転がり免震支持装置及び該免震支持装置を有する免震構造系
【課題】 長周期性とともに復帰性及び減衰性を有する剛性の楕円転動子を使用する転がり免震装置に上揚力作用を付加し、機能の向上を図る。
【解決手段】
楕円回転体形状に表面曲率が漸次変化する剛性の転動子7が、上部構造Gと下部構造Bとの間で上部構造Gの荷重を支持して内圧室J内に水平方向に移動域を存して配され、常時において気密を保つ内圧室J内を加圧し、かつ該転動子7には中心軸に貫通して上下に変位を許す棒状ダンパー10が挿通されてなる。
【解決手段】
楕円回転体形状に表面曲率が漸次変化する剛性の転動子7が、上部構造Gと下部構造Bとの間で上部構造Gの荷重を支持して内圧室J内に水平方向に移動域を存して配され、常時において気密を保つ内圧室J内を加圧し、かつ該転動子7には中心軸に貫通して上下に変位を許す棒状ダンパー10が挿通されてなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建造物・人工地盤等における上部構造と基礎等の下部構造との間に介装され、上部構造の荷重を支持するとともに地震動等の強制振動に対して上部構造の揺れを低減し免震する基礎用装置いわゆる免震支持装置及び該免震支持装置を上部構造と下部構造との間に設置してなる免震構造系に関し、更に詳しくは、上部構造と下部構造との間に転動子を介するいわゆる転がり免震支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼球等の転動子を用いて転がり機能により免震をなすを免震支持装置では、地震動に対する敏感な応答性が得られるが、減衰性については減衰手段を別途配する必要があり、また地震動後の元位置への復帰機能を付加する問題点もある。
本発明者は、この観点から先に特開2005−273353(文献1)、特開2005−282247(文献2)、特開2006−153125(文献3)等により、減衰・復帰機構を備え、かつ転倒を阻止する拘束梁を有する免震基礎構造を提案した。しかしながら、これらの技術では減衰・復帰機構が複雑なものとなっており、また、検知装置等の特殊な装置も必要となる。
そこで、本発明者は、転動子の形状を回転楕円体とすることにより、復帰機能を持たせ、併せて揺動の長周期化を図りうるとの知見に基づき、特開2010−84910(文献4)(以下、先行発明という。)において回転楕円体にダンパー鋼棒を組み込んでなる転がり免震支持装置を提案した。
すなわち、該先行発明の免震支持装置によれば、上部構造(建物)Gと下部構造(基礎)Bとの間に回転楕円体の転動子を介在させてなり、常時には該回転楕円体の採る安定位置状態により上部構造Gは安定的に支持され、地震時には回転楕円体の転がり特性、すなわち該回転楕円体の転がり軌跡に追従して、上部構造Gの長周期化と復帰モーメントによる復帰性とが発揮され、かつ、回転楕円体に組み込まれたダンパー鋼棒により減衰作用を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−273353号公報
【特許文献2】特開2005−282247号公報
【特許文献3】特開2006−153125号公報
【特許文献4】特開2010−84910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は先行発明を更に発展させたものであり、上部構造の載荷重を低減する機構を当該先行発明に付加することにより更に効果的な免震作用が得られるとの発想に基づくものである。
本発明はこのため、当該機構の転動子回りへの配設を図る新規な構造の転がり免震支持装置を得ることを目的とする。
本発明は更に、基礎を含めた構造物の全体系にこの新規な免震支持装置を組み込んでなる免震構造系を得ることも他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の転がり免震支持装置及び該免震支持装置を有する免震構造系は具体的には以下の構成を採る。
本発明の第1は転がり免震支持装置に係り、請求項1に記載のとおり、互いに水平方向に相対移動可能な上部構造と下部構造との間に介装され、該上部構造の荷重を該下部構造に伝達するとともに、該上部構造と該下部構造との相対移動を許容する免震支持装置であって、
a.前記下部構造の上面に、その上面が平滑な水準面をなす剛性の荷重受板が固設され、
b.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
c.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記荷重受板の上面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子が、水平方向に移動域を存し、その上下を荷重支持筒体の天井壁部の下面と前記荷重受板の上面とに挟着されるとともに、上部構造の荷重を支持して配され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配されてなる、
ことを特徴とする。
上記第1発明のf項に替えて、転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、上下部構造にそれぞれ一端を密実性を保って固定され、他端を前記鋼棒ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが挿通されてなる転がり免震支持装置は別な発明を構成する。
【0006】
本発明の第2は免震構造系に係り、請求項3に記載のとおり、互いに水平方向に相対移動可能な上部構造と下部構造との間に介装され、該上部構造の荷重を該下部構造に伝達するとともに、該上部構造と該下部構造との相対移動を許容する複数の免震支持装置を備えてなる免震構造系であって、
前記免震支持装置は、
a.前記下部構造の上面に、その上面が水準面をなす剛性の荷重受板が固設され、
b.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
c.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記荷重受板の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子が、水平方向に移動域を存し、その上下を荷重支持筒体の天井壁部の下面と前記荷重受板の上面とに挟着されるとともに、上部構造の荷重を支持して配され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配されてなる、
ことを特徴とする。
上記において、「複数」の免震支持装置とは少なくとも上部構造を自立支持できる数量(例えば3)を言い、その数量に限定されない。
上記第2発明のf項に替えて、転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、上下部構造にそれぞれ一端を密実性を保って固定され、他端を前記鋼棒ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが挿通されてなる免震構造系は別な発明を構成する。
【0007】
上記第1・第2発明及びそれらの別発明において、「回転楕円体形状」は、回転楕円体(長円体)に限定されず、表面曲率が漸次変化し、転動につれて上下平行面の接点間の高さが漸次増大する球体の全ての形状を含み、具体的には以下の実施の形態で示される。また「定位置状態」は、上部構造の常時の状態、換言すれば安定状態の転動子に載る上部構造の状態すなわち上部構造の静止状態をいう。
なお、上部構造が人工地盤を採るとき、建物本体は該人工地盤上に構築され、該人工地盤は本転動子を介して基礎としての下部構造に支持されるものである。
上記の第1・第2発明及びそれらの別発明において、
1)荷重受板の上面は密封部材との当接面につき平滑にされる外、該荷重受板のその余の上面及び該荷重支持筒体の天井面の下面についても平滑面にされること、
2)f項において、転動子の中心に沿って貫通孔を設け、該貫通孔に棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を拘束性に配すること、
3)またf項において、荷重受板と荷重支持筒体の天井壁部とに配される棒状ダンパー挿通管は、荷重受板の下面と荷重支持筒体の天井壁部の上面に取り付けられ、それらの棒状ダンパー挿通孔は荷重受板と荷重支持筒体の天井壁部とに直接形成されること、
4)転動子は、水平方向において、全方向移動に限定されず、一方向変位を採ること、
は適宜採られる実施態様である。
【0008】
(作用)
本発明の転がり免震支持装置及び該免震支持装置を有する免震構造系は上記の構成を採ることにより、以下の作用を発揮する。
本免震支持装置は建造物(あるいは人工地盤)すなわち上部構造Gとコンクリート基礎すなわち下部構造Bとの間に介装され、その転動子の支持作用(常時・地震時)並びに荷重支持筒体内の内圧室からの上揚力(常時)を受けて上部構造Gの荷重を下部構造Bに伝達し、転動子の転がり作用により地震動に対する免震作用を発揮する。
(A) 常時
常時において、本免震支持装置Sは定位置状態を採る。
内圧室には本免震支持装置Sに連通する配管系を介して充填流体が所定の圧力で充填され、内圧室内の充填流体は密封部材及びその他の密実作用により外部に漏れ出ることはなく、所定の加圧状態に保たれる。これにより上部構造Gに上揚力が作用する。
転動子は、定位置状態で最も大きな曲率面を上下にした中立状態(換言すれば安定状態)をもって設置され、上部構造Gの荷重は転動子を介して下部構造Bに伝達され支持される。このとき、上部構造Gの荷重は上揚力を受けて低減されたものとなっており、転動子の負担する耐荷力(応力)は小さく、長期の持続性を持つ。上揚力を受けて低減された上部構造Gの荷重(有効荷重)は風荷重等の小さな強制力に影響を受けない範囲内に設定される。また、鋼棒ダンパーは定位置状態では無負荷であるが、風荷重等の小さな強制力については抵抗を示す設置状態を採るようにすれば、更に上揚力を増大することができる。
本免震構造系における免震支持装置による上下の支持面は全ての転動子が安定状態を採るとともに水準状態を保持し、風荷重等に対しても上部構造Gは安定状態を保つ。
【0009】
(B) 地震時
地震時(及び構造物に揺れを生じさせる力が作用する全ての場合を含む。)において、地盤は大きく揺れ、地震動の強制変位により下部構造としての基礎Bは地盤と一体に振動するが、上部構造Gは転動子の転がり作用を介して上下動の伴う揺動が生じ、上部構造Gと下部構造Bとの間に相対変位が生じる。この地震の初動において、常時に作用していた上揚力が転動子の転がりのきっかけとなり、上部構造Gは円滑に変位する。上部構造Gの上動によりこの上揚力は喪失する。
上部構造Gに接する転動子は、上部構造Gの移動とともに該転動子も転動し、該転動子に支持された上部構造Gは該転動子の転がり軌跡に追従する。上部構造Gが逆方向に移動すると、上記の動作の逆となる。
地震動に伴い、転動子の転がり軌跡に追従して上部構造Gは上下動の伴う揺動運動をなし、これにより転動子の転がり作用をもって構造物Gは周期の大きな揺動作用を受け、地震動による共振作用等の悪影響を避けることができる。
また、転動子の転がりとともに棒状ダンパーが変形し、変形エネルギーの消費に伴う減衰力を発現し、更に、当該転動子の転がり移動による作用点の移動に伴う復帰力(復帰モーメント)も作用する。
(B-1) 初動作用
一定以上の大きな地震動の初動があると、上部構造Gは常時における上揚力の作用によりみかけ上小さな鉛直荷重となっているので、上部構造G下の転動子の転がり作用は直ちに発揮される。換言すれば、この上揚力は転動子の転がり移動のトリガー作用を果し、地震初動への遅れがなく、その後この上揚力の効果は失われるが、以下に続く転動子による上部構造Gの揺動変位に円滑に移行する。
(B-2) 減衰作用
この上部構造G・転動子の一体の構造系の揺動変位において、転動子の左右への転動変位につれ、棒状ダンパーは荷重受板の棒状ダンパー挿通管及び荷重支持筒体の棒状ダンパー挿通管から引き出され、また引き入れられて強制的に折曲げ変形を受ける。この折り曲げ作用によるエネルギー散逸効果により減衰力が発揮され、上部構造Gの振動を減衰させる。棒状ダンパーの別の態様(請求項2、4)においても、上下の棒状ダンパーはそれぞれ転動子の棒状ダンパー挿通孔から引き出され、また引き入れられて強制的に折曲げ変形を受け、ダンパー作用を発揮する。
