説明

農芸作物育成システムおよび農芸作物育成方法

【課題】 農芸作物の植付け前に有害生物に対する除害を環境汚染を引き起こすことなく行うとともに、農芸作物の植付け後も継続して有害生物の繁殖を抑制する。
【解決手段】 農芸作物育成システムは、除害流体生成手段1と、脱酸素水生成手段2とを備えている。前記除害流体生成手段1は、たとえば貫流ボイラ3であり、前記脱酸素水生成手段2は、たとえば気体分離膜式脱酸素装置15である。また、農芸作物育成方法は、土壌34へ除害流体を供給して除害処理する工程と、除害処理された前記土壌34へ脱酸素水を灌水する工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、農芸作物の成長を阻害する有害生物の繁殖を抑制し、農芸作物を健全に育成するための農芸作物育成システムおよび農芸作物育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農芸作物の成長を阻害する有害生物(たとえば、ネコブ線虫やネグサレ線虫等の病害虫,病原菌,雑草,小動物など)を防除するため、植え付け前の土壌を臭化メチルで燻蒸する方法が用いられてきた。しかしながら、臭化メチルは、フロン類とともにオゾン層へ悪影響を与える物質として規制が強化され、「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」に基づき、先進国においては、生産,消費を2005年以降全廃することになっている。このため、臭化メチルに代替する方法への移行が急がれている。
【0003】
そこで、最近では、たとえば特許文献1に記載されているように、水蒸気を土壌へ供給して消毒を行う方法が導入されつつある。この方法は、土壌中に埋設した消毒管へ水蒸気を供給し、消毒管から水蒸気を噴出させることにより、土壌の消毒を行うものである。また、特許文献2に記載されているように、熱水を土壌へ供給して病害虫の防除を行う方法もある。この方法は、土壌中に埋設,あるいは土壌表面に設置した灌水パイプへ所定温度の熱水を供給し、灌水パイプから熱水を噴出させることにより、病害虫の防除を行うものである。これらの方法は、蒸気や熱水の熱を利用して、土壌の除害を行う技術であり、環境中へ化学物質を放散させない安全な技術として認識されている。
【0004】
ところで、水蒸気や熱水で土壌を加熱する方法は、通常、農芸作物が植え付けられる前の土壌に対して適用される。この土壌は、農芸作物の植付け直後においては、防除効果が持続していても、農芸作物の成長とともに、その効果が低減するおそれがあった。たとえば、土壌の加熱が不十分な場合、病害虫の卵や雑草の種子などが完全に死滅せず、有害生物が繁殖する可能性がある。土壌の加熱は、通常、実地データや経験則に基づく温度と時間で処理されるが、有害生物の生息状態は土壌によってさまざまであるため、現実的には有害生物が完全に死滅したか否かを確認することはきわめて困難である。
【0005】
また、たとえば隣接する未処理の土壌から病害虫や小動物が侵入してくる場合,あるいは昆虫や風などによって雑草の種子や病原菌が持ち込まれる場合も有害生物が繁殖する可能性がある。この場合、土壌を再び加熱することは、育成中の農芸作物まで死滅させるおそれがあるため、現実的でない。そこで、農芸作物を植え付けた後においても、その成長を阻害することなく、継続して有害生物の繁殖を抑制する技術が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2001−293066号公報
【特許文献2】特開2004−121235号公報
【0007】
