説明

転がり軸受

【課題】 高温での使用に耐えることができかつ変形がなく、しかも保持器組み込み性の良好な保持器を備え、高温や高速回転条件、高負荷条件等の過酷な使用条件下で長期間の使用に耐え得る転がり軸受を提供する。
【解決手段】 180℃での曲げ弾性率が少なくとも3500MPaで、かつ少なくとも150℃の耐熱温度を有する樹脂組成物からなる保持器を備えることを特徴とする転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば自動車オルタネータ等の高温かつ高速回転が必要とされる転がり軸受に関し、詳しくは耐熱性、耐油性、高速耐久性を有する保持器を備える転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、転がり軸受は転動体の種類によって玉軸受ところ軸受に分けられ、それぞれが形状や用途によっていくつかの種類に分類される。そして、各種の軸受に使用される保持器にも各種タイプがある。
【0003】一般に、玉軸受には図1に示す冠型保持器6が多用されている。例えば、図1に示す冠型保持器を組み込んだ転がり軸受は、図2に示すように、外周面に内輪軌道1を有する内輪2と、内周面に外輪軌道3を有する外輪4と、内輪2と外輪4との間に配置される複数個の転動体5と、これらの複数個の転動体5を保持して案内するために内輪軌道1と外輪軌道3との間に冠型保持器6を回転自在に設けて構成される。
【0004】この種の保持器としては、金属保持器、プラスチック保持器があり、プラスチック保持器の材料としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、フッ素樹脂等のいわゆるエンジニアリングプラスチックが単体のままで、あるいはガラス繊維、炭素繊維等の短繊維を混入して強化した複合材の形態で使用されてきた。中でも、ポリアミドは材料コストと性能のバランスが良好なことから、プラスチック保持器の材料として多用され、一般的な環境条件では卓越した性能が確認されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、ポリアミドとして従来一般的なポリアミド6(ナイロン6)やポリアミド66(ナイロン66)は、環境温度120℃以上での連続使用条件下や、極圧添加剤、添加油等の油類と常時あるいは間欠的に接触する条件下では、経時的に材料が劣化してしまい、市場で要求される性能を満たせなくなることがある。
【0006】近年、自動車において、省エネルギーのための改善が進められており、例えば、オルタネータにおいては、従来、冷却ファンによる空冷が一般的であったが、効率向上を目的に、水冷方式に変わりつつある。このことから、オルタネータに使用される転がり軸受は従来よりもさらに高温にさらされ、より高い耐熱性が要求されるようになった。
【0007】また、高温かつ高速回転(例えば20000rpm)での使用条件下では、従来のポリアミドからなる保持器では耐熱性が不十分であるとともに、高温での強度及び剛性が不足して回転時に変形し、軸受外輪と接触して保持器の磨耗や軸受の焼付の原因となることがあり、やはり市場で要求される性能を満たせなくなることがある。
【0008】このような背景から、近年、150℃を超えるような高温環境下で使用されるプラスチック保持器の材料として、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等の、いわゆるスーパーエンジニアリングプラスチック樹脂が提案されている。
【0009】しかしながら、これらの材料は、耐熱性や耐薬品性には優れているものの、保持器として必要な適度な柔軟性に劣り、保持器の組み込み性に問題があるため、未だ汎用されるには至っていない。
【0010】本発明は、このような従来のプラスチック保持器を備える転がり軸受の問題点を解決するためになされたものであり、高温での使用に耐えることができかつ変形がなく、しかも保持器組み込み性の良好な保持器を備え、高温や高速回転条件、高負荷条件等の過酷な使用条件下で長期間の使用に耐え得る転がり軸受を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、180℃での曲げ弾性率が少なくとも3500MPaで、かつ少なくとも150℃の耐熱温度を有する樹脂組成物からなる保持器を備えることを特徴とする転がり軸受により達成される。尚、ここで言う耐熱温度とは、保持器を1000時間保持したときに、保持器の引張強度の低下率が10%以内にとどまる温度と規定する。
