農作業機の変速操作構造
【課題】 走行作業途中の走行停止おおよびエンジン停止を的確に行い、次の作業再開を速やかに行えるようにする。
【解決手段】 走行用の変速レバー32が走行停止状態をもたらす所定の特定位置から外れている状態ではキースイッチ56の操作を牽制阻止する牽制手段を備えてある。
【解決手段】 走行用の変速レバー32が走行停止状態をもたらす所定の特定位置から外れている状態ではキースイッチ56の操作を牽制阻止する牽制手段を備えてある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機やコンバインなどの農作業機に利用する変速操作構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、農作業機に搭載されたエンジンは、セルモータやリコイル始動装置で起動され、キースイッチがオフ位置への操作されて電源が切られると停止されるようになっており、セルモータでエンジン始動を行う機種に備えられたキースイッチは、電源が切られるとともにキーの挿抜が可能となるオフ位置、電源が入れられるオン位置、および、セルモータが起動されるスタート位置に順次切換え回動するよう構成したものが用いられ、運転部のフロントパネルなどに装備される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−149718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
キースイッチは任意に操作することが可能となっているので、走行用の変速レバーが走行位置にある状態でエンジン始動操作を行うと機体が急発進することになる。そこで、変速レバーが中立位置にある状態、あるいは、主クラッチを切っている状態など、機体が走行できない状態にある時にだけエンジン始動を行えるような牽制をかけることも行われている。そして、キースイッチのオフ操作については特別な牽制は与えられておらず、走行中にキースイッチをオフ操作してエンジンを停止することが可能となっている。
【0004】
田植機においては、植付け走行の途中で苗植付け装置の苗が消費されると、走行機体の予備苗のせ台に収容しておいた予備苗を苗植付け装置に補給する苗つぎ作業が行われ、また、予備苗のせ台に収容した予備苗が無くなると機体を畦際まで移動させ、畦に準備した予備苗を予備苗のせ台に搬入することになる。これら苗つぎ作業や予備苗の搬入作業の頻度は相当高いので、これらの作業の間の燃料節約のためにエンジンを停止することがある。この場合、変速レバーを中立位置に戻してからキースイッチを操作するのが適切であるが、変速レバーを中立位置に戻すことなくキースイッチをオフ操作してエンジンを止めて走行をも一挙に停止させてしまうような操作が行われることがある。
【0005】
しかし、このような操作によってエンジンと走行を停止してしまうと、苗つぎ作業や予備苗の搬入作業を終えて走行作業を再開する場合、エンジン始動操作によって急発進することがないように変速レバーを中立位置に戻す操作が必要となり、再始動が煩わしいものとなる。
【0006】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、走行作業途中の走行停止おおよびエンジン停止を的確に行い、次の作業再開を速やかに行えるようにすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、走行用の変速レバーが走行停止状態をもたらす所定の特定位置から外れている状態ではキースイッチの操作を牽制阻止する牽制手段を備えてあることを特徴とする。
【0008】
上記構成によると、走行途中で機体を停止するとともにエンジンを止める場合、変速レバーを特定位置に操作して走行を停止しないとエンジンを停止することができなくなる。また、次にエンジンを始動操作する際には変速レバーは走行停止をもたらす特定位置に在るので、エンジン始動によって機体が発進することはない。
【0009】
従って、第1の発明によると、走行作業途中などでのエンジン停止が必ず適正に行われることになって、次にエンジンをかけての作業再開も急発進なく適正に行うことができる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記変速レバーが前記特定位置にある状態でキースイッチの操作が許容されるよう構成してあるものである。
【0011】
上記構成によると、変速レバーを特定位置に操作して走行を停止させた後、キースイッチをオフ操作してはじめてキーをキースイッチから抜き出すことが可能となり、変速レバーを変速位置に残したままでキーを抜き出してしまうような状態の発生が未然に回避される。
【0012】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記キースイッチが回動操作されるのを阻止する牽制部材を牽制位置と牽制解除位置とに切換え操作可能に配備するとともに、この牽制部材と前記変速レバーとを機械的に連動連結して前記牽制手段を構成してあるものである。
【0013】
上記構成によると、キースイッチが回動操作することができない牽制状態、つまり、エンジン停止操作を行うに不適切な変速操作状態にあることを、キーの操作抵抗として容易に認識することができ、走行停止をもたらす適切な変速操作状態でのエンジン停止を的確に行うことができる。
【0014】
第4の発明は、上記第1または2の発明において、
前記キースイッチが操作されるのを阻止する牽制部材を電動アクチュエータで牽制位置と牽制解除位置とに切換え操作可能に構成するとともに、前記変速レバーが前記特定位置にあるか否かを検知する検知手段と前記電動アクチュエータとを電気的に連係して前記牽制手段を構成してあるものである。
【0015】
上記構成によると、牽制部材を操作する電動アクチュエータへの配線は自由に配置することができるので、牽制部材をワイヤやリンク機構を利用して機械的に変速レバーに連係する構造に比べて位置的な制約を受けること少なく連係構造を構成することができる。
【0016】
第5の発明は、上記第1〜4のいずれか一つの発明において、
前記キースイッチがオン操作された状態で始動されたエンジンが安定運転状態に至るまでの間は、連結した作業装置に係わる自動制御系の作動を阻止するよう構成してあるものである。
【0017】
上記構成によると、エンジン出力が安定するまでは作業装置の高さ位置の制御や傾斜姿勢の制御などが行われることはなく、エンジン出力が不安定なままで自動制御系の負荷が作用してエンジンストップがもたらされるようなことが未然に回避される。
