説明

車輪用転がり軸受装置の軸部材とその製造方法

【課題】冷間鍛造工程にて、円柱状の素材から嵌合軸部、フランジ部、軸部を有する冷間鍛造品を効率よく製造する方法、及び当該製造方法にて製造された車輪用転がり軸受装置の軸部材を提供する。
【解決手段】軸方向に開口する凹部35を有する円筒形状の嵌合軸部30と、嵌合軸部径よりも大きな径のフランジ径を有するフランジ部21と、円柱状の軸部10と、が軸方向に沿って同軸上に配置されている車輪用転がり軸受装置の軸部材1の製造方法であって、嵌合軸部径よりも大きく且つフランジ径よりも小さな外径を有する円柱状の軸状素材62を用い、冷間鍛造工程の1回の押出し加工と1回の前方押出し加工にて、嵌合軸部30とフランジ部21と軸部10を一体に有する冷間鍛造品66を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用転がり軸受装置の軸部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用転がり軸受装置に用いられるハブホイールとしての車輪用転がり軸受装置の軸部材、及び当該車輪用転がり軸受装置の軸部材を製造する方法においては、例えば特許文献1に開示されている。
なお、車輪用転がり軸受装置の軸部材は、嵌合軸部とフランジ部と軸部とが軸方向に沿って同軸上に配置されている。また、軸部は、フランジ部に近い側には径が大きな大径軸部が形成され、フランジ部から遠い側には径が小さな小径軸部が形成されている。
特許文献1に開示された、従来の車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法では、少なくとも大径軸部が形成された素材を用い、小径軸部の外径に一致する内径を有する受側パンチに、素材の大径軸部の先端を突き当て、冷間鍛造の前方押出し加工にて、大径軸部の先端を受側パンチに押し込み、小径軸部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−152413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来技術では、冷間鍛造工程において大径軸部の先端を受側パンチに押し込んで小径軸部を形成する前方押出し加工を含み、フランジ部の外径よりも小さな外径を有する円柱状の素材から、図示されているように4回以上の冷間鍛造の加工工程を経て(前方押出し加工と側方押出し加工を複数回行って)、嵌合軸部、フランジ部、軸部を備えた冷間鍛造品を形成しており、加工効率がよくない。また工程毎の金型が必要であり、加工設備、加工時間、加工費用がかさむ。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、冷間鍛造工程にて、円柱状の素材から嵌合軸部、フランジ部、軸部を有する冷間鍛造品を効率よく製造する方法、及び当該製造方法にて製造された車輪用転がり軸受装置の軸部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る車輪用転がり軸受装置の軸部材とその製造方法は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、嵌合軸部とフランジ部と軸部とが軸方向に沿って同軸上に配置されている車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法である。
前記嵌合軸部は軸方向に開口する凹部を有する円筒形状であり、前記フランジ部は軸方向に直交する円板状であり、前記フランジ部における軸方向に直交する方向の径であるフランジ径は、前記嵌合軸部における軸方向に直交する方向の径である嵌合軸部径よりも大きく、前記軸部は円柱形状であって外周面には内輪軌道面が形成されており、前記フランジ部には、軸方向に直交する方向に複数のボルト孔が形成されており、前記車輪用転がり軸受装置の軸部材は冷間鍛造によって製造されている。
まず、前記嵌合軸部径よりも大きく且つ前記フランジ径よりも小さな外径を有する円柱状の軸状素材を用い、第1の冷間鍛造工程にて前記軸状素材における軸方向の一方の端部の径を前記フランジ径まで拡径するとともに前記軸状素材における他方の端部に前記嵌合軸部の径を有する円柱部を形成するように押出し加工を行う。
そして、第2の冷間鍛造工程にて前記軸状素材における軸方向の他方の端部から前記嵌合軸部の前記凹部と前記軸部とを形成するように前方押出し加工を行い、前記車輪用転がり軸受装置の軸部材を形成する。
