説明

転がり軸受装置及びこれを用いた過給機

【課題】ターボチャージャーにおいて、タービン軸を支持する転がり軸受に対するタービンホイール側からの熱影響を少なくし、更にタービン軸の振動を抑制する。
【解決手段】転がり軸受装置32は、ターボチャージャーのケーシング40に支持される軸受ハウジング61と、軸受ハウジング61内に装着され且つタービン軸41を回転自在に支持する軸線Z方向に一対の転がり軸受10a,10bとを備え、一対の転がり軸受10a,10b間の軸線方向の中央位置Y3と、軸受ハウジング61の軸線方向の中央位置Y2とが軸線方向にずれて配置される。各転がり軸受10a,10bは、内輪1と、外輪3と、内外輪の間に介在する中間輪2と、内輪1と中間輪2との間及び中間輪2と外輪3との間に介在する複数の転動体4,5とを有し、中間輪2は、微小変位又は弾性的に微小変形することにより回転により発生した振動を低減させるダンパ機能を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転がり軸受装置及びこれを用いた過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、エンジン性能を高めるためにターボチャージャーが広く使用されている。特許文献1には、ケーシングと、このケーシング内に転がり軸受を介して回転自在に支持されたタービン軸と、タービン軸の一端に固定されたタービンホイールと、他端に固定されたコンプレッサホイールとを備えたターボチャージャーが開示されている。前記転がり軸受は軸線方向に一対設けられ、各転がり軸受は、筒形状に形成された軸受ハウジングの内周面に取り付けられている。軸受ハウジングは、ケーシング内に形成された中央孔内に支持されている。
【0003】
また、特許文献1のターボチャージャーは、タービン軸の高速回転に伴う振動を低減するため、軸受ハウジングの外周面とケーシングの中央孔の内周面との間にエンジンオイルを供給することによって油膜を形成し、当該油膜によってオイルフィルムダンパを構成している。そして、オイルフィルムダンパを経たエンジンオイルを転がり軸受に供給することによって、転がり軸受の潤滑と冷却とを行っている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−98158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タービン軸の一端に固定されたタービンホイールは、高温の排気ガスが流通する排気通路に配置されるため、その周辺の温度は非常に高くなる。このため、一対の転がり軸受のうちタービンホイール側に配置されたものは特に熱影響を受け、焼付や耐久性低下等の問題が生じやすくなる。
特許文献1のターボチャージャーでは、オイルフィルムダンパを経たエンジンオイルを最初にタービンホイール側の転がり軸受に対して供給し、その後その潤滑油を他方の転がり軸受に供給することによって、タービンホイール側の転がり軸受の冷却性能を高めている。しかし、タービンホイール側の転がり軸受を十分に冷却するには多量のエンジンオイルを供給しなければならず、エンジンオイルポンプの駆動動力を高める必要があることから、エンジンのエネルギー損失が大きくなる。
【0006】
一方、タービンホイール側からの熱影響を少なくするため、転がり軸受をタービンホイールから遠ざけて配置することも考えられる。しかし、単純に転がり軸受をタービンホイールから遠ざけると、タービンホイールとコンプレッサホイールとの支持バランスが崩れ、タービン軸の回転に伴う振動が極めて大きくなってしまう。
【0007】
ところで、特許文献1記載のターボチャージャーのように、エンジンオイルを用いてオイルフィルムダンパを形成したり、転がり軸受の潤滑及び冷却を行ったりするには、ターボチャージャーのケーシングに、エンジンオイル用の多数の流路(孔)を形成しなければならない。さらに、エンジンオイルにはカーボンスラッジ等の異物が含まれるため、これを取り除くべく流路にフィルタ等を設ける必要もある。そのため、ケーシング等の構造が複雑化し、製造コストが増大するという問題がある。また、エンジンオイルは使用によって次第に劣化するので、当該劣化によってオイルフィルムダンパの性能も低下してしまうという問題もある。近年、これらの問題を解消することができるターボチャージャーが嘱望されている。
【0008】
本発明は、例えばターボチャージャーにおいて、タービンホイール側からの熱影響を少なくするためにタービンホイールから転がり軸受を遠ざけて配置したとしても、タービン軸の振動を好適に抑制することができる転がり軸受装置及びこれを用いた過給機を提供することを目的とする。
また、エンジンオイルを用いずにタービン軸の振動を適切に低減することができる転がり軸受装置及びこれを用いた過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、回転軸を有する機器のケーシングに支持される軸受ハウジングと、この軸受ハウジング内に装着され且つ前記回転軸を回転自在に支持する一対の転がり軸受と、を備えている転がり軸受装置において、
前記一対の転がり軸受間の軸線方向の中央位置と、前記軸受ハウジングの軸線方向の中央位置とが軸線方向にずれて配置されており、
前記各転がり軸受が、外周に第一の軌道を有する内輪と、内周に第二の軌道を有する外輪と、これら内外輪の間に少なくとも一つ介在し内周に第三の軌道を有し外周に第四の軌道を有する中間輪と、前記中間輪の前記第三の軌道とこれに対向する軌道との間及び前記中間輪の前記第四の軌道とこれに対向する軌道との間にそれぞれ転動自在に介在している複数の転動体と、を備え、
前記中間輪が、微小変位又は弾性的に微小変形することにより、回転することで発生した振動を低減させるダンパ機能を有していることを特徴とする。
【0010】
