説明

送り装置

【課題】高速である粗動送り動作と高精度である微動送り動作とを可能とし、摩耗による耐久性の低下を防止できる送り装置を提供する。
【解決手段】スパイラル軸21に複数の鋼球23を介して螺合されるナット22と前記ナット22を摺動可能に内設するとともに、その中心を回転軸として前記ナット22と一体となって回転可能とされるシリンダ3とを備えた前記ナット22の送り動作を行う送り装置100であって、前記スパイラル軸21と平行に設けられたドライブギア軸5と前記シリンダ3と前記ドライブギア軸5とを連動して回転可能とするシリンダ入力ギアユニット6と前記ドライブギア軸5に、該ドライブギア軸5への回転動力の伝達及び遮断を切り替えるためのクラッチ機構7と該ドライブギア軸5の回転を停止可能とするブレーキ機構8とを備え、前記クラッチ機構7と前記ブレーキ機構8の操作によって微動送り動作と粗動送り動作を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を送り運動に変換する送り装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
被試験部材に連続的に振動を加えることで、被試験部材の疲労強度を試験する疲労強度試験装置は、モータ軸等の回転運動を直線方向への送り運動に変換する送り装置を備えたものがある。
【0003】
例えば、送り装置として用いられるボールネジは、回転駆動するスパイラル軸に複数の鋼球を介してナットが螺合された構造となっており、スパイラル軸の回転運動を、ナットの送り運動に変換可能とするものである。これにより、ボールネジを備えた疲労強度試験装置では、スパイラル軸の回転方向ならびに回転速度等を変更することによって被試験部材に加える振動の周波数ならびに振幅を任意に設定することを可能としている。
【0004】
このような、ボールネジを用いた送り装置は搬送機等にも採用されており、高速で搬送ステージを移動可能とする粗動用ユニットと低速で高精度に搬送ステージを移動可能とする微動用ユニットを備えたものがあった(例えば特許文献1参照。)。
また、簡素な構造として、円筒形状に形成されたナットの外周面にドリブンギアを設け、スパイラル軸と平行に設けられたドライブギアによって従動回転させることで、スパイラル軸の回転速度が速い場合であってもナットの送り速度を減速可能としたものがあった(例えば特許文献2参照。)。
【0005】
しかし、特許文献2に示す送り装置では、ナットの外周に設けられたドリブンギアと、該ドリブンギアを回転させるドライブギアのギア比等によって送り速度が決定されるために、高速である粗動送りと高精度である微動送りとを両立させることは困難であった。
また、粗動送りを可能とするギア比等に構成された送り装置において、微動送りを繰り返し行う場合は、鋼球がスパイラル軸やナットに常に同じ場所で接触するために、接触部分で油膜切れが生じやすく、いわゆるフレッチング摩耗やアブレシブ摩耗による耐久性の低下を招く場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−299773号公報
【特許文献2】実開平4−66451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題を解決すべくなされたものであり、簡素な構造でありながら高速である粗動送り動作と高精度である微動送り動作とを可能とし、更に、摩耗による耐久性の低下を防止することができる送り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、モータにより回転駆動されるスパイラル軸と、前記スパイラル軸に複数の鋼球を介して螺合されるナットと、前記ナットを摺動可能に内設するとともに、その中心を回転軸として前記ナットと一体となって回転可能とされるシリンダとを備えた、前記ナットの回転軸方向への送り動作を行う送り装置であって、前記スパイラル軸と平行に配置されて前記モータにより回転駆動されるドライブギア軸と、前記シリンダと前記ドライブギア軸とを連動して回転可能とするシリンダ入力ギアユニットと、前記ドライブギア軸に、該ドライブギア軸への前記モータの回転動力の伝達及び遮断を切り替えるためのクラッチ機構と、該ドライブギア軸の回転を停止可能とするブレーキ機構と、を備え、前記モータによる前記スパイラル軸の回転駆動に加えて、前記クラッチ機構により前記モータの回転動力を