説明

農用トラクタ

【課題】左右のフェンダを低コストで実現するとともに、当該フェンダの外見も良好な農用トラクタを提供する。
【解決手段】トラクタは、後輪の車軸位置及び当該車軸に取付け可能な後輪の径がそれぞれ異なる複数の車格のうち、何れかの車格に属する農用トラクタであって、以下のように構成されている。即ち、このトラクタは、左右の後輪15それぞれに対応して配置されるとともに、左右でドローパネル31の形状が共通であり、後輪15の前部及び上部を覆うように構成されたフェンダ30を備える。フェンダ30のドローパネル31の形状は、対称線32を中心にして前半部と後半部が対称形に形成される。そして、側面視において、車格に応じた車軸位置のそれぞれに取り付けられる後輪の最大径を略含有する最小の仮想円100を考えたときに、フェンダ30の対称線32が仮想円100の中心点101を通過するように当該フェンダが配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農用トラクタに関する。詳細には、農用トラクタが備えるフェンダの形状に関する。
【背景技術】
【0002】
4輪型の農用トラクタにおいては、左右の後輪をそれぞれ覆うようにフェンダを備えた構成が一般的となっている。従来、この種のトラクタにおいて左右のフェンダは、それぞれ別の金型で成形されていた。このため、金型費等がかさみ、コストアップの原因となっていた。
【0003】
また、農用トラクタのフェンダを設計する際に重要なポイントの1つに、外観の良否が挙げられる。例えば、車輪とフェンダとの隙間の空き具合や、車体のデザインとフェンダ形状との調和性等を考慮し、トラクタの外観を損なわないようにフェンダの形状や位置が設計される。
【0004】
この点、特許文献1は、複数のタイプのキャビンが取り付けられるように構成されたトラクタにおいて、各タイプで下フェンダを共通とすることによりコスト低減を図った構成を開示している。更に特許文献1は、下フェンダの傾斜角をルーフフレームの支柱の傾斜角と一致させることにより、フェンダと後輪との適正隙間を確保し、外観を良くすることができるとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−182632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の構成は、キャビンのタイプが異なる車種の間で部品を共通化することを目的としたものであり、同一のキャビンタイプにおける左右のフェンダについては、やはり別の金型を用いて成形する必要があった。従って、特許文献1の構成は、金型費等を一層削減するという観点から改善の余地が残されていた。
【0007】
本願発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、左右のフェンダを低コストで実現するとともに、当該フェンダの外見も良好な農用トラクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、後輪の車軸位置及び当該車軸に取付け可能な後輪の径がそれぞれ異なる複数の車格のうち、何れかの車格に属する農用トラクタであって、以下のように構成された農用トラクタが提供される。即ち、この農用トラクタは、左右の後輪それぞれに対応して配置されるとともに、左右でベース形状が共通であり、前記後輪の前部及び上部を覆うように構成されたフェンダを備える。前記フェンダの前記ベース形状は、対称線を中心にして前半部と後半部が対称形に形成される。そして、側面視において、前記車格に応じた車軸位置のそれぞれに取り付けられる後輪の最大径を略含有する最小の仮想円を考えたときに、前記フェンダの前記対称線が前記仮想円の中心点を通過するように当該フェンダが配置されている。
【0010】
即ち、フェンダのベース形状を前半部と後半部とで対称形となるように構成することにより、車体の左右で同一のベース形状を用いることができる。これにより、金型等の費用を低減し、コストを削減することができる。また、上記のように、それぞれの車軸位置における車輪の最大径を略含有する仮想円の中心点との関係で対称線の位置を決定することにより、後輪の径や車軸位置を異ならせても見た目の違和感が少ない形状のフェンダを提供することができる。
【0011】
本発明の第2の観点によれば、後輪の車軸位置が共通であるとともに当該後輪の径がそれぞれ異なる複数の車格のうち、何れかの車格に属する農用トラクタであって、以下のように構成された農用トラクタが提供される。即ち、この農用トラクタは、左右の後輪それぞれに対応して配置されるとともに、左右でベース形状が共通であり、前記後輪の前部及び上部を覆うように構成されたフェンダを備える。前記フェンダの前記ベース形状は、対称線を中心にして前半部と後半部が対称形に形成される。そして、側面視において、前記フェンダの前記対称線が前記車軸位置を通過するように当該フェンダが配置されている。
