説明

転移性結腸直腸癌のアッセイ

本発明は、例えば、結腸直腸癌である対象に対して、予後、転移の可能性、または積極的療法を投与する望ましさを予測するための方法に関し、対象からの試料において、(a)AKT(S473)、(b)BAD(S112)、(c)cABL(T735)、(d)ERK(T42/44)、(e)MARCKS(S152−156)、(0 p38MAPK(T180−182)、(g)STAT1(Y701)、(h)PTEN(S380)、(i)EGFR(Y992)、(j)PAK1/2(S119/204)、または(k)PKCゼータ/ラムダ(T410−403)、あるいは、(l)COX−2タンパク質の総量、のうちの1つ以上の陽性および/または陰性の参照基準と比較して、リン酸化レベルを決定するステップを含み、a〜iのうちの1つ以上のリン酸化レベル、またはCOX−2タンパク質の総量(l)が、陰性の参照基準と比較して増加した場合、および/またはjまたはkのリン酸化レベルが、陽性の参照基準と比較して減少した場合、その対象は、予後不良である、転位する可能性が高い、および/または積極的療法の好適な候補である。また、転移性結腸直腸癌を発現する可能性の高い対象を治療するための方法、および本発明の方法を実行するための医薬組成物およびキットも記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2006年10月27日に出願の米国暫定出願第US60/854,724号の利益を主張するものであり、参照することによりその全体が本願明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
ヒト腫瘍は、成長、生存、および転移するため、タンパク質リン酸化のような翻訳後修飾によって引き起こされる、欠陥のあるタンパク質ベースの細胞信号伝達プロセスに依存する。これらの信号伝達ネットワークは、現在の、および今後の分子を標的とした阻害剤の大部分の目標でもある。一つの例は、HERCEPTINであり、これは、乳癌における活動過多の上皮細胞増殖因子(EGF)の信号伝達システムを遮断することができる薬物である。過度に発現および活性化した、この信号伝達経路を有する患者のみが、治療に応答する。検出できない転移を有しうる進行の速い形態の癌を有する患者と、転移しないか、または急速に転移しない、進行の遅い形態の癌を有する患者とを区別できることが特に重要である。これらの2つの群の患者は、概して、転帰に大きな差があり、腫瘍が転移する悪性度および傾向の差を反映する。かかる2つの患者群を判別することが可能なバイオマーカーは、大きな利益をもたらすであろう。
【0003】
遺伝子発現解析(核酸)によって、研究者は、特定の癌に対する転帰の予後的特徴を導出することができている。しかしながら、これらのエンドポイントは、単純な階層化だけに限定される。この特徴は、非反応群を治療する方法を医師に示すことができず、単に、誰が反応し、誰が反応しないのかを決めるために使用することしかできない。さらに、遺伝子発現解析での多数の遺伝子の解析は、複雑であり、概して、アルゴリズムおよび大規模なコンピュータ解析の使用を伴う。また、遺伝子発現解析は、タンパク質薬物標的の活性化状態または機能状態を反映しない(信号経路タンパク質のリン酸化状態と相関しない)。対照的に、タンパク質信号伝達のプロファイリングは、予後の特徴を提供することができ、重要なことは、転移性癌である患者を治療するための治療法に関する情報を提供することができる。これは、プロテオームのポートレートが、薬物標的自体に対して構成されることによるものである。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1】上述のリンタンパク質標的のリン酸化レベル、およびCOX−2タンパク質の総量を示し、リン酸化状態またはCOX−2の量が、転移性結腸直腸癌と相関することを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
本発明は、例えば、転移性癌を発現する可能性の高い結腸直腸癌(癌腫)である対象と、非転移性形態の結腸直腸癌である患者とを区別するための組み合わせおよび方法を提供する。本願明細書では、異常なリン酸化状態(過度に、または不十分にリン酸化された)を呈する、および/または転移形態の結腸直腸癌である対象において過度に発現する、少なくとも12のタンパク質マーカーを同定する。実施例Iおよび図1を参照されたい。リン酸化レベルの増加を呈するタンパク質アイソフォームは活性化され、リン酸化レベルの減少を呈するタンパク質アイソフォームは不活性化される。COX−2(別のマーカー)は、器官限局の原発性結腸直腸癌を示す対象と比較して、転移性癌を示す対象において過度に発現することが観察される。また、本願明細書において同定されるマーカーに基づいて、結腸直腸癌の悪性表現型(転移に関連する表現型)を治療するための方法も考察する。「悪性表現型」は、本願明細書で使用する場合、例えば、腸壁の層の厚み全体を通じた侵襲性、局所リンパ節への転移、遠隔転移、短い生存期間、または治療に対する耐性のうちの1つ以上を含み得る。結腸直腸癌は、例えば、肺や肝臓に転移し得る。
【0006】
本発明のマーカーを特定するために使用される手法は、タンパク質信号伝達のプロファイリングに基づいた。本願明細書に示される観察は、診断アッセイの基準(患者を階層化するのに用いることのできる予後の特徴)を提供し、かつ新しい薬物標的を同定する。この二元性は、「セラノスティック」と称されることがあり、測定した分析物は、診断標的および治療標的の双方の役目を果たす。本発明の診断アッセイは、数種のタンパク質だけのリン酸化状態(または、COX−2の場合は、タンパク質の総量)の決定しか必要としないので、アッセイは、実施が容易であり、また、複雑なコンピュータベースの解析を必要としない。治療方法は、活性化(過度にリン酸化)されたタンパク質を阻害剤で阻害(抑制、不活性化)するステップ、または不十分にリン酸化されたタンパク質を活性化(強化、促進)するステップを含む。
【0007】
本発明は、例えば、結腸直腸癌である対象が、予後不良であるかどうか、および/または転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有するかどうかを予測するための方法であって、陽性および/または陰性の参照基準と比較して、対象からの試料において、
a.pAKT(S473)、および/または
b.pBAD(S112)、および/または
c.pcABL(T735)、および/または
d.pERK(T42/44)、および/または
e.pMARCKS(S152−156)、および/または
f.pp38MAPK(T180−182)、および/または
g.pSTAT1(Y701)、および/または
h.pPTEN(S380)、および/または
i.pEGFR(Y992)、および/または
j.pPAK1/2(S119/204)、および/または
k.pPKCゼータ/ラムダ(T410−403)、および/または
l.COX−2タンパク質の総量、または
それらの組み合わせのうちの1つ以上のリン酸化レベルを決定するステップを含み、
陰性の参照基準と比較して、a〜iのうちの1つ以上のリン酸化レベルおよび/または前記COX−2タンパク質の総量(l)の大幅な増加、または陽性の参照基準と統計的に同じレベルであること、および/または
陽性の参照基準と比較して、jまたはkのうちの1つ以上のリン酸化レベルの大幅な減少、または陰性の参照基準と統計的に同じレベルであることは、
対象が、予後不良である、および/または転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有することを示す、方法に関する。
【0008】
「予後不良」は、本願明細書で使用する場合、短い無病期間、および/または短い全生存期間(24ヵ月未満の全生存)を含む。癌が「転移する可能性の高い」という用語は、対象が転移を発現する可能性が50%を超えていることを意味する。
【0009】
本発明の実施形態では、上記の12種のマーカーのうちの2つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12種の全て)の、いかなる組み合わせをも試験することができる。例えば、以下のマーカーのサブセットのリン酸化レベルおよび/または(COX−2の場合は)タンパク質の総量を試験することができる。
【0010】
(1)pAKT(S473)、cABL(T735)、pERK(T42/44)、p38MAPK(T180−182)、pEGFR(Y992)、および/またはCOX2(それらの組み合わせ(例えば、マーカーのうちの2つ、4つ、または6つ全ての組み合わせ)を含む)または
(2)pAKT(S473)、pBAD(S112)、およびpTEN(S380)、または、
(3)pEGFR(Y992)、pAKT(S473)、pBAD(S112)、およびpTEN(S380)、または
(4)pERK(T42/44)およびpp38MAPK(T180−182)、または
(5)pEGFR(Y992)およびpSTAT1(Y701)。
本発明の方法の実施形態は、以下のステップ(その全ては、当業者に既知である従来の手順を使用する)をさらに含む。
(a)対象から組織標本または生検を得るステップ、
(b)上皮細胞を分離するために、組織標本または生検にレーザキャプチャマイクロダイゼーションを受けさせるステップ、
(c)上皮細胞を溶解するステップ、および