(B-3) 復帰作用
転動子の転動変位に伴い、転動子の転がり軌跡における上接点は構造物Gが当初の定位置から遠ざかるとき次第に上方へ移動(上昇)し、該転動子に支持される上部構造Gに持上げ力を付与する。また、最上点から初期位置(中立位置)への戻り変位においては下降状態となり、最下点を過ぎると再び上昇する。
この間、下接点と上接点との間に水平方向の偏心距離を生じ、上接点に作用する上部構造Gの荷重により下接点を支持点として偏心モーメントが生じ、復元モーメント(平行する逆方向の2力よりすれば戻り偶力)すなわち復帰力として機能する。これにより上部構造Gは常時の状態すなわち初期の定位置状態に復帰する特性を発揮し、当該免震構造系は強制水平力すなわち地震力の終息とともに安定状態に復する。
(B-4)
以上により、本免震構造系は地震時において、構造系の長周期化を実現して地震動との共振を避け、かつ本免震支持装置Sの具備する減衰機能を受けて構造物に作用する地震動は速やかに減衰され、また復元モーメント(換言すれば復帰偶力)を受けて当該構造物は速やかに当初位置に復帰する。
加えて、その上揚力作用により免震の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の免震支持装置によれば、常時の上揚力機能を有するとともに、転動子による常時及び地震時の荷重支持作用を発揮し、地震時における上部構造と下部構造間の相対的移動に伴う転動子の転動変位の長周期化による免震作用を発揮するとともに、該転動子の転動変位に対応して棒状ダンパーの折曲げ変形をなして減衰力を発揮し、また転動子の偏心による偶力作用による復帰力を発揮する多機能性を有し、かつ上揚力機能の組み込まれた効率的な免震支持装置を実現したものである。
その常時における上揚力作用により、転動子は荷重負担が低減され、長期の持続性を持ち、また地震時には免震の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がない。
そして、本免震支持装置において転動子に所定の移動空間を保持させることにより水平面の全方向に対処できる。
しかして、本免震支持装置を複数備えて自立保持されてなる免震構造系においては、転動子上の構造物は常時において安定して支持され、地震時における構造系の固有周期の長周期化が図られ、かつ転動子に具備されたダンパー機能及び該転動子の特有形状の偶力作用による復元力が発揮され、優れた免震効果が得られ、構造系の迅速な振動減衰が実現する。加えて、常時における上揚力作用により上部構造Gの荷重が低減され、本免震構造系の当該装置の長期の持続性が確保され、また地震時の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がなく、上部構造Gへの悪影響もなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の転がり免震支持装置を組み込んでなる免震構造系の概略構成を示す側断面図。
【図2】本免震支持装置の全体構成を示す鉛直断面図(図1の部分拡大図、図3の2−2線断面図)。
【図3】本免震支持装置の全体構成を示す平面構成図(図2の3−3線断面図)。
【図4】本免震支持装置の部分(密封部材の取付け)詳細図。
【図5】本免震支持装置の充填流体の配管系を示す図。
【図6】転動子の一態様(楕円回転体)の模式構成図。
【図7】転動子の別態様の模式構成図。
【図8】本免震支持装置の部分(鋼棒ダンパーの取付け)詳細図。
【図9】本免震支持装置の建物への配置例を示し、(a) 図はその側面図、(b) 図はその平面図。
【図10】本免震支持装置の人工地盤への配置例を示し、(a) 図はその側面図、(b) 図はその平面図。
【図11】本免震支持装置の動作を示す図。
【図12】本免震支持装置の動作を示す図。
【図13】本発明の他の棒状ダンパーの取付け態様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の転がり免震支持装置及び該免震支持装置を有する免震構造系の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図8は本免震構造系を構成する転がり免震支持装置(以下「免震支持装置」という。)Sの一実施形態を示す。すなわち、図1は本免震支持装置Sの複数が組み込まれた免震構造系の概略構成を示し、図2は本免震支持装置Sの単独の縦断面構成、図3はその平面構成を示し、図4〜図8は本装置の部分構成及びその特徴部の詳細構成を示す。また、図9、図10は本装置の配置態様を示し、図11、図12は本装置の動作を示す。
本装置の図示につき、Xは長手方向、Yは幅方向、Zは高さ方向を示す。
しかして、本転がり免震支持装置Sは上部構造Gと下部構造Bとに介装設置され、上部構造Gの荷重を低減支持し、下部構造Bに伝達するとともに地震等の強制振動力より生起される上部構造Gの揺れに対して免震作用をなす。
図示されるように本実施形態の免震支持装置Sは、
a.下部構造Bの上面に固設され、その上面が水準面をなす剛性の荷重受板1、
b.上部構造Gの下面に固設され、下方に向って開放される円筒形状の内圧室Jを有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体2、
c.該荷重支持筒体2の円筒側壁部の下端に固定保持され、前記荷重受板1の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材3、
d.該荷重支持筒体2の壁部に貫通して配され、該内圧室Jへ充填流体Kを供給及び排出する供給管4、排出管5、
e.剛性を有する回転楕円体からなるとともに、その上下を該荷重受板1と荷重支持筒体2とに挟着されて上部構造Gの荷重を支持し、該荷重支持筒体2の内圧室J内に水平方向に移動域を存して配される転動子7、
f.上記転動子7、荷重受板1、荷重支持筒体2のおのおのに各独立して貫通して配され、その内部に鋼棒ダンパー挿通孔8を形成する鋼棒ダンパー挿通管9、
g.前記鋼棒ダンパー挿通管8内に挿通される単一の棒状ダンパーとしての鋼棒ダンパー10、
の各構成体からなる。
なお、上記において、鋼棒ダンパー挿通管9及び鋼棒ダンパー10により「ダンパー機構」が構成される。
【0013】
以下、各部の細部構造に付いて説明する。
荷重受板1(図1、図2参照)
荷重受板1は、硬質素材(通常には鋼製)をもって所定の厚みを有し剛性状の平板体よりなり、下部構造Bの上面に水準を保って固定される。該荷重受板1の上面1aは平滑面をなし、かつ、後記する諸機能を保持するために剛性の他に密実性(気密性、水密性を含む)を要するものである。
【0014】
荷重支持筒体2(図1〜図4参照)
荷重支持筒体2は、所定の厚みをもって円筒側壁部12と天井壁部13とからなる下方に向って開放される円筒形状の剛性の構造体からなり、上部構造Gと一体化され下部構造Bへ荷重を伝達する。そして、該荷重支持筒体1の内部には加圧される真円形の内圧室Jが形成される。このため、該荷重支持筒体1は剛性に加え、密実性(気密、水密)の素材が採用される。
詳しくは、円筒側壁部12は、下部に拡径壁部12aを有し、その下端面は平滑にされるとともに該下端面に臨んで環状の凹溝14が凹設され、また、該凹溝14に連通して拡径壁部12aの上面から取付け孔15が円周上に複数箇所(本実施形態では6)に開設されている。天井壁部13の天井面13aは平滑又は通常の水準面をなす。該天井壁部13には後述するように所定の部材のための貫通孔が開設されるが、その本体部自体は密実を保つ。
【0015】
密封部材3(図2、図3、図4参照)
密封部材3は、本体部3aの断面が円形のゴム製の環状体よりなり、該環状体の上面の複数部位に前記した取付け孔15に対応して取付け用突起部3bが突設され、該取付け用突起部3bを取付け孔15に圧着状に差し込んで当該密封部材3の本体部3aを前記した荷重支持筒体2の円筒側壁部12の凹溝14内に収容する。該取付け用突起部3bが取付け孔15に圧着状に差し込まれ、該密封部材3の本体部3aの凹溝14内からの脱落を阻止する。
該密封部材2の本体部2aはいわゆるOリング機能を有し、荷重受板1の上面1aとの当接により所定の圧縮率をもって内圧室Jの加圧に対して密封作用を発揮する。
なお、荷重受板1はこの密封部材3に当接する部位において少なくとも平滑面であればよく、その余の部位は格別平滑面でなくてもよい。荷重支持筒体2の天井壁部13の下面もこれに準じ、格別平滑面でなくてもよい。
更に、本実施形態では1重の密封態様を採るものであるが、荷重支持筒体2の円筒側壁部12の下面に凹溝14を同心状に2重に設け、各凹溝14に密封部材3を装着し、密封作用を増大する措置を採ることを除外するものではない。
【0016】
供給管4、排出管5(図1、図2、図5参照)
供給管4、排出管5は、荷重支持筒体2の天井壁部13の可及的隅部に密実性(気密、水密)を保って外部と内圧室Jとを連通して配される。すなわち、外部より充填流体Kが供給管4を介して内圧室Jに送り込まれ、内圧室Jの充填流体Kは排出管5を介して外部に放出される。なお、供給管4、排出管5は、荷重支持筒体2の円筒側壁部12の適宜場所であってもよい。
図5は供給管4、排出管5に接続される配管系を示し、供給系の配管4aは外部に引き出され、逆止め弁17を介して圧送ポンプ18に接続される。排出系の配管5aについても外部に引き出され、開閉弁19(常時閉)に接続される。
本配管系は充填流体Kの様態(気体、液体)により更に適宜の配管要素が付加される。例えば、充填流体Kが液体系であるときは、圧送ポンプ18の先に液体タンクが接続されることは言うまでもない。
(充填流体K)
充填流体Kは、気体、液体の両態様から適宜なもの(非圧縮性、小圧縮性)が選ばれるが、環境への悪影響を避ける観点から空気、水が好適なものとして採用される。
【0017】
(内圧室Jの圧力保持)
上記した本荷重受板1の密封部材3との当接による荷重支持筒体2の内圧室Jの密封化により、荷重支持筒体2の内圧室Jは密閉空間を構成し、所期の圧力保持作用をなす。すなわち、内圧室Jに送り込まれる充填流体Kにより該内圧室J内は所定の圧力を受け、この結果上部構造Gに対して上揚力として作用し、上部構造Gの荷重の相当割合を負担する。本実施形態では、本構造系に設置される複数の本免震装置Sの全ての内圧室J により、上部構造Gの全荷重の8割程度の荷重低減を見込むものである。
【0018】
転動子7(図1〜図3、図6、図7参照)
転動子7は、剛性の回転楕円体からなるとともに、その上下を荷重支持筒体2(その天井壁部13)と荷重受板1とに挟着され、荷重支持筒体2の内圧室J内に水平方向に移動域を存して配される。回転楕円体は、中心点Oを含む楕円平面を短軸を回転軸として回転させた立体形であり、本回転楕円体では、図6に示されるように、a(X方向)、b(Y方向)が長軸をなし、c(Z方向)が短軸をなし、a=b>cを採る。
すなわち、円球体であれば転動するとき上部・下部構造G,B間の上下面との接点N,M間の鉛直距離すなわち高さは一定値を採るが、本発明で採用される球体は表面曲率が漸次変化し、転動につれて上下面の接点間の高さが漸次増大する立体形状を採る。したがって、元位置方向へ転動するとき上下面の接点間の高さが漸次減少するものでもある。このような球体として、回転楕円体以外にも、回転放物線体、更にはカテナリー線、クロソイド線の立体形が採用される。
図6において、回転楕円体をなす本転動子7は、定位置状態で下面(すなわち荷重受板1の上面)1aとはM点で、上面(すなわち天井壁部13の下面)13aとはN点で当接するものであり、その高さはh(=2c)の最小値を採る。この回転楕円体の転動子7が転動し傾斜すると、上面13aが持上げられ上下面との接点N,M間の距離は漸次増大する。同時に上下面から反力を受けて,それらは大きさ等しく平行で方向が互いに逆な偶力として作用し、当該転動子7に復帰力を与える。なお、本図において、7aは回転楕円体7の側面を切断したカット平面であって、下側表面及び上側表面の近傍部分のみの使用も可能である。
図7は更に別な球体7Aを示す。本態様では上面及び下面の曲率半径Rがその中心Oからの距離rよりも十分に大きい一定長さを採り、部分球体をなす。本態様は表面曲率は一定値を採るが、回転楕円体の転動子7と同じ動的特性を示し、かつ、そのRの値を大きく採ることにより当該球体7A上に載置される構造物の長周期化を図ることができる。
