説明

逆止弁装置およびバルブタイミング調整装置

【課題】搭載スペースを小さくできると共に、逆止弁の応答性を向上でき、且つ、部品点数の削減によるコストダウンが可能なバルブタイミング調整装置を提供する。
【解決手段】スプール8に形成される遅角接続路および進角接続路には、それぞれ、遅角逆止弁および進角逆止弁が配設されている。遅角逆止弁の第1の弁体26、および、進角逆止弁の第2の弁体29は、それぞれ、遅角弁座、進角弁座に着座した状態で第1、第2の開口部を遮断する遮断面を形成する弁部と、第1、第2の弁体26、29が軸方向に移動する際にバルブ室の内周面に摺動する摺動脚部31とを有している。摺動軸部は、軸方向の先端が円周方向に独立した自由端である。この第1、第2の弁体26、29は、互いの摺動脚部31同士が円周方向の異なる位置に配置され、且つ、軸方向に所定の長さだけラップした状態で互い違いに組み合わされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの逆止弁を組み合わせて構成される逆止弁装置および内燃機関の吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関のクランク軸に対するカム軸の位相(以下、機関位相と言う)を変化させることにより、吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置が知られている。
例えば、特許文献1には、油圧によってカム軸をクランク軸に対する進角側または遅角側に駆動する油圧駆動部と、この油圧駆動部に対する作動油の供給および排出を制御するスプール弁とを備えるバルブタイミング調整装置が開示されている。
油圧駆動部は、クランク軸より駆動力が伝達されて回転するハウジングと、カム軸に連結されてハウジング内に収容され、ハウジングとの間に進角室および遅角室を形成するロータとを有し、進角室または遅角室に作動油が供給されることにより、カム軸をクランク軸に対する進角側または遅角側に駆動する。
スプール弁は、筒状のスリーブボルトと、このスリーブボルトに収容されるスプールとを備える。スリーブボルトには、油圧ポンプより作動油が供給される供給ポートと、進角室に接続される進角ポートと、遅角室に接続される遅角ポートが形成される。スプールは、進角ポートを供給ポートに連通させる進角位置と、遅角ポートを供給ポートに連通させる遅角位置との間でスリーブの内部を軸方向に移動可能に設けられている。
【0003】
ところで、内燃機関の運転中は、カム軸によって開閉駆動される吸気バルブまたは排気バルブからのスプリング反力等に起因して生じる変動トルクが油圧駆動部に作用する。この変動トルクは、クランク軸に対してカム軸を進角側に付勢する負トルクと、クランク軸に対してカム軸を遅角側に付勢する正トルクとの間で周期的に交互に変動する。
従って、機関位相を進角側に変化させる場合には、負トルクが作用するときに油圧ポンプからスプール弁を通じて進角室に供給される作動油の量が少ないと、負トルクの作用によって容積が拡大する進角室に対して作動油が不足することになる。このため、変動トルクが負から正に反転した時に、作動油の不足によってカム軸の遅角を抑制し得なくなり、結果的に進角時の応答性が低下する。このような応答性の低下は、機関位相を遅角側に変化させる場合にも同様に生じる。
【0004】
そこで、特許文献1に示されるスプール弁には、例えば、機関位相を進角側に変化させる場合に、遅角室から排出される作動油を進角室へ供給できるように、スプール弁の進角ポートと遅角ポートとの間を接続する進角接続路がスプールに形成され、且つ、進角接続路には、遅角ポート側から進角ポート側に向かう作動油の流れを許容する一方、進角ポート側から遅角ポート側に向かう作動油の流れを阻止する進角逆止弁が配設されている。
また、機関位相を遅角側に変化させる場合は、スプール弁の進角ポートと遅角ポートとの間を接続する遅角接続路がスプールに形成され、この遅角接続路には、進角ポート側から遅角ポート側に向かう作動油の流れを許容する一方、遅角ポート側から進角ポート側に向かう作動油の流れを阻止する遅角逆止弁が配設されている。
【0005】
上記の構成によれば、機関位相を進角側に変化させる場合に、油圧ポンプから進角室に供給される作動油の量が少なくても、その分、遅角室から排出される作動油を進角室へ供給できるので、作動油の不足を補うことができる。また、油圧駆動部に正トルクが作用した時に、進角室から進角ポートに作動油が逆流したとしても、進角ポート側から遅角ポート側に向かう作動油の流れが進角逆止弁によって阻止されるので、作動油が誤って遅角室に供給されることはない。
同様に、機関位相を遅角側に変化させる場合に、油圧ポンプから遅角室に供給される作動油の量が減少しても、その分、進角室から排出される作動油を遅角室へ供給できるので、作動油の不足を補うことができる。また、油圧駆動部に負トルクが作用した時に、遅角室から遅角ポートに作動油が逆流したとしても、遅角ポート側から進角ポート側に向かう作動油の流れが遅角逆止弁によって阻止されるので、作動油が誤って進角室に供給されることはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−133217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に開示された進角逆止弁および遅角逆止弁は、それぞれ、弁体にボール弁を使用しているため、進角接続路および遅角接続路を形成するスプールの内径をボール弁の外径より大きく設計する必要があり、結果的に、スプール弁の径方向寸法が大きくなる。また、進角逆止弁と遅角逆止弁は、両者のボール弁の間にそれぞれの開閉ストローク(ボール弁が軸方向に移動する距離)を確保する必要があるため、必然的にスプール弁の全長が長くなる。すなわち、弁体にボール弁を使用することで、スプール弁の径方向および軸方向の両寸法が大きくなるため、搭載性の点で課題がある。
