説明

軸受構造

【課題】外輪端面と保持器端面との接触に起因する騒音や振動の発生を防止することができる軸受構造を提供する。
【解決手段】二つ一組の二つ割り外輪3a、3bと、両二つ割り外輪3a、3bの各内側面を転動し得るように配設される複数個の針状ころ等の転動体(図示省略)と、各転動体を円周方向略等間隔に配置するように保持し、少なくとも一箇所で分割されている保持器5a、5bとからなる、クランクシャフト12が内嵌される二つ割り転がり軸受であって、保持器5a、5bは合わせ面C方向から90°ずらした方向を長径LDとし、合わせ面C方向を短径SDとする楕円形状とし、その長径LD側を外輪3a、3bの内周と接触ガイドさせることで、合わせ面Cが存在する短径SD側が、外輪3a、3bの合わせ面の半径方向のずれにより生じた段差Sに対する位置に来た場合でも、保持器5a、5bの円周方向端面が段差Sに接触するのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸受構造に関する。さらに詳しくは、分割型の転がり軸受と、この転がり軸受を支持するハウジングとからなる軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や船舶などのエンジンにおいて、ピストンの往復動を回転運動に変換するクランクシャフトを支持する軸受は、カウンターウェイト間又はカウンターウェイトとコンロッド大端部との間に配置されることから、円周方向に2分割された二つ割り軸受が使用されている。
【0003】
前記支持軸受としては、従来、滑り軸受が使用されてきたが、近年、より燃料消費量の少ないエンジンに対する要求が益々高まっていることから、回転損失を低減させるために、前記滑り軸受に代えて周方向に分割された転がり軸受を使用することが提案されている。
【0004】
この分割型の転がり軸受は、例えば、二つ一組の二つ割り外輪と、両二つ割り外輪の各内側面を転動し得るように配設される複数個のころと、各ころを円周方向略等間隔に配置するように保持する二つ一組の二つ割り保持器とを備えている。そして、クランクシャフトが内輪部材として転がり軸受に内嵌される。
【0005】
ところで、前記分割型の転がり軸受では、二つ一組の二つ割り外輪の円周方向端面同士が当接されて合わせ面を形成しているが、当該転がり軸受を収容する支持孔を有するハウジングへの組み付け誤差や、ハウジング嵌め合い面の加工状態により、前記合わせ面において、対向する外輪両端部にラジアル方向のズレが生じることがある。その結果、当該合わせ面にラジアル方向内側に突出する段差が形成されることがある。
【0006】
かかる段差をころが通過すると振動や騒音が発生し、好ましくないことから、前記段差による影響を排除するために、二つ割り外輪の形状や寸法に関して種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、外輪の円周方向端部に傾斜面を形成するなどの加工を施すことが提案されている。また、特許文献2には、内輪の外周から外輪の内周までの距離を、当該外輪の合わせ面の位置において、ころの外径よりも大きくすることが提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2006−336765号公報
【特許文献2】特開2006−234134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜2を含む従来の軸受構造は、ころと段差の接触にのみ着目しており、当該段差と保持器の円周方向端面との接触に着目したものはなかった。すなわち、クランクシャフトの回転によってころが転走し、保持器が回転すると、前記段差に二つ割り保持器の円周方向端面が接触し、これにより振動や騒音が発生することがあるが、かかる外輪端面と保持器端面との接触の回避については、これまで何も提案されていない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、外輪端面と保持器端面との接触に起因する騒音や振動の発生を防止することができる軸受構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の軸受構造は、断面略半円形状の凹部を有する第1ハウジング部と、この第1ハウジング部の凹部とで断面略円形の支持孔を形成する、断面略半円形状の凹部を有する第2ハウジング部とからなるハウジングと、
このハウジングの支持孔内に密接して配設される二つ一組の二つ割り外輪と、両二つ割り外輪の各内側面を転動し得るように配設される複数個の転動体と、各転動体を円周方向略等間隔に配置するように保持し、少なくとも一箇所で分割されている保持器とからなり、シャフトが内嵌される二つ割り転がり軸受と
を備えており、前記保持器の外径が前記外輪の内周面にガイドされる軸受構造であって、
前記保持器の、合わせ面方向から90°ずらした方向の外径寸法を、当該合わせ面方向の外径寸法よりも大きくして、この90°ずらした方向の外径近傍を外輪内周面にガイドさせることを特徴としている。
【0011】
本発明の軸受構造では、保持器の外径を真円とはせずに、当該保持器の合わせ面方向(合わせ面と保持器の中心とを結ぶ方向)から90°ずらした方向の外径寸法を、合わせ面方向の外径寸法よりも大きくしている。そして、この90°ずらした方向の外径近傍を外輪内周面にガイドさせるようにしている。したがって、保持器の外径はその合わせ面から90°ずれた位置付近で外輪の内周と接触するので、保持器の合わせ面、すなわち円周方向端面が、外輪合わせ面の半径方向のずれによって生じた段差に対向する位置にきた場合でも、この円周方向端面と段差との間にクリアランスを設けることができ、当該円周方向端面が段差に接触するのを防止することができる。その結果、保持器の円周方向端面と前記段差との接触に起因する騒音や振動の発生を防ぐことができる。
