説明

車輪操舵システムおよび操舵反力制御方法

【課題】キックバック等の外乱に起因する操舵反力の変動を、運転者に応じて制御可能な車輪操舵システム、および操舵反力制御方法を提供する。
【解決手段】
ステアリングホイールの操作量に応じて車輪操舵システムであって、外力伝達手段を介してステアリングホイールに伝達される、車輪が受ける外力の大きさを、運転者の腕質量情報に応じて制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールの操作量に応じて車輪を操舵する車輪操舵システム、および運転者がステアリングホイールから受ける操舵反力の大きさを制御する操舵反力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、自動車車両などの車両のステアリング装置では、油圧式や電気モータによるパワーアシスト装置を具備したもの(いわゆる、パワーステアリングシステム)が一般的である。自動車などの車両のステアリング装置では、運転者がステアリングホイールを介して主に手や腕の触感によって認知するステアリング感覚(操舵反力特性)が、運転者に応じた適当な特性となっていることが好ましい。従来から、運転者の姿勢や筋力を検知して、運転者に応じて操舵反力特性を適正化する機能を備えたパワーアシスト装置が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1に記載には、運転者の着座姿勢や運転者の体格を検出し、このような着座姿勢や体格の情報に応じて、パワーアシスト装置におけるアシスト率を制御することで、運転者が適正なステアリング感覚を得る電動式パワーステアリング装置が開示されている。また、下記特許文献2には、運転者の体格や姿勢を検出し、この体格や姿勢の情報に応じてアシスト率を制御することで、運転者が常に良好な操舵フィーリングを得る電動式パワーステアリング装置が開示されている。これら特許文献1および特許文献2は、運転者がステアリングホイールを操作して積極的に車輪を操舵する(車両の方向を変更・修正する)際の操舵反力に着目し、このような、運転者によるステアリングホイールの積極的な操作における操舵反力を、運転者に応じて好適に調整している。これに対し、下記特許文献3では、キックバックなどの、車輪が路面から受ける外力がステアリングホイールに伝わることで生じる操舵反力の変動を抑制防止する電動式操舵装置が提案されている。キックバックなどの外乱による操舵反力の変動は、運転者が路面や車両(車輪)の状態を把握するためにはある程度必要であるが、あまり大きいと運転者がステアリングホイールを保持しきれずに、車両の制御(操舵)が不能な状態になってしまうという問題もある。特許文献3では、このようなキックバックによる操舵反力の変動を抑制防止し、運転者が良好な操作フィーリングで車両を運転(車輪を操舵)することを可能としている。
【特許文献1】特開平6−99829号公報
【特許文献2】特開平8−301136号公報
【特許文献3】特開2004−168150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両が直進走行している最中や、車両が緩やかにコーナーリングしている最中など、ステアリングホイールを急減に動かしたり、強く保持しておく必要がない状態では、多くの運転者は、ステアリングホイールを把持して腕の力を抜き、腕の重さをステアリングホイールにあずけるような状態で、腕の筋力を用いずにステアリングホイールを操作している(殆ど動かしていない)。パワーステアリング装置の性能が向上した現在、このような傾向はますます強まっている。車両の車輪が、運転者の認知していない路面の凹凸や轍を通過するなどすると、運転者の予期しないタイミングで、キックバックによる操舵反力の変動が急に生じることになる。腕の筋力を用いずにステアリングホイールを操作する運転状態においては、予期しないキックバックによる急な操舵反力の変動に対して、運転者は急に筋力で対応することはできず、ステアリングホイールは大きく動かされることになる。このようなステアリングホイールの変動は、運転者の腕の質量に応じて変わる。これは、運転者が腕の質量をステアリングホイールにあずけた状態では、ステアリングホイールのモーメント(ステアリングシャフトを軸とした回転モーメント)が、腕の質量を加味したモーメントとなり、当然、腕の質量が重いほどステアリングホイールのモーメントが大きくなるためである。特に女性など、比較的腕が細く、腕の重量が軽い運転者の場合、このモーメントは小さくなり予期しないキックバックによってステアリングは大きく振られることになり、車両の安定性が大きく悪化してしまう。