【0018】
第6の発明は、上記第1〜5のいずれか一つの発明において、
前記キースイッチをオン位置とオフ位置とにのみ切換え操作可能に構成してあるものである。
【0019】
上記構成によると、オン位置、オフ位置、および、エンジン始動位置に切換え回動操作する一般的なキースイッチに比べて接点の少ない単純なものですますことができ、コスト低減に有効となる。
【0020】
第7の発明は、上記第1〜6のいずれか一つの発明において、
エンジン始動操作およびエンジン停止操作を変速レバーで行うよう構成してあるものである。
【0021】
上記構成によると、変速レバーで走行停止操作を行った後、そのまま、エンジン停止操作を行うことができ、また、エンジン始動操作を行った後、そのまま変速操作を行って走行を開始することができ、走行停止からエンジン停止、および、エンジン始動から走行開始を操作具の持ち替えなく速やかに行うことができる。
【0022】
第8の発明は、上記第7の発明において、
前記変速レバーの操作径路における前記特定位置とは異なる位置に走行停止状態をもたらす第2特定位置を設け、変速レバーを前記第2特定位置に操作したことの検知に基づいてエンジン始動手段が起動されるよう構成してあるものである。
【0023】
上記構成によると、変速レバーの操作位置の選択によって急発進のないエンジン始動をおこなうことができ、上記第7の発明を好適に実施することができる。
【0024】
第9の発明は、上記第1〜8のいずれか一つの発明において、
前記変速レバーの握り部にエンジン始動用のスタートスイッチを備えてあるものである。
【0025】
上記構成によると、変速レバーを握った手指でエンジン始動操作を行い、そのまま変速操作を行うことが可能となり、第1〜8のいずれか一つの発明の上記効果をもたらすとともに、取扱い性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1および図2に、農作業機の一例として乗用型の田植機が示されている。この田植機は、操向自在な左右一対の前輪1と操向不能な左右一対の後輪2とを備えた乗用型の走行機体3の後部に、苗植付け装置4が油圧シリンダ5によって駆動される平行四連式のリンク機構6を介して昇降自在に連結されるとともに、機体後部に施肥装置7が装備された構造となっている。
【0027】
前記走行機体3における機体フレーム8の前部には、前輪1を軸支したミッションケース9が連結固定されるとともに、機体フレーム8の後部には、後輪2を軸支した後部伝動ケース10がローリング自在に支持されている。また、ミッションケース9から前方に延出された前フレーム11にエンジン12が横向きに搭載されてボンネット13で覆われているとともに、エンジン12の後方に位置する搭乗運転部には、前輪1を操向操作するためのステアリングハンドル14、運転座席15、ステップ16などが備えられ、また、機体前部の左右には、予備苗を複数段に載置収容する予備苗のせ台17が設けられている。
【0028】
前記苗植付け装置4は、6条分の苗を載置して左右方向に設定ストロークで往復移動される苗のせ台21、苗のせ台21下端から1株分づつ苗を切り出して圃場に植付けてゆく6組の回転式の植付け機構22、植付け箇所を整地する3個の整地フロート23、等を備えて構成されている。また、前記施肥装置7は、運転座席15と苗植付け装置4との間において走行機体3に搭載されており、粉粒状の肥料を貯留する肥料ホッパー24、この肥料ホッパー24内の肥料を設定量づつ繰り出す繰出し機構25、繰り出された肥料を供給ホース26を介して各整地フロート23に備えた作溝器27に風力搬送する電動ブロア28、などを備えており、作溝器27によって田面Tに形成した溝に肥料を送り込んで埋設してゆくよう構成されている。
【0029】
前記ミッションケース9の側面には静油圧式無段変速装置(HST)からなる主変速装置31が連結されてエンジン12にベルト連動され、その変速出力がミッションケース9に入力されて走行系と作業系とに分岐されるようになっている。
【0030】
前記主変速装置31は、ステアリングハンドル14の左脇に配備された変速レバー32で変速操作されるようになっており、次に、この主変速装置41の変速操作構造について説明する。
【0031】
図3,4に示すように、ステアリングハンドル14を支持するよう立設されたハンドルポスト33には支持ブラケット34が固着され、この支持ブラケット34の左側端部には、支軸35を介してデテント板36が横向き支点a周りに前後揺動可能に支持され、このデテント板36に前記変速レバー32が前後向き支点b周りに左右揺動可能に支持されている。ハンドルポスト33を立設支持する支持枠37に、横向き支点c周りに回動可能に中継回動部材38が支持されており、この中継回動部材38とデテント板36とが連係ロッド39を介して連係され、さらに、この中継回動部材38と、主変速装置31の変速操作軸40に連結された変速アーム41とが操作ロッド42を介して連係されている。
【0032】
図5に示すように、前記支持ブラケット34には変速案内用のガイド板43が固着されるとともに、このガイド板43に形成された段違い状の案内溝44に変速レバー32の基部から下向きに延出された案内ロッド32aが貫通されており、案内溝44と案内ロッド32aとの係合案内作用によって変速レバー32を所定の段違い操作径路に沿って前後に揺動操作することで、デテント板36を正逆に回動させて主変速装置31を前進域から後進域までの範囲で変速操作することが可能となっている。
【0033】
そして、段違い操作径路の段違い部位が主変速装置31の中立位置Nに相当し、その前方に前進変速操作径路Fが、また、後方に後進変操作径路Rがそれぞれ形成されるとともに、デテント板36の外周に並列形成した9つの凹部45に、片持ちバネレバー46の遊端に支持したデテントローラ47を弾性係入させることで、変速レバー46を前進5段、中立位置N、および、後進3段の各変速位置に保持することができるようになっている。
【0034】
また、変速レバー32の横操作中心となる支点bにはねじりバネ48が装備されており、変速レバー32が常に支点b周りに揺動付勢されている。従って、変速レバー32を中立位置Nに操作すると、前進変速操作径路Fに臨む前進側中立Nf側に向けて付勢移動される。
【0035】
前記変速レバー32は主変速装置31を操作するのみならず、エンジン12の起動・停止、エンジン回転速度の調整、および、電源入り切り用のキースイッチ56の操作牽制に関わっており、以下そのための構成について説明する。
【0036】