【0012】
即ち、フェンダのベース形状を前半部と後半部とで対称形となるように構成することにより、車体の左右で同一のベース形状を用いることができる。これにより、金型等の費用を低減し、コストを削減することができる。また、上記のように車軸位置との関係で対称線の位置を決定することにより、後輪の径を異ならせても見た目の違和感が少ない形状のフェンダを提供することができる。
【0013】
本発明の第3の観点によれば、以下のように構成された農用トラクタが提供される。即ち、この農用トラクタは、左右の後輪それぞれに対応して配置されるとともに、左右でベース形状が共通であり、前記後輪の前部及び上部を覆うように構成されたフェンダを備える。前記フェンダの前記ベース形状は、対称線を中心にして前半部と後半部が対称形に形成される。そして、側面視において、キャビンのリヤピラー前面又は安全フレーム前面を通る仮想線と、運転席のステップ上面を通る仮想線と、がなす角の2等分線が、前記対称線と一致するようにして前記フェンダが配置されている。
【0014】
即ち、フェンダのベース形状を前半部と後半部とで対称形となるように構成することにより、車体の左右で同一のベース形状を用いることができる。これにより、金型等の費用を低減し、コストを削減することができる。また、上記のように、リヤピラー又は安全フレームと、ステップと、の関係で対称線の位置を決定することにより、車体の外観との調和性の高い形状のフェンダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るトラクタの全体的な構成を示した左側面図。
【図2】図1のトラクタとは車格が異なるトラクタの左側面図。
【図3】後輪を取り外したトラクタの斜視図。
【図4】後輪を取り外したトラクタの左側面図。
【図5】フェンダのドローパネルの形状を示す側面図。
【図6】(a)左側のフェンダの側面図。(b)右側のフェンダの側面図。
【図7】第1実施形態におけるフェンダの配置を示す模式的な側面図。
【図8】キャビン内の様子を示す斜視図。
【図9】左側のフェンダカバーの側面図。
【図10】ドアガラス等を取り除いた状態のトラクタの左側面図。
【図11】シールプレート近傍の模式的な正面断面図。
【図12】シールプレートの側面図。
【図13】フェンダカバーの取り付け状態を示す斜視図。
【図14】第2実施形態におけるフェンダの配置を示す模式的な側面図。
【図15】第3実施形態におけるフェンダの配置を示す模式的な側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るトラクタ(農用トラクタ)10の左側面図である。
【0017】
図1に示す農作業用の作業車両(作業機)としてのトラクタ10は、プラウ、ハロー、ローダ等の各種装置を必要に応じて装着し、様々な種類の作業を行うことが可能に構成されている。このトラクタ10の前後には前輪14及び後輪15が配置されている。
【0018】
トラクタ10の車体前方には、ボンネット20が配置されている。このボンネット20内にはエンジン19が収容されている。エンジン19は、トラクタ10が備える機体フレーム11に、直接、又は防振部材等を介して支持されている。
【0019】
ボンネット20の後方には、オペレータが搭乗するためのキャビン16が配置されている。このキャビン16の内部には、各種の操作を行うための操作部12と、座席部13と、が備えられている。トラクタ10のオペレータは、前記操作部12を介して、トラクタ10の走行操作等を行うことができる。また、キャビン16は、ドアガラス52と、当該ドアガラス52の縁に沿って取り付けられたウェザーストリップ52aと、を有するドアを左右に有している。
【0020】
キャビン16の後方下部には、後輪15用のフェンダ30が配置されている。また、フェンダ30の上面には、テールランプ17等が組み込まれたフェンダ上部カバー18が配置されている。
【0021】
ところで、本実施形態のトラクタ10は、複数の車格から構成される一連の車種ラインナップの中の1つの車格として設計されている。ここで、前記車種ラインナップとは、機体フレーム11、キャビン16、フェンダ30等の車体の基本構成は共通としつつ、エンジン19の出力等が互いに異なる複数の車格を用意したものである。このように複数の車格を提供することで、消費者の多様なニーズに応えることができる。
【0022】
また、本実施形態のトラクタ10が属している車種ラインナップにおいては、エンジン出力が高い車格ほど、ホイールベースを長くするとともに、取付け可能な後輪の径も大きくなるように構成されている。
