説明

農園芸用オレフィン系多層フィルムの製造方法

【課題】低温でも互いに剥離せず、強固で透明性に優れた農園芸用オレフィン系多層フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともオレフィン系樹脂からなる樹脂層が2層以上積層してなる積層フィルムの、圧着される表面側の樹脂層を内層とし、この内層に用いられる内層樹脂の融点をTmin℃とするとともに、該内層の反対の表面側の樹脂層を表層とし、この表層に用いられる表層樹脂の融点をTmout℃とした場合において、Tmin<Tmoutの関係を満足する内層樹脂および表層樹脂を選択し、圧着時の温度を(Tmin−40)℃以上とする。これにより、十分強固に接着し、透明度の高いオレフィン系多層フィルムが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系多層フィルムの中でも、特に、オレフィン系樹脂からなる樹脂層が2層以上積層してなる積層フィルムを、さらに圧着させて成形される多層フィルムを好適に製造する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の樹脂層を積層してなる多層フィルムの中でも、オレフィン系多層フィルムは、その物性から、温度や湿度の変化が比較的激しい環境下でも好適に使用することが可能となっている。それゆえ、特に、風雨や直射日光にさらされる屋外での使用、例えば農園芸用の包装材料(具体的には、農業用のパイプハウスや鉄骨ハウスの被覆フィルム等)の用途として好適に用いられている。
【0003】
特に、農園芸用の包装材料としては、塩化ビニル樹脂製のものが多く用いられているが、近年、環境上の問題等から塩化ビニル樹脂をできる限り使用しないようになっている。そのため、オレフィン系多層フィルムは、塩化ビニル製の包装材料に代わる有望な包装材料となっている。
【0004】
ところで、上記オレフィン系多層フィルムの製造方法の一つとして、従来、オレフィン系樹脂からなる樹脂層が2層以上積層してなる積層フィルムを、さらに圧着させて成形する技術が知られている。このような技術としては、具体的には、例えば、(1)特開昭64−22544号公報(特公平6−53407号公報)、(2)特開平5−50568号公報、(3)特開昭60−85946号公報(特公平4−24220号公報)等に開示されている技術が挙げられる。
【0005】
上記(1)の技術では、インフレーション法により、積層フィルムの内表面同士を、擬似接着層によって接着する方法が開示されている。また、上記(2)の技術では、一層からなる積層フィルムを折り返し、この折り返された積層フィルムの一方を切断することで、積層フィルムを圧着させる方法が開示されている。さらに、上記(3)の技術では、密度0.940g/cm以下の短鎖分岐を有する、直鎖状ポリエチレン樹脂よりなる積層フィルムを圧着する方法が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の各技術を用いても、得られるオレフィン系多層フィルムの品質が十分に向上されず、それゆえ、用途によっては、実用性に欠ける等の問題点が生じている。
【0007】
具体的には、まず、上記(1)・(2)の技術を用いた場合、積層フィルムをさらに圧着させて多層フィルム成形することはできるが、積層フィルム同士がブロッキングにより接着されることになる。一般に、ブロッキングとは、剥離困難ではあるものの剥離が不可能ではないことを指し、具体的には、低温下では積層フィルム同士が剥離され易くなる。
【0008】
それゆえ、上記(1)・(2)の技術を用いると、積層フィルム同士が剥離し易くなって、積層フィルムの間に空気等が入り込んでしまい、得られるオレフィン系多層フィルムの透明性が劣化してしまう。さらに、このようなオレフィン系多層フィルムを、農園芸用の包装材料等として用いると、屋外の激しい温度変化のため、剥離した積層フィルムの間に、空気だけでなく水等も入り込み易くなってしまう。
【0009】
一方、(3)の技術では、積層フィルムの密度の範囲を限定した製造方法である。そのため、積層フィルムのすべての密度領域において効果があるとはいえず、この方法によって、適当なオレフィン系多層フィルムを得ることはできない。
【0010】
また、農園芸用の包装材料等では、使用時の透明性が重要となるため、例えば、屋外での使用時に包装材料が曇ることを防止する目的で、防曇剤等の塗布剤が表面に塗布されることが多い。しかしながら、上記従来の技術で得られるオレフィン系多層フィルムは、そもそもその透明性が低くなり易いため、防曇剤による防曇効果を有効に活用することができない。
【0011】
本発明は、上記従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的は、積層フィルムを完全に圧着することで、低温でも互いに剥離せず、強固で透明性に優れた農園芸用オレフィン系多層フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、上記課題を解決するために、少なくともオレフィン系樹脂からなる樹脂層が2層以上積層してなる積層フィルムを、圧着させる積層フィルム圧着工程を含むオレフィン系多層フィルムの製造方法において、上記積層フィルムにて圧着される表面側の樹脂層を内層とし、この内層に用いられる内層樹脂の融点をTmin℃とするとともに、該内層の反対となる表面側の樹脂層を表層とし、この表層に用いられる表層樹脂の融点をTmout℃とした場合に、上記積層フィルム圧着工程では、Tmin<Tmoutの関係を満たすように、内層樹脂および表層樹脂を選択し、かつ、上記圧着時の温度を(Tmin−40)℃以上とすることを特徴としている。なお、ここでは融解温度を上記融点と定義している。該融点(融解温度)は、JIS K7121の方法により求めた。すなわち、DSCを用いて、150℃まで手動で上昇させ5分間予熱した。予熱の後、5℃/分で40℃まで降温した。その後、40℃から10℃/分で150℃まで昇温し、DSC曲線を描かせた。そして、融解ピークの頂点の温度を融点(融解温度)とした。複数のピークが存在する場合は、高いほうのピークについて融点を求めた。
