説明

輪郭圧電振動片及びその製造方法

【課題】輪郭圧電振動片の周波数を簡単に効率良くかつ高精度に調整する。
【解決手段】正方形の水晶平板からなる振動部2と支持部4とそれらを結合する接続部3a,3bとを一体に備える輪郭水晶振動片1において、振動部の両面にそれより小さい同心正方形状の励振電極5,6を形成し、その外側に該振動部の周辺との間に矩形枠状の水晶素面領域7,8を設ける。水晶素面領域には、振動部の各辺2a〜2dに沿って延長する複数の細い直線状の溝11a〜11d,12a〜12dが振動部の対向する各2辺の中点を通る2つの対称軸に関してそれぞれ線対称に形成されている。基本的に振動部の輪郭寸法により設定される輪郭水晶振動片の周波数は、溝の本数、それらの幅、長さ、深さや位置を適当に選択することにより、低くなる向きに調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪郭振動モードで励振する圧電振動片に関し、更にその周波数を調整する工程を含む圧電振動片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水晶振動子は、100kHzレベルまでの低周波数で振動する音叉型水晶振動子や、10MHz以上の比較的高周波数で振動する厚みすべり振動モードのATカット水晶振動子が広く使用されている。最近は、これらの中間範囲にある数MHzの周波数で振動する輪郭振動モードの圧電振動子が注目されている。輪郭振動には、例えばラーメモード、長さ縦振動モード、幅縦振動モード、幅・長さ結合振動モード、輪郭すべり振動モード等の振動モードがある(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
ラーメモードの輪郭振動子は、単一の正方形からなる又は複数の正方形を連ねた矩形圧電基板の振動部と、支持フレームと、それらを振動の節点で接続する接続部とを一体に備える(例えば、非特許文献2、特許文献1を参照)。振動部は、その表裏各面に形成された励振電極に所定の電流を印加して励振すると、前記正方形の4つの角部を節点として面内で、対向する一方の2辺と他方の2辺が交互に外向き又は内向きに伸縮するラーメモードの輪郭振動を行う。非特許文献1に記載される周波数方程式から分かるように、ラーメモード輪郭振動子の共振周波数は、振動部の幅及び長さ、即ち輪郭寸法によって決定される。
【0004】
長さ縦振動モード及び幅縦振動モードの輪郭振動子は、それぞれ矩形の圧電振動板の長手方向及び幅方向に伸縮して振動する。幅・長さ結合振動モードでは、これら両振動モードがそれぞれ主振動又は副振動として同時に励振される。これら輪郭振動子の共振周波数は、長さ縦振動モードの場合には振動部の長さ寸法に、幅縦振動モードの場合には振動部の幅寸法にそれぞれ反比例し、幅・長さ結合振動モードでは各振動モードの共振周波数がそれぞれ幅及び長さに反比例し、他の寸法には殆ど依存しないことが知られている(例えば、特許文献2,3を参照)。
【0005】
特許文献2,3に記載の輪郭振動子は、粒子エッチング法、スパッタリング法、レーザビーム法又は電子ビーム法等により振動部の金属膜を飛散させたり、蒸着法等により振動部に金属膜を付着させることにより、周波数調整を行う。更に、周波数調整は、多数の輪郭水晶振動子を水晶ウエハに形成した状態で、輪郭水晶振動子をケース又は蓋の固定部に固定した状態で、又は輪郭水晶振動子を収納したケースと蓋とを接合した状態で行なわれる。
【0006】
別の輪郭振動子として、正方形の圧電基板からなる機械振動部がその正方形状を維持したまま面方向に拡大・収縮して振動する輪郭拡がり振動モードの圧電振動子が知られている(例えば、特許文献4を参照)。特許文献4記載の圧電振動子は、恒弾性金属板からなる機械振動部の一面に圧電薄膜を形成しかつその上に電極膜を設け、対向する一方の2辺で結合部によりフレーム部と結合し、対向する他方の2辺方向に振動部全体が伸縮するように振動する。
【0007】
特許文献4に記載の圧電振動子は、機械振動部の電極膜を設けていない面に、その中心又はその近傍に複数の溝を振動方向と交差する向きに延長するように設けることにより、周波数調整を行う。この溝により、主たる振動変位方向の実効上の長さが長くなり、振動変位量が大きくなって、振動周波数が低くなる方向に調整される。また、同文献には、複数の溝は、中央の溝の両側に対称的に設けるのがバランスの点で好ましいことが記載されている。
【0008】
【非特許文献1】川島宏文、外1名、「エッチング法によって形成されたラーメモード水晶振動子」、第24回EMシンポジウム予稿集、電気学会、平成7年5月、p.11−16