このような構成の転がり軸受装置を、例えば、回転軸を有する機器であるターボチャージャーに用いる場合、ターボチャージャーのケーシングに軸受ハウジングを支持させるにあたって、当該軸受ハウジングをタービンホイールとコンプレッサホイールとの間の中央又はその近傍に配置する。そして、一対の転がり軸受間の軸線方向の中央位置が軸受ハウジングの軸線方向の中央位置よりもコンプレッサホイール側へずれるように当該一対の転がり軸受を配置し、この一対の転がり軸受によってタービン軸(回転軸)を回転可能に支持する。これにより、一対の転がり軸受がタービンホイールから遠ざかり、タービンホイール側からの熱影響を受けにくくなる。
【0011】
このように一対の転がり軸受をタービンホイールから遠ざけると、タービン軸の支持位置が軸線方向にずれ、タービンホイールとコンプレッサホイールとの支持バランスが崩れやすくなる。しかし、本発明では、各転がり軸受の中間輪が、微小変位又は弾性的に微小変形することにより振動を低減させるダンパ機能を有しているので、タービン軸に発生する振動を好適に低減することができる。一方、軸受ハウジングは、一対の転がり軸受よりもタービンホイール側に配置されることになるので、一対の転がり軸受をタービンホイールから遠ざけて配置することに伴う振動の発生を抑制することが可能となる。
以上のことから、本発明は、一対の転がり軸受に多量の潤滑油を供給しなくても、当該転がり軸受の温度上昇を抑制することができ、同時に、タービン軸の振動を適切に低減することができる。
【0012】
前記軸受ハウジングは、少なくとも軸線方向の両端部においてダンパ部材を介してケーシングに支持され、前記ダンパ部材は、金属製のワイヤを編み上げることによって形成されていることが好ましい。このようなダンパ部材は、全体的に弾性変形(収縮)し、3次元的に全方位の振動を減衰することができるため、高いダンピング性能を発揮する。したがって、一対の転がり軸受をタービンホイールから遠ざけて配置している場合でも、タービン軸の振動をより低減することができる。
【0013】
以上のように、一対の転がり軸受をタービンホイールから遠ざけて配置し、金属製ワイヤを編み上げて形成したダンパ部材を介して軸受ハウジングをケーシングに支持することにより、一対の転がり軸受の冷却のために多量のエンジンオイルを供給しなくてもよく、軸受ハウジングとケーシングとの間にダンピング用のエンジンオイルを供給しなくてもよい。したがって、ケーシングにエンジンオイル等の流路を形成したりフィルタを設けたりする必要がなく、ケーシング等の構造を簡素化し、製造コストを低減することができる。
【0014】
前記転がり軸受の中間輪は、大径輪部と、この大径輪部から軸線に対して傾斜した傾斜輪部を介して設けられ当該大径輪部よりも小径とされた小径輪部と、を有する構造とすることができる。この場合、前記第三の軌道は前記大径輪部と前記傾斜輪部との境界部に形成され、前記第四の軌道は前記小径輪部と前記傾斜輪部との境界部に形成されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、転がり軸受の外輪は軸受ハウジングに、内輪はタービン軸等の回転軸にそれぞれ径方向に固定された状態となるのに対し、中間輪は、軸線方向及び径方向に完全に拘束されない状態となり、軸線方向及び径方向に微小変位したり、弾性的に微小変形したりすることが許容される。このような作用によってダンパ機能が発揮され、回転軸の振動を好適に低減することができる。
【0016】
本発明の過給機は、前記軸受ハウジングを支持するケーシングと、前記一対の転がり軸受によって回転自在に支持される回転軸としてのタービン軸と、このタービン軸の軸線方向の一端部に固定されたタービンホイールと、前記タービン軸の軸線方向の他端部に固定されたコンプレッサホイールとを備え、前記一対の転がり軸受間の軸線方向の中央位置が、前記軸受ハウジングの軸線方向の中央位置よりも前記コンプレッサホイール側に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、例えばターボチャージャーにおいて、タービンホイールからの熱影響を少なくするためにタービンホイールから転がり軸受を遠ざけて配置したとしても、タービン軸(回転軸)の振動を好適に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る転がり軸受装置を用いたターボチャージャーを示す断面図である。このターボチャージャーは、ケーシング40と、タービン軸41とを備え、タービン軸41は、ケーシング40内で転がり軸受装置32を介して回転可能に支持されている。なお、ターボチャージャーは、例えば、自動車エンジンのための過給機として用いられる。
このタービン軸41の一端部にはタービンホイール42が固定され、他端部にはコンプレッサホイール44が固定されている。タービンホイール42は、エンジンから排出された排気ガスの流通路に配置され、コンプレッサホイール44はエンジンへの圧縮空気の供給通路に配置されている。
【0019】
ケーシング40は、外周が円柱形状とされた本体部40aと、この本体部40aの軸線Z方向の端部から径方向外方へ延びるフランジ部40bとを有している。本体部40aは、軸線Z方向の一端に配置された側壁17と、同他端に配置された側壁18と、軸線Zを中心とする円筒形の外側周壁20と、軸線Zを中心とする円筒形の内側周壁19とを備えている。
【0020】
内側周壁19は、コンプレッサホイール44側に配置された大径筒部19aと、タービンホイール42側に配置された小径筒部19bと、大径筒部19aと小径筒部19bとの間に形成された円環状の環状部19cとを有している。大径筒部19aの内側は円形状の中心孔43とされ、この中心孔43に転がり軸受装置32が配置されている。本体部40aにおいて、中心孔43のコンプレッサホイール44側の開口は蓋部材33によって閉鎖されている。
【0021】
ケーシング40の本体部40aの内部には、冷却用のクーラントが循環する冷却水ジャケット26が形成されている。冷却水ジャケット26は、本体部40aの軸線Z方向一端部から他端部にわたる範囲で形成されている。具体的に冷却水ジャケット26は、側壁17,18と外側周壁20と内側周壁19とによって囲まれた空間部分として形成されている。また、冷却水ジャケット26は、転がり軸受装置32の径方向外側の部分と、転がり軸受装置32よりもタービンホイール42側の部分とに存在している。特に、冷却水ジャケット26は、内側周壁19の小径筒部19bの外周側に、転がり軸受装置32とタービンホイール42との間に入り込むように形成された部分26aを有している。この部分26aにより、タービンホイール42側の熱がクーラントによって効果的に奪われ、転がり軸受装置32の温度上昇が抑制される。
