説明

転炉内地金の除去方法

【課題】転炉を用いて生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に溶銑に吹き付ける溶銑予備脱燐において、炉内耐火物の溶損を抑制すると共に、転炉内付着地金を効率的に除去する方法を提供する。
【解決手段】溶銑を転炉型精錬炉に装入後、側壁に地金溶解用ノズルを設置した上吹きランスを該精錬炉に挿入して、該上吹きランスの先端に設置した吹錬用ノズルより粉体精錬剤を吹錬用酸素と共に溶銑に吹き付けて脱燐する溶銑予備脱燐吹錬において、前記粉体精錬剤の吹付け期間中には前記側壁に設置した地金溶解用ノズルから地金溶解用酸素を水平方向に噴射させ、前記粉体精錬剤の吹付け終了から前記吹錬用酸素の吹付け終了までは、前記側壁に設置した地金溶解用ノズルが閉塞しないように該地金溶解用ノズルからパージガスを流し続けることを特徴とする転炉内付着地金の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉において生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤をランスから酸素とともに溶銑に吹き付けて溶銑予備脱燐処理を行う際に、その処理と同時に転炉内および炉口に堆積する地金を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉吹錬中に発生するスピッティングやスロッピングにより飛散した溶銑・溶鋼およびスラグの一部は、炉口や炉内側壁に地金として付着、堆積する。スピッティングは、特に生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に溶銑に吹き付けた場合に激しく発生する。スピッティングによって飛散した溶銑・溶鋼は、鉄歩留まりの低下を招くだけでなく、堆積した地金が大きくなると、溶銑やスクラップの装入の障害となり、また、転炉内の耐火物補修作業にも支障を来す。
【0003】
転炉吹錬中の炉口に付着した地金の除去技術として、例えば特許文献1では、吹錬中に、吹錬用主ランスの側壁に設けた2次燃焼用酸素供給ノズルから湯面に向けて2次燃焼用酸素を吹き付け、転炉排ガスを炉内で燃焼させることで発生した熱で炉口に付着した地金を除去する方法が提案されている。しかし、この技術では、2次燃焼によって炉内が2000℃以上の高温になるため、転炉炉口金物および炉内耐火物の溶損が著しいという問題がある。
【0004】
また、特許文献2や特許文献3では、ランス下端から吹錬用酸素ガスを溶銑に吹き付けつつ、当該ランスの外周部から炉内側壁に向けて酸素ガスを噴射して炉内付着地金を除去する方法が提案されている。さらに、特許文献4では、ランス外周部から炉内側壁に向けて噴射する地金溶解用酸素を吹錬用酸素と独立して制御することで、吹錬前期と吹錬後期で地金溶解用酸素流量を制御し、炉内付着地金を効率的に除去する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−248323号公報
【特許文献2】特開平8−127812号公報
【特許文献3】特開平10−317045号公報
【特許文献4】特開2000−96119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
粉体精錬剤を酸素と共に溶銑へ吹き付けて吹錬を実施した場合、酸素のみで吹錬を実施した場合と比較して炉内への地金付着が激しいため、粉体精錬剤の供給に合わせて地金溶解用酸素の供給方法を適切に定める必要がある。
【0007】
しかし、特許文献2〜4には、吹錬用酸素量と地金溶解用酸素量の比や吹錬期間による地金溶解用酸素量の規定は記載されているものの、生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に溶銑へ吹き付ける際の炉内付着地金を効率的に除去する方法に関する記載はない。
【0008】
また、転炉の炉体形状は中腹部より炉口に向かうにつれてその内径が縮小する形状となっている。そのため、上吹きランス下端の吹錬用ノズルから鉛直方向に向かってランス側壁上部の高さの異なる複数箇所に地金溶解用ノズルを設置させた場合、当該地金溶解用ノズルから同量の酸素ガスを噴射すると、炉口に近づくほど耐火物の溶損が進行する。このような耐火物の溶損の不均一な進行を抑制するには、鉛直方向で上方の炉口方向に向かうにつれ地金溶解用酸素量を減少するように変化させる必要がある。しかし、特許文献1〜4にはこのような技術的事項の記載は見られない。
【0009】
本発明は、これらの問題に鑑みてなされたものであり、転炉を用いて生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に溶銑に吹き付ける溶銑予備脱燐吹錬(転炉吹錬)において、炉内耐火物の溶損を抑制すると共に、転炉内の付着地金を効率的に除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために、炉内における地金の付着状況について定量的評価および解析を行い、さらに、耐火物の溶損を抑制しつつ付着地金を効果的に除去する方法について検討し、本発明を完成させた。