図4に示すように、変速レバー32を前後揺動可能に支持する支持ブラケット34には、前記支軸35の回動位置から変速レバー32の前後操作位置を連続的に検知するポテンショメータ50が取り付けられており、このポテンショメータ50からの検出情報に基づいてエンジン12の調速制御が行われる。
【0037】
つまり、図7の制御ブロック図に示すように、エンジン12に備えられた調速機構51は、ソレノイドやサーボモータなどのサーボ制御される電動アクチュエータ52でアクセルセット操作されるようになっており、この電動アクチュエータ52が変速レバー32の操作位置に対応して調速機構51を操作制御するように構成されている。そして、変速レバー32が中立位置Nにあると調速機構51が所定のアイドリング回転速度にセットされるとともに、変速レバー32が前進変速操作径路Fおよび後進変操作径路Rにおいて高速側に操作されるほどエンジン回転速度が高くなるように、予め入力設定された特性でアクセルセットされるようになっている。
【0038】
また、前記案内溝44における前進側中立Nfの横外側には特定位置P1が設定されるとともに、変速レバー32の案内ロッド32aがこの特定位置P1に操作されたことを検知するスイッチ53がガイド板43に装備されている。
【0039】
前記スイッチ53は制御装置54に接続されており、変速レバー32(案内ロッド32a)が特定位置P1に設定時間(例えば数秒)連続して操作されると、エンジン停止回路55が作動してエンジン12が停止されるようにプログラムされている。
【0040】
なお、前記エンジン停止回路55は、エンジン12がガソリンエンジンの場合は、エンジン点火回路をアースしてエンジン停止作動するものが利用され、また、エンジン12がディーゼルエンジンの場合には、燃料供給の遮断によってエンジン停止作動するものが利用される。
【0041】
また、運転部の適所には電源回路を入り切りするキースイッチ56が配備されており、このキースイッチ56の操作が変速レバー32によって牽制されるようになている。つまり、図5に示すように、前記ガイド板43の上面には支点d周りに回動可能に操作アーム57が枢支連結されるとともに、キースイッチ56の近傍には牽制部材58が支点e周りに揺動自在に支持され配備され、前記操作アーム57の揺動に連動して牽制部材58が揺動されるように両者が操作ワイヤ59で連動連結されている。
【0042】
この牽制部材58はキースイッチ56の上に重複する牽制位置とキースイッチ56から外れた牽制解除位置とに切換え揺動可能に支持されるとともに、バネ60によって牽制位置に向けて付勢されてストッパ61で受け止め支持されている。牽制部材58には、前記牽制位置にある時にキースイッチ56の直上に位置するスリット62が形成されており、このスリット62は、キースイッチ56が「ON」位置にあるときにキー溝56aに沿った姿勢となり、OFF位置にある時のキー溝56aと交差重複する姿勢となるように形成されている。
【0043】
上記構成によると、変速レバー32が特定位置P1に操作されると、操作アーム57が接当揺動作されて操作ワイヤ59が引き操作され、牽制部材58がバネ60に抗して牽制解除位置に操作され、この状態でのみキースイッチ56へのキー56bの挿抜および回動が可能となる。従って、エンジン12が停止している機体を起動させるには、先ず、変速レバー32を特定位置P1に操作してOFF位置にあるキースイッチ56のキー溝56aにキー56bを挿入してON位置に回動操作する。その後、変速レバー32を特定位置P1から外れた位置、例えば前進側中立Nfや後進側中立Nrに操作するとエンジン始動回路63が作動してセルモータ64が起動され、エンジン始動が行われる。
【0044】
ここで、変速レバー32を特定位置P1に操作してキー溝56aにキー56bを挿入した状態のままではキースイッチ56は電源を切ったOFF位置にあるので、この状態から変速レバー32を特定位置P1から外れた位置に操作してもエンジン始動が行われることはない。
【0045】
また、植付け作業走行を行っている途中で、苗つぎ作業や畦からの苗補充作業のために変速レバー32を特定位置P1に操作して走行を停止すると、上記のようにエンジン12が自動的に停止されて、苗つぎ作業や苗補充作業の間の燃料消費が節約される。また、苗つぎ作業や苗補充作業を終えて変速レバー32を特定位置P1から外れた位置に操作すると、エンジン12が自動的に再始動されて作業走行に復帰することができるのである。
【0046】
なお、エンジン始動回路63が作動している間だけ、調速機構51がアイドリング回転速度より少し高い始動用回転速度になるようにアクセルアップ制御が行われ、エンジン回転が安定すると変速操作位置に対応したアクセルセット制御が実行されるようにプログラムされており、これによってエンジン始動が確実なものとなる。
【0047】
また、走行時に変速レバー32を中立位置Nに戻して走行を停止し、特定位置P1でない中立位置Nでキースイッチ56をOFF位置に回動しようとしても、牽制位置にある牽制部材58におけるスリット62の中でキー56bは回動不能であり、キースイッチ56をOFF位置に回動してキーを抜き出すことはできないものとなる。
【0048】
また、前記制御装置54には、苗植付け装置4に上下揺動可能に備えられた整地フロート23のうちの中央の整地フロート23の上下変位から苗植付け装置4の田面Tに対する高さを検知するをポテンショメータ67、昇降用の前記油圧シリンダ5の作動を司る電磁制御弁68、苗植付け装置4の左右傾斜を検知するローリングセンサ69、苗植付け装置4を左右ローリング駆動する電動モータ70、エンジン12によって駆動される発電機の起電力からエンジン回転速度を計測するエンジン回転計測回路71、等が接続されており、ポテンショメータ67からの情報に基づいて油圧シリンダ5を作動制御して苗植付け装置4を田面Tから設定された高さに安定維持する自動昇降制御が行われるとともに、ローリングセンサ69からの情報に基づいて電動モータ70を作動制御して苗植付け装置4を常に水平に維持するローリング制御が行われるようになっている。また、変速レバー32の後進への切換えを検知して苗植付け装置4を上昇させるバックアップ制御も行われる。
【0049】
そして、キースイッチ56がON位置にあって電源が入れられただけの状態では上記した各種制御は未だ実行されず、エンジン12が起動されて安定運転状態になったことがエンジン回転計測回路71からの情報で確認されてはじめて上記制御が実行されるようになっている。
【0050】
〔他の実施例〕
【0051】