【0007】
この第1の発明によれば、嵌合軸部径よりも大きく且つフランジ径よりも小さな外径を有する円柱状の軸状素材を用いることで、冷間鍛造工程を、1回の押出し加工と、1回の前方押出し加工にすることが可能であり、軸部、フランジ部、嵌合軸部とを一体に有する冷間鍛造品を効率よく形成することができる。
【0008】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法であって、前記フランジ部における前記軸部の側の面である一方側フランジ面には、前記軸部の周囲から前記ボルト孔の周囲に延びて前記フランジ部における軸方向の厚さを部分的に肉厚状とする浮島状肉厚部が形成されており、前記浮島状肉厚部の径は前記嵌合軸部の径よりも大きく且つ前記フランジ径よりも小さな径である浮島径であり、前記浮島径に対応する外径を有する円柱状の軸状素材を用いて、前記第1の冷間鍛造工程と前記第2の冷間鍛造工程にて前記車輪用転がり軸受装置の軸部材を形成する。
【0009】
この第2の発明によれば、浮島状肉厚部で剛性をより向上し、浮島径に対応する外径を有する円柱状の軸状素材を用いることで、冷間鍛造工程を、1回の押出し加工と、1回の前方押出し加工にすることが可能であり、軸部、フランジ部、嵌合軸部とを一体に有する冷間鍛造品を効率よく形成することができる。
【0010】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明または第2の発明に係る車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法であって、前記第1の冷間鍛造工程における前記押出し加工では、前記フランジ部における外周面の形状と、前記フランジ部における前記一方側フランジ面の形状と、に形成された第1一方側金型と、前記フランジ部における前記嵌合軸部の側の面である他方側フランジ面の形状と、前記嵌合軸部の外周面の形状と、に形成された第1他方側金型と、を用いて押出し加工して、前記軸状素材から前記嵌合軸部の外周面と、前記フランジ部の外周面と、前記一方側フランジ面と、前記他方側フランジ面と、が形成された1次冷間鍛造品を形成する。
そして、前記第2の冷間鍛造工程における前記前方押出し加工では、前記フランジ部における外周面の形状と、前記一方側フランジ面の形状と、当該一方側フランジ面の先における前記軸部の形状と、に形成された第2一方側金型と、前記他方側フランジ面の形状と、前記嵌合軸部の外周面の形状と、に形成されて前記フランジ部の外径に対応する外径を有するとともに前記嵌合軸部の外径に対応する内径寸法の空洞部を有して前記第2一方側金型と嵌合する略円筒形状の中間金型と、略円筒形状の前記中間金型の空洞部に嵌合可能であるとともに前記嵌合軸部の凹部の形状に形成された第2他方側金型と、を用いて前方押出し加工して、前記1次冷間鍛造品から前記嵌合軸部の凹部と、前記軸部と、が形成された2次冷間鍛造品である前記車輪用転がり軸受装置の軸部材を形成する。
【0011】
この第3の発明によれば、浮島径に対応する外径を有する円柱状の軸状素材と、適切な金型を用いることで、冷間鍛造工程を、1回の押出し加工と、1回の前方押出し加工で実現することが可能であり、軸部、フランジ部、嵌合軸部とを一体に有する冷間鍛造品を効率よく形成することができる。
【0012】
次に、本発明の第4の発明は、上記第3の発明に係る車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法であって、前記第2の冷間鍛造工程において、前記中間金型と前記第2他方側金型を用いる代わりに、前記中間金型と前記第2他方側金型とが一体的に形成された一体金型を用いて前方押出し加工を行うことで、前記1次冷間鍛造品から前記嵌合軸部の凹部と、前記軸部と、が形成された2次冷間鍛造品を形成する。
【0013】
この第4の発明によれば、中間金型と第2他方側金型を一体的に形成した一体金型を用いることで、更に効率良く冷間鍛造品を形成することができる。
【0014】
次に、本発明の第5の発明は、上記第1の発明〜第4の発明のいずれか1つに係る車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法によって製造された車輪用転がり軸受装置の軸部材であって、前記第1の冷間鍛造工程と前記第2の冷間鍛造工程にて前記車輪用転がり軸受装置の軸部材を形成する際に、前記嵌合軸部径よりも大きく且つ前記フランジ径よりも小さな外径を有する円柱状の軸状素材から製造され、円板状の前記フランジ部を有する。
