説明

近接場光発生装置、近接場光発生方法及び情報記録再生装置

【課題】表面プラズモンを発生する散乱体において不要な近接場光の影響を抑え、近接場光を発生する領域の形状を制御性良く製造できる構成とする。
【解決手段】光源101と、光源101からの光を照射して近接場光を発生させる導電性の散乱体10とを備える。散乱体10を、光透過性の基体1上に設けられた高さの異なる面に跨って形成して、基体1上の、近接場光が照射される被照射体50に最も近接する面に形成された第1の領域とこの第1の領域よりも被照射体から離間する面に形成された第2の領域とを備える。散乱体の第1の領域から被照射体に対し近接場光Lnsを発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性材料より成る散乱体に光を照射して近接場光を発生する近接場光発生装置、近接場光発生方法及び情報記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年磁気記録技術は高密度化が進み、より高い保磁力を有する高密度記録が可能な磁気記録膜に対する記録方式の開発が望まれている。その有望な手法として、記録領域に局所的に光を照射して磁気記録膜の保磁力を局所的に低下させ、これにより磁気ヘッドでの記録が可能となる熱アシスト磁気記録(光アシスト磁気記録ともいう)が注目されている。この熱アシスト磁気記録において高密度磁気記録を達成するためには、集光スポットサイズをより小さくする必要がある。光の回折限界を超えた微小な集光スポットを実現する手法として、近接場光利用する技術が種々提案されており、例えば金属の散乱体による表面プラズモン共鳴を利用する方法がある。このように金属の散乱体を用いる場合、近接場光を照射するスポットの大きさや集光効率に散乱体の形状が大きく影響する。このため、実用的で且つ効率よく近接場光の発生が可能な散乱体の形状について様々な検討がなされている。
【0003】
金属の散乱体による表面プラズモン共鳴現象を利用して微小な集光スポットを実現する方法について、図51を用いて説明する。図51に示すように、一般的には光透過性の材料より成る基板401の平坦な表面上に、導電性の金属による棒状の散乱体410が形成される。散乱体410の長手方向と照射される光の偏光方向を合わせて配置し、且つ散乱体410の長手方向の長さを表面プラズモンが励起される条件に合わせて適切に選定することによって、表面プラズモンを励起することができる。
【0004】
このように適切な条件に合わせて配置構成した散乱体410に対して基板401側から光Liを照射すると、図52に示すように、散乱体410の入射光Liが照射される面である受光面410dと、その受光面410dと反対側の面であり、近接場光の被照射体450に対向する表面である発光面410eにおいて、入射光Liの電界によって電荷の偏りが生じる。この電荷の偏りの振動が表面プラズモンであり、表面プラズモンの共鳴波長と入射光の波長が一致すると表面プラズモン共鳴と呼ばれる共振状態となり、散乱体410は偏光方向に対して強く分極した電気双極子となる。電気双極子となると散乱体410の長手方向両端近傍に大きな電磁界が生じ、近接場光Lnが発生する。図52に示すように、近接場光Lnは散乱体410の受光面410d及び発光面410eの両方に発生するが、周囲の構造体の材料や形状が違うとそれぞれの最適共鳴波長は異なる。情報記録媒体等の被照射体450への近接場光の照射を考える場合、発光面410eにおける近接場光が強くなるように、その形状を調整するとよい。
【0005】
このように調整された散乱体410においては、強い近接場光を小径スポットで作り出すことが可能であるが、双極子である性質上、近接場光の発生箇所が2箇所となってしまい、不必要な箇所にも近接場光を照射してしまうという問題がある。熱アシスト磁気記録において、不必要な箇所に近接場光を照射してしまうことは、例えばその箇所に磁気記録済みのマークが存在した場合、熱減磁によって記録保持寿命を縮めてしまうこととなり、信頼性に大きな影響を及ぼす。
【0006】
そこでこのような問題を解決するために、近接場光が発生する頂点以外の部分の表面を近接場のしみ出し深さ以上となるようにエッチング等によって削る方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
また、磁気ヘッドと光ヘッドの集積化を図る技術として、導体に狭窄部を設けることによって、近接場光を発生させる箇所と、磁界を発生させる箇所が同じ位置となるような方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−151046号公報
【特許文献2】特開2004−303299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の技術においては、上述したような散乱体の形状、すなわち近接場光発生領域以外の部分を近接場のしみ出し深さ以上に削る手段として、イオンミリングやRIEなどの異方性エッチングを用いて斜めに削るという手法が採られ、近接場光が発生する頂点はこのようなエッチング工程において基板の影となることで形成される。この場合、散乱体の先端形状が鋭角に尖っている性質上、エッチングの異方性が悪いと、頂点が基体表面の高さとずれる恐れがあり、その結果、記録媒体等の被照射体と散乱体の先端部との距離がばらつく可能性がある。
また、この場合の近接場光の強度と発生箇所からの距離の関係を図53に示す。解析に用いた散乱体のモデル形状は、図54に示すとおり、厚さ一定の散乱体410がガラスより成る基板401上に形成されている場合とし、解析手法はFDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いて求めた。図53から明らかなように、近接場光の強度は距離に対して指数関数的に減少するため、距離が数nm変化しただけでも強度が大きく変化することが分かる。このように、散乱体の近接場光が発生する箇所において高さにばらつきが生じると、近接場光発生装置としての歩留まりに大きな影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
また、上記特許文献1には、近接場光発生領域近傍の散乱体表面を階段状に削る方法も提案されているが、上述したような熱アシスト磁気記録に用いるヘッドとして高精度の分解能をもつには、階段部分の削る量を、深さ方向に対して数nmのオーダーで制御する必要がある。このようなナノオーダーのエッチングを歩留まり良く形成することは容易ではなく、その実現の方法として選択エッチングを用いる手法が上記特許文献1に挙げられているが、散乱体を2種類の材料で構成する必要があるため、コスト高を招来する要因となる。
更に、上記特許文献1では不要な近接場光が発生する箇所を削ることによって、しみ出し深さ以上に被照射体から離れるようにしてその影響を少なくしている。この場合、散乱体の長手方向と被照射体が平行に配置される構造であるときは、必要な近接場光の発生箇所の厚さは、不要な近接場光が発生する領域と比べて厚くなる。このように、近接場光を照射する領域の厚さが他の領域と比較して厚い場合は、効率良く近接場光を発生することができず、十分な強度が得られないという問題がある。
【0009】
熱アシスト磁気記録を行う際には磁気ヘッドとの親和性が重要である。磁気ヘッドと光ヘッドの相対的な位置合わせは正確さが要求され、高速な書き込みには急速な加熱と冷却が必要になると考えられることから、磁気ヘッドと光ヘッドは近接して配置する必要があるが、これらの具体的な手法については上記特許文献1には示されていない。
上記特許文献2においては、磁気ヘッドと光ヘッドとを組み合わせる手法として、導体に狭窄部を設けることによって、近接場光を発生させる箇所と、磁界を発生させる箇所が同じ位置となるような方法が提案されている。しかしながら狭窄部において効率よく表面プラズモンを励起するには導体の厚さを入射光の波長以下とする必要があること、また磁界を強めるには狭窄部の幅を1μm以下にする必要があるため、いずれも狭窄部の電気抵抗率が上がる構造となってしまい、過熱等により破壊される可能性が出てくる。よって、上記特許文献2に記載の構造では、十分な強度の近接場光と大きな磁界の発生を両立することが難しいという問題がある。
【0010】
以上の問題に鑑みて、本発明は、表面プラズモンを発生する散乱体における不要な近接場光の影響を抑えるとともに、近接場光を発生する領域の形状を制御性良く製造し得る構成の近接場光発生装置及び近接場光発生方法を提供することを目的とする。
また、これを利用することにより、効率よく近接場光を発生することができて、且つ磁界発生部との組み合わせの容易な情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明による近接場光発生装置は、光源と、光源からの光を照射されることによって近接場光を発生させる導電性の散乱体とを備える。散乱体を、光透過性の基体上に設けられた高さの異なる面に跨って形成して、基体上の、近接場光が照射される被照射体に最も近接する面に形成された第1の領域と、この第1の領域よりも被照射体から離間する面に形成された第2の領域とを備える。散乱体の第1の領域から、被照射体に対し近接場光を発生する構成とする。
【0012】
また、本発明の近接場光発生方法は、散乱体を、光透過性の基体上に設けられた高さの異なる面に跨って被着された形状とし、この基体の最も高い面に形成された領域のみを、被照射体の表面に対して近接場光のしみ出し長以下に近接させて近接場光を照射する。
【0013】