(1)図8に示すように、前記牽制部材58をバネ73と電磁ソレノイドなどの電動アクチュエータ74で切換え作動させるよう構成し、前記変速レバー32(32a)が特定位置P1に操作されてスイッチ53が操作されると電動アクチュエータ74が非通電状態となって、牽制部材58がバネ73によって牽制解除位置に移動され、変速レバー32が特定位置P1から外れると電動アクチュエータ74が通電駆動されて牽制部材58が牽制位置に切換え移動されるような形態で実施することもできる。
【0052】
(2)図9に示すように、前記案内溝44における前進側中立Nfの横外側に前記特定位置P1、また、後進側中立Nrの外側に第2特定位置をそれぞれ設け、変速レバー32がこれら特定位置P1および第2特定位置P2に操作されたことを検知するスイッチ53,76を設け、スイッチ53の操作によって電源が切られるとともに、スイッチ76の操作によって電源が入れられてエンジン始動回路63が起動され、かつ、一旦エンジン12が始動すると、その後リレー回路等を用いて電源入り状態が維持されるように構成して、キースイッチ56を省略した形態で実施することもできる。
【0053】
この構成によると、作業走行中に変速レバー32を中立Nに戻して自由にすれば変速レバー32は特定位置P1に付勢移動して電源回路65が切れ、エンジン12が停止する。また、変速レバー32を第2特定位置P2に操作することでエンジン12を始動することができ、エンジン始動は必ず走行停止状態で行うことになる。
【0054】
(3)図10に示すように、前記案内溝44における前進側中立Nfの横外側に前記特定位置P1、また、後進側中立Nrの外側に第2特定位置P2をそれぞれ設け、変速レバー32(32a)がこれら特定位置P1および第2特定位置P2に操作されたことを検知するスイッチ53,76を設け、スイッチ53の操作によって電源が切られるとともに、スイッチ76の操作によって電源が入れられ、かつ、変速レバー32の握り部32aに押しボタン式のスタートスイッチ77を装備して、キーススイッチ56を省略した形態で実施することもできる。
【0055】
この構成によると、変速レバー32を第2特定位置P2に操作して電源を入れた状態で変速レバー32を持ったままでスタートスイッチ77を指操作してエンジン12を始動することができるとともに、作業走行中に変速レバー32を特定位置P1に操作して走行を停止すると、電源が切れてエンジン12が停止されることになり、この場合も、エンジン始動は必ず走行停止位置である第2特定位置P2で行うことになるので、エンジン始動と同時に機体が発進してしまうことはない。
【0056】
(4)図11に示すように、エンジン自動停止が行われる前記第1特定位置P1を中立域の中間部位に設定し、この第1特定位置P1から外れるとエンジン自動始動が行われる形態で実施することもできる。
【0057】
(5)エンジン12がリコイル始動装置で始動される場合には、エンジン運転中にエンジン動力でバネ式の蓄力機構を蓄力作動させておき、エンジン始動指令に基づいて蓄力機構を開放作動させ、蓄積したバネ力でリコイル始動装置を操作するようにエンジン始動手段を構成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】田植機の全体側面図
【図2】田植機の全体平面図
【図3】変速操作構造の側面図
【図4】変速操作構造の正面図
【図5】変速案内構造の平面図
【図6】キースイッチ牽制構造の平面図
【図7】制御ブロック図
【図8】キースイッチ牽制構造の他の実施例を示す平面図
【図9】変速案内構造の他の実施例を示す平面図
【図10】変速案内構造の更に別の実施例を示す平面図と変速レバーの斜視図
【図11】変速案内構造の更に別の実施例を示す平面図
【符号の説明】
【0059】
4 作業装置(苗植付け装置)
12 エンジン
32 変速レバー
32b 握り部
56 キースイッチ
58 牽制部材
74 電動アクチュエータ
77 スタートスイッチ
P1 特定位置
P2 第2特定位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機やコンバインなどの農作業機に利用する変速操作構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、農作業機に搭載されたエンジンは、セルモータやリコイル始動装置で起動され、キースイッチがオフ位置への操作されて電源が切られると停止されるようになっており、セルモータでエンジン始動を行う機種に備えられたキースイッチは、電源が切られるとともにキーの挿抜が可能となるオフ位置、電源が入れられるオン位置、および、セルモータが起動されるスタート位置に順次切換え回動するよう構成したものが用いられ、運転部のフロントパネルなどに装備される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−149718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
キースイッチは任意に操作することが可能となっているので、走行用の変速レバーが走行位置にある状態でエンジン始動操作を行うと機体が急発進することになる。そこで、変速レバーが中立位置にある状態、あるいは、主クラッチを切っている状態など、機体が走行できない状態にある時にだけエンジン始動を行えるような牽制をかけることも行われている。そして、キースイッチのオフ操作については特別な牽制は与えられておらず、走行中にキースイッチをオフ操作してエンジンを停止することが可能となっている。
【0004】
田植機においては、植付け走行の途中で苗植付け装置の苗が消費されると、走行機体の予備苗のせ台に収容しておいた予備苗を苗植付け装置に補給する苗つぎ作業が行われ、また、予備苗のせ台に収容した予備苗が無くなると機体を畦際まで移動させ、畦に準備した予備苗を予備苗のせ台に搬入することになる。これら苗つぎ作業や予備苗の搬入作業の頻度は相当高いので、これらの作業の間の燃料節約のためにエンジンを停止することがある。この場合、変速レバーを中立位置に戻してからキースイッチを操作するのが適切であるが、変速レバーを中立位置に戻すことなくキースイッチをオフ操作してエンジンを止めて走行をも一挙に停止させてしまうような操作が行われることがある。
【0005】
しかし、このような操作によってエンジンと走行を停止してしまうと、苗つぎ作業や予備苗の搬入作業を終えて走行作業を再開する場合、エンジン始動操作によって急発進することがないように変速レバーを中立位置に戻す操作が必要となり、再始動が煩わしいものとなる。