【0015】
この第5の発明によれば、前記嵌合軸部径よりも大きく且つ前記フランジ径よりも小さな外径を有する円柱状の軸状素材を用いて冷間鍛造工程を1回の押出し加工と1回の前方押出し加工にて実現し、軸部、フランジ部、嵌合軸部とを一体に有し、効率よく形成された車輪用転がり軸受装置の軸部材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法にて製造された車輪用転がり軸受装置の軸部材1が車輪用転がり軸受装置Aとして組み付けられた状態を示す軸方向断面図である。
【図2】車輪用転がり軸受装置の軸部材1の軸方向断面図である。
【図3】(A)は図2に示す車輪用転がり軸受装置の軸部材1をAA方向から見た図であり、(B)はBB方向から見た図である。
【図4】軸状素材60から車輪用転がり軸受装置の軸部材を成形するまでの工程(A)〜工程(G)による素材の形状の変化等を示す図である。
【図5】冷間鍛造工程の1回目の押出し加工と2回目の前方押出し加工を説明する図であり、(A)は1回目の押出し加工の金型と素材の断面図を示しており、(B)は2回目の前方押出し加工の金型と素材の断面図を示している。また(C)は1回目の押出し加工前の素材の概略形状を示しており、(D)は1回目の押出し加工後の素材の概略形状を示しており、(E)は2回目の前方押出し加工後の素材の概略形状を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法にて製造された車輪用転がり軸受装置の軸部材1が車輪用転がり軸受装置Aとして組み付けられた状態を示す軸方向断面図を示している。また図2は車輪用転がり軸受装置の軸部材1の軸方向断面図を示しており、図3は図2に示す車輪用転がり軸受装置の軸部材1をAA方向から見た図(A)、及びBB方向から見た図(B)を示している。
【0018】
●[車輪用転がり軸受装置Aと車輪用転がり軸受装置の軸部材1の全体構造(図1〜図3)]
次に図1〜図3を用いて、車輪用転がり軸受装置Aと車輪用転がり軸受装置の軸部材1の全体構造について説明する。
図1及び図2に示すように、車輪用転がり軸受装置A(いわゆる車輪用ハブユニット)に採用される車輪用転がり軸受装置の軸部材1(いわゆるハブホイール)は、軸部10と、フランジ部21と、嵌合軸部30と、を軸方向に沿って同軸上に、一体に有している。
なお、車輪用転がり軸受装置Aが車両に取り付けられた場合、軸部10は車両内側に位置しており、嵌合軸部30は車両外側に位置しており、図1においては紙面の左方向が車両内側を示し、紙面の右方向が車両外側を示している。
【0019】
軸部10は略円柱形状であり、軸部10におけるフランジ部21に近い側には径が大きな大径軸部11が形成され、フランジ部21から遠い端部には大径軸部11よりも小さな径の小径軸部12が形成され、大径軸部11と小径軸部12との段差部には軸部10の回転軸に直交する面である内輪突き当て面12aが形成されている。
フランジ部21は、軸部10と嵌合軸部30との間に位置して軸方向(回転軸ZS方向)に直交する円板状であり、フランジ部21の外径は軸部10の外径よりも大きい。
嵌合軸部30は、軸部10の一端側(小径軸部12と反対の側)に、軸部10と同軸上に、連続する略円筒形状に成形されており、車輪(図示省略)の中心孔が嵌め込まれる。
図3に示すように、外径方向に円板状に延出されたフランジ部21には、車輪を締め付けるハブボルト27が圧入によって配置されるボルト孔24が貫設されている。
また図1、図2に示すように嵌合軸部30には、フランジ部21側にブレーキロータ用嵌合部31が形成され、先端側にブレーキロータ用嵌合部31よりも若干小径の車輪用嵌合部32が形成されている。
またフランジ部21における嵌合軸部30の側の面であるロータ支持面22には、図1に示すようにブレーキロータ55の中心孔の周囲の面が当接する。
また嵌合軸部30の内径側には、凹状の鍛造凹部35が形成されている。
【0020】
図1、図2に示すように本実施の形態にて説明する車輪用転がり軸受装置の軸部材1の軸部10の大径軸部11には、フランジ部21との境界部の近傍における外周面の一部に、転がり軸受としての複列のアンギュラ玉軸受における一方の軸受部を構成する第1内輪軌道面18が円周方向に連続するように形成されている。