この出願において、「農芸作物」の用語は、穀物類,果菜類,葉菜類,菜根類,果実類,花卉類,花樹類などの農作物および園芸作物を含む意味として用いる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、農芸作物の植付け前に有害生物に対する除害を環境汚染を引き起こすことなく行うとともに、農芸作物の植付け後も継続して有害生物の繁殖を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、除害流体生成手段と、脱酸素水生成手段とを備えたことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記除害流体生成手段が貫流ボイラであり、前記脱酸素水生成手段が気体分離膜式脱酸素装置であることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載の発明は、土壌へ除害流体を供給して除害処理する工程と、除害処理された前記土壌へ脱酸素水を灌水する工程とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、農芸作物の植付け前に有害生物に対する除害を環境汚染を引き起こすことなく行うことができるとともに、農芸作物の植付け後も継続して有害生物の繁殖を抑制することができる。この結果、自然環境に悪影響を与えることなく、健全に農芸作物を成長させることができる。また、脱酸素水によって水分の吸収量を制御することにより、可食部に有用成分を多く含む高品質の農芸作物を生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。この発明に係る農芸作物育成システムは、除害流体生成手段と脱酸素水生成手段とを主に備えている。
【0014】
前記除害流体生成手段は、土壌中に生息する有害生物の除害に使用される除害流体を生成するものであり、通常、加熱流体を生成可能なものである。前記除害流体は、処理後の土壌中に残留した場合や大気中に放散した場合に環境に負荷を与えないことから、水蒸気,温水,加熱空気,加熱不活性ガス(たとえば、加熱された窒素ガスや炭酸ガス等),低級アルコール蒸気(たとえば、メタノールやエタノール等の蒸気)などが好ましい。さらに、この除害流体は、容易,かつ安価に生成でき、また熱量が大きいことから、水蒸気または温水がとくに好ましい。
【0015】
前記除害流体生成手段は、水蒸気を生成させる場合、たとえば貫流ボイラ,水管ボイラ,炉筒煙管ボイラなどを使用することができる。これらのうち、前記貫流ボイラは、ゲージ圧力1MPa以下で使用する貫流ボイラで伝熱面積が5m2以下のもの,いわゆる簡易ボイラの範疇に属するものが取扱資格を必要としないため、とくに好ましい。この種の貫流ボイラは、一般に蒸発量が50〜1000kg/時間の範囲であり、供給対象となる土壌の面積などに応じて必要な能力を備えたものが選択される。
【0016】
また、前記除害流体生成手段は、温水を生成させる場合、貫流ボイラ,無圧式ヒータ,真空式ヒータなどを使用することができる。これらのうち、前記貫流ボイラは、水頭圧1MPa以下で使用する貫流ボイラで伝熱面積が5m2以下のもの,いわゆる簡易ボイラの範疇に属するものが取扱資格を必要としないため、とくに好ましい。一方、無圧式ヒータおよび真空式ヒータも取扱資格を必要としないため、好適である。この種の貫流ボイラおよびヒータは、一般に熱出力が30〜500kwの範囲であり、供給対象となる土壌の面積などに応じて必要な能力を備えたものが選択される。
【0017】
さて、水蒸気を生成させる場合において、前記貫流ボイラは、各種の水処理装置を付帯していることが好ましい。たとえば、この貫流ボイラへの給水ラインには、軟水装置および薬注装置などが接続されていることが好ましい。
【0018】
前記軟水装置は、前記貫流ボイラの伝熱面で難溶性のスケールが生成することを防止するため、陽イオン交換樹脂を使用して給水中のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオ
ンなどの硬度成分を除去して軟水を生成するものであり、前記給水ライン中に配置されている。この軟水装置には、塩水を使用して陽イオン交換樹脂の能力を回復させる再生機構を備えているタイプや、陽イオン交換樹脂の残存能力に応じて本体ごと交換するカートリッジ方式のタイプがあるが、いずれを採用しても差し支えない。
【0019】
前記薬注装置は、前記貫流ボイラの伝熱面における腐食やスケール生成を抑制する水処理剤を給水中へ供給するものであり、通常、前記軟水装置の下流側で前記給水ラインと接続されている。この薬注装置は、前記水処理剤を貯蔵する薬液タンクと、前記水処理剤を前記給水ライン中へ供給する注入ポンプとから構成されている。前記注入ポンプは、一定量の給水に対して所定量の水処理剤を送り出すことができる定量ポンプであり、たとえば液体を吐出するピストンやダイアフラムなどの駆動速度およびストロークを調整して、液体の吐出量を変更可能なものである。