(d)陰性および/または陽性の参照基準と比較して、マーカーのリン酸化状態(例えば、AKT(S473)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、p38MAPK(T180−192)、および/またはEGFR(Y992)、および/またはCOX−2の総量)を決定するように、イムノアッセイによって溶解物を分析するステップ。一実施形態では、イムノアッセイは、ELISAである。別の実施形態では、溶解物は、サスペンションビードアレイまたは逆相アレイとして計量分配され、次いでイムノアッセイを受けるか、または溶解物は、抗体またはアプタマのアレイと接触し、イムノアッセイを受ける。
【0011】
本発明の別の実施形態は、以下のステップをさらに含む。
【0012】
(a)対象から組織標本または生検を得るステップ、および
(b)リン酸化状態(例えば、AKT(S473)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、p38MAPK(T180−192)、および/またはEGFR(Y992)のリン酸化レベル、および/またはCOX−2の総量)が、対照組織標本または生検と比較して、大幅に増加しているかどうかを決定するように、組織化学的方法によって、組織標本または生検を解析するステップ。好適な陰性対照には、例えば、進行の遅い結腸直腸癌患者の集団から得られた組織または生検材料が挙げられ、陽性対照には、例えば、進行の速い結腸直腸癌患者の集団から得られた組織または生検材料が挙げられる。
【0013】
驚くべきことに、多種多様な信号伝達経路が、本願明細書において考察される転移性表現型と相関すると予想されていたが、上方制御されたマーカー(a)〜(i)および(l)は、細胞の表面でのEGF受容体から始まり、核転写制御タンパク質のCOX−2で終わる、単一の相互結合したキナーゼの信号伝達経路のメンバである。経路の1つのルートでは、EGFRおよびABLリン酸化は、MARCKSリン酸化をもたらし、その結果、ERKリン酸化およびp38リン酸化をもたらし、次いで、その結果、STAT1リン酸化をもたらす。経路の他のルートでは、EGFRリン酸化およびABLリン酸化は、PTENリン酸化をもたらし、その結果、AKTリン酸化をもたらし、次いで、その結果、BADリン酸化およびSTAT1リン酸化をもたらす。最終的に、COX2タンパク質は、次いで、この経路によって転写に関して制御される。
【0014】
対照的に、他の多くの信号伝達経路のメンバは、転移性結腸直腸癌表現型との有意な相関を示さない。実施例IIの表2に記載したタンパク質を参照されたい。
本発明によって、予後不良であるか、または転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有すると判断された対象は、積極的療法の、および/または標的療法による治療の好適な候補である。
【0015】
「積極的療法」とは、転移性癌を治療するように、および好ましくは、転移性癌の影響のうちの少なくとも1つ以上を改善するのに有効となるように設計された治療を意味する。これは、用量を増加させた薬剤(例えば、薬物)の投与、または積極的療法の候補ではない患者よりも頻繁な投与、あるいは、積極的療法の候補ではない患者には概して提供しない治療の選択(例えば、より有害な形態の化学療法の投与)が関与し得る。他の形態の積極的療法は、放射線と化学療法との併用、およびより積極的な手術を含む。
【0016】
「標的療法」は、本願明細書において同定されるリンタンパク質標的のうちの1つのような、特定の標的を標的とした薬剤(例えば、薬物)による治療を指す。
【0017】
例えば、標的療法は、
対象が、AKT(S473)、BAD(S112)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、MARCKS(S152−156)、p38MAPK(T180−182)、STAT1(Y701)、PTEN(S380)、またはEGFR(Y992)のリン酸化レベルの大幅な増加、またはCOX−2タンパク質の量の大幅な増加を呈した場合、対象は、それぞれ、有効量のAKT、BAD、cABL、ERK、MARCKS、p38MAPK、STAT1、PTEN、EGFR、またはCOX−2の阻害剤(例えば、酵素阻害剤)で治療されること、および/または
対象が、PAK1/2(S119/204)またはPKCゼータ/ラムダ(T410−403)のリン酸化レベルの大幅な減少を呈した場合、対象は、それぞれ、有効量のPAK1/2またはPKCゼータ/ラムダの活性化剤で治療されることを、含み得る。
【0018】
「有効量」は、本願明細書で使用する場合、検出可能な抗転移効果を生じさせることができる量を含む。
【0019】
標的療法は、阻害剤および/または活性化剤のうちの2つ以上の併用治療を含み得る。cABL阻害剤は、例えば、GLEEVEC、DASATINIB、および/またはSUTENTとすることができる。EGFR阻害剤は、例えば、TARCEVA、LAPATlNIB、IRESSA、ERBITUX、および/またはBEVTUZIMABとすることができる。また、COX−2阻害剤は、例えば、VIOXXおよび/またはCELEBREXとすることができる。
【0020】
本発明の一実施形態では、対象が、EGFR(Y992)および/またはABL(T735)のリン酸化レベルの大幅な増加を呈した(例えば、受容体、EGFR、および/またはABLの活性化を呈した)場合、対象は、p38MAPKの阻害剤、および/またはAKTの阻害剤、および/またはERKの阻害剤のような、信号伝達経路内のそれらのマーカーの下流にある、有効量の信号伝達キナーゼの阻害剤で治療される。
【0021】
本発明の別の一実施形態では、対象が、AKT(S473)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、EGFR(Y992)のリン酸化レベルの大幅な増加、またはCOX−2の量の大幅な増加を呈した場合、対象は、それぞれ、AKT阻害剤、cABL阻害剤、ERK阻害剤、COX−2阻害剤、またはEGFR阻害剤と組み合わせた、有効量のカルボキシアミドイミダゾール(CAI)で併用治療を受ける。
【0022】
本発明の別の実施形態では、対象は、他のインジケーションのためのものであるが、現在FDA(Food and Drug Administration:食品医薬品局)に承認されている、または現在第2相または第3相試験にある薬物で治療される。本発明は、これらの標的が、転移によって後に現れる可能性が高く、したがって、極めて不十分な予後、すなわち、以前には認識されなかった兆候を有する、結腸直腸癌に関与すると見なしていることに留意されたい。本発明のこの実施形態では、対象が、AKT(S473)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、p38MAPK(T180−182)、および/またはEGFR(Y992)のリン酸化レベルの大幅な増加、および/またはCOX−2タンパク質の総量の大幅な増加を呈した場合、対象は、例えば、それぞれ、有効量のpAKT阻害剤であるVQD−002および/またはエンザスタウリン、cABL阻害剤であるGLEEVEC、SUTENTおよび/またはDASATINIB、ERK阻害剤であるCI−1040および/またはPD0325901、p38MAPK阻害剤であるSCIO−469、SB 239063、VX−702、および/またはBMS−582949、pEGFR阻害剤であるTARCEVA、LAPATINIB、IRESSA、ERBITUX、および/またはBEVTUZIMAB、またはCOX−2阻害剤であるVIOXXおよび/またはCELEBREXで治療される。
【0023】
阻害剤または活性化剤は、そのリン酸化状態が異常である(増加または減少した)ことが分かっている、本発明のマーカーのうちの1つ以上に対する、および/またはCOX−2に対する標的とすることができる。阻害剤は、概して、本願明細書の実施例において解析したタンパク質の特定のリン酸化アイソフォームに対するものか、または異なるアイソフォームに対するものか、あるいはリンタンパク質に対するものとすることができる。一実施形態では、治療方法に使用される阻害剤または活性化剤は、複数の標的に対するもの(例えば、標的のうちの2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12の全てに対するもの)とすることができる。1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、まはた、5つ以上)の阻害剤または活性化剤を、いかなる個々の標的に対しても使用することができる。阻害剤の好適な組み合わせは、例えば、VIOXX、CELEBREX、GLEEVEC、SUTENT、DASATINIB、TARCEVA、LAPATINIB、IRESSA、ERBITUX、BEVTUZIMABのうちの2つ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、または10)を含む。
【0024】
本願明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が別途明確に示さない限り、複数の指示物を含む。例えば、上記に使用したように、「an」阻害剤は、複数の阻害剤、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上の阻害剤を含む。