また、第1内輪軌道面18に隣接してフランジ部21に近い側における外周面の一部には、円周方向に連続する後述のシール面19が形成されている。
また小径軸部12の外周面には、円周方向に連続するように形成された第2内輪軌道面44を外周面に有する内輪42が嵌め込まれる。なお内輪42は、内輪突き当て面12aに突き当たるまで嵌め込まれている。
そして、小径軸部12における内輪42からの突出部(図1中の軸端部15)は径方向外側にかしめられて、かしめ部17が形成され、かしめ部17と内輪突き当て面12aにて内輪42が固定されている。
また図1に示すように、小径軸部12の軸端部15をかしめたかしめ部17と内輪突き当て面12aにて内輪42を固定した際に内輪42を固定可能な強度を有するように、内輪突き当て面12aの面積が設定されている。
【0021】
また図1に示すように、車輪用転がり軸受装置の軸部材1の軸部10の外周面には、環状空間を保って外輪45が配置されている。
外輪45の内周面には、車輪用転がり軸受装置の軸部材1に形成されている第1内輪軌道面18に対向する第1外輪軌道面46と、内輪42に形成されている第2内輪軌道面44に対向する第2外輪軌道面47と、が形成されている。なお、各内輪軌道面、各外輪軌道面は、それぞれの面において円周方向に連続するように形成されている。
そして第1内輪軌道面18と第1外輪軌道面46との間には、複数の第1転動体50が保持器52によって保持されて転動可能に配置され、第2内輪軌道面44と第2外輪軌道面47との間には、複数の第2転動体51が保持器53によって保持されて転動可能に配置されている。
なお、複数の第1転動体50、及び複数の第2転動体51には、小径軸部12の端部をかしめてかしめ部17を形成した際のかしめ力に基づいて、軸方向の予圧が付与されてアンギュラ玉軸受を構成している。
【0022】
また図1に示すように、外輪45の外周面には、車体側フランジ48が一体に形成されており、当該車体側フランジは、車両の懸架装置(図示省略)に支持されたナックル、キャリア等の車体側部材の取付面にボルト等によって締結される。
また外輪45における第1外輪軌道面46に隣接する開口部の内周面には、シール部材56が圧入されて組み付けられ、当該シール部材56のリップ58の先端が、シール面19に摺接(接触)して外輪45と車輪用転がり軸受装置の軸部材1との隙間をシールしている。
また図3(B)及び図2に示すように、フランジ部21における軸部10の側の面には、重量の増加を抑えながらもボルト孔24の周囲の剛性を向上させるために、浮島状に部分的に肉厚とした浮島状肉厚部29が形成されている。
【0023】
●[車輪用転がり軸受装置の軸部材1の製造方法(図4)]
次に図4を用いて、車輪用転がり軸受装置の軸部材1の製造方法について説明する。
図4(A)〜(G)は軸状素材60から各工程を経て車輪用転がり軸受装置の軸部材1を成形する様子を示しており、各工程後の素材の断面形状を示している。
本実施の形態にて説明する車輪用転がり軸受装置の軸部材1は、第1の焼鈍・被膜工程、第1の冷間鍛造工程、第2の焼鈍・被膜工程、第2の冷間鍛造工程、旋削工程、熱処理工程、研磨工程、を経て製造される。
まず、第1の焼鈍・被膜工程に先立って、S45C、S50C、S55C等の炭素量0.5%前後の略円柱形状の構造用炭素鋼を所定長さに切断して軸状素材60を形成する(図4(A)参照)。
なお、略円柱形状の軸状素材60の外径(φH)は、車輪用転がり軸受装置の軸部材1の浮島状肉厚部29の外径とほぼ同じものを用いる。
【0024】
[第1の焼鈍・被膜工程(図4(B)、図4(C))]
第1の焼鈍・被膜工程では、少なくとも以下の焼鈍処理と被膜処理を行う。
焼鈍処理では、軸状素材60を変態点温度以上の温度(好ましくは、変態点温度よりも20℃〜70℃程度高い温度)で加熱する。
これによって、軸状素材60中の炭素成分を球状化させて球状化焼鈍することで焼鈍済軸状素材61を形成する(図4(B)参照)。この焼鈍済軸状素材61は、これ自体の材料の延性が向上する。
【0025】
被膜処理では、焼鈍済軸状素材61の表面に潤滑剤を被膜処理して潤滑剤被膜36を有する被膜処理済軸状素材62を形成する(図4(C)参照)。
例えば、焼鈍済軸状素材61の表面に潤滑剤としてのリン酸塩を塗布して潤滑剤被膜(リン酸塩被膜)36を有する被膜処理済軸状素材62を形成する。
