説明

車輪用軸受の状態測定方法および測定装置

【課題】 車両の走行時に近い条件で車輪用軸受の状態を測定することができる車輪用軸受の状態測定方法および測定装置を提供する。
【解決手段】 車輪用軸受30の状態を測定する車輪用軸受の測定方法および測定装置であって、回転輪31もしくは固定輪32に荷重を負荷しながら、非接触の変位センサ15,16を用いて回転輪31および固定輪32の軸方向の相対変位を測定する車輪用軸受の状態測定方法および測定装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両の走行時もしくは走行時に近い条件における車輪用軸受の状態、特に車輪用軸受の剛性を測定する車輪用軸受の状態測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の車輪を車両本体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受としては、例えば図2に示すものが知られている。図2に示す車輪用軸受30は、駆動輪用であって、回転輪としての内方部材31と、内方部材31と同心に配置された固定輪としての外方部材32と、を備えている。
【0003】
内方部材31はハブ輪33を有し、ハブ輪33の軸線上には、不図示の駆動軸(回転軸)を挿通される挿通孔34が軸方向に貫通して設けられている。また、ハブ輪33の軸方向外側(車両への組み付け状態で車幅方向外側)の端部には車輪取付用フランジ35が設けられ、この車輪取付用フランジ35には、車輪及びブレーキディスク等を取り付けるための複数のハブボルト36が周方向に略等間隔でセレーション嵌合により固定されている。また、軸方向外側の側面で且つ軸方向に垂直な車輪取付用フランジ35のフランジ面には、車輪のホイール(不図示)を組み付ける際に中心位置合せに用いられる、円環状の凸部48が挿通孔34と同心に設けられている。
【0004】
また、ハブ輪33の軸方向内側(自動車への組み付け状態で車幅方向内側)の端部には小径段部37が形成されており、この小径段部37に内輪(別体内輪)38が揺動加締め部39によってハブ輪33に加締め固定されている。内輪38の外周面には内輪軌道40が形成され、また、ハブ輪33の軸方向中間部の外周面には内輪軌道41が形成されている。
【0005】
外方部材32の内周面には、ハブ輪33の内輪軌道41に対向する外輪軌道42及び内輪38の内輪軌道40に対向する外輪軌道43が形成されており、また、外方部材32には、懸架装置取付用フランジ44が設けられている。そして、複列の内輪軌道41,40と複列の外輪軌道42,43との間にそれぞれ複数の転動体45が保持器46を介して周方向に転動可能に配設されている。
【0006】
そして、外方部材32の軸方向内側の端部と内輪38との間には、外方部材32に固定されると共に内輪38の外周面に全周にわたって摺接する複数のシールリップが設けられたシール装置49が配設され、外方部材32の軸方向外側の端部とハブ輪33との間には、外方部材32に固定されると共にハブ輪33の外周面に全周にわたって摺接する複数のシールリップが設けられたシール装置47が配設されており、これにより、内方部材31と外方部材32との間の軸方向両端の開口部をシールして、内部に封入されたグリースの外部への漏洩を防止するとともに、外部からの塵埃、水、泥水等の侵入を防止している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、自動車には高い安全性が求められてきており、例えばABS(アンチロック・ブレーキ・システム)等が装備されるようになっている。そのような背景の中、車輪用軸受にも更なる安全性が求められている。車輪用軸受の安全性を向上させるためには、車両の走行時、特に旋回時における車輪用軸受の剛性等の状態を把握する必要があった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の走行時もしくは走行時に近い条件で、あるいは走行時を想定した条件で車輪用軸受の状態を測定することができる車輪用軸受の状態測定方法および測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明に係る車輪用軸受の状態測定方法は、車輪用軸受の状態を測定する測定方法であって、回転輪もしくは固定輪に荷重を負荷しながら、非接触センサを用いて当該回転輪と当該固定輪との軸方向の相対変位を測定することを特徴としている。
【0010】