【非特許文献2】超音波便覧編集委員会編、「超音波便覧」、丸善株式会社、1999年8月、p.580−585
【特許文献1】特開2003−115747号公報
【特許文献2】特開2005−94733号公報
【特許文献3】特開2004−135357号公報
【特許文献4】特開平4−14882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献2,3に記載される輪郭水晶振動子の周波数調整方法は、厚みすべり振動モードのATカット水晶振動子と同様に、励振電極の厚さを調整することによるものである。しかしながら、輪郭水晶振動子の周波数は輪郭寸法によって決定されるから、励振電極の厚さ変化は周波数の変動に直接作用するものではない。そのため、輪郭振動子の周波数を効率良くかつ高精度に調整することが困難である。また、輪郭振動子の場合、周波数の調整量を大きくするために励振電極の膜厚を大きく変化させると、温度特性まで変化する虞がある。
【0010】
上記特許文献4には、振動板の電極膜と反対側の面に溝を形成することによる周波数調整は、圧電板に電極を設ける構造の圧電振動子にも適用できることが記載されている。しかしながら、同文献の溝形成による周波数調整は、圧電板からなる振動部の両面に励振電極を設けた構造の圧電振動子には適用することができない。
【0011】
そこで本発明は、上述した従来の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、矩形圧電基板からなる振動部の両面に励振電極を設けた構造を有する輪郭圧電振動子の周波数を比較的容易に、効率良くかつ高精度に調整可能な輪郭圧電振動片、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、上記目的を達成するために、矩形平板の振動部と支持部と振動部を支持部に結合する接続部とを圧電基板から一体に形成した輪郭圧電振動片において、振動部が、その表裏両面に所望の輪郭振動を励振するための励振電極と、その少なくとも一方の面に励振電極を形成していない圧電基板の素面領域とを有し、該素面領域には、周波数を調整するための溝が、輪郭振動の方向に対向する振動部の2辺に沿って延長し、かつ振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関してそれぞれ線対称をなすように形成されている輪郭圧電振動片が提供される。
【0013】
このように圧電基板の素面領域を設けかつ溝を形成することによって、輪郭圧電振動片を輪郭振動させたとき、その振動変位が、振動部の振動方向の長さを実際よりも長くしたように大きくなる。従って、輪郭圧電振動片にその振動特性を劣化させるような影響を及ぼすことなく、その周波数を低くなる向きに調整することができる。別言すれば、前記溝の形成によって、振動部の寸法を大きくすることなく、圧電振動片の低周波化を図ることができる。このような溝は、レーザビームやイオンエッチング等のドライエッチングやウエットエッチングにより、溝の大きさ及び位置を制御して容易に形成することができる。従って、形成する溝の本数、その幅、長さ、深さ及び加工位置を適当に選択することによって、輪郭圧電振動片の共振周波数を容易にかつ高精度に調整することができる。
【0014】
本願発明者は、前記溝の大きさが同じであっても、その振動部への加工位置によって周波数の変動量に差があり、溝を振動部の内側即ち中心に近付けるほど周波数の変動量が大きく、振動部の外側即ち周辺に近付けるほど小さいことを見出した。従って、或る実施例では、振動部に圧電基板の素面領域が励振電極の外側に振動部の周辺との間に設けられることにより、溝の形成による周波数変動量を小さくし、周波数微調整を高精度に行うことができる。別の実施例では、圧電基板の素面領域が振動部の中央に設けられ、該素面領域の外側に励振電極が形成されることにより、溝の形成による周波数変動量を大きくし、周波数粗調整を効率良く行うことができる。更に別の実施例では、これらを組み合わせることにより、輪郭圧電振動片の周波数の粗調整と微調整とを容易に行うことができる。
【0015】
また、或る実施例では、ラーメモードの輪郭振動を行うように、振動部が単一の正方形又は複数の正方形を連ねた長方形をなし、該正方形の両面にそれと同心に励振電極が形成され、圧電基板の素面領域に溝が振動部の正方形の対向する一方又は他方の2辺に沿って延長するように形成される。このように溝を対称に配置することにより、ラーメモードの輪郭振動をその特性を劣化させないようにバランス良く行うことができる。
【0016】