【0006】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、走行作業途中の走行停止おおよびエンジン停止を的確に行い、次の作業再開を速やかに行えるようにすることを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、走行用の変速レバーが走行停止状態をもたらす所定の特定位置から外れている状態ではキースイッチの操作を牽制阻止する牽制手段を備えてあることを特徴とする。
【0008】
上記構成によると、走行途中で機体を停止するとともにエンジンを止める場合、変速レバーを特定位置に操作して走行を停止しないとエンジンを停止することができなくなる。また、次にエンジンを始動操作する際には変速レバーは走行停止をもたらす特定位置に在るので、エンジン始動によって機体が発進することはない。
【0009】
従って、第1の発明によると、走行作業途中などでのエンジン停止が必ず適正に行われることになって、次にエンジンをかけての作業再開も急発進なく適正に行うことができる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記変速レバーが前記特定位置にある状態でキースイッチの操作が許容されるよう構成してあるものである。
【0011】
上記構成によると、変速レバーを特定位置に操作して走行を停止させた後、キースイッチをオフ操作してはじめてキーをキースイッチから抜き出すことが可能となり、変速レバーを変速位置に残したままでキーを抜き出してしまうような状態の発生が未然に回避される。
【0012】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
前記キースイッチが回動操作されるのを阻止する牽制部材を牽制位置と牽制解除位置とに切換え操作可能に配備するとともに、この牽制部材と前記変速レバーとを機械的に連動連結して前記牽制手段を構成してあるものである。
【0013】
上記構成によると、キースイッチが回動操作することができない牽制状態、つまり、エンジン停止操作を行うに不適切な変速操作状態にあることを、キーの操作抵抗として容易に認識することができ、走行停止をもたらす適切な変速操作状態でのエンジン停止を的確に行うことができる。
【0014】
第4の発明は、上記第1または2の発明において、
前記キースイッチが操作されるのを阻止する牽制部材を電動アクチュエータで牽制位置と牽制解除位置とに切換え操作可能に構成するとともに、前記変速レバーが前記特定位置にあるか否かを検知する検知手段と前記電動アクチュエータとを電気的に連係して前記牽制手段を構成してあるものである。
【0015】
上記構成によると、牽制部材を操作する電動アクチュエータへの配線は自由に配置することができるので、牽制部材をワイヤやリンク機構を利用して機械的に変速レバーに連係する構造に比べて位置的な制約を受けること少なく連係構造を構成することができる。
【0016】
第5の発明は、上記第1〜4のいずれか一つの発明において、
前記キースイッチがオン操作された状態で始動されたエンジンが安定運転状態に至るまでの間は、連結した作業装置に係わる自動制御系の作動を阻止するよう構成してあるものである。
【0017】
上記構成によると、エンジン出力が安定するまでは作業装置の高さ位置の制御や傾斜姿勢の制御などが行われることはなく、エンジン出力が不安定なままで自動制御系の負荷が作用してエンジンストップがもたらされるようなことが未然に回避される。
【0018】
第6の発明は、上記第1〜5のいずれか一つの発明において、
前記キースイッチをオン位置とオフ位置とにのみ切換え操作可能に構成してあるものである。
【0019】
上記構成によると、オン位置、オフ位置、および、エンジン始動位置に切換え回動操作する一般的なキースイッチに比べて接点の少ない単純なものですますことができ、コスト低減に有効となる。
【0020】
第7の発明は、上記第1〜6のいずれか一つの発明において、
エンジン始動操作およびエンジン停止操作を変速レバーで行うよう構成してあるものである。
【0021】
上記構成によると、変速レバーで走行停止操作を行った後、そのまま、エンジン停止操作を行うことができ、また、エンジン始動操作を行った後、そのまま変速操作を行って走行を開始することができ、走行停止からエンジン停止、および、エンジン始動から走行開始を操作具の持ち替えなく速やかに行うことができる。
【0022】
第8の発明は、上記第7の発明において、
前記変速レバーの操作径路における前記特定位置とは異なる位置に走行停止状態をもたらす第2特定位置を設け、変速レバーを前記第2特定位置に操作したことの検知に基づいてエンジン始動手段が起動されるよう構成してあるものである。
【0023】
上記構成によると、変速レバーの操作位置の選択によって急発進のないエンジン始動をおこなうことができ、上記第7の発明を好適に実施することができる。
【0024】
第9の発明は、上記第1〜8のいずれか一つの発明において、
前記変速レバーの握り部にエンジン始動用のスタートスイッチを備えてあるものである。
【0025】
上記構成によると、変速レバーを握った手指でエンジン始動操作を行い、そのまま変速操作を行うことが可能となり、第1〜8のいずれか一つの発明の上記効果をもたらすとともに、取扱い性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1および図2に、農作業機の一例として乗用型の田植機が示されている。この田植機は、操向自在な左右一対の前輪1と操向不能な左右一対の後輪2とを備えた乗用型の走行機体3の後部に、苗植付け装置4が油圧シリンダ5によって駆動される平行四連式のリンク機構6を介して昇降自在に連結されるとともに、機体後部に施肥装置7が装備された構造となっている。
【0027】
前記走行機体3における機体フレーム8の前部には、前輪1を軸支したミッションケース9が連結固定されるとともに、機体フレーム8の後部には、後輪2を軸支した後部伝動ケース10がローリング自在に支持されている。また、ミッションケース9から前方に延出された前フレーム11にエンジン12が横向きに搭載されてボンネット13で覆われているとともに、エンジン12の後方に位置する搭乗運転部には、前輪1を操向操作するためのステアリングハンドル14、運転座席15、ステップ16などが備えられ、また、機体前部の左右には、予備苗を複数段に載置収容する予備苗のせ台17が設けられている。
【0028】