本転動子7の剛性素材は、所定の強度(圧縮強度)を保持するものとして、鉄製(鋼、鋳鉄)、高強度コンクリートあるいは硬質合成樹脂の適宜の素材が採用可能であるが、本実施形態では高強度コンクリートが重量性・費用性から好適なものとして採用される。高強度コンクリートではその圧縮強度が60N(ニュートン)/平方mmを採り、十分な剛性が得られる。
【0019】
(本転動子7の配置)
本転動子7(外径d=2a,2b)は、その中心軸を荷重支持筒体1の内圧室J(内径D)の中心に合致して、該内圧室J内に全水平方向に移動可能な空間(D−d)すなわち移動域を存して配される。また、このとき転動子7は定位置状態を採り、安定状態を保つ。
【0020】
ダンパー機構(図1〜図3、図8参照)
鋼棒ダンパー挿通管9及び鋼棒ダンパー10により「ダンパー機構」が構成される。鋼棒ダンパー挿通管9内には鋼棒ダンパー挿通孔8が形成され、鋼棒ダンパー10は該鋼棒ダンパー挿通孔8に案内されて移動する。
【0021】
鋼棒ダンパー挿通管9(図1〜図3、図8参照)
鋼棒ダンパー挿通管9は、内部に鋼棒ダンパー挿通孔8を有し、所定の厚さの剛性素材(一般には鉄製)の円管状体よりなり、転動子7、荷重受板1、荷重支持筒体2の天井壁部13に各独立して貫通状に配される。
すなわち、該鋼棒ダンパー挿通管9は、転動子7内に配される鋼棒ダンパー挿通管9a、荷重受板1に配される鋼棒ダンパー挿通管9b及び荷重支持筒体2に配される鋼棒ダンパー挿通管9cからなり、更に鋼棒ダンパー挿通管9cの上端部の蓋体9dを含む。8a,8b,8cはそれぞれ鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cの鋼棒ダンパー挿通孔8である。そして、これらの鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cは転動子7の定位置状態では一体性をなし、その対接面で荷重の伝達をなす。
更に詳しくは、転動子7内に配される鋼棒ダンパー挿通管9aは、転動子7の中心軸に沿って開設された孔内に拘束状態を保って配され、その上下端面を平坦に、かつ該転動子7の上下端面に面一とされる。
荷重受板1に配される有底の鋼棒ダンパー挿通管9bは、上端を荷重受板1の上面に面一とされ、すなわち平坦面となる。該鋼棒ダンパー挿通管9bは荷重受板2の下面より下方へ長く延設され、該鋼棒ダンパー挿通管9bの外側面には鍔体22が突設され、該鍔体22及び固定具(溶接も含む)を介して荷重受板1に強固に固設される。
荷重支持筒体2に配される鋼棒ダンパー挿通管9cは、下端を荷重支持筒体1の天井壁部13の下面に面一とされ、すなわち平坦面となり、該天井壁部13の上面より上方へ長く延設されてなる。該鋼棒ダンパー挿通管9bについてもその外側面には鍔体23が突設され、該鍔体23を介して固定具により荷重支持筒体1の天井壁部13に強固に固設される。該鋼棒ダンパー挿通管9cの上端部は開放され、蓋体9dをもって閉塞され、鋼棒ダンパー10の挿入操作に供される。
そして、転動子7の定位置状態で、これらの鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cの端面相互が当接状態を採ることは好適な荷重伝達に寄与するものである。
なお、転動子7への鋼棒ダンパー挿通管9aを廃し、転動子7の開設孔を鋼棒ダンパー挿通孔8aとし、転動子7の上下端面を鋼棒ダンパー挿通管9b,9cに当接して上下構造G,Bの荷重伝達をなす態様を採ることを除外するものではない。
【0022】
鋼棒ダンパー10(図1〜図3、図8参照)
鋼棒ダンパー10は、所定の弾塑性特性を有する鋼棒を主体とし、転動子7、荷重支持筒体1、荷重受板5に配された鋼棒ダンパー挿通管9の鋼棒ダンパー挿通孔8内に挿通される。
しかして、鋼棒ダンパー10は転動子7の転動につれ、鋼棒ダンパー挿通管9の鋼棒ダンパー挿通孔8に案内されて移動とともに変形する。
なお、鋼棒ダンパー10は本実施形態では単一の棒状体を採用したが、複数の細径の鋼線の使用も含むものである。
【0023】
(本免震支持装置Sの配置・設置施工)
本免震支持装置Sは、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造等の軽量ないし重量構造物の建物Gを対象とし、上部構造としての該建物Gに対して次のように配置される。
図9にその取付け・配置の一態様を示す。
図において、Bは地盤Eに打設された基礎杭Pに連結して構築された下部構造としての基礎であって、該基礎Bの上面は同一水準面に施工される。この基礎B上に複数の本免震支持装置Sが対称を保って配置され(図例では8箇所)、この免震支持装置S上に建物本体Gが構築される。木造の軽量建物においては基礎杭Pの施工は格別必要なものではない。
これにより、基礎B・免震支持装置S・建物本体Gによる構築物における免震構造系が構成される。
【0024】
本免震支持装置Sの設置の施工については、基礎Bの現場打ちコンクリート構築に際し、該基礎Bの上面Ba(図1)に鋼棒ダンパー挿通管9bを取り付けた複数の荷重受板1がそれらの上面1aを同一水準をもって埋設設置される。該基礎Bの上面Baは荷重受板1の上面1aと同一水準以下とされる。
この基礎B上の各荷重受板1上に、密封部材3及び転動子7更には供給管4・排出管5を組み込んだ荷重支持筒体2が各設置される。このとき、密封部材3は荷重受板1の上面1aに密封作用を保って当接し、また、転動子7の鋼棒ダンパー挿通管9a及び荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通管9cは既に設置されている荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通管9bに同一鉛直線上に配される。そして、鋼棒ダンパー挿通管9a、9b、9cより構成される鋼棒ダンパー挿通管9内に鋼棒ダンパー10が挿入され、蓋体9dにより閉塞される。また、供給管4、排出管5に配管系(供給系4a、排出系5a)の配管系が接続される。
各荷重支持筒体2が設置された後、建物Gの床版コンクリート(建物Gの一部)が各荷重支持筒体2の天井壁部13の上面より十分な厚さを保って打設される。これにより、建物Gの荷重は荷重支持筒体2の天井壁部13に載荷されることになる。
建物Gの底面すなわち床版コンクリートの底面Ga(図1)は基礎Bの上面Baよりすき間を存し、転動子7の荷重支持を保持することを条件として、荷重受板1の上面1a以上の高さに設定されるものである。すなわち、基礎Bの上面Baが荷重受板1の上面1aより低い場合には建物Gの底面Gaは荷重受板1の上面1aと一致してもよく、また、基礎Bの上面Baが荷重受板1の上面1aと同一水準の場合には建物Gの底面Gaは荷重受板1の上面1aより高くされる。
図例(図1、図2)では建物Gの底面Gaは基礎Bの上面Baと若干のすき間を採るが、荷重支持筒体2の拡径壁部12aの上面位置あるいは荷重支持筒体2の天井壁部13の上面位置等の適宜の位置に設定されてもよい。
なお、図例では各免震支持装置Sは同一水準に配される態様を採るが、この態様に限らず、各免震支持装置Sに高低差があっても、それらの荷重受板1の上面1aと荷重支持筒体2の円筒側壁部12の下端面及び天井壁部13の天井面13aとが水平かつ平行を保持していればよい。
【0025】
以上に基礎B並びに上部構造Gの場所打ちコンクリート施工を主体として述べたが、プレキャスト版による構築も可能である。
すなわち、上部構造Gの床版部をプレキャスト化し、複数(単一でも可)のプレキャスト床版を予め形成された孔をもって荷重支持筒体2の円筒側壁部12へ嵌め込んで固定する態様、あるいは該プレキャスト床版を荷重支持筒体2の天井壁部13上に載置固定する態様、更には該プレキャスト床版を荷重支持筒体2の拡径壁部12aの上面上に載置固定する態様、等を採り、各態様においてそれらのプレキャスト床版相互を接続することにより一体化された上部構造Gの床版部を構築することができる。
このプレキャスト化によれば、基礎Bの上面Baから上部構造Gの下面Gaまでの距離を自由に設定でき、また荷重支持筒体2の下面への打設コンクリートの流込みもなく、施工の自由度が増大する。
【0026】
本免震支持装置S、及び該本免震支持装置Sを組み込んだ本免震構造系の機能を十全に果すため、本免震支持装置Sの供給管4、排出管5から導出された配管系(供給系4a、排出系5b)に所定の作動機器(逆止め弁17、圧送ポンプ18、開閉弁19)が接続される。
【0027】
また、図10は人工地盤における本免震支持装置Sの配置の一態様を示す。本態様においては一戸建住宅に適用される人工地盤G1、すなわち小規模の人工地盤を示す。
本態様の人工地盤G1においては、地盤E上に基礎Bが水平を保って直接的に構築され、該基礎Bに鋼棒ダンパー挿通管9b付き荷重受板1を配し、更に転動子7及び荷重支持筒体2の本免震支持装置Sの上位部を介して人工地盤G1が現場コンクリート打ち又はプレキャスト版をもって構築される。本免震支持装置Sの上位部に、密封部材3、鋼棒ダンパー挿通管9a、9c、蓋体9d、鋼棒ダンパー10、供給管4、排出管5及びそれらの配管系が各配備されることは勿論である。このとき、基礎B上に薄厚の介装マットが敷設され、コンクリート打ちの型枠材として機能し、該免震装置Sの上位部は埋殺しとなる。人工地盤G1の構築の後、該人孔地盤G1上に住宅建築G2が直接的に構築される。
これにより、基礎B・免震支持装置S・人工地盤G1・建物本体G2による構築物における免震構造系が構成される。なお、この態様においては、人工地盤G1が本来の上部構造Gを構成する。
【0028】
(本免震支持装置Sの作用)
本免震支持装置Sは建物(あるいは人工地盤)すなわち上部構造Gとコンクリート基礎すなわち下部構造Bとの間に介在し、その転動子7の支持作用(常時・地震時)並びに荷重支持筒体2内の内圧室Jからの上揚力(常時)を受けて上部構造Gの荷重を支持し、下部構造Bひいては地盤Eに該荷重を伝達するとともに、地震動に対する免震作用を発揮する。
【0029】
(A) 常時
常時において、本免震支持装置Sから導出された配管系に所定の作動機器、すなわち、供給系の配管4aについては逆止め弁17、圧送ポンプ18が接続され、排出系の配管5bについては開閉弁19が接続される。圧送ポンプ18から圧送される充填流体Kは内圧室Jに導かれ、内圧室Jを所定の圧力に満たされたとき、開閉弁19が閉じられる。内圧室J内の充填流体Kは密封部材3により外部に漏れ出ることはない。なお、本実施形態において、充填流体Kは空気が採用される。
しかして、上部構造Gの荷重は、本免震支持装置Sにおいて、荷重支持筒体2、転動子7及び荷重受板1を介して下部構造Bに伝達され支持される。すなわち、転動子7は定位置状態を保ち、この定位置状態で鋼棒ダンパー挿通管9a、9b、9cの相互は面状に当接状態をなして荷重の伝達を担い、上部構造Gの荷重は下部構造Bに円滑に伝達される。一方、内圧室J内の充填流体Kの圧力により上部構造Gに上向きの力(すなわち上揚力)が作用し、これにより上部構造Gの荷重は低減されたものとなる。
この結果、転動子7(及びその鋼棒ダンパー挿通管9a)の分担する支持荷重は大幅に低減される。本実施形態において、80%の低減を見込むものであり、この荷重状態にあって本建物Gは風荷重等の横荷重の影響は何ら受けないものである。したがって、本実施形態における設置圧力は0.2×(上部構造Gの荷重)(単位面積当り)と極めて小さなものとなる。
更にまた、上記状態において、定位置状態の転動子7は、その上下の支持面が面13a、5aに対して平面状に均等に当接し、応力集中がなく、長期荷重に対処できるものであり、結果として安定状態を採り、その妄動はない。また内圧室Jの上揚力がなく、転動子7の単独であっても、転動子7の剛性によりその載荷能力は十分である。
なお、転動子7の中心、ひいては本免震支持装置Sの中心に配される鋼棒ダンパー10は無負荷状態となっており、静止状態の構造物に格別の作用を及ぼさない。
【0030】
(B) 地震時(図11、図12参照)
地震時(及び過大な風荷重等の構造物に揺れを生じさせる力が作用する全ての場合を含む。)において、地盤Eは大きく揺れ、この地震動の強制変位を受けて下部構造としての基礎Bは地盤Eと一体に振動するが、上部構造Gは本免震支持装置Sの主体をなす転動子7の転がり作用を介して揺動が生じ、上部構造Gと下部構造Bとの間に相対変位が生じる。