上述の本発明の近接場光発生装置及び近接場光発生方法によれば、基体に段差を設けてその上に所望のパターンの散乱体を形成するのみの簡単な製造方法によって、近接場光を発生させる領域のみが被照射体に近接し、不要な近接場光を発生させる領域は被照射体から離間する形状とされた散乱体を、容易に制御性良く製造することができる。
【0014】
また、本発明の近接場光発生装置において、散乱体の第1の領域の少なくとも一部を平坦面として、被照射体の表面に対してこの平坦面が略平行に配置された状態で近接場光を発生する構成とすることが望ましい。
このような構成とすることによって、被照射体と近接場光が発生する第1の領域との間隔のばらつきを抑えることが容易な構造とすることができる。
【0015】
更に、本発明の近接場光発生装置において、散乱体を、第1の領域の厚さh1に対し、第1の領域から最も離間する第2の領域の厚さh2を、
h1≦h2 ・・・(1)
の関係として形成することが望ましい。
本発明者等の鋭意考察研究の結果、散乱体の基体側表面の表面プラズモンと被照射体側表面の表面プラズモンとの結合により、厚さが変化する散乱体においてはその厚さが薄い部分での近接場光の強度が大きくなるという現象が明らかになった。このため、散乱体の不要な近接場光が発生する領域を薄くするよりは、厚さを一定とすることが望ましく、更に、近接場光を発生させる領域の厚さを他の領域よりも薄くすることがより望ましいことが分かる。このため、本発明においては、上記式(1)の関係として散乱体を構成するものであり、より確実に、効率を損なうことなく近接場光を発生させることが可能である。
【0016】
また、本発明による情報記録再生装置は、光源と、情報記録媒体と対向する散乱体と、散乱体に光源からの出射光を導く機能を有する光学系とを有し、散乱体から発生する近接場光を情報記録媒体の所定位置に照射して記録を行う。そして、散乱体を、光透過性の基体上に設けられた高さの異なる面に跨って形成して、基体上の、情報記録媒体に最も近接する面に形成された第1の領域と、この第1の領域よりも情報記録媒体から離間する面に形成された第2の領域とを備える構成とする。そして、散乱体の第1の領域から、情報記録媒体の所定位置に対し近接場光を発生する構成とする。
【0017】
上述の本発明の情報記録再生装置によれば、本発明構成の近接場光発生装置を用いる構成とすることから、近接場光を発生させる領域のみが被照射体に近接し、不要な近接場光を発生させる領域は被照射体から離間する形状とされた散乱体を、容易に制御性良く製造することができる。これにより、効率よく近接場光を発生することができて、且つ磁界発生部との組み合わせ構成の容易な情報記録再生装置を提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の近接場光発生装置及び近接場光発生方法によれば、表面プラズモンを発生する散乱体における不要な近接場光の影響を抑えると共に、近接場光を発生する領域の形状を制御性良く製造することができる。
本発明の情報記録再生装置によれば、効率よく近接場光を発生することができて、且つ磁界発生部との組み合わせ構成を容易な構成とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明を実施するための最良の形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の要部の概略斜視構成図を図1に示す。図1に示すように、本発明の近接場光発生装置の散乱体10は、光透過性の基体1上に設けられた高さの異なる面に跨って例えば棒状に形成して、基体1上の、近接場光が照射される被照射体に最も近接する面に形成された第1の領域11と、この第1の領域11よりも被照射体から離間する面に形成された第2の領域12とを備える。本発明の散乱体10は、入射光を受けた際に散乱体10の情報記録媒体等の被照射体側を臨む面において、表面プラズモンが励起されるようにその長手方向の長さが適切に選定される。このような構成は、基体1上に、予め適切な高低差を設けておき、その上に金属より成る散乱体10を所定のパターンに形成することによって、容易に形成することができる。図1に示す例においては、第1の領域11の少なくとも一部が平坦面となるように構成される場合を示す。
【0020】
図2においては、この散乱体10を、近接場光を照射する被照射体50と対向させた状態の概略側面構成図を示す。図2に示すように、散乱体10の第1の領域11の平坦面を被照射体50の表面と略平行に対向させて近接場光Lnを発生させる。このとき、第1及び第2の領域11及び12の被照射体50との距離D1及びD2は、D1<D2となる。ここで、距離D2が近接場光のしみ出し深さ以上、より好ましくはしみ出し深さを超える距離となるように、基体1に予め形成する高低差を設けて形成することによって、被照射体50に近接場光が到達しない構成とすることができる。ここで近接場光のしみ出し深さとは光強度が散乱体表面での1/2となる距離と定義する。
【0021】
図3に、このような構成とした散乱体10を備える本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置100の一例の概略構成図を示す。光源101から出射される光が、例えばコリメータレンズ102によって平行光とされ、光学レンズ等の集光素子103によって、基体1の背面側から散乱体10に照射される。このとき、入射光の偏光方向が散乱体10の長手方向と略一致するように、配置構成する。このような構成とすることによって、散乱体10の第1の領域11から、被照射体50に対し近接場光Lnsを発生させる。散乱体10の第2の領域12においても、表面プラズモンの励起により近接場光が発生するが、被照射体50に対して第1の領域11よりも離間しており、上述したようにその距離が近接場光のしみ出し深さ以上となるように構成するため、不要な近接場光の影響を抑制ないしは回避することができ、良好な記録特性を保持することが可能である。
【0022】
また、この実施形態例においては、散乱体10の近接場光が発生する第1の領域11の平坦面が、情報記録媒体等の被照射体50の表面と略平行となるように配置され、この状態で近接場光が発生される構成としている。平坦面を形成することは製造上容易であり、精度良く平面性を保持することができる。しかもこの場合、近接場光が発生する第1の領域11と被照射体50との距離は面と面との距離で定義されるため、精度良くその間隔を制御し、近接場光照射時に適切な間隔を保持することが可能となる。すなわち、製造上でも制御面においても、近接場光を発生する第1の領域11と被照射体50との間隔を一定に保持し易くすることができる。被照射体50に向かって鋭角の頂角をもつ形状とする場合と比較すると、製造面や制御性のみではなく、情報記録再生装置に適用する場合はS/N比、距離に対するマーク形状の安定性の面でも優れた性能を実現できる。
【0023】
この散乱体10の近接場光を発生する第1の領域11の面積は、小さくなるほど強度の強い近接場光を発生させることができるため、被照射体50側を臨む面全体の半分以下の面積となるようにすることが望ましい。
また、このように近接場光を照射する際には、第1の領域11の平坦面と、被照射体50の表面とを略平行に保持することが望ましいが、平行状態から数度以上、例えば10度程度ずれていてもよい。実用的にはその許容角度範囲は用途によって異なるが、例えば情報記録再生装置に用いる場合においては、記録マークの大きさや記録トラック間の距離、また設定される散乱体10と情報記録媒体との間隔などの条件によって、適宜選定することが望ましい。
更に、近接場光を発生する第1の領域11の平面形状及び大きさは、近接場光のスポット形状に反映されるため、所望のスポット形状に応じて平面形状及び大きさを選定することが望ましい。
【0024】
S/N比について比較評価を行った結果を以下に示す。ここでは、図4に示すように、情報記録媒体として用いる被照射体50に記録用として照射する近接場光Lnsを信号光とし、それ以外の不要な近接場光Lneをノイズ光と考え、図5に示すように、それらの強度ピーク値a1、a2の比(a1/a2)をS/N比として評価した。図5において横軸は、図4中矢印tで示す線方向の位置を示す。
散乱体としては、近接場光を発生する領域の形状が異なる実施形態例及び比較例について解析を行った。散乱体の平面形状を図6に、側面形状を図7A及びBにそれぞれ示す。実施形態例及び比較例共に、図6に示すように棒状の平面形状とし、その幅をw、長さをlとすると、各例共にw=24nm、l=100nmとした。また、図7A及びBに示すように、近接場光を照射する領域である一方の端部(実施形態例においては第1の領域11)の厚さをh1、他方の端部(実施形態例においては第2の領域12)の厚さをh2とし、各領域の高低差をgとすると、各例共にh1=h2=30nm、g=20nmとした。また、実施形態例の段差12S及び比較例の傾斜面の被照射体側の表面の角度をθ1、裏面側の角度をθ2とすると、各例共に、θ1=θ2=45°とした。近接場光を照射する領域の長手方向の長さをaとすると、実施形態例においてはa=10nm、比較例においてはa=0として構成した。すなわち、比較例においては、被照射体に向かって鋭角状となる頂角をもつ形状とした。尚、各例共に基体の材料をSiO、散乱体10及び210の材料をAu、また情報記録媒体の記録膜の材料をTbFeCoとし、光源の光の波長は780nmとして検討した。
【0025】
上述の実施形態例及び比較例の散乱体について、その近接場光を発生する領域と情報記録媒体との距離を変えながら、情報記録媒体の表面における強度分布をFDTD法にて解析し、S/N比を求めた。図8において、比較例の結果を破線b1、実施形態例の結果を実線b2として示す。どの距離においても近接場光の発生する領域が平面形状である実施形態例のほうが高いS/N比が得られていることが分かる。