【0025】
本発明の別の態様は、結腸直腸癌である対象を治療するための方法であって、陽性および/または陰性の参照基準と比較して、対象からの試料において、(a)pAKT(例えば、pAKT(S473)のリン酸化レベル)、(b)pBAD(例えば、pBAD(S112)のリン酸化レベル)、(c)pcABL(例えば、pcABL(T735)のリン酸化レベル)、(d)pERK(例えば、pERK(T42/44)のリン酸化レベル)、(e)pMARCKS(例えば、pMARCKS(S152−156)のリン酸化レベル)、(f)pp38MAPK(例えば、pp38MAPK(T180−182)のリン酸化レベル)、(g)pSTAT1(例えば、pSTAT1(Y701)のリン酸化レベル)、(h)pTEN(例えば、pTEN(S380)のリン酸化レベル)、(i)pEGFR(例えば、pEGFR(Y992)のリン酸化レベル)、(j)pPAK1/2(例えば、pPAK1/2(S119/204)のリン酸化レベル)、および/または(k)pPKCゼータ/ラムダ(例えば、pPKCゼータ/ラムダ(T410−403)のリン酸化レベル)、および/または(l)COX−2タンパク質の総量(それらの組み合わせを含んで)、のうちの1つ以上のリン酸化状態を決定するステップを含み、
(a)〜(i)のうちの1つ以上のリン酸化状態および/またはCOX−2タンパク質の総量(l)が、陰性の参照基準と比較して大幅に増加したか、または陽性の参照基準と統計的に同じレベルにあり、対象が、予後不良である、および/または転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有することを示した場合、対象に、有効量の、(a)〜(i)のうちの1つ以上の阻害剤(例えば、キナーゼ阻害剤または酵素阻害剤)、またはCOX−2の阻害剤が投与され、
(j)または(k)のリン酸化状態が、陽性の参照基準と比較して大幅に減少したか、または陰性の参照基準と統計的に同じレベルにあり、対象が、予後不良である、および/または転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有することを示した場合、対象に、有効量の(j)および/または(k)の活性化剤(例えば、キナーゼ)が投与される。
【0026】
これらの阻害剤および/または活性化剤の組み合わせを対象に投与することができる。
【0027】
タンパク質の「リン酸化状態」は、タンパク質のリン酸化の程度(総量)を指す。これは、リン酸化されたタンパク質の部位数(例えば、好適なセリン、トレオニン、またはチロシンアミノ酸残基)、およびアミノ酸鎖上の任意の所与の受容体部位のリン酸化レベルの両方を含む。タンパク質のリン酸化状態の増加は、リン酸化されたタンパク質の好適なアミノ酸残基の数(例えば、セリン、トレオニン、またはチロシン)の増加、または特定のアミノ酸残基でのリン酸化度数の増加のいずれかを反映し得る。「異常な」リン酸化状態は、陰性または陽性の参照基準よりも、それぞれ、統計的に大幅に高い(増加)こと、または低い(減少)リン酸化状態を指す。
【0028】
当業者は、本願明細書に記載されるリン酸化アミノ酸残基に加えて、本発明のマーカーは、タンパク質の他のアミノ酸残基のリン酸化によって、活性化し得(または、pPAK1/2またはpPKCゼータ/ラムダの場合は、不活性化または阻害し得)、本発明の方法では、それらのリン酸化残基のうちの1つ以上でのリン酸化レベルは、記載した残基に加えて、またはその代わりに分析することができることが認識されよう。例えば、c−ABLの場合、他の部位は、Y245、T735、および/またはY412を含み、EGFRの場合、他の部位は、T669、S967、Y992、S1002、Y1045、S1046、S1057、Y1068、Y1086、Y1114、S1142、Y1148、および/またはY1173を含み、AKTの場合、他の部位は、473、308、および/またはT450を含み、pTENの場合、他の部位は、S380、T382、および/またはT383を含み、STAT1の場合、他の部位は、Y701および/またはS727を含み、BADの場合、他の部位は、S155および/またはS112を含む。
【0029】
本発明の実施形態では、上述の治療方法は、従来の化学療法剤を阻害剤と組み合わせて対象に投与するステップをさらに含むことができる。本願明細書で使用する場合、「従来の化学療法剤」は、本願明細書において考察される12のマーカーのうちの1つの阻害剤または活性化剤以外の化学療法剤を指す。従来の化学療法剤は、阻害剤または活性化剤とともに(と同時に)投与することができ、または、薬剤を逐次的に投与することができる。
【0030】
特定のリンタンパク質アイソフォームのリン酸化レベルを測定する、本願明細書に記載の方法のうちのいずれでも、代わりに、そのタンパク質のリン酸化状態(例えば、その活性化に寄与する、またはpPAK1/2またはpPKCゼータ/ラムダの場合はその不活性化に寄与する、タンパク質の他のアミノ酸残基のうちの1つ以上のリン酸化レベルを含む)を測定することができる。
【0031】
本発明の別の態様は、対象の結腸直腸癌を治療するための方法において、その改善は、対象が、予後不良である、および/または後に転移するか、後に転移を発現する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有することを予測するステップと、次に、対象を本発明の標的療法で治療するステップを含む。
【0032】
本発明の治療方法は、結腸直腸癌の転移を阻害および/または予防することができる。
【0033】
本発明の別の態様は、本願明細書において考察される11のリン酸マーカーのうちの1つ以上のリン酸化状態、および/またはCOX−2タンパク質の総量、またはそれらの組み合わせのアッセイに好適な1つ以上の薬剤の群である。薬剤は、実施例Iに示される特定のリン酸化アイソフォームに対して特異的、および/またはタンパク質の他のリン酸化アミノ酸残基に対して特異的であり得る。群は、上述のマーカーのうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または11種のマーカーのリン酸化状態、および/またはCOX−2の総量の、あるいは、その任意の組み合わせのアッセイに好適な薬剤を含み得る。一実施形態では、薬剤は、AKT(例えば、S473)、cABL(例えば、T735)、ERK(例えば、T42/44)、p38MAPK(例えば、T180−182)、EGFR(例えば、Y992)のリン酸化状態、および/またはCOX−2のアッセイに好適である。薬剤は、例えば、上述のリンタンパク質のうちの1つの特定のリン酸化アイソフォームに対して、またはCOX−2に対して特異的な抗体(モノクローナル抗体等)または他のリガンドとしてもよい。本発明の別の態様は、結腸直腸癌である対象に対して、予後、後の転移の発現の可能性、または積極的療法を投与する望ましさを予測するための、任意選択で1つ以上の容器内に充填された、上述の一群の薬剤を含むキットである。
【0034】
本発明の別の態様は、それを必要とする対象を治療するための、有効量の、本願明細書に述べた阻害剤または促進剤のうちの1つ以上、あるいはそれらの組み合わせを含む医薬組成物またはキットである。例えば、医薬組成物は、有効量の、(a)EGFR阻害剤および/またはcABL阻害剤、および(b)p38MAPK阻害剤、および/またはAKT阻害剤、および/またはERK阻害剤を含むことができる。本発明の別の態様は、pAKT阻害剤、pcABL阻害剤、pERK阻害剤、COX−2阻害剤、またはpEGFR阻害剤と組み合わせた、有効量のカルボキシアミドイミダゾール(CAI)を含む医薬組成物である。本発明の医薬組成物では、pEGFR阻害剤は、例えば、TARCEVA、LAPATINIB、IRESSA、ERBITUX、および/またはBEVTUZIMABとすることができ、pABL阻害剤は、例えば、GLEEVECおよび/またはSUTENTとすることができ、および/またはCOX−2阻害剤は、例えば、VIOXXおよび/またはCELEBREXとすることができる。
【0035】
医薬組成物は、薬剤として許容される担体を含む。キットでは、阻害剤または促進剤は、容器内にあり得る。本発明の医薬組成物またはキットはまた、阻害剤および/または活性化剤とともに投与することができる、1つ以上の従来の化学療法剤を含み得る。
【0036】
上述の遺伝子およびタンパク質のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は既知であり、日常的な方法で決定することができ、また、種々の既知のデータベースからダウンロードすることができる。例えば、ncbi.nlm.nih.govのワールドワイド・ウェブサイトを参照されたい。
【0037】
「試料」は、本願明細書で使用する場合、その中のリンタンパク質のうちの1つ以上のリン酸化状態、またはCOX−2タンパク質の総量を決定するようにアッセイすることができる、あらゆる好適な細胞または組織を含み得る。好適な試料には、例えば、末梢血細胞、および腫瘍の一次切除時に得られる針生検または肉眼的外科標本のような生検が挙げられる。試料は、例えば、新鮮なもの、冷凍(例えば、急速冷凍)したもの、またはタンパク質のリン酸化レベルを含む、細胞のタンパク質含有量を保持する形で保存したものであることができる。
【0038】