【0005】
上記特許文献3では、ステアリングホイールの操舵量や車速に応じて、キックバック等の外乱に起因する操舵反力の変動を抑制防止しているが、運転者に応じた制御を行なう点については示唆されていない。また、特許文献1および特許文献2は、パワーアシスト装置のアシスト率の制御についての発明であり、キックバック等の外乱に起因する操舵反力の変動の抑制について記載されていない。当然、引用文献1および引用文献2の双方とも、キックバック等の外乱に起因する操舵反力の変動を、運転者に応じて制御するための具体的方法や、制御のためのパラメータについても一切示唆されていない。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題を解決するために、キックバック等の外乱に起因する操舵反力の変動を、運転者に応じて制御可能な車輪操舵システム、および操舵反力制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、ステアリングホイールの操作に応じて車輪を操舵する車輪操舵システムであって、前記ステアリングホイールの操作に反して前記車輪を転舵させるように作用する前記車輪が受ける外力を、前記ステアリングホイールに伝達する外力伝達手段と、前記運転者の腕質量情報に応じて、前記外力伝達手段を介して前記ステアリングホイールに伝達される伝達外力の大きさを調整する伝達外力調整手段とを備えることを特徴とする車輪操舵システムを提供する。
【0008】
また、前記外力伝達手段は、前記車輪が受ける前記外力の大きさを減少させて前記ステアリングホイールに伝達する伝達外力減少手段を備え、前記伝達外力調整手段は、前記腕質量情報に基づき、前記伝達外力減少手段における前記外力の減少率を制御することで、前記車輪側から前記ステアリングホイールに伝わる前記外力の大きさを調整することが好ましい。
【0009】
また、前記運転者の腕質量情報を取得する腕質量情報取得手段を備えることが好ましい。この腕質量情報取得手段としては、前記ステアリングホイールを駆動する駆動手段と、前記ステアリングホイールの駆動にかかる抵抗力を測定する抗力測定手段と、測定した前記抵抗力に基づき前記腕質量情報を算出する腕質量算出手段と、前記駆動手段、前記抗力測定手段、および前記腕質量算出手段の動作を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記運転者が前記ステアリングホイールを把持して、前記ステアリングホイールに前記運転者の腕重量を掛けた状態で、前記駆動手段に前記ステアリングホイールを駆動させて、この際の前記抵抗力を前記抗力測定手段に測定させ、測定した前記抵抗力に基づいて、前記腕質量算出手段に前記腕質量情報を算出させることが好ましい。
【0010】
また、前記ステアリングホイールと前記車輪とは、前記外力伝達手段を介して機械的に接続されており、さらに、前記ステアリングホイールの操作を受けて、この操作力を増倍させて前記車輪側に伝達するパワーアシスト装置を備え、前記伝達外力調整手段は、前記腕質量情報に基づき、前記パワーアシスト装置における前記操作力の増倍率を制御することで、前記車輪側から前記ステアリングホイールに伝わる前記外力の大きさを調整することが好ましい。
【0011】
本発明は、また、運転者がステアリングホイールを把持して、このステアリングホイールの回転を操作することで車輪を操舵する車輪操舵において、前記運転者が前記ステアリングホイールから受ける操舵反力の大きさを制御する方法であって、前記車輪が受ける外力に応じて前記ステアリングホイールに作用する外乱起因反力の大きさを、前記運転者の腕質量情報に基づいて制御することを特徴とする操作反力制御方法も併せて提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車輪操舵システムおよび操舵反力制御方法によれば、キックバック等の外乱に起因する操舵反力の変動を、運転者の腕質量に応じて運転者毎に適度に抑制することができる。