上記の車輪用軸受の状態測定方法によれば、回転輪もしくは固定輪に荷重が負荷された状態で非接触センサを用いて回転輪および固定輪の軸方向の相対変位を測定しており、車両の走行時もしくは走行時に近い条件で、車輪用軸受の剛性等の状態を測定することができる。この測定結果をフィードバックすることにより車輪用軸受の品質を高めることができる。
【0011】
また、本発明に係る車輪用軸受の状態測定装置は、車輪用軸受の状態を測定する測定装置であって、回転輪もしくは固定輪に荷重を負荷する荷重負荷手段と、非接触センサと、を備え、前記荷重負荷手段により前記回転輪もしくは前記固定輪に荷重を負荷しながら、前記非接触センサにより当該回転輪と当該固定輪との軸方向の相対変位を測定することを特徴としている。
【0012】
上記の車輪用軸受の状態測定装置によれば、荷重負荷手段により回転輪もしくは固定輪に荷重を負荷しながら、非接触センサにより回転輪および固定輪の軸方向の相対変位を測定することができ、車両の走行時に近い条件で、車輪用軸受の剛性等の状態を測定することができる。この測定結果をフィードバックすることにより車輪用軸受の品質を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車輪用軸受の状態測定方法および測定装置によれば、車両の走行時もしくは走行時に近い条件で車輪用軸受の状態を測定することができ、これにより、車輪用軸受の品質を高め、車輪用軸受の安全性を向上させることができる。また、車検等の検査時に車両を走らせることなく、軸受の機能をテストすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る好適な実施の形態例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る車輪用軸受の状態測定方法を実施するための車輪用軸受の状態測定装置の全体構成図である。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態である車輪用軸受の状態測定方法を実施するための車輪用軸受の状態測定装置10は、内輪用アダプタ11と、外輪用アダプタ12と、旋回荷重負荷手段13と、ラジアル荷重負荷手段14と、非接触センサである変位センサ15,16と、を備えている。尚、本測定装置10に装着される車輪用軸受は、上述した従来の車輪用軸受30と同一のものであるので、同一符号を付すことにより説明を省略する。
【0016】
内輪用アダプタ11は、全体として円環状に形成されており、ハブ輪33の円環状の凸部48が挿嵌されるハブ輪取付孔20が中央部に設けられ且つ、ハブ輪33の車輪取付用フランジ35に固定されたハブボルト36が挿通される複数のハブボルト孔21がハブ輪取付孔20の外周側に設けられている。
【0017】
この内輪用アダプタ11は、ハブ輪取付孔20にハブ輪33の円環状の凸部48が挿嵌され、ハブボルト孔21にハブ輪33の車輪取付用フランジ35に固定されたハブボルト36が挿通され、また、車輪取付用フランジ35のフランジ面に平行に相対する軸方向端面において車輪取付用フランジ35に当接して、内方部材31に同心に組み付けられており、回転駆動手段(不図示)によって回転駆動され且つ、支持されている。尚、車輪取付用フランジ35のフランジ面に当接する平坦面は変位測定面22となっている。
【0018】
外輪用アダプタ12は、全体として円環状に形成されており、外方部材32が挿嵌される外方部材取付孔23が中央部に設けられており、外方部材取付孔23に外方部材32が挿嵌され、また、軸方向内側の側面で且つ軸方向に垂直な懸架装置取付用フランジ44のフランジ面に平行に相対する軸方向端面において懸架装置取付用フランジ44に当接して、外方部材32に同心に組み付けられている。
【0019】
懸架装置取付用フランジ44のフランジ面に当接する外輪用アダプタ12の前記軸方向端面には、懸架装置取付用フランジ44の外径側において内輪用アダプタ11の変位測定面22に向けて伸びる円筒部24が延設されている。変位測定面22に平行に相対する円筒部24の軸方向端面には、内方部材31の回転軸に関して対称な位置に、内輪用アダプタ11の変位測定面22と隙間をおいて(即ち、非接触に)、一組の変位センサ15,16が設けられている。変位センサ15,16は、当該変位センサ15,16から変位測定面22までの距離を非接触で測定する。
【0020】
変位センサ15,16としては、変位測定面22との距離を非接触で測定できるものであればよく、例えば、渦電流方式、レーザー方式、超音波方式の変位測定器を用いることができ、測定精度の高い渦電流方式の変位測定器を用いることが好ましい。尚、変位センサ15,16の測定精度としては、分解能が0.2μm〜5.0μmであり、通常1000回/秒でサンプリングを行い且つ40000回/秒までのサンプリングが可能であることが好ましい。