上部構造Gに接する転動子7は、上部構造Gの移動とともに該転動子7も転動し、該転動子7に支持された上部構造Gは該転動子7の転がり軌跡に追従する。上部構造Gが逆方向に移動すると、上記の動作の逆となる。
地震動に伴い、転動子7の転がり軌跡に追従して上部構造Gは上下動の伴う揺動運動をなし、これにより転動子7の転がり作用をもって構造物Gは周期の大きな揺動作用を受け、短周期成分の卓越する地震動による共振作用等の悪影響を避けることができる。
【0031】
(B-1)
一定以上の大きな地震動の初動があると、本建物すなわち上部構造Gは常時における上揚力の作用により、みかけの上で小さな鉛直荷重となっているので、前記した上部構造Gの転動子7の転がり作用は直ちに発揮される。換言すれば、この上揚力は転動子7の転がり移動のトリガー作用を果し、以下の(B-2) 以降への状態に円滑に移行する。なお、この転動子7の転がりに伴う上方移動が密封部材3の密封作用を破るようになると、この上揚力の効果は失われる。
【0032】
(B-2)
引き続き、今、上部構造Gが図11の右方向(イ方向)に移動するとき、転動子7はその上面の接点(支持点)Nから横方向強制力(いわゆる地震慣性力)を受けて回転力が生じ、下面の接点(支持点)Mを中心として右方向すなわち時計方向の回転を始める。このとき、ダンパー鋼棒10と転動子7の上部との係合作用も回転の契機となる。
転動子7の回転すなわち傾斜移動により、下接点Mはすべりを生じることなく右方向にずれ、同時に上接点Nはすべりを生じることなく左方向にずれる。上接点における下面からの鉛直距離すなわち高さが増大し、上部構造Gは上方向へ持ち上がる。この持ち上げに伴い内圧室J内の充填流体Kは散逸し、内圧室Jによる上揚力作用は失われ、建物の全荷重Wを転動子7が荷なうことになるが、転動子7は十分な支持耐力を有する。なお、建物荷重Wの支持点Nへの作用力と支持点Mからの反力とによる偶力は転動子7の回転方向と逆向きに作用し、転動子7の回転とともに増大する反時計方向の復元力として作用することになるが、回転初期においては影響は小さい。
同時に、鋼棒ダンパー10は荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通管9b及び荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通管9cから引き出されるとともに折り曲げられてゆき、ダンパー作用を発揮する。
この転動子7の転動移動が進行して右端に来るとき、上接点Nは最高位置となる。図11はこの状態を示す。
【0033】
(B-3)
上部構造Gが逆方向の地震慣性力を受けて左方向(図12のロ方向)に移動するとき、上記した状態とは逆となる。
先ず、転動子7はその右端位置から左方向すなわち反時計方向に回転を始めるが、転動子7に作用する建物荷重による偶力作用(あるいは回転モーメント)がこの回転に寄与し、復帰力として作用する。そして、該転動子7の回転動に伴い下接点Mは左方向へずれ、上接点Nも右方向へずれ、建物Gの下動とともに両接点M,Nは当初位置へ近づく。鋼棒ダンパー10は荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通管9c及び荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通管9bに引き入れられるとともに直線状に変形し、ダンパー作用を発揮する。
下接点Mと上接点Nとが同時的に当初位置となり、転動子7は最低位置(中立位置)を通過する。
更に、上部構造Gが地震慣性力を受けて左方向へ移動し、下接点M・上接点Nはそれぞれ左方向へ、右方向へずれ、その鉛直距離(高さ)を増大する。すなわち、前記した(B-2) の状態に準じる。鋼棒ダンパー10も再び折り曲げられ、ダンパー作用を発揮する。建物荷重による偶力作用も次第に増大し、復帰力を生じ、この左変位に対抗する。
転動子7の転動移動が進行して左端に来るとき、上接点Nは最高位置となる。図12はこの状態を示す。
【0034】
(B-4)
地震動に伴い、上部構造Gは揺動運動をなし、この揺動に応じて転動子7は上述した(B-2)
(B-3) の動作を繰り返す。
これにより、転動子7の転がり作用をもって構造物の長周期化が図られ、有害な共振現象が回避され、所期の免震作用を得る。この動作において、転動子7はその上下支点に作用する偶力作用により復帰力が生じ、安定状態に復帰する特性を発揮する。
一方、本免震装置内の鋼棒ダンパー10も絶えず変形を受け、その変形エネルギーによる減衰効果を発揮し、構造物Gの振動を速やかに低減する。
【0035】
(B-5)
地震動が終息し、かつ本上部構造Gが元位置に復帰したとき、再び内圧室Jへの充填流体Kの充填がなされる。これにより、本免震系は定位置状態での機能に復帰し、次の地震動に備える。
【0036】
(C)
上記の振動時の揺動作用、及び復帰作用は地震動に限られるものではなく、本免震支持装置Sが介装設置される構造物間の全ての振動について適用される。
【0037】
(本免震支持装置Sの効果)
本実施形態の免震支持装置Sによれば、内圧室Jへの加圧による常時の上揚力機能を有するとともに、転動子7による常時及び地震時の荷重支持作用を発揮しつつ、地震時における上部構造Gと下部構造B間の相対的移動に伴う転動子7の長周期転動移動(振動)がなされ、免震作用を発揮するとともに、かつこの転動子7の転動変位に対応して棒状ダンパー10の折曲げ変形をなして減衰力を発揮し、また転動子7の上接点Nと下接点Mとの偏心による偶力作用による復帰力を発揮し、多機能性を有しかつ上揚力機能の組み込まれた効率的な免震支持装置を実現したものである。
その常時における上揚力作用により、転動子7は荷重負担が低減され、長期の持続性を持ち、また地震時には免震の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がない。 加えて、鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cは転動子7の定位置状態で一体性をなし、それらの対接面で荷重の伝達がなされ、その剛性をもって大きな耐荷重性を発揮する。
そして、本免震支持装置Sにおいて転動子7に所定の移動空間を保持させることにより水平面の全方向に対処できる。
しかして、本免震支持装置Sを備えてなる免震構造系においては、転動子7上の構造物Gは常時において安定して支持され、地震時における構造系の固有周期の長周期化が図られ、かつ転動子7に具備されたダンパー機能及び該転動子7の特有形状の偶力作用による復元力が発揮され、優れた免震効果が得られ、構造系の迅速な振動減衰が実現する。加えて、常時における上揚力作用により上部構造Gの荷重が低減され、本免震構造系の当該装置Sの長期の持続性が確保され、また地震時の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がなく、上部構造Gへの悪影響もなくなる。
【0038】
本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本的技術思想の範囲内で種々設計変更が可能である。すなわち、以下の態様は本発明の技術的範囲内に含まれる。
1)本実施形態のダンパー機構では、単一の棒状ダンパー(鋼棒ダンパー)と該棒状ダンパーが挿通される上下の棒状ダンパー挿通管よりなる態様を示したが、上下部構造にそれぞれ一端が固定される2本の棒状ダンパーよりなる態様を採ることができる。
図13はその一態様のダンパー機構を示し、図において先の実施形態と同等の部材については同一の符号が付されている。本ダンパー機構は上下に各独立した2本の棒状ダンパーとしての鋼棒ダンパー30,31からなり、下部ダンパー棒30は一端にねじ部30aを有し、他端は荷重受板1の下方より該荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通孔8bを介して転動子7の鋼棒ダンパー挿通孔8a内に差し込まれ、一端側において該荷重受板1の下端にパッキング32を抱持して固定(図例では溶接を採る。)された定着体33のねじ孔に螺合して定着される。上部ダンパー棒30についても、一端にねじ部31aを有し、他端は荷重支持筒体2の天井壁部13の上方より該荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通孔8cを介して転動子7の鋼棒ダンパー挿通孔8a内に差し込まれ、一端側において該荷重支持筒体2の上端にパッキング34を抱持して固定された定着体35のねじ孔に螺合して定着される。
本態様では転動子7の転動につれ、各鋼棒ダンパー30,31が折り曲げ変形され、地震動のエネルギー吸収をなすものである。
2)本実施形態では全方向への免震態様を示したが、一方向(例えばX方向)への免震態様を除外するものではない。この場合、X−Z面で楕円形を採り、Y方向へは同一の楕円断面形状を採る。更には、Y方向端部に拘束手段を備えることにより、X、Z方向のみの変位を許容する。
【符号の説明】
【0039】
S…転がり免震支持装置、G…上部構造、B…下部構造、1…荷重受板、1a…上面、2…荷重支持筒体、3…密封部材、4…供給管、5…排出管、7…転動子、8…棒状ダンパー挿通孔、9…棒状ダンパー挿通管、10…棒状ダンパー、12…荷重支持筒体2の円筒側壁部、13…荷重支持筒体2の天井壁部、13a…下面、J…内圧室、K…充填流体、M…下接点、N…上接点
【技術分野】
【0001】
この発明は、建造物・人工地盤等における上部構造と基礎等の下部構造との間に介装され、上部構造の荷重を支持するとともに地震動等の強制振動に対して上部構造の揺れを低減し免震する基礎用装置いわゆる免震支持装置及び該免震支持装置を上部構造と下部構造との間に設置してなる免震構造系に関し、更に詳しくは、上部構造と下部構造との間に転動子を介するいわゆる転がり免震支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼球等の転動子を用いて転がり機能により免震をなすを免震支持装置では、地震動に対する敏感な応答性が得られるが、減衰性については減衰手段を別途配する必要があり、また地震動後の元位置への復帰機能を付加する問題点もある。
本発明者は、この観点から先に特開2005−273353(文献1)、特開2005−282247(文献2)、特開2006−153125(文献3)等により、減衰・復帰機構を備え、かつ転倒を阻止する拘束梁を有する免震基礎構造を提案した。しかしながら、これらの技術では減衰・復帰機構が複雑なものとなっており、また、検知装置等の特殊な装置も必要となる。
そこで、本発明者は、転動子の形状を回転楕円体とすることにより、復帰機能を持たせ、併せて揺動の長周期化を図りうるとの知見に基づき、特開2010−84910(文献4)(以下、先行発明という。)において回転楕円体にダンパー鋼棒を組み込んでなる転がり免震支持装置を提案した。
すなわち、該先行発明の免震支持装置によれば、上部構造(建物)Gと下部構造(基礎)Bとの間に回転楕円体の転動子を介在させてなり、常時には該回転楕円体の採る安定位置状態により上部構造Gは安定的に支持され、地震時には回転楕円体の転がり特性、すなわち該回転楕円体の転がり軌跡に追従して、上部構造Gの長周期化と復帰モーメントによる復帰性とが発揮され、かつ、回転楕円体に組み込まれたダンパー鋼棒により減衰作用を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−273353号公報
【特許文献2】特開2005−282247号公報
【特許文献3】特開2006−153125号公報
【特許文献4】特開2010−84910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は先行発明を更に発展させたものであり、上部構造の載荷重を低減する機構を当該先行発明に付加することにより更に効果的な免震作用が得られるとの発想に基づくものである。
本発明はこのため、当該機構の転動子回りへの配設を図る新規な構造の転がり免震支持装置を得ることを目的とする。
本発明は更に、基礎を含めた構造物の全体系にこの新規な免震支持装置を組み込んでなる免震構造系を得ることも他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の転がり免震支持装置及び該免震支持装置を有する免震構造系は具体的には以下の構成を採る。