前記苗植付け装置4は、6条分の苗を載置して左右方向に設定ストロークで往復移動される苗のせ台21、苗のせ台21下端から1株分づつ苗を切り出して圃場に植付けてゆく6組の回転式の植付け機構22、植付け箇所を整地する3個の整地フロート23、等を備えて構成されている。また、前記施肥装置7は、運転座席15と苗植付け装置4との間において走行機体3に搭載されており、粉粒状の肥料を貯留する肥料ホッパー24、この肥料ホッパー24内の肥料を設定量づつ繰り出す繰出し機構25、繰り出された肥料を供給ホース26を介して各整地フロート23に備えた作溝器27に風力搬送する電動ブロア28、などを備えており、作溝器27によって田面Tに形成した溝に肥料を送り込んで埋設してゆくよう構成されている。
【0029】
前記ミッションケース9の側面には静油圧式無段変速装置(HST)からなる主変速装置31が連結されてエンジン12にベルト連動され、その変速出力がミッションケース9に入力されて走行系と作業系とに分岐されるようになっている。
【0030】
前記主変速装置31は、ステアリングハンドル14の左脇に配備された変速レバー32で変速操作されるようになっており、次に、この主変速装置41の変速操作構造について説明する。
【0031】
図3,4に示すように、ステアリングハンドル14を支持するよう立設されたハンドルポスト33には支持ブラケット34が固着され、この支持ブラケット34の左側端部には、支軸35を介してデテント板36が横向き支点a周りに前後揺動可能に支持され、このデテント板36に前記変速レバー32が前後向き支点b周りに左右揺動可能に支持されている。ハンドルポスト33を立設支持する支持枠37に、横向き支点c周りに回動可能に中継回動部材38が支持されており、この中継回動部材38とデテント板36とが連係ロッド39を介して連係され、さらに、この中継回動部材38と、主変速装置31の変速操作軸40に連結された変速アーム41とが操作ロッド42を介して連係されている。
【0032】
図5に示すように、前記支持ブラケット34には変速案内用のガイド板43が固着されるとともに、このガイド板43に形成された段違い状の案内溝44に変速レバー32の基部から下向きに延出された案内ロッド32aが貫通されており、案内溝44と案内ロッド32aとの係合案内作用によって変速レバー32を所定の段違い操作径路に沿って前後に揺動操作することで、デテント板36を正逆に回動させて主変速装置31を前進域から後進域までの範囲で変速操作することが可能となっている。
【0033】
そして、段違い操作径路の段違い部位が主変速装置31の中立位置Nに相当し、その前方に前進変速操作径路Fが、また、後方に後進変操作径路Rがそれぞれ形成されるとともに、デテント板36の外周に並列形成した9つの凹部45に、片持ちバネレバー46の遊端に支持したデテントローラ47を弾性係入させることで、変速レバー46を前進5段、中立位置N、および、後進3段の各変速位置に保持することができるようになっている。
【0034】
また、変速レバー32の横操作中心となる支点bにはねじりバネ48が装備されており、変速レバー32が常に支点b周りに揺動付勢されている。従って、変速レバー32を中立位置Nに操作すると、前進変速操作径路Fに臨む前進側中立Nf側に向けて付勢移動される。
【0035】
前記変速レバー32は主変速装置31を操作するのみならず、エンジン12の起動・停止、エンジン回転速度の調整、および、電源入り切り用のキースイッチ56の操作牽制に関わっており、以下そのための構成について説明する。
【0036】
図4に示すように、変速レバー32を前後揺動可能に支持する支持ブラケット34には、前記支軸35の回動位置から変速レバー32の前後操作位置を連続的に検知するポテンショメータ50が取り付けられており、このポテンショメータ50からの検出情報に基づいてエンジン12の調速制御が行われる。
【0037】
つまり、図7の制御ブロック図に示すように、エンジン12に備えられた調速機構51は、ソレノイドやサーボモータなどのサーボ制御される電動アクチュエータ52でアクセルセット操作されるようになっており、この電動アクチュエータ52が変速レバー32の操作位置に対応して調速機構51を操作制御するように構成されている。そして、変速レバー32が中立位置Nにあると調速機構51が所定のアイドリング回転速度にセットされるとともに、変速レバー32が前進変速操作径路Fおよび後進変操作径路Rにおいて高速側に操作されるほどエンジン回転速度が高くなるように、予め入力設定された特性でアクセルセットされるようになっている。
【0038】
また、前記案内溝44における前進側中立Nfの横外側には特定位置P1が設定されるとともに、変速レバー32の案内ロッド32aがこの特定位置P1に操作されたことを検知するスイッチ53がガイド板43に装備されている。
【0039】
前記スイッチ53は制御装置54に接続されており、変速レバー32(案内ロッド32a)が特定位置P1に設定時間(例えば数秒)連続して操作されると、エンジン停止回路55が作動してエンジン12が停止されるようにプログラムされている。
【0040】
なお、前記エンジン停止回路55は、エンジン12がガソリンエンジンの場合は、エンジン点火回路をアースしてエンジン停止作動するものが利用され、また、エンジン12がディーゼルエンジンの場合には、燃料供給の遮断によってエンジン停止作動するものが利用される。
【0041】
また、運転部の適所には電源回路を入り切りするキースイッチ56が配備されており、このキースイッチ56の操作が変速レバー32によって牽制されるようになている。つまり、図5に示すように、前記ガイド板43の上面には支点d周りに回動可能に操作アーム57が枢支連結されるとともに、キースイッチ56の近傍には牽制部材58が支点e周りに揺動自在に支持され配備され、前記操作アーム57の揺動に連動して牽制部材58が揺動されるように両者が操作ワイヤ59で連動連結されている。
【0042】
この牽制部材58はキースイッチ56の上に重複する牽制位置とキースイッチ56から外れた牽制解除位置とに切換え揺動可能に支持されるとともに、バネ60によって牽制位置に向けて付勢されてストッパ61で受け止め支持されている。牽制部材58には、前記牽制位置にある時にキースイッチ56の直上に位置するスリット62が形成されており、このスリット62は、キースイッチ56が「ON」位置にあるときにキー溝56aに沿った姿勢となり、OFF位置にある時のキー溝56aと交差重複する姿勢となるように形成されている。
【0043】