【0011】
1.検討に用いた装置の構成
生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に溶銑に吹き付ける転炉吹錬において、上吹きランスの下端に設けられた吹錬用ノズルから粉体精錬剤と酸素を共に溶銑に吹き付けながら、当該上吹きランスの側壁上部の高さの異なる複数位置に設置された地金溶解用ノズルから、地金が付着した炉内壁面に向けて酸素ガスを噴射することによって、付着地金を溶解除去する。その際、地金付着の原因となる粉体精錬剤の供給に伴うスピッティングの発生との関係を考慮する。また、炉口付近は炉の内径が縮小しているため、上吹きランスの側壁の各高さに設置した地金溶解用ノズルの内径を、当該上吹きランスの吹錬用ノズルの鉛直方向上方に向けて、炉内壁面との距離に応じて異なるものとした上吹きランスを使用する。
【0012】
2.炉内地金付着状況の定量的評価(ダスト発生量調査)
生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に吹き付ける転炉吹錬(脱燐吹錬)における炉内地金付着状況を定量的に評価するため、先ず吹錬中のダスト発生量を調査した。
【0013】
2−1.調査方法
この調査において、転炉吹錬の対象溶銑量は80tとした。吹錬開始前および吹錬終了後の溶銑成分は表1に示す通りであった。吹錬終了後のスラグの塩基度は、塊状生石灰(粒径:10〜50mm、CaO:90質量%、残部:CO2および不純物)と粉状生石灰(粒径:150μm以下、CaO:90質量%、残部:CO2および不純物)を併用して、スラグ分析による質量濃度比で、CaO/SiO2が2.2〜2.8の範囲になるように調整した。粉体精錬剤(粉状生石灰)は、供給する場合としない場合の両方について調査を行った。
【0014】
【表1】

【0015】
上吹きランスには、先端に吹錬用ノズルとして、直径が36mm、傾斜角が6°のラバールノズルを4個形成したものを使用した。吹錬用酸素流量は、粉体精錬剤の供給の有無に関わらず8000Nm3/hrで一定とした。吹錬時間は10分とした。
【0016】
粉体精錬剤の供給条件は、前記粉状生石灰供給速度を300kg/分、粉状生石灰吹き込み時期を吹錬開始2.0分後から5.0分間とした。
【0017】
ダスト発生量の評価は、吹錬中の集塵水を吹錬開始から1分間隔で回収し、測定した集塵水中のダスト(T.Fe)含有率を指標として行った。
【0018】
2−2.調査結果
(1)粉体精錬剤を供給しなかった場合(酸素のみを供給して転炉吹錬を実施した場合)
図1は、上吹きランスから酸素のみを供給して転炉吹錬を実施した場合の、吹錬経過時間と集塵水中のT.Fe含有率との関係を示す図である。
【0019】
先ず、酸素のみで転炉吹錬を実施した場合、図1に示すように、ダスト発生量は吹錬が進行するにしたがって減少する傾向が認められた。この結果は、酸素のみで吹錬を実施した場合は、精錬剤の滓化の進行と共に吹錬中のスピッティングが抑制されるため、吹錬前半における炉内付着地金の形成、成長速度が速いという、従来のスピッティングに関する知見と対応していると考えられる。
【0020】
(2)粉体精錬剤を供給した場合
図2は、上吹きランスから生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に溶銑に吹き付けて転炉吹錬を実施した場合の、吹錬経過時間と集塵水中のT.Fe含有率との関係を示す図である。
【0021】
一方、粉体精錬剤を酸素と共に溶銑に吹き付ける吹錬を実施した場合、図2に示すように、粉体精錬剤の供給中は吹錬の進行状況に関わらずダスト発生量が多いことが認められた。このことは、上記の酸素のみで転炉吹錬を実施した場合との対応関係から類推して、粉体精錬剤を酸素と共に溶銑に吹き付ける吹錬の場合は、吹錬の進行状況に関わらず、粉体精錬剤の供給中にはスピッティングが多く発生していたことを示していると考えられる。スピッティングによる溶銑などの飛散が多いと炉内付着地金の形成、成長が激しくなるため、粉体精錬剤の供給中は地金溶解用酸素を供給(噴射)し続ける必要があるということになる。
【0022】
しかし、図2に示すように、粉体精錬剤の供給終了後はダスト発生量が低下していた。これは、粉体精錬剤は、溶銑への吹き付け後速やかに滓化が進行するためである。そのため、粉体精錬剤の供給終了後は、地金溶解用酸素を噴射する必要はない。粉体精錬剤の供給終了後も地金溶解用酸素を噴射し続けた場合、炉壁耐火物の溶損を進行させる恐れがあると考えられる。
【0023】
2−3.考察
以上の結果から、生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に吹き付ける溶銑予備脱燐吹錬において、炉壁耐火物の溶損を抑制しつつ効果的に炉内付着地金を除去する方法として、粉体精錬剤の供給中には上吹きランスの側壁上部に設置した地金溶解用ノズルから地金溶解用酸素を適正量噴射させるとともに、粉体精錬剤の供給終了から吹錬終了までは、当該地金溶解用ノズルが閉塞しないように窒素や空気等のパージガスを流し続ける、または炉壁耐火物が溶損しない程度まで酸素ガス流量を低下させる方法を着想し、調査、検討を経て本発明(下記(1)参照)を完成させた。