被膜処理済軸状素材62は、その表面の潤滑剤被膜36によって、冷間鍛造の成形型と素材(材料)との間に生じる摩擦力を低減する。
なお、上記の焼鈍処理の後、且つ上記の被膜処理の前に、ショットブラスト処理を行い、焼鈍済軸状素材61の表面を削るとともに表面が粗くなるように微細な凹凸を形成すると、被膜処理にてより安定して被膜を形成することができるので、より好ましい。
【0026】
[第1の冷間鍛造工程(図4(D))]
第1の冷間鍛造工程では、被膜処理済軸状素材62における軸方向の一方の端部の径がフランジ部21の径(φG)となる側方押出し加工と、軸方向の他方の端部の径が嵌合軸部30の径(φE)となる後方押出し加工と、を同時に行う押出し加工(複合押出し加工)を行い、1次冷間鍛造品65を形成する(図4(D)参照)。
このように、浮島状肉厚部29の外径である浮島径(φH)からフランジ部21の径(φG)に拡径することで拡径量を比較的小さく抑えることで、フランジ部の割れ、ひび等の発生を適切に防止することができる。
なお、第1の冷間鍛造工程にて用いる金型の形状等については後述する。
【0027】
[第2の焼鈍・被膜工程]
第2の焼鈍・被膜工程では、1次冷間鍛造品65から嵌合軸部30の鍛造凹部35と軸部10とを前方押出し加工するために、改めてもう一度、第1の焼鈍・被膜処理と同様に、少なくとも焼鈍処理と被膜処理を行い、焼鈍・被膜処理済の1次冷間鍛造品65を形成する。
これにより、第1の冷間鍛造後の素材に残留する応力を除去するとともに、再度、1次冷間鍛造品65の延性の向上と摩擦係数の低下を図り、フランジ部の割れ、ひび等の発生を適切に防止することができる。
なお、第2の焼鈍・被膜工程は省略しても良い。
【0028】
[第2の冷間鍛造工程(図4(E))]
第2の冷間鍛造工程では、1次冷間鍛造品65の他方の端部の嵌合軸部30の中心部端面に鍛造凹部35を形成しながら、一方の端部に大径軸部11と小径軸部12を形成するように前方押出し加工を行い、嵌合軸部30、フランジ部21、大径軸部11、小径軸部12が形成された2次冷間鍛造品66を形成する(図4(E)参照)。
また、前方押出し加工とは、金型(いわゆるダイ)の内部に素材を配置し、別の金型(いわゆるパンチ)を押し込み、当該金型を押し込む方向に素材を流動させる加工を指す。
また、後方押出し加工とは、金型(いわゆるダイ)の内部に素材を配置し、別の金型(いわゆるパンチ)を押し込み、当該金型を押し込む方向の反対方向に素材を流動させる加工を指す。
そして側方押出し加工とは、金型(いわゆるダイ)の内部に素材を配置し、別の金型(いわゆるパンチ)を押し込み、当該金型を押し込む方向と交差する方向(主に直交する方向)に素材を流動させる加工を指す。
【0029】
[旋削工程(図4(F))]
旋削工程では、2次冷間鍛造品66の一部、例えば、フランジ部21の一側面のロータ支持面22(後述する他方側フランジ面21Aに相当)と、嵌合軸部30の端面33とを旋削し、フランジ部21にボルト孔24を孔開け加工して旋削済鍛造品67を形成する(図4(F)参照)。
この旋削工程において、2次冷間鍛造品66の少なくとも嵌合軸部30の車輪用嵌合部32(図2参照)の潤滑剤被膜36は旋削することなく残す。
また本実施の形態では、図2に示すように、潤滑剤被膜36は、フランジ部21のロータ支持面22の反対側の面(後述する一方側フランジ面21Bに相当)と、第1内輪軌道面18の肩部に隣接して形成されたシール面19と、鍛造凹部35の表面と、軸部10の小径軸部12の先端の軸端部15の端面において、旋削されることなく残される。
従来では、少なくとも図2における車輪用嵌合部32の潤滑剤被膜36を旋削しており、従来において潤滑剤被膜36を残している個所に加えて、本願では少なくとも車輪用嵌合部32の潤滑剤被膜36を余分に残す。
そして、潤滑剤被膜36を残した分だけ旋削加工範囲が小さくなり、旋削加工が容易に、且つ短時間となる。
【0030】
[熱処理工程(図4(G))]
次に、熱処理工程(焼入れ焼き戻し工程)において、旋削済鍛造品67の軸部10の第1内輪軌道面18を高周波焼入れした後、焼き戻しして熱処理済鍛造品68を形成する(図4(G)参照)。この場合、シール面19、小径軸部12の外周面、内輪突き当て面12aには、あえて高周波焼入れを行わない。これにより、熱処理工程の時間を短縮化することができる。なお、図2に示すように、第1内輪軌道面18の周囲には焼入れ焼き戻しによる硬化層Sが形成される。
【0031】