「対象」は、本願明細書で使用する場合、結腸直腸癌であるあらゆる動物を含む。好適な対象(患者)には、実験動物(マウス、ラット、ウサギ、またはモルモット)、家畜、および飼育動物、すなわちペット(ネコまたはイヌ等)が挙げられる。ヒト以外の霊長類、および好ましくは、人間の患者が含まれる。
【0039】
リン酸化レベルの「大幅な増加」は、本願明細書で使用する場合、当技術分野で適切かつ既知である統計的手法を使用しての、その陰性の参照基準との差が、統計的に有意なレベルであり、概して、不規則変動によって変化する可能性が5パーセント未満の確率値を有する。例えば、転移形態の結腸直腸癌を有するか、その可能性の高い対象における、本発明の診断バイオマーカー内の残基のリン酸化は、癌ではない対象、または転移性ではない結腸直腸癌の形態を有する対象において観察されたレベルよりも、20%から200%を超える範囲で高くなり得る。
【0040】
リン酸化レベルの「大幅な減少」は、本願明細書で使用する場合、陽性の参照基準との、または転移形態の結腸直腸癌である対象との、同様の差である。リン酸化レベルの大幅な減少は、適切かつ既知である統計的手法を使用しての、その陽性の参照基準との差が、統計的に有意なレベルであり、概して、不規則変動によって変化する可能性が5パーセント未満の確率値を有する。例えば、転移形態の結腸直腸癌である可能性の低い対象における、本発明の診断バイオマーカー内の残基のリン酸化は、転移形態の結腸直腸癌である対象において観察されたレベルよりも、20%から約90%の範囲で低くなり得る(例えば、陽性の参照基準の約80%未満のレベルまで、または検出できない量までの減少)。
【0041】
バイオマーカーのリン酸化レベルは、本願明細書で使用する場合、タンパク質(例えば、アミノ酸側鎖上)の所与のアミノ酸残基でのリン酸化レベルを指す。タンパク質のリン酸化の量の増加(例えば、対象となるリンタンパク質アイソフォームの、細胞ごとの総量の増加)は、リン酸化タンパク質の総量、またはアミノ酸残基でのリン酸化の増加度数を反映し得る。概して、上述のアミノ酸残基においてリン酸化されたタンパク質の総量は、試料ごとに、または試料内の細胞ごとに測定される。
【0042】
本発明の一実施形態では、バイオマーカーのリン酸化レベルは、組織培養細胞から導出した陽性および陰性の参照基準を調製することによって決定される。
【0043】
「陽性の」参照基準を生成するために、最初に、転移形態の結腸直腸癌であることが分かっている対象(または対象のプール)からの(ヒトの生検標本のような)生検標本から得られた細胞を処理することができる。タンパク質抽出物は、組織から調製することができ、対象となるリン酸化したエンドポイントでの、リン酸化レベル(または値の範囲)が、ここで説明されるように決定される。このような試料の中央値は、陽性の参照基準となる。
【0044】
「陰性の」参照基準を生成するために、癌ではないことが分かっている(「正常な」対象)、または非転移性形態の結腸直腸癌であることが分かっている対象(または対象のプール)の同等の組織からの細胞を処理することができる。タンパク質抽出物は、組織から調製することができ、対象となるリン酸化したエンドポイントでの、リン酸化レベル(または値の範囲)が、ここで説明されるように決定される。このような試料の中央値は、陰性の参照基準となる。
【0045】
上述の方法の変形例では、陽性または陰性の基準の決定は、公表されたデータ、転移性の無い対象からの組織の遡及研究、および本発明の方法を実行する当業者に明らかである他の情報に基づき得る。
【0046】
しかしながら、このような対象からの組織を臨床診断の参照基準として使用することは、概して、日常的には、現実的ではない。その代わりに、培養細胞からの溶解物を使用し、細胞培養の溶解物と、真陽性(例えば、上述のように、転移形態の結腸直腸癌である対象から導出したエンドポイント値)、および真陰性(例えば、上述のように、転移形態の結腸直腸癌ではない対象から導出したエンドポイント値)との直接比較による、カットポイント値を確立することによって、陰性および陽性の参照基準を生成することが好ましい。これを達成するために、最初に、種々の培養細胞、一次細胞か、好ましくは細胞系をスクリーニングすることができる(例えば、EGFまたは過バナジン酸(pervanadate)のようなマイトジェンで治療する種々の既知の細胞系のいずれかが、リン酸化を誘起する)。
【0047】
これらの、または他の種類の培養細胞は、本発明のタンパク質が、リン酸化されないように、またはリン酸化の程度が最小になるように、従来の条件下で、直接増殖させるか、または培養細胞は、過バナジン酸のような信号伝達ネットワーク、または上皮細胞増殖因子(EGF)のような成長因子を全体的に活性化する、好適なマイトジェンによって、従来の条件下で培養することができる。
【0048】
次いで、タンパク質抽出物を、従来の手順を使用して、種々の条件下で培養した種々の細胞系から調製し、対象となるリン酸化したエンドポイントでのリン酸化レベルを、本願明細書に記載したように決定し、架橋実験として、真陽性および真陰性の臨床試料と直接比較する。このようにして、特定の既定条件下で培養された(促進有無を問わず)特定の細胞が、転移形態の結腸直腸癌である、またはそうでない対象の量と直接比較可能な、本発明のリンタンパク質アイソフォームのリン酸化量を発現するように、条件を確立することができる。既知の真の臨床的な陽性および陰性から導出されたカットポイント値を利用し、また、これらの値を細胞系の参照基準に架橋することで、その後、それぞれ、「陽性の参照基準」または「陰性の参照基準」を提供することができる。陽性および陰性の値は、陰性の参照基準値よりも高い臨床試料から測定した値を、転移を予測するものとして受け入れることができ、また、陽性の参照基準よりも低い測定値を、転移しないことを予測するものとして受け入れることができるように、従来の統計ツールを使用して選択することができる。
【0049】
代替的に、既知の濃度の検体(例えば、本発明のリン酸化タンパク質アイソフォームのうちの1つ以上)の、精製試料内のリン酸化レベルを使用することができる。
そのリン酸化レベルが決定されたタンパク質ごとに、値を、細胞内の総タンパク質量に正規化するか、またはアクチンのような、(ハウスキーピング遺伝子から)構成的に発現したタンパク質の量に標準化することができ、またはリンタンパク質の量を、そのリン酸化されていない対応部分の量と比較することができる。
【0050】
所与のアミノ酸残基のリン酸化レベルは、質的または定量的に測定することができる。所与の残基におけるリン酸化の量(分量)は、対照試料内の同じ残基において観察される量より多くなり得る。すなわち、過リン酸化することができる。検出閾値としての過リン酸化に加えて、上述の残基でのリン酸化の有無を利用することもできる。代替的に、定性的尺度(例えば、1から5の尺度)を使用することができる。
アミノ酸残基でのリン酸化のレベルを測定するための方法、および/または信号伝達経路の活性化を決定する方法は、従来通りで日常的的である。一実施形態では、測定は、(キナーゼ基質のような)対象のタンパク質に照らして、非リン酸化形態またはリン酸化形態の対象となる特定のアミノ酸残基に対して特異的である、複数組の抗体の存在に依存する。抗体は、例えば、本発明のバイオマーカーの非リン酸化またはリン酸化アイソフォームに対して特異的なものを使用することができる。そのような抗体は、市販のものとするか、または従来の手順を使用して日常的に生成することができる。一実施形態では、(非リン酸化形態またはリン酸化形態の)対象となるタンパク質からの、対象となるアミノ酸を含む合成ペプチドを、好適な抗体を調製する抗原として使用する。抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルとすることができる。当業者は、使用することができる種々の好適な抗体、抗体断片、またはアプタマを認識されよう。抗体は、リン酸化バージョンのタンパク質だけを検出し、非リン酸化バージョンの天然または変性タンパク質は検出しないように、およびその逆となるように、選択および検証される。
【0051】
そのような抗体は、様々な方法で使用することができる。例えば、患者試料から全細胞溶解物を調製して、それらをアレイ形態で、ニトロセルロース帯またはガラススライドのような、好適な基質上にスポットすることができる。試料内のタンパク質は、スポットする前に変性させることが好ましい。概して、細胞は、広ダイナミックレンジを提供するように、2倍系列希釈法のような連続希釈法でスポットされる。陽性の対照または基線値のための対照のような、好適な対照を含むことができる。各アレイは、次いで、対象となる種々のタンパク質内のどのアミノ酸残基がリン酸化されたのかを決定および/または定量化するように、上述のように、好適な検出可能な抗体でプローブされる。免疫学的定量のための方法は、従来通りである。逆相タンパク質溶解物マイクロアレイ(RPMA)のこの方法に関するさらなる考察に関しては、例えば、Nishizuka et al.(2003)Proc.Natl.Acad.Sci.100、14229−14239を参照されたい。
【0052】
対象となる残基でのリン酸化のレベルおよび/または程度を評価するために、そのような抗体を用いた他の好適なアッセイ法には、例えば、比色アッセイ、イムノアッセイ(免疫組織化学、ELISA等)、蛍光読み出しに基づくアッセイ、ウエスタンブロット法、サスペンションビードアッセイ、免疫沈降法、質量分光法、およびの従来のアッセイ法が挙げられる。好適な方法には、非常に小さい試料(例えば、約200の細胞)内のリンタンパク質を検出できるものが挙げられる。代替的に、大きなサイズの試料(例えば、約20,000乃至25,000の細胞)に好適な方法を使用することができる。