前記ドライブギア軸へ伝達するとともに前記ブレーキ機構により前記ドライブギア軸の回転停止状態を解除して、前記モータの回転動力を前記シリンダへ伝達することによって前記ナットを前記スパイラル軸と同じ方向に回転させて、前記ナットを微動送りする微動送り動作と、前記クラッチ機構により前記モータの回転動力の前記ドライブギア軸への伝達を遮断するとともに前記ブレーキ機構により前記ドライブギア軸を回転停止状態として、前記モータによる前記スパイラル軸の回転駆動のみによって、前記ナットを粗動送りする粗動送り動作と、を行うものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る送り装置により、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、簡素な構造でありながら高速である粗動送り動作と高精度である微動送り動作とを行うことが可能となり、更に、ボールネジのフレッチング摩耗やアブレシブ摩耗等による耐久性の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る送り装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1を用いて本発明に係る送り装置100の構成について説明する。
【0014】
図1に示すように、送り装置100は、主にモータ1と、ボールネジ2と、シリンダ3と、ピストン4と、ドライブギア軸5と、シリンダ入力ギアユニット6と、クラッチ機構7と、ブレーキ機構8と、ドライブギア軸入力ギアユニット9とから構成されて、モータ1による回転運動をピストン4の送り運動に変換するものである。なお、図中の矢印はピストン4の送り方向を示したものである。
【0015】
モータ1は、図示しない電源装置から電力を供給されてモータ軸11を回転駆動する電気モータであって、回転方向ならびに回転速度等を任意に変更できるとともに回転角度を認識できるサーボモータとされる。
【0016】
ボールネジ2は、主にスパイラル軸21と、ナット22と、スパイラル軸21とナット22との間に介装される複数の鋼球23とから構成されて、モータ1によって回転駆動されるスパイラル軸21の回転運動を、ナット22の送り運動に変換するものである。
【0017】
スパイラル軸21は、モータ1によってその軸心を回転軸として回転される軸形状の部材であって、その外周面には略円弧形状の断面を有するボール溝が螺旋状に穿設されている。このボール溝は、一定の断面形状で、且つ、一定のリード角で螺旋状に穿設されており、その穿設方向は右スパイラルであっても左スパイラルであっても良く、これを限定するものではない。
【0018】
ナット22は、後述するシリンダ3に摺動可能に内設された略円筒形状の部材であって、該ナット22の軸心方向には、その中心軸を中心とした貫通穴が設けられている。そして、該貫通穴の内径は一端から他端まで一定とされて、その内周面には略円弧形状の断面を有するボール溝が螺旋状に穿設されている。なお、このボール溝は、一定の断面形状で、且つ、スパイラル軸21のボール溝と同様のリード角で穿設されており、その穿設方向も同じとされる。
【0019】
これにより、スパイラル軸21をナット22の貫通穴に挿通するとともに、スパイラル軸21の外周面に穿設されたボール溝と、ナット22の貫通穴の内周面に穿設されたボール溝とを互いに対向するように配置することで、略円形状の断面を有する螺旋空間を構成することが可能となる。
【0020】
鋼球23は、前述した螺旋空間部分に介装される球形状の部材であって、スパイラル軸21のボール溝の壁面とナット22のボール溝の壁面とで互いに当接するようにして挟持される。これにより、スパイラル軸21の外周面とナット22の貫通穴の内周面との間には所定の隙間が設けられて、スパイラル軸21にナット22が鋼球23を介して螺合されることとなる。なお、前記螺旋空間部分には複数の鋼球23が連続して同様に挟持されるために、スパイラル軸21に螺合するナット22がガタつくことはない。
【0021】
このような構成により、スパイラル軸21の回転によって生じるナット22との滑り抵抗を、鋼球23によって転がり抵抗に変換できるために滑らかな送り運動を行うことが可能となる。
【0022】
