説明

転がり軸受

【課題】非導電性グリースと導電性グリースを用い、両者の封入位置を規定することにより、高速用途であっても、導電性能を発揮しつつ、軸受音響や軸受耐久性を極めて良好に維持すること。
【解決手段】外・内輪1,2の両側の端部には、外部シール部材11が装着してあり、外部シール11の内方には、内部シール部材12が装着してある。外部シール部材11と内部シール部材12とは、外・内輪1,2のうち、それぞれ、異なるものに固定してある。外部シール部材11と内部シール部材12との間には、導電性グリースG1が封入してある。従って、導電性グリースG1を介して、重複する両シール部材11,12間に導通が可能となる。一方、内部シール部材12の内方側に、非導電性グリースG2が封入してある。玉3の表面とレース面との間は、常に、良好な潤滑状態を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複写機、コピー機用途以上の高速回転で使用される機器に於ける、静電気対策、コンタミ対策、及び電波ノイズ対策に有効な導電性軸受である転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性グリースを封入した転がり軸受は、以下の用途に使用されている。
【0003】
(1)静電気対策(防爆用途)
石油精製工場、石油製品生産工場、塗装工場等では、油類が気化し、その蒸気や温度によっては、わずかな静電気による火花でも、爆発や引火する危険性がある。その様な危険環境に使用される機器回転部分に使用する静電気対策転がり軸受。その他、防爆モータ、防爆カメラ等の用途。
【0004】
(2)静電気対策(コンタミ対策)
半導体製造プラントのクリーン工程や液晶ガラス基盤搬送コンベア等において、静電気によるコンタミ対策が必要な用途に用いられる転がり軸受。
【0005】
(3)電波ノイズ対策
電動機等の電波ノイズ対策が必要な機械の転がり軸受。
【0006】
ところで、従来の導電性グリース封入軸受は、コピー機やプリンターの画質向上を目的に使用されることが多く、その使用環境は、回転数:30〜300min−1と非常に低速の用途に限定されてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したような軸受を更に高速の用途に適応した場合、グリース中の導電剤であるカーボンブラック粒子の影響により、軸受音響が悪い、或いは、軸受耐久性が悪くなる問題がある。
【0008】
本発明は、上述したような事情に鑑みてなされたものであって、非導電性グリースと導電性グリースを用い、両者の封入位置を規定することにより、高速用途であっても、導電性能を発揮しつつ、軸受音響や軸受耐久性を極めて良好に維持することができる、転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る転がり軸受は、外輪と内輪との間に、転動体を転動自在に介装した転がり軸受に於いて、
前記外・内輪の端部に、外部シール部材が装着してあり、
当該外部シールの内方に、内部シール部材が装着してあることを特徴とする。
【0010】
好適には、前記外部シール部材と内部シール部材とは、前記外・内輪のうち、それぞれ、異なるものに固定してある。
【0011】
また、好適には、前記外部シール部材と内部シール部材との間には、導電性グリースが封入してある。
【0012】
さらに、好適には、前記内部シール部材の内方側には、非導電性グリースが封入してある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非導電性グリースと導電性グリースを用い、両者の封入位置を規定することにより、高速用途であっても、導電性能を発揮しつつ、軸受音響や軸受耐久性を極めて良好に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る転がり軸受を図面を参照しつつ説明する。
【0015】
(第1実施の形態)
図1は、本発明の第1実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。図1に於いて、外輪1と内輪2との間に、玉3が転動自在に介装してあり、玉3は、保持器4により所定間隔に維持するようになっている。
【0016】
外・内輪1,2の両側の端部には、外部シール部材11が装着してある。外部シール部材11は、外輪1側に固定してあり、鉄製シールであるが、ゴム製シールであってもよい。
【0017】
外部シール11の内方には、内部シール部材12が装着してある。内部シール部材12は、内輪2側に固定してあり、鉄製シールであるが、ゴム製シールであってもよい。
【0018】
このように、外部シール部材11と内部シール部材12とは、外・内輪1,2のうち、それぞれ、異なるものに固定してある。
【0019】
外部シール部材11と内部シール部材12との間には、導電性グリースG1が封入してある。
【0020】
このように、外部シール部材11と内部シール部材12との二段シール構造とし、しかも、重複する両シール部材11,12は、それぞれ、固定側を異なるものとしている。そのため、導電性グリースG1を介して、重複する両シール部材11,12間に導通が可能となる。この両シール部材11,12を伝わり、外輪1と内輪2との間に、回転中も、導電性能が得られる構造としている。導電性グリースG1の封入位置は、王3とレース面の荷重下ではないため、軸受音響への影響が少ない。
【0021】
一方、レース面に最も近い位置、即ち、内部シール部材12の内方側には、非導電性グリースG2が封入してある。玉3の表面とレース面との間は、常に、良好な潤滑状態を維持できるため、軸受音響や軸受耐久性を極めて良好に維持することができる。
【0022】
以上から、高速回転で導電性軸受が採用できることから、高速用途における機器の静電気対策、コンタミ対策、電波ノイズ対策が可能となる。
【0023】
その結果、石油精製工場、石油製品生産工場、塗装工場等の危険環境に於いて軸受外周の部位に発生した静電気を逃がすことができ防爆対策となる。また、半導体製造プラントのクリーン環境や液晶ガラス基盤の搬送コンベア等における静電気によるコンタミ対策も可能となる。電動機等の電波ノイズ対策としても適応できる。
【0024】
なお、本実施の形態では、外部シール部材11と内部シール部材12とは、合計で4枚のシール部材であるが、内部シール部材12を1枚として、合計3枚のシール部材としてもよい。その際、導電性グリースは、重複した2枚の外部・内部シール部材11,12にのみ封入する。
【0025】
図2(a)は、本発明の第1実施の形態の第1変形例に係る転がり軸受の断面図であり、(b)は、(a)に示した内部シール部材の側面図である。
【0026】
本変形例では、外部シール11の内方には、内部シール部材12が装着してあり、内部シール部材12は、内輪2側に固定してあり、図2(b)に示すように、鉄製C形シールである。その他の構成、作用、及び効果は、上述した実施の形態と同様である。
【0027】
図3(a)(b)は、それぞれ、本発明の第1実施の形態の第2及び第3変形例に係る転がり軸受の断面図である。
【0028】
図1及び図2の例では、導電性グリースG1と非導電性グリースG2とは、それぞれ、封入位置が異なっている。使用条件によっては、回転に件い両者が混合する可能性もある。
【0029】
そこで、図3(a)の変形例では、外部・内部シール部材11,12の先端の構造が折り曲げてある。これにより、二枚の外部・内部シール部材11,12によって、導電性グリースG1を包み込む形態をとることでき、上記の混合に対する対策を取ることができる。
【0030】
また、図3(b)の変形例では、内部シール部材12の非固定端部のラビリンス部分に、段差を設けた溝13を作り、導電性グリースG1の密封性を向上することも有効である。
【0031】
その他の構成、作用、及び効果は、上述した実施の形態と同様である。
【0032】
本実施の形態に係る転がり軸受は、高速回転でも導電性能が高い導電性グリースを封入した転がり軸受に於いて、以下のような導電性グリースG1が封入してあってもよい。
【0033】
前記導電性グリースG1の組成は、
導電剤:カーボンブラックを10〜20%配合したもの
基油:PAO、鉱油、ポリαオレフィン、エステル油、エーテル油、ポリグリコール油、フッ素油、これらの混合油等であり、但し、軸受使用環境、必要性能で使い分ける
増ちょう剤:リチウム石けんあるいはウレア化合物を2〜10%配合したもの、但し、フッ素油等は、カーボンブラックがそのまま増ちょう剤の役目となる場合もある
添加剤:Zn−DTP、Mo−DTP、Ni−DTC、Mo−DTC等、単独あるいは混合で1〜5%配合したもの、である。
【0034】
また、本実施の形態の他の変形例として、外部・内部シール部材11,12の材質に関して、導通製のある芯金にゴムを貼り付けたゴムシールで、導電性グリースG1の封入位置の一部に、芯金をむき出しにし、導電性グリースG1と接触する構造としたのものである。さらに、これに代えて、ゴムシールの材質を導電材としたものである。
【0035】
また、好適には、転がり軸受の軸受形式は、薄肉軸受、止め輪付き軸受、導電性断熱ブッシュ付き軸受、及び、フランジ付き軸受の何れかである。
【0036】
さらに、好適には、防錆軸受として、SUS材、耐食処理として外輪1や内輪2に無電解ニッケルメッキ等のメッキ処理を施したものである。
【0037】
(第1実施の形態に対応する実施例)
第1実施の形態に対応する実施例を以下に示す。
評価軸受:内径φ8、外径φ22、幅7
評価条件:温度70℃、ラジアル荷重3kgf、回転数4000min−1
評価結果:軸受の導電性耐久試験結果、音響耐久試験結果を以下に示す。
【表1】