別の実施例では、幅縦振動モードの輪郭振動を行うように、振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関して対称に励振電極が形成され、圧電基板の素面領域に溝が振動部の対向する長手方向の2辺に沿って延長するように形成される。このように溝を対称に配置することにより、幅縦振動モードの輪郭振動をその特性を劣化させないようにバランス良く行うことができる。
【0017】
また、或る実施例では、圧電基板の素面領域が振動部の表裏各面に設けられ、その表面と裏面とで溝が対称に設けられることにより、輪郭圧電振動片をバランス良く励振させかつその周波数をより効率的に調整することができる。
【0018】
本発明の別の側面によれば、矩形平板の振動部と支持部とそれらを接続する接続部とを一体に備える輪郭圧電振動片の外形を圧電基板から加工する工程と、振動部の表裏両面に所望の輪郭振動を励振するための励振電極を、振動部の少なくとも一方の面に励振電極を形成していない圧電基板の素面領域を設けるように形成する工程と、該素面領域に輪郭振動の方向に対向する振動部の2辺に沿って延長する溝を振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関してそれぞれ線対称をなすように形成することにより、輪郭圧電振動片の周波数を調整する工程とを有する輪郭圧電振動片の製造方法が提供される。
【0019】
このように溝を形成することにより、輪郭圧電振動片の振動変位が、振動部の振動方向の長さを実際よりも長くしたように大きくなるので、その周波数を低くする向きに調整することができる。しかも、圧電基板の素面領域に溝を形成することは、従来のレーザビームやイオンエッチング等のドライエッチングやウエットエッチングを用いて、溝の大きさ及び位置を制御して容易に形成することができる。
【0020】
或る実施例によれば、圧電基板の素面領域を励振電極の外側に振動部の周辺との間に設け、該素面領域に溝を形成することにより、溝の形成による周波数変動量を小さくして、輪郭圧電振動片の周波数を高精度に微調整することができる。
【0021】
別の実施例によれば、圧電基板の素面領域をその外側に励振電極が配置されるように振動部の中央に設け、該素面領域に溝を形成することにより、溝の形成による周波数変動量を大きくして、輪郭圧電振動片の周波数を効率良く粗調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の好適実施例について添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1(A)(B)は、本発明を適用した輪郭振動片の第1実施例を示している。本実施例の輪郭振動片はラーメモードの輪郭水晶振動片1であり、単一の正方形からなる水晶平板の振動部2を有する。振動部2の一方の対角位置の角部には、対角線の方向に延長するように接続部3a,3bが設けられている。振動部2の外側には、一定の隙間をもってL字状の支持部4が配置され、その各端部で前記接続部を介して振動部2と一体に結合されている。
【0023】
振動部2の表裏各面には、それぞれ励振電極5,6が形成されている。励振電極5,6は、辺の長さが振動部2より短い正方形をなし、該振動部の中心Oと同心に配置されている。これにより、振動部2の表裏両面には、その周辺と励振電極5,6との間に一定幅の矩形枠状の水晶素面領域7,8が設けられる。各励振電極5,6は、それぞれ一方の前記接続部に形成した配線により引き出されて、支持部4の表面又は裏面に形成した接続電極9,10に接続されている。
【0024】
水晶素面領域7,8には、振動部2の各辺2a〜2dに沿って延長する複数の細い直線状の溝11a〜11d,12a〜12dが形成されている。本実施例では、前記振動部の各辺2a〜2dと励振電極5,6との間にそれぞれ前記溝が2本ずつ配置されている。溝11a〜11d,12a〜12dは、対向する2辺2a,2b及び2c,2dの中点を通る正方形の2つの対称軸に関してそれぞれ線対称に、即ち振動部2の中心Oに関して対称に設けられる。
【0025】
前記接続電極に所定の電流を印加して励振すると、振動部2は、正方形の角部を節点として面内で長さ及び幅方向に交互に伸縮するラーメモードの輪郭振動を行う。この輪郭振動の周波数は、基本的に振動部2の縦横寸法によって設定される。
【0026】