シリンダ3は、その外周面にドリブンギア3aが設けられるとともに内部にボールネジ2を内設する略円環形状の部材であって、ボールネジ2を構成するスパイラル軸21の中心軸と同軸となるように配置されている。そして、シリンダ3の内周面には矩形状に突設されたリニアガイド3bが軸心方向に平行に設けられており、ナット22の外周面に穿設されたガイド溝に挿嵌することによって、該ナット22をリニアガイド3bに沿って軸心方向へ摺動可能としている。
【0023】
更に、シリンダ3は、その軸心を回転軸として回転可能に軸支されており、シリンダ3に内設されてリニアガイド3bがそのガイド溝に挿嵌されているナット22は、該シリンダ3の回転に伴って一体的に回転される。
【0024】
ピストン4は、シリンダ3に摺動可能に内設された略円筒形状の部材であって、その一端はナット22に固設され、他端はシリンダ3の端部から突出するように配置されて、ナット22と一体となって送り運動を行うものである。
【0025】
ドライブギア軸5は、スパイラル軸21から所定の距離をあけて平行に設けられた軸形状の部材であって、ドライブギア軸入力ギアユニット9を介することでモータ1によって回転駆動される駆動軸である。
つまり、ドライブギア軸入力ギアユニット9は、モータ1のモータ軸11と一体的に回転可能に固設された駆動ギア9aと、ドライブギア軸5と一体的に回転可能に固設された入力ギア9bとが歯合されて、モータ軸11の回転運動を駆動ギア9aならびに入力ギア9bを通じて減速しつつドライブギア軸5に入力するように構成されている。
【0026】
そして、ドライブギア軸5の中途部にはドライブギア5aが設けられており、シリンダ3の外周面に設けられたドリブンギア3aとはシリンダ入力ギアユニット6を介して連動可能とされている。
つまり、シリンダ入力ギアユニット6は、該シリンダ入力ギアユニット6を構成するギアがシリンダ3のドリブンギア3aに歯合されるとともに、ドライブギア軸5のドライブギア5aに歯合されており、ドライブギア軸5の回転運動をシリンダ3に伝達可能としている。
なお、ドライブギア軸入力ギアユニット9及びシリンダ入力ギアユニット6における回転の減速比は任意に設定することが可能とされる。
【0027】
また、ドライブギア軸5には、ドライブギア軸入力ギアユニット9に固設される軸端部とドライブギア5aとの間に、モータ1の回転動力の伝達及び遮断を切り替えるためのクラッチ機構7が備えられており、反ドライブギア軸入力ギアユニット側の軸端部とドライブギア5aとの間には、ドライブギア軸5の回転を制動して停止可能とするためのブレーキ機構8が備えられている。
【0028】
これにより、ブレーキ機構8を操作してドライブギア軸5のブレーキ状態(回転停止状態)を解除するとともにクラッチ機構7を操作してモータ1からドライブギア軸5への回転動力の伝達を行うと、モータ1の回転動力がドライブギア軸5ならびにシリンダ入力ギアユニット6を介してドリブンギア3aに伝達されてシリンダ3が回転駆動されることとなる。そして、これに伴ってナット22は、シリンダ3とともに従動回転されることとなる。なお、このときのナット22の回転方向は、スパイラル軸21の回転方向と同じとされる。
【0029】
また、クラッチ機構7を操作してモータ1からドライブギア軸5への回転動力の遮断を行うとともにブレーキ機構8を操作してブレーキを作動させると、ドライブギア軸5の回転は停止されて、モータ1の回転動力はドリブンギア3aに伝達されなくなる。従って、シリンダ3は回転駆動することなく停止され、シリンダ3に内設されたナット22は軸心方向への摺動のみ可能となる。
【0030】
このような構成により、クラッチ機構7ならびにブレーキ機構8の操作によって、ナット22をスパイラル軸21と同じ回転方向に従動回転させた場合は、スパイラル軸21の回転角とナット22の回転角の相対差が小さくなるために、ナット22の送り量を微小とすることが可能となる。
つまり、クラッチ機構7を操作してモータ1の回転動力をドライブギア軸5へ伝達するとともに、ブレーキ機構8を操作してドライブギア軸5の回転停止状態を解除することで、モータ1の回転動力をシリンダ3へ伝達することが可能となり、スパイラル軸21と同じ方向にナット22を従動回転させることができて、該ナット22の微動送り動作を実現することが可能となる。
一方、クラッチ機構7を操作してモータ1の回転動力のドライブギア軸5への伝達を遮断するとともに、ブレーキ機構8を操作してドライブギア軸5を回転停止状態とすることで、ナット22は従動回転されず、スパイラル軸21の回転に応じたナット22の送り運動を行うことが可能となる。このとき、スパイラル軸21の回転角とナット22の回転角の相対差がナット22を従動回転させた場合に比べて大きくなるために該ナット22の粗動送り動作を実現することが可能となる。
