説明

転がり軸受特に複列ころ軸受

本発明は、複列ころ軸受(1)であって、実質的に外レース(2)、内レース(3)、及びこれらのレース(2,3)の間に2列に並んで設けられる複数のころ(6)から成り、これらのころ(6)が、周方向に均一な相互間隔で保持器(7)により保持されているものに関する。外レース(2)の内側はころ(6)用の外転動路(8)を形成し、内レース(3)の外側は2つの内転動路(9,10)を持つように形成され、これらの転動路の間に緩い案内環(11)が設けられ、この案内環(11)の外周面(12)上に保持器(7)が載り、この案内環(11)の側面(13,14)に沿って、ころ(6)がそのそれぞれ一方の端面(15,16)で転がる。本発明により、内レース(3)の内転動路(9,10)の間に設けられる案内環(11)が、軸線方向に分割して形成されて2つの環部分(17,18)から成り、これらの環部分(17,18)が、形状記憶合金から成る複数の中間片により互いに結合されて、案内環(11)によりそれぞれの作動温度で、中間片の自動的な長さ変化によって、ころ軸受(1)のころ(6)に対してほぼ一定な軸線方向予荷重が発生可能であるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の転がり軸受に関し、円筒ころ軸受、たる状ころ軸受、円錐ころ軸受及び球面ころ軸受のような複列ころ軸受において特に有利に実現可能である。
【背景技術】
【0002】
回転する部分における半径方向及び/又は軸線方向負荷の伝達に役立つ転がり軸受を、その転動体の形状に従って玉軸受ところ軸受に分類することは、当業者に公知である。ころ軸受において、非対称ころ又は対称ころを持つ円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、球面ころ軸受及びたる状ころ軸受が区別され、これらのころ軸受は要求に応じて1列又は複列のころ軸受として構成可能である。複列ころ軸受は、それらが実質的に外レース、内レース及びこれらのレースの間に2列に設けられる複数のころから成り、これらのころが保持器により周方向に均一な相互間隔で保持される点で、共通である。外レースの内側は外転動路を形成し、内レースの外側はころ用の2つの内転動路を持つように形成され、内レースの内転動路の間に案内環が設けられ、この案内環の平らな外周面上に保持器が載っている。この案内環は、内レース上に固定的に又は緩く設けられ、更に2つの平らな側面を持ち、軸受の作動中にころがそれぞれの端面でこれらの側面に沿って転がる。
【0003】
複列球面ころ軸受として構成されるこの種の転がり軸受は、ドイツ連邦共和国特許第19742570号明細書から公知である。この球面ころ軸受では、ころ用案内環は緩い案内環として構成され、長方形の輪郭断面を持ち、ころの両方の内転動路の間で内レース上に案内される。この案内環は、球面ころ軸受のころが軸線方向に予荷重を受けるか、又は案内環によりころへ回転軸線に対し鋭角をなして力が及ぼされるように、その軸線方向幅を設定されている。それによりころと外転動路又は内転動路との間の接触点が移動され、ころの片寄りを少なくするようにしている。
【0004】
しかし実際には、このような球面ころ軸受の異なる作動温度において、案内環を介するころの軸線方向予荷重の減少又は増大が起こり、それが特に球面ころ軸受の案内環ところと内レースとの間の熱膨張係数の相違の結果生じることがわかった。それにより軸受の作動中に予荷重の減少の際依然としてころの片寄り運動が起こるか、又は予荷重の増大の際ころと案内環の平らな端面との間に高い面圧が生じ、この面圧により案内環が過度に摩耗する。更に特定の負荷条件において、ころと案内環との接触点が移動し、この移動の際ころが案内曲げ縁に沿って滑ることがわかった。それによりころが一時的に案内環の側面の縁のみに沿って転がり、いわゆる縁転動が起こり、それにより案内環も同様に強く摩耗し、軸受の故障の原因となることもよくある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術の上述した欠点から出発して、本発明の基礎になっている課題は、軸受の作動温度に関係なくころが、ころの片寄り運動もころと案内環の側面との間の高い面圧も充分回避されるような軸線方向予荷重を持つように、転がり軸受特に複列ころ軸受を構想することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によればこの課題は、請求項1の上位概念に記載の転がり軸受において、内レースの内転動路の間に設けられる案内環が、軸線方向に分割して形成されて2つの環部分から成り、これらの環部分が、形状記憶合金から成る複数の中間片により互いに結合されて、案内環によりそれぞれの作動温度で、中間片の自動的な長さ変化によって、ころ軸受のころに対してほぼ一定な軸線方向予荷重が発生可能であるようにしていることによって、解決される。
【0007】