【0024】
なお、吹錬用酸素の吹付け開始から粉体精錬剤の供給開始までの間は、地金溶解用ノズルから地金溶解用酸素を適当量噴射させても良いし、パージガスを流し続けても良い。
【0025】
3.付着地金を効果的に除去する方法についての検討
3−1.実験方法
図3は、上吹きランス下端の吹錬用ノズルから鉛直方向に向かってランス側壁上部の高さの異なる複数箇所に地金溶解用ノズルを設置させた場合の吹錬装置の概念図である。図3に示すように、転炉吹錬は、上吹きランス4aを転炉3aに挿入して、溶銑1aに酸素を吹き付けて実施する。図3に示す吹錬装置の基本構成は後述の図6に示す吹錬装置と同様であり、実質的に同一の部分には図6に記載の符号にaを付した。
【0026】
転炉3aは、底部から中腹部まではその内径が一定の炉体直胴部12aと、中腹部より炉口側に向かうにつれてその内径が縮小する炉体傾斜部13aとからなる。一般的に転炉吹錬中のスピッティングにより飛散した溶銑などは、炉内壁面7aのうち、炉体傾斜部13に付着地金8aとして堆積しやすい。炉体傾斜部13に形成された付着地金8aを溶解除去するには、上吹きランス4aの側壁上部に設置する地金溶解用ノズル6aの位置を、吹錬中において炉体傾斜部の高さとなるようにすることが望ましい。
【0027】
そこで、図3に示すように、転炉吹錬中の上吹きランス4aの側壁上部の、炉体傾斜部下端9a付近、炉体傾斜部中央部10a付近および炉口部11aの高さ位置のそれぞれに、吹錬用ノズル5aの鉛直方向に、地金溶解用ノズル6aを12個ずつ設置した。全ての地金溶解用ノズル6aの内径は4.4mmとし、各地金溶解用ノズル6aから同量の酸素ガスを炉体傾斜部13の炉内壁面7aに向け噴射した。
【0028】
3−2.実験結果
先ず、各地金溶解用ノズル6aの酸素流量を変化させて、炉体傾斜部下端9a付近、炉体傾斜部中央部10a付近および炉口部11aのそれぞれにおける付着地金8aの溶解量および炉壁耐火物の溶損量の評価を行った。
【0029】
付着地金の溶解量の評価指標としては「地金溶解指数」を用い、炉壁耐火物の溶損量の評価指標としては「炉壁耐火物溶損速度指数」を用いた。
【0030】
「地金溶解指数」とは、溶解除去前のレベルを0、完全に溶解できたレベルを10.0とし、炉内の目視観察およびプロフィール測定計を用いた厚さ測定により、付着地金の溶解量を指数化したものである。
【0031】
「炉壁耐火物溶損速度指数」とは、炉内の目視確認で炉壁耐火物表面が確認できた際の炉壁耐火物の厚さを、プロフィール測定計を用いて測定し、地金溶解用ノズル6aの酸素流量が40Nm3/hrの場合の炉体傾斜部下端付近における炉壁耐火物の溶損速度(mm/ch)(炉壁耐火物の厚さの吹錬1回あたりの変化量)を基準値「1」としたものである。
【0032】
図4は、地金溶解用ノズル1孔あたりの酸素流量と地金溶解指数の関係を示す図である。図4から、例えば炉口部、炉体傾斜部中間付近および炉体傾斜部下端付近の全面において炉内壁面の付着地金を除去するには、地金溶解用ノズル1孔あたりの酸素流量を40Nm3/hr以上とする必要があることがわかる。
【0033】
図5は、地金溶解用ノズル1孔あたりの酸素流量と炉壁耐火物溶損速度指数の関係を示す図である。図5から、地金溶解用ノズル1孔あたりの酸素流量を40Nm3/hr以上の場合、炉口付近の炉壁耐火物の溶損が、炉体傾斜部中間付近および炉体傾斜部下端付近よりも速く進行することがわかる。これは、炉体傾斜部の炉内壁面と地金溶解用ノズルとの距離が、炉口に向かうにつれて縮小するためである。
【0034】
3−3.考察
図4および図5に示す結果から、転炉の炉体傾斜部の炉内壁面の付着地金を効率的に除去するには限界があることがわかった。
【0035】
また、これらの結果に基づいて、上吹きランス下端の吹錬用ノズルから鉛直方向に向かってランス側壁上部の高さの異なる複数箇所に地金溶解用ノズルを設置させる場合、吹錬中の地金溶解用ノズルと炉内壁面との距離に応じて内径を異なるものとすることで、炉口付近の炉壁耐火物の溶損を抑制しつつ、炉体傾斜部の全面において炉内壁面の付着地金を効果的に除去する方法を着想し、調査、検討を経て本発明(下記(2)参照)を完成させた。
【0036】
4.本発明の要旨
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は下記(1)および(2)に示す転炉内付着地金の除去方法にある。
【0037】
(1)溶銑を転炉型精錬炉に装入後、側壁に地金溶解用ノズルを設置した上吹きランスを該精錬炉に挿入して、該上吹きランスの先端に設置した吹錬用ノズルより粉体精錬剤を吹錬用酸素と共に溶銑に吹き付けて脱燐する溶銑予備脱燐吹錬において、前記粉体精錬剤の吹付け期間中には前記側壁に設置した地金溶解用ノズルから地金溶解用酸素を水平方向に噴射させ、前記粉体精錬剤の吹付け終了から前記吹錬用酸素の吹付け終了までは、前記側壁に設置した地金溶解用ノズルが閉塞しないように該地金溶解用ノズルからパージガスを流し続けることを特徴とする転炉内付着地金の除去方法。