【0031】
このように、スパイラル軸21の回転角が同じである場合、ナット22の送り量は、ナット22を従動回転させた場合には小さく、ナット22を従動回転させない場合には大きくできる。換言すると、ナット22と一体となって摺動するピストン4を、同じ送り量だけ摺動させるために必要なスパイラル軸21の回転角は、スパイラル軸21と同じ回転方向にナット22を従動回転させた場合の方が、ナット22を従動回転させないとした場合よりも大きくなる。
【0032】
従って、クラッチ機構7ならびにブレーキ機構8の操作によって、スパイラル軸21と同じ回転方向にナット22を従動回転させた場合では、ナット22の送り量が微小であってもスパイラル軸21の回転角は大きくなるために、ナット22の微動送りを繰り返し行うような場合であっても、スパイラル軸21のボール溝とナット22のボール溝とこれらに挟持された鋼球23とが常に同じ場所で接触することがなく、油膜切れを生じない。
このため、微小な振幅でピストン4の動作を行う場合であっても、凝着によるフレッチング摩耗やフレッチング摩耗による摩耗粉によってアブレシブ摩耗を引き起こすことが防止される。
【0033】
以上のように、本発明に係る送り装置100においては、従来のボールネジを用いた送り装置に、ドライブギア軸5、シリンダ入力ギアユニット6、クラッチ機構7、ブレーキ機構8、ドライブギア軸入力ギアユニット9などを設けるだけの簡単な構成で、高速である粗動送り動作と高精度である微動送り動作とを行うことが可能となり、更に微小な振幅でピストン4の動作を繰り返し行う場合であっても、摩耗による耐久性の低下を防ぐことが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
1 モータ
2 ボールネジ
3 シリンダ
4 ピストン
5 ドライブギア軸
5a ドライブギア
6 シリンダ入力ギアユニット
7 クラッチ機構
8 ブレーキ機構
9 ドライブギア軸入力ギアユニット
9a 駆動ギア
9b 入力ギア
11 モータ軸
21 スパイラル軸
22 ナット
23 鋼球
100 送り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータにより回転駆動されるスパイラル軸と、
前記スパイラル軸に複数の鋼球を介して螺合されるナットと、
前記ナットを摺動可能に内設するとともに、その中心を回転軸として前記ナットと一体となって回転可能とされるシリンダとを備えた、前記ナットの回転軸方向への送り動作を行う送り装置であって、
前記スパイラル軸と平行に配置されて前記モータにより回転駆動されるドライブギア軸と、
前記シリンダと前記ドライブギア軸とを連動して回転可能とするシリンダ入力ギアユニットと、
前記ドライブギア軸に、該ドライブギア軸への前記モータの回転動力の伝達及び遮断を切り替えるためのクラッチ機構と、
該ドライブギア軸の回転を停止可能とするブレーキ機構と、を備え、
前記モータによる前記スパイラル軸の回転駆動に加えて、
前記クラッチ機構により前記モータの回転動力を前記ドライブギア軸へ伝達するとともに前記ブレーキ機構により前記ドライブギア軸の回転停止状態を解除して、前記モータの回転動力を前記シリンダへ伝達することによって前記ナットを前記スパイラル軸と同じ方向に回転させて、前記ナットを微動送りする微動送り動作と、
前記クラッチ機構により前記モータの回転動力の前記ドライブギア軸への伝達を遮断するとともに前記ブレーキ機構により前記ドライブギア軸を回転停止状態として、前記モータによる前記スパイラル軸の回転駆動のみによって、前記ナットを粗動送りする粗動送り動作と、
を行うことが可能であることを特徴とする送り装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−276118(P2010−276118A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129496(P2009−129496)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000143949)株式会社鷺宮製作所 (253)
【Fターム(参考)】