【0053】
リン酸化残基の存在および/または量を測定するアッセイ法は、例えばロボティクスを使用して、高スループットの形態に容易に適合させることができる。
好適な陽性および陰性の参照基準を決定するための方法、および陰性の参照基準と比較して、対象内にタンパク質の量の大幅な増加があるかどうかを決定するための方法のように、COX−2のような非リン酸化タンパク質の総量を決定するための方法は、従来通りである。
【0054】
本発明のアッセイ法のための好適な対照は、当業者に明らかとなろう。例えば、品質管理を提供するために、(例えば、タンパク質マイクロアレイの形態で)試験されるタンパク質の各組は、抗原対照、細胞溶解物対照および/または参照溶解物を含んでもよい。各患者検体試料は、総タンパク質量に正規化し、同じアレイ上に「印刷された」参照と関連する単位で数量化することができる。各参照および対照溶解物は、患者試料と同じ希釈系列で印刷することができ、患者試料と同一の試料で、同時に免疫染色することができる。全ての試料は、複製して4点希釈曲線で印刷されることができる。
【0055】
品質保証を提供するために、試料は、例えば、適用可能な規制基準を満たす好適な処理施設でそれらを受け取った時に、リアルタイムで処理および分析することができる。試料は、細胞溶解保存した試料から構成してもよい。適合する凍結試料を有する試験セットは、標本保存の妥当性を検証することができる。手法は、室温で実行することができる。試料は、コア針生検によって得てもよい。
【0056】
本願明細書に述べられる方法によるマーカータンパク質のリン酸化レベルの決定に続いて、それらの患者に対する治療の決定を向上させるように、値を、例えばパネルまたは一連の値の形態で、医師に報告することができる。このような報告により、共通の診断を有する癌および他の疾患を、有効であると考えられる治療に従って、分子レベルで階層化することができる。これによって、最適な個別の患者治療を行うことができる。データを報告するためのいくつかの好適なシステムは、2007年3月27日に出願の同時係属の暫定出願第60/935,106号に記載されている。このような報告は、当該の特定のリンタンパク質、それぞれに対する正常な参照レベルまたは範囲、および患者試料内のタンパク質の測定したリン酸化レベルの包括的なリストを提供することができる。
【0057】
本発明の一態様は、本発明の方法によって、予後不良である、後に転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有する、および/または積極的療法および/または標的療法の好適な対象になる、と決定された対象を治療するための方法である。
【0058】
本発明の阻害剤または活性化剤は、異常なリンタンパク質の総量、または特定の残基でのリン酸化レベル(または、COX−2では、タンパク質の総量)が、対象から得られた試料において、上述の12のタンパク質マーカーのうちの少なくとも1つで観察された時に、投与することができる。
【0059】
本発明の一実施形態では、阻害剤は、過度にリン酸化された本発明のリンタンパク質マーカーのリン酸化状態を減少させるキナーゼ阻害剤であるか、過度に活性化または過度に発現した本発明のタンパク質マーカーの活性を減少させる酵素阻害剤である。他の好適な阻害剤には、例えば、過度に活性化された、または過度に発現した本発明のタンパク質マーカーをコード化する核酸に対するsiRNAs、および抗体、例えばポリクローナルまたはモノクローナル抗体、アプタマ、または本発明のタンパク質マーカーに対する他のリガンドが挙げられる。別の実施形態では、活性化剤は、不十分にリン酸化された本発明のリンタンパク質マーカーのリン酸化状態を増加させる、キナーゼである。
【0060】
AKTキナーゼ(例えば、S473)(タンパク質キナーゼBとしても知られる)の阻害剤の実施例には、これに限定されないが、例えば、
Akt−1−1(Akt1を阻害する)(Barnett et al.(2005)Biochem.J.、385(Pt.2)399−408)、
Akt−1−1,2(Ak1および2を阻害する)(Barnett et al.(2005)Biochem.J.、385(Pt.2)399−408)、
API−59CJ−Ome(例えば、Jin et al.(2004)Br.J.Cancer 91、1808−12)、
1−H−イミダゾ[4,5−c]ピリジニル化合物(例えば、国際公開第WO05011700号)、
インドール−3−カルビノールおよびその誘導体(例えば、米国特許第US6、656、963号、Sarkar and Li(2004)J Nutr.134(12 Suppl)、3493S−3498S)、
ペリホシン(例えば、Aktの膜局在化を妨害する;Dasmahapatra et al.(2004)Clin.Cancer Res.10(15)5242−52、2004)、
ホスファチジルイノシトールエーテル脂質の類似体(例えば、Gills and Dennis(2004)Expert.Opin.Investig.Drugs 13、787−97)、
トリシリビン(TCNまたはAPI−2、あるいはNCI識別子:NSC 154020;Yang et al.(2004)Cancer Res.64、4394−9)、が挙げられる。
【0061】
pcABL(例えば、T735アイソフォーム)阻害剤の例には、これに限定されないが、例えば、GLEVEC、SUTENT、およびSKI−606(Thaimattam et al.(2005)Bioorg Med Chem 13、4704−12)が挙げられる。
【0062】
pERK(例えば、T42/44アイソフォーム)阻害剤の例には、これに限定されないが、例えば、ERK阻害剤PD98059およびERK/MEK阻害剤U0126(Zelivianski et al.(2003)Int.J Cancer 107、478−85)が挙げられる。
【0063】
pMARCKS(例えば、S152−156アイソフォーム)阻害剤の例には、これに限定されないが、例えば、イソキノリンスルホンアミド誘導体、H−1152、HA−1077、およびY−27632(Ikenoya et al.(2002)J Newochem 81、9−16)が挙げられる。
【0064】
pp38MAPK(例えば、T180−182アイソフォーム)阻害剤の例には、これに限定されないが、例えば、SB−239063およびSB 220025(Legos et al.(2002)Eur J Pharmacol 447、37−42)が挙げられる。
【0065】
pSTAT1(例えば、Y701アイソフォーム)阻害剤の例には、これに限定されないが、例えば、フルダラビン(Terui et al.(2004)Biochem J 380、203−209)が挙げられる。
【0066】
PTEN(例えば、S380アイソフォーム)阻害剤の例には、これに限定されないが、ビスペルオクソバナジウム化合物が挙げられる。
【0067】
pEGFR(例えば、Y992アイソフォーム)阻害剤の例には、これに限定されないが、例えば、TARCEVA、IRESSA、LAPSTINIB、ERBITIX、およびBEVTUZIMABが挙げられる。
【0068】
COX−2阻害剤の例には、これに限定されないが、例えば、VIOXXおよびCELEBREXが挙げられる。
【0069】
非リン酸化状態およびリン酸化状態にある上述のリンタンパク質(またはCOX−2)に関連するアッセイ法または治療方法は、作用の機構に関わりなく、本発明に従って使用することができる。したがって、転移の根底にある機構は、指示マーカーのうちの1つ以上のリン酸化状態またはCOX−2の量の影響を受け得ると考えられるが、本発明は、治療診断的、治療的、および/または予後的方法がそれらの成功を達成する、いかなる機構にもとらわれない。
【0070】
本願明細書において考察される阻害剤または活性化剤は、治療上の処置方法に使用するための、医薬組成物等の種々の組成物に処方することができる。医薬組成物は、キットとして一まとめにすることができる。概して、本発明の医薬組成物は、転移抑制有効量の阻害剤を含む。「転移抑制有効量」は、本願明細書で使用する場合、妥当な時間枠内で、少なくとも検出可能な治療反応を生じさせるのに十分な量である。例えば、転移の症状を、少なくとも検出可能な程度まで改善すること、または腫瘍が広がるのを阻害すること、等ができる。
【0071】
組成物は、薬剤として許容される担体のような、担体を含むことができる。「薬剤として許容される」とは、生物学的に、または、それ以外で有害ではない材料、すなわち、その材料を、あらゆる望ましくない生物学的影響を生じさせずに、または有害な様態で、含まれる医薬組成物の他の構成要素のうちのいずれとも相互作用なしに、対象に投与できることを意味する。担体は、当業者に既知であるように、活性成分のあらゆる劣化を最小にするように、また、対象におけるあらゆる有害な副作用を最小にするように選択される。医薬的に許容される担体および医薬組成物の他の構成要素の考察については、例えば、Remington’s Phamaceutical Sciences、18th ed.、Mack Publishing Company、1990を参照されたい。
【0072】