【0038】
第1実施の形態に対応する実施例の導電性評価結果を、図4(a)に示す。その音響特性を図4(b)(c)に示す。
【0039】
高速回転使用において、実施例の導電性能は良好である。また、実施例の音響特性は、導電性軸受と比較して良好であり、非導電性軸受と大差はなく実使用上、十分使用できる範囲である。
【0040】
(第2実施の形態)
第2実施の形態は、導電性軸受の導電性検査方法に関するものである。その技術的背景として、導電性軸受は、主に事務機等の低速回転用途で使用され、回転数が遅く、荷重が高いことから、軸受の潤滑状態は、境界潤滑下となることが多い。境界潤滑条件では、転動体とレース面が金属接触しやすい環境のため、初期的な導電性能の優劣判断は困難であり、長期回転履歴を与えた軸受の導電性劣化度合での判定が必要である。軸受の出荷検査は、短時間の回転試験が必要であり、このような長期的な評価方法は、出荷検査には不向きである。
【0041】
本実施の形態は、軸受を回転させ転動体と軌道面に介在する油膜パラメータを0.5以上として、内外輪の抵抗値を測定することにより、軸受の導電性能を測定することを特徴とした転がり軸受の検査方法である。
【0042】
また、これに代えて、軸受を回転させ転動体と軌道面に介在する油膜パラメータを1.5以上として、内外輪の抵抗値を測定することにより、軸受の導電性能を測定することを特徴とした転がり軸受の検査方法である。
【0043】
油膜パラメータとは、軸受の転動体とレース面間の最小油膜厚さと転動体表面とレース面、2面の二乗平均粗さの比で表される式であり、下記となる。
【数1】