【0022】
本体部40aの内部には、転がり軸受装置32に供給する潤滑油を溜めているタンク部35が形成されている。タンク部35は、本体部40aにおけるコンプレッサホイール44側の部分に配置されている。タンク部35内の潤滑油は供給手段36によって転がり軸受装置32に供給される。本実施の形態の供給手段36は、タンク部35と中心孔43との間に設けられた紐部材により構成されている。この紐部材36は潤滑油が浸透する材質、構造とされており、一端部がタンク部35の潤滑油中に浸されており、他端部が中心孔43内の転がり軸受装置32の内部に設けられている。これにより、タンク部35の潤滑油は紐部材の毛細管現象によって中心孔43内へと供給される。この紐部材によれば、タービン軸41の回転が停止している状態であっても、中心孔43にある転がり軸受装置32に潤滑油を供給できる。
【0023】
タービンホイール42とケーシング40との間には熱遮蔽部材27が設けられている。熱遮蔽部材27は、セラミック製や金属製とされており、側壁17とタービンホイール42との間に介在している円環部27aと、この円環部27aからケーシング40側へ延びる円筒部27bとを有している。円環部27の中央の孔にタービンホイール42の基端部(タービン軸41)が挿通した状態にあり、この孔とタービンホイール42の基端部との間に僅かな隙間が形成されている。円筒部27bの端部はケーシング40の本体部40aの外周部と接触している。これにより、熱遮蔽部材27の円環部27a及び円筒部27bと、ケーシング40の側壁17との間に環状の空気室28が形成されている。これによれば、タービンホイール42側からの輻射熱、空気伝導熱が熱遮蔽部材27によって遮蔽され、この熱によるケーシング40及び転がり軸受装置32の温度上昇を抑えることができる。また、熱遮蔽部材27とケーシング40との間の空気室28によって、タービンホイール42側からの熱がさらにケーシング40へ伝わりにくくなり、ケーシング40及び転がり軸受装置32の温度上昇を抑えることができる。
【0024】
次に、転がり軸受装置32について詳細に説明する。
図2は、転がり軸受装置32を拡大して示す断面図である。転がり軸受装置32は、軸受ハウジング61と、この軸受ハウジング61内に配置された一対の転がり軸受10a,10bとを有している。軸受ハウジング61は、ケーシング40内の中心孔43の径よりもやや小さい外径を有する円筒形状に形成されている。軸受ハウジング61の軸線Z方向の両端外周には切欠け凹部61aが周方向全周に形成されており、この切欠け凹部61aにはリング状のダンパ部材60が嵌合されている。このダンパ部材60の詳細については後述する。
【0025】
内側周壁19の環状部19cの径方向内端部には、転がり軸受10a側へ向けて軸線Z方向に延びる円筒形状の受け部材19dが一体形成されている。この受け部材19dの内周面には、タービン軸41に嵌合された円筒形状のスリーブ71の外周面が僅かな隙間をもって対向している。スリーブ71の外周面には凹状の周溝71aが形成され、この周溝71a内にはシール部材72が隙間をもって収容されている。シール部材72は、所謂ピストンリングにより構成されており、周方向の一箇所に形成された合い口を閉じるようにして受け部材19dの内周面に嵌合されることによって、当該内周面に圧接されている。スリーブ71の軸線Z方向の一端面はタービン軸41の外周面から突出する大径部41aに当接し、同他端面はタービンホイール42側の転がり軸受10aの内輪1に当接している。このスリーブ71によって、タービン軸41に対する当該内輪1のタービンホイール42側への移動が規制される。
【0026】
蓋部材33の軸線Z上には貫通孔33aが形成されている。この貫通孔33aの内周面は、タービン軸41に嵌合された円筒形状のスリーブ73の外周面が僅かな隙間をもって対向している。スリーブ73の外周面には、軸線Z方向に2つの周溝73aが形成され、この周溝73a内にはシール部材74が隙間をもって収容されている。このシール部材74も前記シール部材72と同様にピストンリングにより構成され、貫通孔33aの内周面に圧接されている。スリーブ73の軸線Z方向の一端面はタービン軸41に形成された段部41bとコンプレッサホイール44側の転がり軸受10bの内輪1とに当接し、同他端面はコンプレッサホイール44の側面に当接している。このスリーブ73によって、タービン軸41に対する当該内輪1のコンプレッサホイール44側への移動が規制される。
【0027】
シール部材72,74は、タービンホイール42側からの排気ガスやコンプレッサホイール44側からの圧縮空気が転がり軸受10a,10b側に漏れるのを防止するとともに、転がり軸受10a,10b側の潤滑油がタービンホイール42側及びコンプレッサホイール44側に流出するのを防止している。
【0028】
本体部40aを構成する内側周壁19の小径筒部19bには、筒形状のラビリンス部材75が嵌合されている。このラビリンス部材75の内周面には複数の凹溝75aが形成され、当該内周面は、タービン軸41の外周面と隙間をもって配置されている。この隙間によってラビリンスシール76が形成され、当該ラビリンスシール76は、タービンホイール42側の排気ガスが転がり軸受10a,10b側へ流入するのを防止している。
【0029】
次に転がり軸受10a,10bについて説明する。図3は、転がり軸受(コンプレッサホイール44側(図2の右側)の転がり軸受)10bを拡大して示す断面図である。転がり軸受10bは、タービン軸41の外周面に嵌合された単一の内輪1と、軸受ハウジング61の内周面に嵌合された単一の外輪3と、内輪1と外輪3との間に介在した単一の中間輪2とを備えている。内輪1と中間輪2と外輪3とがこの順番で軸線Z方向に沿って位置ずれして配置されている。そして、内輪1と中間輪2との間の環状空間に転動自在に設けられた一列の第一転動体4と、中間輪2と外輪3との間の環状空間に転動自在に設けられた一列の第二転動体5とをさらに備えている。なお、転がり軸受10bは、内輪1がコンプレッサホイール44側に配置され、外輪3がタービンホイール42側に配置されている。