本発明の医薬組成物またはキットは、本発明の阻害剤または促進剤に加えて、(化学療法剤のような)他の医薬品を含むことができる。他の化学療法剤は、患者の治療中のあらゆる好適な時間に、同時に、または逐次的に投与することができる。
当業者は、特定の製剤は、1つには、本発明の特定の阻害剤または促進剤、または用いられる他の化学療法剤、および選択した投与の経路に依存するものと認識されよう。したがって、本発明の組成物には、多種多様な好適な製剤がある。
従来の化学療法剤の中で、本発明の活性化剤のうちの1つ以上の阻害剤とともに対象に投与することができる薬剤を表1に記載する。
【0073】
【表1】

【0074】
経口投与に好適な製剤は、水、食塩水、または果物ジュースのような希釈剤に有効量の薬剤を溶解したような液体溶液、それぞれが固体、顆粒または冷凍乾燥させた細胞として、既定量の活性成分を含むカプセル、小袋、または錠剤、水性液体中の溶液または懸濁液、および水中油型エマルジョンまたは油中水型エマルジョンで構成することができる。錠剤の形態は、乳糖、マンニトール、トウモロコシ澱粉、ジャガイモ澱粉、微結晶セルロース、アラビアゴム、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、クロスカルメロースナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、および他の賦形剤、着色剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤、着香剤、および薬理学的に適合する担体のうちの1つ以上を含むことができる。経口的な送達に好適な製剤は、合成および天然の高分子微小球体内に、または消化管内での劣化から本発明の薬剤を保護する他の手段内に組み込むこともできる。
【0075】
非経口投与(例えば、静脈内投与)に好適な製剤には、抗酸化化剤、緩衝剤、静菌剤、および対象となる受容者の血液と等張性のある製剤を与える溶質を含むことができる、水性および非水性の等張性無菌注射溶液、および懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、および防腐剤を含むことができる水性および非水性無菌懸濁液が挙げられる。製剤は、アンプルおよびバイアルのような単回服用または複数回服用の密封容器で提供することができ、また、使用直前に無菌液体担体、例えば注射用の水の添加だけしか必要としないフリーズドライの(凍結乾燥した)状態で貯蔵することができる。即座の注射溶液および懸濁液は、上述した種類の無菌粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。
【0076】
本発明の阻害剤または促進剤は、単独で、または他の化学療法剤と組み合わせて、吸入によって投与されるエアロゾルの製剤に作製することができる。これらのエアロゾルの製剤は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素等の加圧された許容される噴射剤中に収容することができる。
【0077】
当業者は、好適な、または適切な製剤を、当面の特定の用途に基づいて、選択、構成、または拡張できるものと認識されよう。
【0078】
本発明の阻害剤または促進剤の用量は、錠剤またはカプセルのような単位用量形態とすることができる。本願明細書で使用する「単位用量形態」という用語は、ヒトおよび動物の対象に対する単位的な用量として好適な物理的に個別の単位を指し、各単位は、医薬的に許容される希釈剤、担体、またはビヒクルと共に所望の効果を発生するのに十分な量に計算された、既定量の本発明の薬剤を単独で、または他の化学療法剤と組み合わせて含む。
【0079】
当業者は、個々の患者における所望の抗転移有効量または有効濃度の薬剤を達成するために、正確な処方の組成物を使用するための、適切な用量、スケジュール、および投与方法を容易に決定することができる。当業者は、適切な患者試料(例えば、血液および/または組織)の直接的または間接的な分析によって、本発明の化合物の「有効濃度」の適切な指標を容易に決定、かつ使用することもできる。
【0080】
動物、特にヒトに投与される、本発明の阻害剤または促進剤、またはその組成物の用量は、本発明に照らして、妥当な時間枠にわたって個体内に少なくとも治療反応を生じさせるのに十分な量(抗転移有効量)とすべきである。正確な用量は、対象の種、年齢、体重、および全体的な状態、治療されるあらゆる疾患の重症度、または機構、使用される特定の薬剤またはビヒクル、その投与方法等に基づいて、対象によって異なる。生体内で所望の転移抑制濃度を達成するために使用される用量は、用いられる特定の阻害剤の効能、宿主内の薬剤に関連する薬力学、感染個体の疾病状態の重症度、および、全身投与の場合は、個体の体重および年齢によって決定される。用量のサイズも、用いられる特定の阻害剤、またはその組成物が伴い得る、あらゆる有害な副作用の存在によって決定される。概して、可能な場合は常に、有害な副作用を最小限に抑えることが望ましい。
【0081】
併用療法で提供する時には、他の(従来の)化学療法剤を、例えば、阻害剤または活性化剤と同時に提供するか、または必要に応じて、服用の時間をずらすことができる。2つ(またはそれ以上)の薬物を、組成物に組み合わせることもできる。それぞれの用量は、いずれかを単独で使用する時よりも、組み合わせて使用する際に少なくすることができる。
【0082】
本発明の別の実施形態は、本願明細書に記載された方法のうちのいずれか(例えば、診断または治療方法)に有用なキットであって、かかるキットは、本願明細書において考察する、阻害剤または活性化剤、あるいは診断試薬のうちの1つ以上を含むことができる。例えば、対象の転移性癌の治療上の処置に好適なキットは、薬剤として許容される担体、および任意選択で、容器または包装材料をさらに含み得る。診断キットは、本発明のマーカーのリン酸化状態(または、COX−2の場合は、その総量)の決定に好適な薬剤を含むことができる。薬剤は、例えば、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体を含む抗体、または対象となるタンパク質と特異的に結合する(例えば、リンタンパク質の場合、対象となるリン酸化アイソフォームと特異的に結合する)他のリガンドとすることができる。他には、本発明のキットは、実験的応用に使用することができる。当業者は、キットの構成要素が、本発明の方法のうちのいずれの実行にも好適であると認識されよう。
【0083】
任意選択で、キットは、方法を実行するための指示を含む。本発明のキットの任意選択の要素は、好適な緩衝剤、薬剤として許容される担体等、容器、または包装材料を含む。キットの試薬は、試薬が安定する容器に、例えば、凍結乾燥形態または安定化した液体で収容され得る。また、試薬は、単回使用の形態、例えば単回用量形態としてもよい。
【0084】
上述した、および以下の実施例では、全ての温度は、補正されていない摂氏で示され、特に指示しない限り、全ての割合およびパーセントは、重量によるものである。
【0085】
(第1実施形態)材料および方法
1.逆相タンパク質マイクロアレイ 以前に公開された方法(例えば、Petricoin et al.(2005)J.Clin Oncol 23、3614−3621;Liotta et al.(2003)Cancer Cell 、317−325;Sheehan et al.(2005)Mol Cell Proteomics 、346−365)によって生成した、微小解剖した細胞を溶解させて、逆相タンパク質マイクロアレイを、上記Sheehan et al.(2005)によって説明されているように、全細胞溶解物に2通り印刷した。簡潔に述べると、溶解物を、500μmのピンを備えたGMS 417アレイヤ(Affymetrix、Santa Clara、CA)を使用して、ガラスで支持されたニトロセルロースアレイスライド(FAST Slides Whatman、Florham Park、NJ)上に印刷した。各溶解物は、原液および陰性対照希釈剤、1:2、1:4、1:8、1:16を表す希釈曲線に印刷された。スライドは、免疫染色する前に、乾燥剤(Drierite、W.A.Hammond、Xenia、OH)とともに、−20℃で保管した。
2.マイクロアレイ解析のためのバイオインフォマティクス法 各アレイは、走査して、スポット強度を分析し、データを正規化して、標準化し、アレイ上の試料ごとに単一のデータ値を生成した(Image Quant v5.2、GE Healthcare、Piscataway、NJ)。スポット強度は、固定領域を通じて積分した。局所領域の背景強度は、隣接するスライドの背景を刷り込んだスポットごとに計算した。これによって、アレイ上のあらゆる他のスポットとの比較のための、試料ごとの単一のデータ点を得た。Wilcoxonの2試料順位和検定を使用して、2つの群間の値を比較した。0.05未満のP値を有意であるとみなした。
【0086】
(第2実施形態)信号経路の変化、および転移する結腸直腸癌と、転移しない結腸直腸癌とを区別することができる薬物標的の同定