従来は、S/N比を向上させるための方法として、不要な近接場光が発生する領域を情報記録媒体から離間させることのみ考慮されていたが、この結果から、同じS/N比を実現するために情報記録媒体から離間させる距離は、必要な近接場光を発生する領域が平面形状とされる実施形態例の方がより短いということが分かる。よって、基体に設ける段差の高低差を少なくすることができ、すなわちエッチング等の処理時間を短くできるため、実施形態例のほうが比較例よりも生産性に優れているといえる。
【0026】
次に、磁気記録方式の情報記録再生装置に適用する場合を想定して、磁気記録マークサイズの安定性について評価を行った結果を示す。ここでは簡易的に、光強度がある閾値を超えた箇所において磁気記録マークが形成可能となると考えて解析を行った。図9に示すように、近接場光が発生する領域と、情報記録媒体との間の距離が変化すると、情報記録媒体の表面における光強度分布が変化する。図9において実線c1、c2及びc3はそれぞれ情報記録媒体と散乱体の近接場光が発生する領域の間隔が8nm、10nm、12nmの場合を示す。近接場光が発生する領域の形状によって、この変化の度合いも変わるため、マークサイズの変化量としてその違いを評価した。散乱体としては、上述の図6及び図7に示す実施形態例及び比較例を使用し、記録マークの形成閾値は、近接場光が発生する領域と情報記録媒体との距離が10nmの時の光強度分布ピーク値の半分とした。図10にこの結果を示す。図10においては、横軸を情報記録媒体との間隔とし、縦軸を線方向(記録トラックに沿う方向)のマークサイズの変化量とし、比較例の結果を破線d1、実施形態例の結果を実線d2として示す。図10から明らかなように、近接場光を照射する領域が平面形状である実施形態例のほうが変動率は低くなる。すなわち、実施形態例のほうが、より記録マークサイズの安定した記録が可能であるといえる。
【0027】
これは、以下の理由によるものと思われる。図11A及びBにおいては、比較例及び実施形態例における電荷の分布及びこの電荷の分布によって生じる電気力線を模式的に示す。図11Aに示すように、比較例においては、鋭角の頂点形状であるため、その頂点に接した傾斜面に電荷の偏りが分布する。一方、実施形態例の場合は、平面内に主な電荷の偏りが分布する。電気力線は電荷の偏りが存在する面から放射状に伸びていくため、情報記録媒体50の表面上では、比較例の場合は電気力線の密度が比較的疎となり、実施形態例の場合は電気力線の密度が比較的密となることが分かる。光の強度は電気力線の密度に比例するため、結果的に、近接場光を照射する領域が平面状である方が、より狭い領域に光を集光し易いことが分かる。
この電気力線の広がり具合について別の観点から評価を行った結果を次に示す。図12に示すような強度分布をしたスポットに対して、その強度ピーク値の半分(矢印e2で示す)となる領域の幅(矢印e1で示す)をFWHM(Full Width at Half Maximum、半値全幅)、強度ピーク値の1/e(矢印e4で示す)となる領域の幅(矢印e3で示す)を1/e強度幅としたとき、
(1/e強度幅)÷(FWHM)=(広がり量)
と定義し、前述の図6及び図7に示す比較例及び実施形態例について解析を行った。この結果を図13に示す。
上記定義から、広がり量が小さく100%に近いほど、強度分布が急峻な形状であり、理想的にはステップ形状(すなわち広がり量が100%)であることが望ましい。例えば熱アシスト磁気記録を行う際には、照射領域の選択性に優れ、急速な加熱・冷却が可能となる。図13から示すように、破線f1で示す比較例の結果よりも、実線f2で示す実施形態例のほうが、この点において優れていることが明らかである。
【0028】
本発明の近接場光発生装置においてより強い近接場光を発生させたい場合は、散乱体を、近接場光を発生する第1の領域の先端部に向かって徐々に幅が狭くなる形状にすればよい。また第2の領域における不要な近接場光の強度を下げたい場合は、第2の領域の平面形状が鋭角な部分のない形状とすることが望ましい。これは、徐々に幅狭となって鋭角形状となる部分に電荷が集中し、電気力線の密度が大となることによる。
【0029】
また、散乱体の厚さ方向の断面形状においては、厚さが薄い領域の方が近接場光の強度が大きくなる。したがって、本発明の近接場光発生装置においては、散乱体の近接場光を発生する第1の領域の厚さh1を、第2の領域の特に端部の厚さh1以下とすること、すなわち上記式(1)に示すように、h1≦h2とすることが望ましい。不要な近接場光が発生する散乱体の一端の厚さが薄くなっている形状の比較例による散乱体の概略側面図を図14Aに示す。この散乱体220は、近接場光を発生する第1の領域221は平坦面とされるが、不要な近接場光を発生する第2の領域222の厚さが、第1の領域221よりも薄くなる形状とした場合を示す。このとき、厚さが比較的厚い第1の領域221における上面と下面間での矢印g1で示す表面プラズモンの結合と比較して、厚さの比較的薄い第2の領域222では、上面と下面間での表面プラズモンの結合が矢印g2で示すように強くなり、近接場光の強度が大きくなる。この結果、第1及び第2の領域221及び222の出力の比であるS/N比が悪くなってしまうという問題がある。これに対して、図14Bに示すように、本発明の実施形態例に係る散乱体10においては、第2の領域12の厚さを第1の領域11の厚さより薄くしないので、不要な近接場光の強度を抑え、S/N比の低下を回避することができる。これについて、図15に示す形状の散乱体220を比較例として、FDTD法によるS/N比の比較を行った。
【0030】
この場合、図6及び図7Aに示す実施形態例に対して、図15に示す比較例による散乱体220では、長手方向の長さl及び幅w、また上面側の斜面の角度θ1、第2の領域の端部の厚さh2、第1の領域の長手方向の長さa、第1及び第2の領域の高低差gを同じ条件とした。すなわち、各例共に、
l=95nm
w=24nm
θ1=45°
h2=30nm
a=10nm
g=20nm
とした。また、基体の材料は共にSiOとし、散乱体の材料も共に金、情報記録媒体の記録膜の材料も共にTbFeCoとして、光源の光の波長も同様に各例共に780nmとした。
一方、第1の領域の端部の厚さh1は、比較例の散乱体220においてはh1=50nm(すなわちh1>h2)、実施形態例の散乱体10においてはh1=30nm(すなわちh1=h2)、また下面は比較例の散乱体220は平坦面とし、実施形態例においては、段差部の傾斜角度θ2をθ2=45°とした。
実施形態例及び比較例において強度分布のピーク値、強度分布のFWHMについてはほぼ同じ値となったが、S/N比については比較例においては30倍、実施形態例においては49倍という値が得られ、第1の領域の厚さを第2の領域と比較して厚くしない実施形態例の方が、S/N比が良好であることが確認できる。
【0031】
実際の製造工程を考慮すると、基体の高低差の変化を設けた付近では金属を積層する過程によって他の部分と厚さが異なる可能性があるが、散乱体の中央付近での厚さの変化はS/N比に大きな影響を及ぼさない。これは、散乱体を電気双極子として考えると、大きな電荷の偏りが生じるのは、散乱体に入射する光の偏光方向に対する両端部であり、そこでの厚さが重要なためである。つまり、S/N比の観点から注意する必要があるのは、第2の領域の中の、特にノイズとなる近接場光が発生する箇所での厚さが、第1の領域の厚さよりも薄くなっていないことであり、ノイズとなる近接場光が発生する箇所は通常、近接場光を発生する第1の領域と反対側の端部であるから、その近傍に高低差の変化点がなければ問題とならない。よって、散乱体が偏光方向に対して、すなわち長手方向に対して途中で厚みが変化していても大きな問題にはならず、少なくとも両端での厚みがほぼ等しくなっていればよいことが分かる。
【0032】
本発明の近接場光発生装置を用いた情報記録再生装置において、散乱体の周囲の少なくとも基体上の一部に導電体が形成され、この導電体に電流を流すことにより、第1の領域近傍に磁界を発生させる磁界発生部を構成してもよい。この場合は、散乱体を形成する基体上に導電体を形成するにあたり、この導電体に電流を流すと磁界が発生する箇所が、散乱体の第1の領域と重なるようにパターン形成することで、容易に磁気ヘッドと組み合わせる構成とすることが可能である。散乱体と磁界発生部を構成する導電体の材料を同一金属より構成する場合は、同一の成膜、パターニング工程によって、散乱体及び磁界発生部を製造できるという利点を有する。
このような構成とする場合、散乱体と磁界発生用の導電体の情報記録媒体側から見た距離が実質同じであるため、散乱体の近接場光を発生する第1の領域においては、情報記録媒体に対して垂直な磁界を発生させることができ、熱アシストによる垂直磁気記録が可能となる。また、散乱体と磁界発生部の導電体を同一基体上で作製するため、パターニング技術等によって相対位置を精度良く合わせた状態で作製することができ、相対位置を合わせるための調整工程が必要ない。
【0033】
なお、情報記録媒体の記録領域から散乱体の第1の領域までの距離を略均一とすることが望ましいが、このように距離を均一とする領域は、散乱体の第1の領域において垂直な磁界成分が発生する範囲であれよく、磁界発生部とする導電体の一部においてのみ散乱体との距離がそろっている形状でもよい。
散乱体と磁界発生部の導電体の材料が同じである場合、上述したように、同一の成膜及びパターニング工程で、且つ高さの揃った散乱体及び磁界発生部の製造が可能となる。使用目的及び条件によっては、散乱体と磁界発生部の導電体の材料は同じでなくてもよい。また、磁界発生部の導電体の抵抗値を下げるため、厚さを局部的に増加させてもよい。このためには、厚さを増加する部分のみに予め導電体膜を局部的に基体上に作製しておいてもよいし、散乱体と磁界発生部を構成する導電体パターンを形成後、磁界発生部の所望の領域のみに導電体材料を積層する工程を追加してもよい。