【0030】
第一転動体4及び第二転動体5はそれぞれ複数の玉からなり、第一転動体4の複数の玉4aは保持器8によって軸線Zを中心とする一つの円上に沿って保持され、第二転動体5の複数の玉5aは保持器9によって軸線Zを中心とする他の円上に沿って保持されている。また、玉4a,5aとは同径とされている。
【0031】
内輪1は環状に形成されており、その内周面がタービン軸41との嵌合面とされ、その外周面に第一転動体4の玉4aと接触する第一の軌道11が形成されている。
外輪3は環状に形成されており、その外周面が軸受ハウジング61の内周面との嵌合面とされ、その内周面に第二転動体5の玉5aと接触する第二の軌道31が形成されている。内輪1と外輪3との軸線Z方向寸法は略同一とされている。
【0032】
中間輪2は環状に形成されており、軸線Z方向寸法が内輪1及び外輪3よりも長くされている。中間輪2の内周面の一部に第一転動体4の玉4aと接触する第三の軌道21が形成されており、中間輪2の外周面の一部に第二転動体5の玉5aと接触する第四の軌道22が形成されている。そして、内輪1と中間輪2と外輪3とは軸線Zを中心として軸線Z方向に位置ずれはしているが、同心円状に配置されている。
【0033】
中間輪2は、環状の大径輪部7と、この大径輪部7から傾斜輪部15を介して連続して設けられた環状の小径輪部6とを有している。小径輪部6は大径輪部7よりも外周面の直径について小さくされている。傾斜輪部15は軸線Zに対して傾斜する方向に直線的に延びている。大径部7は、内輪1の径方向外方に第一転動体4が介在した状態で設けられている。外輪3は、小径輪部6の径方向外方に第二転動体5が介在した状態で設けられている。
【0034】
環状の前記第三の軌道21は大径輪部7の内周面と傾斜輪部15の内周面との境界部に形成されており、環状の第四の軌道22は小径輪部6の外周面と傾斜輪部15の外周面との境界部に形成されている。また、中間輪2は縦断面において折れ曲がり形状とされている。
【0035】
中間輪2において、第四の軌道22に接触している第二転動体5のピッチ径D3は、第三の軌道21に接触している第一転動体4のピッチ径D4よりも大きくされている。これにより、第一、第二転動体4,5を中間輪2の傾斜輪部15を挟んで軸線Z方向に接近させた配置とでき、転がり軸受10bの軸線Z方向の寸法を小さくすることができる。なお、ピッチ径とは転動体の玉の中心を通る円の直径としている。
【0036】
第一転動体4の玉4aは、一対の対向している第一の軌道11及び第三の軌道21に対して斜接(アンギュラコンタクト)しており、第二転動体5の玉5aは、一対の対向している第四の軌道22及び第二の軌道31に対して斜接(アンギュラコンタクト)している。その接触角θ1,θ2は同じとされており、図において例えば15°とされている。これにより、この転がり軸受10bは軸線Z方向からの荷重(軸線Z方向荷重)を受けることができる。さらに、この転がり軸受10bは軸線Z方向に延びた軸線Z方向配置とされていることから、軸線Z方向のダンパ性能を有した構造とされる。
【0037】
中間輪2は、転動体4,5を斜接させるために適した構造となっている。すなわち、中間輪2の外周において、第四の軌道22は小径輪部6と傾斜輪部15との境界部に形成されていることから、この第四の軌道22の両側の肩部において、傾斜輪部15の肩径は小径輪部6の肩径よりも大きくなる。このため、第四の軌道22において、傾斜輪部15の傾斜を利用して斜接軌道を形成することができる。また、第三の軌道21は大径輪部7と傾斜輪部15との境界部に形成されていることから、この第三の軌道21の両側の肩部において、傾斜輪部15の肩径は大径輪部7の肩径よりも小さくなる。このため、第三の軌道21において、傾斜輪部15の傾斜を利用して斜接軌道を形成することができる。
このように、内輪1及び外輪3では、転動体4,5を斜接させるために一方の肩部側を厚肉とする必要があるが、中間輪2では、転動体4,5を斜接させるために一方の肩部側(傾斜輪部15)の厚さを大きくする必要がない。これにより、中間輪2の構造がシンプルとなり、中間輪2を、厚さが一定とされた円筒を塑性変形させて簡単に製造することもできる。
【0038】
また、この中間輪2において、前記のとおり小径輪部6が大径輪部7よりも小径とされているが、さらに、小径輪部6側の第四の軌道22の軌道径D2が、大径輪部7の第三の軌道21の軌道径D1よりも小さくされている(D2<D1)。なお、第四の軌道22の軌道径D2は、軌道22の最小径部の直径とし、第三の軌道21の軌道径D1は、軌道D1の最大径部の直径としている。
【0039】
転がり軸受10bにおいて、内輪1と中間輪2との間において一対の対向している第一の軌道11と第三の軌道21との間に第一転動体4の玉4aが転動自在として介在しており、中間輪2と外輪3との間において一対の対向している第四の軌道22と第二の軌道31との間に第二転動体5の玉5aが転動自在として介在している。この転がり軸受10bは、タービン軸41に外嵌した内輪1と軸受ハウジング61に固定された外輪3との間に、複数(二段)の転動体4,5を備えている構造となる。すなわち、この転がり軸受10bは、内輪1と第一転動体4と中間輪2とによって、この中間輪2が外輪と見立てられた第一軸受部Aが構成され、中間輪2と第二転動体5と外輪3とによって、この中間輪2が内輪と見立てられた第二軸受部Bが構成されたものとなる。
【0040】
図2に示すように、タービンホイール42側(左側)の転がり軸受10aは、コンプレッサホイール44側(右側)の転がり軸受10bと同様に内輪1,外輪3,中間輪2、第一転動体4,第二転動体5、保持器8,9を備えている。但し、左側の転がり軸受10aは、内輪1がタービンホイール42側に、外輪3がコンプレッサホイール44側にそれぞれ配置されており、右側の転がり軸受10bとは背面合わせの関係とされている。