研究セットには、肝臓の転移を示した結腸直腸癌腫と、外科的にヒトの対象から採取した、いかなる転移の証拠も無く、フォローアップ時にも転移を示さなかった結腸直腸癌腫とを使用した。外科的試料は、レーザキャプチャマイクロダイセクションによって処理し、純粋な癌細胞集団を溶解して逆相タンパク質マイクロアレイ解析を行った。この手法を使用することで、70のキナーゼ基質のリン酸化状態を測定することができた。分子ネットワーク分析は、市販のソフトウェア(Microvigene、VigeneTech、MA)を使用して実行した。解析した70のリン酸エンドポイントのうち、12が、(進行の早い)転移性癌と(進行の遅い)非転移性癌との間で、統計的に有意に異なって発現した(スチューデントt検定、p<0.05により)。これらの結果を図1に示す。これらの12のリン酸エンドポイントのうち、10は、転移を示さなかった患者に対して、転移を示した患者において増加し、3つは、非転移性疾患の患者において増加した。予想外に、これらのリン酸化の一部は、特定の標的療法において既に使用している薬物標的を表している。
cAbl(T245)の増加=GLEEVEC
COX−2の増加=VIOXX
pEGFRの増加=TARCEVA
さらに、ERK、AKTおよびp38のようなこれらのエンドポイントのうちの多くは、開発中の、他の分子阻害剤の標的である。また、マーカーのパネルとして、これらのエンドポイントは、進行の早い疾患と進行の遅い疾患とを区別すること、良好な予後と不良な予後とを区別すること、および化学予防的療法、またはCOX−2、egfr、ablによる率先的な療法、または他のキナーゼを標的とする療法の基準を提供することができるセラノスティックの機会を示すことができる。
転移と大きく相関しなかった、試験を行ったリン酸エンドポイントのいくつかを下記の表2に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
(第3実施形態)本発明の標的阻害剤が転移を阻害できることを示す、結腸直腸癌の動物モデルにおける研究
転移プロセスの根拠となる原因、およびそれによって、転移の無い結腸直腸癌を示す患者の将来的な転移の予防のための治療標的として、信号伝達の活性化状態の因果的有意性を、動物モデル系で試験する。
第1の動物モデル系では、ラットBDIX菌種を、DHD−K12細胞系細胞とともに脾静脈に注入し、注入した細胞は、15日で肝転移を、また、20日で肺転移を急速に形成する。ラットは、以下のキナーゼ阻害剤、EGFR阻害剤、AKT阻害剤、COX−2阻害剤、ERK阻害剤、p38阻害剤、PKC阻害剤、cABL阻害剤、STAT1阻害剤を、単独で、または組み合わせて、本願明細書において考察される阻害剤を使用して、前治療を行う。
第2の動物モデル系では、阻害剤を、脾臓注射と同時にラットに与える。
阻害剤が転移コロニの形成を阻害するものと予想され、転移の形成に、これらのリンタンパク質酵素の活性が必要で、かつに十分であることを確認し、また、erkおよびaktの活性化を通じたegfrおよびcablの成長因子経路内のこれらのタンパク質が、予後の決定および予防のための治療標的の両方の好適な候補であるという機構に関する証拠を提供する。
当業者は、上の説明から本発明の基本的な特徴を容易に確認することができ、また、本発明の精神およびその範囲から逸脱することなく、本発明の種々の変更および改良を行って、様々な用法および条件に適合させることができ、本発明を最大限に利用することができる。上述の好適な特定の実施形態は、例示的なものに過ぎず、またどのような場合であっても本発明の範囲を制限するものではないと解釈されたい。2006年10月27日に出願の米国暫定特許出願第US60/854,724号、および図面を含む、上述の全ての出願、特許、および刊行物の全ての開示は、参照することによって、その全体が本願明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結腸直腸癌を有する対象が、予後不良であるかどうか、および/または転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有するかどうかを予測するための方法であって、陽性および/または陰性の参照基準と比較して、前記対象からの試料において、
a.AKT、および/または
b.BAD、および/または
c.cABL、および/または
d.ERK、および/または
e.MARCKS、および/または
f.p38MAPK、および/または
g.STAT1、および/または
h.PTEN、および/または
i.EGFR、および/または
j.PAK1/2、および/または
k.PKCゼータ/ラムダ、および/または
l.COX−2タンパク質の総量、
のうちの少なくとも1つのリン酸化状態を決定するステップを含み、
前記陰性の参照基準と比較して、a〜iのうちの1つ以上のリン酸化状態および/または前記COX−2タンパク質の総量(l)の大幅な増加、または前記陽性の参照基準と統計的に同じレベルであること、および/または
前記陽性の参照基準と比較して、jまたはkのうちの1つ以上のリン酸化状態の大幅な減少、または前記陰性の参照基準と統計的に同じレベルであることが、
対象が、予後不良である、および/または転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有することを示す、
方法。
【請求項2】
さらに、前記リン酸化状態がは、AKT、cABL、ERK、38MAPK、および/またはEGFRに対して測定される、および/または前記タンパク質の総量が、COX2に対して測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記リン酸化状態を決定するステップは、陽性および/または陰性の参照基準と比較して、前記対象からの試料において、
a.AKT(S473)、および/または
b.BAD(S112)、および/または
c.cABL(T735)、および/または
d.ERK(T42/44)、および/または
e.MARCKS(S152−156)、および/または
f.p38MAPK(T180−182)、および/または
g.STAT1(Y701)、および/または
h.PTEN(S380)、および/または
i.EGFR(Y992)、および/または
j.PAK1/2(S119/204)、および/または
k.PKCゼータ/ラムダ(T410−403)、および/または
l.COX−2タンパク質の総量、
のうちの1つ以上のリン酸化レベルを決定することによって実行され、
前記陰性の参照基準と比較して、a〜iのうちの1つ以上のリン酸化レベルおよび/または前記COX−2タンパク質の総量(l)の大幅な増加、または前記陽性の参照基準と統計的に同じレベルであること、および/または
前記陽性の参照基準と比較して、jまたはkのうちの1つ以上のリン酸化レベルの大幅な減少、または前記陰性の参照基準と統計的に同じレベルであることが、
対象が、予後不良である、および/または転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有することを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記リン酸化レベルが、AKT(S473)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、p38MAPK(T180−182)、および/またはEGFR(Y992)に対して測定され、および/または前記タンパク質の総量が、COX2に対して測定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対象が、予後不良である、および/または転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有する場合、前記対象に対して積極的療法を投与するステップをさらに含む、請求項1〜4のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記対象が、予後不良である、および/または転移する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有する場合、前記対象に対して標的療法を投与するステップをさらに含む、請求項1〜5のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記対象が、AKT(S473)、BAD(S112)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、MARCKS(S152−156)、p38MAPK(T180−182)、STAT1(Y701)、PTEN(S380)、またはEGFR(Y992)のリン酸化レベルの大幅な増加、またはCOX−2タンパク質の大幅な増加を呈した場合、前記対象は、それぞれ、有効量のAKT、BAD、cABL、ERK、MARCKS、p38MAPK、STAT1、PTEN、EGFR、またはCOX−2の阻害剤で治療される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記対象が、PAK1/2(S119/204)またはPKCゼータ/ラムダ(T410−403)のリン酸化レベルの大幅な減少を呈した場合、前記対象は、それぞれ、有効量のPAK1/2またはpPKCゼータ/ラムダの活性化剤で治療される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記標的療法は、前記阻害剤および/または活性化剤のうちの2つ以上の併用治療を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記対象が、EGFR(Y992)および/またはcABL(T735)のリン酸化レベルの大幅な増加を呈した場合、前記対象は、それぞれ、有効量の(1)EGFRまたはcABLの阻