【0012】本発明の転がり軸受に使用される保持器は、180℃での曲げ弾性率が3500MPa以上で、かつ少なくとも150℃の耐熱温度を有する樹脂組成物から製造されるものであり、優れた耐熱性、耐油性を示すとともに、高い機械的特性を有している。また、この材料は適度な柔軟性があり、保持器に必要なスナップヒット性を有し、良好な保持器組み込み性を有している。従って、この保持器を備える本発明の転がり軸受は、高温や高速回転条件、高負荷条件等の過酷な使用条件下で長期間の使用に耐えることができ、例えば自動車オルタネータ用として好適である。
【0013】
【発明の実施の形態】次に、本発明の実施形態について説明する。
【0014】本発明において、保持器に使用される樹脂組成物を構成するベース樹脂は、少なくとも150℃の耐熱温度を有する必要性から、ポリアミド46(ナイロン46:PA46)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用いる。尚、PA46に関しては、保持器組み込み性を改良するためにエラストマ成分を配合することが好ましい。エラストマは、例えばエチレンプロピレンゴムが好適であり、その配合量は2〜10重量%の割合が好ましく、耐熱性や成形性から特に2〜6重量%が好ましい。エラストマの配合量が多くなると、保持器組み込み性は向上するが、耐熱性、成形性に劣るようになる。
【0015】また、180℃での曲げ弾性率が3500MPa以上必要であり、良好な保持器組み込み性を満たす必要性から、上記ベース樹脂に所定量のガラス繊維またはカーボン繊維を強化材として分散させる。具体的には、PA46をベース樹脂とする場合には、ガラス繊維を20重量%以上50重量%未満、好ましくは25重量%から40重量%配合した樹脂組成物、またはカーボン繊維を10重量%以上40重量%未満、好ましくは15重量%から35重量%配合した樹脂組成物とする。また、PPSをベース樹脂とする場合は、カーボン繊維を20重量%以上40重量%未満、好ましくは25重量%から35重量%配合した樹脂組成物とする。また、PEEKをベース樹脂とする場合は、ガラス繊維を20重量%以上40重量%未満、好ましくは25重量%から35重量%配合した樹脂組成物、またはカーボン繊維を10重量%以上40重量%未満、好ましくは10重量%から35重量%配合した樹脂組成物とする。何れの樹脂組成物においても、ガラス繊維またはカーボン繊維の含有量が下限値を下回ると、本発明が目的とする180℃での曲げ弾性率3500MPaを得るのが困難となる。また、ガラス繊維またはカーボン繊維の含有量が上限値を上回ると、保持器への成形が困難になり、また保持器組み込み性が悪くなるおそれがある。
【0016】尚、ガラス繊維及びカーボン繊維の形状は特に制限されるものではないが、例えば繊維長50〜500μm、繊維径7〜14μmの短繊維状のものが好ましい。
【0017】また、これらの樹脂組成物は市場からも入手可能であり、例えば、PA46ベースとしてはDSM・JSRエンプラ(株)製スタニールTW200F6(ガラス繊維30重量%入り)を、PPSベースとしてはポリプラスチックス(株)製フォートロン2130A1(カーボン繊維30%重量入り)を、PEEKベースとしてはビクトレックス(株)製450GL30(ガラス繊維30重量%入り)と450CA30(カーボン繊維30重量%入り)等を使用することができる。
【0018】また、上記樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、熱安定剤、固体潤滑剤、潤滑油、着色剤、帯電防止剤、離型剤、流動性改良剤、結晶化促進剤等を適宜添加してもよい。
【0019】上記樹脂組成物は、耐熱性に優れ、かつ保持器としたときに保持器組み込み性が良好となる適度の靱性を有し、更に、高温剛性に優れている。すなわち、上記樹脂組成物は、180℃において少なくとも3500Mpaの曲げ弾性率を有し、かつ少なくとも150℃の耐熱温度を有している。従って、この樹脂組成物からなる保持器は、高温・高速用玉軸受用の冠型保持器に適用した場合、射出成形の離型時に適度に変形したり、良好な保持器組み込み性を満たす適度の靱性と、高温回転時での保持器変形を抑制するために高温時の剛性双方を兼ね備える。
【0020】尚、上記樹脂組成物を調製する方法、手段は特に限定されるものではなく、例えば、各成分を別々に溶融混合機に供給してもよく、また各成分をヘンシェルミキサー、リボンブレンダー等の混合機であらかじめ混合してから溶融混合機に供給してもよい。溶融混合機としては、単軸又は二軸押し出し機、混合ロール、加圧ニーダー、ブラベンダーブラストグラフ等の任意の装置が使用できる。