これにより、どのような運転者であっても、運転者が運転する自動車などの車両の走行安定性を確保し、かつ、運転者毎に良好な操舵フィーリングで車輪を操舵することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の車輪操舵システムおよび操舵反力制御方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の車輪操舵システムの一例である車輪操舵システム10の概略構成図である。車輪操舵システム10は、乗用車用車輪操舵システムであって、運転者がステアリングホイール12を操作することで、車輪14の転舵角を制御して車輪14を操舵する。車輪操舵装置10は、運転者によるステアリングホイールの操作を受ける操舵ユニット16と、操舵ユニット16が受けた運転者による操作に応じて車輪14を転舵する転舵ユニット18とを有し、操舵ユニット16と転舵ユニット18とは動力伝達機構20を介して接続されている。また、車輪操舵装置10は、ステアリングホイール12を把持する運転者の腕質量を計測して、運転者の腕質量情報を取得する腕質量情報取得手段22も備えている。腕質量取得手段22については、後に詳述する。車輪操舵装置10は、また、各部から送られる各種情報を受け取り、これら情報に基づいて、各部の動作を制御する制御手段24も備えている。上述の動力伝達機構20としては、公知のラック&ピニオン式ステアリング装置など、例えば、操舵ユニットと転舵ユニットとが機械的に接続されている場合、ステアリングホイール12を保持するステアリングシャフト40と連結するメインシャフトがこれに対応する。また、操舵ユニットと転舵ユニットが機械的に分離されて、各ユニット間で情報のやりとりを行なうステアバイワイヤ・システム(Steer−By−Wire System)の場合、操舵ユニットと転舵ユニットとにおける情報送受信手段がこれに対応する。
【0015】
操舵ユニット16は、操舵トルク検出手段26と伝達外力調整手段28とを有する。操舵トルク検出手段26は、運転者がステアリングホイール12を把持して行なう操作を受けて、ステアリングホイール12を支軸するステアリングシャフト40に発生する、ステアリングシャフト軸周りの回転トルクを検出して、制御システム24に送る。操舵トルク検出手段としては、公知のトルクセンサを用いればよい。
【0016】
伝達外力調整手段28は、車両の走行中に車輪14が受ける、ステアリングホイール12の操作に反するように作用する外力が、車輪14の側から動力伝達機構20を伝達することで、ステアリングホイール12に伝わる伝達外力を調整するための手段である。この車輪の外力については後述する。伝達外力調整手段28は、例えば、上述の動力伝達機構20を伝わる伝達外力に逆らう方向へ、ステアリングホイール12に回転抵抗を与える、ブレーキトルク付与手段などが挙げられる。ブレーキトルク付与手段としては、例えば、可変ダンパ、電磁流体ブレーキ、電磁ブレーキなど公知のブレーキトルク付与機構を用いればよい。また、上述の動力伝達機構20を伝わる伝達外力に逆らう方向へ、ステアリングホイール12に回転トルクを与えてもよく、この場合、電動式のモータやアクチュエータなど公知の手段を用いればよい。伝達外力調整手段28によってステアリングホイール12にかけられる抵抗の大きさは、少なくとも腕質量情報取得手段26で取得した、運転者の腕質量情報に基づき、制御手段24によって制御される。なお、例えば、操舵ユニットと転舵ユニットとが機械的に接続されている場合、ブレーキ手段28は、公知のパワーアシスト装置によって構成されていてもよい。このようなパワーアシスト装置は、操舵ユニット側から受けた操舵力を、増倍させて動力伝達機構20を介して車輪14の側に伝達する。車輪14が受けた外力も、機械的接続を介して操舵ユニットの側(最終的にはステアリングホイール12)に伝わるが、パワーアシスト装置において減衰される。本発明では、このようなパワーアシスト装置と、ブレーキトルク付与手段の双方を備えていてもよい。また、上述のステアバイワイヤ・システムでは、運転者が適度な操舵フィーリングが得られるように、車輪の転舵にともなう反力をステアリングホイールに掛ける。この場合、この車輪の転舵に伴う反力の大きさを調整すればよい。本発明の伝達外力調整手段は、特に限定されない。
【0017】