本発明の第1は転がり免震支持装置に係り、請求項1に記載のとおり、互いに水平方向に相対移動可能な上部構造と下部構造との間に介装され、該上部構造の荷重を該下部構造に伝達するとともに、該上部構造と該下部構造との相対移動を許容する免震支持装置であって、
a.前記下部構造の上面に、その上面が平滑な水準面をなす剛性の荷重受板が固設され、
b.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
c.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記荷重受板の上面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子が、水平方向に移動域を存し、その上下を荷重支持筒体の天井壁部の下面と前記荷重受板の上面とに挟着されるとともに、上部構造の荷重を支持して配され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配されてなる、
ことを特徴とする。
上記第1発明のf項に替えて、転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、上下部構造にそれぞれ一端を密実性を保って固定され、他端を前記鋼棒ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが挿通されてなる転がり免震支持装置は別な発明を構成する。
【0006】
本発明の第2は免震構造系に係り、請求項3に記載のとおり、互いに水平方向に相対移動可能な上部構造と下部構造との間に介装され、該上部構造の荷重を該下部構造に伝達するとともに、該上部構造と該下部構造との相対移動を許容する複数の免震支持装置を備えてなる免震構造系であって、
前記免震支持装置は、
a.前記下部構造の上面に、その上面が水準面をなす剛性の荷重受板が固設され、
b.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
c.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記荷重受板の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子が、水平方向に移動域を存し、その上下を荷重支持筒体の天井壁部の下面と前記荷重受板の上面とに挟着されるとともに、上部構造の荷重を支持して配され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配されてなる、
ことを特徴とする。
上記において、「複数」の免震支持装置とは少なくとも上部構造を自立支持できる数量(例えば3)を言い、その数量に限定されない。
上記第2発明のf項に替えて、転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、上下部構造にそれぞれ一端を密実性を保って固定され、他端を前記鋼棒ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが挿通されてなる免震構造系は別な発明を構成する。
【0007】
上記第1・第2発明及びそれらの別発明において、「回転楕円体形状」は、回転楕円体(長円体)に限定されず、表面曲率が漸次変化し、転動につれて上下平行面の接点間の高さが漸次増大する球体の全ての形状を含み、具体的には以下の実施の形態で示される。また「定位置状態」は、上部構造の常時の状態、換言すれば安定状態の転動子に載る上部構造の状態すなわち上部構造の静止状態をいう。
なお、上部構造が人工地盤を採るとき、建物本体は該人工地盤上に構築され、該人工地盤は本転動子を介して基礎としての下部構造に支持されるものである。
上記の第1・第2発明及びそれらの別発明において、
1)荷重受板の上面は密封部材との当接面につき平滑にされる外、該荷重受板のその余の上面及び該荷重支持筒体の天井面の下面についても平滑面にされること、
2)f項において、転動子の中心に沿って貫通孔を設け、該貫通孔に棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を拘束性に配すること、
3)またf項において、荷重受板と荷重支持筒体の天井壁部とに配される棒状ダンパー挿通管は、荷重受板の下面と荷重支持筒体の天井壁部の上面に取り付けられ、それらの棒状ダンパー挿通孔は荷重受板と荷重支持筒体の天井壁部とに直接形成されること、
4)転動子は、水平方向において、全方向移動に限定されず、一方向変位を採ること、
は適宜採られる実施態様である。
【0008】
(作用)
本発明の転がり免震支持装置及び該免震支持装置を有する免震構造系は上記の構成を採ることにより、以下の作用を発揮する。
本免震支持装置は建造物(あるいは人工地盤)すなわち上部構造Gとコンクリート基礎すなわち下部構造Bとの間に介装され、その転動子の支持作用(常時・地震時)並びに荷重支持筒体内の内圧室からの上揚力(常時)を受けて上部構造Gの荷重を下部構造Bに伝達し、転動子の転がり作用により地震動に対する免震作用を発揮する。
(A) 常時
常時において、本免震支持装置Sは定位置状態を採る。
内圧室には本免震支持装置Sに連通する配管系を介して充填流体が所定の圧力で充填され、内圧室内の充填流体は密封部材及びその他の密実作用により外部に漏れ出ることはなく、所定の加圧状態に保たれる。これにより上部構造Gに上揚力が作用する。
転動子は、定位置状態で最も大きな曲率面を上下にした中立状態(換言すれば安定状態)をもって設置され、上部構造Gの荷重は転動子を介して下部構造Bに伝達され支持される。このとき、上部構造Gの荷重は上揚力を受けて低減されたものとなっており、転動子の負担する耐荷力(応力)は小さく、長期の持続性を持つ。上揚力を受けて低減された上部構造Gの荷重(有効荷重)は風荷重等の小さな強制力に影響を受けない範囲内に設定される。また、鋼棒ダンパーは定位置状態では無負荷であるが、風荷重等の小さな強制力については抵抗を示す設置状態を採るようにすれば、更に上揚力を増大することができる。
本免震構造系における免震支持装置による上下の支持面は全ての転動子が安定状態を採るとともに水準状態を保持し、風荷重等に対しても上部構造Gは安定状態を保つ。
【0009】
(B) 地震時
地震時(及び構造物に揺れを生じさせる力が作用する全ての場合を含む。)において、地盤は大きく揺れ、地震動の強制変位により下部構造としての基礎Bは地盤と一体に振動するが、上部構造Gは転動子の転がり作用を介して上下動の伴う揺動が生じ、上部構造Gと下部構造Bとの間に相対変位が生じる。この地震の初動において、常時に作用していた上揚力が転動子の転がりのきっかけとなり、上部構造Gは円滑に変位する。上部構造Gの上動によりこの上揚力は喪失する。
上部構造Gに接する転動子は、上部構造Gの移動とともに該転動子も転動し、該転動子に支持された上部構造Gは該転動子の転がり軌跡に追従する。上部構造Gが逆方向に移動すると、上記の動作の逆となる。
地震動に伴い、転動子の転がり軌跡に追従して上部構造Gは上下動の伴う揺動運動をなし、これにより転動子の転がり作用をもって構造物Gは周期の大きな揺動作用を受け、地震動による共振作用等の悪影響を避けることができる。
また、転動子の転がりとともに棒状ダンパーが変形し、変形エネルギーの消費に伴う減衰力を発現し、更に、当該転動子の転がり移動による作用点の移動に伴う復帰力(復帰モーメント)も作用する。
(B-1) 初動作用
一定以上の大きな地震動の初動があると、上部構造Gは常時における上揚力の作用によりみかけ上小さな鉛直荷重となっているので、上部構造G下の転動子の転がり作用は直ちに発揮される。換言すれば、この上揚力は転動子の転がり移動のトリガー作用を果し、地震初動への遅れがなく、その後この上揚力の効果は失われるが、以下に続く転動子による上部構造Gの揺動変位に円滑に移行する。
(B-2) 減衰作用
この上部構造G・転動子の一体の構造系の揺動変位において、転動子の左右への転動変位につれ、棒状ダンパーは荷重受板の棒状ダンパー挿通管及び荷重支持筒体の棒状ダンパー挿通管から引き出され、また引き入れられて強制的に折曲げ変形を受ける。この折り曲げ作用によるエネルギー散逸効果により減衰力が発揮され、上部構造Gの振動を減衰させる。棒状ダンパーの別の態様(請求項2、4)においても、上下の棒状ダンパーはそれぞれ転動子の棒状ダンパー挿通孔から引き出され、また引き入れられて強制的に折曲げ変形を受け、ダンパー作用を発揮する。
(B-3) 復帰作用
転動子の転動変位に伴い、転動子の転がり軌跡における上接点は構造物Gが当初の定位置から遠ざかるとき次第に上方へ移動(上昇)し、該転動子に支持される上部構造Gに持上げ力を付与する。また、最上点から初期位置(中立位置)への戻り変位においては下降状態となり、最下点を過ぎると再び上昇する。
この間、下接点と上接点との間に水平方向の偏心距離を生じ、上接点に作用する上部構造Gの荷重により下接点を支持点として偏心モーメントが生じ、復元モーメント(平行する逆方向の2力よりすれば戻り偶力)すなわち復帰力として機能する。これにより上部構造Gは常時の状態すなわち初期の定位置状態に復帰する特性を発揮し、当該免震構造系は強制水平力すなわち地震力の終息とともに安定状態に復する。
(B-4)
以上により、本免震構造系は地震時において、構造系の長周期化を実現して地震動との共振を避け、かつ本免震支持装置Sの具備する減衰機能を受けて構造物に作用する地震動は速やかに減衰され、また復元モーメント(換言すれば復帰偶力)を受けて当該構造物は速やかに当初位置に復帰する。
加えて、その上揚力作用により免震の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がない。
【発明の効果】
【0010】
本発明の免震支持装置によれば、常時の上揚力機能を有するとともに、転動子による常時及び地震時の荷重支持作用を発揮し、地震時における上部構造と下部構造間の相対的移動に伴う転動子の転動変位の長周期化による免震作用を発揮するとともに、該転動子の転動変位に対応して棒状ダンパーの折曲げ変形をなして減衰力を発揮し、また転動子の偏心による偶力作用による復帰力を発揮する多機能性を有し、かつ上揚力機能の組み込まれた効率的な免震支持装置を実現したものである。
その常時における上揚力作用により、転動子は荷重負担が低減され、長期の持続性を持ち、また地震時には免震の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がない。
そして、本免震支持装置において転動子に所定の移動空間を保持させることにより水平面の全方向に対処できる。
しかして、本免震支持装置を複数備えて自立保持されてなる免震構造系においては、転動子上の構造物は常時において安定して支持され、地震時における構造系の固有周期の長周期化が図られ、かつ転動子に具備されたダンパー機能及び該転動子の特有形状の偶力作用による復元力が発揮され、優れた免震効果が得られ、構造系の迅速な振動減衰が実現する。加えて、常時における上揚力作用により上部構造Gの荷重が低減され、本免震構造系の当該装置の長期の持続性が確保され、また地震時の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がなく、上部構造Gへの悪影響もなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の転がり免震支持装置を組み込んでなる免震構造系の概略構成を示す側断面図。
【図2】本免震支持装置の全体構成を示す鉛直断面図(図1の部分拡大図、図3の2−2線断面図)。
【図3】本免震支持装置の全体構成を示す平面構成図(図2の3−3線断面図)。
【図4】本免震支持装置の部分(密封部材の取付け)詳細図。
【図5】本免震支持装置の充填流体の配管系を示す図。
【図6】転動子の一態様(楕円回転体)の模式構成図。
【図7】転動子の別態様の模式構成図。
【図8】本免震支持装置の部分(鋼棒ダンパーの取付け)詳細図。
【図9】本免震支持装置の建物への配置例を示し、(a) 図はその側面図、(b) 図はその平面図。
【図10】本免震支持装置の人工地盤への配置例を示し、(a) 図はその側面図、(b) 図はその平面図。
【図11】本免震支持装置の動作を示す図。
【図12】本免震支持装置の動作を示す図。