【0021】上記樹脂組成物を用いて保持器とする方法、手段も特に限定されるものではなく、射出成形により例えば冠型保持器等に容易に成形することができる。但し、射出成形時に溶融樹脂が会合するウエルド部分では、軸受への組み込み時に破損が起り易いことから、射出成形するときのゲートを、一般的なトンネルゲートに代えてディスクゲート(または「フィルムゲート」とも呼ばれる)方式を採用することでウエルドの無い保持器を製作でき、好ましい。このディスクゲートは、保持器の内周部全周に薄いフィルム状のゲート(湯口)を設けて構成される。また、このゲート部は、射出成形後に成形金型内で切断するか、若しくは、保持器を取り出した後に機械加工により除去する。このディスクゲートを用いて作製した保持器は、トンネルゲート品に比べてウエルドが見られず、また高い寸法精度を有する。
【0022】また、保持器の熱変形を抑制するために熱処理することも好ましく、例えば、成形後に保持器を200℃で4時間程度熱処理を行うことにより、熱変形量を小さくすることができる。これは、加熱によりベース樹脂の結晶化度が高まり、剛性が向上することが原因であると考えられる。
【0023】そして、上記保持器を組み込むことにより、本発明の転がり軸受が得られる。本発明の転がり軸受は、保持器が上記した諸特性を有することから、高温や高速回転条件、高負荷条件等の過酷な使用条件下で長期間の使用に耐えることができ、例えば自動車オルタネータ用として好適である。
【0024】
【実施例】以下、実施例及び比較例を例示して本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】<[実施例1〜12、比較例1〜6>(1)試験保持器の製作下記の樹脂組成物を用いて試験保持器を作製した。
■PA46ベース:DSM・JSRエンプラ(株)製スタニールTW200F6■PPSベース:ポリプラスチック(株)製フォートロン2130A1■PPSベース:呉羽化学工業(株)製フォートロンKPS(GF30重量%含有)
■PA66ベース:宇部興産(株)製宇部ナイロン2020U(GF30重量%含有)
■PEEKベース:ビクトレックス(株)製450CA30■PEEKベース:ビクトレックス(株)製450GL30尚、GFはガラス繊維の略である。
【0026】そして、上記の各樹脂組成物を用い、インラインスクリュー式射出成型機にて成形して図1に示す形状の冠型保持器(外径47mm、内径17mm)とし、試験保持器を作製した。
【0027】(2)保持器組み込み試験上記の各試験保持器の保持器組み込み性を評価するために、図3に示す構成の、日本精工(株)製の空気駆動型自動玉組み込み装置を使用して試験保持器への転動体組み込み試験を行った。
【0028】空気駆動型自動玉組み込み装置は図3(a)、(b)に示すように、保持器11のポケット上に玉12を等配した後、空気圧駆動のシリンダーロッド17に固定された加圧板18を介して押すことにより、瞬間的に全玉を保持器11のポケット部に組み込むことができる装置である。
【0029】図3(b)において、基板13上にフレーム14、保持器支持板15を固定し、その保持器支持板15上に玉12を等配した保持器11を載せ、フレーム14に固定された空気圧シリンダー16から上下作動するシリンダーロッド17に固定された加圧板18を保持器支持板15方向(下方向)に作動させ、玉12を押すことにより瞬間的に全玉を同時に保持器11のポケット部に組み込む。このときのシリンダーロッド17の移動速度は0.2m/sec、荷重は147N(15kgf)、雰囲気温度は20℃とした。
【0030】保持器組み込み性の評価は、上記操作において保持器11の爪部に折損が認められるか否かで行い、前記現象が認められない場合を保持器組み込み性良好として○印を付し、前記現象が見られる場合を保持器組み込み性不良として×印を付して表1に示した。尚、実施例1及び比較例1の保持器については、組み込み前に1.5〜2%水分を含有させる処置を行った。
【0031】
【表1】


【0032】表1から明らかなように、実施例1〜4及び比較例1〜2の保持器は、何れも爪部の折損が認められず保持器組み込み性が良好であった。
【0033】(3)曲げ試験各樹脂組成物について、射出成形機を用いて長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの曲げ試験片を製作し、島津製作所製オートグラフを用いて曲げ試験を行った。試験片は、オートグラフに装備されている恒温槽(180℃)中に30分放置後、試験片が180℃に上昇後、JIS K 7171に順ずる曲げ試験を実施し、曲げ弾性率を求めた。結果を表2に示す。