【0038】
(2)前記転炉型精錬炉が上部に炉体傾斜部を有し、前記上吹きランスの側壁には地金溶解用ノズルを高さの異なる複数の位置に設置させ、該地金溶解用ノズルの出口と転炉壁面との距離が最も大きい位置における地金溶解用ノズルの内径をRo(mm)、該地金溶解用ノズルの出口と転炉壁面との距離をDo(mm)とし、地金溶解用ノズルの出口と転炉壁面との距離が最も大きい位置における地金溶解用ノズルの上方の、前記炉体傾斜部の高さ位置における地金溶解用ノズルの内径をRi(mm)、該地金溶解用ノズルの出口と転炉壁面との距離をDi(mm)とした場合、Ro、DoとRi、Diとの関係が下記(1)式を満たす範囲になるように地金溶解用ノズルが設置されている上吹きランスを用いて前記溶銑予備脱燐吹錬を行うことを特徴とする請求項1に記載した転炉内付着地金の除去方法
Ro・(Di/Do)≦Ri≦Ro …(1)
【発明の効果】
【0039】
本発明の転炉内付着地金の除去方法によれば、生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に溶銑に吹き付ける転炉吹錬において、炉壁耐火物の損耗を抑制しつつ、効果的に炉内付着地金を除去することが可能であり、かつ、地金溶解用ノズルの閉塞を抑制することができるため、転炉の生産性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】上吹きランスから酸素のみを供給して転炉吹錬を実施した場合の、吹錬経過時間と集塵水中のT.Fe含有率との関係を示す図である。
【図2】上吹きランスから生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に溶銑に吹き付けて転炉吹錬を実施した場合の、吹錬経過時間と集塵水中のT.Fe含有率との関係を示す図である。
【図3】上吹きランス下端の吹錬用ノズルから鉛直方向に向かってランス側壁上部の高さの異なる複数箇所に地金溶解用ノズルを設置させた場合の吹錬装置の概念図である。
【図4】地金溶解用ノズル1孔あたりの酸素流量と地金溶解指数の関係を示す図である。
【図5】地金溶解用ノズル1孔あたりの酸素流量と炉壁耐火物溶損速度指数の関係を示す図である。
【図6】本発明を実施するために用いる装置例の概念図である。
【図7】炉内壁面各位置における地金溶解速度指数を示す図である。
【図8】炉体傾斜部中央部および炉口部における、地金溶解用ノズルの内径と地金溶解速度指数との関係を示す図である。
【図9】炉内壁面各位置における炉壁耐火物溶損速度指数を示す図である。
【図10】炉体傾斜部中央部および炉口部における、地金溶解用ノズルの内径と炉壁耐火物溶損速度指数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に、本発明の方法を上述の通り規定した理由および本発明の好ましい態様について説明する。
【0042】
1.本発明を実施するための装置
図6は、本発明を実施するために用いる装置例の概念図である。転炉3は、内径が一定の炉体直胴部12と、炉体直胴部12の上部に配置され、上方に向かうにつれてその内径が縮小する炉体傾斜部13とからなり、炉体傾斜部13の上端には炉口が設けられている。吹錬の実施時には、溶銑1および精錬剤2が装入された転炉3の炉口から炉内に上吹きランス4を挿入する。
【0043】
上吹きランス4は、下端に吹錬用酸素と生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を溶銑に吹き付ける吹錬用ノズル5を備える。また、上吹きランス4の側壁の、下端から上方の高さの異なる複数の所定位置に、炉内壁面7に向かって酸素ガスを噴射可能な地金溶解用ノズル6を備える。
【0044】
上吹きランス4の構造は、吹錬用ノズル5に酸素ガスおよび粉体精錬剤を供給する配管を接続し、地金溶解用ノズル6に酸素ガスおよびパージガスを供給する配管を接続し、ならびに上吹きランス4の冷却用給水管および排水管を内部に配置した、四重管構造とする。このように、上吹きランス4は、地金溶解用酸素の供給経路を吹錬用酸素の供給経路から独立して制御し得る構造とする。
【0045】
本発明の方法は、上吹きランス4を用いて、転炉3の炉内壁面7に堆積した付着地金8の除去を行うことが目的である。そのため、転炉3内に上吹きランス4を挿入した後に、吹錬用ノズル5から溶銑1に酸素と生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を吹き付けて吹錬を実施すると同時に、地金溶解用ノズル6から炉内壁面7に酸素を噴射する。このとき、炉内壁面7に堆積した付着地金8の表面温度は高温の状態にあるので、付着地金8は、地金溶解用ノズル6から吹き付けられた酸素と反応して溶解・溶断される。
【0046】
本発明において、上吹きランス4から酸素と共に溶銑1に吹き付けられる粉体精錬剤は、脱燐剤としての役割を果たすことができるものであれば何でも良い。具体的にはCaOを40質量%以上含有している生石灰、石灰石、転炉スラグなどであって、粒径が1mm以下の粉体が例示される。