【0008】
また、ボール弁は、例えば、板状あるいは半球状の弁体と比較して体積が大きく、重量も重くなるため、開弁時および閉弁時の応答性が低下する要因となっている。
さらに、進角逆止弁および遅角逆止弁の双方に、それぞれ、スプール内でのボール弁のがたつきを抑えるために、ボール弁を保持するリテーナを必要とする。このため、部品点数が多く、組み付け工数が増大することにより、コスト面でも課題が残る。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、搭載スペースを小さくできると共に、逆止弁の応答性を向上でき、且つ、部品点数の削減によるコストダウンが可能な逆止弁装置およびバルブタイミング調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1の発明)
本発明の逆止弁装置は、円筒形のバルブ室と、このバルブ室の軸方向一端側に通じる第1の流入口と、バルブ室の軸方向他端側に通じる第2の流入口と、バルブ室の円筒側面に開口する流出口と、バルブ室の軸方向一端側に配設され、第1の流入口側から流出口側へ向かう流体の流れを許容する一方、流出口側から第1の流入口側へ向かう流体の流れを阻止する第1の逆止弁と、バルブ室の軸方向他端側に配設され、第2の流入口側から流出口側へ向かう流体の流れを許容する一方、流出口側から第2の流入口側へ向かう流体の流れを阻止する第2の逆止弁とを備える。
第1の逆止弁は、バルブ室の軸方向一端に設けられ、その内周に第1の開口部を形成する第1の弁座と、この第1の弁座に対向してバルブ室の内部を軸方向へ移動可能に設けられ、第1の弁座に着座することで第1の開口部を遮断する第1の弁体とを有する。
【0010】
第2の逆止弁は、バルブ室の軸方向他端に設けられ、その内周に第2の開口部を形成する第2の弁座と、この第2の弁座に対向してバルブ室の内部を軸方向へ移動可能に設けられ、第2の弁座に着座することで第2の開口部を遮断する第2の弁体とを有する。
第1、第2の弁体は、それぞれ、第1、第2の弁座に着座した状態で第1、第2の開口部を遮断する遮断面を形成する弁部と、第1、第2の弁体が軸方向に移動する際にバルブ室の内周面に摺動する少なくとも1本の摺動脚部とを有し、この摺動脚部は、弁部の反遮断面側から軸方向に延びて設けられ、その軸方向の先端が円周方向に独立した自由端であり、第1の弁体と第2の弁体は、互いの摺動脚部同士が円周方向の異なる位置に配置され、且つ、軸方向に所定の長さだけラップした状態で互い違いに組み合わされていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る第1、第2の弁体は、それぞれ、第1、第2の弁座に着座した状態で第1、第2の開口部を遮断する弁部と、第1、第2の弁体が軸方向に移動する際にバルブ室の内周面に摺動する摺動脚部とで構成される。この場合、第1、第2の弁体に設けられる弁部は、それぞれ、第1、第2の弁座に着座した時に第1、第2の開口部を遮断できる大きさ(外径)であれば良いので、特許文献1に開示された弁体(ボール弁)と比較して、弁部の外径を小さく形成することが可能である。
【0012】
また、第1、第2の弁体は、それぞれ、摺動脚部の先端が円周方向に独立した自由端であるため、互いの摺動脚部同士を軸方向にラップした状態で互い違いに組み合わせて配置できる。これにより、第1の弁体と第2の弁体を軸方向に近接して配置できるので、逆止弁装置の軸方向長さを短縮できる。上記の結果、逆止弁装置の径方向および軸方向の両寸法を小さく設計できるので、逆止弁装置の搭載性が向上する。
さらに、第1、第2の弁体は、それぞれ、少なくとも1本の摺動脚部を有しているので、第1、第2の弁体が軸方向に移動する際に、摺動脚部がバルブ室の内周面に支持されることにより、第1、第2の弁体の傾きを抑制できる。
【0013】
また、第1、第2の弁体に設けられる弁部は、上述した様に、それぞれ、第1、第2の弁座に着座した時に第1、第2の開口部を遮断できる大きさ(外径)であれば良いので、弁部の外径を小さくでき、且つ、軸方向の厚みも薄くできるので、弁部の体積を小さく設計できる。また、摺動脚部は、第1、第2の弁体が傾かない程度に軸方向の長さを設定すれば良い。これにより、本発明に係る第1、第2の弁体は、ボール弁と比較して体積を小さく、軽量化できるので、開弁時および閉弁時の応答性が向上する。
さらに、第1、第2の弁体は、それぞれ、摺動脚部がバルブ室の内周面に摺動することによって傾きが抑えられるので、ボール弁を保持するために必要なリテーナを廃止できる。その結果、部品点数を削減して組み付け工数を低減できるので、コストダウンを図ることが可能である。
【0014】
(請求項2の発明)
請求項1に記載した逆止弁装置において、第1の逆止弁と第2の逆止弁は、第1の弁体と第2の弁体をそれぞれ閉弁方向へ付勢する共通のコイルスプリングを有し、このコイルスプリングは、第1の弁体の弁部と第2の弁体の弁部との間で互いの摺動脚部の内周に配置されることを特徴とする。
上記の構成では、第1の逆止弁と第2の逆止弁とに共通のコイルスプリングを用いることにより、部品点数を低減できる。また、第1の弁体および第2の弁体は、それぞれ、弁部と摺動脚部とを有し、互いの摺動脚部同士が互い違いに組み合わされて軸方向にラップした状態で配置されるので、第1の弁体の弁部と第2の弁体の弁部との間で互いの摺動脚部の内周にコイルスプリングの配置スペースを確保することができる。
【0015】
(請求項3の発明)
請求項1または2に記載した逆止弁装置において、第1、第2の弁体は、それぞれ、弁部の遮断面が球面状に形成されていることを特徴とする。
この場合、第1、第2の弁体が閉弁時に多少傾いたとしても、それぞれ、弁部に形成される遮断面が第1、第2の弁座から離れることはなく、第1、第2の開口部を確実に閉じることができる。
【0016】
(請求項4の発明)