【0034】(4)軸受の回転試験軸受の高温・高速回転評価を実施するために、保持器組み込み性試験で使用したものと同じ保持器を作成した。この保持器を高温・高速オルタネータ用玉軸受(型番:6203)に組み込み、ウレア系エステル油ベースグリースを1.0g封入した後、シールをして試験軸受を完成させた。回転試験機は日本精工(株)製の高温・高速回転試験機を用いた。また、試験条件は、軸受温度180℃、回転数18000rpm、22000rpm、試験荷重2450N(250kgf)、試験時間50時間とした。
【0035】高温・高速回転試験の評価は、回転試験後の保持器の変形量e(図4参照)と、保持器の摩耗、破損等で評価した。すなわち、保持器の変形量eが0.15mm以内で異常摩耗及び破損のないものを合格とした。図4(a)は回転試験前の保持器爪部の変形なしの状態を示し、(b)は回転試験後の保持器爪部の変形を示すもので、eの値を変形量として示した。保持器変形量eは、工具顕微鏡を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0036】
【表2】


【0037】表2に示すように、実施例5〜8の試験片では、180℃における曲げ弾性率がいずれも3500MPaを超えている。また、回転評価においては、比較例3、4の保持器の変形量が大きく不合格となった。比較例4の保持器は22000rpmで保持器の外径部に外輪との接触傷があった。実施例5〜8及び比較例3、4すべての保持器で異常摩耗や破損はなかった。
【0038】また、試験機雰囲気温度を200℃に昇温して上記(3)、(4)と同様の試験を行った。200℃での18000rpmと22000rpmの連続回転評価試験結果と、曲げ弾性率の値を表3に示す。
【0039】
【表3】


【0040】表3に示すように、実施例9、10、12の試験片では、200℃での曲げ弾性率が3500MPaを超えている。尚、実施例11の試験片については、200℃での曲げ弾性率が3500MPaに達していないが、上記の如く180℃での曲げ弾性率が3500MPaを超えており、本発明で規定する特性値を満足している。また、実施例9〜12の保持器は18000rpm、22000rpmの評価試験において、いずれも変形量が0.15mm以下であり良好であった。一方、比較例5、6は変形量も大きく、22000rpmにおいてはポケット部の摩耗及び外径面が外輪に接触した傷跡が確認された。
【0041】曲げ弾性率と変形量との関係をまとめて図5及び図6に示す。これらの結果より、高温・高速オルタネータ用軸受用保持器には、保持器組み込み性、耐熱性、高温剛性が重要であり、特に、曲げ弾性率が180℃において3500MPa以上必要であることが判った。
【0042】(5)耐熱性試験各試験保持器の環境耐久性を評価するために、熱劣化試験を実施した。まず、表1に示す材料組成物で前記の玉軸受組み込み試験と同じ寸法形状の冠型保持器(実施例1〜4、比較例1、2)を作成した。そして、熱劣化試験は保持器を170℃の熱風循環式恒温槽中に1000時間までの所定時間放置した。
【0043】試験後の保持器を試料として、円環引張試験を実施した。円環引張試験は図7に示す円環引張治具に試験用保持器11を、そのゲート部11gとウエルド11wが水平位置になるようにセットし、島津製作所(株)製引張試験機(オートグラフAG−10KNG)を用いて10mm/minの引張速度で円環引張試験を行った。円環引張破断荷重を測定し、未処理品の測定値を100%として、強度保持率を求めた。結果を図8に示す。
【0044】図8から明らかなように、実施例1〜4及び比較例2は熱劣化が少なく、1000時間経過後においても当初の75%以上の強度を保持している。これに対し、比較例1のPA66をベース樹脂とする保持器は劣化が進行している。
【0045】また、同様な評価を150℃で実施した結果を図9に示すが、これらの結果から、本発明が目的とする少なくとも150℃の耐熱温度を満足することを判定基準とすると、PA66をベース樹脂とする保持器は耐熱性に劣り、実施例に示すPA46、PPS及びPEEKをベース樹脂とする必要があることが判る。