【0013】
上記の構成により、積層フィルム圧着工程において、内層同士を、剥離のないレベルまで十分強固に接着することができる。また、内層の接着に伴って表層の積層状態が乱れるようなことがない。それゆえ、十分強固に接着しかつ透明度の高いオレフィン系多層フィルムを得ることができる。
【0014】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、上記課題を解決するために、前記内層樹脂における融点Tmin℃が80℃未満であることを特徴としている。
【0015】
上記の構成により、積層フィルム同士の圧着性が向上し、より強固に接着し、かつ透明なオレフィン系多層フィルムが得られる。
【0016】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、上記課題を解決するために、前記内層樹脂が、エチレン−α−オレフィン共重合体であることを特徴としている。
【0017】
上記の構成により、積層フィルム同士の圧着性がさらに向上し、さらに強固に接着し、かつ透明なオレフィン系多層フィルムが得られる。
【0018】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、上記課題を解決するために、さらに、積層フィルム圧着工程の後に、表層となる表面に塗布剤を塗布する塗布工程を含むことを特徴としている。
【0019】
上記の構成により、種々の特性が外的に付与されたオレフィン系多層フィルムが得られる。
【0020】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、上記課題を解決するために、前記塗布工程で用いられる塗布剤が、無機微粒子を含む水性の液体であることを特徴としている。
【0021】
上記の構成により、親水性が付与されたオレフィン系多層フィルムが得られる。
【0022】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、上記課題を解決するために、さらに、塗布工程の後に、塗布剤に含まれる媒体液を除去する媒体液除去工程を含むことを特徴としている。
【0023】
上記の構成により、水等の媒体液が自然乾燥によらず迅速に除去される。それゆえ、表面に無機系材料の層が成形された、オレフィン系多層フィルムが得られる。
【0024】
本発明のオレフィン系多層フィルムは、上記課題を解決するために、上記いずれか1つの製造方法によって得られ、農園芸用途に用いられることを特徴としている。
【0025】
上記の構成により、オレフィン系多層フィルムは、優れた透明性を発揮できるため、農園芸用途として好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、以上のように、少なくともオレフィン系樹脂からなる樹脂層が2層以上積層してなる積層フィルムを、圧着させる積層フィルム圧着工程を含むオレフィン系多層フィルムの製造方法において、上記積層フィルムにて圧着される表面側の樹脂層を内層とし、この内層に用いられる内層樹脂の融点をTmin℃とするとともに、該内層の反対となる表面側の樹脂層を表層とし、この表層に用いられる表層樹脂の融点をTmout℃とした場合に、上記積層フィルム圧着工程では、Tmin<Tmoutの関係を満たすように、内層樹脂および表層樹脂を選択し、かつ、上記圧着時の温度を(Tmin−40)℃以上とする構成である。
【0027】
それゆえ、積層フィルム圧着工程において、内層同士を、剥離のないレベルまで十分強固に接着することができる。また、内層の接着に伴って表層の積層状態が乱れるようなことがない。それゆえ、十分強固に接着しかつ透明度の高いオレフィン系多層フィルムを得ることができるという効果を奏する。
【0028】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、以上のように、前記内層樹脂における融点Tmin℃が80℃未満である構成である。
【0029】
それゆえ、積層フィルム同士の圧着性が向上し、より強固に接着し、かつ透明なオレフィン系多層フィルムが得られるという効果を奏する。
【0030】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、以上のように、前記内層樹脂が、エチレン−α−オレフィン共重合体である構成である。
【0031】
それゆえ、積層フィルム同士の圧着性がさらに向上し、さらに強固に接着し、かつ透明なオレフィン系多層フィルムが得られるという効果を奏する。なお、エチレン/酢酸ビニル共重合体を用いた場合も、同様の効果を得ることができる。
【0032】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、以上のように、さらに、積層フィルム圧着工程の後に、表層となる表面に塗布剤を塗布する塗布工程を含む構成である。
【0033】
それゆえ、種々の特性が外的に付与されたオレフィン系多層フィルムが得られるという効果を奏する。
【0034】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、以上のように、前記塗布工程で用いられる塗布剤が、無機微粒子を含む水性の液体である構成である。
【0035】
それゆえ、親水性が付与されたオレフィン系多層フィルムが得られるという効果を奏する。
【0036】
本発明のオレフィン系多層フィルムの製造方法は、以上のように、さらに、塗布工程の後に、塗布剤に含まれる媒体液を除去する媒体液除去工程を含む構成である。
【0037】
それゆえ、水等の媒体液が自然乾燥によらず迅速に除去される。それゆえ、表面に無機系材料の層が成形された、オレフィン系多層フィルムが得られるという効果を奏する。