請求項1〜3に記載した何れか一つの逆止弁装置において、流出口は、第1の弁体が第1の弁座から離れて第1の開口部を開いた時に、第1の開口部を通じて第1の流入口に連通する第1の流出口と、第2の弁体が第2の弁座から離れて第2の開口部を開いた時に、第2の開口部を通じて第2の流入口に連通する第2の流出口とを有し、第1の流出口は、第1の弁体が第1の弁座に着座した閉弁状態から開弁方向へ移動する最大ストロークの範囲内に形成され、第2の流出口は、第2の弁体が第2の弁座に着座した閉弁状態から開弁方向へ移動する最大ストロークの範囲内に形成されていることを特徴とする。
【0017】
上記の構成によれば、第1の弁体が第1の開口部を開くことで、第1の流入口側から第1の流出口側へ向かう流体の流れが許容される一方、第1の弁体が第1の開口部を閉じることで、第1の流出口側から第1の流入口側へ向かう流体の流れが阻止される。
同様に、第2の弁体が第2の開口部を開くことで、第2の流入口側から第2の流出口側へ向かう流体の流れが許容される一方、第2の弁体が第2の開口部を閉じることで、第2の流出口側から第2の流入口側へ向かう流体の流れが阻止される。
【0018】
また、第1の流出口と第2の流出口とを設けない場合、つまり、第1の弁体と第2の弁体との間に共通の流通口を設ける場合は、第1の逆止弁の開弁時および第2の逆止弁の開弁時に、それぞれ、第1、第2の弁体の弁部の外径とバルブ室の内径との間に流体を通すためのクリアランスを確保する必要がある。特に、圧損を小さくするには、クリアランスを大きく取る必要があるため、そのクリアランス分だけバルブ室の内径が大きくなり、逆止弁装置の径方向寸法が増大する。
これに対し、請求項4に係る本発明では、第1の弁体が第1の弁座に着座した状態から開弁方向へ移動する最大ストロークの範囲内に第1の流出口を設けると共に、第2の弁体が第2の弁座に着座した状態から開弁方向へ移動する最大ストロークの範囲内に第2の流出口を設けているので、第1、第2の弁体の弁部の外径とバルブ室の内径との間に流体を通すためのクリアランスを確保する必要はない。これにより、本発明の逆止弁装置は、第1の弁体と第2の弁体との間に共通の流通口を設ける構成と比較して、バルブ室の内径を小さく形成できるので、逆止弁装置の径方向寸法を小さくでき、搭載性が向上する。
【0019】
(請求項5の発明)
請求項4に記載した逆止弁装置において、第1の流出口と第2の流出口との間に形成されてバルブ室に開口する連通口を有し、第1の流出口と連通口との間に形成されるバルブ室の内周面を第1のガイド面と呼び、第2の流出口と連通口との間に形成されるバルブ室の内周面を第2のガイド面と呼ぶ時に、第1、第2の弁体は、それぞれ、摺動脚部が第1のガイド面および第2のガイド面に常時支持されていることを特徴とする。
なお、連通口は、バルブ室の内部へ流体を流入させるための流入ポートとして利用できる。この流入ポート(連通口)を設けることにより、第1、第2の逆止弁の閉弁応答性を高めることが可能である。
【0020】
上記の構成によれば、第1の弁体は、第1の弁座に着座して第1の開口部を閉じている閉弁状態、第1の弁座から離れて第1の開口部を開いている開弁状態、閉弁状態から開弁方向へ移動する間、および、開弁状態から閉弁方向へ移動する間、第1のガイド面および第2のガイド面に摺動脚部が常時支持されている。これにより、第1の弁体の姿勢を常時安定に保つことができる。すなわち、第1の弁体の傾きを抑制できるので、第1の流出口と第2の流出口との間に連通口を形成した場合に、その連通口から摺動脚部の軸方向端部がバルブ室の外側へ脱落することを防止できる。
【0021】
同様に、第2の弁体は、第2の弁座に着座して第2の開口部を閉じている閉弁状態、第2の弁座から離れて第2の開口部を開いている開弁状態、閉弁状態から開弁方向へ移動する間、および、開弁状態から閉弁方向へ移動する間、第1のガイド面および第2のガイド面に摺動脚部が常時支持されている。これにより、第2の弁体の姿勢を常時安定に保つことができる。すなわち、第2の弁体の傾きを抑制できるので、第1の流出口と第2の流出口との間に連通口を形成した場合に、その連通口から摺動脚部の軸方向端部がバルブ室の外側へ脱落することを防止できる。
【0022】
(請求項6の発明)
本発明は、内燃機関のクランク軸とカム軸との回転位相差を変更して内燃機関の吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、クランク軸より駆動力が伝達されて回転するハウジングと、カム軸に連結されてハウジング内に収容され、ハウジングとの間に進角室および遅角室を形成するロータとを有し、進角室または遅角室に作動油が供給されることにより、カム軸をクランク軸に対する進角側または遅角側に駆動する油圧駆動部と、この油圧駆動部に対する作動油の供給および排出を制御するスプール弁とを有している。
スプール弁は、内周に筒状の滑り面を形成すると共に、油圧供給源より作動油が供給される供給ポート、進角室に接続される進角ポート、遅角室に接続される遅角ポートを有するスリーブボルトと、このスリーブボルトの内部に収容され、進角ポートが供給ポートに連通する進角位置と、遅角ポートが供給ポートに連通する遅角位置との間で滑り面に案内されて軸方向に移動可能に設けられるスプールとを有する。
【0023】
スプールには、請求項1〜5に記載した何れか一つの逆止弁装置が内蔵されて、バルブ室を含む筒状の空洞部が形成されると共に、バルブ室より軸方向一端側の空洞部に第1の連通口が連通して形成され、バルブ室より軸方向他端側の空洞部に第2の連通口が連通して形成され、窓孔がバルブ室の円筒内周面に開口して形成され、スプールが進角位置に移動した時に、第2の連通口が遅角ポートに連通し、且つ、窓孔が進角ポートに連通することで、スプールの空洞部に進角ポートと遅角ポートとの間を接続する進角接続路が形成され、スプールが遅角位置に移動した時に、第1の連通口が進角ポートに連通し、且つ、窓孔が遅角ポートに連通することで、スプールの空洞部に進角ポートと遅角ポートとの間を接続する遅角接続路が形成される。