【0047】
2.地金溶解用ノズルの内径
2−1.仮説
ここで、先に前記図1および前記図2を対比して説明したように、スピッティングは粉体精錬剤の吹き付け中に多く発生することがわかっている。このことから、付着地金の成長も粉体精錬剤の吹き付け中に大きいと推測できる。そのため、付着地金を溶解するための、地金溶解用ノズルからの酸素の噴射もその期間(粉体精錬剤の吹付け中)に限ることが効果的であると予測できる。
【0048】
また、上吹きランス下端の吹錬用ノズルから鉛直方向に向かってランス側壁上部に設置する地金溶解用ノズルの内径を、地金溶解用ノズルの出口と炉内壁面との距離に応じて調整することで、地金溶解用ノズルとの距離が一定ではない炉体傾斜部の炉内壁面の全体を同時に、炉壁耐火物の溶損を抑制しつつ効果的に付着地金の除去が可能となると考えられる。
【0049】
2−2.調査方法
そこで、上吹きランスの吹錬用ノズルから鉛直方向に向かってランス側壁上部の高さの異なる複数箇所に地金溶解用ノズルを設置した場合の、吹錬中における地金溶解用ノズルの出口と炉内壁面との距離が最も大きい位置における地金溶解用ノズル(図6では3段に配置された地金溶解用ノズル6のうち最下段のもの)の内径をRo(mm)、その地金溶解用ノズルの出口と炉内壁面との距離をDo(mm)とし、吹錬中における地金溶解用ノズルの出口と炉内壁面との距離が最も大きい位置における地金溶解用ノズルの上部に配置された、炉体傾斜部の高さの地金溶解用ノズル(図6では3段に配置された地金溶解用ノズル6のうち上2段のもの)の内径をRi(mm)、その地金溶解用ノズルの出口と炉体傾斜部の炉内壁面との距離をDi(mm)とした場合に、各高さの地金溶解用ノズル6の内径を変更して地金溶解用酸素を所定の一定流量噴射し、Ro、Do、RiおよびDiの適正な関係を調査した。
【0050】
(1)溶銑条件
この調査において、転炉吹錬(脱燐吹錬)の対象溶銑量は80tとした。吹錬開始前および吹錬終了後の溶銑成分は表2に示す通りであった。吹錬終了後のスラグの塩基度は、塊状生石灰(粒径:10〜50mm、CaO:90質量%、残部:CO2および不純物)と粉状生石灰(粒径:150μm以下、CaO:90質量%、残部:CO2および不純物)を併用して、スラグ分析による質量濃度比で、CaO/SiO2が2.2〜2.8の範囲になるように調整した。
【0051】
【表2】

【0052】
(2)吹錬条件
上吹きランスには、先端に吹錬用ノズルとして、直径が36mm、傾斜角が6°のラバールノズルを4個形成したものを使用した。吹錬用酸素流量は、表3に示す通り、いずれの実施例とも粉体精錬剤の吹付け期間中であるか否かに関わらず8000Nm3/hrで一定とした。吹錬時間は10分とした。
【0053】
粉体精錬剤(前記粉状生石灰)の供給条件は、吹込み速度を300kg/分、吹込み時期を吹錬開始2.0分後から5分間とした。また、吹錬用ノズルは、内径を36mm、個数を4個とした。
【0054】
【表3】

【0055】
(3)地金溶解条件
地金溶解用ノズルは、吹錬中における炉体との位置関係が、前記図6中の炉体傾斜部下端9、炉体傾斜部中央部10、炉口部(炉体傾斜部最上部)11の高さの3箇所となるように設置した。各設置箇所における吹錬中の地金溶解用ノズルの個数、形状、内径およびノズル出口と転炉内壁との距離は、表3に示す通りである。
【0056】
地金溶解用酸素は、地金溶解用ノズルから炉内壁面に形成された付着地金に向けてほぼ水平に噴射した。地金溶解用酸素の噴射時期は粉体精錬剤(粉状生石灰)の供給期間に一致させるとともに、粉体精錬剤の供給終了から地金溶解用酸素の供給終了までパージガスを地金溶解用ノズルから流すことを実施例の基本的な実施態様とした。パージガスを流すことによって、粉体精錬剤の供給終了から地金溶解用酸素の供給終了までの期間における地金溶解用ノズルの閉塞を抑制することができる。ただし、一部の実施例では、上吹きランスからの吹錬用酸素の吹付け開始(吹錬開始)からその終了(吹錬終了)までとした(表3に示す「比較法」)。脱燐精錬による溶銑成分の変化には、その一部の実施例(比較法)とその他の基本的実施態様の実施例との間で実用上有意な差異が現れなかったことを確認した。
【0057】
地金溶解用酸素の流量については、吹錬中における吹錬中における地金溶解用ノズルの出口と炉内壁面との距離が最も大きい位置における地金溶解用ノズル(炉体傾斜部下端の高さ)での流量を40Nm3/hrに固定した。これは、先に図4で炉口部、炉体傾斜部中間付近および炉体傾斜部下端付近の全面において炉内壁面の付着地金を除去するのに必要であることを確認した地金溶解用ノズル1孔あたりの酸素流量である40Nm3/hr以上の最小の値であり、炉壁耐火物の溶損抑制を考慮した値である。
【0058】
その上で、炉体傾斜部中央部および炉口部の高さに位置する、地金溶解用ノズルの内径Ri(mm)を変化させた場合の付着地金の溶解量および炉壁耐火物の溶損量の評価を行った。表3には、「従来法」、「比較法」および「本発明例1〜6」それぞれの実施例の吹錬条件および地金溶解条件を示す。
【0059】