【0020】
前記水処理剤は、たとえばシリカ,アルカリ剤およびスケール抑制剤を含んでいる。この水処理剤において、シリカは、ボイラ水管などの伝熱面に皮膜を形成させ、水分による腐食から保護する目的で配合されている。アルカリ剤は、典型的にはアルカリ金属の水酸化物であり、給水を伝熱面が腐食されにくいpH領域(pH11〜12)に調整する目的で配合されている。一方、スケール抑制剤は、給水中に残留している硬度成分と錯塩を形成可能なキレート剤であり、伝熱面と水の接触面におけるスケール生成を抑制する目的で配合されている。
【0021】
前記したように、前記貫流ボイラが前記軟水装置および前記薬注装置を備えていると、前記貫流ボイラの伝熱面において、腐食やスケール生成を効果的に抑制することができ、安定して水蒸気を供給することができる。
【0022】
ところで、前記除害流体生成手段は、前記貫流ボイラ,前記軟水装置,前記薬注装置および燃焼等の運転状態を制御する制御盤などの各機器が一体的に組み込まれていることが好ましい。たとえば、チャンネル材(形鋼)で台座を形成し、この台座の上に前記各機器を密接して配置し、それぞれを配管や配線で接続した構成が好適である。ここにおいて、前記各機器は、典型的には、幅,奥行き,高さがそれぞれ1〜2m程度の範囲に収まるように配置される。このような構成にすると、前記除害流体生成手段を自走車,あるいは牽引車に搭載することが可能になり、所望の場所へ容易に移動させることができる。さらには、給水配管,燃料配管,除害流体の供給管および電源線などと接続するだけで、直ちに水蒸気や温水の供給を開始することができる。
【0023】
つぎに、前記脱酸素水生成手段は、水中の溶存酸素を低減することが可能であれば、とくにその形態は限定されないが、たとえば気体は透過するが液体は透過しない気体分離膜に対し、この膜の一方の側に被処理水を通水し、他方の側を減圧する気体分離膜式脱酸素装置を使用することができる。また、スプレー塔や充填塔内に被処理水を噴霧するとともに、この塔内を減圧する塔式脱酸素装置,スプレー塔や充填塔内に被処理水を噴霧するとともに、この塔内へ窒素ガスを供給して接触させる窒素置換式脱酸素装置,あるいは加熱脱気装置や超音波脱気装置などを使用することもできる。これらのうち、前記気体分離膜式脱酸素装置は、きわめて溶存酸素濃度の低い処理水(たとえば、水温25℃のとき0.5mg/リットル程度)を生成でき、また取扱いが容易であるため、とくに好ましい。
【0024】
さらに、前記気体分離膜式脱酸素装置は、塔式脱酸素装置や窒素置換式脱酸素装置などに比べてサイズがコンパクト(たとえば、1000リットル/時間の処理能力を有する装置において、幅300mm,奥行き700mm,高さ1100mm程度)であり、前記除害流体生成手段において、前記各機器と同一の台座に配置することも可能である。
【0025】
ここで、前記気体分離膜式脱酸素装置は、気体分離膜モジュールと減圧装置とを主に備えている。前記気体分離膜モジュールは、たとえばポリ−4−メチルペンテンなどを素材とする不均質膜を中空糸膜に形成し、所定の長さに切断した中空糸膜の複数を並行に束ねて筒状ハウジング内に収容したものである。前記筒状ハウジングの両端部において、各中空糸膜どうしの間は、樹脂で封止されており、この封止部分の端面に各中空糸膜の中空部が開口している。
【0026】
また、前記気体分離膜モジュールは、いわゆる内部灌流方式と外部灌流方式とがあるが、いずれを採用してもよい。内部灌流方式は、中空糸膜の内部へ水を供給するとともに、中空糸膜の外部を減圧する方式である。このため、前記封止部分の一方が被処理水の供給口に設定され,かつ前記封止部分の他方が処理水の採取口に設定される。そして、前記筒状ハウジングの胴部に減圧口が設けられる。一方、外部灌流方式は、中空糸膜の外部へ水を供給するとともに、中空糸膜の内部を減圧する方式である。このため、前記筒状ハウジングの胴部において、両端の前記封止部分に近接した部分に、被処理水の供給口と処理水の採取口とがそれぞれ設けられる。そして、前記封止部分の一方が減圧口に設定され,かつ前記封止部分の他方が封鎖される。