【0038】
本発明のオレフィン系多層フィルムは、以上のように、上記いずれか1つの製造方法によって得られ、農園芸用途に用いられる構成である。
【0039】
それゆえ、オレフィン系多層フィルムは、優れた透明性を発揮できるため、農園芸用途として好適に用いることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
〔実施の形態1〕
本発明の実施の一形態について図1および図2に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
本発明にかかるオレフィン系多層フィルム(以下、単に多層フィルムと略す)の製造方法は、少なくともオレフィン系樹脂からなる樹脂層が2層以上積層してなる積層フィルムを、圧着させる積層フィルム圧着工程を含む方法であり、該積層フィルム圧着工程において、積層フィルム同士を圧着する場合の温度条件を最適化することで、積層フィルム同士を強固に圧着させる方法である。
【0042】
また、本発明にかかる多層フィルムは、上記製造方法により得られるものであり、本発明にかかるオレフィン系多層フィルム製造装置(以下、単に製造装置と略す)は、本発明にかかる上記製造方法の一つの形態を好適に実現可能とする装置である。
【0043】
まず、上記積層フィルムについて説明する。本発明で用いられる上記積層フィルムは、オレフィン系樹脂からなる樹脂層が2層以上積層してなっておればよく、その積層構造については特に限定されるものではないが、各樹脂層を成形する樹脂の融点が所定の条件に最適化されている。
【0044】
具体的には、例えば、図1に示すように、本実施の形態における積層フィルム9が、2層の樹脂層11・12からなっている2層構造とする。このとき、該積層フィルム9にて圧着される表面側の樹脂層11を内層11とし、この内層11に用いられる内層樹脂の融点をTmin℃とする。一方、該内層11の反対となる表面側の樹脂層12を表層12とし、この表層12に用いられる表層樹脂の融点をTmout℃とする。この場合、内層樹脂および表層樹脂としては、Tmin<Tmoutの関係を満たすように、適切なオレフィン系樹脂が選択される。そして、後述するように、圧着時の温度は(Tmin−40)℃以上に設定される。
【0045】
内層樹脂の融点と表層樹脂の融点との間に上記関係が満たされていれば、すなわち内層樹脂の融点が表層樹脂の融点よりも低ければ、積層フィルム圧着工程において、図1に示すように、内層11同士を、剥離のないレベルまで十分強固に接着させることができるだけでなく、内層11の接着に伴って表層12の積層状態が乱れるようなことがない。それゆえ、十分強固に接着しかつ透明度の高い多層フィルム10を得ることができる。なお、図1では、多層フィルム10において、内層11同士が十分に接着されていることを示すため、内層11同士の接着面を点線で示している。
【0046】
一方、上記の関係が成立していない場合、すなわち、内層樹脂の融点が表層樹脂の融点と同等か、それよりも高ければ、内層11の圧着温度で表層12が容易に軟化してしまうため、内層11の接着に伴って表層12の積層状態が乱れて透明度が低下するなどしてしまい好ましくない。
【0047】
本発明で好適に用いられるオレフィン系樹脂としては、特に限定されるものではなく、モノマーとしてオレフィンを少なくとも一種含む樹脂、例えば、エチレン単独共重合体や、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリオレフィン系樹脂や、エチレン−スチレン共重合体などのオレフィンとビニル基含有芳香族系単量体との共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−スチレン−ノルボルネン共重合体などのオレフィンと環状単量体との共重合体も好適である。しかしながら、特に、上記内層樹脂としては、融点Tmin℃が80℃未満のオレフィン系樹脂が用いられることが好ましい。
【0048】
内層樹脂として用いられるオレフィン系樹脂の融点Tmin℃が80℃未満(Tmin℃<80℃)であれば、積層フィルム9同士の圧着性を向上させることが可能になり、本発明にかかる多層フィルム10をより強固かつ透明なものとすることができる。
【0049】
本発明で好適に用いられる、融点Tmin℃が80℃未満の上記オレフィン系樹脂としては、より具体的には、エチレン−α−オレフィン共重合体が用いられることがより好ましい。
【0050】
エチレン−α−オレフィン共重合体に用いられるα−オレフィンは、炭素数が3〜18のα−オレフィンであることがさらに好ましく、炭素数が4〜12であることが特に好ましい。
【0051】
α−オレフィンとしては、具体的には、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。これらα−オレフィンは単独で用いてもよく、あるいはまた二種以上を併用してもよい。
【0052】
上記エチレン−α−オレフィン共重合体中のα−オレフィンモノマー単位の含有量(二種以上を併用した場合はその合計量)は、0.5モル%〜25モル%の範囲内であることが好ましく、0.5モル%〜15モル%の範囲内であることがより好ましい。
【0053】
エチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレートは、0.1g/10分〜50g/10分の範囲内であることが好ましく、0.3g/10分〜10g/10分の範囲内であることがより好ましく、0.5g/10分〜5g/10分の範囲内であることがさらに好ましく、0.8g/10分〜2.5g/10分の範囲内であることが特に好ましい。該メルトフローレートの下限値が0.1g/10分未満であると、積層フィルムをオレフィン系多層フィルムとしてフィルム化する際の加工性に劣るため好ましくない。また、該メルトフローレートの上限値が50g/10分を超えると、上記フィルム化する際の加工性が劣り、また、得られるオレフィン系多層フィルムの強度が劣るために好ましくない。