いずれの実施例とも、吹錬用酸素の供給条件および粉状生石灰の供給条件は同一として脱燐吹錬を行った。
【0060】
「従来法」とは、地金溶解用ノズルを有しない上吹きランスを用いた実施例である。
【0061】
「比較法」とは、地金溶解用ノズルを有する上吹きランスを用いた実施例であり、吹錬中の地金溶解用ノズルの出口から炉内壁面までの距離は1010mm(炉口部の高さ)、1340mm(炉体傾斜部中央部の高さ)、1680mm(炉体傾斜部下端(転炉内壁の直胴部と傾斜部の継ぎ目部)の高さ)とした。地金溶解用ノズルは内径が全て4.4mmとし、それぞれの高さにおいて12個ずつ設置した。地金溶解用酸素の噴射速度(送酸速度)は、合計で40Nm3/hr×12個×3箇所=1440Nm3/hrとし、噴射時期は吹錬用酸素供給の開始から終了までとした。
【0062】
「本発明例1」は、「比較法」と同一の地金溶解用ノズルを有する上吹きランスを用いた実施例であり、地金溶解用酸素の供給条件が異なる。「本発明例1」では、地金溶解用酸素の供給速度を合計で1440Nm3/hrとし、供給期間を粉状生石灰(粉体精錬剤)供給の開始から終了までとした。また、地金溶解用ノズルからのパージガスには窒素を用い、その供給期間を粉体精錬剤の供給終了から地金溶解用酸素の供給終了までの期間とした。
【0063】
なお、吹錬用酸素供給の開始から粉状生石灰の供給開始までは、地金溶解用ノズルから窒素を流した。
【0064】
「本発明例2」〜「本発明例6」は、「本発明例1」の条件のうち上吹きランスだけ変更した実施例である。「本発明例2」〜「本発明例6」で用いた上吹きランスは、地金溶解用ノズルの内径を、炉体傾斜部中央部の高さおよび炉口部の高さで、「本発明例1」で使用したものよりも小さくした。ただし、炉体傾斜部下端付近(転炉内壁の直胴部と傾斜部の継ぎ目部)の高さの地金溶解用ノズル1孔あたりの地金溶解用酸素の流量は40Nm3/hrで一定とした。
【0065】
2−3.調査結果
(1)付着地金の溶解
図7は、炉内壁面各位置における地金溶解速度指数を示す図である。
図8は、炉体傾斜部中央部および炉口部における、地金溶解用ノズルの内径と地金溶解速度指数との関係を示す図である。
【0066】
図7および図8では、縦軸は地金溶解速度指数であり、地金溶解速度指数の尺度は、或る1点を定めて付着地金の厚さの変化を測定した場合の吹錬1回あたりの変化量「mm/ch」とした。炉内壁面の付着地金は、炉口部から垂れ下がるようにして側壁の全周に形成されるが、その付着地金の厚さは必ずしも均等ではなくトラニオン側が厚い傾向があって、付着地金の厚さの変化の正確な測定平均値を算出することは困難かつ無意味であるからである。
【0067】
この付着地金の厚さはレーザー距離計などを用いて測定することができ、ここでは表3に示したように、上記比較法における炉体傾斜部下端の高さの地金溶解速度指数を基準値「1」とした。また、「厚さ不変」の場合を「0」とした。
【0068】
従来法では、付着地金の厚さは厚くなる方向に変化するため指数は「負」である。比較法および本発明例1〜本発明例6では、付着地金の厚さは薄くなる方向に変化するため指数は「正」である。
【0069】
図7から、従来法では、転炉内の各位置での付着地金の厚さは増加方向に変化しており、中でも炉口部での地金付着が多いことがわかる。これは、溶銑への粉体精錬剤の吹き付けに伴ってスピッティングの発生が激しく、これにより飛散した溶銑などが炉口部に向けて跳ね上がっていることを表していると考えられる。
【0070】
一方、地金溶解用酸素を炉内壁面に向けて噴射(供給)する比較法および本発明例1〜本発明例6では、付着地金を溶解できていることが明らかであり、中でも比較法の溶解効果が大きかった。比較法では、炉内の上部ほど溶解速度が高い傾向が認められた。
【0071】
本発明例1は、地金溶解用酸素の噴射を粉状生石灰の供給停止後には止めていたにもかかわらず、比較法とほぼ同等の地金溶解効果を有していたことがわかる。
【0072】
図8から、本発明例2〜本発明例6においては、地金溶解用ノズルの内径Ri(mm)を小さくするにしたがって、地金溶解速度が低下し、Ri=Ro・(Di/Do)を満たす条件よりもRiを小さくした場合、地金溶解速度が極端に低下する傾向が認められた。
【0073】
各地金溶解用ノズルから噴射した酸素ガスの、炉内壁面の各位置における中心線流速は、ノズルの内径(R)に比例し、ノズルの出口と炉内壁面との距離(D)に反比例する。
【0074】
そのため、以下の(a)〜(c)に示す条件を満たすことが望ましいと考えられる。
(a)地金溶解用ノズル出口と炉内壁面との距離が最も大きい位置に設置された地金溶解用ノズルから供給される地金溶解用酸素のノズル1孔あたりの流量を、炉内壁面の付着地金を除去可能であって、かつ炉壁耐火物溶損の抑制を考慮して最小流量条件に固定した場合において、
(b)地金溶解用ノズル出口と炉内壁面との距離が縮小する炉体傾斜部上部の高さに配置された地金溶解用ノズルの内径Ri(mm)を縮小する場合には、
(c)少なくとも炉内壁面の各位置における地金溶解用酸素の中心線流速が、地金溶解用ノズル出口と炉内壁面との距離が最も大きい位置に設置された地金溶解用ノズルから供給される地金溶解用酸素の炉内壁面における中心線流速と、同等以上としておくこと。