本発明によれば、前記溝の形成によって、振動部2の縦横寸法で決定された周波数を低くなる向きに調整することができる。前記溝の本数、それらの幅、長さ、深さや位置は、周波数の調整量によって適当に設定する。前記溝は、その大きさが同じであっても、振動部2への加工位置によって周波数への影響が異なり、その変動量に差があることが分かった。周波数の変動量は、前記溝を振動部2の内側即ち中心Oに近付けるほど大きく、振動部2の外側即ち周辺に近付けるほど小さい。従って、周波数調整量の大きい粗調整の場合は、前記溝を振動部2の内側に励振電極5,6に近付けて配置し、周波数調整量の僅かな微調整の場合は、前記溝を振動部2の外側に各辺2a〜2dに近付けて配置すると有利である。
【0027】
前記溝は、上述したように振動部2の正方形の対称軸に関して対称に配置されるので、ラーメモードの輪郭振動のバランスが損なわれて振動特性が劣化する虞は無い。逆に、例えば振動部2の外形加工の誤差等で輪郭振動の節点が正方形の角部からずれているような場合には、前記溝の配置、寸法等のバランスを適当に設定することによって、ラーメモードの節点のずれを解消することも可能である。
【0028】
前記溝は、例えばレーザビームやイオンビーム等を用いたドライエッチングにより形成することができる。また、周波数の調整量が大きい場合には、適当なエッチング液を用いたウエットエッチングにより前記溝を形成することができる。本実施例では、前記溝を一定幅及び一定深さの断面一様な連続する溝形状に形成したが、多数のドット状の小穴を連続させて形成することもできる。また、前記溝は、振動部2を貫通する溝の形態で形成することもできる。このような溝の形状及び形成方法は、以下に説明する本発明の他の実施例にも同様に適用される。
【0029】
図2(A)(B)は、上記第1実施例の変形例によるラーメモードの輪郭水晶振動片を示している。この変形例において、図1の第1実施例と類似の部分にはそれと同じ参照符号を付して説明する。本実施例の輪郭水晶振動片21は、単一の正方形からなる水晶平板の振動部2の表裏各面に、該振動部の中心Oと同心に正方形枠状の励振電極22,23が形成されている。これにより、振動部2の表裏両面には、該振動部より辺の長さが短くかつその中心Oと同心をなす正方形の水晶素面領域24,25が設けられる。各励振電極22,23は、同様にそれぞれ一方の前記接続部に形成した配線により引き出されて、支持部4の表面又は裏面に形成した接続電極9,10に接続されている。
【0030】
水晶素面領域24,25には、振動部2の各辺2a〜2dと平行に複数の細い直線状の溝26,27が形成されている。本実施例では、前記振動部の中心Oと励振電極22,23との間にそれぞれ前記溝が1本ずつ配置されている。溝26,27は、対向する2辺2a,2b及び2c,2dの中点をそれぞれ通る正方形の2つの対称軸に関して線対称に、即ち振動部2の中心Oに関して対称に設けられる。
【0031】
本実施例においても、前記溝の形成により、振動部2の縦横寸法により決定された周波数を低くなる向きに調整することができる。溝26,27の本数、それらの幅、長さ、深さ及び位置は、周波数の調整量によって適当に設定する。上述したように振動部の内側に溝を配置するほど、周波数への影響が大きいので、水晶素面領域24,25を比較的小さくしても、周波数調整量を大きくとることができる。
【0032】
また、前記溝は、上述したように振動部2の正方形の対称軸に関して対称に配置されるので、ラーメモードの振動のバランスが損なわれて振動特性が劣化する虞は無い。特にラーメモードの輪郭振動は、振動部2の正方形の中心Oも振動の節点となるので、これと同心に設けた水晶素面領域24,25が輪郭水晶振動片21の振動に及ぼす影響は非常に少ない。また、本実施例においても、前記溝の配置、寸法等のバランスを適当に設定することによって、ラーメモードの節点のずれを解消することが可能である。
【0033】
別の実施例では、図1及び図2の実施例を組み合わせることができる。この場合、図1の振動部2には、図2の実施例と同様に、各励振電極5,6の中央にその正方形よりも小さい同心正方形状の水晶素面領域を設け、該振動部の各辺と平行に延長する細い溝を追加して、振動部の中心Oに関して対称に形成する。この追加の溝は、特に輪郭水晶振動片の周波数を粗調整する場合に適している。その場合、各励振電極5,6の外側の水晶素面領域7,8には、周波数微調整のために前記溝を形成することができる。
【0034】
図3(A)(B)は、本発明を適用した輪郭振動片の第2実施例を示している。本実施例の輪郭振動片は幅縦振動モードの輪郭水晶振動片31であり、長方形の水晶平板からなる振動部32を有する。振動部32の対向する両短辺には、その中央位置から長手方向に延長する接続部33a,33bが設けられている。振動部32の外側には、一定の隙間をもって矩形枠状の支持部34が配置され、前記接続部を介して振動部32と一体に結合されている。
【0035】