hは、軸受の回転数、荷重、温度、潤滑油の粘度により定まるものである。
【0044】
よって、油膜パラメータは軸受の回転数、荷重、温度、転動体表面粗さ、レース面粗さにてコントロールが可能となる。本実施の形態では、この油膜パラメータを最適化することで、導電性評価を可能としたものである。
【0045】
従って、非導電性軸受と導電性軸受の識別が可能となる。更に、導電性軸受でもその優劣判定が可能となる。短時間で検査できることから、軸受の出荷検査に適応できる。
【0046】
(第2実施の形態に対応する実施例)
第2実施の形態に対応する実施例を以下に示す。
評価軸受:内径φ30、外径φ42、幅4
評価条件:常温、ラジアル荷重9kgf
評価軸受仕様:
通常グリース:リチウム系汎用グリース
導電性グリース1):カーボンブラック配合PAO系グリース
導電性グリース2):カーボンブラック配合PAO系グリース
評価結果:
軸受の内外輪間の抵抗値を測定する。結果を以下に示す。図5は、油膜パラメータと導電性の関係を示すグラフである。
【表2】

【0047】
上記より、導電、非導電性の軸受を評価判定するためには、油膜パラメータ0.5以上であると良い。また、同じ導電性軸受であっても、その性能優劣を判断するには、油膜パラメータ1.5以上であると良い。
【0048】
このように、評価軸受の油膜パラメータと導電性能の関係を把握することで、導電性軸受の性能評価が短時間で判別できる。
【0049】
他の導電性軸受に関する検査指標は、上記特性を個別に把握し、適宜閾値を設けることで、軸受の出荷検査となる。
【0050】
実施例は、軸受の荷重、温度、転動体表面粗さ、レース面粗さを一定とし、回転数の変化で油膜パラメータを変化させた結果であるが、他の特性を変化させた検査としても良い。但し、一般的には、簡易的に実施できる回転数による検査条件設定が好ましい。
【0051】
なお、本発明は、上述した実施の形態又は実施例に限定されず、種々変形可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1実施の形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図2】(a)は、本発明の第1実施の形態の第1変形例に係る転がり軸受の断面図であり、(b)は、(a)に示した内部シール部材の側面図である。
【図3】(a)(b)は、それぞれ、本発明の第1実施の形態の第2及び第3変形例に係る転がり軸受の断面図である。
【図4】(a)は、第1実施の形態に対応する実施例の導電性評価結果示し、(b)(c)は、それぞれ、その音響特性を示す。
【図5】本発明の第2実施の形態に係り、油膜パラメータと導電性の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1 外輪
2 内輪
3 玉
4 保持器
11 外部シール部材
12 内部シール部材
13 溝
G1 導電性グリース
G2 非導電性グリース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪との間に、転動体を転動自在に介装した転がり軸受に於いて、
前記外・内輪の端部に、外部シール部材が装着してあり、
当該外部シールの内方に、内部シール部材が装着してあることを特徴とする転がり軸受。
【請求項2】
前記外部シール部材と内部シール部材とは、前記外・内輪のうち、それぞれ、異なるものに固定してあることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記外部シール部材と内部シール部材との間には、導電性グリースが封入してあることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記内部シール部材の内方側には、非導電性グリースが封入してあることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−147012(P2007−147012A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−344465(P2005−344465)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】