【0054】
エチレン−α−オレフィン共重合体の密度は、JIS K7112(1980)の規定による測定では、0.875g/cm〜0.945g/cmの範囲内で用いられるが、0.875g/cm〜0.905g/cmの範囲内であることが好ましく、0.875g/cm〜0.902g/cmの範囲内であることがより好ましく、0.875g/cm〜0.890g/cmの範囲内であることが特に好ましい。密度が0.945g/cmよりも大きいと、積層フィルムの融点が高くなり、該積層フィルムの圧着成形に劣るため好ましくない。また、密度が0.875g/cmよりも小さいと、オレフィン系多層フィルムの強度や加工性が劣るため好ましくない。
【0055】
エチレン−α−オレフィン共重合体のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC;gel permeation chromatography)で求めた分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、オレフィン系多層フィルムの強度、および加工性の点から、1.2〜4の範囲内であることが好ましく、1.5〜3.5の範囲内であることがより好ましく、1.7〜2.5の範囲内であることが特に好ましい。
【0056】
分子量分布の上限値が4を超えると、オレフィン系多層フィルムの透明性や強度が劣るため好ましくない。また、分子量分布の下限値を1.2未満にするには、エチレン−α−オレフィン共重合体の重合が困難になり、コストがかかるために好ましくない。
【0057】
エチレン−α−オレフィン共重合体は、下記の式で求められる組成分布変動係数Cxが0.5以下であることが好ましく、0.1〜0.4の範囲内であることがより好ましく、0.2〜0.35の範囲内であることがさらに好ましく、0.2〜0.3の範囲内であることが特に好ましい。
【0058】
Cx=σ/SCBave. ・・・(式1)
(式中、σは後述する温度上昇カラム分別法により、各温度における溶出量とその溶出成分の分岐度から求めた組成分布の標準偏差を表し、SCBave.は後述する方法により求められる、炭素数1000個あたりの短鎖分岐の数の平均値を表す。)
上記標準偏差σ、および短鎖分岐の数の平均値SCBave.の具体的な求め方は以下の通りである。SCBave.は、通常、ポリエチレン等の短鎖分岐の測定で行われているように、エチレン−α−オレフィン共重合体を、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR;Fourier transform infrared spectroscopy)で測定することにより求められる。ここで、短鎖分岐とは、通常、炭素数1〜4程度を有する分岐のことである。また、標準偏差σは、温度上昇カラム分別法の定法に従って、エチレン−α−オレフィン共重合体を所定の温度に加熱した溶媒に溶解し、カラムオーブン中のカラムに入れ、一旦、オーブンの温度を下げ、続いて所定の温度まで上昇させ、その温度で溶出した溶出成分の相対濃度と分岐度を、カラムに接続したFT−IRで測定する。引き続き、温度を段階的に上昇させ、最終温度(溶解したエチレン−α−オレフィン共重合体がすべて溶出する温度)まで上昇させる。得られた各溶出成分の相対濃度と分岐度を統計処理し、分岐度から求めた組成分布の標準偏差σを求めることができる。
【0059】
上記表層樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のα−オレフィンの単独重合体;エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン/ヘキセン−1共重合体、エチレン/オクテン−1共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体;エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/メタクリル酸メチル共重合体、アイオノマー樹脂等のα−オレフィンを主成分とする異種単量体との共重合体等が挙げられる。また、エチレン−スチレン共重合体などのオレフィンとビニル基含有芳香族系単量体との共重合体、エチレン−ノルボルネン共重合体、エチレン−スチレン−ノルボルネン共重合体などのオレフィンと環状単量体との共重合体も好適である。加工性や、価格等から、ポリエチレン、エチレン/α−オレフィン共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体を用いることが好ましい。
【0060】
本発明で用いられる上記積層フィルムは、上記オレフィン系樹脂以外の樹脂からなる樹脂層をさらに積層していてもよい。該オレフィン系樹脂以外の樹脂としては、具体的には、特に限定されるものではなく、本発明にかかる多層フィルムの用途に応じて、従来公知の樹脂層を適宜選択して用いることができる。
【0061】
また、上記積層フィルムには、さらに、各種の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、具体的には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、防霧剤、防曇剤、ワックス、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、顔料、防藻剤、光安定剤等が挙げられる。
【0062】
本発明で用いられる上記積層フィルム9は、上記内層11および表層12以外に図示しない中間層を含んでいてもよい。該中間層としては、オレフィン系樹脂からなる層であれば特にその構成は限定されるものではない。
【0063】