転舵ユニット18は、転舵手段30と外力検出手段32とを有する。転舵手段30は、動力伝達機構20を介して操舵ユニット16から伝達される操舵トルクを受けて、この操舵トルクに応じて車輪14を転舵する。例えば、公知のラック&ピニオン式ステアリング装置などでは、メインシャフトの回転運動(ステアリングホイール40の回転運動に伴う運動)を水平方向の運動に変えて、さらに、この水平方向の運動を車輪の転舵運動に変換するステアリングギヤハウジングやタイロッドなどの一連の機構が、この転舵手段30に対応する。
【0018】
外力検出手段32は、車輪14に作用する外力を検出する手段である。ここでいう外力とは、例えば、車両の車輪が路面の凹凸や轍を通過する際などにおいて車輪が路面から受ける、ステアリングホイール12の操作に反して車輪の転舵量を変化させるよう作用する力のことをいう。すなわち、外力とは、上述の操舵トルク以外で車輪が受ける、車輪の転舵に係る力である。外力検出手段32としては、例えば、メインシャフトのギヤユニット近辺の回転トルクを検出する公知のトルクセンサや、タイロッドに水平方向の変位を測定する変位センサなどが挙げられる。外力検出手段で取得された外力に係る情報(外力情報)は、制御手段24に送られる。
【0019】
制御手段24は、操舵トルク検出手段26によって検出された操舵トルクの情報、および外力検出手段32によって検出された外力情報、腕質量情報取得手段22で取得した腕質量情報を受け取り、これらの情報に基づいて、伝達外力調整手段28の動作を制御することで、ステアリングホイール12の操作にかかる抵抗力の大きさ(特に、車輪14の側からステアリングホイール12まで伝達される、車輪が受ける外力の大きさ)を所定の大きさに制御する。上述のように、運転者が腕の質量をステアリングホイールにあずけた状態では、ステアリングホイールのモーメント(ステアリングシャフトを軸とした回転モーメント)が、腕の質量を加味したモーメントとなり、腕の質量が重いほどステアリングホイールのモーメントが大きくなる。このため、車輪14の側からステアリングホイール12まで伝達される、車輪が受ける外力の大きさが同一である場合、運転者の腕質量が大きいほど運転者が感じる操舵反力(ここでは、運転者の筋肉にかかる力をいう)は小さくなる。そして、運転者の腕質量が小さいほど運転者が感じる操舵反力は大きくなる。本発明では、運転者が感じる操舵フィーリングが運転者によらず良好となるように、車輪の側からステアリングホイールまで伝達される、伝達外力の大きさを、運転者の腕質量の大きさに応じて設定された所定の大きさに制御することを特徴とする。
【0020】
ここで、腕質情報量取得手段22、および腕質量取得手段22における腕質量の取得動作について説明する。図2は、腕質量取得手段の一例について説明する概略構成図である。腕質量取得手段22は、ステアリングホイール12を軸支するステアリングシャフト40に設けられており、ホイール駆動部42と、トルク検出部44と、角速度検出部45と、腕質量算出部46と、各部の動作を制御する制御手段48とを備えている。なお、腕質量取得手段22は、ディスプレイやスピーカーなど、制御手段48と接続された図示しない指示情報出力手段を備えている。図示しない指示情報出力手段からは、腕質量情報取得手段22が実施する腕質量情報取得動作における、運転者の動作を指示する情報が出力される。
【0021】
ホイール駆動部42は、ステアリングシャフト40に軸周りのトルクを与えて、ステアリングホイール12を、ステアリングシャフト40の軸周りに強制的に回転駆動させる。角速度検出部45は、この際の角速度を測定して、制御部48に送る。制御部48は、この角速度の測定値が、予め定められた所定の角速度となるよう、ホイール駆動部42の回転力を調整する(すなわち、回転トルクを調整する)。具体的には、制御部48は、ステアリングホイール12のステアリングシャフト40の軸周りの角速度が、図3(b)に示すコサイン波で表せる、時系列で変化する角速度(所定の角速度)となるよう、ホイール駆動部42の回転力を調整する。この際、ステアリングホイール12のステアリングシャフト40の軸周りの変位は、図3(a)に示すようなサイン波で表せる時系列の変位となる。トルク検出部44は、この際の、ステアリングシャフト40の軸周りのトルクの大きさを検出する。トルク検出部44では、図3(c)に示すように、腕質量の大きさに応じて異なる、時系列に変化するトルク(ステアリングシャフト40の軸周りのトルク)の大きさの値が検出される。制御部48の制御の下、ホイール駆動部42によって駆動されたステアリングシャフト40の角速度の情報(所定の角速度の情報)、およびトルク検出部44で取得された角速度の情報は、腕質量算出部46に送られる。