【0027】
前記減圧手段は、前記気体分離膜モジュールの減圧口と減圧ラインを介して接続される。この減圧手段には、たとえば水封式真空ポンプ,容積型真空ポンプ,エジェクタ,アスピレーターなどを使用することができる。とくに、この減圧手段の吸気側へ水分が持ち込まれるため、水封式真空ポンプを使用するのが好適である。
【0028】
さて、前記除害流体生成手段および前記脱酸素水生成手段は、灌水管と接続可能に構成されている。具体的には、まず前記除害流体生成手段と前記灌水管とが除害流体供給ラインを介して接続されている。この除害流体供給ラインには、除害流体の供給および遮断を切り替える第一開閉弁が設けられている。一方、前記脱酸素水生成手段と前記灌水管とが脱酸素水供給ラインを介して接続されている。この脱酸素水供給ラインには、脱酸素水の供給および遮断を切り替える第二開閉弁が設けられている。
【0029】
前記灌水管は、多数の小孔を設けた鋼管や合成樹脂製のパイプなどの管材またはチューブ,あるいは透水性のセラミック管などの管材を使用することができる。とくに、加熱流体の供給に耐えるように、80〜200℃程度の耐熱性を有し、加熱により小孔の大きさが容易に変わらない材質であることが好ましい。
【0030】
ここで、前記灌水管は、育成しようとする農芸作物に適した灌水が可能であれば、土壌中の任意の深さに埋設された状態であってもよいし、土壌表面に設置された状態であってもよい。また、複数の灌水管が使用され、それぞれが土壌中に埋設された状態または土壌表面に設置された状態であってもよい。とくに、前記灌水管が土壌中に埋設された状態の場合、灌水された脱酸素水への空気の溶け込み量が少なく、土壌をより低酸素状態に保つことができる。
【0031】
ところで、前記脱酸素水生成手段は、前記除害流体生成手段に備えられていてもよい。たとえば、前記軟水装置の後段に前記気体分離膜式脱酸素装置および給水タンクをこの順で配置し、脱酸素された軟水を前記貫流ボイラへ供給するように構成する。このように構成すると、前記貫流ボイラの伝熱面における腐食をより効果的に抑制することができる。この構成の場合、前記給水タンクと前記灌水管とを脱酸素水供給管を介して接続する。そして、この脱酸素水供給管に、脱酸素水の供給および遮断を切り替える第二開閉弁を設ける。
【0032】
以下、この発明の農芸作物の育成方法について説明する。まず、農芸作物を植え付ける
前の土壌へ除害流体(たとえば、水蒸気や温水)を供給して加熱が行われる。この工程においては、前記第一開閉弁を開状態にするとともに、前記第二開閉弁を閉状態にする。
【0033】
前記貫流ボイラ(前記除害流体生成手段の一例)で水蒸気を生成させる場合、前記給水ラインを介して供給された水道水や地下水など給水は、前記軟水装置内の陽イオン交換樹脂層を通過する際に硬度成分が除去され、軟水になる。この軟水は、前記貫流ボイラへ送られる過程で、必要に応じて前記薬注装置からの水処理剤が混合されたのち、ボイラ水として前記貫流ボイラ内に貯留される。このボイラ水は、前記貫流ボイラ内で加熱されて、水蒸気になる。
【0034】
また、前記貫流ボイラで温水を生成させる場合、前記給水ラインを介して供給された水道水や地下水などの給水は、前記貫流ボイラへ直接送られ、この貫流ボイラ内に貯留される。この給水は、前記貫流ボイラ内で加熱されて、温水になる。
【0035】
前記貫流ボイラで生成された水蒸気または温水は、前記除害流体供給ラインを介して前記灌水管へ供給される。供給された水蒸気または温水は、前記灌水管の前記各小孔から土壌中,あるいは土壌表面へ噴出し、土壌の温度を上昇させる。そして、所定期間(たとえば、数時間〜数十日)この状態を保持することにより、土壌に生息している病害虫およびその卵,病原菌,雑草およびその種子などの有害生物を死滅させる。
【0036】
ここにおいて、土壌を効果的に加熱するため、土壌表面を耐熱シートなどで被覆し、放熱を極力抑制することが好ましい。とくに、前記灌水管が土壌表面に設置されている場合には、大気中へ放熱する割合が大きいため、このような処置を行うと、有害生物をより効果的に死滅させることができる。
【0037】