【0023】
例えば、図2に、本実施形態のトラクタ10と同じ車種ラインナップに属し、図1のトラクタ10よりも上の車格(エンジン19の出力が高い車種)として設計されたトラクタ90の側面図を示す。
【0024】
図2には、図1のトラクタ10における後輪15の外形輪郭と、車軸23の位置と、が比較のために2点鎖線で示されている。図2から分かるように、トラクタ90は、図1のトラクタ10が備える後輪15よりも径が大きい後輪95を備えている。また、図2のトラクタ90では、後輪95を取り付けるための車軸93の位置が、図1のトラクタ10の場合の車軸23に比べて後下方となるように変更されている。これにより、図1のトラクタ10に比べてホイールベースが拡大するとともに、より径の大きな後輪95を装着することができる。
【0025】
また、前述のように、図2のトラクタ90において、機体フレーム11、キャビン16、フェンダ30等の車体の基本構成は、同一車種ラインナップに属している図1のトラクタ10と共通とされている。このように、車格が異なるトラクタ10,90の間で部品を共通化することにより、コストダウンが実現されている。
【0026】
次に、本実施形態のトラクタ10が備えるフェンダ30の構成について説明する。図3及び図4に、フェンダ30をより良く図示するために、後輪15を取り外した状態のトラクタを示す。図3は後輪15を取り外したトラクタ10を斜め後方から見た斜視図、図4は後輪15を取り外したトラクタ10の側面図である。
【0027】
このフェンダ30は板金製であり、プレス加工により形成されている。また、図3及び図4に示すように、フェンダ30は、後輪15の取付け軸である車軸23から見て前上方に配置されており、これにより後輪15の前方及び上方を覆うように構成されている。なお、図3及び図4には左後輪側のフェンダ30Lが主に図示されているが、右後輪側のフェンダ30Rも同様の構成である。
【0028】
ここで、左右のフェンダ30の形状は互いに略鏡像の関係にある。従って、一般的には、フェンダ30の形状を左右で共通とすることができない。このため、前述のように、従来は左右で別々の金型を用いてフェンダを成形しており、コストアップにつながっていた。
【0029】
そこで、本実施形態のトラクタ10では、左右のフェンダ30でドローパネルの形状を共通とすることができるように、当該フェンダ30の形状を決定している。これにより、ドロー型(ドローパネルを成形するための金型)を左右のフェンダ30で共通とすることが可能となり、車体の製造コストを大幅に削減することができる。
【0030】
なお、ドローパネルとは、プレス成形で形成される中間形状のことである。即ち、一般的なプレス成形は複数のプレス金型を用いた複数工程で行われるものであり、例えば本実施形態のフェンダ30の場合、ドロー型による鉄板の絞り加工を行ってドローパネルを形成した後、このドローパネルに対して、トリム型によるトリム加工、フランジ型による折曲げ加工等を施すことにより、最終形状としてのフェンダ30が完成する。なお、ドローパネルの形状は、左右のフェンダの基礎(ベース)となる形状であるから、「ベース形状」と呼ぶことができる。
【0031】
以下、ドローパネルの形状について、図5を参照して具体的に説明する。図5は、本実施形態のトラクタ10が備えたフェンダ30を成形する途中段階である、ドローパネル31の形状を示す側面図である。
【0032】
このドローパネル31は、図中の対称線32を中心にして、対称形に形成されている(より正確に言えば、図中の対称線32を含み、かつ紙面に対して直交する平面を対称面として、面対称形に形成されている)。ドローパネル31がこのような対称形状となるようにフェンダ30を設計することで、左右のフェンダ30で共通のドローパネルを用いることができる。
【0033】
なお、上記のように形成された対称形のドローパネル31をそのままフェンダ30として用いても良いが、設計上の理由等により、ドローパネル31の形状(ベース形状)のままではフェンダ30として用いることができない場合もある。このような場合は、上記のような対称形のドローパネル31を形成した後、当該ドローパネル31に対して、トリム型によるトリム加工により不要な部分をカットするなど、適宜の加工を行う。なお、ドローパネル31をカットする方法は、トリム型を用いたプレス成形のほか、例えばレーザーカット加工等でも良いのは勿論である。
【0034】
図6に、ドローパネル31がカットされた後の実際のフェンダ30の形状を示す。図6(a)は左側のフェンダ30Lの側面図、図6(b)は右側のフェンダ30Rの側面図である。なお、図には、カットされる前のドローパネル31の輪郭形状が2点鎖線で図示されている。
【0035】