【図13】本発明の他の棒状ダンパーの取付け態様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の転がり免震支持装置及び該免震支持装置を有する免震構造系の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1〜図8は本免震構造系を構成する転がり免震支持装置(以下「免震支持装置」という。)Sの一実施形態を示す。すなわち、図1は本免震支持装置Sの複数が組み込まれた免震構造系の概略構成を示し、図2は本免震支持装置Sの単独の縦断面構成、図3はその平面構成を示し、図4〜図8は本装置の部分構成及びその特徴部の詳細構成を示す。また、図9、図10は本装置の配置態様を示し、図11、図12は本装置の動作を示す。
本装置の図示につき、Xは長手方向、Yは幅方向、Zは高さ方向を示す。
しかして、本転がり免震支持装置Sは上部構造Gと下部構造Bとに介装設置され、上部構造Gの荷重を低減支持し、下部構造Bに伝達するとともに地震等の強制振動力より生起される上部構造Gの揺れに対して免震作用をなす。
図示されるように本実施形態の免震支持装置Sは、
a.下部構造Bの上面に固設され、その上面が水準面をなす剛性の荷重受板1、
b.上部構造Gの下面に固設され、下方に向って開放される円筒形状の内圧室Jを有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体2、
c.該荷重支持筒体2の円筒側壁部の下端に固定保持され、前記荷重受板1の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材3、
d.該荷重支持筒体2の壁部に貫通して配され、該内圧室Jへ充填流体Kを供給及び排出する供給管4、排出管5、
e.剛性を有する回転楕円体からなるとともに、その上下を該荷重受板1と荷重支持筒体2とに挟着されて上部構造Gの荷重を支持し、該荷重支持筒体2の内圧室J内に水平方向に移動域を存して配される転動子7、
f.上記転動子7、荷重受板1、荷重支持筒体2のおのおのに各独立して貫通して配され、その内部に鋼棒ダンパー挿通孔8を形成する鋼棒ダンパー挿通管9、
g.前記鋼棒ダンパー挿通管8内に挿通される単一の棒状ダンパーとしての鋼棒ダンパー10、
の各構成体からなる。
なお、上記において、鋼棒ダンパー挿通管9及び鋼棒ダンパー10により「ダンパー機構」が構成される。
【0013】
以下、各部の細部構造に付いて説明する。
荷重受板1(図1、図2参照)
荷重受板1は、硬質素材(通常には鋼製)をもって所定の厚みを有し剛性状の平板体よりなり、下部構造Bの上面に水準を保って固定される。該荷重受板1の上面1aは平滑面をなし、かつ、後記する諸機能を保持するために剛性の他に密実性(気密性、水密性を含む)を要するものである。
【0014】
荷重支持筒体2(図1〜図4参照)
荷重支持筒体2は、所定の厚みをもって円筒側壁部12と天井壁部13とからなる下方に向って開放される円筒形状の剛性の構造体からなり、上部構造Gと一体化され下部構造Bへ荷重を伝達する。そして、該荷重支持筒体1の内部には加圧される真円形の内圧室Jが形成される。このため、該荷重支持筒体1は剛性に加え、密実性(気密、水密)の素材が採用される。
詳しくは、円筒側壁部12は、下部に拡径壁部12aを有し、その下端面は平滑にされるとともに該下端面に臨んで環状の凹溝14が凹設され、また、該凹溝14に連通して拡径壁部12aの上面から取付け孔15が円周上に複数箇所(本実施形態では6)に開設されている。天井壁部13の天井面13aは平滑又は通常の水準面をなす。該天井壁部13には後述するように所定の部材のための貫通孔が開設されるが、その本体部自体は密実を保つ。
【0015】
密封部材3(図2、図3、図4参照)
密封部材3は、本体部3aの断面が円形のゴム製の環状体よりなり、該環状体の上面の複数部位に前記した取付け孔15に対応して取付け用突起部3bが突設され、該取付け用突起部3bを取付け孔15に圧着状に差し込んで当該密封部材3の本体部3aを前記した荷重支持筒体2の円筒側壁部12の凹溝14内に収容する。該取付け用突起部3bが取付け孔15に圧着状に差し込まれ、該密封部材3の本体部3aの凹溝14内からの脱落を阻止する。
該密封部材2の本体部2aはいわゆるOリング機能を有し、荷重受板1の上面1aとの当接により所定の圧縮率をもって内圧室Jの加圧に対して密封作用を発揮する。
なお、荷重受板1はこの密封部材3に当接する部位において少なくとも平滑面であればよく、その余の部位は格別平滑面でなくてもよい。荷重支持筒体2の天井壁部13の下面もこれに準じ、格別平滑面でなくてもよい。
更に、本実施形態では1重の密封態様を採るものであるが、荷重支持筒体2の円筒側壁部12の下面に凹溝14を同心状に2重に設け、各凹溝14に密封部材3を装着し、密封作用を増大する措置を採ることを除外するものではない。
【0016】
供給管4、排出管5(図1、図2、図5参照)
供給管4、排出管5は、荷重支持筒体2の天井壁部13の可及的隅部に密実性(気密、水密)を保って外部と内圧室Jとを連通して配される。すなわち、外部より充填流体Kが供給管4を介して内圧室Jに送り込まれ、内圧室Jの充填流体Kは排出管5を介して外部に放出される。なお、供給管4、排出管5は、荷重支持筒体2の円筒側壁部12の適宜場所であってもよい。
図5は供給管4、排出管5に接続される配管系を示し、供給系の配管4aは外部に引き出され、逆止め弁17を介して圧送ポンプ18に接続される。排出系の配管5aについても外部に引き出され、開閉弁19(常時閉)に接続される。
本配管系は充填流体Kの様態(気体、液体)により更に適宜の配管要素が付加される。例えば、充填流体Kが液体系であるときは、圧送ポンプ18の先に液体タンクが接続されることは言うまでもない。
(充填流体K)
充填流体Kは、気体、液体の両態様から適宜なもの(非圧縮性、小圧縮性)が選ばれるが、環境への悪影響を避ける観点から空気、水が好適なものとして採用される。
【0017】
(内圧室Jの圧力保持)
上記した本荷重受板1の密封部材3との当接による荷重支持筒体2の内圧室Jの密封化により、荷重支持筒体2の内圧室Jは密閉空間を構成し、所期の圧力保持作用をなす。すなわち、内圧室Jに送り込まれる充填流体Kにより該内圧室J内は所定の圧力を受け、この結果上部構造Gに対して上揚力として作用し、上部構造Gの荷重の相当割合を負担する。本実施形態では、本構造系に設置される複数の本免震装置Sの全ての内圧室J により、上部構造Gの全荷重の8割程度の荷重低減を見込むものである。
【0018】
転動子7(図1〜図3、図6、図7参照)
転動子7は、剛性の回転楕円体からなるとともに、その上下を荷重支持筒体2(その天井壁部13)と荷重受板1とに挟着され、荷重支持筒体2の内圧室J内に水平方向に移動域を存して配される。回転楕円体は、中心点Oを含む楕円平面を短軸を回転軸として回転させた立体形であり、本回転楕円体では、図6に示されるように、a(X方向)、b(Y方向)が長軸をなし、c(Z方向)が短軸をなし、a=b>cを採る。
すなわち、円球体であれば転動するとき上部・下部構造G,B間の上下面との接点N,M間の鉛直距離すなわち高さは一定値を採るが、本発明で採用される球体は表面曲率が漸次変化し、転動につれて上下面の接点間の高さが漸次増大する立体形状を採る。したがって、元位置方向へ転動するとき上下面の接点間の高さが漸次減少するものでもある。このような球体として、回転楕円体以外にも、回転放物線体、更にはカテナリー線、クロソイド線の立体形が採用される。
図6において、回転楕円体をなす本転動子7は、定位置状態で下面(すなわち荷重受板1の上面)1aとはM点で、上面(すなわち天井壁部13の下面)13aとはN点で当接するものであり、その高さはh(=2c)の最小値を採る。この回転楕円体の転動子7が転動し傾斜すると、上面13aが持上げられ上下面との接点N,M間の距離は漸次増大する。同時に上下面から反力を受けて,それらは大きさ等しく平行で方向が互いに逆な偶力として作用し、当該転動子7に復帰力を与える。なお、本図において、7aは回転楕円体7の側面を切断したカット平面であって、下側表面及び上側表面の近傍部分のみの使用も可能である。
図7は更に別な球体7Aを示す。本態様では上面及び下面の曲率半径Rがその中心Oからの距離rよりも十分に大きい一定長さを採り、部分球体をなす。本態様は表面曲率は一定値を採るが、回転楕円体の転動子7と同じ動的特性を示し、かつ、そのRの値を大きく採ることにより当該球体7A上に載置される構造物の長周期化を図ることができる。
本転動子7の剛性素材は、所定の強度(圧縮強度)を保持するものとして、鉄製(鋼、鋳鉄)、高強度コンクリートあるいは硬質合成樹脂の適宜の素材が採用可能であるが、本実施形態では高強度コンクリートが重量性・費用性から好適なものとして採用される。高強度コンクリートではその圧縮強度が60N(ニュートン)/平方mmを採り、十分な剛性が得られる。
【0019】
(本転動子7の配置)
本転動子7(外径d=2a,2b)は、その中心軸を荷重支持筒体1の内圧室J(内径D)の中心に合致して、該内圧室J内に全水平方向に移動可能な空間(D−d)すなわち移動域を存して配される。また、このとき転動子7は定位置状態を採り、安定状態を保つ。
【0020】
ダンパー機構(図1〜図3、図8参照)
鋼棒ダンパー挿通管9及び鋼棒ダンパー10により「ダンパー機構」が構成される。鋼棒ダンパー挿通管9内には鋼棒ダンパー挿通孔8が形成され、鋼棒ダンパー10は該鋼棒ダンパー挿通孔8に案内されて移動する。
【0021】
鋼棒ダンパー挿通管9(図1〜図3、図8参照)
鋼棒ダンパー挿通管9は、内部に鋼棒ダンパー挿通孔8を有し、所定の厚さの剛性素材(一般には鉄製)の円管状体よりなり、転動子7、荷重受板1、荷重支持筒体2の天井壁部13に各独立して貫通状に配される。
すなわち、該鋼棒ダンパー挿通管9は、転動子7内に配される鋼棒ダンパー挿通管9a、荷重受板1に配される鋼棒ダンパー挿通管9b及び荷重支持筒体2に配される鋼棒ダンパー挿通管9cからなり、更に鋼棒ダンパー挿通管9cの上端部の蓋体9dを含む。8a,8b,8cはそれぞれ鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cの鋼棒ダンパー挿通孔8である。そして、これらの鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cは転動子7の定位置状態では一体性をなし、その対接面で荷重の伝達をなす。
更に詳しくは、転動子7内に配される鋼棒ダンパー挿通管9aは、転動子7の中心軸に沿って開設された孔内に拘束状態を保って配され、その上下端面を平坦に、かつ該転動子7の上下端面に面一とされる。
荷重受板1に配される有底の鋼棒ダンパー挿通管9bは、上端を荷重受板1の上面に面一とされ、すなわち平坦面となる。該鋼棒ダンパー挿通管9bは荷重受板2の下面より下方へ長く延設され、該鋼棒ダンパー挿通管9bの外側面には鍔体22が突設され、該鍔体22及び固定具(溶接も含む)を介して荷重受板1に強固に固設される。
荷重支持筒体2に配される鋼棒ダンパー挿通管9cは、下端を荷重支持筒体1の天井壁部13の下面に面一とされ、すなわち平坦面となり、該天井壁部13の上面より上方へ長く延設されてなる。該鋼棒ダンパー挿通管9bについてもその外側面には鍔体23が突設され、該鍔体23を介して固定具により荷重支持筒体1の天井壁部13に強固に固設される。該鋼棒ダンパー挿通管9cの上端部は開放され、蓋体9dをもって閉塞され、鋼棒ダンパー10の挿入操作に供される。
そして、転動子7の定位置状態で、これらの鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cの端面相互が当接状態を採ることは好適な荷重伝達に寄与するものである。
なお、転動子7への鋼棒ダンパー挿通管9aを廃し、転動子7の開設孔を鋼棒ダンパー挿通孔8aとし、転動子7の上下端面を鋼棒ダンパー挿通管9b,9cに当接して上下構造G,Bの荷重伝達をなす態様を採ることを除外するものではない。
【0022】
鋼棒ダンパー10(図1〜図3、図8参照)
鋼棒ダンパー10は、所定の弾塑性特性を有する鋼棒を主体とし、転動子7、荷重支持筒体1、荷重受板5に配された鋼棒ダンパー挿通管9の鋼棒ダンパー挿通孔8内に挿通される。
しかして、鋼棒ダンパー10は転動子7の転動につれ、鋼棒ダンパー挿通管9の鋼棒ダンパー挿通孔8に案内されて移動とともに変形する。