[研磨工程]
研磨工程では、熱処理済鍛造品68の第1内輪軌道面18を研磨加工して車輪用転がり軸受装置の軸部材1を形成する。
【0032】
●[冷間鍛造工程の詳細(図5)]
次に図5を用いて、第1の冷間鍛造工程、第2の冷間鍛造工程の詳細について説明する。
本実施の形態の説明では、最終的な浮島状肉厚部29の外径(φH)とほぼ同じ(等しいまたはやや小径の)外径を有する被膜処理済軸状素材62(軸状素材)から、1回の押出し加工と、1回の前方押出し加工を経て、嵌合軸部30とフランジ部21と大径軸部11と小径軸部12を一体に有する冷間鍛造品を形成する。
なお、図5(A)は押出し加工(複合押出し加工であり、第1の冷間鍛造工程)の金型と素材の断面図を示しており、図5(B)は前方押出し加工(第2の冷間鍛造工程)の金型と素材の断面図を示している。また、図5(C)は押出し加工前の素材の概略形状を示しており、図5(D)は押出し加工後の素材の概略形状を示しており、図5(E)は前方押出し加工後の素材の概略形状を示している。
なお、図5(A)、(B)に示す押出し加工及び前方押出し加工を説明する金型と素材の断面図において、中心線より紙面右側は押出し加工(または前方押出し加工)を行う前の状態(素材をセットした状態)を示しており、中心線より紙面左側は押出し加工(または前方押出し加工)が完了した状態を示している。
【0033】
次に図5(A)、(C)、(D)を用いて第1の冷間鍛造工程(押出し加工)における金型の形状及び構成と、冷間鍛造の前後の素材の形状について説明する。
図5(A)に示すように、第1の冷間鍛造工程では、第1一方側金型K11、第1他方側金型K12、を用いて被膜処理済軸状素材62を押出し加工(側方押出し加工且つ後方押出し加工である複合押出し加工)する。
第1一方側金型K11は、最終的なフランジ部21の径(φG)を有するフランジ部21の外周面の形状と、フランジ部21における軸部10の側の面である一方側フランジ面21Bの形状(浮島状肉厚部29の形状を含む形状)と、に形成されている。
第1他方側金型K12は、フランジ部21における嵌合軸部30の側の面である他方側フランジ面21Aの形状と、嵌合軸部30の外周面の形状と、に形成されている。
そして第1一方側金型K11における浮島状肉厚部29の位置となる中央部に被膜処理済軸状素材62(図5(C)参照)を配置し、第1他方側金型K12を下降させて第1一方側金型K11に嵌合させて押出し加工をすることで、嵌合軸部30の外周面と、フランジ部21の外周面と、一方側フランジ面21Bと、他方側フランジ面21Aと、が形成された1次冷間鍛造品65(図5(D)参照)を形成することができる。
なお、金型の破損等を防止するために、「第1一方側金型K11と第1他方側金型K12にて囲まれる空間の体積」のほうが、「被膜処理済軸状素材62の体積」よりも大きく設定されている。
なお、図5(A)における一方側フランジ面21Bにおいて浮島状肉厚部29が形成されていない部分において、中心側の肉厚部から徐々に外周側の肉薄部へと厚さを変更する個所の傾斜部の傾斜角度を、20°≦θ≦60°に設定すると、より好ましい形状に形成することができる。
【0034】
次に図5(B)、(D)、(E)を用いて第2の冷間鍛造工程(前方押出し加工)における金型の形状及び構成と、冷間鍛造の前後の素材の形状について説明する。
図5(B)に示すように、第2の冷間鍛造工程では、第2一方側金型K21、第2他方側金型K22、中間金型K23、を用いて1次冷間鍛造品65を前方押出し加工する。なお、本実施の形態では補助金型K24も用いているが、補助金型K24は省略してもよい。
第2一方側金型K21は、フランジ部21の外周面の形状と、フランジ部21の一方側フランジ面21Bの形状と、当該一方側フランジ面21Bの先に大径軸部11の形状と小径軸部12の形状とに形成されている。
補助金型K24は、第2一方側金型K21の小径軸部の形状の先に弾性体K24Sにて弾性力等が付与されて支持されており、押出されてきた素材を支持しながら移動可能であり、素材の体積のばらつきに応じて適切な位置に移動するので、バリの発生を防止することができる。
中間金型K23は、フランジ部21の他方側フランジ面21Aの形状と、嵌合軸部30の外周面の形状とに形成されている。また中間金型K23は、フランジ部21の外径を有する円筒形状であり、中央部には嵌合軸部30の外径に対応する内径寸法の空洞部を有し、第2一方側金型K21に嵌合する。