本実施形態の場合、図3及び図4に示すように、フェンダ30の取付位置にはキャビンフレームの一部であるステー22が配置されている。このステー22との干渉を避けるため、図6に示すように、ドローパネル31の一部がカットされて切欠部33が形成されている。また、キャビン16の底面16aとフェンダ30の下端部との間で高さを揃えて外観を向上させるため、図6に示すように、ドローパネル31の下端部が所定長さ34の分だけカットされる。
【0036】
そして、図4の左側面図に示すように、フェンダ30Lが車体に取り付けられた状態においては、側面視で、ドローパネル31の前半部(後輪15の前部を主に覆う部分)と後半部(後輪15の上部を主に覆う部分)とが、対称線32を中心にして対称形となっている。なお、トラクタ10の右側面図は省略するが、右側のフェンダ30Rも同様に車体に取り付けられる。
【0037】
以上のように、本実施形態では、ドローパネル31の形状は左右で共通としつつ、カット等の加工を行うことにより、最終的には左右で異なる形状のフェンダ30となる。このように、最終的なフェンダ30の形状は左右で異なる場合であっても、左右のフェンダ30でドロー型を共通化できているので、大幅なコストダウンを達成することができる。
【0038】
ところで、フェンダ30の設計にあたっては、上述のようなコストダウンの観点も勿論重要であるが、フェンダ30を実際のトラクタに適用した際に見た目が良いことも十分考慮すべきである。
【0039】
フェンダ30の周辺の見た目が美しいと判断できる場合としては、側面視で見たときに、フェンダ30と後輪15との間隔が空き過ぎないこと、後輪15に対してフェンダ30が上下前後に偏っていないこと、フェンダ30の曲率と後輪15の曲率とが大きく異ならないこと、等が考えられるが、何れにしても後輪15とフェンダ30との位置関係が重要である。
【0040】
一方、前述のように、本実施形態のトラクタ10は、一連の車種ラインナップのうちの1つの車格として設計されており、フェンダ30は他の車格のトラクタでも使用される。しかしながら、車格が異なると、後輪15の径や車軸23の位置が異なるため、フェンダ30と後輪15との位置関係が変化し、見た目を損なう車格が生じる可能性がある。
【0041】
ここで、仮に複数の車格それぞれに対して専用のフェンダ30を設計すれば、各車格について、トラクタの見た目の良さを最大限追求することができる。しかしながら、この場合、各車格に応じてフェンダを成形する必要があるため、車格それぞれで専用の金型等が必要となってコストが増大してしまう。このように、各車格に応じて別々の金型が必要であるようでは、ドローパネルを対称形とすることにより左右で共通の金型を使えるようにしたとしても、コスト削減の効果が十分であるとは言えない。
【0042】
即ち、左右でベース形状(ドローパネル形状)を共通とし、かつ、車軸位置や後輪の径が異なる複数の車格でフェンダを共通化しても、見た目の印象が悪くならない形状のフェンダが求められる。
【0043】
そこで、本実施形態では、図7に示すような方法でフェンダ30を設計することとしている。図7は、フェンダ30の配置を示す模式的な側面図である。
【0044】
前述のように、本実施形態のトラクタが属する車種ラインナップにおいては、車格が異なると車軸位置も異なる。図7には、図1の車格のトラクタ10における車軸23の位置と、図2の車格のトラクタ90における車軸93の位置と、が例示されている。また、各車格においては、車軸に取付け可能な後輪の径が決まっている。ここで、図7において、図1の車格のトラクタ10において車軸23に取付け可能な後輪15の最大径と、図2の車格のトラクタ90において車軸93に取付け可能な後輪95の最大径と、をそれぞれ細線の2点鎖線の円で示す。
【0045】
このように車種ラインナップの中で複数の車軸位置が存在する場合、側面視で、それぞれの車軸に取付け可能な最大の後輪を略含有する最小の仮想円を求め、当該仮想円の中心点を求める。すると、この仮想円の中心点は、いわば車種ラインナップの中における後輪の車軸の平均位置のようなものと考えることができる。従って、この中心点を基準にしてフェンダ30を設計することにより、車軸位置が異なる複数の車格のトラクタにおいて、ある程度の見た目の良さを保証することができる。
【0046】
例えば図7の場合においては、車軸23に取付け可能な後輪の最大径を示す円(符号15で示す)と、車軸93に取付け可能な後輪の最大径を示す円(符号95で示す)と、を略含有する最小半径の仮想円100(図中に太線の2点鎖線で示す)を描き、この仮想円100の中心点101を求めている。
【0047】