【0046】<実施例13〜25、比較例7〜14>(6)試験保持器の作製先ず、表4に示す如く、繊維を含有しない樹脂(以下「ニートレジン」という)を用い、二軸溶融押出し機に投入し、押出し機のほぼ中央部、樹脂が溶融したゾーンに所定量の繊維を投入して樹脂組成物を調製した。尚、ニートレジンには、PA46としてDSM(株)製スタニールを、PPSとして呉羽化学工業(株)製フォートロンを、PEEKとしてビクトレックス(株)製のニートレジンを用い、それぞれ310℃(PA46)、305℃(PPS)、370℃(PEEK)の溶融温度にて混練した。また、PA46はエチレンプロピレンゴムを3重量%配合したものを使用した。
【0047】次いで、溶融混練後、射出成形用のペレットを作製した。尚、PEEKにガラス繊維を50重量%充填した樹脂組成物(比較例13)及びカーボン繊維を50重量%充填した樹脂組成物(比較例14)は流動性が悪く、成形に使用可能なペレットを得ることができなかった。
【0048】
【表4】


【0049】そして、各ペレットをインラインスクリュー式射出成型機に投入し、図1に示す形状の冠型保持器(外径47mm、内径17mm)を成形して試験保持器を作製した。
【0050】(7)保持器組み込み試験各試験保持器について、上記(2)と同様にして保持器組み込み性を評価した。結果を表5に示すが、各実施例の保持器はいずれも保持器組み込み性に優れることがわかる。
【0051】(8)軸受の回転試験各試験保持器を用いて上記(4)と同様の軸受回転試験を行った。但し、試験条件は、雰囲気温度180℃、回転数18000rpmとした。結果を表5に示すが、各実施例はいずれも保持器の変形量が0.15mm以内であり、良好な結果を示している。
【0052】尚、実施例13、実施例15、実施例19では、当初、変形量がそれぞれ0.16mm(実施例13)、0.17mm(実施例15)、0.16mm(実施例19)と不良であったが、保持器を200℃にて4時間オーブン中で熱処理を行ったところ変形量はそれぞれ0.09mm(実施例13)、0.08mm(実施例15)、0.08mm(実施例19)に減少して良好な結果が得られた。そこで、示差走査型熱量計(Differential Scanning Calorimetry)を用いてPA46及びPPSの熱処理前後での吸熱量(結晶融解熱)を比較したところ、PA46では10%、PPSでは13%それぞれ吸熱量が大きくなっており、これは樹脂の結晶化度が高まった結果であると考えられる。
【0053】
【表5】


【0054】(9)曲げ試験また、ニートレジンと補強材とを補強材の配合量を変えて溶融混練してペレットを作製し、射出成形機を用いて長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの曲げ試験片を製作した。そして、上記(3)と同様にして180℃での曲げ試験を実施し、曲げ弾性率を求めた。図10にガラス繊維含有率を変えたPA46ベースの樹脂組成物、図11にカーボン繊維含有率を変えたPA46ベースの樹脂組成物、図12にカーボン繊維含有率を変えたPPSベースの樹脂組成物、図13にガラス繊維含有率を変えたPEEKベースの樹脂組成物、図14にカーボン繊維含有率を変えたPEEKベースの樹脂組成物からなる各試験片の試験結果をそれぞれ示す。各図から、PA46ではガラス繊維を20重量%以上またはカーボン繊維を10重量%以上(図10、図11)、PPSではカーボン繊維を20重量%以上(図12)、PEEKではガラス繊維を20重量%以上またはカーボン繊維を10重量%以上(図13、図14)それぞれ配合することにより、本発明が目的とする180℃での曲げ弾性率が3500MPa以上の機械特性が得られることがわかる。
【0055】(10)成形方式の評価実施例20のPPSベース、カーボン繊維35%含有保持器をトンネルゲート方式とディスクゲート方式とで各300個作製し、上記(2)と同様にして個々の保持器組み込み性を評価した。その結果、トンネルゲート方式品では、100個当たり1個の割合で軽微な亀裂があったが、ディスクゲート方式品は300個全て正常であった。また、ディスクゲート方式品はトンネルゲート方式品に比べて真円度が約1/2となり、高い寸法精度であった。
【0056】尚、上記実施例は180〜200℃の高温環境で、かつ18000〜22000rpmの高速回転が必要とされる高温・高速オルタネータ用軸受として、軸受回転耐久評価を実施し、良好な結果が得られたが、その他の高温・高速回転用軸受保持器としても十分な性能を示すことは、上記各実施例の結果より明らかである。