第2他方側金型K22は嵌合軸部30の凹部(鍛造凹部35)に対応する形状に形成されており、第2他方側金型K22は中間金型K23の空洞部に嵌合する。
そして第2一方側金型K21内に1次冷間鍛造品65を配置し、中間金型K23を第2一方側金型K21に嵌合させ、第2他方側金型K22を中間金型K23の空洞部に下降させて前方押出し加工をすることで、1次冷間鍛造品65から、(嵌合軸部30の外周面と)鍛造凹部35と、(フランジ部21の外周面と一方側フランジ面21Bと他方側フランジ面21Aと)大径軸部11と、小径軸部12と、が形成された2次冷間鍛造品66を形成することができる。
なお、第1の冷間鍛造工程と第2の冷間鍛造工程との間にて、第1の冷間鍛造工程の前で行った第1の焼鈍・被膜工程と同様の工程を行っても良い。
【0035】
上記の説明では、図5(B)における中間金型K23と第2他方側金型K22とを別体で構成した例を説明したが、中間金型K23と第2他方側金型K22とを一体化した金型である一体金型を形成して、第2の冷間鍛造工程に利用してもよい。この場合、1次冷間鍛造品65から、嵌合軸部30の鍛造凹部35と、軸部10と、が形成された2次冷間鍛造品を更に効率よく形成することができる。
【0036】
本実施の形態にて説明した車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法では、上記のように、焼鈍処理工程においてS45C、S50C、S55C等の構造用炭素鋼を変態点温度以上の温度で加熱して焼鈍済軸状素材61を形成し、続く被膜処理工程において焼鈍済軸状素材61の表面に、冷間鍛造の成形型との間に生じる摩擦力を低減する潤滑剤被膜36を施して被膜処理済軸状素材62を形成し、鍛造性に優れた素材としている。
更に、最終的な浮島状肉厚部29の外径に対応する外径を有する軸状素材60を用いることで、続く冷間鍛造工程では、1次冷間鍛造工程と2次冷間鍛造工程の、1回の押出し加工(複合押出し加工)と、1回の前方押出し加工によって、嵌合軸部30、フランジ部21、大径軸部11、小径軸部12とを一体に有する冷間鍛造品(2次冷間鍛造品66)を効率よく形成することができる。
また、本実施の形態の説明では、第1の冷間鍛造工程の前に、第1の焼鈍・被膜工程にて少なくとも焼鈍処理と被膜処理を軸状素材に対して行った。しかし、第1の焼鈍・被膜工程は、省略してもよい。また、浮島状肉厚部29は、省略してもよい。
【0037】
本発明の車輪用転がり軸受装置の軸部材とその製造方法は、本実施の形態で説明した処理、工程等の製造方法、外観、構成、構造等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また、本実施の形態の説明に用いた数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
また、本実施の形態の説明では、ボルト孔24が4個の例で説明したが、ボルト孔24は複数個であり、4個に限定されるものではない。もちろん、ボルト孔24の個数に応じて図2(B)に示す浮島状肉厚部29の形状も変更される。
【符号の説明】
【0038】
1 車輪用転がり軸受装置の軸部材
10 軸部
11 大径軸部
12 小径軸部
12a 内輪突き当て面
15 軸端部
17 かしめ部
18 第1内輪軌道面
19 シール面
21 フランジ部
21A 他方側フランジ面
21B 一方側フランジ面
30 嵌合軸部
35 鍛造凹部
36 潤滑剤被膜
42 内輪
44 第2内輪軌道面
45 外輪
46 第1外輪軌道面
47 第2外輪軌道面
60 軸状素材
61 焼鈍済軸状素材
62 被膜処理済軸状素材
65 1次冷間鍛造品
66 2次冷間鍛造品
67 旋削済鍛造品
68 熱処理済鍛造品
A 車輪用転がり軸受装置
K11 第1一方側金型
K12 第1他方側金型
K21 第2一方側金型
K22 第2他方側金型
K23 中間金型
K24 補助金型



【特許請求の範囲】
【請求項1】
嵌合軸部とフランジ部と軸部とが軸方向に沿って同軸上に配置されている車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法において、
前記嵌合軸部は軸方向に開口する凹部を有する円筒形状であり、
前記フランジ部は軸方向に直交する円板状であり、
前記フランジ部における軸方向に直交する方向の径であるフランジ径は、前記嵌合軸部における軸方向に直交する方向の径である嵌合軸部径よりも大きく、