【0034】
また、この磁界発生部を構成する導電体は、基体の裏面側から照射される光のうち、不必要な入射光が情報記録媒体等の被照射体に照射されるのを防ぐ遮光膜として、そのパターンを適切に選定して設けることもできる。これにより、光源から出射される光束のうち散乱体に照射される光以外の入射光が情報記録媒体等の被照射体に到達することを抑制することができる。したがって、例えば情報記録再生装置に適用する場合は、情報記録媒体において熱減磁による悪影響を及ぼすことを効率よく抑えることができるという利点を有する。
【0035】
本発明の近接場光発生装置において用いる散乱体において、その第1の領域の面積を小さくしていくと、近接場光のスポット形状がこの第1の領域の平面形状を強く反映したものとなり、スポット形状をコントロールし易くなる。図16及び図17は、前述の図6及び図7Aの実施形態例に示す形状の散乱体10において、第1の領域11の長手方向の長さaを、a=20nmとした場合の近接場光形状の解析結果を示す。図16及び図17共に、第1の領域11から8nmの距離におかれた被照射体の表面におけるスポット形状を示すものであり、図16においては、第1の領域11の端部に向かって幅狭となる形状、図17においては半円形状とした例をそれぞれ示す。両例共に、第1の領域11の面積が20nm程度のサイズになってくると、その平面形状と、被照射体表面でのスポット形状がほぼ等しくなってくることがわかる。
【0036】
次に、本発明の近接場光発生装置に用いる散乱体の平面形状の各例を説明する。図18において破線で囲む領域を矢印j1で示す方向から見た平面形状の各例を図19A〜Fに示す。図18及び図19において、図1と対応する部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。図19Aにおいては、円の一部の例えば半円状とした場合、図19Bにおいては楕円の一部、図19C〜Eにおいては三角形、長方形或いは正方形、六角形等の多角形の一部、また図19Fにおいては、円の一部及び三角形の一部を組み合わせた先端部に向かって幅狭となる形状とした例を示す。このように、円、楕円、多角形の一部あるいはそれらの形状の組み合わせのいずれでもよく、近接場光を発生させたい面でのスポット形状や、製造方法に最適な形状を適宜選択することができる。
【0037】
同様に、本発明の近接場光発生装置に用いる散乱体の第2の領域についても、適宜選択可能である。図20において破線で囲む領域を矢印j2で示す方向から見た平面形状の各例を図21A〜Gに示す。図20及び図21において、図1と対応する部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。図21Aに示すように半円形状でもよく、図21Bに示すように棒状として先端部を半円形状とするとか、又は図21Cに示すように円の一部を除いた形状としてもよい。またその他、図21Dに示すように長方形の一部、図21Eに示すように、三角形の一部を除いた形状や、図21Fに示すように、長方形と三角形の一部とを組み合わせた形状、また図21Gに示すように扇型形状としてもよい。このように、円の一部、楕円の一部、多角形、あるいは扇型などの、いずれの形状の組み合わせでもよい。
なお、より強い近接場光を発生させたい場合は、第1の領域の先端部に向かって徐々に幅が狭くなる平面形状とすることで集光効果をもつ形状にすればよく、また第2の領域の端部における不要な近接場光の強度を下げたい場合は、第2の領域の端部に鋭角部分のない平面形状とするか、または狭窄領域のない形状とすることによって、この部分で集光効果をもたないような形状とすることが望ましい。
【0038】
次に散乱体の厚さ方向の形状について検討した結果を示す。
本発明の近接場光発生装置に用いる散乱体は、基体に設けられた3以上の高さの異なる面に跨って形成される構成としてもよい。図22にこの場合の散乱体の一例の要部の概略斜視構成図を示す。図22に示すように、この場合基体1上に設けた段差1S1及び1S2に跨って棒状の散乱体10が形成され、第2の領域12において多段にした例を示す。前述の図1に示すように、1段のみの段差を設ける場合は、高低差をつけられる量は散乱体10の厚さによって制限が生じる。これに対し、図22に示すように、2段以上の段差を基体1に設け、3以上の高さの異なる面に跨って散乱体10を形成することによって、第2の領域12の不要な近接場光が発生する端部を、散乱体10の厚さによらずに被照射体から十分遠ざけることができることとなり、S/N比の向上を図ることが可能である。また更に、散乱体10の段差の数を多くするほど、すなわち基体1に設ける段差を多くするほど、散乱体10の第1の領域11と不要な近接場光が発生する第2の領域12の端部との高低差を確保するための1段あたりの高低差を小さくすることができる。段差の高低差を小さくする程散乱体10の表面を電荷がスムーズに移動できるため、表面プラズモンを効率よく励起でき、結果的により強い近接場光を発生できるという利点がある。
【0039】
また、図23に示すように、本発明の近接場光発生装置に用いる散乱体は、基体に設けられた1つ以上の平面と、この平面に対し傾斜する1つ以上の傾斜面、図示の例では1つの傾斜面1Sに跨って形成される構成としてもよい。このような構成とする場合は、散乱体10の第1の領域11と、第2の領域12の端部とをより離間させ、結果的に被照射体から不要な近接場光が発生する領域をより遠ざける効果が得られる。第2の領域12は段差12Sのみにより構成されるが、情報記録媒体等の被照射体の表面に対し平行な面とする必要はないので、例えば斜めにカットされた基体1の端部、あるいは基体1の表面の一部に凹部を設けてその側面を傾斜面とすることによって、図23に示す構成を容易に製造することが可能である。
【0040】
次に、本発明の近接場光発生装置に用いる散乱体において、その高低差をつける際の角度について検討した結果を説明する。前述の図6及び図7Aに示す段差12Sの被照射体と対向する上側の斜面の角度θ1、下側の斜面の角度θ2を変化させて、特性がどのように変化するか評価を行った。なお、第1の領域11の長手方向の長さa、幅w、厚さh1及びh2、段差12Sの高低差gを下記の通りとした。第1の領域11と被照射体10、この場合情報記録媒体の表面との距離は8nm、光源からの光の波長は780nm、基体1の材料はSiO、また散乱体10の材料はAu、情報記録媒体の記録膜の材料はTbFeCoとした。
a=10nm
w=24nm
h1=h2=30nm
g=20nm
なお、散乱体10の長手方向の長さ(=共振器長)lは85nmから100nmまで変化させ、上記角度θ1及びθ2をθ1=θ2として45°、60°及び75°として解析を行った。
【0041】
以上の条件としてピーク値強度、半値全幅、S/N比を解析した結果をそれぞれ図24〜図26に示す。図24より、ピーク値強度が最も強くなるような共振器長lが調整されている領域では、45°〜75°範囲のθ1に対してそれほど大きくは変化しないため、シビアに制御する必要はないことが分かる。なお、ピーク値を比較した場合、ここではθ1=60°、l=95nmのときが最も高い値が得られている。
また図24より、強度がピークを持つ共振器長lの値は、θ1が大きくなるにつれ小さくなる傾向があることがわかる。図27に散乱体10の各部の長さ等のパラメータを示すと共に、被照射体と対向する側の表面の長さを矢印lsとして示す。図27において、図6及び図7Aと対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。この表面長lsは、
ls=l−g/tan(θ1)+g/sin(θ1)
として表すことができる。すなわち、共振器長lの値が変わらなくても、実質的に、表面プラズモンが存在する散乱体10の表面長lsは、段差12Sの傾斜角度θ1が大きくなるにつれ、長くなることが分かる。このため、上述したように、傾斜角度θ1が大きくなると、ピーク強度値をもつ共振器長lは逆に小さくなることとなる。
【0042】
図27より、強度分布のFWHMを比較してみると、傾斜角度θ1が大きいほどFWHMは小さくなる傾向があるが、大きくは変化しない。また、図28より、傾斜角度θ1が大きくなるとS/N比が向上することがわかり、またその改善効果は傾斜角度が60°以上の場合により大きいといえる。
以上の結果から、安定したスポット形状を発生させるためには、散乱体10の段差12Sの傾斜角度θ1が変化することによる影響は比較的小さいので、厳密に制御する必要はなく、よって異方性のないエッチング等を使用しても実用上十分な性能をもって作製することが可能であるといえる。傾斜角度θ1をコントロール可能な環境であるならば、S/N比及びFWHMの観点からθ1>60°とすることが望ましく、ピーク値強度を重視する場合は、傾斜角度θ1をθ1=60°前後と選定することが好ましいといえる。
【0043】
次に、本発明の近接場光発生装置に用いる散乱体の厚さが変化する場合の各実施形態例について説明する。散乱体の各実施形態例の概略側面構成図を図28A〜Dに示す。実際の製造過程では、予め基体に段差を設けてその上に金属膜を形成して散乱体10を形成する場合、成膜方法や成膜条件によっては、必ずしも基体の段差形状と散乱体10の被照射体側の表面の段差形状が一致するとは限らない。図28Aにおいては、段差12Sにおいて基体側の段差12Rとの配置位置によって、厚さが大きくなっている場合の一例、図28Bにおいては、段差12Sにおいて同様に基体側の段差12Rとの配置によって厚さが小さくなっている場合の一例を示す。また、図28Cにおいては、段差12Sの角度が基体側の段差12Rと異なっている場合の一例を示し、基体側の段差12Rは略垂直となっており、被照射体側の段差12Sは45°程度の傾斜面となっている場合を示す。