そして、図7に示すように、側面視で中心点101の位置を通過するようにして、対称線32を決定する。この対称線32に基づいて、フェンダ30の形状及び配置位置が決定される。即ち、ドローパネル形状が対称形に形成されたフェンダ30をトラクタ10の車体に配置した際に、対称線32が仮想円100の中心点101を通過するように、当該フェンダ30及びキャビン16等を設計する。
【0048】
これにより、複数の車格のうち何れにおいても、後輪とフェンダ30との位置関係を適切なものとすることができるため、見た目の違和感が少ないフェンダ30とすることができる。従って、複数の車格でフェンダ30を共通して使用することが可能となり、コストを大幅に削減することができる。また本実施形態では図7に示すように、対称線32が、仮想円100の中心点101から前上方に約45°の角度で引いた線となるように、フェンダ30及びキャビン16等を設計している。これにより、フェンダ30を配置した際に、当該フェンダ30によって後輪の前部及び上部を適切に覆うことができるように構成することができる。
【0049】
なお、上記説明では、フェンダ30のベース形状を左右で共通とする構成を説明したが、ベース形状を左右で共通化してコストを削減するという本発明の観点を更に発展させれば、フェンダ30周りの他の構成についても、ベース形状を左右で共通化することが好ましい。この点、本実施形態のトラクタ10では、フェンダカバー及びシールプレートについても、ベース形状を左右共通としている。以下、具体的に説明する。
【0050】
フェンダカバーについて説明する。フェンダカバー50は、キャビン16内に突出したフェンダ30に対して当該キャビン16の内側から貼り付けられる内装材である。
【0051】
即ち、本実施形態のトラクタ10においては、図3に示したように、フェンダ30がキャビン16に対して一体的に取り付けられている。このフェンダ30の内側はホイールハウスを構成しており、このホイールハウスの部分がキャビン16内に突出している。ホイールハウスがキャビン16内に突出している様子を、図8の斜視図に示す。ここで、板金製のフェンダ30がキャビン16内に露出していると、触れたときの感触や見た目が良くないので、フェンダ30がキャビン16内に突出した部分(前記ホイールハウスの部分)に、内装材としてのフェンダカバー50を貼り付けるものである(図8参照)。これにより、フェンダ30がキャビン16内に直接露出しないようにすることができる。
【0052】
このフェンダカバー50は、クッション性のある素材とされ、例えば真空成形によって左右共通のベース形状が形成される。そして、当該ベース形状をトリム等することにより、左右で別々の形状のフェンダカバー50が形成される。
【0053】
左側のフェンダカバー50の側面図を図9に示す。なお、右側のフェンダカバーの側面図は省略するが、図9に示した左側のフェンダカバー50の鏡像が,右側のフェンダカバーの形状となる。また、図9には、当該左側のフェンダカバー50のベース形状50aが2点鎖線で描かれている。図9に示すように、フェンダカバー50のベース形状50aは、対称線50xを中心として対称形に形成される。従って、上記のフェンダ30のドローパネル31と同様に、左右のフェンダカバー50で共通のベース形状50aを用いることができる。
【0054】
次に、シールプレートについて図10を参照して説明する。図10は、シールプレート51をより良く図示するため、ドアガラス52等を取り除いた状態のトラクタ10を示す側面図である。
【0055】
シールプレート51は板金製とされ、フェンダ30の上面に溶接にて取り付けられる。このシールプレート51は、フェンダ30の上面の曲率に合わせて略円弧状に形成される。また、シールプレート51は、ドアガラス52に対して略平行に形成された当たり面51aを有しており、この当たり面51aが、ドアを閉じたときに当該ドアのウェザーストリップ52aと当接するように構成されている。
【0056】
具体的には、図11の模式的な正面断面図に示すように、シールプレート51は、断面形状が略コ字(U字)状に形成されている。図11に示すように、シールプレート51は、フェンダ30の上面に溶接される溶接部51bと、図11の断面内において前記溶接部51bから略直角に曲げられて上方に延びる垂直部51cと、同じく断面内において垂直部51cから更に略直角に曲げられた水平部51dと、からなっている。また、シールプレート51は、図11の断面において前記コ字の開放端側が車体内側を向くように取り付けられている。そして、前記垂直部51cの車体外側を向く面が、前記当たり面51aを構成している。
【0057】
そして、図11に示すように、ドアを閉じたときに、当該ドアのウェザーストリップ52aと前記当たり面51aとが当接することにより、キャビン16の外側と内側をシールする機能を発揮するように構成されている。