振動部32の表裏各面には、それぞれ中央に長方形の励振電極35,36が形成されている。励振電極35,36の周囲には、振動部32の周辺との間に水晶素面領域37,38が設けられている。各励振電極35,36は、それぞれ一方の前記接続部に形成した配線により引き出されて、支持部34の表面又は裏面に形成した接続電極39,40に接続されている。
【0036】
水晶素面領域37,38には、振動部32の長手方向に沿って複数の細い直線状の溝41a,41b,42a,42bが形成されている。本実施例では、励振電極35,36の両側にそれぞれ前記溝が3本ずつ配置されている。溝41a,41b,42a,42bは、振動部32の長手方向及び幅方向の中心軸に関してそれぞれ線対称に設けられる。
【0037】
前記接続電極に所定の電流を印加して励振すると、振動部32は、面内で長手方向の2辺の向き即ち幅方向に拡大収縮する幅縦振動モードの輪郭振動を行う。この輪郭振動の周波数は、基本的に振動部32の幅寸法によって設定される。
【0038】
本発明によれば、前記溝の形成によって、振動部32の縦横寸法で決定された周波数を低くなる向きに調整することができる。前記溝は、上述したように振動部32の長手方向及び幅方向の中心軸に関して対称に配置されるので、幅縦振動モードのバランスが損なわれて振動特性が劣化する虞は無い。
【0039】
第1実施例のラーメモードの場合と同様に、前記溝は、幅、長さ、深さの大きさが同じであっても、振動部32への加工位置によって周波数への影響即ちその変動量に差が生じる。周波数の変動量は、前記溝を振動部32の内側に近付けるほど大きく、振動部32の外側に近付けるほど小さい。従って、周波数を大きく調整したい粗調整では、前記溝を振動部32の内側に励振電極35,36に近付けて配置し、周波数を僅かな大きさだけ調整したい微調整では、前記溝を振動部32の外側に長手方向の各辺32a,32bに近付けて配置すると有利である。
【0040】
図4(A)(B)は、上記第2実施例の変形例による幅縦振動モードの輪郭水晶振動片を示している。この変形例において、図3の第2実施例と類似の部分にはそれと同じ参照符号を付して説明する。本実施例の輪郭水晶振動片51は、長方形の水晶平板からなる振動部32の表裏各面に、該振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関してそれぞれ線対称をなす矩形枠状の励振電極52,53が形成されている。これにより、振動部32の表裏両面には、それぞれ中央に長方形の水晶素面領域54,55が設けられる。各励振電極52,53は、同様にそれぞれ一方の前記接続部に形成した配線により引き出されて、支持部34の表面又は裏面に形成した接続電極39,40に接続されている。
【0041】
水晶素面領域54,55には、振動部32の長手方向に延長する複数の細い直線状の溝56,57が形成されている。本実施例では、前記振動部の長手方向の中心軸の両側にそれぞれ前記溝が2本ずつ配置されている。溝56,57は、同様に前記振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関してそれぞれ線対称に設けられる。そのため、輪郭水晶振動片51は、前記溝の形成により幅縦振動モードのバランスが損なわれて振動特性が劣化する虞は無い。
【0042】
本実施例においても、前記溝の形成により、振動部32の幅寸法により決定された周波数を低くなる向きに調整することができる。溝56,57の本数、それらの幅、長さ、深さ及び位置は、周波数の調整量によって適当に設定する。上述したように振動部の内側に溝を配置するほど、周波数への影響が大きいので、水晶素面領域54,55を比較的小さくしても、周波数調整量を大きくとることができる。
【0043】
別の実施例では、図3及び図4の実施例を組み合わせることができる。この場合、図3の振動部32には、図4の実施例と同様に、各励振電極35,36の中央にそれよりも小さい矩形の水晶素面領域を、該振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関してそれぞれ線対称に設ける。この水晶素面領域には、振動部32の長手方向に延長する細い溝を、該振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関して対称に追加して形成する。この追加の溝は、同様に輪郭水晶振動片の周波数を粗調整する場合に適している。その場合、各励振電極35,36の外側の水晶素面領域37,38には、周波数微調整のために前記溝を形成することができる。
【0044】