一対の転がり軸受10a,10bの外輪3は、軸受ハウジング61の内周面から僅かに隆起する隆起部61bの軸線Z方向端部に当接し、互いに接近する方向への移動が規制されている。また、一対の転がり軸受10a,10bの間にはバネ部材77が介装され、このバネ部材77によって軸線Z方向外方への予圧が各外輪3に付与されている。
【0041】
以上のように構成された転がり軸受10a,10bは、タービン軸41が所定回転数で回転することにより、転がり軸受10a,10bにおいて内輪1が外輪3に対して前記所定回転数で回転している状態となる。この回転が生じた状態では、前記所定回転数は、二段とされた第一と第二の軸受部A,B(図3)によって分配される。すなわち、内輪1はタービン軸41と共に一体回転するが、中間輪2ではこの内輪2に遅れて(減速されて)供回りする。これにより、一段ごとの軸受部における回転数が前記所定回転数よりも小さくなる。例えば、タービン軸41が20万rpmで回転し、このタービン軸41側(内側)の第一軸受部Aが例えば16万rpmで回転しているとすると、ケーシング40側(外側)の第二軸受部Bは第一軸受部Aよりも低回転である4万rpmで回転することとなる。そして、多段とされた軸受部A,Bのそれぞれに分配された回転速度は、タービン軸41(内輪1)の回転速度の変化に応じて自動的に変速される。この際、外輪3側の第二軸受部Bが内輪1側の第一軸受部Aよりも低速回転とされ、軸受部A,Bそれぞれの回転速度は所定の比率で分配される。
このような構成により、この転がり軸受10a,10bは、全体としての許容回転数が高まることになるので、回転するタービン軸41を大きな安全率でもって支持することができ、タービン軸41が高速回転しても安定して支持することができる。
【0042】
前記したように、転がり軸受10a,10bの中間輪2は、大径輪部7よりも径が小さい小径輪部6と傾斜輪部15との境界部の外周面に第四の軌道22が形成された構造とされているので、この小径輪部6と傾斜輪部15との境界部の第四の軌道22に接触する第二の転動体5が径方向内側寄りの位置に設けられ、転がり軸受10の径方向寸法を小さくすることができる。つまり、外輪3の外周面の直径を小さくすることができる。したがって、図2において、この転がり軸受10を収容している軸受ハウジング61の内外径やケーシング40の中心孔43の内径を小さくすることができる。この結果、ケーシング40を大型化することなくケーシング40内に設けられる冷却水ジャケット26やタンク部35容量を可及的に大きくすることができる。
【0043】
図3に示すように、転がり軸受10a,10bの中間輪2において、大径輪部7と傾斜輪部15との境界部の内周面に第三の軌道21が形成され、小径輪部6と傾斜輪部15との境界部の外周面に第四の軌道22が形成された構造とされているため、転がり軸受10a,10bの軸線Z方向寸法を小さくすることができる。
例えば図4に示すように、二点鎖線で示している中間輪52のように、大径部57の内周側のみに軌道が形成され、小径部56の外周側のみに軌道が形成されている比較例の場合では、両軌道に接触する転動体54,55間の軸線Z方向の距離Qが大きくなり、転がり軸受全体が軸線Z方向に長くなる。しかし、本実施の形態では、実線で示しているように傾斜輪部15の内周面と外周面とにおいてもそれぞれ第三の軌道21と第四の軌道22が形成されているため、これら第三と第四の軌道21,22にそれぞれ接触している転動体4,5の間の軸線Z方向の距離Pを、前記比較例の距離Qよりも小さくすることができる(P<Q)。つまり、転動体4,5を軸線Z方向に接近させた状態とできることから、転がり軸受10a,10bの軸線Z方向寸法を小さくすることができる。
【0044】
さらに、図3に示すように、傾斜輪部15の内周面の一部と外周面の一部とにそれぞれ第三の軌道21と第四の軌道22が形成され、第四の軌道22に接触している第二の転動体5のピッチ径D3は、第三の軌道21に接触している第一の転動体4のピッチ径D4よりも大きくされているため、第一、第二転動体4,5同士を軸線Z方向に接近させた状態とすることができる。したがって、これによっても転がり軸受10a,10bの軸線Z方向寸法を小さくすることができる。
以上より、転がり軸受10a,10bの軸線Z方向の収容スペースを小さくでき、隣に他の部品を設けるのが容易となる。
【0045】
さらに、中間輪2において、第四の軌道22の軌道面22aが第三の軌道21の軌道面21aよりも径方向内側の位置に形成されていることから、第四の軌道22と接触する第二転動体5が、さらに径方向内側寄りの位置に設けられ、径方向寸法がより一層小さくされている。
【0046】
中間輪2は第一転動体4及び第二転動体5を介して内輪1及び外輪3に支持され、第一転動体4が転動する第三の軌道21は中間輪2の大径輪部7と傾斜輪部15との境界部に形成され、第二転動体5が転動する第四の軌道22は小径輪部6と傾斜輪部15との境界部に形成され、さらに、第一,第二転動体4,5は各軌道に斜接した構成となっているので、内輪1と中間輪2との間における軸受隙間(前記第一軸受部Aにおける軸受隙間)と、外輪3と中間輪2との間における軸受隙間(前記第二軸受部Bにおける軸受隙間)とが、回転数及び作用する荷重に応じてそれぞれ適切な値となるように自動的に調整される。
【0047】
すなわち、この転がり軸受10a,10bにおいて、内輪1及び外輪3は回転軸(タービン軸)41及びケーシング40に対して径方向に固定された状態で組み立てられるが、中間輪2は内輪1及び外輪3に軸線Z方向及び径方向に完全に拘束された状態ではなく、回転数や中間輪2が受ける荷重に応じて、軸線Z方向及び径方向に微小変位したり弾性的に微小変形したりすることができる。このため、第一軸受部Aにおける軸受隙間と、第二軸受部Bにおける軸受隙間とが、回転数及び作用する荷重に応じてそれぞれ適切な値となるように自動的に調整される。
【0048】
