…トルクコンバータ、21…ポンプインペラ、22…タービンライナ、23…ステータ、30…自動変速機、31…入力軸、32…出力軸、40…プロペラシャフト、41…ディファレンシャル、42…ドライブシャフト、43…駆動輪、60…水温センサ、61…クランク角センサ、62…アクセルポジションセンサ、63…スロットルポジションセンサ、64…エアフロメータ、65…マスタシリンダ圧力センサ、66…入力軸回転速度センサ、67…出力軸回転速度センサ、100…電子制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の出力軸に連結されたポンプインペラと、変速機の入力軸に連結されたタービンライナとを有し、これらポンプインペラとタービンライナとの間で流体を介して回転力を伝達するトルクコンバータを備える車両に搭載される車載内燃機関の制御装置であって、
前記タービンライナの回転速度を検出するタービン回転速度検出手段と、検出される前記タービンライナの回転速度に基づいて前記タービンライナの逆回転の発生が推定されたときに機関出力を増大させるエンジンストール抑制手段とを備える
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記エンジンストール抑制手段は、前記内燃機関の吸気通路に設けられたスロットルバルブの開度を強制的に増大させることにより機関出力を増大させる
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記エンジンストール抑制手段は、前記タービン回転速度検出手段によって前記タービンライナの回転方向が前記ポンプインペラの回転方向と異なっていることが検出されたときに前記タービンライナの逆回転の発生を推定する
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記エンジンストール抑制手段は、前記タービンライナが逆回転しているときの同タービンライナの回転速度が大きいときほど機関出力が大きくなるように同機関出力を増大させる
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記エンジンストール抑制手段は、前記タービンライナの逆回転が停止したときに前記機関出力の増大を終了する
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。
【請求項6】
急制動である旨を判定する急制動判定手段を更に備え、
前記エンジンストール抑制手段は、前記タービンライナの逆回転の発生が推定され、且つ前記急制動判定手段によって急制動である旨の判定がなされていることを条件に前記機関出力を増大させる
請求項1〜5のいずれか一項に記載の車載内燃機関の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の車載内燃機関の制御装置において、
前記急制動判定手段は、ブレーキマスタシリンダ内の圧力が所定圧力以上であることに基づいて急制動である旨を判定する
ことを特徴とする車載内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−1813(P2010−1813A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161679(P2008−161679)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】