【0075】
すなわち、以下の(d)〜(g)に示す条件を満たすことが望ましい。
(d)上吹きランス下端の吹錬用ノズルから鉛直方向に向かってランス側壁上部の高さの異なる複数箇所に地金溶解用ノズルを設置した場合の、
(e)吹錬中における地金溶解用ノズル出口と炉内壁面との距離が最も大きい位置における地金溶解用ノズルの内径をRo(mm)、その地金溶解用ノズルの出口と炉内壁面との距離をDo(mm)とし、
(f)吹錬中における地金溶解用ノズル出口と炉内壁面との距離が最も大きい位置における地金溶解用ノズルの上部に配置された、炉体傾斜部の高さの地金溶解用ノズルの内径をRi(mm)、その地金溶解用ノズルの出口と炉体傾斜部の炉内壁面との距離をDi(mm)とした場合には、
(g)炉内壁面に形成された付着地金の溶解速度の観点から、Riに関しては下記(1)式を満たすこと。
Ro・(Di/Do)≦Ri≦Ro …(1)
【0076】
(2)炉壁耐火物の溶解
図9は、炉内壁面各位置における炉壁耐火物溶損速度指数を示す図である。図9は、前記図7との対応関係が分かるようにして示した図である。各凡例の意味は図7と同一である。
図10は、炉体傾斜部中央部および炉口部における、地金溶解用ノズルの内径と炉壁耐火物溶損速度指数との関係を示す図である。
【0077】
図9および図10では、縦軸は炉壁耐火物溶損速度指数であり、ここでは上記比較法における炉体傾斜部最下部の高さの平均的な炉壁耐火物溶損速度を指数の基準値「1」とした。炉壁耐火物の厚さ測定時において、炉壁耐火物の厚さが地金付着前の状態と比較して増加しており、かつ目視で炉内壁面を観察して付着地金が残存していた場合には、炉壁耐火物の溶損量は0mmとみなし、指数を「0」として評価した。
【0078】
図9から、従来法では、基本的に地金の付着が進行する傾向にあるため、炉壁耐火物の溶損は全体に認められない。
【0079】
一方、地金溶解用酸素を炉内壁面に向けて噴射する比較法および本発明例1〜本発明例6では、いずれも従来法よりも炉壁耐火物が溶損しやすい傾向にあることがわかる。中でも、地金溶解用酸素を吹錬用酸素の供給中に終始噴射し続ける比較法では、炉壁耐火物の溶損が顕著であった。
【0080】
しかし、地金溶解用酸素の噴射を粉状生石灰の供給停止後に止めた本発明例1では、炉壁耐火物溶損速度は減少した。ただし、炉体傾斜部中央部および炉口付近の炉壁耐火物溶損速度は、炉体傾斜部下端付近と比較して大きかった。
【0081】
図10から、本発明例2〜本発明例6においては、地金溶解用ノズルの内径Ri(mm)を小さくするにしたがって、炉壁耐火物溶損速度が減少する傾向が認められた。この効果は、地金溶解用ノズルの内径Ri(mm)が、上記(1)式を満たす範囲で全般的に認められた。
【0082】
理想的には、地金溶解用ノズルの内径Ri(mm)をRo・(Di/Do)として設定すれば、炉壁耐火物の溶損を最も抑制しつつ、効果的に付着地金の溶解除去が可能であると考えられる。しかし、炉体の部位によって付着地金の量が異なるため、炉内の付着地金の量によって、地金溶解用ノズルの内径Ri(mm)を、上記(1)式を満足する範囲で適宜選択すれば良い。
【0083】
2−4.考察
以上のことから、今回の調査結果を総合的に考えると、次のような操業方法が適当であると考えられる。
1)先ず、地金溶解用酸素を全く使わないと、炉内付着地金が徐々に成長してしまい、操業に支障をきたすようになるが、そのようになっても、地金溶解用酸素を噴射させれば、前記図7のように付着地金を溶解することができる。
2)但し、地金溶解用酸素は耐火物の溶損を促進してしまう悪影響を伴う。そこで、付着地金の溶解を促進したい場合でも、上記本発明例1の方法(地金溶解用酸素の供給期間を粉体精錬剤供給の開始から終了までとし、粉体精錬剤の供給終了から地金溶解用酸素の供給終了までパージガスを地金溶解用ノズルから流す方法)を適用することによって、比較的に耐火物溶損を抑制することができる。
3)一方、付着地金の溶解を格別急ぐ必要がない場合には、上記本発明例2〜本発明例6の方法を適用することによって、付着地金を溶解しつつ、炉壁耐火物の溶損を、地金溶解用酸素を使わない場合の程度に近づけることができる。ここで、最下段の地金溶解用ノズルの内径Roの酸素ガス流量を、炉壁耐火物の溶損を抑制しつつ付着地金を溶解除去可能な量に設定した場合、炉体傾斜部中央部や炉口部の高さの地金溶解用ノズルの内径Ri(mm)を、下記(1)式を満足する範囲で適宜選択すれば良い。
Ro・(Di/Do)≦Ri≦Ro …(1)
4)さらに、上記の調査例では、本発明例1〜本発明例6において、地金溶解用酸素の噴射を粉状生石灰の供給中ずっと継続していた。しかし、その酸素供給時間を粉状生石灰の供給期間中に適宜短縮することによって、地金溶解速度と炉壁耐火物溶損速度のいずれも低下させることが可能なことは自明である。
【実施例】
【0084】
本発明の方法の効果を確認するため、下記の転炉吹錬試験を行うとともに、炉内壁面への付着地金の形成状況および炉壁耐火物の溶損状況の評価を行った。