さらに、中間輪2は、第一転動体4と第二転動体5とから受ける荷重を、軸線Z方向にずれた前記第三の軌道21と前記第四の軌道22とによってそれぞれ受けることができ、前記のとおり中間輪2は微小変位したり弾性的に微小変形したりできるので、中間輪2が(リーフスプリングのように)ダンパ作用を有することとなり、転がり軸受10a,10bにおいて生じた振動に対して、優れた制振効果を奏することができる。さらに具体的に説明すると、第三の軌道21及び第四の軌道22は、中間輪2の大径輪部7と傾斜輪部15との境界部、及び、小径輪部6と傾斜輪部15との境界部に形成され、第一と第二転動体4,5は各軌道に斜接している構成となっているので、中間輪2は、軸線Z方向及び径方向に微小変位したり弾性的に微小変形したりすることができ、径方向と軸線Z方向との両方向について、優れた制振効果を有する。
【0049】
このように、中間輪2は第一,第二の転動体4,5から荷重を受けることによって、特に、中間輪2の大径輪部7と傾斜輪部15との境界部、及び、小径輪部6と傾斜輪部15との境界部が、径方向及び軸線Z方向に微小変位又は弾性的に微小変形することができる。つまり、中間輪2がリーフスプリングとして機能する。すなわち、中間輪2は、回転することで発生した振動を、微小変位又は弾性的に微小変形することにより低減させるダンパ機能部を有しており、この実施形態におけるダンパ機能部は、これら境界部からなる構成である。
【0050】
図3に示しているように、各保持器8,9は環状であり、その断面において、軸線Z方向の一端部から他端部へ向かって傾斜している構造とされている。つまり、保持器8,9のそれぞれは大径部13aと小径部13bとこれらを軸線Z方向で繋いでいる傾斜部13cとを有しており、中間輪2の傾斜輪部15と同様に傾斜している。これにより、玉4a,5aが転動することで、この保持器8,9が各玉4a,5aの周辺の空気を攪拌し、冷却効果を高めることができる。
【0051】
次に、軸受ハウジング61、転がり軸受10a,10b、タービンホイール42、及びコンプレッサホイール44の配置関係について詳細に説明する。
図2に示すように、軸受ハウジング61は、タービンホイール42とコンプレッサホイール44との間の略中央に配置されている。より詳細には、軸受ハウジング61の軸線Z方向の中央位置Y2が、タービンホイール42とコンプレッサホイール44との間の軸線Z方向の中央位置Y1よりもややコンプレッサホイール44側に配置されている。また、一対の転がり軸受10a,10b間の軸線Z方向の中央位置Y3は、軸受ハウジング61の中央位置Y2よりも更にコンプレッサホイール44側に配置されている。したがって、一対の転がり軸受10a,10bはタービンホイール42から遠ざけられ、逆にコンプレッサホイール44に近づけられている。
【0052】
また、タービンホイール42側の転がり軸受10aは、タービンホイール42とコンプレッサホイール44との間の中央位置Y1上に位置している。また、一対の転がり軸受10a,10b間の中央位置Y3が軸受ハウジング61の中央位置Y2よりもコンプレッサホイール44側に配置されていることによって、軸受ハウジング61は、一対の転がり軸受10a,10bに対してタービンホイール42側へ延伸(オーバーハング)している。
【0053】
このように一対の転がり軸受10a,10bはタービンホイール42から遠ざけられた状態で配置されているので、タービンホイール42側の熱が転がり軸受10a,10bに伝わり難くなる。そのため、転がり軸受10a,10bの冷却のために多量の潤滑油を供給する必要がない。つまり、本実施の形態のようにケーシング40内にタンク部35(図1)を設け、このタンク部35内の潤滑油を少しずつ供給する形態とすることが可能となる。そのため、従来のように転がり軸受にエンジンオイル等を供給するための多数の流路を形成する必要がなく、また、当該流路にエンジンオイル用のフィルタを設ける必要もないので、ケーシング40の構造を簡素化し、製造コストを低減することができる。
また、ケーシング40にエンジンオイルの流路が不要となるので、その分、冷却水ジャケット26を広く設けることが可能となる。これにより、転がり軸受装置32全体の冷却効率を高めることが可能となる。
【0054】
一方、一対の転がり軸受10a,10bをタービンホイール42から遠ざけて配置した場合、タービンホイール42とコンプレッサホイール44との支持バランスが崩れ、タービン軸41の振動が大きくなる可能性がある。しかし、本実施形態では、各転がり軸受10a,10bとして、内外輪1,3の間に中間輪2を備えた構造とし、この中間輪2が前述の如くダンパ機能を備えているので、タービン軸41の振動を適切に低減することができる。
【0055】
また、軸受ハウジング61が一対の転がり軸受10a,10bに対してタービンホイール42側に延伸するように配置されているので、一対の転がり軸受10a,10bをタービンホイール42から遠ざけることに伴うタービンホイール42及びコンプレッサホイール44の支持バランスの崩れを少なくし、タービン軸41の振動を低減することが可能である。
さらに、本実施の形態では、次に詳しく述べるダンパ部材60によってもタービン軸41の振動を更に低減している。
【0056】
次に、ダンパ部材60について詳細に説明する。図6は、ダンパ部材60の斜視図であり、ダンパ部材60はリング形状に形成され、幅wと厚さtとを有する断面略4角形状に形成されている。図2に示すように、ダンパ部材60は軸受ハウジング61の両端外周面に形成した切欠け凹部61aに嵌合され、左側のダンパ部材60は、中心孔43の内周面と環状部19cの側面とに当接し、右側のダンパ部材60は、中心孔43の内周面と蓋部材33の側面とに当接している。
【0057】
図7は、図6のVII部拡大図である。ダンパ部材60は、ステンレス等の金属製のワイヤ64を材料として形成されている。具体的には、1本又は複数本の金属製のワイヤ64を複雑に屈曲させつつ立体的に編み上げる(ワイヤ64を寄せ集め、捻り合わせ、交錯させ、及び/又は、絡み合わせる)ことにより、全体として断面略4角形状のリング形状に形成されている。
【0058】
ダンパ部材60を構成する金属製ワイヤ64の相互間には、全体的に又は部分的に隙間(空孔)が形成されている。ダンパ部材60は、ワイヤ64が隙間の範囲で弾性変形したり、隣合うワイヤ64同士が長手方向に位置ズレしたりすることによって、全体的に径方向(図2における上下方向、面貫通方向等)及び軸線Z方向に弾性変形(収縮)可能となっている。そして、ダンパ部材60は、中心孔43の内径よりもやや大きな外径に形成され、軸受ハウジング61と中心孔43との間に、径方向に所定の締め代で圧縮された状態で取り付けられている。また、各ダンパ部材60は、軸受ハウジング61よりも軸線Z方向外方に突出し、軸受ハウジング61と環状部19cとの間、及び、軸受ハウジング61と蓋部材33との間で軸線Z方向に所定の締め代で圧縮された状態で取り付けられている。