上述したように、本発明の近接場光発生装置においては、近接場光が発生する箇所すなわち第1の領域の厚さh1と、不要な近接場光が発生する第2の領域の端部における厚さh2とは、h1≧h2とすることが望ましいが、それらの間の厚さについては、h1、h2と比べて極端に薄くなっている場合を除いてなんら限定されるものではない。
また、第2の領域においては厚さ方向に集光効果を持たせないように、厚さh2はh1と比べて大とすることが望ましく、例えば図28Dに示すように、h1<h2となるように、第2の領域の端部の厚さを第1の領域よりも厚くすることで、S/Nをより改善することが可能である。
【0044】
散乱体を構成する材料としては、例えばAu、Pt、Ag、Cu、Al、Ti、W、Ir、Pd、Mg、Crなどの金属やSi、GaAsなどの半導体、更にカーボンナノチューブなどの導電性を有する材料を用いることができる。また、散乱体は単一の材質である必要はなく、上述したような導電性の材料を複数含むものであってもよい。散乱体が形成される基体は、この基体を通して散乱体に効率よく光を入射させるために、使用波長において光透過性のあるもの、望ましくは透過率が70%以上である材料を用いることが望ましい。例えば、基体に用いる材料としては、Si、Ge等のIV属半導体、GaAs、AlGaAs、GaN、InGaN、InSb、GaSb、AlNに代表されるIII−V属化合物半導体、ZnTe、ZeSe、ZnS、ZnO等のII−VI属化合物半導体、ZnO、Al、SiO、TiO、CrO、CeO等の酸化物絶縁体、SiNなどの窒化物絶縁体、ガラス、プラスチックなどが適用可能である。また、散乱体と基体との密着性を向上させるために、散乱体と酸化物絶縁体もしくは窒化物絶縁体で構成される基体との間には、Zn、Ti、Cr、Alなどから構成される密着層(中間金属層)が形成されているほうが望ましい。これにより、散乱体の基体からの剥がれを抑制することができ、強度を向上させ、寿命の長期化を図ることもできる。
【0045】
近接場光強度をより強くするために、基体上の散乱体の第1の領域の近傍に、導電性を有する別体の散乱体を形成してもよい。図29にこの場合の一実施形態例の概略斜視構成図を示す。図29に示すように、第1及び第2の散乱体10A及び10Bは、それぞれの近接場光を発生する第1の領域が互いに近接するように、基体1上に配置構成される。この例においては、基体1上にリッジ上の凸部を設けて、その段差1S1に跨って形成される第1の散乱体10Aと、段差1S2に跨って形成される第2の散乱体10Bとを上述したように配置構成している。
ここで、第1及び第2の散乱体10A及び10Bの第1の領域の間隔を、光源から照射される光の波長以下とすると、第1の散乱体10Aの第1の領域に集まる電荷と、第2の散乱体10Bの第1の領域に集まる電荷とが互いに相互作用することにより、2つの散乱体10A及び10Bの間に強い近接場光が発生する。
第2の散乱体10Bの不要な近接場光が発生する第2の領域の端部が、光源から照射される光の入射スポット径内に入らない場合は、第2の散乱体10Bは、必ずしも高低差を設けた基体上に作製する必要はない。この場合の概略斜視構成図を図30に示す。
逆に、第2の散乱体10Bの第2の領域が入射スポット径内に入る場合は、図29に示すように、両散乱体10A及び10B共に、段差に跨って形成し、高低差によって、情報記録媒体等の被照射体から離間する形状として構成することが望ましい。
なお、第1及び第2の散乱体10A及び10Bの形状は、必ずしも同一にする必要はない。しかしながら、同一形状とすることにより、両方の散乱体中にプラズモン共鳴を同時に励起することが可能になり、より強い近接場光を2つの散乱体の間に発生させることが可能である。
【0046】
また、本発明の近接場光発生装置に用いる散乱体は、基体に埋め込まれる構成とすることもできる。この場合の一実施形態例の概略斜視構成図及び概略側面構成図を図31A及びBに示す。図31A及びBにおいては、散乱体10を基体1上に埋め込むと共に、特にその近接場光を発生する第1の領域11が基体1の表面と同一平面上に形成されて成る例を示す。
本発明の近接場光発生装置を情報記録再生装置に適用する場合、例えば前述の図1に示す形状の散乱体10を基体1上に形成し、被照射体である情報記録媒体を高速に回転させた際に、情報記録媒体の凹凸の状態によっては、第1の領域11と衝突するなどして第1の領域11が磨耗したり、散乱体10が破損したりしてしまう可能性がある。これを防ぐためには、図31A及びBに示すように、散乱体10が基体1に埋め込まれるように形成するのが好ましく、また、第1の領域11と基体1の表面とが実質的に同一平面上にあることが好ましい。ここで、実質的に同一平面上とは高さの差が10nm以内であればよい。これは、凹凸が10nm以下程度であれば、情報記録媒体との相対的走行時における凹凸によって生じる磨耗、破損などの不都合を十分回避できることによる。
【0047】
上述したような情報記録媒体等の被照射体との衝突を避けるように、図32に示すように、散乱体10の周囲にパッドを設ける構成としてもよい。図32に示す例においては、基体1の一部に一側面が傾斜面上の段差1Sとされた凹部1aが形成され、この段差1Sに跨って棒状の散乱体10が形成される。そして、散乱体10及び凹部1aの周囲に、例えば散乱体10の厚さと同程度の厚さで、平面長方形又は正方形状のパッド20(21〜24)を設ける例を示す。
このようなパッド20を設ける場合は、情報記録媒体等の被照射体との衝突を避けるか或いは衝突によるダメージを軽減することによって、いわば散乱体10の保護を行うことが可能である。また、パッド20の配置位置、形状を工夫することによって、例えば高速で回転する情報記録媒体と散乱体10の第1の領域11との距離を一定に保持する機能をもたせることも可能である。
なお、パッド20の材質としては、衝撃に強く弾力性のあるものを用いてもよいが、例えば散乱体10と同一材料として、散乱体10を形成する成膜及びパターニング工程において同時に形成することも可能である。
【0048】
図33は、パッド20の表面より、散乱体10の第1の領域11の表面を、情報記録媒体等の被照射体から遠ざけるように、パッド20の高さHを第1の領域11の高さh1よりも高くする構成とした例を示す。図33において、図32と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。この例においては、基体1上にパッド21〜24の基部となる段差1bをそれぞれ設け、この上にパッド21〜24を載置する構成とした例を示す。すなわち段差1b上の一番高い面にパッド21〜24を形成し、中間の高さの面に散乱体10の第1の領域11が形成され、最も低い凹部1a内の段差1S及び底面には、散乱体10の第2の領域12が形成される。散乱体10及びパッド20の材料を同一材料とする場合は、このような段差を設けた基体1上に、1回の成膜及びパターニング工程によって、図33に示す構成の散乱体10及びパッド20を形成することが可能である。基体1上に設ける段差の高低差を精度良く製造することによって、後の工程で形成する導電体膜の膜厚がばらついても、パッド20の表面と、散乱体10の第1及び第2の領域との高低差を精度良く作製することができる。
【0049】
図34は、図33と同様に、パッド20の表面よりも、散乱体10の第1の領域11の表面を被照射体から遠ざける構成とする場合を示し、パッド21〜24の下部にパッド21〜24とは異なる材料の基部31〜34を設ける例を示す。例えば、パッド20や散乱体10を構成する材料よりも、膜厚制御性に優れた材料がある場合、パッド形成部にその材料より成る基部31〜34を積層しておくことで、パッド21〜24の表面と第1の領域11の表面の位置関係、すなわち高低差をより精度良く作製することが可能となる。なお、散乱体10と同一材料より構成するパッド21〜24の上に、このような膜厚制御性に優れた材料層を積層形成してもよい。
図35も同様に、パッド21〜24の表面より散乱体10の第1の領域11の表面を被照射体から遠ざける構成とした例を示す。例えば散乱体10及びパッド20を構成する材料が膜厚制御性に優れている場合、パッド20のみの積層量を一定量多くすることによって、これらの高さ関係を制御することが可能である。図34及び図35において、図33と対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
【0050】
図36は、散乱体10が基体1に埋め込まれると共に、基体1上にパッド21及び22を形成する場合の一実施形態例の概略側面構成図である。このような構成とすることによって、確実に、散乱体10の第1の領域11の被照射体への衝突を回避することができる。この例において、パッド21及び22は基体1と同じ材料としてもよく、また異なる材料により形成してもよい。
【0051】
図37は、散乱体10が基体1に埋め込まれると共に、基体1上の、第2の領域から散乱体10の長手方向に最も離間した端部にパッド21を形成する場合の一実施形態例の概略側面構成図である。このような構成とする場合、基体1の片側のみに設けるパッド21の頂点と、パッド21が存在しない側の基体1の端部とが、情報記録媒体等の被照射体50との距離を保つ役割を果たす。ここで、図37に示すように、基体1の散乱体10の第1の領域に近接する側の一端からパッド21までの距離をx1、散乱体10の第1の領域までの距離をx2、第1の領域の端部の被照射体50との間隔をD、パッド21の厚さをHとする。ここで、基体1の表面の被照射体50の表面に対する傾斜角度αが十分小さいとすると、