なお、鋼棒ダンパー10は本実施形態では単一の棒状体を採用したが、複数の細径の鋼線の使用も含むものである。
【0023】
(本免震支持装置Sの配置・設置施工)
本免震支持装置Sは、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造等の軽量ないし重量構造物の建物Gを対象とし、上部構造としての該建物Gに対して次のように配置される。
図9にその取付け・配置の一態様を示す。
図において、Bは地盤Eに打設された基礎杭Pに連結して構築された下部構造としての基礎であって、該基礎Bの上面は同一水準面に施工される。この基礎B上に複数の本免震支持装置Sが対称を保って配置され(図例では8箇所)、この免震支持装置S上に建物本体Gが構築される。木造の軽量建物においては基礎杭Pの施工は格別必要なものではない。
これにより、基礎B・免震支持装置S・建物本体Gによる構築物における免震構造系が構成される。
【0024】
本免震支持装置Sの設置の施工については、基礎Bの現場打ちコンクリート構築に際し、該基礎Bの上面Ba(図1)に鋼棒ダンパー挿通管9bを取り付けた複数の荷重受板1がそれらの上面1aを同一水準をもって埋設設置される。該基礎Bの上面Baは荷重受板1の上面1aと同一水準以下とされる。
この基礎B上の各荷重受板1上に、密封部材3及び転動子7更には供給管4・排出管5を組み込んだ荷重支持筒体2が各設置される。このとき、密封部材3は荷重受板1の上面1aに密封作用を保って当接し、また、転動子7の鋼棒ダンパー挿通管9a及び荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通管9cは既に設置されている荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通管9bに同一鉛直線上に配される。そして、鋼棒ダンパー挿通管9a、9b、9cより構成される鋼棒ダンパー挿通管9内に鋼棒ダンパー10が挿入され、蓋体9dにより閉塞される。また、供給管4、排出管5に配管系(供給系4a、排出系5a)の配管系が接続される。
各荷重支持筒体2が設置された後、建物Gの床版コンクリート(建物Gの一部)が各荷重支持筒体2の天井壁部13の上面より十分な厚さを保って打設される。これにより、建物Gの荷重は荷重支持筒体2の天井壁部13に載荷されることになる。
建物Gの底面すなわち床版コンクリートの底面Ga(図1)は基礎Bの上面Baよりすき間を存し、転動子7の荷重支持を保持することを条件として、荷重受板1の上面1a以上の高さに設定されるものである。すなわち、基礎Bの上面Baが荷重受板1の上面1aより低い場合には建物Gの底面Gaは荷重受板1の上面1aと一致してもよく、また、基礎Bの上面Baが荷重受板1の上面1aと同一水準の場合には建物Gの底面Gaは荷重受板1の上面1aより高くされる。
図例(図1、図2)では建物Gの底面Gaは基礎Bの上面Baと若干のすき間を採るが、荷重支持筒体2の拡径壁部12aの上面位置あるいは荷重支持筒体2の天井壁部13の上面位置等の適宜の位置に設定されてもよい。
なお、図例では各免震支持装置Sは同一水準に配される態様を採るが、この態様に限らず、各免震支持装置Sに高低差があっても、それらの荷重受板1の上面1aと荷重支持筒体2の円筒側壁部12の下端面及び天井壁部13の天井面13aとが水平かつ平行を保持していればよい。
【0025】
以上に基礎B並びに上部構造Gの場所打ちコンクリート施工を主体として述べたが、プレキャスト版による構築も可能である。
すなわち、上部構造Gの床版部をプレキャスト化し、複数(単一でも可)のプレキャスト床版を予め形成された孔をもって荷重支持筒体2の円筒側壁部12へ嵌め込んで固定する態様、あるいは該プレキャスト床版を荷重支持筒体2の天井壁部13上に載置固定する態様、更には該プレキャスト床版を荷重支持筒体2の拡径壁部12aの上面上に載置固定する態様、等を採り、各態様においてそれらのプレキャスト床版相互を接続することにより一体化された上部構造Gの床版部を構築することができる。
このプレキャスト化によれば、基礎Bの上面Baから上部構造Gの下面Gaまでの距離を自由に設定でき、また荷重支持筒体2の下面への打設コンクリートの流込みもなく、施工の自由度が増大する。
【0026】
本免震支持装置S、及び該本免震支持装置Sを組み込んだ本免震構造系の機能を十全に果すため、本免震支持装置Sの供給管4、排出管5から導出された配管系(供給系4a、排出系5b)に所定の作動機器(逆止め弁17、圧送ポンプ18、開閉弁19)が接続される。
【0027】
また、図10は人工地盤における本免震支持装置Sの配置の一態様を示す。本態様においては一戸建住宅に適用される人工地盤G1、すなわち小規模の人工地盤を示す。
本態様の人工地盤G1においては、地盤E上に基礎Bが水平を保って直接的に構築され、該基礎Bに鋼棒ダンパー挿通管9b付き荷重受板1を配し、更に転動子7及び荷重支持筒体2の本免震支持装置Sの上位部を介して人工地盤G1が現場コンクリート打ち又はプレキャスト版をもって構築される。本免震支持装置Sの上位部に、密封部材3、鋼棒ダンパー挿通管9a、9c、蓋体9d、鋼棒ダンパー10、供給管4、排出管5及びそれらの配管系が各配備されることは勿論である。このとき、基礎B上に薄厚の介装マットが敷設され、コンクリート打ちの型枠材として機能し、該免震装置Sの上位部は埋殺しとなる。人工地盤G1の構築の後、該人孔地盤G1上に住宅建築G2が直接的に構築される。
これにより、基礎B・免震支持装置S・人工地盤G1・建物本体G2による構築物における免震構造系が構成される。なお、この態様においては、人工地盤G1が本来の上部構造Gを構成する。
【0028】
(本免震支持装置Sの作用)
本免震支持装置Sは建物(あるいは人工地盤)すなわち上部構造Gとコンクリート基礎すなわち下部構造Bとの間に介在し、その転動子7の支持作用(常時・地震時)並びに荷重支持筒体2内の内圧室Jからの上揚力(常時)を受けて上部構造Gの荷重を支持し、下部構造Bひいては地盤Eに該荷重を伝達するとともに、地震動に対する免震作用を発揮する。
【0029】
(A) 常時
常時において、本免震支持装置Sから導出された配管系に所定の作動機器、すなわち、供給系の配管4aについては逆止め弁17、圧送ポンプ18が接続され、排出系の配管5bについては開閉弁19が接続される。圧送ポンプ18から圧送される充填流体Kは内圧室Jに導かれ、内圧室Jを所定の圧力に満たされたとき、開閉弁19が閉じられる。内圧室J内の充填流体Kは密封部材3により外部に漏れ出ることはない。なお、本実施形態において、充填流体Kは空気が採用される。
しかして、上部構造Gの荷重は、本免震支持装置Sにおいて、荷重支持筒体2、転動子7及び荷重受板1を介して下部構造Bに伝達され支持される。すなわち、転動子7は定位置状態を保ち、この定位置状態で鋼棒ダンパー挿通管9a、9b、9cの相互は面状に当接状態をなして荷重の伝達を担い、上部構造Gの荷重は下部構造Bに円滑に伝達される。一方、内圧室J内の充填流体Kの圧力により上部構造Gに上向きの力(すなわち上揚力)が作用し、これにより上部構造Gの荷重は低減されたものとなる。
この結果、転動子7(及びその鋼棒ダンパー挿通管9a)の分担する支持荷重は大幅に低減される。本実施形態において、80%の低減を見込むものであり、この荷重状態にあって本建物Gは風荷重等の横荷重の影響は何ら受けないものである。したがって、本実施形態における設置圧力は0.2×(上部構造Gの荷重)(単位面積当り)と極めて小さなものとなる。
更にまた、上記状態において、定位置状態の転動子7は、その上下の支持面が面13a、5aに対して平面状に均等に当接し、応力集中がなく、長期荷重に対処できるものであり、結果として安定状態を採り、その妄動はない。また内圧室Jの上揚力がなく、転動子7の単独であっても、転動子7の剛性によりその載荷能力は十分である。
なお、転動子7の中心、ひいては本免震支持装置Sの中心に配される鋼棒ダンパー10は無負荷状態となっており、静止状態の構造物に格別の作用を及ぼさない。
【0030】
(B) 地震時(図11、図12参照)
地震時(及び過大な風荷重等の構造物に揺れを生じさせる力が作用する全ての場合を含む。)において、地盤Eは大きく揺れ、この地震動の強制変位を受けて下部構造としての基礎Bは地盤Eと一体に振動するが、上部構造Gは本免震支持装置Sの主体をなす転動子7の転がり作用を介して揺動が生じ、上部構造Gと下部構造Bとの間に相対変位が生じる。
上部構造Gに接する転動子7は、上部構造Gの移動とともに該転動子7も転動し、該転動子7に支持された上部構造Gは該転動子7の転がり軌跡に追従する。上部構造Gが逆方向に移動すると、上記の動作の逆となる。
地震動に伴い、転動子7の転がり軌跡に追従して上部構造Gは上下動の伴う揺動運動をなし、これにより転動子7の転がり作用をもって構造物Gは周期の大きな揺動作用を受け、短周期成分の卓越する地震動による共振作用等の悪影響を避けることができる。
【0031】
(B-1)
一定以上の大きな地震動の初動があると、本建物すなわち上部構造Gは常時における上揚力の作用により、みかけの上で小さな鉛直荷重となっているので、前記した上部構造Gの転動子7の転がり作用は直ちに発揮される。換言すれば、この上揚力は転動子7の転がり移動のトリガー作用を果し、以下の(B-2) 以降への状態に円滑に移行する。なお、この転動子7の転がりに伴う上方移動が密封部材3の密封作用を破るようになると、この上揚力の効果は失われる。
【0032】
(B-2)
引き続き、今、上部構造Gが図11の右方向(イ方向)に移動するとき、転動子7はその上面の接点(支持点)Nから横方向強制力(いわゆる地震慣性力)を受けて回転力が生じ、下面の接点(支持点)Mを中心として右方向すなわち時計方向の回転を始める。このとき、ダンパー鋼棒10と転動子7の上部との係合作用も回転の契機となる。
転動子7の回転すなわち傾斜移動により、下接点Mはすべりを生じることなく右方向にずれ、同時に上接点Nはすべりを生じることなく左方向にずれる。上接点における下面からの鉛直距離すなわち高さが増大し、上部構造Gは上方向へ持ち上がる。この持ち上げに伴い内圧室J内の充填流体Kは散逸し、内圧室Jによる上揚力作用は失われ、建物の全荷重Wを転動子7が荷なうことになるが、転動子7は十分な支持耐力を有する。なお、建物荷重Wの支持点Nへの作用力と支持点Mからの反力とによる偶力は転動子7の回転方向と逆向きに作用し、転動子7の回転とともに増大する反時計方向の復元力として作用することになるが、回転初期においては影響は小さい。
同時に、鋼棒ダンパー10は荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通管9b及び荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通管9cから引き出されるとともに折り曲げられてゆき、ダンパー作用を発揮する。
この転動子7の転動移動が進行して右端に来るとき、上接点Nは最高位置となる。図11はこの状態を示す。
【0033】
(B-3)
上部構造Gが逆方向の地震慣性力を受けて左方向(図12のロ方向)に移動するとき、上記した状態とは逆となる。
先ず、転動子7はその右端位置から左方向すなわち反時計方向に回転を始めるが、転動子7に作用する建物荷重による偶力作用(あるいは回転モーメント)がこの回転に寄与し、復帰力として作用する。そして、該転動子7の回転動に伴い下接点Mは左方向へずれ、上接点Nも右方向へずれ、建物Gの下動とともに両接点M,Nは当初位置へ近づく。鋼棒ダンパー10は荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通管9c及び荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通管9bに引き入れられるとともに直線状に変形し、ダンパー作用を発揮する。
下接点Mと上接点Nとが同時的に当初位置となり、転動子7は最低位置(中立位置)を通過する。
更に、上部構造Gが地震慣性力を受けて左方向へ移動し、下接点M・上接点Nはそれぞれ左方向へ、右方向へずれ、その鉛直距離(高さ)を増大する。すなわち、前記した(B-2) の状態に準じる。鋼棒ダンパー10も再び折り曲げられ、ダンパー作用を発揮する。建物荷重による偶力作用も次第に増大し、復帰力を生じ、この左変位に対抗する。