次に、上記積層フィルム9を圧着する積層フィルム圧着工程について説明する。上述したように、本発明にかかる製造方法では、積層フィルム9において、Tmin<Tmoutの関係を満たすように内層樹脂および表層樹脂を選択しているが、さらに、上記積層フィルム圧着工程において、上記圧着時の温度を(Tmin−40)℃以上とする条件で、該積層フィルム9同士を圧着する。
【0064】
上記圧着時の温度が、(Tmin−40)℃以上であれば、積層フィルム圧着工程において、内層11同士を十分強固に接着させることができ、それゆえ十分強固に接着しかつ透明性に優れた多層フィルム10を得ることができる。一方、上記圧着時の温度が、(Tmin−40)℃未満であると、積層フィルム圧着工程において、内層11を十分に軟化させることができなくなり、積層フィルム9同士を十分に接着できなくなるため好ましくない。
【0065】
なお、圧着時の温度の下限は(Tmin−40)℃であるが、圧着時の温度の上限については特に限定されるものではない。しかしながら、あまり圧着時の温度が高くなりすぎると、内層11も表層12も軟化しすぎて、得られる多層フィルム10の品質が低下する場合もあり得る。また、本発明においては、後述する製造装置で説明するように、圧着時には、実質的に加熱はなされず、積層フィルム9を成形する時の成形温度を保持することで、上記下限以上の温度を実現するようになっている。それゆえ、圧着時の温度の上限としては、実用上、好ましくは、60℃以下である。
【0066】
次に、本発明にかかる製造装置について説明する。本発明にかかる製造装置は、上記積層フィルム圧着工程を実施可能としており、本発明にかかるオレフィン系多層フィルムを製造できる装置であれば、その具体的な構成については特に限定されるものではない。本実施の形態では、例えば、図1に示すように、互いに対向するロール部材21・22からなり、積層フィルム9を、互いに内層11側が対向する状態で搬送しながら、上記下限の温度以上で内層11同士を圧着させる加圧ローラ型の積層フィルム圧着部(積層フィルム圧着手段)20を備えている構成が挙げられる。
【0067】
換言すれば、本発明にかかる製造装置においては、図1に示すように、互いに内層11側が対向する状態で積層フィルム9を搬送させながら、内層11同士を、(Tmin−40)℃以上の温度で圧着できれば、積層フィルム圧着手段の具体的な構成は、図1に示す加圧ローラ型に限定されるものではない。
【0068】
上記積層フィルム圧着部20を構成する上記ロール部材21・22としては、一般的なロールが好適に用いられる。具体的には、例えば、金属製ロール;ゴム製ロール;ゴム層、ポリイミド等の樹脂層を表面に成形してなるコート型金属ロール;等が挙げられる。特に、本発明にかかる製造装置においては、上記ロール部材21・22のうちの少なくとも一方が、ゴム製ロールやゴム層を表面(ロール面)に成形してなるロール(以下、説明の便宜上、ゴム表面ロールと称する)が非常に好適に用いられる。
【0069】
このようなゴム表面ロールを用いれば、図2(a)または(b)に模式的に示すように、各ロール部材21・22の接触部位23に変形が生じ、各ロール部材21・22が面状に接触する。その結果、積層フィルム9に対して、線ではなく面で加圧することができ、積層フィルム9同士の圧着をより均一かつ効率的に実施することができる。なお、図2(a)では、ロール部材21・22双方ともにゴム表面ロールを用いた場合の例であり、図2(b)では、ロール部材21・22の一方のみにゴム表面ロールを用いた場合の例(同図では、ロール部材21がゴム表面ロール)である。
【0070】
もちろん、本発明では、図2(c)に示すように、金属ロールのように、加圧部位で実質的に変形が生じないロール部材21・22を用いてもよい。この場合、各ロール部材21・22の接触部位23に変形が生じず、各ロール部材21・22は線状に接触するが、積層フィルム9の種類等によっては、このようなロール部材21・22を用いる方が好ましい場合もある。
【0071】
本発明にかかる積層フィルム圧着部20においては、ロール部材21・22の間で掛けられる圧力(圧着時の圧力)については、積層フィルム9同士を十分に圧着できる程度であれば特に限定されるものではない。
【0072】
例えば、ゴム表面ロールを成形するゴム(表面のゴム層またはロール本体を成形するゴム)の種類、各ロール部材21・22に直接加えられる圧力等の条件が異なると、ロール部材21・22の表面における変形の程度も異なる。それゆえ、積層フィルム9の厚みや、内層11・表層12の材質等に応じて、圧着時の圧力も適宜変化させることができる。
【0073】
しかしながら、ロール部材21・22の少なくとも一方にゴム表面ロールを用いる場合、上記圧着時の圧力としては、実用的には、面圧換算で20kg/cm以上であることが好ましい。これによって、積層フィルム9同士を十分に接着できるだけでなく、各積層フィルム9の間の接着状態をより均一にすることができる。
【0074】
一方、圧着時の圧力の上限は特に限定されるものではない。すなわち、積層フィルム9を十分に接着させることを考慮すれば、圧着時の圧力はより高いことが好ましくなる。しかしながら、あまり圧力が高すぎると、それに見合うだけの高い接着強度で積層フィルム9を圧着することができなくなる上に、積層フィルム9が破断するおそれもある。さらに、ロール部材21・22の構造や材質によっては、加圧能力に限界がある。それゆえ、実用的には、面圧換算で100kg/cm以下であることが好ましい。
【0075】
あるいは、ロール部材21・22の双方が金属ロールであれば、図2(c)に示すように、各ロール部材21・22においては、加圧部位で実質的に変形が生じないと見なせる。そのため、圧着時の圧力としては、線圧換算で5kg/cm以上であることが好ましく、10kg/cm以上であることがより好ましい。圧着時の圧力が、線圧換算で5kg/cm以上であれば、積層フィルム9同士の接着強さを十分に向上させることができる。
【0076】