【0022】
図4に示すように、ステアリングシャフトの軸周りのトルクの大きさは、ステアリングシャフトの軸周りの角速度と比例しており、その傾きは慣性モーメントに応じて変わる。腕質量算出部46は、ステアリングシャフト40の軸周りに、上述の時系列で変化する角速度を与えた際の、角速度の変化に対するトルクの大きさや傾きから、運転者がステアリングホイール12を保持した状態の、ステアリングシャフト軸周りの慣性モーメント(全体モーメント)を求める。運転者がステアリングホイール12を保持して、腕の重量をステアリングホイール12に預けた状態では、この全体モーメントは、ステアリングホイール自身のモーメント成分に、運転者の腕の質量のモーメント成分が加味されている。
【0023】
腕質量情報取得手段22には、予めステアリングホイール12単体でのステアリングシャフト40の軸周りの回転モーメント(ホイールモーメント)の情報が記憶されており、腕質量算出部46は、算出した全体の慣性モーメントから、このホイールモーメントの成分を除き、運転者の腕質量のステアリングシャフト40の軸周りのモーメント(運転者モーメント)を求める。そして、この運転者モーメントとステアリングホイール12の半径(すなわち、運転者の腕質量がステアリングホイール12にかかる位置と、ステアリングホイール40の軸との距離)から、運転者の腕質量を算出する。
【0024】
このような腕質量情報取得手段22による腕質量情報の取得は、運転者が車輪の操舵を開始する前、好ましくは、運転者が車両に乗り込んだ直後に行なわれる。腕質量情報取得手段22による腕質量情報は、運転者の指示入力に応じて制御手段48の制御により開始すればよい。また、重量センサなどによって、車両に搭載されたセンサが運転者が車両に乗り込んだことを感知し、この感知情報に応じて開始してもよい。腕質量情報取得手段22による腕質量情報の取得が開始されると、制御手段48が図示しない指示情報出力手段の動作を制御して、運転者に、ステアリングホイール12を把持して、腕の力を抜く(腕の筋肉を作用させない)よう指示する。運転者にステアリングホイール12を把持させた状態で、制御手段48は、ホイール駆動部42によってステアリングホイールを回転駆動させ、この際の角速度を角速度検出部44によって検出させる。そして、腕質量算出部46を制御して、上述のように腕質量を算出する。この際、例えば、腕の筋活動の影響を除去するために、腕の筋活動に伴う筋電情報を測定しておき、この筋電情報に基づいて腕の筋活動の大きさを算出し、算出した筋活動の大きさに応じて腕質量の算出結果を補正してもよい。腕質量情報取得手段22では、例えばこのようにして、運転者の腕質量情報を取得する。得られた腕質量情報は、上述のように、制御手段24へ送られる。
【0025】
図5(a)〜(b)は、本発明の効果について説明する図であり、上述の腕質量情報取得手段によって取得された、運転者A〜Dそれぞれの腕質量の情報と、各運転者の身体的特徴量との相関を示す図である。図5(a)は、運転者A〜Dそれぞれの体重と腕質量情報との対応を示す散布図であり、図5(b)は、運転者A〜Dそれぞれの身長と腕質量情報との対応を示す散布図である。また、図5(c)は、運転者A〜Dそれぞれの筋力と腕質量との対応を示す散布図である。図5(a)〜(c)に示すように、運転者の身長、運転者の体重、運転者の筋力のいずれの情報も、腕質量との相関は低いものとなっている。このような運転者の身体的特徴量に基づいて運転者の腕質量を算出(推測)しても、精度の低い腕質量情報しか得ることができない。本発明は、上述のような腕質量情報取得手段を用いて、直接、高精度に腕質量情報を取得することができる。本発明において、腕質量情報取得手段は、このように、ステアリングシャフトにトルクを付与してステアリングホイールを回転させた際の、ステアリングホイールの回転速度に基づいて算出することに限定されない。例えば、車両に設けられたカメラによって運転者を撮影し、この撮影画像から運転者の腕領域を抽出して運転者の腕の体積を推定し、この推定した体積の大きさに基づいて運転者の腕の質量を算出して腕質量情報としてもよい。本発明の腕質量情報取得手段は、特に限定されない。
【0026】