【0021】
旋回荷重負荷手段13は、車両の旋回時を想定して、外輪用アダプタ12を介して外方部材32にモーメント荷重を負荷できるように構成されている。本実施形態においては、内方部材31の回転軸に直交する位置に配置されて、懸架装置取付用フランジ44のフランジ面に当接する外輪用アダプタ12の前記軸方向端面とは他方の軸方向端面に接合されたアーム25と、アーム25に荷重を負荷する一組のシリンダ26,27およびシリンダ26,27のピストンロッドを駆動するための圧力源となる圧力発生手段28と、から構成されている。
【0022】
シリンダ26,27は、内方部材31の回転軸に平行な両方向に駆動されるピストンロッドを有する復動シリンダであり、外輪用アダプタ12を介して外方部材32にモーメント荷重を負荷することができるように、各ピストンロッドは、前記回転軸から外れたアーム25の箇所に連結され、回転軸に平行な荷重を当該箇所に負荷する。本実施形態においては、前記回転軸に関して対称となるアーム25の2箇所に連結されており、シリンダ26は荷重Fを、シリンダ27は荷重F´を、アーム25にそれぞれ負荷する。この場合、外方部材32にモーメント荷重を負荷することができるのはもちろんのこと、シリンダ26による荷重Fとシリンダ27による荷重F´とを等しくすることにより、アーム25および外輪用アダプタ12を介して外方部材32にアキシアル荷重のみを負荷することができる。尚、本実施形態においては、一組のシリンダ26,27を用いてアーム25の2箇所に荷重を負荷しているが、外方部材32にモーメント荷重を負荷するには、前記回転軸から外れたアーム25の1箇所以上に荷重を負荷することができればよく、シリンダの数は2つに限定さるものではない。
【0023】
圧力発生手段28は、シリンダ26,27のピストンロッドを駆動するため圧力源であって、例えば、空気、ガス、オイル、水、等の圧力媒体をポンプにより各シリンダ26,27に供給してピストンロッドに圧力を付与する。
【0024】
ラジアル荷重負荷手段14は、車両の重量を想定して、外輪用アダプタ12を介して外方部材32にラジアル荷重を負荷することができるように構成されている。本実施形態においては、例えば内方部材31の回転軸に直交する方向に駆動されるピストンロッドを有するシリンダを用い、このピストンロッドをアーム25に連結し、アーム25および外輪用アダプタ12を介して外方部材32にラジアル荷重を負荷する。これにより、車両の走行時により近い条件とすることができる。
【0025】
尚、変位センサ15,16の他にも、車輪用軸受30の状態を測定するための、例えば、温度センサ、振動センサ、等の各種センサを設けてもよい。
【0026】
温度センサ17は、例えば熱起電力を利用した熱電対であり、外方部材32の外周面に取り付けられている。温度センサ17は、車輪用軸受30の表面の温度を測定する。
【0027】
振動センサ18は、外輪用アダプタ12の外周面に取り付けられている。振動センサ18は、内輪用アダプタ11が回転する際に外輪用アダプタ12に生ずる振動(加速度)を測定する。
【0028】
制御部19は、上記回転駆動手段によって内輪用アダプタ11および内方部材31が回転駆動される際に、シリンダ26,27によりアーム25に所望の荷重F,F´が負荷されるように旋回荷重負荷手段13の圧力発生手段28を制御する。また、アーム25に所定のラジアル荷重が負荷されるようにラジアル荷重負荷手段14を制御する。そして、変位センサ15,16により測定された変位測定面22までの距離(より詳細には、当該距離に応じて変位センサ15,16より出力された電気信号)を取得し、また、温度センサ17により測定された車輪用軸受30の表面の温度(より詳細には、当該温度に応じて温度センサ17より出力された電気信号)を取得し、また、振動センサ18により測定された外輪用アダプタ12に生ずる振動(より詳細には、当該振動に応じて振動センサ18より出力された電気信号)を取得する。
【0029】
次に、このような車輪用軸受の状態測定装置10を用いて行う車輪用軸受の状態測定方法について説明する。
【0030】
まず、上述のとおり車輪用軸受30を内輪用アダプタ11および外輪用アダプタ12に組み付け、上記回転駆動手段によって内輪用アダプタ11および内方部材31を回転駆動する。そして、旋回荷重負荷手段13により車両の旋回時を想定した荷重を、並びにラジアル荷重負荷手段14により車両の重量を想定した荷重を、アーム25および外輪用アダプタ12を介して車輪用軸受30の外方部材32に負荷する。
【0031】