害剤、および(2)p38MAPKの阻害剤、またはAKTの阻害剤、あるいはERKの阻害剤で治療される、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記対象が、AKT(S473)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、EGFR(Y992)のリン酸化レベルの大幅な増加、またはCOX−2の量の大幅な増加を呈した場合、前記対象は、それぞれ、AKT阻害剤、cABL阻害剤、ERK阻害剤、COX−2阻害剤、またはEGFR阻害剤と組み合わせた、有効量のカルボキシアミドイミダゾール(CAI)で併用治療を受ける、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記cABL阻害剤は、GLEEVEC、DASATINIB、および/またはSUTENTであり、前記pEGFR阻害剤は、TARCEVA、LAPATINIB、IRESSA、ERBITUX、および/またはBEVTUZIMABであり、前記COX−2阻害剤は、VIOXXおよび/またはCELEBREXである、請求項7〜11のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、AKT(S473)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、p38MAPK(T180−182)、および/またはEGFR(Y992)のリン酸化レベル、および/またはCOX2タンパク質の総量の大幅な増加を呈した場合、前記対象は、それぞれ、pAKT阻害剤であるVQD−002およびまたはエンザスタウリン、pABL阻害剤であるGLEEVEC、DASATlNIB、および/またはSUTENT、pERK阻害剤であるCI−1040および/またはPD0325901、p38MAPKである阻害剤SCIO−469、SB 239063、VX−702、および/またはBMS−582949、pEGFR阻害剤であるTARCEVA、LAPATINIB、IRESSA、ERBITUX、および/またはBEVTUZIMAB、または、COX−2阻害剤であるERBITUXおよび/またはVIOXX、で治療される、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
結腸直腸癌を有する対象を治療するための方法であって、前記対象が、それぞれ、AKT、BAD、cABL、ERK、MARCKS、p38MAPK、STAT1、PTEN、EGFRのリン酸化レベルの大幅な増加を呈した場合、またはCOX−2タンパク質の量の大幅な増加を呈した場合、有効量のAKT、BAD、cABL、ERK、MARCKS、p38MAPK、STAT1、PTEN、EGFR、および/またはCOX−2の阻害剤を前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項15】
対象の結腸直腸癌を治療するための方法であって、その改善は、前記対象が、予後不良である、および/または後に転移するか、後に転移を発現する可能性の高い結腸直腸癌の形態を有することを、請求項1〜4のうちのいずれかに記載の方法によって予測するステップと、次いで、前記対象を標的療法で治療するステップと、を含む、方法。
【請求項16】
前記結腸直腸癌の転移の発生が阻害または予防される、請求項5〜15のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記阻害剤、活性化剤、および/または積極的治療と組み合わせて、前記対象に従来の化学療法剤を投与するステップをさらに含む、請求項5〜16のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項18】
AKT(S473)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、p38MAPK(T180−182)、およびEGFR(Y992)の前記リン酸化レベル、および前記COX−2の総量のアッセイに好適な一群の薬剤。
【請求項19】
BAD(S112)、MARCKS(S152−156)、STAT1(Y701)、PTEN(S380)、PAK1/2(S119/204)、および/またはPKCゼータ/ラムダ(T410−403)の前記リン酸化レベルのアッセイに好適な1つ以上の薬剤をさらに含む、請求項18に記載の一群の薬剤。
【請求項20】
前記リンタンパク質の前記リン酸化状態のアッセイに好適な前記薬剤は、前記タンパク質の指示されたリン酸化アイソフォームに対して特異的な抗体である、および/または前記COX−2タンパク質の量を測定するための前記薬剤は、COX−2タンパク質に対して特異的な抗体である、請求項18または19に記載の一群の薬剤。
【請求項21】
前記抗体のうちの1つ以上は、モノクローナル抗体である、請求項20に記載の一群の薬剤。
【請求項22】
結腸直腸癌である対象に対して、予後、後の転移の発現の可能性、または積極的療法を投与する望ましさを予測するためのキットであって、任意選択で容器内に、請求項18〜21のうちのいずれかに記載の一群の薬剤を含む、キット。
【請求項23】
有効量の、
(a)EGFRまたはcABLの阻害剤、および
(b)p38MAPK、またはAKT、あるいはERKの阻害剤、ならびに
薬剤として許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項24】
有効量の、
(a)カルボキシアミドイミダゾール(CAI)、および
(b)pAKT阻害剤、cABL阻害剤、ERK阻害剤、COX−2阻害剤、および/またはpEGFR阻害剤を含む、医薬組成物。
【請求項25】
前記EGFRの阻害剤は、TARCEVA、LAPATINIB、IRESSA、ERBITUX、および/またはBEVTUZIMABであり、および/または
前記cABLの阻害剤は、GLEEVEC、DASATINIB、および/またはSUTENTであり、および/または
前記COX−2の阻害剤は、VIOXXおよび/またはCELEBREXである、請求項23または24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記タンパク質マーカーのうちの2つが測定される、請求項4に記載の方法。
【請求項27】
前記タンパク質マーカーのうちの4つが測定される、請求項4に記載の方法。
【請求項28】
前記タンパク質マーカーのうちの6つ全てが測定される、請求項4に記載の方法。
【請求項29】
前記対象から組織標本または生検を得るステップと、
上皮細胞を分離するために、前記組織標本または生検をレーザキャプチャマイクロダイセクションに供するステップと、
上皮細胞を溶解するステップと、
前記陰性および陽性の参照基準と比較して、前記AKT(S473)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、p38MAPK(T180−192)、および/またはEGFR(Y992)のリン酸化レベル、および/または前記COX−2の総量を決定するように、イムノアッセイによって前記溶解物を分析するステップと、
をさらに含む、請求項4または26〜28のうちのいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記イムノアッセイは、ELISAである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記溶解物は、サスペンションビードアレイまたは逆相アレイとして計量分配され、次いでイムノアッセイに供されるか、または
前記溶解物は、抗体またはアプタマのアレイと接触し、免疫学的アッセイに供される、
請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記対象から組織標本または生検を得るステップと、
前記AKT(S473)、cABL(T735)、ERK(T42/44)、p38MAPK(T180−192)、および/またはEGFR(Y992)のリン酸化レベル、および/または前記COX−2の総量が、進行の遅い結腸直腸癌患者の集団から得られた組織標本または生検と比較して、大幅に増加したかどうか、および/または侵襲的な結腸直腸癌患者の集団から得られた組織標本または生検と統計的に同じであるかどうかを決定するように、組織化学的方法によって、前記組織標本または生検を分析するステップと、
をさらに含む、請求項4または26〜28のうちのいずれかに記載の方法。


【図1】
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【公表番号】特表2010−508512(P2010−508512A)
【公表日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−534685(P2009−534685)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2007/022790
【国際公開番号】WO2008/057305
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(509118330)ジョージ メイソン インテレクチュアル プロパティーズ,インコーポレイテッド オブ フェアファックス,バージニア (3)
【出願人】(591104103)
【Fターム(参考)】