転動子7の転動移動が進行して左端に来るとき、上接点Nは最高位置となる。図12はこの状態を示す。
【0034】
(B-4)
地震動に伴い、上部構造Gは揺動運動をなし、この揺動に応じて転動子7は上述した(B-2)
(B-3) の動作を繰り返す。
これにより、転動子7の転がり作用をもって構造物の長周期化が図られ、有害な共振現象が回避され、所期の免震作用を得る。この動作において、転動子7はその上下支点に作用する偶力作用により復帰力が生じ、安定状態に復帰する特性を発揮する。
一方、本免震装置内の鋼棒ダンパー10も絶えず変形を受け、その変形エネルギーによる減衰効果を発揮し、構造物Gの振動を速やかに低減する。
【0035】
(B-5)
地震動が終息し、かつ本上部構造Gが元位置に復帰したとき、再び内圧室Jへの充填流体Kの充填がなされる。これにより、本免震系は定位置状態での機能に復帰し、次の地震動に備える。
【0036】
(C)
上記の振動時の揺動作用、及び復帰作用は地震動に限られるものではなく、本免震支持装置Sが介装設置される構造物間の全ての振動について適用される。
【0037】
(本免震支持装置Sの効果)
本実施形態の免震支持装置Sによれば、内圧室Jへの加圧による常時の上揚力機能を有するとともに、転動子7による常時及び地震時の荷重支持作用を発揮しつつ、地震時における上部構造Gと下部構造B間の相対的移動に伴う転動子7の長周期転動移動(振動)がなされ、免震作用を発揮するとともに、かつこの転動子7の転動変位に対応して棒状ダンパー10の折曲げ変形をなして減衰力を発揮し、また転動子7の上接点Nと下接点Mとの偏心による偶力作用による復帰力を発揮し、多機能性を有しかつ上揚力機能の組み込まれた効率的な免震支持装置を実現したものである。
その常時における上揚力作用により、転動子7は荷重負担が低減され、長期の持続性を持ち、また地震時には免震の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がない。 加えて、鋼棒ダンパー挿通管9a,9b,9cは転動子7の定位置状態で一体性をなし、それらの対接面で荷重の伝達がなされ、その剛性をもって大きな耐荷重性を発揮する。
そして、本免震支持装置Sにおいて転動子7に所定の移動空間を保持させることにより水平面の全方向に対処できる。
しかして、本免震支持装置Sを備えてなる免震構造系においては、転動子7上の構造物Gは常時において安定して支持され、地震時における構造系の固有周期の長周期化が図られ、かつ転動子7に具備されたダンパー機能及び該転動子7の特有形状の偶力作用による復元力が発揮され、優れた免震効果が得られ、構造系の迅速な振動減衰が実現する。加えて、常時における上揚力作用により上部構造Gの荷重が低減され、本免震構造系の当該装置Sの長期の持続性が確保され、また地震時の初動動作が円滑になされ、上部構造Gへの衝撃作用がなく、上部構造Gへの悪影響もなくなる。
【0038】
本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の基本的技術思想の範囲内で種々設計変更が可能である。すなわち、以下の態様は本発明の技術的範囲内に含まれる。
1)本実施形態のダンパー機構では、単一の棒状ダンパー(鋼棒ダンパー)と該棒状ダンパーが挿通される上下の棒状ダンパー挿通管よりなる態様を示したが、上下部構造にそれぞれ一端が固定される2本の棒状ダンパーよりなる態様を採ることができる。
図13はその一態様のダンパー機構を示し、図において先の実施形態と同等の部材については同一の符号が付されている。本ダンパー機構は上下に各独立した2本の棒状ダンパーとしての鋼棒ダンパー30,31からなり、下部ダンパー棒30は一端にねじ部30aを有し、他端は荷重受板1の下方より該荷重受板1の鋼棒ダンパー挿通孔8bを介して転動子7の鋼棒ダンパー挿通孔8a内に差し込まれ、一端側において該荷重受板1の下端にパッキング32を抱持して固定(図例では溶接を採る。)された定着体33のねじ孔に螺合して定着される。上部ダンパー棒30についても、一端にねじ部31aを有し、他端は荷重支持筒体2の天井壁部13の上方より該荷重支持筒体2の鋼棒ダンパー挿通孔8cを介して転動子7の鋼棒ダンパー挿通孔8a内に差し込まれ、一端側において該荷重支持筒体2の上端にパッキング34を抱持して固定された定着体35のねじ孔に螺合して定着される。
本態様では転動子7の転動につれ、各鋼棒ダンパー30,31が折り曲げ変形され、地震動のエネルギー吸収をなすものである。
2)本実施形態では全方向への免震態様を示したが、一方向(例えばX方向)への免震態様を除外するものではない。この場合、X−Z面で楕円形を採り、Y方向へは同一の楕円断面形状を採る。更には、Y方向端部に拘束手段を備えることにより、X、Z方向のみの変位を許容する。
【符号の説明】
【0039】
S…転がり免震支持装置、G…上部構造、B…下部構造、1…荷重受板、1a…上面、2…荷重支持筒体、3…密封部材、4…供給管、5…排出管、7…転動子、8…棒状ダンパー挿通孔、9…棒状ダンパー挿通管、10…棒状ダンパー、12…荷重支持筒体2の円筒側壁部、13…荷重支持筒体2の天井壁部、13a…下面、J…内圧室、K…充填流体、M…下接点、N…上接点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに水平方向に相対移動可能な上部構造と下部構造との間に介装され、該上部構造の荷重を該下部構造に伝達するとともに、該上部構造と該下部構造との相対移動を許容する免震支持装置であって、
a.前記下部構造の上面に、その上面が水準面をなす剛性の荷重受板が固設され、
b.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
c.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記荷重受板の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子が、水平方向に移動域を存し、その上下を荷重支持筒体の天井壁部の下面と前記荷重受板の上面とに挟着されるとともに、上部構造の荷重を支持して配され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配されてなる、
ことを特徴とする免震支持装置。
【請求項2】
請求項1のf項に替えて、転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、上下部構造にそれぞれ一端を密実性を保って固定され、他端を前記棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが挿通されてなる、
ことを特徴とする免震支持装置。
【請求項3】
互いに水平方向に相対移動可能な上部構造と下部構造との間に介装され、該上部構造の荷重を該下部構造に伝達するとともに、該上部構造と該下部構造との相対移動を許容する複数の免震支持装置を備えてなる免震構造系であって、
前記免震支持装置は、
a.前記下部構造の上面に、その上面が水準面をなす剛性の荷重受板が固設され、
b.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
c.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記荷重受板の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子が、水平方向に移動域を存し、その上下を荷重支持筒体の天井壁部の下面と前記荷重受板の上面とに挟着されるとともに、上部構造の荷重を支持して配され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配されてなる、
ことを特徴とする免震構造系。
【請求項4】
請求項3のf項に替えて、転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、上下部構造にそれぞれ一端を密実性を保って固定され、他端を前記棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが挿通されてなる、
ことを特徴とする免震構造系。
【請求項1】
互いに水平方向に相対移動可能な上部構造と下部構造との間に介装され、該上部構造の荷重を該下部構造に伝達するとともに、該上部構造と該下部構造との相対移動を許容する免震支持装置であって、
a.前記下部構造の上面に、その上面が水準面をなす剛性の荷重受板が固設され、
b.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
c.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記荷重受板の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子が、水平方向に移動域を存し、その上下を荷重支持筒体の天井壁部の下面と前記荷重受板の上面とに挟着されるとともに、上部構造の荷重を支持して配され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配されてなる、
ことを特徴とする免震支持装置。
【請求項2】
請求項1のf項に替えて、転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、上下部構造にそれぞれ一端を密実性を保って固定され、他端を前記棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが挿通されてなる、
ことを特徴とする免震支持装置。
【請求項3】
互いに水平方向に相対移動可能な上部構造と下部構造との間に介装され、該上部構造の荷重を該下部構造に伝達するとともに、該上部構造と該下部構造との相対移動を許容する複数の免震支持装置を備えてなる免震構造系であって、
前記免震支持装置は、
a.前記下部構造の上面に、その上面が水準面をなす剛性の荷重受板が固設され、
b.前記上部構造の下面に、下方に向って開放される円筒形状の内圧室を有する円筒体よりなる剛性の荷重支持筒体が固設され、
c.該荷重支持筒体の円筒側壁部の下端には前記荷重受板の上面に形成された平滑面との対面部間を密封する密封部材が固定保持され、
d.前記荷重支持筒体の内圧室内には、剛性体よりなり回転楕円体形状に表面曲率が漸次変化する転動子が、水平方向に移動域を存し、その上下を荷重支持筒体の天井壁部の下面と前記荷重受板の上面とに挟着されるとともに、上部構造の荷重を支持して配され、
e.定位置状態で前記内圧室に充填流体が加圧状態に封入され、
f.前記転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、前記荷重受板と前記荷重支持筒体の天井壁部とに定位置状態で前記転動子の棒状ダンパー挿通孔と同一直線上をなす棒状ダンパー挿通孔を有する棒状ダンパー挿通管を密封性を保って配し、これらの棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが前記転動子の移動状態においても抜け出ることなく移動自在に配されてなる、
ことを特徴とする免震構造系。
【請求項4】
請求項3のf項に替えて、転動子の中心軸に沿って棒状ダンパー挿通孔が開設されるとともに、上下部構造にそれぞれ一端を密実性を保って固定され、他端を前記棒状ダンパー挿通孔に棒状ダンパーが挿通されてなる、
ことを特徴とする免震構造系。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−2206(P2013−2206A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136469(P2011−136469)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(392034425)
【出願人】(302038279)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(392034425)
【出願人】(302038279)
【Fターム(参考)】
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