いわゆる形状記憶合金又は記憶合金は、30年以上も前から、応用に向けられた材料研究の対象であり、適当な処理後オーステナイトからマルテンサイトへの変態のため、温度又は圧力に応じてその形状を変化することを特徴としている。このような合金から成る工作物はその低温形状に留まり、即ち外見上塑性変形可能であるが、変態温度以上への加熱の際その最初の形状を再びとる。この工作物が再び冷却されると、再び塑性変形可能であるが、適当に加熱されると、そのミクロ組織をオーステナイトに戻しながら、その巨視的な最初の高温形状を再びとる。形状記憶特性においては、原則的に一方向効果と二方向効果と擬似弾性とが区別される。一方向効果では、低温で変形した材料は、高温に加熱されると、その最初の形状を再びとる。これに反し、材料が温度上昇の際にも温度低下の際にもその教え込まれた形状を思い出す現象が、二方向効果と称される。オーステナイトからマルテンサイトへの変態が冷却により行われるのではなく、特定の温度範囲においてせん断応力により機械的に行われる場合に、擬似弾性と称される。擬似弾性材料は、負荷する間にまず純弾性的に変形し、臨界応力から初めて、オーステナイトからマルテンサイトへの応力による変態を開始し、この変態により一定の応力で高い弾性伸びの値が得られる。荷重を除くと、材料は再びマルテンサイトからオーステナイトへその初期組織に変態し、変形が準弾性的に戻る。
【0008】
従って本発明により構成される転がり軸受の有利な展開として、案内環がなるべく長方形の輪郭断面を持ち、その輪郭幅を軸線方向に分割して形成されて、両方の環部分がそれぞれ同じ大きさで同様に長方形の輪郭断面を持つようにしていることがまず提案される。長方形輪郭断面を持つこのような案内環は、その製造が特に簡単で安価なことがわかったし、更に台形輪郭断面を持つ案内環に対して、あらゆる種類のころ軸受に使用可能であるという利点を持っている。しかし複列アンギュラ形ころ軸受のために、台形状輪郭断面を持つ案内環を形成し、その輪郭幅を軸線方向に分割して、生じる環部分がそれぞれ同じ大きさの楔状輪郭断面を持つようにすることも可能である。
【0009】
案内環の環部分を互いに結合しかつ形状記憶合金から成る中間片に関して、本発明により構成される転がり軸受の別の特徴として、中間片が円柱状ピンとして形成され、これらのピンが、環部分の側面に均一な相互間隔の貫通孔内に取付けられている。その際それぞれ互いに45°の角度で離れて環部分にある貫通孔が充分であり、環部分を互いに結合する8つの形状記憶合金製の円柱状ピンが、貫通孔とほぼ同じ直径を持ち、なるべく接着により環部分に取付けられているとよいことがわかった。しかし完全に形状記憶合金から成りかつ環部分の内側に接着されて環部分と同じ内径及び外径を持つ中間環により、案内環の環部分を互いに結合するか、又は中間片を形状記憶合金から別の適当なやり方で形成し、例えば環部分の間に設けられる金属薄板として形成し、かつ/又は中間片を別の適当なやり方で環部分に取付けることも考えられる。
【0010】
本発明により構成される転がり軸受の最後の特徴は、案内環の互いに結合される環部分が、その間に補償間隙を持ち、中間片の形状記憶合金が、形状記憶特性として擬似弾性を持つベータニッケル−チタン合金としてなるべく形成されていることである。形状記憶特性として擬似弾性を持つこのような合金は、考慮されている使用目的に対して最も適していることがわかった。なぜならば、このような合金のゴム状の特性は、適当な設定により、軸受のころの軸線方向予荷重の温度により生じる変動を補償して、あらゆる作動温度においてこの予荷重が一定であるようにすることができるからである。しかしこのような形状記憶特性を持つ別の公知の形状記憶合金、例えば銅−ニッケル−チタン、銅−亜鉛−アルミニウム、銅−アルミニウム−ニッケル又は鉄−ニッケル−クロムからなるベータ合金を使用することも可能である。
【0011】
従って本発明により構成される転がり軸受は、従来技術から公知の転がり軸受に対して、案内環を2つの環部分に分割し、擬似弾性を持つ形状記憶合金から成る別個の中間片を介してこれらの環部分を結合することによって、案内環が、中間片の長さ変化により自動的に、軸受の作動温度に関係なく、常に一定の予荷重を軸受のころに及ぼすという、利点を持っている。それによりころの片寄り運動もころと案内環の側面との間の高い面圧も回避され、その結果生じる継続損傷が防止される。
【0012】
本発明により構成される転がり軸受の好ましい実施例が、添付図面を参照して以下に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1から、球面ころ軸受として構成される複列ころ軸受1がわかり、大体において外レース2、内レース3、及びこれらのレース2,3の間に2列4,5に隣接して設けられる複数のころ6から成っている。対称なたる状ころとして形成されるこれらのころ6は、明らかにわかるように、保持器7により周方向に均一な間隔に保持され、その周面で、外レース2の内側に形成される湾曲した外転動路8上と、内レース3の外側に形成される2つの湾曲した内転動路9,10上を転がる。内レース3の内転動路9,10の間には、更に緩い案内環11が設けられ、図2に見えるその外周面12上に保持器7が載り、その側面13,14に沿って、ころ6がその一方の端面15,16で転がる。
【0014】
更に図2及び3に見られるように、内レース3の内転動路9,10の間に設けられる案内環11が、本発明により軸線方向に分割して形成され、形状記憶合金から成る複数の中間片により互いに結合される2つの環部分17,18から成っている。中間片の形状記憶合金は、形状記憶特性として擬似弾性を持つベータニッケル−チタン合金として構成されているので、ころ軸受の作動中に、中間片の自動的な長さ変化により、案内環11によって、あらゆる作動温度において、ころ軸受1のころ6に対してほぼ一定の軸線方向予荷重を発生することが可能である。
【0015】