前記軸部は円柱形状であって外周面には内輪軌道面が形成されており、
前記フランジ部には、軸方向に直交する方向に複数のボルト孔が形成されており、
前記車輪用転がり軸受装置の軸部材は冷間鍛造によって製造されており、
前記嵌合軸部径よりも大きく且つ前記フランジ径よりも小さな外径を有する円柱状の軸状素材を用い、
第1の冷間鍛造工程にて前記軸状素材における軸方向の一方の端部の径を前記フランジ径まで拡径するとともに前記軸状素材における他方の端部に前記嵌合軸部の径を有する円柱部を形成するように押出し加工を行い、
第2の冷間鍛造工程にて前記軸状素材における軸方向の他方の端部から前記嵌合軸部の前記凹部と前記軸部とを形成するように前方押出し加工を行い、前記車輪用転がり軸受装置の軸部材を形成する、
車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車輪用転がり軸受装置の製造方法であって、
前記フランジ部における前記軸部の側の面である一方側フランジ面には、前記軸部の周囲から前記ボルト孔の周囲に延びて前記フランジ部における軸方向の厚さを部分的に肉厚状とする浮島状肉厚部が形成されており、前記浮島状肉厚部の径は前記嵌合軸部の径よりも大きく且つ前記フランジ径よりも小さな径である浮島径であり、
前記浮島径に対応する外径を有する円柱状の軸状素材を用いて、前記第1の冷間鍛造工程と前記第2の冷間鍛造工程にて前記車輪用転がり軸受装置の軸部材を形成する、
車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法であって、
前記第1の冷間鍛造工程における前記押出し加工では、
前記フランジ部における外周面の形状と、前記フランジ部における前記一方側フランジ面の形状と、に形成された第1一方側金型と、
前記フランジ部における前記嵌合軸部の側の面である他方側フランジ面の形状と、前記嵌合軸部の外周面の形状と、に形成された第1他方側金型と、を用いて押出し加工して、
前記軸状素材から前記嵌合軸部の外周面と、前記フランジ部の外周面と、前記一方側フランジ面と、前記他方側フランジ面と、が形成された1次冷間鍛造品を形成し、
前記第2の冷間鍛造工程における前記前方押出し加工では、
前記フランジ部における外周面の形状と、前記一方側フランジ面の形状と、当該一方側フランジ面の先における前記軸部の形状と、に形成された第2一方側金型と、
前記他方側フランジ面の形状と、前記嵌合軸部の外周面の形状と、に形成されて前記フランジ部の外径に対応する外径を有するとともに前記嵌合軸部の外径に対応する内径寸法の空洞部を有して前記第2一方側金型と嵌合する略円筒形状の中間金型と、
略円筒形状の前記中間金型の空洞部に嵌合可能であるとともに前記嵌合軸部の凹部の形状に形成された第2他方側金型と、を用いて前方押出し加工して、
前記1次冷間鍛造品から前記嵌合軸部の凹部と、前記軸部と、が形成された2次冷間鍛造品である前記車輪用転がり軸受装置の軸部材を形成する、
車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法であって、
前記第2の冷間鍛造工程において、前記中間金型と前記第2他方側金型を用いる代わりに、前記中間金型と前記第2他方側金型とが一体的に形成された一体金型を用いて前方押出し加工を行うことで、前記1次冷間鍛造品から前記嵌合軸部の凹部と、前記軸部と、が形成された2次冷間鍛造品を形成する、
車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車輪用転がり軸受装置の軸部材の製造方法によって製造された車輪用転がり軸受装置の軸部材であって、
前記第1の冷間鍛造工程と前記第2の冷間鍛造工程にて前記車輪用転がり軸受装置の軸部材を形成する際に、前記嵌合軸部の径よりも大きく且つ前記フランジ径よりも小さな外径を有する円柱状の軸状素材から製造され、円板状の前記フランジ部を有する、
車輪用転がり軸受装置の軸部材。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−228697(P2012−228697A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96977(P2011−96977)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】