【0024】
逆止弁装置は、スプールが進角位置へ移動した時に、進角接続路に配設される第2の逆止弁によって、進角ポートから遅角ポートへ向かう作動油の流れが阻止される一方、遅角ポートから進角ポートへ向かう作動油の流れが許容され、スプールが遅角位置へ移動した時に、遅角接続路に配設される第1の逆止弁によって、遅角ポートから進角ポートへ向かう作動油の流れが阻止される一方、進角ポートから遅角ポートへ向かう作動油の流れが許容されることを特徴とする。
【0025】
上記の構成によれば、逆止弁の弁体にボール弁を用いる特許文献1と比較して、逆止弁装置を内蔵するスプール弁の径方向および軸方向の両寸法を小さく設計できるので、スプール弁の搭載性が向上する。
また、第1、第2の逆止弁に使用される第1、第2の弁体は、ボール弁と比較して体積が小さく、軽量化できるので、開弁時および閉弁時の応答性が向上する。
さらに、特許文献1の構成では、弁体にボール弁を使用するため、そのボール弁を保持するリテーナを必要とするが、本発明に係る第1、第2の弁体は、それぞれ、摺動脚部がバルブ室の内周面に摺動することによって傾きが抑えられるので、リテーナを廃止できる。その結果、部品点数を削減して組み付け工数を低減でき、コストダウンを図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】バルブタイミング調整装置の構成図である。
【図2】逆止弁装置を省略したスプールの断面図である。
【図3】(a)第1、第2の弁体の側面図、(b)第1、第2の弁体を摺動脚部側から見た軸方向平面図、(c)第1、第2の弁体の断面図である。
【図4】(a)第1、第2の流出口の開口面を示す方向から見た第1スプールの側面図、(b)第1、第2の流入口の開口面を示す方向から見た第1スプールの側面図である。
【図5】入力ポートおよび第1、第2の流出口が形成された第1スプールの外観を示す斜視図である。
【図6】進角作動時の状態を示すスプール弁の断面図である。
【図7】進角作動時の状態を示すスプール弁の断面図である。
【図8】遅角作動時の状態を示すスプール弁の断面図である。
【図9】遅角作動時の状態を示すスプール弁の断面図である。
【図10】(a)第1、第2の弁体の側面図、(b)第1、第2の弁体を摺動脚部側から見た軸方向平面図、(c)第1、第2の弁体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明を実施するための最良の形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
実施例1では、内燃機関の吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置の一例を説明する。
バルブタイミング調整装置は、内燃機関のクランク軸(図示しない)に対するカム軸(図示しない)の位相を進角側または遅角側に変化させる油圧駆動部1と、この油圧駆動部1に対する作動油の供給および排出を制御するスプール弁2とを備える。
以下、油圧駆動部1およびスプール弁2の構成について、図1〜図5を参照して説明する。
【0029】
(油圧駆動部1の構成)
油圧駆動部1は、クランク軸より駆動力が伝達されて回転するハウジング3と、カム軸に連結されてハウジング3の内部に収容されるロータ4とで構成される。
ハウジング3は、クランク軸から駆動力が伝達されることで、クランク軸と連動して図1に矢印で示す時計方向に回転する。このハウジング3には、径方向の内側に突出する複数の仕切部3aが周方向に略等間隔に設けられ、周方向に隣合う仕切部3aと仕切部3aとの間に扇状の収容室が形成されている。
ロータ4は、カム軸に固定されるボス部4aと、このボス部4aの径方向外側に突出する複数のベーン4bとを有し、このベーン4bがハウジング3の収容室に配置されて、収容室を進角室5と遅角室6とに二分している。
【0030】
(スプール弁2の構成)
スプール弁2は、内周に筒状の滑り面を形成するスリーブボルト7と、このスリーブボルト7の内部に収容されるスプール8と、このスプール8に内蔵される逆止弁装置(後述する)と、スプール8を一方向(図1の左方向)へ付勢するリターンスプリング9と、このリターンスプリング9の付勢力に抗してスプール8を軸方向に駆動する電磁アクチュエータ(図示せず)より構成される。電磁アクチュエータは、例えば、内蔵するコイルに通電されて電磁石を形成し、その電磁石の吸引力を利用してスプール8を駆動するソレノイドである。
スリーブボルト7には、供給油路10を通じて油圧ポンプ11より作動油が供給される供給ポート12と、進角油路13を通じて進角室5に接続される進角ポート14と、遅角油路15を通じて遅角室6に接続される遅角ポート16が形成されている。なお、油圧ポンプ11は、例えば、クランク軸によって駆動されるメカポンプであり、内燃機関の運転中は、オイルパン17から汲み上げた作動油を継続して供給ポート12に供給する。
【0031】
スプール8は、進角ポート14が供給ポート12に連通する進角位置(図6、図7に示す位置)と、遅角ポート16が供給ポート12に連通する遅角位置(図8、図9に示す位置)との間で、スリーブボルト7の滑り面に案内されて軸方向に移動可能に設けられている。このスプール8には、図2に示す様に、円筒形のバルブ室18を含む筒状の空洞部が形成されると共に、バルブ室18より軸方向一端側の空洞部に開口する第1の流入口19と、バルブ室18より軸方向他端側の空洞部に開口する第2の流入口20と、バルブ室18に開口する入力ポート21と、バルブ室18の軸方向一端側に開口する第1の流出口22と、バルブ室18の軸方向他端側に開口する第2の流出口23とが形成されている。なお、スプール8は、バルブ室18に逆止弁装置を組み込むために、軸方向の一端が開口する第1スプール8aと、この第1スプール8aの内周に圧入されて第1スプール8aの一端を閉じる第2スプール8bとに分割して構成されている。