有利なように案内環11は、明らかにわかるように長方形の輪郭断面を持ち、その輪郭幅を軸線方向に分割して形成されて、両方の環部分17,18が同様にそれぞれ同じ大きさの長方形輪郭断面を持ち、相互の結合部に補償間隙21を持つようにしている。
【0016】
案内環11の環部分17,18を互いに結合する中間片は、図3及び4に示すように、円柱状ピン19として形成され、均一な相互間隔の貫通孔20内で、環部分17,18の側面13,14に接着により取付けられている。
【0017】
組込まれた状態で案内環11が所定の予荷重をころ6に及ぼすこのような構成のころ軸受1は、その機能において、作動中にころ軸受1の加熱の増大及びそれに伴うころ6の膨張と共に、案内環11ところ6との間の面圧が増大し、この面圧により環部分17,18間のピン19に圧縮応力が生じる。ピンを形状記憶合金から構成することによって、この圧縮応力は、引続く増大と共に、ピン19の比例する短縮を開始し、この短縮により、環部分17,18間の補償間隙21が僅か小さくなり、従って案内環11ところ6との間の面圧が、ころ6の軸線方向予荷重の程度まで再び低下される。
【0018】
ころ軸受1の冷却の際、案内環11の環部分17,18間におけるピン19の圧縮応力が再び弱くなるので、ピン19及び案内環11は次第に再びその元の長さ及び幅をとる。従ってころ軸受1のあらゆる作動温度において、一定の予荷重がころ6に及ぼされ、この一定の予荷重により、ころ6の片寄り運動も、ころ6と案内環11との間の高い面圧も回避される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】 本発明により構成される複列球面ころ軸受の斜視図を部分断面と共に示す。
【図2】 本発明により構成される図1の球面ころ軸受の部分断面の拡大図を示す。
【図3】 本発明により構成される図1の球面ころ軸受の断面の拡大図を示す。
【図4】 本発明により構成される図1の球面ころ軸受のころと案内環との間の接触部の概略図を示す。
【符号の説明】
【0020】
1 ころ軸受
2 外レース
3 内レース
4,5 列
6 ころ
7 保持器
8 外転動路
9,10 内転動路
11 案内環
12 外周面
13,14 側面
15,16 端面
17,18 環部分
19 ピン
20 貫通孔
21 補償間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受特に複列ころ軸受(1)であって、実質的に外レース(2)、内レース(3)、及びこれらのレース(2,3)の間に2列に並んで設けられる複数のころ(6)から成り、これらのころ(6)が、周方向に均一な相互間隔で保持器(7)により保持され、外転動路としての外レース(2)の内側及び2つの内転動路(9,10)を持つ内レース(3)の外側が、ころ(6)のために形成され、内レース(3)の内転動路(9,10)の間に緩い案内環(11)が設けられ、この案内環(11)の外周面(12)上に保持器(7)が載り、この案内環(11)の側面(13,14)に沿って、ころ(6)がそのそれぞれ一方の端面(15,16)で転がるものにおいて、内レース(3)の内転動路(9,10)の間に設けられる案内環(11)が、軸線方向に分割して形成されて2つの環部分(17,18)から成り、これらの環部分(17,18)が、形状記憶合金から成る複数の中間片により互いに結合されて、案内環(11)によりそれぞれの作動温度で、中間片の自動的な長さ変化によって、ころ軸受(1)のころ(6)に対してほぼ一定な軸線方向予荷重が発生可能であるようにしていることを特徴とする、転がり軸受。
【請求項2】
案内環(11)がなるべく長方形の輪郭断面を持ち、その輪郭幅を軸線方向に分割して形成されて、両方の環部分(17,18)がそれぞれ同じ大きさで同様に長方形の輪郭断面を持つようにしていることを特徴とする、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
案内環(11)の環部分(17,18)を互いに結合する中間片が、円柱状ピン(19)として形成され、これらのピン(19)が、環部分(17,18)の側面(13,14)に均一な相互間隔の貫通孔(20)内に取付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項4】
案内環(11)の互いに結合される環部分(17,18)が、その間に補償間隙(21)を持ち、中間片の形状記憶合金が、形状記憶特性として擬似弾性を持つベータニッケル−チタン合金としてなるべく形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の転がり軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2008−504508(P2008−504508A)
【公表日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519605(P2007−519605)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【国際出願番号】PCT/DE2005/001084
【国際公開番号】WO2006/000183
【国際公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(506420843)シエフレル・コマンデイトゲゼルシヤフト (80)
【Fターム(参考)】