【0085】
1.試験条件
(1)溶銑条件
転炉吹錬(脱燐吹錬)の対象溶銑量は80tとした。吹錬開始前および吹錬終了後の溶銑成分は表4に示す通りであった。吹錬終了後のスラグの塩基度は、塊状生石灰(粒径:10〜50mm、CaO:90質量%、残部:CO2および不純物)と粉状生石灰(粒径:150μm以下、CaO:90質量%、残部:CO2および不純物)を併用して、スラグ分析による質量濃度比で、CaO/SiO2が2.2〜2.8の範囲になるように調整した。
【0086】
【表4】

【0087】
(2)吹錬条件
上吹きランスとして、先端に吹錬用ノズルとして、直径が36mm、傾斜角が6°のラバールノズルを4個形成したものを使用した。吹錬用酸素流量は、前記表3に示す通り、8000Nm3/hrで一定とした。吹錬時間は8〜11分とした。粉体精錬剤の供給条件は、粉状生石灰(粉体精錬剤)供給速度を300kg/分、粉状生石灰吹き込み時期を吹錬開始1.5分後から5分間とした。また、吹錬用ノズルは、内径を36mm、個数を4個とした。
【0088】
(3)地金溶解条件
また、上吹きランスには、吹錬用ノズルから鉛直方向に向かってランス側壁上部の高さの異なる複数箇所に地金溶解用ノズルを設置した。吹錬中の地金溶解用ノズルは、炉体との位置関係が、前記図6中の炉体傾斜部下端9、炉体傾斜部中央部10、炉口部(炉体傾斜部最上部)11の高さの3箇所となるように設置した。各設置箇所における吹錬中の地金溶解用ノズルの個数、形状、内径およびノズル出口と転炉内壁との距離は、前記表3の本発明例3に示す通りとした。そして、地金溶解用ノズルから、炉内壁面に付着した地金に向けて地金溶解用酸素をほぼ水平に噴射し、付着地金を除去する吹錬を行った。
【0089】
地金溶解用酸素の噴射期間は、粉状生石灰(粉体精錬剤)の供給期間に一致させることを基本的な実施態様とした。また、その前後の期間には、窒素を流しておいた。
【0090】
2.試験結果
この吹錬操業を100ch(チャージ)行って、20ch程度毎に炉内壁面への地金の付着状況を測定した。その結果、付着地金の厚さには有意な変化が見られなかった。同時に、炉壁耐火物の溶損状況も測定したところ、従来の操業と同様に、100ch程度の吹錬では実質的に溶損はほとんどない状態であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の転炉内付着地金の除去方法によれば、生石灰などCaOを主成分とする粉体精錬剤を酸素と共に溶銑に吹き付ける転炉吹錬において、炉壁耐火物の損耗を抑制しつつ、効果的に炉内付着地金を除去することが可能であり、転炉の生産性を大幅に向上させることができる。
【符号の説明】
【0092】
1、1a:溶銑、 2:精錬剤、 3、3a:転炉、 4、4a:上吹きランス、
5、5a:吹錬用ノズル、 6、6a:地金溶解用ノズル、 7、7a:炉内壁面、
8、8a:付着地金、 9、9a:炉体傾斜部下端、
10、10a:炉体傾斜部中央部、 11、11a:炉口部、
12、12a:炉体直胴部、 13、13a:炉体傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑を転炉型精錬炉に装入後、側壁に地金溶解用ノズルを設置した上吹きランスを該精錬炉に挿入して、該上吹きランスの先端に設置した吹錬用ノズルより粉体精錬剤を吹錬用酸素と共に溶銑に吹き付けて脱燐する溶銑予備脱燐吹錬において、
前記粉体精錬剤の吹付け期間中には前記側壁に設置した地金溶解用ノズルから地金溶解用酸素を水平方向に噴射させ、
前記粉体精錬剤の吹付け終了から前記吹錬用酸素の吹付け終了までは、前記側壁に設置した地金溶解用ノズルが閉塞しないように該地金溶解用ノズルからパージガスを流し続けること
を特徴とする転炉内付着地金の除去方法。
【請求項2】
前記転炉型精錬炉が上部に炉体傾斜部を有し、
前記上吹きランスの側壁には地金溶解用ノズルを高さの異なる複数の位置に設置させ、
該地金溶解用ノズルの出口と転炉壁面との距離が最も大きい位置における地金溶解用ノズルの内径をRo(mm)、該地金溶解用ノズルの出口と転炉壁面との距離をDo(mm)とし、
地金溶解用ノズルの出口と転炉壁面との距離が最も大きい位置における地金溶解用ノズルの上方の、前記炉体傾斜部の高さ位置における地金溶解用ノズルの内径をRi(mm)、該地金溶解用ノズルの出口と転炉壁面との距離をDi(mm)とした場合、
Ro、DoとRi、Diとの関係が下記(1)式を満たす範囲になるように地金溶解用ノズルが設置されている上吹きランスを用いて前記溶銑予備脱燐吹錬を行うこと
を特徴とする請求項1に記載した転炉内付着地金の除去方法
Ro・(Di/Do)≦Ri≦Ro …(1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−179041(P2011−179041A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42243(P2010−42243)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】