更に本発明は、上述したラーメモード及び幅縦振動モード以外の輪郭水晶振動片にも、同様に適用することができる。その場合、矩形平板の振動部には、その両面に励振電極を形成しない水晶素面領域を設け、かつ該水晶素面領域には、振動部の振動方向に対向する2辺に沿って延長する溝を、該振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関してそれぞれ線対称に形成する。この溝の本数、その幅、長さ、深さ及び位置を上述したように適当に選択することによって、基本的に振動部の輪郭寸法で決定される振動片の共振周波数を、所望の値又は範囲に調整することができる。
【0045】
次に、本発明により輪郭水晶振動片を製造する工程を、複数の図1に示す輪郭水晶振動片を1枚の水晶ウエハから同時に形成する場合について説明する。先ず、従来と同様にフォトエッチング技術を用いて、水晶ウエハに複数の輪郭水晶振動片1の外形を加工する。前記水晶ウエハの表裏両面に電極材料を成膜し、これをウエットエッチングによりパターニングして、前記各輪郭水晶振動片の励振電極5,6、接続電極9,10、及びそれらを接続する前記配線を形成する。これにより、前記水晶ウエハには、複数の輪郭水晶振動片1が形成される。
【0046】
次に、前記水晶ウエハの各輪郭水晶振動片1の共振周波数を個別に粗調整する。そのために、前記各輪郭水晶振動片の周波数を個別に測定し、必要な周波数調整量を決定する。本発明によれば、前記各輪郭水晶振動片の水晶素面領域7,8に溝11a〜11d,12a〜12dを形成することにより、周波数粗調整を行う。前記溝は、上述した第1実施例と同様に、ドライエッチング又はウエットエッチングで形成することができる。前記溝の大きさ、本数、加工位置等は、周波数調整量によって適当に選択する。上述したように、周波数粗調整のための溝は、振動部2の内側に配置すると調整量を大きくとれるので、効率的である。
【0047】
別の実施例では、前記水晶ウエハの全ての輪郭水晶振動片を一括して一様に周波数調整することができる。この場合には、前記水晶ウエハの表面にレジストマスクをパターニングし、これをウエットエッチングすることにより、前記溝を形成する。また、水晶素面領域への前記溝のウエットエッチングは、フォトリソグラフィ技術を用いることにより、その大きさや位置を精度良く制御することができる。更に、水晶ウエハに前記溝を正確に形成しておくと、それを目印として、その後の工程で溝の大きさや深さをレーザ加工等により変えることができる。
【0048】
この後、各輪郭水晶振動片1を前記水晶ウエハから切断して個片化する。個片化した輪郭水晶振動片1は、例えば水晶振動子のパッケージにマウントする前に又はマウントした後に、再び周波数を測定し、その測定結果に応じて周波数の微調整を行う。本発明によれば、周波数の微調整は、周波数の粗調整と同様に、前記各輪郭水晶振動片の水晶素面領域7,8に溝11a〜11d,12a〜12dを形成することにより行う。周波数調整量によって、前記溝の大きさ、本数、加工位置等を適当に選択する。上述したように、周波数微調整のための溝は、振動部2の外側に配置すると調整量を小さくできるので、高精度な調整が可能となる。
【0049】
このように周波数の微調整を行った輪郭水晶振動片は、水晶振動子のパッケージにマウントしかつ封止し、またパッケージへのマウント後に調整した場合は、パッケージを封止する。これにより、所望の周波数を有する水晶振動子が完成する。また、水晶振動子をマウントしたパッケージを、光透過性を有するガラス材料のリッドで封止すると、その後に外部からレーザ光の照射等により周波数調整を行うことができる。
【0050】
以上、本発明の好適な実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に様々な変形・変更を加えて実施することができる。例えば、ラーメモードの輪郭水晶振動片の振動部は、1つの正方形からなる基本波モードであっても、複数以上の正方形を連ねた方形平板からなる高次モードのものであってもよい。また、本発明の輪郭水晶振動片は、1枚の水晶ウエハから複数個を同時に製造する場合だけでなく、個々の水晶基板に1つの輪郭水晶振動片を製造する場合にも同様に適用される。更に本発明は、水晶以外の圧電材料からなる輪郭振動片についても、同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(A)図は本発明による輪郭水晶振動片の第1実施例を示す平面図、(B)図はそのI−I線における断面図。
【図2】(A)図は第1実施例の変形例を示す平面図、(B)図はそのII−II線における断面図。