【0058】
シールプレート51の側面図を図12に示す。図12に示すように、シールプレート51は、対称線51xを中心に対称形に形成されている。これにより、左右で共通のシールプレート51を用いることができる。なお、シールプレート51は、左右で同一形状のまま(トリム加工等を行わずに)トラクタ10に取り付けられるので、シールプレート51の形状自体を当該シールプレート51のベース形状として把握することもできる。
【0059】
また、フェンダカバー50とシールプレート51は、当該フェンダカバー50及びシールプレート51の対称線50x,51xが、フェンダ30の対称線32と一致するようにしてトラクタ10の車体に配置されている(図10の側面図参照)。これにより、フェンダカバー50及びシールプレート51を、フェンダ30との見た目の整合性が良好となるように配置することができる。
【0060】
なお本実施形態では、図11に示すように、シールプレート51が形成する前記コ字状の内側に、エアコン用ホース70やワイヤハーネス71等を通すように構成している。これにより、前記エアコン用ホース70やワイヤハーネス71等を、キャビン16内に露出させることなく配索することができる。
【0061】
次に、フェンダカバー50の取り付け構造について簡単に説明する。前述のように、フェンダカバー50はクッション性がある素材とされるため、ある程度の可撓性を有している。従って、フェンダカバー50の剥がれ防止の観点から、当該フェンダカバー50の縁部を押さえ込むようにして当該フェンダカバー50を取り付けることが好ましい。そこで、本実施形態では以下のようにしてフェンダカバー50を取り付けている。
【0062】
以下、図11及び図13を参照して説明する。図13は、フェンダカバー50の取り付け状態をより良く示すため、シールプレートカバー53(後述)を取り外した状態のキャビン内の様子を示す斜視図である。図11及び図13に示すように、シールプレート51の前記コ字の内側には、複数の取付ステー58が溶接等により取り付けられている。一方、フェンダカバー50の縁部の近傍には、スリット状に形成された複数の挿通孔50bが形成されている。この挿通孔50bに対して取付ステー58を挿通させることにより(図13の状態)、フェンダカバー50の位置ズレを防止することができる。
【0063】
そして、このようにしてフェンダカバー50を取付ステー58に取り付けた後は、前記コ字の内側(前記取付ステー58、エアコン用ホース70、ワイヤハーネス71等)がキャビン16内から見えないようにするため、当該コ字の開放部を塞ぐようにして、樹脂製のシールプレートカバー53を取り付ける(図8及び図11参照)。なお、このシールプレートカバー53は、取付ステー58に対して樹脂リベット59等により固定される。このとき、図11に示すように、シールプレートカバー53の下端部53aが、フェンダカバー50の端部を図面上側から押さえ付けるようにして、当該シールプレートカバー53が固定される。これにより、フェンダカバー50の剥がれを防止することができる。
【0064】
また、フェンダカバー50の縁部は、シールプレートカバー53以外の部材によっても押さえ込まれるように構成されている。例えば図13に示すように、フレームカバー55、フロアマット56、レバーガイド57等によってフェンダカバー50の縁部を押さえ込むように、各部材が取り付けられている。これにより、フェンダカバー50の縁部が固定されるとともに、フェンダカバー50の縁部がキャビン16内に露出しないため、当該フェンダカバー50の剥がれを防止することができる。
【0065】
以上で説明したように、第1実施形態のトラクタ10は、後輪の車軸位置及び当該車軸に取付け可能な後輪の径がそれぞれ異なる複数の車格のうち、何れかの車格に属する農用トラクタであって、以下のように構成されている。即ち、このトラクタ10は、左右の後輪15それぞれに対応して配置されるとともに、左右でドローパネル31の形状が共通であり、後輪15の前部及び上部を覆うように構成されたフェンダ30を備える。フェンダ30のドローパネル31の形状は、対称線32を中心にして前半部と後半部が対称形に形成される。そして、側面視において、車格に応じた車軸位置のそれぞれに取り付けられる後輪の最大径を略含有する最小の仮想円100を考えたときに、フェンダ30の対称線32が仮想円100の中心点101を通過するように当該フェンダ30が配置されている。
【0066】
即ち、フェンダ30のドローパネル31の形状が前半部と後半部とで対称形となるように構成することで、車体の左右で同一のドローパネル31を用いることができる。これにより、金型等の費用を低減し、コストを削減することができる。また、上記のように、それぞれの車軸位置における車輪の最大径を略含有する仮想円100の中心点101との関係で対称線32の位置を決定することにより、後輪の径や車軸位置を異ならせても、見た目の違和感が少ない形状のフェンダ30とすることができる。