【0032】
第1の流入口19は、スプール8が遅角位置に駆動された時に進角ポート14に連通し、スプール8が進角位置に駆動された時に進角ポート14との間が遮断される。
第2の流入口20は、スプール8が進角位置に駆動された時に遅角ポート16に連通し、スプール8が遅角位置に駆動された時に遅角ポート16との間が遮断される。
入力ポート21は、バルブ室18の軸方向中央部、すなわち、第1の流出口22と第2の流出口23との間に形成され、スプール8の位置に係わらず、常時、供給ポート12に連通している。この入力ポート21は、請求項5に記載した連通口であり、図4および図5に示す様に、円形に開口してスプール8の円周方向に90度間隔で4箇所形成されている。
【0033】
第1の流出口22は、スプール8が進角位置に駆動された時に進角ポート14に連通し、スプール8が遅角位置に駆動された時に進角ポート14との間が遮断される。
第2の流出口23は、スプール8が遅角位置に駆動された時に遅角ポート16に連通し、スプール8が進角位置に駆動された時に遅角ポート16との間が遮断される。
この第1、第2の流出口22、23は、図4および図5に示す様に、スプール8の径方向に対向する位置に長孔状に開口して形成されている。
なお、図4(a)、(b)は、第1スプール8aの外観をそれぞれ周方向に90度異なる方向から見た側面図であり、同図(a)は、第1の流出口22および第2の流出口23の開口面を示す方向から見た側面図、同図(b)は、第1の流入口19および第2の流入口20の開口面を示す方向から見た側面図である。
【0034】
逆止弁装置は、スプール8が遅角位置に駆動された時に形成される遅角接続路に配設され、この遅角接続路を通じて進角ポート14側から遅角ポート16側へ向かう作動油の流れを許容する一方、遅角ポート16側から進角ポート14側へ向かう作動油の流れを阻止する遅角逆止弁と、スプール8が進角位置に駆動された時に形成される進角接続路に配設され、この進角接続路を通じて遅角ポート16側から進角ポート14側へ向かう作動油の流れを許容する一方、進角ポート14側から遅角ポート16側へ向かう作動油の流れを阻止する進角逆止弁とで構成される。
遅角接続路は、スプール8が遅角位置に駆動された時に、第1の流入口19と第1の流出口22との間を接続するスプール8の空洞部によって形成される。
進角接続路は、スプール8が進角位置に駆動された時に、第2の流入口20と第2の流出口23との間を接続するスプール8の空洞部によって形成される。
【0035】
遅角逆止弁は、バルブ室18の軸方向一端に設けられ、その内周に第1の開口部24を形成する遅角弁座25(図2参照)と、この遅角弁座25に対向してバルブ室18の内部を軸方向へ移動可能に設けられる第1の弁体26(図1参照)と、この第1の弁体26を閉弁方向へ付勢する付勢手段(後述する)とを備える。第1の弁体26は、遅角弁座25に着座することで第1の開口部24を遮断し、遅角弁座25に着座した状態から開弁方向へ最大ストローク移動することにより第1の開口部24を全開する。
進角逆止弁は、バルブ室18の軸方向他端に設けられ、その内周に第2の開口部27を形成する進角弁座28(図2参照)と、この進角弁座28に対向してバルブ室18の内部を軸方向へ移動可能に設けられる第2の弁体29(図1参照)と、この第2の弁体29を閉弁方向へ付勢する付勢手段(後述する)とを備える。第2の弁体29は、進角弁座28に着座することで第2の開口部27を遮断し、進角弁座28に着座した状態から開弁方向へ最大ストローク移動することにより第2の開口部27を全開する。
なお、図2は、スプール8に形成されるバルブ室18および遅角弁座25と進角弁座28を明確に示すために、第1、第2の弁体26、29および付勢手段を省略した状態で図示している。
【0036】
第1、第2の弁体26、29は、それぞれ、遅角弁座25、進角弁座28に着座した状態で第1、第2の開口部24、27を遮断する遮断面30aを形成する弁部30と、第1、第2の弁体26、29が軸方向に移動する際にバルブ室18の内周面に摺動する3本の摺動脚部31とを有している。なお、第1の弁体26の弁部30と第2の弁体29の弁部30および第1の弁体26の摺動脚部31と第2の弁体29の摺動脚部31は、それぞれ同一符号を付して説明する。
弁部30は、軸方向から見た平面形状が円形であり、その外径がバルブ室18の内径より僅かに小さく形成される。弁部30の遮断面30aは、図3(a)、(c)に示す様に、球面形状に設けられている。
摺動脚部31は、図3(b)に示す様に、弁部30の周方向に120度間隔に配置され、弁部30の反遮断面側から軸方向に延びて設けられている。摺動脚部31の軸方向の先端は、円環状に繋がることなく円周方向に独立した自由端である。
【0037】
第1、第2の弁体26、29は、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属製であり、プレスまたはダイカストにより製造される。あるいは、弁部30と摺動脚部31とを一体に樹脂成形することもできる。
この第1の弁体26と第2の弁体29は、図1に示す様に、互いの摺動脚部31同士が円周方向の異なる位置に配置され、且つ、軸方向に所定の長さだけラップした状態で互い違いに組み合わされている。また、第1の流出口22と入力ポート21との間に形成されるバルブ室18の内周面を第1のガイド面と呼び、第2の流出口23と入力ポート21との間に形成されるバルブ室18の内周面を第2のガイド面と呼ぶ時に、第1、第2の弁体26、29は、それぞれ、摺動脚部31が第1のガイド面および第2のガイド面に常時支持されている。
【0038】
なお、第1、第2の弁体26、29の最大ストロークは、それぞれ、閉弁状態から開弁方向へ移動した時に、摺動脚部31の軸方向先端が、相手側弁部30の反遮断面側の端面に当接するまでの距離である。