【0012】
前記保持器を、合わせ面方向から90°ずらした方向を長径とし、合わせ面方向を短径とする楕円形状を呈したものとすることができる。この構成によれば、楕円形状の保持器の長径側が外輪の内周と接触してガイドされるので、保持器の合わせ面が存在する短径側が段差に対向する位置にきた場合でも、保持器の円周方向端面が段差に接触するのを防止することができる。
【0013】
前記保持器の合わせ面付近の端部外周を切除して小径部を形成することにより、前記保持器の、合わせ面方向から90°ずらした方向の外径寸法を、当該合わせ面方向の外径寸法よりも大きくすることができる。この場合、保持器の合わせ面付近の端部外周を切除して小径部としているので、当該保持器は、合わせ面方向から90°ずらした位置付近で外輪の内周と接触する。これにより、保持器の合わせ面が存在する小径部が段差に対向する位置にきた場合でも、保持器の円周方向端面が段差に接触するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の軸受構造によれば、外輪端面と保持器端面との接触に起因する騒音や振動の発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の軸受構造の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施の形態に係る軸受構造1が適用されるコンロッド(コネクティングロッド)大端部の断面説明図である。コンロッド10は、その大端部11がクランクシャフト12に支持され、図示しない小端部側に図示しないピストンがピンを介して取り付けられる。
【0016】
前記大端部11は、断面略半円形状の凹部を有する、第1ハウジング部である本体部13に、断面略半円形状の凹部を有する、第2ハウジング部であるキャップ部14をボルト15で締結固定することにより断面略円形の支持孔16を形成する構造である。この本体部13とキャップ部14とで形成される断面略円形の支持孔16内に、二つ割り転がり軸受2が組み込まれる。
【0017】
この転がり軸受2は、支持孔16内に密接して配設される二つ一組の二つ割り外輪3a、3bと、両二つ割り外輪3a、3bの各内側面を転動し得るように配設される複数個の転動体であるころ4と、各ころ4を円周方向略等間隔に配置するように保持する二つ一組の二つ割り保持器5a、5bとを備えており、クランクシャフト12が転がり軸受2の内輪部材を構成している。
【0018】
図2は、図1に示される軸受構造における外輪3a、3b、保持器5a、5b及びクランクシャフト12の関係を模式的に示す概念説明図であり、分かり易くするために、ころ4の図示は省略している。保持器5a、5bは、図示されているように、当該保持器5a、5bの合わせ面方向から90°ずらした方向を長径とし、合わせ面方向を短径とする楕円形状を呈している。すなわち、図2において、Cは保持器5aと保持器5bの各円周方向端面が互いに当接する合わせ面を示しているが、保持器5a、5bは、両合わせ面Cを結ぶ合わせ面方向を短径SDとし、当該合わせ面から90°ずらした方向を長径LDとする楕円形状を呈している。保持器5a、5bを真円とはせずに楕円形状とし、その長径側を外輪の内周と接触させることで、合わせ面Cが存在する保持器短径側が、外輪3a、3bの合わせ面の半径方向のずれにより生じた段差Sに対向する位置にきた場合でも、保持器5a、5bの円周方向端面と前記段差Sとの間にクリアランスを確保することができ、当該保持器5a、5bの円周方向端面が前記段差Sに接触するのを防止することができる。その結果、保持器5a、5bの円周方向端面と段差Sとの接触に起因する騒音や振動の発生を防ぐことができる。
【0019】
前記保持器5a、5bの長径LDと短径SDとの差は、当該保持器5a、5bが内接する外輪3a、3bの内径、及びクランクシャフト12の直径により異なるが、通常、ころ径(転動体として玉を用いるときは、玉径)の5〜50%程度とすることができる。
【0020】
図3は、本発明の軸受構造の他の実施の形態における保持器の説明図である。この保持器25a、25bでは、合わせ面付近の端部外周を切除して小径部26を形成することにより、当該保持器25a、25bの、合わせ面方向から90°ずらした方向の外径寸法を、当該合わせ面方向の外径寸法よりも大きくしている。保持器25a、25bの合わせ面付近の端部外周を切除して小径部としているので、当該保持器は、合わせ面方向から90°ずらした位置付近で外輪の内周と接触する。これにより、保持器25a、25bの合わせ面が存在する小径部26が外輪合わせ面にできる段差に対向する位置にきた場合でも、保持器25a、25bの円周方向端面と当該段差との間にクリアランスを確保することができ、保持器25a、25bの円周方向が段差に接触するのを防止することができる。
【0021】
前記小径部26は、例えば、保持器の外周面を塑性加工、切削加工したり、金型により成形したりすることにより形成することができ、かかる小径部26を形成した後に保持器を当該小径部26にて切断することで、二つ割りの保持器25a、25bを得ることができる。なお、小径部26の外径と、それ以外の保持器の外径との境界Bは、外輪との接触時の衝撃緩和の点より、角部とせずに、なだらかに繋がるR部とするのが好ましい。