この状態で、変位センサ15,16により当該変位センサ15,16から内輪用アダプタ11の変位測定面22までの距離が逐次測定される。旋回荷重負荷手段13並びにラジアル荷重負荷手段14により荷重を負荷された車輪用軸受30は、例えば、内方部材31および外方部材32の撓みや、転動体45と内輪軌道40,41および外輪軌道42,43との接触部に生じる弾性変形などにより、内方部材31の回転軸と外方部材32の中心軸とに不一致が生じ、懸架装置取付用フランジ44のフランジ面に対して車輪取付用フランジ35のフランジ面が傾く場合がある。
【0032】
この場合、内輪用アダプタ11の変位測定面22は、相対する外輪用アダプタ12の円筒部24の軸方向端面に対して傾くこととなり、変位測定面22と円筒部24の前記軸方向端面円との軸方向の距離は円周方向に変化している(即ち、内方部材31は外方部材32に対して軸方向に相対変位したといえる。)。この内方部材31と外方部材32との軸方向の相対変位は、筒部24の前記軸方向端面において内方部材31の回転軸に関して対称位置に取り付けられた変位センサ15,16により測定され、これにより、懸架装置取付用フランジ44のフランジ面に対する車輪取付用フランジ35のフランジ面の傾き(即ち、車輪用軸受30の剛性)が測定される。
【0033】
同時に、温度センサ17により、車輪用軸受30の表面の温度が測定され、また、振動センサ18により外輪用アダプタ12に生ずる振動が測定される。
【0034】
制御部19により取得された変位センサ15,16、温度センサ17、および振動センサ18の各測定値は、車輪用軸受30の剛性等の状態が基準値を満足しているか否かを判定する判断材料とされると共に、車輪用軸受30の品質を高めるために設計開発にフィードバックされる。
【0035】
尚、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【0036】
上述した実施形態においては、本発明に係る車輪用軸受の状態測定装置10を用いて本発明に係る車輪用軸受の状態測定を行うものとして説明したが、例えば、内輪用アダプタ11の変位測定面22を、車輪取付用フランジ35の軸方向内側の側面に設けると共に、変位センサ15,16を、車輪取付用フランジ35の変位測定面に相対する懸架装置取付用フランジ44の軸方向外側の側面に設けるなどして、本発明に係る車輪用軸受の状態測定方法を実際の車両において実施することも可能である。
【0037】
また、上記外輪用アダプタ12等の別部材を介する場合も含めて非接触センサを車輪用軸受の回転輪もしくは固定輪に固定しなくても、非接触センサを所定の位置に固定し、回転輪および固定輪のそれぞれの軸方向変位を測定して両者の相対変位を測定することもできる。
【0038】
また、温度センサ17、振動センサ18は一例であり、これらに代えて好ましいセンシング手段を採用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る車輪用軸受の状態測定方法を実施するための車輪用軸受の状態測定装置の全体構成図である。
【図2】従来の車輪用軸受を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 車輪用軸受の状態測定装置
13 旋回荷重負荷手段(荷重負荷手段)
14 ラジアル荷重負荷手段(荷重負荷手段)
15,16 変位センサ(非接触センサ)
19 制御部
30 車輪用軸受
31 内方部材(回転輪)
32 外方部材(固定輪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪用軸受の状態を測定する測定方法であって、
回転輪もしくは固定輪に荷重を負荷しながら、非接触センサを用いて当該回転輪と当該固定輪との軸方向の相対変位を測定することを特徴とする車輪用軸受の状態測定方法。
【請求項2】
車輪用軸受の状態を測定する測定装置であって、
回転輪もしくは固定輪に荷重を負荷する荷重負荷手段と、
非接触センサと、
を備え、
前記荷重負荷手段により前記回転輪もしくは前記固定輪に荷重を負荷しながら、前記非接触センサにより当該回転輪と当該固定輪との軸方向の相対変位を測定することを特徴とする車輪用軸受の状態測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−153554(P2006−153554A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341938(P2004−341938)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】