水蒸気または温水による加熱処理を所定期間実施すると、前記貫流ボイラを停止させ、土壌表面を被覆した前記耐熱シートなどを除去し、土壌が農芸作物の植え付けに適した温度になるまで冷却する。その後、所望の農芸作物(たとえば、トマトやキュウリ)の植え付けを行う。
【0038】
つぎに、加熱処理された土壌へ脱酸素水を使用して灌水が行われる。この灌水は、農作物を植え付けた後に行ってもよいし、植え付けの前から実施してもよい。この工程においては、前記第一開閉弁を閉状態にするとともに、前記第二開閉弁を開状態にする。
【0039】
前記気体分離膜式脱酸素装置(前記脱酸素水生成手段の一例)において、前記気体分離膜モジュールの供給口から水道水や地下水などの被処理水を供給し、前記減圧手段を作動させる。すると、中空糸膜の前記減圧口と連通している側が負圧となり、中空糸膜を介して水中の溶存酸素が除去される。この除去された溶存酸素は、前記減圧ラインを介して前記減圧手段へ吸引され、系外へ排出される。この結果、前記気体分離膜モジュールの採取口から処理水,すなわち脱酸素水が得られる。この脱酸素水は、通常、飽和酸素濃度に対して、溶存酸素濃度が1〜50%程度の範囲に調整される。
【0040】
前記気体分離膜式脱酸素装置で生成した脱酸素水は、前記脱酸素水供給ラインを介して前記灌水管へ供給される。供給された脱酸素水は、前記灌水管の前記各小孔から土壌中,あるいは土壌表面へ流出して灌水される。この脱酸素水が灌水された土壌は、低酸素状態となるため、有害生物が生息しにくく、また病害虫の孵卵,雑草の発芽などが抑制される。また、脱酸素水が灌水された農芸作物の根系は、低酸素状態によるストレスにより水分の吸収量が制御され、可食部に有機酸類,ビタミン類,ミネラル類などの有用成分が高濃度に蓄積されやすくなる。さらに、万一根系で病害が発生した場合、脱酸素水は、非脱酸素水よりも吸収されやすく、農芸作物の成長を促進しやすい。
【0041】
この灌水の頻度は、植え付けられた農芸作物の種類により異なるが、通常、数日〜数週間に1回程度行われる。また、灌水量は、通常、1回あたり24時間で30〜50mm降雨相当量が好ましく、脱酸素水が土壌へ浸透した状態を維持し、土壌表面を流れ出さないように調節されていることがより好ましい。
【0042】
以上説明したように、この発明の実施の形態によれば、農芸作物の植付け前に有害生物に対する除害を環境汚染を引き起こすことなく行うことができるとともに、農芸作物の植付け後も継続して有害生物の繁殖を抑制することができる。この結果、自然環境に悪影響を与えることなく、健全に農芸作物を成長させることができる。また、脱酸素水によって水分の吸収量を制御することにより、可食部に有用成分を多く含む高品質の農芸作物を生産することができる。
【実施例1】
【0043】
以下、この発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明に係る農芸作物育成システムの第一実施例を示す概略構成図であり、除害流体生成手段1と脱酸素水生成手段2とを主に備えている。
【0044】
前記除害流体生成手段1は、給水を加熱して水蒸気を発生する貫流ボイラ3と、この貫流ボイラ3へ給水を供給する給水部4とから構成されている。前記給水部4は、前記貫流ボイラ3へ給水するために、第一給水ライン5と、この第一給水ライン5から供給された給水を貯留する給水タンク6と、この給水タンク6に貯留された給水を前記貫流ボイラ3へ供給する第二給水ライン7とを主に備えている。前記第一給水ライン5は、前記給水タンク6と接続されており、この給水タンク6は、前記貫流ボイラ3と前記第二給水ライン7で接続されている。
【0045】
ここで、前記第一給水ライン5中には、軟水装置8が設けられている。前記軟水装置8は、給水中に含まれるカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンなどの硬度成分を陽イオン交換樹脂を使用してナトリウムイオンに置換する装置であり、前記貫流ボイラ3内で難溶性のスケールが生成することを防止するために設けられている。また、前記第二給水ライン7には、前記給水タンク6内の給水を前記貫流ボイラ3へ送る給水ポンプ9が設けられているとともに、水処理剤を供給する薬注装置10が接続されている。