【0022】
保持器の円周方向端面には、図4に示されるように、接触ないしは衝突による衝撃を緩和するための緩衝層27を設けるのが好ましい。クランクシャフト12の回転に伴い転走するころ4の速度は、場所によりころに作用する荷重が異なるとともに、ころ周長にわずかではあるが差(製作誤差)が存在することから、周方向において同じではない。このため、両保持器の速度も同一ではなく、一方が速く回転し、他方が遅く回転することで、保持器の円周方向端面同士がぶつかることがある。この場合に、保持器の円周方向端面に緩衝層27を設けると、端面同士の接触時に発生する騒音や振動を抑制することができる。
【0023】
前記緩衝層27は、例えば不飽和ポリエステル、エポキシ、アルキド、ウレタンなどの樹脂を保持器の円周方向端面に電着塗装したり、スプレー塗装したりすることで設けることができる。緩衝層27の厚さは、5〜30μm程度とするのが好ましい。5μmよりも薄いと緩衝効果が少なく、衝突時の騒音や振動を充分に緩和することができない。一方、30μmよりも厚いと膜がはみ出して、外輪段差に衝突する。また、対向する保持器端面の緩衝層27の表面間の距離dは、0.1〜3mm程度とするのが好ましい。0.1mmよりも小さいと昇温時にすきまがつまり、一方、3mmよりも大きいと衝突による衝撃力が大きいという問題がある。
【0024】
なお、前述した実施の形態では、転動体としてころを用いているが、玉を用いた軸受であってもよい。また、軸受構造をコネクティングロッドの大端部に適用しているが、図5に示されるように、クランクシャフト固定部20の一部を構成するハウジングであるアッパーブロック21とこのアッパーブロック21と一体に結合されるハウジングであるロアブロック22により形成される支持孔内に配置される、クランクシャフト支持用の軸受として用いることもできる。なお、図5において、23はアッパーブロック21とロアブロック22を一体に固定する固定ボルトであり、24はクランクシャフトの支持軸である。
さらに、前述した実施の形態では、軸受に内嵌されるシャフトとして、クランクシャフトを例示したが、カムシャフトなど他のシャフトにも、本発明の軸受構造を適用することができる。
また、転動体を保持する保持器としては、二つ割りタイプ(図6の(a)参照)の保持器5a、5bに限定されるものではなく、円周方向において少なくとも一箇所で分割されておればよく、図6の(b)に示されるような、一つ割り(C型)タイプの保持器35であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態に係る軸受構造が適用されるコンロッド大端部の断面説明図である。
【図2】図1に示される軸受構造における外輪、保持器及びクランクシャフトの関係の概念説明図である。
【図3】本発明の軸受構造の他の実施の形態における保持器の説明図である。
【図4】保持器の合わせ面付近の説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る軸受構造が適用されるエンジンのクランクシャフト固定部の断面説明図である。
【図6】保持器の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 軸受構造
2 転がり軸受
3a 外輪
3b 外輪
4 ころ(転動体)
5a 保持器
5b 保持器
10 コンロッド
11 大端部
12 クランクシャフト
13 本体部(第1ハウジング部)
14 キャップ部(第2ハウジング部)
15 ボルト
16 支持孔
25a 保持器
25b 保持器
26 小径部
27 緩衝層
35 保持器
C 合わせ面
S 段差
B 境界部
SD 短径
LD 長径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面略半円形状の凹部を有する第1ハウジング部と、この第1ハウジング部の凹部とで断面略円形の支持孔を形成する、断面略半円形状の凹部を有する第2ハウジング部とからなるハウジングと、
このハウジングの支持孔内に密接して配設される二つ一組の二つ割り外輪と、両二つ割り外輪の各内側面を転動し得るように配設される複数個の転動体と、各転動体を円周方向略等間隔に配置するように保持し、少なくとも一箇所で分割されている保持器とからなり、シャフトが内嵌される二つ割り転がり軸受と
を備えており、前記保持器の外径が前記外輪の内周面にガイドされる軸受構造であって、
前記保持器の、合わせ面方向から90°ずらした方向の外径寸法を、当該合わせ面方向の外径寸法よりも大きくして、この90°ずらした方向の外径近傍を外輪内周面にガイドさせることを特徴とする軸受構造。
【請求項2】
前記保持器が、合わせ面方向から90°ずらした方向を長径とし、合わせ面方向を短径とする楕円形状を呈している請求項1に記載の軸受構造。
【請求項3】
前記保持器の合わせ面付近の端部外周を切除して小径部を形成することにより、前記保持器の、合わせ面方向から90°ずらした方向の外径寸法を、当該合わせ面方向の外径寸法よりも大きくした請求項1に記載の軸受構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−144795(P2009−144795A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321763(P2007−321763)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】