【図3】(A)図は本発明による輪郭水晶振動片の第2実施例を示す平面図、(B)図はそのIII−III線における断面図。
【図4】(A)図は第2実施例の変形例を示す平面図、(B)図はそのIV−IV線における断面図。
【符号の説明】
【0052】
1,21,31,51…輪郭水晶振動片、2,32…振動部、2a〜2d,32a,32b…辺、3a,3b,33a,33b…接続部、4、34…支持部、5,6,22,23,35,36,52,53…励振電極、7,8,24,25,37,38,54,55…水晶素面領域、9,10,39,40…接続電極、11a〜11d,12a〜12d,26,27,41a,41b,42a,42b,56,57…溝。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形平板の振動部と支持部と前記振動部を前記支持部に結合する接続部とを圧電基板から一体に形成した輪郭圧電振動片において、
前記振動部が、その表裏両面に所望の輪郭振動を励振するための励振電極と、その少なくとも一方の面に前記励振電極を形成していない前記圧電基板の素面領域とを有し、
前記素面領域には、周波数を調整するための溝が、前記輪郭振動の方向に対向する前記振動部の2辺に沿って延長し、かつ前記振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関してそれぞれ線対称をなすように形成されていることを特徴とする輪郭圧電振動片。
【請求項2】
前記素面領域が前記励振電極の外側に前記振動部の周辺との間に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の輪郭圧電振動片。
【請求項3】
前記素面領域が前記振動部の中央に設けられ、前記素面領域の外側に前記励振電極が形成されることを特徴とする請求項1に記載の輪郭圧電振動片。
【請求項4】
ラーメモードの輪郭振動を行うように、前記振動部が単一の正方形又は複数の正方形を連ねた長方形をなし、前記正方形の両面にそれと同心に前記励振電極が形成され、前記溝が前記正方形の対向する一方又は他方の2辺に沿って延長するように形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の輪郭圧電振動片。
【請求項5】
幅縦振動モードの輪郭振動を行うように、前記振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関して対称に前記励振電極が形成され、前記溝が前記振動部の対向する長手方向の2辺に沿って延長するように形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の輪郭圧電振動片。
【請求項6】
前記素面領域が前記振動部の表裏各面に設けられ、前記振動部表裏各面の前記溝が対称に設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の輪郭圧電振動片。
【請求項7】
矩形平板の振動部と支持部とそれらを接続する接続部とを一体に備える輪郭圧電振動片の外形を圧電基板から加工する工程と、
前記振動部の表裏両面に所望の輪郭振動を励振するための励振電極を、前記振動部の少なくとも一方の面に前記励振電極を形成していない前記圧電基板の素面領域を設けるように形成する工程と、
前記素面領域に前記輪郭振動の方向に対向する前記振動部の2辺に沿って延長する溝を前記振動部の長手方向及び幅方向の中心軸に関してそれぞれ線対称をなすように形成することにより、前記輪郭水晶振動片の周波数を調整する工程とを有することを特徴とする輪郭圧電振動片の製造方法。
【請求項8】
前記素面領域を前記励振電極の外側に前記振動部の周辺との間に設け、前記素面領域に前記溝を形成することにより、前記輪郭水晶振動片の周波数を微調整することを特徴とする請求項7に記載の輪郭圧電振動片の製造方法。
【請求項9】
前記素面領域をその外側に前記励振電極が配置されるように前記振動部の中央に設け、前記素面領域に前記溝を形成することにより、前記輪郭水晶振動片の周波数を粗調整することを特徴とする請求項7又は8に記載の輪郭圧電振動片の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−236440(P2008−236440A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−73763(P2007−73763)
【出願日】平成19年3月21日(2007.3.21)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】