【0046】
前記薬注装置10は、腐食抑制剤やスケール抑制剤を含む水処理剤を貯蔵する薬液タンク11と、貯蔵された水処理剤を前記第二給水ライン7へ供給するための注入ポンプ12とを主に備えている。具体的には、前記薬液タンク11は、前記第二給水ライン7と薬液供給ライン13で接続されており、この薬液供給ライン13中に前記注入ポンプ12が配置されている。この注入ポンプ12は、駆動パルス間隔などを調整することにより、水処理剤の吐出量を変更可能な電磁定量ポンプである。
【0047】
また、前記貫流ボイラ3には、生成させた水蒸気を系外へ供給する除害流体供給ライン14が接続されている。
【0048】
前記脱酸素水供給手段2は、ここでは気体分離膜式脱酸素装置15であり、不均質中空糸膜がハウジング内に収容された気体分離膜モジュール16と、減圧手段17と、封水タンク18と、熱交換器19とを主に備えている。ここで、前記減圧手段17は、水封式真空ポンプである。
【0049】
前記気体分離膜モジュール16の一次側は、前記第一給水ライン5から分岐された第三給水ライン20と接続されており、二次側は、脱酸素水供給ライン21と接続されている
。前記第三給水ライン20には、前記気体分離膜モジュール16への給水の流れを制御する給水制御弁22が設けられており、前記脱酸素水供給ライン21には、前記熱交換器19が設けられている。また、前記気体分離膜モジュール16の脱気側は、前記減圧手段17の吸気側と真空ライン23で接続されている。
【0050】
前記封水タンク18は、前記減圧手段17の給水側と封水ライン24で接続されている。この封水ライン24は、前記熱交換器19を通り,かつ封水流量調節オリフィス25が設けられている。また、この封水タンク18は、前記減圧手段17の排気側と排気ライン26で接続されている。さらに、この封水タンク18は、前記第三給水ライン20と補水ライン27で接続されているとともに、オーバーフローライン28が接続されている。前記補給水ライン27には、補水流量調節オリフィス29が設けられている。
【0051】
この第一実施例において、前記除害流体供給ライン14および前記脱酸素水供給ライン21は、複数の灌水管30,30,…へ水蒸気または脱酸素水を供給するための分配管31とそれぞれ接続されている。ここで、前記除害流体供給ライン14には、第一開閉弁32が設けられているとともに、前記脱酸素水供給ライン21には、第二開閉弁33が設けられている。
【0052】
前記各灌水管30は、それぞれ土壌34中に埋設されており、地表から数センチ〜数十センチの深さに配置されている。また、これらの各灌水管30には、水蒸気を噴出し、または脱酸素水を流出するために、多数の小孔35,35,…が設けられている。
【0053】
さて、ここで第一実施例に係る農芸作物育成システムを使用した農芸作物育成方法について説明する。
【0054】
この農芸作物育成方法においては、第一段階として農芸作物を植え付ける前の土壌へ水蒸気を供給し、水蒸気の潜熱を利用して病害虫およびその卵,病原菌,雑草およびその種子などの有害生物を死滅させる。この工程では、処理対象に設定した前記土壌34の表面を耐熱シート(図示省略)で被覆しておく。また、前記第一開閉弁32を開状態にするとともに、前記第二開閉弁33を閉状態にする。そして、この状態で前記除害流体生成手段1の運転を行う。
【0055】
前記除害流体生成手段1の運転は、まず前記第一給水ライン5から前記給水タンク6へ給水を供給し、この給水を前記貫流ボイラ3への給水として前記給水タンク6内に貯留する。ここで貯留される給水は、前記軟水装置8で処理された水,すなわち軟水である。また、この給水の原水は、水道水や地下水などの水源から採取されている。つぎに、前記給水ポンプ9を作動させると、前記給水タンク6内に貯留された給水が前記第二給水ライン7を介して前記貫流ボイラ3へ供給される。このとき、前記薬注装置10から水処理剤が給水中へ添加される。
【0056】
前記貫流ボイラ3へ前記第二給水ライン7を介して供給される給水は、ボイラ水として前記貫流ボイラ3内に貯留される。そして、前記貫流ボイラ3内に貯留されたボイラ水は、加熱されて水蒸気になる。生成した水蒸気は、前記除害流体供給ライン14を介して前記分配管31へ送られる。