また、双方が金属ロールである場合でも、圧着時の圧力の上限も特に限定されるものではない。しかしながら、前述したように、圧着の効率、積層フィルム9の破断の回避や、加圧能力の限界から、実用的には、400kg/cm以下であることが好ましい。
【0077】
上記ゴム表面ロールの具体的な構成は特に限定されるものではなく、その形状(外径他)については、従来公知の構成を適用することができる。さらに、本実施の形態では、表面のゴムが、JIS K6301に従うA型スプリング式硬さ試験に基づくスプリング硬さ(JIS A)で80度以上の硬度を有していることがより好ましい。
【0078】
上記スプリング硬さが80度以上あるような硬質ゴムを表面に有するロール部材21・22が用いられると、積層フィルム9を、面圧換算で20kg/cm以上の高い圧力で圧着することが可能となる。一般に、上記積層フィルム9や金属箔など、表面積に対する厚みの小さい「薄物」同士を圧着するときには、「薄物」同士の接着強度にばらつきが生じやすい。このばらつきは、「薄物」が有する厚み斑(厚みのムラ)に起因すると推定される。しかしながら、本発明では、ロール部材21・22の少なくとも一方として、上記ゴム表面ロールを用いれば、「薄物」同士に効果的に圧力を加えることができる。その結果、接着強度のばらつきを効果的に防止することができる。
【0079】
一方、上記ゴム表面ロールの表面硬さの上限としては、上記スプリング硬さで95度以下であるとより好ましい。95度以下であれば、得られる多層フィルム10において、内層11同士の接着強さをより均一することができる。逆に、95度を超えると、表面が硬くなりすぎて、圧着時に、ロール部材21および/またはロール部材22の表面が適度に変形できなくなり、接着強さにムラが生ずるおそれがあるため好ましくないことがある。
【0080】
上記スプリング硬さが80度以上の硬質ゴムとしては、例えば、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴム等の合成ゴム、あるいは、天然ゴムにおいて加硫剤、アルカリ性物質等の加硫促進剤、異方性充填剤等の補強性充填剤の配合等によって加硫硬化処理を施すことで得られるゴムが挙げられる。
【0081】
上記金属ロールの具体的な構成も特に限定されるものではなく、従来公知の構成を用いることができる。一般に、金属ロールとしては、強度の観点からスチール鋼、ステンレス鋼(SUS鋼)等の材質が好適に用いられる。
【0082】
本発明にかかる製造装置では、上記積層フィルム圧着部20において、互いに内層11側が対向する状態で積層フィルム9が搬送されていれば、ロール部材21・22の加圧回転によって、積層フィルム9の内層11同士を順次接着することができる。それゆえ、本発明にかかる製造装置には、互いに内層11側が対向する状態で積層フィルム9を搬送させる積層フィルム搬送手段が備えられていることがより好ましい。
【0083】
上記積層フィルム搬送手段としては、積層フィルム9を上記の状態で搬送できるものであれば特に限定されるものではないが、一般的には、積層フィルム9および多層フィルム10を平板状に張り渡す張架ローラを挙げることができる。該張架ローラの具体的な構成は特に限定されるものではなく、従来公知の構成を好適に用いることができる。加圧ロールによる圧着時のオレフィン系多層フィルムの移動速度に制限はないが、0.1m/分〜200m/分、好ましくは1m/分〜50m/分、特に2m/分〜20m/分が好ましい。
【0084】
本発明にかかる製造装置においては、多層フィルム10を連続的に製造するために、積層フィルム成形部(積層フィルム成形手段)を備えていることが好ましい。特に、積層フィルム成形部により連続的に積層フィルム9を成形するすぐ下流側に、上記積層フィルム圧着部20を配置させれば、成形直後の積層フィルム9を圧着させることになる。そのため、積層フィルム圧着部20にて、特に保温手段や加熱手段を用いなくても、圧着時の温度を(Tmin−40)℃以上に保持しながら、上記状態の積層フィルム9を圧着させることができる。
【0085】
上記積層フィルム成形部の具体的な構成としては、特に限定されるものではなく、カレンダー成形等、従来公知のフィルム成形手法を用いることができるが、中でも、積層フィルム9をチューブ状に成形するインフレーション成形機が用いられることがより好ましい。
【0086】
インフレーション成形機では、可塑化装置(各種押出機等)で可塑化された熱可塑性樹脂(本発明では、上記オレフィン系樹脂)を、該可塑化装置に連結されたダイス先端の環状スリットからチューブ状に排出し、これを鉛直方向に引きながらチューブ内に空気を吹き込んで延伸させる。そのため、積層フィルム成形部としてインフレーション成形機を用いれば、積層フィルム9がチューブ状になるため、互いに内層11側が対向する状態を容易かつ確実に実現することができる。
【0087】
〔実施の形態2〕
本発明の実施の一形態について図3に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。また、説明の便宜上、前記実施の形態1で用いた部材と同一の機能を有する部材には同一の部材番号を付記し、その説明を省略する。
【0088】
本実施の形態では、前記実施の形態1で説明した積層フィルム圧着工程の後に、少なくとも、表層となる表面に塗布剤を塗布する塗布工程が実施される。
【0089】
例えば、前記実施の形態1で説明した製造方法または製造装置により得られた多層フィルム10の表面に各種塗布剤を塗布することで、該多層フィルム10に対して、種々の特性を外的に付与することができる。
【0090】
上記塗布剤としては、多層フィルム10の表面に塗布可能なものであれば特に限定されるものではないが、一般的には、液体、特に水性の液体(主な媒体液が水)であることが好ましい。塗布剤に含まれる成分としても特に限定されるものではなく、有機系材料であってもよく無機系材料であってもよい。
【0091】