D≒H×(x2/x1)
の関係式が成り立つ。ここで、(x2/x1)<1である。つまり、パッド21の高さHを精度良く形成できない場合においても、散乱体10の近接場光が発生する第1の領域10と被照射体50との間の距離Dにおいては、そのばらつきが抑制される。
以上説明した図32〜図37の各実施形態例において、いずれの場合も、耐磨耗性や絶縁性などの向上のためにパッドの表面に薄膜を塗布してもよい。パッドの形状は図32〜37に示す例に限定されものではなく、その個数も上述の機能を果たす範囲で自由に選定することが可能である。
【0052】
次に、散乱体の周囲に磁界発生部を形成する実施形態例について説明する。図38においては、本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置において、散乱体10の周囲に導体より成る磁界発生部40を、散乱体10を囲むように配置した例を示す。磁界発生部40と散乱体10との距離は近づけすぎると近接場光の発生効率が低下する。一方、磁界発生部40と散乱体10とが遠すぎると、被照射体に対しての垂直磁界成分が小さくなってしまうので、これらの兼ね合いを考慮して、使用用途に応じて適宜配置位置を選定する。このようにして配置位置を調整された磁界発生部40に電流を流すと、図39において矢印で示すように、磁界発生部40の導体パターンの周囲に磁界を発生すると共に、散乱体10の第1の領域11に垂直磁界Hを発生させることができる。これにより、情報記録媒体に対して熱アシスト磁気記録が可能となる。
なお、図38及び39に示す例においては散乱体10を取り囲む磁界発生部40の導体パターンを1周分のみ形成した場合を示すが、同様の役割を果たす導体パターンを2周以上巻回させる構成としてもよい。複数周の導体パターンを設ける場合は、基体1の表面上に設けてもよく、また積層構造としてもよい。このように複数周の導体パターンを設ける場合は、それぞれの発生磁界が重ね合わされることにより、より大きな磁界を発生させることができる。
【0053】
なお、このように導体すなわち金属より構成する磁界発生部40は、例えば不必要な入射光が情報記録媒体等の被照射体に照射されるのを防ぐ遮光膜としての役割を兼ねてもよい。また、導体パターンは、巻回する形状に限定されるものではなく、曲線状又は直線状の導体を散乱体10と所定の距離を置いて設け、この導体に通電することによって、磁界を発生させる構成とすることもできる。例えば、棒状とされる散乱体10の長手方向に対して平行な方向に延長する直線上の導体パターンを、散乱体10から一定の距離をおいて基体1上に設ける構成としてもよい。
更に、上述の図32〜図37において説明したパッドを磁界発生部上の一部に設けてもよく、また磁界発生部がパッドを兼ねる構成とすることも可能である。
【0054】
次に、上述の散乱体の製造方法の各例について説明する。
図40A〜F及び図41A〜Dにおいては、上述の図38及び39において説明した構成の散乱体10及び磁界発生部40を、同一の材料を用いて形成する場合の製造工程の一例を示す。
先ず、図40Aに示すように、使用する光の波長に対し例えば70%以上の透過率を有する光透過性の材料より成る基体1を用意する。
次に、図40Bに示すように、この基体1上にレジスト2を塗布等により被着する。このレジスト2に対して、図示しないマスクを介して露光、現像を行い、図40Cに示すように所定の形状の開口2wを形成する。
そして、このレジスト2の開口2wを通じて図40Dにおいて矢印で示すようにRIE(反応性イオンエッチング)等の異方性エッチングを行い、基体1に凹部1aを形成する。レジスト2を除去した後、図40Eに示すように、散乱体を構成する材料より成る金属層3を全面的にスパッタリング等により被着する。金属層3には、基体1上に形成した凹部1aの側面形状に対応した段差3Sが形成される。そしてこの上に図40Fに示すように全面的にレジスト4を塗布等により被着する。
次に、このレジスト4に対して、散乱体及び磁界発生部を構成する部分を除いた領域に開口4wをマスク露光及び現像等によって選択的に形成する。この開口4wを通じてRIE等の異方性エッチングを行うことにより、図41Bに示すように、金属層3に対して選択的エッチングを行う。
その後レジスト4を除去することによって、図41C及びその概略平面図である図41Dに示すように、基体1上に形成された段差に跨って第1及び第2の領域11及び12が形成される散乱体10と、これを取り囲む導体パターンとして形成される磁界発生部40を形成することができる。
【0055】
次に、散乱体を基体内に埋め込む構造とする場合の製造方法の一例の工程図を図42A及びBに示す。前述の図40及び図41において説明した工程において、光透過性材料より成る基体1の代わりに、ダミー基体91を用いて、図40A〜F及び図41A及びBに示す工程を行う。その後、図42Aに示すように、紫外線又は熱硬化樹脂等より成る光透過性材料層5を金属層3上に積層形成する。更に、図42Bに示すように、ダミー基体91を除去することによって、基体を構成する光透過性材料層5の表面と、散乱体10の第1の領域11とを略同一の平坦面として構成することができる。
【0056】
次に、基体を射出成形により製造する場合の一例の製造方法について図43A及びBを参照して説明する。この例においては、図43Aに示すように、所望の段差形状の反転形状である凹凸形状を有する金型62及び63内に、熱硬化樹脂等の光透過性材料61を流し込み、硬化処理後に金型62及び63を取り外し、図43Bに示すように、所望の形状の段差1Sを有する基体1を形成することができる。その後、図40及び図41において説明した例と同様に、この基体1上に散乱体を形成することができる。
このような射出成形による場合は、基体1の凹凸形状が複雑であっても一旦金型を作製してしまえば、凹凸形状を再現性よく生産することが可能である。また、凹凸形状が複雑であっても射出成形時間に大きな違いが生じないため、生産性にも優れるという利点を有する。
【0057】
次に、耐環境性能に優れた材料より成る基体を用いる場合の製造方法の一例について説明する。図44Aに示すように、使用する光の波長に対して十分な透過性を有し、且つ、耐環境性能に優れた材料である例えば石英より成る基体71を用意する。図44Bに示すように、この石英等より成る基体71上に、光又は熱硬化性の樹脂等の光透過性材料層72を塗布し、形成したい凹凸の反転形状を有する転写型73をこの光透過性材料層72上に矢印で示すように押し当てる。図44Cに示すように、転写型73を光透過性材料層72に押圧することで、光透過性材料層72には所望の凹凸形状が形成され、所望の凹凸形状を表面に有する基体1を得ることができる。転写方法としては、熱した転写型73を熱硬化性樹脂より成る光透過性材料層72に押し当て形成する方法や、光硬化性の樹脂より成る光透過性材料層72を用いて、硬化前の樹脂に転写型73を押し当てた後、光を例えば基体1側から照射して形成する方法等が考えられる。この後の製造工程は、前述の図40及び図41において説明した例と同様とすることができる。基体71及び光透過性材料層72上に金属層73より成る散乱体10及び磁界発生部40を形成した状態の概略側面構成図及び概略平面構成図を図45A及びBに示す。
このような製造方法とすることにより、基体1に設ける段差の凹凸形状が複雑であっても、凹凸形状を再現性よく且つ精度良く生産することが可能であると共に、樹脂等より成る光透過性材料層の膜厚を薄くしておくことによって、耐環境性能は石英等より成る基体の特性が支配的となるため、樹脂のみにより基体を構成する場合と比較して、反りや変形などの生じにくい信頼性に優れた構成とすることができる。
【0058】
なお、以上説明した例においては、全て基体1の片側の表面のみに凹部や段差を形成する例を示したが、散乱体を形成する表面とは反対側の裏面にも凹凸形状を形成してもよく、例えば凸レンズや凹レンズ、回折格子などの光学機能をもたせてもよい。また、偏光方向を変換又は制御する機能を有する光学機能膜、反射防止膜等の光学機能をもつ薄膜を成膜することも可能である。
【0059】
また本発明の近接場光発生装置に用いる散乱体は、集光素子上の集光点、光導波路の終端、共振器の近傍、半導体レーザの出射面近傍、光検出器の受光面近傍等に形成される構成としてもよい。このような構成とする場合は、光源から散乱体までの光学経路の部品を集積化することにより信頼性の向上及び生産性の向上を図ることができる。
【0060】
一例として、図46A〜Eの製造工程図を参照して、光導波路終端の端面上に散乱体を形成する場合の製造方法の一例について説明する。先ず、図46Aに示すように、光導波路クラッド81の中央部に光導波路コア82が形成された光導波路を用意する。この場合の概略側面構成図を図46Bに示す。そしてこの光導波路の端面に、図46Cに示すように段差82Sを形成する。この上に、図46Dに示すように、金属層をパターニング形成するなどの方法によって、散乱体10を形成する。この状態の概略斜視構成図を図46Eに示す。以上の製造工程は、前述の図40及び図41において説明した例と同様の製造工程とすることができる。このように、光導波路の短面に散乱体10を形成することで、光導波路内を伝搬してくる光によって効率よく近接場光を発生させることができる。
【0061】
本発明の近接場光発生装置を適用した情報記録再生装置の一例の概略構成図を図47に示す。
この情報記録再生装置200は、光源101と、情報記録媒体51と対向する散乱体10と、散乱体10に光源101からの出射光を導く機能を有する光学系110とを有する。なお、散乱体10は、上述の各実施形態例において説明したように、光透過性の基体上に設けられた高さの異なる面に跨って形成され、この基体上の、情報記録媒体に最も近接する面に形成された第1の領域と、この第1の領域よりも情報記録媒体から離間する面に形成された第2の領域とを備える構成とする。そして、散乱体の第1の領域から、情報記録媒体の所定位置に対し近接場光を発生する構成とする。