【0057】以上、本発明に関して主に冠型保持器を備える玉軸受を例示して説明してきたが、本発明はこれらに限らず、円錐ころ軸受用保持器、球面ころ軸受用保持器、円筒ころ軸受用保持器、一般玉軸受用保持器、アンギュラ玉軸受用保持器、その他、ニードル軸受用保持器、ローラクラッチ用保持器等の他の保持器を備える各転がり軸受にも適用できる。
【0058】
【発明の効果】本発明の転がり軸受は、少なくとも150℃の耐熱温度を有し、180℃における曲げ弾性率が3500MPa以上の樹脂組成物からなる保持器を備えることにより、当該保持器が良好な組み込み性を満たす適度な靱性を有するとともに高い機械的特性を有することから、高温・高速回転条件、高負荷条件等で長時間の使用に耐え得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】冠型保持器の斜視図である。
【図2】冠型保持器を組み込んだ転がり軸受の半断面図である。
【図3】冠型保持器組み込み試験の説明図で、(a)は保持器平面図、(b)は同試験装置の概略図である。
【図4】冠型保持器の変形と変形量を示す断面図である。
【図5】180℃での軸受回転試験による保持器変形量と曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【図6】200℃での軸受回転試験による保持器変形量と曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【図7】円環引張試験治具を用いた保持器引張強度試験の説明図である。
【図8】保持器の耐熱性試験で強度の経時変化を円環引張強度保持率で示したグラフである。
【図9】150℃で耐熱性試験を行った結果を示すグラフである。
【図10】ガラス繊維含有PA46のガラス繊維含有率と曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【図11】カーボン繊維含有PA46のカーボン繊維含有率と曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【図12】カーボン繊維含有PPSのカーボン繊維含有率と曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【図13】ガラス繊維含有PEEKのガラス繊維含有率と曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【図14】カーボン繊維含有PEEKのカーボン繊維含有率と曲げ弾性率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 内輪軌道
2 内輪
3 外輪軌道
4 外輪
5,12 転動体
6,11 玉軸受用冠型保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 180℃での曲げ弾性率が少なくとも3500MPaで、かつ少なくとも150℃の耐熱温度を有する樹脂組成物からなる保持器を備えることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】 前記樹脂組成物が、ガラス繊維を20重量%以上50重量%未満、またはカーボン繊維を10重量%以上40重量%未満の割合で含有するポリアミド46であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
【請求項3】 前記樹脂組成物が、カーボン繊維を20重量%以上40重量%未満の割合で含有するポリフェニレンサルファイド樹脂であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
【請求項4】 前記樹脂組成物が、ガラス繊維を20重量%以上40重量%、またはカーボン繊維を10重量%以上40重量%未満の割合で含有するポリエーテルエーテルケトン樹脂であることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
【請求項5】 前記保持器は、内周部全周部を成形ゲートとして作製されたものであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2002−106572(P2002−106572A)
【公開日】平成14年4月10日(2002.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−204853(P2001−204853)
【出願日】平成13年7月5日(2001.7.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】