例えば、塗布剤として、無機系材料が用いられ、媒体液として主に水が用いられる場合には、該無機系材料が無機微粒子であることが好ましい。無機微粒子を用いることで、本発明にかかる多層フィルム10の両面に親水性を付与することができる。上記無機微粒子としては、具体的には、Si、Al、Ti、Zn、Se、Snからなる群より選ばれる少なくとも一種の原子を含有する無機微粒子が挙げられる。該無機微粒子がSi、Al、Tiからなる群より選ばれる少なくとも一種の原子を含有する無機微粒子であれば、多層フィルム10の両面に対して、防汚性、防曇性を付与することができる。また、該無機微粒子がZn、Se、Snを主成分としてなるコロイド物質であれば、上記多層フィルム10の両面に、該多層フィルム10における熱線の吸収を防止する、熱線カット性を付与することができる。
【0092】
本発明にかかる多層フィルム10は、原反である2枚の積層フィルム9を互いに剥離できない程度に強固に接着することができる。そのため、優れた透明性を発揮でき、例えば、農園芸用の包装材料として好適に用いることができる。ここで、農園芸用の包装材料では、使用時の透明性が重要となるため、例えば、屋外での使用時に包装材料が曇ることを防止する目的で、防曇剤等の塗布剤が表面に塗布される。それゆえ、上記塗布剤として防曇剤を用いることで、本発明にかかる多層フィルム10を、農園芸用に好適に用いることができる。
【0093】
上記塗布工程で実施される具体的な塗布方法としては特に限定されるものではなく、従来公知の各種塗布方法を好適に用いることができる。中でも、マイヤーバー法、グラビアコート法を用いることが好ましい。
【0094】
本実施の形態にかかる製造方法では、上記塗布工程にて、媒体液に無機系材料等を溶解または分散させた塗布液を用いる場合には、該塗布工程の後に、塗布剤に含まれる媒体液を除去する媒体液除去工程が実施されることが好ましい。具体的な媒体液除去手法としては、ドライヤーなどによる乾燥を挙げることができる。この工程が実施されることで、水等の媒体液を自然乾燥によらず迅速に除去することができるので、多層フィルム10の表面に、無機系材料の層を迅速かつ効率的に成形することができる。
【0095】
次に、本実施の形態における製造装置について説明する。本実施の形態では、少なくとも上記塗布工程を実施できる製造装置であればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではない。本実施の形態では、前記実施の形態1で述べたインフレーション成形機を用い、かつ両面に塗布剤を塗布する場合について説明する。
【0096】
例えば、図3に示すように、本実施の形態にかかる製造装置は、前記積層フィルム圧着部20に加えて、インフレーション成形機(積層フィルム成形手段)31、張架ローラ32、送液部33、マイヤーバー34、ドライヤー(乾燥手段)35、巻取部36を備えている。
【0097】
上記積層フィルム圧着部20、インフレーション成形機31および張架ローラ32については、前記実施の形態1と同様であるので、その説明は省略する。
【0098】
張架ローラ32の作用によって、多層フィルム10は移動する。そして、積層フィルム9を圧着して多層フィルム10を成形した後に、送液部33で、表層12に、上記塗布剤を塗布する。
【0099】
上記マイヤーバー34は、多層フィルム10の移動方向に対して垂直になるように、かつ多層フィルム10を挟み込むように2本配置される。そして、送液部33を通過して、その表面に塗布剤が塗布された多層フィルム10をしごくことで、余分な塗布剤を取り除き、所定の厚みで塗布剤を塗布する。なお、マイヤーバー34の具体的な構成は特に限定されるものではなく、従来公知の構成を用いることができる。
【0100】
上記ドライヤー35は、内部で多層フィルム10を移動させながら、熱風を多層フィルム10表面に当てることで、塗布剤に含まれる水性の媒体液を乾燥させて除去する。なお、ドライヤー35の構成も特に限定されるものではなく、従来公知の構成を用いることができる。また、ドライヤー35における熱風の温度としては、積層フィルム10を構成する樹脂層の融点よりも低いことが好ましい。これによって、多層フィルム10の過剰な軟化とこれに伴う形状の劣化を回避することができる。なお、ドライヤー35における熱風の風速としては、多層フィルム10が周囲のドライヤー35に接触する等して、乾燥や移動に支障を来たさない程度であればよく、特に限定されるものではない。
【0101】
上記巻取部36は、塗布・乾燥後の多層フィルム10を牽引しながら巻き取る。なお、該巻取部36の具体的な構成も特に限定されるものではなく、従来公知の構成を好適に用いることができる。
【0102】
以上のように、本発明にかかる多層フィルムは、前記実施の形態1または2で説明した製造方法(製造装置)によって得られるものであり、2層の積層フィルムを強固に貼り合わせてなっている。それゆえ、優れた強度と高い透明性とを有しており、例えば、農園芸用途、具体的には、屋外展帳用ハウス資材等として好適に用いられる。
【0103】
特に、実施の形態2で説明したような製造装置を用いれば、インフレーション成形法を利用して、透明性の高いオレフィン系多層フィルムを得ることができるだけでなく、この透明性の高い多層フィルムの両面に防曇剤等の塗布剤を連続的に塗布して、該多層フィルムの両面に、防曇性を容易に付与することができる。それゆえ、高品質のオレフィン系多層フィルムを低コストで製造することが可能となる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0105】
〔実施例1〕
内層樹脂としてメタロセン系触媒で製造されたLLDPE(密度0.898、MI=2、融点100℃)、中間層としてEVA(住友化学工業製、エバテートH2031)、外層としてLDPE(住友化学工業製、スミカセンF200、密度0.922、MI=2、融点114℃)を用いて、内層20μm/中間層60μm/外層20μmになるように共押出したフィルムを準備した。