【0062】
図47に示す例においては、情報記録媒体51は例えばディスク状とされ、回転駆動部120上の図示しない載置台上に載置固定されて、回転軸121を中心に高速で回転するようになされる。散乱体を設ける基体10は、例えば情報記録媒体51と散乱体の第1の領域との間隔が数10nm以下になるよう保ちながら高速に情報記録媒体51と相対的に走行できるように例えばスライダ状に形成され、サスペンション122に取り付けられる。このサスペンション122の弾性力により、基体10が情報記録媒体51側に押し付けられる構成とする。サスペンション122は図示しないが情報記録再生装置200内に支持される。そして、基体1の散乱体を設ける側とは反対側の裏面から、光源(図示せず)を有する光学系110によって、光を入射させる構成とする。
【0063】
この光学系110の一例の概略構成図を図48に示す。図48に示す例においては、光源101と、その出射光路上に集光レンズ等の集光素子103、ビームスプリッタ104が配置され、ビームスプリッタ104による反射光路上に、偏光子105、集光素子106及び受光部107がこの順に配置される場合を示す。光源101から出射された光は集光素子103によって集光されて、ビームスプリッタ104を通過して基体1の散乱体10に照射され、表面プラズモンを励起して近接場光を情報記録媒体51の所定の領域、すなわち記録トラックの所定位置上に照射する。情報記録媒体51から反射された光は、光学系110のビームスプリッタ104において反射されて、例えば偏光子105を通過して集光素子106により受光部107上に集光されて検出される。なお、この光学系110は基体1と一体に形成して、基体1と共に図47に示すサスペンション122に取り付ける構成としてもよい。
【0064】
情報記録媒体51として光磁気記録媒体を用い、本発明構成の情報記録再生装置の散乱体を用いて近接場光照射を行い、更に磁界発生部による磁界の印加により磁気記録膜の磁化の向きを変化させることによって記録マークを形成することができる。再生は、情報記録媒体51から戻ってくる光の強度変化を図48に示す構成の光学系110の受光部107において検出することにより行う。すなわち、近接場光が情報記録媒体51により散乱される割合が、記録マークの有無により変化するので、その散乱光の強度変化を検出することにより再生を行う。図48に示す光学系110においては、情報記録媒体51からの信号光は、ビームスプリッタ104により入射光と分離し、偏光子105及び集光素子106を通過させた後、受光部107で検出する。ここで、情報記録媒体51からの信号光の偏光方向が、入射光の偏光方向と異なっている場合、図48に示すように偏光子105を光路中に置き、偏光子105の偏光方向が入射光の偏光方向に対し直角になるようにすると、コントラストを向上させることができる。
【0065】
図49においては、前述の図6及び図7Aに示す散乱体10の形状を下記の通りとした場合の情報記録媒体51の表面における近接場光の強度分布を示したものである。すなわちこの場合、
a=10nm
w=24nm
h2=30nm
g=20nm
l=100nm
θ1=θ2=60°
とした。ここで、基体1の材料はSiO、散乱体の材料はAu、情報記録媒体の記録膜の材料はTbFeCoとした。また、散乱体の第1の領域と情報記録媒体との距離は8nmとし、光源101から出射される光の波長は780nmとした。なお、基体1上には、散乱体10と、図示しないがこの散乱体10の周囲を囲むように磁界発生部として機能する導体パターンがその表面に形成される。
図49から明らかなように、この例では第1の領域の平面形状が、散乱体の幅方向に長軸方向をもつ楕円形状であるため、近接場光13の強度分布も散乱体10の幅方向に伸びる楕円形状をしている。
【0066】
情報記録再生装置においてトラッキングサーボを容易にするためには、記録マークの形状は記録トラックの延長方向に対して直交する方向に長い形状とすることが好ましい。したがって、図49に示す楕円形状の近接場光にてそのようなマークを記録するためには、図50に示すように、散乱体10の長手方向を、情報記録媒体51上の記録トラック52の延長方向に沿って配置するのが好ましい。このような配置とすることによって、記録マーク53の形状を、記録トラック52の延長方向とは直交する方向に伸びる形状とすることができる。
上述の情報記録再生装置200において、情報記録媒体51としては光磁気記録媒体に限定されるものではなく、磁気記録媒体を用いてもよい。また、その他相変化媒体、色素媒体等を用いることも可能である。
また、本発明の情報記録再生装置においては、再生専用の磁気再生ヘッドを用いてもよい。このように磁気再生ヘッドを用いることにより、上述した光学系110における光検出用の光学部品が不要になるため、装置を小型化することができる。また、記録専用の情報記録装置として構成することももちろん可能である。
【0067】
以上説明したように、本発明の近接場光発生装置及び近接場光発生方法によれば、以下の効果が得られる。
(1)基体上に高低差を設けてこの上に散乱体を形成するのみの極めて簡易な製造方法によって形成し得る構造とすることができる。
(2)散乱体の被照射体に向けて近接場光を照射する領域の厚さが、不要な近接場光の発生箇所における厚さ以上とすることにより、不要な近接場光の強度が大きくなることを確実に抑制することができる。
(3) 近接場光を発生する領域を容易に小さな面積として形成することができるので、光利用効率の高い近接場光発生装置を得ることができる。
(4)近接場光を発生する領域を平面とすることにより、情報記録媒体等の被照射体との間隔を制御し易くすることができ、また歩留まりよく製造することが可能となる。更に、この間隔の変動に対する近接場光のスポット形状の安定性がよくなる。
(5)製造方法に特殊なプロセスがなく容易に製造可能である。
(6)磁界発生部、必要に応じて遮光膜を同時に作製することが可能であり、散乱体と磁界発生部との相対位置関係を精度良く容易に形成することができる。
【0068】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能であり、異なる実施形態例にそれぞれ記載した構成を適宜組み合わせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略斜視構成図である。
【図2】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略側面構成図である。
【図3】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例の概略構成図である。
【図4】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略側面構成図である。
【図5】散乱体の長手方向に沿う線方向位置に対するピーク強度分布を示す図である。
【図6】散乱体の一例の概略平面構成図である。
【図7】Aは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略側面構成図である。Bは比較例による散乱体の概略側面構成図である。
【図8】実施形態例及び比較例による散乱体と情報記録媒体との間隔に対するS/N比の変化を示す図である。
【図9】近接場光の線方向位置に対する強度分布を示す図である。
【図10】実施形態例及び比較例による散乱体と情報記録媒体との間隔に対する線方向マークサイズ変化量を示す図である。
【図11】A及びBは比較例及び実施形態例による散乱体上に発生する電気力線の分布を示す図である。
【図12】線方向位置に対する近接場光の強度分布を示す図である。
【図13】実施形態例及び比較例による散乱体の情報記録媒体との間隔に対する広がり量を示す図である。
【図14】Aは比較例による散乱体の電荷分布を示す図である。Bは実施形態例による散乱体の電荷分布を示す図である。
【図15】比較例による散乱体の概略側面構成図である。
【図16】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例における近接場光の分布を示す図である。
【図17】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例における近接場光の分布を示す図である。
【図18】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略側面構成図である。
【図19】A〜Fは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の要部の概略平面構成図である。
【図20】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略側面構成図である。
【図21】A〜Gは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の要部の概略平面構成図である。
【図22】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略斜視構成図である。
【図23】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略斜視構成図である。
【図24】実施形態例による散乱体の共振器長に対するピーク値強度の変化を示す図である。
【図25】実施形態例による散乱体の共振器長に対する半値全幅の変化を示す図である。