上記構成によると、変速レバー32が特定位置P1に操作されると、操作アーム57が接当揺動作されて操作ワイヤ59が引き操作され、牽制部材58がバネ60に抗して牽制解除位置に操作され、この状態でのみキースイッチ56へのキー56bの挿抜および回動が可能となる。従って、エンジン12が停止している機体を起動させるには、先ず、変速レバー32を特定位置P1に操作してOFF位置にあるキースイッチ56のキー溝56aにキー56bを挿入してON位置に回動操作する。その後、変速レバー32を特定位置P1から外れた位置、例えば前進側中立Nfや後進側中立Nrに操作するとエンジン始動回路63が作動してセルモータ64が起動され、エンジン始動が行われる。
【0044】
ここで、変速レバー32を特定位置P1に操作してキー溝56aにキー56bを挿入した状態のままではキースイッチ56は電源を切ったOFF位置にあるので、この状態から変速レバー32を特定位置P1から外れた位置に操作してもエンジン始動が行われることはない。
【0045】
また、植付け作業走行を行っている途中で、苗つぎ作業や畦からの苗補充作業のために変速レバー32を特定位置P1に操作して走行を停止すると、上記のようにエンジン12が自動的に停止されて、苗つぎ作業や苗補充作業の間の燃料消費が節約される。また、苗つぎ作業や苗補充作業を終えて変速レバー32を特定位置P1から外れた位置に操作すると、エンジン12が自動的に再始動されて作業走行に復帰することができるのである。
【0046】
なお、エンジン始動回路63が作動している間だけ、調速機構51がアイドリング回転速度より少し高い始動用回転速度になるようにアクセルアップ制御が行われ、エンジン回転が安定すると変速操作位置に対応したアクセルセット制御が実行されるようにプログラムされており、これによってエンジン始動が確実なものとなる。
【0047】
また、走行時に変速レバー32を中立位置Nに戻して走行を停止し、特定位置P1でない中立位置Nでキースイッチ56をOFF位置に回動しようとしても、牽制位置にある牽制部材58におけるスリット62の中でキー56bは回動不能であり、キースイッチ56をOFF位置に回動してキーを抜き出すことはできないものとなる。
【0048】
また、前記制御装置54には、苗植付け装置4に上下揺動可能に備えられた整地フロート23のうちの中央の整地フロート23の上下変位から苗植付け装置4の田面Tに対する高さを検知するをポテンショメータ67、昇降用の前記油圧シリンダ5の作動を司る電磁制御弁68、苗植付け装置4の左右傾斜を検知するローリングセンサ69、苗植付け装置4を左右ローリング駆動する電動モータ70、エンジン12によって駆動される発電機の起電力からエンジン回転速度を計測するエンジン回転計測回路71、等が接続されており、ポテンショメータ67からの情報に基づいて油圧シリンダ5を作動制御して苗植付け装置4を田面Tから設定された高さに安定維持する自動昇降制御が行われるとともに、ローリングセンサ69からの情報に基づいて電動モータ70を作動制御して苗植付け装置4を常に水平に維持するローリング制御が行われるようになっている。また、変速レバー32の後進への切換えを検知して苗植付け装置4を上昇させるバックアップ制御も行われる。
【0049】
そして、キースイッチ56がON位置にあって電源が入れられただけの状態では上記した各種制御は未だ実行されず、エンジン12が起動されて安定運転状態になったことがエンジン回転計測回路71からの情報で確認されてはじめて上記制御が実行されるようになっている。
【0050】
〔他の実施例〕
【0051】
(1)図8に示すように、前記牽制部材58をバネ73と電磁ソレノイドなどの電動アクチュエータ74で切換え作動させるよう構成し、前記変速レバー32(32a)が特定位置P1に操作されてスイッチ53が操作されると電動アクチュエータ74が非通電状態となって、牽制部材58がバネ73によって牽制解除位置に移動され、変速レバー32が特定位置P1から外れると電動アクチュエータ74が通電駆動されて牽制部材58が牽制位置に切換え移動されるような形態で実施することもできる。
【0052】
(2)図9に示すように、前記案内溝44における前進側中立Nfの横外側に前記特定位置P1、また、後進側中立Nrの外側に第2特定位置をそれぞれ設け、変速レバー32がこれら特定位置P1および第2特定位置P2に操作されたことを検知するスイッチ53,76を設け、スイッチ53の操作によって電源が切られるとともに、スイッチ76の操作によって電源が入れられてエンジン始動回路63が起動され、かつ、一旦エンジン12が始動すると、その後リレー回路等を用いて電源入り状態が維持されるように構成して、キースイッチ56を省略した形態で実施することもできる。
【0053】
この構成によると、作業走行中に変速レバー32を中立Nに戻して自由にすれば変速レバー32は特定位置P1に付勢移動して電源回路65が切れ、エンジン12が停止する。また、変速レバー32を第2特定位置P2に操作することでエンジン12を始動することができ、エンジン始動は必ず走行停止状態で行うことになる。
【0054】
(3)図10に示すように、前記案内溝44における前進側中立Nfの横外側に前記特定位置P1、また、後進側中立Nrの外側に第2特定位置P2をそれぞれ設け、変速レバー32(32a)がこれら特定位置P1および第2特定位置P2に操作されたことを検知するスイッチ53,76を設け、スイッチ53の操作によって電源が切られるとともに、スイッチ76の操作によって電源が入れられ、かつ、変速レバー32の握り部32aに押しボタン式のスタートスイッチ77を装備して、キーススイッチ56を省略した形態で実施することもできる。
【0055】
この構成によると、変速レバー32を第2特定位置P2に操作して電源を入れた状態で変速レバー32を持ったままでスタートスイッチ77を指操作してエンジン12を始動することができるとともに、作業走行中に変速レバー32を特定位置P1に操作して走行を停止すると、電源が切れてエンジン12が停止されることになり、この場合も、エンジン始動は必ず走行停止位置である第2特定位置P2で行うことになるので、エンジン始動と同時に機体が発進してしまうことはない。
【0056】
(4)図11に示すように、エンジン自動停止が行われる前記第1特定位置P1を中立域の中間部位に設定し、この第1特定位置P1から外れるとエンジン自動始動が行われる形態で実施することもできる。
【0057】
(5)エンジン12がリコイル始動装置で始動される場合には、エンジン運転中にエンジン動力でバネ式の蓄力機構を蓄力作動させておき、エンジン始動指令に基づいて蓄力機構を開放作動させ、蓄積したバネ力でリコイル始動装置を操作するようにエンジン始動手段を構成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】田植機の全体側面図