【0106】
金属ロールとゴムロールが対になった圧着装置を用いて、フィルムの内層同士を圧着した。圧着条件は、加圧ローラの温度を80℃、圧着速度を3m/分とした。
【0107】
得られたオレフィン系多層フィルムそれぞれの1.8cm幅の試験片を、温度が20℃、相対湿度が65%の条件下で2日間保持した後、同条件で、得られたオレフィン系多層フィルムの透明性を測定した。また、180°剥離法により、オレフィン系多層フィルムの層間剥離強さ、および剥離部位を評価した。
【0108】
オレフィン系多層フィルムの層間剥離強さの測定には、島津製作所製AGS−100を用いた。剥離速度が300mm/分で上記オレフィン系多層フィルムを剥離したときの、10mm幅の層間剥離強さ、および剥離したときの剥離部位を評価した。
【0109】
〔比較例1〕
内層樹脂としてメタロセン系触媒で製造されたLLDPE(密度0.887、MI=4、融点80℃)、加圧ローラの温度を50℃にする以外は、実施例1と同様にして、オレフィン系多層フィルムを製造した。そして、得られたオレフィン系多層フィルムの透明性、層間剥離強さ、および剥離部位を測定した。
【0110】
〔実施例2〕
実施例1の内層樹脂の融点を80℃、加圧ローラの温度を50℃にした以外は、実施例1と同様にしてオレフィン系多層フィルムを製造した。そして、得られたオレフィン系多層フィルムの透明性、層間剥離強さ、および剥離部位を測定した。
【0111】
上記実施例1および2、ならびに比較例1で得られた結果を表1に示す。なお、剥離部位については、剥離場所が層内の凝集破壊の場合を○で表している。
【0112】
【表1】

【0113】
表1に示すように、加圧ローラで圧着させるときの温度が、(内層樹脂の融点Tmin−40)℃以上であれば、得られるオレフィン系多層フィルムは、透明性を有し、層間剥離強さが大きくなる。しかしながら、上記圧着させるときの温度が(内層樹脂の融点Tmin−40)℃未満であれば、透明性に劣り、接着しないオレフィン系多層フィルムとなることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施の一形態にかかるオレフィン系多層フィルムの製造方法の概要を示す模式図である。
【図2】(a)〜(c)は、図1に示す製造方法にて用いられる、積層フィルム圧着部を構成するロール部材が対向して接触している状態を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の他の形態にかかるオレフィン系多層フィルムの製造装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0115】
9 積層フィルム
10 オレフィン系多層フィルム
11 内層
12 表層
20 積層フィルム圧着部(積層フィルム圧着手段)
21 ロール部材
22 ロール部材
31 インフレーション成形部(積層フィルム成形手段)
32 張架ローラ(積層フィルム搬送手段)
33 送液部
35 ドライヤー(乾燥手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともオレフィン系樹脂からなる樹脂層が2層以上積層してなる積層フィルムを、圧着させる積層フィルム圧着工程を含む農園芸用オレフィン系多層フィルムの製造方法であって、
上記積層フィルムにて圧着される表面側の樹脂層を内層とし、この内層に用いられる内層樹脂の融点をTmin℃とするとともに、該内層の反対となる表面側の樹脂層を表層とし、この表層に用いられる表層樹脂の融点をTmout℃とした場合に、
上記積層フィルム圧着工程では、Tmin<Tmoutの関係を満たすように、内層樹脂および表層樹脂を選択し、かつ、上記圧着時の温度を(Tmin−40)℃以上とすることを特徴とする農園芸用オレフィン系多層フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記内層樹脂における融点Tmin℃が80℃未満であることを特徴とする請求項1に記載の農園芸用オレフィン系多層フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記内層樹脂が、エチレン−α−オレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の農園芸用オレフィン系多層フィルムの製造方法。
【請求項4】
さらに、積層フィルム圧着工程の後に、表層となる表面に塗布剤を塗布する塗布工程を含むことを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の農園芸用オレフィン系多層フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記塗布工程で用いられる塗布剤が、無機微粒子を含む水性の液体であることを特徴とする請求項4に記載の農園芸用オレフィン系多層フィルムの製造方法。
【請求項6】
さらに、塗布工程の後に、塗布剤に含まれる媒体液を除去する媒体除去工程を含むことを特徴とする請求項5に記載の農園芸用オレフィン系多層フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−45156(P2007−45156A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231319(P2006−231319)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【分割の表示】特願2002−58052(P2002−58052)の分割
【原出願日】平成14年3月4日(2002.3.4)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(503076168)三善加工株式会社 (14)
【Fターム(参考)】