また、第1の流出口22は、第1の弁体26が遅角弁座25に着座した閉弁状態から開弁方向へ移動する最大ストロークの範囲内に形成され、第2の流出口23は、第2の弁体29が進角弁座28に着座した閉弁状態から開弁方向へ移動する最大ストロークの範囲内に形成されている。
付勢手段は、第1の逆止弁と第2の逆止弁とに共通に用いられる一つのコイルスプリング32であり、図1に示す様に、第1の弁体26の弁部30と第2の弁体29の弁部30との間で互いの摺動脚部31の内周に配置される。
【0039】
次に、バルブタイミング調整装置の作動を説明する。
(1)機関位相を進角側に変化させる進角作動
電磁アクチュエータによりスプール8が進角位置に駆動されて、進角ポート14が供給ポート12に連通する。したがって、負トルクがロータ4のベーン4bに作用しているときは、油圧ポンプ11からスプール弁2を通じて進角室5に作動油が供給されると共に、負トルクの作用を受けるベーン4bによって圧縮された遅角室6の作動油が遅角ポート16から進角接続路に流入する。この時、進角逆止弁は、供給ポート12に供給される作動油の圧力およびコイルスプリング32の反力に抗して第2の弁体29が開弁方向へ移動する、つまり、図6に示す様に、第2の開口部27を開くことにより、図示矢印で示す様に、遅角ポート16側から進角ポート14側に向かう作動油の流れが許容される。これにより、油圧ポンプ11から供給される作動油の供給量が減少した時は、遅角ポート16側から作動油を補うことができるので、負トルクの作用によって容積が拡大する進角室5において作動油の不足が抑制される。
【0040】
一方、正トルクがベーン4bに作用して進角室5が圧縮される時は、図7に矢印で示す様に、作動油が進角ポート14からバルブ室18に逆流しようとするが、進角ポート14側から遅角ポート16側に向かう作動油の流れは進角逆止弁によって阻止され、且つ、供給油路10に設けられる逆止弁33(図1参照)によって油圧ポンプ11側に向かう作動油の流れが阻止される。なお、この進角作動の時、遅角逆止弁は、バルブ室18に流入する作動油の圧力およびコイルスプリング32の反力によって常時閉弁状態を維持している。これにより、進角室5からの作動油の流出が抑制されるだけでなく、作動油が誤って遅角室6に供給される事態も回避できる。この進角作動によれば、遅角室6から作動油を排出させると同時に、進角室5に十分な量の作動油を供給することができるので、高い進角応答性を実現できる。
【0041】
(2)機関位相を遅角側に変化させる進角作動
電磁アクチュエータによりスプール8が遅角位置に駆動されて、遅角ポート16が供給ポート12に連通する。したがって、正トルクがロータ4のベーン4bに作用しているときは、油圧ポンプ11かからスプール弁2を通じて遅角室6に作動油が供給されると共に、正トルクの作用を受けるベーン4bによって圧縮された進角室5の作動油が進角ポート14から遅角接続路に流入する。この時、遅角逆止弁は、供給ポート12に供給される作動油の圧力およびコイルスプリング32の反力に抗して第1の弁体26が開弁方向へ移動する、つまり、図8に示す様に、第1の開口部24を開くことにより、図示矢印で示す様に、進角ポート14側から遅角ポート16側に向かう作動油の流れが許容される。これにより、油圧ポンプ11から供給される作動油の供給量が減少した時は、進角ポート14側から作動油を補うことができるので、正トルクの作用によって容積が拡大する遅角室6において作動油の不足が抑制される。
【0042】
一方、負トルクがベーン4bに作用して遅角室6が圧縮される時は、図9に矢印で示す様に、作動油が遅角ポート16からバルブ室18に逆流しようとするが、遅角ポート16側から進角ポート14側に向かう作動油の流れは遅角逆止弁によって阻止され、且つ、供給油路10に設けられる逆止弁33(図1参照)によって油圧ポンプ11側に向かう作動油の流れが阻止される。なお、この遅角作動の時、進角逆止弁は、バルブ室18に流入する作動油の圧力およびコイルスプリング32の反力によって常時閉弁状態を維持している。これにより、遅角室6からの作動油の流出が抑制されるだけでなく、作動油が誤って進角室5に供給される事態も回避できる。この遅角作動によれば、進角室5から作動油を排出させると同時に、遅角室6に十分な量の作動油を供給することができるので、高い遅角進角応答性を実現できる。
【0043】
(実施例1の効果)
実施例1に記載した遅角逆止弁および進角逆止弁は、それぞれ、弁部30と摺動脚部31とを持つ第1の弁体26および第2の弁体29を有している。この第1、第2の弁体26、29の弁部30は、それぞれ、遅角弁座25、進角弁座28に着座した時に第1、第2の開口部24、27を遮断できる大きさ(外径)であれば良いので、特許文献1に開示された弁体(ボール弁)と比較して、弁部30の外径を小さく形成することが可能である。また、逆止弁装置を内蔵するスプール8は、第1の弁体26が遅角弁座25に着座した状態から開弁方向へ移動する最大ストロークの範囲内に第1の流出口22が形成され、第2の弁体29が進角弁座28に着座した状態から開弁方向へ移動する最大ストロークの範囲内に第2の流出口23が形成されるので、第1、第2の弁体26、29に使用される弁部30の外径とバルブ室18の内径との間に作動油を通すためのクリアランスを確保する必要はない。これにより、バルブ室18の内径を小さく形成できるので、バルブ室18を形成するスプール8の外径を小さく設計することができ、延いては、スプール8を内蔵するスリーブボルト7の外径寸法を小さくできる。
【0044】