【0057】
前記分配管31からは、前記各灌水管30に対して水蒸気がそれぞれ分配供給され、この水蒸気が前記各小孔35から前記土壌34中へ噴出する。この土壌34は、前記したように、その表面が前記耐熱シートで被覆されているため、水蒸気を連続して供給することにより、温度が経時的に上昇し、加熱が行われる。
【0058】
水蒸気の供給を所定時間実施すると、前記除害流体生成手段1の運転を停止する。そして、前記土壌34を放冷するため、前記耐熱シートを取り外す。ここにおいて、有害生物をより確実に死滅させるため、前記耐熱シートで被覆した状態をさらに所定時間継続し、前記土壌34を蒸らす工程を追加することも可能である。前記土壌34が十分に冷却されると、所望の農芸作物の植え付けを実施する。
【0059】
つぎに、第二段階として農芸作物の植え付けた土壌へ脱酸素水を灌水しながら、農芸作物の育成を行う。この工程では、前記第一開閉弁32を閉状態にするとともに、前記第二開閉弁33を開状態にする。そして、この状態で灌水を必要とする時期に前記脱酸素水生成手段2の運転を行う。
【0060】
前記脱酸素水生成手段2の運転は、前記給水制御弁22を開状態にし、水道水や地下水などを原水とする給水を前記第三給水ライン20を通じて前記気体分離膜モジュール16へ供給した状態で、前記減圧手段17を作動させる。すると、前記真空ライン23が真空状態となり、給水中の溶存酸素は、不均質中空糸膜を介して前記真空ライン23側へ脱気され、順次前記排気ライン26から排出される。得られた脱酸素水は、前記脱酸素水供給ライン21を介して前記分配管31へ送られる。
【0061】
ここにおいて、前記減圧手段17の封水は、給水の一部が使用される。前記第三給水ライン20から分岐されて採取された給水は、前記補水流量調節オリフィス29で流量調節されながら前記補水ライン27を流れ、前記封水タンク18に封水として貯留される。前記減圧手段17の作動中は、前記封水タンク18に貯留された封水が、前記封水流量調節オリフィス25で流量調節されながら前記封水ライン24を流れ、前記減圧手段17へ引き込まれる。そして、この減圧手段17で封水は、前記真空ライン23から持ち込まれた水蒸気や水分とともに前記排気ライン26から排出され、前記封水タンク18へ還流する。
【0062】
前記封水ライン24を流れる封水は、前記熱交換器19において脱酸素水と熱交換される。これは前記減圧手段17において、封水が温度上昇して飽和蒸気圧が高くなり、排気速度の減少とともに到達圧力が低下することを抑制するためである。また、前記封水タンク18では、新たに補給される給水および前記真空ライン23から持ち込まれる水分の量に応じた封水が前記オーバーフローライン28から系外へ廃棄されるようになっている。
【0063】
さて、前記分配管31からは、前記各灌水管30に対して脱酸素水がそれぞれ分配供給され、この脱酸素水が前記各小孔35から前記土壌34中へ流出する。灌水された脱酸素水は、農芸作物に吸収されてその成長に関わるとともに、前記土壌34を湿潤させ、低酸素状態に維持する作用を有する。この結果、脱酸素水が灌水された前記土壌34では、有害生物の繁殖が抑制されるとともに、有機酸類,ビタミン類,ミネラル類などの有用成分を多く含み、形や色,あるいは肉付きや呈味などが良好な農芸作物が生産される。
【実施例2】
【0064】
つぎに、この発明の第二実施例について説明する。図2は、この発明に係る農芸作物育成システムの第二実施例を示す概略構成図である。図2において、前記第一実施例と同一の符号は、同一の部材を示しており、その詳細な説明は省略する。
【0065】
この第二実施例において、前記脱酸素水供給手段2である気体分離膜式脱酸素装置15は、前記第一給水ライン5において、前記軟水装置8の後段に配置されている。すなわち、脱酸素された軟水が前記給水タンク6に貯留されるように構成されている。また、この給水タンク6は、前記分配管31と脱酸素水供給ライン21を介して接続されている。この脱酸素水供給ライン21には、送水ポンプ36が設けられている。
【0066】
さて、ここで第二実施例に係る農芸作物育成システムを使用した農芸作物育成方法について説明する。
【0067】