【図2】田植機の全体平面図
【図3】変速操作構造の側面図
【図4】変速操作構造の正面図
【図5】変速案内構造の平面図
【図6】キースイッチ牽制構造の平面図
【図7】制御ブロック図
【図8】キースイッチ牽制構造の他の実施例を示す平面図
【図9】変速案内構造の他の実施例を示す平面図
【図10】変速案内構造の更に別の実施例を示す平面図と変速レバーの斜視図
【図11】変速案内構造の更に別の実施例を示す平面図
【符号の説明】
【0059】
4 作業装置(苗植付け装置)
12 エンジン
32 変速レバー
32b 握り部
56 キースイッチ
58 牽制部材
74 電動アクチュエータ
77 スタートスイッチ
P1 特定位置
P2 第2特定位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用の変速レバーが走行停止状態をもたらす所定の特定位置から外れている状態ではキースイッチの操作を牽制阻止する牽制手段を備えてあることを特徴とする農作業機の変速操作構造。
【請求項2】
前記変速レバーが前記特定位置にある状態でキースイッチの操作が許容されるよう構成してある請求項1記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項3】
前記キースイッチが回動操作されるのを阻止する牽制部材を牽制位置と牽制解除位置とに切換え操作可能に配備するとともに、この牽制部材と前記変速レバーとを機械的に連動連結して前記牽制手段を構成してある請求項1または2記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項4】
前記キースイッチが回動操作されるのを阻止する牽制部材を電動アクチュエータで牽制位置と牽制解除位置とに切換え操作可能に構成するとともに、前記変速レバーが前記特定位置にあるか否かを検知する検知手段と前記電動アクチュエータとを電気的に連係して前記牽制手段を構成してある請求項1または2記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項5】
前記キースイッチがオン操作された状態で始動されたエンジンが安定運転状態に至るまでの間は、連結した作業装置に係わる自動制御系の作動を阻止するよう構成してある請求項1〜4のいずれか一項に記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項6】
前記キースイッチをオン位置とオフ位置とにのみ切換え操作可能に構成してある請求項1〜5のいずれか一項に記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項7】
エンジン始動操作およびエンジン停止操作を変速レバーで行うよう構成してある請求項1〜6のいずれか一項に記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項8】
前記変速レバーの操作径路における前記特定位置とは異なる位置に走行停止状態をもたらす第2特定位置を設け、変速レバーを前記第2特定位置に操作したことの検知に基づいてエンジン始動手段が起動されるよう構成してある請求項7記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項9】
前記変速レバーの握り部にエンジン始動用のスタートスイッチを備えてある請求項1〜8のいずれか一項に記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項1】
走行用の変速レバーが走行停止状態をもたらす所定の特定位置から外れている状態ではキースイッチの操作を牽制阻止する牽制手段を備えてあることを特徴とする農作業機の変速操作構造。
【請求項2】
前記変速レバーが前記特定位置にある状態でキースイッチの操作が許容されるよう構成してある請求項1記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項3】
前記キースイッチが回動操作されるのを阻止する牽制部材を牽制位置と牽制解除位置とに切換え操作可能に配備するとともに、この牽制部材と前記変速レバーとを機械的に連動連結して前記牽制手段を構成してある請求項1または2記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項4】
前記キースイッチが回動操作されるのを阻止する牽制部材を電動アクチュエータで牽制位置と牽制解除位置とに切換え操作可能に構成するとともに、前記変速レバーが前記特定位置にあるか否かを検知する検知手段と前記電動アクチュエータとを電気的に連係して前記牽制手段を構成してある請求項1または2記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項5】
前記キースイッチがオン操作された状態で始動されたエンジンが安定運転状態に至るまでの間は、連結した作業装置に係わる自動制御系の作動を阻止するよう構成してある請求項1〜4のいずれか一項に記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項6】
前記キースイッチをオン位置とオフ位置とにのみ切換え操作可能に構成してある請求項1〜5のいずれか一項に記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項7】
エンジン始動操作およびエンジン停止操作を変速レバーで行うよう構成してある請求項1〜6のいずれか一項に記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項8】
前記変速レバーの操作径路における前記特定位置とは異なる位置に走行停止状態をもたらす第2特定位置を設け、変速レバーを前記第2特定位置に操作したことの検知に基づいてエンジン始動手段が起動されるよう構成してある請求項7記載の農作業機の変速操作構造。
【請求項9】
前記変速レバーの握り部にエンジン始動用のスタートスイッチを備えてある請求項1〜8のいずれか一項に記載の農作業機の変速操作構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−168512(P2006−168512A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363288(P2004−363288)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]