また、第1、第2の弁体26、29は、それぞれ、弁部30に対し軸方向に延びる摺動脚部31を有しているので、この摺動脚部31の長さを適宜に設定することで、第1、第2の弁体26、29の傾きを抑えることができる。さらに、第1、第2の弁体26、29は、それぞれ、摺動脚部31の先端が円周方向に独立した自由端であるため、互いの摺動脚部31同士を軸方向にラップした状態で互い違いに組み合わせて配置できる。これにより、第1、第2の弁体26、29の傾きを抑えつつ、第1の弁体26と第2の弁体29とを軸方向により近接して配置できるので、遅角逆止弁および進角逆止弁を内蔵するスプール8の軸方向長さを短縮できる。
これにより、スプール8を収容するスリーブボルト7の径方向および軸方向の両寸法を小さく設計できるので、スプール弁2の搭載性が向上する。
【0045】
また、第1、第2の弁体26、29に設けられる弁部30は、上記した様に、それぞれ、遅角弁座25、進角弁座28に着座した時に第1、第2の開口部24、27を遮断できれば良いので、外径を小さくできるだけでなく、軸方向の厚みも薄く形成することができる。さらに、摺動脚部31は、第1、第2の弁体26、29が傾かない程度に軸方向の長さを適宜に設定すれば良い、言い換えると、摺動脚部31の軸方向長さを必要以上に長くしなくても良い。これにより、第1、第2の弁体26、29は、特許文献1に開示されたボール弁と比較して、体積を小さく、且つ、軽量化できるので、閉弁時および開弁時の応答性が向上する。
【0046】
また、特許文献1の構成では、弁体にボール弁を使用するため、そのボール弁を保持するリテーナを必要とするが、実施例1に記載した第1、第2の弁体26、29は、それぞれ、摺動脚部31がバルブ室18の内周面に摺動することによって傾きが抑えられるので、リテーナを廃止できる。また、実施例1に記載した逆止弁装置は、特許文献1と同様に、遅角逆止弁と進角逆止弁とに共通のコイルスプリング32を用いているので、上記のリテーナの廃止およびコイルスプリング32の共通化により、部品点数を削減して組み付け工数を低減でき、コストダウンを図ることが可能である。また、コイルスプリング32は、第1の弁体26の弁部30と第2の弁体29の弁部30との間で互いの摺動脚部31の内周に配置できるので、コイルスプリング32を配置するための専用のスペースを確保する必要はなく、軸方向の全長短縮に寄与できる。
【0047】
実施例1に記載した逆止弁装置は、第1の流出口22と第2の流出口23との間に入力ポート21を形成しているので、この入力ポート21よりバルブ室18に流入する作動油の圧力によって、遅角逆止弁および進角逆止弁の閉弁応答性を向上できる。
また、第1、第2の弁体26、29は、それぞれ、摺動脚部31が、バルブ室18に形成される第1のガイド面および第2のガイド面に常時支持されている。つまり、第1の弁体26は、遅角弁座25に着座して第1の開口部24を閉じている閉弁状態、遅角弁座25から離れて第1の開口部24を全開する開弁状態、閉弁状態から開弁方向へ移動する間、および、開弁状態から閉弁方向へ移動する間、第1のガイド面および第2のガイド面に摺動脚部31が常時支持されている。
【0048】
同様に、第2の弁体29は、進角弁座28に着座して第2の開口部27を閉じている閉弁状態、進角弁座28から離れて第2の開口部27を全開する開弁状態、閉弁状態から開弁方向へ移動する間、および、開弁状態から閉弁方向へ移動する間、第1のガイド面および第2のガイド面に摺動脚部31が常時支持されている。これにより、第1、第2の弁体26、29の姿勢を常時安定に保つことができる。すなわち、第1、第2の弁体26、29の傾きを抑制できるので、それぞれ、摺動脚部31の自由端である軸方向端部が入力ポート21からバルブ室18の外側へ脱落することを防止できる。
【0049】
(変形例)
実施例1に記載した第1、第2の弁体26、29は、それぞれ、3本の摺動脚部31を有しているが、3本に限定する必要はなく、1本、2本、あるいは4本以上でも良い。但し、摺動脚部31を4本以上設けると、第1、第2の弁体26、29の重量が大きくなるため、応答性の点で不利である。よって、摺動脚部31は3本以下が望ましい。
図10は、摺動脚部31を1本設けた場合の一例を示す。この場合、同図(b)に示す様に、バルブ室18の内周面に接触する摺動脚部31の周方向幅を大きく形成することで、第1、第2の弁体26、29の姿勢を安定して保つことが可能であり、摺動脚部31が1本であっても、第1、第2の弁体26、29の傾きを抑えることができる。
【符号の説明】
【0050】
1 油圧駆動部
2 スプール弁
3 ハウジング
4 ロータ
5 進角室
6 遅角室
7 スリーブボルト
8 スプール
12 供給ポート
14 進角ポート
16 遅角ポート
18 バルブ室
19 第1の流入口
20 第2の流入口
21 入力ポート(連通口)
22 第1の流出口(流出口)
23 第2の流出口(流出口)
24 第1の開口部
25 遅角弁座(第1の弁座)
26 第1の弁体(遅角逆止弁)
27 第2の開口部
28 進角弁座(第2の弁座)
29 第2の弁体(進角逆止弁)
30 弁部
30a 遮断面
31 摺動脚部
32 コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形のバルブ室と、
このバルブ室の軸方向一端側に通じる第1の流入口と、
前記バルブ室の軸方向他端側に通じる第2の流入口と、
前記バルブ室の円筒側面に開口する流出口と、
前記バルブ室の軸方向一端側に配設され、前記第1の流入口側から前記流出口側へ向かう流体の流れを許容する一方、前記流出口側から前記第1の流入口側へ向かう流体の流れを阻止する第1の逆止弁と、
前記バルブ室の軸方向他端側に配設され、前記第2の流入口側から前記流出口側へ向かう流体の流れを許容する一方、前記流出口側から前記第2の流入口側へ向かう流体の流れを阻止する第2の逆止弁とを備える逆止弁装置であって、
前記第1の逆止弁は、前記バルブ室の軸方向一端に設けられ、その内周に第1の開口部を形成する第1の弁座と、この第1の弁座に対向して前記バルブ室の内部を軸方向へ移動可能に設けられ、前記第1の弁座に着座することで前記第1の開口部を遮断する第1の弁体とを有し、