この農芸作物育成方法においては、第一段階として農芸作物を植え付ける前の土壌へ水蒸気を供給し、水蒸気の潜熱を利用して有害生物を死滅させる。この工程では、第一実施例と同じく、処理対象に設定した前記土壌34の表面を耐熱シート(図示省略)で被覆しておく。また、前記第一開閉弁32を開状態にするとともに、前記第二開閉弁33を閉状態にする。そして、この状態で前記除害流体生成手段1の運転を行う。
【0068】
前記除害流体生成手段1の運転は、まず前記第一給水ライン5から前記給水タンク6へ給水を供給し、この給水を前記貫流ボイラ3への給水として前記給水タンク6内に貯留する。ここで貯留される給水は、前記軟水装置8および前記気体分離膜式脱酸素装置15で処理された水,すなわち脱酸素された軟水である。前記給水ポンプ9を作動させると、前記給水タンク6内に貯留された給水が前記第二給水ライン7を介して前記貫流ボイラ3へ供給される。このとき、前記薬注装置10から水処理剤が給水中へ添加される。
【0069】
前記貫流ボイラ3へ前記第二給水ライン7を介して供給される給水は、ボイラ水として前記貫流ボイラ3内に貯留される。そして、前記貫流ボイラ3内に貯留されたボイラ水は、加熱されて水蒸気になる。生成した水蒸気は、前記除害流体供給ライン14を介して前記分配管31へ送られる。
【0070】
前記分配管31からは、前記各灌水管30に対して水蒸気がそれぞれ分配供給され、この水蒸気が前記各小孔35から前記土壌34中へ噴出する。そして、前記第一実施例と同様に、水蒸気の供給を所定時間実施し、前記土壌34の加熱処理を行う。
【0071】
つぎに、第二段階として農芸作物の植え付けた土壌へ脱酸素水を灌水しながら、農芸作物の育成を行う。この工程では、前記第一開閉弁32を閉状態にするとともに、前記第二開閉弁33を開状態にする。そして、この状態で灌水を必要とする時期に前記軟水装置8および前記気体分離膜式脱酸素装置15を運転させる。得られた脱酸素された軟水は、前記給水タンク6に貯留される。
【0072】
ここで、前記軟水装置8および前記気体分離膜式脱酸素装置15の運転に同期させて、前記送水ポンプ36を作動させると、前記給水タンク6内に貯留されている水は、前記脱酸素水供給ライン21を介して前記分配管31へ送られる。
【0073】
前記分配管31からは、前記各灌水管30に対して脱酸素された軟水がそれぞれ分配供給され、この水が前記各小孔35から前記土壌34中へ流出する。灌水された脱酸素された軟水は、農芸作物に吸収されてその成長に関わるとともに、前記土壌34を湿潤させ、低酸素状態に維持する。この結果、脱酸素された軟水が灌水された前記土壌34では、有害生物の繁殖が抑制されるとともに、品質が良好な農芸作物が生産される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】この発明の第一実施例の概略構成図。
【図2】この発明の第二実施例の概略構成図。
【符号の説明】
【0075】
1 除害流体生成手段
2 脱酸素水生成手段
3 貫流ボイラ
15 気体分離膜式脱酸素装置
34 土壌

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除害流体生成手段1と、
脱酸素水生成手段2とを備えたことを特徴とする農芸作物育成システム。
【請求項2】
前記除害流体生成手段1が貫流ボイラ3であり、
前記脱酸素水生成手段2が気体分離膜式脱酸素装置15であることを特徴とする請求項1に記載の農芸作物育成システム。
【請求項3】
土壌34へ除害流体を供給して除害処理する工程と、
除害処理された前記土壌34へ脱酸素水を灌水する工程とを含むことを特徴とする農芸作物育成方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−34202(P2006−34202A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221045(P2004−221045)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【出願人】(504143522)株式会社三浦プロテック (488)
【Fターム(参考)】