【図26】実施形態例による散乱体の共振器長に対するS/N比の変化を示す図である。
【図27】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略斜視構成図である。
【図28】A〜Dは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略斜視構成図である。
【図29】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略斜視構成図である。
【図30】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略斜視構成図である。
【図31】Aは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略斜視構成図である。Bは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置の一例に用いる散乱体の概略側面構成図である。
【図32】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の一例の概略斜視構成図である。
【図33】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の一例の概略斜視構成図である。
【図34】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の一例の概略斜視構成図である。
【図35】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の一例の概略斜視構成図である。
【図36】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の一例の概略側面構成図である。
【図37】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の一例の概略側面構成図である。
【図38】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の一例の概略斜視構成図である。
【図39】本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の一例の概略斜視構成図である。
【図40】A〜Fは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【図41】A〜Dは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【図42】A及びBは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【図43】A及びBは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【図44】A〜Dは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【図45】Aは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の一例の概略側面構成図である。Bは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の一例の概略平面構成図である。
【図46】A〜Eは本発明の実施形態例に係る近接場光発生装置に用いる散乱体の製造方法の一例を示す製造工程図である。
【図47】本発明の実施形態例に係る情報記録再生装置の一例の概略斜視構成図である。
【図48】本発明の実施形態例に係る情報記録再生装置の一例の要部の概略構成図である。
【図49】本発明の実施形態例に係る情報記録再生装置の一例における近接場光の強度分布を示す図である。
【図50】情報記録媒体上の記録トラックと散乱体との位置関係の一例を示す図である。
【図51】従来の散乱体の一例の概略斜視構成図である。
【図52】従来の散乱体を用いた近接場光の発生原理を説明する概略構成図である。
【図53】散乱体と被照射体との距離に対する近接場光の強度分布を示す図である。
【図54】従来の散乱体表面で発生する近接場光の説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1.基体、1a.凹部、1S.段差、10.散乱体、11.第1の領域、12.第2の領域、12S.段差、20.パッド、50.被照射体、51.情報記録媒体、52.記録トラック、100.近接場光発生装置、101.光源、102.コリメータレンズ、103.集光素子、104.ビームスプリッタ、105.偏光子、106.集光素子、107.受光部、200.情報記録再生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、前記光源からの光を照射されることによって近接場光を発生させる導電性の散乱体とを備え、
前記散乱体は、光透過性の基体上に設けられた高さの異なる面に跨って形成されて、前記基体上の、近接場光が照射される被照射体に最も近接する面に形成された第1の領域と、該第1の領域よりも前記被照射体から離間する面に形成された第2の領域とを備え、
前記散乱体の前記第1の領域から、前記被照射体に対し近接場光を発生する
ことを特徴とする近接場光発生装置。
【請求項2】
前記散乱体の、前記第1の領域の少なくとも一部が平坦面とされ、前記被照射体の表面に対して前記平坦面が略平行に配置された状態で近接場光を発生することを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項3】
前記散乱体は、前記第1の領域の厚さh1に対し、前記第1の領域から最も離間する前記第2の領域の厚さh2が、
h1≦h2
の関係として形成されて成ることを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項4】
前記散乱体は、前記基体に設けられた3以上の高さの異なる面に跨って形成されて成ることを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項5】
前記散乱体は、前記基体に設けられた1つ以上の平面と、前記平面に対し傾斜する1つ以上の傾斜面に跨って形成されて成ることを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項6】
前記散乱体の前記第1の領域は、前記被照射体の表面と垂直となる方向から見た形状が、多角形、円、楕円のうちの少なくとも一部の形状、或いはこれらを組み合わせた形状とされて成ることを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項7】
前記基体上の、前記散乱体の前記第1の領域の近傍に、導電性を有する別体の散乱体が形成され、
前記散乱体同士の間隔は、前記光源から照射される光の波長以下であることを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項8】
前記散乱体が、前記基体に埋め込まれて形成されて成ることを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項9】
前記散乱体の前記第1の領域の少なくとも一部が、前記被照射体の表面に対する平行面とされ、前記平行面と前記基体の表面が略同一平面とされて成ることを特徴とする請求項8記載の近接場光発生装置。
【請求項10】
前記散乱体の周囲に、遮光膜が形成されて成ることを特徴とする請求項1記載の近接場光発生装置。
【請求項11】
導電性の散乱体に光を照射して近接場光を発生する近接場光発生方法であって、
前記散乱体を、光透過性の基体上に設けられた高さの異なる面に跨って被着された形状とし、
前記基体の最も高い面に形成された領域のみを、被照射体の表面に対して近接場光のしみ出し長以下に近接させて近接場光を照射する
ことを特徴とする近接場光発生方法。
【請求項12】
光源と、情報記録媒体と対向する散乱体と、前記散乱体に前記光源からの出射光を導く機能を有する光学系とを有し、前記散乱体から発生する近接場光を前記情報記録媒体の所定位置に照射して記録を行う情報記録再生装置であって、
前記散乱体は、光透過性の基体上に設けられた高さの異なる面に跨って形成されて、前記基体上の、前記情報記録媒体に最も近接する面に形成された第1の領域と、該第1の領域よりも前記情報記録媒体から離間する面に形成された第2の領域とを備え、
前記散乱体の前記第1の領域から、前記情報記録媒体の所定位置に対し近接場光を発生する
ことを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項13】
前記散乱体の周囲の少なくとも前記基体上の一部に導電体が形成され、
前記導電体に電流を流すことにより、前記第1の領域近傍に磁界を発生させる磁界発生部とされて成ることを特徴とする請求項12記載の情報記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図16】
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【図17】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【公開番号】特開2008−90939(P2008−90939A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271009(P2006−271009)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】