前記第2の逆止弁は、前記バルブ室の軸方向他端に設けられ、その内周に第2の開口部を形成する第2の弁座と、この第2の弁座に対向して前記バルブ室の内部を軸方向へ移動可能に設けられ、前記第2の弁座に着座することで前記第2の開口部を遮断する第2の弁体とを有し、
前記第1、第2の弁体は、それぞれ、前記第1、第2の弁座に着座した状態で前記第1、第2の開口部を遮断する遮断面を形成する弁部と、前記第1、第2の弁体が軸方向に移動する際に前記バルブ室の内周面に摺動する少なくとも1本の摺動脚部とを有し、この摺動脚部は、前記弁部の反遮断面側から軸方向に延びて設けられ、その軸方向の先端が円周方向に独立した自由端であり、
前記第1の弁体と前記第2の弁体は、互いの摺動脚部同士が円周方向の異なる位置に配置され、且つ、軸方向に所定の長さだけラップした状態で互い違いに組み合わされていることを特徴とする逆止弁装置。
【請求項2】
請求項1に記載した逆止弁装置において、
前記第1の逆止弁と前記第2の逆止弁は、前記第1の弁体と前記第2の弁体をそれぞれ閉弁方向へ付勢する共通のコイルスプリングを有し、このコイルスプリングは、前記第1の弁体の弁部と前記第2の弁体の弁部との間で互いの前記摺動脚部の内周に配置されることを特徴とする逆止弁装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した逆止弁装置において、
前記第1、第2の弁体は、それぞれ、前記弁部の遮断面が球面状に形成されていることを特徴とする逆止弁装置。
【請求項4】
請求項1〜3に記載した何れか一つの逆止弁装置において、
前記流出口は、
前記第1の弁体が前記第1の弁座から離れて前記第1の開口部を開いた時に、前記第1の開口部を通じて前記第1の流入口に連通する第1の流出口と、
前記第2の弁体が前記第2の弁座から離れて前記第2の開口部を開いた時に、前記第2の開口部を通じて前記第2の流入口に連通する第2の流出口とを有し、
前記第1の流出口は、前記第1の弁体が前記第1の弁座に着座した閉弁状態から開弁方向へ移動する最大ストロークの範囲内に形成され、
前記第2の流出口は、前記第2の弁体が前記第2の弁座に着座した閉弁状態から開弁方向へ移動する最大ストロークの範囲内に形成されていることを特徴とする逆止弁装置。
【請求項5】
請求項4に記載した逆止弁装置において、
前記第1の流出口と前記第2の流出口との間に形成されて前記バルブ室に開口する連通口を有し、前記第1の流出口と前記連通口との間に形成される前記バルブ室の内周面を第1のガイド面と呼び、前記第2の流出口と前記連通口との間に形成される前記バルブ室の内周面を第2のガイド面と呼ぶ時に、
前記第1、第2の弁体は、それぞれ、前記摺動脚部が前記第1のガイド面および前記第2のガイド面に常時支持されていることを特徴とする逆止弁装置。
【請求項6】
内燃機関のクランク軸とカム軸との回転位相差を変更して前記内燃機関の吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置であって、
前記クランク軸より駆動力が伝達されて回転するハウジングと、前記カム軸に連結されて前記ハウジング内に収容され、前記ハウジングとの間に進角室および遅角室を形成するロータとを有し、前記進角室または前記遅角室に作動油が供給されることにより、前記カム軸を前記クランク軸に対する進角側または遅角側に駆動する油圧駆動部と、
この油圧駆動部に対する作動油の供給および排出を制御するスプール弁とを有し、
前記スプール弁は、
内周に筒状の滑り面を形成すると共に、油圧供給源より作動油が供給される供給ポート、前記進角室に接続される進角ポート、前記遅角室に接続される遅角ポートを有するスリーブボルトと、
このスリーブボルトの内部に収容され、前記進角ポートが前記供給ポートに連通する進角位置と、前記遅角ポートが前記供給ポートに連通する遅角位置との間で前記滑り面に案内されて軸方向に移動可能に設けられるスプールとを有し、
このスプールには、請求項1〜5に記載した何れか一つの逆止弁装置が内蔵されて、前記バルブ室を含む筒状の空洞部が形成されると共に、前記バルブ室より軸方向一端側の前記空洞部に前記第1の流入口が連通して形成され、前記バルブ室より軸方向他端側の前記空洞部に前記第2の流入口が連通して形成され、前記流出口が前記バルブ室の円筒内周面に開口して形成され、
前記スプールが前記進角位置に移動した時に、前記第2の流入口が前記遅角ポートに連通し、且つ、前記流出口が前記進角ポートに連通することで、前記スプールの空洞部に前記進角ポートと前記遅角ポートとの間を接続する進角接続路が形成され、
前記スプールが前記遅角位置に移動した時に、前記第1の流入口が前記進角ポートに連通し、且つ、前記流出口が前記遅角ポートに連通することで、前記スプールの空洞部に前記進角ポートと前記遅角ポートとの間を接続する遅角接続路が形成され、
前記逆止弁装置は、
前記スプールが前記進角位置へ移動した時に、前記進角接続路に配設される前記第2の逆止弁によって、前記進角ポートから前記遅角ポートへ向かう作動油の流れが阻止される一方、前記遅角ポートから前記進角ポートへ向かう作動油の流れが許容され、
前記スプールが前記遅角位置へ移動した時に、前記遅角接続路に配設される前記第1の逆止弁によって、前記遅角ポートから前記進角ポートへ向かう作動油の流れが阻止される一方、前記進角ポートから前記遅角ポートへ向かう作動油の流れが許容されることを特徴とするバルブタイミング調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−132391(P2012−132391A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286422(P2010−286422)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】