制御手段24は、このようにして取得された運転者の腕質量情報に基づき、伝達外力調整手段28の動作を制御することで、運転者が感じる操舵特性が運転者によらず良好となるように、車輪の側からステアリングホイール12に伝達される、車輪が受ける外力の大きさを制御する。例えば、車輪の外乱を受けた際の、ステアリングホイール12のステアリングホイール40の軸周りの角速度が一定となるよう、伝達外力調整手段28の動作を制御して、ステアリングホイール40の軸周りのトルクを調整する。例えば、運転者の腕質量が小さい場合、車輪が受ける外力情報に応じて、ステアリングホイール40の軸周りのトルクが比較的小さくなるよう、伝達外力調整手段12の動作を制御する。また、運転者の腕質量が大きい場合、車輪が受ける外力情報に応じて、ステアリングホイール40の軸周りのトルクが比較的大きくなるよう、伝達外力調整手段12の動作を制御する。これら運転者の腕質量に応じて設定する、ステアリングホイール40の軸周りのトルク設定値は、予め制御手段12に記憶しておく。また、この設定値は、上述の操舵トルク情報や、外力情報に応じて、適宜変更してもよい。
【0027】
仮に、伝達外力調整手段28によって、車輪が受ける外力に応じて、ステアリングホイール40の軸周りのトルクを調整しない場合を想定してみる。例えば、車輪が受ける外力に応じて、ステアリングホイール40の軸周りにトルクTが発生したとする(図4参照)。この場合、腕質量が比較的小さな運転者で、例えば、全体モーメントが図4のAに示すグラフに対応するモーメントである場合、腕の重量をステアリングホイール12に預けた状態で運転していると、ステアリングホイール12は、角速度ωで運動する。このように比較的早くハンドルが運動すると、運転者が反応するまでにステアリングホイールは大きく動いてしまう。このように、ステアリングホイールが大きく動くと、車両の挙動は不安定になってしまう。しかも、腕質量の小さな運転者は比較的非力である場合が多く、ステアリングホイールの制御は困難である。このような結果、ステアリングホイールを把持していた手が振り切られてしまうこともある。また、例えば、全体モーメントが図4のBとなる、腕質量が比較的大きな運転者である場合、腕の重量をステアリングホイール12に預けた状態で運転していると、ステアリングホイール12は、角速度ωで運動する。このように比較的遅くハンドルが運動しただけでは(ゆったりと動くだけでは)、運転者は外乱についての適度な感覚を得られない。
【0028】
例えば、車輪が受ける外力に応じてステアリングホイール40の軸周りにトルクTが発生した場合、操舵角速度がωとなった場合に、運転者は好適な操舵フィーリングが得られるとわかっているとする。この場合、本件発明では、伝達外力調整手段28によって、ステアリングホイール40の軸周りのトルクを調整する。例えば、腕質量が比較的小さな運転者で、例えば、全体モーメントが図4のAに示すグラフに対応するモーメントである場合、伝達外力調整手段28によって、ステアリングホイール40の軸周りのトルクをTに調整する。このように調整することで、全体モーメントが図4のAに示すグラフに対応する、腕質量が比較的小さな運転者であっても、好適な操舵フィーリングが得られる。また、腕質量が比較的大きな運転者で、例えば、全体モーメントが図4のBに示すグラフに対応するモーメントである場合、伝達外力調整手段28によって、ステアリングホイール40の軸周りのトルクをTに調整する。このように調整することで、全体モーメントが図4のBに示すグラフに対応する、腕質量が比較的大きな運転者であっても、好適な操舵フィーリングが得られる。本件発明では、運転者の腕質量に応じてステアリングホイール40の軸周りのトルクを調整することで、外乱の状態を的確に把握し得る適度な角速度でステアリングホイール12が運動し、かつ運転者の腕質量に応じた適度なトルクでステアリングホイールを回転させることができる。このようにして、運転者の質量によらず、運転者は良好な操舵フィーリングを得ることができる。また、特に、腕質量の小さな運転者については、車両の安定性を増加させる効果がある。
【0029】
以上、本発明の車輪操舵システムおよび操舵反力制御方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施例には限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行ってもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の車輪操舵システムの一例の概略構成図である。
【図2】本発明の車輪操舵システムの腕質量情報取得手段の一例について説明する概略構成図である。