【0059】
ダンパ部材60内のワイヤ64間の隙間には、潤滑剤が充填されている。潤滑剤としては、例えば、フッ素系グリースを用いることができる。金属製のワイヤ64としては、例えば、外径が0.4mmのものが用いられる。ダンパ部材60の全体積に占める隙間の割合(空孔率)は、例えば60%とすることができる。
【0060】
上記ダンパ部材60は、次のように製造される。まず、最終成形品よりも外径、厚さt、幅wがやや大きく、内径が小さいリング状の中間品を形成する。この中間品は、最終成形品の空孔率(例えば、60%)よりも空孔率が大きくなるように、金属製ワイヤ64を緩やかに編み上げて形成する。そして、その中間品を、金型を用いて圧縮することによりワイヤ64間の隙間を小さくし、所望の寸法、空孔率の最終成型品を成形する。
【0061】
以上の構成において、タービン軸41から転がり軸受10a,10bを介して軸受ハウジング61に伝わる振動は、ダンパ部材60によって減衰されてケーシング40に伝達される。この際、ダンパ部材60は、径方向及び軸線Z方向に弾性変形可能であるため、3次元的、全方位的に振動を減衰することができ、高いダンピング性能を発揮することができる。
また、金属製ワイヤ64自体の弾性変形だけでなく、ワイヤ64の編み込み構造からもたらされるフリクションや、ワイヤ64の絡み合い等の状態により、全方位の振動エネルギーを単純な粘弾性を超える性能で受け止めて、緩和することが可能である。
【0062】
このため、前述のように一対の転がり軸受10a,10bをタービンホイール42から遠ざけて配置していたとしてもタービン軸41の回転に伴う振動を好適に低減することができる。
ダンパ部材60は、金属製のワイヤ64を用いて成形しているので、高い耐熱性をもたせることができる。したがって、非常に高温となるターボチャージャー用のダンパ手段として好適である。特に、本実施の形態のように、軸受ハウジング61が一対の転がり軸受10a,10bに対してタービンホイール42側にオーバーハングしている場合、タービンホイール42側のダンパ部材60が高温に晒されることになるが、その熱影響によってダンピング性能が衰えることもほとんど無い。
また、ダンパ部材60内のワイヤ64の隙間には、グリースが充填されているので、弾性変形に伴う擦り合いでワイヤ64が摩耗することもほとんどない。
【0063】
本実施の形態では、金属製ワイヤ64からなるダンパ部材60を軸受ハウジング61とケーシング40との間に備えているので、従来のようなオイルフィルムダンパは不要となる。したがって、エンジンオイルをケーシング40内に供給するために、エンジンオイルポンプを用いる必要もなくなる。そのため、従来に比べてエンジンの効率を向上させることができる。また、タービン軸41のダンピングのためにエンジンオイルを用いていないので、エンジンオイルの劣化に影響されることなく長期にわたってダンピング性能を維持することができる。更に、エンジンオイルの消費量も少なくすることができる。
【0064】
ケーシング40には、従来のようにオイルフィルムダンパにエンジンオイルを供給するための流路を形成する必要がないので、ケーシング40の構造の簡素化、コスト低減を図ることができる。更に、前述のように、転がり軸受10a,10bの潤滑にもエンジンオイルを用いず、ケーシング40内に備えたタンク部35内の潤滑油を用いているので、ケーシング40には、軸受潤滑用、ダンパ用のいずれのエンジンオイル油路も不要となる。したがって、ケーシング40のより一層の構造の簡素化や、製造コスト低減が可能となる。
【0065】
ダンパ部材60は、空孔率や編み上げの方向、ワイヤ64の外径等を適宜選択することによって、弾性率(バネ定数)を自由に変化させることができる。また、弾性変形の方向(径方向、軸線Z方向)によって弾性率を異ならせることもできる。したがって、必要なダンピング特性に応じてダンパ部材60を容易に製造することができる。また、ダンパ部材60の形状(外径寸法、内径寸法、幅w、厚さt、断面形状等)を自由に設計することができるので、ターボチャージャーの設計の自由度も増し、最適なターボチャージャーを製造することができる。
【0066】
図5は、転がり軸受の他の実施の形態を示す断面図である。この図では右側の転がり軸受10bのみを例示している。転がり軸受10a,10bは、内外輪1,3の間に少なくとも一つの中間輪2が介在し、内輪1と中間輪2と外輪3との間で対向している軌道間のそれぞれに複数の転動体を転動自在に備えたものであればよい。図5に示す転がり軸受10bは、内外輪1,3の間に二個の中間輪2a,2bが介在したものである。この場合、内輪1と第一の中間輪2aと第二の中間輪2bと外輪3とがこの順番で軸線Z方向に沿って位置ずれして配置されている。そして、内輪1と第一の中間輪2aとの間の環状空間に一列の第一転動体45が転動自在に設けられ、第一の中間輪2aと第二の中間輪2bとの間の環状空間に一列の第二転動体46が転動自在に設けられ、第二の中間輪2と外輪3との間の環状空間に一列の第三転動体47が転動自在に設けられている。
【0067】
これら中間輪2a,2bのそれぞれは前記実施の形態の中間輪2と同じ構成であり、中間輪2a,2bはそれぞれ、環状の大径輪部7と、この大径輪部7から傾斜輪部15を介して設けられた環状の小径輪部6とを有している。そして、中間輪2a,2bはそれぞれ、大径輪部7の内周面と傾斜輪部15の内周面との境界部に第三の軌道21が形成されており、小径輪部6の外周面と傾斜輪部15の外周面との境界部に第四の軌道22が形成されている。
【0068】