【0067】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0068】
本実施形態のトラクタは、図1に示すトラクタ10と同様の構成であるが、当該トラクタが属する車種ラインナップの構成が異なる。即ち、本実施形態のトラクタが属する車種ラインナップは、当該車種ラインナップを構成する複数の車格の間でホイールベースを共通とし(即ち、後輪の車軸位置は不変とする)、後輪の径のみを車格に応じて変更する構成である。
【0069】
例えば図14には、車軸23に対して、後輪15やこれよりも径の大きい後輪85が取り付けられる場合の模式的な側面図が示されている。このように車軸23の位置が共通の場合、第1実施形態のように仮想円100の中心点101を求める必要は無く、図14に示すように、側面視で車軸23の位置を対称線32が通過するように、当該対称線32を決定する。そして、この対称線32に基づいて、フェンダ30及びキャビン16等を設計すれば良い。このように構成すれば、後輪の径が異なっても後輪とフェンダ30との位置関係を適切なものとすることができるため、複数の車格の間でフェンダ30を共通化しても見た目の違和感が少ないフェンダ30とすることができる。
【0070】
以上で説明したように、第2実施形態のトラクタは、後輪の車軸位置が共通であるとともに当該後輪の径がそれぞれ異なる複数の車格のうち、何れかの車格に属する農用トラクタであって、以下のように構成されている。即ち、このトラクタは、左右の後輪15それぞれに対応して配置されるとともに、左右でドローパネル31の形状が共通であり、後輪15の前部及び上部を覆うように構成されたフェンダ30を備える。フェンダ30のドローパネル31の形状は、対称線32を中心にして前半部と後半部が対称形に形成される。そして、側面視において、フェンダ30の対称線32が車軸23の位置を通過するように当該フェンダ30が配置されている。
【0071】
上記のように、車軸位置との関係で対称線32の位置を決定することにより、後輪15の径を異ならせても見た目の違和感が少ない形状のフェンダ30とすることができる。
【0072】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
【0073】
即ち、上記の第1及び第2実施形態においては、後輪及び車軸との位置関係に着目してフェンダ30の対称線32を決定していたが、本実施形態ではキャビン16との関係で対称線32を決定している。
【0074】
以下、具体的に説明する。本実施形態のトラクタは第1実施形態のトラクタ10と同様の構成であり、図1に示すように、キャビン16のリヤピラー40を有する。また、キャビン16内の運転席には、ステップ(床面)41が形成されている。
【0075】
このような構成のトラクタの場合、例えば図15の模式的な側面図に示すように、側面視において、リヤピラー40の前面と、ステップ41の上面と、をそれぞれ通る仮想線の交点で形成される内角を二等分する仮想線を前上方に描き、この仮想線を対称線32として採用する。そして、この対称線32に基づいて、フェンダ30及びキャビン16等を設計する。
【0076】
即ち、フェンダ30はキャビン16の後下方に配置されるものであるから、フェンダ30の見た目がキャビン16と調和していることも重要である。この点、上記のようにフェンダ30の形状を決定すれば、キャビン16とフェンダ30とのデザインの調和性を高めることができる。
【0077】
また、キャビンを備えないトラクタであっても、ROPS(Roll−Over Protective Structure)としての安全フレーム(運転席の左右から立ち上がったフレーム。車体の横転時等に運転席のオペレータを保護するためのもの)を備えている場合、上記と同様にして対称線32を決定することができる。即ち、図15の符号40を安全フレームと考えて、対称線32を同様の手順で決定すれば良い。
【0078】
以上で説明したように、この第3実施形態のトラクタは、以下のように構成される。即ち、このトラクタは、左右の後輪それぞれに対応して配置されるとともに、左右でドローパネル31の形状が共通であり、前記後輪の前部及び上部を覆うように構成されたフェンダ30を備える。フェンダ30のドローパネル31の形状は、対称線32を中心にして前半部と後半部が対称形に形成される。そして、側面視において、キャビン16のリヤピラー40前面又は安全フレーム前面を通る仮想線と、運転席のステップ41上面を通る仮想線と、がなす角の2等分線が、前記対称線32と一致するようにして前記フェンダ30が配置されている。