【図3】本発明の車輪操舵システムの腕質量情報取得手段の動作の一例について説明する図である。
【図4】複数の運転者それぞれについて、運転者がステアリングホイールを保持した状態における、ステアリングシャフトの軸周りのトルクと角速度との関係を示すグラフである。
【図5】(a)〜(c)は、腕情報取得手段によって取得された、運転者A〜Dそれぞれの腕質量の情報と、各運転者の身体的特徴量との相関を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
10 車輪操舵システム
12 ステアリングホイール
14 車輪
16 操舵ユニット
18 転舵ユニット
20 動力伝達機構
22 腕質量情報取得手段
24 制御手段
26 検出手段
28 伝達外力調整手段
30 転舵手段
32 外力検出手段
40 ステアリングシャフト
42 ホイール駆動部
44 トルク検出部
45 角速度検出部
46 腕質量算出部
48 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの操作に応じて車輪を操舵する車輪操舵システムであって、
前記ステアリングホイールの操作に反して前記車輪を転舵させるように作用する前記車輪が受ける外力を、前記ステアリングホイールに伝達する外力伝達手段と、
運転者の腕質量情報に応じて、前記外力伝達手段を介して前記ステアリングホイールに伝達される伝達外力の大きさを調整する伝達外力調整手段とを備えることを特徴とする車輪操舵システム。
【請求項2】
前記外力伝達手段は、前記車輪が受ける前記外力の大きさを減少させて前記ステアリングホイールに伝達する伝達外力減少手段を備え、
前記伝達外力調整手段は、前記腕質量情報に基づき、前記伝達外力減少手段における前記外力の減少率を制御することで、前記車輪側から前記ステアリングホイールに伝わる前記外力の大きさを調整することを特徴とする請求項1記載の車輪操舵システム。
【請求項3】
さらに、前記運転者の腕質量情報を取得する腕質量情報取得手段を備えることを特徴とする請求項1または2記載の車輪操舵システム。
【請求項4】
前記腕質量情報取得手段は、前記ステアリングホイールを駆動する駆動手段と、前記ステアリングホイールの駆動に反する抵抗力を測定する抗力測定手段と、測定した前記抵抗力に基づき前記腕質量情報を算出する腕質量算出手段と、前記駆動手段、前記抗力測定手段、および前記腕質量算出手段の動作を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記運転者が前記ステアリングホイールを把持して、前記ステアリングホイールに前記運転者の腕重量を掛けた状態で、前記駆動手段に前記ステアリングホイールを駆動させて、この際の前記抵抗力を前記抗力測定手段に測定させ、測定した前記抵抗力に基づいて、前記腕質量算出手段に前記腕質量情報を算出させることを特徴とする請求項3に記載の車輪操舵システム。
【請求項5】
前記ステアリングホイールと前記車輪とは、前記外力伝達手段を介して機械的に接続されており、
さらに、前記ステアリングホイールの操作を受けて、この操作力を増倍させて前記車輪側に伝達するパワーアシスト装置を備え、
前記伝達外力調整手段は、前記腕質量情報に基づき、前記パワーアシスト装置における前記操作力の増倍率を制御することで、前記車輪側から前記ステアリングホイールに伝わる前記外力の大きさも調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車輪操舵システム。
【請求項6】
運転者がステアリングホイールを把持して、このステアリングホイールの回転を操作することで車輪を操舵する車輪操舵において、前記運転者が前記ステアリングホイールから受ける操舵反力の大きさを制御する方法であって、
前記車輪が受ける外力に応じて前記ステアリングホイールに作用する外乱起因反力の大きさを、前記運転者の腕質量情報に基づいて制御することを特徴とする操作反力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−240443(P2006−240443A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−57646(P2005−57646)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】