この転がり軸受10bは、タービン軸41に外嵌した内輪1とケーシング部40に固定された外輪3との間に、三段の転動体45,46,47を備えている構造となる。すなわち、この転がり軸受10bは、内輪1と第一転動体45と第一の中間輪2aとによって、この第一の中間輪2aが外輪と見立てられた第一軸受部Eが構成され、第一の中間輪2aと第二転動体46と第二の中間輪2bとによって、この第一の中間輪2aが内輪と見立てられかつ第二の中間輪2bが外輪と見立てられた第二軸受部Fが構成され、この第二の中間輪2bと第三転動体47と外輪3とによって、この第二の中間輪2bが内輪と見立てられた第三軸受部Gが構成されたものとなる。そして、この構成により、転がり軸受10a,10b全体の回転数が、軸受部E,F,Gのそれぞれに分配され、より高速化に対応できる転がり軸受10bを得ることができる。
【0069】
また、この実施の形態においても、前述の実施の形態(図3)と同様に、第一の中間輪2aと第二の中間輪2bとを有することによって構成された前記第一軸受部E、前記第二軸受部F及び前記第三軸受部Gのそれぞれにおける軸受隙間が、回転数及び作用する荷重に応じてそれぞれ適切な値となるように自動的に調整される。さらに、第一の中間輪2a及び第二の中間輪2bが(リーフスプリングのように)ダンパ作用を有することとなり、優れた制振効果を奏することができる。
【0070】
また、本発明の転がり軸受10a,10bにおいて、使用される材質は従来知られているものとできるが、特に、転動体としての玉、中間輪を軽量であるセラミックとすることによって、さらに高速回転する軸を支持できる構造となる。
【0071】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。例えば、本発明の転がり軸受装置32の転がり軸受10a,10bは、中間輪2を三個以上備えたものであってもよい。また、内輪1を回転方向に固定し、外輪3が回転するものであってもよい。
ダンパ部材60を形成する金属製ワイヤ64の材質や外径寸法、ダンパ部材60の空孔率等は適宜変更することができる。また、上記実施形態では、ダンパ部材60をリング状に形成し、軸受支持体61の外周に嵌め込んでいるが、周方向に分断した円弧形状やブロック形状とすることもできる。ダンパ部材60の断面形状は、円形状や、4角形以外の多角形状とすることもできる。また、ダンパ部材60は、軸受ハウジング61の軸線Z方向の両端のみならず、軸線Z方向の全体に亘る範囲で設けることもできる。
本発明の転がり軸受装置32は、ターボチャージャーに限定されず、その他の過給機や回転軸を有する他の装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受装置を適用した過給機を示す断面図である。
【図2】転がり軸受装置の拡大断面図である。
【図3】転がり軸受の拡大断面図である。
【図4】本発明の中間輪を説明する説明図である。
【図5】転がり軸受の他の実施形態を示す拡大断面図である。
【図6】ダンパ部材の斜視図である。
【図7】図6のVII部拡大図である。
【符号の説明】
【0073】
1 内輪
2,2a,2b 中間輪
3 外輪
4 第一転動体
5 第二転動体
6 小径輪部
7 大径輪部
10a,10b 転がり軸受
11 第一の軌道
15 傾斜輪部
21 第三の軌道
22 第四の軌道
31 第二の軌道
32 転がり軸受装置
40 ケーシング
41 タービン軸(回転軸)
42 タービンホイール
44 コンプレッサホイール
45 第一転動体
46 第二転動体
47 第三転動体
60 ダンパ部材
61 軸受ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有する機器のケーシングに支持される軸受ハウジングと、この軸受ハウジング内に装着され且つ前記回転軸を回転自在に支持する一対の転がり軸受と、を備えている転がり軸受装置において、
前記一対の転がり軸受間の軸線方向の中央位置と、前記軸受ハウジングの軸線方向の中央位置とが軸線方向にずれて配置されており、
前記各転がり軸受が、外周に第一の軌道を有する内輪と、内周に第二の軌道を有する外輪と、これら内外輪の間に少なくとも一つ介在し内周に第三の軌道を有し外周に第四の軌道を有する中間輪と、前記中間輪の前記第三の軌道とこれに対向する軌道との間及び前記中間輪の前記第四の軌道とこれに対向する軌道との間にそれぞれ転動自在に介在している複数の転動体と、を備え、
前記中間輪が、微小変位又は弾性的に微小変形することにより、回転することで発生した振動を低減させるダンパ機能を有していることを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
前記軸受ハウジングが、少なくとも軸線方向の両端部においてダンパ部材を介して前記ケーシングに支持され、前記ダンパ部材が、金属製のワイヤを編み上げることによって形成されていることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受装置。
【請求項3】
前記中間輪が、大径輪部と、この大径輪部から軸線に対して傾斜した傾斜輪部を介して設けられ当該大径輪部よりも小径とされた小径輪部と、を有し、
前記第三の軌道が前記大径輪部と前記傾斜輪部との境界部に形成され、前記第四の軌道が前記小径輪部と前記傾斜輪部との境界部に形成されていることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受装置を用いた過給機であって、
前記軸受ハウジングを支持するケーシングと、前記一対の転がり軸受によって回転自在に支持されるタービン軸と、このタービン軸の軸線方向の一端部に固定されたタービンホイールと、前記タービン軸の軸線方向の他端部に固定されたコンプレッサホイールとを備え、
前記一対の転がり軸受間の軸線方向の中央位置が、前記軸受ハウジングの軸線方向の中央位置よりも前記コンプレッサホイール側に配置されていることを特徴とする過給機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−79628(P2009−79628A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247790(P2007−247790)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】