【0079】
即ち、フェンダ30のドローパネル31の形状を前半部と後半部とで対称形となるように構成することにより、車体の左右で同一のドローパネル31を用いることができる。これにより、金型等の費用を低減し、コストを削減することができる。また、上記のように、リヤピラー40又は安全フレームと、ステップ41と、の関係で対称線の位置を決定することにより、車体の外観との調和性の高い形状のフェンダを提供することができる。
【0080】
以上に本発明の好適な実施の形態について説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0081】
上記第1実施形態の説明において、図7では車軸位置が2通りある場合について説明したが、車軸位置が3通り以上ある場合でも同様に、各車軸位置それぞれに取付け可能な後輪の最大径を示す円を描き、当該最大径を示す円を全て含有する最小の仮想円を求めれば良い。
【0082】
上記実施形態では、フェンダをプレス成形する際のドロー型を、左右のフェンダで共通としている。この点、ドロー型の他にも、トリム型、フランジ型、ピアス型等を左右で共通化できる場合は、これらの金型も左右で共通化した方がコストダウンの観点から好ましい。なお、ドローパネルに対して、トリム加工、折曲げ加工、孔空け加工等が行われた場合であっても、当該加工の結果として成形された成形形状が依然として対称線を中心とした対称形である限りは、当該成形形状は、左右それぞれのフェンダの基礎(ベース)となる形状という意味で「ベース形状」と把握することができる。
【0083】
また、上記実施形態では、フェンダ30は板金製としたが、例えば樹脂で形成しても良い。例えばフェンダ30を樹脂の真空成形で成形する場合、当該真空成形で成形される形状を、対称線を中心にした対称形とすることにより、真空成形の型を左右で共通化してコストを削減することができる。なお、このように真空成形で成形した形状も、左右のフェンダの基礎となる形状であるから、「ベース形状」と把握することができる。
【符号の説明】
【0084】
10 トラクタ(農用トラクタ)
15 後輪
16 キャビン
23 車軸
30 フェンダ
31 ドローパネル(ベース形状)
32 対称線
40 リヤピラー
41 ステップ
100 仮想円
101 (仮想円の)中心点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪の車軸位置及び当該車軸に取付け可能な後輪の径がそれぞれ異なる複数の車格のうち、何れかの車格に属する農用トラクタにおいて、
左右の後輪それぞれに対応して配置されるとともに、左右でベース形状が共通であり、前記後輪の前部及び上部を覆うように構成されたフェンダを備え、
前記フェンダの前記ベース形状は、対称線を中心にして前半部と後半部が対称形に形成されるとともに、
側面視において、前記車格に応じた車軸位置のそれぞれに取り付けられる後輪の最大径を略含有する最小の仮想円を考えたときに、前記フェンダの前記対称線が前記仮想円の中心点を通過するように当該フェンダが配置されることを特徴とする農用トラクタ。
【請求項2】
後輪の車軸位置が共通であるとともに当該後輪の径がそれぞれ異なる複数の車格のうち、何れかの車格に属する農用トラクタにおいて、
左右の後輪それぞれに対応して配置されるとともに、左右でベース形状が共通であり、前記後輪の前部及び上部を覆うように構成されたフェンダを備え、
前記フェンダの前記ベース形状は、対称線を中心にして前半部と後半部が対称形に形成されるとともに、
側面視において、前記フェンダの前記対称線が前記車軸位置を通過するように当該フェンダが配置されることを特徴とする農用トラクタ。
【請求項3】
左右の後輪それぞれに対応して配置されるとともに、左右でベース形状が共通であり、前記後輪の前部及び上部を覆うように構成されたフェンダを備え、
前記フェンダの前記ベース形状は、対称線を中心にして前半部と後半部が対称形に形成されるとともに、
側面視において、キャビンのリヤピラー前面又は安全フレーム前面を通る仮想線と、運転席のステップ上面を通る仮想線と、がなす角の2等分線が、前記対称線と一致するようにして前記フェンダが配置されていることを特徴とする農用トラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−264819(P2010−264819A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116469(P2009−116469)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】